(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005027
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】液体充填済み培養バッグ、液体充填済み培養バッグの製造方法、及び液体充填済み培養バッグの使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20250108BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20250108BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105009
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029DE08
4B029GA08
4B029GB02
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB34
4B065BC41
4B065BD09
4B065BD12
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 多くの手間や専用の設備を要することなく、培養バッグ内の微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去することができ、製造現場での煩わしい作業やコンタミネーションのリスクを低減することが可能な液体充填済み培養バッグを提供する。
【解決手段】 培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグであって、培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、脱気包装されている液体充填済み培養バッグ。培養部の外側に複数の第一突起部を備えることが好ましい。また、外装包装部における培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部を備えることが好ましい。さらに培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部を備えることが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグであって、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、脱気包装されていることを特徴とする液体充填済み培養バッグ。
【請求項2】
前記培養部の外側に複数の第一突起部が備えられたことを特徴とする請求項1記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項3】
前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部が備えられたことを特徴とする請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項4】
前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部が備えられたことを特徴とする請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項5】
前記微細構造が、複数の凹部又は複数の溝であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項6】
前記培養バッグにおける前記培養部が備えられた領域の部材の酸素透過度が、3,000ml/m2・day・atm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項7】
前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域の部材の酸素透過度が、前記培養部の酸素透過度以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項8】
前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域の部材の酸素透過度が、1,000ml/m2・day・atm以下のガスバリア性を有することを特徴とする請求項7記載の液体充填済み培養バッグ。
【請求項9】
培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグの製造方法であって、
前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、
前記培養バッグに液体を充填し、
前記培養バッグを脱気包装する
ことを特徴とする液体充填済み培養バッグの製造方法。
【請求項10】
前記培養部の外側に複数の第一突起部が備えられ、及び/又は、前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部が備えられ、及び/又は、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部が備えられた
ことを特徴とする請求項9記載の液体充填済み培養バッグの製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグの使用方法であって、
常温又は冷蔵若しくは冷凍で、保管し又は輸送する
ことを特徴とする液体充填済み培養バッグの使用方法。
【請求項12】
請求項1又は2記載の液体充填済み培養バッグの使用方法であって、
前記液体充填済み培養バッグに、細胞や培地、細胞接着因子、細胞増殖因子等のサイトカイン類を注入して培養を行う
ことを特徴とする液体充填済み培養バッグの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に培養部に微小な凹部等を備えた培養バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞やES細胞等の接着細胞のスフェロイドやオルガノイドを培養する場合に、培養部に微小な凹部(ウェル)が多数形成された培養バッグなどが使用されることがある。このような培養バッグに培地を充填すると、微小凹部に気泡が閉じ込められて溜まってしまい、細胞培養に支障が出るという問題があった。すなわち、培養バッグの微小凹部に気泡が残ると、iPS細胞等からなるスフェア(細胞凝集塊)の形成が阻害されてしまうといった問題が生じるものの、微小凹部から全ての気泡を除去することは、極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/241665号パンフレット
【特許文献2】特開2020-80670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微小凹部に溜まった気泡を除去する手段としては、例えばマイクロピペットなどを用いて気泡に液を拭きかけることによって、水圧で気泡を除去する方法がある。しかしながら、このようなマイクロピペットによる操作では、特に凹部が小さい場合に気泡を十分に除去できない場合があった。
また、この方法は開放系の容器にのみ可能な方法であり、培養バッグ内の培養部に溜まった気泡の除去に適するものではなかった。
【0005】
ここで、特許文献1には、培養部に微小凹部を備えた培養バッグに培地を充填した後、培養バッグに圧力を印加することによって、培養バッグ内から空気を除去することが開示されている。
また、特許文献2には、培養部に微小凹部を備えた培養バッグに脱気した培地充填液を充填することによって、微小凹部に溜まった気泡を除去することが開示されている。さらに、この文献には、培養部に微小凹部を備えた培養バッグを真空排気装置に配置して真空にさらすことにより、培養バッグ内から空気を除去することも開示されている。
【0006】
しなしながら、これらの方法は、気泡の除去に多くの手間がかかるという問題や、専用の設備が必要になるという問題があった。また、再生医療や細胞医薬品の製造においては、現場で培養バッグから気泡を除去する調整作業が必要となるため、製造工程などが煩雑になることやコンタミネーションが発生するおそれがあるという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明者は鋭意研究して、これらの問題を解消可能な液体充填済み培養バッグを開発し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多くの手間や専用の設備を要することなく、培養バッグ内の微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去することができ、製造現場での煩わしい作業やコンタミネーションのリスクを低減することが可能な液体充填済み培養バッグ、液体充填済み培養バッグの製造方法、及び液体充填済み培養バッグの使用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の液体充填済み培養バッグは、培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグであって、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、脱気包装されている構成としてある。
【0009】
また、本発明の液体充填済み培養バッグを、前記培養部の外側に複数の第一突起部が備えられた構成とすることが好ましく、前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部が備えられた構成とすることも好ましく、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部が備えられた構成とすることも好ましい。
【0010】
また、本発明の液体充填済み培養バッグを、前記微細構造が、複数の凹部又は複数の溝である構成とすることが好ましい。
また、本発明の液体充填済み培養バッグを、前記培養バッグにおける前記培養部が備えられた領域の部材の酸素透過度が、3,000ml/m2・day・atm以上である構成とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の液体充填済み培養バッグを、前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域の部材の酸素透過度が、前記培養部の酸素透過度以下である構成とすることが好ましく、前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域の部材の酸素透過度が、1,000ml/m2・day・atm以下のガスバリア性を有する構成とすることがより好ましい。
さらに、本発明の液体充填済み培養バッグを、上記の液体充填済み培養バッグを様々に組み合わせた構成とすることも好ましい。
【0012】
本発明の液体充填済み培養バッグの製造方法は、培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグの製造方法であって、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、前記培養バッグに液体を充填し、前記培養バッグを脱気包装する方法としてある。
【0013】
また、本発明の液体充填済み培養バッグの製造方法を、前記培養部の外側に複数の第一突起部が備えられ、及び/又は、前記外装包装部における前記培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部が備えられ、及び/又は、前記培養部の外側と前記外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部が備えられた方法とすることが好ましい。
【0014】
本発明の液体充填済み培養バッグの使用方法は、上記の液体充填済み培養バッグの使用方法であって、常温又は冷蔵若しくは冷凍で、保管し又は輸送する方法としてある。
また、本発明の液体充填済み培養バッグの使用方法は、上記の液体充填済み培養バッグの使用方法であって、前記液体充填済み培養バッグに、細胞や培地、細胞接着因子、細胞増殖因子等のサイトカイン類を注入して培養を行う方法としてある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多くの手間や専用の設備を要することなく、培養バッグ内の微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去することができ、製造現場での煩わしい作業やコンタミネーションのリスクを低減することが可能な液体充填済み培養バッグ、液体充填済み培養バッグの製造方法、及び液体充填済み培養バッグの使用方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグの構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグの構成を示す模式断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグの変形例1の構成を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグの変形例2の構成を示す模式断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグの変形例3の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の液体充填済み培養バッグ、液体充填済み培養バッグの製造方法、及び液体充填済み培養バッグの使用方法の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグについて、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグであって、培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、脱気包装されていることを特徴とする。
すなわち、この液体充填済み培養バッグは、培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグに液体が充填され、その培養バッグが外装包装部に収容されている。
【0019】
具体的には、
図1及び
図2に示すように、本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養バッグ10と外装包装部20とからなり、培養バッグ10は外装包装部20内に封入されている。
培養バッグ10は、細胞などを培養するための軟包材からなる袋状の容器であり、その内部に細胞を培養する領域である培養面を有する培養部11を備えている。
培養部11の外側とは、培養部11が備えられたバッグ壁部(
図2ではバッグの底面部)における培養面の反対側(
図2では第一突起部112が備えられた側)である。すなわち、培養部11の外側とは、培養バッグ10の外側における培養面に対応する領域である。
【0020】
なお、
図2では培養部11が培養バッグ10の底面側にのみ備えられているが、培養バッグ10の天板側にのみ培養部11を備えてもよく、底面側と天板側の両方に培養部11を備えてもよい。これらの場合においても、天板側の培養部11の外側とは、培養バッグ10の外側における天板側の培養面に対応する領域であり、底面側の培養部11の外側とは、培養バッグ10の外側における底面側の培養面に対応する領域である。
図3~5に示す変形例においても同様である。
【0021】
培養バッグ10は、例えば二枚のフィルムに1つ又は複数のポートを挟み込み、周縁部をヒートシールを行うことによって作製することができる。
図1において、培養バッグ10は、ヒートシールによって形成されたバッグ封止部12と、1つのポート13と、このポート13に連通されたチューブ14と、チューブ14を封止するキャップ15とを備えている。なお、培養バッグ10の作製方法はこれに限定されず、例えば真空圧空成形されたフィルムやインフレーション成形されたフィルムを用いるなどその他の方法によって培養バッグ10を作製することも可能である。
【0022】
また、培養バッグ10に備えられるポートの個数は1つに限定されず、2つのポートやそれ以上の個数であってもよい。
さらに、チューブ14の封止はキャップ15による方法に限定されず、例えばキャップ機能を有するコネクタを用いてチューブ14を封止したり、チューブ14に一般的なコネクタを接続し、コネクタを封止するキャップを備えるようにしてもよい。
【0023】
培養バッグ10の培養部11には、微細構造111が形成されている。この微細構造111は、例えば複数の凹部(ウェル)又は複数の溝である場合がある。また、この微細構造111を有する培養部11に、細胞低接着処理や細胞接着処理などを施すことも可能である。
【0024】
複数の凹部の形状は、特に限定されないが、例えば半球状、円錐状、角錐状、円柱及び円錐からなる形状、又は角柱及び角錐からなる形状等とすることができる。また、複数の溝の形状も、特に限定されないが、例えば溝の長手方向に垂直な断面がV字形状であって、直線状又は曲線状のものとすることができる。
【0025】
複数の凹部における開口部の形状は円や四角形状等が好ましく、円又は内接円の直径は、例えば2mm以下にすることができ、1.5mm以下にしてもよく、1.0mm以下にしてもよい。
また、複数の凹部の深さは、例えば1.5mm以下にすることができ、1.0mm以下にしてもよく、0.5mm以下にしてもよく、0.35mm以下にしてもよい。
さらに、複数の溝の幅及び深さも同様に、それぞれ例えば1.5mm以下にすることができ、1.0mm以下にしてもよく、0.5mm以下にしてもよく、0.35mm以下にしてもよい。
【0026】
培養部11における微細構造111を複数の凹部にすることにより、培養バッグ10を用いて、複数のiPS細胞やその他の接着細胞などからなるスフェアを好適に形成させることが可能となる。
また、培養部11における微細構造111を複数の溝とすることにより、培養バッグ10の培養面の面積を増大させた状態で、接着細胞を培養部11に接着させて好適に培養することが可能となる。
【0027】
培養バッグ10には、液体Lが充填されている。液体Lとしては、培地、注射用水、リン酸緩衝液、生理食塩水等を用いることが好ましい。
本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養部11における微細構造111から一旦気泡が除去されて微細構造111の表面が濡れてしまうと、通常、微細構造111に再び気泡が生じることがない。このため、液体Lとして、培地のみならず、注射用水などの他の液体を充填しておくことも好ましい。
【0028】
培養バッグ10は、微細構造111に溜まった気泡を培養バッグ10の外部に除去できるように、少なくとも培養部11が備えられた領域の部材が、ガス透過性部材からなるものとすることが好ましい。例えば、培養部11の領域の部材の37℃での酸素透過度が、3,000ml/m2・day・atm以上であることが好ましく、5,000ml/m2・day・atm以上であることがより好ましく、8,000ml/m2・day・atm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧可能な空間(減圧空間)Sが存在している。
培養部11の外側とは、上記のとおり、培養バッグ10の外側における培養面に対応する領域である。
【0030】
本実施形態の液体充填済み培養バッグは、
図2に示すように、培養部11の外側に複数の第一突起部112を備えることによって好適に、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧空間Sが形成されたものとすることができる。
また、本実施形態の液体充填済み培養バッグを、
図3の変形例1に示すように、培養バッグ10の底面部がU字形状の連続体として、バッグ内の凹部(微細構造111)とバッグ外の凸部(第一突起部112)とが兼ね備わった形状とすることも好ましい。
【0031】
さらに、本実施形態の液体充填済み培養バッグは、
図4の変形例2に示すように、外装包装部20における培養部11の外側に対面する領域に複数の第二突起部22を備えることによって好適に、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧空間Sが形成されたものとすることもできる。
第一突起部112及び第二突起部22は、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧空間Sを形成可能なものであればよく、その形状やサイズ、個数については、特に限定されない。
【0032】
さらにまた、本実施形態の液体充填済み培養バッグは、
図5の変形例3に示すように、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部30を備えることによって好適に、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧空間Sが形成されたものとすることもできる。
スペーサー部30は、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧可能な空間を形成できるものであればよく、その具体的な構造は特に限定されないが、例えば、複数の貫通孔を備えた板状部材や多孔質部材などを好適に用いることが可能である。
【0033】
なお、本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養バッグ10をその他の外装包装部に封入すると共に、この外装包装部を外装包装部20に封入して、培養バッグ10を二重包装にしたものとしてもよい。
本実施形態の液体充填済み培養バッグをこのようにしても、例えばその他の外装包装部が上述したスペーサー部30の機能を果たし、それによって培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧空間Sが形成されたものとする場合には、培養部11から気泡を好適に除去することが可能である。
【0034】
さらに、本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、培養部11の外側に複数の第一突起部112を備えると共に、外装包装部20における培養部11の外側に対面する領域に複数の第二突起部22を備えることも好ましく、培養部11の外側に複数の第一突起部112を備えると共に、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部30を備えることも好ましく、外装包装部20における培養部11の外側に対面する領域に複数の第二突起部22を備えると共に、培養部11の外側と外装包装部20の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部30を備えることも好ましく、これら全ての構成を同時に備えることも好ましい。
【0035】
本実施形態の液体充填済み培養バッグによれば、このような減圧空間Sを形成することによって、培養部11の外側と外装包装部20とが最終的に完全に密着することなく、外装包装部20内に真空乃至減圧状態の空間が生じるようになっており、微細構造111に溜まった気泡を減圧空間Sに効率的に除去することが可能になっている。
【0036】
本実施形態の液体充填済み培養バッグは、培養バッグ10が外装包装部20に封入された状態で、脱気包装されている。
すなわち、本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、外装包装部20内は、真空乃至減圧の状態となっており、概ね真空状態となっている。
この脱気包装は、市販のヒートシール器具などを用いて行うことができる。例えば、富士インパルス株式会社製の業務用の脱気シーラーなどを好適に用いることが可能である。
本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、外装包装部20の周縁部には、外装封止部21が形成されている。
【0037】
本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、外装包装部20はガスバリア性を有していなくてもよいが、ガスバリア性を有することが好ましい。
実施例において後述するように、外装包装部20にガスバリア性を有する材料を用いることにより、ガスバリア性を有していないものを用いる場合に比較して、微細構造111に溜まった気泡を除去する時間を短縮することができるためである。
【0038】
具体的には、本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、外装包装部20における培養部11の外側に対面する領域の部材の酸素透過度は、培養部11の酸素透過度以下であることが好ましく、8,000ml/m2・day・atm以下であることがより好ましく、1,000ml/m2・day・atm以下であることがさらに好ましく、100ml/m2・day・atm以下であることが特に好ましい。
【0039】
ここで、後述する試験3において、培養部のフィルムの酸素透過度と外装包装部の酸素透過度が同じであっても、時間はかかるが、培養部から気泡を除去できることが示されている。また、外装包装部の酸素透過度を培養部のフィルムの酸素透過度以下とし、かつその差を大きくするほど、外装包装部の外側から減圧空間Sに入ってくる気体量よりも、培養部側から減圧空間Sに出ていく気体量の方が大きくなるため、培養部に溜まった気泡を除去する時間を短縮することが可能である。
【0040】
本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、培養バッグ10の材料としては、樹脂フィルムなどを好適に用いることができ、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。例えば、ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等を挙げることができる。また、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等を用いることもできる。さらに、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)、フッ素系樹脂等を用いてもよい。
【0041】
本実施形態の液体充填済み培養バッグにおいて、外装包装部20の材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、シーラント層とバリア層を有した積層フィルムや蒸着フィルム(バリア層例:エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)やナイロン、ポリアミド、蒸着例:アルミニウム蒸着、アルミナ蒸着、シリカ蒸着等)などを用いることができる。
【0042】
このような本実施形態の液体充填済み培養バッグによれば、多くの手間や専用の設備を要することなく、培養バッグ内の微小凹部に溜まった気泡を効率よく除去することができ、製造現場での煩わしい作業やコンタミネーションのリスクを低減することが可能となる。
【0043】
本実施形態の液体充填済み培養バッグの製造方法は、培養部の少なくとも一部に微細構造が形成された培養バッグが外装包装部に収容された液体充填済み培養バッグの製造方法であって、培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間が存在し、培養バッグに液体を充填し、培養バッグを脱気包装することを特徴とする。
また、本実施形態の液体充填済み培養バッグの製造方法は、培養部の外側に複数の第一突起部が備えられ、及び/又は、外装包装部における培養部の外側に対面する領域に複数の第二突起部が備えられ、及び/又は、培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間を形成するスペーサー部が備えられた方法とすることが好ましい。
【0044】
このような本実施形態の液体充填済み培養バッグの製造方法によれば、培養バッグの培養部に形成された微細構造に存在していた気泡を培養部の外側と外装包装部の間の空間に除去することができ、微細構造から気泡が除去された液体充填済み培養バッグを得ることが可能である。
また、培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間を設けて、培養バッグに液体を充填した状態で培養バッグを脱気包装することにより、培養バッグからの液漏れのチェックを行うことも可能になっている。
【0045】
本実施形態の液体充填済み培養バッグの使用方法は、上述した本実施形態の液体充填済み培養バッグの使用方法であって、常温又は冷蔵若しくは冷凍で、保管し又は輸送することを特徴とする。
また、本実施形態の液体充填済み培養バッグの使用方法を、上述した本実施形態の液体充填済み培養バッグに、目的の細胞や培地、細胞接着因子、細胞増殖因子等のサイトカイン類を注入して培養を行う方法とすることも好ましい。
さらに、充填済みの液体を培養バッグから一旦除去した後、目的の細胞や培地類を注入して培養を行う方法とすることも好ましい。
【0046】
このような本実施形態の液体充填済み培養バッグの使用方法によれば、培養バッグに液体を充填した状態で保管や輸送を行うことができ、保管輸送時において気泡の除去を行うことが可能になっている。
そして、このような使用方法における本実施形態の液体充填済み培養バッグは、気泡が予め除去されているため、細胞培養に先立って凹部から気泡の除去作業を行うことなく、細胞培養を好適に行うことが可能になっている。
【実施例0047】
以下、本発明の実施形態に係る液体充填済み培養バッグ、液体充填済み培養バッグの製造方法、及び液体充填済み培養バッグの使用方法による気泡除去の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0048】
(試験1)
本実施形態によって、気泡が除去された液体充填済み培養バッグを得ることができることを確認するための試験を行った。
具体的には、まず
図1及び
図3に示す培養バッグを作製した。培養バッグの材料としてポリエチレン製フィルム(東洋製罐グループホールディングス株式会社製)を使用し、100mm×70mm×0.10mmの2枚のフィルムを作成した。
【0049】
また、培養バッグの培養部に複数の半球状の凹部を形成した。凹部の開口部の直径は0.5mm、深さは0.25mmであり、これらを約18,000個形成した。
培養バッグの培養部の外側には、半球状で高さが250μm、間隔が約500μmの凸部を形成した。また、培養バッグのフィルムの酸素透過度は8,500ml/m2・day・atm(37℃-50%RH)であった。
【0050】
そして、培養面を形成したフィルムと、もう一方のフィルムをヒートシールにより貼り合わせた。このとき、ポートを1つ形成し、このポートにチューブを介してニードルレスコネクタ(Qosina社製)を接続した。
【0051】
次に、作製した培養バッグに培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))15mLを充填し、大きな気泡のみをシリンジで吸い出すことにより除去した。
そして、培地を充填した培養バッグを外装包装部(コーパック(R)ST1525,旭化成パックス株式会社)に封入し、市販の脱気シーラー(V301,富士インパルス株式会社)を用いて脱気包装を行って、本実施形態の液体充填済み培養バッグを製造した。
外装包装部のフィルムの構成は、ONy#15/LDPE20/L-LDPE#40(計75μm)であり、その酸素透過度は、23ml/m2・day・atm(23℃-50%RH)であった。
【0052】
次いで、得られた液体充填済み培養バッグを冷蔵庫にて4℃で保管し、保管開始時点、2.5時間後、及び5.5時間後における液体充填済み培養バッグの培養面の凹部の顕微鏡写真を撮影した。その結果を
図6に示す。
【0053】
図6の保管開始時点(0hr)の写真の凹部における黒い円内に気泡が溜まっている状態が示されている。なお、中央の白い円は光の反射によるものであるが、この部分には気泡が存在している。
次に、
図6の2.5時間後(2.5hr)の写真の凹部において、略三日月状の粒が写っているが、これは小さくなった気泡であり、部分的に気泡が除去されていることが分かる。なお、この写真には結露によって生じた外部の水滴が映り込んでいる。
【0054】
さらに、
図6の5.5時間後(5.5hr)の写真の凹部には黒い円が写っておらず、気泡が完全に除去されていることが観察される。
この結果から、本実施形態によれば、気泡が除去された液体充填済み培養バッグが好適に得られることが分かった。
【0055】
(試験2)
本実施形態によって得られた液体充填済み培養バッグを使用して、細胞培養が行えることを確認するための試験を行った。
具体的には、試験1で作製した液体充填済み培養バッグを3ヶ月間保管したものを使用して、細胞培養を行った。
【0056】
3ヶ月間保管した液体充填済み培養バッグから培地を全て排出し、培養バッグに10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を含むStemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N)20mlを充填すると共に、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞(1231A3株)を凹部に約150個ずつ収容されるように播種した。
【0057】
そして、培養開始から24時間後における液体充填済み培養バッグの培養面の凹部の顕微鏡写真を撮影した。その結果を
図7に示す。
図7の左端の写真は、3ヶ月間保管した液体充填済み培養バッグから培地を除去する前の培養面の状態を示している。この写真に示されるように、培養面の凹部に気泡は存在していなかった。
【0058】
図7の中央の上下の写真は、培養開始時点(0hr)の培養面の状態を示しており、下の拡大図における凹部内の複数の小さな粒が細胞である。
図7の右端の上下の写真は、培養開始から24時間後(24hr)の培養面の状態を示しており、各凹部内の中央にスフェロイドが形成されている様子が観察される。
【0059】
この結果から、本実施形態の液体充填済み培養バッグによれば、気泡が予め除去されているため、細胞培養に先立って凹部から気泡の除去作業を行うことなく、細胞培養を好適に行えることが明らかとなった。
【0060】
(試験3)
本実施形態の液体充填済み培養バッグの外装包装部の材料として、ガス透過性を有するものを用いた場合に、気泡が除去されるかを確認するための試験を行った。
具体的には、まず試験1と同じ培養バッグを作製した。培養バッグの材料としてポリエチレン製フィルム(東洋製罐グループホールディングス株式会社製)を使用し、100mm×70mm×0.10mmの2枚のフィルムを作成した。
【0061】
また、培養バッグの培養面に複数の半球状の凹部を形成した。凹部の開口部の直径は0.5mm、深さは0.25mmであり、これらを約18,000個形成した。
培養バッグの培養部の外側には、半球状で高さが250μm、間隔が約500μmの凸部を形成した。また、培養バッグのフィルムの酸素透過度は8,500ml/m2・day・atm(37℃-50%RH)であった。
【0062】
そして、培養面を形成したフィルムと、もう一方のフィルムをヒートシールにより貼り合わせた。このとき、ポートを1つ形成し、このポートにチューブを介してニードルレスコネクタ(Qosina社製)を接続した。
【0063】
次に、作製した培養バッグに培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))15mLを充填し、大きな気泡のみをシリンジで吸い出すことにより除去した。
そして、培地を充填した培養バッグをガス透過性を有する外装包装部に封入し、市販の脱気シーラー(V301,富士インパルス株式会社)を用いて脱気包装を行って、本実施形態の液体充填済み培養バッグを製造した。外装包装部としては、培養バッグに使用したものと同じポリエチレン製フィルム(東洋製罐グループホールディングス株式会社製)を試験1で用いたコーパック(R)ST1525と同サイズにヒートシールにより製袋したものを使用した。この外装包装部のフィルムの酸素透過度は、8,500ml/m2・day・atm(37℃-50%RH)であった。
【0064】
次いで、得られた液体充填済み培養バッグを冷蔵庫にて4℃で保管し、保管開始時点、2.5時間後、6時間後、及び70時間後における液体充填済み培養バッグの培養面の凹部の顕微鏡写真を撮影した。その結果を
図8に示す。
【0065】
図8の保管開始時点(0hr)の写真の凹部における黒い円内に気泡が溜まっている状態が示されている。
また、
図8の2.5時間後(2.5hr)と6時間後(6hr)の写真の凹部における黒い円内には、まだ気泡が溜まっている状態が示されている。
一方、
図8の70時間後(70hr)の写真の凹部には気泡を示す黒い円が写っておらず、気泡が完全に除去されていることが観察される。
この結果から、本実施形態の液体充填済み培養バッグの外装包装部の材料として、ガス透過性を有するものを用いた場合、ガスバリア性を有するものを用いた場合に比較して、気泡の除去に時間がかかるものの、気泡は除去されることが確認された。
【0066】
(試験4)
本実施形態の液体充填済み培養バッグを用いることなく、培養バッグを保管した場合に、気泡が除去された液体充填済み培養バッグを得ることができるか否かを確認するための試験を行った。
具体的には、まず試験1と同じ培養バッグを作製した。培養バッグの材料としてポリエチレン製フィルム(東洋製罐グループホールディングス株式会社製)を使用し、100mm×70mm×0.10mmの2枚のフィルムを作成した。
【0067】
培養バッグの培養面に微細構造として複数の半球状の凹部を形成した。凹部の開口部の直径は0.5mm、深さは0.25mmであり、これらを約18,000個形成した。
培養バッグの培養部の外側には、半球状で高さが250μm、間隔が約500μmの凸部を形成した。また、培養バッグのフィルムの酸素透過度は8,500ml/m2・day・atm(37℃-50%RH)であった。
【0068】
そして、培養面を形成したフィルムと、もう一方のフィルムをヒートシールにより貼り合わせた。このとき、ポートを1つ形成し、このポートにチューブを介してニードルレスコネクタ(Qosina社製)を接続した。
【0069】
次に、作製した培養バッグに培地(StemFit AK02N(味の素株式会社,品番RCAK02N))15mLを充填し、大きな気泡のみをシリンジで吸い出すことにより除去した。
そして、培地を充填した培養バッグを外装包装部(コーパック(R)ST1525,旭化成パックス株式会社)に封入し、市販の脱気シーラー(V301富士インパルス株式会社)を用いて脱気せずに包装し、比較例としての液体充填済み培養バッグを製造した。
次いで、得られた比較例の液体充填済み培養バッグを冷蔵庫にて4℃で保管し、保管開始時点、及び2.5時間後、6時間後、及び70時間後における液体充填済み培養バッグの培養面の凹部の顕微鏡写真を撮影した。その結果を
図9に示す。
【0070】
図9の保管開始時点(0hr)の写真の凹部における黒い円内に気泡が溜まっている状態が示されている。
また、
図9の2.5時間後(2.5hr)の写真の凹部においても、黒い円内に気泡が溜まっている状態が示されている。
【0071】
さらに、
図9の6時間後(6hr)及び70時間後(70hr)の写真の凹部においても、黒い円内に気泡が溜まっている状態が示されている。
このように、培養バッグの培養部の外側と外装包装部の間に減圧可能な空間を設けることなく、単に培養バッグを包装・保管したのみでは、培養バッグの培養部に形成された微細構造における気泡は除去できないことが分かった。
【0072】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、培養バッグとして例えば50万個~100万個のスフェアを形成可能な大きさのものを選択し、これを外装包装部に封止して液体充填済み培養バッグを製造するなど適宜変更することが可能である。