(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004831
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/50 20230101AFI20250108BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20250108BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20250108BHJP
H10N 30/053 20230101ALI20250108BHJP
【FI】
H10N30/50
C04B35/495
H10N30/853
H10N30/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104683
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 吉進
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
(57)【要約】
【課題】高い絶縁破壊強度を実現できる圧電素子を提供する。
【解決手段】圧電素子10は、第1内部電極13と、第1内部電極13とは電位の異なる第2内部電極14と、第1内部電極13と第2内部電極14との間に存在する内部圧電体12と、が積層され、内部圧電体12が、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を含む無鉛圧電磁器組成物を主相とし、さらにマンガンを含む酸化物からなる副相から構成される圧電素子10であって、内部圧電体12は、中心を含む断面で見たとき、積層方向において、第1内部電極13と第2内部電極14とが重なる領域を積層方向に8等分したとき、最も第1内部電極13側の領域を第1領域とし、最も第2内部電極14側の領域を第2領域としたときに、第1領域と第2領域とにおける副相の面積の割合のうち、大きい方の値R1と、第1領域と第2領域とを除く他の領域における副相の面積の割合のうち、最小値R2とが、R2/R1≧3を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、前記第1の電極とは電位の異なる第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に存在する圧電体と、が積層され、
前記圧電体が、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を含む無鉛圧電磁器組成物を主相とし、さらにマンガンを含む酸化物からなる副相から構成される圧電素子であって、
前記圧電体は、中心を含む断面で見たとき、積層方向において、前記第1の電極と前記第2の電極とが重なる領域を前記積層方向に8等分したとき、最も前記第1の電極側の領域を第1領域とし、最も前記第2の電極側の領域を第2領域としたときに、
前記第1領域と前記第2領域とにおける前記副相の面積の割合のうち、大きい方の値R1と、前記第1領域と前記第2領域とを除く他の領域における前記副相の面積の割合のうち、最小値R2とが、R2/R1≧3を満たす、圧電素子。
【請求項2】
1つの前記第1の電極、1つの前記圧電体、および1つの前記第2の電極がこの順に並んで積層されたものを1つのユニットS、1つの前記第2の電極、1つの前記圧電体、および1つの前記第1の電極がこの順に並んで積層されたものを1つのユニットTと定義した場合に、前記第1の電極あるいは前記第2の電極を共有しながら前記ユニットSとTが交互に構成されている、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記R1が1.0%以下である、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1の電極および前記第2の電極がニッケルを主成分とする、請求項1または請求項2に記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電性を示すセラミックスとして、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が広く利用されてきた。しかし、PZTは成分に鉛を含むために、環境負荷が問題視されており、近年、無鉛圧電セラミック素材の開発が進められている。一般に圧電セラミックスは、有鉛無鉛を問わず高い絶縁特性が求められる。しかし、無鉛圧電セラミック材料の一つであるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は一般的に緻密な組織形成が難しく、絶縁性に課題がある。このような課題に対し、例えばニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物にマンガン(Mn)を添加することで、絶縁特性を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の構成の無鉛圧電磁器組成物においても、絶縁破壊強度は充分ではなく、さらなる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される圧電素子は、第1の電極と、前記第1の電極とは電位の異なる第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に存在する圧電体と、が積層され、前記圧電体が、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を含む無鉛圧電磁器組成物を主相とし、さらにマンガンを含む酸化物からなる副相から構成される圧電素子であって、前記圧電体は、中心を含む断面で見たとき、積層方向において、前記第1の電極と前記第2の電極とが重なる領域を前記積層方向に8等分したとき、最も前記第1の電極側の領域を第1領域とし、最も前記第2の電極側の領域を第2領域としたときに、前記第1領域と前記第2領域とにおける前記副相の面積の割合のうち、大きい方の値R1と、前記第1領域と前記第2領域とを除く他の領域における前記副相の面積の割合のうち、最小値R2とが、R2/R1≧3を満たす。
【発明の効果】
【0006】
本明細書によって開示される圧電素子によれば、高い絶縁破壊強度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の圧電素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示される圧電素子は、第1の電極と、前記第1の電極とは電位の異なる第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に存在する圧電体と、が積層され、前記圧電体が、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を含む無鉛圧電磁器組成物を主相とし、さらにマンガンを含む酸化物からなる副相から構成される圧電素子であって、前記圧電体は、中心を含む断面で見たとき、積層方向において、前記第1の電極と前記第2の電極とが重なる領域を前記積層方向に8等分したとき、最も前記第1の電極側の領域を第1領域とし、最も前記第2の電極側の領域を第2領域としたときに、前記第1領域と前記第2領域とにおける前記副相の面積の割合のうち、大きい方の値R1と、前記第1領域と前記第2領域とを除く他の領域における前記副相の面積の割合のうち、最小値R2とが、R2/R1≧3を満たす。なお、断面による分析方法は一般的に用いられる手法であり、十分に広い断面積で分析ができていれば三次元的な情報を断面でも表現できるため、問題ないと考えられる。
【0009】
圧電層に含まれる、マンガンを含む酸化物からなる副相は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物が有する空孔を埋めることで絶縁破壊強度を高める効果を発揮するが、電極の近傍に存在すると、局所的な電界歪みを誘起し、絶縁破壊強度を低下させてしまうと推察される。より詳細には、マンガンを含む酸化物自身の絶縁特性は低くないが、電極近傍に主相と混在することで、誘電率の違いによって電界に歪みが生じる。そのため、絶縁破壊強度の向上の観点から、主相の空孔を埋めるために副相としてマンガン酸化物を入れる方がよいが、断面において、電極近傍における副相の面積が大きいと電界歪みの観点から絶縁破壊強度が低下する。そのため、電極近傍の副相の面積は小さいことが好ましい。そこで、上記の構成によれば、電極近傍の領域(第1領域と第2領域)における副相の面積の割合を、電極から離れた領域(第1領域と第2領域とを除く他の領域)における副相の面積の割合よりも小さくすることにより、電界の歪みを抑制し、マンガンを含む酸化物による絶縁破壊強度の向上効果を最大限に発揮させることができる。ただし、マンガンは必ずしも副相だけに存在するのではなく、主相に固溶する場合(ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のニオブが一部マンガンに置換された構造となる場合)もあり得る。
【0010】
(2)上記(1)の圧電素子において、1つの前記第1の電極、1つの前記圧電体、および1つの前記第2の電極がこの順に並んで積層されたものを1つのユニットS、1つの前記第2の電極、1つの前記圧電体、および1つの前記第1の電極がこの順に並んで積層されたものを1つのユニットTと定義した場合に、前記第1の電極あるいは前記第2の電極を共有しながら前記ユニットSとTが交互に構成されていることが好ましい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)の圧電素子において、前記R1が1.0%以下であることが好ましい。この数値範囲内であれば、絶縁破壊強度がいっそう向上する。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの圧電素子において、前記第1の電極および前記第2の電極がニッケルを主成分とすることが好ましい。
【0013】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に
図1および
図2を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
[圧電素子10]
本実施形態の圧電素子10は、
図1に示すように、第1外部電極16および第2外部電極17と、これら2つの外部電極16、17の間に配された積層体15と、を備える。
【0015】
積層体15は、最も外側に配された2つの外部圧電体11、2つの外部圧電体11の間に配された複数の内部圧電体12(圧電体の一例)、複数の第1内部電極13(第1の電極の一例)、および複数の第2内部電極14(第2の電極の一例)で構成されている。内部圧電体12と内部電極13、14とは、交互に、すなわち、第1内部電極13、内部圧電体12、第2内部電極14、内部圧電体12、第1内部電極13、内部圧電体12、第2内部電極14…の順に配されている。言い換えると、1つの内部圧電層12は、1つの第1内部電極13と1つの第2内部電極14とに挟まれて配置されている。さらに言い換えると、内部圧電体12と内部電極13、14とは、1つの第1内部電極13、1つの内部圧電体12、および1つの第2内部電極14がこの順に並んで積層されたものを1つのユニットSと定義し、1つの第2内部電極14、1つの内部圧電体12、および1つの第1内部電極13がこの順に並んで積層されたものをユニットTと定義した場合に、第1内部電極13あるいは第2内部電極14を共有しながらユニットSとユニットTとが交互に配置されている。内部圧電体12と内部電極13、14とはいずれも、積層方向と直交する平面に沿った方向に広がるように形成されている。
【0016】
2つの外部電極16、17は、積層体15の側面(外部圧電層11とは異なる面)に配されている。第1内部電極13の一端は、第1外部電極16に接続されており、第2内部電極14の一端は、第2外部電極17に接続されている。
【0017】
外部圧電体11の層は圧電体であってもいいし圧電体でなくてもいい。また、2つの外部圧電体11の層は片方あるいは両方存在せず、第1内部電極13あるいは第2内部電極14が一部露出していても良い。本実施形態の外部圧電体11および内部圧電体12は、無鉛圧電磁器組成物により構成されており、圧電性を有する。第1内部電極13、第2内部電極14、第1外部電極16、および第2外部電極17は、例えば、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)を主成分とする。第1内部電極13と第2内部電極14とは互いに電位が異なっており、第1外部電極16と第2外部電極17とは互いに電位が異なっている。2つの外部電極16、17間に電圧が印加されると、圧電体12が伸縮し、圧電素子10全体が伸縮する。
【0018】
外部圧電体11および内部圧電体12は、圧電性を有するニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を含む無鉛圧電磁器組成物を主相とし、さらにマンガンを含む酸化物からなる副相から構成される。
【0019】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(1)で表される。
【0020】
(AaM1b)c(NbdM2e)O3+f…(1)
【0021】
上記組成式(1)において、元素Aと元素M1とは、ペロブスカイト構造のAサイト(アルカリサイト)に配置され、Nb(ニオブ)と元素M2とはBサイトに配置される。
【0022】
元素Aはアルカリ金属元素のうち少なくとも1種である。元素AとしてK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)のうち少なくとも1種が含まれることが好ましい。元素M1は金属元素である。元素M1として、アルカリ土類金属であるCa(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)のうち少なくとも1種が含まれることが好ましい。元素M2は金属元素である。元素M2として、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Sc(スカンジウム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Zn(スズ)、Ga(ガリウム)、Y(イットリウム)のうち少なくとも1種が含まれることが好ましい。
【0023】
上記組成式(1)における係数aからeの値としては、ペロブスカイト構造が成立する値の組み合わせのうちで、無鉛圧電磁器組成物の電気的特性又は圧電特性(特に圧電定数d33)の観点で好ましい値が選択される。
【0024】
具体的には、係数a、bは、0<a<1、0<b<1、a+b=1を満たし、a=0(すなわち、アルカリ金属をいずれも含まない組成物)は除外される。Aサイト全体に対する係数cは、0.80<c<1.10を満たし、0.84≦c≦1.08が好ましく、0.88≦c≦1.07がさらに好ましい。係数d、eは、0<d<1、0<e<1、d+e=1を満たし、d=0(Nbを含まない組成物)は除外される。
【0025】
酸素の係数3+fのうち、係数fは、通常3である酸素の係数に対し、酸素の欠損あるいは過剰を示す正または負の値である。酸素の係数3+fは、ペロブスカイト型酸化物を含む主相が構成される値を取り得る。係数fの典型的な値は、f=0であり、-0.1≦f≦0.1が好ましい。なお、係数fの値は、主相の組成の電気的な中性条件から算出することができる。但し、主相の組成としては、電気的な中性条件からやや外れた組成も許容できる。
【0026】
上記組成式(1)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のうち、K、Na、およびNbを主な金属成分とする酸化物は、「KNN」または「KNN材」と称される。この酸化物を用いることにより圧電特性に優れた無鉛圧電磁器組成物を得ることができる。このようなニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の典型的な組成は、(K、Na、Li、Ca、Ba)c(Nb、Mn、Ti、Zr)O3+fである。
【0027】
副相を構成する、マンガンを含む酸化物としては、酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(II、III)(Mn3O4)、酸化マンガン(III)(Mn2O3)、酸化マンガン(IV)(MnO2)、酸化マンガン(VI)(MnO3)、酸化マンガン(VII)(Mn2O7)、あるいは、Mn-Ti-O系スピネル化合物などのマンガン系複合酸化物が挙げられる。
【0028】
図1に示すように、積層方向において、第1内部電極13と第2内部電極14とが重なる領域を駆動領域Rとする。ここで、駆動領域Rは外部圧電体11を含まない伸縮可能領域である。駆動領域Rの一部Fを拡大した
図2に示すように、一の内部圧電体12と、この内部圧電体12に接する第1内部電極13および第2内部電極14において、第1内部電極13における内部圧電層12に接する面を第1接触面13Aとし、第2内部電極14における内部圧電体12に接する面を第2接触面14Aとし、第1接触面13Aと第2接触面14Aとの距離で規定される第1内部電極13と第2内部電極14との距離を電極間距離D0とする。そして、第1接触面13Aから、電極間距離D0の8分の1の距離D1だけ離れた位置までの領域を第1領域A1とし、第2接触面14Aから、電極間距離D0の8分の1の距離D1だけ離れた位置までの領域を第2領域A2とする。すなわち、内部圧電体12を積層方向に8等分したとき、最も第1内部電極13側の領域を第1領域A1とし、最も第2内部電極14側の領域を第2領域A2とする。また、内部圧電体12において第1領域A1と第2領域A2とを除く他の領域を6等分した6つの領域をそれぞれ他の領域A3とする。
【0029】
第1領域A1と第2領域A2とにおける前記副相の面積の割合のうち、大きい方の値をR1とし、6つの他の領域A3における前記副相の面積の割合のうち、最小値をR2としたとき、R1とR2とが、R2/R1>3を満たす。つまり、マンガンを含む酸化物からなる副相が、各内部電極13、14から一定以上離れた領域に偏在している。
【0030】
内部圧電体12に含まれる、マンガンを含む酸化物からなる副相は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物が有する空孔を埋めることで絶縁破壊強度を高める効果を発揮するが、各内部電極13、14の近傍に存在すると、局所的な電界歪みを誘起し、絶縁破壊強度を低下させてしまうと推察される。各内部電極13、14から離れた領域にマンガンを含む酸化物からなる副相を偏在させることにより、電界の歪みを抑制し、マンガンを含む酸化物からなる副相による絶縁破壊強度の向上効果を最大限に発揮させることができる。
【0031】
上記割合R1は、1.0%以下であることが好ましい。この数値範囲内であれば、絶縁破壊強度がいっそう向上する。
【0032】
[圧電素子10の製造方法]
上記の圧電素子10の製造の手順の一例を、以下に示す。
【0033】
主相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、主相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600から1100℃で1から10時間仮焼して主相仮焼物を得る。
【0034】
副相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、副相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600から1100℃で1から10時間仮焼して副相仮焼物を得る。
【0035】
得られた主相仮焼物および副相仮焼物を、目的の組成となるように秤量し、分散剤、バインダ及びトルエンなどの有機溶剤を加えて粉砕・混合してスラリーとする。その後、ドクターブレード法などを使用してシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作成する。
【0036】
次に、内部電極用導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートの表面に、例えばスクリーン印刷により内部電極となる未焼成電極を形成する。
【0037】
次に、未焼成電極が形成されたセラミックグリーンシートの複数を積層し、さらにその表裏両面に未焼成電極が形成されていないセラミックグリーンシートを積層し、圧着して、圧着体を得る。この圧着体を所望の形状に切断した後、例えば200から400℃で2から10時間保持し、脱バインダ処理を行う。
【0038】
脱バインダ処理後の圧着体を、例えば1000から1200℃で、未焼成電極が酸化しない酸素分圧に調整した還元雰囲気下で2から5時間保持して焼成し、積層体を得る。このとき、組成に合わせて例えば焼成温度、保持時間等の条件を調節することで、マンガンを含む酸化物からなる副相の分布をコンロトールできる。
【0039】
得られた積層体の側面に、例えばスパッタリング法によりAuからなる外部電極を形成し、圧電素子を得る。
【0040】
なお、上述した製造方法は一例であり、圧電素子を製造するための他の種々の工程や処理条件を利用可能である。例えば、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に両者の粉末を混合し焼成する代わりに、最終的な無鉛圧電磁器組成物の組成に応じた量比で原料を混合し、焼成してもよい。但し、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に混合する方法によれば、主相と副相の組成をより厳密に管理し易いので、無鉛圧電磁器組成物の歩留まりを高めることが可能である。
【0041】
本実施形態の無鉛圧電磁器組成物および圧電素子は、振動検知用途や、圧力検知用途、発振用途、及び、圧電デバイス用途等に広く用いることが可能である。例えば、各種振動を検知するセンサ類(ノックセンサおよび燃焼圧センサ等)、振動子、アクチュエータ、フィルタ等の圧電デバイス、高電圧発生装置、マイクロ電源、各種駆動装置、位置制御装置、振動抑制装置、流体吐出装置(塗料吐出及び燃料吐出等)などに利用することができる。
【0042】
[試験例]
1.試料の作成
主相の原料粉末としてK2CO3粉末、Na2CO3粉末、BaCO3粉末、Nb2O5粉末、MnO2粉末、TiO2粉末、ZrO2粉末を、目的とするニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の各元素が下記表1に示す割合となるように、秤量して混合した。これらの原料粉末の混合物にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600から1100℃で1から10時間仮焼して主相仮焼粉を得た。
【0043】
【0044】
副相の原料粉末としてMnO2粉末、およびTiO2粉末を、目的とする組成となるように秤量して混合した。これらの原料粉末の混合物にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600から1100℃で1から10時間仮焼して副相仮焼粉を得た。
【0045】
得られた主相仮焼粉および副相仮焼粉を、目的とする組成となるように秤量し、分散剤、バインダ、及びトルエンなどの有機溶剤を加えて粉砕・混合してスラリーとした。その後、ドクターブレード法を使用してシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作成した。
【0046】
Niを主成分とする内部電極用導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートの表面に、スクリーン印刷により内部電極となる未焼成電極を形成した。
【0047】
次に、未焼成電極が形成されたセラミックグリーンシートの複数を、未焼成電極が側面から互い違いに露出するように積層し、さらにその表裏両面に未焼成電極が形成されていないセラミックグリーンシートを積層し、圧着して、圧着体を得た。
【0048】
得られた圧着体を所望の形状に切断した後、200から400℃で2から10時間保持し、脱バインダ処理を行った。脱バインダ処理後の圧着体を、1000から1200℃で、Ni/NiO平衡酸素分圧より一桁以上還元側になるように制御した還元雰囲気下で2から5時間保持して焼成し、積層体を得た。このとき、組成に合わせて例えば焼成温度、保持時間等の条件を調節して、副相の分布が異なる複数の焼結体を作成した。
【0049】
得られた積層体の2つの側面を研磨した後、スパッタリング法によりAuからなる外部電極を形成し、試料とした。
【0050】
2.試験方法
(1)副相の定性分析、定量分析、および分布の分析
X線結晶構造解析により各試料に含まれる主成分であるニオブ酸カリウムナトリウム以外の酸化物を同定した。電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EMPA)を用いて各試料を、200倍または500倍で撮像し、主相を構成する金属元素の元素マッピングと、MnのKαに帰属される特性X線を用いた元素マッピングと、を行い、EPMAの定性・定量分析と合わせることで、マッピングデータの中のMnを含む副相の位置を決定した。同一のEPMAの撮像から第1内部電極13および第2内部電極14の位置と、第1領域A1と第2領域A2の位置と、を決定した。第1領域A1と第2領域A2とにおける副相の面積の割合のうち、大きい方の値R1と、第1領域A1と第2領域A2とを除く他の領域A3における副相の面積の割合のうち、最小値R2と、を算出した。
(1-1)サンプルの加工方法
・分析位置:
1.第1内部電極と第2内部電極(以下、単に「内部電極」あるいは「電極」という場合もある)に挟まれている圧電体とそれに隣接する電極のうち、電極間距離が最も短い集合を対象領域とする。このとき、「集合」とは、最も距離が短い一カ所ではなく、圧電体の厚みや電極の厚み等ばらつきの範囲内に収まる距離の差は同じ距離であるとみなした場合の領域の集まりを表す。つまり、明らかに設計上距離を離して設けられている第1内部電極と第2内部電極のペアに挟まれた圧電体は対象領域から除外される。距離が離れている電極間に印加される電界は小さく、本発明の効果が少なくなるためである。
2.対象領域の内部であって、対象領域でない領域までの最短距離が最も大きい点を中心と定義する。素子の設計上中心が複数現れる場合は、その中で対象領域を幾何学的に見たときの重心に近い一カ所を選択する。
3.中心を通り、電極で構成される平面に垂直な直線Lcを含む平面のうち、その面で素子を切断した場合に対象領域の断面積が最も大きくなるような平面を「断面」とする。ただし、電極の形状が矩形の場合、上記の平面のうち、電極の長辺に平行な平面を「断面」とする。この断面で素子を切断し、琢磨加工することでサンプルを得る。
4.切断面に含まれている対象領域のうち、Lcからの距離が100μm以下の領域が分析位置である。この分析位置に第1内部電極と第2内部電極とそれらに挟まれている圧電体との組み合わせが複数ある場合はそれぞれの位置で下記の分析を実施する。
(1-2)EPMAの分析条件
・加速電圧:15kV
・照射電流:5×10-8A
・Dwell time:40msec
(1-3)EPMAの分析視野
・矩形のEPMA分析視野に対し、内部電極ができるだけ縦方向に垂直に配置されるようにする。
・EPMA分析視野の横方向長さは分析する圧電体厚みの1.5倍程度とし、2つの内部電極が視野内に入るようにする。
・EPMA分析視野の縦方向長さは50μmか、セラミックス層の副相が粒子状で存在する場合はその平均粒子径の10倍の値のうち、大きい方以上であること。これは、粒子状の副相の粒子径が大きい場合でも分析位置に依存しない評価を行うためである。
(1-4)EPMA像中の電極部、セラミック部の判定方法
内部電極に用いられている電極材料の主成分元素のEPMA像を取得し、検出量が視野中の最大値の1/2以上である領域を電極部、それ以外を圧電体とする。
(1-5)分析領域の8分割方法の定義
1.第1内部電極と圧電体の境界のうち、分析する圧電体に直接接する境界を抽出し、線形近似で得られた直線をL1、同様の処理を第2内部電極で行ったものをL2とする。このとき、分析視野の定義通りの視野であれば、L1とL2は分析視野に対し垂直に近い直線となる。
2.L1とL2の間を縦方向に8等分するように、直線を7本追加する。このとき、L1に最も近い直線とL1で囲まれる領域が第1領域、L2に最も近い直線とL2で囲まれる領域が第2領域である。
(1-6)分析像中の主相と副相の区別方法
1.分析視野で定性分析を行い、含まれているNaより元素番号の大きな金属元素の有無を調べる。LiはEPMAでは検出が困難なため除外している。
2.上記金属元素すべてのEPMAマッピング測定によって、各ピクセルでの各金属元素の構成割合(atm%)を算出する。酸素や炭素などの非金属元素を評価に入れないのは定量性が低いためである。
3.各ピクセルにおける元素Mの構成割合を[M](atm%)と表記したとき、上記の8分割された領域のいずれかに含まれるピクセルのうち、([Na]+[K])/([Nb])の値が0.8以上1.2未満、かつ、([Na]+[K]+[Nb])が50%以上であるピクセルを主相、それ以外のうち、Mnが検出されるピクセルを副相とする。他の固溶元素のない理想的なニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の場合は上記の値はそれぞれ1.0,100%となるが、Mnをはじめとした添加元素の固溶した状態や、Liを考慮する必要があるため、値に幅を持たせてある。
(1-7)副相の面積の割合の定義
・8分割された領域の一つに対し、その領域に含まれるピクセル数に対して、上記の判定方法で副相と定義されるピクセル数の割合によってその領域の副相の面積の割合が定義される。この処理を8分割された領域すべてで行うことで、分割領域ごとの副相の面積の割合が計算される。
【0051】
(2)絶縁破壊試験
得られた試料に、40℃のシリコーンオイル中にて、5kv/mmの電解を30分以上印加して、絶縁破壊するか否かを調べた。
【0052】
3.結果
X線結晶構造解析によって、試料中に含まれるマンガンを含む酸化物として、MnO、Mn2TiO4、Ti2MnO4、Mn4Nb2O9等が確認された。
【0053】
各試験例において、算出された酸化物の面積の割合R1、R2の値と、絶縁破壊試験に供した試料のうち、絶縁破壊試験において絶縁破壊を生じなかった試料の割合(試験成功率)と、を表2に示した。
【0054】
【0055】
表1より、R2/R1≧3を満たさない試験例4、5においては、試験成功率が0%および12.5%であった。R2/R1≧3を満たす試験例1から3においては、試験成功率が87.5%以上であり、高い絶縁破壊強度を実現できていた。特に、R1が1.0%以下の試験例1、2では、試験成功率が100%であり、極めて高い絶縁破壊強度を実現できていることが確認された。
【0056】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、圧電素子10が複数の内部圧電体12、第1内部電極13、および第2内部電極14を備えていたが、圧電素子が、圧電体と第1の電極と第2の電極とを1つずつ備える単層構造を有する素子であっても構わない。
(2)上記実施形態では、第1内部電極13および第2内部電極14がニッケルを主成分としていたが、第1の電極と第2の電極とはニッケルを主成分としていなくてもよく、例えばAu、Ag、Pt、Cu、Pd、Ag-Pd合金などを主成分としてしても構わない。
(3)上記実施形態では、
図1の枠F内の部分拡大断面図を用いて請求項1に記載した関係式R2/R1≧3を満たすことを説明したが、
図1に示す内部圧電体の全体が上記関係式を満たす必要はなく、内部圧電体の一部が上記関係式を満たす場合にも、圧電素子が請求項1に係る発明の技術的範囲に属するものとしてもよい。例えば、圧電素子に含まれる圧電体の半分以上が上記関係式を満たす場合に、当該圧電素子が請求項1に係る発明の技術的範囲に属するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10:圧電素子
11:外部圧電体
12:内部圧電体(圧電体)
13:第1内部電極(第1の電極)
13A:第1接触面
14:第2内部電極(第2の電極)
14A:第2接触面
15:積層体
16、17:外部電極
A1:第1領域
A2:第2領域
A3:他の領域
D0:電極間距離
F:駆動領域の一部
R:駆動領域
S、T:ユニット