IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧 ▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

特開2025-50392電池の状態判定方法及び状態判定システム
<>
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図1
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図2
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図3
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図4
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図5
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図6
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図7
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図8
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図9
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図10
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図11
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図12
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図13
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図14
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図15
  • 特開-電池の状態判定方法及び状態判定システム 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025050392
(43)【公開日】2025-04-04
(54)【発明の名称】電池の状態判定方法及び状態判定システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20250327BHJP
【FI】
H01M10/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159159
(22)【出願日】2023-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】野口 直記
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】植村 英生
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隼
(72)【発明者】
【氏名】尾上 由希子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 由騎
(72)【発明者】
【氏名】大道 馨
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】電池の測定負担を増やさずに電池の状態の判定精度を向上できる電池の状態判定方法及び状態判定システムを提供する。
【解決手段】電池60の状態判定方法は、機器80に搭載されている電池60の磁場を磁気測定部20で測定した測定値を取得することと、電池60の磁場の測定値と電池60の磁場の基準値とに基づいて磁気測定部20の相対位置に関する情報を算出することと、磁気測定部20の相対位置に関する情報に基づいて電池60の状態を判定することとを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器に搭載されている電池の磁場を磁気測定部で測定した測定値を取得することと、
前記電池の磁場の測定値と前記電池の磁場の基準値とに基づいて前記磁気測定部の相対位置に関する情報を算出することと、
前記磁気測定部の相対位置に関する情報に基づいて前記電池の状態を判定することと
を含む、電池の状態判定方法。
【請求項2】
前記磁気測定部の相対位置に関する情報が異常判定条件を満たす場合に、前記電池が異常であると判定することを含む、請求項1に記載の電池の状態判定方法。
【請求項3】
前記磁気測定部の相対位置に関する情報として、前記磁気測定部の相対位置の補正係数を算出することを含む、請求項2に記載の電池の状態判定方法。
【請求項4】
前記磁気測定部で前記電池の磁場を測定するために、前記磁気測定部を1つの走査方向に沿って移動させることを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の電池の状態判定方法。
【請求項5】
前記磁気測定部を、前記走査方向に交差する方向に周期的又は非周期的に並ぶ複数の位置のそれぞれにずらして、各位置から前記走査方向に沿って移動させることを含む、請求項4に記載の電池の状態判定方法。
【請求項6】
前記磁気測定部を、前記電池の磁場の基準値を測定したときの前記走査方向への移動を開始した各位置にずらして、各位置から前記走査方向に沿って移動させることを含む、請求項5に記載の電池の状態判定方法。
【請求項7】
前記磁気測定部を、少なくとも第1の方向及び第2の方向を含む複数の方向のそれぞれに移動させて前記電池の磁場の測定値を取得することと、
前記第1の方向に前記磁気測定部を移動させて得られた第1の測定値と前記第2の方向に前記磁気測定部を移動させて得られた第2の測定値とに基づいて前記走査方向を決定することと
を含む、請求項4に記載の電池の状態判定方法。
【請求項8】
前記電池を搭載している機器の種類に基づいて定まる走査範囲で前記磁気測定部を移動させることを含む、請求項4に記載の電池の状態判定方法。
【請求項9】
磁気測定部と、請求項1から3までのいずれか一項に記載の電池の状態判定方法を実行する制御装置とを備える、電池の状態判定システム。
【請求項10】
前記電池に対して前記磁気測定部を移動させる移動装置を更に備え、
前記移動装置は、前記電池を搭載している機器が設置されている面と、前記電池との間で移動するように構成されている、請求項9に記載の電池の状態判定システム。
【請求項11】
前記磁気測定部に対して前記電池を搭載している機器を移動させる駆動装置を更に備える、請求項9に記載の電池の状態判定システム。
【請求項12】
前記磁気測定部は、前記電池の磁場を測定する磁気センサを1つ以上備える、請求項9に記載の電池の状態判定システム。
【請求項13】
前記磁気測定部は、線状又はアレイ状に並ぶ、複数の前記磁気センサを備える、請求項12に記載の電池の状態判定システム。
【請求項14】
前記磁気測定部は、前記電池の全体をカバーする範囲に並ぶ、複数の前記磁気センサを備える、請求項12に記載の電池の状態判定システム。
【請求項15】
前記制御装置は、前記複数の磁気センサのうち一部の磁気センサを選択し、選択した磁気センサの測定値を取得する、請求項14に記載の電池の状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の状態判定方法及び状態判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象となる電池の電流分布と正常な電流分布とを比較することによって電池を検査する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-187951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正常な電流分布の比較対象とする電池の電流分布は、電流の測定装置の位置を電池の基準位置に合わせた状態で測定される。電池の電流分布の測定精度は、電池の基準位置に対する測定装置の位置ずれの影響を受ける。電池の電流分布の測定結果に基づいて電池の状態を判定する場合に、測定負担を増やさずに判定精度を向上することが求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、電池の測定負担を増やさずに電池の状態の判定精度を向上できる電池の状態判定方法及び状態判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)幾つかの実施形態に係る電池の状態判定方法は、機器に搭載されている電池の磁場を磁気測定部で測定した測定値を取得することと、前記電池の磁場の測定値と前記電池の磁場の基準値とに基づいて前記磁気測定部の相対位置に関する情報を算出することと、前記磁気測定部の相対位置に関する情報に基づいて前記電池の状態を判定することとを含む。このようにすることで、電池と磁気測定部との位置ずれが許容される。その結果、電池を機器から外さずに測定しても電池の状態の判定精度が高められる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部の相対位置に関する情報が異常判定条件を満たす場合に、前記電池が異常であると判定することを含んでよい。このようにすることで、測定値を補正せずに電池が異常であると判定される。つまり、不要な補正動作が省略される。その結果、制御装置の動作負荷が軽くなる。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)に記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部の相対位置に関する情報として、前記磁気測定部の相対位置の補正係数を算出することを含んでよい。このようにすることで、電池と磁気測定部との位置ずれが許容される。
【0009】
(4)上記(1)から(3)までのいずれか1つに記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部で前記電池の磁場を測定するために、前記磁気測定部を1つの走査方向に沿って移動させることを含んでよい。このようにすることで、制御装置は、電池が生じる磁場の分布を測定できる。
【0010】
(5)上記(4)に記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部を、前記走査方向に交差する方向に周期的又は非周期的に並ぶ複数の位置のそれぞれにずらして、各位置から前記走査方向に沿って移動させることを含んでよい。このようにすることで、制御装置は、電池が生じる磁場の面状の分布を測定できる。
【0011】
(6)上記(5)に記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部を、前記電池の磁場の基準値を測定したときの前記走査方向への移動を開始した各位置にずらして、各位置から前記走査方向に沿って移動させることを含んでよい。このようにすることで、制御装置は、基準値と測定値とを高精度に比較できる。
【0012】
(7)上記(4)から(6)までのいずれか1つに記載の電池の状態判定方法は、前記磁気測定部を、少なくとも第1の方向及び第2の方向を含む複数の方向のそれぞれに移動させて前記電池の磁場の測定値を取得することと、前記第1の方向に前記磁気測定部を移動させて得られた第1の測定値と前記第2の方向に前記磁気測定部を移動させて得られた第2の測定値とに基づいて前記走査方向を決定することとを含んでよい。このようにすることで、電池の位置が基準位置に近づくように磁気測定部が走査される。その結果、電池の位置ずれ又は姿勢ずれが小さくなる。
【0013】
(8)上記(4)から(7)までのいずれか1つに記載の電池の状態判定方法は、前記電池を搭載している機器の種類に基づいて定まる走査範囲で前記磁気測定部を移動させることを含んでよい。このようにすることで、無駄な走査が削減される。その結果、測定効率が高まる。
【0014】
(9)幾つかの実施形態に係る電池の状態判定システムは、磁気測定部と、上記(1)から(8)までのいずれか1つに記載の制御装置とを備える。
【0015】
(10)上記(9)に記載の電池の状態判定システムは、前記電池に対して前記磁気測定部を移動させる移動装置を更に備えてよい。前記移動装置は、前記電池を搭載している機器が設置されている面と、前記電池との間で移動するように構成されてよい。
【0016】
(11)上記(9)又は(10)に記載の電池の状態判定システムは、前記磁気測定部に対して前記電池を搭載している機器を移動させる駆動装置を更に備えてよい。このようにすることで、電池の磁場の測定精度、又は、電池の状態の判定精度が向上する。
【0017】
(12)上記(9)から(11)のいずれか1つに記載の電池の状態判定システムにおいて、前記磁気測定部は、前記電池の磁場を測定する磁気センサを1つ以上備えてよい。
【0018】
(13)上記(12)に記載の電池の状態判定システムにおいて、前記磁気測定部は、線状又はアレイ状に並ぶ、複数の前記磁気センサを備えてよい。このようにすることで磁気測定部の走査回数が減らされる。
【0019】
(14)上記(12)又は(13)に記載の電池の状態判定システムにおいて、前記磁気測定部は、前記電池の全体をカバーする範囲に並ぶ、複数の前記磁気センサを備えてよい。このようにすることで、磁気測定部の走査が省略される。
【0020】
(15)上記(14)に記載の電池の状態判定システムにおいて、前記制御装置は、前記複数の磁気センサのうち一部の磁気センサを選択し、選択した磁気センサの測定値を取得してよい。このようにすることで磁気測定部が擬似的に走査される。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係る電池の状態判定方法及び状態判定システムによれば、測定装置の位置の影響が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】電池と磁気測定部との位置関係の一例を示す側面図である。
図2】電池と磁気測定部との位置関係の一例を示す平面図である。
図3】一実施形態に係る状態判定システムの構成例を示すブロック図である。
図4】電池の状態判定方法の手順例を示すフローチャートである。
図5】電池のセルの配列が磁気測定部の走査方向に沿うように電池が配置されている例を示す図である。
図6】電池のセルの配列が磁気測定部の走査方向に対して傾くように電池が配置されている例を示す図である。
図7】電池のセルの配列面が磁気測定部の走査面に対して平行になるように電池が配置されている例を示す図である。
図8】電池のセルの配列面が磁気測定部の走査面に対して傾くように電池が配置されている例を示す図である。
図9】電池のセルの配列と磁気測定部の走査経路との距離が変化するように電池が配置されている例を示す図である。
図10】電池の位置が磁気測定部の走査方向にずれている場合に磁気測定部で測定される磁場測定値の波形の一例を示すグラフである。
図11】電池のセルの配列と磁気測定部の走査経路との距離が離れるように電池の位置がずれている場合に磁気測定部で測定される磁場測定値の波形の一例を示すグラフである。
図12】磁気測定部の走査方向に交差する方向を回転軸として電池のセルの配列面が回転するように電池の位置がずれている場合に磁気測定部で測定される磁場測定値の波形の一例を示すグラフである。
図13】磁気測定部を複数の走査経路で走査して測定された、各走査経路の磁場測定値の波形の一例を示す3次元のグラフである。
図14】電池のセルの配列の予診のために交差する2方向で磁気測定部を走査する例を示す図である。
図15】磁気測定部を走査方向に移動させる移動装置の例を示す側面図である。
図16】電池を搭載している車両を移動させる駆動装置の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
二次電池に充放電の電流が流れる際に磁場が発生する。二次電池の充放電で生じる磁場を測定することによって電池の状態が検査されることがある。磁場の測定対象となる電池は、例えば正極活物質層と負極活物質層とが絶縁層を介して重ねられた電極体と、電極体を収容した外装とを有する電池である。以下、本開示に係る電池の状態判定方法及び状態判定システム1(図3参照)の実施形態が、比較例と対比しながら説明される。
【0024】
(比較例)
比較例に係る装置は、正常な状態の電池を基準位置に配置し、正常な状態の電池に基準電流を流したときの磁場を磁気測定部で測定することによって、正常な状態の電池の電流分布のデータをあらかじめ取得する。比較例に係る装置は、検査対象の電池を基準位置に配置し、検査対象の電池に基準電流を流したときの磁場を磁気測定部で測定することによって、検査対象の電池の電流分布のデータを取得する。比較例に係る装置は、検査対象の電池の電流分布のデータを正常な状態の電池の電流分布のデータと比較することによって、検査対象の電池の状態を判定する。
【0025】
ここで、検査対象の電池が基準位置からずれることによって、検査対象の電池の電流分布のデータに誤差が生じる。電流分布のデータの誤差は電池の状態の検査精度を低下させる。つまり、検査対象の電池の位置のずれは、電池の状態の検査精度に影響を及ぼす。
【0026】
しかし、比較例に係る装置において、検査対象の電池を基準位置に正確に配置できるとは限らない。例えば、検査対象の電池が電動車両に搭載されている場合に、車両の位置及び姿勢を正確に再現することは困難である。仮に電池の位置及び姿勢を正確に再現するために検査対象の電池を車両から外す場合、電池を車両から取り外す作業が電池の検査の作業負荷及びコストを増大させる。したがって、検査対象の電池の位置のずれの影響を考慮して電池の状態を判定することが求められる。
【0027】
そこで、本開示に係る電池の状態判定方法及び状態判定システム1(図3参照)は、電池を電動車両等の機器から着脱せずに電池の磁場を測定した場合に、検査対象の電池の位置のずれを考慮して電池の状態を判定する。以下、本開示の一実施形態に係る電池の状態判定方法及び状態判定システム1が説明される。
【0028】
(本開示の一実施形態)
図1及び図2に示されるように、本開示の一実施形態に係る状態判定システム1において検査対象とする電池60は、車両80に搭載されているとする。車両80はタイヤ82を有しておりタイヤ82で地面70に接しているとする。本実施形態において、地面70は、XY平面に沿っているとする。地面70の法線方向(鉛直方向)がZ軸に対応する。鉛直上向きがZ軸の正の方向であるとする。
【0029】
電池60は、後述するように格子状に並んでいるセル62(図5参照)を有している。電池60は、セル62が配列する平面が地面70に沿うように車両80に搭載されているとする。磁気測定部20は、地面70の上に設置されており、電池60から生じる磁場を測定する。磁気測定部20は、地面70の上で地面70に沿って、つまり電池60のセルの配列方向に沿って移動可能に構成されてよい。車両80は、磁気測定部20に対して地面70に沿って、つまり電池60のセルの配列方向に沿って移動可能に構成されてよい。
【0030】
(状態判定システム1の構成例)
図3に示されるように、本開示の一実施形態に係る状態判定システム1は、制御装置10と磁気測定部20とを備える。制御装置10は、取得部11と算出部12と判定部13と走査部14とを備える。取得部11は、磁気測定部20から電池60の磁場の測定結果を取得する。磁気測定部20が電池60に対して走査されることによって、取得部11は、電池60の磁場の測定結果の分布を取得できる。算出部12は、電池60の磁場の測定結果に基づいて電池60の電流分布を算出する。判定部13は、電池60の電流分布に基づいて電池60の状態を判定する。走査部14は、磁気測定部20が移動可能に構成される場合に、磁気測定部20を電池60に対して走査させるように、磁気測定部20の位置を制御する。走査部14は、磁気測定部20を1つの走査方向に沿って移動させることによって走査して、電池60の磁場を測定する。
【0031】
取得部11は、磁気測定部20と有線又は無線で通信可能に接続するための通信デバイスを備える。通信デバイスは、例えばRS-232C又はRS-485等のデータ通信規格に基づいてデータを送受信する通信モジュールを含んでよい。通信デバイスは、例えば4G(4th Generation)若しくはLTE(Long Term Evolution)又は5G(5th Generation)等の移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信デバイスは、例示した通信モジュールに限られず、他の種々のデバイス又はモジュールを含んでよい。
【0032】
算出部12、判定部13又は走査部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。算出部12、判定部13又は走査部14は、プロセッサに所定のプログラムを実行させることによって所定の機能を実現してもよい。算出部12、判定部13又は走査部14は、少なくとも一部の組み合わせを一体として構成されてもよいし、それぞれを別体として構成されてもよい。以下、算出部12、判定部13又は走査部14は、制御部とも総称される。制御部は、記憶部を備えてもよい。記憶部は、制御部の動作に用いられる各種情報、又は、制御部の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、揮発性メモリ又は不揮発性メモリを含んで構成されてよい。記憶部は、制御部に含まれてもよいし、制御部と別体として構成されてもよい。
【0033】
磁気測定部20は、磁場を測定する磁気センサを備えてよい。磁気測定部20が備える磁気センサの数は1つであってもよいし2つ以上であってもよい。磁気測定部20は、複数の磁気センサを線状又はアレイ状に並べて構成されてもよい。上述したように磁気測定部20が電池60に対して走査される場合、磁気センサが線状又はアレイ状に並べられることによって、走査回数が減らされる。走査回数の減少によって電池60の磁場の測定時間が短縮される。
【0034】
磁気測定部20は、複数の磁気センサを電池60の全体をカバーする範囲に並べて構成されてもよい。複数の磁気センサが電池60の全体をカバーする範囲に並ぶことによって、電池60に対する磁気測定部20の走査が省略される。磁気測定部20は、電池60の全体をカバーする範囲に並ぶ複数の磁気センサのうち特定の磁気センサを選択し、選択した特定の磁気センサの測定値を取得してよい。つまり、磁気測定部20は、電池60の全体をカバーする範囲に並ぶ複数の磁気センサのうち一部の磁気センサを選択し、選択した一部の磁気センサの測定値を取得してよい。一部の磁気センサの測定値を取得することによって、磁気センサを走査する動作が擬似的に再現される。特定の磁気センサは、等間隔に並ぶ磁気センサから選択されてもよいし、等間隔でない任意の間隔で並ぶ磁気センサから選択されてもよい。
【0035】
磁気センサは、1軸で磁場を測定できるように構成されてよいし、3軸同時に磁場を測定できるように構成されてもよい。磁気センサの測定軸の方向にかかわらず、感磁面と電池60が発する磁場とが直交するように磁気センサが配置されることが望ましい。感磁面と電池60が発する磁場とが直交するように磁気センサを配置する理由は、電池60のマクロな電流と感磁面とを直交させることによって、電池60の向き又は配置を反映した磁場分布を得やすくするためである。
【0036】
磁気センサは、少なくとも1つの磁気素子を備えてよい。磁気素子は、アナログ素子であってもよいしデジタル素子であってもよい。磁気素子は、例えば、ホール素子、AMR(Anisotropic magnetoresistance effect)、GMR(Giant magnetoresistance effect)、若しくはTMR(Tunnel magnetoresistance effect)等の磁気抵抗素子を含んでよい。磁気素子は、例えば、MI(Magneto-Impedance)等の磁気インピーダンス素子又はフラックスゲートを含んでよい。磁気素子は、例えば、トポロジカル磁性体を用いた異常ホール効果による薄膜磁気素子を含んでよい。測定対象に交流電流が流れている場合、ピックアップコイルが磁気素子として用いられてもよい。
【0037】
磁気測定部20は、磁気センサに限られず、磁場を測定できる他の種々の構成を備えてよい。
【0038】
(状態判定システム1の動作例)
本開示の一実施形態に係る状態判定システム1は、電池60の磁場を測定して電池60の状態を判定する。制御装置10は、図4に例示されるフローチャートの手順を含む電池60の状態判定方法を実行してもよい。電池60の状態判定方法は、制御装置10を構成するプロセッサに実行させる状態判定プログラムとして実現されてもよい。状態判定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0039】
制御装置10は、電池60の磁場の基準値を取得する(ステップS1)。基準値は、電池60が正常な状態であることが分かっている場合に、電池60を基準位置に設置した状態で磁気測定部20を走査して得られた磁場の測定値である。
【0040】
電池60は、図5に例示されるように、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに沿って格子状に配列するセル62を有する。言い換えれば、セル62は、XY平面に沿った配列面の上に配置される。本実施形態において、磁気測定部20はX軸方向に走査されるとする。つまり、磁気測定部20の走査方向22はX軸方向に対応する。磁気測定部20は、走査の始点をY軸方向にずらして複数回にわたって走査される。言い換えれば、制御装置10は、磁気測定部20を、走査方向22に交差する方向に周期的又は非周期的に並ぶ複数の位置のそれぞれにずらした各位置から走査方向22に沿って移動させることによって磁気測定部20を走査してよい。電池60の基準位置は、図5に示されるように、セル62の配列方向が磁気測定部の走査方向22に一致する場合の電池60の設置位置である。
【0041】
電池60は、図6に例示されるように、セル62の配列方向がX軸方向及びY軸方向に対して傾くように位置することがある。つまり、磁気測定部20の走査方向22がセル62の配列方向に対して傾いている。この場合、電池60の設置位置が基準位置からずれている。したがって、電池60の位置が基準位置になるように、電池60若しくは電池60を搭載する機器の位置及び姿勢の調整、又は、磁気測定部20の走査方向の調整が実行される。
【0042】
電池60は、図7に例示されるように、車両80に搭載されている状態において、セル62がXY平面に沿って配列するように設置されるとする。磁気測定部20は、紙面奥行方向に走査されるとする。電池60の基準位置は、磁気測定部20が走査されるときの磁気測定部20とセル62の配列面とのZ軸方向の距離が一定になる場合の電池60の設置位置である。
【0043】
図8及び図9に例示されるように、電池60を搭載している車両80が地面70に対して傾いている場合、電池60は、セル62の配列面がXY平面に対して傾くように位置することがある。図8の例において、セル62の配列面は、X軸の周りに回転している。言い換えれば、セル62の配列面は、X軸と平行であり、かつ、Y軸方向に対して傾いている。図9の例において、セル62の配列面は、Y軸の周りに回転している。言い換えれば、セル62の配列面は、Y軸と平行であり、かつ、X軸方向に対して傾いている。これらの場合、電池60の設置位置が基準位置からずれている。したがって、電池60の位置が基準位置になるように、電池60若しくは電池60を搭載する機器の位置及び姿勢の調整、又は、磁気測定部20の走査方向の調整が実行される。
【0044】
基準値は、電池60が機器に搭載されている状態における磁場の測定値であってよいし、電池60が機器から取り外されている状態における磁場の測定値であってもよい。基準値は、磁気測定部20の走査方向に沿って連続する磁場の測定値の波形(例えば図10のグラフ参照)として表されてよい。基準値は、磁気測定部20の走査方向に沿った離散的な位置における磁場の測定値の集合として表されてもよい。本実施形態において、基準値は連続波形として表されるとする。基準値を表す波形は、セル62の間隔に対応する周期で変化する。基準値を表す波形は、例えば正弦波又は正弦波で近似される波形であってよい。基準値を表す波形は、正弦波に限られず、周期性を有する、三角波又はパルス波等の他の種々の波形であってもよい。
【0045】
基準値を表す波形は、正弦波等のように振幅が一定となる波形に限られず、振幅が変化する波形を含んでもよい。電池60の極の配列において、ある方向に1つの正極と1つの負極とが交互に並ぶ場合に、基準値を表す波形の振幅が一定となり得る。一方で、電池60の極の配列において、ある方向に正極と負極とが交互に並ばず、限られた区間において正極又は負極の数に偏りが生じることがある。例えば、電池60の極が正極、正極、負極、負極、正極の順に並ぶ場合、最初の2つの正極が並ぶ区間だけを取り出して測定した波形は、他の区間を含めて測定した波形に対して異なる振幅を有する。つまり、測定する区間に応じて波形の振幅が一定でない。そこで、基準値を表す波形は、正弦波又は正弦波で近似される波形に限られず、2次以上の多項式で近似される波形であってもよい。つまり、基準値を表す波形は、少なくとも一部の区間で周期性を有しない波形であってもよい。
【0046】
制御装置10は、あらかじめ準備されている基準値を取得部11で取得してよい。電池60の磁場の基準値は、外部のデータベースとしてあらかじめ準備されてもよい。電池60の磁場の基準値は、電池60の種類別にデータベース化されてよい。電池60の磁場の基準値は、電池60を搭載する機器別にデータベース化されてよい。制御装置10は、正常な状態であることが分かっている電池60を基準位置に設置した状態で、走査部14で磁気測定部20を走査し、取得部11で磁気測定部20から磁場の測定結果を取得することによって、基準値を取得してよい。
【0047】
図4のフローチャートに戻って、制御装置10は、測定対象の電池60の磁場を測定する(ステップS2)。電池60が搭載されている車両80等の機器は、磁気測定部20によって電池60の磁場を測定できる位置に設置されているとする。磁気測定部20が移動可能に構成される場合、制御装置10は、走査部14で磁気測定部20を走査し、電池60の各部から生じる磁場の測定結果を取得部11で取得する。電池60が搭載されている機器が移動可能に構成される場合、制御装置10は、機器の位置を制御して電池60の各部から生じる磁場の測定結果を取得部11で取得する。
【0048】
制御装置10は、測定対象の電池60の磁場を測定するために、走査の始点をY軸方向にずらして磁気測定部20を複数回にわたって走査してよい。言い換えれば、制御装置10は、磁気測定部20を、走査方向22に交差する方向に周期的又は非周期的に並ぶ複数の位置のそれぞれにずらした各位置から走査方向22に沿って移動させることによって磁気測定部20を走査してよい。制御装置10は、電池60の磁場の基準値を測定したときの走査方向への移動を開始した各位置に磁気測定部20をずらして、各位置から走査方向に沿って磁気測定部20を移動させてもよい。言い換えれば、制御装置10は、電池60の磁場の基準値を測定したときの走査の始点に合わせて磁気測定部20を走査してよい。測定対象の電池60の磁場を測定するための走査の始点を電池60の磁場の基準値を測定したときの走査の始点に合わせることによって、制御装置10は、基準値と測定値とを高精度に比較できる。
【0049】
制御装置10は、算出部12で、電池60の磁場の基準値と測定値との差異が照合条件を満たすか判定する(ステップS3)。照合条件は、電池60の磁場の基準値と測定値とが一致すること、又は、電池60の磁場の基準値と測定値との差異が小さいことを含む。
【0050】
電池60の設置位置が基準位置からずれている場合の電池60の測定値の波形の一例が図10図11及び図12に例示される。図10図12の各グラフの横軸はX軸方向の位置に対応するX座標位置である。縦軸は各位置における磁場の測定値である。実線の波形は基準値を表す。一点鎖線の波形は測定値を表す。
【0051】
図10において、測定値の波形の位相が基準値の波形の位相に対してX軸方向にΔTだけシフトしている。この場合、電池60の設置位置が基準位置からX軸方向にずれている。算出部12は、測定値の波形の位相と基準値の波形の位相との差であるΔTが位相閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、測定値の波形の位相と基準値の波形の位相との差であるΔTが位相閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。位相閾値は、適宜設定されてよい。以上述べてきたように、電池60が基準位置における姿勢を変えずにX軸方向にずれていることは、波形の位相のずれとして検出される。
【0052】
図11において、測定値の波形の振幅(A’)が基準値の波形の振幅(A)に対して小さい。この場合、電池60が基準位置における姿勢を変えずに磁気測定部20から離れている。つまり、電池60の設置位置は、セル62の配列面がXY平面に沿った状態のままで基準位置からZ軸方向にずれている。算出部12は、測定値の波形の振幅と基準値の波形の振幅との差が振幅閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、測定値の波形の振幅と基準値の波形の振幅との差が振幅閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。振幅閾値は、適宜設定されてよい。以上述べてきたように、電池60が基準位置における姿勢を変えずにZ軸方向にずれていることは、波形の振幅の変化として検出される。
【0053】
図12において、測定値の波形の周期(T’)が基準値の波形の周期(T)に対して短い。また、測定値の波形の振幅(A’)がX軸の正方向に進むにつれて大きくなっている。逆に言えば、測定値の波形の振幅(A’)がX軸の負方向に進むにつれて小さくなっている。波形の振幅は、波形のピークを結んだ破線として表されている。この場合、電池60のセル62の配列面が図9に例示されるようにY軸の周りに回転している。算出部12は、測定値の波形の周期と基準値の波形の周期との差が周期閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、測定値の波形の周期と基準値の波形の周期との差が周期閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。周期閾値は、適宜設定されてよい。また、算出部12は、X座標に対する測定値の波形の振幅の変化の割合が振幅変化閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、X座標に対する測定値の波形の振幅の変化の割合が振幅変化閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。振幅変化閾値は適宜設定されてよい。以上述べてきたように、電池60がY軸の周りに回転していることは、波形の周期の変化又はX軸座標に対する振幅の変化率として検出される。
【0054】
以上述べてきたように、X軸方向及びZ軸方向の位置ずれ、並びに、Y軸の周りの回転が検出される。
【0055】
他に、Y軸方向の位置ずれ、並びに、X軸及びZ軸の周りの回転が検出される。これらの位置ずれ及び回転を検出するために、制御装置10は、複数の走査経路で磁気測定部20を走査することによって面状に走査する。制御装置10は、複数の走査経路で磁気測定部20を走査することによって電池60が生じる磁場の面状の分布を測定できる。例えば、制御装置10の走査部14は、磁気測定部20を、X軸方向を走査方向として走査する場合に、Y軸方向に走査開始点をずらした複数の走査経路で走査してよい。走査開始点は、磁気測定部20の走査経路の始点であり、磁気測定部20を走査方向に移動させ始める位置である。つまり、走査部14は、走査方向に交差する方向に周期的又は非周期的に並ぶ複数の位置のそれぞれに走査開始点を設定し、各位置から磁気測定部20を走査方向に沿って移動させてよい。
【0056】
走査開始点となる各位置は、電池60の磁場の基準値を測定したときの走査開始点と同じになるように設定されるとする。つまり、複数の走査経路は、基準値を測定する時と判定対象の電池60を測定するときとで同じになるように設定されてよい。磁気測定部20は、電池60の磁場の基準値を測定したときの走査方向への移動を開始した各位置にずらして、各位置から走査方向に沿って移動されてよい。このようにすることで、制御装置10は、基準値と測定値とを高精度に比較できる。
【0057】
複数の走査経路は、基準値を測定する時と判定対象の電池60を測定するときとで異なる経路に設定されてよい。この場合、制御装置10は、複数の走査経路の間の測定値を補完することによって基準値と測定値とを比較してよい。
【0058】
具体的に、図13に例示されるように、Y軸方向にずらした複数の始点のそれぞれからX軸方向に走査することによって、複数の測定値の波形51~55が得られる。図13のグラフは、XY平面の各位置における磁場測定値の大きさを表す3次元のグラフである。図13のグラフの各波形はX軸方向に走査した結果を表す。図13の3次元のグラフにおいて、特定のX座標においてY軸方向に並ぶ磁場測定値を結んだ包絡線が生成される。包絡線は、そのX座標を始点としてY軸方向に走査した結果に対応する。包絡線は、Y軸方向にずらした始点の間隔がY軸方向の周期より十分に短い場合に、周期的な波形として表され得る。例えば、波形51を測定するための走査の始点と波形52を測定するための走査の始点との間隔はY軸方向にW1である。また、波形52を測定するための走査の始点と波形53を測定するための走査の始点との間隔はY軸方向にW2である。W1又はW2を更に短くすることによって、包絡線が周期性を有する波形として表され得る。W1とW2とは、同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。また、波形53と波形54とのY軸方向の間隔、又は、波形54と波形55とのY軸方向の間隔は、同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。Y軸方向に走査の始点をずらす間隔は、同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。
【0059】
言い換えれば、走査測定の間隔は周期的でもランダムでもよい。周期的な測定であってもランダムな間隔の測定であってもそれぞれの測定において、電池60の構造に起因した異なる波形が得られる。例えばモジュールの正面を測定する場合、その測定値は、真正面に位置するセル62又はモジュールから生じる磁場が支配的になっている。しかし、モジュールの中間地点を測定することによって、その測定値は、両隣のモジュールの影響を受けた値になる。以上のことからすると、制御装置10は、機器の構造に基づいてモジュールの正面を周期的に測定してもよいし、正面と中間とを交互に測定してもよい。制御装置10は、モジュールから生じている磁場を測定できる場所であればどこで磁場を測定してもよい。ただし、磁場の測定位置は基準値を測定する際に規定した位置と同じ位置であるとする。
【0060】
Y軸方向の位置ずれは、基準値の3次元グラフのY軸方向の包絡線の波形の位相と測定値の3次元グラフのY軸方向の包絡線の波形の位相との差として表される。算出部12は、測定値のY軸方向の包絡線の波形の位相と基準値のY軸方向の包絡線の波形の位相との差が位相閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、測定値のY軸方向の包絡線の波形の位相と基準値のY軸方向の包絡線の波形の位相との差が位相閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。位相閾値は、X軸方向とY軸方向とで同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。
【0061】
X軸の周りの回転は、基準値の3次元グラフのY軸方向の包絡線の波形の振幅と測定値の3次元グラフのY軸方向の包絡線の波形の振幅との差として表される。算出部12は、測定値のY軸方向の包絡線の波形の振幅と基準値のY軸方向の包絡線の波形の振幅との差が振幅閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、測定値のY軸方向の包絡線の波形の振幅と基準値のY軸方向の包絡線の波形の振幅との差が振幅閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。振幅閾値は、X軸方向とY軸方向とで同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。
【0062】
Z軸の周りの回転は、測定値の3次元グラフにおいて波形51~55のピークを結んだ稜線50がY軸方向となす角度として表される。算出部12は、Y軸に対する稜線50の角度が角度閾値未満である場合に照合条件が満たされると判定してよい。逆に、算出部12は、Y軸に対する稜線50の角度が角度閾値以上である場合に照合条件が満たされないと判定してよい。角度閾値は、適宜設定されてよい。
【0063】
以上述べてきたように、照合条件は、基準位置からの電池60の位置ずれ及び姿勢ずれが判定閾値未満になるように設定される。
【0064】
図4のフローチャートに戻って、制御装置10は、電池60の磁場の基準値と測定値との差異が照合条件を満たす場合(ステップS3:YES)、ステップS7の手順に進む。制御装置10は、電池60の磁場の基準値と測定値との差異が照合条件を満たさない場合(ステップS3:NO)、算出部12で磁気測定部20の相対位置に関する情報を算出する(ステップS4)。電池60の状態が正常であり、かつ、基準位置での測定時と同じ電流が流れる場合、電池60の磁場の測定値の波形と基準値の波形との差異は、電池60又は電池60を搭載する機器と、磁気測定部20との相対位置の違いによって生じる。つまり、算出部12は、磁気測定部20の相対位置に関する情報として、電池60の磁場の基準値と測定値との差異に基づいて、電池60のX軸、Y軸又はZ軸方向の位置ずれの大きさを算出してよい。また、算出部12は、磁気測定部20の相対位置に関する情報として、電池60のX軸回りの回転、Y軸回りの回転又はZ軸回りの回転の角度を算出してよい。電池60のX軸回りの回転、Y軸回りの回転又はZ軸回りの回転の角度は、電池60の姿勢ずれの大きさを表す。
【0065】
算出部12は、磁気測定部20の相対位置に関する情報として、補正係数を算出してよい。補正係数は、電池60の位置ずれ又は姿勢ずれを補正するために用いられる。補正係数は、電池60の磁場の測定値の波形を、電池60が基準位置に配置される場合の波形に補正するために用いられてもよい。
【0066】
算出部12は、磁気測定部20の相対位置に関する情報として、電池60の磁場の基準値の波形と測定値の波形との差異を表すパターンを算出してよい。算出部12は、基準値の3次元の波形と測定値の3次元の波形との差異を表すパターンを算出してよい。つまり、算出部12は、基準値の波形と測定値の波形との差異をパターンとして認識してよい。
【0067】
制御装置10は、判定部13で、磁気測定部20の相対位置に関する情報が異常判定条件を満たすか判定する(ステップS5)。異常判定条件は、電池60の状態が正常でない場合に満たされるように設定される。例えば、判定部13は、測定値が基準値に一致しない場合又は基準値から大きくずれている場合でも、電池60が基準位置からどのようにずれているかを特定できれば、電池60の状態が正常であると判定してよい。
【0068】
具体的に、電池60の状態が正常である場合の磁場の測定値と基準値との差異は、磁気測定部20の相対位置の違いによって生じる。つまり、測定値と基準値との差異は、電池60の位置ずれ又は姿勢ずれによって生じる。この場合、補正係数は、電池60の位置ずれ又は姿勢ずれに比例した値として算出される。そうすると、判定部13は、補正係数に基づいて定まる位置ずれ又は姿勢ずれの大きさが、例えば電池60を搭載する機器の内部に収まる場合に、電池60の状態が正常であると判定してよい。逆に、判定部13は、補正係数に基づいて定まる位置ずれ又は姿勢ずれの大きさが、例えば電池60を搭載する機器のサイズを超える場合等の物理的に起こり得ない程度である場合に、電池60の状態が正常でないと判定してよい。判定部13は、補正係数が判定閾値未満である場合に電池60が正常であると判定し、補正係数が判定閾値以上である場合に電池60が正常でないと判定してよい。言い換えれば、異常判定条件は、補正係数が判定閾値以上であることであってよい。判定閾値は、例えば電池60を搭載する機器のサイズ等に基づいて適宜設定されてよい。
【0069】
判定部13は、磁気測定部20の相対位置に関する情報として基準値の波形と測定値の波形との差異を表すパターンを算出した場合、パターンが電池60の状態が正常である場合のパターンに該当するか正常でない場合のパターンに該当するかを判定してよい。判定部13は、パターンマッチングによって電池60の状態を判定してよい。判定部13は、パターンを入力した場合に電池60の状態を出力するモデルを用いて電池60の状態を判定してもよい。言い換えれば、異常判定条件は、基準値の波形と測定値の波形との差異を表すパターンが電池60の状態が正常である場合のパターンと異なることであってよい。
【0070】
判定部13は、電池60の磁場の測定値として、電池60を搭載する機器の構造に基づいて起こり得ない結果が得られた場合、補正係数にかかわらず、電池60の状態が正常でないと判定してよい。例えば、データベース化している基準値に対して測定値が一致しない場合、補正係数を算出できない場合、又は、補正係数が所定範囲から外れる場合、判定部13は、電池60の状態が正常でないと判定してよい。言い換えれば、異常判定条件は、データベース化している基準値に対して測定値が一致しない場合、補正係数を算出できない場合、又は、補正係数が所定範囲から外れる場合を含んでよい。
【0071】
電池60の状態が正常でない場合は、例えば、機器に搭載されている電池60が純正品でない場合、電池60が故障している場合、又は、電池60の位置が磁気測定部20によって磁場を測定できる範囲外である場合等を含んでよい。
【0072】
制御装置10は、磁気測定部20の相対位置に関する情報が異常判定条件を満たさない場合(ステップS5:NO)、算出部12で、電池60の磁場の測定値を補正する(ステップS6)。具体的に、算出部12は、磁気測定部20の相対位置に関する情報に基づいて、電池60の磁場の測定値を補正する。算出部12は、補正係数に基づいて電池60の磁場の測定値を補正してよい。
【0073】
制御装置10は、ステップS3の照合条件の判定手順で照合条件が満たされた場合、又は、ステップS5の異常判定条件の判定手順で異常判定条件が満たされなかった場合にステップS6の手順を実行した後で、電池60の状態が正常であると判定する(ステップS7)。一方で、制御装置10は、ステップS5の異常判定条件の判定手順で異常判定条件が満たされた場合(ステップS5:YES)、電池60の状態が異常であると判定する(ステップS8)。制御装置10は、ステップS7又はS8の手順の実行後、図4のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0074】
図4のフローチャートのステップS5の異常判定条件の判定手順で異常判定条件が満たされた場合、制御装置10は、磁場の測定値を補正せずに電池60が異常であると判定する。このようにすることで、不要な補正動作が省略される。その結果、制御装置10の動作負荷が軽くなる。
【0075】
(小括)
以上述べてきたように、本実施形態に係る電池60の状態判定方法によれば、電池60の磁場の基準値と測定値との差に基づいて電池60の相対位置に関する情報が算出され、測定値が補正される。このようにすることで、磁気測定部20に対する電池60の位置ずれ又は姿勢ずれが許容される。その結果、電池60が機器に搭載されたままで電池60の位置を磁気測定部20に対して調整することが難しい場合でも、電池60を機器から外すことなく電池60の磁場が高精度で測定される。例えば、電池60が電動車両に搭載されている場合等の、機器から電池60を取り外すことが難しい場合に、本開示に係る電池60の状態判定方法は有効である。電池60が機器に搭載されたままで電池60の状態が判定されることによって、電池の測定負担を増やさずに電池の状態の判定精度が向上する。
【0076】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態に係る電池60の状態判定システム1及び状態判定方法が説明される。
【0077】
<予診>
電池60のセル62の配列が不明であることがある。この場合、制御装置10は、図14に例示されるように、X軸に沿った走査方向22X及びY軸に沿った走査方向22Yのそれぞれで予診的に磁気測定部20を走査して、それぞれの走査方向の測定値を取得してよい。制御装置10は、それぞれの走査方向の測定値に基づいて電池60のセル62の配列を推定し、推定した配列に合わせて磁気測定部20の走査方向を決定してよい。予診的な測定に基づいて磁気測定部20の走査方向を決定することによって、電池60の位置が基準位置に近づくように磁気測定部20が走査される。その結果、電池60の位置ずれ又は姿勢ずれが小さくなる。電池60の磁場を予診的に測定するために用いるセンサは、電池60の状態を判定するための磁場の測定値を得るために用いる磁気測定部20と同じであってもよいし異なってもよい。
【0078】
言い換えれば、制御装置10は、磁気測定部20を少なくとも第1の方向及び第2の方向を含む複数の方向のそれぞれに移動させて電池60の磁場の測定値を取得してよい。ここで、第1の方向はX軸方向に対応してよい。第2の方向はY軸方向に対応してよい。制御装置10は、第1の方向に磁気測定部20を移動させて得られた第1の測定値と、第2の方向に磁気測定部20を移動させて得られた第2の測定値とに基づいてセル62の配列を推定し、磁気測定部20の走査方向を決定してよい。
【0079】
電池60が車両に搭載されている場合、電池60の位置及びセル62の配列は車種毎に定まる。制御装置10は、電池60を搭載している車両の画像に基づいて車種を特定し、電池60の位置及びセル62の配列に基づいて磁気測定部20の走査方向及び走査範囲を決定してよい。言い換えれば、制御装置10は、電池60を搭載している機器の種類に基づいて定まる走査範囲で磁気測定部20を移動させてよい。このようにすることで、無駄な走査が削減される。その結果、測定効率が高まる。
【0080】
<位置調整>
上述してきた実施形態において、電池60の位置が基準位置からずれている場合に、制御装置10は、電池60又は磁気測定部20の位置を調整せずに、測定値を補正することによって対応する。他の実施形態として、電池60又は磁気測定部20の位置が調整されてもよい。
【0081】
図15に例示されるように、状態判定システム1は、移動装置30を更に備えてよい。磁気測定部20は、移動装置30に搭載されてよい。移動装置30は、例えば地面70に沿って移動するように構成される。移動装置30は、鉛直方向に移動するように構成されてもよい。制御装置10は、走査部14によって、電池60の位置ずれ又は姿勢ずれに合わせて磁気測定部20の走査方向を制御することによって、電池60が基準位置に配置されている場合の磁気測定部20の走査範囲と同じになるように磁気測定部20を移動させてよい。
【0082】
図16に例示されるように、状態判定システム1は、駆動装置40を更に備えてよい。駆動装置40は、例えば車両80等の、電池60を搭載している機器を地面70に対して駆動できるように構成される。図16の例において、駆動装置40は、車両80のタイヤ82を地面70に沿って移動させることによって、電池60の姿勢を、セル62の配列がX軸及びY軸に対して傾斜している状態から、X軸及びY軸に沿った状態に駆動する。駆動装置40は、磁気測定部20に対する電池60の位置及び姿勢を調整する。
【0083】
制御装置10は、上述したように電池60と磁気測定部20との位置を調整した後で磁気測定部20の走査による電池60の磁場の測定を再度実行してもよい。つまり、制御装置10は、磁気測定部20の相対位置を物理的に補正した上で、磁場の測定を再度実行してもよい。このようにすることで、磁場の測定精度、又は、電池60の状態の判定精度が向上する。
【0084】
電池60を搭載している機器が低床の車両80である場合、磁気測定部20は、タイヤ82の接地面よりも低い、地面70をくりぬいた空間で車両80の底面を走査するように設置されてもよい。
【0085】
制御装置10は、電池60と磁気測定部20との相対位置を算出するために、測距センサを用いてもよい。
【0086】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 状態判定システム
10 制御装置(11:取得部、12:算出部、13:判定部、14:走査部)
20 磁気測定部(22、22X、22Y:走査方向)
30 移動装置(32:磁気測定部の移動方向)
40 駆動装置(42:車両の駆動方向)
50 稜線
51~55 磁場測定値の波形
60 電池(62:セル)
70 地面
80 車両(82:タイヤ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16