(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005039
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】異常判断システム及び燃料電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20250108BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20250108BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/0438
H01M8/04858
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105024
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】中根 浩貴
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB02
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA57
5H127BA58
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DB03
5H127DB09
5H127DB13
5H127DB19
5H127DC42
5H127EE18
(57)【要約】
【課題】燃料電池モジュールに備えられる水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障を検出する。
【解決手段】水素供給流路SP内の圧力を検出する第1圧力センサS1と、水素循環流路CP内の圧力を検出する第2圧力センサS2と、第1圧力センサS1により検出される圧力P1と第2圧力センサS2により検出される圧力P1との圧力差ΔPを算出する算出部3と、所定期間Tcにおいて算出部3により算出された複数の圧力差ΔPを記憶する記憶装置Str2と、記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに基づいて、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かを判断する判断部4とを備えて異常判断システム1を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池モジュールと、情報処理装置とを備える異常判断システムであって、
前記燃料電池モジュールは、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに水素ガスを供給する水素供給流路と、
前記燃料電池スタックから排出される未反応の水素ガスを水素循環流路を介して吸入し前記水素供給流路に吐出する水素循環ポンプと、
前記水素供給流路内の圧力を検出する第1圧力センサと、
前記水素循環流路内の圧力を検出する第2圧力センサと、
前記第1圧力センサにより検出される圧力と前記第2圧力センサにより検出される圧力との圧力差を算出する算出部と、
前記算出部により算出される圧力差を前記情報処理装置に送信する第1通信装置と、
を備え、
前記情報処理装置は、
前記燃料電池モジュールから送信される圧力差を受信する第2通信装置と、
所定期間において前記算出部により算出された複数の圧力差を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する判断部と、
を備える異常判断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の異常判断システムであって、
前記判断部は、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に閾値以下の圧力差が含まれている場合、前記水素循環ポンプに異常が発生していると判断する
異常判断システム。
【請求項3】
請求項1に記載の異常判断システムであって、
前記算出部は、前記燃料電池スタックの発電電力が最大目標発電電力及び最小目標発電電力以外の目標発電電力に追従するように前記水素循環ポンプの動作が制御されているとき、前記圧力差を算出する
異常判断システム。
【請求項4】
請求項1に記載の異常判断システムであって、
前記判断部は、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に閾値以下の圧力差が含まれている場合で、かつ、前記閾値以下の各圧力差により求められる近似直線が前記閾値と交わらない場合、前記水素循環ポンプに異常が発生していると判断する
異常判断システム。
【請求項5】
請求項1に記載の異常判断システムであって、
前記判断部は、前記水素循環ポンプに異常が発生していないときに前記算出部により算出される複数の圧力差を用いた機械学習の結果と、前記水素循環ポンプに破損が発生しているときに前記算出部により算出される複数の圧力差を用いた機械学習の結果とに基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する
異常判断システム。
【請求項6】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに水素ガスを供給する水素供給流路と、
前記燃料電池スタックから排出される未反応の水素ガスを水素循環流路を介して吸入し前記水素供給流路に吐出する水素循環ポンプと、
前記水素供給流路内の圧力を検出する第1圧力センサと、
前記水素循環流路内の圧力を検出する第2圧力センサと、
前記第1圧力センサにより検出される圧力と前記第2圧力センサにより検出される圧力との圧力差を算出する算出部と、
所定期間において前記算出部により算出された複数の圧力差を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する判断部と、
を備える燃料電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池モジュールに備えられる水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水素循環ポンプの異常判断技術として、水素循環ポンプの回転数を増加させる前の水素供給流路の圧力と、水素循環ポンプの回転数を増加させた後の水素供給流路の圧力との圧力差が所定値以下である場合、水素循環ポンプに異常(回転方向の異常検知)が発生していると判断するものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、メンテナンスの観点から水素循環ポンプが正常に機能しているかを判定し、異常が発生することを未然に検出したいという要望がある。
【0004】
上記異常判断技術では、センサレスの電動機で水素循環ホンプを駆動させた際に、回転方向の異常を検出する技術であるが、水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障が発生する予兆を把握することができず、水素循環ポンプが故障するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、燃料電池モジュールに備えられる水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障を検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である異常判断システムは、燃料電池モジュールと、情報処理装置とを備える異常判断システムである。
【0008】
前記燃料電池モジュールは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに水素ガスを供給する水素供給流路と、前記燃料電池スタックから排出される未反応の水素ガスを水素循環流路を介して吸入し前記水素供給流路に吐出する水素循環ポンプと、前記水素供給流路内の圧力を検出する第1圧力センサと、前記水素循環流路内の圧力を検出する第2圧力センサと、前記第1圧力センサにより検出される圧力と前記第2圧力センサにより検出される圧力との圧力差を算出する算出部と、前記算出部により算出される圧力差を前記情報処理装置に送信する第1通信装置とを備える。
【0009】
前記情報処理装置は、前記燃料電池モジュールから送信される圧力差を受信する第2通信装置と、所定期間において前記算出部により算出された複数の圧力差を記憶する記憶装置と、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する判断部とを備える。
【0010】
このように、本発明に係る一つの形態である異常判断システムでは、水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する構成であり、水素循環ポンプに少なくとも破損が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。
【0011】
また、前記判断部は、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に閾値以下の圧力差が含まれている場合、前記水素循環ポンプに異常が発生していると判断するように構成してもよい。
【0012】
また、前記算出部は、前記燃料電池スタックの発電電力が最大目標発電電力及び最小目標発電電力以外の目標発電電力に追従するように前記水素循環ポンプの動作が制御されているとき、前記圧力差を算出するように構成してもよい。
【0013】
これにより、記憶装置に記憶される複数の圧力差が変動することを抑えることができるため、水素循環ポンプに異常が発生しているか否かの判断精度を向上させることができる。
【0014】
また、前記判断部は、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に閾値以下の圧力差が含まれている場合で、かつ、前記閾値以下の各圧力差により求められる近似直線が前記閾値と交わらない場合、前記水素循環ポンプに異常が発生していると判断するように構成してもよい。
【0015】
また、前記判断部は、前記水素循環ポンプに異常が発生していないときに前記算出部により算出される複数の圧力差を用いた機械学習の結果と、前記水素循環ポンプに破損が発生しているときに前記算出部により算出される複数の圧力差を用いた機械学習の結果とに基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断するように構成してもよい。
【0016】
また、本発明に係る一つの形態である燃料電池モジュールは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに水素ガスを供給する水素供給流路と、前記燃料電池スタックから排出される未反応の水素ガスを水素循環流路を介して吸入し前記水素供給流路に吐出する水素循環ポンプと、前記水素供給流路内の圧力を検出する第1圧力センサと、前記水素循環流路内の圧力を検出する第2圧力センサと、前記第1圧力センサにより検出される圧力と前記第2圧力センサにより検出される圧力との圧力差を算出する算出部と、所定期間において前記算出部により算出された複数の圧力差を記憶する記憶装置と、前記記憶装置に記憶されている複数の圧力差に基づいて、前記水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する判断部とを備える。
【0017】
このように、本発明に係る一つの形態である燃料電池モジュールでは、水素循環ポンプに異常が発生しているか否かを判断する構成であり、水素循環ポンプに少なくとも破損が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池モジュールに備えられる水素循環ポンプの吐出能力が低下する故障を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の異常判断システムの一例を示す図である。
【
図3】所定期間Tcにおいて算出部により算出される複数の圧力差の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0021】
図1は、実施形態の異常判断システムの一例を示す図である。
【0022】
図1に示す異常判断システム1は、燃料電池モジュールFCMと、情報処理装置SVとを備え、燃料電池モジュールFCMと情報処理装置SVとがネットワークNを介して互いにデータを送受信することが可能とする。
【0023】
燃料電池モジュールFCMは、例えば、フォークリフト、トーイングトラクタ、または無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)などの車両に搭載され、その車両に搭載される負荷Loに電力を供給する。このように構成する場合、
図1に示す負荷Loは、例えば、荷役装置や走行用モータを駆動するインバータ回路などとする。
【0024】
なお、燃料電池モジュールFCMは、工業用定置式発電機、家庭用定置式発電機、または非常用定置式発電機などの定置式発電機に備えられていてもよい。このように構成する場合、
図1に示す負荷Loは、例えば、産業機械や家電製品などとする。
【0025】
また、燃料電池モジュールFCMは、燃料ガス系補機として、水素タンクHTと、インジェクタINJと、気液分離機GLSと、インバータ回路INVと、モータMと、水素循環ポンプHPと、第1圧力センサS1と、第2圧力センサS2と、排気排水弁EDVと、希釈器DILとを備える。
【0026】
また、燃料電池モジュールFCMは、酸化剤ガス系補機として、エアコンプレッサACPと、エア調圧弁ARVとを備える。
【0027】
また、燃料電池モジュールFCMは、電気系補機として、DCDCコンバータCNVと、蓄電装置Bとを備える。
【0028】
また、燃料電池モジュールFCMは、燃料電池スタックFCSと、記憶装置Str1と、通信装置Com1(第1通信装置)と、制御装置Cntとを備える。
【0029】
燃料電池スタックFCSは、互いに直列接続される複数の燃料電池セルにより構成され、水素ガスに含まれる水素と空気に含まれる酸素との電気化学反応により電気を発生させる。
【0030】
水素タンクHTは、水素ガスの貯蔵容器である。水素タンクHTに貯蔵された水素ガスはインジェクタINJ及び水素供給流路SPを介して燃料電池スタックFCSに供給される。
【0031】
インジェクタINJは、燃料電池スタックFCSに供給される水素ガスの流量を調整する。
【0032】
気液分離機GLSは、燃料電池スタックFCSから水素循環流路CPを介して排出される未反応の水素を含む水素ガスと液水とを分離する。
【0033】
インバータ回路INVは、複数のスイッチング素子により構成され、制御装置Cntから各スイッチング素子に出力される駆動信号により各スイッチング素子が繰り返しオン、オフすることで、互いに位相が異なる複数の交流電力がモータMに供給され、モータMが駆動する。モータMが駆動すると水素循環ポンプHPが駆動する。
【0034】
水素循環ポンプHPは、気液分離機GLSにより分離された水素ガスを水素供給流路SPを介して燃料電池FCに再度供給する。すなわち、水素循環ポンプHPは、燃料電池スタックFCSから排出される未反応の水素ガスを水素循環流路CPを介して吸入し水素供給流路SPに吐出する。
【0035】
第1圧力センサS1は、水素供給流路SP内の圧力P1を検出し、その検出した圧力P1を制御装置Cntに送る。
【0036】
第2圧力センサS2は、水素循環流路CP内の圧力P2を検出し、その検出した圧力P2を制御装置Cntに送る。なお、第2圧力センサS2は、
図1に示す例では、気液分離機GLSと水素循環ポンプHPとの間の水素循環流路CP内の圧力P2を検出する構成であるが、燃料電池スタックFCSと気液分離機GLSとの間の水素循環流路CP内の圧力P2を検出するように構成してもよい。
【0037】
排気排水弁EDVは、気液分離機GLSにより分離された液水を希釈器DILに送る。希釈器DILに送られた液水は、希釈器DIL内のタンクに溜まる。また、燃料電池スタックFCSから排出された水素ガスと空気は希釈器DILで合流し、燃料電池モジュールFCMの外部または内部に排出される。
【0038】
エアコンプレッサACPは、燃料電池モジュールFCMの周囲に存在する空気を圧縮し燃料電池スタックFCSに供給する。
【0039】
エア調圧弁ARVは、燃料電池スタックFCSに供給される空気の圧力や流量を調整する。
【0040】
DCDCコンバータCNVは、燃料電池スタックFCSから出力される電圧を所定電圧に変換する。DCDCコンバータCNVから出力される電力は、負荷Loの他に、水素循環ポンプHPなどの補機や蓄電装置Bに供給される。
【0041】
蓄電装置Bは、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタなどにより構成され、DCDCコンバータCNVと負荷Loとの間に接続されている。DCDCコンバータCNVから出力される電力と、各補機にそれぞれ供給される電力の合計値との差に相当する供給電力が、燃料電池モジュールFCMの外部(例えば、負荷Loの動作を制御する不図示の制御部)から要求される要求電力より大きい場合、その供給電力のうち、要求電力分の電力が負荷Loに供給されるとともに、残りの電力が蓄電装置Bに供給される。DCDCコンバータCNVから蓄電装置Bに電力が供給されると、蓄電装置Bが充電され蓄電装置Bの充電率(蓄電装置Bの満充電容量に対する残容量の割合[%])が増加する。また、負荷Loから燃料電池モジュールFCMに供給される回生電力が蓄電装置Bに供給されると、蓄電装置Bが充電され蓄電装置Bの充電率が増加する。また、DCDCコンバータCNVから出力される電力と、各補機にそれぞれ供給される電力の合計値との差に相当する供給電力が、燃料電池モジュールFCMの外部から要求される要求電力より小さい場合、その供給電力が負荷Loに供給されるとともに、足りない分の電力が蓄電装置Bから負荷Loに供給される。蓄電装置Bから負荷Loに電力が供給されると、蓄電装置Bが放電され蓄電装置Bの充電率が減少する。
【0042】
記憶装置Str1は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する圧力差などを記憶する。
【0043】
通信装置Com1は、例えば、携帯電話やスマートフォンなどの携帯端末により構成され、インターネットなどのネットワークNを介して情報処理装置SV(サーバ)とデータを送受信する。
【0044】
制御装置Cntは、例えば、マイクロコンピュータなどにより構成され、発電制御部2と、算出部3とを備える。なお、マイクロコンピュータが記憶装置Str1に記憶されているプログラムを実行することで発電制御部2及び算出部3が実現される。
【0045】
発電制御部2は、燃料電池スタックFCSの発電を制御するために各補機の動作を制御する。すなわち、発電制御部2は、蓄電装置Bの充電率に応じて目標発電電力Ptを段階的に変化させるとともに、PI(Proportional-Integral)制御などにより燃料電池スタックFCSの発電電力が目標発電電力Ptに追従するように、各補機の動作を制御する。
【0046】
例えば、発電制御部2は、蓄電装置Bの充電率に応じて目標発電電力Ptを3[kW]、5[kW]、8[kW]の3種類の目標発電電力の何れかに変化させる。このように、蓄電装置Bの充電率に応じて燃料電池スタックFCSの発電電力を段階的に変化させることにより、燃料電池スタックFCSの出力電圧の単位時間あたりの変動回数を抑えることができるため、燃料電池スタックFCSの劣化を抑制することができる。なお、目標発電電力Ptが大きくなるほど、燃料電池FCの発電電力が大きくなり、目標発電電力Ptが小さくなるほど、燃料電池FCの発電電力が小さくなるものとする。
【0047】
算出部3は、第1圧力センサS1により検出される圧力P1と第2圧力センサS2により検出される圧力P1との圧力差ΔPを算出する。
【0048】
通信装置Com1は、算出部3により算出された圧力差ΔP(稼働データ)をネットワークNを介して情報処理装置SVに送信する。
【0049】
情報処理装置SVは、通信装置Com2(第2通信装置)と、記憶装置Str2と、プロセッサProとを備える。
【0050】
通信装置Com2は、例えば、ルーターなどにより構成され、燃料電池モジュールFCMから送信される圧力差ΔP(稼働データ)をネットワークNを介して受信する。
【0051】
記憶装置Str2は、例えば、RAMやROMなどにより構成され、圧力差ΔPや後述する閾値などを記憶する。
【0052】
プロセッサProは、判断部4を備える。なお、プロセッサProが記憶装置Str2に記憶されているプログラムを実行することで判断部4が実現される。
【0053】
判断部4は、通信装置Com2により受信される複数の圧力差ΔP(稼働データ)を記憶装置Str2に記憶させるとともに、記憶装置Str2に記憶させた複数の圧力差に基づいて、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断する。なお、異常判断システム1に複数の燃料電池モジュールFCMを備える場合で、かつ、複数の燃料電池モジュールFCMから情報処理装置SVに圧力差ΔP(稼働データ)が送信される場合、判断部4は、燃料電池モジュールFCM毎に、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かを判断する。また、判断部4は、水素循環ポンプHPに異常が発生していると判断すると、その旨を不図示のディスプレイなどに表示させるように構成してもよい。
【0054】
このように、判断部4では、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かを判断する構成であり、水素循環ポンプHPに少なくとも破損が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプHPの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。
【0055】
例えば、算出部3は、予め決められている所定期間Tcにおいて、所定期間Tcより短い一定期間tc経過毎に圧力差ΔPを算出するとともに、その算出した圧力差ΔPを記憶装置Str1に記憶させる。次に、算出部3は、所定期間Tc経過後、記憶装置Str1に記憶させた複数の圧力差ΔPを通信装置Com1により情報処理装置SVの通信装置Com2へ送信させる。判断部4は、通信装置Com2により受信される複数の圧力差ΔPを記憶装置Str2に記憶させ、記憶装置Str2に記憶させた複数の圧力差ΔPに基づいて、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かを判断する。
【0056】
または、算出部3は、判断部4と同期を行った後、所定期間Tcにおいて、一定期間tc経過毎に圧力差ΔPを算出するとともに、その算出した圧力差ΔPを通信装置Com1により通信装置Com2へ送信させる。判断部4は、所定期間Tcにおいて、通信装置Com2により受信される複数の圧力差ΔPを記憶装置Str2に順次記憶させる。次に、判断部4は、所定期間Tcが経過すると、所定期間Tcにおいて記憶装置Str2に記憶させた複数の圧力差ΔPに基づいて、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かを判断する。
【0057】
なお、所定期間Tc及び一定期間tcは特に限定されないが、例えば、所定期間Tcを3[年]とし、一定期間tcを1[日]とする。また、算出部3により算出される圧力差ΔPは特に限定されないが、サンプリング周期(例えば、1[秒])毎に第1圧力センサS1により検出される圧力P1と第2圧力センサS2により検出される圧力P1との差の絶対値を圧力差ΔPとしてもよいし、1日においてサンプリング周期毎に算出部3により算出される各圧力差ΔPの平均値を圧力差ΔPとしてもよい。
【0058】
また、算出部3は、燃料電池スタックFCSの発電電力が最大目標発電電力及び最小目標発電電力以外の目標発電電力に追従するように水素循環ポンプHPの動作が制御されているとき、圧力差ΔPを算出するように構成してもよい。
【0059】
例えば、蓄電装置Bの充電率に応じて目標発電電力Ptが3[kW]、5[kW]、8[kW]の3種類の目標発電電力(3段階の目標発電電力)の何れかに変化する場合、算出部3は、燃料電池スタックFCSの発電電力が5[kW]の目標発電電力に追従するように水素循環ポンプHPの動作が制御されているとき、圧力差ΔPを算出する。
【0060】
または、蓄電装置Bの充電率に応じて目標発電電力Ptが3[kW]、4[kW]、5[kW]、6[kW]、8[kW]の5種類の目標発電電力(5段階の目標発電電力)の何れかに変化する場合、算出部3は、燃料電池スタックFCSの発電電力が4[kW]、5[kW]、及び6[kW]の目標発電電力(2~4段階目の目標発電電力)のうちの1つの目標発電電力に追従するように水素循環ポンプHPの動作が制御されているとき、圧力差ΔPを算出する。
【0061】
または、蓄電装置Bの充電率に応じて目標発電電力Ptが3[kW]、4[kW]、5[kW]、6[kW]、8[kW]の5種類の目標発電電力(5段階の目標発電電力)の何れかに変化する場合、算出部3は、燃料電池スタックFCSの発電電力が5[kW]の目標発電電力(3段階目の目標発電電力)に追従するように水素循環ポンプHPの動作が制御されているとき、圧力差ΔPを算出する。
【0062】
一般に、燃料電池スタックFCSの発電電力が最大目標発電電力(例えば、8[kW])または最小目標発電電力(例えば、3[kW])に追従するように各補機(水素循環ポンプHPなど)の動作が制御されているとき、燃料電池スタックFCSの発電電力が上限値または下限値に達し易くなるため、燃料電池スタックFCSの発電電力が上限値または下限値に達しないように各補機の動作が頻繁に制御され、圧力P1や圧力P2の変動回数が比較的多くなる。一方、燃料電池スタックFCSの発電電力が最大目標発電電力及び最小目標発電電力以外の目標発電電力に追従するように各補機の動作が制御されているとき、燃料電池スタックFCSの発電電力が上限値または下限値に達し難くなるため、各補機の動作制御が安定し、圧力P1や圧力P2の変動回数が比較的少なくなる。
【0063】
そこで、算出部3は、燃料電池スタックFCSの発電電力が最大目標発電電力及び最小目標発電電力以外の目標発電電力に追従するように各補機(水素循環ポンプHPなど)の動作が制御されているとき、圧力差ΔPを算出する。これにより、記憶装置Str2に記憶される複数の圧力差ΔPが変動することを抑えることができるため、水素循環ポンプHPに異常が発生しているか否かの判断精度を向上させることができる。
【0064】
<第1実施例>
第1実施例の判断部4では、記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに閾値以下の圧力差ΔPが含まれている場合、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生していると判断する。
【0065】
ここで、
図2は、水素循環ポンプHPを模式的に示す図である。
【0066】
図2に示す水素循環ポンプHPは、いわゆる、ダイヤフラムポンプであり、室C1~C3と、逆止弁V1~V4と、ダイヤフラムDとを備える。なお、逆止弁V1~V4は、例えば、ゴムにより構成される。また、逆止弁V1は、水素循環流路CPから室C1への水素ガスの移動を許可し、室C1から水素循環流路CPへの水素ガスの移動を禁止する。また、逆止弁V2は、室C1から室C2への水素ガスの移動を許可し、室C2から室C1への水素ガスの移動を禁止する。また、逆止弁V3は、室C2から室C3への水素ガスの移動を許可し、室C3から室C2への水素ガスの移動を禁止する。また、逆止弁V4は、室C3から水素供給流路SPへの水素ガスの移動を許可し、水素供給流路SPから室C3への水素ガスの移動を禁止する。
【0067】
モータMが駆動すると、モータMの一方向回転運動が水素循環ポンプHP内で往復直線運動に変換され、その往復直線運動によりダイヤフラムDが振動する。ダイヤフラムDの振動によりダイヤフラムDが室C2から離れる方向に移動し室C2の容積が増加すると、室C2内の水素ガスの圧力が低下し、水素ガスが水素循環流路CPから逆止弁V1、室C1、逆止弁V2を介して室C2へ吸入される。一方、ダイヤフラムDの振動によりダイヤフラムDが室C2側へ移動し室C2の容積が減少すると、室C2内の水素ガスの圧力が上昇し、水素ガスが室C2から逆止弁V3、室C3、及び逆止弁V4を介して水素供給流路SPに排出される。これにより、水素循環ポンプHPを駆動させることで、燃料電池スタックFCSと水素循環ポンプHPとの間で水素ガスを循環させることができる。
【0068】
ところで、逆止弁V1~V4のうちの1つの逆止弁が破損しただけでは、水素ガスを水素循環ポンプHPに吸入させる能力や水素ガスを水素循環ポンプHPから排出させる能力が低下するものの、燃料電池スタックFCSと水素循環ポンプHPとの間で水素ガスを継続して循環させることができる場合がある。しかしながら、1つの逆止弁が破損した状態で水素循環ポンプHPを駆動し続けると、他の逆止弁にかかる負荷が大きくなり、他の逆止弁も破損し水素ガスを循環させることができなくなるまで水素循環ポンプHPが故障するおそれがある。そのため、1つの逆止弁だけが破損する場合など、水素循環ポンプHPに破損が発生したことを判断することができれば、その時点で水素循環ポンプHPを修理することができるため、水素ガスを循環させることができなくなるような故障の発生を未然に防ぐきっかけとなる。
【0069】
例えば、水素循環ポンプHPに異常が発生していないときに算出部3により算出される各圧力差ΔPが圧力差ΔP1より大きくなる場合で、かつ、水素循環ポンプHPに破損(例えば、1つの逆止弁だけが破損し燃料ガスを継続して循環させることが可能な状態の異常)が発生しているときに算出部3により算出される各圧力差ΔPが圧力差ΔP1以下になる場合を想定する。
【0070】
図3は、所定期間Tcにおいて算出部3により算出される複数の圧力差ΔPの一例を示す図である。なお、
図3に示す二次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は圧力を示している。また、
図3に示す各点は、所定期間Tcにおいて一定期間tc経過毎に算出部3により算出される圧力差ΔPを示している。また、閾値を圧力差ΔP1とする。
【0071】
図3に示す例では、所定期間Tcのうち、時刻t0から時刻t1までの期間T1において算出された各圧力差ΔPが閾値より大きく、時刻t1の次の時刻t2において算出された圧力差ΔPが閾値以下になっている。
【0072】
そのため、判断部4は、所定期間Tcにおいて算出された各圧力差ΔPと閾値とを時系列順に比較する場合、期間T1において算出された各圧力差ΔPが閾値より大きいと判断し、時刻t2において圧力差ΔPが閾値以下であると判断する。そのため、判断部4は、記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに閾値以下の圧力差ΔPが含まれていると判断し、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生していると判断する。
【0073】
このように、第1実施例の異常判断システム1によれば、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプHPの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。また、破損が発生している時点で水素循環ポンプHPを修理することができれば、燃料ガスを循環させることができなくなるような故障の発生を未然に防ぐことができる。
【0074】
<第2実施例>
第2実施例の判断部4では、記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに閾値以下の圧力差ΔPが含まれている場合で、かつ、閾値以下の各圧力差ΔPにより求められる近似直線が閾値と交わらない場合、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生していると判断する。
【0075】
例えば、第1実施例と同様に、水素循環ポンプHPに異常が発生していないときに算出部3により算出される各圧力差ΔPが圧力差ΔP1より大きくなる場合で、かつ、水素循環ポンプHPに破損が発生しているときに算出部3により算出される各圧力差ΔPが圧力差ΔP1以下になる場合を想定する。
【0076】
上述したように、
図3に示す例では、所定期間Tcのうちの期間T1において算出された各圧力差ΔPが閾値より大きく、時刻t2において算出された圧力差ΔPが閾値以下になっている。また、
図3に示す例では、時刻t2から時刻t3までの期間T2において算出された各圧力差ΔPにより求められる近似直線L(回帰直線)が閾値と交わっていない。
【0077】
そのため、判断部4は、所定期間Tcにおいて算出された各圧力差ΔPと閾値とを時系列順に比較する場合、期間T1において算出された各圧力差ΔPが閾値より大きいと判断する。また、判断部4は、時刻t2以降において閾値以下の各圧力差ΔPにより求められる近似直線Lが閾値と交わらないと判断する。そのため、判断部4は、記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに閾値以下の圧力差が含まれ、かつ、近似直線Lが閾値と交わらないと判断し、水素循環ポンプHPに少なくとも破損が発生していると判断する。例えば、判断部4は、最小二乗法などを用いて、閾値以下の各圧力差ΔPから近似直線Lを求める。
【0078】
このように、第2実施例の異常判断システム1によれば、第1実施例の異常判断システム1と同様に、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプHPの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。また、破損が発生している時点で水素循環ポンプHPを修理することができれば、燃料ガスを循環させることができなくなるような故障の発生を未然に防ぐことができる。
【0079】
<第3実施例>
第3実施例の判断部4では、水素循環ポンプHPに異常が発生していないときに算出部3により算出される複数の圧力差ΔPを用いた機械学習の結果と、水素循環ポンプHPに破損が発生しているときに算出部3により算出される複数の圧力差ΔPを用いた機械学習の結果とに基づいて、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断する。
【0080】
第3実施例の異常判断システム1によれば、第1実施例の異常判断システム1や第2実施例の異常判断システム1と同様に、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断することができるため、水素循環ポンプHPの吐出能力が低下する故障が発生することを未然に検出することができる。また、破損が発生している時点で水素循環ポンプHPを修理することができれば、燃料ガスを循環させることができなくなるような故障の発生を未然に防ぐことができる。
【0081】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0082】
<変形例1>
上記実施形態では、判断部4が情報処理装置SVのプロセッサProに備えられる構成であるが、判断部4が燃料電池モジュールFCMの制御装置Cntに備えられるように構成してもよい。このように構成される場合、判断部4は、記憶装置Str1に記憶されている複数の圧力差に基づいて、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断する。
【0083】
<変形例2>
上記実施形態では、閾値や近似直線や機械学習を用いて、水素循環ポンプHPに少なくとも破損を含む異常が発生しているか否かを判断する構成であるが、記憶装置Str1または記憶装置Str2に記憶されている複数の圧力差ΔPに、水素循環ポンプHPの破損に対応する減少幅で減少した圧力差ΔPが含まれていると判断することができれば、その判断方法は特に限定されない。
【符号の説明】
【0084】
1 異常判断システム
2 発電制御部
3 算出部
4 判断部
FCM 燃料電池モジュール
Lo 負荷
FCS 燃料電池スタック
HT 水素タンク
INJ インジェクタ
GLS 気液分離機
INV インバータ回路
M モータ
HP 水素循環ポンプ
EDV 排気排水弁
DIL 希釈器
ACP エアコンプレッサ
ARV エア調圧弁
CNV DCDCコンバータ
B 蓄電装置
Str1、Str2 記憶装置
Com1、Com2 通信装置
Cnt 制御装置
SV 情報処理装置
Pro プロセッサ