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特開2025-5015溶融塩電解システム、溶融塩電解システムのためのプログラム、および溶融塩電解法による金属マグネシウムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005015
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】溶融塩電解システム、溶融塩電解システムのためのプログラム、および溶融塩電解法による金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/00 20060101AFI20250108BHJP
   C25C 3/04 20060101ALI20250108BHJP
   C25C 3/08 20060101ALI20250108BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C25C7/00 302B
C25C3/04
C25C3/08
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104995
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】浦川 悟
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA05
4K058CB03
4K058DD06
4K058FA11
4K058FA30
4K058FB01
4K058FB04
(57)【要約】
【課題】安全に、効率よく、低コストでマグネシウムを製造するためのシステムと方法を提供すること。
【解決手段】
溶融塩電解システムは、電解装置、回収装置、および移動機構を備える。電解装置は、マグネシウムを含む溶融塩を貯留する電解槽、電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、電解室に配置される陽極と陰極、および第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を備える。第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計は、それぞれ、回収室における溶融塩の液面レベル、および溶融塩上に形成されるマグネシウム層の液面レベルを測定するように構成される。回収装置は、マグネシウム層を回収するための容器、容器に接続された金属回収パイプ、容器に接続された圧力調整パイプ、容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解装置、回収装置、および移動機構を備え、
前記電解装置は、
マグネシウムを含む溶融塩を貯留する電解槽、
前記電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、
前記電解室に配置される陽極と陰極、および
前記回収室における前記溶融塩の液面レベル、および前記溶融塩上に形成されるマグネシウム層の液面レベルを測定するための第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を備え、
前記回収装置は、
前記マグネシウム層を回収するための容器、
前記容器に接続された金属回収パイプ、
前記容器に接続された圧力調整パイプ、
前記容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および
前記容器内の前記溶融塩と前記マグネシウム層の液面レベルを測定するための第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備え、
前記移動機構は、前記回収装置を移動するように構成される、
溶融塩電解システム。
【請求項2】
前記第1の非接触式レベル計、前記第1の背圧式レベル計、前記第2の非接触式レベル計、前記第3の非接触式レベル計、前記第2の背圧式レベル計、および前記移動機構の少なくとも一つと通信接続される制御装置をさらに備える、請求項1に記載の溶融塩電解システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計から取得した情報に基づき、前記回収室における前記マグネシウム層の厚さを算出するように構成される、請求項2に記載の溶融塩電解システム。
【請求項4】
前記制御装置は、算出された前記電解槽における前記マグネシウム層の前記厚さ、および前記回収装置の前記高さに基づき、前記容器外に位置する前記金属回収パイプの端部が前記マグネシウム層内に位置するように、前記移動機構を介して前記回収装置を配置するように構成される、請求項3に記載の溶融塩電解システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第3の非接触式レベル計と前記第2の背圧式レベル計から取得した情報に基づいて、前記容器内における前記マグネシウム層の厚さを算出するように構成される、請求項2に記載の溶融塩電解システム。
【請求項6】
前記圧力調整パイプは、切替バルブを介して不活性ガス供給源に接続され、
前記制御装置は、算出された前記容器内における前記マグネシウム層の前記厚さに基づき、前記切替バルブを制御して前記溶融塩を優先的に前記電解槽に戻すように構成される、請求項5に記載の溶融塩電解システム。
【請求項7】
請求項2に記載の制御装置に搭載され、前記制御装置に対し、
前記第1の非接触式レベル計と前記第1の背圧式レベル計から取得した情報に基づいて、前記電解槽における前記マグネシウム層の厚さを算出すること、および
算出された前記電解槽における前記溶融塩の前記液面レベルと前記マグネシウム層の前記厚さ、および前記第2の非接触式レベル計から取得される情報から得られる前記回収装置の高さに基づき、前記容器外に位置する前記金属回収パイプの端部が前記マグネシウム層内に位置するように、前記移動機構を介して前記回収装置を配置すること、を実行するように構成されるプログラム。
【請求項8】
溶融塩を貯留する電解槽、前記電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、および前記電解室に配置された陽極と陰極を備える電解装置において、塩化マグネシウムを電解してマグネシウムを生成することでマグネシウム層を形成すること、
前記回収室における前記溶融塩と前記マグネシウム層の液面レベルを測定するように配置された第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を用い、前記回収室において前記溶融塩上に形成されるマグネシウム層の厚さを算出すること、
前記マグネシウムを回収するための容器、前記容器に接続された金属回収パイプと圧力調整パイプ、前記容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および前記容器内の前記溶融塩と前記マグネシウム層の液面レベルを測定するための第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備える回収装置を前記電解装置に接続すること、ならびに
前記マグネシウム層を前記回収装置に回収することを含み、
前記回収装置と前記電解装置との前記接続は、算出された前記電解槽における前記マグネシウム層の前記厚さ、および前記第2の非接触式レベル計から取得される情報から算出される前記回収装置の高さに基づき、前記容器外に位置する前記金属回収パイプの端部が前記マグネシウム層内に位置するように行われる、マグネシウムの製造方法。
【請求項9】
前記第3の非接触式レベル計と前記第2の背圧式レベル計から取得した情報に基づいて、前記容器内における前記マグネシウム層の厚さを算出することをさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記圧力調整パイプは、切替バルブを介して不活性ガス供給源に接続され、
前記製造方法は、算出された前記容器内における前記溶融塩の前記液面レベルと前記マグネシウム層の前記厚さに基づき、前記切替バルブを制御して前記溶融塩を優先的に前記電解槽に戻すことをさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、溶融塩電解により金属マグネシウムを製造するための溶融塩電解システム、およびこのシステムを利用する金属マグネシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属マグネシウムの製造方法の一つとして、溶融塩電解法が知られている。この方法では、陽極と陰極が設けられた電解槽内で溶融したマグネシウムの塩(特に塩化マグネシウム)を電気分解(電解)することでマグネシウムイオンが還元され、金属マグネシウムを得ることができる。例えば特許文献1には、溶融した塩化マグネシウムの液面を一定に保ちながら塩化マグネシウムを電解するための電解槽が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-140459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、溶融塩電解によって金属マグネシウムを製造するための新しいシステムと方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、安全にかつ効率よく溶融塩電解を行うことで金属マグネシウムを低コストで製造するためのシステムと方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る実施形態の一つは、溶融塩電解システムである。この溶融塩電解システムは、電解装置、回収装置、および移動機構を備える。電解装置は、マグネシウムを含む溶融塩を貯留する電解槽、電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、電解室に配置される陽極と陰極、および第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を備える。第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計は、回収室における溶融塩の液面レベル、および溶融塩上に形成されるマグネシウム層の液面レベルを測定するように構成される。回収装置は、マグネシウム層を回収するための容器、容器に接続された金属回収パイプ、容器に接続された圧力調整パイプ、容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備える。第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計は、容器内の溶融塩とマグネシウム層の液面レベルを測定するように構成される。移動機構は、回収装置を移動するように構成される。
【0006】
この溶融塩電解システムは、第1の非接触式レベル計、第1の背圧式レベル計、第2の非接触式レベル計、第3の非接触式レベル計、第2の背圧式レベル計、および移動機構の少なくとも一つと通信接続される制御装置をさらに備えてもよい。
【0007】
本発明に係る実施形態の一つは、上記制御装置に搭載されるプログラムである。このプログラムは、上記第1の非接触式レベル計、第1の背圧式レベル計、第2の非接触式レベル計、第3の非接触式レベル計、第2の背圧式レベル計、および移動機構の少なくとも一つと通信接続される制御装置に搭載される。このプログラムは、制御装置に対し、第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計から取得した情報に基づいて、電解槽におけるマグネシウム層の厚さを算出すること、および算出された電解槽における溶融塩の液面レベルとマグネシウム層の厚さ、および第2の非接触式レベル計から取得される情報から得られる回収装置の高さに基づき、容器外に位置する金属回収パイプの端部がマグネシウム層内に位置するように、移動機構を介して回収装置を配置すること、を実行するように構成される。
【0008】
本発明に係る実施形態の一つは、金属の製造方法である。この製造方法は、(1)溶融塩を貯留する電解槽、電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、および電解室に配置された陽極と陰極を備える電解装置において、塩化マグネシウムを電解してマグネシウムを生成することでマグネシウム層を形成すること、(2)回収室における溶融塩とマグネシウム層の液面レベルを測定するように配置された第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を用い、回収室において溶融塩上に形成されるマグネシウム層の厚さを算出すること、(3)マグネシウムを回収するための容器、容器に接続された金属回収パイプと圧力調整パイプ、容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および容器内の溶融塩とマグネシウム層の液面レベルを測定するための第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備える回収装置を電解装置に接続すること、ならびに(4)マグネシウム層を回収装置に回収することを含む。回収装置と電解装置との接続は、算出された電解槽におけるマグネシウム層の厚さ、および第2の非接触式レベル計から取得される情報から算出される回収装置の高さに基づき、容器外に位置する金属回収パイプの端部がマグネシウム層内に位置するように行われる。
【0009】
本発明に係る実施形態の一つは、電解装置である。この電解装置は、マグネシウムを含む溶融塩を貯留する電解槽、電解槽を電解室と回収室に分割する隔壁、電解室に配置される陽極と陰極、および第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計を備える。第1の非接触式レベル計と第1の背圧式レベル計は、回収室における溶融塩の液面レベル、および溶融塩上に形成されるマグネシウム層の液面レベルを測定するように構成される。
【0010】
本発明に係る実施形態の一つは、回収装置である。この回収装置は、マグネシウム層を回収するための容器、容器に接続された金属回収パイプ、容器に接続された圧力調整パイプ、容器の高さを測定するための第2の非接触式レベル計、および第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計を備える。第3の非接触式レベル計と第2の背圧式レベル計は、容器内の溶融塩とマグネシウム層の液面レベルを測定するように構成される。移動機構は、回収装置を移動するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)本発明の実施形態の一つに係る溶融塩電解システムの機能ブロック図と(B)溶融塩電解システムに含まれる制御装置の機能ブロック図。
図2】(A)本発明の実施形態の一つに係る電解装置の模式的断面図と(B)模式的上面図。
図3】(A)本発明の実施形態の一つに係る電解装置に備えられる電極の模式的側面図と(B)本発明の実施形態の一つに係る電解装置に備えられる背圧式レベル計と非接触式レベル計を中心とする模式的端面図。
図4】本発明の実施形態の一つに係る回収装置の模式的斜視図。
図5】本発明の実施形態の一つに係る回収装置の模式的断面図。
図6】本発明の実施形態の一つに係るマグネシウムの製造方法を説明するフローチャート。
図7】本発明の実施形態の一つに係るマグネシウムの製造方法を説明する模式図。
図8】本発明の実施形態の一つに係る、マグネシウムの製造方法を説明する模式的端面図。
図9】本発明の実施形態の一つに係る、マグネシウムの製造方法を説明する模式的端面図。
図10】本発明の実施形態の一つに係る、マグネシウムの製造方法を説明する模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0013】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状、位置関係などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0014】
以下、本発明の実施形態の一つである、溶融塩電解法によって金属マグネシウムを製造するための溶融塩電解システム、この溶融塩電解システムを利用する金属マグネシウムの製造方法、および溶融塩電解システムのためのプログラムついて説明する。
【0015】
1.溶融塩電解システムの構成
図1(A)の機能ブロック図に示すように、本溶融塩電解システム10は、電解装置100、回収装置200、移動機構400、および制御装置300を含む。電解装置100と回収装置200は、制御装置300と通信接続されてもよく、あるいは、制御装置300とは異なる独立した制御システムによって制御されていてもよい。同様に、移動機構400も制御装置300と通信接続されてもよく、制御装置300とは異なる独立した制御システムによって制御されていてもよい。以下の説明では、電解装置100、回収装置200、移動機構400が制御装置300と通信接続される態様について主に説明する。電解装置100、回収装置200、および移動機構400は、制御装置300に対し、ユニバーサル・シリアル・バス(USB)などの規格によって直接接続されてもよく、あるいはネットワーク12を介して接続されてもよい。ネットワーク12は、インターネットなどのワイドエリアネットワークまたはWiFiなどのローカルエリアネットワークでもよい。
【0016】
(1)電解装置
電解装置100は、金属マグネシウムの塩である塩化マグネシウムを電気分解して金属マグネシウム(0価のマグネシウム)を生成するための装置である。電解装置100の模式的断面図と上面図をそれぞれ図2(A)と図2(B)に示す。電解装置100は、電解槽102、蓋104、隔壁106、108、電極(陽極120と陰極122)、背圧式レベル計130、および非接触式レベル計140を主な構成として備える。
【0017】
電解槽102は、例えばレンガやコンクリートなどの耐熱性素材、酸化アルミニウムや窒化ホウ素などのセラミックなどを用いて構成される耐熱性の容器であり、塩化マグネシウムが溶融することで形成される溶融塩126を貯留する。電解槽102の形状に制約はなく、例えば上部側に開口を備える直方体、円柱体の形状でもよい。溶融塩126は、その原料となる塩を投入して電解槽102内で溶融して形成してもよく、予め溶融塩126を形成した後に電解槽102に投入してもよい。また、溶融塩電解が進行するに従って溶融塩126が減少するので、適宜電解槽102には直接溶融塩126が投入される。溶融塩126の温度は、熱交換器118によって調整される。ただし、凝固点降下を引き起こしてより低温で溶融塩126を生成し、その溶融状態を維持するため、塩化マグネシウムのほか、例えば塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化カルシウムなどの他の塩(支持塩)を加えることが好ましい。支持塩は塩化マグネシウムより分解電圧が高いものを通常使用する。これにより、金属マグネシウムの融点(650℃)以上であり、かつ、この温度近傍の温度を維持することができ、かつ、マグネシウムも液体として維持することができる。その結果、電解槽102の操業に必要な熱エネルギーを節約することができる。
【0018】
電解槽102内部に配置される電極は、少なくとも一対の陽極120と陰極122で構成される。電解槽102に複数の陽極120と陰極122を設けてもよい。陽極120と陰極122としては、例えば塩素ガスや溶融塩126に対する耐食性に優れる炭素電極などが用いられる。なお、マグネシウムが生成する陰極122は炭素鋼などの鋼製でもよい。図2(A)と図2(B)に示すように、陽極120は蓋104を貫通するように配置してもよい。同様に、陰極122は電解槽102の側壁を貫通してもよく、あるいは陰極122は側壁を貫通せず、陰極122に接続される配線が蓋104または電解槽102の側壁を貫通してもよい。電解槽102には、陽極120と陰極122のほか、隣接する陽極120と陰極122の間に配置される一つまたは複数のバイポーラ電極124をさらに備えてもよい。バイポーラ電極124も炭素を含むように構成することができる。バイポーラ電極124は、陽極120と陰極122との間に電圧を印加することで分極し、陰極122側の面が陽極として働き、他方の面が陰極として働く。このため、バイポーラ電極124を用いることで電解槽102が複数の電解セルに分割され、その結果、陰極として働く電極面積が増大し、マグネシウムの生成量を増大させることができる。
【0019】
図3(A)に示すように、陽極120と陰極122間に塩化マグネシウムの分解電圧以上(溶融塩126が支持塩を含む場合は塩化マグネシウムの分解電圧以上であって、支持塩の分解電圧未満である)の電位差を与えることで溶融塩126に含まれる塩化マグネシウムが電気分解され、陰極122およびバイポーラ電極124の陽極120側の面においてマグネシウムが生成し、陽極120側およびバイポーラ電極124の陰極122側の面において塩素ガスが発生する。マグネシウムの融点は塩化マグネシウムの融点よりは低いものの支持塩を含む溶融塩126が凝固し始める温度よりも高い。このため、溶融塩126の温度をマグネシウムの融点よりも高く維持することで、局所的な温度低下が生じない限り、マグネシウムも電解槽102内で液体として存在する。
【0020】
蓋104は電解槽102の上に電解槽102を覆うように配置することができる。蓋104を設けることで、溶融塩126や生成する金属マグネシウムの外部大気との接触、異物の混入、塩素ガスの漏洩などを防ぐとともに、生成した金属マグネシウムや溶融塩126の温度低下を抑制することができる。蓋104もレンガやコンクリートなどの耐熱性素材、酸化アルミニウムや窒化ホウ素などのセラミックなどを用いて構成すればよい。蓋104には、塩化マグネシウムの電解によって生じる塩素を排出するための開口104bや生成する金属マグネシウムを回収するための開口104aに加え、背圧式レベル計130と非接触式レベル計140による測定のための開口104c、104dが設けられる。排出される塩素は、例えば酸化チタンとコークスとの反応による四塩化チタンの製造などに用いるために回収してもよい。
【0021】
電解によって生成する塩素は気体であるため、溶融塩126内で高速で上昇し、その後、溶融塩126から脱離する(図2(A)の点線矢印参照)。このため開口104bは、開口104aと比較し、陽極120や陰極122側に設けられる。塩素が気泡として溶融塩126内を上昇することで、白抜き矢印で示す溶融塩126の上昇流が電解室116に発生する。これに起因し、図2(A)の実線矢印に示すように、溶融塩126は電解槽102の上部で電極から遠ざかるような流れ(以下、浴流とも呼ぶ。)を形成する。隔壁108は、電解槽102の対向する側壁間を延伸し、浴流が隔壁108の周りで循環するように配置される。これにより、浴流は電解槽102の上部で電極から遠ざかった後、再度電極下部に移動して上昇し、電気分解に供される。
【0022】
一方、隔壁106は、上端と下端がそれぞれ溶融塩126の液面レベルより上と下に位置するように配置され、かつ、電解槽102の底面に達しないように設けられる。隔壁106、108により、電解槽102が回収室114とそれ以外の部分(電解室116)に分割される。回収室114は、隔壁106、108よりも電極と反対側の空間であり、回収室114と重なるように開口104aが配置される。金属マグネシウムの密度は溶融塩の密度よりも小さいため、金属マグネシウムの大部分は浴流から離脱し、電極から離れるように移動する。その結果、図2(A)の鎖線矢印で示すように、回収室114に金属マグネシウムが集められ、溶融した金属マグネシウムの層(マグネシウム層)128が溶融塩126上に堆積する。このマグネシウム層128を開口104aから回収することで、金属マグネシウムを取り出すことができる。
【0023】
背圧式レベル計130と非接触式レベル計140は、いずれも電解槽102、より具体的には、回収室114における溶融塩126やマグネシウム層128の液面レベルを測定するために設けられる。このため、図3(B)に示すように、背圧式レベル計130と非接触式レベル計140は、回収室114上に設けられる。マグネシウム層128を回収する際の干渉を防ぐため、背圧式レベル計130と非接触式レベル計140は、マグネシウム層128を回収するための開口104aと異なる開口104c、104d上に配置することが好ましい。
【0024】
背圧式レベル計130は、例えば、圧力計132と計測チューブ134を有する(図3(B))。計測チューブ134は開口104cを通過し、その下端が溶融塩126の液面レベルよりも下に位置するように配置される。計測チューブ134にはアルゴンなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給源(図示しない)が接続され、溶融塩126および/またはマグネシウム層128が計測チューブ134内に侵入しないように不活性ガスが供給される。このため、例えば計測チューブ134の下端から不活性ガスの気泡が一定の速度で排出される程度に不活性ガスを供給してもよい。圧力計132は、計測チューブ134内に供給される不活性ガスの圧力を測定するように構成され、測定された圧力から計測チューブ134の下端から溶融塩126の液面レベルまでの距離(マグネシウム層128が溶融塩126上に存在する場合には、計測チューブ134の下端からマグネシウム層128の液面レベルまでの距離)を測定することができる。圧力計132で得られたデータは、制御装置300に送信される。
【0025】
一方、非接触式レベル計140は、例えばレーダ距離計またはレーザ距離計である。これらの距離計は、例えば、タイムオブフライト方式の距離計でもよく、三角測距方式の距離計でもよい。非接触式レベル計140を用いることで、非接触式レベル計140から溶融塩126の液面レベルまでの距離(マグネシウム層128が溶融塩126上に存在する場合には、マグネシウム層128の液面レベルまでの距離)を測定することができる。非接触式レベル計140で得られたデータも制御装置300に送信される。後述するように、背圧式レベル計130と非接触式レベル計140から得られる情報を用いることで、溶融塩126の液面レベルとマグネシウム層128の厚さを算出することができる。なお、非接触式レベル計140の汚染を防ぐため、開口104dに石英板などの保護板142を設けてもよい。保護板142は、非接触式レベル計140から照射される光を透過するように構成される。
【0026】
(2)回収装置
回収装置200は、電解装置100で生成する金属マグネシウムを回収するための装置である。図4図5に示すように、回収装置200は、主な構成として、耐熱性の容器202、金属回収パイプ230、圧力調整パイプ240、ヒータ210、背圧式レベル計220、および二つの非接触式レベル計222、224を備える。回収装置200は、回収装置200を吊り下げるための吊り下げ機構206を備えてもよい。
【0027】
耐熱性の容器202は、例えばレンガやコンクリートなどの耐熱性素材、酸化アルミニウムや窒化ホウ素などのセラミック、あるいはマグネシウムの融点や溶融塩126よりも高い融点を有する高融点金属(例えば、鋼、炭素鋼、ステンレス鋼など)を用いて構成される。回収装置200は、容器202上に容器202内部を密閉する蓋204を備えてもよい。蓋204も容器202と同様の材料を用いて構成すればよい。あるいは、容器202と蓋204は一体化されていてもよい。
【0028】
ヒータ210は、図5に示すように、容器202の内壁と外壁の間に設けられ、電源ポート208を介して外部電源254から電力供給を受けるように構成される。ヒータ210を用いることで、容器202内部の温度をマグネシウム層128や溶融塩126の凝固点より高く維持することができるため、電解装置100から回収したマグネシウム層128や溶融塩126の凝固を防止することができる。電源ポート208と外部電源254との配置関係により、ヒータ210は常に加熱されていてもよいし、加熱期間を特定の期間に限定してもよい。
【0029】
金属回収パイプ230と圧力調整パイプ240は、いずれも容器202に接続される。金属回収パイプ230と圧力調整パイプ240も、鋼、炭素鋼やステンレス鋼などの高融点金属で構成することができる。図4に示すように、金属回収パイプ230と圧力調整パイプ240は蓋204を貫通するように配置してもよく、図示しないが、容器202の側壁を貫通するように配置してもよい。図4図5に示すように、圧力調整パイプ240の一方の端部240aは容器202内に位置し、他方の端部は切替バルブ242を介して真空ポンプ250と不活性ガス供給源252に接続される。真空ポンプ250と不活性ガス供給源252に対する接続は、切替バルブ242によって切り替えることができる。切替バルブ242は図示しないモータを介して制御装置300に通信接続することができる。この場合、制御装置300からの命令に従ってモータが駆動され、切替バルブ242が動作する。切替バルブ242を適宜操作することで、不活性ガスを供給して容器202内を陽圧にすることができるとともに、真空ポンプ250を用いて容器202内を陰圧にすることができる。また、容器202に回収されるマグネシウム層128や溶融塩126と水、酸素などの酸化性ガス、窒素などとの接触による酸化マグネシウムや窒化マグネシウムの生成などを防止することができる。
【0030】
金属回収パイプ230の一方の端部230aは容器202内に位置し、他方の端部230bは容器202外部で開放される。マグネシウム層128や溶融塩126の回収を容易にする、また容器202内から溶融塩126を電解槽102に戻しやすくするため、金属回収パイプ230の容器202内の端部230aは、容器202内の底側に配置することが好ましい。後述するように、金属回収パイプ230の端部230b側は、電解装置100から金属を回収する際に電解装置100との接続に用いられる。端部230bは、図4に示すように、容器202の下端よりも下に位置してもよく、上に位置してもよい。容器202において、金属回収パイプ230の端部230aは、圧力調整パイプ240の端部240aよりも低い位置に配置される。この配置により、マグネシウム層128や溶融塩126の圧力調整パイプ240への侵入を防ぐとともに、圧力調整パイプ240を介して接続される真空ポンプ250によって容器202内を排気して陰圧にし、回収室114内のマグネシウム層128や溶融塩126を吸引して容器202に導入することできる。ただし、後述するように、マグネシウム層128の回収時には、マグネシウム層128のみを選択的に吸引することは難しく、溶融塩126の一部も容器202に回収されることがある。溶融塩126の密度は金属の密度よりも高いため、溶融塩126は容器202の底部に溜まる。このため、圧力調整パイプ240を介して不活性ガスを供給して容器202内を陽圧にすることで、容器202の溶融塩126を優先的に排出して電解装置100に戻すことができる。
【0031】
なお、金属回収パイプ230には、サイホンカット232を設けてもよい。サイホンカット232は、金属回収パイプ230に不活性ガスを導入してマグネシウム層128や溶融塩126の吸引や押し戻しなどを停止するための機構であり、図示しない不活性ガス供給源に接続される(図4の点線矢印参照)。サイホンカット232には開閉バルブ234が設けられ、開閉バルブ234の操作によってサイホンカット232の開閉が行われる。開閉バルブ234も図示しないモータを介して制御装置300と通信接続されるように構成してもよい。これにより、制御装置300によってモータを駆動することで開閉バルブを開閉し、サイホンカット232を自動制御することができる。また、任意の構成として、容器202内の圧力を計測するための圧力ゲージ244を圧力調整パイプ240に設けてもよい。図示しないが、圧力ゲージ244は容器202または蓋204に設けてもよい。
【0032】
背圧式レベル計220と非接触式レベル計222は、いずれも容器202内の溶融塩126とマグネシウム層128の液面レベルを測定するために設けられる。容器202上に蓋204が設けられる場合には、蓋204に設けられる開口を介して背圧式レベル計220と非接触式レベル計222が配置されることがある(図5参照)。背圧式レベル計220と非接触式レベル計222は、電解装置100に設けられる背圧式レベル計130と非接触式レベル計140とそれぞれ同様の構成を有することができるため、詳細な説明は割愛する。背圧式レベル計220と非接触式レベル計222も制御装置300と通信接続することができ、これにより、後述するように、これらのレベル計から得られる情報に基づいて溶融塩126とマグネシウム層128の液面レベルを制御装置300上で算出することができる。
【0033】
非接触式レベル計222の他、容器202の外部に設けられる非接触式レベル計224も、例えばレーダ距離計またはレーザ距離計である。非接触式レベル計224と容器202との相対的な位置は固定されており、容器202と金属回収パイプ230の相対的な位置関係も固定されるため、非接触式レベル計224で得られる情報から容器202の高さや、金属回収パイプ230の端部230bの高さを算出することができる。非接触式レベル計224も制御装置300と通信接続できるため、容器202の高さや端部230bの高さも制御装置300上で把握することができる。後述するように、非接触式レベル計224は、回収装置200を電解装置100に接続する際に回収装置200の高さを測定するために設けられる。この時、電解装置100からの放射熱の影響を防ぐため、容器202の外側に非接触式レベル計224を配置して動作させることが好ましい。
【0034】
吊り下げ機構206は、移動機構400によって回収装置200を吊り下げ、移動させるための構成である。したがって、吊り下げ機構206の構造に制約はなく、移動機構400によって確実に回収装置200を吊り下げて移動できる構造であれば、任意の構造を採用することができる。例えば、吊り下げ機構206は図3に示すような一つまたは複数の吊り輪でもよい。吊り輪は、容器202の側壁に設けてもよい。あるいは、吊り下げ機構206は、容器202の側壁に設けられる凹部でもよい。
【0035】
(3)移動機構
移動機構400は、回収装置200を水平方向と鉛直方向に移動するための揚重装置であり、電解装置100が設けられる空間の天井に配置されるクレーンでもよく、クローラークレーンでもよい。公知の揚重装置を移動機構400として利用することができるので、詳細な説明は割愛する。
【0036】
(4)制御装置
制御装置300は通信機能と計算機能を有するコンピュータであり、ノート型、または据え置き型のコンピュータでもよく、あるいはタブレットコンピュータなどの携帯型通信端末でもよい。図1(B)のブロック図に示すように、制御装置300には、制御装置300の動作を制御する制御部302に加え、制御部302によって制御される入力部304、出力部306、送受信部308、記憶部310、音声出力部312などが設けられる。
【0037】
記憶部310には、制御装置300を動作させるための基本アプリケーションプログラムとともに、本溶融塩電解法を利用する金属マグネシウムの製造方法を実施するためのプログラムが格納される。制御部302は中央演算ユニット(CPU)などのプロセッサを備え、記憶部310に格納される基本アプリケーションプログラムや上記プログラムを動作させて制御装置300で実行される各種処理を制御する。入力部304は制御装置300に命令や情報を入力する際に用いられるユーザインターフェースであり、典型的にはキーボードやタッチパネル、マウス、またはこれらの組み合わせが挙げられる。出力部306は記憶部310に格納された各種データを画像として提供するものであり、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などの表示装置である。出力部306と入力部304の一部は一体化されてもよい。例えば、入力部304として機能するタッチパネルが搭載された表示装置を出力部306として用いてもよい。送受信部308は、直接またはネットワーク12を介し、上述した背圧式レベル計130、220、および非接触式レベル計140、222、224などとの通信接続を行うユニットであり、これらのレベル計で得られる情報を受信する。音声出力部312は種々の音を発生するスピーカーである。
【0038】
後述するように、制御装置300は、上記プログラムの命令に従って背圧式レベル計130と220、非接触式レベル計140、222、224で得られる情報を自動的に取得し、回収室114と容器202における溶融塩126とマグネシウム層128の液面レベル、およびこれらから算出されるマグネシウム層128の厚さを算出する。また、制御装置300は、上記プログラムの命令に従い、回収室114における溶融塩126とマグネシウム層128の液面レベルに基づき、マグネシウム層128を効率的に回収できるよう、電解装置100に対する回収装置200の高さを算出する。さらに、制御装置300は、この算出結果に基づいて移動機構400を制御して回収装置200を移動し、電解装置100に接続するように構成してもよい。
【0039】
また、制御装置300は、上述した切替バルブ242や開閉バルブ234、移動機構400などと通信接続されるように構成することができる。制御装置300はさらに、真空ポンプ250、不活性ガス供給源252、およびサイホンカット232に接続される不活性ガス供給源などと通信接続されるように構成してもよい。このため、制御装置300は、プログラムの命令に従って切替バルブ242や開閉バルブ234を操作して容器202内の圧力を自動制御するとともに、移動機構400を制御して回収装置200と電解装置100との接続を自動的に行うことも可能である。なお、電源ポート208を介してヒータ210に接続される外部電源も制御装置300を用いて制御してもよい。これにより、容器202内の温度制御も制御装置300によって管理することができる。
【0040】
2.溶融塩電解システムを用いる金属マグネシウムの製造方法
以下、本溶融塩電解システム10を用いる金属マグネシウムの製造方法について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
(1)溶融塩の調製と電解
まず、溶融塩126を調製する。溶融塩126の調製方法に限定は無い。例えば、原料となる塩化マグネシウムのほか、凝固点降下のための塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどの支持塩を含む溶融状態の溶融塩126を別途調製し、これを電解槽102に投入すればよい。溶融状態の溶融塩126の投入は、開口104aを介して行えばよい。あるいは、固体状の支持塩と塩化マグネシウムを電解槽102に投入し、これを加熱して溶融塩126を調製してもよい。溶融塩126の温度を維持するため、熱交換器118を適宜用いてもよい。
【0042】
その後、図示しない外部電源を陰極122と陽極120に接続し、溶融塩電解を行う。これにより、マグネシウムイオンが還元されて金属マグネシウムが生成するとともに、塩化物イオンが酸化されて塩素ガスが生成する。塩素ガスの気泡が溶融塩126中を上昇し、その後離脱することによって電解槽102内に浴流が生じ、この浴流によって溶融状態の金属マグネシウムが回収室114に搬送され、溶融塩126上にマグネシウム層128が形成される。
【0043】
(2)回収室の液面レベルの監視、および電解槽におけるマグネシウム層の厚さの算出
電解の進行に従って塩素ガスは電解槽102から排出される。このため、溶融塩126の体積は徐々に低下し、溶融塩126の液面レベルが徐々に低下する。マグネシウム層128が回収室114内で凝固せずに液体状態を維持している場合には、マグネシウム層128の液面レベルも経時的に低下する。一方、マグネシウム層128の表面が回収室114内で凝固した場合には、板状のマグネシウム層128が隔壁106や電解槽102の内壁に固着してしまう。このため、マグネシウム層128の表面の高さは、溶融塩126の液面レベルの変化に追従せず、一定の値を維持することがある。金属マグネシウムを連続的に製造するためには、電解によって消費した溶融塩126(特に塩化マグネシウム)を適宜補充する必要があるが、固体状態のマグネシウム層128が存在する状態で高温の溶融塩126を開口104aから補充すると、溶融塩126が溢れる、あるいは飛び散り、非常に危険である。また、マグネシウム層128が凝固していると、回収装置200による回収ができない。このため、主に非接触式レベル計140を用い、溶融塩126またはマグネシウム層128の液面レベルを監視する。上述したように、非接触式レベル計140は制御装置300に通信接続することができるため、これらのレベル計から得られる情報は制御装置の出力部306において随時把握することができる。
【0044】
また、回収室114におけるマグネシウム層128の液面レベルの監視と並行して、マグネシウム層128の厚さを背圧式レベル計130と非接触式レベル計140から得られる情報に基づいて算出する。この算出方法を図7の模式図を用いて説明する。
【0045】
図7は回収室114の一部の模式図であり、マグネシウム層128の厚さをx(m)、計測チューブ134の下端を基準とする溶融塩126の液面レベルの高さをy(m)とする。この時、非接触式レベル計140から得られる情報は、非接触式レベル計140からマグネシウム層128の液面レベルまでの距離L11(m)であるが、電解槽102に対する非接触式レベル計140と計測チューブ134の位置は固定されているため、距離L11から計測チューブ134の下端からマグネシウム層128の液面レベルまでの距離L12(m)が求まる。距離L12はxとyの和であるので、以下の関係式(1)が成立する。
12=x+y (1)
【0046】
一方、背圧式レベル計130の圧力計132から得られる情報は、計測チューブ134の下端からマグネシウム層128の液面レベルまでの距離Lであるが、距離Lは距離L12と必ずしも一致しない。これは、背圧式レベル計130の背圧が溶融塩126または金属マグネシウムの密度を基に設定可能であるのに対し、厚さxのマグネシウム層128と厚さyの溶融塩126が実測時の背圧に寄与するためである。例えば、溶融塩126の密度を基に背圧式レベル計130の背圧が設定されている場合、以下の式に従って背圧BPを距離Lから求めることができる。ここで、gは重力加速度(m/s)、dmsは溶融塩126の密度(kg/m)である。
BP=L×g×dms
この時の背圧BPは、厚さxのマグネシウム層128と厚さyの溶融塩126が生み出す背圧であるので、以下の関係式(2)が成立する。ここで、dはマグネシウム層128の密度(すなわち、溶融した金属マグネシウムの密度)(kg/m)である。
×x×g+dms×y×g=BP (2)
関係式(1)と(2)で未知数はxとyだけであるため、関係式(1)と(2)の連立方程式を解くことでxとyを算出することができる。すなわち、溶融塩126の液面レベル、および溶融塩126上に形成されたマグネシウム層128の厚さを算出することができる。この計算は、制御装置300のプログラムの命令に従って制御部302において行うことができる。
【0047】
電解槽102においてマグネシウム層128の厚さが所定の値に達した場合には、引き続いてマグネシウム層128の回収が行われる。ただし、上述したように、マグネシウム層128が凝固している時には回収操作ができない。このため、制御装置300は、非接触式レベル計140から得られる情報に基づいてマグネシウム層128の液面レベルが連続的に低下しているかどうかを判断する。マグネシウム層128の液面レベルが連続的に低下していないと判断された場合には、マグネシウム層128を溶解するため、熱交換器118を用いて溶融塩126を加熱する。この操作も、制御装置300を用いて自動的に行ってもよい。逆に、マグネシウム層128の液面レベルが連続的に低下していることが確認された場合には、引き続くマグネシウム層128の回収操作が行われる。なお、回収操作の前に、溶融塩126を電解槽102に補充してもよい。補充される溶融塩126は塩化マグネシウムの含有量が多いので、溶融塩126の温度はマグネシウムの融点よりも高い。このため、溶融塩126を補充することでマグネシウム層128を加熱することができ、マグネシウム層128の回収中にマグネシウム層128が例えば金属回収パイプ230内で固化することを防止することができる。また、電解槽102内の溶融塩126の液面レベルをマグネシウム層128の回収前に上昇させることができるので、マグネシウム層128の回収に伴う溶融塩126の液面レベル低下による不具合(例えば、塩素ガスが回収室114に侵入する、バイポーラ電極124や陰極122の上端と溶融塩126の液面レベル間の距離の低下(すなわち互いに近づくこと)による電極間のマグネシウムの離脱速度の低下とそれに起因する電極間の短絡など)を防止することができる。
【0048】
(3)回収装置の配置
マグネシウム層128の回収操作では、まず、移動機構400を用いて回収装置200を移動し、電解装置100と接続する。具体的には、金属回収パイプ230を開口104aに通し、金属回収パイプ230の端部230bが回収室114のマグネシウム層128の中に位置するよう、回収装置200を配置する(図8)。なお、回収装置200は、予め載置台212上に配置されており(図5)、載置台212上において電源ポート208を介して外部電源254からヒータ210への電力供給が可能である。このため、移動前に回収装置200の容器202を予め加熱することができ、マグネシウム層128を容器202に回収してもその凝固を防ぐことができる。
【0049】
マグネシウム層128の回収時には、金属回収パイプ230の端部230bがマグネシウム層128と溶融塩126の界面よりも上に位置し、かつ、マグネシウム層128と接触する必要がある。しかしながら、端部230bがマグネシウム層128と溶融塩126の界面から離れすぎると、マグネシウム層128を十分に回収することができない。また、電解装置100が設けられる環境に存在する気体を吸引してしまうことがある。当該気体に酸素が含まれると、マグネシウム層128は速やかに酸化されるため、良質の金属マグネシウムを製造することができない。逆に、端部230bが溶融塩126に近すぎると、マグネシウム層128とともに大量の溶融塩126を容器202に回収することになる。このことは、未回収の金属マグネシウム量増大を招き、その結果、電流効率が低下する。したがって、端部230bがマグネシウム層128内に位置し、かつ、溶融塩126の吸引を抑制しつつマグネシウム層128を優先的に吸引して容器202に導入するため、端部230bの高さ、すなわち、回収装置200の高さを制御装置300を用いて制御する。
【0050】
回収装置200の高さは、容器202の外側に設けられる非接触式レベル計224を用いて測定される。このため、例えば電解装置100が設けられる床面を基準とする回収装置200の高さを精密に測定することができる。上述したように、非接触式レベル計224は制御装置300と通信接続可能であるため、非接触式レベル計224から得られる情報を制御装置300上で把握することができる。また、非接触式レベル計224と金属回収パイプ230の相対位置は固定される。したがって、非接触式レベル計224から得られる情報に基づき、金属回収パイプ230の端部230bの位置も制御装置300上で正確に把握することができる。制御装置300は、プログラムの命令に従って移動機構400を制御し、端部230bが適切な高さになるように回収装置200を移動、配置する。これにより、回収装置200と電解装置100との接続が完了する。なお、金属回収パイプ230自体に印を設けて端部230bの位置を把握しようとしても、マグネシウム層128の回収中等に金属回収パイプ230が昇温して変色することがあるため印を見失いやすく、結果として位置把握が困難になりやすい。また、金属回収パイプ230は、マグネシウム層128を回収する際、かなりの高温となるため、非接触式レベル計224を金属回収パイプ230に取り付けて精確に作動させることも困難である。したがって、容器202外部に設けられる非接触式レベル計224によって得られる端部230bの高さを利用して回収装置200を配置することが好ましい。
【0051】
(4)マグネシウム層の回収
回収装置200と電解装置100を接続した後、制御装置300によって切替バルブ242が操作され、容器202内部が真空ポンプ250に接続される(図8)。真空ポンプ250を稼働させることで容器202内部は陰圧となるので、金属回収パイプ230を介してマグネシウム層128を容器202内に回収することができる。マグネシウム層128の回収が開始されると、電解槽102においてマグネシウム層128の液面レベルが徐々に低下する。したがって、この回収操作は、マグネシウム層128の液面レベルが所定のレベルまで低下した時に終了してもよい。あるいは、回収すべきマグネシウム層128の重量(回収量)を回収室114のマグネシウム層128が貯留される部分の面積とマグネシウム層128の厚さを参照して予め決定し、図示しない重量計を用いて回収装置200の重量変化量が回収量に達した時にこの操作を終了してもよい。あるいは、マグネシウム層128の液面レベルが端部230b以下となって気体が吸引されると容器202内の圧力が急激に上昇するため、この急激な圧力変化が生じた時に回収操作を終了してもよい。
【0052】
(5)溶融塩の逆回収
上述したように電解槽102内では浴流が存在するため、マグネシウム層128と溶融塩126の界面は常に水平ではなく、乱れが生じると推定される。このため、金属回収パイプ230の端部230bの位置を適切に配置しても、図9に示すように、溶融塩126の一部が吸引されて容器202に回収されることがある。このため、本製造方法では、容器202内に回収された溶融塩126を電解槽102に戻してもよい(逆回収)。
【0053】
この場合、回収装置200に設けられる非接触式レベル計222と背圧式レベル計220から得られる情報を利用し、容器202における溶融塩126とマグネシウム層128の界面の高さを制御装置300において算出する。この算出方法は、回収室114においてマグネシウム層128の厚さxと溶融塩126の液面レベルの高さyを算出する方法と同一であるため、説明は割愛する。また、上述したように、非接触式レベル計222と背圧式レベル計220は制御装置300と通信接続できるため、容器202における溶融塩126とマグネシウム層128の界面の高さを制御装置300上で随時把握することができる。
【0054】
次に、手動または制御装置300を介して切替バルブ242を切り替え、圧力調整パイプ240を不活性ガス供給源252に接続し、不活性ガスを容器202に供給する(図9)。これにより容器202内は陽圧となって容器202内のマグネシウム層128の液面が下側に押されるので、金属回収パイプ230を介し、マグネシウム層128の下に位置する溶融塩126を優先的に逆回収することができる。逆回収の終点は、例えばマグネシウム層128の一部の逆回収が始まった時としてもよく、あるいは、容器202の底面積と溶融塩126とマグネシウム層128の界面の高さを参照して逆回収する溶融塩126の重量(逆回収量)を予め計算し、図示しない重量計を用いて回収装置200の重量変化量が逆回収量に達した時を終点としてもよい。
【0055】
(6)金属マグネシウムの取出し
その後、マグネシウム層128が容器202から取り出される。図示しないが、容器202内を陽圧にし、金属回収パイプ230を介し、容器202内のマグネシウム層128をリザーバーに回収する。この時、マグネシウム層128の全量を取り出してもよく、あるいは、金属マグネシウムの使用の都度必要量のマグネシウム層128を取り出してもよい。
【0056】
なお、電解槽102に対する溶融塩126(特に塩化マグネシウム)の補充は、マグネシウム層128の回収前に限られず、マグネシウム層128が回収室114において凝固していない限り、随時行えばよい。例えば、マグネシウム層128の回収前だけでなく、溶融塩126の逆回収前もしくは後に行ってもよい。凝固点降下のために添加される支持塩は電気分解されないので、補充される溶融塩126は塩化マグネシウム単体の溶融塩でよい。
【0057】
上述したように、本溶融塩電解システム10を用いる金属マグネシウムの製造方法では、電解槽102に設けられる回収室114において、溶融塩126の液面レベルとマグネシウム層128の厚さを、背圧式レベル計130と非接触式レベル計140から得られる情報に基づいて精確に算出することができる。また、非接触式レベル計224を用いて回収装置200の高さも精確に算出することができる。このため、金属回収パイプ230の端部230bを、マグネシウム層128を効率的に回収できる位置に配置することができ、その結果、効率よくマグネシウム層128を回収することができる。また、制御装置300を用いることで、溶融塩126の液面レベルやマグネシウム層128の厚さの算出、回収装置200の移動と電解装置100との接続、マグネシウム層128の回収、および溶融塩126の逆回収の全てまたは一部を自動的に行うことができる。このことから、作業上の安全性向上が図られるとともに、これら一連の工程を実施するための人的資源を節約することができる。このことは、金属マグネシウムの製造コストの低減に寄与する。
【0058】
3.プログラム
上述した金属マグネシウムの製造方法は、本溶融塩電解システム10の制御装置300に搭載されるプログラムによって実施することができる。よって、本発明に係る実施形態の一つは、本溶融塩電解システム10を利用する金属マグネシウムの製造方法を実施するプログラムである。
【0059】
具体的には、当該プログラムは、制御装置300に対し、背圧式レベル計130と220、非接触式レベル計140、222、224から得られる情報を取得することを実行させる。また、当該プログラムは、これらの情報から電解槽102や容器202における溶融塩126の液面レベルやマグネシウム層128の厚さを算出することを制御装置300に実行させる。さらに当該プログラムは、電解槽102における溶融塩126の液面レベルやマグネシウム層128の厚さに基づき、回収装置200を電解装置100に接続する際に適切な回収装置200の高さを算出すること、および算出された高さにおいて回収装置200を電解装置100に接続するように移動機構400を制御することを制御装置300に実行させることができる。さらに当該プログラムは、切替バルブ242と開閉バルブ234の操作を制御装置300に実行させてもよく、さらに真空ポンプ250の操作、および不活性ガス供給源252などの操作を実行させてもよい。
【0060】
また、このプログラムが記録されたコンピュータ可読記録媒体も本発明に係る実施形態の一つである。コンピュータ可読記録媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、および磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM、DVDのような光媒体、フロプティカルディスク(floptical disk)のような光磁気媒体、およびROM、RAM、フラッシュメモリなどのような、当該プログラムを格納して実行するように構成されたハードウェア装置が含まれる。当該プログラムは、コンパイラによって生成されるもののような機械語コードだけではなく、インタプリタなどを使用してサーバによって実行される高級言語コードを含む。当該プログラムは、コンピュータ可読媒体から記憶部310にインストールされる。なお、当該プログラムは、ネットワークから記憶部310にダウンロード可能であってもよい。
【0061】
本発明の実施形態として上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0062】
10:溶融塩電解システム、12:ネットワーク、100:電解装置、102:電解槽、104:蓋、104a:開口、104b:開口、104c:開口、104d:開口、106:隔壁、108:隔壁、114:回収室、116:電解室、118:熱交換器、120:陽極、122:陰極、124:バイポーラ電極、126:溶融塩、128:マグネシウム層、130:背圧式レベル計、132:圧力計、134:計測チューブ、140:非接触式レベル計、142:保護板、200:回収装置、202:容器、204:蓋、206:機構、208:電源ポート、210:ヒータ、212:載置台、220:背圧式レベル計、222:非接触式レベル計、224:非接触式レベル計、230:金属回収パイプ、230a:端部、230b:端部、232:サイホンカット、234:開閉バルブ、240:圧力調整パイプ、240a:端部、242:切替バルブ、244:圧力ゲージ、250:真空ポンプ、252:不活性ガス供給源、254:外部電源、300:制御装置、302:制御部、304:入力部、306:出力部、308:送受信部、310:記憶部、312:音声出力部、400:移動機構
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