(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025050488
(43)【公開日】2025-04-04
(54)【発明の名称】ギヤアッシー、時計及びギヤアッシーの製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 35/00 20060101AFI20250328BHJP
【FI】
G04B35/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159312
(22)【出願日】2023-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】飯田 雅貴
(57)【要約】
【課題】製造コストを抑制する。
【解決手段】ギヤアッシー40は、シャフト40Aと、シャフト40Aに挿通されるシリコン製のギヤ40Bと、ギヤ40Bをシャフト40Aにカシメるカシメ部材40Dと、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトに挿通されるシリコン製のギヤと、
前記ギヤを前記シャフトにカシメるカシメ部材と、
を備えるギヤアッシー。
【請求項2】
前記ギヤよりも小径であり、前記シャフトに挿通されるシリコン製のピニオンを備え、
前記カシメ部材は、前記ピニオンを前記シャフトにカシメる、
請求項1に記載のギヤアッシー。
【請求項3】
前記ギヤは、前記ピニオンとの周方向向きを合わせるためのマークを有し、
前記マークは、前記ピニオンが適正な周方向向きに組み付けられた場合に当該ピニオンの歯で覆われ、かつ、前記ピニオンが適正な周方向向きに組み付けられない場合に当該ピニオンの歯の間から露出する位置に形成されている、
請求項2に記載のギヤアッシー。
【請求項4】
前記ギヤには針位置検出用の穴が形成されている、
請求項3に記載のギヤアッシー。
【請求項5】
前記針位置検出用の穴が、前記マークを兼ねている、
請求項4に記載のギヤアッシー。
【請求項6】
前記シャフトは、前記ギヤと接触する面の内径側の角部に逃げ溝を有する、
請求項1に記載のギヤアッシー。
【請求項7】
前記シャフトに挿通されるシリコン製のスペーサを備え、
前記カシメ部材は、前記スペーサを前記シャフトにカシメる、
請求項1に記載のギヤアッシー。
【請求項8】
前記シャフトは、前記スペーサと接触する面の内径側の角部に逃げ溝を有する、
請求項7に記載のギヤアッシー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のギヤアッシーを含む輪列機構と、
前記輪列機構を収容するケースと、
を備える時計。
【請求項10】
時計の輪列機構に用いるギヤと、前記ギヤよりも小径のピニオンとを含むギヤアッシーの製造方法であって、
1枚のシリコンウェハからフォトリソグラフィにより作製された前記ギヤ及び前記ピニオンにシャフトを挿通させて前記ギヤアッシーを組み立てる組立工程、
を備える、
ギヤアッシーの製造方法。
【請求項11】
前記組立工程では、直径の大きい前記ギヤ又は前記ピニオンほど中心線の近くに位置するように配置された前記1枚のシリコンウェハからフォトリソグラフィにより作製された前記ギヤ及び前記ピニオンに前記シャフトを挿通させて前記ギヤアッシーを組み立てる、
請求項10に記載のギヤアッシーの製造方法。
【請求項12】
前記ギヤアッシーは、前記ギヤ及び前記ピニオンの位置を調整するスペーサをさらに含み、
前記組立工程では、前記1枚のシリコンウェハからフォトリソグラフィにより作製された前記ギヤ、前記ピニオン及び前記スペーサにシャフトを挿通させて前記ギヤアッシーを組み立てる、
請求項10に記載のギヤアッシーの製造方法。
【請求項13】
前記組立工程では、前記ギヤのうち、前記ピニオンが適正な周方向向きに組み付けられた場合に当該ピニオンの歯で覆われ、かつ、前記ピニオンが適正な周方向向きに組み付けられない場合に当該ピニオンの歯の間から露出する位置に前記ピニオンとの周方向向きを合わせるためのマークが形成された前記ギヤの前記マークが前記ピニオンの歯で覆われるように、前記ギヤ及び前記ピニオンに前記シャフトを挿通させる、
請求項10に記載のギヤアッシーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤアッシー、時計及びギヤアッシーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計等の輪列機構では、形状やサイズの異なる多数のギヤが用いられる(例えば、特許文献1参照)。特に高価格帯の製品等は少量多品種となることが多いため、開発コストを含む製造コストが高くなりがちである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、製造コストを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、ギヤアッシーであって、
シャフトと、
前記シャフトに挿通されるシリコン製のギヤと、
前記ギヤを前記シャフトにカシメるカシメ部材と、
を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る時計の要部を示す正面図である。
【
図2】実施形態に係る時計における時針駆動機構の輪列機構の断面図である。
【
図3】実施形態に係るギヤアッシーの一例の断面図である。
【
図4】実施形態に係るギヤアッシーの一例の断面図である。
【
図5】実施形態に係るギヤの平面図であり、そのうち(a)は単品図、(b)はシャフトのピニオンとの周方向向きが適正である状態を示す図、(c)はピニオンとの周方向向きがズレている状態を示す図である。
【
図6】実施形態に係る時計の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】フォトリソグラフィにより複数のギヤ及びピニオンの形状を転写したシリコンウェハの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0009】
[時計の全体構成]
図1は、本実施形態に係る時計100の要部を示す正面図である。なお、
図1では、要部構造の分かり易さのために、文字板やメインプレート21の一部等の図示を省略している。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る時計100は、複数の指針3(秒針3s、分針3m、時針3h)で時字102を指し示して時刻表示を行うアナログ方式の時計である。時計100は、正面視で短円筒状に形成された本体ケース101を備える。
本体ケース101の内部には、複数の指針3と、当該複数の指針3を個別に回転駆動させる複数の駆動機構30等とが収容されている。
【0011】
複数の駆動機構30は、秒針3sを回転駆動させる秒針駆動機構30s、分針3mを回転駆動させる分針駆動機構30m、時針3hを回転駆動させる時針駆動機構30hを含む。
各駆動機構30は、駆動源であるモータ32と、モータ32の駆動力を指針3に伝達する輪列機構33とを含む。具体的には、秒針駆動機構30sが第1モータ32s及び第1輪列機構33sを含み、分針駆動機構30mが第2モータ32m及び第2輪列機構33mを含み、時針駆動機構30hが第3モータ32h及び第3輪列機構33hを含む。
【0012】
各輪列機構33は、複数のギヤアッシー40を含む。
例えば、秒針駆動機構30sの第1輪列機構33sは、四番車(秒針車)等のギヤアッシー40を含む。分針駆動機構30mの第2輪列機構33mは、二番車(分針車)等のギヤアッシー40を含む。時針駆動機構30hの第3輪列機構33hは、日の裏車や筒車(時針車)等のギヤアッシー40を含む。
なお、輪列機構33は、ギヤアッシー40以外の歯車を含んでいてもよい。この場合の歯車は少なくともギヤとシャフトを備えていればよい。当該ギヤとシャフトは一体的であれば別部品でもよい。
【0013】
[ギヤアッシーの構成]
以下、本実施形態に係るギヤアッシー40の一例として、時針駆動機構30hの第3輪列機構33hのものを挙げてその構成について説明する。
図2は、時計100における第3輪列機構33hの断面図である。
この図に示すように、第3輪列機構33hは、ギヤアッシー40として、第1時中間車51、第2時中間車52、日の裏車53を含む。
これら各ギヤアッシー40は、回転軸であるシャフト40Aと、トルクを伝達するギヤ40Bと、ギヤ40Bよりも小径のピニオン40Cと、シャフト40Aに他の部品を固定するカシメ部材40Dと、ギヤ40B及びピニオン40Cの軸方向位置を調整するスペーサ40Eを含む。ただし、本発明に係るギヤアッシーは、少なくともシャフト、ギヤ及びカシメ部材を含んでいればよい。シャフト以外は複数あってもよい。
なお、以下では、ギヤアッシー40の各構成要素に対し、シャフトに「A」、ギヤに「B」、ピニオンに「C」、カシメ部材に「D」、スペーサに「E」を、符号の末尾に付してこれらを識別する(例えば、第1時中間車51のシャフトの符号は「51A」)。
以下、時計100の正面-背面方向を上下方向といい、このうち正面側(
図2の下側)を「下側」、背面側(
図2の上側)を「上側」という。
【0014】
第3輪列機構33hでは、第3モータ32hの回転力が、第1時中間車51、第2時中間車52、日の裏車53、筒車54の順に伝達されて時針3hが回転する。
第1時中間車51は、シャフト51A、ギヤ51B、ピニオン51C、カシメ部材51D、複数のスペーサ51Eを有する。シャフト51Aは、回転可能なようにメインプレート(地板)21及び輪列受け22に両端を支持されている。輪列受け22は、メインプレート21の上側に配置され、シャフト51Aの上端を支持する。ギヤ51Bは、第3モータ32hのロータかな51eと噛合している。ピニオン51Cは、第2時中間車52と連結している。
ギヤアッシー40の各構成要素の詳細は後述する。
【0015】
第2時中間車52は、シャフト52A、ギヤ52B、ピニオン52C、カシメ部材52D、複数のスペーサ52Eを有する。シャフト52Aは、回転可能なように輪列受け22及び日車押さえ24に両端を支持されている。日車押さえ24は、メインプレート21よりも下側に配置され、シャフト52Aの下端を支持する。ギヤ52Bは、第1時中間車51のピニオン51Cと噛合している。ピニオン52Cは、日の裏車53と連結している。
日の裏車53は、シャフト53A、ギヤ53B、ピニオン53C、スペーサ53Eを有する。シャフト53Aは、回転可能なようにメインプレート21及び日車押さえ24に両端を支持されている。ギヤ53Bは、第2時中間車52のピニオン52Cと噛合している。ピニオン53Cは、筒車54と連結している。
筒車54は、下端に時針3hが固定された円筒状の筒車本体54aと、筒車本体54aに一体的に形成されて日の裏車53のピニオン53Cと噛合する筒歯車54bとを有する。これにより、筒車54には、第1時中間車51,第2時中間車52及び日の裏車53を介して第3モータ32hの回転力が伝達され、筒車本体54a下端の時針3hが回転する。
【0016】
筒車54の内側には、二番車61及び四番車71が挿通され、同軸状に配置されている。
二番車61は、筒状の二番車本体61aと、二番歯車61bとを有する。二番車本体61aは、筒車54及び四番車71とは独立して回転可能に支持され、下端に分針3mが固定されている。二番歯車61bは、二番車本体61aの上端に固定され、第2モータ32mと連結されている。これにより、二番車61に第2モータ32mの回転力が伝達されて、二番車本体61a下端の分針3mが回転する。
四番車71は、軸状の四番車本体71aと、四番歯車71bとを有する。四番車本体71aは、二番車本体61aに挿通されて、筒車54及び二番車61とは独立して回転可能に支持され、下端に秒針3sが固定されている。四番歯車71bは、四番車本体71aの上端に固定され、第1モータ32sと連結されている。これにより、四番車71に第1モータ32sの回転力が伝達されて、四番車本体71a下端の秒針3sが回転する。
【0017】
以下、ギヤアッシー40の各構成要素について詳細に説明する。
図3及び
図4は、ギヤアッシー40の一例の断面図である。
【0018】
<シャフト>
図3に示すように、シャフト40Aは、例えば炭素工具鋼鋼材(SK材)の軸部品であり、被支持部40Aaと、挿通部40Abと、鍔部40Acとを有する。
被支持部40Aaは、回転可能に支持される部分であり、例えば軸方向両端に設けられる。
挿通部40Abは、ギヤ40B、ピニオン40C、カシメ部材40D、スペーサ40Eに挿通される部分である。挿通部40Abは、挿通される部品との相対回転を防ぐために、断面が例えば多角形(
図3及び
図4の例では六角形)状に形成されている。ギヤ40B、ピニオン40C、カシメ部材40D、スペーサ40Eの中央部には、挿通部40Abの断面と略同形状の挿通孔がそれぞれ設けられている。
図5に、一例として、ギヤ40Bの挿通孔40Baを図示する。
鍔部40Acは、例えば挿通部40Abの軸方向端部に配置される。鍔部40Acは、挿通部40Abが挿通されたギヤ40B、ピニオン40C又はスペーサ40Eと軸方向に当接して位置決めする。
鍔部40Acのうち、ギヤ40B又はスペーサ40Eと当接する面の内径側の角部、つまり、シャフト40Aのうち挿通部40Abと挿通部40Abよりも大径の鍔部40Acとの境界部分には、内径側に凹状の逃げ溝40Adが形成されている。つまり、凹状の逃げ溝40Adは、シャフト40Aが挿通部40Abよりも小径に形成されることで設けられる。ただし、逃げ溝40Adは、ギヤ40B、ピニオン40C又はスペーサ40Eの内径側の角部を逃げる(接触を避ける)ことが可能な形状であればよい。
【0019】
また、
図4に示すように、シャフト40Aは、ピニオン(小歯車)40Apを一体的に有していてもよい。この場合、鍔部40Acに代えて、ピニオン40Apをギヤ40B又はスペーサ40Eの軸方向の位置決めに用いてもよい。またこの場合、ピニオン40Apの内径側の角部に逃げ溝40Adを設けるのがよい。
【0020】
輪列機構33では、複数のシャフト40Aが、いくつかの共通する部品(基板)に支持される。例えば第3輪列機構33hの場合、
図2に示すように、各シャフト40Aは、メインプレート21、輪列受け22、日車押さえ24のうちいずれか2つに支持される。そのため、上下方向(軸方向)の長さだけを基準とした場合、シャフト40Aは、輪列受け22からメインプレート21までのもの、輪列受け22から日車押さえ24までのもの、メインプレート21から日車押さえ24までのものに大別できる。つまり、支持する基板が共通する複数のギヤアッシー40で、シャフト40Aを共通化できる。なお、支持する基板(又はその軸方向位置)が共通すれば、他の輪列機構33ともシャフト40Aを共通化できるのは勿論である。
【0021】
<ギヤ及びピニオン>
図5は、ギヤ40Bの平面図であり、そのうち(a)は単品図、(b)はシャフト40Aのピニオン40Apとの周方向向きが適正である状態を示す図、(c)はピニオン40Apとの周方向向きがズレている状態を示す図である。
図5(a)、(b)に示すように、ギヤ40B及びピニオン40Cは、いずれも例えばシリコン製の平歯車であり、ピニオン40Cはギヤ40Bよりも小径の歯車である。本実施形態のギヤ40B及びピニオン40Cは、後述するように、フォトリソグラフィによりシリコンウェハから作製される。
【0022】
ギヤ40Bには、シャフト40Aが挿通される挿通孔40Baが中央に形成されている。挿通孔40Baは、シャフト40Aの挿通部40Abに対応した多角形状に形成されている。
ギヤ40Bのうち、外周側の所定の位置には、厚さ方向に貫通する針位置検出用穴T1が形成されている。針位置検出用穴T1は、上下に重なった複数のギヤ40Bに形成されたものが運針時に所定のタイミング(周期)で重なる。このときに、複数のギヤ40Bで重なった針位置検出用穴T1を発光部の光が透過して受光部で検知されることにより、指針3の位置が検出される。
【0023】
ギヤ40Bのうち、挿通孔40Baの周囲には、ギヤ種判別用の第1マークM1が形成されている。第1マークM1は、例えばギヤ40Bの種類に応じて、穴形状、数量、位置等が異なっている。
また、ギヤ40Bには、方向判別用の第2マークM2が形成されている。ただし、針位置検出用穴T1が形成されているギヤ40Bでは、当該針位置検出用穴T1で方向判別を行い、第2マークM2を設けなくてもよい。
なお、第1マークM1及び第2マークM2の位置、数量、形状等は特に限定されない。ただし、これらを針位置検出用穴T1の付近に配置すると、当該第1マークM1及び第2マークM2を透過した光が誤検出を招来するおそれがある。そのため、第1マークM1及び第2マークM2は、挿通孔40Baの付近に形成されるのが好ましい。
【0024】
また、ギヤ40Bには、ピニオン40C(又はピニオン40Ap)との周方向向きを合わせるための第3マークM3が形成されている。
第3マークM3は、ギヤ40Bのうち、ピニオン40Cが適正な周方向向きで組み付けられた場合のピニオン40Cの歯(山)の位置に形成されている。そのため、
図5(b)に示すように、ギヤ40Bとピニオン40Cが適正な周方向向きで組み付けられた場合には、第3マークM3がピニオン40Cの歯で覆われる。一方、
図5(c)に示すように、例えば挿通孔40Baの1ピッチ分だけピニオン40Cの周方向向きが適正位置からズレた場合、第3マークM3がピニオン40Cの谷から露出する。これにより、組立作業者(又は検査者)は、第3マークM3がピニオン40Cから露出しているか否かによって、ギヤ40Bとピニオン40Cが適正に組み付けられているか否かを容易に判別できる。
なお、針位置検出用穴T1が、第3マークM3(の機能)を兼ねていてもよい。
【0025】
なお、第1マークM1、第2マークM2及び第3マークM3は、ギヤ40Bの強度が過度に低下しないように、極力小さく形成するのが好ましい。例えばギヤ40Bをフォトレジストマスクで作製する場合、加工精度の限界であるφ0.05~φ0.1mm程度のサイズとするのが好ましい。ただし、組立時に作業者が目視等により確認できるサイズの必要があるのは勿論である。
【0026】
ギヤ40B及びピニオン40Cは、カシメ部材40Dにより他の部品と一体的(又は個別)に、シャフト40Aに固定される。または、ギヤ40B及びピニオン40Cは、接着剤によりシャフト40Aに固定されてもよい。この場合、シャフト40Aの逃げ溝40Adを接着剤の溜まり溝として利用でき、接着剤の余剰分がはみ出るのを抑制できる。あるいは、ギヤ40B及びピニオン40Cは、例えばニッケルや黄銅等の延性(展性)を有する材料製とし、圧入によりシャフト40Aに固定してもよい。
なお、ピニオン40Cは、軸方向に複数に分割されていてもよい。つまり、軸方向に複数のピニオン40Cを重ねて厚さを増したりしてもよい。
【0027】
<カシメ部材>
図3及び
図4に示すように、カシメ部材40Dは、シャフト40Aに圧入され、ギヤ40B、ピニオン40C、スペーサ40Eをシャフト40Aにカシメ(加締め)て固定する。カシメ部材40Dは、例えば厚さ0.1mm程度の短円環状に形成されている。
カシメ部材40Dの材料(素材)は、シャフト40Aへの圧入が可能なものであれば特に限定はされないが、例えばニッケル等である。
なお、ギヤ40Bやピニオン40Cを圧入でシャフト40Aに固定する場合には、カシメ部材40Dを省いてもよい。
【0028】
<スペーサ>
スペーサ40Eは、円筒状に形成されてシャフト40Aに挿通され、ギヤ40B及びピニオン40Cの軸方向位置を調整する。スペーサ40Eの軸方向長さは特に限定されない。短いスペーサ40Eを複数組み合わせて1つのシャフト40Aに挿通させてもよい。
スペーサ40Eをギヤ40Bとピニオン40Cの間に配置する場合、当該スペーサ40Eのサイズはギヤ40B及びピニオン40Cの歯底円よりも小さい径とするのが好ましい。これにより、連動するギヤ40B同士の高さ方向の隙間を確保しながら、ニーズに合わせて最適なピニオン40Cの高さへ自由に調整できる。
スペーサ40Eの材料(素材)は、特に限定はされないが、例えばシリコン、ニッケル又は黄銅等である。例えばフォトリソグラフィによるシリコン製のスペーサ40Eであれば、端面の平滑度が高いため、複数を重ねた場合でも傾きを抑制できる。
【0029】
[製造方法]
図6は、ギヤアッシー40を含む時計100の製造方法の手順を示すフローチャートであり、
図7は、フォトリソグラフィにより複数のギヤ40B及びピニオン40Cの形状を転写したシリコンウェハWの一例を示す図である。
図6に示すように、時計100の製造方法では、まず、リソグラフィによりギヤ40B及びピニオン40Cを作製する(ステップS1)。
【0030】
図7に示すように、このステップでは、1つの時計100に用いる複数種類のギヤ40B及びピニオン40Cが、1枚のシリコンウェハWから作製される。シリコンウェハWの厚さは、厚くても0.1~0.15mm程度である。
このとき、シリコンウェハWを略2分割する中心線Lに対し、直径の大きいものほど近くに位置するようにギヤ40B及びピニオン40Cを配置(配列)する。そして、ギヤ40B及びピニオン40Cの各列の幅(中心線Lと直交する方向の長さ)が、中心線Lに沿って極力一定となるようにする。これにより、略円形のシリコンウェハW上に無駄な余剰スペースが生まれにくいように、ギヤ40B及びピニオン40Cを配置できる。ただし、シリコンウェハW上でのギヤ40B及びピニオン40Cの配置は、シリコンウェハW上の余剰スペースが極力小さくなるように適宜調整してもよい。
また、スペーサ40Eを、ギヤ40B及びピニオン40Cとともに同じ1枚のシリコンウェハWから作製してもよい。
【0031】
次に、
図6に示すように、各ギヤアッシー40を組み立てる(ステップS2)。
ここでは、シャフト40Aにギヤ40B、ピニオン40C及びスペーサ40Eを挿通させ、カシメ部材40Dを圧入して、ギヤアッシー40を組み立てる。
このとき、組立作業者は、ギヤ40Bの第1マークM1を確認してその種類を判別し、対応したシャフト40Aやピニオン40C等と組み合わせる。
またこのとき、組立作業者は、ギヤ40Bの第3マークM3を確認して、第3マークM3がピニオン40C(又はピニオン40Ap)の歯で覆われるように当該ピニオン40Cをギヤ40Bに組み付ける。これにより、ギヤ40Bとピニオン40C(又はピニオン40Ap)を適正な周方向向きの関係で組み付けることができる。
【0032】
次に、時計100全体を組み立てる(ステップS3)。
ここでは、ステップS3で組み立てた複数のギヤアッシー40による輪列機構33や、指針3等を含むモジュールが、本体ケース101に組み込まれる。さらに、例えば電子時計の場合には計時回路、電池ブロック等、機械式時計の場合にはがんぎ車、ひげゼンマイ等が、必要に応じて組み込まれる。
こうして、時計100が組み立てられる。
【0033】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、ギヤアッシー40が、シャフト40Aと、シリコン製のギヤ40Bと、ギヤ40Bをシャフト40Aにカシメるカシメ部材40Dと、を備える。金属製のギヤを用いた場合、構造が複雑になるのでカシメ部材を用いることはなく、金属製のギヤの内径をシャフトの外形よりも僅かに小さく形成することで、圧入によってギヤをシャフトにカシメる。一方、シリコン製のギヤ40Bの場合、ギヤ40Bが硬い材料のため圧入によってギヤをシャフトにカシメることはできないが、カシメ部材40Dを用いることでシリコン製であってもギヤ40Bをシャフト40Aにカシメることができるようになる。これによって、シリコン製のギヤ40Bを採用することができる。
また、上記の構成とすることにより、種類の異なる複数のギヤアッシー40で、ギヤ40Bのみを代える等してシャフト40Aを共通化できる。したがって、少量多品種の製品であっても、開発期間及び開発コストを抑えることができる。ひいては、開発コストを含む製造コストを抑制することができる。
また、シリコン製のギヤ40Bの適用により、金属製や樹脂製のギヤに比べて硬くかつ表面の平滑度が高いことから、摩擦を低減できるため、運針時の消費電力(消費エネルギー)を抑制できる。特に秒針3sの駆動は消費電力が他の指針3よりも大きいため、秒針駆動機構30sへの適用は効果が大きい。また、ギヤ40Bの摩擦低減により低バックラッシュ化が可能となり、指針3の位置精度を向上できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、ギヤアッシー40が、ギヤ40Bよりも小径のシリコン製のピニオン40Cを備え、カシメ部材40Dがピニオン40Cをシャフト40Aにカシメる。つまり、ピニオン40Cをシャフト40Aと別体化できる。
これにより、特に開発費が掛かるピニオン付きシャフトの数量を減らすことができる。ひいては、開発コストを含む製造コストをさらに抑制できる。
【0035】
また、本実施形態によれば、ギヤ40Bは、ピニオン40Cとの周方向向きを合わせるための第3マークM3を有している。第3マークM3は、ピニオン40Cが適正な周方向向きに組み付けられた場合に当該ピニオン40Cの歯で覆われ、かつ、ピニオン40Cが適正な周方向向きに組み付けられない場合に当該ピニオン40Cの歯の間から露出する位置に形成されている。
これにより、組立作業者は、第3マークM3がピニオン40Cから露出しているか否かの確認により、ギヤ40Bとピニオン40Cが適正な周方向向き(相対的な回転角度)に組み付けられているか否かを容易に判別できる。
指針3の位置を検出する際は、複数のギヤ40Bの針位置検出用穴T1が互いに重なる位置に回転移動させて、このときに複数の針位置検出用穴T1を透過する光量に基づいて、指針3の位置を検出する。ここで、ギヤ40Bとピニオン40Cが適正な周方向向きに組み付けられていれば、針位置検出用穴T1も適正な週方向向きに組み付けられることになるので、ひいては、指針3の位置を検出する際に複数の針位置検出用穴T1が想定通りに重なり合うため、針位置検出用穴T1を透過する光量を最大化することができる。これにより、高精度で指針3の位置を検出することができるようになる。逆に、ギヤ40Bとピニオン40Cが適正な周方向向きに組み付けられていないと、針位置検出用穴T1も適正な週方向向きに組み付けられないので、結果的に、指針3の位置を正しく検出することができなくなってしまう。
【0036】
また、本実施形態によれば、ギヤアッシー40は、シャフト40Aに挿通されるスペーサ40Eを備える。
これにより、複数のギヤアッシー40でシャフト40Aを共通化しながら、スペーサ40Eによってギヤ40Bやピニオン40Cの高さ(軸方向位置)を個別に調整できる。
【0037】
また、本実施形態によれば、シャフト40Aは、ギヤ40Bと接触する鍔部40Acの面の内径側の角部に逃げ溝40Adを有する。
これにより、ギヤ40Bの内径側の角部がシャフト40Aの鍔部40Acの内径側の角部と接触することによる当該角部の欠損を抑制できる。
すなわち、シリコン製のギヤ40Bは、非常に硬く、またフォトリソグラフィで製作するため、応力が集中すると角部が欠けやすいうえに、当該角部に面取りを付けることが難しい。そのため、鍔部40Acの内径側の角部には、組み込み時にギヤ40Bと干渉(接触)しうる隅Rができるのは望ましくない。しかしながら、通常の切削加工によって鍔部40Acを形成すると、鍔部40Acの内径側の角部に隅Rができてしまうことは避けられない。そこで、鍔部40Acの内径側の角部に対して径方向(内径向き)の追加の切削加工を施すことで隅Rを取り除き、挿通部40Abよりも小径となる逃げ溝40Adをシャフト40Aに設ける。これによって、組み込み時のシャフト40Aとギヤ40Bとの干渉を回避することができる。これにより、隅Rを避けるためにギヤ40Bを小さくしてギヤ40Bの位置決めを困難にすることなく、好適にギヤ40Bをシャフト40Aに組み付けることができる。すなわち、ギヤ40Bを軸方向にも径方向にも精度よく位置決めできる。
なお、逃げ溝40Adの加工方向は径方向(内径向き)であるのが好ましい。逃げ溝40Adを軸方向に加工しようとすると、挿通部40Abの形状に対応した六角形のアンダーカットが必要になる。一方で、逃げ溝40Adの加工方向を径方向(内径向き)とすることで、比較的容易に切削加工によって逃げ溝40Adを形成することができる。
また、ギヤ40Bをシャフト40Aに接着剤で接合する場合には、逃げ溝40Adを接着剤の溜まり溝として利用できる。これにより、シャフト40Aとギヤ40Bの間の隙間や逃げ溝40Adから接着剤の余剰分がはみ出るのを抑制できる。ひいては、当該はみ出た接着剤に起因する動作不良の発生を抑制できる。
【0038】
また、本実施形態によれば、複数種類のギヤ40B及びピニオン40Cが、フォトリソグラフィにより1枚のシリコンウェハWから作製される。
これにより、複数のギヤアッシー40でシャフト40Aを共通化しつつ、複数種類のギヤ40B及びピニオン40Cを好適に作製することができる。したがって、少量多品種の製品であっても、開発期間及び開発コストを抑えることができる。ひいては、開発コストを含む製造コストを抑制することができる。
また、複数種類のギヤ40B及びピニオン40Cをフォトリソグラフィにより1枚のシリコンウェハWから作製するので、これらの部品どうしを同じ厚み寸法(上下方向の長さ)に形成することができる。加えて、シリコンウェハWの主面(シリコンウェハWの厚み方向を法線とする面)は平滑度が高い。これにより、ギヤ40B、ピニオン40C、カシメ部材40D、及びスペーサ40Eの何れか1種以上を複数個積層した場合でも、積層後の厚み寸法が高精度に狙い通りとなるようにギヤアッシー40を形成することができる。
したがって、本実施形態のように第1時中間車51、第2時中間車52、及び日の裏車53を組み合わせて第3輪列機構33hを作製する場合でも、第1時中間車51、第2時中間車52、及び日の裏車53のうち互いに噛み合うものどうしの高さ(上下方向の位置)を高精度に設定することができる。
さらには、ギヤ40B、ピニオン40C、カシメ部材40D、及びスペーサ40Eの主面(上下方向を法線方向とする面)の平滑度が高いので、主面間の摩擦による動力エネルギーのロスも非常に低く抑えられる。
【0039】
また、本実施形態によれば、直径の大きいギヤ40B及びピニオン40CほどシリコンウェハWの中心線Lの近くに位置するように、複数のギヤ40B及びピニオン40Cが1枚のシリコンウェハW上に配置される。この場合、シリコンウェハWの中心線Lに平行な方向には同じ直径のギヤ40B及びピニオン40Cを配置する。
これにより、シリコンウェハW上に複数のギヤ40B及びピニオン40Cを好適に配列し、シリコンウェハW上の無駄な余剰スペースを減らすことができる。したがって、製造コストをさらに抑制できる。
【0040】
また、本実施形態によれば、スペーサ40Eが、ギヤ40B及びピニオン40Cとともに同じ1枚のシリコンウェハWから作製される。
これにより、製造コストをさらに抑制できる。
【0041】
[その他]
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0042】
例えば、上記実施形態では、ギヤとピニオン(又はさらにスペーサ)をシリコン製にし、フォトリソグラフィで作製することとした。しかし、ギヤとピニオン(又はさらにスペーサ)の材料(素材)はシリコンに限定されず、作製手法もフォトリソグラフィに限らない。
例えば、これらは、電鋳によりニッケル又は黄銅等で作製してもよい。電鋳製の場合でもシリコンウェハと同程度の厚さである。この場合、ギヤとピニオンはシャフトに圧入できるため、カシメ部材を省略してもよい。ただし、ニッケルは磁性体のため、モータと噛合するギヤはピニオンには適用しない。
【0043】
また、本発明に係るギヤアッシーは、時計の輪列機構に用いられるものに限定されず、ギヤにシャフトが挿通されるものに広く適用できる。特に、複雑な軸受構造の採用が困難な小型の歯車機構に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
100 時計
101 本体ケース(ケース)
3 指針
32 モータ
33 輪列機構
40 ギヤアッシー
40A シャフト
40Aa 被支持部
40Ab 挿通部
40Ac 鍔部
40Ad 逃げ溝
40Ap ピニオン
40B ギヤ
40Ba 挿通孔
40C ピニオン
40D カシメ部材
40E スペーサ
M1 第1マーク
M2 第2マーク
M3 第3マーク
T1 針位置検出用穴
W シリコンウェハ
L 中心線