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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025050172
(43)【公開日】2025-04-04
(54)【発明の名称】振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20250327BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20250327BHJP
   F16F 9/14 20060101ALI20250327BHJP
   F16F 9/24 20060101ALI20250327BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F9/32 L
F16F9/14 A
F16F9/24
E04H9/02 321F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023158821
(22)【出願日】2023-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB13
2E139AC19
2E139AC23
2E139BA12
2E139BD14
2E139BD16
2E139BD24
3J048AA06
3J048AC05
3J048BE03
3J048BE04
3J048EA38
3J069AA41
3J069AA50
3J069CC11
3J069CC13
3J069CC16
3J069CC33
3J069EE02
3J069EE11
3J069EE76
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粘性体室内の圧力の過大化を防止し、シール材の損傷を防止するとともに、せん断変形の繰り返しによる粘性体のせん断抵抗の低下を抑制できる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】本発明の振動抑制装置では、制振対象の振動に伴って発生する第1及び第2部位間の相対変位をボールねじ2のねじ軸2a及びナット2bに連結された外筒3と内筒4の相対回転に変換し、両筒3、4の間の粘性体室5に充填された粘性体VBのせん断抵抗によって、振動抑制効果が発揮される。アキュムレータ6は、粘性体室5内の圧力の一部を蓄えるための蓄圧室34と、粘性体室5及び蓄圧室34に連通する第1及び第2連通路31、32と、第1連通路31に設けられ、粘性体室5内の圧力がリリーフ圧力Prfに達したときに開弁するリリーブ弁37と、第2連通路32に設けられ、粘性体室5から蓄圧室34側への粘性体VBの流れを阻止する逆止弁38を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象の振動を抑制するために、振動時に相対変位する前記制振対象を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられる振動抑制装置であって、
前記第1部位に連結されるねじ軸、及び当該ねじ軸にボールを介して螺合し、当該ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するナットを有するボールねじと、
外筒と、
当該外筒の内側に配置され、当該外筒との間に粘性体室を画成する内筒と、
前記粘性体室に充填された粘性体と、
前記粘性体室内に前記粘性体を密封するためのシール材と、を備え、
前記外筒及び前記内筒の一方は前記第2部位に連結され、前記外筒及び前記内筒の他方は前記ナットに連結されており、
当該振動抑制装置は、前記粘性体室内の粘性体の圧力の一部を蓄えるためのアキュムレータをさらに備え、
当該アキュムレータは、
前記粘性体室に連通するケーシングと、
当該ケーシング内に摺動自在に設けられ、当該ケーシング内の前記粘性体室側に蓄圧室を画成するピストンと、
当該ピストンを前記蓄圧室側に付勢するセットばねと、
前記粘性体室側及び前記蓄圧室に連通する、互いに並列の第1連通路及び第2連通路と、
前記第1連通路に設けられ、前記粘性体室内の圧力が所定のリリーフ圧力に達したときに開弁し、前記粘性体室内の圧力を前記蓄圧室に逃がすリリーブ弁と、
前記第2連通路に設けられ、前記粘性体室から前記蓄圧室側への粘性体の流れを阻止する逆止弁と、を有することを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記アキュムレータが前記内筒の内部に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記第1連通路は、一端部が前記粘性体室の異なる位置に接続され、他端部が前記蓄圧室の異なる位置に接続された、互いに並列の複数の第1連通路で構成され、当該複数の第1連通路にそれぞれ前記リリーフ弁が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記シール材は、前記粘性体室の軸線方向の両端部に設けられた一対のシール材で構成され、前記複数の第1連通路は、前記一端部が前記粘性体室の前記一対のシール材に近い位置にそれぞれ接続された2つの第1連通路で構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記第1連通路及び前記第2連通路は、それらの一端部において前記粘性体室の互いに異なる位置に接続されるとともに、他端部において接続された共通の第3連通路を介して、前記蓄圧室に連通していることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記粘性体室内の粘性体に所定の初期圧力を付与するための加圧機構をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項7】
前記第1連通路の前記リリーフ弁よりも下流側に設けられ、前記粘性体室から流入した前記粘性体を一時的に貯留する貯留室をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項8】
前記アキュムレータは、前記ケーシング内に固定され、前記ケーシング内を、前記蓄圧室を含み且つ前記ピストン及び前記セットばねが設けられる第1空間と前記粘性体室側の第2空間に仕切る中間壁と、前記第2空間内に摺動自在に設けられ、当該第2空間を前記粘性体室に連通する第1流体室と前記中間壁側の第2流体室に区画する第2ピストンと、を有し、
前記第1流体室には前記粘性体が充填され、前記第2流体室及び前記蓄圧室には前記粘性体よりも粘度が低い作動油が充填されており、
前記第1及び第2連通路は、前記中間壁を貫通し、前記第2流体室及び前記蓄圧室に連通するように形成され、前記リリーフ弁及び前記逆止弁はそれぞれ、前記第1及び第2連通路に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の振動抑制装置。
【請求項9】
前記リリーフ弁の前記リリーフ圧力は、前記シール材の許容圧力以下に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじにより直線運動を回転運動に変換し、粘性体のせん断抵抗による粘性減衰効果によって、構造物や車両などの制振対象の振動を抑制する振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、ボールねじを利用した粘性ダンパであり、回転不能の外筒と、外筒の内側に配置され、外筒との間に環状の粘性体室を画成する回転自在の内筒と、ねじ軸、及びねじ軸にボールを介して螺合し、内筒に固定されたナットを有するボールねじと、粘性体室に充填された、シリコンオイルなどから成る粘性体と、粘性体室の軸線方向の両端部に配置され、粘性体を密封するためのシール材を備える。また、粘性体室には、空気層を有するバッファが接続されている。以上の構成の粘性ダンパにおいて、例えば、外筒は、制振対象としての建物に連結され、ねじ軸は、建物を支持する基盤に連結されている。
【0003】
この構成では、例えば地震の発生に伴って建物が振動すると、建物と基盤との相対変位がボールねじに伝達され、ねじ軸の直線運動がナットの回転運動に変換されることによって、内筒が回転し、外筒との間の粘性体室に充填された粘性体のせん断抵抗によって、建物の振動を抑制する振動抑制効果が発揮される。また、粘性体の温度変化に伴う膨張収縮による圧力変化がバッファによって吸収され、シール材の損傷などの悪影響が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-132479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の粘性ダンパでは、粘性体がせん断変形する際、振動エネルギが熱エネルギに変換されるため、振動が進むにつれて粘性体の温度が上昇する。このため、振動の速度が想定以上(例えば1.5m/s以上)になった場合や、振動の繰り返しによる累積変位量が想定以上(例えば50m以上)になった場合には、粘性体の温度及び圧力の上昇が過大になり、バッファでは十分に吸収できないおそれがある。その場合には、過大な粘性体の圧力がシール材の許容圧力を超える結果、シール材が損傷し、粘性体が粘性体室から漏れ出るおそれがある。
【0006】
また、シリコンオイルなどの粘性体のせん断抵抗は、せん断変形が繰り返されるのに応じて低下するという特性がある。これは、シリコンオイルなどが高分子材料であることに起因するものであり、せん断変形の繰り返しにより高分子鎖の絡み合いがほぐれるためである。このため、長周期地震動のように長時間、粘性体がせん断変形する場合には、粘性ダンパの性能が低下してしまい、振動抑制効果を十分に発揮できないおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、想定を超える地震動に対しても、粘性体室内の圧力の過大化を防止することによって、粘性体室のシール材の損傷を防止するとともに、せん断変形の繰り返しによる粘性体のせん断抵抗の低下を抑制し、振動抑制効果を良好に維持することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、制振対象の振動を抑制するために、振動時に相対変位する制振対象を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられる振動抑制装置であって、第1部位に連結されるねじ軸、及びねじ軸にボールを介して螺合し、ねじ軸の直線運動を回転運動に変換するナットを有するボールねじと、外筒と、外筒の内側に配置され、外筒との間に粘性体室を画成する内筒と、粘性体室に充填された粘性体と、粘性体室内に粘性体を密封するためのシール材と、を備え、外筒及び内筒の一方は第2部位に連結され、外筒及び内筒の他方はナットに連結されており、振動抑制装置は、粘性体室内の粘性体の圧力の一部を蓄えるためのアキュムレータをさらに備え、アキュムレータは、粘性体室に連通するケーシングと、ケーシング内に摺動自在に設けられ、ケーシング内の粘性体室側に蓄圧室を画成するピストンと、ピストンを蓄圧室側に付勢するセットばねと、粘性体室側及び蓄圧室に連通する、互いに並列の第1連通路及び第2連通路と、第1連通路に設けられ、粘性体室内の圧力が所定のリリーフ圧力に達したときに開弁し、粘性体室内の圧力を蓄圧室に逃がすリリーフ弁と、第2連通路に設けられ、粘性体室から蓄圧室側への粘性体の流れを阻止する逆止弁と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の振動抑制装置は、ボールねじを用いた粘性ダンパで構成されており、構造物や車両などの制振対象を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられる。制振対象が振動すると、第1及び第2部位の間の相対変位が、ボールねじのねじ軸と外筒及び内筒の一方(例えば外筒)との間に伝達され、ボールねじで回転運動に変換されることによって、ボールねじのナットとこれに連結された外筒及び内筒の一方(例えば内筒)が外筒に対して回転する。それにより、外筒と内筒の間の粘性体室に充填された粘性体のせん断抵抗による粘性減衰効果によって、制振対象の振動を抑制する振動抑制効果が発揮される。
【0010】
また、例えば長周期地震動入力に対する制振対象の応答に伴い、振動抑制装置が長時間、作動すると、粘性体のせん断変形が繰り返される結果、粘性体の温度が上昇し、その温度膨張によって粘性体室内の圧力が上昇する。この粘性体室内の圧力が第1連通路に設けられたリリーフ弁のリリーフ圧力に達するまでは、リリーフ弁が閉弁状態に保たれることで、粘性体室内はそれまでに上昇した高い圧力状態に維持される。これにより、繰り返し変形時における、粘性体を構成する高分子鎖の絡み合いのほぐれを抑制し、粘性体のせん断抵抗の低下を抑制することによって、振動抑制効果を良好に維持することができる。
【0011】
この状態から、制御対象の振動が継続するのに応じて、粘性体室内の粘性体の圧力がさらに上昇し、リリーフ弁のリリーフ圧力に達すると、リリーフ弁が開弁する。これにより、粘性体が、粘性体室から第1連通路を介してアキュムレータの蓄圧室に流入し、ピストンを介してセットばねを圧縮することによって、粘性体室内の圧力の一部がアキュムレータに蓄えられる。その結果、粘性体室内の圧力の過大化を防止し、粘性体室に設けられたシール材の損傷を防止することができる。
【0012】
その後、制御対象の振動が終了するのに伴い、蓄圧室内の圧力が粘性体室内の圧力を上回ると、第2連通路に設けられた逆止弁が開弁する。これにより、粘性体が、蓄圧室から第2連通路を介して粘性体室に戻され、アキュムレータに蓄えられていた圧力が粘性体室に逃がされることによって、もとの状態に復帰する。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、アキュムレータが内筒の内部に配置されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第1及び第2連通路などを含むアキュムレータ全体が、内筒に内蔵され、外筒の外側には現れないので、振動抑制装置のコンパクト化と優れた意匠性を確保することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、第1連通路は、一端部が粘性体室の異なる位置に接続され、他端部が蓄圧室の異なる位置に接続された、互いに並列の複数の第1連通路で構成され、複数の第1連通路にそれぞれリリーフ弁が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、粘性体室及び蓄圧室に連通する、リリーフ弁付きの第1連通路は、互いに並列の複数の第1連通路で構成されている。このため、粘性体室におけるアキュムレータ側への粘性体の複数の流出箇所とアキュムレータ側からの粘性体の流入箇所との間に、大きな距離を確保することが可能である。これにより、粘性体室における粘性体の流れの乱れによるせん断抵抗のばらつきを抑制し、安定した振動抑制効果を得ることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の振動抑制装置において、シール材は、粘性体室の軸線方向の両端部に設けられた一対のシール材で構成され、複数の第1連通路は、一端部が粘性体室の一対のシール材に近い位置にそれぞれ接続された2つの第1連通路で構成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、2つの第1連通路による粘性体室からアキュムレータ側への粘性体の流出箇所が、一対のシール材の付近にそれぞれ配置されているので、シール材の付近の圧力を良好に反映させながら、粘性体室内の圧力の制御を精度良く適切に行うことができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、第1連通路及び第2連通路は、それらの一端部において粘性体室の互いに異なる位置に接続されるとともに、他端部において接続された共通の第3連通路を介して、蓄圧室に連通していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、粘性体室内の圧力が上昇し、リリーフ弁が開弁したときには、粘性体は、粘性体室から第1連通路及び第3連通路を順に介して蓄圧室に流れる。一方、蓄圧室内の圧力が相対的に高くなり、逆止弁が開弁したときには、粘性体は、蓄圧室から第3連通路及び第2連通路を順に介して粘性体室に流れる。以上のように、第1及び第2連通路とリリーフ弁及び逆止弁に要求される機能を確保しながら、第3連通路の共用化によって、連通路全体の構成を簡略化することができる。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、粘性体室内の粘性体に所定の初期圧力を付与するための加圧機構をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、加圧機構により、粘性体室内の粘性体に所定の初期圧力があらかじめ付与されることによって、制振対象が振動した際、その初期の段階から、より高い粘性体の圧力が確保される。その結果、粘性体による、より大きなせん断抵抗が得られるとともに、粘性体の高分子鎖の絡み合いのほぐれによるせん断抵抗の低下が抑制されることによって、より大きな振動抑制効果を得ることができる。
【0023】
請求項7に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、第1連通路のリリーフ弁よりも下流側に設けられ、粘性体室から流入した粘性体を一時的に貯留する貯留室をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、制振対象の振動時にリリーフ弁が開弁するのに伴い、粘性体が粘性体室から第1連通路を介してアキュムレータ側に流れる際、粘性体が貯留室に流入し、一時的に貯留される。これにより、貯留室内で粘性体の流れや圧力の変動を緩和し、安定化させることによって、より安定した振動抑制効果を得ることができる。
【0025】
請求項8に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、アキュムレータは、ケーシング内に固定され、ケーシング内を、蓄圧室を含み且つピストン及びセットばねが設けられる第1空間と粘性体室側の第2空間に仕切る中間壁と、第2空間内に摺動自在に設けられ、第2空間を粘性体室に連通する第1流体室と中間壁側の第2流体室に区画する第2ピストンと、を有し、第1流体室には粘性体が充填され、第2流体室及び蓄圧室には粘性体よりも粘度が低い作動油が充填されており、第1及び第2連通路は、中間壁を貫通し、第2流体室及び蓄圧室に連通するように形成され、リリーフ弁及び逆止弁はそれぞれ、第1及び第2連通路に設けられていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、制振対象の振動時、粘性体のせん断変形の繰り返しによって、粘性体室内の粘性体の圧力が上昇すると、この圧力は、第1流体室内の粘性体及び第2ピストンを介して、第2流体室内の作動油に伝達される。リリーフ弁は、第2流体室内の作動油によって開閉され、その圧力がリリーフ圧力に達するまでは閉弁状態に保たれることで、粘性体室はそれまでの高圧力状態に維持される。
【0027】
この状態から、第2流体室内の作動油の圧力がリリーフ圧力に達すると、リリーフ弁が開弁する。これにより、作動油が、第2流体室から第1連通路を介して蓄圧室に流入し、粘性体室内の圧力の一部がアキュムレータに逃がされ、蓄えられる。その後、制振対象の振動が終了するのに伴い、蓄圧室内の作動油の圧力が第2流体室内の作動油の圧力を上回ると、逆止弁が開弁する。これにより、作動油が、蓄圧室から第2連通路を介して第2流体室に流入する。これに伴い、第2ピストンが押し下げられ、粘性体が第1流体室から粘性体室に戻されることによって、アキュムレータに蓄えられていた圧力が粘性体室に逃がされ、もとの状態に復帰する。
【0028】
以上のように、本発明においても、制振対象の振動時に粘性体室内の粘性体の圧力が増減するのに応じて、リリーフ弁及び逆止弁を適切なタイミングで開閉し、粘性体室内の圧力を適切に制御することによって、粘性体のせん断抵抗による粘性減衰効果を良好に発揮させるとともに、粘性体室内の圧力をシール材の許容圧力以下に抑制し、シール材の損傷を防止することができる。
【0029】
また、本発明によれば、これまでに述べた他の発明と同様、振動抑制装置の粘性減衰効果を粘性体のせん断抵抗によって得る一方、他の発明と異なり、リリーフ弁及び逆止弁の開閉は、粘性体によらず、より粘度の低い作動油によって行われる。これにより、高粘度の粘性体を用いた場合の大きな流動抵抗などの影響を受けることなく、リリーフ弁及び逆止弁を高い応答性で円滑に作動させることができ、粘性体室内の圧力の制御をさらに精度良く適切に行うことができる。
【0030】
請求項9に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、リリーフ弁のリリーフ圧力は、シール材の許容圧力以下に設定されていることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、リリーフ弁の開弁によって、粘性体室内の圧力をシール材の許容圧力以下に確実に抑制できる。したがって、シール材の損傷を防止し、粘性体室からの粘性体の漏出を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図2】構造物への粘性ダンパの2種類の設置状況を示す図である。
図3】第2実施形態による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図4】第3実施形態による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図5】第4実施形態による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図6】第4実施形態の第1変形例による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図7】第4実施形態の第2変形例による粘性ダンパを一部、切り欠いて示す縦断面図である。
図8】第5実施形態の第1変形例による粘性ダンパの一部を示す縦断面図である。
図9】第1及び第2連通路の変形例を示す図である。
図10】第6実施形態による粘性ダンパの一部を、部分的に切り欠いて示す縦断面図である。
図11】アキュムレータへの連通路に流量調整弁を取り付けた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による粘性ダンパ1Aを示す。粘性ダンパ1Aは、例えば建物などの構造物や車両などを制振対象とし、その振動を抑制する振動抑制装置を構成するものである。
【0034】
図1に示すように、粘性ダンパ1Aは、ボールねじ2、外筒3、内筒4、粘性体室5に充填された粘性体VBと、アキュムレータ6などを備える。
【0035】
ボールねじ2は、ねじ軸2aと、ねじ軸2aに多数のボール(図示せず)を介して回転可能に螺合するナット部材2bを有する。ねじ軸2aの大部分とナット部材2bは、外筒3内に同軸状に収容され、ねじ軸2aの残りの部分は外筒3の外側に突出している。
【0036】
外筒3は、円筒状の鋼材で構成されている。外筒3の一端部及び他端部にはそれぞれ、第1支持体11a及び第2支持体11bが設けられている。第1及び第2支持体11a、11bは、いずれも有孔の短円柱状で、互いに径が異なるものであり、第1支持体11aは外筒3の内側に嵌められた状態で、第2支持体11bは外筒3の端面に接した状態で、それぞれ一体に設けられている。
【0037】
また、外筒3及び第1支持体11aを覆うように第1蓋板12aが、第2支持体11bを覆うように第2蓋板12bが、それぞれ一体に設けられている。ボールねじ2のねじ軸2aは、第1蓋板12aを貫通して外部に延びており、その端部には、クレビス14及び第1フランジ板15aが順に連結されている。また、第2蓋板12bには、クレビス14及び第2フランジ板15bが順に連結されている。
【0038】
内筒4は、円筒状の鋼材で構成されており、外筒3及び第2支持体11bの内側に配置され、軸線方向に延びている。外筒3と内筒4の間には、所定の間隙を有する環状の空間が画成されており、この環状の空間が粘性体室5になっている。粘性体室5には粘性体VBが充填されている。粘性体VBは、粘度が比較的高いもの、例えばシリコンオイルで構成されている。
【0039】
また、粘性体室5の両端部には、粘性体VBを粘性体室5内に密封するためのOリング状のシール材21、21が設けられている。シール材21は、例えばロトバリシールで構成されている。ロトバリシールは、回転を許容しながら粘性体の漏れを抑制できるという利点を有する一方で、許容圧力を超える圧力が作用したときに損傷し、粘性体の漏れを抑制できなくなるという特性を有する。
【0040】
内筒4は、一端側(図1の左端側)においてボールねじ2のナット部材2bに一体に連結されている。ナット部材2bは第1支持体11aに、内筒4は第2支持体11bに、それぞれラジアル軸受22及びスラスト軸受23を介して支持されている。以上の構成により、内筒4及びナット部材2bは、外筒3に回転自在に且つ軸線方向に移動不能に支持されている。
【0041】
アキュムレータ6は、粘性体室5内の粘性体VBの圧力の一部を蓄えるためのものである。アキュムレータ6は、互いに並列の第1連通路31及び第2連通路32を介して、粘性体室5に連通するケーシング33と、ケーシング33内に摺動自在に設けられ、ケーシング33内の粘性体室5側に蓄圧室34を画成するピストン35と、ピストン35を蓄圧室34側に付勢するコイルばね36を備える。
【0042】
第1連通路31には、粘性体室5の付近に、リリーフ弁37が設けられている。リリーフ弁37は、粘性体室5内の粘性体VBの圧力が所定のリリーフ圧力Prfに達するまで閉弁する一方、リリーフ圧力Prfに達したときに開弁し、粘性体室5内の圧力を蓄圧室34に逃がすためのものである。本実施形態では、このリリーフ圧力Prfは、シール材21を構成するロトバリシールの許容圧力に等しい値、例えば30Mpaに設定されている。
【0043】
また、アキュムレータ6のコイルばね36のばね定数を設定することによって、蓄圧室34への粘性体VBの流入量と蓄圧室34に蓄えられる圧力を調整することが可能である。例えば、本実施形態では、コイルばね36が数cm、圧縮変形したときの蓄圧室34内の圧力が0.3Mpaになるように、コイルばね36のばね定数が設定されている。
【0044】
第2連通路32には、蓄圧室34の付近に、逆止弁38が設けられている。逆止弁38は、粘性体室5からアキュムレータ6側への粘性体VBの流れを阻止するように構成されている。また、逆止弁38の開弁圧は、例えば0.01Mpaに設定されており、蓄圧室34内の圧力が、この開弁圧以上、粘性体室5内の圧力を上回ると、逆止弁38が開弁し、蓄圧室34から粘性体室5に粘性体VBが流入する。
【0045】
以上の構成の粘性ダンパ1Aは、構造物の振動抑制装置として用いられる場合には、振動に伴って相対変位する構造物の2つの部位の間に、第1及び第2フランジ板15a、15bを介して設置される。例えば、図2(a)の例では、粘性ダンパ1Aは、構造物Sの上下の梁BU、BL及び左右の柱PL、PRで構成される門型フレーム内に配置され、上梁BUに連結されたV型ブレースBRと左右の梁PL、PRとの間に、それぞれ設置されている。また、図2(b)の例では、粘性ダンパ1Aは、構造物Sの同様の門型フレーム内に配置され、上梁BUと右柱PRとの角部と下梁BLと左柱PLとの角部との間に延びる斜めブレースBDに、斜めに設置されている。
【0046】
以上のような構成では、構造物Sが振動すると、粘性ダンパ1Aが設置された2つの部位間の相対変位がねじ軸2aと外筒3の間に伝達され、ボールねじ2で回転運動に変換されることによって、ナット部材2bとこれに連結された内筒4が外筒3に対して回転する。それにより、外筒3と内筒4の間の粘性体室5に充填された粘性体VBのせん断抵抗による粘性減衰効果によって、構造物Sの振動を抑制する振動抑制効果が発揮される。
【0047】
また、例えば長周期地震動入力に対する構造物Sの応答に伴い、粘性ダンパ1Aが長時間、作動すると、粘性体VBのせん断変形が繰り返される結果、粘性体VBの温度が上昇し、その温度膨張によって粘性体室5内の圧力が上昇する。この粘性体室5内の圧力がリリーフ弁37のリリーフ圧力Prfに達するまでは、リリーフ弁37が閉弁状態に保たれることで、粘性体室5内はそれまでに上昇した高い圧力状態に維持される。これにより、繰り返し変形時における、粘性体VBを構成する高分子鎖の絡み合いのほぐれを抑制し、粘性体VBのせん断抵抗の低下を抑制することによって、粘性ダンパ1Aの振動抑制効果を良好に維持することができる。
【0048】
この状態から、構造物Sの振動が継続するのに応じて、粘性体室5内の粘性体VBの圧力がさらに上昇し、リリーフ弁37のリリーフ圧力Prfに達すると、リリーフ弁37が開弁する。これにより、粘性体VBが、粘性体室5から第1連通路31を介してアキュムレータ6の蓄圧室34に流入し、ピストン35を介してコイルばね36を圧縮することによって、粘性体室5内の圧力の一部がアキュムレータ6に蓄えられる。前述したように、リリーフ弁37のリリーフ圧力Prfはシール材21の許容圧力と等しい値に設定されている。したがって、リリーフ弁37の開弁により、粘性体室5内の圧力をシール材21の許容圧力以下に抑制することによって、シール材21の損傷を防止し、それに起因する粘性体室5からの粘性体VBの漏出などを回避することができる。
【0049】
その後、構造物Sの振動が終了するのに伴い、蓄圧室34内の圧力が粘性体室5内の圧力を上回ると、逆止弁38が開弁する。これにより、粘性体VBが、蓄圧室34から第2連通路32を介して粘性体室5に戻され、アキュムレータ6に蓄えられていた圧力が粘性体室5に逃がされることによって、もとの状態に復帰する。
【0050】
次に、図3を参照しながら、本発明の第2実施形態による粘性ダンパ1Bについて説明する。同図において、第1実施形態の粘性ダンパ1Aと同じ又は同等の構成要素については、同じ参照符号を付している。このことは、他の実施形態や変形例をそれぞれ示す図4図8図10などにおいても同様である。
【0051】
図1との比較から明らかなように、粘性ダンパ1Bは、アキュムレータ6を、外筒3の外側ではなく、内筒4の内部に配置した点が、第1実施形態の粘性ダンパ1Aと異なる。具体的には、アキュムレータ6は、第1実施形態と同様、ケーシング33にピストン35やコイルばね36を内蔵したものであり、ケーシング33を内筒4の第2蓋板11b側の端部に同軸状に一体に嵌め込み、蓄圧室34を軸線方向の内側に向けた状態で、内筒4の内部に設置されている。
【0052】
第1連通路31は、一端部において粘性体室5に連通し、径方向内側に延び、他端部において蓄圧室34に連通している。第2連通路32は、第1連通路31と径方向に対向するように配置されており、一端部において粘性体室5に連通し、径方向内側に延び、他端部において蓄圧室34に連通している。第1連通路31の粘性体室5の付近には、リリーフ弁37が設けられ、第2連通路32の蓄圧室34の付近には、逆止弁38が設けられている。
【0053】
以上の構成の粘性ダンパ1Bによれば、前述した第1実施形態の粘性ダンパ1Aの動作及び効果を同様に得ることができる。また、第1及び第2連通路31、32などを含むアキュムレータ6全体が、内筒4に内蔵され、外筒3の外側にはまったく現れないので、粘性ダンパのコンパクト化と優れた意匠性を確保することができる。
【0054】
次に、図4を参照しながら、本発明の第3実施形態による粘性ダンパ1Cについて説明する。図1との比較から明らかなように、粘性ダンパ1Cは、粘性体室5及びアキュムレータ6の蓄圧室34に連通するリリーフ弁37付きの第1連通路11を、互いに並列の2つの第1連通路31、31で構成した点が、第1実施形態の粘性ダンパ1Aと異なる。
【0055】
図4に示すように、2つの第1連通路31、31は、第2連通路32の両側に互いに対称に配置されており、具体的には、それらの一端部は、粘性体室5の軸線方向の両端部に配置されたシール材21のすぐ内側に接続され、他端部は、蓄圧室34の第2連通路32の両側に接続されている。第2連通路32は、粘性体室5の軸線方向の中心に接続されている。各第1連通路31にはリリーフ弁37が設けられ、そのリリーフ圧力Prfは、第1実施形態と同じ値に設定されている。
【0056】
以上の構成の粘性ダンパ1Cによれば、粘性体室5において、第1連通路31によるアキュムレータ6側への粘性体VBの2つの流出箇所と、第2連通路32によるアキュムレータ6側からの粘性体VBの流入箇所との間に、大きな距離が確保される。これにより、粘性体室5における粘性体VBの流れの乱れによるせん断抵抗のばらつきを抑制し、安定した振動抑制効果を得ることができる。また、アキュムレータ6側への粘性体VBの2つの流出箇所がそれぞれ、シール材21、21の付近に配置されるので、シール材21付近の圧力を良好に反映させながら、粘性体室5内の圧力の制御を精度良く適切に行うことができる。
【0057】
なお、第3実施形態では、第1連通路31を2つとしたが、3つ以上としてもよい。これにより、粘性体室5からアキュムレータ6側への粘性体VBの流出箇所をよりきめ細かく設定でき、粘性体室5内の圧力の制御をより精度良く行うことができる。
【0058】
あるいは、第1及び第2連通路31、32を図9に示すように構成することも可能である。この例では、第1及び第2連通路31、32はそれぞれ1つであり、それらの一端部が粘性体室5の互いに異なる位置に接続されている。他端部側は、共通の第3連通路39に接続され、第3連通路39を介して蓄圧室34に連通している。第1及び第2連通路31、32にはそれぞれ、リリーフ弁37及び逆止弁38が設けられている。
【0059】
この構成では、粘性体室5内の圧力が上昇し、リリーフ弁37が開弁したときには、粘性体VBは、粘性体室5から第1連通路31及び第3連通路39を順に介して蓄圧室34に流れる。一方、蓄圧室34内の圧力が相対的に高くなり、逆止弁38が開弁したときには、粘性体VBは、蓄圧室34から第3連通路39及び第2連通路32を順に介して粘性体室5に流れる。以上のように、第1及び第2連通路31、32とリリーフ弁37及び逆止弁38に要求される基本的な機能を確保しながら、第3連通路39の共用化によって、連通路全体の構成を簡略化することができる。
【0060】
次に、図5を参照しながら、本発明の第4実施形態による粘性ダンパ1Dについて説明する。図1との比較から明らかなように、粘性ダンパ1Dは、加圧機構41を新たに設けた点が、第1実施形態の粘性ダンパ1Aと異なる。
【0061】
加圧機構41は、粘性体室5内の粘性体VBに初期圧力を付与するためのものである。本実施形態では、加圧機構41は、粘性体室5に連通し、外筒3の外周面に開口する注入孔41aと、注入孔41aに設けられた逆流防止用の逆止弁41bと、注入孔41aを塞ぐキャップ41cを有する。
【0062】
この構成では、キャップ41cを外し、粘性体VBを加圧状態で注入孔41aに注入することによって、逆止弁41bが開弁し、粘性体室5に粘性体VBが注入される。これにより、粘性体VBの加圧状態や注入量などに応じた初期圧力が、粘性体室5の粘性体VBにあらかじめ付与される。本実施形態では、初期圧力は、例えば2MPaに設定されている。
【0063】
このように初期圧力が付与されると、構造物Sが振動した際、その初期の段階から、より高い粘性体VBの圧力が確保される。その結果、粘性体VBによる、より大きなせん断抵抗が得られるとともに、粘性体VBの高分子鎖の絡み合いのほぐれによるせん断抵抗の低下が抑制されることによって、より大きな振動抑制効果を得ることができる。
【0064】
次に、図6を参照しながら、上述した第4実施形態の第1変形例による粘性ダンパ1Eについて説明する。粘性ダンパ1Eは、加圧機構51の構成が、第4実施形態の加圧機構41と異なるものである。
【0065】
加圧機構51は、アキュムレータ6に設けられた第2ピストン51aと加圧ねじ51bを有する。第2ピストン51aは、アキュムレータ6のケーシング33内において、コイルばね36とケーシング33の頂壁との間に配置され、摺動自在に設けられている。加圧ねじ51bは、ケーシング33の頂壁に上方からねじ込まれ、その先端が第2ピストン51aの上面に当接している。
【0066】
この構成では、加圧ねじ51bを回し、下方に移動させることにより、第2ピストン51aを介してコイルばね36が圧縮された状態で、蓄圧室34内の粘性体VBが加圧され、逆止弁38が開弁することで、粘性体室5に粘性体VBが流入する。これにより、加圧ねじ51bのねじ込み量などに応じた初期圧力が粘性体室5の粘性体VBに付与される。したがって、上述した第4実施形態と同様、振動の初期の段階から、粘性体室5内の粘性体VBの圧力が高くなることによって、粘性体VBによる、より大きなせん断抵抗が得られるとともに、粘性体VBの高分子鎖の絡み合いのほぐれによるせん断抵抗の低下が抑制されることで、より大きな振動抑制効果を得ることができる。
【0067】
次に、図7を参照しながら、第4実施形態の第2変形例による粘性ダンパ1Fについて説明する。粘性ダンパ1Fは、第1変形例と同じ構成の加圧機構61を、アキュムレータ6とは別個に設けたものである。
【0068】
図7に示すように、第2変形例では、第1実施形態と同じ構成のアキュムレータ6と、アキュムレータ6とは別個の加圧機構61が設けられている。加圧機構61の構成は、アキュムレータ6に組み込んだ第1変形例の加圧機構51と基本的に同じである。
【0069】
具体的には、加圧機構61は、粘性体室5に連通し、外筒3の外周面に開口する連通路61aと、連通路61aに連通するケーシング61bと、ケーシング61b内に摺動自在に設けられ、粘性体室5側に加圧室61cを画成するピストン61dと、ピストン61dを加圧室61c側に付勢するコイルばね61eと、コイルばね61eとケーシング61bの頂壁との間に摺動自在に設けられた第2ピストン61fと、ケーシング61bの頂壁に上方からねじ込まれ、先端が第2ピストン61fの上面に当接する加圧ねじ61gと、連通路61aを開閉する開閉弁(図示せず)を有する。
【0070】
この構成では、開閉弁を開くとともに、第1変形例の場合と同様、加圧ねじ61gを回し、下方に移動させることにより、第2ピストン61fを介してコイルばね61eが圧縮された状態で、加圧室61c内の粘性体VBが加圧され、粘性体室5に流入する。その後、開閉弁を閉じる。これにより、加圧ねじ61gのねじ込み量などに応じた初期圧力が粘性体室5内の粘性体VBに付与される。したがって、上述した第4実施形態と同様、粘性体VBによる、より大きなせん断抵抗が得られるとともに、高分子鎖の絡み合いのほぐれによるせん断抵抗の低下が抑制されることで、より大きな振動抑制効果を得ることができる。
【0071】
次に、図8を参照しながら、本発明の第5実施形態による粘性ダンパ1Gについて説明する。図1との比較から明らかなように、粘性ダンパ1Gは、第1連通路31の途中に貯留室71を設けた点が、第1実施形態の粘性ダンパ1Aと異なる。
【0072】
貯留室71は、入口及び出口を介して第1連通路31に連通するハウジング71aを有する。ハウジング71aは、第1連通路31よりも高さが大きく、その内部には、上部の空気層71bを残した状態で、粘性体VBが貯留している。ハウジング71aの出口には、粘性体VBの逆流防止用の逆止弁71cが設けられている。
【0073】
この構成では、構造物Sの振動時にリリーフ弁37が開弁するのに伴い、粘性体VBが粘性体室5から第1連通路31を介してアキュムレータ6側に流れる際、粘性体VBが貯留室71に流入し、一時的に貯留される。これにより、貯留室71内で粘性体VBの流れや圧力の変動を緩和し、安定化させることによって、より安定した振動抑制効果を得ることができる。
【0074】
次に、図10を参照しながら、本発明の第6実施形態による粘性ダンパ1Hについて説明する。粘性ダンパ1Hは、リリーフ弁37や逆止弁38がアキュムレータのケーシングに内蔵されている点や、これらの37、38の開閉を、粘性体VBに代えて、より粘度の低い作動油HFによって行うように構成した点が、他の実施形態の粘性ダンパと異なる。
【0075】
図10に示すように、本実施形態では、アキュムレータ81のケーシング82は、他の実施形態のそれよりも細長く形成され、上方に突出するように外筒3に直接、取り付けられており、粘性体室5に連通している。ケーシング82内には、上側から順に、摺動自在のピストン35、固定された中間壁83と、摺動自在の第2ピストン84が設けられている。
【0076】
中間壁83は、ケーシング82内を、上側の第1空間と下側の第2空間に仕切るものである。第1空間には、ピストン35と中間壁83によって蓄圧室34が画成され、蓄圧室34と反対側にコイルばね36が配置されている。第2空間は、第2ピストン84によって、粘性体室5に連通する下側の第1流体室85と上側の第2流体室86に区画されている。第1流体室85には粘性体VBが充填され、第2流体室86及び蓄圧室34には作動油HFが充填されている。作動油HFは、粘性体VBの粘度よりも低い適度な粘度を有する通常のものである。
【0077】
中間壁83には、第1及び第2連通路31、32が貫通して形成され、両連通路31、32は、第2流体室86及び蓄圧室34に連通している。第1連通路31にはリリーフ弁37が設けられ、第2連通路32には逆止弁38が設けられている。
【0078】
この構成では、構造物Sの振動時、粘性体VBのせん断変形の繰り返しによって、粘性体室5内の粘性体VBの圧力が上昇すると、この圧力は、第1流体室85内の粘性体VB及び第2ピストン84を介して、第2流体室86内の作動油HFに伝達される。リリーフ弁37は、第2流体室86内の作動油HFによって開閉され、その圧力がリリーフ圧力Prfに達するまでは閉弁状態に保たれることで、粘性体室5はそれまでの高圧力状態に維持される。
【0079】
この状態から、第2流体室86内の作動油HFの圧力がリリーフ圧力Prfに達すると、リリーフ弁37が開弁する。これにより、作動油HFが、第2流体室86から第1連通路31を介して蓄圧室34に流入し、粘性体室5内の圧力の一部がアキュムレータ81に逃がされ、蓄えられる。その後、構造物Sの振動が終了するのに伴い、蓄圧室34内の作動油HFの圧力が第2流体室86内の作動油HFの圧力を上回ると、逆止弁38が開弁する。これにより、作動油HFが、蓄圧室34から第2連通路32を介して第2流体室86に流入する。これに伴い、第2ピストン84が押し下げられ、粘性体VBが第1流体室85から粘性体室5に戻されることによって、アキュムレータ81に蓄えられていた圧力が粘性体室5に逃がされ、もとの状態に復帰する。
【0080】
以上のように、本実施形態においても、他の実施形態と同様、構造物Sの振動時に粘性体室5内の粘性体VBの圧力が増減するのに応じて、リリーフ弁37及び逆止弁38を適切なタイミングで開閉し、粘性体室5内の圧力を適切に制御することによって、粘性体VBのせん断抵抗による粘性減衰効果を良好に発揮させるとともに、粘性体室5内の圧力をシール材21の許容圧力以下に抑制し、シール材21の損傷を防止することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、これまでに述べた他の実施形態と同様、粘性ダンパの粘性減衰効果を粘性体VBのせん断抵抗によって得る一方、他の実施形態と異なり、リリーフ弁37及び逆止弁38の開閉は、粘性体VBによらず、より粘度の低い作動油HFによって行われる。これにより、高粘度の粘性体VBを用いた場合の大きな流動抵抗などの影響を受けることなく、リリーフ弁37及び逆止弁38を高い応答性で円滑に作動させることができ、粘性体室5内の圧力の制御をさらに精度良く適切に行うことができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、図10に示すアキュムレータ81をあらかじめ組み立てた後、ケーシング82を粘性ダンパの外筒3に取り付けるだけで、アキュムレータ81を容易に設置できるとともに、他の実施形態と異なり、外筒3に形成する取り付け用の孔が1つでよいという利点がある。また、アキュムレータ81を、1つの粘性体室5に対して複数、設置してもよく、あるいはケーシング82が水平方向に延びるように設置することも可能である。
【0083】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、すべての実施形態において、粘性ダンパは、外筒3が固定で、内筒4が回転するタイプのものであるが、本発明は、これとは逆に、内筒が固定で、外筒が回転するタイプの粘性ダンパにも適用することが可能である。この場合には特に、アキュムレータを内筒に内蔵する第2実施形態を用いることが有利である。
【0084】
また、実施形態では、制振対象は主として建物などの構造物であるとして説明したが、振動抑制装置によって振動を抑制することが可能である限り、本発明を任意の制振対象に適用することができる。例えば、本文においても若干述べたように、車両を制振対象とし、運転時に振動する部位間に、振動を抑制するダンパとして、振動抑制装置を設置することが可能である。
【0085】
さらに、実施形態では、第1~第3連通路31、32、39の径について言及していないが、それぞれの径は任意に設定してもよい。また、例えば、図11に示すように、粘性体室5からアキュムレータ6の蓄圧室34への連通路(この場合は第3連通路39)に、粘性体VBの流量を調整する流量調整弁91を設けてもよい。この場合、流量調整弁91として、グローブバルブやバタフライバルブを用いることが可能である。このように流量調整弁91で粘性体VBの流量を調整することで、粘性体室5内の圧力、ひいては振動抑制装置のダンパ力を適切に調整することができる。
【0086】
さらに、実施形態において示した振動抑制装置の構成要素の数や配置は、あくまで例示であり、構成要素に要求される機能の大きさやレイアウトなどに応じて適宜、変更してもよい。例えば、アキュムレータが外筒3の外側に配置される実施形態において、アキュムレータ6又は81を2つ以上、設置してもよい。
【0087】
また、実施形態では、粘性体VBとしてシリコンオイルを用い、シール材としてロトバリシールを用い、作動油HFとして適度な粘度を有する通常のものを用いると、それぞれ説明したが、本発明の条件を満たす限り、それぞれ他の適当な材料を用いてもよいことはもちろんである。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1A 第1実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1B 第2実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1C 第3実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1D 第4実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1E 第4実施形態の第1変形例による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1F 第4実施形態の第2変形例による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1G 第5実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
1H 第6実施形態による粘性ダンパ(振動抑制装置)
2 ボールねじ
2a ねじ軸
2b ナット部材(ナット)
3 外筒
4 内筒
5 粘性体室
6 アキュムレータ
21 シール材
31 第1連通路(第1連通路)
32 第2連通路(第2連通路)
33 ケーシング
34 蓄圧室
35 ピストン
36 コイルばね(セットばね)
37 リリーフ弁
38 逆止弁
39 第3連通路
41 加圧機構
51 加圧機構
61 加圧機構
71 貯留室
81 アキュムレータ
82 ケーシング
83 中間壁
84 第2ピストン
85 第1流体室
86 第2流体室
S 構造物(制振対象)
VB 粘性体
Prf リリーフ圧力
HF 作動油

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11