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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004941
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】固体電池観察用治具
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20250108BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20250108BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20250108BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N1/28 W
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104855
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東出 光正
(72)【発明者】
【氏名】朝河 和亮
【テーマコード(参考)】
2G043
2G052
5H029
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043DA06
2G043EA03
2G043FA02
2G043KA09
2G052DA13
2G052GA11
2G052GA32
5H029AJ14
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】顕微ラマン分光装置を用いて固体電池を適正に観察する。
【解決手段】固体電池観察用治具1は、容器10、保持部20及び石英ガラス30を含む。容器10は、第1内部空間11を有する。保持部20は、固体電池100を保持し、第1内部空間11に収容される。石英ガラス30は、保持部20に保持される固体電池100と対向するように配置される。容器10は、保持部20に保持される固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200を、第1内部空間11に導入して流通させるための流路14を備える。固体電池観察用治具1によれば、顕微ラマン分光装置を用いた観察において、所定のガス200の流通によって外気が固体電池100に及ぼす影響が抑えられると共に、石英ガラス30を通して固体電池100からの散乱光が精度良く検出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1内部空間を有する容器と、
固体電池を保持し、前記第1内部空間に収容される保持部と、
前記保持部に保持される前記固体電池と対向するように配置される石英ガラスと、
を含み、
前記容器は、前記保持部に保持される前記固体電池に対して低活性又は不活性のガスを、前記第1内部空間に導入して流通させるための流路を備える、固体電池観察用治具。
【請求項2】
前記容器は、前記保持部に保持される前記固体電池と電気的に接続されるプローブを更に備える、請求項1に記載の固体電池観察用治具。
【請求項3】
前記容器の、前記石英ガラス側に配置され、前記保持部に保持される前記固体電池と対向する開口部を有するリッド部を更に含み、
前記石英ガラスは、前記開口部と前記固体電池との間に介在される、請求項1に記載の固体電池観察用治具。
【請求項4】
前記容器の、前記石英ガラス側とは反対側に配置され、前記ガスの導入口、及び、前記導入口と前記流路とを連通する第2内部空間を有するベース部を更に含む、請求項1に記載の固体電池観察用治具。
【請求項5】
前記ベース部の前記導入口に、前記ガスの導入を調整する弁が接続される、請求項4に記載の固体電池観察用治具。
【請求項6】
前記固体電池は、積層された電極層及び電解質層を有し、前記電極層及び前記電解質層が積層される面が前記石英ガラスと対向するように、前記保持部に保持される、請求項1に記載の固体電池観察用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池観察用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の固定治具で挟み込んだ全固体電池を、透明窓を設けた気密性を有する観察容器内に配置し、透明窓を介して水銀ランプや白色光源等による照明光を入射し、充放電中の全固体電池を顕微鏡観察する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、試料室を見通すガラス等の観察窓材を備えた観察試料密閉容器を用い、ラマン顕微鏡観察を行う技術が知られている(特許文献2)。
また、全固体電池をエポキシ樹脂等の樹脂に包埋した状態で研磨し、研磨された断面についてアルゴンレーザーを用いてラマン分光分析を行う技術が知られている(特許文献3)。
【0004】
また、in situラマン分光分析のために、リチウムイオン電池のコインセルに石英光学窓を適用する技術が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-212163号公報
【特許文献2】特開2012-233707号公報
【特許文献3】国際公開第2021/095757号パンフレット
【特許文献4】特開2022-523977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
顕微ラマン分光装置を用いて固体電池の状態を観察する場合、当該固体電池を保持するために使用する治具の構成によっては、固体電池を適正に観察すること、例えば、所定の雰囲気中における固体電池或いは充電時又は放電時の固体電池から散乱される光を適正に検出することができない場合があった。
【0007】
1つの側面では、本発明は、顕微ラマン分光装置を用いて固体電池を適正に観察することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、第1内部空間を有する容器と、固体電池を保持し、前記第1内部空間に収容される保持部と、前記保持部に保持される前記固体電池と対向するように配置される石英ガラスと、を含み、前記容器は、前記保持部に保持される前記固体電池に対して低活性又は不活性のガスを、前記第1内部空間に導入して流通させるための流路を備える、固体電池観察用治具が提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、顕微ラマン分光装置を用いて固体電池を適正に観察することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】固体電池観察用治具の構成例について説明する図(その1)である。
図2】固体電池観察用治具の構成例について説明する図(その2)である。
図3】固体電池観察用治具の構成例について説明する図(その3)である。
図4】固体電池の充放電特性を測定した結果の一例を示す図である。
図5】固体電池観察用治具内のガスの影響を測定した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1から図3は固体電池観察用治具の構成例について説明する図である。図1には、固体電池観察用治具の要部分解斜視図を模式的に示している。図2には、固体電池観察用治具の要部外観斜視図を模式的に示している。図3には、図2のIII-III断面図を模式的に示している。
【0012】
図1から図3に示す固体電池観察用治具1は、顕微ラマン分光装置を用いて固体電池100を観察(顕微ラマン分光測定)するために用いられる治具の一例である。
尚、図1から図3には、観察対象の固体電池100が固体電池観察用治具1にセットされている状態の例を模式的に図示している。
【0013】
ここで、固体電池観察用治具1にセットされる固体電池100は、例えば図3に示すように、電池要素101(発電要素)と、それに接続される正極端子102及び負極端子103とを有する。ここでは図示を省略するが、電池要素101は、正極活物質及び固体電解質等を含む電極層である正極層と、負極活物質及び固体電解質等を含む電極層である負極層と、それら正極層と負極層との間に設けられ固体電解質を含む電解質層とを有する。電池要素101の正極層が正極端子102と接続され、電池要素101の負極層が負極端子103と接続される。
【0014】
図1から図3に示す固体電池観察用治具1は、容器10、保持部20及び石英ガラス30を含む。
容器10は、底部12とそこから立ち上がる側壁13とによって形成される第1内部空間11を有する。容器10には、樹脂、ガラス、セラミックス等、絶縁性を有する各種材料を用いることができる。容器10の第1内部空間11に、保持部20が収容される。
【0015】
保持部20は、観察対象の固体電池100を保持する。保持部20は、固体電池100を挟む一対のガイド21と、一対のガイド21に挟まれる固体電池100を支持する押し上げブロック22とを含む。
【0016】
保持部20の一対のガイド21は、各々、対向する面間に延びる凹部を有する。各ガイド21の凹部は、一対のガイド21が固体電池100を挟んで配置される時に、1つの凹部21aを形成する。一対のガイド21には、樹脂、ガラス、セラミックス等、絶縁性を有する各種材料を用いることができる。
【0017】
保持部20の押し上げブロック22は、一対のガイド21の凹部21aに設けられ、一対のガイド21に挟まれる固体電池100を支持する。押し上げブロック22には、樹脂、ガラス、セラミックス等、絶縁性を有する各種材料を用いることができる。押し上げブロック22には、一対のガイド21と同種の材料が用いられてもよいし、異種の材料が用いられてもよい。
【0018】
保持部20の一対のガイド21には、ネジ110を挿入するための貫通孔21bが設けられる。各ガイド21の貫通孔21bは、ネジ110が螺合可能なネジ孔であってもよい。容器10の第1内部空間11内の底部12には、一対のガイド21の貫通孔21bに対応する位置に、ネジ110が螺合されるネジ孔(図示せず)が設けられる。
【0019】
保持部20は、一対のガイド21で固体電池100を挟み且つ凹部21aに押し上げブロック22が設けられる状態で、容器10の第1内部空間11に収容される。そして、ネジ110がガイド21の貫通孔21bに挿入され、そのネジ110の先端部が容器10の底部12のネジ孔に螺合される。このように、固体電池100を保持する保持部20は、一対のガイド21の凹部21aに押し上げブロック22が設けられ、且つ、一対のガイド21がネジ110で容器10に固定される状態で、容器10の第1内部空間11に収容される。
【0020】
石英ガラス30は、容器10の第1内部空間11に収容される保持部20に保持される固体電池100と対向するように配置される。例えば、厚さ1mm程度の石英ガラス30が、第1内部空間11内の保持部20に保持される固体電池100を覆うように配置される。
【0021】
石英ガラス30は、第1内部空間11内の保持部20に保持される固体電池100を顕微ラマン分光装置で観察する際の観察窓として機能する。即ち、顕微ラマン分光装置で用いられる所定の波長の光(励起レーザー)が、観察窓の石英ガラス30を通して観察対象の固体電池100に入射され、その固体電池100からの散乱光が、観察窓の石英ガラス30を通して検出される。
【0022】
尚、石英ガラス30は、第1内部空間11内の保持部20に保持される固体電池100を容器10の底部12側に押さえる押さえ部材としての機能、或いは、保持部20に保持される固体電池100の容器10外への飛び出しを防ぐリッド部材としての機能も有していると言える。
【0023】
容器10には、外部(後述のガス導入ライン90等)から、保持部20に保持される固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200が導入される。容器10は、そのような所定のガス200を、固体電池100を保持する保持部20が収容される第1内部空間11に導入して流通させるための流路14を備える。例えば、容器10には、その底部12を貫通し、第1内部空間11に連通する、2つの流路14が設けられる。
【0024】
流路14を通じて第1内部空間11に導入されるガス200、即ち、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200としては、例えば、水分量を一定値以下に調整したドライエアー、一例として、露点が-30℃から-10℃の範囲であるドライエアーが用いられる。このほか、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等のガスが用いられてもよい。
【0025】
容器10の2つの流路14にはそれぞれ、バネ15が挿入される。各バネ15は、その一端側が後述のベース部50に固定される。例えば、バネ15として、コイルバネが設けられる。各バネ15は、第1内部空間11に導入される所定のガス200が流通可能なように、流路14内に配置される。尚、流路14を通じて第1内部空間11にガス200が導入可能であれば、即ち、ガス200の導入がバネ15によって完全に妨げられることがなければ、バネ15の種類はコイルバネに限定されない。
【0026】
各バネ15は、固体電池100を保持する保持部20が容器10の第1内部空間11に収容される時に、一対のガイド21の凹部21aに設けられる押し上げブロック22に当接される。押し上げブロック22に当接される各バネ15は、押し上げブロック22を固体電池100側及び石英ガラス30側に付勢する。バネ15によって付勢される押し上げブロック22は、一対のガイド21間に挟まれる固体電池100を石英ガラス30側に付勢する機能を有する。
【0027】
容器10には、導電性を有する2つのプローブ16が設けられる。2つのプローブ16は、容器10の底部12に、当該底部12を貫通し、一端側が第1内部空間11内に延びて突出し、且つ、他端側が容器10外(後述の第2内部空間52内)に延びて突出するように、設けられる。2つのプローブ16は、各々の両端間の中間部において、容器10の底部12に支持される。2つのプローブ16は、バネ等を用いて、当該中間部を容器10の底部12でガイドされながら石英ガラス30側又はそれとは反対側に可動するものであってよい。
【0028】
保持部20の押し上げブロック22には、容器10に設けられる2つのプローブ16の、第1内部空間11内に延びる一端側が貫通する貫通孔22aが設けられる。2つのプローブ16の当該一端側は、固体電池100を保持する保持部20が容器10の第1内部空間11に収容される時に、押し上げブロック22の貫通孔22aに挿入され、一対のガイド21間に挟まれる固体電池100と電気的に接続される。例えば、2つのプローブ16がそれぞれ、固体電池100の電池要素101の正極端子102及び負極端子103と電気的に接続される(図3)。
【0029】
2つのプローブ16は、保持部20の一対のガイド21に挟まれる固体電池100の寸法又は位置に応じた高さで一端側が容器10の第1内部空間11内に延び、固体電池100の正極端子102及び負極端子103と接続される。保持部20の一対のガイド21に挟まれる固体電池100は、2つのプローブ16が接続される状態を維持して、バネ15によって付勢される押し上げブロック22で石英ガラス30側に付勢される。
【0030】
2つのプローブ16が接続される状態を維持して押し上げブロック22で石英ガラス30側に付勢される固体電池100は、石英ガラス30に当接されてよい。
図1から図3に示す固体電池観察用治具1は更に、リッド部40、ベース部50、パッキン60及びパッキン70を含む。
【0031】
リッド部40は、容器10の、石英ガラス30が配置される側(容器10の上)に設けられる。リッド部40は、石英ガラス30並びに保持部20及びそれに保持される固体電池100と対向する開口部41を有する。リッド部40には、金属、樹脂、ガラス、セラミックス等、各種材料を用いることができる。
【0032】
石英ガラス30は、リッド部40の開口部41と、保持部20及びそれに保持される固体電池100との間に介在される。リッド部40の開口部41から露出する石英ガラス30が、第1内部空間11内の保持部20に保持される固体電池100を顕微ラマン分光装置で観察する際の観察窓として機能する。
【0033】
石英ガラス30の外側の、容器10とリッド部40との間には、パッキン60が設けられる。パッキン60には、樹脂等の材料を用いることができる。リッド部40は、石英ガラス30及びその外側のパッキン60を介して、容器10上に配置される。
【0034】
固体電池100は、このように容器10とその上に配置されるリッド部40との間に介在される石英ガラス30側に、2つのプローブ16が接続される状態を維持して、バネ15によって付勢される押し上げブロック22で付勢される。
【0035】
ベース部50は、容器10の、石英ガラス30が配置される側とは反対側(容器10の下)に設けられる。ベース部50は、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200を外部から導入するための導入口51を有する。ベース部50は更に、その導入口51と容器10の流路14との間を連通する第2内部空間52を有する。ベース部50の導入口51から第2内部空間52に導入される所定のガス200は、第2内部空間52から容器10の流路14を通じて第1内部空間11に導入される。ベース部50には、金属、樹脂、ガラス、セラミックス等、各種材料を用いることができる。
【0036】
第2内部空間52の外側の、ベース部50と容器10との間には、パッキン70が設けられる。パッキン70には、樹脂等の材料を用いることができる。容器10は、パッキン70を介して、ベース部50上に配置される。
【0037】
尚、パッキン60及びパッキン70は、ベース部50の導入口51から導入される所定のガス200によって容器10の第1内部空間11を満たすこと、或いは、陽圧とすることができる程度の密閉性が確保できるものであってよい。
【0038】
ベース部50には、バネ15の一端側が固定される。容器10がパッキン70を介してベース部50上に配置される時、一端側がベース部50に固定されるバネ15の、その他端側が、容器10の流路14に挿入される。
【0039】
容器10の第1内部空間11に、固体電池100を保持する保持部20が収容される時、一端側がベース部50に固定されて他端側が容器10の流路14に挿入されるバネ15の、その他端側が、保持部20の押し上げブロック22に当接される。押し上げブロック22は、それに当接されるバネ15によって石英ガラス30側に付勢される。保持部20の一対のガイド21で挟まれる固体電池100は、バネ15によって付勢される押し上げブロック22で石英ガラス30側に付勢される。
【0040】
容器10に設けられ、一端側が第1内部空間11に延びて突出するプローブ16は、容器10がパッキン70を介してベース部50上に配置される時、他端側が第2内部空間52に延びて突出する。
【0041】
容器10の第1内部空間11に、固体電池100を保持する保持部20が収容される時、第1内部空間11に延びるプローブ16の一端側が、押し上げブロック22の貫通孔22aに挿入され、固体電池100(その正極端子102及び負極端子103)と接続される。バネ15によって付勢される押し上げブロック22は、プローブ16と接続される状態の固体電池100を支持し、石英ガラス30側に付勢する。
【0042】
ベース部50には、リード線出口53が設けられる。容器10がパッキン70を介して配置されるベース部50の、第2内部空間52に延びるプローブ16の他端側には、リード線80が電気的に接続される。リード線80は、ベース部50のリード線出口53から外部に引き出される。
【0043】
ベース部50の導入口51には、所定のガス200、即ち、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200を導入するためのガス導入ライン90が接続される。ガス導入ライン90には、第2内部空間52への所定のガス200の導入を調整するための弁91が設けられてよい。ガス導入ライン90に設けられる弁91は、ベース部50の導入口51に接続される弁91とも言える。
【0044】
ガス導入ライン90に設けられる弁91により、導入口51から第2内部空間52へのガス200の流量が調整される。更に言えば、ガス導入ライン90に設けられる弁91により、ガス200の流量が調整されて、ガス200が第2内部空間52から容器10の流路14を通じて導入される第1内部空間11の環境、即ち、第1内部空間11の雰囲気や内圧等が調整される。
【0045】
リッド部40、パッキン60、容器10及びパッキン70には、互いの対応する位置、例えば四隅にそれぞれ、ネジ120を挿入するための貫通孔40a、貫通孔60a、貫通孔10a及び貫通孔70aが設けられる。貫通孔40a、貫通孔60a、貫通孔10a及び貫通孔70aは、ネジ120が螺合可能なネジ孔であってもよい。ベース部50には、それら貫通孔40a、貫通孔60a、貫通孔10a及び貫通孔70aに対応する位置に、ネジ120を螺合するためのネジ孔50aが設けられる。
【0046】
ベース部50上にパッキン70を介して容器10が配置され、その第1内部空間11に保持部20が収容され、その上に石英ガラス30及びパッキン60を介してリッド部40が配置される状態で、ネジ120が貫通孔40a、貫通孔60a、貫通孔10a及び貫通孔70aに挿入される。そして、そのネジ120の先端部がベース部50のネジ孔50aに螺合される。これにより、リッド部40、パッキン60、石英ガラス30、保持部20、容器10、及びパッキン70及びベース部50が一体化される。
【0047】
上記のような固体電池観察用治具1にセットされた観察対象の固体電池100について、顕微ラマン分光装置を用いた観察、即ち、顕微ラマン分光測定が行われる。
観察対象の固体電池100は、例えば、その電池要素101の電極層である正極層及び負極層とそれらの間に介在される電解質層とが積層される断面が露出するように、予め研磨される。
【0048】
尚、この固体電池100の研磨により形成される断面(「研磨断面」とも言う)には、研磨により露出した正極層と接続される正極端子102、及び、研磨により露出した負極層と接続される負極端子103が含まれてよい。正極端子102及び負極端子103は、研磨前に電池要素101に形成されたものであってもよいし、電池要素101の研磨後に形成されたものであってもよい。
【0049】
固体電池100がセットされる固体電池観察用治具1の組み立てでは、ベース部50上に、パッキン70を介して容器10が配置される。容器10に設けられてベース部50の第2内部空間52に延びるプローブ16に、リード線出口53から外部に引き出されるリード線80が接続される。容器10の流路14には、ベース部50に固定されるバネ15が挿入される。
【0050】
研磨された固体電池100は、その研磨断面が、石英ガラス30と対向される側となるように、保持部20の一対のガイド21間に挟まれる。固体電池100を挟む一対のガイド21は、その凹部21aに押し上げブロック22が設けられる状態で、容器10の第1内部空間11に収容され、ネジ110を用いて容器10に固定される。
【0051】
この時、押し上げブロック22の貫通孔22aには、容器10に設けられてその第1内部空間11に延びるプローブ16が挿入される。押し上げブロック22は、ベース部50に固定されて容器10の流路14に挿入されるバネ15によって、固体電池100側に付勢される。
【0052】
保持部20が収容される容器10上には、石英ガラス30及びパッキン60を介してリッド部40が配置される。保持部20の一対のガイド21に挟まれる固体電池100は、石英ガラス30によってプローブ16側及び押し上げブロック22側に押さえられる。
【0053】
固体電池100は、その正極端子102及び負極端子103が、押し上げブロック22の貫通孔22aに挿入されるプローブ16と接続される。固体電池100は、プローブ16が接続される状態を維持して、バネ15によって付勢される押し上げブロック22で固体電池100側及び石英ガラス30側に付勢される。
【0054】
リッド部40、パッキン60、容器10及びパッキン70は、ネジ120を用いてベース部50に固定される。
このようにして、研磨により研磨断面が形成された固体電池100が固体電池観察用治具1にセットされる。そして、その固体電池観察用治具1が顕微ラマン分光装置にセットされ、研磨断面が形成された固体電池100の顕微ラマン分光測定が行われる。
【0055】
顕微ラマン分光測定では、リッド部40の開口部41に露出する観察窓の石英ガラス30を通して、所定の波長の光が、固体電池100の研磨断面に対して入射される。所定の光が研磨断面に入射された固体電池100からの散乱光が、リッド部40の開口部41に露出する観察窓の石英ガラス30を通して検出される。
【0056】
固体電池観察用治具1では、観察窓に石英ガラス30が用いられることで、観察窓に通常のガラス材料が用いられる場合に比べて、観察窓の素材が散乱光の測定結果に及ぼす悪影響が抑えられる。従って、固体電池100からの散乱光を精度良く検出し、固体電池100の状態を適正に観察することができる。
【0057】
また、固体電池観察用治具1を用いた顕微ラマン分光測定では、リード線80、及び、それと接続されるプローブ16を通じて、固体電池100の充電又は放電を行うことができる。従って、固体電池観察用治具1を用いた顕微ラマン分光測定では、固体電池100の充電を行いながら、その研磨断面への光の入射、研磨断面からの散乱光の検出を行うことができる。固体電池観察用治具1を用いた顕微ラマン分光測定では、固体電池100の放電を行いながら、その研磨断面への光の入射、研磨断面からの散乱光の検出を行うことができる。
【0058】
観察窓が石英ガラス30であり、リード線80を通じて固体電池100の充電又は放電が可能な固体電池観察用治具1が用いられることで、固体電池100の充電時又は放電時の状態を精度良く適正に観察することができる。
【0059】
また、固体電池観察用治具1を用いた顕微ラマン分光測定では、ベース部50の導入口51に接続されるガス導入ライン90から、固体電池観察用治具1の内部に所定のガス200を導入することができる。
【0060】
ガス導入ライン90から導入されるガス200は、例えば、図3に点線矢印でガス200の流れを模式的に示すように、ベース部50の第2内部空間52に導入され、容器10の流路14を通じて、固体電池100が収容される第1内部空間11に導入される。固体電池観察用治具1の内部に導入されたガス200は、固体電池観察用治具1に存在する隙間(図3では一例としてリッド部40と容器10との間の隙間である場合を図示)から外部に放出される。
【0061】
導入されるガス200によって固体電池観察用治具1の内部(第1内部空間11)における雰囲気や内圧等の環境が調整され、その内部の環境が維持されるように、或いは、概ね維持されるように、ガス導入ライン90に設けられる弁91の開閉又は開度が調整される。
【0062】
このように固体電池観察用治具1では、ガス導入ライン90から所定のガス200を導入することで、容器10の第1内部空間11に収容される固体電池100の、その周囲の環境を調整することができる。第1内部空間11に導入するガス200には、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200を用いることができる。例えば、第1内部空間11に導入するガス200として、水分量を一定値以下に調整したドライエアーのほか、窒素、アルゴン等を用いることができる。
【0063】
固体電池観察用治具1では、固体電池100の周囲を、固体電池100に対して低活性又は不活性のガス200で満たした環境とすることができる。固体電池観察用治具1を用いた顕微ラマン分光測定では、このように周囲を所定のガス200で満たした環境に置いた固体電池100について、その研磨断面への光の入射、研磨断面からの散乱光の検出を行うことができる。或いは、周囲を所定のガス200で満たした環境に置いた固体電池100について、充電又は放電を行いながら、その研磨断面への光の入射、研磨断面からの散乱光の検出を行うことができる。
【0064】
固体電池観察用治具1によれば、顕微ラマン分光測定において、外気が固体電池100に及ぼす影響を抑えつつ、固体電池100の状態を精度良く適正に観察することができる。或いは、外気が固体電池100の充電又は放電に及ぼす影響を抑えつつ、固体電池100の充電時又は放電時の状態を精度良く適正に観察することができる。
【0065】
続いて、上記のような構成を有する固体電池観察用治具1を用いることの効果について検討した結果について述べる。
図4は固体電池の充放電特性を測定した結果の一例を示す図である。
【0066】
図4(A)から図4(C)にはそれぞれ、所定の条件で固体電池100の充電及び放電(充放電)を行った時の充放電特性の一例を示している。図4(A)から図4(C)において、横軸は容量[μAh]を表し、縦軸は電圧[V]を表している。充電は、定電流定電圧(Constant Current-Constant Voltage;CCCV)法で行い、電流条件は0.1mA、電圧条件は3.5V、時間は5時間としている。放電は、定電圧(Constant Voltage;CV)法で行い、電流条件は0.1mA、終止電圧条件は0Vとしている。
【0067】
図4(A)には比較のため、研磨を行っていない固体電池100、即ち、研磨断面が形成されていない固体電池100について、上記固体電池観察用治具1を用いないで充放電を行った時の充放電特性の一例を示している(「研磨無」、「治具無」)。この時の充放電は、温度23℃、ドライエアーの環境下で行っている。
【0068】
図4(B)には、研磨を行った固体電池100、即ち、研磨断面が形成された固体電池100について、上記固体電池観察用治具1を用いないで充放電を行った時の充放電特性の一例を示している(「研磨有」、「治具無」)。この時の充放電は、温度23℃、相対湿度50%(50%RH)の環境下で行っている。
【0069】
図4(C)には、研磨を行った固体電池100、即ち、研磨断面が形成された固体電池100について、上記固体電池観察用治具1を用いて充放電を行った時の充放電特性の一例を示している(「研磨有」、「治具有」)。この時の充放電は、温度23℃、相対湿度50%(50%RH)の環境下で行っている。
【0070】
図4(B)より、研磨を行った固体電池100の一定湿度環境下での充放電測定では、適正な充放電特性が得られない場合がある。一方、図4(C)より、上記固体電池観察用治具1を用いると、研磨を行った固体電池100の一定湿度環境下での充放電測定でも、適正な測定結果を得ることができる。
【0071】
上記のように固体電池100が保持部20で保持され、その保持部20が容器10の第1内部空間11に収容されて、固体電池100の正極端子102及び負極端子103がプローブ16と接続される固体電池観察用治具1によれば、研磨により研磨断面が形成された固体電池100の充放電特性を適正に評価することができる。
【0072】
図5は固体電池観察用治具内のガスの影響を測定した結果の一例を示す図である。
図5には、上記固体電池観察用治具1の内部に入れた吸湿剤のガス導入有無による重量の経時変化を示している。ここでは、吸湿剤として、強い吸水性を有する塩化カルシウム(CaCl)を用いている。ガスとして、露点が-30℃から-10℃の範囲のドライエアーを用いている。図5において、横軸は時間[h]を表し、縦軸は吸湿剤の重量変化[mg]を表している。
【0073】
図5のL1に示すように、固体電池観察用治具1の内部にドライエアーを導入しない場合、即ち、固体電池観察用治具1の内部に外気が入り込むような場合には、時間の経過に伴って単調に吸湿剤の重量が増加していく傾向が認められる。
【0074】
一方、図5のL2に示すように、固体電池観察用治具1の内部に常時ドライエアーを導入する場合には、時間の経過に伴って単調に吸湿剤の重量が増加していく傾向が認められるものの、その重量増加率(傾き)は大幅に低減される。
【0075】
図5のL3に示すように、固体電池観察用治具1の内部に一定時間(0-24h)だけドライエアーを導入し、その後の一定時間(24-70h)はドライエアーの導入を停止すると、ドライエアーの導入を停止した時点から、停止前よりも大きな重量増加率で、吸湿剤の重量が増加していく傾向が認められる。
【0076】
固体電池観察用治具1の内部にドライエアーを導入することで、固体電池100を比較的低水分の環境に置くことができる。そして、そのような環境に置かれる固体電池100について、顕微ラマン分光測定を実施すること、或いは、充電又は放電を行いながら顕微ラマン分光測定を実施することができる。
【0077】
固体電池観察用治具1を用い、ドライエアーを導入しながら顕微ラマン分光測定を実施することで、固体電池100の状態、或いは、充電時又は放電時の固体電池100の状態を、外気の水分の影響を抑えて適正に観察することができる。
【0078】
尚、ここではドライエアーを例にしたが、窒素やアルゴンを用いても同様の効果を得ることができる。また、窒素やアルゴンを用いる場合には、顕微ラマン分光測定時や充電時又は放電時の酸素(O、O)等による固体電池100の変質を一層抑えて、固体電池100の状態を観察することが可能になる。
【0079】
以上述べた通り、固体電池観察用治具1によれば、観察窓に石英ガラス30が用いられることで、顕微ラマン分光測定において、固体電池100からの散乱光を精度良く検出し、固体電池100の状態を適正に観察することができる。
【0080】
また、固体電池観察用治具1を固体電池100の充電又は放電が可能な構成とすることで、顕微ラマン分光測定において、固体電池100の充電時又は放電時の状態を精度良く適正に観察することができる。
【0081】
また、固体電池観察用治具1を固体電池100に対して低活性又は不活性のガスを導入可能な構成とすることで、顕微ラマン分光測定において、外気の影響を抑えつつ、固体電池100の状態、或いは、その充電時又は放電時の状態を精度良く適正に観察することができる。
【0082】
固体電池100の顕微ラマン分光測定によれば、固体電池100の研磨断面の像を精度良く観察することができる。充電時又は放電時の固体電池100の顕微ラマン分光測定によれば、固体電池100の充電時又は放電時におけるその電池要素101に含まれる成分についての散乱光のピークシフトに関する情報を取得することができる。また、ピークシフトに関する情報に基づき、固体電池100の充電時又は放電時におけるその電池要素101に含まれる成分の挙動、例えば、充電時又は放電時のリチウムイオン、負極活物質、正極活物質等の挙動(正極活物質及び負極活物質のリチウムイオンの挿入及び放出等)に関する情報を取得することができる。
【0083】
顕微ラマン分光測定によって固体電池100の状態を適正に観察することは、固体電池100の開発、製造に有効となる。上記固体電池観察用治具1は、顕微ラマン分光測定によって固体電池100の状態に関する適正な情報を取得するのに有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 固体電池観察用治具
10 容器
10a、21b、22a、40a、60a、70a 貫通孔
11 第1内部空間
12 底部
13 側壁
14 流路
15 バネ
16 プローブ
20 保持部
21 ガイド
21a 凹部
22 押し上げブロック
30 石英ガラス
40 リッド部
41 開口部
50 ベース部
50a ネジ孔
51 導入口
52 第2内部空間
53 リード線出口
60、70 パッキン
80 リード線
90 ガス導入ライン
91 弁
100 固体電池
101 電池要素
102 正極端子
103 負極端子
110、120 ネジ
200 ガス
図1
図2
図3
図4
図5