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特開2025-5073チャック装置および外側継手部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005073
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】チャック装置および外側継手部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/02 20060101AFI20250108BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20250108BHJP
   B23B 31/06 20060101ALI20250108BHJP
   B23B 31/107 20060101ALI20250108BHJP
   B23Q 3/12 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
B23B31/02 610Z
F16D3/20 J
B23B31/06
B23B31/107 B
B23Q3/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105078
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】飯島 司
【テーマコード(参考)】
3C016
3C032
【Fターム(参考)】
3C016FA38
3C032FF12
3C032GG07
3C032GG27
(57)【要約】
【課題】 チャック本体の芯出し部と対向配置された芯押し部をなくし、外側継手部材を片持ち状態で把持する。
【解決手段】 等速自在継手を構成し、かつ軸方向に延びるトラック溝18が内周面19の円周方向複数箇所に形成されたカップ状の外側継手部材11を加工する際に、チャック装置で当該外側継手部材を芯出し把持する。このチャック装置は、チャック本体31の先端側に設けられ、トラック溝18の奥側部位に係合する固定ピン33と、チャック本体31の固定ピン手前側に設けられ、トラック溝18の開口側部位に係合する可動ピン34と、クランプ時に可動ピン34を径方向外側へ突出させるクランプ機構35と、アンクランプ時に可動ピン34を径方向内側へ退入させるアンクランプ機構36とを具備する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手を構成し、かつ軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成されたカップ状の外側継手部材を加工する際に、当該外側継手部材を芯出し把持するチャック装置であって、
チャック本体の先端側に設けられ、前記トラック溝の奥側部位に係合する固定ピンと、前記チャック本体の固定ピン手前側に設けられ、前記トラック溝の開口側部位に係合する可動ピンと、クランプ時に前記可動ピンを径方向外側へ突出させるクランプ機構と、アンクランプ時に前記可動ピンを径方向内側へ退入させるアンクランプ機構とを具備したことを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記クランプ機構は、前記チャック本体に軸方向移動可能に配置されたロッドと、チャック本体に径方向移動可能に配置された前記可動ピンとを備え、前記ロッドのテーパ面と可動ピンのテーパ面との当接により、ロッドの軸方向移動で可動ピンを径方向外側へ突出可能とした請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記アンクランプ機構は、前記チャック本体に軸方向移動可能に配置されたロッドと、前記可動ピンに係止した状態でチャック本体に回動可能に配置されたカムとを備え、前記ロッドのテーパ面と前記カムとの当接により、ロッドの軸方向移動に伴うカムの回動で可動ピンを径方向内側へ退入可能とした請求項1に記載のチャック装置。
【請求項4】
等速自在継手を構成し、かつ軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成されたカップ状の外側継手部材を製造する方法であって、
チャック本体の先端側に設けられ、前記トラック溝の奥側部位に係合する固定ピンと、前記チャック本体の固定ピン手前側に設けられ、前記トラック溝の開口側部位に係合する可動ピンと、クランプ時に前記可動ピンを径方向外側へ突出させるクランプ機構と、アンクランプ時に前記可動ピンを径方向内側へ退入させるアンクランプ機構とを具備するチャック装置により、前記外側継手部材を芯出し把持して前記外側継手部材を加工することを特徴とする外側継手部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手を構成する外側継手部材の製造工程で、外側継手部材を芯出し把持するためのチャック装置、および外側継手部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車や各種産業機械の動力伝達系に使用され、特に、自動車のドライブシャフトやプロペラシャフトに組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。
【0003】
これら二種の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0004】
自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要がある。
【0005】
そのため、ドライブシャフトは、一般的に、軸方向変位および角度変位の両方を許容する摺動式等速自在継手をエンジン側(インボード側)に、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手を車輪側(アウトボード側)に装備し、両者の等速自在継手をシャフトで連結した構造をなす。
【0006】
ドライブシャフトを構成する等速自在継手の主要部は、外側継手部材、内側継手部材、ボールおよびケージで構成されている。外側継手部材は、内側継手部材、ボールおよびケージを収容したマウス部と、マウス部から軸方向に延びるステム部とからなる。
【0007】
等速自在継手を構成する外側継手部材のマウス部は、一端が開口したカップ状をなし、軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成されている。
【0008】
外側継手部材は、中実の棒状素材(バー材)を鍛造加工やしごき加工などの冷間塑性加工、切削、研削加工などの機械加工や熱処理を施すことにより製造される。
【0009】
外側継手部材の製造における切削加工工程では、例えば、特許文献1で開示されたチャック装置により、外側継手部材を芯出し把持した状態で外側継手部材の外周面および端面を切削加工するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-233782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1で開示されたチャック装置は、チャック本体の先端部に設けられた先端球状の芯出し部を有する(特許文献1の図6参照)。
【0012】
このチャック装置では、芯出し部を外側継手部材のトラック溝と位相合わせした状態でトラック溝に係合させることにより、外側継手部材を位置決めして芯出しする(特許文献1の図8参照)。
【0013】
一方、チャック本体の先端部と対向させて尖端状の芯押し部を配設する。外側継手部材の芯出し時、外側継手部材のステム部の端面に予め形成されたセンタ孔に芯押し部を係合させる(特許文献1の図8参照)。
【0014】
以上のようにして、外側継手部材のトラック溝に芯出し部を係合させて芯出しすると共に、芯押し部をステム部のセンタ孔に係合させて芯押しすることにより、外側継手部材をその両側から挟み込んだ状態で把持する。
【0015】
ここで、特許文献1のチャック装置では、芯押し部が係合するセンタ孔を外側継手部材のステム部の端面に予め加工する工程を他の設備で行う必要がある。そのため、工数の低減を図ることが困難であった。
【0016】
また、チャック本体の先端部と対向させて芯押し部が配設されることから、対向二軸の設備内で外側継手部材を受け渡しすることが困難となる。その結果、工程間で外側継手部材の位相決めを精度よく行うことが困難であった。
【0017】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、チャック本体の芯出し部と対向配置された芯押し部をなくし、外側継手部材を片持ち状態で把持し得るチャック装置および外側継手部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、等速自在継手を構成し、かつ軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成されたカップ状の外側継手部材を加工する際に、当該外側継手部材を芯出し把持するチャック装置である。
【0019】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明に係るチャック装置は、チャック本体の先端側に設けられ、トラック溝の奥側部位に係合する固定ピンと、チャック本体の固定ピン手前側に設けられ、トラック溝の開口側部位に係合する可動ピンと、クランプ時に可動ピンを径方向外側へ突出させるクランプ機構と、アンクランプ時に可動ピンを径方向内側へ退入させるアンクランプ機構とを具備したことを特徴とする。
【0020】
本発明では、チャック本体の先端側に位置する固定ピンを外側継手部材のトラック溝の奥側部位に係合させると共に、チャック本体の固定ピン手前側に位置する可動ピンを外側継手部材のトラック溝の開口側部位に係合させる。
【0021】
なお、可動ピンは、クランプ機構によりトラック溝の開口側部位に係合し、アンクランプ機構によりトラック溝の開口側部位から離脱する。
【0022】
このようにして、外側継手部材のトラック溝の奥側部位および開口側部位の二箇所に係合する固定ピンおよび可動ピンでもって、外側継手部材を片持ち状態で芯出し把持することができる。その結果、外側継手部材のステム部のセンタ孔に係合して外側継手部材を芯押しする従来の芯押し部が不要となる。
【0023】
本発明におけるクランプ機構は、チャック本体に軸方向移動可能に配置されたロッドと、チャック本体に径方向移動可能に配置された可動ピンとを備えている。クランプ機構は、ロッドのテーパ面と可動ピンのテーパ面との当接により、ロッドの軸方向移動で可動ピンを径方向外側へ突出可能とした構造が望ましい。
【0024】
このような構造を採用すれば、ロッドの軸方向移動によりロッドのテーパ面に当接する可動ピンのテーパ面を押圧することで、可動ピンを径方向外側へ突出させてトラック溝に係合させることができる。このような簡易な構造でもって、外側継手部材を片持ち状態で把持することができる。
【0025】
本発明におけるアンクランプ機構は、チャック本体に軸方向移動可能に配置されたロッドと、可動ピンに係止した状態でチャック本体に回動可能に配置されたカムとを備えている。アンクランプ機構は、ロッドのテーパ面とカムとの当接により、ロッドの軸方向移動に伴うカムの回動で可動ピンを径方向内側へ退入可能とした構造が望ましい。
【0026】
このような構造を採用すれば、ロッドの軸方向移動によりロッドのテーパ面に当接するカムを押圧して回動させることで、可動ピンを径方向内側へ退入させてトラック溝から離脱させることができる。このような簡易な構造でもって、外側継手部材の片持ち把持状態を解除することができる。
【0027】
また、本発明は、等速自在継手を構成し、かつ軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成されたカップ状の外側継手部材を製造する方法であって、チャック本体の先端側に設けられ、前記トラック溝の奥側部位に係合する固定ピンと、前記チャック本体の固定ピン手前側に設けられ、前記トラック溝の開口側部位に係合する可動ピンと、クランプ時に前記可動ピンを径方向外側へ突出させるクランプ機構と、アンクランプ時に前記可動ピンを径方向内側へ退入させるアンクランプ機構とを具備するチャック装置により、前記外側継手部材を芯出し把持して前記外側継手部材を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外側継手部材のトラック溝の奥側部位および開口側部位の二箇所に係合する固定ピンおよび可動ピンでもって、外側継手部材を片持ち状態で芯出し把持することができる。これにより、外側継手部材を加工する際に、外側継手部材のステム部のセンタ孔に係合して外側継手部材を芯押しする従来の芯押し部が不要となる。
【0029】
その結果、芯押し部が係合するセンタ孔を外側継手部材のステムの端面に予め加工する工程を他の設備で行う必要がなくなる。これにより、工数の低減が図れる。また、対向二軸の設備内で外側継手部材を受け渡しすることができる。これにより、工程間で外側継手部材の位相決めを精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態で、チャック装置の全体構成を示す断面図である。
図2】(A)は図1のP-P線に沿う断面図、(B)は図1のQ-Q線に沿う断面図である。
図3】外側継手部材を取り付け、図1のロッドの前進状態を示す断面図である。
図4図3の状態で、チャック本体先端側の固定ピンを示す断面図である。
図5】外側継手部材をクランプした状態を示す断面図である。
図6図5のロッドの後退状態を示す断面図である。
図7】外側継手部材をアンクランプした状態を示す断面図である。
図8】チャック装置に適用する外側継手部材を有する等速自在継手の全体構成を示す断面図である。
図9図8のR-R線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係るチャック装置の実施形態を図面に基づいて以下に詳述する。なお、チャック装置を説明する前に、チャック装置に適用する外側継手部材を有する等速自在継手について詳述する。
【0032】
以下の実施形態では、例えば、自動車用ドライブシャフトの車輪側(アウトボード側)に組み込まれる固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手(BJ)を例示するが、アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)にも適用可能である。
【0033】
また、自動車用ドライブシャフトのエンジン側(インボード側)に組み込まれる摺動式等速自在継手であるダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)など、他の等速自在継手にも適用可能である。
【0034】
この実施形態の等速自在継手は、図8および図9に示すように、カップ状の外側継手部材11と、内側継手部材12と、複数(図9では8個)のボール13と、ケージ14とを備えている。内側継手部材12にトルク伝達可能にシャフト15が結合されている。
【0035】
外側継手部材11は、内側継手部材12、ボール13およびケージ14を収容したマウス部16と、マウス部16から軸方向に一体的に延びるステム部17とからなる。マウス部16には、軸方向に延びる円弧状トラック溝18が球面状内周面19の円周方向複数箇所(図9では8箇所)に等間隔で形成されている。
【0036】
内側継手部材12は、外側継手部材11のトラック溝18と対をなして円弧状トラック溝20が球面状外周面21の円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。
【0037】
ボール13は、外側継手部材11のトラック溝18と内側継手部材12のトラック溝20との間に介在して回転トルクを伝達する。ボール13は、8個以外でもよく、その個数は任意である。
【0038】
ケージ14は、外側継手部材11の球面状内周面19と内側継手部材12の球面状外周面21との間に配されてボール13を保持する。
【0039】
以上の構成からなる等速自在継手では、シャフト15により外側継手部材11と内側継手部材12との間に作動角が付与されると、ケージ14に保持されたボール13は常にどの作動角においても、その作動角の二等分面内に維持される。
【0040】
これにより、外側継手部材11と内側継手部材12との間での等速性が確保される。外側継手部材11と内側継手部材12との間では、等速性が確保された状態で回転トルクがボール13を介して伝達される。
【0041】
等速自在継手を構成する外側継手部材11は、中実の棒状素材(バー材)を鍛造加工やしごき加工などの冷間塑性加工、切削、研削加工などの機械加工や熱処理を施すことにより製造される。
【0042】
外側継手部材11の製造における切削加工工程では、以下のような構造を具備したチャック装置を使用する。チャック装置の具体的構成について詳述する。
【0043】
この実施形態のチャック装置の主要部は、図1に示すように、チャック本体31と、駆動源であるシリンダ32と、固定ピン33と、可動ピン34と、クランプ機構35と、アンクランプ機構36とで構成されている。
【0044】
チャック本体31は、シリンダ32から軸方向に延びるロッド37が挿通される軸孔38を有する。ロッド37は、チャック本体31に軸方向移動可能に配置されている。この実施形態では、駆動源としてシリンダ32を例示しているが、モータ等の他の駆動源であってもよい。
【0045】
固定ピン33は、図2(A)および図4に示すように、チャック本体31の先端部に径方向に形成した貫通孔39に挿通されている。固定ピン33は、チャック本体31の貫通孔39に径方向で固定配置されている。
【0046】
固定ピン33は、ピン本体40の先端に鋼球41をロウ付けすることにより、ピン本体40と鋼球41とを一体化している。固定ピン33の球状先端部を鋼球41で構成することにより、球状先端部の強度を確保して耐久性の向上を図っている。
【0047】
チャック本体31の先端部には、貫通孔38を閉塞する栓部材42が取り付けられている。固定ピン33は、ピン本体40を栓部材42に係止させてねじ止めすることにより、チャック本体31に対して径方向で固定されている。
【0048】
固定ピン33は、チャック本体31の円周方向複数箇所(4箇所)に等間隔で配置されている〔図2(A)参照〕。固定ピン33の球状先端部(鋼球41)は、外側継手部材11の8つのトラック溝18(図9参照)のうち、4つのトラック溝18の奥側部位(図4参照)に係合可能となっている。
【0049】
可動ピン34は、図1図2(B)および図3に示すように、チャック本体31の固定ピン手前側で径方向に形成した貫通孔43に挿通されている。可動ピン34は、チャック本体31の貫通孔43に径方向移動可能に配置されている。
【0050】
可動ピン34は、ピン本体44の先端に鋼球45をロウ付けすることにより、ピン本体44と鋼球45とを一体化している。可動ピン34の球状先端部を鋼球45で構成することにより、球状先端部の強度を確保して耐久性の向上を図っている。
【0051】
可動ピン34は、チャック本体31の円周方向複数箇所(4箇所)に等間隔で配置されている〔図2(B)参照〕。可動ピン34の球状先端部(鋼球45)は、外側継手部材11の8つのトラック溝18(図9参照)のうち、固定ピン33が係合するトラック溝18以外の4つのトラック溝18の開口側部位(図3参照)に係合可能となっている。
【0052】
ここで、固定ピン33が係合するトラック溝18の位相と、可動ピン34が係合するトラック溝18の位相とが同一であると、1つのトラック溝18に固定ピン33の鋼球41と可動ピン34の鋼球45とが軸方向に並んだ状態となる。
【0053】
このように、1つのトラック溝18に固定ピン33と可動ピン34の両方が配された場合、外側継手部材11のサイズに対応する鋼球41,45の外径が大きくなると、固定ピン33の鋼球41と可動ピン34の鋼球45とが干渉するおそれがある。
【0054】
そこで、この実施形態では、固定ピン33が係合するトラック溝18の位相と、可動ピン34が係合するトラック溝18の位相とをずらしている〔図2(A)(B)参照〕。1つのトラック溝18に固定ピン33および可動ピン34のいずれか一方のみを配し、8つのトラック溝18に固定ピン33と可動ピン34とを円周方向で交互に配している。
【0055】
このように、固定ピン33が係合するトラック溝18の位相と、可動ピン34が係合するトラック溝18の位相とをずらすことにより、外側継手部材11のサイズに対応して鋼球41,45の外径が大きくなっても、固定ピン33の鋼球41と可動ピン34の鋼球45とが干渉することを回避できる。
【0056】
クランプ機構35は、図1および図3に示すように、ロッド37の先端部に形成されたテーパ面46と、可動ピン34の基端部(ピン本体44の径方向内側端部)に形成されたテーパ面47との当接により、ロッド37の軸方向移動で可動ピン34を径方向外側へ突出可能とした構造を具備する。
【0057】
この実施形態では、ロッド37のテーパ面46と可動ピン34のテーパ面47とで構成されたクランプ機構35を例示しているが、テーパ面46,47以外の構造を有するクランプ機構であってもよい。
【0058】
アンクランプ機構36は、ロッド37の先端部手前側に形成されたテーパ面48と、チャック本体31に回動可能に取り付けられたカム49との当接により、ロッド37の軸方向移動に伴うカム49の回動で可動ピン34を径方向内側へ退入可能とした構造を具備する。カム49の爪部50は、可動ピン34のピン本体44に形成された凹部51に嵌め込むことにより係止されている。
【0059】
この実施形態では、ロッド37のテーパ面48とカム49とで構成されたアンクランプ機構36を例示しているが、テーパ面48およびカム49以外の構造を有するアンクランプ機構であってもよい。
【0060】
以上の構成からなるチャック装置は、例えば、外側継手部材11の製造における切削加工工程で使用される。この実施形態におけるチャック装置を使用した外側継手部材の製造方法を以下に詳述する。
【0061】
まず、チャック本体31に外側継手部材11を取り付ける。この時、シリンダ32のロッド37を後退させている。図3に示すように、チャック本体31の先端部をマウス部16の内部に収容する。この時、固定ピン33と4つのトラック溝18とを位相合わせする。可動ピン34は、残り4つのトラック溝18に位相合わせされる。
【0062】
この状態では、図4に示すように、チャック本体31の固定ピン33が外側継手部材11の4つのトラック溝18の奥側部位に係合し、固定ピン33の鋼球41がトラック溝18の奥側部位で溝底に当接する。
【0063】
固定ピン33がトラック溝18の奥側部位に係合した状態で、図3に示すように、シリンダ32の駆動によりロッド37を軸方向に沿って図示右側へ前進させる(図3の実線矢印参照)。ロッド37の軸方向移動により、ロッド37の先端部のテーパ面46を可動ピン34の基端部のテーパ面47に当接させる。
【0064】
これにより、ロッド37のテーパ面46が可動ピン34のテーパ面47を径方向外側へ押し出すことで、可動ピン34が径方向外側へ突出する。図5に示すように、チャック本体31の可動ピン34が外側継手部材11の残り4つのトラック溝18の開口側部位に係合し、可動ピン34の鋼球45がトラック溝18の開口側部位で溝底に当接する。
【0065】
このようにして、可動ピン34の鋼球45がトラック溝18の溝底を押圧することにより、外側継手部材11のクランプを完了する。4つのトラック溝18の奥側部位に係合する固定ピン33と、残り4つのトラック溝18の開口側部位に係合する可動ピン34とでもって、外側継手部材11を片持ち状態で芯出し把持することができる。
【0066】
外側継手部材11を片持ち把持したクランプ状態で、切削用工具52により、外側継手部材11の外周面、つまり、ステム部17の端面および外周面とマウス部16の外周面を切削する(図5の実線矢印参照)。
【0067】
以上のように、クランプ時、チャック本体31の固定ピン33および可動ピン34により、外側継手部材11を片持ち状態で芯出し把持することで、外側継手部材11のステム部17のセンタ孔に係合して外側継手部材11を芯押しする従来の芯押し部(特許文献1の図8参照)が不要となる。
【0068】
その結果、芯押し部が係合するセンタ孔を外側継手部材11のステム17の端面に予め加工する工程を他の設備で行う必要がなくなる。これにより、工数の低減が図れる。また、対向二軸の設備内で外側継手部材11を受け渡しすることができる。これにより、工程間で外側継手部材11の位相決めを精度よく行うことができる。
【0069】
外側継手部材11の切削加工後、図6に示すように、シリンダ32の駆動によりロッド37を軸方向に沿って図示左側へ後退させる(図6の実線矢印参照)。このロッド37の軸方向移動によりロッド37の先端部のテーパ面46を可動ピン34の基端部のテーパ面47から離隔させる。
【0070】
この時、ロッド37の先端部手前側のテーパ面48がカム49に当接することにより、ロッド37のテーパ面48がカム49を回動させる(図6の破線矢印参照)。カム49の爪部50が可動ピン34のピン本体44に係止されていることから、カム49が可動ピン34を径方向内側へ引き込むことで、可動ピン34が径方向内側へ退入する。
【0071】
これにより、図7に示すように、可動ピン34の鋼球45が外側継手部材11のトラック溝18の開口側部位で溝底から離隔し、可動ピン34がトラック溝18の開口側部位から離脱する。これにより、外側継手部材11のアンクランプを完了する。
【0072】
このようにして、可動ピン34が径方向内側へ十分に引き込まれた状態で、外側継手部材11の取り外しが可能となる。外側継手部材11は、チャック本体31からの取り外し後、次の加工工程に搬送される。
【0073】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0074】
11 外側継手部材
18 トラック溝
19 内周面
31 チャック本体
33 固定ピン
34 可動ピン
35 クランプ機構
36 アンクランプ機構
37 ロッド
46,47,48 テーパ面
49 カム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9