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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005118
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】健康スコアの推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
A61B5/11 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105150
(22)【出願日】2023-06-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業「内受容感覚操作システム開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】下田 真吾
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】歩行状態に関連する特徴量を利用して、対象者の健康スコアを推定する。
【解決手段】被験者特徴量取得ステップS11では、被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、歩行状態に関する特徴量でありかつ膝の状態と相関のある特徴量を取得する。学習モデル作成ステップS12では、被験者特徴量取得ステップS11で取得された特徴量と被験者の膝の状態のデータとから、特徴量及び膝の状態の関連性を学習して学習モデルを作成する。対象者特徴量取得ステップS13では、対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者特徴量取得ステップS11で取得された特徴量と同じ種類の特徴量を取得する。膝状態スコア推定ステップS14では、対象者特徴量取得ステップS13で取得された特徴量を、学習モデル作成ステップS12で作成された学習モデルに与え、対象者の膝の状態を膝状態スコアとして推定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定する、健康スコアの推定方法であって、
前記健康スコアは、前記対象者の膝の状態を前記健康状態として定量的に評価するための膝状態スコアを含み、
複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者の歩行状態に関する特徴量であり、かつ前記膝の状態と相関のある特徴量を取得する被験者特徴量取得ステップと、
前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量、及び前記被験者毎の膝の状態のデータから、前記特徴量及び前記膝の状態の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、
前記対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量と同じ種類の特徴量を取得する対象者特徴量取得ステップと、
前記対象者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記対象者の前記膝の状態を前記膝状態スコアとして推定する膝状態スコア推定ステップと、を備える、健康スコアの推定方法。
【請求項2】
前記被験者の前記膝の状態のデータには、前記膝の状態に関する質問票に対し、前記被験者が回答した結果に関する情報が含まれている請求項1に記載の健康スコアの推定方法。
【請求項3】
前記被験者の前記膝の状態のデータには、膝の疾病の進行度合いを示す分類に関する情報が含まれている請求項1又は請求項2に記載の健康スコアの推定方法。
【請求項4】
対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定する、健康スコアの推定方法であって、
前記健康スコアは、前記対象者の歩行年齢を前記健康状態として定量的に評価するための歩行年齢スコアを含み、
複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ前記歩行年齢と相関のある特徴量を取得する被験者特徴量取得ステップと、
前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量、及び前記被験者毎の前記歩行年齢のデータから、前記特徴量及び前記歩行年齢の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、
前記対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量と同じ種類の特徴量を取得する対象者特徴量取得ステップと、
前記対象者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記対象者の前記歩行年齢を前記歩行年齢スコアとして推定する歩行年齢スコア推定ステップと、を備える、健康スコアの推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定する、健康スコアの推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態である運動器症候群が社会問題となっている。運動器症候群を早期に発見するために、運動器症候群の判定に関する技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、被測定者の歩行状態の変化を簡易に把握することのできるシステムが提案されている。
【0003】
このシステムでは、足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する。測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する。取得された特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する。歩行状態が所定のアラート対象の状態であると判定された場合には、そのことを報知するようにしている。
【0004】
上記システムによれば、被測定者又は保護者等の他者は、被測定者に測定部を装着させて歩行させ、アラート対象の状態であることの報知を確認する。上記報知により、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、被測定者の歩行状態がアラート対象の状態に変化したことを簡易に把握できる。そして、被測定者を医療機関に受診させる等の適切な対応を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-137371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歩行状態に関連する上記特徴量を利用して、対象者毎の歩行に関する健康状態、例えば、膝の状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定できれば、膝の悪化、ひいては疾病の予兆を早期に知ることが可能となる。しかし、そういった健康スコアを推定する方法は、未だ実現化されていないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための健康スコアの推定方法の各態様を記載する。
[態様1]対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定する、健康スコアの推定方法であって、前記健康スコアは、前記対象者の膝の状態を前記健康状態として定量的に評価するための膝状態スコアを含み、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者の歩行状態に関する特徴量であり、かつ前記膝の状態と相関のある特徴量を取得する被験者特徴量取得ステップと、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量、及び前記被験者毎の膝の状態のデータから、前記特徴量及び前記膝の状態の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、前記対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量と同じ種類の特徴量を取得する対象者特徴量取得ステップと、前記対象者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記対象者の前記膝の状態を前記膝状態スコアとして推定する膝状態スコア推定ステップと、を備える、健康スコアの推定方法。
【0008】
ここで、対象者とは、健康スコアとして膝状態スコアが推定される人である。また、被験者とは、測定情報及び膝の状態のデータを提供する人である。
上記の方法によれば、対象者の健康スコアとして膝状態スコアを推定する場合には、被験者特徴量取得ステップ、学習モデル作成ステップ、対象者特徴量取得ステップ及び膝状態スコア推定ステップが行われる。
【0009】
被験者特徴量取得ステップでは、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ膝の状態と相関のある特徴量が取得される。
【0010】
学習モデル作成ステップでは、被験者特徴量取得ステップで取得された特徴量と、被験者毎の膝の状態のデータとから、特徴量と膝の状態との関連性が学習されて学習モデルが作成される。すなわち、特徴量と膝の状態との間にある法則が関連性として見つけられて、その法則を表現するためのアルゴリズムが学習モデルとして作成される。
【0011】
対象者特徴量取得ステップでは、対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者特徴量取得ステップで取得された特徴量と同じ種類の特徴量が取得される。
【0012】
膝状態スコア推定ステップでは、対象者特徴量取得ステップで取得された対象者の特徴量が、学習モデル作成ステップで作成された学習モデルに与えられて、対象者の膝の未知の状態が膝状態スコアとして推定される。
【0013】
従って、推定された膝状態スコアから、対象者の膝の悪さの度合いを知ることが可能となる。
[態様2]前記被験者の前記膝の状態のデータには、前記膝の状態に関する質問票に対し、前記被験者が回答した結果に関する情報が含まれている[態様1]に記載の健康スコアの推定方法。
【0014】
上記の方法によれば、学習モデル作成ステップでは、被験者の膝の状態のデータとして、膝の状態に関する質問票に対し、被験者が回答した結果が用いられる。従って、被験者の膝の状態のデータは、膝の状態について被験者が実際に感ずる自覚症状、例えば痛みの有無、痛みの程度等の自覚症状を反映したものとなる。そのため、被験者の膝の状態のデータ及び学習モデルは、精度の高いものとなる。
【0015】
[態様3]前記被験者の前記膝の状態のデータには、膝の疾病の進行度合いを示す分類に関する情報が含まれている[態様1]又は[態様2]に記載の健康スコアの推定方法。
上記の方法によれば、学習モデル作成ステップでは、被験者の膝の状態のデータとして、膝の疾病、例えば、変形性膝関節症の進行度合いを示す分類に関する情報が用いられる。従って、被験者の膝の状態のデータは、膝の疾病の進行度合いを客観的に反映したものとなる。そのため、被験者の膝の状態のデータ及び学習モデルは、精度の高いものとなる。
【0016】
[態様4]対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定する、健康スコアの推定方法であって、前記健康スコアは、前記対象者の歩行年齢を前記健康状態として定量的に評価するための歩行年齢スコアを含み、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ前記歩行年齢と相関のある特徴量を取得する被験者特徴量取得ステップと、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量、及び前記被験者毎の前記歩行年齢のデータから、前記特徴量及び前記歩行年齢の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、前記対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、前記被験者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量と同じ種類の特徴量を取得する対象者特徴量取得ステップと、前記対象者特徴量取得ステップで取得された前記特徴量を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記対象者の前記歩行年齢を前記歩行年齢スコアとして推定する歩行年齢スコア推定ステップと、を備える、健康スコアの推定方法。
【0017】
ここで、対象者とは、健康スコアとして歩行年齢スコアが推定される人である。また、被験者とは、測定情報及び歩行年齢のデータを提供する人である。
上記の方法によれば、対象者の健康スコアとして歩行年齢スコアを推定する場合には、被験者特徴量取得ステップ、学習モデル作成ステップ、対象者特徴量取得ステップ及び歩行年齢スコア推定ステップが行われる。
【0018】
被験者特徴量取得ステップでは、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ歩行年齢と相関のある特徴量が取得される。
【0019】
学習モデル作成ステップでは、被験者特徴量取得ステップで取得された特徴量と、被験者毎の歩行年齢のデータとから、被験者の特徴量と歩行年齢との関連性が学習されて学習モデルが作成される。すなわち、被験者の特徴量と歩行年齢との間にある法則が関連性として見つけられて、その法則を表現するためのアルゴリズムが学習モデルとして作成される。
【0020】
対象者特徴量取得ステップでは、対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者特徴量取得ステップで取得された特徴量と同じ種類の特徴量が取得される。
【0021】
歩行年齢スコア推定ステップでは、対象者特徴量取得ステップで取得された対象者の特徴量が、学習モデル作成ステップで作成された学習モデルに与えられて、対象者の未知の歩行年齢が歩行年齢として推定される。
【0022】
従って、推定された歩行年齢スコアから、対象者の歩行年齢を知ることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、歩行状態に関連する特徴量を利用して、対象者の健康スコアを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】健康スコアの推定方法を具体化した一実施形態において、膝状態スコア及び歩行年齢スコアと健康状態との関係を規定した二次元のマップである。
図2】上記実施形態における歩行判定システムの説明図である。
図3】上記実施形態における圧力センサの配置状態を説明する説明図である。
図4】上記実施形態における特徴量データの説明図である。
図5】上記実施形態における情報処理部の説明図である。
図6】上記実施形態におけるスコア推定部の説明図である。
図7】上記実施形態の圧力センサによって測定された圧力の経時的変化を示す波形データのグラフである。
図8図7のグラフから抽出された一歩区間の波形データのグラフである。
図9】上記実施形態における足圧中心の二次元座標のグラフである。
図10】上記実施形態における振れ角の説明図である。
図11】上記実施形態における健康スコアとして膝状態スコア及び歩行年齢スコアをそれぞれ推定する手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、健康スコアの推定方法を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の推定方法は、歩行判定システムにおいて実施される。
【0026】
図2に示すように、歩行判定システムは、測定部としての測定装置10と、歩行判定装置20とを備えている。次に、歩行判定システムの各部について説明する。
《測定装置10》
図2及び図3に示すように、測定装置10は、シューズの中敷きとして用いられる基部11を備えている。基部11には、歩行中の足裏にかかる部位毎の圧力を検出する圧力センサ12として、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c及び外側センサ12dが取り付けられている。
【0027】
なお、歩行とは、一般的には、足裏で地面を踏み、体を支える時期である立脚期と、片方の足をもち上げて前に振り出す時期である遊脚期とからなる。本明細書では、上記立脚期及び遊脚期に加え、移動を開始する直前の止まっている時期と、移動を終えた直後の止まっている時期も、歩行に含まれるものとする。
【0028】
図3に示すように、基部11において、踵センサ12aは、踵の荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の踵にかかる圧力を検出する。ここで、つま先を構成する5本の指を区別するために、親指から小指に向けて、第1指(親指)、第2指、第3指、第4指、第5指(小指)とする。つま先センサ12bは、第2指~第4指のうち、荷重がかかる部分のいずれかに配置され、かつ足裏のつま先にかかる圧力を検出する。
【0029】
ここで、内側とは、左右方向のうち、反対側の足に近い側であり、外側とは、同方向のうち、反対側の足から遠い側である。
内側センサ12cは、踵センサ12aとつま先センサ12bとを結ぶ線Lよりも内側であって、母指球の荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の内側部分にかかる圧力を検出する。外側センサ12dは、線Lよりも外側であって、小指球の荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の外側部分にかかる圧力を検出する。
【0030】
換言すると、踵センサ12a及びつま先センサ12bは、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置の圧力を検出するように配置されている。内側センサ12c及び外側センサ12dは、第1位置及び第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の圧力を検出するように配置されている。
【0031】
なお、上述した踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dを互いに区別する必要がない場合には、単に「圧力センサ12」ということがある。
【0032】
各圧力センサ12は、それぞれ独立して、所定時間毎に足裏にかかる部位毎の圧力を検出する。上記所定時間は、例えば、5ミリ秒~30ミリ秒である。
圧力センサ12としては、圧電素子等を用いた公知の感圧センサを用いることができる。特に、足裏に配置されるという使用状況に鑑みると、伸縮性及び耐久性の観点から、誘電エラストマーを利用したエラストマー製の静電容量型センサを用いることが好ましい。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマー等が挙げられる。
【0033】
図2に示すように、測定装置10には、送信部13が取り付けられている。送信部13は、各圧力センサ12により検出された各検出値を、測定情報として歩行判定装置20に対し、所定のタイミング、例えば、検出タイミング毎に送信する。各圧力センサ12により検出された各検出値は、静電容量値、電気抵抗値等の圧力センサの検出方式に応じた圧力値に変換可能な検出値である。従って、以下に記載する「検出値」は、足裏の圧力センサ12が取り付けられている位置における圧力の測定値と読み替えることができる。
【0034】
なお、測定装置10は、左足用及び右足用の両方に対し用意されている。必要に応じて、左右のいずれかの測定装置10のみ、又は左右両方の測定装置10が使用される。
《歩行判定装置20》
図2に示すように、歩行判定装置20は、測定装置10の送信部13から送信された測定情報を受信する受信部21と、受信した測定情報等を記憶する記憶部22と、測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部23とを備えている。また、歩行判定装置20は、取得された上記特徴量に基づいて、対象者の歩行に関する健康状態を定量的に評価するためのスコアを健康スコアとして推定するスコア推定部24を備えている。健康スコアは、本実施形態では、対象者の膝の状態を健康状態として定量的に評価するための膝状態スコアと、対象者の歩行年齢を健康状態として定量的に評価するための歩行年齢スコアとを含んでいる。
【0035】
歩行判定装置20は、さらに、各種表示を行う表示部25と、各種の情報を入力する入力部26とを備えている。
上記歩行判定装置20としては、例えば、携帯端末、タブレット端末等のコンピュータを用いることができる。表示部25としては、例えば、液晶ディスプレイ等の公知の表示デバイスを用いることができる。入力部26としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の公知の入力デバイスを用いることができる。
【0036】
受信部21は、有線又は無線の通信手段を有し、公知の通信方式にて測定装置10の送信部13と通信を行う。
<記憶部22>
記憶部22は、測定装置10から送信された測定情報を記憶するとともに、測定情報に基づく特徴量データを記憶するように構成されている。図4に示すように、特徴量データには、日時やユーザー名等の識別情報と、歩行状態に関連する特徴量F1~F13とが含まれている。
【0037】
記憶部22には、同じ被験者の過去の特徴量データ、異なる被験者の特徴量データ、医療従事者等の専門家により設定されたモデルデータ等の複数の特徴量データが記憶されている。上記モデルデータとしては、例えば、内反足や外反足等の特定の症状を有する被験者の測定結果から得られた特徴量データが挙げられる。さらに、記憶部22には、情報処理部23及びスコア推定部24における各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムが記憶されている。
【0038】
記憶部22としては、例えば、HDD、SSD、半導体メモリ素子等が挙げられる。また、記憶部22は、ネットワークを介して歩行判定装置20に接続された記憶装置であってもよい。
【0039】
<情報処理部23>
図5に示すように、情報処理部23は、波形データ作成部31、分割部32、区間最大値取得部33、区間時間取得部34、座標算出部35、滞在比率算出部36、振れ値算出部37、FTA算出部38、及びLHA算出部39を備えている。情報処理部23は、さらに、膝状態学習モデル作成部40、歩行年齢学習モデル作成部41、及び第1表示処理部42を備えている。
【0040】
[波形データ作成部31]
波形データ作成部31は、記憶部22に記憶されている分析対象となる測定情報に基づいて、各圧力センサ12により検出された片足の足裏の部位毎の検出値の時間変化を表す波形データを作成する。波形データ作成部31により作成される波形データの一例を図7に示す。図7において、実線は、踵センサ12aの検出値を示し、一点鎖線は、つま先センサ12bの検出値を示し、二点鎖線は、内側センサ12cの検出値を示し、破線は、外側センサ12dの検出値を示す。
【0041】
[分割部32]
分割部32は、作成された波形データから、歩行時の足の着地から離地までの特定の一歩分の区間を対象区間として抽出するとともに、抽出した対象区間をさらに複数の小区間に分割する。
【0042】
図7に示すように、歩行時の波形データは、圧力値が略一定の区間と、検出値が変化する区間とを周期的に繰り返す波形となる。歩行時の波形データにおいて、検出値が略一定の区間は、地面から足が離れている区間(遊脚期)である。上記波形データにおいて、検出値が変化している区間は、地面に足が接している区間である。分割部32は、複数の一歩区間Aから、特定の一歩区間Aを抽出する。一歩区間Aでは、各部位の検出値が略一定である区間から踵の圧力値が上昇を開始した点を始点t1とし、各部位の検出値が略一定となるそれぞれの開始点のうちの最も遅い開始点を終点t2とする。
【0043】
なお、一歩区間Aの始点t1及び終点t2は、上記とは異なる方法で設定されてもよい。例えば、各部位の検出値が略一定となってから所定時間経過した点が上記終点t2と設定されてもよい。
【0044】
抽出する一歩区間Aは、例えば、以下に示すように、予め設定された基準に基づいて分割部32が選択する。
・測定開始から10歩目、20歩目等の予め設定された順番に位置する一歩区間Aを選択すること。
【0045】
・前回抽出した一歩区間Aから一定時間経過後の一歩となる一歩区間Aを選択すること。
・波形データを一定の歩数又は時間で区分けし、区分けした各区間内でランダムに一歩区間Aを選択すること。
【0046】
図8に示すように、分割部32は、抽出した一歩区間Aを踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amといった小区間に分割する。
踵区間Ahは、一歩区間Aのうち、相対的に踵側に圧力がかかる初期の小区間である。本実施形態においては、一歩区間Aの始点t1から踵センサ12aの検出値がピークの頂点となる時点t3までの区間を踵区間Ahとする。
【0047】
つま先区間Atは、一歩区間Aのうち、相対的につま先側に圧力がかかる終期の小区間である。本実施形態においては、4個の圧力センサ12の検出値の中でつま先センサ12bの検出値が最も大きくなる時点t4から一歩区間Aの終点t2までの区間をつま先区間Atとする。なお、歩行の仕方によっては、つま先区間Atが無い場合もある。
【0048】
中間区間Amは、一歩区間Aから踵区間Ah及びつま先区間Atを除いた小区間である。つま先区間Atがある場合には、時点t3から時点t4までの区間を中間区間Amとし、つま先区間Atがない場合には、時点t3から終点t2までの区間を中間区間Amとする。
【0049】
なお、踵区間Ah、中間区間Am、及びつま先区間Atとして、上記とは異なる定義がなされてもよい。例えば、つま先センサ12bの検出値がピークの頂点となる時点から一歩区間Aの終点t2までの区間がつま先区間Atとされてもよい。
【0050】
また、部位毎の圧力の相対的な関係を用いることなく各小区間が設定されてもよい。例えば、一歩区間Aの始点t1から特定時間後までの区間が踵区間Ahとされてもよい。また、一歩区間Aの終点t2の特定時間前から終点t2までの区間がつま先区間Atとされてもよい。
【0051】
また、一歩区間Aは、上記とは異なる方法で、複数の小区間に分割されてもよい。例えば、中間区間Amがさらに分割されることにより、一歩区間Aが4以上の小区間に分割されてもよい。上記複数の小区間は、踵側に圧力がかかる区間及びつま先側に圧力がかかる区間とは無関係に分割された小区間であってもよい。
【0052】
[区間最大値取得部33]
区間最大値取得部33は、踵区間Ahにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、踵区間最大値Ahmax と記載する。)、及びつま先区間Atにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、つま先区間最大値Atmax と記載する。)を測定情報から取得する。そして、取得した踵区間最大値Ahmax 及びつま先区間最大値Atmax を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F1,F2として記憶部22に記憶させる。
【0053】
[区間時間取得部34]
区間時間取得部34は、踵区間Ahの長さである区間時間Th、中間区間Amの長さである区間時間Tm、及びつま先区間Atの長さである区間時間Ttを測定情報から取得する。そして、取得した区間時間Th,Tm,Ttを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F3~F5として記憶部22に記憶させる。なお、各区間時間は、秒数等の時間そのものであってもよいし、該当する区間における測定点の点数等の区間時間に相当するパラメータであってもよい。
【0054】
[座標算出部35]
図9に示すように、座標算出部35は、一歩区間Aの測定情報に基づいて、踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの各小区間における検出時間毎の足圧中心の二次元座標(X(t),Y(t))を算出する。X(t)は、時刻tにおける足圧中心の左右方向座標であり、Y(t)は、時刻tにおける足圧中心の前後方向座標である。足圧中心の二次元座標は、同じ検出時間に検出された4つの圧力センサ12の検出値から求めることができる。なお、図9に示す二次元座標における点12a~12dはそれぞれ、対応する符号の圧力センサ12の位置を示している。
【0055】
[滞在比率算出部36]
図9に示すように、滞在比率算出部36は、足圧中心の二次元座標系を、予め設定された3つの領域B1,B2,B3に分割する。滞在比率算出部36は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、滞在比率Rh1、滞在比率Rh2、及び滞在比率Rh3を算出する。滞在比率Rh1は、踵区間Ahにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である。滞在比率Rh2は、踵区間Ahにおいて、領域B2に滞在する時間の比率である。滞在比率Rh3は、踵区間Ahにおいて、領域B3に滞在する時間の比率である。そして、算出された滞在比率Rh1,Rh2,Rh3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F6として記憶部22に記憶させる。
【0056】
同様に、滞在比率算出部36は、中間区間Amにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rm1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rm2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rm3を算出する。そして、算出された滞在比率Rm1,Rm2,Rm3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F7として記憶部22に記憶させる。
【0057】
同様に、滞在比率算出部36は、つま先区間Atにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rt1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rt2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rt3を算出する。そして、算出された滞在比率Rt1,Rt2,Rt3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F8として記憶部22に記憶させる。
【0058】
上記の各滞在比率は、対応する領域に滞在する秒数等の滞在時間そのものに基づく数値であってもよいし、二次元座標系において当該領域に位置する測定点の点数等の滞在時間に相当するパラメータに基づく数値であってもよい。
【0059】
滞在比率を算出する場合における足圧中心の二次元座標系の分割は、上記とは異なる方法によってなされてもよい。上記二次元座標系は、左右方向に並ぶ複数の領域に分割されることに代え、前後方向に並ぶ複数の領域に分割されてもよいし、前後左右に並ぶ複数の領域に分割されてもよい。また、足圧中心の二次元座標系の分割数は、2であってもよいし、4以上であってもよい。
【0060】
[振れ値算出部37]
振れ値算出部37は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、足圧中心の振れを示す振れ値として、踵区間Ahの振れ値Sh、中間区間Amの振れ値Sm、つま先区間Atの振れ値Stを算出する。例えば、踵区間Ahの振れ値Shは、以下のようにして算出される。
【0061】
図10に示すように、踵区間Ah内において、連続する3つの測定点における足圧中心の二次元座標をそれぞれ座標Pn 、座標Pn+1 、座標Pn+2 とするとともに、座標Pn から座標Pn+1 への変化量を示すベクトルV1と、座標Pn+1 から座標Pn+2 への変化量を示すベクトルV2とがなす角を振れ角θとする。
【0062】
振れ値算出部37は、踵区間Ah内における最後の2つを除く全ての足圧中心の二次元座標について、上記の座標Pn とした場合の振れ角θをそれぞれ算出し、これら振れ角θを合算することにより、振れ角θの総和である振れ値Shを算出する。中間区間Amの振れ値Sm及びつま先区間Atの振れ値Stについても同様に算出する。そして、振れ値算出部37は、算出された振れ値Sh,Sm,Stを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F9~F11として記憶部22に記憶させる。
【0063】
なお、全ての小区間の振れ値が算出されることに代え、特定の小区間の振れ値のみが算出されてもよい。
[FTA算出部38]
FTA算出部38は、一歩区間Aの測定情報に基づいて被験者又は対象者の大腿脛骨角(以下、FTAと記載する。)を算出する。そして、FTA算出部38は、算出されたFTAを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F12として記憶部22に記憶させる。
【0064】
FTAは、大腿骨の長軸と脛骨の長軸のなす角度であり、内反足及び外反足を判定する基準の一つとして用いられている。FTAは、膝関節の状態を示すパラメータであることから歩行状態と密接な関係を有しており、足裏の圧力分布、具体的には、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dにより検出される荷重のバランスから推定できる。
【0065】
[LHA算出部39]
LHA算出部39は、一歩区間Aの測定情報に基づいて被験者又は対象者のレッグヒール角(以下、LHAと記載する。)を算出する。そして、LHA算出部39は、算出されたLHAを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F13として記憶部22に記憶させる。
【0066】
LHAは、下腿長軸と踵骨軸のなす角度であり、内反足及び外反足を判定する基準の一つとして用いられている。LHAは、足と踵の傾きを示すパラメータであることから、歩行状態と密接な関係を有しており、足裏の圧力分布、具体的には、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dにより検出される荷重のバランスから推定できる。
【0067】
LHA及びFTAの推定方法の一例として、角度推定モデルを用いた方法が挙げられる。この方法では、まず、LHA及びFTAの実際の計測結果、基本データ、歩行データをセットとした教師データを収集する。基本データは、性別や年齢、身長や体重値といった生体情報からなる。歩行データは、左右のバランス、前後のバランス、離着地の加速度、離着地の強さ(荷重値)、振れ幅といった圧力センサ12によって測定される歩行情報からなる。次いで、収集した教師データをニューラルネットワークで機械学習させることにより、入力された基本データ及び歩行データに対して、LHA及びFTAの計測結果を推定して出力する角度推定モデルを構築する。こうした学習済みの角度推定モデルを用いることにより、被験者又は対象者の測定情報に基づいてLHA及びFTAを推定することができる。なお、体の揺れる大きさである振れ幅は、運動器の状態変化に影響を受けるLHA及びFTAと関わりが大きい。そのため、振れ幅を歩行情報として学習させることで、角度推定モデルの推定精度を向上させることができる。
【0068】
なお、上記以外の特徴量が算出されて記憶部22に記憶されてもよい。該当する特徴量としては、例えば、歩行速度、歩行時における左右の足の同期性、連続歩行時間等が挙げられる。
【0069】
[第1表示処理部42]
第1表示処理部42は、図4に示す特徴量データ、図8に示す一歩区間Aの波形データ、図9に示す足圧中心の二次元座標データ等を表示部25に表示させるための画像等を作成する。そして、第1表示処理部42は、入力部26を通じた所定の操作がなされた場合に、作成された画像等を表示部25に表示させる。
【0070】
[膝状態学習モデル作成部40]
膝状態学習モデル作成部40は、被験者毎に取得された上記特徴量と、被験者の膝の状態のデータとから、特徴量と膝の状態との関連性を学習して学習モデルを作成する。特徴量としては、上述した多くの種類の特徴量の中から、膝の状態との間に正の相関の見られるものが選ばれる。なお、ここでの特徴量の取得には、取得すること自体に加え、記憶部22に記憶すること、及び記憶部22から読み出すことが含まれる。
【0071】
被験者の膝の状態のデータには、膝の状態に関する質問票(アンケート)に対し、被験者が回答した結果が含まれている。質問票としては、例えば、変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM:Japan Knee Osteoarthritis Measure)を用いることができる。JKOMは「膝の痛みやこわばり」、「日常生活の状態」、「普段の活動」、「健康状態」の4項目、全25問で構成される自記式質問表である。合計点(25~125点)がJKOMスコアとされ、重症なほど高得点となる。また、上記質問票として、ロコモ25と呼ばれる、運動器の不調に関する25個の質問票を用いることができる。ロコモは、ロコモティブシンドロームの略であり、運動器の障害のために移動(立つ、歩く)機能の低下をきたした状態のことである。
【0072】
上記JKOM及びロコモは、いずれか一方が用いられてもよいし、両方が組み合わせられて用いられてもよい。後者の場合、例えば、加重平均値が用いられてもよい。
さらに、被験者の膝の状態のデータには、膝の疾病、例えば変形性膝関節症等の進行度合いを示す分類(ステージ分類)に関する情報が含まれている。この分類としては、例えば、Kellgren-Lawrence(ケルグレンローレンス)分類を用いることができる。変形性膝関節症は、X線検査によって診断される。X線により映し出された大腿骨と脛骨の末端とに注視し、膝の状態が確認される。ここでの膝の状態とは、例えば、大腿骨と脛骨の隙間、O脚やX脚、骨棘(異常に突出した骨)が形成されているかどうか等である。ケルグレンローレンス分類では、上記膝の状態が、医師等の医療関係者によってグレード0~4のいずれかに分類され、膝の疾病(変形性膝関節症)の進行度合いが決定される。
【0073】
上記質問票(JKOM、ロコモ)の結果、及びケルグレンローレンス分類は、いずれか一方が用いられてもよいし、両方が組み合わせられて用いられてもよい。後者の場合、例えば、乗算されてもよい。組み合わせられる種類が多くなるに従い、膝の状態のデータの精度、ひいては作成される学習モデルの精度が高くなる。
【0074】
[歩行年齢学習モデル作成部41]
歩行年齢学習モデル作成部41は、被験者毎に取得された上記特徴量と、被験者の歩行年齢のデータとから、特徴量と歩行年齢との関連性を学習して学習モデルを作成する。特徴量としては、上述した多くの種類の特徴量の中から、歩行年齢との間に正の相関の見られるものが選ばれる。
【0075】
<スコア推定部24>
図6に示すように、スコア推定部24は、膝状態スコア推定部51、歩行年齢スコア推定部52、及び第2表示処理部53を備えている。
【0076】
[膝状態スコア推定部51]
膝状態スコア推定部51は、対象者の膝の状態を健康状態として定量的に評価するための膝状態スコアを、健康スコアの一部として推定する。膝状態スコア推定部51は、対象者の特徴量を、上記膝状態学習モデル作成部40で作成された学習モデルに与えて、対象者の膝の状態を膝状態スコアとして推定する。そして、膝状態スコア推定部51は、推定した膝状態スコアに対応する信号を第2表示処理部53に出力する。
【0077】
[歩行年齢スコア推定部52]
歩行年齢スコア推定部52は、対象者の歩行年齢を健康状態として定量的に評価するための歩行年齢スコアを、健康スコアの一部として推定する。歩行年齢スコア推定部52は、対象者の歩行状態に関する特徴量を、上記歩行年齢学習モデル作成部41で作成された学習モデルに与えて、対象者の歩行年齢を歩行年齢スコアとして推定する。そして、歩行年齢スコア推定部52は、推定した歩行年齢スコアに対応する信号を第2表示処理部53に出力する。
【0078】
[第2表示処理部53]
第2表示処理部53は、図1に示す二次元のマップ(画像)を表示部25に表示させる。
【0079】
このマップには、膝状態スコア及び歩行年齢スコアと、健康状態との関係が規定されている。膝状態スコアは、マップの横軸に規定されている。膝状態スコアは、膝の状態が左側ほど良く、右側ほど悪いことを示している。歩行年齢スコアはマップの縦軸に規定されている。歩行年齢スコアは上側ほど若々しい歩き方をし、下側ほど年老いた歩き方をすることを示している。
【0080】
健康状態は、大きくは、次の3つの領域D,G,Rに分類されている。
マップの中央部付近の領域は、一般的な健康状態である人が多い領域Gを示している。マップの左上の領域は、頑健な健康状態である人が多い領域Rを示している。マップの右下の領域は、病気と診断された人の多い領域Dを示している。
【0081】
領域Rは、学生、アスリート等が多い領域r1と、若年で健常な人が多い領域r2とを含んでいる。領域Rは、上記領域r2において上記領域Gの一部と重複している。
領域Dは、フレイルである人が多い領域d1と、変形性膝関節症の人が多い領域d2と、前後十字靱帯損傷の人が多い領域d3とを含んでいる。フレイルは、老化に伴い抵抗力が弱まり、体力が低下した状態である。領域d1の一部と領域d2の一部とは重複している。また、領域d2の一部と領域d3の一部とは重複している。
【0082】
領域Dは、領域d2の一部、領域d3の一部等において、領域Gの一部と重複している。
なお、上記領域D,G,Rは、多数の被験者を対象とし、それぞれの健康状態と、膝の状態と、歩行年齢とを測定又は調査して、決定されている。
【0083】
第2表示処理部53は、さらに、図1のマップ上であって、膝状態スコア推定部51で推定された膝状態スコアと、歩行年齢スコア推定部52で推定された歩行年齢スコアとにより定まる二次元座標上に、ドット等のマーク55を表示部25に表示させる。この表示されるマーク55は、対象者の健康状態を示すものである。
【0084】
次に、本実施形態の作用として、歩行判定システムを用いて、対象者の膝状態スコアと歩行年齢スコアとをそれぞれ健康スコアとして推定する方法について、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0085】
最初に、膝状態スコアを推定する手順について説明する。
被験者特徴量取得ステップS11として、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ膝の状態との間に正の相関のあるものが取得される。すなわち、上述した多くの種類の特徴量の中から、膝の状態との間に正の相関のあるものが取得される。上述したように、特徴量F1,F2は、区間最大値取得部33によって取得される。特徴量F3~F5は、区間時間取得部34によって取得される。特徴量F6~F8は滞在比率算出部36によって取得される。特徴量F9~F11は、振れ値算出部37によって取得される。特徴量F12はFTA算出部38によって取得され、特徴量F13はLHA算出部39によって取得される。
【0086】
次に、学習モデル作成ステップS12として、上記被験者特徴量取得ステップS11で取得された特徴量と、被験者毎の膝の状態のデータとから、特徴量と膝の状態との関連性が学習されて学習モデルが作成される。すなわち、特徴量と膝の状態との間にある法則が関連性として見つけられて、その法則を表現するためのアルゴリズムが学習モデルとして作成される。
【0087】
この際、被験者の膝の状態のデータとして、膝の状態に関する質問票(JKOM、ロコモ25)に対し、被験者が回答した結果が用いられる。また、被験者の膝の状態のデータとして、膝の疾病、例えば、変形性膝関節症の進行度合いを示す分類(ケルグレンローレンス分類)に関する情報が用いられる。
【0088】
続く対象者特徴量取得ステップS13として、対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、上記被験者特徴量取得ステップS11で取得された特徴量と同じ種類の特徴量が取得される。
【0089】
次に、膝状態スコア推定ステップS14として、上記対象者特徴量取得ステップS13で取得された対象者の特徴量が、上記学習モデル作成ステップS12で作成された学習モデルに与えられて、対象者の膝の未知の状態が膝状態スコアとして推定される。
【0090】
続いて、歩行年齢スコアを推定する手順について説明する。
まず、被験者特徴量取得ステップS15として、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ歩行年齢との間に正の相関のあるものが取得される。すなわち、上述した多くの種類の特徴量の中から、歩行年齢との間に正の相関のあるものが取得される。
【0091】
次に、学習モデル作成ステップS16として、上記被験者特徴量取得ステップS15で取得された特徴量と、被験者毎の歩行年齢のデータとから、特徴量と歩行年齢との関連性が学習されて学習モデルが作成される。すなわち、特徴量と歩行年齢との間にある法則が関連性として見つけられて、その法則を表現するためのアルゴリズムが学習モデルとして作成される。
【0092】
続く対象者特徴量取得ステップS17として、対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、上記被験者特徴量取得ステップS15で取得された特徴量と同じ種類の特徴量が取得される。
【0093】
次に、歩行年齢スコア推定ステップS18として、上記対象者特徴量取得ステップS17で取得された対象者の特徴量が、上記学習モデル作成ステップS16で作成された学習モデルに与えられて、対象者の未知の歩行年齢が歩行年齢スコアとして推定される。
【0094】
そして、表示ステップS19として、上記マップ上において、上記のように推定された膝状態スコア及び歩行年齢スコアにより定まる二次元座標上の箇所に、ドット等のマーク55が表示される。
【0095】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ膝の状態と相関のある特徴量を取得する。取得された特徴量、及び被験者毎の膝の状態のデータから、特徴量及び膝の状態の関連性を学習して学習モデルを作成する。対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、上記のように取得された被験者の特徴量と同じ種類の特徴量を取得する。取得された特徴量を上記学習モデルに与えて、対象者の膝の状態を膝状態スコアとして推定するようにしている。
【0096】
そのため、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、推定された膝状態スコアから、対象者の膝の悪さの度合いを知ることが可能となる。膝の状態が悪い場合には、対象者は、医療機関で詳細な診断や治療を受ける等の適切な対応をとることができる。また、対象者以外の他者は、対象者に対し、医療機関での受診を促す等の適切な対応をとることができる。他者としては、例えば、保護者、介助者、介護者、医療従事者が挙げられる。
【0097】
(2)本実施形態では、膝の状態に関する質問票(JKOM、ロコモ25)に対し、被験者が回答した結果を、被験者の膝の状態のデータとして用いている。そのため、被験者の膝の状態のデータは、膝の状態について被験者が実際に感ずる自覚症状、例えば痛みを伴う等の自覚症状を反映したものとなり、精度の高いものとなる。このように精度の高いデータを用いるため、学習モデルの精度、ひいては膝状態スコアの推定精度を高めることができる。
【0098】
(3)本実施形態では、被験者の膝の状態のデータとして、膝の疾病の進行度合いを示す分類(ケルグレンローレンス分類)に関する情報を、被験者の膝の状態のデータとして用いている。そのため、被験者の膝の状態のデータは、膝の疾病の進行度合いを客観的に反映したものとなり、精度の高いものとなる。このように精度の高いデータを用いるため、学習モデルの精度、ひいては膝状態スコアの推定精度を高めることができる。
【0099】
(4)本実施形態では、複数の被験者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者毎の歩行状態に関する特徴量であり、かつ歩行年齢と相関のある特徴量を取得する。取得された特徴量、及び被験者毎の歩行年齢のデータから、特徴量及び歩行年齢の関連性を学習して学習モデルを作成する。対象者の足裏にかかる部位毎の圧力の経時的変化を示す測定情報から、被験者の上記特徴量と同じ種類の特徴量を取得する。取得された特徴量を上記学習モデルに与えて、対象者の歩行年齢を歩行年齢スコアとして推定するようにしている。
【0100】
そのため、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、推定された歩行年齢から、対象者の歩行年齢を知ることが可能となる。推定された歩行年齢が実年齢に対し、老齢側に大きく乖離している場合等には、対象者は、自覚症状の有無にかかわらず、健康状態に異変が起こっていることを早期に把握できる。対象者は、上記(1)と同様に、医療機関で詳細な診断や治療を受ける等の適切な対応をとることができる。また、他者は、対象者に対し、医療機関での受診を促す等の適切な対応を行うことができる。
【0101】
(5)本実施形態では、膝状態スコア及び歩行年齢スコアと、健康状態との関係を規定した二次元のマップを作成し、これを表示部25に表示させている。
そして、上記(1)で推定した膝状態スコアと、上記(4)で推定した歩行年齢スコアとを、上記マップ上に、ドット等のマーク55で表示している。そのため、マップにおいて、マーク55が表示されている領域を見ることで、対象者の健康状態が、どの領域にあるかを知ることができる。
【0102】
腰の病気の予兆に気付くことができ、病気の進行を止めることが可能である。予兆に気付かない場合よりも早期に改善すべきことに気付くことができる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0103】
・上記膝の状態及び歩行年齢とは異なる健康状態、例えば、腰の状態を定量的に評価するための腰状態スコアが、健康スコアとして推定されてもよい。
・上述した健康スコアの推定方法は、時期をずらして複数回実施されることが好ましい。実施時期は定期であってもよいし不定期であってもよい。
【0104】
そして、膝状態スコア及び歩行年齢スコアと、それらの推定時期とを、実施時期毎に記憶部22に記憶する。これに加え、過去にマークを表示した履歴がある場合には、それらも今回のマーク55に加えてマップ上に表示させる。例えば、図1におけるマーク55aは、6ヶ月前に表示されたものを示し、マーク55bは3ヶ月前に表示されたものを示している。
【0105】
このようにすれば、健康状態の経時変化を知ることが可能となる。例えば、図1に示すように、マーク55a→マーク55b→マーク55のように、表示位置が斜め右下方へ動いている場合には、健康状態、特に腰の状態が悪化していることが判る。
【0106】
・被験者の膝の状態のデータとして、質問票に対する回答結果が用いられる場合、上述したJKOM及びロコモ25とは異なる種類の質問書に対する被験者の回答結果が用いられてもよい。
【0107】
・被験者の膝の状態のデータとして、膝の疾病の進行度合いを示す分類(ステージ分類)が用いられる場合、上述したケルグレンローレンス分類とは異なる分類が用いられてもよい。
【0108】
図11のフローチャートにおいて、膝状態スコア及び歩行年齢スコアの一方のみが推定されてもよい。
・圧力センサ12によって足裏にかかる部位毎の圧力が検出される足は、左右の片方の足であってもよいし、両方の足であってもよい。
【0109】
・測定装置10に設けられる圧力センサ12の数及び配置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、取得する特徴量の種類に応じて、適宜、変更されてもよい。なお、特徴量として、FTA及びLHAを取得する場合、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに第1位置及び第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置に圧力センサ12を設けることが好ましい。
【0110】
・測定装置10は、測定情報を記憶する記憶部を備えていてもよい。なお、測定装置10の記憶部として、メモリーカード等の取り外し可能な記録媒体を用いた場合には、測定装置10の送信部13及び歩行判定装置20の受信部21が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0111】
F1~F13…特徴量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11