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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004934
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】農業用ハウス洗浄剤とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/54 20060101AFI20250108BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C11D7/54
C11D7/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104847
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 潤
(72)【発明者】
【氏名】永松 ゆきこ
(72)【発明者】
【氏名】外間 久美子
(72)【発明者】
【氏名】李 峰宇
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003BA09
4H003BA12
4H003DA20
4H003EB14
4H003ED02
4H003EE09
4H003FA01
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】ブラッシングが不要で簡単に汚れを落とすことのでき、かつ、栽培作物に対して、薬害が少ない農業用ハウス洗浄剤とその製造方法を提供する。
【解決手段】ジクロロイソシアヌル酸塩を0.1質量%以上2.0質量%未満、エタノールアミンを0.5質量%以上20質量%未満で含有することを特徴とする農業用ハウス洗浄剤とその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロイソシアヌル酸塩を0.1質量%以上2.0質量%未満、エタノールアミンを0.5質量%以上20質量%未満で含有することを特徴とする農業用ハウス洗浄剤。
【請求項2】
エタノールアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の農業用ハウス洗浄剤。
【請求項3】
ジクロロイソシアヌル酸塩を固体で供給し、エタノールアミンを液体で供給し、これらを農業用ハウス洗浄剤として用いる直前に水に溶解することを特徴とする請求項1または2記載の農業用ハウス洗浄剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の農業用ハウス洗浄剤を農業用ハウスに噴霧する農業用ハウスの洗浄方法。
【請求項5】
以下の成分(A)および(B)を備える農業用ハウス洗浄剤キット。
(A)固体のジクロロイソシアヌル酸塩
(B)液体のエタノールアミン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスの洗浄剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウスは、使用状況にもよるが、一般に2~3年で汚れが蓄積し、太陽光の透過率が減少する。その結果、栽培作物の生育に悪影響を及ぼし、生育不良、徒長、収穫量の減少等の弊害をもたらす。従来、このような汚れに対しては、ブラッシングにより洗浄するか、または廃棄して新しいフィルムに張り替えることで対処してきた。
【0003】
特許文献1には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルと次亜塩素酸アルカリを含有する洗浄剤の水溶液をプラスチックハウスのフィルム表面に均斉にスプレーして、放置後ブラッシングしつつ噴射水で水洗する農業用ハウスの洗浄法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の水溶性溶剤とアルカリ剤から成り、更にこれに界面活性剤や、次亜塩素酸またはその塩を加えた農業施設用洗浄剤組成物と、これを農業用施設に適用した後、ブラシを用いずに水流により汚れを除去する洗浄方法が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、噴霧後水流だけで花粉等の汚れが落ちる次亜塩素酸ナトリウムと界面活性剤から成る農業用ハウス洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-160179号公報
【特許文献2】特開2001-355000号公報
【特許文献3】特開2002-256290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
農業用ハウスのブラッシングによる洗浄は、特に大規模な農業用ハウスでは4~5日を要する労力、手間のかかる作業であり、一方、新しいフィルムへの張り替えは、多額のコストを要する。
【0008】
3つの特許文献に共通する薬剤として、次亜塩素酸ナトリウムを始めとする次亜塩素酸またはその塩が開示されている。特許文献2には、請求項1にグリコール類を代表とする水溶性溶剤が開示されている。次亜塩素酸またはその塩、並びにグリコール類を用いた農業用ハウス洗浄剤は、誤って栽培作物にかかった場合に、作物に薬害をもたらしやすく、最悪の場合、枯死につながることがある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ブラッシングが不要で簡単に汚れを落とすことのでき、かつ、栽培作物に対して、薬害が少ない農業用ハウス洗浄剤と使用法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ジクロロイソシアヌル酸塩とエタノールアミンを特定の量で含有する洗浄剤が、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、ジクロロイソシアヌル酸塩0.1質量%以上2.0質量%未満、エタノールアミン0.5質量%以上20質量%未満で含有することを特徴とする農業用ハウス洗浄剤である。
【0012】
また、本発明は、ジクロロイソシアヌル酸塩を固体で供給し、エタノールアミンを液体で供給し、農業用ハウス洗浄剤として用いる直前に水に溶解することを特徴とする上記農業用ハウス洗浄剤の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、上記農業用ハウス洗浄剤を農業用ハウスに噴霧する農業用ハウスの洗浄方法である。
【0014】
また更に、本発明は以下の成分(A)および(B)を備える農業用ハウス洗浄剤キットである。
(A)固体のジクロロイソシアヌル酸塩
(B)液体のエタノールアミン
【発明の効果】
【0015】
本発明の農業用ハウス洗浄剤によれば、農業用ハウス表面に蓄積した汚れをブラッシングなしに容易に取り除けると共に、万一栽培作物にかかっても、薬害の発生は少ない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の農業用ハウス洗浄剤は、ジクロロイソシアヌル酸塩を0.1質量%以上2.0質量%未満、エタノールアミンを0.5質量%以上20質量%未満で含有するものである。
【0017】
本発明で用いられるジクロロイソシアヌル酸は、化学名は、1,3-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオンである。本発明においては、ジクロロイソシアヌル酸の塩が用いられる。塩の金属種としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が考えられるが、水に対する溶解度や工業製品の入手のしやすさから、ナトリウムが最も好ましく用いられる。本発明においては、ジクロロイソシアヌル酸塩は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
なお、ジクロロイソシアヌル酸塩に代えてトリクロロイソシアヌル酸塩を用いることができるが、ジクロロイソシアヌル酸塩に比べて、水への溶解度が低く、相対的に洗浄効果が劣るため好ましくない。ジクロロイソシアヌル酸塩は、水に溶解すると、分解反応により塩素を発生し、有機物を酸化分解することにより、洗浄効果を発揮する。農業用ハウス表面の汚れのうち、特に、花粉、アオミドロ、排気ガスに含まれる油分等に対して有効である。このジクロロイソシアヌル酸は、農業用ハウス洗浄剤の成分として、しばしば使われる次亜塩素酸塩と比べて、栽培作物に対する薬害性が極めて小さい。
【0019】
本発明で用いられるエタノールアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いることができる。このうち、土中での生分解性速度や、工業製品の入手のしやすさから、モノエタノールアミンを用いることが望ましい。これらエタノールアミンは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
エタノールアミンは、油脂やタンパク質の汚れを分解すると共に、その分解残渣、およびジクロロイソシアヌル酸塩が酸化分解した分解残渣が、水分の蒸発に伴い農業用ハウス表面に固着するのを防ぎ、後の水洗で容易に汚れを洗い流すのに効果を発揮する。また、栽培作物に対する薬害性が小さく、環境中での生分解性が非常に速い。
【0021】
本発明の農業用ハウス洗浄剤は、ジクロロイソシアヌル酸塩とエタノールアミンの水中での濃度を上記範囲にすることにより調製できる。
【0022】
本発明の農業用ハウス洗浄剤におけるジクロロイソシアヌル酸塩の濃度は、0.1質量%(以下、単に「%」という)以上2.0%未満、好ましくは、0.5%以上1.5%未満の範囲である。かかる範囲より低い場合は、十分な洗浄効果が得られず、逆に高い場合は、ジクロロイソシアヌル酸塩の分解残渣であるイソシアヌル酸が水に対する溶解度が低いために経時的に析出し、外観上好ましくないばかりか、最悪の場合、洗浄液を農業用ハウスに散布するための道具である高圧洗浄機や動力噴霧器のノズルに詰まることがある。
【0023】
一方、本発明の農業用ハウス洗浄剤におけるエタノールアミンの濃度は、0.5%以上20%未満、好ましくは2.0~15%未満である。かかる範囲より低い場合には、十分な洗浄効果が得られず、高い場合には、万一栽培作物にかかった場合に薬害を発生することがある。
【0024】
また、本発明の農業用ハウス洗浄剤は、上記成分の他に、農業用ハウスへの洗浄液の濡れ性を高めるために、0.1~5.0%の界面活性剤を添加しても構わない。界面活性剤には、特に限定はなく、ノニオン、アニオン、カチオンの一般的なものを用いることができる。また、垂直面への洗浄液の保持性を高めるために、増粘剤や起泡性の高いベタイン系やアミンオキシド系の界面活性剤を適量添加してもよい。更には、油脂やタンパク質による汚れの分解を促進するために、0.5%未満の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリ剤を添加することもできる。アルカリ剤がかかる範囲を上回ると、洗浄液が栽培作物にかかった場合に薬害が発生することがある。これら界面活性剤、増粘剤、アルカリ剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の農業用ハウス洗浄剤は、上記成分を含有していればよいが、時間の経過により洗浄効果が低下することがあるため、ジクロロイソシアヌル酸塩を固体で供し、エタノールアミンを液体で供し、これらを農業用ハウス洗浄剤として用いる直前(農業用ハウスを洗浄する直前)に、水に溶解して調製することが洗浄効果の点から重要である。
【0026】
ここで、直前とは、気温や水質にもよるが、概ね農業用ハウス洗浄剤を用いる6時間前までを指す。6時間を超えると、ジクロロイソシアヌル酸塩の分解が進み過ぎ、洗浄効果が低下することがある。
【0027】
上記を達成するためには、以下の農業用ハウス洗浄剤キットを利用し、用いる直前に水に溶解して本発明の農業用ハウス洗浄剤を製造することが好ましい。各キットには、水に溶解した際に上記濃度範囲になるような量で成分(A)~(C)を含有させればよい。また、各成分はそれぞれ別の容器に封入し、それをキットとして袋等に入れて一まとめにすることが好ましい。また、キットに含有させる各成分の量は、1回分でもよいし複数回分をまとめた量であってもよい。
【0028】
(1)以下の成分(A)および(B)を備える農業用ハウス洗浄剤キット。
(A)固体のジクロロイソシアヌル酸塩
(B)液体のエタノールアミン
【0029】
(2)以下の成分(A)~(C)を備える農業用ハウス洗浄剤キット。
(A)固体のジクロロイソシアヌル酸塩
(B)液体のエタノールアミン
(C)界面活性剤、増粘剤およびアルカリ剤から選ばれる1種または2種以上
【0030】
本発明の農業用ハウス洗浄剤は、上記の様にして洗浄剤を調製した後、汚れが蓄積した農業用ハウスに噴霧して洗浄する。噴霧するための道具としては、例えば、動力噴霧器、ドローン、ジョウロ等が挙げられる。噴霧量としては、農業用ハウスの表面が均一に濡れれば良く、100~500ml/m、標準的には200ml/m前後が適当である。噴霧した後、降雨等でも汚れが落ちることがあるが、数分から数日内に水洗することが望ましい。水洗は、高圧洗浄機、動力噴霧器、ホースによる散水等で行われる。水流の強度としては、手元圧力0.1~6.0MPaで行われることが望ましく、かかる範囲より低いと、汚れが落ちにくいことがあり、高いと農業用ハウスを破損する場合がある。この時、基本的にブラッシングは不要であるが、必要に応じて行ってもよい。
【0031】
本発明の対象となる農業用ハウスは、特に限定されないが、例えば、ビニールハウス、硬質フィルムハウス、ガラス温室等が挙げられる。さらには、その他農業用施設や、一般の家屋の外壁や屋外部の床面に用いることができる。
【実施例0032】
以下、本発明を本発明の実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1~6、比較例1~6
農業用ハウス洗浄剤の調製および試験:
表1に示す配合の農業用ハウス洗浄剤の洗浄性と薬害性を評価した。配合の残部は水である。
(1) 洗浄剤の調製
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(四国化成(株)製、ネオクロール60)と、モノエタノールアミン(東京化成(株)製、試薬)、または、ジエタノールアミン(同)を 所定量水に溶解し、洗浄剤を調製した。調製1時間後に、洗浄剤を農業用ハウスに噴霧した。
比較例の次亜塩素酸ナトリウム12%水溶液(東京化成(株)製、試薬)、エチレングリコールモノブチルエーテル(別名ブチルカルビトール、東京化成(株)製、試薬)も同様に調製した。次亜塩素酸ナトリウムについては、有効成分が1.2%になるように配合した。
(2) 洗浄方法
使用年数3年が経過し、アオミドロ、花粉、砂塵等が付着したビニールハウスの上面部分2mに、洗浄剤を動力噴霧器(工進社製 背負い式手動噴霧器、タンク 10L、グランドマスターRW-10DX)を用い、400ml(200ml/m)噴霧した。1時間後、同じ動力噴霧器で、手元圧力1.0MPaで特にブラッシングをせずに水洗を行った。
(3)洗浄性評価方法
水洗後の農業用ハウスを目視により観察し、以下の基準で3段階評価を行った。
(評価)(内容)
〇:完全に汚れが落ちている。
△:やや汚れが残る。
×:汚れがかなり残る。
(4)薬害性評価方法
500mlのポットに鉢上げし、25~30cmの高さに育ったトマトの株元に洗浄剤30mlを灌注し、5日後に、株の様子を目視により観察し、以下の基準で4段階評価を行った。
(評価)(内容)
〇:ほぼ萎れなし
△:全体の2~4割程度に萎れ発生
×:全体の5割以上に萎れ発生
××:枯死
【0034】
【表1】
【0035】
本発明の実施例の農業用ハウス洗浄剤は、特定の範囲でジクロロイソシアヌル酸塩と、エタノールアミンを含有することにより、比較例と比べて洗浄性が高く、薬害性が低いものであった。なお、本発明の実施例の農業用ハウス洗浄剤は調製後、8時間程度経過すると洗浄性が低下する場合があることが分かった。そのため、本発明の農業用ハウス洗浄剤は、使用直前に調製して、すぐに洗浄に用いると良いことが分かった。
【0036】
実 施 例 7
農業用ハウス洗浄剤キット:
以下の成分(A)および(B)をそれぞれ容器に入れた農業用ハウス洗浄剤キットを製造した。
(A)固体のジクロロイソシアヌル酸ナトリウム 120g
(B)液体のモノエタノールアミン 500ml(505g)
【0037】
このキットの成分(A)および(B)を水10Lに溶解して農業用ハウス洗浄剤を調製した。本洗浄液中に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは1.2%、モノエタノールアミンは5.1%含有することになる。その後、動力噴霧器を用いてすぐに農業用ハウスに噴霧した。更に1時間後に動力噴霧器を用いて水を噴霧して農業用ハウスを特にブラッシングをすることなく洗浄した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の農業用ハウス洗浄剤は農業用ハウスの洗浄に利用可能である。