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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004889
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20250108BHJP
   B65H 21/00 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 305
B65H21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104768
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】桝屋 善光
【テーマコード(参考)】
2C056
3F064
【Fターム(参考)】
2C056EC06
2C056EC12
2C056EC28
2C056EC29
2C056HA46
2C056HA47
3F064AA01
3F064BA00
3F064BB00
(57)【要約】
【課題】印刷済みの印刷用紙を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構を備えた印刷装置を実現する。
【解決手段】印刷用紙を乾燥させるための複数本のカーボンヒーター310からなる乾燥機構を備えたインクジェット印刷装置に、印刷用紙の搬送方向とカーボンヒーター310の長手方向とがなす鋭角であるヒーター角度を調整する角度調整手段4が設けられる。角度調整手段4は、例えば、カーボンヒーター310を保持するヒーター保持部材400と、ヒーター保持部材400を作動させるアクチュエータ481,482と、アクチュエータ481,482に含まれるモータを駆動するモータ駆動回路471,472と、モータ駆動回路471,472の動作を制御するモータ制御部461,462とによって構成される。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、
インクを吐出することにより前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体への印刷を行う印刷ヘッドと、
印刷済みの前記印刷媒体に熱を照射するライン型ヒーターと、
前記印刷媒体の搬送方向と前記ライン型ヒーターの長手方向とがなす鋭角をヒーター角度として、前記ヒーター角度を調整する角度調整手段と
を備えることを特徴とする、印刷装置。
【請求項2】
前記角度調整手段は、印刷が開始される際に、印刷に使用する前記印刷媒体の幅に応じて前記ヒーター角度を調整することを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷媒体の幅として、少なくとも、第1の幅と、前記第1の幅よりも狭い第2の幅とが用意され、
前記角度調整手段は、前記印刷媒体の幅が前記第2の幅であるときの前記ヒーター角度を前記印刷媒体の幅が前記第1の幅であるときの前記ヒーター角度よりも小さくすることを特徴とする、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記角度調整手段は、前記印刷媒体の幅が狭いほど前記ヒーター角度を小さくすることを特徴とする、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記印刷媒体として第1の幅のロール紙を保持する第1のスロットと、
前記印刷媒体として前記第1の幅よりも狭い第2の幅のロール紙を保持する第2のスロットと、
印刷に使用するロール紙の引き出し元を前記第1のスロットと前記第2のスロットとの間で切り換える切換機構と、
前記第1のスロットから引き出されたロール紙の終端と前記第2のスロットから引き出されたロール紙の始端、または、前記第2のスロットから引き出されたロール紙の終端と前記第1のスロットから引き出されたロール紙の始端を接合するスプライサと
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
複数本の前記ライン型ヒーターが前記印刷媒体の搬送方向に並べて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記角度調整手段は、
前記印刷媒体に対向するように前記ライン型ヒーターを保持するヒーター保持部材と、
前記ヒーター保持部材を作動させるアクチュエータと
を含み、
印刷に使用する前記印刷媒体の幅に応じて定まる目標とする前記ヒーター角度を目標角度として、前記アクチュエータは、前記ヒーター角度が前記目標角度に近づくように前記ヒーター保持部材を作動させることを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記ヒーター保持部材は、
第1のスライダーと、
第2のスライダーと、
前記第1のスライダーに摺動可能に接続された第1端部と前記第2のスライダーに摺動可能に接続された第2端部とを有し、前記第1端部と前記第2端部との間に前記ライン型ヒーターを保持するスライダー連結部材と
を含み、
前記角度調整手段は、前記アクチュエータとして、前記第1のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させる第1のアクチュエータと、前記第2のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させる第2のアクチュエータとを含み、
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させ、かつ、前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させることによって、前記ヒーター角度が調整され、
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させる方向と前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させる方向とは逆方向であることを特徴とする、請求項7に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させる距離と前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させる距離とは等しいことを特徴とする、請求項8に記載の印刷装置。
【請求項10】
前記ヒーター保持部材は、
第1のスライダーと、
第2のスライダーと、
前記第1のスライダーに摺動可能に接続された第1端部と前記第2のスライダーに摺動可能に接続された第2端部とを有し、前記第1端部と前記第2端部との間に前記ライン型ヒーターを保持するスライダー連結部材と
を含み、
前記アクチュエータが前記第1のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする、請求項7に記載の印刷装置。
【請求項11】
前記ヒーター保持部材は、それぞれの短手方向に並べて配置された複数本の前記ライン型ヒーターを一体的に保持し、
前記アクチュエータが回転軸の向きを前記印刷媒体に対して垂直な方向として前記ヒーター保持部材を回転させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする、請求項7に記載の印刷装置。
【請求項12】
前記ヒーター保持部材は、1本の前記ライン型ヒーターを保持し、
前記アクチュエータが回転軸の向きを前記印刷媒体に対して垂直な方向として前記ヒーター保持部材を回転させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする、請求項7に記載の印刷装置。
【請求項13】
前記アクチュエータは、モータを含み、
前記角度調整手段は、
前記モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路の動作を制御するモータコントローラと
を更に含むことを特徴とする、請求項7に記載の印刷装置。
【請求項14】
前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部を更に備え、
前記搬送制御部は、前記角度調整手段による調整後の前記ヒーター角度が小さいほど前記搬送速度を高くすることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項15】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、
インクを吐出することにより前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体への印刷を行う印刷ヘッドと、
印刷済みの前記印刷媒体に熱を照射するライン型ヒーターと、
前記印刷媒体の搬送方向と前記ライン型ヒーターの長手方向とがなす鋭角をヒーター角度として、前記ヒーター角度を調整可能に構成された、前記ライン型ヒーターを保持するヒーター保持部材と、
前記ヒーター保持部材を作動させるアクチュエータと
を備え、
前記アクチュエータが前記ヒーター保持部材を作動させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関し、より詳しくは、印刷媒体への印刷後にインクを印刷媒体に定着させるための乾燥機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱や圧力によってインクを印刷用紙などの印刷媒体(基材)に噴射することにより印刷媒体への印刷を行うインクジェット印刷装置が知られている。水性インクを用いて印刷が行われた場合、印刷済みの印刷媒体に水性インクを定着させるために当該印刷済みの印刷媒体を速やかに乾燥させる必要がある。そこで、インクジェット印刷装置には、印刷済みの印刷媒体を熱や温風によって乾燥させるための乾燥機構が設けられている。
【0003】
乾燥機構には様々な種類があるが、例えば、円筒状の複数本のカーボンヒーター91を用いた図30に示すような構成の乾燥機構90が知られている。この乾燥機構90においては、複数本のカーボンヒーター91が印刷用紙93の搬送方向に並べて配置されている。なお、図30で符号94を付した領域は、実際に画像が印刷されている印字エリアである。乾燥機構90には照射口92が設けられており、カーボンヒーター91から発せられた熱(赤外線)は照射口92を通って印刷済みの印刷用紙93に与えられる。これにより、印刷済みの印刷用紙93が乾燥する。換言すれば、印刷済みの印刷用紙93にインクが定着する。
【0004】
なお、本発明に関連して、以下の先行技術文献が知られている。特開2009-214328号公報には、複数の用紙サイズのそれぞれに対応する開口幅の複数の開口部を有する移動可能なシャッターフィルムを備えた加熱ユニットが開示されている。この加熱ユニットによれば、用紙サイズに応じた開口幅の開口部から熱の照射を行うことによって、熱線により搬送ベルトが直接加熱されることに起因する搬送ベルトの劣化が防止される。特開2017-74725号公報には、印刷用紙の幅方向に沿って並べられた複数の加熱ランプを個別に制御する技術が開示されている。この技術によれば、可変絵柄の印刷位置に応じて複数の加熱ランプのオン/オフを制御することによって、加熱ランプの作動に伴うランニングコストが低減される。特開2019-166799号公報には、印刷用紙の幅方向に並べて配置した2つのヒーターを個別に制御する技術が開示されている。この技術によれば、印刷媒体を効率的に加熱することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-214328号公報
【特許文献2】特開2017-74725号公報
【特許文献3】特開2019-166799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクジェット印刷装置での印刷には様々な用紙サイズの印刷用紙が使用されるが、図30に示した構成の乾燥機構90では、用紙サイズに関わらず、複数本のカーボンヒーター91から発せられた熱の照射領域は一定である。例えば、幅広の印刷用紙93aが使用されるときには当該印刷用紙93aと複数本のカーボンヒーター91との関係は図31のA部に示すようなものとなるのに対して、幅狭の印刷用紙93bが使用されるときには当該印刷用紙93bと複数本のカーボンヒーター91との関係は図31のB部に示すようなものとなる。幅狭の印刷用紙93bが使用されるときには、図31のB部で符号95,96を付した点線枠部分に無駄にカーボンヒーター91からの熱が照射されている。このように、エネルギーの無駄が生じている。
【0007】
そこで、本発明は、印刷済みの印刷媒体を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構を備えた印刷装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、印刷装置であって、
印刷媒体を搬送する搬送機構と、
インクを吐出することにより前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体への印刷を行う印刷ヘッドと、
印刷済みの前記印刷媒体に熱を照射するライン型ヒーターと、
前記印刷媒体の搬送方向と前記ライン型ヒーターの長手方向とがなす鋭角をヒーター角度として、前記ヒーター角度を調整する角度調整手段と
を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記角度調整手段は、印刷が開始される際に、印刷に使用する前記印刷媒体の幅に応じて前記ヒーター角度を調整することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、
前記印刷媒体の幅として、少なくとも、第1の幅と、前記第1の幅よりも狭い第2の幅とが用意され、
前記角度調整手段は、前記印刷媒体の幅が前記第2の幅であるときの前記ヒーター角度を前記印刷媒体の幅が前記第1の幅であるときの前記ヒーター角度よりも小さくすることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第2の発明において、
前記角度調整手段は、前記印刷媒体の幅が狭いほど前記ヒーター角度を小さくすることを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第1の発明において、
前記印刷装置は、
前記印刷媒体として第1の幅のロール紙を保持する第1のスロットと、
前記印刷媒体として前記第1の幅よりも狭い第2の幅のロール紙を保持する第2のスロットと、
印刷に使用するロール紙の引き出し元を前記第1のスロットと前記第2のスロットとの間で切り換える切換機構と、
前記第1のスロットから引き出されたロール紙の終端と前記第2のスロットから引き出されたロール紙の始端、または、前記第2のスロットから引き出されたロール紙の終端と前記第1のスロットから引き出されたロール紙の始端を接合するスプライサと
を更に備えることを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第1の発明において、
複数本の前記ライン型ヒーターが前記印刷媒体の搬送方向に並べて配置されていることを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第1の発明において、
前記角度調整手段は、
前記印刷媒体に対向するように前記ライン型ヒーターを保持するヒーター保持部材と、
前記ヒーター保持部材を作動させるアクチュエータと
を含み、
印刷に使用する前記印刷媒体の幅に応じて定まる目標とする前記ヒーター角度を目標角度として、前記アクチュエータは、前記ヒーター角度が前記目標角度に近づくように前記ヒーター保持部材を作動させることを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、第7の発明において、
前記ヒーター保持部材は、
第1のスライダーと、
第2のスライダーと、
前記第1のスライダーに摺動可能に接続された第1端部と前記第2のスライダーに摺動可能に接続された第2端部とを有し、前記第1端部と前記第2端部との間に前記ライン型ヒーターを保持するスライダー連結部材と
を含み、
前記角度調整手段は、前記アクチュエータとして、前記第1のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させる第1のアクチュエータと、前記第2のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させる第2のアクチュエータとを含み、
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させ、かつ、前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させることによって、前記ヒーター角度が調整され、
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させる方向と前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させる方向とは逆方向であることを特徴とする。
【0016】
第9の発明は、第8の発明において、
前記第1のアクチュエータが前記第1のスライダーを移動させる距離と前記第2のアクチュエータが前記第2のスライダーを移動させる距離とは等しいことを特徴とする。
【0017】
第10の発明は、第7の発明において、
前記ヒーター保持部材は、
第1のスライダーと、
第2のスライダーと、
前記第1のスライダーに摺動可能に接続された第1端部と前記第2のスライダーに摺動可能に接続された第2端部とを有し、前記第1端部と前記第2端部との間に前記ライン型ヒーターを保持するスライダー連結部材と
を含み、
前記アクチュエータが前記第1のスライダーを前記印刷媒体の搬送方向と平行な方向に移動させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする。
【0018】
第11の発明は、第7の発明において、
前記ヒーター保持部材は、それぞれの短手方向に並べて配置された複数本の前記ライン型ヒーターを一体的に保持し、
前記アクチュエータが回転軸の向きを前記印刷媒体に対して垂直な方向として前記ヒーター保持部材を回転させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする。
【0019】
第12の発明は、第7の発明において、
前記ヒーター保持部材は、1本の前記ライン型ヒーターを保持し、
前記アクチュエータが回転軸の向きを前記印刷媒体に対して垂直な方向として前記ヒーター保持部材を回転させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする。
【0020】
第13の発明は、第7の発明において、
前記アクチュエータは、モータを含み、
前記角度調整手段は、
前記モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路の動作を制御するモータコントローラと
を更に含むことを特徴とする。
【0021】
第14の発明は、第1から第13までのいずれかの発明において、
前記印刷装置は、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部を更に備え、
前記搬送制御部は、前記角度調整手段による調整後の前記ヒーター角度が小さいほど前記搬送速度を高くすることを特徴とする。
【0022】
第15の発明は、印刷装置であって、
印刷媒体を搬送する搬送機構と、
インクを吐出することにより前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体への印刷を行う印刷ヘッドと、
印刷済みの前記印刷媒体に熱を照射するライン型ヒーターと、
前記印刷媒体の搬送方向と前記ライン型ヒーターの長手方向とがなす鋭角をヒーター角度として、前記ヒーター角度を調整可能に構成された、前記ライン型ヒーターを保持するヒーター保持部材と、
前記ヒーター保持部材を作動させるアクチュエータと
を備え、
前記アクチュエータが前記ヒーター保持部材を作動させることによって、前記ヒーター角度が調整されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明によれば、印刷媒体を乾燥させるためのライン型ヒーターを備えた印刷装置に、印刷媒体の搬送方向とライン型ヒーターの長手方向とがなす鋭角であるヒーター角度を調整する角度調整手段が設けられている。このため、印刷に使用する印刷媒体の幅に応じてヒーター角度を調整することにより、例えば、ライン型ヒーターの両端部分を印刷媒体の両端部分に対応付けることができる。これにより、印刷媒体の領域外への熱の照射が抑制されるとともに、印刷媒体全体への効率的な熱の照射が可能となる。以上のように、印刷済みの印刷媒体を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構(ライン型ヒーター)を備えた印刷装置が実現される。また、エネルギーの無駄な消費が抑制されるので、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することができる。
【0024】
上記第2の発明によれば、ヒーター角度の調整は印刷開始時に行われるので、例えば、印刷中にヒーター角度が変化して乾燥むらが生じることが防止される。
【0025】
上記第3の発明によれば、幅狭の印刷媒体が使用されるときには幅広の印刷媒体が使用されるときに比べて印刷済み印刷媒体の乾燥が効率的に行われる。
【0026】
上記第4の発明によれば、エネルギーの無駄な消費をより効果的に抑制することができる。
【0027】
上記第5の発明によれば、印刷中に印刷媒体の幅が変更する場合でも、印刷媒体への印刷および印刷済み印刷媒体の乾燥が効率的に行われる。
【0028】
上記第6の発明によれば、ライン型ヒーターから発せられる熱の照射領域を印刷媒体の搬送方向に大きくすることができる。
【0029】
上記第7の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0030】
上記第8の発明によれば、2本のスライダーを移動させることによってヒーター角度の調整が行われるので、比較的短時間でヒーター角度を目標角度に調整することができる。
【0031】
上記第9の発明によれば、印刷媒体の幅に関わらず印刷媒体の幅方向についての中心が特定の位置を通過する場合に、ライン型ヒーターの一端部分が印刷媒体の領域外に大きくはみ出すことが防止される。
【0032】
上記第10の発明によれば、2本のスライダーのうちの一方については対応するアクチュエータが不要であるので、比較的低コストで角度調整手段を実現することができる。
【0033】
上記第11の発明によれば、複数本のライン型ヒーターを一体的に回転させることができるので、初期状態におけるライン型ヒーターの長手方向を、印刷媒体の搬送方向に対して垂直な方向にすることもできるし、印刷媒体の搬送方向に対して平行な方向にすることもできる。
【0034】
上記第12の発明によれば、比較的簡易な構成で角度調整手段を実現することができる。
【0035】
上記第13の発明によれば、比較的簡易な構成でアクチュエータを駆動することが可能となる。
【0036】
上記第14の発明によれば、角度調整手段による調整後のヒーター角度が小さいほど搬送速度が高められる。このように調整後のヒーター角度に応じて搬送速度が制御されるので、印刷効率が高められる。
【0037】
上記第15の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット印刷装置の全体構成を示す模式図である。
図2】上記実施形態における用紙送出部の詳細な構成を示す模式図である。
図3】上記実施形態における印刷制御装置(コントローラ)のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】上記実施形態おける乾燥機構の概略について説明するための模式図である。
図5】上記実施形態において、ヒーター角度の調整について説明するための図である。
図6】上記実施形態において、比較的幅狭の印刷用紙を使用する際の複数本のカーボンヒーターの状態を示す図である。
図7】上記実施形態において、ヒーター角度の調整に関わる構成の概略を示すブロック図である。
図8】上記実施形態における角度調整手段の要部を構成する角度調整機構の平面図である。
図9】上記実施形態において、搬送方向下流側から角度調整機構を見た正面図である。
図10】上記実施形態において、複数本のカーボンヒーターが印刷用紙の搬送方向に並べて配置されていることを説明するための図である。
図11】上記実施形態において、スライダー連結部材と2本のスライダーとの位置関係の一例を示す図である。
図12】上記実施形態において、2本のスライダーを互いに逆方向に同じ距離だけ移動させることによる効果について説明するための図である。
図13】上記実施形態における角度調整手段の全体構成を示すブロック図である。
図14】上記実施形態における効果について説明するための図である。
図15】上記実施形態の第1の変形例における角度調整手段の要部を構成する角度調整機構の平面図である。
図16】上記第1の変形例における角度調整手段の全体構成を示すブロック図である。
図17】上記第1の変形例において、スライダー連結部材と2本のスライダーとの位置関係の一例を示す図である。
図18】上記第1の変形例における効果について説明するための図である。
図19】上記実施形態の第2の変形例における乾燥機構の初期状態を示す模式図である。
図20】上記第2の変形例における角度調整機構の概略斜視図である。
図21】上記第2の変形例における角度調整機構の平面図である。
図22】上記第2の変形例において、搬送方向下流側から角度調整機構を見た正面図である。
図23】上記第2の変形例における効果について説明するための図である。
図24】上記実施形態の第3の変形例における角度調整機構の概略斜視図である。
図25】上記第3の変形例における角度調整機構の平面図である。
図26図25のA-A線断面図である。
図27】上記第3の変形例における角度調整手段の全体構成を示すブロック図である。
図28】上記第3の変形例における効果について説明するための図である。
図29】上記実施形態の第4の変形例の要部の構成について説明するためのブロック図である。
図30】従来の乾燥機構の一構成例を示す図である。
図31】従来の乾燥機構でエネルギーの無駄が生じることについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。
【0040】
<1.インクジェット印刷装置の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット印刷装置10の全体構成を示す模式図である。このインクジェット印刷装置10は、印刷機本体200と、印刷機本体200の動作を制御する印刷制御装置(コントローラ)100とによって構成されている。印刷機本体200は、印刷媒体である印刷用紙20を送出する用紙送出部21と、印刷機本体200の内部で印刷用紙20を搬送するための複数のローラ22と、印刷用紙20に下地層を形成するための白色のインクを吐出する第1の印刷部23と、白色のインクが塗られた印刷用紙20を乾燥させる第1の乾燥機構24と、第1の乾燥機構24による乾燥後の印刷用紙20を冷やすための冷却機構25と、印刷用紙20にカラーインク(プロセスカラーのインク)を吐出する第2の印刷部26と、カラーインクが塗られた印刷用紙20を乾燥させる第2の乾燥機構27と、第2の乾燥機構27による乾燥後の印刷用紙20を更に乾燥させる第3の乾燥機構28と、印刷済みの印刷用紙20を巻き取る用紙巻取部29とを備えている。なお、このインクジェット印刷装置10において印刷に使用されるインクは水性インクである。
【0041】
第1の印刷部23は、白色のインクを吐出する印刷ヘッドによって構成されている。第2の印刷部26は、C色(シアン色),M色(マゼンタ色),Y色(黄色),およびK色(黒色)のインクをそれぞれ吐出する4つの印刷ヘッドによって構成されている。各印刷ヘッドは、例えば、千鳥状に配置された複数個のヘッドモジュールによって構成されている。各ヘッドモジュールには、インクを吐出する多数のノズルが含まれている。なお、第1の印刷部23において印刷用紙20へのプライマー(塗布液)の塗布が行われるようにしても良い。また、第2の印刷部26においてプロセスカラーのインクに加えて特色のインクが印刷用紙20に吐出されるようにしても良い。
【0042】
第1の乾燥機構24および第2の乾燥機構27は、印刷用紙20の搬送方向に並べて配置された複数本のカーボンヒーターによって構成されている。各カーボンヒーターは、印刷用紙20を乾燥させるために、印刷用紙20の表面に熱(赤外線)を照射する。第3の乾燥機構28は、温調ローラ281と、温調ローラ281の周囲に並べて配置された複数本のカーボンヒーター282とによって構成されている。温調ローラ281は、印刷用紙20を巻き付けて回転することによって、印刷用紙20を裏面側から熱しつつ印刷用紙20を所望の搬送方向に移動させる。各カーボンヒーター282は、印刷用紙20の表面に熱を照射する。ところで、第1の乾燥機構24および第2の乾燥機構27の少なくとも一方については、印刷用紙20の搬送方向とカーボンヒーターとがなす角度(鋭角)を調整することができるように構成されている。これについての詳しい説明は後述する。
【0043】
図2は、本実施形態における用紙送出部21の詳細な構成を示す模式図である。用紙送出部21は、図2に示すように、ロール紙(ロール状に巻かれた印刷用紙20)を保持するための2つのスロット(第1のスロット211および第2のスロット212)と、印刷に使用するロール紙の引き出し元を第1のスロット211と第2のスロット212との間で自動的に切り換える切換機構213と、使用中のロール紙の終端と次に使用するロール紙の始端とを粘着テープなどを用いて接合するスプライサ214とによって構成されている。なお、使用中のロール紙の残量が0になっていないときに使用対象のロール紙を切り換える場合には、当該使用中のロール紙が切断され、その切断後の使用中のロール紙の終端と次に使用するロール紙の始端とがスプライサ214によって接合される。以上のような用紙送出部21において、例えば、第1のスロット211には比較的幅の広いロール紙が保持され、第2のスロット212には比較的幅の狭いロール紙が保持される。そして、実行対象の印刷ジョブに応じてロール紙の引き出し元のスロットが切り換えられ、使用中のロール紙の終端と次に使用するロール紙の始端とがスプライサ214によって接合される。このように、スプライサ214は、第1のスロット211から引き出されたロール紙の終端と第2のスロット212から引き出されたロール紙の始端、または、第2のスロット212から引き出されたロール紙の終端と第1のスロット211から引き出されたロール紙の始端を接合する。
【0044】
<2.印刷制御装置のハードウェア構成>
図3は、印刷制御装置(コントローラ)100のハードウェア構成を示すブロック図である。図3に示すように、印刷制御装置100は、本体110、補助記憶装置121、光ディスクドライブ122、表示部123、キーボード124、およびマウス125などを備えている。本体110は、CPU111、メモリ112、第1ディスクインタフェース部113、第2ディスクインタフェース部114、表示制御部115、入力インタフェース部116、および通信インタフェース部117を含んでいる。CPU111、メモリ112、第1ディスクインタフェース部113、第2ディスクインタフェース部114、表示制御部115、入力インタフェース部116、および通信インタフェース部117は、システムバスを介して互いに接続されている。第1ディスクインタフェース部113には補助記憶装置121が接続されている。第2ディスクインタフェース部114には光ディスクドライブ122が接続されている。表示制御部115には、表示部(表示装置)123が接続されている。入力インタフェース部116には、キーボード124およびマウス125が接続されている。通信インタフェース部117には、通信ケーブルを介して印刷機本体200が接続されている。また、通信インタフェース部117はLAN6に接続されている。補助記憶装置121は磁気ディスク装置などである。光ディスクドライブ122には、CD-ROMやDVD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体としての光ディスク7が挿入される。表示部123は液晶ディスプレイなどである。表示部123は、オペレータが所望する情報を表示するために使用される。キーボード124およびマウス125は、この印刷制御装置100に対してオペレータが指示を入力するために使用される。
【0045】
補助記憶装置121には、印刷制御プログラム(印刷機本体200による印刷処理の実行を制御するためのプログラム)18が格納されている。CPU111は、補助記憶装置121に格納された印刷制御プログラム18をメモリ112に読み出して実行することにより、印刷制御装置100の各種機能を実現する。メモリ112は、RAMおよびROMを含んでいる。メモリ112は、補助記憶装置121に格納された印刷制御プログラム18をCPU111が実行するためのワークエリアとして機能する。なお、印刷制御プログラム18は、上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体(非一過性の記録媒体)に格納されて提供される。すなわち、ユーザーは、例えば、印刷制御プログラム18の記録媒体としての光ディスク7を購入して光ディスクドライブ122に挿入し、光ディスク7から印刷制御プログラム18を読み出して補助記憶装置121にインストールする。
【0046】
<3.乾燥機構>
上述したように、第1の乾燥機構24および第2の乾燥機構27の少なくとも一方については、印刷用紙20の搬送方向とカーボンヒーターとがなす鋭角(以下、「ヒーター角度」という。)を調整することができるように構成されている。以下、これについて説明する。なお、以下の説明では、ヒーター角度を調整することができるように構成された乾燥機構に符号30を付す。
【0047】
<3.1 概要>
図4は、本実施形態における乾燥機構30の概略について説明するための模式図である。なお、図4に示す状態は、インクジェット印刷装置10の電源をオンにした直後の状態(すなわち、初期状態)である。図4に示すように、ライン型ヒーターである複数本のカーボンヒーター310が印刷用紙20の搬送方向に並べて配置されている。カーボンヒーター310は、炭素繊維を発熱体として使用するヒーターであって、例えば円筒状の形状を有している。図4で符号8を付した領域は、実際に画像が印刷されている印字エリアである。乾燥機構30には照射口320が設けられており、カーボンヒーター310から発せられた熱(赤外線)は照射口320を通って印刷済みの印刷用紙20に与えられる。熱の照射効率を高めるために、各カーボンヒーター310に対応するリフレクタ(反射板)を設けるようにしてもよい。なお、照射口320の周囲にはシャッターが設けられているので、照射口320の周囲の領域にはカーボンヒーター310から発せられた熱は照射されない。
【0048】
本実施形態においては、印刷が開始される際に、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じてヒーター角度が調整される。詳しくは、印刷用紙20の全体への熱の照射を保ちつつ印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されるよう、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じてヒーター角度が調整される。より具体的には、図5のA~D部において符号3を付した太枠部分に示すように、カーボンヒーター310の両端部分が印刷用紙20の両端部分に対応付けられる。これにより、例えば、最も幅広の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図4に示したような状態となり、比較的幅狭の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図6に示したような状態となる。なお、ヒーター角度の調整を印刷が開始される際に行うようにすることによって、例えば、印刷中にヒーター角度が変化して乾燥むらが生じるというような現象の発生が防止される。
【0049】
図7に、ヒーター角度の調整に関わる構成の概略を示す。印刷用紙20は搬送機構210によって搬送され、印刷用紙20への印刷を行う印刷部220(図1における第1の印刷部23または第2の印刷部26)の搬送方向下流側に位置する乾燥機構30を構成する複数本のカーボンヒーター310についてのヒーター角度を調整する角度調整手段4が設けられている。これに関し、角度調整手段4は、印刷に使用する印刷用紙20の幅の情報を含む用紙情報201に基づいてヒーター角度を調整する。なお、搬送機構210は、用紙送出部21と複数のローラ22と用紙巻取部29とによって実現される。本実施形態においては、搬送機構210によって印刷用紙20は一定の速度で搬送されるものと仮定する。
【0050】
ところで、図5から把握されるように、角度調整手段4は、印刷用紙20の幅が狭いほどヒーター角度を小さくする。また、図5では印刷用紙20の幅として4種類の幅を示しているが、印刷用紙20の幅として少なくとも2種類の幅(第1の幅、および、第1の幅よりも狭い第2の幅)が用意されていればよい。これに関し、角度調整手段4は、印刷用紙20の幅が第2の幅であるときのヒーター角度を印刷用紙20の幅が第1の幅であるときのヒーター角度よりも小さくする。
【0051】
<3.2 ヒーター角度の調整を実現する詳細な構成>
次に、ヒーター角度の調整を実現する詳細な構成について説明する。図8は、ヒーター角度を調整する角度調整手段4の要部を構成する角度調整機構の平面図である。図9は、搬送方向下流側から角度調整機構を見た正面図である。なお、図8ではカーボンヒーター310を1本だけ示しているが、実際には図10に示すように複数本のカーボンヒーター310が印刷用紙20の搬送方向に並べて配置されている。
【0052】
角度調整機構は、2本のスライダー421,422とスライダー連結部材410とからなり印刷用紙20に対向するようにカーボンヒーター310を保持するヒーター保持部材400と、スライダー421を支持する支持レール451と、スライダー421を移動させるためのアクチュエータ481と、スライダー421とアクチュエータ481とを物理的に接続する接続ロッド491と、スライダー422を支持する支持レール452と、スライダー422を移動させるためのアクチュエータ482と、スライダー422とアクチュエータ482とを物理的に接続する接続ロッド492とによって構成されている。なお、本実施形態においては、スライダー421によって第1のスライダーが実現され、スライダー422によって第2のスライダーが実現され、アクチュエータ481によって第1のアクチュエータが実現され、アクチュエータ482によって第2のアクチュエータが実現されている。
【0053】
図8および図9から把握されるように、カーボンヒーター310は、スライダー421とスライダー422とを連結するスライダー連結部材410の一端側(スライダー421側)の端部(以下、「第1端部」という。)と他端側(スライダー422側)の端部(以下、「第2端部」という。)との間の開口部411に保持されている。スライダー連結部材410の第1端部にはスライド孔431が形成され、スライダー連結部材410の第2端部にはスライド孔432が形成されている。また、スライダー421には突起状の摺動ピン441が設けられ、スライダー422には突起状の摺動ピン442が設けられている。摺動ピン441はスライド孔431内に位置し、かつ、摺動ピン442はスライド孔432内に位置するよう、スライダー連結部材410とスライダー421とスライダー422とが構成されている。以上のように、スライダー連結部材410の第1端部はスライダー421に摺動可能に接続され、スライダー連結部材410の第2端部はスライダー422に摺動可能に接続されている。
【0054】
アクチュエータ481は、例えば、ボールねじを用いてモータの回転運動を直線運動に変換する公知のリニアアクチュエータである。アクチュエータ481は、ボールねじやモータを含む本体部4811と、ボールねじに取り付けられた伸縮ロッド4812とによって構成されている。スライダー421には図8および図9に示すように接続ロッド491が取り付けられており、伸縮ロッド4812の先端部が当該接続ロッド491に固定的に接続されている。以上のような構成により、モータの回転に基づき伸縮ロッド4812が伸縮するのに応じてスライダー421が移動する。このように、アクチュエータ481は、スライダー421を印刷用紙20の搬送方向と平行な方向に移動させる。アクチュエータ482は、アクチュエータ481と同様の構成を有しており、スライダー422を印刷用紙20の搬送方向と平行な方向に移動させる。但し、アクチュエータ481を構成する伸縮ロッド4812が伸びるとスライダー421は図8の左方に移動するのに対して、アクチュエータ482を構成する伸縮ロッド4822が伸びるとスライダー422は図8の右方に移動する。
【0055】
上述したように、スライダー連結部材410の第1端部はスライダー421に摺動可能に接続されている。従って、アクチュエータ481がスライダー421を移動させると、スライダー連結部材410の第1端部は移動し、スライダー421とスライダー連結部材410とがなす角度が変化する。また、上述したように、スライダー連結部材410の第2端部はスライダー422に摺動可能に接続されている。従って、アクチュエータ482がスライダー422を移動させると、スライダー連結部材410の第2端部は移動し、スライダー422とスライダー連結部材410とがなす角度が変化する。例えば、図8に示した状態(初期状態)からアクチュエータ481が伸縮ロッド4812を伸ばすことによってスライダー421を移動させるとともにアクチュエータ482が伸縮ロッド4822を伸ばすことによってスライダー422を移動させると、スライダー連結部材410とスライダー421とスライダー422との位置関係は図11に示すようなものとなる。なお、図11では、伸縮ロッド4812が伸びた時のスライダー421の移動方向を符号51を付した矢印で表し、伸縮ロッド4822が伸びた時のスライダー422の移動方向を符号52を付した矢印で表している。以上より、使用する印刷用紙20の幅に応じてアクチュエータ481によるスライダー421の移動距離およびアクチュエータ482によるスライダー422の移動距離を制御することによって、図5のA~D部に示したように、印刷用紙20の全体への熱の照射を保ちつつ印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されるようにヒーター角度を調整することができる。
【0056】
ところで、本実施形態においては、アクチュエータ481がスライダー421を移動させる方向とアクチュエータ482がスライダー422を移動させる方向とが逆方向となるように、アクチュエータ481,482は駆動される。また、アクチュエータ481がスライダー421を移動させる距離とアクチュエータ482がスライダー422を移動させる距離とが等しくなるように、アクチュエータ481,482は駆動される。これにより、印刷用紙20の幅に関わらず印刷用紙20の幅方向についての中心が乾燥機構30内の特定の位置を通過する場合に、カーボンヒーター310の一端部分が図12のA部に示すように印刷用紙20の領域外に大きくはみ出すということが防止され、図12のB部に示すように、カーボンヒーター310の両端部分が印刷用紙20の両端部分に対応付けられる。
【0057】
ここで、図13を参照しつつ、角度調整手段4の全体構成について説明する。アクチュエータ481,482にはモータ(例えば、ステッピングモータ)が含まれているので、当該モータを駆動するための構成要素が必要となる。従って、角度調整手段4は、アクチュエータ481,482および上述したヒーター保持部材400に加えて、アクチュエータ481内のモータを駆動するモータ駆動回路471と、当該モータの目標回転量に応じた制御信号(例えば、パルス信号)をモータ駆動回路471に与えることによって当該モータ駆動回路471の動作を制御するモータ制御部(モータコントローラ)461と、アクチュエータ482内のモータを駆動するモータ駆動回路472と、当該モータの目標回転量に応じた制御信号をモータ駆動回路472に与えることによって当該モータ駆動回路472の動作を制御するモータ制御部462とを含んでいる。
【0058】
以上のような構成において、印刷が開始される際に、印刷に使用する印刷用紙20の幅の情報を含む用紙情報201に基づいて、モータ制御部461およびモータ制御部462が、それぞれ、モータ駆動回路471およびモータ駆動回路472に制御信号を与える。それによって、モータ駆動回路471およびモータ駆動回路472が、それぞれ、アクチュエータ481内のモータおよびアクチュエータ482内のモータを駆動する。これにより、スライダー421およびスライダー422が移動してヒーター角度が調整される。
【0059】
ところで、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じて定まる目標とするヒーター角度を「目標角度」というと、モータ駆動回路471およびモータ駆動回路472は、それぞれ、目標角度に応じて、アクチュエータ481内のモータおよびアクチュエータ482内のモータを駆動する。これにより、目標角度に応じて、スライダー421およびスライダー422が移動する。このようにして、アクチュエータ481,482は、ヒーター角度が目標角度に近づくようにヒーター保持部材400を作動させる。
【0060】
<4.効果>
本実施形態によれば、インクジェット印刷装置10には、印刷用紙20の搬送方向と乾燥機構30を構成するカーボンヒーター310とがなす鋭角(ヒーター角度)を調整する角度調整手段4が設けられている。このため、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じてヒーター角度を調整することにより、カーボンヒーター310の両端部分を印刷用紙20の両端部分に対応付けることができる。例えば、最も幅広の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図14のA部に示すような状態となり、比較的幅狭の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図14のB部に示すような状態となる。このように、印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されるとともに、印刷用紙20の全体への効率的な熱の照射が可能となる。以上のように、本実施形態によれば、印刷済みの印刷用紙20を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構30を備えたインクジェット印刷装置10が実現される。また、エネルギーの無駄な消費が抑制されるので、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することができる。
【0061】
<5.変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0062】
<5.1 第1の変形例>
上記実施形態においてはスライダー421およびスライダー422の双方を移動させることによってヒーター角度が調整されていたが、スライダー421およびスライダー422の一方を移動させることによってヒーター角度を調整することもできる。そこで、スライダー421のみを移動させることによってヒーター角度を調整する実施態様を第1の変形例として説明する。
【0063】
図15は、本変形例における角度調整手段4の要部を構成する角度調整機構の平面図である。図15に示すように、スライダー421に対応するアクチュエータ481は設けられているが、スライダー422に対応するアクチュエータは設けられていない。従って、スライダー421は移動することができるが、スライダー422は移動することができない。なお、スライダー連結部材410に関しては、上記実施形態と同様、第1端部はスライダー421に摺動可能に接続され、第2端部はスライダー422に摺動可能に接続されている。
【0064】
図16は、本変形例における角度調整手段4の全体構成を示すブロック図である。角度調整手段4は、カーボンヒーター310を保持するヒーター保持部材400と、ヒーター保持部材400を作動させるアクチュエータ481と、アクチュエータ481内のモータを駆動するモータ駆動回路471と、モータ駆動回路471の動作を制御するモータ制御部461とによって構成されている。
【0065】
以上のような構成において、印刷が開始される際に、印刷に使用する印刷用紙20の幅の情報を含む用紙情報201に基づいて、モータ制御部461がモータ駆動回路471に制御信号を与える。それによって、モータ駆動回路471がアクチュエータ481内のモータを駆動する。これにより、スライダー421が移動してヒーター角度が調整される。
【0066】
例えば、図15に示した状態(初期状態)からアクチュエータ481が伸縮ロッド4812を伸ばすことによってスライダー421を移動させると、スライダー連結部材410とスライダー421とスライダー422との位置関係は図17に示すようなものとなる。なお、図17では、伸縮ロッド4812が伸びた時のスライダー421の移動方向を符号53を付した矢印で表している。
【0067】
ところで、本変形例においては、スライダー422の位置は固定されている。従って、印刷用紙20の幅に関わらず印刷用紙20の幅方向についての中心が乾燥機構30内の特定の位置を通過するという構成を採用した場合には、幅狭の印刷用紙20が使用されるときにカーボンヒーター310の一端部分が印刷用紙20の領域外に大きくはみ出すこととなる。それ故、本変形例の角度調整機構を採用する場合には、印刷用紙20の幅に関わらず印刷用紙20の幅方向についての端部(スライダー422側の端部)が乾燥機構30内の特定の位置を通過するという構成を採用することが好ましい。これにより、例えば、最も幅広の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図18のA部に示すような状態となり、比較的幅狭の印刷用紙20を使用する際には複数本のカーボンヒーター310の状態は図18のB部に示すような状態となる。図18のB部から、幅狭の印刷用紙20を使用するときにも印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されるとともに印刷用紙20の全体へ効率的に熱が照射されることが把握される。
【0068】
本変形例によれば、スライダー422を移動させるアクチュエータが不要であるので、印刷済みの印刷用紙20を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構30を備えたインクジェット印刷装置10を上記実施形態と比較して低コストで実現することができる。
【0069】
<5.2 第2の変形例>
上記実施形態では、初期状態において各カーボンヒーター310の長手方向は印刷用紙20の搬送方向に対して垂直な方向であった(図4参照)。しかしながら、本発明は、これに限定されない。そこで、初期状態において各カーボンヒーター310の長手方向を印刷用紙20の搬送方向に対して平行な方向にするという実施態様を第2の変形例として説明する。
【0070】
図19は、本変形例における乾燥機構30の初期状態を示す模式図である。図19に示すように、複数本のカーボンヒーター310が印刷用紙20の搬送方向とは垂直な方向に並べて配置されている。各カーボンヒーター310の長手方向は、印刷用紙20の搬送方向に対して平行な方向となっている。
【0071】
図20は、本変形例における角度調整機構の概略斜視図である。図21は、本変形例における角度調整機構の平面図である。図22は、搬送方向下流側から本変形例における角度調整機構を見た正面図である。本変形例における角度調整機構は、それぞれの短手方向に並べて配置された複数本のカーボンヒーター310を一体的に保持するヒーター保持部材61と、当該ヒーター保持部材61を作動させるアクチュエータ62とによって構成されている。アクチュエータ62は内部にモータを含んでおり、モータが回転すると、それに応じてヒーター保持部材61も回転する。このように、アクチュエータ62は、回転軸の向きを印刷用紙20に対して垂直な方向としてヒーター保持部材61を回転させる。このとき、複数本のカーボンヒーター310は一体的に回転する。なお、回転軸の位置はヒーター保持部材61の中心にある。以上のように、アクチュエータ62がヒーター保持部材61を回転させることによって、ヒーター角度が調整される。
【0072】
本変形例においては、1つのアクチュエータ62の動作に基づいて、複数本のカーボンヒーター310が一体的に回転する。すなわち、角度調整機構に含まれているアクチュエータの数は、上記第1の変形例と同様、1個だけである。従って、本変形例における角度調整手段4の全体構成は、上記第1の変形例における角度調整手段4の全体構成と同様である(図16参照)。
【0073】
本変形例においても、印刷が開始される際に、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じて、アクチュエータ62内のモータが駆動される。これにより、複数本のカーボンヒーター310を一体的に保持するヒーター保持部材61が回転し、ヒーター角度が調整される。例えば、図23に示すように、ヒーター角度が調整される。図23に示す例では、印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されており、また、印刷用紙20の全体に効率的に熱が照射されている。
【0074】
以上のように、本変形例によっても、印刷済みの印刷用紙20を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構30を備えたインクジェット印刷装置10が実現される。
【0075】
なお、本変形例のように複数本のカーボンヒーター310を一体的に回転させる角度調整機構を採用することにより、初期状態におけるカーボンヒーター310の長手方向を、印刷用紙20の搬送方向に対して垂直な方向にすることもできるし、印刷用紙20の搬送方向に対して平行な方向にすることもできる。
【0076】
<5.3 第3の変形例>
上記実施形態においては、複数本のカーボンヒーター310のそれぞれについてのヒーター角度が、同じアクチュエータの動作に基づいて調整されていた。しかしながら、本発明は、これに限定されない。そこで、カーボンヒーター310毎にアクチュエータが設けられる実施態様を第3の変形例として説明する。
【0077】
図24は、本変形例における角度調整機構の概略斜視図である。図25は、本変形例における角度調整機構の平面図である。図26は、図25のA-A線断面図である。本変形例においては、図24図26に示す構成の角度調整機構がカーボンヒーター310毎に設けられる。従って、例えば、乾燥機構30に9本のカーボンヒーター310が含まれていれば、同様の構成の9個の角度調整機構が設けられる。
【0078】
図24図26に示すように、本変形例における角度調整機構は、1本のカーボンヒーター310を保持するヒーター保持部材71と、当該ヒーター保持部材71を作動させるアクチュエータ72とによって構成されている。アクチュエータ72は内部にモータを含んでおり、モータが回転すると、それに応じてヒーター保持部材71も回転する。このように、上記第2の変形例と同様、アクチュエータ72は、回転軸の向きを印刷用紙20に対して垂直な方向としてヒーター保持部材71を回転させる。このとき、回転軸の位置は、ヒーター保持部材71の中心(カーボンヒーター310の中心)にある。以上のように、アクチュエータ72がヒーター保持部材71を回転させることによって、ヒーター角度が調整される。なお、典型的には、複数本のカーボンヒーター310についてヒーター角度は同じ角度に調整される。
【0079】
図27は、本変形例における角度調整手段4の全体構成を示すブロック図である。なお、nを自然数として、乾燥機構30にはn本のカーボンヒーター310が含まれていると仮定する。カーボンヒーター310毎にアクチュエータ72が設けられているので、角度調整手段4は、n個のヒーター保持部材71(1)~71(n)と、n個のアクチュエータ72(1)~72(n)と、n個のモータ駆動回路73(1)~73(n)と、n個のモータ制御部74(1)~74(n)とによって構成されている。
【0080】
以上のような構成において、印刷が開始される際に、印刷に使用する印刷用紙20の幅の情報を含む用紙情報201に基づいて、モータ制御部74(1)~74(n)が、それぞれ、モータ駆動回路73(1)~73(n)に制御信号を与える。それによって、モータ駆動回路73(1)~73(n)が、それぞれ、アクチュエータ72(1)~72(n)内のモータを駆動する。これにより、ヒーター保持部材71(1)~71(n)が回転し、n本のカーボンヒーター310のそれぞれについてのヒーター角度が調整される。
【0081】
1本のカーボンヒーター310に着目すると、例えば、最も幅広の印刷用紙20を使用する際には当該カーボンヒーター310の状態は図28のA部に示すような状態となり、比較的幅狭の印刷用紙20を使用する際には当該カーボンヒーター310の状態は図28のB部に示すような状態となる。図28のB部から、幅狭の印刷用紙20を使用するときにも印刷用紙20の領域外への熱の照射が抑制されるとともに印刷用紙20の全体へ効率的に熱が照射されることが把握される。
【0082】
以上のように、本変形例によっても、印刷済みの印刷用紙20を従来よりも効率的に乾燥させることのできる乾燥機構30を備えたインクジェット印刷装置10が実現される。
【0083】
<5.4 第4の変形例>
上述したように、角度調整手段4は、印刷用紙20の幅が狭いほどヒーター角度を小さくする(図5参照)。これに関し、ヒーター角度が小さくなるにつれて、印刷用紙20に照射される熱(カーボンヒーター310から発せられた熱)のエネルギー密度が高くなる。すなわち、乾燥機構30の乾燥能力の上限を高くすることができる。乾燥能力が高くなると、印刷済みの印刷用紙20の乾燥に要する時間が短くなるので、印字速度を高くすることができる。換言すれば、搬送速度(搬送機構210が印刷用紙20を搬送する速度)を高くすることができる。そこで、印刷に使用する印刷用紙20の幅に応じて搬送速度を変化させるという実施態様を第4の変形例として説明する。
【0084】
図29は、本変形例の要部の構成について説明するためのブロック図である。このインクジェット印刷装置10には搬送速度を制御する搬送制御部150が設けられており、搬送制御部150は、印刷に使用する印刷用紙20の幅の情報を含む用紙情報201に基づいて搬送速度を制御する。なお、搬送制御部150は、印刷制御装置100で印刷制御プログラム18が実行されることによって実現される機能的構成要素である。
【0085】
搬送制御部150は、用紙情報201に基づき、印刷に使用する印刷用紙20の幅が狭いほど搬送速度を高くする。換言すれば、搬送制御部150は、角度調整手段4による調整後のヒーター角度が小さいほど搬送速度を高くする。
【0086】
本変形例によれば、印刷に使用する印刷用紙20の幅が狭いほど搬送速度(印字速度)が高められる。このため、上記実施形態と同様の効果に加え、印刷効率を高めることができるという効果が得られる。
【0087】
<6.その他>
本発明は、上記実施形態(変形例を含む)に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施形態(変形例を含む)ではライン型ヒーターとしてカーボンヒーターが採用されていたが、本発明はこれに限定されない。ライン型ヒーターとして例えばグラファイトヒーターが採用されている場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
4…角度調整手段
10…インクジェット印刷装置
20…印刷用紙
21…用紙送出部
30…乾燥機構
61,71,71(1)~71(4),400…ヒーター保持部材
62,72,72(1)~72(4),481,482…アクチュエータ
73(1)~73(4),471,472…モータ駆動回路
74(1)~74(4),461,462…モータ制御部
100…印刷制御装置(コントローラ)
200…印刷機本体
310…カーボンヒーター
320…照射口
410…スライダー連結部材
421,422…スライダー
431,432…スライド孔
441,442…摺動ピン
4812,4822…伸縮ロッド
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