(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005019
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】通信信号評価装置及び通信信号評価方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/38 20060101AFI20250108BHJP
G01R 13/20 20060101ALI20250108BHJP
G01R 13/34 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
H04L27/38
G01R13/20 N
G01R13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105000
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】大谷 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】下田 大世
(57)【要約】
【課題】無線信号が高速になった場合でも品質を評価すること。
【解決手段】通信信号評価装置は、無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とをナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングし、第1信号の包絡線を取得し、包絡線をナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングし、サンプリングされた包絡線に基づいて、トリガーを生成し、サンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定し、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、推定された周波数オフセットとに基づいて、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号の位相補正を行い、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、位相補正されたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号とに基づいて無線信号を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とを、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする第1A/D変換回路と、
前記第1信号の包絡線を取得する包絡線検波部と、
前記包絡線検波部が取得した前記包絡線を、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする第2A/D変換回路と、
前記第2A/D変換回路によってサンプリングされた前記包絡線に基づいて、トリガーを生成するトリガー生成部と、
前記第1A/D変換回路によってサンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、前記トリガー生成部によって生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定する推定部と、
前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定部によって推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行う位相補正部と、
前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号とに基づいて前記無線信号を評価する信号評価部と
を備える、通信信号評価装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける位相変調信号のシンボルを抽出し、抽出した位相変調信号の前記シンボルに基づいて周波数オフセットを推定する、請求項1に記載の通信信号評価装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける複数のシンボルを抽出し、抽出した複数の前記シンボルに基づいて周波数オフセットを推定する、請求項1に記載の通信信号評価装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号に基づいて、周波数オフセットを推定し、
前記位相補正部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定部によって推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行う、請求項1に記載の通信信号評価装置。
【請求項5】
前記信号評価部は、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号に基づいて作成されるトリガーに基づいて、前記無線信号を評価する、請求項1に記載の通信信号評価装置。
【請求項6】
前記無線信号は直交位相振幅変調された信号である、請求項1又は請求項2に記載の通信信号評価装置。
【請求項7】
無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とを、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングするステップと、
前記第1信号の包絡線を取得するステップと、
前記包絡線を取得するステップで取得した前記包絡線を、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングするステップと、
サンプリングされた前記包絡線に基づいて、トリガーを生成するステップと、
サンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定するステップと、
前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定するステップで推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行うステップと、
前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記位相補正を行うステップで位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号とに基づいて前記無線信号を評価するステップと
を備える、通信信号評価装置が実行する通信信号評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信信号評価装置及び通信信号評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信トラフィックの増大や通信技術の向上により、ミリ波帯などの高い周波数帯を無線通信に利用しようとする動きがある。高い周波数帯を無線通信に利用することで、数十Gbpsの情報伝送が可能になると期待されている。
一般的に、無線信号の品質の評価は、以下のように行われている。ADC(Analog to Digital Converter)ボードによって、無線信号がサンプリングされ、サンプリングされることによって得られたデジタルデータからコンスタレーション(信号空間ダイヤグラム)が計算される。そして、コンスタレーションを用いて、エラーベクトル振幅(Error Vector Magnitude)が求められる。ここで、エラーベクトル振幅とは、デジタル変調信号の品質尺度であり、同相(in-phase、I)軸と直角位相(quadrature、Q)軸とで表されるコンスタレーションにおいて理想変調信号と測定変調信号との位置のずれを理想変調信号で正規化したものである。
【0003】
具体的には、無線信号のI成分とQ成分の最高周波数の倍以上のサンプリング速度を有するリアルタイムオシロスコープによって、無線信号の波形に対して測定が行われる。この場合、ナイキストの定理にしたがって、被測定信号の周波数の2倍よりも高いサンプリング周波数で動作するADCボードが必要となる。そして、無線信号の波形から得られたサンプリングデータから、コンスタレーションが計算される。
【0004】
無線通信信号の高速化に伴い、信号品質評価の測定器もまた高速化が求められている。測定の際に使用されるADCのサンプリング周波数は被測定信号の最高周波数成分の2倍よりも高い必要がある。第5世代移動通信システム(5th Generation)以降の無線通信はミリ波帯のキャリア周波数が用いられるが、ミリ波帯信号の測定を可能とするADCの開発は技術的に難しい。
無線信号からキャリア成分を取り除くことで得られる同相成分Iと直交成分Qを測定する場合においても、高いサンプリング周波数のADCほど有効ビット数が減少する傾向にあるため、正確な測定が難しくなる。通信信号を測定し、信号品質を評価する技術に関してアンダーサンプリングによるものが知られている(例えば特許文献1参照)。この技術では、位相変調信号(PSK: Phase Shift Keying)を被測定信号としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ADCのサンプリング周波数と有効ビット数(Effect Number Of Bits:ENOB)とはトレードオフの関係にあるので、両方を満足するADCでの測定は困難である。つまり、無線信号の周波数が高くなるにしたがって、その周波数の倍よりも大きいサンプリング周波数を有するADCボードが必要となる。しかし、ADCボードで測定できるサンプリング周波数には限界があり、今後進展が予想されるミリ波通信システムなどで使用される無線信号の品質評価は困難である。
【0007】
具体的には、300GHz帯のいわゆるミリ波と呼ばれる周波数帯の無線信号を使用した通信においては、600Gs/s以上のサンプリング周波数が必要であるが、600Gs/sのサンプリング周波数を有するリアルタイムオシロスコープを実用化するのは難しい。
前述した技術では、位相変調信号を被測定信号としているため、直交振幅変調信号(QAM: Quadrature Amplitude Modulation)を測定し、信号品質を評価することはできない。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、無線信号の周波数が高くなった場合でも、品質を評価できる通信信号評価装置及び通信信号評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)第1の態様に係る通信信号評価装置は、無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とを、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする第1A/D変換回路と、前記第1信号の包絡線を取得する包絡線検波部と、前記包絡線検波部が取得した前記包絡線を、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする第2A/D変換回路と、前記第2A/D変換回路によってサンプリングされた前記包絡線に基づいて、トリガーを生成するトリガー生成部と、前記第1A/D変換回路によってサンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、前記トリガー生成部によって生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定する推定部と、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定部によって推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行う位相補正部と、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号とに基づいて前記無線信号を評価する信号評価部とを備える、通信信号評価装置である。
(2)上記態様にかかる通信信号評価装置において、前記推定部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける位相変調信号のシンボルを抽出し、抽出した位相変調信号の前記シンボルに基づいて周波数オフセットを推定してもよい。
(3)上記態様にかかる通信信号評価装置において、前記推定部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける複数のシンボルを抽出し、抽出した複数の前記シンボルに基づいて周波数オフセットを推定してもよい。
(4)上記態様にかかる通信信号評価装置において、前記推定部は、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号に基づいて、周波数オフセットを推定し、前記位相補正部は、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定部によって推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行うようにしてもよい。
(5)上記態様にかかる通信信号評価装置において、前記信号評価部は、前記位相補正部によって位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号に基づいて作成されるトリガーに基づいて、前記無線信号を評価するようにしてもよい。
(6)上記態様にかかる通信信号評価装置において、前記無線信号は直交位相振幅変調された信号であってもよい。
【0010】
(7)第1の態様に係る通信信号評価方法は、無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とを、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングするステップと、前記第1信号の包絡線を取得するステップと、前記包絡線を取得するステップで取得した前記包絡線を、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングするステップと、サンプリングされた前記包絡線に基づいて、トリガーを生成するステップと、サンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定するステップと、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記推定するステップで推定された前記周波数オフセットとに基づいて、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号の位相補正を行うステップと、前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号と、前記位相補正を行うステップで位相補正された前記I成分デジタル信号及び前記Q成分デジタル信号とに基づいて前記無線信号を評価するステップとを備える、通信信号評価装置が実行する通信信号評価方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、無線信号の周波数が高くなった場合でも、品質を評価できる通信信号評価装置および通信信号評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る通信信号評価装置100の一例を示す図である。
【
図2】アンダーサンプリングの一例を示す図である。
【
図4A】アンダーサンプリングされた包絡線の信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図4B】アンダーサンプリングされた包絡線の信号のスペクトルの一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る通信信号評価装置100の推定部126の処理の一例を示す図である。
【
図8A】コンスタレーションからシンボルを抽出する処理の一例を示す図である。
【
図8B】コンスタレーションからシンボルを抽出する処理の一例を示す図である。
【
図9A】本実施形態にかかる通信信号評価装置100の推定部126の処理の一例を示す図である。
【
図9B】I成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号の位相を4倍するイメージ図である。
【
図10】本実施形態に係る通信信号評価装置100の動作の一例を示す図である。
【
図11】実施形態の変形例に係る通信信号評価装置100aの一例を示す図である。
【
図12】実施形態の変形例に係る通信信号評価装置100aの動作の一例を示す図である。
【
図14】周波数差の導出結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本実施形態の通信信号評価装置及び通信信号評価方法を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限られない。
なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る通信信号評価装置100の一例を示す図である。通信信号評価装置100は、無線信号の品質を評価するときに使用される。
通信信号評価装置100は、無線信号をダウンコンバートし、ダウンコンバートすることによって得られた第1信号をI成分信号とQ成分信号とに分解する。通信信号評価装置100は、I成分信号とQ成分信号とをナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする。
【0015】
通信信号評価装置100は、第1信号の包絡線を取得し、取得した包絡線をナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする。通信信号評価装置100は、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングされた包絡線に基づいてトリガーを生成する。
通信信号評価装置100は、I成分信号とQ成分信号とをナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングすることによって得られたI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号と、トリガーとに基づいてアイパターンを描画する。通信信号評価装置100は、描画したアイパターンに基づいてコンスタレーションを描画し、描画したコンスタレーションから、周波数オフセットを推定する。
【0016】
通信信号評価装置100は、I成分のデジタル信号及びQ成分のデジタル信号と、周波数オフセットとに基づいてI成分のデジタル信号及びQ成分のデジタル信号の位相補正を行う。通信信号評価装置100は、I成分のデジタル信号及びQ成分のデジタル信号と、位相補正されたI成分のデジタル信号及びQ成分のデジタル信号とに基づいて無線信号を評価する。
【0017】
通信信号評価装置100は、ダウンコンバータ部102、IQミキサー(IQMixer)110、発振器111、ローパスフィルタ(Low-pass filter:LPF)112、LPF114、A/D変換回路(A/D)116、A/D118、包絡線検波部120、A/D122、トリガー生成部124、推定部126、位相補正部128、トリガー生成部130および信号評価部132を含む。
ダウンコンバータ部102は、ミキサー(Mixer)104とバンドパスフィルタ(Band-pass filter:BPF)106とを含む。Mixer104には、アンテナ101が接続される。
【0018】
ダウンコンバータ部102は、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号を受信する。直交位相振幅変調は、互いに独立な2つの搬送波(すなわち同相(in-phase)搬送波および直交位相(quadrature)搬送波)の振幅を変更・調整することによってデータを伝達する変調方式である。以下、直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号の一例として、16QAMされたミリ波帯の無線信号を使用した場合について説明を続ける。
【0019】
ダウンコンバータ部102は、直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号を低い周波数の無線信号へ変換する。具体的には、直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号は、アンテナ101からMixer104に出力される。Mixer104は、アンテナ101からの直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号とLO(ローカルオシレータ)信号とをミキシングする。Mixer104は、直交位相振幅変調された高い周波数の無線信号とLO信号とをミキシングした信号を、BPF106へ出力する。ここで、ローカル信号の一例は、280GHzの信号である。
BPF106は、Mixer104と接続される。BPF106は、Mixer104が出力した信号から、高周波成分を取り除き、高周波成分を取り除くことによって得られる中間周波数(Intermediate Frequency:IF)信号を、IQMixer110と包絡線検波部120とへ出力する。
【0020】
IQMixer110は、BPF106と接続される。IQMixer110は、発振器111が出力する信号を用いて、BPF106が出力するIF信号を、搬送波の周波数fcで直交復調を行うことによって、I成分(同相成分)の信号とQ成分(直交成分)の信号とに分解する。IQMixer110は、I成分の信号をLPF112へ出力し、Q成分の信号をLPF114へ出力する。
【0021】
LPF112は、IQMixer110と接続される。LPF112は、IQMixer110が出力したI成分の信号から高周波成分を除去し、高周波成分を除去したI成分の信号を、A/D116へ出力する。以下、LPF112が出力する「高周波成分を除去したI成分の信号」を、単に「I成分の信号」という。
【0022】
LPF114は、IQMixer110と接続される。LPF114は、IQMixer110が出力したQ成分の信号から高周波成分を除去し、高周波成分を除去したQ成分の信号を、A/D118へ出力する。以下、LPF114が出力する「高周波成分を除去したQ成分の信号」を、単に「Q成分の信号」という。
【0023】
A/D116は、LPF112と接続される。A/D116は、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、LPF112が出力したI成分の信号をアンダーサンプリングする。例えば、A/D116は、発振器(図示なし)と同期して、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、I成分の信号をアンダーサンプリングする。サンプリング周波数の一例は、約100MHzである。
図2は、アンダーサンプリングの一例を示す図である。
図2において、被測定信号は破線で表され、アンダーサンプリングの結果は実線で表される。
図1に戻り説明を続ける。
A/D116は、アンダーサンプリングすることによって得られたI成分のデジタル信号を推定部126、位相補正部128及び信号評価部132へ出力する。
【0024】
A/D118は、LPF114と接続される。A/D118は、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、LPF114が出力したQ成分の信号をアンダーサンプリングする。例えば、A/D118は、発振器(図示なし)と同期して、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、Q成分の信号をアンダーサンプリングする。サンプリング周波数の一例は、約100MHzである。
A/D118は、アンダーサンプリングすることによって得られたQ成分のデジタル信号を推定部126、位相補正部128及び信号評価部132へ出力する。
【0025】
包絡線検波部120は、BPF106と接続される。包絡線検波部120は、BPF106が出力するIF信号の包絡線を取得する。包絡線検波部120は、発振器111が出力する信号によって直交復調されていない信号の包絡線を取得する。包絡線検波部120は、取得した包絡線の信号を、A/D122へ出力する。
図3A、
図3Bは、包絡線検波の一例を示す図である。
図3Aは、包絡線検波部120に入力されるIF信号(無線信号)の一例を示す。
図3Bは、包絡線検波部120が、入力された無線信号から取得する包絡線の一例を示す図である。
図3Bは、一例として、高周波成分を除去した包絡線の信号を示す。
図1に戻り説明を続ける。
【0026】
A/D122は、包絡線検波部120と接続される。A/D122は、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、包絡線検波部120が出力した包絡線の信号をアンダーサンプリングする。アンダーサンプリングされた包絡線の信号(イメージ信号)の周波数fimg_symは、式(1)で表される。
fimg_sym=fsym-n×fsamp (1)
式(1)において、fsymは被測定信号(包絡線の信号)の周波数であり、nは整数であり、fsampはサンプリング周波数である。
【0027】
図4Aは、アンダーサンプリングされた包絡線の信号の時間波形の一例を示す図である。
図4Aにおいて、横軸は時間である。
図4Bは、アンダーサンプリングされた包絡線の信号のスペクトルの一例を示す図である。
図4Bによれば、クロック成分がみられるため、無線信号の波形と同期していることがわかる。
図1に戻り説明を続ける。
A/D122は、アンダーサンプリングされた包絡線の信号をトリガー生成部124へ出力する。
【0028】
トリガー生成部124は、A/D122が出力したアンダーサンプリングされた包絡線の信号を取得し、取得したアンダーサンプリングされた包絡線の信号に基づいてトリガーを生成する。トリガー生成部124は、アンダーサンプリングされた包絡線の信号の周波数fimg_symを取得する。
トリガー生成部124は、取得したアンダーサンプリングされた包絡線の信号の周波数fimg_symからバンドパスフィルタによって所定の周波数帯を抽出することによってトリガー(同期トリガー)を生成する。
図5は、トリガーの一例を示す図である。
図1に戻り説明を続ける。トリガー生成部124は、生成したトリガーを推定部126に出力する。
【0029】
推定部126は、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、およびトリガー生成部124が出力したトリガーを取得する。推定部126は、取得したI成分のデジタル信号、Q成分のデジタル信号、およびトリガーに基づいて、周波数オフセットを推定する。トリガーは直交復調されたI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号と同期している。
【0030】
具体的には、推定部126は、I成分のデジタル信号の時間波形を描画する。推定部126は、I成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって、I成分のデジタル信号のアイパターンを描画する。
図6は、本実施形態に係る通信信号評価装置100の推定部126の処理の一例を示す図である。
図6は、I成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって得られるアイパターンの一例を示す。実線で囲まれた部分がシンボル点、及びそのシンボル点の近傍のシンボル点である。
【0031】
また、推定部126は、Q成分のデジタル信号の時間波形を描画する。推定部126は、Q成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって、Q成分のデジタル信号のアイパターンを描画する。
Q成分のデジタル信号の時間波形の一例と、Q成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって得られるQ成分のデジタル信号のアイパターンの一例は、
図6を適用できる。
【0032】
推定部126は、描画したI成分のデジタル信号のアイパターンとQ成分のデジタル信号のアイパターンとに基づいて、コンスタレーションを描画する。具体的には、推定部126は、描画したI成分のデジタル信号のアイパターンとQ成分のデジタル信号のアイパターンの各々から開口部のデータを抜き出し、I成分を横軸、Q成分を縦軸とすることで描画する。キャリア信号とローカル信号に位相差もしくは周波数差がある場合、アイ開口部は観測できない。しかし、トリガーとQ成分のデジタル信号及びI成分のデジタル信号は周波数差がある場合でも同期しているので、トリガーが閾値をまたいだ時間から一定時間経過した点がシンボル点とそのシンボル点の近傍のシンボル点となる。したがって、アイ開口が観測できなくてもシンボル点とその近傍の点が抽出できる。
【0033】
図7は、コンスタレーションの一例を示す図である。
図7において、横軸はI成分の振幅(Amplitude-I)であり、縦軸はQ成分の振幅(Amplitude-Q)である。
図7によれば、位相揺らぎ、周波数揺らぎによって位相回転が生じている。
推定部126は、コンスタレーションの描画結果から、トリガーに基づいてQPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出する。ここで、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボル近傍に配置されているシンボルは、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルから所定の範囲のシンボルである。
【0034】
図8A、
図8Bは、コンスタレーションからシンボルを抽出する処理の一例を示す図である。
図8A、
図8Bにおいて、横軸はI成分の振幅(Amplitude-I)であり、縦軸はQ成分の振幅(Amplitude-Q)である。
図8Aは、16QAM変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルのうち、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを示す。
図8Bは、16QAM変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルのうち、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボル以外のシンボルを示す。
【0035】
推定部126は、
図7に示されるコンスタレーションを、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルと(
図8A)、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボル以外のシンボル(
図8B)とに分類する。
例えば、I成分の振幅とQ成分の振幅とからなるコンスタレーションにおいて、その中心(送信点)OからQPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルが含まれる領域R1及び領域R2のいずれか一方又は両方を設定する。以下、領域R1及び領域R2の両方が設定される場合について説明を続ける。
【0036】
領域R1の一例は中心から半径r1と半径r1+αとの間の長さの範囲の中空円、換言すれば外径2×(r1+α)で内径2×r1の中空円の領域である。領域R2の一例は中心から半径r2(>r1)と半径r2+βとの間の長さの範囲の中空円、換言すれば外径2×(r2+β)で内径2×r2の中空円である。
推定部126は、領域R1又は領域R2に含まれるシンボルを抽出することによって、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出する。
【0037】
推定部126がコンスタレーションの描画結果から抽出したシンボルは、QPSK変調波に前述したIQMixer110、LPF112、LPF114、A/D116およびA/D118による処理が行われたものとみなせる。
一般に、無線通信評価ではキャリア信号と局部発振器の周波数差の成分は数値処理によって補正される。リアルタイムサンプリングの場合、I成分のデジタル信号とQ成分のデジタル信号とから求めた位相情報は、π/4差でランダムに変化し、リアルタイムサンプリングと同様に周波数差を求めることができない。
【0038】
そこで、2倍角の公式からI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号の位相を4倍することで連続した位相情報に変換する。
図9Aは、本実施形態にかかる通信信号評価装置100の推定部126の処理の一例を示す図である。
図9Bは、I成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号の位相を4倍するイメージ図である。
【0039】
位相が4倍されたI成分のデジタル信号IおよびQ成分のデジタル信号QをそれぞれI4およびQ4とした場合、I4およびQ4は以下の式(2)および式(3)によって表される。
I4=2・{2・(I・Q)・(Q^2-I^2)}
=sin4・(θsym+θnoise)
=sin(π+4・θnoise) (2)
Q4=(Q^2-I^2)^2-(2・I・Q)^2
=cos4・(θsym+θnoise)
=cos(π+4・θnoise) (3)
【0040】
式(2)、式(3)において、θsymは被測定信号の位相であり、θnoiseはノイズによる位相のずれである。式(2)および式(3)によって連続した位相情報を得ることができる。位相情報は、式(4)によって表される。
【数1】
推定部126は、位相情報を微分することで周波数オフセットを計算する。キャリア信号と局部発振器の周波数差をfdとした場合、周波数差fdは式(5)によって計算される。
【数2】
推定部126は、周波数差fdの計算結果を位相補正部128に出力する。
【0041】
位相補正部128は、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、および推定部126が出力した周波数差fdの計算結果を取得する。位相補正部128は、取得したI成分のデジタル信号、Q成分のデジタル信号、および周波数差fdの計算結果に基づいて位相を補正する。位相補正部128は、前述した式(2)および式(3)によって、I4およびQ4を導出する。位相補正部128は、I4およびQ4の導出結果から、式(4)によって位相情報を計算する。
【0042】
位相補正部128は、位相情報の計算結果に基づいて位相を補正する。位相補正部128は、位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を、トリガー生成部130へ出力する。
【0043】
トリガー生成部130は、位相補正部128と接続される。トリガー生成部130は、位相補正部128が出力した位相が補正されたI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて、そのI成分のデジタル信号の時間波形又はそのQ成分のデジタル信号の時間波形を区切ったり、重ね合せたりするタイミングであるトリガーを生成する。
具体的には、トリガー生成部130は、そのI成分のデジタル信号の二乗とそのQ成分のデジタル信号の二乗との和の演算結果に対して、包絡線検波を行うことによって、トリガーを生成する。トリガー生成部130は、生成したトリガーを、信号評価部132へ出力する。
【0044】
信号評価部132は、トリガー生成部130が出力するトリガーにしたがって、A/D116からI成分のデジタル信号を取得し、A/D116からQ成分のデジタル信号を取得する。信号評価部132は、取得したI成分のデジタル信号の時間波形を描画する。信号評価部132は、I成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって、I成分のデジタル信号のアイパターンを描画する。
【0045】
また、信号評価部132は、取得したQ成分のデジタル信号の時間波形を描画する。信号評価部132は、Q成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって、Q成分のデジタル信号のアイパターンを描画する。
Q成分のデジタル信号の時間波形の一例と、Q成分のデジタル信号の時間波形を重ね合せることによって得られるQ成分のデジタル信号のアイパターンの一例は、
図6を適用できる。
【0046】
信号評価部132は、描画したI成分のデジタル信号のアイパターンとQ成分のデジタル信号のアイパターンとに基づいて、コンスタレーションを描画する。具体的には、信号評価部132は、描画したI成分のデジタル信号のアイパターンとQ成分のデジタル信号のアイパターンの各々から開口部のデータを抜き出し、I成分を横軸、Q成分を縦軸とすることで描画する。
さらに、信号評価部132は、描画したコンスタレーションに基づいて、EVM(Error Vector Magnitude)を演算する。EVMは、コンスタレーションから抜き出した測定値と理想的な値との距離を平均した値である。N個のシンボルに対するEVMは、式(6)、式(7)によって求めることができる(Marco Vigilante, Earl McCune, and Patrick Reynaert, “An answer to the question To EVM or Two EVMs?”, IEEE Solid-State Circuits Magazine Volume: 9, Issue: 3, Summer 2017)。式(6)は二乗平均平方根の大きさの比率で表され、式(7)は誤差の二乗平均平方根の大きさをコンステレーションのピークの大きさと比較するものである。ここで、Nは整数である。
【数3】
【0047】
式(6)において、CRMSはコンステレーションポイントの大きさの二乗平均平方根である。式(6)および式(7)において、「Sideal,i」はi番目のシンボルの理想的な成分であり、「Smeas,i」は受信したi番目のシンボルの成分であり、「Smax」は、受信したi番目のシンボルの最大値である。
信号評価部132は、EVMの演算結果を出力する。
【0048】
<通信信号評価装置100の動作>
図10は、本実施形態に係る通信信号評価装置100の動作の一例を示す図である。
(ステップS1-1)
ダウンコンバータ部102は、無線信号をIF信号へダウンコンバートする。
(ステップS2-1)
A/D116及びA/D118は、サンプリング周波数に基づいて、IF信号(I成分の信号、Q成分の信号)に対して、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でアンダーサンプリングを行う。
【0049】
(ステップS3-1)
包絡線検波部120は、ダウンコンバータ部102が出力するIF信号の包絡線を取得する。
(ステップS4-1)
A/D122は、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数で、包絡線検波部120が出力した包絡線の信号をアンダーサンプリングする。
(ステップS5-1)
トリガー生成部124は、A/D122が出力したアンダーサンプリングされた包絡線の信号を取得し、取得したアンダーサンプリングされた包絡線の信号に基づいてトリガーを生成する。
【0050】
(ステップS6-1)
推定部126は、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、およびトリガー生成部124が出力したトリガーを取得する。推定部126は、取得したI成分のデジタル信号、Q成分のデジタル信号、およびトリガーに基づいて、周波数オフセットを推定する。
(ステップS7-1)
位相補正部128は、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、および推定部126が出力した周波数差fdの計算結果を取得する。位相補正部128は、取得したI成分のデジタル信号、Q成分のデジタル信号、および周波数差fdの計算結果に基づいて位相を補正する。
【0051】
(ステップS8-1)
トリガー生成部130は、位相補正部128が出力した位相が補正されたI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて、I成分のデジタル信号の時間波形又はQ成分のデジタル信号の時間波形を区切ったり、重ね合せたりするタイミングであるトリガーを生成する。
(ステップS9-1)
信号評価部132は、トリガー生成部130が出力するトリガーにしたがって、A/D116からI成分のデジタル信号を取得し、A/D116からQ成分のデジタル信号を取得する。信号評価部132は、取得したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて、EVMを演算する。その後、ステップS1-1へ戻る。
【0052】
前述した実施形態では、通信信号評価装置100が、アイパターンを描画し、描画したアイパターンに基づいてコンスタレーションを描画し、描画したコンスタレーションに基づいて、周波数オフセットの推定、EVMの演算を行う場合について説明したが、この例に限られない。例えば、通信信号評価装置100が、アイパターン、及びコンスタレーションを描画することなく、周波数オフセットの推定、EVMの演算を行うようにしてもよい。
前述した実施形態では、トリガー生成部130が、I成分のデジタル信号の二乗とQ成分のデジタル信号の二乗との和の演算結果に対して、包絡線検波を行うことによって、トリガーを生成する場合について説明したが、この例に限られない。例えば、トリガー生成部130は、I成分のデジタル信号の二乗又はQ成分のデジタル信号の二乗の演算結果に基づいてトリガーを生成するようにしてもよい。
前述した実施形態では、16QAMされた高周波数の無線信号の品質を評価する場合について説明したが、この例に限られない。例えば、64QAM、256QAM、さらに多値度を上げた高周波数の無線信号の品質を評価する場合についても適用できる。
【0053】
前述した実施形態では、信号評価部132は、A/D116からI成分のデジタル信号を取得し、A/D118からQ成分のデジタル信号を取得し、取得したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいてEVMを導出する場合について説明したが、この例に限られない。例えば、信号評価部132は、位相補正部128から位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を取得し、取得した位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいてEVMを導出するようにしてもよい。
【0054】
前述した実施形態では、推定部126は、領域R1又は領域R2に含まれるシンボルを抽出することによって、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出する場合について説明したがこの例に限られない。
例えば、推定部126は、領域R1に含まれるシンボルを抽出することによって、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出するようにしてもよいし、領域R2に含まれるシンボルを抽出することによって、QPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出するようにしてもよい。
また、推定部126は、描画したコンスタレーションに含まれる全てのシンボルを抽出するようにしてもよい。
【0055】
本実施形態に係る通信信号評価装置によれば、通信信号評価装置100は、第1A/D変換回路としてのA/D116およびA/D118と、包絡線検波部120と、第2A/D変換回路としてのA/D122と、トリガー生成部124と、推定部126と、位相補正部128と、信号評価部132とを備える。第1A/D変換回路は、無線信号をダウンコンバートした第1信号を分解したI成分信号とQ成分信号とを、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする。包絡線検波部120は、第1信号の包絡線を取得する。第2A/D変換回路は、包絡線検波部120が取得した包絡線を、ナイキスト周波数よりも低いサンプリング周波数でサンプリングする。トリガー生成部124は、第2A/D変換回路によってサンプリングされた包絡線に基づいて、トリガーを生成する。
【0056】
推定部126は、第1A/D変換回路によってサンプリングされたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、トリガー生成部124によって生成されたトリガーとに基づいて、周波数オフセットを推定する。位相補正部128は、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、推定部126によって推定された周波数オフセットとに基づいて、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号の位相補正を行う。信号評価部132は、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、位相補正部128によって位相補正されたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号とに基づいて無線信号を評価する。
【0057】
このように構成することによって、通信信号評価装置100は、サンプリングオシロスコープやベクトルボルトメータで用いられたように被測定信号の周期よりも長い周期で測定を行うアンダーサンプリング技術を用いることができる。このため、通信信号評価装置100は、無線信号の周波数が高くなった場合でも、品質を評価することができる。具体的には、ミリ波帯のキャリア周波数が用いられる無線信号が被測定信号である場合に、サンプリング周波数を100MHz程度まで低くすることができる。さらに、特別なハードウェアを使用することなくソフトウェアによって実現できる。
【0058】
通信信号評価装置100において、推定部126は、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける位相変調信号のシンボルを抽出し、抽出した位相変調信号のシンボルに基づいて周波数オフセットを推定する。
このように構成することによって、推定部126は、コンスタレーションにおける位相変調信号のシンボルを抽出できる。具体的には、無線信号が直交振幅変調信号である場合に、直交振幅変調信号から得られるコンスタレーションから、位相変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出できる。このため、推定部126は、抽出したシンボルに基づいて周波数オフセットを推定できる。
【0059】
通信信号評価装置100において、推定部126は、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、トリガーとに基づいて、コンスタレーションにおける複数のシンボルを抽出し、抽出した複数のシンボルに基づいて周波数オフセットを推定する。
このように構成することによって、推定部126は、コンスタレーションにおける複数のシンボルを抽出できる。具体的には、無線信号が直交振幅変調信号である場合に、直交振幅変調信号から得られるコンスタレーションから、複数のシンボルを抽出できる。このため、推定部126は、抽出したシンボルに基づいて周波数オフセットを推定できる。
【0060】
通信信号評価装置100において、信号評価部132は、位相補正部128によって位相補正されたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号に基づいて作成されるトリガーに基づいて、無線信号を評価する。
このように構成することによって、トリガー生成部130によって位相補正されたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号に基づいてトリガーが生成されるため、信号評価部132は、作成されたトリガーに基づいて無線信号を評価できる。
【0061】
通信信号評価装置100において、無線信号は直交位相振幅変調された信号である。
このように構成することによって、通信信号評価装置100は、直交位相振幅変調された無線信号の周波数が高くなった場合でも、品質を評価することができる。具体的には、ミリ波帯のキャリア周波数が用いられる無線信号が被測定信号である場合に、サンプリング周波数を100MHz程度まで低くすることができる。
【0062】
<実施形態の変形例1>
図11は、実施形態の変形例に係る通信信号評価装置100aの一例を示す図である。通信信号評価装置100aは、通信信号評価装置100と比較して、推定部126の代わりに推定部126aを備え、位相補正部128の代わりに位相補正部128aを備える点で異なる。
【0063】
推定部126aは、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、およびトリガー生成部124aが出力したトリガーを取得する。推定部126aは、I成分デジタル信号の時間波形を描画する。推定部126aは、Q成分のデジタル信号の時間波形を描画する。推定部126aは、描画したI成分のデジタル信号のアイパターンとQ成分のデジタル信号のアイパターンとに基づいて、コンスタレーションを描画する。
【0064】
推定部126aは、コンスタレーションの描画結果から、トリガーに基づいてQPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出する。推定部126aは、位相情報を計算し微分することで周波数オフセットを計算する。推定部126aは、周波数差fdの計算結果を位相補正部128aに出力する。位相補正部128aは、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、および推定部126aが出力した周波数差fdの計算結果を取得する。
【0065】
位相補正部128aは、I4およびQ4を導出し、導出したI4およびQ4から、位相情報を計算する。位相補正部128aは、位相情報の計算結果に基づいて位相を補正する。位相補正部128aは、位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を、推定部126aへ出力する。
【0066】
推定部126aは、位相補正部128aが出力した位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を取得する。推定部126aは、位相を補正したI成分デジタル信号の時間波形を描画する。推定部126aは、位相を補正したQ成分のデジタル信号の時間波形を描画する。推定部126aは、描画した位相を補正したI成分のデジタル信号のアイパターンと位相を補正したQ成分のデジタル信号のアイパターンとに基づいて、コンスタレーションを描画する。
【0067】
推定部126aは、コンスタレーションの描画結果から、トリガーに基づいてQPSK変調信号から得られるコンスタレーションのシンボルと同じおよび近傍に配置されているシンボルを抽出する。推定部126aは、位相情報を計算し微分することで周波数オフセットを計算する。推定部126aは、周波数差fdの計算結果を位相補正部128aに出力する。位相補正部128aは、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、および推定部126aが出力した周波数差fdの計算結果を取得する。
【0068】
位相補正部128aは、I4およびQ4を導出し、導出したI4およびQ4から、位相情報を計算する。位相補正部128aは、位相情報の計算結果に基づいて位相を補正する。位相補正部128aは、位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を、トリガー生成部130および信号評価部132へ出力する。
【0069】
<通信信号評価装置の動作>
図12は、実施形態の変形例に係る通信信号評価装置100aの動作の一例を示す図である。ステップS1-2~S7-2は、
図10を参照して説明したステップS1-1~S7-1を適用できるため、説明を省略する。
【0070】
(ステップS8-2)
位相補正部128aは、位相の補正が一回目であるか否かを判定する。一回目である場合には、ステップS6-2へ移行する。位相補正部128aは、一回目でない場合には、ステップS9-2へ移行する。
ステップS6-2へ移行する場合、位相補正部128aは、位相の補正を行ったI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を推定部126aへ出力する。推定部126aは、位相補正部128aが出力した位相の補正を行ったI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号、およびトリガー生成部124が出力したトリガーを取得する。推定部126aは、取得した位相の補正を行ったI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号、およびトリガーに基づいて、周波数オフセットを推定する。
【0071】
位相補正部128aは、A/D116が出力したI成分のデジタル信号、A/D118が出力したQ成分のデジタル信号、および推定部126aが出力した周波数差fdの計算結果を取得する。位相補正部128aは、取得したI成分のデジタル信号、Q成分のデジタル信号、および周波数差fdの計算結果に基づいて位相を補正する。
【0072】
(ステップS9-2)
トリガー生成部130は、位相補正部128aが出力した位相が補正されたI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて、I成分のデジタル信号の時間波形又はQ成分のデジタル信号の時間波形を区切ったり、重ね合せたりするタイミングであるトリガーを生成する。
【0073】
(ステップS10-2)
信号評価部132は、トリガー生成部130が出力するトリガーにしたがって、A/D116からI成分のデジタル信号を取得し、A/D116からQ成分のデジタル信号を取得する。信号評価部132は、位相補正部128から入力された位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を取得する。信号評価部132は、取得したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号と、位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号とに基づいて、EVMを演算する。その後、ステップS1-2へ戻る。
【0074】
前述した実施形態の変形例では、位相補正部128aは位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を推定部126aへ出力し、推定部126aは位相補正部128aが出力したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて周波数差fdを導出し、導出した周波数差fdを位相補正部128aへ出力する処理が一回行われる場合について説明したがこの例に限られない。
【0075】
例えば、位相補正部128aは位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を推定部126aへ出力し、推定部126aは位相補正部128aが出力したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号に基づいて周波数差fdを導出し、導出した周波数差fdを位相補正部128aへ出力する処理が複数回行われるようにしてもよい。具体的には、位相補正部128aは、位相の補正量が閾値以上である場合には位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を推定部126aへ出力し、位相の補正量が閾値未満である場合には位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を推定部126aへ出力せず、位相を補正したI成分のデジタル信号およびQ成分のデジタル信号を、トリガー生成部130へ出力するようにしてもよい。
【0076】
実施形態の変形例に係る通信信号評価装置100aによれば、通信信号評価装置100において、推定部126aは、位相補正部128aによって位相補正されたI成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号に基づいて、周波数オフセットを推定する。位相補正部128aは、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号と、推定部126aによって推定された周波数オフセットとに基づいて、I成分デジタル信号及びQ成分デジタル信号の位相補正を行う。
【0077】
このように構成することによって、通信信号評価装置100aは、周波数差fdを繰り返し導出し、繰り返し導出した周波数差fdで位相補正を行うことができる。このため、通信信号評価装置100aは、一回導出した周波数差fdで位相補正を行う場合と比較して位相補正精度を向上できる。
【0078】
実施形態の変形例の効果について説明する。
図13は、位相情報の一例を示す図である。
図13において、横軸は時間であり、縦軸は4θnoiseである。推定部126は、位相情報を、式(4)によって導出する。
図13において、傾きが周波数差を示す。
図13を、最小二乗法によって近似することによって波形を推定し、周波数差を導出した。
【0079】
図14は、周波数差の導出結果の一例を示す図である。
図14において、横軸はサンプルであり、縦軸は周波数差である。
図14において、理論値を実線で示す。ここで、理論値は-14である。
図14によれば、周波数差は、理論値から10%以内に含まれることが分かる。
図14において、複数のサンプルの周波数差の平均値は-13.5であった。理論値の-14に対して周波数差の平均値は-13.5であるので、残留周波数差は0.5である。
【0080】
図15は、補正後のシンボルの一例を示す図である。
図15において、横軸はI成分の振幅(Amplitude-I)であり、縦軸はQ成分の振幅(Amplitude-Q)である。
図15によれば、位相揺らぎ、周波数揺らぎによって位相回転が生じているのが分かる。
図16は、位相情報の一例を示す図である。
図16において、横軸は時間であり、縦軸は4θnoiseである。
図16において、傾きが周波数差を示す。
図16を、最小二乗法によって近似することによって波形を推定し、位相情報を導出した。位相情報として、-0.4から-0.5が得られた。ほぼ、残留周波数差を一致していることが分かる。残留周波数差に基づいて、さらに位相回転の補正を行った。
【0081】
図17は、補正後のシンボルの一例を示す図である。
図17において、横軸はI成分の振幅(Amplitude-I)であり、縦軸はQ成分の振幅(Amplitude-Q)である。
図17によれば、位相回転が補正されているのが分かる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態やその変形例を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0083】
なお、上述した通信信号評価装置は、コンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、各機能ブロックの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録する。この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、CPU(演算処理部)が実行することで実現してもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体のことをいう。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置を含む。
【0084】
ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。さらに、コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、短時間の間、動的にプログラムを保持するものを含んでいてもよい。短時間の間、動的にプログラムを保持するものは、例えば、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線である。
【0085】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」には、サーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。また、上記プログラムは、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。また、上記プログラムは、プログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。プログラマブルロジックデバイスは、例えば、FPGAである。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
100、100a・・・通信信号評価装置、101・・・アンテナ、102・・・ダウンコンバータ部、104・・・Mixer、106・・・BPF、110・・・IQMixer、112、114・・・LPF、116、118・・・A/D、120・・・包絡線検波部、122・・・A/D、124・・・トリガー生成部、126、126a・・・推定部、128、128a・・・位相補正部、130・・・トリガー生成部、132・・・信号評価部