(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005133
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2733 20220101AFI20250108BHJP
【FI】
H02K1/2733
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105176
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藪見 崇生
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA01
5H622CA05
5H622CB04
(57)【要約】
【課題】極異方性磁石を備えたロータを有する回転電気機械において、弱め界磁制御に伴うものを含めて、渦電流損を低減するとともに、高出力を得ることができる回転電気機械を提供する。
【解決手段】複数のティース50を有する中空筒状のステータコア5と、ティース50に巻き回されたコイルと、を有するステータを備えるとともに、極数が4以上の偶数である円筒形または円柱形の極異方性磁石3と、極異方性磁石3の外表面を覆う保護管4と、を有し、ステータコア5の中空部に収容されたロータ2を備え、下の式(1),(2),(3)を満たす、回転電気機械1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースを有する中空筒状のステータコアと、前記ティースに巻き回されたコイルと、を有するステータと、
極数が4以上の偶数である円筒形または円柱形の極異方性磁石と、前記極異方性磁石の外表面を覆う保護管と、を有し、前記ステータコアの中空部に収容されたロータと、を備え、
下の式(1),(2),(3)を満たす、回転電気機械。
【数1】
ここで、前記ティースの開角をβ
st、隣接する前記ティースの間のスロットオープンの角度をβ
op、前記ティースの先端の幅をT
stとし、
前記極異方性磁石と前記ティースとの間のギャップ長をLgとし、
前記極異方性磁石の外半径をR
m_out、内半径をR
m_in、極数をP、極中央部のパーミアンス係数をP
c、厚さをLmとし、θ
d=120°/Pとする。
【請求項2】
前記極異方性磁石は、金属磁石である、請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
さらに下の式(4)を満たす、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【数2】
ここで、K
1=1.25、K
2=4.00であり、R
1,R
2はそれぞれn=1,2として下の式(5)により定められる。
【数3】
【請求項4】
前記ステータコアは、前記ティースの先端に、内周方向に沿って延びる鍔部を有さない、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記ステータコアは、前記ティースの先端に、内周方向に沿って延びる鍔部を有し、
前記スロットオープンが、隣接する前記鍔部の間の空間として設定される、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記スロットの数を、前記極異方性磁石の極数Pと前記スロットの相数との積で除した数が、2以上の整数となる、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【請求項7】
前記ギャップ長Lgは5.0mm以上である、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【請求項8】
前記極異方性磁石の中心から、前記極異方性磁石の磁化配向の中心点までの距離が、前記極異方性磁石の外半径Rm_outの1.25倍以上、4.00倍以下である、請求項1または請求項2に記載の回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電気機械に関し、さらに詳しくは、ロータに極異方性磁石を用いた回転電気機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石をロータに備えた回転電気機械において、高速回転に対応可能とするための方策の1つとして、ロータを小径化することが挙げられる。ロータを小径化するのに伴い、ロータへの永久磁石の搭載量が制限されるが、ロータを小型化しながら磁束量を確保する手段として、極異方性磁石を用いることが検討されている。例えば、特許文献1に、極異方性磁石を備えた回転子を含む回転機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転電気機械において、極異方性磁石を備えたロータを高速回転させると、ロータの回転速度の上昇に伴い、スロット高調波によって、ロータの表面における渦電流損、つまり極異方性磁石の表面や、極異方性磁石の外周に設けた金属製の保護管に発生する渦電流によるエネルギー損失が、大きくなってしまう。さらに、自動車駆動用モータのように、高速回転だけでなく、低速大トルク特性も必要となる回転電気機械においては、弱め界磁制御が必要となるが、弱め界磁制御を行うと、ステータから発せられる弱め界磁磁束と磁石磁束とがエアギャップ領域で反発することにより、ロータの回転に伴う磁束変動が大きくなり、渦電流損が大きくなってしまう。極異方性磁石を備えたロータを有する回転電気機械において、渦電流損による発熱および効率低下を抑制するために、これらスロット高調波の発生および弱め界磁制御の実施に伴う渦電流損を低減することが望まれる。ロータとステータの間のエアギャップ長を大きくすれば、渦電流損を低減できる可能性はあるが、その場合には、ギャップ磁束密度が小さくなり、回転電気機械の出力が低下してしまう。渦電流損を低減しながら、大きな出力を確保することが望まれる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、極異方性磁石を備えたロータを有する回転電気機械において、弱め界磁制御に伴うものも含めて、渦電流損を低減するとともに、高出力を得ることができる回転電気機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる回転電気機械は、以下の構成を有する。
[1]本発明にかかる回転電気機械は、複数のティースを有する中空筒状のステータコアと、前記ティースに巻き回されたコイルと、を有するステータと、極数が4以上の偶数である円筒形または円柱形の極異方性磁石と、前記極異方性磁石の外表面を覆う保護管と、を有し、前記ステータコアの中空部に収容されたロータと、を備え、下の式(1),(2),(3)を満たす。
【数1】
ここで、前記ティースの開角をβ
st、隣接する前記ティースの間のスロットオープンの角度をβ
op、前記ティースの先端の幅をT
stとし、前記極異方性磁石と前記ティースとの間のギャップ長をLgとし、前記極異方性磁石の外半径をR
m_out、内半径をR
m_in、極数をP、極中央部のパーミアンス係数をP
c、厚さをLmとし、θ
d=120°/Pとする。
【0007】
[2]上記[1]の態様において、前記極異方性磁石は、金属磁石であるとよい。
【0008】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記回転電気機械は、さらに下の式(4)を満たすとよい。
【数2】
ここで、K
1=1.25、K
2=4.00であり、R
1,R
2はそれぞれn=1,2として下の式(5)により定められる。
【数3】
【0009】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記ステータコアは、前記ティースの先端に、内周方向に沿って延びる鍔部を有さないとよい。
【0010】
[5]あるいは、上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記ステータコアは、前記ティースの先端に、内周方向に沿って延びる鍔部を有し、前記スロットオープンが、隣接する前記鍔部の間の空間として設定されるとよい。
【0011】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記スロットの数を、前記極異方性磁石の極数Pと前記スロットの相数との積で除した数が、2以上の整数となるとよい。
【0012】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記ギャップ長Lgは5.0mm以上であるとよい。
【0013】
[8]上記[1]から[7]のいずれか1つの態様において、前記極異方性磁石の中心から、前記極異方性磁石の磁化配向の中心点までの距離が、前記極異方性磁石の外半径Rm_outの1.25倍以上、4.00倍以下であるとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記[1]の構成を有する本発明にかかる回転電気機械は、極異方性磁石を備えたロータを有していることにより、ロータを小径化し、高速回転させるのに、適したものとなる。高速回転可能であることに加え、極数が4以上となっていることから、高出力を得ることができる。極数を4以上とすることで、また高速回転を行うことで、極数が少ない場合、また回転速度が小さい場合と比較すると、渦電流損は大きくなる。しかし、式(1)を満たすようにティースの開角βstとスロットオープンの角度βopの比率を定めることで、トルクを向上させ、高出力を得ることができるとともに、弱め界磁制御を行う場合でも、ロータにおける渦電流損を抑えることができる。また、ギャップ長Lgを式(2)で規定される範囲に定めることで、スロット高調波による渦電流損および弱め界磁制御に伴う渦電流損を低減できるとともに、誘起電圧の高調波成分に起因するトルク脈動を小さく抑えながら、高トルクを確保することができる。さらに、極異方性磁石の厚さを式(3)の範囲に定めることで、高温動作時でも、弱め界磁制御時の不可逆減磁を抑制できるとともに、エアギャップ磁束密度を高め、トルクを向上させることができる。
【0015】
上記[2]の態様においては、極異方性磁石が金属磁石より構成されている。金属磁石は大きな残留磁束密度を有するため、ボンド磁石を用いる場合と比較して、高トルクが得られやすくなる。一方で、金属磁石の抵抗の低さにより、高速回転時に、極異方性磁石の表面における渦電流損が大きくなりやすいが、本実施形態にかかる回転電気機械においては、式(2)を満たすように十分に大きくギャップ長Lgをとることで、金属磁石を用いた場合でも、渦電流損を効果的に抑制することができる。
【0016】
上記[3]の態様においては、極配向性磁石の厚さが、上記式(4)の範囲を満たすことで、ギャップにおける磁石磁束密度を高くし、磁石体積に対して高いトルクを得ることができる。また、誘起電圧の高調波成分を低減し、トルク脈動を効果的に抑制することができる。
【0017】
上記[4]の態様においては、ステータコアがティースの先端に鍔部を有さない。この場合には、ロータを小径化する場合にも、スロットオープンを十分に大きく確保しやすく、トルクの向上および渦電流損の低減に高い効果が得られる。また、モータを小型化しても、ロータの外周に多数のティースを設けやすくなり、そのことも、トルクの向上および渦電流損の低減に効果を示す。
【0018】
一方で、上記[5]の態様においては、ステータコアのティースの先端に鍔部が設けられる。鍔部を設けることで、ステータに鎖交するロータからの磁石磁束の量が多くなるため、高トルクを得やすくなる。鍔部を設けることでスロットオープンが小さくなるが、式(1)を満たすように鍔部の幅を設定することで、隣接するティースの鍔部を介してコイルの磁束が短絡することによるトルクの低下を、小さく抑えることができる。
【0019】
上記[6]の態様においては、スロット数を、極異方性磁石の極数Pとスロットの相数との積で除した数が、2以上の整数となる。例えば、極数Pが4、相数が3の場合には、スロット数が24以上となる。このように、スロット数を多くすることで、回転電気機械において、渦電流損の抑制、およびそれに伴う出力の向上や発熱の抑制に、高い効果が得られる。
【0020】
上記[7]の態様においては、ギャップ長Lgが5.0mm以上となる。ギャップ長Lgをそのように大きくすることで、ロータを高速回転させても、渦電流損の増大を抑えやすくなる。また、ギャップ内に、雰囲気を隔離するための隔離壁等の部材を設けることや、保護管の厚さを大きく確保することも、行いやすくなる。ギャップ長Lgが10mm以上であると、なお好ましい。
【0021】
上記[8]の態様においては、極異方性磁石の中心から極異方性磁石の磁化配向の中心点までの距離が、極異方性磁石の外半径Rm_outの1.25倍以上、4.00倍以下となる。これにより、ギャップにおける磁石磁束量を確保し、磁石体積に対して高いトルクを得ることができる。また、誘起電圧の高調波成分を低減し、トルク脈動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる極異方性磁石を備えたモータの構成を示す横断面図である。スロット数は24としている。
【
図2】ステータの形状を説明する拡大図である。(a)~(c)はティースの形状が異なる場合を示しており、(a)は本体部が直線に延び、鍔部を有さない形態、(b)は本体部が直線状に延び、鍔部を有する形態、(c)は本体部が台形状で鍔部を有する形態である。ここでは、全周におけるスロット数を12として示している。
【
図3】ギャップ長Lgの上限の設定を説明する図である。
【
図4】ロータにおける磁化配向の状態と、磁化配向中心点の設定を説明する図である。
【
図5】スロット比率β
op/β
stとモータの特性の関係を示す図である。スロット比率β
op/β
stを変化させた場合について、(a)はロータの回転速度とトルクの関係を示し、(b)はロータの回転速度と出力の関係を示している。(c)はスロット比率β
op/β
stと最大トルクの関係を示している。
【
図6】スロット数およびギャップ長Lgを変化させた場合について、スロット比率β
op/β
stとロータ損失の関係を示している。(a)は無負荷時、(b)は弱め界磁制御時を示している。(c)は(b)を拡大表示したものである。
【
図7】スロット比率β
op/β
st=0.875、スロット数24、ギャップ長5mmの形態において、弱め界磁制御時を行った場合について、(a)は磁束密度の分布を示し、(b)は電流密度の分布を示している。
【
図8】複数の磁石厚について、(a)はギャップ長Lgと誘起電圧の高調波含有率の関係を示し、(b)はギャップ長Lgと永久磁石磁束の基本波振幅の関係を示している。
【
図9】複数のギャップ長Lgについて、磁石厚Lmと永久磁石磁束の基本波振幅の関係を示している。
【
図10】磁石厚およびギャップ長Lgが異なる場合について、永久磁石の中心から磁化配向中心点までの距離と磁石外半径の比率(F/R
m_out)に対して、(a),(c),(e)は永久磁石磁束の基本波振幅、(b),(d),(f)は誘起電圧の高調波含有率を示している。磁石厚が、(a),(b)で20mm、(c),(d)で15mm、(e),(f)で10mmとなっている。
【
図11】磁石厚20mm、ギャップ長10mmの形態について、F/R
m_outを3とおりに変化させた場合の誘起電圧の波形を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態にかかる回転電気機械について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
[回転電気機械の概略]
本発明の一実施形態にかかる回転電気機械としてのモータ1の概略を、中心軸Oに直交する断面図で、
図1に示す。以降では、回転電気機械がモータである場合を中心に説明するが、発電機である場合にも、同様の構成を適用することができる。
【0025】
モータ1は、永久磁石モータとして構成されている。モータ1は、中空筒状のステータを有している。そして、ステータの中空部内に、同軸状に、軸回転可能に支持されたロータ2を収容している。
【0026】
以下では、特記しない限り、各部の構造(形状および配置)、および磁化方向は、
図1に示したように、ロータ2の中心軸Oに直交する断面において示すものとする。また、「径方向」、「周方向」、「外周」、「内周」等、方向を示す語は、特記しないかぎり、ロータ2についての方向を指すものとする。また、「円弧」や「直線」等、部材の形状や配置を表す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、この種のモータにおいて許容される範囲の誤差を含むものとする。
【0027】
ステータは、ステータコア5と、コイル(図略)とを有している。ステータコア5は、複数層の電磁鋼板を積層してなるものであり、略円環形状のバックヨーク部51と、バックヨーク部51から円環形状の内側に向かって突出した複数のティース50を、一体に備えている。そして、隣接するティース50の間の空間がスロットSとなっている。後に詳しく説明するが、図示した形態においては、各ティース50は、モータ1の径方向内側に向かって、直線状に延びた形状を有している。また、スロット数は24となっている。各スロットSには、ティース50に巻き回されて、コイルが配置されている。コイルの巻き方は特に指定されないが、全節分布巻とすることが好ましい。
【0028】
ロータ2は、永久磁石3と、永久磁石3の外表面を覆う保護管4とを含んでいる。永久磁石3は、略円筒形または略円柱形となっている。図示した形態では、永久磁石3は、円筒形となっている。
【0029】
永久磁石3は、極異方性磁石として構成されている。つまり、
図1に矢印にて磁化配向Mを示すように、また
図4に細線にて磁束線を表示するように、各磁極において、磁束が、永久磁石3の円筒形状の外側に設けられた磁化配向中心点O’を中心として、円弧状に形成されている。永久磁石3における磁極の極数は、4以上の偶数となっている。図示した形態においては、極数は4となっている。
【0030】
永久磁石3の種類は特に限定されるものではないが、金属磁石より構成されていることが好ましい。金属磁石とは、表面近傍を除き、意図的に添加された金属酸化物や有機化合物を含まず、金属磁石材料のみよりなる永久磁石であり、特に、金属磁石材料の微結晶粒より構成された熱間塑性加工磁石であることが好ましい。金属磁石は、ボンド磁石と比較して、残留磁束密度が大きく、モータ1において、高トルクを与えるものとなる。
【0031】
保護管4は、非磁性材料より構成された円筒状の部材であり、永久磁石3の外表面に密着し、その外表面を覆っている。保護管4は、ロータ2を回転させた際に、永久磁石3が遠心力によって飛散するのを防止する。保護管4は、非磁性材料より構成されていれば、非磁性金属等、導電性材料より構成されても、ポリマー材料等、絶縁体より構成されてもよい。簡便に高い機械的強度を得る等の観点からは、保護管4を非磁性金属より構成することが好ましく、好適な非磁性金属として、ステンレス鋼等の鉄合金やインコネル(登録商標)等のニッケル合金のうち非磁性のもの、チタン、チタン-アルミニウム合金等のチタン合金を例示することができる。一方、ロータ2の表面における渦電流損を低減する観点からは、保護管4が絶縁体より構成されていることが好ましく、保護管4を好適に構成しうる高強度の絶縁体として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を例示することができる。
【0032】
ロータ2は、永久磁石3および保護管4に加えて、シャフト6を有している。シャフト6は、ロータ2の回転軸として機能する。図示した形態のように、永久磁石3が円筒形状より構成される場合には、円柱状のシャフト6を、円筒形状の永久磁石3の中空部に挿通して設ければよい。一方、永久磁石3が円柱形状を有している場合には、その円柱形状の永久磁石3の軸方向の両端に、シャフト6を隣接させて設け、共通の保護管4を、それら永久磁石3とシャフト6の集合体の外周に設ければよい。いずれの場合にも、シャフト6は、非磁性材料より構成され、例えば、保護管4を構成しうる非磁性金属と同様の材料を適用すればよい。
【0033】
ロータ2はステータコア5の中空部に同軸状に収容される。その状態で、ステータコア5と、ロータ2を構成する永久磁石3の外周面との間には、ギャップGが確保される。ギャップGの中には、保護管4が位置することになるが、ギャップGは、保護管4に占められる層の他に、保護管4の外側に、空気に占められる層を有する。
【0034】
本実施形態にかかるモータ1は、ロータ2が、極異方性磁石として構成された永久磁石3を備えていることにより、ロータ2を小径化して高速回転させるのに、適したものとなる(例えば回転速度30,000rpm以上)。ロータ2を高速回転に耐えられるものとするためには、ロータ2を小径に構成することが好ましく、するとロータ2に搭載できる永久磁石3の体積が小さくなるが、極異方性磁石は、内部に長い磁束経路を有することにより、大きな磁石磁束密度を与えることができる。さらに、本実施形態にかかるモータ1においては、ロータ2を構成する永久磁石3の極数が4極以上となっていることにより、2極である場合よりも、大出力を与えるものとなる。また、2極である場合よりも、漏れ磁束を少なく抑え、ギャップGにおける磁石磁束波形を正弦波に近づけることができる。図示した形態である4極以外の好適な極数として、6極あるいは8極とする形態を例示することができる。
【0035】
さらに、本実施形態にかかるモータ1は、次に示すように、式(1)~(3)を満たすように設計される。そのことにより、モータ1は、ロータ2の表面における渦電流損を小さく抑え、高出力を与えるものとなる。弱め界磁制御を行う場合にも、それらの効果が高く得られるため、自動車駆動用モータのように、高速回転と高出力が必要となる用途に、好適に用いることができる。
【0036】
[回転電気機械の詳細構成]
本実施形態にかかるモータ1は、以下の式(1)~(3)を満たしている。
【数4】
【0037】
ここで、式(1)~(3)に含まれる各パラメータは、以下のとおりである。
・ステータコアの構成
β
st:ティースの開角
β
op:スロットオープンの角度
T
st:ティースの先端の幅
・ギャップの構成
Lg:ギャップ長
・永久磁石の構成
R
m_out:外半径(外周の半径)
R
m_in:内半径(内周の半径)
P:極数(ここでは4)
P
c:極中央部のパーミアンス係数
Lm:厚さ(つまりR
m_out-R
m_in)
θ
d:360°/3P(つまり
図3の各分割域の中心角;120°/P)
以下、式(1)~(3)のそれぞれの意味および関連する構成について、順に説明する。
【0038】
<ステータコアにおけるティースおよびスロットの形状>
式(1)は、ステータコア5において、ティース50およびスロットSの大きさを規定するものとなる。
【0039】
図2に、ステータコア5を拡大して示す。
図2(a)に示した形態においては、
図1に示したとおり、ティース50が、ステータ5の径方向に直線状に延びた、つまり長方形状の本体部5aのみより形成され、先端に鍔部を有していない。一方、
図2(b)に示した形態においては、ティース50が、直線状に延びた本体部5aの先端に、ステータコア5の内周方向に沿って延びる鍔部5bを一体に有している。
図2(c)の形態では、台形状の本体部5aの先端に鍔部5bを有している。ティース50は、これらいずれの形態をとってもよいが、いずれの場合についても、ティース50の開角をβ
stとする。ここで、ティース50の開角β
stとは、ティース50の先端部(最も径方向内側の部位)の両端が、ロータ2の中心軸Oに対してなす角度を指す。
図2(b),(c)のようにティース50が鍔部5bを有する場合には、開角β
stは、鍔部5bの開角を指し、
図2(a)のように鍔部5bを有さない場合には、開角β
stは、本体部5aの先端の開角を指す。
【0040】
また、ステータコア5において、スロットオープンの角度をβ
opとする。ここで、スロットオープンとは、ティース50の先端側におけるスロットSの開口を指し、β
opは、そのスロットオープンがロータ2の中心軸Oに対してなす角度を指す。
図2(b),(c)のようにティース50が鍔部5bを有する場合には、スロットオープン角度β
opは、隣接する鍔部5bの間の間隔に対応し、
図2(a)のように鍔部5bを有さない場合には、スロットオープン角度β
opは、隣接する本体部5aの先端の間の間隔に対応する。
【0041】
さらに、式(2)に用いられるT
stは、ティース50の先端の幅を指す。これは、本体部5aの先端の幅を指し、鍔部5bの幅は含まない。
図2(c)のように本体部5aが台形状、つまり基端側よりも先端側が細くなった形状を有していてもよく、その場合には、幅T
stは、その本体部5aの細くなった先端の幅を指す。
【0042】
式(1)は、上記のように定義されるスロットオープン角度β
opと、ティース開角β
stの比率であるβ
op/β
stの上下限を規定するものである。後の実施例で示されるとおり、比率β
op/β
st(以下、スロット比率と称する場合がある)が、式(1)に規定される範囲、つまり0.5以上1.2以下の範囲にあれば、弱め界磁制御を伴ってモータ1を運転した時に、高トルク、高出力が得られる(
図5参照)。さらに、弱め界磁制御を行った際に、ロータ2の表面における渦電流損、つまり永久磁石3の表面、および保護管4が金属よりなる場合のその保護管4における渦電流損を低減し(
図6(b),(c)参照)、高出力を得ることができる。
【0043】
まず、スロット比率β
op/β
stとトルクとの関係について説明する。スロット比率β
op/β
stを小さくすると、ステータコア5において、隣接するティース50の間に設けられるスロットSの幅が狭くなる。つまり、隣接するティース50の間の距離が小さくなる。本実施形態にかかるモータ1においては、後に式(2)との関連で説明するように、ロータ2の表面における渦電流損を低減するために、ギャップGを比較的大きいギャップ長Lgで設けているが、そのようにギャップGが大きい状況で、隣接するティース50の間の距離が小さくなると、隣接するティース50の間で、磁束の短絡が起こりやすくなる。すると、ステータのコイルによって発生した磁束のうち、永久磁石3の方に進行せずに、ティース50の箇所で短絡する成分の量が多くなってしまう。この磁束の短絡は、モータ1において逆起電力として作用し、弱め界磁効果を過剰に作用させるものとなる。すると、電源出力をモータ1の回転出力として効率的に投入できなくなり、モータ1のトルクを効果的に向上させることができなくなる。このように、磁束の短絡によるトルクの低下を抑制する観点から、スロット比率β
op/β
stを0.5以上として、スロットSを十分に大きくとる(
図5参照)。スロット比率β
op/β
stを0.7以上とすると、特に好ましい。
【0044】
一方で、ティース50の先端部の幅を小さくしすぎると、永久磁石3から発せられる磁石磁束のうち、ティース50に鎖交する磁束の量が少なくなってしまう。すると、モータ1において、得られるトルクが小さくなってしまう。それを避け、大きなトルクを確保する観点から、スロット比率βop/βstを1.2以下とする。スロット比率βop/βstが1.0以下であれば、特に好ましい。
【0045】
次に、スロット比率βop/βstと渦電流損の関係について説明する。ロータ2を高速回転させるほど、ロータ2の表面における渦電流損が大きくなる。特に、永久磁石3が金属磁石として構成されている場合には、金属磁石の電気抵抗の小ささから、永久磁石3の表面における渦電流損が大きくなる。また、保護管4が金属より構成されている場合には、保護管4における渦電流損も大きくなる。そこで、弱め界磁制御を伴ってロータ2を高速回転させた際に起こる渦電流損を小さく抑える観点から、スロットオープンをある程度大きくしておくことが好ましい。その理由は以下のとおりである。
【0046】
渦電流損の原因となるロータ2の表面における渦電流は、ギャップGに形成される磁束密度が、ロータ2の表面において、ロータ2の周方向に沿って分布を有することで、生じるものである。ギャップGにおける磁束は、ステータがコイルによって発する磁束と、永久磁石3が発する磁石磁束を合成したものとなるが、ステータの磁束はティース50の先端部に集中する。そのステータの磁束と永久磁石3の磁束は、逆方向に作用するため、ティース50の正面の箇所では、両磁束が反発し合い、磁束密度が小さくなる。一方で、隣接するティース50の中間の箇所、つまりスロットSの正面の箇所では、両磁束の反発が起こりにくく、磁束密度が高くなる。つまり、ロータ2の表面における磁束密度は、周方向に沿って、高い場所と低い場所が交互に出現する分布を有するものとなる(
図7(a)参照)。この磁束の分布によってロータ2の回転中に渦電流が発生する。この磁束の分布において、磁束密度の高低の差が大きくなるほど、ロータ2の表面に発生する渦電流が大きくなる。特に、弱め界磁制御を行う場合には、ステータ側の弱め界磁磁束と永久磁石磁束の間の反発により、磁束密度の高低差が大きくなり、大きな渦電流が発生する。
【0047】
ここで、ステータコア5において、スロットSの幅に対してティース50の幅が広いほど、ティース50の先端部に集中する磁束が多くなるため、ギャップGにおける磁束密度の高低差が大きくなり、渦電流損が大きくなる。しかし、スロット比率β
op/β
stを0.5以上として、ティース50の先端の幅をスロットSに対して十分に狭くしておけば、スロット比率β
op/β
stの増大に伴って、弱め界磁制御時の渦電流損が小さくなり、渦電流損を効果的に抑えることができる(
図6(b),(c)参照)。なお、弱め界磁制御を行わない場合には、スロット比率β
op/β
stが大きくなるのに伴って、渦電流損が大きくなる傾向があるが、渦電流損の大きさ自体が、弱め界磁制御時のように大きくないうえ、後述するように、ギャップ長Lgやスロット数を大きく設定することで、効果的に低減できる(
図6(a)参照)。
【0048】
上記のように、ティース50の具体的な形状は特に限定されず、本体部5aの先端に鍔部5bを有しても有さなくても、いずれでもよい。しかし、
図2(a)のように鍔部5bを有さない形態の方が、スロットオープンを広く形成しやすく、スロット比率β
op/β
stを大きくして、ティース50での磁束の短絡の抑制によるトルクの向上、および渦電流損の低減に高い効果を示す。また、ロータ2を小径に構成した場合でも、スロット数を多くしやすい。後述するように、スロット数を多くすることも、トルクの向上および渦電流損の低減に高い効果が得られる。一方、
図2(b),(c)のように鍔部5bを設ける形態においては、鍔部5bの箇所でステータコア5に鎖交する永久磁石磁束が多くなることで、トルクの向上に効果が得られる。その効果を有効に利用する観点から、式(1)を満たす範囲に幅を抑えながら、鍔部5bを設けるとよい。本体部5aの形状は、
図2(a),(b)のように、直線状(長方形状)であっても、
図2(c)のように台形状であってもよいが、台形状とすることで、巻線収容面積が広がり、巻数の増加により永久磁石磁束を多くすることができる。つまり、巻線を配置可能な領域を増やし、巻線条件範囲を広げ、トルク向上、損失低減などモータ性能向上に寄与する効果が得られる。
【0049】
<ギャップ長の設定>
本実施形態におけるモータ1においては、ギャップ長Lgの範囲が式(2)によって設定されている。ギャップ長Lgは、ロータ2の径方向に沿ったギャップGの長さ、つまり永久磁石3とステータコア5のティース50との間の距離を指す。ギャップ長Lgには、保護管4の厚さも含まれる。
【0050】
まず、式(2)における下限の意味について説明する。式(2)において、ギャップ長Lgの下限は、1.2T
stとなっている。
図2にも示すとおり、T
stは、ステータコア5において、ティース50の本体部5aの先端の幅である。ギャップ長Lgを1.2T
st以上とすることで、下記の理由により、ロータ2の表面における渦電流損を効果的に低減することができる。
【0051】
上記で説明したとおり、ロータ2の表面における渦電流は、ロータ2の表面における磁束密度分布によって生じ、ギャップGにおける磁束密度分布の高低差は、ティース50の幅が大きいほど大きくなる。そして、ロータ2の径方向に沿って、弱め界磁制御時に、そのような磁束密度分布が生じる領域の距離は、ティース50の先端から、おおよそティース50の幅T
stと同程度となる(
図7(a)参照)。つまり、径方向に沿って、ギャップGにおいて空気または他の絶縁体が占める領域の距離を、ティース50の幅T
st以上としておけば、ロータ2の表面において、磁束密度の分布が非常に小さい状態とすることができる。すると、渦電流損を大幅に低減することができる。後の実施例でも、ギャップ長Lgを大きくするほど渦電流損が低減されるのが確認されている(
図6参照)。保護管4が絶縁体より構成されている場合には、保護管4の厚さも含めたギャップ長Lgをティース幅T
st以上とすればよい(T
st≦Lg)。一方、保護管4が金属等の導電性材料より構成されている場合には、保護管4にも渦電流が発生するので、ギャップ長Lgのうち、保護管4の厚みを除いた空気の層の厚さを、ティース幅T
st以上とすればよい。通常は、保護管4の厚みはティース幅T
stの20%程度であるので、その場合に、1.2T
st≦Lgとすればよいことになる。つまり、1.2T
st≦Lgとしておけば、保護管4の材質によらず、ロータ2の表面(永久磁石3の表面、および導電性材料より構成される場合の保護管4)に生じる渦電流を効果的に低減することができる。あるいは、保護管4のうち導電性材料が占める領域の厚さをLg’として、T
st≦Lg-Lg’とすればよい(保護管4が絶縁体よりなる場合はLg’=0)。
【0052】
さらに、ギャップ長Lgを大きくし、広いギャップGを確保することで、上記のように、渦電流損が低減されることに加え、後の実施例に示すように、モータ1において、誘起電圧の高調波成分も低減される(
図8(a)参照)。すると、モータ1において、トルク脈動を抑制することができる。
【0053】
次に、式(2)の上限について説明する。式(2)において、Lgを上限値以下とすることで、高トルクを確保することができる。ここで、
図3に示すように、極異方性磁石よりなる永久磁石3の極の1つを、中心角がθ
d(=360°/3P)で等しい3つの領域に分割する。そして、極中央の磁束経路Lm’を、図に太線で示すように、3つの分割域の外周面および内周面を順に直線的に結ぶ経路に近似して考えると、Lm’は下の式(2a)のように表現される。
【数5】
一般に、磁石内磁路長をギャップの距離で割ったものが、パーミアンス係数P
cに相当するため、永久磁石3において、動作点磁束密度を十分に高め、高トルクを確保するためには、以下の式(2b)を満たすようにすればよい。
【数6】
【0054】
式(2b)に式(2a)を代入し、整理すると、式(2)の上限式が得られる。パーミアンス係数P
cが2.0以上であると、特に好ましい。後の実施例でも確認されるように、式(2)の上限式を満たすようにギャップ長Lgを設定することで、渦電流損およびトルク脈動を小さく抑えながら、高トルクを確保することができる(
図8(b)参照)。
【0055】
具体的なギャップ長Lgは、ティース幅T
st、また永久磁石3の外半径R
m_outおよび内半径R
m_inとの関係において、式(2)を満たす限りにおいて、特に限定されるものではない。しかし、ギャップ長Lgを大きくとることで、ロータ2における渦電流損、特に弱め界磁制御時の渦電流損を低減する効果、および誘起電圧の高調波成分を低減する効果を高める観点から、ギャップ長Lgを、5.0mm以上、さらには10mm以上とすることが好ましい。式(2)の範囲でギャップ長Lgを大きくするほど、それらの効果が高められる(
図6(b),(c)および
図8(a)参照)。また、式(2)によって定められるギャップ長Lgは、永久磁石モータとして比較的大きなものであるが、そのことは、渦電流損の低減によって、モータ1を高速回転に適したものとできる点の他に、ギャップGの中に設ける部材の自由度を高められる点において、有利となる。例えば、保護管4の厚さを十分に大きく確保することや、ロータ側の空間とステータ側の空間の雰囲気を隔離すための隔離壁等の部材をギャップGの中に設けることが行いやすくなる。
【0056】
<永久磁石の厚さおよび磁化配向中心点の位置>
本実施形態にかかるモータ1においては、式(3)によって、永久磁石3の厚さ(磁石厚)Lmの範囲が規定される。ここで、磁石厚Lmは永久磁石3の外半径Rm_outと内半径Rm_inの差に相当する。
【0057】
まず、式(3)の下限について説明する。磁石厚Lmを式(3)の下限値以上、つまりギャップ長Lg以上となるように確保することで、極中央部の外周側(ステータ側)における永久磁石3のパーミアンス係数Pcを1以上とすることができる。そのように磁石厚Lmを設定することで、モータ1が高温動作する場合にも、弱め界磁制御時の永久磁石の不可逆減磁を回避しやすくなる。
【0058】
一方、式(3)の上限式は、構造上の永久磁石3の厚さの上限を示すものであり、最大で永久磁石3の厚さを、外半径R
m_outと等しい長さまで大きくすることができることを意味する。この上限をとる場合に、内半径R
m_inはゼロとなり、永久磁石3が円柱形である形態に対応する。式(3)を満たす範囲において、磁石厚Lmを大きくするほど、得られるトルクは大きくなる(
図9参照)。
【0059】
さらに、磁石厚Lmは、下の式(4)を満たす範囲にあることが好ましい。
【数7】
ここで、K
1=1.25,K
2=4.00であり、R
1,R
2は下の式(5)でn=1,2としてそれぞれ得られる値である。
【数8】
【0060】
磁石厚Lmを式(4)の範囲に設定することで、ギャップ磁束密度を高くして、磁石体積に対して高いトルクを得ることができる。同時に、誘起電圧の高調波成分を低減し、トルク脈動を抑制することができる。その理由は以下のとおりである。
【0061】
図4に示すように、永久磁石3(ロータ2)の中心Oから、永久磁石3の極異方性磁化配向における磁化配向中心点O’までの距離を、F
nとする。また、永久磁石3の外径に対するその距離F
nの比率をK
nとする(K
n=F
n/R
m_out)。さらに、磁化配向中心点O’を中心とし、磁極の両端を通る円弧Aの半径をR
nとする。この際、その円弧Aと永久磁石3の中心Oとの間の距離は、永久磁石3の径方向に沿って、F
n-R
nである。永久磁石3の内半径R
m_inを、このF
n-R
nと等しくすれば、永久磁石3を通る磁束経路が、永久磁石3の内周の内側の磁石材料が存在しない領域(シャフト6が存在する領域)に妨げられることなく、円弧状に永久磁石3の内部に形成されやすくなる。また、永久磁石3からギャップGに出る磁石磁束が、永久磁石3の外周面に対して垂直になる。すると、ギャップGにおける磁石磁束密度が高くなるとともに、磁束密度分布における高調波成分が少なくなり、好ましい。
【0062】
つまり、磁化配向中心点O’を、永久磁石3の中心Oから距離F
nの位置に定めた場合に、磁石厚Lmを下の式(4a)によって設定することが好ましい。そして、
図4の構造において、R
nは、上記式(5)のとおり表すことができる。
【数9】
【0063】
このように、磁化配向中心点O’の位置を定めれば、その磁化配向中心点O’に対応するK
nを式(5)および式(4a)に代入して、その磁化配向中心点O'に対応する好ましい磁石厚Lmを算出することができる。よって、K
nの好ましい範囲を定めれば、それに従って、磁石厚Lmの好ましい範囲を定めることができる。好適な磁化配向中心点O’の位置に対応するK
n(F
n/R
m_out)の値の下限をK
1、上限をK
2とすると(K
1≦K
n≦K
2)、後の実施例に示すように、シミュレーション結果から、K
1=1.25とK
2=4.00の間の領域で、誘起電圧の高調波成分を効果的に低減することができ(
図10右列参照)、その結果として、モータ1において、トルク脈動を低減することができる。また、永久磁石磁束の基本波振幅が大きくなり、高トルクを得ることができる。
【0064】
このことから、K1=1.25、K2=4.00として、磁石厚Lmを、式(4)の範囲に定めればよい。磁石厚Lmをその範囲に定めることで、モータ1において、トルク脈動の低減とトルクの向上に高い効果が得られる。極数Pが4、永久磁石3の外半径Rm_outが40mmの場合には、14.7mm≦Lm≦25.7mmとなる。より好ましくは、K1=1.40とすればよい。また、K2=2.20とすればよい。
【0065】
ここで、磁化配向中心点O’を、永久磁石3の中心Oから近すぎず、かつ遠すぎない位置に設けることが好ましい理由について簡単に説明する。磁化配向中心点O’が永久磁石3の中心Oに近すぎると、永久磁石磁束のうち、ステータの方に進まず、永久磁石3の外周面を通って短絡する成分が多くなる。すると、永久磁石3によってギャップGに形成される磁石磁束密度が小さくなる。また、磁束経路が永久磁石3の内周の内側の磁石材料が存在しない領域に妨げられ、永久磁石3の内部に磁束経路が円弧状に形成されにくくなり、ギャップGにおける磁石磁束密度に高調波成分が生じやすくなる。一方で、磁化配向中心点O’が永久磁石3の中心Oから遠すぎると、磁化方向が永久磁石3の外周面に対して大きく傾斜するようになり、等価磁石断面積(磁化方向に直交する永久磁石3の外周面の面積;Sm)が小さくなってしまう。等価磁石断面積と磁化方向に沿った永久磁石3の厚さ(lm)の積が永久磁石3の体積(Vm=lm×Sm)であり、その体積(Vm)は一定であるため、磁化方向の傾斜が大きくなると(lmが大きくなると)、等価磁石断面積(Sm)が小さくなるからである。すると、ギャップGにおける磁石磁束密度が低くなってしまう。また、永久磁石3を通る磁束経路が、直線的になることにより、ギャップGにおける磁束密度に高調波成分が生じやすくなる。それら、磁化配向中心点O’が永久磁石3の中心Oから近すぎる場合と遠すぎる場合のそれぞれにおいて生じるギャップGにおける磁石磁束密度の低下および高調波成分の増加の影響をともに抑えられる範囲として、上記のK1およびK2によって上下限を規定される範囲が存在する。
【0066】
厚さLmを含め、永久磁石3の具体的な寸法は、式(3)、好ましくは式(4)を満たす限りにおいて、特に限定されるものではない。しかし、高速回転への適用可能性等の観点から、永久磁石3は、小型であることが好ましく、外半径Rm_outとして、7.5mm以上、60mm以下の範囲を、好適なものとして例示することができる。
【0067】
<スロット数の影響>
ステータコア5におけるスロット数は、極数PとスロットSの相数との積で除した係数(スロット数/(極数×相数))が、整数であれば、特に限定されるものではない。しかし、下記のように、ロータ2における渦電流損を低減する観点から、スロット数を多くすることが好ましい。例えば、上記係数が2以上であることが好ましい。これは、
図1に示したとおり、極数が4、相数が3である場合に、スロット数が24である形態に相当する(4P24S)。スロット数の上限は特に限定されるものではないが、ロータ2を小径化する場合には、ロータ2の外周に多数のティース50を設けるのは、構造的に困難となるため、上記係数を2以上4以下の範囲に留めておくとよい。
【0068】
実施例にも示すように(
図6参照)、スロット数が多い方が、ロータ2における渦電流損を低減することができる。弱め界磁制御を行う場合も行わない場合も同様である。渦電流損P
eは、P
e=K
ef
2B
2と表現されるが(K
eは係数、fは周波数、Bはロータ表面における磁束密度の変動量)、スロット数を多くすると、各ティース50の幅T
stが小さくなり、上でスロット比率β
op/β
stの好適値との関係で、ロータ2における渦電流損の発生原因について説明したとおり、コイルの磁束と永久磁石3の磁束が反発し合うことによってギャップGに形成される磁束密度の高低差(B)が、小さくなるからである。一方で、スロット数が多くなると、磁束密度分布の周期(f)が大きくなるが、その効果よりも、磁束密度の変動量(B)が小さくなる効果の方が大きいため、スロット数の増加に伴って、渦電流損を低減する効果が高くなる。
【実施例0069】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ここでは、ロータに極異方性磁石を備えたモータについて、各部の構成によって特性がどのように変化するかを、検証した。
【0070】
[解析方法]
図1に示したとおり、円筒形の極異方性磁石よりなる永久磁石の外周に、導電性材料よりなる保護管を設けたロータを備えたモータをモデルとして、モータの特性についての解析を行った。モデルにおいて、各種パラメータは以下に列挙する値を基本としながら、各解析において、影響を検証すべきパラメータを、そこから変化させた。
・スロット数:24
・ティース形状:直線状に延びた本体部の先端に、鍔部を有する。
・ティース先端の幅T
st:7.0mm
・スロット比率β
op/β
st:0.875
・ギャップ長Lg:10mm
・永久磁石の外半径R
m_out:40mm
・永久磁石の内半径R
m_in:20mm
・永久磁石の中心から磁化配向中心点までの距離F/R
m_out:1.5
【0071】
そして、各モデルに対して、シミュレーションを行い、モータの特性に関する解析を行った。シミュレーションは、有限要素法(FEM)を用いた電磁界解析によって行った。上に挙げた検証対象のパラメータ以外にシミュレーションに用いたパラメータを、下の表1にまとめる。
【0072】
【0073】
[解析結果]
<1>スロットの大きさとトルク・出力特性の関係
まず、ステータにおいて、スロットの大きさを変化させた際に、モータのトルク・出力特性がどのように変化するのかを検証した。具体的には、スロット比率βop/βstを変化させながら、速度-トルク特性、および速度-出力特性がどのように変化するのかを確認した。スロット比率βop/βstを変化させるに際しては、ティースの本体部の形状およびサイズは固定とし、鍔部の幅を変化させた。
【0074】
図5(a),(b)に、スロット比率β
op/β
stが異なる場合について、弱め界磁制御を伴ってロータの回転速度を変化させて得られた、速度-トルク特性、および速度-出力特性をそれぞれ示す。また、
図5(c)に、
図5(a)に示したもの等、速度-トルク特性から得られた最大トルクと、スロット比率β
op/β
stの関係を示す。
【0075】
図5(a),(b)によると、トルク、出力とも、全速度域において、スロット比率β
op/β
stが0.875である場合に、最大となっている。それよりもスロット比率β
op/β
stが小さい場合には、得られるトルクおよび出力は小さくなっている。特に、弱め界磁領域(速度に対してトルクが低減されている領域)において、スロット比率β
op/β
stによるトルクおよび出力の差が大きくなっている。
【0076】
図5(c)では、スロット比率β
op/β
stの点数を
図5(a)よりも増やして、スロット比率β
op/β
stに対して最大トルクをプロットして示している。この
図5(c)によると、スロット比率β
op/β
stに対して、最大トルクが極大値を示し、それよりも小さくても大きくても、得られるトルクが小さくなっている。極大値は、β
op/β
st=0.875の近傍に存在する。これは、
図5(a)から見られた傾向とも合致する。そして、
図5(c)によると、式(1)のように、おおむね0.5≦β
op/β
st≦1.2の範囲において、スロット比率β
op/β
stに対して、得られる最大トルクが緩やかにしか変化せず、安定して高トルクが得られることが分かる。スロット比率β
op/β
stが小さすぎる場合には、コイルの磁束がティース間で短絡することにより、スロット比率β
op/β
stが大きすぎる場合には、十分な永久磁石磁束がステータに鎖交しなくなることにより、いずれも最大トルクが上がりにくくなるものと考えられる。
【0077】
<2>渦電流損への各種パラメータの影響
次に、ロータにおける渦電流損に対して、スロット比率βop/βst、スロット数、ギャップ長Lgがどのように影響するのかを検証した。ここでは、スロット比率βop/βstを0から1.5までの間で変化させるとともに、スロット数を12と24、ギャップ長Lgを5.0mmと10mmで変化させながら、ロータにおける渦電流損(ロータ損失)の大きさを見積もった。ロータ損失としては、保護管における渦電流損と、永久磁石の表面における渦電流損をそれぞれ見積もり、その合計を算出した。各図では、合計値としてのロータ損失のみを示し、保護管および永久磁石における個別の渦電流損の掲載は省略するが、いずれも、各パラメータの変化に対して、合計値としてのロータ損失と同じ傾向の変化を示した。
【0078】
図6(a)に無負荷運転時、つまり弱め界磁制御を行わない場合について、
図6(b)に弱め界磁制御時について、スロット数およびギャップ長Lgごとに、スロット比率β
op/β
stとロータ損失の関係を示す。
図6(c)には、
図6(b)を拡大したものを示している。
【0079】
まず、スロット数およびギャップ長Lgの影響について検討する。無負荷運転時においても、弱め界磁制御時においても、またギャップ長Lgが5mmと10mmのいずれの場合についても、スロット数が12の場合(4P12S)よりも、スロット数が24の場合(4P24S)の方が、ロータ損失が小さくなっている。そして、無負荷運転時においても、弱め界磁制御時においても、またスロット数が12と24のいずれの場合についても、Lgが10mmの場合の方が、5mmの場合よりも、ロータ損失が小さくなっている。この結果から、スロット数が多いほど、またギャップ長Lgが大きいほど、ロータの表面における渦電流損を低減できると言える。ギャップ長Lgについては、10mmの場合に、式(2)で定められる下限式である1.2Tst≦Lgの関係を満たすが、5mmの場合には、その関係式を満たさない。
【0080】
ロータの表面において渦電流損が生じる主な原因は、ギャップに形成された磁束密度のロータ表面に沿った変動であり、その変動幅が大きいほど、渦電流損が大きくなる。そのことは、シミュレーションで得られた磁束密度分布および電流密度分布からも確認される。
図7(a),(b)に、ギャップ長5mm、スロット数24(4P24S)、β
op/β
st=0.875の形態において、弱め界磁制御を行った場合について、それぞれ磁束密度分布および電流密度分布を示す。
図7(a)において、ギャップ内の磁束密度が、ロータの外周に沿って、ティースの先端の位置で、急激に低くなっている。そして、
図7(b)によると、ロータの外周に沿ってその磁束密度が低くなる領域が出現するとの同じ周期で、保護管内および永久磁石の表面において、電流密度が高くなった領域が出現している。これが渦電流に対応している。
【0081】
ここで、ギャップ長Lgを大きくし、ロータの表面をステータコアのティースの先端から離すことで、ロータの表面における磁束密度の変動を小さくすることができる。また、スロット数を多くすると、ティースの幅が狭くなることで、ロータ表面における磁束密度分布の値の変動幅が小さくなる。それらの結果として、ロータの表面における渦電流損が低減される。図示は省略するが、ギャップ長Lgおよびスロット数の変化に伴って、磁束密度分布および電流密度分布がそのような変化を示すことが、シミュレーションでも確認されており、それらの変化が、
図6に示される傾向を与えている。
【0082】
次に、
図6において、スロット比率β
op/β
stの変化に対するロータ損失の挙動について考える。まず、
図6(b)の弱め界磁制御時の挙動に着目する。いずれのスロット数およびギャップ長Lgについても、スロット比率β
op/β
stに対して、ロータ損失は、極大値を有する挙動を示している。そして、おおむねスロット比率β
op/β
stが0.5よりも大きい領域で、スロット比率β
op/β
stが急激に低下している。このことから、
図5(c)のトルク特性から定められる0.5≦β
op/β
st≦1.2との範囲を採用すれば、弱め界磁制御時のロータ損失も、効果的に抑制できることが分かる。
【0083】
一方、
図6(a)の無負荷運転時には、いずれのスロット数およびギャップ長Lgについても、スロット比率β
op/β
stが大きくなるほど、ロータ損失が大きくなっている。しかし、無負荷運転時のロータ損失の大きさは、弱め界磁制御時と比較すると、1桁程度、あるいはさらに小さくなっている。つまり、ロータ損失を低減する観点からスロット比率β
op/β
stの範囲を定めるに際し、無負荷運転時の挙動よりも、弱め界磁制御時の挙動を優先して、上記のとおり、0.5≦β
op/β
st≦1.2と定めればよい。また、
図6(a)に示されるように、スロット数およびギャップ長Lgを大きくすれば、スロット比率β
op/β
stが大きい領域でも、無負荷運転時のロータ損失を効果的に低減することができ、例えば、スロット数を24として(4P24S)、ギャップ長Lgを10mmとした場合には、スロット比率β
op/β
stの全域で、ロータ損失がほぼゼロとなっている。
【0084】
<3>ギャップ長の影響
次に、ギャップ長Lgがモータの特性に与える影響について、さらに詳細に検討する。
図8(a)に、複数の磁石厚Lmについて、ギャップ長Lgと誘起電圧の高調波含有率(THD)との関係を示している。これによると、いずれの磁石厚Lmについても、ギャップ長Lgが10mm以下程度の小さい領域においては、ギャップ長Lgが大きくなるほど、高調波含有率が下がる傾向が得られている。この傾向が生じる理由の1つは、ギャップ長Lgが大きくなるほど、極中央から極間へ向けてパーミンアス係数の変化が生じやすく、その結果、永久磁石の動作点磁束密度が極中央から極間へ向けて余弦波状となった状態を実現できるためである。逆に、ギャップ長Lgが小さくなると、極間に近い位置と極中央の位置の永久磁石のパーミアンス係数がともに高くなるため、動作点磁束密度の差が小さくなり、方形波状のギャップ磁束密度分布に近づく。つまり、高調波含有率が高くなる傾向となる。また、もう1つの理由は、ギャップ長Lgが大きくなると、磁気抵抗が高くなって、等方的な磁束経路であるギャップ部が大きくなり、急峻な磁束変化が低減されるためである。しかし、ギャップ長Lgがおおむね10mmよりも大きい領域では、ギャップ長Lgの増大に伴う高調波含有率の減少は鈍くなっている。ギャップ長Lgが15mm以上の領域では、ギャップ長Lgを増大させても、高調波含有率はほぼ変化しなくなっている。
【0085】
図8(b)には、複数の磁石厚Lmについて、ギャップ長Lgと永久磁石磁束の基本波振幅との関係を示している。これによると、いずれの磁石厚Lmについても、ギャップ長Lgの増大に対して、永久磁石磁束の基本波振幅が単調減少している。永久磁石磁束の基本波振幅が大きいほど、モータにおいて得られる最大トルクが大きくなるため、ギャップ長Lgを小さくするほど、大きな最大トルクが得られることが、
図8(b)より確認される。
【0086】
図8(a)から分かるギャップ長Lgと誘起電圧の高調波含有率の関係、および
図8(b)から分かるギャップ長Lgと永久磁石磁束の基本波振幅の関係を合わせて考えると、ギャップ長Lgを15mmよりも大きくしても、誘起電圧の高調波の低減にはほとんど効果がない一方で、得られるトルクは減少してしまう。よって、誘起電圧の高調波に起因するトルク脈動を十分に抑制しながら、大きなトルクを確保する観点から、ギャップ長Lgは15mm以下に留めておくことが好ましいと言える。ここで、ギャップ長Lgの範囲を定めている式(2)の上限値を、本解析で用いているモデルの寸法で計算すると、15.0mmとなる。つまり、
図8(a),(b)に示した解析結果から、式(2)の上限式の妥当性が支持される。
【0087】
<4>永久磁石の厚さの影響
次に、永久磁石の厚さLmがモータの特性に与える影響について検証する。
図9に、3とおりのギャップ長Lgについて、永久磁石の厚さ(磁石厚Lm)を変化させた場合に得られる最大トルクを示す。磁石厚Lmを変化させる際には、永久磁石の外半径R
m_outは変化させず、内半径R
m_inのみを変化させている。
【0088】
図9によると、磁石厚Lmを大きくするほど、永久磁石磁束の基本波振幅が大きくなっている。つまり、モータにおいて得られるトルクが大きくなる。このことから、トルクを高める観点からは、磁石厚Lmを、式(3)を満たす範囲でなるべく大きくすることが好ましいと言える。
【0089】
図9において、いずれのギャップ長Lgでも、磁石厚17.5mm以上の領域では、永久磁石磁束の基本波振幅が、おおむね磁石厚Lmに対して線形に増大しているのに対し、磁石厚15mm以下の領域では、磁石厚Lmに対する永久磁石磁束の基本波振幅の変化幅が大きくなっている。このことから、磁石厚Lmを15mm以上としておくことが好ましいと言える。式(4)において、K
2=4.00として得られる磁石厚Lmの好ましい下限値は、本解析に適用しているモデルにおいて、14.7mmとなり、
図9において好ましい磁石厚Lmとして示される15mm以上との範囲は、この式(4)において示される下限とも合致している。
【0090】
<5>磁化配向中心点の位置の影響
最後に、磁化配向中心点の位置がモータの特性に与える影響について検証する。
図10に、磁石厚Lmおよびギャップ長Lgが異なる複数の場合について、磁化配向中心点の位置と、永久磁石磁束量および誘起電圧の波形との関係を検討する。
図10(a),(c),(e)に、永久磁石の中心から磁化配向中心点までの距離F(
図4の距離F
nに相当)を永久磁石の外径R
m_outで除したもの(F/R
m_out;式(5)のK
nに相当)に対して、永久磁石磁束の基本波振幅を示している。また、
図10(b),(d),(f)に、F/R
m_outに対して、誘起電圧の高調波含有率(THD)を示している。磁石厚Lmが、(a),(b)で20mm、(c),(d)で15mm、(e),(f)で10mmとなっている。さらに、
図11に、代表として、磁石厚20mm、ギャップ長10mmの形態において、F/R
m_outを3とおりに変化させた場合について、誘起電圧の波形を示している。
【0091】
図10によると、いずれの磁石厚Lmおよびギャップ長Lgにおいても、F/R
m_outの増大に伴って、永久磁石磁束の基本波振幅が急激に立ち上がった後、緩やかに減少する傾向、および誘起電圧の高調波含有率が急激に減少した後、緩やかに増加する傾向が見られている。詳細には、F/R
m_outが1.25~4.00の範囲において、誘起電圧の高調波含有率が、極小点を挟んで両側で、ほぼ同程度の範囲に抑えられている。特に、磁石厚Lmが大きいほど、誘起電圧の高調波含有率が小さく抑えられ、磁石厚Lmが15mm以上であれば、いずれのギャップ長Lgにおいても、F/R
m_outが1.25~4.00の範囲で、誘起電圧の高調波含有率が、図中に点線で表示した7.5%以下の水準に抑えられている。実際に、
図11の誘起電圧の波形を見ると、その範囲から外れているF/R
m_out=1.0およびF/R
m_out=1.2の場合には、波形の頂部および底部が平坦になっており、波形が正弦波から大きく外れているのに対し、上記範囲にあるF/R
m_out=1.6の場合には、正弦波に近い波形が得られている。
【0092】
このように、誘起電圧の高調波含有率を低減する観点から、F/R
m_outが1.25~4.00となるように、永久磁石の磁化配向中心点の位置を定めることが好ましいと言える。
図10において、各磁石厚における永久磁石磁束の基本波振幅を見ると、F/R
m_outが1.25~4.00の範囲では、値が緩やかにしか変化していない。つまり、この範囲は、大きな永久磁石磁束を確保し、高トルクを得る観点でも好ましいことが確認される。以上より、F/R
m_outが1.25~4.00となる範囲に、永久磁石の磁化配向中心点を定めるとともに、K
1=1.25,K
2=4.00として、式(4),(5)に従って磁石厚Lmを定めることが好ましいと言える。本解析モデルで採用している寸法に対して、式(4),(5)に基づいて、好適な磁石厚Lmの範囲を計算すると、14.7mm≦Lm≦25.7mmとなる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。