(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004824
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】作業支援方法および作業支援システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20250108BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20250108BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20250108BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
G05B23/02 301Z
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104670
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 進二
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA13
3C223BA03
3C223HH02
3C223HH15
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】不可視の危険状態を作業者が確実に認識することができる作業支援方法および作業支援システムを提供する。
【解決手段】基板処理装置の装置状態に関する情報を収集し、その状態情報に基づいて基板処理装置内の対象部位が危険であるか否かを判定する。スマートグラスは、危険であると判定された対象部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する。スマートグラスは、対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて当該対象部位を含む空間を着色表示する。作業者が講じた対策によって危険レベルが低下したときには、表示色を更新する。スマートグラスが人間の目で直接見ることの出来ない危険を着色により可視化しているため、作業者は不可視の危険状態を確実に認識することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援方法であって、
前記産業機器の装置状態に関する状態情報を収集する情報取得工程と、
前記状態情報に基づいて前記産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定する判定工程と、
表示部および通信部を備えた携帯端末が前記判定工程にて危険であると判定された前記対象部位に対して注釈表示を行う表示工程と、
を備える作業支援方法。
【請求項2】
請求項1記載の作業支援方法において、
前記表示工程では、前記携帯端末が前記対象部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する作業支援方法。
【請求項3】
請求項2記載の作業支援方法において、
前記判定工程では、前記対象部位が複数段階の危険レベルのいずれに該当するかを判定し、
前記表示工程では、前記対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて前記対象部位を含む空間を着色表示する作業支援方法。
【請求項4】
請求項3記載の作業支援方法において、
前記対象部位に対する操作によって前記対象部位が該当する危険レベルが変化したときには、変化後の危険レベルに応じて表示色を変更する作業支援方法。
【請求項5】
請求項1記載の作業支援方法において、
前記産業機器に対する作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録する登録工程をさらに備え、
前記判定工程では、前記携帯端末から作業種別が入力されたときに、当該作業種別に関連付けて登録された前記関連部位が危険であるか否かを判定し、
前記表示工程では、危険であると判定された前記関連部位に対して注釈表示を行う作業支援方法。
【請求項6】
請求項5記載の作業支援方法において、
前記表示工程では、危険であると判定された前記関連部位を含む空間を第1の表示色にて着色表示するとともに、危険ではないと判定された前記関連部位を含む空間を第2の表示色にて着色表示する作業支援方法。
【請求項7】
請求項6記載の作業支援方法において、
危険であると判定された前記関連部位に対する操作によって前記関連部位が危険ではなくなったときには、前記関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更する作業支援方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の作業支援方法において、
前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置である作業支援方法。
【請求項9】
請求項8記載の作業支援方法において、
前記基板処理装置は、処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である作業支援方法。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の作業支援方法において、
前記携帯端末は、スマートグラスである作業支援方法。
【請求項11】
産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援システムであって、
表示部および通信部を備えた携帯端末と、
前記産業機器の装置状態に関する状態情報に基づいて前記産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記表示部は、前記判定部によって危険であると判定された前記対象部位に対して注釈表示を行う作業支援システム。
【請求項12】
請求項11記載の作業支援システムにおいて、
前記表示部は、前記対象部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する作業支援システム。
【請求項13】
請求項12記載の作業支援システムにおいて、
前記判定部は、前記対象部位が複数段階の危険レベルのいずれに該当するかを判定し、
前記表示部は、前記対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて前記対象部位を含む空間を着色表示する作業支援システム。
【請求項14】
請求項13記載の作業支援システムにおいて、
前記表示部は、前記対象部位に対する操作によって前記対象部位が該当する危険レベルが変化したときには、変化後の危険レベルに応じて表示色を変更する作業支援システム。
【請求項15】
請求項11記載の作業支援システムにおいて、
前記産業機器に対する作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録したテーブルを格納する記憶部をさらに備え、
前記判定部は、前記携帯端末から作業種別が入力されたときに、当該作業種別に関連付けて登録された前記関連部位が危険であるか否かを判定し、
前記表示部は、危険であると判定された前記関連部位に対して注釈表示を行う作業支援システム。
【請求項16】
請求項15記載の作業支援システムにおいて、
前記表示部は、危険であると判定された前記関連部位を含む空間を第1の表示色にて着色表示するとともに、危険ではないと判定された前記関連部位を含む空間を第2の表示色にて着色表示する作業支援システム。
【請求項17】
請求項16記載の作業支援システムにおいて、
危険であると判定された前記関連部位に対する操作によって前記関連部位が危険ではなくなったときには、前記表示部は、前記関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更する作業支援システム。
【請求項18】
請求項11から請求項17のいずれかに記載の作業支援システムにおいて、
前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置である作業支援システム。
【請求項19】
請求項18記載の作業支援システムにおいて、
前記基板処理装置は、処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である作業支援システム。
【請求項20】
請求項11から請求項17のいずれかに記載の作業支援システムにおいて、
前記携帯端末は、スマートグラスである作業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に所定の処理を行う基板処理装置等の産業機器に対してメンテナンス作業等の所定の作業を行うときの作業支援方法および作業支援システムに関する。基板処理装置によって処理対象となる基板には、例えば、半導体基板、液晶表示装置用基板、flat panel display(FPD)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、または、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体デバイスの製造工程では、半導体基板等の基板に対して種々の処理を行う基板処理装置が用いられている。基板処理装置としては、例えば基板洗浄装置、熱処理装置、検査装置等が使用されている。典型的には、広いクリーンルームに多数の基板処理装置が整然と配置されることが多い。それらの基板処理装置に対しては適宜のタイミングでメンテナンスが行われる。特許文献1には、クリーンルーム内に比較的高い密度で多数の基板処理装置を並べるとともに、基板処理装置のメンテナンスを行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板処理装置のメンテナンスを行う際には、作業者がチャンバーのカバーを開けたり、配管に施工を行うことがある。ところが、チャンバーの内部は危険な状態となっていることがある。例えば、チャンバー内が窒素ガスによってパージされているときには、チャンバー内は酸素がほとんど存在しない危険な状態である。また、フッ酸等の薬液を使用した直後は、チャンバー内に薬液の蒸気が充満している、或いは薬液の液滴が付着している恐れがある。さらには、チャンバーに取り回されている配管内の残圧が高圧となっていることもある。
【0005】
これらの危険状態は人間の目には見えないため、作業者が直接目視で確認することは不可能である。作業者が危険状態を認識しないままメンテナンス作業を行うと事故に繋がる恐れもある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、不可視の危険状態を作業者が確実に認識することができる作業支援方法および作業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の第1の態様は、産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援方法において、前記産業機器の装置状態に関する状態情報を収集する情報取得工程と、前記状態情報に基づいて前記産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定する判定工程と、表示部および通信部を備えた携帯端末が前記判定工程にて危険であると判定された前記対象部位に対して注釈表示を行う表示工程と、を備える。
【0008】
また、第2の態様は、第1の態様に係る作業支援方法において、前記表示工程では、前記携帯端末が前記対象部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する。
【0009】
また、第3の態様は、第2の態様に係る作業支援方法において、前記判定工程では、前記対象部位が複数段階の危険レベルのいずれに該当するかを判定し、前記表示工程では、前記対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて前記対象部位を含む空間を着色表示する。
【0010】
また、第4の態様は、第3の態様に係る作業支援方法において、前記対象部位に対する操作によって前記対象部位が該当する危険レベルが変化したときには、変化後の危険レベルに応じて表示色を変更する。
【0011】
また、第5の態様は、第1の態様に係る作業支援方法において、前記産業機器に対する作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録する登録工程をさらに備え、前記判定工程では、前記携帯端末から作業種別が入力されたときに、当該作業種別に関連付けて登録された前記関連部位が危険であるか否かを判定し、前記表示工程では、危険であると判定された前記関連部位に対して注釈表示を行う。
【0012】
また、第6の態様は、第5の態様に係る作業支援方法において、前記表示工程では、危険であると判定された前記関連部位を含む空間を第1の表示色にて着色表示するとともに、危険ではないと判定された前記関連部位を含む空間を第2の表示色にて着色表示する。
【0013】
また、第7の態様は、第6の態様に係る作業支援方法において、危険であると判定された前記関連部位に対する操作によって前記関連部位が危険ではなくなったときには、前記関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更する。
【0014】
また、第8の態様は、第1から第7のいずれかの態様に係る作業支援方法において、前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置である。
【0015】
また、第9の態様は、第8の態様に係る作業支援方法において、前記基板処理装置は、処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である。
【0016】
また、第10の態様は、第1から第9のいずれかの態様に係る作業支援方法において、前記携帯端末は、スマートグラスである。
【0017】
また、第11の態様は、産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援システムにおいて、表示部および通信部を備えた携帯端末と、前記産業機器の装置状態に関する状態情報に基づいて前記産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定する判定部と、を備え、前記表示部は、前記判定部によって危険であると判定された前記対象部位に対して注釈表示を行う。
【0018】
また、第12の態様は、第11の態様に係る作業支援システムにおいて、前記表示部は、前記対象部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する。
【0019】
また、第13の態様は、第12の態様に係る作業支援システムにおいて、前記判定部は、前記対象部位が複数段階の危険レベルのいずれに該当するかを判定し、前記表示部は、前記対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて前記対象部位を含む空間を着色表示する。
【0020】
また、第14の態様は、第13の態様に係る作業支援システムにおいて、前記表示部は、前記対象部位に対する操作によって前記対象部位が該当する危険レベルが変化したときには、変化後の危険レベルに応じて表示色を変更する。
【0021】
また、第15の態様は、第11の態様に係る作業支援システムにおいて、前記産業機器に対する作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録したテーブルを格納する記憶部をさらに備え、前記判定部は、前記携帯端末から作業種別が入力されたときに、当該作業種別に関連付けて登録された前記関連部位が危険であるか否かを判定し、前記表示部は、危険であると判定された前記関連部位に対して注釈表示を行う。
【0022】
また、第16の態様は、第15の態様に係る作業支援システムにおいて、前記表示部は、危険であると判定された前記関連部位を含む空間を第1の表示色にて着色表示するとともに、危険ではないと判定された前記関連部位を含む空間を第2の表示色にて着色表示する。
【0023】
また、第17の態様は、第16の態様に係る作業支援システムにおいて、危険であると判定された前記関連部位に対する操作によって前記関連部位が危険ではなくなったときには、前記表示部は、前記関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更する。
【0024】
また、第18の態様は、第11から第17のいずれかの態様に係る作業支援システムにおいて、前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置である。
【0025】
また、第19の態様は、第18の態様に係る作業支援システムにおいて、前記基板処理装置は、処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である。
【0026】
また、第20の態様は、第11から第19のいずれかの態様に係る作業支援システムにおいて、前記携帯端末は、スマートグラスである。
【発明の効果】
【0027】
第1から第10の態様に係る作業支援方法によれば、収集した状態情報に基づいて産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定し、携帯端末が危険であると判定された対象部位に対して注釈表示を行うため、人間の目で直接見ることの出来ない危険を可視化して表示することとなり、不可視の危険状態を作業者が確実に認識することができる。
【0028】
特に、第3の態様に係る作業支援方法によれば、対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて対象部位を含む空間を着色表示するため、作業者は容易に対象部位の危険の程度を認識することができる。
【0029】
第11から第20の態様に係る作業支援システムによれば、産業機器の装置状態に関する状態情報に基づいて産業機器内の対象部位が危険であるか否かを判定し、携帯端末が危険であると判定された対象部位に対して注釈表示を行うため、人間の目で直接見ることの出来ない危険を可視化して表示することとなり、不可視の危険状態を作業者が確実に認識することができる。
【0030】
特に、第13の態様に係る作業支援システムによれば、対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて対象部位を含む空間を着色表示するため、作業者は容易に対象部位の危険の程度を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る作業支援システムの概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】複数の基板処理装置のレイアウトの一例を示す平面図である。
【
図6】スマートグラス、サーバ、作業支援端末および基板処理装置の制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態の作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】基準位置と基板処理装置の部位との相対位置関係を模式的に示す図である。
【
図11】アノテーション表示の一例を示す図である。
【
図12】第2実施形態の作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
【
図13】作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録した作業テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下において、相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば、「一方向に」、「一方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」、「同軸」、など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。また、等しい状態であることを示す表現(例えば、「同一」、「等しい」、「均質」、など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。また、形状を示す表現(例えば、「円形状」、「四角形状」、「円筒形状」、など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲の形状を表すものとし、例えば凹凸または面取りなどを有していてもよい。また、構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、「有する」、といった各表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。また、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「A、BおよびCのうち任意の2つ」、「A、BおよびCの全て」が含まれる。
【0033】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る作業支援システムの概略構成を模式的に示す図である。本発明に係る作業支援システムは、複数の基板処理装置50と、スマートグラス10と、サーバ70と、作業支援端末80と、を備える。スマートグラス10および基板処理装置50のコントローラは無線通信にて情報通信網5(例えば、インターネット)に接続されている。また、作業支援端末80およびサーバ70は有線にて情報通信網5に接続されている。情報通信網5に接続された機器間では相互に情報の送受信が可能であり、例えばスマートグラス10と作業支援端末80との間で情報の授受を行うことができる。なお、各機器と情報通信網5とを無線で接続するか有線で接続するかは上記の例に限定されるものではなく、適宜の形態とすることができる(例えば、作業支援端末80と情報通信網5とを無線で接続しても良い)。
【0034】
図2は、複数の基板処理装置50のレイアウトの一例を示す平面図である。
図2に示すように、クリーンルーム40内に複数の基板処理装置50が一定間隔で規則正しく並んで配置されている。クリーンルーム40は、例えば半導体デバイスの製造工場内に設けられ、一定の空気清浄度が確保されるとともに温度および湿度が管理された部屋である。第1実施形態においては、比較的広いクリーンルーム40内に、同種かつ同じ形式の複数の基板処理装置50が配置されている。従って、クリーンルーム40内にて配置されている基板処理装置50を作業者が外観のみから区別することは困難である。
【0035】
図3は、1つの基板処理装置50の構成を示す図である。第1実施形態では、基板処理装置50は、例えば基板を1枚ずつ洗浄する枚葉式の基板洗浄装置である。基板処理装置50は、インデクサ51と複数の処理ユニット52とを有する。インデクサ51には、複数の基板を収容したキャリアCが載置される。インデクサ51は、載置されたキャリアCから図示省略のインデクサロボットによって未処理の基板を取り出す。また、インデクサ51は、当該インデクサロボットによって処理済みの基板をキャリアCに収納する。キャリアCは、例えば、基板を密閉空間に収納するFOUP(front opening unified pod)である。
【0036】
第1実施形態では、例えば3個の処理ユニット52が積層されて1つの積層体を構成する。図示省略の主搬送ロボットの周囲に例えば4つの積層体が配置される。すなわち、1つの基板処理装置50は、例えば12個(=3×4)の処理ユニット52を含む。
【0037】
4つの積層体の中心に配置された主搬送ロボットは、上記のインデクサロボットから渡された未処理の基板を12個の処理ユニット52のいずれかに搬入する。また、主搬送ロボットは、処理ユニット52から処理済みの基板を搬出してインデクサロボットに渡す。
【0038】
また、基板処理装置50は、制御部55を備える。制御部55は、一般的なコンピュータであり、装置内に設けられた上記のインデクサロボット、主搬送ロボットおよび各処理ユニット52の動作を制御する。制御部55は、装置の壁面に設けられた入出力インターフェイスであるタッチパネルおよび装置外部と通信を行う通信部を有する。
【0039】
図4は、1つの処理ユニット52の概略構成を示す図である。処理ユニット52は、1枚の基板Wに対して処理液を吐出して洗浄処理を行う。処理液とは、各種の薬液および純水を含む概念の用語である。薬液としては、例えば、エッチング処理を行うための液、または、パーティクルを除去するための液などが含まれ、具体的には、SC-1液(水酸化アンモニウムと過酸化水素水と純水との混合溶液)、SC-2液(塩酸と過酸化水素水と純水との混合溶液)、または、フッ酸などが用いられる。
【0040】
処理ユニット52は、処理チャンバー60と、回転保持部61と、処理液ノズル65と、を備える。処理チャンバー60は、中空の筐体である。処理チャンバー60の内側に、回転保持部61および処理液ノズル65等が設けられる。また、処理チャンバー60には図示省略の搬出入口が設けられている。その搬出入口はシャッターによって開閉される。搬出入口が開放されている状態にて、主搬送ロボットによる処理チャンバー60に対する基板Wの搬入および搬出が行われる。基板Wの処理中は搬出入口は閉鎖される。
【0041】
回転保持部61は、スピンチャック62およびスピンモータ63を備える。スピンチャック62は、基板Wを水平姿勢(基板Wの主面の法線が鉛直方向に沿う姿勢)にて保持する基板保持部である。スピンチャック62は、例えば真空吸着式のチャックである。スピンチャック62は、基板Wの直径よりも小さな径の円板形状を有する。スピンチャック62は、基板Wの下面の中央部を吸着保持する。基板Wの下面がスピンチャック62に吸着保持された状態では、基板Wの周縁部が、スピンチャック62の外周端よりも外側にはみ出ている。なお、スピンチャック62は、挟持式のメカニカルチャックなどの他の形態のチャックであってもよい。
【0042】
スピンチャック62は、モータ軸を介してスピンモータ63と連結される。すなわち、スピンモータ63のモータ軸の上端がスピンチャック62の下面中央部に接続される。スピンチャック62に基板Wが吸着保持されている状態にてスピンモータ63がモータ軸を回転させると、鉛直方向に沿った回転軸まわりで水平面内にて基板Wおよびスピンチャック62が回転する。
【0043】
スピンチャック62の周囲を囲むようにカップ64が設けられる。カップ64は、図示省略の昇降機構によって昇降可能とされる。カップ64は円筒形状を有しており、カップ64の上部は上に向かうほどスピンチャック62に近付くように傾斜している。ただし、カップ64の上端部分の内径は基板Wの直径よりも大きい。基板Wの処理時には、カップ64の上端はスピンチャック62に保持された基板Wの高さ位置よりも高い。従って、スピンモータ63によって回転される基板Wから遠心力によって飛散した液体はカップ64によって受け止められて回収される。なお、カップ64は、回収口を目的別に複数設けた多段構造のものであっても良い。
【0044】
処理液ノズル65は、ノズル先端部66、スイングアーム67およびスイングモータ68を備える。処理液ノズル65は、例えば連続流の状態で処理液を吐出するストレートノズルである。ノズル先端部66は、ほぼ水平方向に延びるスイングアーム67の先端に取り付けられている。ノズル先端部66の下端には図示省略の吐出口が形成されており、その吐出口から処理液が吐出される。スイングアーム67はスイングモータ68によって、鉛直方向に沿った軸の周りにて水平面内で揺動される。スイングモータ68は、例えばパルスモータである。
【0045】
スイングモータ68がスイングアーム67を揺動させることにより、ノズル先端部66は回転保持部61に保持された基板Wの上方の処理位置とカップ64よりも外側の待機位置との間で円弧状の軌跡を描いて移動する。ノズル先端部66が処理位置に位置しているときに、処理液ノズル65が回転保持部61に保持された基板Wに薬液を吐出することによって、例えば基板Wの洗浄処理が進行する。また、処理液ノズル65が基板Wに純水を吐出することによって、基板Wの純水リンス処理が進行する。なお、ノズル先端部66の位置を検知するためのエンコーダをスイングモータ68に付設するようにしても良い。
【0046】
また、処理ユニット52は、給気部110、排気部120、排液部130および処理液供給部150を備える。給気部110は、処理チャンバー60の内部に処理ガスを供給する。給気部110は、窒素供給源111、給気バルブ112および配管113を含む。配管113の先端側は処理チャンバー60の天井部に設けられたFFU(ファン・フィルタ・ユニット)69に接続されるとともに、基端側は窒素供給源111に接続される。FFU69は、気流を生じさせるファンおよびその気流に混在しているパーティクルを捕集して除去するフィルタ(例えば、HEPAフィルタまたはULPAフィルタ)を備える。配管113の経路途中に給気バルブ112が設けられる。給気バルブ112が開放されると、窒素供給源111から配管113を経てFFU69に窒素ガス(N2)が送給され、FFU69から処理チャンバー60内に窒素ガスが供給される。FFU69は、処理チャンバー60内に上方から下方へと向かう気体のダウンフローを形成する。
【0047】
排気部120は、処理チャンバー60の内部から雰囲気を排出する。排気部120は、排気装置121、排気バルブ122および配管123を含む。配管123の先端側は処理チャンバー60に設けられた排気ダクト125に接続されるとともに、基端側は排気装置121に接続される。排気装置121は、例えば真空ポンプを含む。配管123の経路途中に排気バルブ122が設けられる。排気装置121を作動させつつ排気バルブ122を開放すると、処理チャンバー60内の気体が排気ダクト125から排出される。
【0048】
排液部130は、カップ64によって回収された使用済みの液体を処理チャンバー60の外部に排出する。排液部130は、排液処理装置131、排液バルブ132および配管133を含む。配管133の先端側はカップ64の底部に接続されるとともに、基端側は排液処理装置131に接続される。配管133の経路途中に排液バルブ132が設けられる。排液バルブ132が開放されていると、カップ64によって回収された液体が配管133を流れて排液処理装置131に排出される。
【0049】
処理液供給部150は、処理液ノズル65に処理液を送給する。処理液供給部150は、純水供給源151、純水バルブ152、薬液供給源153、薬液バルブ154および配管155を含む。配管155の先端側は処理液ノズル65のノズル先端部66に接続されるとともに、基端側は二叉に分岐されてその一方が純水供給源151に接続され、他方が薬液供給源153に接続される。配管155から分岐された2本の分岐配管のうち純水供給源151に接続されている一方に純水バルブ152が設けられ、薬液供給源153に接続されている他方に薬液バルブ154が設けられる。純水バルブ152が開放されると、処理液ノズル65から純水が吐出される。また、薬液バルブ154が開放されると、処理液ノズル65から薬液が吐出される。さらに、薬液バルブ154および純水バルブ152の双方を開放することにより、処理液ノズル65から純水によって希釈された薬液を吐出することもできる。
【0050】
また、処理ユニット52の処理チャンバー60には、内カバー92および外カバー95が設けられている。内カバー92は、例えばアクリル板等の透明な板状部材である。内カバー92は、処理チャンバー60の内部空間に面するように設けられている。一方、外カバー95は、例えば金属で形成された不透明な板状部材である。外カバー95は、内カバー92の外側に内カバー92を覆うように設けられている。
【0051】
内カバー92および外カバー95はともに開閉可能に設けられている。内カバー92および外カバー95の双方が閉じているときには、作業者は処理チャンバー60の内部を視認することはできない。外カバー95が開放されて内カバー92のみが閉じているときには、作業者は透明な内カバー92を通して処理チャンバー60の内部を目視で視認することができる。外カバー95および内カバー92の双方が開いているときには、処理チャンバー60の内側が開放され、作業者は処理チャンバー60内部のスピンチャック62や処理液ノズル65に対する作業を行うことができる。
【0052】
クリーンルーム40内に配置された複数の基板処理装置50に対して保守点検等の作業を行う作業者はスマートグラス10を装着する。スマートグラス10は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)方式のウェアラブル端末の一種である。スマートグラス10は、AR(Augmented Reality:拡張現実)またはMR(Mixed Reality:複合現実)を実現するためのデバイスでもある。スマートグラス10としては、例えば、マイクロソフト社製の「HoloLens」(登録商標)を用いることができる。
【0053】
図5は、スマートグラス10の外観を示す斜視図である。スマートグラス10は、バイザー11およびヘッドバンド12を備える。作業者はヘッドバンド12を頭に付けることによってスマートグラス10を装着する。作業者は、自らの頭の大きさに合わせてヘッドバンド12の長さを調整することが可能とされている。また、ヘッドバンド12には、電源ボタン、明るさボタンおよびボリュームボタン等が設けられている。
【0054】
バイザー11は、各種センサーとディスプレイとを含む。そのディスプレイは、シースルーホログラフィックレンズである。すなわち、ディスプレイはホログラムによって立体映像を作業者の視野空間に表示することが可能であるとともに、通常の眼鏡レンズと同じように現実の物体からの光を透過する。従って、スマートグラス10を装着した作業者は、ディスプレイを通して現実の物体を視認しつつ表示された立体映像を見ることも可能である。
【0055】
バイザー11のセンサーには、例えば主にバイザー11の前方を撮像する複数の可視光カメラ、作業者の視線を追跡する赤外線カメラ、対象物までの距離を測定する深度センサー、および、慣性測定センサー等が含まれる。赤外線カメラは、スマートグラス10の装着者の眼球の動きを測定して視線を追跡する。深度センサーは、例えば、ToF(Time of Flight)方式によって対象物までの距離を測定する。慣性測定センサーは、加速度計、ジャイロスコープ、磁力計等によって構成される。
【0056】
また、スマートグラス10には、CPUおよびメモリ等を備えたコンピュータが内蔵されている。スマートグラス10には、無線通信機構も設けられており、スマートグラス10のコンピュータはその無線通信機構を使用して情報通信網5に接続する。さらに、スマートグラス10には、マイクロフォン、スピーカーおよびバッテリー等も設けられている。
【0057】
図6は、スマートグラス10、サーバ70、作業支援端末80および基板処理装置50の制御部55の機能的構成を示すブロック図である。スマートグラス10は、撮像部21、通信部22、表示部23および記憶部24を備える。撮像部21は、上述したバイザー11に設けられた可視光カメラを含む。撮像部21は、例えば前方および斜め前方を撮像する4台の可視光カメラを含んでおり、スマートグラス10を装着した作業者の視野範囲を撮像することができる。
【0058】
通信部22は、上述したスマートグラス10の無線通信機構を含む。通信部22は、情報通信網5を介して作業支援端末80およびサーバ70とデータの送受信を行う。また、通信部22は、近距離であれば基板処理装置50の制御部55と直接にデータの送受信を行うことも可能である。すなわち、通信部22は、直接にまたは情報通信網5を介して基板処理装置50の制御部55にデータやコマンドを送信することができる。
【0059】
表示部23は、上述したバイザー11のディスプレイを含む。表示部23はホログラフィック処理装置を有しており、ホログラム技術によって所定の空間位置に立体映像を表示する。なお、表示部23が表示する立体映像は三次元形状のものに限定されず、ドキュメントのような二次元のものであっても良い。
【0060】
記憶部24は、スマートグラス10に搭載されたメモリおよびストレージを含む。スマートグラス10が備えるメモリおよびストレージは、例えばそれぞれDRAM(Dynamic Random Access Memory)およびUFS(Universal Flash Storage)である。記憶部24は、スマートグラス10のコンピュータが使用するアプリケーションやデータを格納する。
【0061】
また、スマートグラス10は、判定部31を備える。判定部31は、スマートグラス10のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。判定部31の処理内容についてはさらに後述する。
【0062】
基板処理装置50の制御部55は、処理液ノズル65等の処理ユニット52に設けられた各種機構の動作を制御する。基板処理装置50の制御部55は、スマートグラス10の通信部22と通信可能であり、スマートグラス10から送信された操作指示のコマンドに従って処理ユニット52に設けられた各種機構の動作を制御することも可能である。
【0063】
また、制御部55には、基板処理装置50に設けられた多数のセンサーからの検出信号が送信される。基板処理装置50の設けられるセンサーには、例えば薬液の濃度計や各バルブの開閉を検知するセンサーが含まれる。
【0064】
作業支援端末80およびサーバ70は、例えば基板処理装置50を製造してその保守点検を請け負うベンダーの工場内に設置されている。作業支援端末80およびサーバ70は、情報通信網5を介してスマートグラス10と通信可能とされている。また、作業支援端末80とサーバ70とは情報通信網5を介して相互に通信可能とされている。
【0065】
作業支援端末80およびサーバ70は、一般的なコンピュータシステムである。すなわち、作業支援端末80およびサーバ70は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM、制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく記憶部(例えば、磁気ディスクまたはSSD)および情報通信網5と通信を行う通信部を備えている。
【0066】
作業支援端末80は、例えばベンダー側の作業支援員がクリーンルーム40内の作業者の作業を支援するためのコンピュータである。作業支援員は、作業支援端末80からクリーンルーム40内の作業者が装着するスマートグラス10に種々の情報を送信することができる。
【0067】
サーバ70は、本発明に係る作業支援システムにおいて、スマートグラス10および作業支援端末80からのリクエストに応じて所定の処理を実行するコンピュータである。サーバ70は、比較的容量の大きな記憶部74を備えている。スマートグラス10および作業支援端末80によって作成された大きなサイズのデータは記憶部74に格納されても良い。なお、サーバ70は必須の要素ではない。
【0068】
次に、上述した構成を有する作業支援システムを用いた作業支援方法について説明する。
図7は、第1実施形態の作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
図7に示す工程のうちステップS11およびステップS12が事前の準備処理である。
【0069】
まず、基板処理装置50に含まれる部位の位置を登録する(ステップS11)。この処理は、スマートグラス10が備えるVPS(Visual Positioning System)機能を用いて行う。
【0070】
以降の説明において、スマートグラス10の表示部23によって表示された立体映像を用いて作業者が選択や入力等の操作を行うという記述をすることがある。これは、表示部23が表示した立体画像に対して作業者が手のジェスチャーによって選択や入力等の操作を行うと、撮像部21がその手のジェスチャーを撮像して検知し、スマートグラス10のコンピュータがその検知結果から所定の操作が行われたことを認識する意味である。或いは、表示部23が表示した立体画像に対して作業者が視線の動きによって選択や入力等の操作を行うと、スマートグラス10がアイトラッキング機能によってその視線を追跡して検知し、所定の操作が行われたことを認識するようにしても良い。
【0071】
事前の準備処理として、クリーンルーム40内の一部をスマートグラス10によってスキャンして空間メッシュとしておく。この処理は、例えばスマートグラス10を装着した作業者がクリーンルーム40内にてそのスマートグラス10を用いて行う。
【0072】
作業者は、予めスマートグラス10に設定されているスキャンモードをオンにする。作業者は、例えば表示部23によって立体映像として表示されたメニュー画面から手のジェスチャーによってスキャンモードを選択してオンにすることができる。手のジェスチャーは撮像部21によって撮像されて検知され、スマートグラス10のコンピュータはその検知結果からスキャンモードが選択されたことを認識する。或いは、作業者は、スマートグラス10に設けられた所定のボタンを押すことによってスキャンモードをオンにするようにしても良い。
【0073】
スキャンモードがオンになることによって、スマートグラス10はクリーンルーム40内の基板処理装置50を含む空間を深度センサーによってスキャンして空間メッシュを作成する。表示部23は、バイザー11を通して見えている作業者の視野空間にメッシュグラフィックを重ね合わせて表示する。
【0074】
図8は、空間メッシュの一例を示す図である。同図に示すように、スマートグラス10によって作成される空間メッシュは、多数の三角形メッシュによって表される。曲面や平面を含む種々の形状が多数の三角形の連結した集合によって表現される。凹凸を含む複雑な形状は高密度の三角形によって表され、逆に平坦な形状は比較的低い密度の三角形によって表される。スマートグラス10によって基板処理装置50を含む空間をスキャンして作成された空間メッシュが実際の基板処理装置50に重ね合わせて表示される。
【0075】
クリーンルーム40内に同種かつ同じ形式の(つまり、同じ外観の)複数の基板処理装置50が配置されている場合であっても、それら複数の基板処理装置50を含む空間をスキャンして空間メッシュを作成したときには、各基板処理装置50の周辺の微妙な相違(例えば、通路の状況の相違)に起因して作成される空間メッシュは異なるものとなる。従って、スマートグラス10は、クリーンルーム40内に配置された複数の基板処理装置50を空間メッシュの相違によって識別することができる。
【0076】
作業者は、スマートグラス10によって基板処理装置50を含む空間をスキャンして空間メッシュを作成した後に、その表示されている空間メッシュ上に仮想オブジェクトを設置する。仮想オブジェクトは、表示部23によって立体映像として表示される仮想のマーカーである。作業者は、例えば、
図8に示すような空間メッシュが表示されている画像内にて手のジェスチャーによって(例えば、手で摘んで)基板処理装置50の周辺の任意の位置に仮想オブジェクトを設置する。さらに、その後、作業者は表示部23によって立体映像として表示されたリモコン画面を用いて仮想オブジェクトの位置を微調整するようにしても良い。仮想オブジェクトの設置位置は、基板処理装置50と重なっていても良い。
【0077】
基板処理装置50の空間メッシュに対して仮想オブジェクトが設置されることにより、スマートグラス10はその仮想オブジェクトの位置を基板処理装置50に対する基準位置として設定する。また、空間メッシュ上に仮想オブジェクトが設置されることにより、スマートグラス10は空間メッシュの特徴部を用いて仮想オブジェクト自体の位置を認識する。空間メッシュの特徴部とは、例えば基板処理装置50の角部のようにスキャン時に特徴的なメッシュ形態となる部分である。
【0078】
次に、仮想オブジェクトを設置することによって設定された基準位置に基づいて基板処理装置50の部位の位置を算定して登録する。作業者は、例えば基板処理装置50のCAD図をバイザー11から見えている基板処理装置50の領域に重ね合わせる。このときには、3DCAD図を基板処理装置50に重ね合わせるのが好ましい。基板処理装置50のCAD図は予め装置設計段階で作成されており、そのデータは例えばサーバ70の記憶部74に格納されている。スマートグラス10は基板処理装置50のCAD図のデータをサーバ70から読み出し、表示部23がそのCAD図を表示する。作業者は、表示されたCAD図を手のジェスチャーによって移動させて基板処理装置50と重ね合わせる。このときにも、作業者は表示部23によって立体映像として表示されたリモコン画面を用いてCAD図の位置を微調整するようにしても良い。
【0079】
バイザー11から見えている基板処理装置50の領域にその基板処理装置50のCAD図が正確に重ね合わされることにより、スマートグラス10は、上記の基準位置(仮想オブジェクトの位置)と基板処理装置50に含まれる部位との相対位置関係を算定して登録する。
図9は、基準位置と基板処理装置50の部位との相対位置関係を模式的に示す図である。仮想オブジェクトSAが設置されることによって、その位置が基準位置RPとして登録されている。また、基板処理装置50に含まれる部位の位置はCADデータに含まれる座標情報から求めることができる。スマートグラス10は、基準位置RPの位置情報および基板処理装置50に重ね合わされたCAD図のデータの座標情報に基づいて、基準位置RPと基板処理装置50のいずれかの部位(例えば、基板処理装置50の角)との相対位置関係を算定して登録する。
【0080】
CAD図のデータには、基板処理装置50に備えられた処理ユニット52およびその処理ユニット52に設けられた部位(例えば、スピンチャック62および処理液ノズル65等)の座標情報も含まれる。従って、スマートグラス10は、基板処理装置50に搭載された複数の処理ユニット52のそれぞれと基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録する。さらにスマートグラス10は、各処理ユニット52に設けられた部位と基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録する。なお、処理液ノズル65のような駆動部位については、CAD図のデータに含まれている座標情報はホームポジションのものであるため、そのホームポジション(処理液ノズル65であれば上述した待機位置)に位置している駆動部位と基準位置RPとの相対位置関係が算定されることとなる。
【0081】
スマートグラス10は、算定した基準位置RPと基板処理装置50の部位との相対位置関係を例えば位置テーブルに書き込むことによって登録すれば良い。具体的には、スマートグラス10は、仮想オブジェクトの名称、それに対応付けられた基板処理装置50の装置部位、および、当該装置部位の相対位置情報等を相互に関連付けて位置テーブルに登録する。
【0082】
スマートグラス10は、基板処理装置50に含まれる部位の全てについて相対位置関係を算定して登録する必要はなく、必要な部位について相対位置関係を算定すれば良い。基板処理装置50に含まれる部位は、基板処理装置50全体の代表点、当該基板処理装置50に搭載された複数の処理ユニット52、および、各処理ユニット52に設けられた各種機構を含む。例えば、スマートグラス10は、基板処理装置50の処理液ノズル65のみの基準位置RPに対する相対位置関係を算定して登録しても良い。すなわち、スマートグラス10は、基板処理装置50に含まれる少なくとも一つの部位と基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録すれば良い。
【0083】
次に、位置登録とは異なる事前の準備処理として、危険レベルの定義づけを行っておく(ステップS12)。具体的には、例えば、複数段階の危険レベルのそれぞれについて、可能な操作および装置状態を関連付けた危険テーブルを作成しておく。この作業は、作業者がスマートグラス10を用いて行うようにしても良いし、作業支援員が作業支援端末80から行うようにしても良い。
【0084】
図10は、危険テーブルの一例を示す図である。第1実施形態では、例えば4段階の危険レベルが設定されている。レベル1が最も危険度が低く、レベル4が最も危険度が高い。危険レベルがレベル1では、処理ユニット52の外カバー95および内カバー92を開放して処理チャンバー60内の部品交換を行うことができる。このため、危険レベルのレベル1には、”部品交換”およびレベル1に該当する装置状態(例えば、処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度)を関連付けて登録しておく。また、危険レベルがレベル2では、外カバー95および内カバー92を開くことができる。危険レベルがレベル3では、内カバー92を開けることは出来ないものの、外カバー95を開けることは可能であり、処理ユニット52の各機構に対する手動操作を行うことができる。最も危険なレベル4では、内カバー92および外カバー95ともに開けることができず、処理ユニット52の各機構に対する自動運転のみが可能である。よって、危険レベルのレベル2、レベル3およびレベル4のそれぞれには、”カバー開”、”手動操作”および”自動運転”が関連付けられるとともに、各レベルに該当する装置状態が関連付けられて登録される。
【0085】
図7のステップS13以降は、作業者がいずれかの基板処理装置50に対してメンテナンスの作業を行うときの事後処理である。基板処理装置50に対しては、定期的にまたは不定期にメンテナンスが行われる。典型的には、不定期にメンテナンスが行われるのは、基板処理装置50に何らかの不具合が生じたときである。本実施形態においては、作業者がスマートグラス10を装着してメンテナンス作業を行う。
【0086】
まず、基板処理装置50の装置状態に関する状態情報を収集する(ステップS13)。具体的には、基板処理装置50には多数のセンサーが設けられており、制御部55が各センサーから状態情報を収集する。例えば、制御部55は、濃度計から処理チャンバー60内における酸素濃度や薬液の蒸気の濃度(例えば、フッ化水素の濃度)を取得する。また、制御部55は、それとは異なる濃度計から処理液ノズル65内に残留している処理液中の薬液濃度を取得する。さらには、制御部55は、各バルブの開閉に関する情報、例えば薬液バルブ154が開かれた後に純水バルブ152は閉じたままであるというような情報を取得する。制御部55が収集した状態情報は例えば制御部55が備える記憶部内に蓄積される。なお、制御部55は、センサーからの情報に加えて、動作履歴や作業履歴(作業ログ)から情報を収集するようにしても良い。
【0087】
次に、ステップS13で収集した状態情報に基づいてスマートグラス10の判定部31が基板処理装置50内の各部位の危険レベルについて判定する(ステップS14)。ステップS14での判定の対象となる対象部位には処理チャンバー60内のいずれかの空間も含まれる。例えば、判定部31は、
図10の危険テーブルから特定される処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度に対応する危険レベルを処理チャンバー60内の危険レベルとして判定する。また、判定部31は、薬液バルブ154が開かれた後に純水バルブ152は閉じたままであるときには、処理液ノズル65に高濃度の薬液が残留しているため、処理液ノズル65が危険である(例えば、危険レベルがレベル4)と判定する。
【0088】
次に、スマートグラス10を装着した作業者が例えばメンテナンス作業のために基板処理装置50に近付いたときに、表示部23が基板処理装置50内の危険であると判定された部位(危険レベルがレベル1以上の部位)に対してアノテーション表示(注釈表示)を行う(ステップS15)。第1実施形態では、スマートグラス10の表示部23が危険な状態になっている部位を含む空間に着色表示を重畳して表示する。すなわち、表示部23は、判定部31によって危険であると判定された部位を含む空間を立体的に色付きで表示するのである。
【0089】
より詳細には、スマートグラス10は、ステップS11にて登録された部位の位置情報に基づいて判定部31が危険であると判定した部位の位置を特定する。そして、スマートグラス10の表示部23は、特定された位置を含む空間に着色表示を重ね合わせて表示するのである。
【0090】
図11は、アノテーション表示の一例を示す図である。
図11の例では、紙面右側上段の処理ユニット52の処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度が高くなっており、判定部31は当該処理チャンバー60内の空間が危険であると判定する。そうすると、
図11に示すように、表示部23は、紙面右側上段の処理チャンバー60内の空間を立体的に色付けして表示する。
【0091】
処理チャンバー60内に設けられた一部の部位が危険であると判定されたときには、表示部23は当該部位のみを含む限られた空間に着色表示を重ね合わせて表示する。例えば、高濃度の薬液が残留している処理液ノズル65が危険であると判定されたときには、表示部23は処理液ノズル65の周辺空間を着色して表示する。また、高圧の流体が残留する配管(配管113または配管155)が危険であると判定されたときには、表示部23は当該配管の周囲の空間に着色表示を重畳して表示する。
【0092】
また、第1実施形態においては、複数段階の危険レベルが定義されており、処理ユニット52の各部位の危険レベルについてまで判定されている。表示部23は、危険であると判定された部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて当該部位を含む空間を着色表示している。すなわち、表示部23は、危険レベルごとに異なる色にて着色表示しているのである。例えば、最も危険なレベル4に該当すると判定された部位を含む空間は赤色にて表示する。一方、比較的危険度が低いレベル1に該当すると判定された部位を含む空間は例えば黄色にて表示する。それらの間のレベル2(またはレベル3)に該当すると判定された部位を含む空間については例えば橙色にて表示する。
【0093】
このように、危険であると判定された部位を含む空間をスマートグラス10によって立体的に色付きで表示することにより、スマートグラス10を装着した作業者は容易かつ確実に基板処理装置50のいずれの部位が危険であるかを認識することができる。第1実施形態では、危険であると判定された部位を含む空間に着色表示を重畳して表示しているのであるが、当該部位が不透明である場合には、作業者の目には結果的に当該部位が着色表示されているようにも見える。
【0094】
また、危険であると判定された部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて着色表示しているため、スマートグラス10を装着した作業者は当該部位の危険の程度についても認識することができる。
【0095】
基板処理装置50内に危険な部位が存在していることを認識した作業者が何らかの対策を講じることもある。例えば、処理チャンバー60内に高濃度の薬液が付着しているときには、処理液ノズル65から純水を吐出して薬液を洗い流す。また、配管内に高圧の流体が残留しているときには、図示省略のリリースバルブを開放して圧力を低下させる。
【0096】
対策として作業者が行うことができる操作は、当該部位が該当する危険レベルによって(つまり、表示色によって)規定される。その内容は、危険テーブルにて定義されている。例えば、処理チャンバー60内の空間が黄色に着色されて表示されているときには、作業者は外カバー95および内カバー92の双方を開けることができるが、橙色に着色されているときには、作業者は外カバー95のみ開けることができる。また、処理チャンバー60内の空間が赤色に着色されているときには、作業者は外カバー95および内カバー92のいずれも開けることができない。
【0097】
このような対策を施した後に再度状態情報を取得して危険レベルの判定を行うことにより、危険であると判定された部位の危険レベルが低下することもある(ステップS16)。対策によって対象部位の危険レベルが変化したときには、ステップS16からステップS17に進み、表示部23が変化後の危険レベルに応じて表示色を変更する。例えば、処理チャンバー60内に付着していた高濃度の薬液が洗い流されて、処理チャンバー60内の空間の危険レベルがレベル4からレベル1に低下したときには、表示部23が処理チャンバー60内の空間の表示色を赤色から黄色に変更する。これにより、作業者は処理チャンバー60内の危険レベルが低下したことを認識することができる。
【0098】
処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度が高くなっていたり、配管内に高圧の流体が残留していることは、危険な状態なのではあるが、通常それを人間の目で直接見ることはできない。それゆえ、作業者は危険状態を認識することができずに事故に繋がる恐れもある。第1実施形態においては、収集した状態情報に基づいて危険判定を行い、危険であると判定された対象部位を含む空間にスマートグラス10が着色表示を重畳して表示している。すなわち、スマートグラス10は、人間の目で直接見ることの出来ない危険を着色により可視化しているのである。これにより、基板処理装置50内の何処が危険であるかが一目瞭然となり、作業者は危険な箇所を一目で把握することができる。その結果、作業者は不可視の危険状態を容易かつ確実に認識することができ、事故を未然に防止することが可能となる。
【0099】
また、第1実施形態においては、対象部位が該当する危険レベルに応じた表示色にて当該対象部位を含む空間を着色表示している。これにより、作業者は容易に対象部位の危険の程度を認識することができる。そして、危険レベルに応じて許容される操作が決められているため、危険な場合に一律に全ての操作を禁止するのに比較して危険の程度に応じた柔軟な対応を行うことができる。
【0100】
さらに、第1実施形態においては、対象部位に対する操作によって対象部位が該当する危険レベルが変化したときには、変化後の危険レベルに応じて表示色を変更している。これにより、作業者は行った対策の効果を容易に認識することが可能となる。
【0101】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態における作業支援システムの構成の構成は第1実施形態と同じである。第1実施形態ではスマートグラス10を装着した作業者が漠然と基板処理装置50に近付いたときに危険な部位を色分けして着色表示していたが、第2実施形態では作業者が基板処理装置50に対して所定の作業を行おうとしたときにその作業に関連する部位が危険であるか否かを着色表示する。
【0102】
図12は、第2実施形態の作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
図12に示す工程のうちステップS21およびステップS22が事前の準備処理である。
【0103】
ステップS21の位置登録の処理は、第1実施形態のステップS11と同じである。すなわち、第1実施形態と同様に、スマートグラス10が備えるVPS機能を用いて基板処理装置50に含まれる部位と基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録しておく。
【0104】
第2実施形態においては、基板処理装置50に対する作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録しておく(ステップS22)。具体的には、基板処理装置50に対する各作業の種別とそれに関連する関連部位とを対応付けた作業テーブルを作成する。
【0105】
図13は、作業の種別ごとに危険が生じ得る関連部位を関連付けて登録した作業テーブル75の一例を示す図である。基板処理装置50に対する作業の種別としては、例えば”配管の清掃”、”チャック交換”、”ノズルのティーチング”等が設定されている。そして、作業テーブル75には、それぞれの作業種別について危険が生じ得る関連部位が関連付けて登録されている。例えば、作業種別”チャック交換”については、危険が生じ得る関連部位としてスピンチャックが登録されている。
図13に示すような作業テーブル75の作成は、作業者がスマートグラス10を用いて行うようにしても良いし、作業支援員が作業支援端末80から行うようにしても良い。作成された作業テーブル75は、例えばサーバ70の記憶部74に格納される(
図6)。
【0106】
次に、基板処理装置50の装置状態に関する状態情報を収集する(ステップS23)。この工程は、第1実施形態におけるステップS13の処理と同じである。すなわち、基板処理装置50の制御部55がセンサーや作業履歴から状態情報を収集する。
【0107】
次に、基板処理装置50に対して所定の作業を行おうとする作業者がスマートグラス10を用いてその作業の種別を入力する(ステップS24)。具体的な入力方法としては、例えば、作業者はスマートグラス10の表示部23に立体映像として仮想のキーボードを表示させ、そのキーボードから手のジェスチャーによって作業の種別を入力する。または、作業者は、作業テーブル75に登録されている作業種別をスマートグラス10の表示部23にリスト形式で表示させ、そのリストから作業種別を選択するようにしても良い。或いは、スマートグラス10にはマイクロフォンも設けられており、作業者は、音声入力によって作業種別を入力するようにしても良い。
【0108】
スマートグラス10から作業種別が入力されると、ステップS24からステップS25に進み、入力された作業種別に関連付けられた関連部位が危険であるか否かについてスマートグラス10の判定部31が判定する。具体的には、判定部31は、作業テーブル75から入力された作業種別に関連付けられた関連部位を抽出する。例えば、スマートグラス10から作業種別として”チャック交換”が入力されたときには、判定部31は作業テーブル75にて”チャック交換”に関連付けられたスピンチャックおよびスピンモータ等を抽出する。そして、判定部31は、ステップS23にて収集された状態情報に基づいて、抽出した関連部位が危険であるか否かを判定する(ステップS25)。上記の例であれば、判定部31は、収集された状態情報に基づいて、スピンチャック62およびスピンモータ63が危険であるか否かを判定する。なお、第2実施形態においては、必ずしも危険レベルまで判定する必要はない。
【0109】
次に、スマートグラス10の表示部23が関連部位についてのアノテーション表示を行う(ステップS26)。第2実施形態では、表示部23が危険であると判定された関連部位を含む空間を第1の表示色にて着色表示するとともに、危険ではないと判定された関連部位を含む空間を第2の表示色にて着色表示する。上記の例であれば、例えば表示部23は、危険であると判定された関連部位であるスピンチャック62を含む空間を赤色で着色するとともに、危険ではないと判定された関連部位であるスピンモータ63を含む空間を緑色で着色する。
【0110】
第1実施形態と同じように、スマートグラス10は、ステップS11にて登録された部位の位置情報に基づいて抽出された関連部位の位置を特定する。そして、スマートグラス10の表示部23は、特定された位置を含む空間を危険であることを示す第1の表示色(上記の例では赤色)または安全であることを示す第2の表示色(上記の例では緑色)にて着色表示するのである。
【0111】
このような表示形態とすることにより、スマートグラス10を装着した作業者は、これから実行しようとしている作業に関連する部位が危険であるか否かを容易に認識することができる。第1の表示色にて着色表示されている関連部位に対する作業は不可であり、第2の表示色にて着色表示されている関連部位に対する作業は可能である。
【0112】
第1の表示色にて着色表示されている関連部位に対して作業者が何らかの対策を講じることもある。対策として関連部位に対して行う操作は第1実施形態と同様である。対策を施した後に再度状態情報を取得して危険判定を行うことにより、関連部位についての危険が解消することもある(ステップS27)。対策によって関連部位が危険でなくなったときには、ステップS27からステップS28に進み、当該関連部位を含む空間の着色表示を変更する。具体的には、表示部23が当該関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更する。これにより、作業者は当該関連部位についての危険が解消されて作業が可能になったことを認識することができる。
【0113】
第2実施形態においても、収集した状態情報に基づいて危険判定を行い、危険であると判定された関連部位を含む空間にスマートグラス10が着色表示を重畳して表示している。すなわち、スマートグラス10は、人間の目で直接見ることの出来ない危険を着色により可視化しているのである。このため、第1実施形態と同様に、作業者は不可視の危険状態を確実に認識することができる。
【0114】
また、第2実施形態においては、作業者が実行しようとしている作業に関連する部位が危険であるか否かが色分けされて表示されることとなる。これにより、作業者は関連部位に対する作業が可能であるか否かを容易に認識することができる。
【0115】
さらに、第2実施形態においては、危険であると判定された関連部位に対する操作によって当該関連部位が危険ではなくなったときには、当該関連部位を含む空間の着色表示を第1の表示色から第2の表示色に変更している。これにより、作業者は行った対策の効果を容易に認識することが可能となる。
【0116】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、スマートグラス10が行うアノテーション表示は空間への着色表示であったが、これに限定されるものではなく、作業者への注意喚起を行える手法であれば良い。例えば、スマートグラス10は、アノテーション表示として、警告メッセージを表示するようにしても良いし、或いは音声による警告を行うようにしても良い。さらに、スマートグラス10は、危険レベルを示す数値を表示するようにしても良い。
【0117】
また、スマートグラス10は、着色表示に加えて対象部位についての危険を解消するための操作手順をテキスト表示するようにしても良い。
【0118】
また、第1実施形態では、危険であると判定された部位を含む空間に着色表示を重畳して表示していたが、これに加えて、安全な部位を含む空間を当該着色表示とは異なる表示色(例えば、青色)にて着色するようにしても良い。
【0119】
また、上記各実施形態においては、スマートグラス10に設けられた判定部31によって危険判定を行っていたが、これに限定されるものではなく、作業支援端末80またはサーバ70によって危険判定を行うようにしても良い。或いは、基板処理装置50の制御部55が当該基板処理装置50内の危険判定を行うようにしても良い。
【0120】
また、スマートグラス10の表示部23が例えば立体映像として表示したプルダウンによって「通常」、「メンテナンス」、「作業」を選択できるようにしても良い。「通常」が選択されたときは、スマートグラス10はアノテーション表示を行わない。必要性がないときにまでスマートグラス10がアノテーション表示を行うことを防ぐことができる。一方、スマートグラス10は、「メンテナンス」が選択されたときには第1実施形態のアノテーション表示を行うモードとなり、「作業」が選択されたときには第2実施形態を実行するモードとなるようにしても良い。
【0121】
また、上記各実施形態においては、作業者はスマートグラス10を使用していたが、これに限定されるものではなく、スマートグラス10に代えてタブレット端末やスマートフォン等の携帯端末を用いるようにしても良い。すなわち、表示部および通信部を備えた携帯端末であれば良い。もっとも、タブレット端末等を使用するとそれを持つ作業者の手が塞がることになるため、スマートグラス10等のウェアラブル端末を用いるのが好ましい。
【0122】
また、基板処理装置50は基板洗浄装置に限定されるものではなく、熱処理装置、露光装置、塗布現像装置、計測装置または検査装置等の基板に所定の処理を行う装置であれば良い。基板処理装置50が基板洗浄装置である場合には、基板を1枚ずつ洗浄する枚葉式の洗浄装置であっても良いし、複数の基板を一括して洗浄するバッチ式の洗浄装置であっても良い。もっとも、本発明に係る作業支援技術は、薬液を使用するために不可視の危険状態が生じやすい基板洗浄装置等の液処理装置に好適である。なお、上記実施形態では、処理チャンバー60内にダウンフローを形成して低酸素雰囲気とするために給気部110が供給する処理ガスとして窒素ガスを例示したが、基板Wの近傍を処理に関与する特定の雰囲気とするために遮断板や別のガスノズルから窒素ガスとは異なる処理ガスを供給するようにしても良い。そのような処理ガスとしては、例えば、酸素(O2)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)等が例示される。
【0123】
さらに、本発明に係る作業支援技術の対象となるのは、基板処理装置に限定されるものではなく、何らかの不可視の危険状態が生じ得る産業機器であれば良い。このような産業機器としては、例えば、印刷処理装置、成膜装置、医療用装置、および、外観検査装置等が例示される。
【符号の説明】
【0124】
5 情報通信網
10 スマートグラス
21 撮像部
22 通信部
23 表示部
24,74 記憶部
31 判定部
50 基板処理装置
52 処理ユニット
61 回転保持部
62 スピンチャック
65 処理液ノズル
66 ノズル先端部
70 サーバ
75 作業テーブル
80 作業支援端末
92 内カバー
95 外カバー
110 給気部
120 排気部
130 排液部
150 処理液供給部
W 基板