IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -自動運転車両 図1
  • -自動運転車両 図2
  • -自動運転車両 図3
  • -自動運転車両 図4
  • -自動運転車両 図5
  • -自動運転車両 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004902
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】自動運転車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/00 20060101AFI20250108BHJP
   G07C 5/00 20060101ALI20250108BHJP
   G06F 11/34 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
B60W50/00
G07C5/00 Z
G06F11/34 176
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104788
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 博充
(72)【発明者】
【氏名】大杉 雅道
【テーマコード(参考)】
3D241
3E138
5B042
【Fターム(参考)】
3D241BA43
3D241BA63
3E138AA07
3E138MA01
3E138MB08
3E138MB20
3E138MC02
3E138ME04
5B042GB08
5B042JJ29
5B042MA08
5B042MC08
(57)【要約】
【課題】車両の自動運転を事後的に検証するためのデータを適切に保存すること。
【解決手段】車両はその周囲の物体を認識するためのセンサを備える。車両が備える自動運転システムは自動運転の実行時にセンサで取得されたデータを保存する。自動運転システムは車両の速度が低い場合は速度が高い場合よりもセンサで取得されたデータの保存距離を抑制する。また、データを保存可能な記憶領域の空き容量が少ない場合、自動運転システムは空き容量が多い場合よりも車両の最大速度を抑制する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転が可能な車両において、
前記車両の周囲の物体を認識するためのセンサと、
少なくとも一つのプロセッサと、
前記少なくとも一つのプロセッサに実行される複数のインストラクションを記憶した少なくとも一つのメモリと、を備え、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記自動運転の実行時に前記センサで取得されたデータを保存することと、
前記車両の速度が低い場合は前記速度が高い場合よりも前記データの保存距離を抑制することと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記データを保存可能な記憶領域の空き容量が少ない場合は前記空き容量が多い場合よりも前記車両の最大速度を抑制すること、をさらに実行させるように構成されている
ことを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両において、
前記センサは、前記車両の前方の物体を認識するための前方センサと、前記車両の後方の物体を認識するための後方センサと、を含み、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記速度が低い場合は前記速度が高い場合よりも前記前方センサで取得された前方データの保存距離を抑制することと、
前記車両が走行する複数車線道路に設定されている最大速度が低い場合は前記最大速度が高い場合よりも前記後方センサで取得された後方データの保存距離を抑制することと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする車両。
【請求項4】
請求項1に記載の車両において、
前記センサはLiDARであり、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記LiDARで取得された点群データの保存距離を前記速度に応じて変化させること、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする車両。
【請求項5】
請求項1に記載の車両において、
前記センサはカメラであり、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記カメラの画像圧縮率或いはサンプリングレートを前記速度に応じて変化させることにより、前記カメラで取得された画像データの有効距離を前記速度に応じて変化させること、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転が可能な車両に関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習モデルを利用して車両の自動運転を行う技術が知られている。特許文献1は、機械学習モデルの学習に使用可能な訓練データを収集する方法を開示している。本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特許文献1の他にも特許文献2及び特許文献3を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/116423号
【特許文献2】特許第6761002号公報
【特許文献3】国際公開第2021/241189号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の自動運転を事後的に検証するための方法として、自動運転の実行時に生成される自動運転データをログデータとして車載記憶装置に保存することが考えられる。但し、車載記憶装置の容量には限界があるため、最低限必要なログデータを保存できないような状況を回避することが望まれる。
【0005】
本開示の1つの目的は、車両の自動運転を事後的に検証するためのデータの記憶領域の空き容量のひっ迫を抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は自動運転が可能な車両を提供する。本開示の車両は車両の周囲の物体を認識するためのセンサと、少なくとも一つのプロセッサと、少なくとも一つのプロセッサにより実行される複数のインストラクションを記憶した少なくとも一つのメモリとを備える。複数のインストラクションは少なくとも一つのプロセッサに自動運転の実行時にセンサで取得されたデータを保存させ、車両の速度が低い場合は車両の速度が高い場合よりもデータの保存距離を抑制させる。
【発明の効果】
【0007】
車両の速度が低い場合は、車両の速度が高い場合よりも物体の認識を行うべき距離は短くて済む。ゆえに、車両の速度が低い場合は、車両の速度が高い場合よりも自動運転の事後的な検証を行う上で保存すべきデータの保存距離を抑制することができる。本開示の車両によれば、車両の速度に応じてデータの保存距離を抑制することにより、データの記憶領域の空き容量のひっ迫を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る車両の自動運転に関連する構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る自動運転システムの構成例を示す概念図である。
図3】実施の形態に係るデータ保存量の低減処理の第1の例を説明するための概念図である。
図4】実施の形態に係るデータ保存量の低減処理の第2の例を説明するためのフロー図である。
図5】実施の形態に係るデータ保存量の低減処理の第3の例を説明するための概念図である。
図6】実施の形態に係るデータ保存量の低減処理の第4の例を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.車両の自動運転
図1は本実施の形態に係る車両1の自動運転に関連する構成例を示すブロック図である。自動運転とは、車両1の操舵、加速、及び減速のうち少なくとも1つをオペレータによる運転操作によらず自動的に行うことである。自動運転は完全自動運転だけでなく、リスク回避制御、レーンキープアシスト制御、等も含む概念である。オペレータは車両1に搭乗するドライバであってもよいし、車両1を遠隔操作する遠隔オペレータであってもよい。
【0010】
車両1はセンサ群10、自動運転装置20、及び車両制御装置30を含んでいる。
【0011】
センサ群10は車両1の周囲の状況を認識するために用いられる認識センサ11を含んでいる。認識センサ11としては、カメラ、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。さらに、センサ群10は車両1の状態を検出する状態センサ12、車両1の位置を検出する位置センサ13、等を含んでいてもよい。状態センサ12としては、速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等が例示される。位置センサ13としては、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサが例示される。
【0012】
センサ検出情報SENはセンサ群10によって得られる情報である。例えば、センサ検出情報SENはカメラによって撮影される画像を含んでいる。他の例として、センサ検出情報SENはLiDARによって得られる点群情報を含んでいてもよい。センサ検出情報SENは車両1の状態を示す車両状態情報を含んでいてもよい。センサ検出情報SENは車両1の位置を示す位置情報を含んでいてもよい。
【0013】
自動運転装置20は、認識部21、計画部22、及び制御量算出部23を含んでいる。
【0014】
認識部21はセンサ検出情報SENを受け取る。認識部21は認識センサ11により得られる情報に基づいて、車両1の周囲の状況を認識する。例えば、認識部21は車両1の周囲の物体を認識する。物体としては、歩行者、他車両(先行車両、駐車車両、等)、白線、道路構造物(例:ガードレール、縁石)、落下物、信号機、交差点、標識、等が例示される。認識結果情報RESは認識部21による認識結果を示す。例えば、認識結果情報RESは、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す物体情報を含む。
【0015】
計画部(planner)22は認識部21から認識結果情報RESを受け取る。また、計画部22は車両状態情報、位置情報、予め生成された地図情報を受け取ってもよい。地図情報は高精度3次元地図情報であってもよい。計画部22は受け取った情報に基づいて車両1の走行計画を生成する。走行計画は予め設定された目的地に到達するためのものであってもよいし、リスクを回避するためのものであってもよい。走行計画としては、現在の走行車線を維持する、車線変更を行う、追い越しを行う、右左折を行う、操舵する、加速する、減速する、停止する、等が例示される。さらに、計画部22は車両1が走行計画に従って走行するために必要な目標トラジェクトリTRJを生成する。目標トラジェクトリTRJは目標位置及び目標速度を含んでいる。
【0016】
制御量算出部23は計画部22から目標トラジェクトリTRJを受け取る。制御量算出部23は車両1が目標トラジェクトリTRJに追従するために必要な制御量CONを算出する。制御量CONは車両1と目標トラジェクトリTRJとの間の偏差を減少させるために要求される制御量であるということもできる。制御量CONは操舵制御量、駆動制御量、及び制動制御量のうち少なくとも一つを含む。
【0017】
認識部21はルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。ルールベースモデルは予め決められたルール群に基づいて認識処理を行う。機械学習モデルとしては、NN(Neural Network)、SVM(Support Vector Machine)、回帰モデル、決定木モデル、等が例示される。NNはCNN(Convolutional Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。NNにおける各層の種類、層の数、ノード数は任意である。機械学習モデルは機械学習を通して予め生成される。認識部21はモデルにセンサ検出情報SENを入力することによって認識処理を行う。認識結果情報RESはモデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0018】
計画部22も同様に、ルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。計画部22はモデルに認識結果情報RESを入力することによって計画処理を行う。目標トラジェクトリTRJはモデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0019】
制御量算出部23も同様に、ルールベースモデル及び機械学習モデルのうち少なくとも一方を含んでいる。制御量算出部23はモデルに目標トラジェクトリTRJを入力することによって制御量算出処理を行う。制御量CONはモデルから出力される、あるいは、モデルからの出力に基づいて生成される。
【0020】
認識部21、計画部22、及び制御量算出部23のうち2以上は一体的に構成されていてもよい。認識部21、計画部22、及び制御量算出部23の全てが一体的に構成されていてもよい(End-to-End構成)。例えば、認識部21と計画部22は、センサ検出情報SENから目標トラジェクトリTRJを出力するNNにより一体的に構成されていてもよい。一体的構成の場合であっても、認識結果情報RESや目標トラジェクトリTRJといった中間生成物が出力されてもよい。例えば、認識部21と計画部22がNNにより一体的に構成される場合、認識結果情報RESはNNの中間層の出力であってよい。
【0021】
本実施の形態では、自動運転装置20を構成する認識部21、計画部22、及び制御量算出部23の少なくとも一部に機械学習モデルが利用される。すなわち、認識部21、計画部22、及び制御量算出部23のうち少なくとも1つは機械学習モデルを含んでいる。自動運転装置20は機械学習モデルを利用して車両1の自動運転のための情報処理の少なくとも一部を行う。
【0022】
車両制御装置30は操舵ドライバ31、駆動ドライバ32、及び制動ドライバ33を含んでいる。操舵ドライバ31は車輪を転舵する操舵装置に制御信号を与える。例えば、操舵装置は電動パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動ドライバ32は駆動力を発生させる駆動装置に制御信号を入力する。駆動装置としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動ドライバ33は制動力を発生させる制動装置に制御信号を与える。車両制御装置30は自動運転装置20から出力される制御量CONを受け取る。車両制御装置30は制御量CONを目標値として操舵ドライバ31、駆動ドライバ32、及び制動ドライバ33のうち少なくとも1つを動作させる。これにより、車両1が目標トラジェクトリTRJに追従するように走行する。
【0023】
図2は本実施の形態に係る自動運転システム100の構成例を示す概念図である。自動運転システム100は車両1に搭載されており、車両1の自動運転のための情報処理を行う。自動運転システム100は上述の自動運転装置20の機能を少なくとも有する。さらに、自動運転システム100はセンサ群10や車両制御装置30を含んでいてもよい。
【0024】
自動運転システム100は1又は複数のプロセッサ110(以下、単にプロセッサ110と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ110は各種処理を実行する。プロセッサ110として、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、等が例示される。認識部21、計画部22、及び制御量算出部23は単一のプロセッサ110で実現されてもよいし、別々のプロセッサ110で実現されてもよい。また、自動運転システム100が車両制御装置30を含む場合、自動運転装置20と車両制御装置30とは単一のプロセッサ110で実現されてもよいし、別々のプロセッサ110で実現されてもよい。なお、別々のプロセッサ110は異なる種類のプロセッサ110を含んでもよい。
【0025】
自動運転システム100は1又は複数の記憶装置120(以下、単に記憶装置120と呼ぶ)を含んでいる。記憶装置120としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。記憶装置120は少なくともプログラム記憶領域130、モデルデータ記憶領域140、及びログデータ記憶領域150を含む。プログラム記憶領域130、モデルデータ記憶領域140、及びログデータ記憶領域150は単一の記憶装置120で実現されてもよいし、別々の記憶装置120で実現されてもよい。なお、別々の記憶装置120は異なる種類の記憶装置120を含んでもよい。
【0026】
プログラム記憶領域130には1又は複数のプログラムが格納されている。各プログラムは複数のインストラクションから構成されている。プログラムは車両1を制御するためのコンピュータプログラムであり、プロセッサ110によって実行される。プログラムを実行するプロセッサ110と記憶装置120との協働により、自動運転システム100による各種処理が実現されてもよい。プログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0027】
モデルデータ記憶領域140には自動運転に利用されるモデルデータが格納されている。モデルデータは認識部21、計画部22、及び制御量算出部23に含まれるモデルのデータである。上述の通り、本実施の形態では、認識部21、計画部22、及び制御量算出部23のうち少なくとも1つは機械学習モデルを含んでいるが、それらは既に訓練済みである(以下、機械学習モデルとは訓練済みの機械学習モデルを意味する)。機械学習モデルのパラメータはモデルデータに含まれる。
【0028】
ログデータ記憶領域150には自動運転の実行時に生成される自動運転データがログデータとして保存される。自動運転データは機械学習モデルを利用した自動運転に関連するデータである。自動運転データは機械学習モデルに入力された入力データ、機械学習モデルによる計算過程で得られる途中計算データ、及び機械学習モデルの出力に基づき実行された車両制御の制御データを含む。入力データはセンサ検出情報SENを含む。途中計算データは認識部21から出力される認識結果情報RES、計画部22から出力される目標トラジェクトリTRJ、及び制御量算出部23から出力される制御量CONの少なくとも1つを含む。途中計算データは認識部21による認識処理における判断の理由を含んでいてもよい。制御データは操舵ドライバ31から操舵装置に与えられる制御信号、駆動ドライバ32から駆動装置に与えられる制御信号、及び制動ドライバ33から制動装置に与えられる制御信号の少なくとも1つを含む。ログデータ記憶領域150にログデータとして記憶された自動運転データは、自動運転の事後的な検証に利用される。
【0029】
管理サーバ200は車両1の外部に存在する外部装置である。管理サーバ200は通信ネットワークを介して1又は複数の車両1と通信を行う。自動運転の最中、あるいは、自動運転の終了後、車両1のプロセッサ110はログデータ記憶領域150に保存されたログデータの少なくとも一部を管理サーバ200にアップロードしてもよい。プロセッサ110は管理サーバ200にアップロードしたログデータをログデータ記憶領域150から消去してもよい。
【0030】
管理サーバ200はデータベース220を有している。管理サーバ200は1又は複数の車両1からアップロードされるログデータを取得する。そして、管理サーバ200は取得したログデータをデータベース220に保管する。管理サーバ200は少なくとも所定期間、ログデータを保管する。ログデータは機械学習モデルを利用した自動運転の検証に利用される。
【0031】
2.自動運転データの適切な保存
機械学習モデルを利用した自動運転を高い確度で検証するためには、自動運転に関連する全ての自動運転データを保存したい。しかし、ログデータ記憶領域150の容量は有限である。このため、常に全ての自動運転データを保存しようとすると、自動運転の途中でログデータ記憶領域150が満杯になってしまう可能性がある。ログデータ記憶領域150が満杯になった場合、それ以降の自動運転において取得された自動運転データは保存することができない。
【0032】
機械学習モデルを利用した自動運転を検証する上で大事なことは、検証に必要な最低限のログデータを自動運転の開始から終了までの全ての期間にわたって残すことである。勿論、ログデータ記憶領域150の空き容量に余裕があるのであれば、自動運転に関連する全ての自動運転データをログデータとして保存しておくことが好ましい。
【0033】
本実施の形態では、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫を抑えるため、ログデータ記憶領域150に保存するデータを自動運転の検証に必要な分に限定することによってデータ保存量を低減することが行われる。本実施の形態では、機械学習モデルに入力されるセンサ検出情報SENがデータ保存量の低減の対象とされている。より詳しくは、認識センサ11によって取得されるデータがデータ保存量の低減の対象とされている。認識センサ11によって取得されるデータはセンサ検出情報SENに占めるデータ量の割合が特に大きい。また、認識センサ11によって取得されるデータの全てが自動運転に用いられるわけではない。ゆえに、認識センサ11によって取得されるデータをデータ保存量の低減の対象とすることで、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫を抑える効果を大きくすることができる。
【0034】
モデルデータ記憶領域140に記憶されたプログラムには、プロセッサ110にログデータ記憶領域150に記憶する認識センサデータのデータ量を低減させるためのインストラクションが含まれる。それらインストラクションがプロセッサ110によって実行されることにより、以下に例示するようなデータ保存量の低減処理がプロセッサ110により実行される。
【0035】
2-1.第1の例
データ保存量の低減処理の第1の例では、認識センサ11として車両1の前方を走査するLiDARが備えられている。そして、LiDARにより取得される点群データがデータ保存量の低減の対象とされている。
【0036】
第1の例では、保存する点群データか保存しない点群データかを区別するための判断において車両1の車速が参照される。車速が低速であるならば、車両1の動きに影響を及ぼす物体は近傍の物体に限られることが想定される。ゆえに、認識を行うべき物体を車両1の近くの物体に限定することができるので、車両1の近傍の点群データを優先して保存することが行われる。一方、車速が高速であるならば、車両1の動きは近傍の物体だけでなく遠くの物体からも影響を受けることが想定される。ゆえに、認識を行うべき物体には車両1の近くの物体だけでなく遠くの物体も含まれるので、車両1の近傍の点群データに加えて遠方の点群データも保存することが行われる。
【0037】
車速が低速か高速かは車速と閾値との比較によって判定される。車速の閾値は任意に設定することができる。例えば、法定の最大速度が60km/hであるならば、その半分の30km/hを閾値としてもよい。
【0038】
第1の例では、車速が閾値以上か否かによって点群データを保存する保存距離を切り替えることが行われる。車速が閾値以上であれば保存距離は大きくされ、車速が閾値未満であれば保存距離は小さくされる。保存距離とはログデータ記憶領域150にデータを記憶される点群のうち車両1から最遠の位置にある点群の距離を意味する。ゆえに、点群データのうち保存距離以下の距離にある点群のデータは保存されるが、保存距離を超える距離にある点群のデータは保存されない。車速が閾値以上の場合の保存距離としては80mを例示することができる。車速が閾値未満の場合の保存距離としては20~30mを例示することができる。
【0039】
図3は第1の例を説明するための概念図である。図3には、LiDARにより取得される点群データPCDのイメージが描かれている。また、車速が閾値以上の場合にログデータ記憶領域150に保存される点群データLOG1のイメージが描かれている。また、車速が閾値以上の場合にログデータ記憶領域150に保存される点群データLOG2のイメージが描かれている。これらのイメージに表されているように、車速に応じて点群データの保存距離を抑制することにより、ログデータ記憶領域150の記憶領域の空き容量のひっ迫を抑えることができる。
【0040】
なお、第1の例では車速が閾値以上か否かによって点群データの保存距離を切り替えているが、車速に連動して点群データの保存距離を連続的に変化させるようにしてもよい。例えば、車両が所定時間の間に進む距離をデータの保存距離としてもよい。具体例として所定時間を3秒とする場合、車速が54km/hであるなら点群データの保存距離を45mとし、車速が18km/hであるなら点群データの保存距離を15mとしてもよい。
【0041】
また、点群データの保存距離に対して最小保存距離を設定してもよい。車両1が停車するのに必要な距離を最小保存距離とすることができる。例えば車速ゼロであるとき、車両1が発進してから急ブレーキで停車するまでに5mを要するのであれば、5mを最小保存距離としてもよい。
【0042】
2-2.第2の例
データ保存量の低減処理の第2の例では、第1の例と同様に、認識センサ11として車両1の前方を走査するLiDARが備えられている。そして、第1の例と同様に、LiDARにより取得される点群データがデータ保存量の低減の対象とされている。
【0043】
第2の例では、第1の例に係るデータ保存量の低減処理に加えて、ログデータ記憶領域150の空き容量に応じて最大車速を制限することが行われる。最大車速を制限することで、車速は強制的に抑制される。車速が抑制されれば、認識すべき物体の車両1からの距離は短くなり、点群データの保存距離は抑えられる。第2の例に係るデータ保存量の低減処理では、ログデータ記憶領域150の空き容量が少ない場合には、最大車速を抑制して点群データの保存距離を強制的に抑制することで、空き容量のひっ迫をより効果的に抑えることができる。
【0044】
第2の例では、ログデータ記憶領域150の空き容量が閾値以上か否かによって最大車速を切り替えることが行われる。空き容量が閾値以上であれば最大車速は大きくされ、空き容量が閾値未満であれば最大車速は小さくされる。例えば、空き容量が閾値以上の場合、最大車速は法定の最大速度に設定してもよい。また、空き容量が閾値未満の場合、最大車速は法定の最大速度よりも低い所定速度に設定してもよい。空き容量の閾値は任意の容量に設定してもよい。例えば、ログデータ記憶領域150の最大容量の半分の容量を閾値として設定してもよい。所定速度は任意の速度に設定してもよい。例えば、法定の最大速度の半分の速度を所定速度として設定してもよい。
【0045】
図4は第2の例を説明するためのフロー図である。第2の例では、このフロー図に示す手順に従ってデータ保存量の低減処理が行われる。フロー図におけるステップS11乃至S13はログデータ記憶領域150の空き容量に応じて最大車速を制限する処理である。この処理の後に実行されるステップS21乃至S23は、第1の例に係るデータ保存量の低減処理と共通の処理である。
【0046】
ステップS11では、ログデータ記憶領域150の空き容量が閾値以上か否か判定される。空き容量が閾値以上の場合、ステップS12において最大車速は法定の最大速度に設定される。空き容量が閾値未満の場合、ステップS13において最大車速は法定の最大速度よりも低い所定速度に設定される。そして、ステップS12又はステップS13の後にステップS21が実行される。
【0047】
ステップS21では、車速が閾値以上か否か判定される。車速が閾値以上の場合、ステップS22において点群データの保存距離は大きい値に設定される。車速が閾値未満の場合、ステップS23において点群データの保存距離は小さい値に設定される。ログデータ記憶領域150の空き容量が閾値未満の場合、最大車速が抑制されることによって車速が閾値未満となる確率は上昇する。その結果、空き容量が閾値以上の場合よりも高い確率で車速が閾値未満となるので、点群データの保存距離は小さくされやすくなり、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫は抑えられる。
【0048】
なお、第2の例ではログデータ記憶領域150の空き容量が閾値以上か否かによって最大車速を切り替えているが、空き容量に連動して最大車速を連続的に変化させるようにしてもよい。例えば、空き容量が所定容量の場合には最大車速を法定の最大速度に設定し、空き容量が所定容量未満の場合には所定容量との差分に比例して法定の最大速度に対する速度制限量を設定してもよい。
【0049】
2-3.第3の例
データ保存量の低減処理の第3の例では、認識センサ11として車両1の前方を走査する前方LiDARが備えられている。また、認識センサ11として車両1の後方を走査する後方LiDARも備えられている。そして、第3の例では、前方LiDARにより取得される前方の点群データ(以下、前方データと呼ぶ)と、後方LiDARにより取得される後方の点群データ(以下、後方データと呼ぶ)とがデータ保存量の低減の対象とされている。
【0050】
第3の例では、車両1が複数車線道路を走行している場合に、その道路に設定されている法定の最大速度に応じて後方データのデータ保存距離を抑制することが行われる。車両1が複数車線道路を走行する場合、車両1が車線変更を行う可能性が有る。車線変更では後方の車両の動きに注目する必要があるから、後方データの保存距離は道路に設定されている最大速度に合わせることが望ましい。その最大速度が低い場合は高い場合よりも後方データの保存距離を抑制することで、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫を抑えることができる。
【0051】
第3の例では、法定の最大速度が閾値以上か否かによって後方データのデータ保存距離を切り替えることが行われる。法定の最大速度が閾値以上であれば後方データのデータ保存距離は大きくされ、法定の最大速度が閾値未満であれば後方データのデータ保存距離は小さくされる。法定の最大速度の閾値は任意の速度に設定してもよい。また、後方データのデータ保存距離は任意の距離に設定してもよい。
【0052】
図5は第3の例を説明するための概念図である。図5には、データ保存距離の設定に関してケースAからケースDまでの4つのケース描かれている。各ケースには、車両1が複数車線道路を走行している場合に前方LiDAR11Fにより取得される前方データのデータ保存距離と、後方LiDAR11Rにより取得される後方データのデータ保存距離とが示されている。
【0053】
ケースAは法定の最大速度が閾値以上であり、車速が閾値以上であるケースを示している。ケースAでは、前方データのデータ保存距離は大きくされ、後方データのデータ保存距離は大きくされる。
【0054】
ケースBは法定の最大速度が閾値以上であり、車速が閾値未満であるケースを示している。ケースBでは、前方データのデータ保存距離は小さくされ、後方データのデータ保存距離は大きくされる。
【0055】
ケースCは法定の最大速度が閾値未満であり、車速が閾値以上であるケースを示している。ケースCでは、前方データのデータ保存距離は大きくされ、後方データのデータ保存距離は小さくされる。
【0056】
ケースDは法定の最大速度が閾値未満であり、車速が閾値未満であるケースを示している。ケースDでは、前方データのデータ保存距離は小さくされ、後方データのデータ保存距離は小さくされる。
【0057】
なお、第4の例では法定の最大速度が閾値以上か否かによって後方データの保存距離を切り替えているが、法定の最大速度に連動して後方データの保存距離を変化させるようにしてもよい。例えば、法定の最大速度が10km/h高くなれば後方データの保存距離を10m長くし、法定の最大速度が10km/h低くなれば後方データの保存距離を10m短くするようにしてもよい。
【0058】
2-4.第4の例
データ保存量の低減処理の第4の例では、認識センサ11として車両1の前方を撮影するカメラが備えられている。そして、カメラにより取得される画像データがデータ保存量の低減の対象とされている。
【0059】
カメラの画像圧縮率を大きくすることやサンプリングレートを疎にすることは、画像データのデータ量を抑える典型的な方法である。また、画像圧縮率を大きくすることやサンプリングレートを疎にすることで、画像データの有効距離は短くなる。ゆえに、カメラの画像圧縮率を大きくすることやサンプリングレートを疎にすることは、画像データのデータ保存距離を抑制することと実質的に等価である。
【0060】
第3の例では、車速が閾値以上か否かによってカメラの画像圧縮率を切り替えることが行われる。車速が閾値以上であれば画像圧縮率は小さくされ、車速が閾値未満であれば画像圧縮率は大きくされる。画像圧縮率に代えてカメラのサンプリングレートを用いてもよい。その場合、車速が閾値以上であればサンプリングレートは密にされ、車速が閾値未満であればサンプリングレートは疎にされる。
【0061】
図6は第4の例を説明するためのフロー図である。第4の例では、このフロー図に示す手順に従ってデータ保存量の低減処理が行われる。フロー図におけるステップS11乃至S13は、第2の例で説明した通り、ログデータ記憶領域150の空き容量に応じて最大車速を制限する処理である。この処理の後に実行されるステップS31乃至S33は、車速に応じてカメラの画像圧縮率を大きくする処理である。
【0062】
第4の例では、ステップS12又はステップS13の後にステップS31が実行される。ステップS31では、車速が閾値以上か否か判定される。車速が閾値以上の場合、ステップS32において画像圧縮率は小さい値に設定される。車速が閾値未満の場合、ステップS33において画像圧縮率は大きい値に設定される。ログデータ記憶領域150の空き容量が閾値未満の場合、最大車速が抑制されることによって車速が閾値未満となる確率は上昇する。その結果、空き容量が閾値以上の場合よりも高い確率で車速が閾値未満となるので、画像圧縮率は大きくされやすくなり、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫は抑えられる。
【0063】
なお、第4の例では車速が閾値以上か否かによって画像圧縮率を切り替えているが、車速に連動して画像圧縮率を連続的に変化させるようにしてもよい。同様に、車速に連動してサンプリングレートを連続的に変化させるようにしてもよい。
【0064】
2-5.第5の例
上述の第1~第4の例のうち2以上の組み合わせも可能である。例えば、第3の例は第2の例と組み合わされてもよい。つまり、ログデータ記憶領域150の空き容量に応じて最大車速を制限する処理と、車速に応じて前方データの保存距離を制限する処理と、法定の最大速度に応じて後方データの保存距離を制限する処理とを組み合わせてもよい。
【0065】
また、第4の例は第3の例と組み合わされてもよい。つまり、ログデータ記憶領域150の空き容量に応じて最大車速を制限する処理と、車速に応じて前方カメラの画像圧縮率を大きくする処理と、法定の最大速度に応じて後方カメラの画像圧縮率を大きくする処理とを組み合わせてもよい。この組み合わせにおいても、画像圧縮率を大きくすることに代えてサンプリングレートを疎にすることを用いてもよい。
【0066】
なお、認識結果情報RESに含まれる物標が壁のみの場合、そのとき取得された点群データや画像データは自動運転の事後的な検証における有用性が低い。ゆえに、上記の各例において、壁のみが認識されたときの点群データや画像データは距離に関わらず保存しないようにしてもよい。そうすることで、ログデータ記憶領域150の空き容量のひっ迫をより効果的に抑えることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…車両、10…センサ群、11…認識センサ、20…自動運転装置、21…認識部、22…計画部、23…制御量算出部、30…車両制御装置、100…自動運転システム、120…記憶装置、150…ログデータ記憶領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6