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特開2025-48703離型フィルムとその製造方法、及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025048703
(43)【公開日】2025-04-03
(54)【発明の名称】離型フィルムとその製造方法、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20250326BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250326BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20250326BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20250326BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20250326BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
B05D5/08 Z
C09D167/00
C09J7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028296
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023154163
(32)【優先日】2023-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】中西 佑太
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 一善
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J004
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB07Z
4D075BB26Z
4D075CA07
4D075CA36
4D075DA04
4D075DB48
4D075DC21
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB35
4F100AA08A
4F100AA20A
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100BA02
4F100EH46B
4F100EJ37
4F100EJ38
4F100EJ55
4F100GB41
4F100JB06B
4F100JC00
4F100JL14B
4F100JL16
4F100YY00A
4J004AA03
4J004AA04
4J004AA06
4J004AA10
4J004AA11
4J004AA12
4J004AA15
4J004AB01
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004CE01
4J004DB01
4J004FA08
4J038CB002
4J038CG001
4J038CP022
4J038DD051
4J038DG001
4J038DG262
4J038GA06
4J038GA13
4J038JB38
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA07
4J038NA10
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、離型層の上に形成された相手部材との離型性に優れ、特に加熱後も安定した離型性を有した、表面保護フィルム製造用離型フィルムを提供する。
【解決手段】
ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときにP/Kが0.01未満であり、前記離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/m以下であり、前記離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpが1.0以下である、離型フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときに、P/Kが0.01未満であり、前記離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/m以下であり、前記離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpが1.0以下である、離型フィルム。
【請求項2】
ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときに、P/Kが0.01未満であり、前記離型層の水の後退接触角θrが85°以上である、離型フィルム。
【請求項3】
前記離型層の水の後退接触角θrが85°以上である、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型層の初期テープ剥離力をR1、50℃で1時間加熱した後の前記離型層のテープ剥離力をR2とした際に、前記R1が4.0N/50mm以下であり、R2/R1が5.0以下である、請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項5】
バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含む、請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記離型層がスルホイソフタル酸(SSIA)基とカルボキシル(COOH)基の少なくとも一方を有するポリエステル樹脂を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項7】
飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際、メチロールメラミンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をFとしたときに、F/Kが0.001未満である、請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルムの一方の表層に前記離型層を有し、前記離型層側の面に粘着剤層を有する、積層体。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載の離型フィルムの製造方法であって、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に前記離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、前記樹脂組成物を塗布した後の前記ポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後の前記ポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有する、離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルムとその製造方法、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
離型性に優れた積層フィルムは、隣接する相手部材との界面で剥離することが可能な部材であり、粘着製品における粘着材層の保護フィルムや、各種工業製品の加工工程におけるキャリアフィルムとして使用される。特に近年、各種製品の製造速度向上や高品位化の観点から、離型性に優れた積層フィルムの需要が高まっている。
【0003】
離型性に優れる積層フィルムとしては、工業的な生産性や耐熱性の点から、シリコーン化合物を離型層に含有せしめたフィルム(以下、シリコーン離型フィルムと記載する。)が最も一般的に使用されている(例えば、特許文献1)。但し、シリコーン離型フィルムは離型層にシリコーン化合物を含有しており、離型層の表面自由エネルギーが低くなるため、相手部材形成用の塗料のハジキや気泡の噛み込み等により相手部材の塗布性が不良となり、相手部材が均一に形成できない場合がある。
【0004】
一方、例えば高度に精密性が要求される光学部材や電子部材は、加工、組立、検査、輸送などの際の表面の傷付き防止を目的として、積層フィルム基材上に粘着剤層を備えた表面保護フィルムが貼着される(特許文献2)。このような表面保護フィルムの製造に用いられる離型フィルムとしても、従来からシリコーン離型フィルムが用いられてきたが(特許文献3)、近年では、表面保護フィルムの相手部材表面がシリコーン化合物で汚染されることを防止するため、シリコーン化合物を含まない離型フィルム(以下、非シリコーン離型フィルムと記載する。)を好適に用いることができると知られている(特許文献4)。
【0005】
このような課題に対して、非シリコーン離型フィルムの主材料として、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物、中でも長鎖アルキル基含有樹脂を用いる検討が行われている(例えば、特許文献5~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-155459号公報
【特許文献2】特開2016-017109号公報
【特許文献3】特開2012-224811号公報
【特許文献4】特開2019-194337号公報
【特許文献5】特開2004-351626号公報
【特許文献6】特開2004-230772号公報
【特許文献7】特開2015-199329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5~7に記載されている非シリコーン離型フィルムを表面保護フィルム等の製造に用いる場合には、シリコーン離型フィルムを用いた場合に比べて、当該離型フィルム上に塗布などによって設けられる層(例えば、粘着剤層等)が重剥離となる傾向がある。また、非シリコーン離型フィルムには、一般的に、当該離型フィルム上に塗布などによって設けられる層の剥離力が加熱によって大幅に増加するという課題もある。例えば、特許文献5に記載のフィルムについて、本発明者らが検証したところ、樹脂層に粘着テープを貼合し、加熱後に剥離した際、粘着テープが大幅に重剥離になることが判明した。また、特許文献6に記載のフィルムのように、長鎖アルキル基含有樹脂と架橋剤を併用する場合や、特許文献7に記載のフィルムのように、長鎖アルキルアクリレート樹脂とメラミン樹脂を併用する場合は、加熱による粘着テープの剥離力変化が小さいが、依然粘着テープの剥離力が高く、加熱後にも剥離が困難となることが判明した。
【0008】
そこで、本発明では上記欠点を解消し、塗布などによって設けられる層を形成する塗料組成物の塗布性に優れ、相手部材を軽い力で剥離することができ、かつ加熱後も軽い力で相手部材を剥離することができる、離型フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の物理特性を有する離型フィルムを用いることにより、塗布性と離型性、及び加熱による剥離力の制御に優れた、表面保護フィルム製造用の離型フィルムとなし得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の構成からなる。すなわち、
[I] ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときに、P/Kが0.01未満であり、前記離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/m以下であり、前記離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpが1.0以下である、離型フィルム。
[II]ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときに、P/Kが0.01未満であり、前記離型層の水の後退接触角θrが85°以上である、離型フィルム。
[III]前記離型層の水の後退接触角θrが85°以上である、[I]に記載の離型フィルム。
[IV] 前記離型層の初期テープ剥離力をR1、50℃で1時間加熱した後の前記離型層のテープ剥離力をR2とした際に、前記R1が4.0N/50mm以下であり、R2/R1が5.0以下である、[I]~[III]のいずれかに記載の離型フィルム。
[V] バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含む、[I]~[IV]のいずれかに記載の離型フィルム。
[VI] 前記離型層がSSIA基とCOOH基の少なくとも一方を有するポリエステル樹脂を含有する、[I]~[V]のいずれかに記載の離型フィルム、
[VII] 飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際、メチロールメラミンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をFとしたときに、F/Kが0.001未満である、[I]~[VI]のいずれかに記載の離型フィルム。
[VIII] [I]~[VII]のいずれかに記載の離型フィルムの前記離型層側の面に粘着剤層を有する、積層体。
[IX] [I]~[VII]のいずれかに記載の離型フィルムの製造方法であって、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に前記離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、前記樹脂組成物を塗布した後の前記ポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後の前記ポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有する、離型フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗布などによって設けられる層を形成する塗料組成物の塗布性に優れ、相手部材を軽い力で剥離することができ、かつ加熱後も軽い力で相手部材を剥離することができる、離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の離型フィルムについて、詳細に説明する。本発明の一態様として、ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、飛行時間型2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときに、P/Kが0.01未満であり、前記離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/m以下であり、前記離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpが1.0以下である離型フィルムが挙げられる。
【0012】
初めに本発明の離型フィルムにおける、これらの物理特性の意味と制御方法の例について説明する。本発明の離型フィルムは、表面に貼り合わせる部材(以下、相手部材ということがある。)の品質悪化軽減の観点から、ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に離型層を有し、2次イオン質量分析により前記離型層の表面を分析した際に、最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をPとしたときにP/Kが0.01未満である。
【0013】
P/Kは飛行時間型2次イオン質量分析により得られるピークより算出することができ、飛行時間型2次イオン質量分析の方法の詳細は後述する。離型層が上記特徴を満たすことは、離型層におけるシリコーン化合物(例えば、ジメチルシロキサン等)に由来する成分が少ないことを意味する。この特性は、例えば、離型フィルムとして使用した際において、相手部材の品質低下の低減に寄与する特性である。より具体的には、離型層に貼り合わされる相手部材が光学部材や電子部材等であれば、相手部材へのシリコーン化合物の移行が抑えられ、導電不良、絶縁不良、ピンホール欠点などのトラブルを軽減することができる。すなわち離型層中のジメチルシロキサンに由来する成分を低減することで、シリコーン化合物による相手部材表面の汚染を軽減することが可能な離型層となる。
【0014】
上記観点からP/Kは0.01未満であり、離型フィルムを微量のシリコーン化合物で動作不良が発生する光学部材や電子部材等に使用することを考慮すれば、0.001未満がより好ましい。なお、上記観点からはP/Kは小さいほど好ましく、その下限は0である。P/Kを0.01未満とする方法としては、特に限定されることはないが、代表的な方法として後述する離型層の組成や膜厚を調整する方法が挙げられる。組成についてより具体的には、一例として離型層にシリコーン化合物を使用せず(またはその量を少なくし)、長鎖アルキル系樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物等、好ましくは長鎖アルキル系樹脂を含有させる方法が挙げられる。膜厚の調整方法についてより具体的には、後述する離型層形成用の樹脂組成物に含まれる固形分の濃度を調節する方法や、バーコート法で用いるワイヤーバーの溝の深さにより、塗料組成物の塗布量を調整する方法等が挙げられる。
【0015】
本発明の一態様として、相手部材との剥離性を良好にする観点から、離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/m以下である離型フィルムが挙げられる。上記特徴を満たすことは、離型フィルムがアクリル粘着剤やシリコーン粘着剤に代表される相手部材を形成する塗料組成物の塗布性、ならびに離型性に優れることを意味する。表面自由エネルギーとは、液体に触れたときの濡れやすさの指標であり、分散力、極性力、水素結合力の3成分の合計値で表される。
【0016】
表面自由エネルギー、分散力、極性力、水素結合力は、溶液の接触角を用いて、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)に基づく幾何平均法により測定、算出することができ、詳細な測定方法は後述する。離型層の表面自由エネルギーが高い程、相手部材形成用の塗料組成物と離型層の親和性が上がり、当該塗料組成物の塗布性が向上する。一方で、離型層の表面自由エネルギーが25.0mN/mを上回ると、離型層と当該塗料組成物との親和性が大きくなりすぎるため、離型層の離型性が低下する場合がある。一般的に離型層の表面自由エネルギーが低い程、離型層と相手部材との親和性が小さくなるため、相手部材を軽い力で剥離することができる。一方で、離型層の表面自由エネルギーが10.0mN/mを下回ると、離型層と当該塗料組成物との親和性が小さくなりすぎるため、塗料組成物の塗布性が低下する場合がある。上記観点から、本発明の離型フィルムの離型層の表面自由エネルギーは10.0~25.0mN/mが好ましく、15.0~25.0mN/mがより好ましい。
【0017】
離型層の表面自由エネルギーを25.0mN/m以下とする方法としては、例えば、離型層を後述する離型剤(A)を含有する樹脂組成物から形成する方法が挙げられる。また、プロセス面に着目すると、幅方向への延伸後の熱処理温度(オフコートの場合は塗料組成物の乾燥温度)を後述する好ましい範囲とすることも効果的である。なお、これらの方法は適宜併用することができる。
【0018】
本発明の一態様として、加熱工程を経た後も離型性を確保する観点から、離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpが1.0以下である離型フィルムが挙げられる。上記特徴を満たすことは、離型フィルムが加熱後の離型層と相手部材との剥離力の制御に優れることを意味する。一般的に、離型層の極性力γpが大きいことは、離型層を形成する樹脂成分のうち、極性分子を有した樹脂成分の割合が高いことを意味する。また、水素結合力γhが大きいことは、離型層を形成する樹脂成分のうち、水素結合を形成できる分子を有した樹脂成分の割合が高いことを意味する。これらγpやγhは、一般的に離型層と相手部材の親和性の強さを示す指標として用いられるが、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明のように離型層のγpとγhを特定の範囲に調整することで、加熱後の離型層と相手部材との剥離力の制御に優れる離型フィルムとすることが容易となることを見出した。
【0019】
離型層の表面自由エネルギーと、極性力γpと、水素結合力γhを、上記の好ましい範囲に制御するには、例えば後述する離型剤や材料を用いること、特に離型剤として、長鎖アルキル基含有のランダム共重合体を用いることが効果的である。また、飛行時間型2次イオン質量分析により離型層の表面を分析した際、後述するメチロールメラミンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をFとしたときに、F/Kを0.001未満に制御する手法を用いることも効果的である。離型層表面のF/Kが0.001未満であることは、離型層におけるメラミン化合物(例えば、トリメチロールメラミン等)に由来する成分が少ないことを意味する。この特性は、例えば、離型フィルムとして使用した際において、相手部材の品質低下の低減に寄与する特性である。より具体的には、離型層に貼り合わされる相手部材が光学部材や電子部材等であれば、相手部材へのメラミン化合物の移行が抑えられ、導電不良、絶縁不良、ピンホール欠点などのトラブルを軽減することができる。すなわち離型層中のメチロールメラミンに由来する成分を低減することで、メラミン化合物による相手部材表面の汚染を軽減することが可能な離型層となる。
さらにプロセス面に着目すると、長手方向に一軸延伸されたフィルムにインラインコート法で離型層を形成する方法も効果的である(詳細は後述)。なお、これらの方法は適宜併用することもできる。
【0020】
本発明の一態様として、相手部材との剥離性を良好にする観点から、離型層の水の後退接触角θrが85°以上である離型フィルムが挙げられる。上記特徴を満たすことは、離型フィルムがアクリル粘着剤やシリコーン粘着剤に代表される相手部材との離型性に優れることを意味する。一般的に水の後退接触角θrは離型層に対する水や塗料といった液体の濡れ広がりやすさを示す指標として用いられるが、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明のように離型層の水の後退接触角θrを85°以上、好ましくは90°以上に調整することで、相手部材との離型性に優れる離型フィルムとすることが容易となることを見出した。
【0021】
離型層の水の後退接触角θrを、上記の好ましい範囲に制御するには、例えば後述する離型剤や材料を用いること、特に離型剤として、長鎖アルキル基含有のランダム共重合体を用いることが効果的である。また、飛行時間型2次イオン質量分析により離型層の表面を分析した際、後述するメチロールメラミンに由来する正イオンのフラグメントのピーク強度をFとしたときに、F/Kを0.001未満に制御する手法を用いることも効果的である。さらにプロセス面に着目すると、長手方向に一軸延伸されたフィルムにインラインコート法で離型層を形成する方法も効果的である(詳細は後述)。なお、これらの方法は適宜併用することもできる。
【0022】
本発明の離型フィルムにおける離型層は、相手部材との剥離性を良好にする観点から、初期テープ剥離力をR1とした際に、R1が4.0N/50mm以下であることが好ましい。また、加熱工程を経た後も離型性を確保する観点から、50℃で1時間加熱した後の離型層のテープ剥離力をR2とした際に、R2/R1が5.0以下であることが好ましい。R1、R2は剥離解析装置で測定することができ、具体的な測定方法は後述する。
【0023】
R1を4.0N/50mm以下とすることで、加熱工程前の段階において相手部材を軽い力で剥離することができ、R2/R1を5.0以下とすることで、加熱後も引き続き軽い力で相手部材を剥離することができる。上記観点からR1は、より好ましくは3.5N/50mm以下、さらに好ましくは3.0N/50mm以下である。また、上記観点からR2/R1は、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは1.8以下である。
【0024】
R1やR2/R1の値を制御する方法としては、特に限定されることはないが、代表的な方法として、後述する離型層形成用の樹脂組成物における、離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、及び反応性化合物(C)の種類や含有量を後述の通り調節する方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の離型フィルムは、ポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に樹脂層を有する。ポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、具体的にはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン-2,6-ナフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4‘-ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成単位を主要構成単位とするものを好ましく用いることができる。ここで主要構成単位とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、50モル%を超えて100モル%以下含まれる構成単位をいう。
【0026】
本発明の離型フィルムにおけるポリエステル樹脂基材層としては、耐熱性、平滑性の観点から、ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。ポリエステルフィルムとは、ポリエステル樹脂を主成分とするシート状の成形体をいい、主成分とは全構成成分中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいい、以下同様に解釈することができる。なお、シート状の成形体中に複数種のポリエステル樹脂が含まれる場合、その合計量が50質量%を超えれば当該成形体はポリエステルフィルムであるものとみなすことができる。
【0027】
上記のポリエステル樹脂は、必要に応じて全構成単位中に50モル%未満、好ましくは30モル%以下の共重合単位を含むことができる。また、離型フィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムをポリエステル樹脂基材層として用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、フィルムを構成する全成分の50質量%より多く100質量%以下をポリエチレンテレフタレート(共重合体も含む。)が占めるフィルムをいい、ポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムについても同様に解釈できる。なお、共重合量の違い等でポリエチレンテレフタレートに相当する樹脂が複数種含まれる場合、ポリエチレンテレフタレートの含有量は該当する全樹脂成分を合算して算出するものとする。この点も、ポリエチレン-2,6-ナフタレートフィルムにおいても同様である。
【0028】
本発明の離型フィルムは、環境負荷低減の観点から、バイオマス原料とリサイクル原料の少なくとも一方を含むことが好ましく、ポリエステル樹脂基材層がこれらの原料の少なくとも一方を含むことがより好ましい。ここでバイオマスとは、二酸化炭素と水から光合成された植物由来の有機化合物である。バイオマスを燃やした場合、通常、再度二酸化炭素と水になるため、バイオマスはいわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーとして利用することができる。また、バイオマス原料とは、バイオマス由来の構成単位を含むポリエステル樹脂をいう。
【0029】
全炭素数に占める植物由来炭素数の割合をバイオマス度としたとき、例えばエチレンテレフタレートユニットにおいて、エチレングリコール成分のみを全て植物由来としたときバイオマス度は理論上20%となる。バイオマス度をそれより大きくするには、テレフタル酸も植物由来とする必要があり、環境負荷低減の効果は大きくなるが生産コストが上昇する。該エチレングリコール成分とテレフタル酸成分については、石油由来の成分と植物由来の成分を併用してもよい。
【0030】
フィルムを構成するポリエステルのバイオマス度の下限は、環境負荷低減効果を発現させる観点から、好ましくは5%、より好ましくは10%、さらに好ましくは13%である。バイオマス度が5%以上であることにより、環境負荷低減効果が期待できる。一方、バイオマス度の上限は環境負荷低減のみを考慮した場合には高いほど好ましく、100%が上限となる。しかしながら、生産コストと環境負荷低減を両立する観点から現実的には20%以下であることが好ましい。
【0031】
なお、バイオマス原料の有無を解析する公知の方法としては、例えば日本バイオプラスチック協会のホームページ(http://www.jbpaweb.net/bp/)に記載の炭素同位体(14C)を用いる手法が挙げられる。
【0032】
リサイクル原料とは一度、または複数回に渡って化学製品となったポリエステル樹脂を回収し、再利用した原料である。本発明の離型フィルムにおけるリサイクル原料を得るための化学製品としては、例えば、本発明の離型フィルムの製造工程で切断除去した幅方向両端部における未塗布部や、別のポリエステルフィルムの回収品、更にPETボトルの様にフィルムとは異なる形態で流通したポリエステル樹脂製品等を挙げることができる。
【0033】
本発明の離型フィルムがリサイクル原料を含む場合、その含有量は、離型フィルム中のポリエステル樹脂100質量%中、90質量%以下であることが好ましい。リサイクル原料の使用を90質量%以下に抑えることにより、一度化学製品となった結晶性の高いポリエステルの量が抑えられるため、得られる離型フィルムの熱特性や透明性の低下、着色を軽減することができる。なお、リサイクル原料はポリエステル樹脂基材、離型層のいずれに用いてもよいが、相手部材への影響を軽減する観点から、相手部材と貼り合わせる離型層よりもポリエステル樹脂基材に用いることが好ましい。
【0034】
上記離型フィルムのポリエステル樹脂基材層は、熱安定性、機械的強度の観点から、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、広角X線回折で直交する二方向に配向したパターンを示すポリエステルフィルムをいう。一般に、二軸配向ポリエステルフィルムは、未延伸状態のポリエステルシートを直交する2方向に延伸することで得られる。より具体的には、例えば、未延伸状態のポリエステルシートを長手方向と幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸した後、熱処理を施して結晶配向を完了することで得られる。ポリエステル樹脂基材として二軸配向ポリエステルフィルムを用いることにより、離型フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が向上する他、平面性も向上する。ここで長手方向とは、製造工程中をフィルムが走行する方向(フィルムロールにおいてはフィルムの巻き方向がこれに相当する。)をいい、幅方向とはフィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。
【0035】
また、ポリエステル樹脂基材層は、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを、その特性を悪化させない程度に含むことができる。
【0036】
ポリエステル樹脂基材層の厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、十分な機械的強度の実現、ハンドリング性の向上などの点から、通常は好ましくは5~500μm、より好ましくは10~250μm、特に好ましくは15~150μmである。また、ポリエステル樹脂基材は、単層フィルムであっても、共押出しによる複合フィルムであってもよい。
【0037】
本発明の離型フィルムにおける離型層は、前述のポリエステル樹脂基材層の少なくとも片面に位置する。離型層は、その上に溶融樹脂や、粘着層、表面コート層などの相手部材を積層した後、積層体から離型フィルムを剥離する工程において、剥離が容易に行われるために必要な層である。
【0038】
本発明の離型フィルムにおける離型層は、品位と離型性等の観点から、膜厚が20nm以上400nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることがより好ましい。離型層の膜厚を20nm以上400nm未満とすることで、ポリエステル樹脂基材層となるポリエステルフィルム上に均一な塗布性、離型性を有する離型層を設けることが容易となる。離型層の膜厚を400nm以下とすることで、製造コストの上昇を抑えられる他、ポリエステルフィルムに離型層形成用の樹脂組成物を塗布する際に発生するムラやスジを軽減でき、得られる離型フィルムの品位を良好に保つことができる。
【0039】
以下、本発明の離型フィルムの離型層形成用の樹脂組成物について説明する。本発明の離型フィルムの離型層は、離型剤(A)と、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類のバインダー樹脂(B)を含有する樹脂組成物、またはこれらに加えさらにオキサゾリン化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の反応性化合物(C)を含有する樹脂組成物から形成されることが好ましい。かかる構成とし、さらに各成分の種類や量を好適な範囲に調整することで、離型層の表面自由エネルギーと、極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpを好適な範囲に調整し、離型層として相手部材に対する離型性を良好なものとするばかりでなく、加熱による剥離力の制御に優れたものとすること(すなわち加熱後も軽い力で相手部材を剥離できる特性を付与すること)が容易になる。
【0040】
本発明の離型フィルムでいう離型剤(A)とは、離型層の表面に離型性(すなわち樹脂の表面自由エネルギーを低下させ、相手部材との剥離を容易にする特性)を付与することができる化合物を示す。本発明の離型フィルムで用いることのできる離型剤(A)としては、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル基含有樹脂は、離型フィルムに良好な離型性を付与できる点で好ましい。また、離型剤(A)として長鎖アルキル基含有樹脂を用いる場合、離型層における極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpを好ましい範囲に調整する観点から、長鎖アルキル基とは別に側鎖として反応性官能基を含有することが好ましい。すなわち、本発明の離型剤として特に好ましいのは、長鎖アルキル基と反応性官能基を有する共重合樹脂である。反応性官能基については、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられるが、後述する好ましい溶媒である水との相溶性の観点から、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0041】
長鎖アルキル基含有樹脂は市販されているものを使用してもよく、具体的には、アシオ産業社製の長鎖アルキル系化合物である“アシオレジン”(登録商標)シリーズ、一方社油脂工業社製の長鎖アルキル化合物である“ピーロイル”シリーズ、中京油脂社製の長鎖アルキル系化合物の水性分散体である“レゼム”シリーズなどを使用することができる。離型剤(A)として用いる長鎖アルキル基含有樹脂は、炭素数12以上のアルキル基を有することが好ましく、炭素数16以上のアルキル基を有することがより好ましい。アルキル基の炭素数を12以上にすることで、疎水性が高まることとなり、離型層に十分な離型性能を付与することができる。アルキル基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、25以下であると製造が容易であるため好ましい。
【0042】
炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂は、ポリメチレンの主鎖に炭素数12以上のアルキル基の側鎖を有する樹脂であることがより好ましい。主鎖が疎水性のポリメチレンであることで、前述の長鎖アルキル基と反応性官能基の共重合樹脂を形成した際にも、反応性官能基の凝集を抑制することが出来、離型剤(A)の離型効果をより優れたものとすることができるためである。
【0043】
また、離型剤(A)の別の好ましい態様として、炭素数12以上のアルキル基を有するランダム共重合体(より好ましくは炭素数12以上のアルキル基を有するビニルアルコール系のランダム共重合体)が挙げられる。このような態様とすることでも、γh/γpを好適な範囲とすることが容易になり、加熱後においても離型剤(A)の離型効果をより優れたものとすることができる。
【0044】
なお、離型層における炭素数12以上のアルキル基の有無については、離型フィルムからも、例えばTOF-SIMS(TOF-SIMS:飛行時間型2次イオン質量分析法)にて得られる信号の内、アルキル基に相当するものの強度を用いて評価することが出来る。このとき、イオンスパッタ法による切削法を併用することで深さ方向(厚み方向)に連続的に測定を行うことが可能であり、アルキル基含有化合物の分布状態についても評価することが出来る。
【0045】
本発明の離型フィルムにおける離型層を形成するバインダー樹脂(B)としては、塗布性や加熱による剥離力の制御を容易とするパラメータである極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpを調整する観点、反応性官能基の導入容易性の観点から、ポリエステル樹脂を用いることがより好ましい。反応性官能基については、スルホイソフタル酸(SSIA)基、ヒドロキシル基、カルボキシル(COOH)基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、などが挙げられるが、γpとγhの比γh/γpを調整して加熱による剥離力を制御する観点から、SSIA基とカルボキシル基の少なくとも一方を有することが好ましい。すなわち、本発明の離型フィルムにおいては、離型層がSSIA基とCOOH基の少なくとも一方を有するポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0046】
本発明の離型フィルムにおけるバインダー樹脂(B)として用いるポリエステル樹脂は、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオールから重縮合して得られるものが好ましい。該ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p-p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。なお、これらは1種類で用いても、複数種を併用してもよい。
【0047】
該ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1、3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4、4’-メチレンジフェノール、4、4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,2’-ジオール、シクロヘキサン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。なお、これらは1種類で用いても、複数種を併用してもよい。
【0048】
さらに、バインダー樹脂(B)として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0049】
バインダー樹脂(B)として用いることができるアクリル樹脂は、特に限定されることはないが、アクリル樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマーなどを用いることができる。またこれらのモノマーは単独で重合してもよいし、他種のモノマーと併用し共重合してもよい。
【0050】
バインダー樹脂(B)として用いるウレタン樹脂は、特に限定されることはないが、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0051】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0052】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0053】
本発明の離型フィルムにおける離型層を形成する反応性化合物(C)としては、加熱による剥離力の制御を容易とするパラメータである極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpを調整する観点から、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有することが好ましく、中でも、オキサゾリン化合物はSSIA基やCOOH基と架橋を形成しやすくなるため特に好ましい。
【0054】
反応性化合物(C)として好適に用いることができるオキサゾリン化合物は、該化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであり、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体が好ましい。
【0055】
オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0056】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーは、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであり、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン及びα-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0057】
オキサゾリン化合物としては、市販のものを用いることもでき、好適に用いることができるものの例として、(株)日本触媒製、“エポクロス”(登録商標)WS-300、WS-500、WS-700等が挙げられる。
【0058】
また、反応性化合物(C)として用いることができるイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ビトリレン-4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0059】
さらに、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、ポリエステル樹脂基材層となるポリエステルフィルムに離型層形成用の樹脂組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。
【0060】
イソシアネート化合物としては、市販のものを用いることもでき、好適に用いることができるものの例として、第一工業製薬株式会社製、“エラストロン”(登録商標) BN‐69、BN-77、E-37等が挙げられる。なお、これらはブロックイソシアネート系化合物である。
【0061】
なお、本発明の離型フィルムの離型層形成用の樹脂組成物における、離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、及び反応性化合物(C)の好ましい含有量については後述する。
【0062】
離型層形成用の樹脂組成物には、溶媒または分散媒(以下、溶媒と省略する。)が含まれていてもよい。すなわち、各種成分を溶媒に溶解または分散せしめて樹脂組成物とし、これをポリエステル樹脂基材層となるポリエステルフィルムに塗布してもよい。このような方法を採用した場合、塗布後に溶媒を乾燥させ、かつ加熱することで離型層が積層された離型フィルムを得ることができる。
【0063】
本発明の離型フィルムでは、離型層形成用の樹脂組成物の溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。ここで、水系溶媒とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合されているものを指す。水系溶媒を用いることで、加熱工程での溶媒の急激な蒸発を抑制して均一な離型層を形成できるだけでなく、環境負荷の点でも優れているためである。
【0064】
本発明の離型フィルムにおいて離型層形成用の樹脂組成物は、必要に応じて水分散化または水溶化した離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)および水系溶媒を任意の順番で、所望の重量比で混合、撹拌することで作製することができる(反応性化合物(C)は任意)。次いで必要に応じて易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を、樹脂組成物により設けた離型層の特性を悪化させない程度に任意の順番で混合、撹拌することもできる。混合、撹拌する方法は、容器を手で振る方法、マグネチックスターラーや撹拌羽根で攪拌する方法、超音波照射、振動分散などを用いる方法等を用いることができる。
【0065】
本発明における離型層形成用の樹脂組成物として、離型剤(A)には好ましい含有量が存在する。具体的には離型層全体(離型層形成用の樹脂組成物における離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計)を100質量%とした際に、離型剤(A)は8質量%以上50質量%以下が好ましく、8質量%以上30質量%以下がより好ましく、特に好ましくは8質量%以上25質量%以下、最も好ましくは10質量%以上25質量%以下である。離型剤(A)を8質量%以上とした場合には、離型層の離型性が十分な水準となる。一方、離型剤(A)が50質量%以下の場合には、塗布性が向上するとともに離型フィルムからの離型剤(A)の脱落が軽減され、離型剤(A)による相手部材の汚染を抑えることができる。
【0066】
またバインダー樹脂(B)の含有量にも好ましい範囲が存在し、具体的には離型層全体(離型層形成用の樹脂組成物における離型剤(A)、バインダー樹脂(B)、反応性化合物(C)の合計)を100質量%とした際に、バインダー樹脂(B)は10質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。バインダー樹脂(B)が上記の含有量を満たすことで、離型フィルムにおける極性力γpと水素結合力γhの比γh/γpを好ましい範囲に制御しやすくなり、加熱による剥離力の制御が容易となる。一方、含有量の上限については、離型剤(A)と反応性化合物(C)の配合量に依存するが、好ましくは92質量%であり、より好ましくは90質量%である。
【0067】
一方、反応性化合物(C)は任意の成分であるが、加える場合は前述の離型剤(A)およびバインダー樹脂(B)が好ましい含有量となるように配合比を調整することが可能である。
【0068】
以下、本発明の離型フィルムの製造方法について説明する。本発明の離型フィルムの製造方法は、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程、前記樹脂組成物を塗布した後のポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、及び延伸後の前記ポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程をこの順に有することを特徴とする。すなわち、本発明の離型フィルムの製造方法においては、ポリエステルフィルムの製造工程内で樹脂組成物の塗布を行うインラインコート法を採用する。本発明の離型フィルムを製造することは、製膜後のフィルムに樹脂組成物を塗布するオフコート法でも可能であるが、インラインコート法を用いることで離型層をより均一に薄膜化することや、離型フィルムの耐熱性や加熱前後での剥離性を向上させることが容易となる。ここでポリエステル樹脂基材シートとは、離型フィルムとなったときにポリエステル樹脂基材層となるポリエステルフィルムをいい、離型層形成用の樹脂組成物とは、離型フィルムとなったときに離型層を形成する塗料組成物である。
【0069】
本発明の離型フィルムの製造方法は、ポリエステル樹脂基材シートの少なくとも一方の面に離型層形成用の樹脂組成物を塗布する塗布工程を有する。塗布工程では、前述の好ましい離型層形成用の樹脂組成物を塗布し、この樹脂組成物は、その後の熱処理工程での加熱により離型層となる。ここで用いる離型層形成用の樹脂組成物は、前述の離型剤(A)やバインダー樹脂(B)に加え、前述の反応性化合物(C)、架橋触媒、易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤等を含んでいてもよい。
【0070】
本発明の離型フィルムの製造方法は、樹脂組成物を塗布した後のポリエステル樹脂基材シートを少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程を有する。このような態様とした場合、延伸前に樹脂組成物の塗布を行うこととなるため、離型層形成用の樹脂組成物の塗布方法は、インラインコート法となる。本発明の離型フィルムの製造方法においては、塗布工程の後に延伸を行うことから、溶融押出後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)ポリエステルフィルム(以下、Aフィルムということがある。)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)ポリエステルフィルム(以下、Bフィルムということがある。)、または、さらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)ポリエステルフィルム(これらがポリエステル樹脂基材シートに相当する。)に離型層形成用の樹脂組成物を塗布する。
【0071】
結晶配向が完了する前のAフィルム、Bフィルムの何れかに離型層形成用の樹脂組成物を塗布して溶媒を蒸発させ、その後、AフィルムやBフィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸することで、ポリエステルフィルムの製膜と、樹脂組成物の塗布と溶媒の乾燥、および熱処理(すなわち、離型層の形成)を連続した工程で行うことができる。そのため、製造コスト上のメリットがあるばかりでなく、乾燥後にポリエステル樹脂基材の結晶配向を完了させることで、ポリエステルフィルムの変形や熱収縮を軽減しつつ離型層に高温の熱処理を施すことが可能になる。その結果、離型フィルムが以降の加工における熱処理時に収縮などの変形を生じにくくなるため、特に高温での加工工程を要する相手部材に対しても優れた離型性を得ることが出来る。更に、塗布後に延伸を行うことは、離型層をより均一に薄膜化することが容易であることも利点となる。
【0072】
本発明の離型フィルムの製造方法においては、延伸後の前記ポリエステル樹脂基材シートを150℃以上に加熱して離型層を形成せしめる熱処理工程を有する。塗布層に施す熱処理には前述の離型層の架橋反応を十分に進行させて水系塗剤の浸透を抑制する観点から好ましい温度条件が存在する。具体的には熱処理温度は170℃以上であり、200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましい。なお熱処理温度の上限は、ポリエステル樹脂基材シートの耐熱性から260℃が好ましく、離型層形成用の樹脂組成物の耐熱性から250℃であることがさらに好ましい。熱処理温度が260℃以下であることにより、ポリエステルフィルムの変形が抑えられ、かつ、樹脂組成物の熱分解が低減され、離型層がより均一な離型フィルムを得ることが容易となる。
【0073】
中でも、本発明の離型フィルムの製造方法としては、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、離型層形成用の樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥させ、その後、幅方向に延伸して加熱する方法が優れている。当該方法は、未延伸フィルム(Aフィルム)に離型層形成用の樹脂組成物を塗布した後に二軸延伸する方法に比べ、離型層形成用の樹脂組成物により形成される層が経る延伸工程が1回少ないため、延伸による離型層の欠陥や亀裂が発生しづらく、透明性や平滑性に優れた離型層を形成できるためである。
【0074】
一方、本発明の離型フィルムの製造方法に代えてオフラインコート法を用いる場合について説明する。オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、加熱処理を施しポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルム自体に、フィルムの製膜工程とは別工程で離型層形成用の樹脂組成物を塗布する方法である。言い換えれば、塗布後に延伸を行わないコート法である。本発明の離型フィルムの製造では、上述した種々の利点から、インラインコート法を用いることが好ましいが、オフラインコート法により離型層を形成する場合にも、その加工温度が170℃以上であり、200℃以上が好ましい。加工温度を170℃以上とすることにより、薄膜の離型層を十分に硬化するため、離型層とポリエステル樹脂基材層との密着性が良好となる他、加熱前後の離型性を高めることができる。なお、加工温度の上限については、ポリエステル樹脂基材シートの耐熱性から260℃が好ましい、加工温度が260℃以下であることにより、ポリエステル樹脂基材シートの変形が抑えられ、より均一な離型フィルムを得ることが容易となる。
【0075】
ここで、ポリエステル樹脂基材シートへの離型層形成用の樹脂組成物の塗布方式は、インラインコート法、オフラインコート法共に、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0076】
次に、本発明の離型フィルムの製造方法について、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルムを用いたインラインコート法の場合を例にしてより具体的に説明するが、本発明の離型フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0077】
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、260℃~280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80~120℃に加熱したロールで長手方向に2.5~5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した前述の離型層形成用の樹脂組成物を塗布する。
【0078】
このとき、離型層形成用の樹脂組成物を塗布する前にBフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、離型層形成用の樹脂組成物のBフィルムへの濡れ性が向上するため、そのはじきを軽減し、Bフィルム表面により均一な塗布厚みの離型層を形成することができる。塗布後、Bフィルムの幅方向両端部をクリップで把持して80~130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、離型層形成用の樹脂組成物の溶媒を乾燥させる。乾燥後、Bフィルムを幅方向に1.1~5.0倍延伸し、引き続き150~260℃、好ましくは170~260℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導いて1~30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0079】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3~15%の弛緩処理を施してもよい。かくして得られた離型フィルムは水系塗材の塗布性、密着性および透明性に優れた離型フィルムとなる。
【0080】
なお、本発明の離型フィルムは、離型層とポリエステル樹脂基材層の間に中間層を設けてもよいが、中間層を設ける場合は、中間層を積層したフィルムの巻き取り時や、その後の本発明の離型層を設けるまでの工程において、フィルムにキズがつく場合がある。そのため、本発明では、離型層と樹脂基材層が直接積層されていることが好ましい。
【0081】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステル樹脂基材層の構成に制限はなく、例えば、A層のみからなる単層構成や、A層/B層の積層構成すなわち2種2層積層構成、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成、A層/B層/C層の積層構成すなわち3種3層積層構成等の構成を挙げることができる。なお、ここでいうA層、B層、C層はいずれもポリエステル樹脂を主成分とするが、互いに組成が異なるものとする。
【0082】
本発明の離型フィルムを構成する樹脂基材層を積層構成とする方法は特に制限されるものではなく、例えば、共押出法による積層方法、貼り合わせによる積層方法、これの組み合わせによる方法等を挙げることができるが、透明性と製造安定性の観点から、共押出法を採用することが好ましい。積層構成とする場合、それぞれの層に異なる機能を付与すること目的として、異なる樹脂構成としても良い。例えば、A層/B層/A層の積層構成すなわち2種3層積層構成とする場合には、透明性の観点からB層をホモポリエチレンテレフタレートで構成し、A層には、易滑性付与のために、粒子を添加する等の方法を挙げることができる。
本発明の積層体は、離型フィルムの前記離型層側の面に粘着剤層を有することが好ましい。なお、本発明の積層体は、離型フィルムの一方の表層に離型層を有し、前記離型層側の面に粘着剤層を有する構成が好ましい。粘着剤層としては、各種の粘着付与剤が用いられる。例えば、アクリル系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、シリコーン樹脂、クマロン系樹脂、ロジン系化合物(ロジン若しくはロジンエステル、水添化ロジンのエステル類)、石油樹脂、キシレン樹脂、又はスチレン系樹脂等を挙げることができる。特に限定されることはないが、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【実施例0083】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の離型フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
<特性の測定方法及び効果の評価方法>
本発明における特性の測定方法、及び効果の評価方法は次の通りである。
【0085】
(1)離型層表面の組成の分析方法
GCIB-TOF-SIMS(GCIB:ガスクラスターイオンビーム、TOF-SIMS:飛行時間型2次イオン質量分析法)を用いて、離型フィルムの離型層表面の組成を分析した。測定条件は、下記の通りとした。
<スパッタリング条件>
イオン源:アルゴンガスクラスターイオンビーム
<検出条件>
1次イオン:Bi ++(25keV)
2次イオン極性:正
質量範囲:m/z 0~1000
測定範囲:200×200μm
測定により最大強度で検出される正イオンのフラグメントのピーク強度をK、ポリジメチルシロキサンに由来する正イオンのフラグメント(SiCH フラグメントイオン(M/Z=43))のピーク強度をPとし、その比P/Kを算出した。P/K<0.01の場合、離型層は実質的にシリコーン化合物を含んでいないと判断した。さらに、メチロールメラミンに由来する正イオンのフラグメント(C フラグメントイオン(M/Z=163))のピーク強度をFとし、その比F/Kを算出した。F/K<0.0005の場合、離型層は実質的にメチロールメラミンを含んでいないと判断した。
【0086】
(2)表面自由エネルギー及び極性力、水素結合力の算出方法
まず、離型フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置した。その後、同雰囲気下で、離型フィルムの離型層の表面側に対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を、協和界面科学社製 接触角径DropMaster DM-501により、それぞれ5点測定した。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をそれぞれの溶液の接触角とした。次に、得られた4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、及び水素結合力成分(γ )の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、本発明の分散力、極性力、水素結合力及び分散力と極性力の和である表面自由エネルギーを算出した。具体的な算出方法、及び各記号の意味について下記する。γ は固体と液体の界面での張力である場合、数式(1)が成立する。
γ : 固体と表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γ: 固体の表面自由エネルギー
γ: 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γ : 固体の表面自由エネルギーの分散力成分
γ : 固体の表面自由エネルギーの極性力成分
γ : 固体の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの分散力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの極性力成分
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γ =γ+γ-2(γ ・γ 1/2-2(γ ・γ 1/2-2(γ ・γ 1/2 ・・・ 数式(1)。
また、平滑な固体面と液滴が接触角(θ)で接しているときの状態は次式で表現される(Youngの式)。
γ=γ +γcosθ ・・・ 数式(2)。
これら数式(1)、数式(2)を組み合わせると、次式が得られる。
(γ ・γ 1/2+(γ ・γ 1/2+(γ ・γ 1/2=γ(1+cosθ)/2 ・・・ 数式(3)。
実際には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、及びジヨードメタンの4種類の溶液に接触角(θ)と、表1に記載の既知の溶液の表面張力の各成分(γL 、γL 、γL )を数式(3)に代入し、4つの連立方程式を解く。その結果、固体の表面自由エネルギー(γ)、分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、及び水素結合力成分(γ )が算出される。実際には離型フィルムの離型層を固体として用いるため、上記で算出した固体の表面自由エネルギー(γ)、分散力成分(γ )、極性力成分(γ )、及び水素結合力成分(γ )が、それぞれ離型層の表面自由エネルギー(γ)、分散力成分(γd)、極性力成分(γp)、及び水素結合力成分(γh)である。
【0087】
【表1】
【0088】
(3)初期テープ剥離力
初期テープ剥離力は下記の通り測定した。まず、アクリル系ポリエステル粘着テープ(日東電工社製、日東31Bテープ、19mm幅)を、離型フィルムの離型層上に貼り合わせ、その上から、2kgfのローラを1往復させ、テープ貼合離型フィルムを作製した。その後、テープ貼合離型フィルムを23℃65%RHの環境下に24時間静置した後、協和界面科学(株)製剥離解析装置「VPA-2」を用いて、剥離角度180°、引張速度300mm/分で剥離力(N/19mm)を測定した。測定により得られた、剥離力(N/19mm)-移動距離(mm)のグラフから、10~40mmにおける剥離力の平均値を算出した。この測定を5回行い、最大値と最小値を省いた3回の平均を離型フィルムの剥離力(N/19mm)とし、その値をN/50mmに換算した値を初期テープ剥離力とした(すなわち、[初期テープ剥離力(N/50mm)]=[剥離力(N/19mm)]/19×50)。
【0089】
(4)50℃1時間加熱後のテープ剥離力
50℃1時間加熱後のテープ剥離力は下記の通り測定した。まず、「(3)初期テープ剥離力」に記載のとおりテープ貼合離型フィルムを作製し、テープ貼合離型フィルムを23℃65%RHの環境下に24時間静置する代わりに、熱風オーブンにて50℃で1時間加熱した以外は「(3)初期テープ剥離力」と同様に測定した。
【0090】
(5)初期粘着剤層剥離力評価
粘着剤としてアクリル系粘着剤(綜研化学社製、“SKダイン”(登録商標)1435)を酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)にて粘着剤の固形分が25%となるように希釈し、粘着剤の固形分100質量部に対して硬化剤(日本ポリウレタン工業社製、“コロネート”(登録商標)D-90)2.0質量部を混合した塗剤を、アプリケータを用いて最終厚み40μmとなるように離型フィルムの離型層上に塗布した。その後、熱風オーブンで80℃×1分の乾燥を行い、粘着剤積層シートを形成した。該粘着剤積層シートの粘着剤層上に、アクリル系ポリエステル粘着テープ(日東電工社製、日東31Bテープ、19mm幅)を支持体として貼合し、「(3)初期テープ剥離力」と同様に剥離力を測定した。得られた結果より、以下の基準で評価を行った。○を良好、△は実用上問題ないレベルとした。
○:初期粘着層剥離力6.0N/50mm未満
△:初期粘着層剥離力6.0N/50mm以上8.0N/50mm未満
×:初期粘着層剥離力8.0N/50mm以上。
【0091】
(6)加熱後粘着剤層剥離力評価
「(5)初期粘着層剥離力」項に記載の粘着剤積層シートを、さらに、熱風オーブンで150℃×30分加熱処理を行い、「(3)初期テープ剥離力」と同様に剥離力を測定した。
【0092】
(7)加熱後粘着剤層剥離性評価
「(5)初期粘着剤層剥離力」「(6)加熱後粘着剤層剥離力」の項で算出した剥離力から、下記式にて加熱前後の粘着剤層剥離力差(Δ剥離力)を算出し、以下の評価を行った。○のものを良好とし、△は実用上問題ないレベルとした。
[Δ剥離力]=加熱後粘着剤層剥離力/初期粘着剤層剥離力
○:Δ剥離力1.5未満
△:Δ剥離力1.5以上2.0未満
×:Δ剥離力2.0以上。
【0093】
(8)粘着剤の塗布性
「(5)初期粘着層剥離力」の項で示した組成の粘着剤を、アプリケータを用いて3種類の最終厚み(40μm、10μm、1μm)で本発明の離型フィルムの離型層上に塗布した後、熱風オーブンで100℃×5分乾燥を行い、粘着剤積層フィルムを形成した。該粘着剤積層フィルムのハジキの有無について、目視評価を行った。以下の「○」に該当する以上のものを粘着剤の塗布性が良好とし、「△」は実用上問題ないレベルとした。なお一般に、粘着剤の塗布厚みを薄くするほど、ハジキが発生しやすくなる傾向がある。
○:いずれの塗布厚みでもハジキが見られなかった。
△:塗布厚み40μmではハジキが見られなかったが、10μmと1μmの少なくとも一方ではハジキが見られた。
×:すべての塗布厚みにおいてハジキが見られた。
【0094】
(9)水の後退接触角
離型層の水の後退接触角は拡張-収縮法により、協和界面科学製接触角計Drop Master DM-501を用いて、同装置の拡張-収縮法測定マニュアルに従い測定した。まず、離型フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間静置した。その後、同雰囲気下で、離型フィルムの離型層の表面側に対して、液滴量55μLの純水の液滴を一旦作成し、次いで、液滴にシリンジ針先端を指したままの状態で液吐出速度5.6μL/sで連続的に吸引し、同液滴の縮小過程の形状を、吸引を開始した5000ミリ秒後から100ミリ秒毎に液滴側面から連続的に撮影し、各撮影画像からそれぞれの接触角を算出した。
接触角は最初、液滴が収縮するにつれて変化し、次いで一定になる挙動を示す。そのときの接触角を後退接触角とした。接触角が一定になったことを判断する方法は、100ミリ秒毎に連続的に撮影した画像から算出した接触角を時間経過で順に並べ、その順に連続した5点を選択したとき、連続した5点の標準偏差が最初に1°以下になったときの平均値をその測定の後退接触角θrとした。この測定を1サンプルについて5回行い、最大値と最小値を除いた3回の平均値をそのサンプルの水の後退接触角とした。
【0095】
[実施例や比較例で使用した成分]
実施例や比較例においては、以下に示す成分を使用した。
【0096】
<離型剤(A)>
・離型剤(A-1):長鎖アルキル基含有樹脂(1)(ランダム共重合体)
4つ口フラスコにキシレン200質量部、オクタデシルイソシアネート600質量部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100質量部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わった後、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。その後、反応混合物を約80℃まで冷却してメタノール中に加え、生じた白色沈殿を濾別した。得られた白色沈殿にキシレン140質量部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した。その後、得られた沈殿物をメタノールで洗浄して乾燥粉砕することで、長鎖アルキル基含有樹脂(炭素数18のアルキル基を有するビニルアルコール系のランダム共重合体(長鎖アルキル基含有樹脂(1))を得た。これを水で希釈し、20質量%に調整した。
【0097】
・離型剤(A-2):長鎖アルキル基含有樹脂(2)(ブロック共重合体)
次に示す工程(I)~工程(III)を経て長鎖アルキル基含有樹脂(2)の水分散液を得た。
【0098】
工程(I):耐圧ガラス製重合用アンプルに、メタクリル酸メチル(MMA)(関東化学(株)社製)、重合開始剤としてα,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(関東化学(株)社製。)、RAFT剤としてクミルジチオベンゾエート(CDB)、および溶媒であるトルエンを、MMA/CDB/AIBN/トルエン=2.92/0.03/0.007/2.27の質量比で仕込んだ。次に、凍結脱気法によりアンプル内の混合溶液を2回脱気した後、アンプルを密閉し、100℃のオイルバス中で18時間加熱し、重合体(I-1)を含む反応液を得た。
【0099】
工程(II):アンプル内の反応液に、オクタデシルアクリレート、重合開始剤であるAIBN、および溶媒であるトルエンを、オクタデシルアクリレート/AIBN/トルエン=1.37/0.003/1.3の質量比で加えて重合溶液とし、凍結脱気を2回行った後、アンプルを密閉して100℃で48時間加熱した。その後、重合溶液を20倍質量のヘキサンに滴下し、撹拌して固体を析出させた。得られた固体を濾過により回収し、40℃で一晩真空乾燥して長鎖アルキル基含有樹脂(炭素数18のアルキル基を有するブロック共重合体(長鎖アルキル基含有樹脂(2))を得た。
【0100】
工程(III):得られた長鎖アルキル基含有樹脂(2)を以下の様に乳化し、水系樹脂エマルションとした。ホモミキサーに375質量部の水を入れ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル45質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール30質量部、長鎖アルキル基含有樹脂(2)を200質量部、トルエン150質量部を順次加え、70℃に加熱して均一に撹拌した。この混合液を加圧式ホモジナイザーに移して乳化を行った後、さらに加温下で減圧しトルエンを留去した。
【0101】
・離型剤(A-3):シリコーン含有樹脂
東亞合成株式会社製“サイマック”(登録商標) US-480(アクリル系骨格を有するシリコーン系グラフト共重合体、ヒドロキシル基、カルボキシル基含有)。
【0102】
<バインダー樹脂(B)>
・バインダー樹脂(B-1):ポリエステル樹脂(SSIA基含有)
下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を調整した。
(ジカルボン酸成分)
テレフタル酸:80モル%
5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム:20モル%
(ジオール成分)
ジエチレングリコール:15モル%
エチレングリコール:85モル%。
【0103】
・バインダー樹脂(B-2):ポリエステル樹脂(カルボキシル基含有)
下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を調整した。
(ジカルボン酸成分)
テレフタル酸:80モル%
トリメリット酸:20モル%
(ジオール成分)
ビスフェノールS1モルに対してエチレンオキサイド2モルを付加した化合物:86モル%
エチレングリコール:14モル%。
【0104】
・バインダー樹脂(B-3):ポリエステル樹脂(カルボキシル基、SSIA基含有)
下記の共重合組成からなるポリエステル樹脂の水分散体を調整した。
(ジカルボン酸成分)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル:68モル%
トリメリット酸:20モル%
5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム:12モル%
(ジオール成分)
ビスフェノールS1モルに対してエチレンオキサイド2モルを付加した化合物:86モル%
エチレングリコール:14モル%。
【0105】
・バインダー樹脂(B-4):ウレタン樹脂
DIC(株)製“ハイドラン”(登録商標)AP-40(固形分濃度40質量%)を用いた。
【0106】
・バインダー樹脂(B-5):アクリル樹脂
互応化学工業(株)製、“プラスコート”(登録商標)Z-730(固形分濃度25質量%、溶媒:水)を用いた。
【0107】
<反応性化合物(C)>
・反応性化合物(C-1):オキサゾリン化合物
(株)日本触媒製、“エポクロス”(登録商標)WS-500(固形分濃度40質量%、溶媒:水)を用いた。
【0108】
・反応性化合物(C-2):イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート)
第一工業製薬株式会社、“エラストロン”(登録商標) BN‐69(固形分濃度40質量%。水分散型)を用いた。
【0109】
・反応性化合物(C-3):イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート)
第一工業製薬株式会社、“エラストロン”(登録商標) BN‐77(固形分濃度30質量%。自己乳化型)を用いた。
【0110】
・反応性化合物(C-4):メラミン化合物(メチロール化メラミン)
(株)三和ケミカル製、“ニカラック”(登録商標)MW-035(固形分濃度70質量%、溶媒:水)を用いた。
【0111】
(実施例1)
・離型層形成用の樹脂組成物:
離型剤(A-1)、バインダー樹脂(B-1)を固形分質量比で(A-1)/(B-1)=10/90となるように混合した。次いで後述する塗布方式、目標厚みに合わせて水を添加し固形分濃度を調整し、樹脂組成物を得た。更にポリエステルフィルムへの塗布性を向上するために、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業(株)製“オルフィン”(登録商標)E1010)を、上記の混合した樹脂組成物全体100質量部に対して0.1質量部になるように添加した。
【0112】
・ポリエステルフィルム:
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4質量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2質量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめることにより、未延伸フィルム(Aフィルム)を得た。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。
【0113】
・離型フィルム
一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施した後、上記離型層形成用の樹脂組成物の項に記載の方法で作製した樹脂組成物を、ワイヤーバーコートを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。続いて、樹脂組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持してテンターに導き、雰囲気温度が90~100℃の予熱ゾーンで樹脂組成物の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.6倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施して離型層を形成せしめ、さらに同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施してポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた。その後、スリッターで長手方向と平行にフィルムを切断することにより、クリップが把持していた幅方向の両端部(未塗布部分)を切断除去し、離型フィルムをロール状に巻き取った。得られた離型フィルムの特性等を表3、4に示す。
【0114】
(実施例2~17、比較例1、2、5)
樹脂組成物の組成を表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表3、4に示す。
【0115】
(実施例18、19)
ポリエステルフィルムの原料として、表2に示した割合のリサイクル原料を含むPETペレット(実施例18)、およびバイオマス原料(実施例19)を使用した以外は実施例2と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表2、3に示す。なお、ここでいうリサイクル原料は、実施例1~17におけるポリエステルフィルムの製膜工程にて除去された未塗布部分を細断したものであり、ポリエステルフィルムの製膜時には、これをバージン原料と混練して使用した。一方、バイオマス原料は、バイオマス度が15%であり、エチレングリコール単位の一部が植物由来であるPETを使用した。
【0116】
(実施例20)
実施例10の樹脂組成物を使用し、以下の方法で離型フィルムを得た。ポリエステル樹脂基材として東レ株式会社製PETフィルム“ルミラー”(登録商標)T60(基材厚み50μm)を使用した。ポリエステル樹脂基材の上に樹脂組成物を、ワイヤーバーを用いて塗布した。次いで熱による変形を防ぐため、フィルムと同型のSUS板フィルムを配置し、四辺を隙間なくダブルクリップで把持した後、熱風オーブンにて230℃、2分間の条件で乾燥・硬化を実施して離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表3、4に示す。
【0117】
(比較例3、4)
樹脂組成物の組成、熱風オーブンでの乾燥温度を表2の通りとした以外は実施例20と同様の方法で、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの特性等を表3、4に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
実施例20、比較例3、4においては、熱処理温度は熱風オーブンでの乾燥温度を意味する。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の離型フィルムは、アクリル樹脂や粘着剤に代表される粘着剤との離型性、及び加熱後も安定した離型性を有した、表面保護フィルム製造工程用の離型フィルム、特に光学部材や電子部材の、加工、組立、検査、輸送などの際の表面の傷付き防止を目的として使用される表面保護フィルム製造工程用の離型フィルムとして好適に用いることができる。