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特開2025-4983薬物依存症の予防及び/又は治療組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004983
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】薬物依存症の予防及び/又は治療組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/404 20060101AFI20250108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250108BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20250108BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20250108BHJP
   A61K 31/18 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61K31/404
A61P43/00 111
A61P25/36
A61K31/517
A61K31/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104932
(22)【出願日】2023-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本薬学会第143年会予稿集 日本薬学会第143年会(2023年3月26日)での発表スライド
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】金田 勝幸
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC50
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA10
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZC39
4C086ZC42
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA13
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA13
4C206MA14
4C206MA79
4C206NA14
4C206ZC39
4C206ZC42
(57)【要約】
【課題】薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の予防及び/又は治療組成物を提供することである。
【解決手段】ストレスによる薬物欲求増大に関与するmPFC内アドレナリンα1受容体のサブタイプを特定して、さらに、該サブタイプの阻害剤は薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療に効果があることを見出して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
【請求項2】
前記アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物が、1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-2-({2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-7-カルボキサミド若しくは1-(4-アミノ-6,7-ジメトキシ-2-キナゾリニル)-4-(2-フラニルカルボニル)ピペラジン塩酸塩又はそれらの薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物が、5-{(2R)-2-[2-(2-エトキシフェノキシ)エチルアミノ]プロピル}-2-メトキシベンゼンスルホンアミド一塩酸塩若しくは4-アミノ-2-[4-(テトラヒドロ-2-フロイル)-1-ピペラジニル]-6,7-ジメトキシキナゾリン塩酸塩二水和物又はそれらの薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物はコカインである、請求項1~3のいずれか1に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬物依存症はストレスに起因する薬物依存症である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-2-({2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-7-カルボキサミドを含む、経鼻投与用薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物、特に、コカイン依存症の予防及び/又は治療組成物に関する。
【0002】
(薬物依存)
コカイン、覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、合成麻薬MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)、ヘロイン、ニコチン、アルコール、フェンサイクリジン、ケタミン、大麻、危険ドラッグなどの物質の繰り返し使用は、ヒトにおいて、依存を形成し、様々な精神障害及び神経障害を引き起こすことから、世界中で社会問題となっている。
日本では、危険ドラッグの使用に関連する事故や事件が大きな社会問題になっている。また、ラット、マウスなどの動物に覚醒剤を連続投与すると、惹起される異常行動が投与と共に増大する行動感作が観察される。覚醒剤を繰り返し投与すると、ヒトでは強い精神依存及び覚醒剤精神病を生じ、断薬後もストレス、飲酒や1回の薬物摂取により、覚醒剤精神病が再燃する。
これら依存性薬物の繰り返し投与により生じる薬物依存や精神症状の治療薬としては、現在、精神科領域で使用されている抗精神病薬、抗うつ薬などが使用されるが、一部の症状を抑えるだけであり、根本的に治療できる薬剤は無い。現在のところ、薬物依存症に有効な治療法は確立されていない。
【0003】
(ストレスによる薬物欲求増大のメカニズム)
本発明者らは、ストレスによってなぜ薬物(コカイン)に対する欲求が増大するのかを明らかにしている(参照:非特許文献1)。
麻薬や覚醒剤などによる薬物依存症の治療を困難にしているのは、一旦止めても再び薬物を摂取してしまう再燃である。再燃は、さまざまなきっかけによって引き起こされるが、ストレスはその重要な一因であることが分かっている。しかし、ストレスがなぜ再燃を引き起こすのか、つまり、ストレスによってなぜ薬物に対する欲求が増大するのかは従来分かっていなかった。
【0004】
本発明者らは、薬物欲求に関与することが示唆されている内側前頭前野(medialprefrontal cortex, mPFC)とストレスホルモンとも呼ばれるノルアドレナリン(noradrenaline, NA)に着目し、mPFC神経細胞での情報伝達と細胞の活動に対するNAの影響を調べたところ、NAは興奮性の神経情報伝達を顕著に増大させ,神経活動を上昇させることを発見した。さらに、マウスを用いてストレス負荷によってコカインに対する欲求が増大するモデルを作製し、このマウスのmPFCでNAの作用をブロックしたところ、ストレスによって増大したコカイン欲求が顕著に抑制されることが明らかになった。ストレスにより遊離されたNAがmPFCの過剰な興奮を引き起こし、これにより、コカインに対する欲求が増大されることを示した。
【0005】
アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物がコカイン依存性の治療に効果があることは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Neuropharmacology Volume166, April 2020,107968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の予防及び/又は治療組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、本発明者らが見出した知見(拘束ストレスによって放出されたNA(ノルアドレナリン)はアドレナリンα1受容体を介して内側前頭前野(mPFC)5層錐体細胞への興奮性神経伝達を促進し、拘束ストレスによるコカイン欲求増大に関与すること)を基にして、ストレスによる薬物欲求増大に関与するmPFC内アドレナリンα1受容体のサブタイプを特定して、さらに、該サブタイプの阻害剤は薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療に効果があることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の通りである。
1.アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
2.前記アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物が、1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-2-({2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-7-カルボキサミド若しくは1-(4-アミノ-6,7-ジメトキシ-2-キナゾリニル)-4-(2-フラニルカルボニル)ピペラジン塩酸塩又はそれらの薬学的に許容される塩である、前項1に記載の組成物。
3.前記アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物が、5-{(2R)-2-[2-(2-エトキシフェノキシ)エチルアミノ]プロピル}-2-メトキシベンゼンスルホンアミド一塩酸塩若しくは4-アミノ-2-[4-(テトラヒドロ-2-フロイル)-1-ピペラジニル]-6,7-ジメトキシキナゾリン塩酸塩二水和物又はそれらの薬学的に許容される塩である、前項1に記載の組成物。
4.前記薬物はコカインである、前項1~3のいずれか1に記載の組成物。
5.前記薬物依存症はストレスに起因する薬物依存症である、前項4に記載の組成物。
6.1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-2-({2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-7-カルボキサミドを含む、経鼻投与用薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の治療組成物は、ストレスに起因するコカイン依存症の治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(1)社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス及び社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウスの作製手順。(2)社会的敗北ストレスが薬物欲求増大に与える影響の確認結果。(実施例2)
図2】(1)プラゾシン(Pra)又は生理食塩水(Veh)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、並びにプラゾシン(Pra)又は生理食塩水(Veh)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウスの作製手順。「AP : +1.7 mm ML : ±0.3 mm DV : -2.4 mm」は、薬物を局所投与する目的のマウス脳座標を意味する。(2)プラゾシンのmPFC内局所投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。(実施例3)各スポットは、実際に投与された薬物の位置を意味する。
図3】(1)ホールセルパッチクランプ法の手順。(2)ボルテージクランプ記録法の手順。(実施例4)
図4】(1)ホールセルパッチクランプ法によるNAを適用した全体の代表トレース。(2)(1)の印をつけた部位における拡大トレース。(3)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例4)
図5】(1)3つのmPFC内アドレナリンα1受容体サブタイプに対するアンタゴニストを適用したホールセルパッチクランプ法の概念図。(2)ホールセルパッチクランプ法による3つのmPFC内アドレナリンα1受容体サブタイプに対するアンタゴニストを適用した全体の代表トレース。(3)(2)の印をつけた部位における拡大トレース。(4)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例5)
図6】(1)α1B-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用したホールセルパッチクランプ法の概念図。(2)ホールセルパッチクランプ法によるα1B-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用した全体の代表トレース。(3)(2)の印をつけた部位における拡大トレース。(4)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例5)
図7】(1)α1A-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用したホールセルパッチクランプ法の概念図。(2)ホールセルパッチクランプ法によるα1A-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用した全体の代表トレース。(3)(2)の印をつけた部位における拡大トレース。(4)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例5)
図8】(1)α1A-AR及びα1B-ARに対するアンタゴニストを適用したホールセルパッチクランプ法の概念図。(2)ホールセルパッチクランプ法によるα1A-AR及びα1B-ARに対するアンタゴニストを適用した全体の代表トレース。(3)(2)の印をつけた部位における拡大トレース。(4)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例5)
図9】(1)α1A-ARに対するアゴニストを適用したホールセルパッチクランプ法の概念図。(2)ホールセルパッチクランプ法によるα1A-ARに対するアゴニストを適用した全体の代表トレース。(3)(2)の印をつけた部位における拡大トレース。(4)ボルテージクランプ記録法によるFrequency、Amplitude、holding currentの記録結果。(実施例5)
図10】(1)シロドシン(Silo)又は生理食塩水(Veh)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、並びにシロドシン(Silo)又は生理食塩水(Veh)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウスの作製手順。(2)シロドシンのmPFC内局所投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。(実施例6)
図11】(1)A61603(A61)又は生理食塩水(Veh)をmPFC内局所投与されたコカイン条件付けマウスの作製手順。(2)A61603のmPFC内局所投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。(実施例7)
図12】(1)シロドシン(Silo)又は生理食塩水(Veh)を経鼻投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、並びにシロドシン(Silo)又は生理食塩水(Veh)を経鼻投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウスの作製手順。(2)シロドシンの経鼻投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。(実施例8)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(薬物依存症の予防及び/又は治療組成物)
本発明の対象は、アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物を含有する薬物依存症の予防及び/又は治療組成物に関する。特に、本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、薬物依存症の予防、再発予防、軽減、又は治療に有効なアドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物を含有する。以下に詳細に説明する。
また、本発明の組成物とは、各種剤(治療・予防剤)、食品(サプリメント、飲料)、治療組成物、食品組成物等を含む。
【0013】
(薬物依存症)
本発明での薬物依存症は、薬物の精神的な作用(効果)に依存する精神依存を特徴とする。薬物依存症の原因となる薬物としては、コカイン、覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、合成麻薬MDMA、モルヒネ、ニコチン、アルコール、フェンサイクリジン、ケタミン、ベンゾジアゼピン類、大麻、危険ドラッグ等(各種の塩を含む)を例示できるが、本発明が対象とする薬物依存症はこれらの薬物に関連するものに限られない。
【0014】
(アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物)
本発明での「アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物」は、本発明の効果を奏するのであればどのような形態でも良い。例えば、アドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物に加えて、該化合物の薬学的に許容される塩も対象とする。薬学的に許容される塩は、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等が挙げられる。
【0015】
さらに、本発明のアドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物又は上記の薬学的に許容される塩は、各種の水和物や溶媒和物及び結晶多形の物質も含む。
加えて、安全性や臨床的経験を考慮して、公知のアドレナリンα1A受容体阻害剤(特に、前立腺肥大治療薬等)を使用することができる。
【0016】
具体的には、以下の化合物を例示することができる。
(1)シロドシン
1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-2-({2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]-2,3-ジヒドロ-1H- インドール-7-カルボキサミド
1-(3-hydroxypropyl)-5-[(2R)-({2-[2-[2-(2,2,2-trifluoroethoxy)phenoxy]ethyl}amino)propyl]indoline-7-carboxamide
(2)プラゾシン塩酸塩
1-(4-アミノ-6,7-ジメトキシ-2-キナゾリニル)-4-(2-フラニルカルボニル)ピペラジン 塩酸塩
1-(4-Amino-6,7-dimethoxy-quinazolin-2-yl)-4-(2-furoyl)piperazinemonohydrochloride
(3)タムスロシン塩酸塩
5-{(2R)-2-[2-(2-エトキシフェノキシ)エチルアミノ]プロピル}-2-メトキシベンゼンスルホンアミド一塩酸塩
5-{(2R)-2-[2-(2-Ethoxyphenoxy)ethylamino]propyl}-2-methoxybenzenesulfonamidemonohydrochloride
(4)テラゾシン塩酸塩水和物
4-Amino-2-[4-(tetrahydro-2-furoyl)-1-piperazinyl]-6,7-dimethoxyquinazolinehydrochloride dihydrate
4-アミノ-2-[4-(テトラヒドロ-2-フロイル)-1-ピペラジニル]-6,7-ジメトキシキナゾリン塩酸塩二水和物
【0017】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の投与方法)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、非経口的に投与することができる。非経口投与は、注射による脳内(脳室内)、静脈内、筋肉内、又は皮下への投与、スプレーやエアロゾルなどを用いた経鼻腔や口腔などの経粘膜投与、坐剤などを用いた直腸投与、パッチやリニメントやゲルなどを用いた経皮投与などを挙げることができる。好ましくは、経鼻腔投与、注射による脳内(脳室内)を挙げることができる。
なお、局所投与である経鼻投与は、全身投与と比較して、副作用が少ないと考えられる。
【0018】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の構成)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、薬物依存症の予防及び/又は治療用サプリメント、薬物依存症の予防及び/又は治療用等として、利用されることができる。
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、有効成分であるアドレナリンα1A受容体阻害活性を有する化合物に加え、薬物依存の治療効果がある他の薬効成分も含んでも良い。
また、これら薬効成分の他に、適宜、投与形態などに応じて、当業者によく知られた適切な薬学的に許容される担体を含有していてもよい。薬学的に許容される担体としては、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、及びpH調整剤などを例示できる。
【0019】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の調製方法)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤又は懸濁剤の製剤の形態が好ましい。
経鼻腔や口腔などの経粘膜投与用の場合は、粉末、滴剤、又はエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。直腸投与用の場合は、クリ-ム又は坐薬のような半固形剤の製剤の形態が好ましい。
注射用製剤は担体として、例えば、アルブミンなどの血漿由来タンパク、グリシンなどのアミノ酸、及びマンニトールなどの糖を加えることができ、さらに緩衝剤、溶解補助剤、及び等張剤などを添加することもできる。また、水溶製剤又は凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐためにTween(登録商標)80、Tween(登録商標)20などの界面活性剤を添加するのが好ましい。
さらに、注射用製剤以外の非経口投与剤形は、蒸留水又は生理食塩液、ポリエチレングリコ-ルのようなポリアルキレングリコ-ル、植物起源の油、及び水素化したナフタレンなどを含有してもよい。
例えば、坐薬のような直腸投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、例えば、ポリアキレングリコ-ル、ワセリン、及びカカオ油脂などを含有する。膣用製剤では、胆汁塩、エチレンジアミン塩、及びクエン酸塩などの吸収促進剤を含有してもよい。吸入用製剤は固体でもよく、賦形剤として、例えば、ラクト-スを含有してもよく、さらに、経鼻腔滴剤は水又は油溶液であってもよい。
【0020】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の投与形態)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の正確な投与量及び投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度などに依存して調整できる。投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、及び患者の病状などに応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物中に含まれる有効成分の1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路などによって異なる。例えば、有効成分量として、非経口投与の場合は、約0.01~100mg/人/日、好ましくは0.1~50mg/人/日、より好ましくは約0.5~1.0mg/人/日で投与されることが望ましい。
【0021】
具体的には、以下の化合物の投与形態を例示することができる。
シロドシンは、0.01~100mg/人/日、好ましくは10~50mg/人/日で経鼻投与(スプレー噴霧)等されることを例示することができる。
【0022】
以下、本発明の理解を深めるために実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
全ての動物実験は金沢大学動物実験委員会の承認(承認番号:AP-204167号)を得て実施した。
【実施例0023】
(材料及び方法)
マウス(雄性C57BL/6Jマウス(8-12週齢)及び雄性ICRマウス(8週齢以上))を、三協ラボサービス株式会社北陸営業所から入手して飼育した。コカインは、武田薬品工業株式会社から入手した。その他の試薬は、市販品を使用した。
【0024】
CPPスコアを測定するためのコカイン条件付け場所嗜好性試験は、pre test、conditioning、及びpost testの3つのセッションから構成される試験薬物の報酬効果を評価する試験法であり、文献(Neuropharmacology,166, 107968, doi:10.1016/j.neuropharm.2020.107968.)の記載を基にして、実施された。簡潔には、pre testではマウスをBoxに入れ、白と黒の2つのサイドの滞在時間(秒)を計測し、その後4日間のconditioningにてコカインへの条件付け(3 mg/kg、i.p.、4日間)を行い、post testで再度マウスにボックス内を探索させ、各サイドの滞在時間を計測した。post testにおけるコカイン条件付けサイドの滞在時間からpre testにおけるコカイン条件付けサイドの滞在時間を差し引いた差をCPPスコアとして算出し、この値が大きいほどコカインに対する欲求が大きいと判断した。また、post testの直前に攻撃用の大型のICRマウスに試験対象のC57BL/6Jマウスを5分間攻撃させ、急性SD(Social Defeat;社会的敗北)ストレスを負荷した。
【実施例0025】
(社会的敗北ストレスが薬物欲求増大に与える影響の確認)
拘束ストレスが薬物(コカイン)欲求を増大させることが知られている(参照:文献「Neuropharmacology Volume166, April 2020, 107968」)。そこで、本実施例では、社会的敗北ストレスが薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0026】
図1(1)に記載の工程に従って、post test直前に試験マウスをICRのホームケージに入れ社会的敗北ストレスを負荷し、社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、及び社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウスのCPPスコアを測定した。測定結果を図1(2)に示す。
【0027】
図1(2)の結果により、社会的敗北ストレスの負荷によってコカインCPPが増大することを確認し、ストレスによって薬物欲求が増大することを確認した。
【実施例0028】
(プラゾシン投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
本実施例では、アドレナリンα1受容体サブタイプ非選択的アンタゴニストであるプラゾシンのmPFC内局所投与が薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0029】
図2(1)に記載の工程に従って、プラゾシン(Prazosin(Sigma, St Louis, MO, USA);Pra、CAS登録番号19237-84-4、左右mPFCそれぞれに60ng)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、生理食塩水(Vehicle;Veh)をmPFC内局所投与されたSDコカイン条件付けマウス、プラゾシンをmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウス、及び生理食塩水をmPFC内局所投与されたNon-SDコカイン条件付けマウスのCPPスコアを測定した。測定結果を図2(2)に示す。
図2(2)の結果により、社会的敗北ストレスによって見られたCPPスコアの増大が、アドレナリンα1受容体サブタイプ非選択的アンタゴニストであるプラゾシンのmPFC内局所投与によって有意に抑制され、プラゾシン投与は、社会的敗北ストレスに起因する薬物(特に、コカイン)欲求増大を抑制することを確認した。
【実施例0030】
(ホールセルパッチクランプ法による内側前頭前野(mPFC)5層錐体細胞に対するノルアドレナリン(NA)作用の確認)
4-6週齢のC57BL/6JマウスからmPFCを含む脳スライス(厚みは250ミクロン)を作製し、図3(1)に記載の工程に従って、ホールセルパッチクランプ法を実施した。図3(2)に示すようにボルテージクランプ記録法により、膜電位を-70mVに固定し、Holding currentを記録し、記録細胞への興奮性シナプス入力の指標として自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)を記録した。
【0031】
NA(終濃度10 μM、Tokyo Chemical Industry, Tokyo, Japan)を適用した全体の代表トレースを図4(1)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図4(2)に示す。図4(3)に示すようにNAの適用により、Frequency、Amplitudeが有意に増加し、holding currentが有意に負の方向に変化した。このことより、NAによって興奮性神経伝達増大作用と脱分極作用を示すことが分かった。
【実施例0032】
(ホールセルパッチクランプ法による内側前頭前野(mPFC)5層錐体細胞に対するノルアドレナリン(NA)適用に対するmPFC内アドレナリンα1受容体の各サブタイプに対するアンタゴニストの作用の確認)
NA薬液に代えて、又はNA薬液に加えてmPFC内アドレナリンα1受容体の各サブタイプに対するアンタゴニストを図5~8に示す組み合わせで含有する薬液、図9に示すα1A受容体アゴニストを含有する薬液を適用した以外は実施例4と同様の方法により実施した。mPFC内アドレナリンα1A受容体(α1A-AR)に対するアンタゴニストとしてSilodosin(Silo:Wako, Osaka, Japan)(終濃度5 μM)、mPFC内アドレナリンα1B受容体(α1B-AR)に対するアンタゴニストとしてL765314(L76:MedChemExpress, Monmouth Junction, NJ, USA)(終濃度1 μM)、mPFC内アドレナリンα1D受容体(α1D-AR)に対するアンタゴニストとしてBMY7378(BMY:Santa CruzBiotechnology, Dallas, TX, USA)(終濃度10 μM)を使用した。
【0033】
3つのmPFC内アドレナリンα1受容体サブタイプに対するアンタゴニストを適用した。実験の概念図を図5(1)に示す。全体の代表トレースを図5(2)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図5(3)に示す。図5(4)に示すように、3つのサブタイプに対するアンタゴニストの適用により、NAによるFrequencyとAmplitudeの増加が抑制された。一方、holding currentの増加は完全には抑制されなかった。
【0034】
NA適用に対する応答が強い細胞と弱い細胞が存在したため、これらの応答がどのサブタイプを介して誘導されるのかを調べるため、3つのサブタイプに対するアンタゴニストを1つずつ減らす方法をとった。まず、α1B-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用した。実験の概念図を図6(1)に示す。全体の代表トレースを図6(2)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図6(3)に示す。図6(4)に示すように、α1B-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニスト存在下でNAを適用するとFrequencyが有意に増加し、holding currentが有意に負の方向に変化した。このことからmPFC内アドレナリンα1A受容体が、NAによる興奮性神経伝達増大作用と脱分極作用を示すことが示唆された。
【0035】
次に、α1A-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニストを適用した。実験の概念図を図7(1)に示す。全体の代表トレースを図7(2)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図7(3)に示す。図7(4)に示すように、α1A-AR及びα1D-ARに対するアンタゴニスト存在下でNAを適用するとFrequency、Amplitude、及びholding currentのいずれにも有意な変化はなかったため、mPFC内アドレナリンα1B受容体はNAによる興奮性神経伝達増大作用と脱分極作用への寄与は小さいことが示唆された。
【0036】
次に、α1A-AR及びα1B-ARに対するアンタゴニストを適用した。実験の概念図を図8(1)に示す。全体の代表トレースを図8(2)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図8(3)に示す。図8(4)に示すようにα1A-AR及びα1B-ARに対するアンタゴニスト存在下でNAを適用するとFrequency及びAmplitudeには変化はみられなかったため、mPFC内アドレナリンα1D受容体はNAによる興奮性神経伝達増大作用への寄与は小さいことが示唆された。
【0037】
次に、α1A-ARに対するアゴニストを適用した。実験の概念図を図9(1)に示す。全体の代表トレースを図9(2)に示し、印をつけた部位における拡大トレースを図9(3)に示す。図9(4)に示すようにsEPSCのFrequencyに有意な増加とHolding currentの負の方向への変化が認められた。よって、mPFC内アドレナリンα1受容体の3つのサブタイプの中でもα1A受容体がNAによる興奮性神経伝達増大作用と脱分極作用に関与することが確認された。
【実施例0038】
(シロドシン投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
実施例5の結果より、NAの作用にアドレナリンα1A受容体の関与が確認されたため、本実施例では、mPFC内アドレナリンα1A受容体アンタゴニストであるシロドシンのmPFC内局所投与が薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0039】
図10(1)に記載の工程に従って、シロドシン(Silodosin;Silo、CAS登録番号160970-54-7、左右mPFCそれぞれに0.5 μg)をmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、生理食塩水(Vehicle;Veh)をmPFC内局所投与されたSDコカイン条件付けマウス、シロドシンをmPFC内局所投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウス、及び生理食塩水をmPFC内局所投与されたNon-SDコカイン条件付けマウスのCPPスコアを測定した。測定結果を図10(2)に示す。
図10(2)の結果により、社会的敗北ストレス負荷によってみられたCPPスコアの増大が、SilodosinのmPFC内局所投与によって抑制され、シロドシン投与は、ストレスに起因する薬物(特に、コカイン)欲求増大を抑制することを確認した。
【実施例0040】
(A61603投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
実施例6の結果より、本実施例では、アドレナリンα1A受容体アゴニスト(A61603)によるアドレナリンα1A受容体の刺激による薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0041】
図11(1)に記載の工程に従って、A61603(A61、左右mPFCそれぞれに7.8 ng)をmPFC内局所投与されたコカイン条件付けマウス、及び生理食塩水(Vehicle;Veh)をmPFC内局所投与されたコカイン条件付けマウスのCPPスコアを測定した。測定結果を図11(2)に示す。
図11(2)の結果により、アドレナリンα1A受容体の刺激によってCPPスコアが増大し、CPPスコアの増大において、アドレナリンα1A受容体を介した神経伝達が重要な役割を果たすことが確認された。
【実施例0042】
(シロドシンの経鼻投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
臨床応用のため、より非侵襲的な投与経路として経鼻投与に着目した。経鼻投与は薬物が鼻腔内に入った後、嗅上皮の細胞間隙を通り抜け、脳脊髄液に合流するため、血液脳関門を介さないという利点がある。そこで、脳への移行性の低いシロドシンのストレス負荷前の経鼻投与が社会的敗北ストレスによる薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0043】
図12(1)に記載の工程に従って、シロドシン(Silodosin;Silo、左右鼻腔それぞれに5 μg)を経鼻投与された社会的敗北ストレスを負荷した(SD)コカイン条件付けマウス、生理食塩水(Vehicle;Veh)を経鼻投与されたSDコカイン条件付けマウス、シロドシンを経鼻投与された社会的敗北ストレスを負荷していない(Non-SD)コカイン条件付けマウス、及び生理食塩水を経鼻投与されたNon-SDコカイン条件付けマウスのCPPスコアを測定した。測定結果を図12(2)に示す。
図12(2)の結果により、社会的敗北ストレス負荷によって増大したCPPスコアがシロドシン経鼻投与によって有意に抑制され、シロドシンの経鼻投与は、ストレスに起因する薬物(特に、コカイン)欲求増大を抑制することを確認した。
【0044】
以上の結果から、mPFC内アドレナリンα1A受容体のNAによる刺激は、興奮性神経伝達増大作用及び脱分極作用を示すこと、α1A受容体の阻害は、ストレスによるmPFC内のNA濃度上昇に起因する薬物(特に、コカイン)欲求増大を抑制することが明らかとなった。
また、シロドシンの経鼻投与を用いることでストレスに起因する薬物欲求増大を非侵襲的に抑制することができ、前立腺肥大の治療薬であるシロドシンを薬物依存症の治療薬として応用できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物を提供することができる。
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