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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005187
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】蓄電デバイス正極用減粘剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250108BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250108BHJP
   C08F 210/10 20060101ALI20250108BHJP
   C08F 222/06 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
C08F210/10
C08F222/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105269
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小西 基
(72)【発明者】
【氏名】松田 優
(72)【発明者】
【氏名】井樋 昭人
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AA06P
4J100AK32Q
4J100BA15H
4J100BA34H
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100HC43
4J100JA43
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】一態様において、正極ペーストの降伏値の低減を可能とし、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な、蓄電デバイス電極用減粘剤を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.10以上0.60以下である、蓄電デバイス電極用減粘剤に関する。下記一般式(1)中、Xは(CH2n、nは0または1であり、R1は、芳香環または複素芳香環であり、R2は、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素であり、M1は、水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウムである。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(A)を含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.10以上0.60以下である、蓄電デバイス電極用減粘剤。
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、
Xは(CH2n、nは0または1であり、
1は、芳香環または複素芳香環であり、
2は、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素であり、
1は、水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウムである。
【請求項2】
前記重合体は下記一般式(2)で表される構成単位(B)を含み、
前記構成単位(A)のモル分率aと前記構成単位(B)のモル分率bとが下記関係式を充足する、請求項1記載の蓄電デバイス電極用減粘剤。
関係式:b/a≦2.5
【化2】
上記一般式(2)中、
3は水素、
4は、炭素数が14以上22以下の脂肪族炭化水素基、
2は、水素、NH4、アルカリ金属原子又は有機アンモニウムである。
【請求項3】
前記重合体は下記一般式(3)で表される構成単位(C)を含み、
前記構成単位(C)のモル分率cが0.40以上0.65以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス電極用減粘剤。
【化3】
上記一般式(3)中、
5は、水素又はメチル基であり、
6は、水素、炭素数が1以上10以下のアルキル基、又は炭素数が1以上10以下の置換基を有するか若しくは非置換の芳香族炭化水素基である。
【請求項4】
前記重合体は下記一般式(4)で表される構成単位(D)を含み、
前記構成単位(D)のモル分率dが0以上0.20以下である、請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用減粘剤。
【化4】
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用減粘剤と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス電極用減粘剤組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用減粘剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒とを含有する、蓄電デバイス用正極ペースト。
【請求項7】
炭素材料系導電材が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の蓄電デバイス用正極ペースト。
【請求項8】
請求項6または7に記載の蓄電デバイス用正極ペーストを集電体に塗布しこれを乾燥すること含む、蓄電デバイス用正極電極の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法で得られた蓄電デバイス用正極電極を組込むことを含む、蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス正極用減粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極製造工程では、近年、リチウム金属酸化物などの正極活物質とそれらを結合するバインダー樹脂に加え、導電助剤としてカーボンナノチューブを使用するケースが増加している。また、正極活物質(粒子)はより微細な方向に進んでいる。
【0003】
正極は、これらの材料を有機溶媒中に配合し分散させたペースト状の塗料(正極ペースト)を調製し、これを集電箔(集電体)であるアルミ箔等に塗工・乾燥することにより作製されるが、正極ペーストを均一に塗工することができずに生産性が悪化し、正極塗膜の抵抗に悪影響が及ぶ場合があった。正極塗膜は、電極基板(集電体)に塗工して得られた膜状の層である。このような現象が発現する要因は、一般的には、正極ペーストの粘度が高いことによると考えられてきた。また、正極ペーストの粘度の高低には、炭素材料系導電材の分散性の良否も大きく影響していることが知られている。
【0004】
下記特許文献1~3は、各々、非水溶媒中での炭素材料の分散のために用いられる分散剤を開示している。
具体的には、特許文献1は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体にアンモニアまたは飽和低級アミンをほとんど100%の反応率で反応させて得た、カーボンブラックの分散剤として有用な分散剤を開示している。
特許文献2は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体のステアリルアミンによる100%アミド化物と、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)と、顔料としてカーボンブラックを含む印刷インキ用分散剤組成物を開示している。
特許文献3は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体のオレイルアミンによるアミド化物と、有機溶剤としてプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PEGMA)と、カーボンブラックを含む電子材料用油中分散剤組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭41-17852号公報
【特許文献2】特開2018―168285号公報
【特許文献3】特開2009-138115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり特許文献1~3は、いずれも、炭素材料(カーボンブラック)の分散性に着目している。しかし、正極活物質の分散状態が正極ペーストの塗工性に影響し延いては塗膜抵抗に影響することは開示していない。また、正極活物質に対する何らかの対処によって正極ペーストの塗工性を改善できる旨の開示もない。
【0007】
そこで、本開示は、一態様において、正極ペーストの降伏値の低減を可能とし、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な蓄電デバイス正極用減粘剤を提供する。
また、本開示は、当該蓄電デバイス正極用減粘剤を含む、蓄電デバイス正極用減粘剤組成物および正極ペーストを提供する。
また、本開示は、当該正極ペーストを用いて作製する蓄電デバイス用正極の製造方法、当該蓄電デバイス用正極を用いて作製する蓄電デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.10以上0.60以下である、蓄電デバイス正極用減粘剤に関する。
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、
Xは(CH2n、nは0または1であり、
1は、芳香環または複素芳香環であり、
2は、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素であり、
1は、水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウムである。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用減粘剤と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス正極用減粘剤組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用減粘剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス用正極ペーストに関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極ペーストを集電体に塗布しこれを乾燥すること含む、蓄電デバイス用正極の製造方法に関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極を組込むことを含む、蓄電デバイスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、一態様において、正極ペーストの降伏値の低減を可能とし、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な蓄電デバイス正極用減粘剤を提供できる。
本開示によれば、一態様において、正極ペーストの降伏値の低減を可能とし、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な蓄電デバイス正極用減粘剤組成物を提供できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用減粘剤を含み、降伏値が低く、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な、蓄電デバイス用正極ペーストを提供できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極ペーストを用いて蓄電デバイス用正極を作製するので、低抵抗化された蓄電デバイス用正極を製造できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極を用いて蓄電デバイスを作製するので、低抵抗化された蓄電デバイスを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願の発明者らは、正極ペーストの均一塗工を困難にしている要因が、正極活物質粒子同士の摩擦や、比表面積の大きい炭素材料系導電材の凝集などであると考えた。そして、正極ペーストの塗工性の改善、延いては、塗膜抵抗の低下のために、正極ペースト中の構造の制御、すなわち正極ペーストの降伏値を適切に制御する必要があると考え、本開示の蓄電デバイス正極用減粘剤(重合体)(以下、「本開示の減粘剤」と略称する場合がある。)を設計した。
本開示は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を含み全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.10以上、0.60以下の重合体(減粘剤)を含むことにより、蓄電デバイス用正極ペーストの降伏値を所望の値に制御できる、という新たな知見に基づく。
【化2】
ただし、上記一般式(1)中、Xは(CH2n、nは0または1であり、R1は、芳香環または複素芳香環であり、R2は、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素であり、M1は、水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウムである。
【0015】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細については明らかではないが、上記一般式(1)中のR1が、極性溶媒中で正極活物質および炭素材料系導電材に対する高い吸着性を発揮することで当該溶媒中での正極活物質および炭素材料系導電材の分散が良好に行われる。R2は、R1と協同して本開示の減粘剤の適切な溶媒との親和性を発現することことに寄与しており、即ち、本開示の減粘剤の溶媒への溶解性を制御する役割を担う。加えて、構成単位(A)のカルボキシ基又はこれが中和された塩構造が、その静電斥力によって、極性溶媒中での正極活物質および炭素材料系導電材の分散性の向上に寄与することで、正極活物質粒子同士の摩擦や、比表面積の大きい炭素材料系導電材の凝集を抑制し、正極ペーストの降伏値の低下を可能とし、延いては、当該正極ペーストを用いて形成される塗膜抵抗の低減を可能としているものと推察している。ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されない。
【0016】
<蓄電デバイス正極用減粘剤>
[構成単位(A)]
本開示は、一態様において、非水二次電池等の蓄電デバイス正極用減粘剤に関する。本開示の蓄電デバイス正極用減粘剤(以下「本開示の減粘剤」とも言う。)は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を含む重合体である。当該重合体の全構成単位に対する構成単位(A)のモル分率aは、所望の降伏値を得る観点から、0.10以上、0.60以下である。
【化3】
【0017】
本開示の減粘剤は、例えば、オレフィンと無水マレイン酸との共重合体をアミド化することにより、芳香環または複素芳香環であるR1と、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素であるR2とを導入し、必要に応じて、アミド化により生じたカルボキシ基を中和して得たものである。上記一般式(1)で表される構成単位(A)は、アミド変性され必要に応じてカルボキシ基が中和された無水マレイン酸に由来する。
【0018】
前記構成単位(A)は、正極ペーストに配合される正極活物質および炭素材料系導電材の分散性を向上させる役割を担う。作用機構については不明な要素があるが、R1で示される芳香環の極性により、正極活物質粒子および炭素材料系導電材と相互作用しているためと推察している。R1は、正極活物質粒子および炭素材料系導電材へ作用し、正極ペーストの降伏値を制御する観点から、芳香環または複素芳香環であり、好ましくはピリジン環等の複素芳香環、ベンゼン環またはナフタレン環であり、より好ましくはピリジン環またはベンゼン環、さらに好ましくはピリジン環である。
【0019】
上記一般式(1)中、R2は溶媒への溶解性を制御する役割を担う。R2は、水素、芳香環、複素芳香環または脂肪族炭化水素のいずれであってもよいが、好ましくは水素である。
芳香環または複素芳香環としては、ピリジン環等の複素芳香環、ベンゼン環またはナフタレン環等があげられる。
脂肪族炭化水素の炭素数は、減粘剤の合成のし易さ、および減粘剤の溶解性の観点から、1以上であり、有機溶媒への減粘散剤の溶解性の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。
また、R1およびR2の合計炭素数は、有機溶媒への減粘剤の溶解性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下である。
【0020】
上記一般式(1)中、Xは、合成原料に由来して(CH2nであり、nは0または1である。
【0021】
上記一般式(1)中、カルボキシ基または中和されたカルボキシ基(COOM1)は、R2と同じく溶媒への溶解性を制御する因子であり、M1は水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウム(有機アミンの塩)である。中でも溶媒溶解性を向上させる観点から、有機アンモニウムが好ましい。前記金属としては、Na、Ca、Mg等が挙げられる。有機アミンとしては中和剤として機能するものであれば特に制限はないが、例えば、モノエタノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジメチルベンジルアミン、メチルベンジルアミン、2-N-ジブチルアミノエタノール、1-フェニルメタンアミン、N,N-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、1-アミノ-2-ブタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、DL-1-アミノ-2-プロパノール、N-メチル-2-アミノエタノール、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-エチルジエタノールアミン等のアミン化合物が挙げられる。
尚、後述する「有機アミンB2」との区別のため、中和剤として使用される上記有機アミンを、有機アミンB1と呼ぶ。
【0022】
上記一般式(1)中のaは、本開示の減粘剤(重合体)の全構成単位に対する構成単位(A)のモル分率である。前記構成単位(A)のモル分率aは、正極ペーストの降伏値を所望の範囲に制御する観点から、0.10以上、0.60以下であり、さらに製造する重合体の実用性の観点から、好ましくは0.10以上、0.50以下である。
尚、本開示において、モル分率aは、本開示の減粘剤の重合に用いる後述のモノマーIに対してR1およびR2を導入するためのアミン化合物A1の使用量から算出できる。
【0023】
[構成単位(C)]
下記構成単位(C)は前記オレフィンに由来する構成単位である。構成単位(C)は、ポリマー重合性(減粘剤の合成のし易さ)を制御する因子である。
【化4】
【0024】
上記一般式(3)中、R5は、溶媒への溶解性の向上の観点から、水素又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。
【0025】
上記一般式(3)中、R6は、溶媒への減粘剤の溶解性の向上の観点から、水素、炭素数が1以上10以下のアルキル基、又は炭素数が1以上10以下の置換基を有するか若しくは非置換の芳香族炭化水素基である。R6は、溶媒への溶解性の向上の観点から、好ましくは、炭素数が1以上10以下のアルキル基、又は炭素数が1以上10以下の置換基を有するか若しくは非置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数が1以上10以下のアルキル基、又は炭素数が1以上10以下の置換基を有するか若しくは非置換のナフチル基又はフェニル基であり、さらに好ましくは炭素数が1以上10以下のアルキル基である。当該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0026】
6の炭素数は、モノマー重合性の観点から、1以上であり、好ましくは2以上であり、そして、同様の観点から、10以下であり、好ましくは7以下である。
【0027】
上記一般式(3)中のcは、本開示の減粘剤(重合体)の全構成単位に対する構成単位(C)のモル分率である。前記構成単位(C)のモル分率cは、減粘剤の合成のし易さの観点から、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.45以上であり、同様の観点から、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.55以下である。
尚、本開示においてモル分率cは本開示の減粘剤の重合に用いる後述のモノマーIIの使用量から算出できる。
【0028】
構成単位(A)と構成単位(C)の配置はブロック型、ランダム型のいずれであってもよいが、重合体の生産性の観点から、ランダム型が好ましい。
【0029】
[構成単位(B)]
本開示の減粘剤は、正極ペーストに配合される炭素材料系導電材(導電助剤)の向上の観点から、好ましくは下記一般式(2)で表される構成単位(B)をさらに含む。
【化5】
【0030】
上記一般式(2)中、R3は水素、R4は、炭素数が14以上22以下の脂肪族炭化水素基、M2は、水素、NH4、アルカリ金属原子又は有機アンモニウムである。
【0031】
上記一般式(2)中、R4は、正極ペーストに配合する炭素材料系導電材を分散する観点から、好ましくは炭素数が14以上22以下の脂肪族アルキル基である。R4の炭素数は、正極ペーストに配合する炭素材料系導電材を分散する観点から、14以上、好ましくは18以上であり、同様の観点から、22以下である。
【0032】
上記一般式(2)中、カルボキシ基または中和されたカルボキシ基(COOM2)は、COOM1およびR2と同じく溶媒への溶解性を制御する因子であり、M2は、水素、NH4、アルカリ金属原子または有機アンモニウム(有機アミンB1の塩)である。中でも溶媒溶解性を向上させる観点から、有機アンモニウム(有機アミンB1の塩)が好ましい。アルカリ金属原子の具体例、および有機アミンB1の具体例は、各々、上記M1のそれと同じものが挙げられる。
【0033】
上記一般式(2)中のbは、本開示の減粘剤(重合体)の全構成単位に対する構成単位(B)のモル分率である。前記構成単位(B)のモル分率bは、炭素材料系導電材に対する高い吸着性の観点、溶媒溶解性の観点、および正極活物質粒子への作用(吸着)を最大化する観点から、好ましくは0.10以上、0.30以下であり、関係式b/a≦2.5を、好ましくは0.3≦b/a≦2.5を、より好ましくは0.3≦b/a≦1.0を充足する値である。
尚、本開示において、モル分率bは、本開示の減粘剤の重合に用いる後述のモノマーIに対してR3およびR4を導入するためのアミン化合物A2の使用量から算出できる。
【0034】
[構成単位(D)]
オレフィンと無水マレイン酸との共重合体のアミド化が無水マレイン酸の一部に対しておこなわれた場合は、本開示の減粘剤は、下記一般式(4)で表される無水マレイン酸に由来の構成単位(D)をさらに含む。
【化6】
【0035】
下記一般式(4)中のdは、本開示の減粘剤(重合体)の全構成単位に対する構成単位(D)のモル分率である。前記構成単位(D)のモル分率dは、正極ペーストの降伏値を所望の範囲に制御する観点、および塗膜抵抗を低減させる観点から、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0である。
【0036】
本開示の減粘剤は、例えば、オレフィンと無水マレイン酸との共重合体のアミド化物を必要に応じて中和して得た変性共重合体であるが、アミド変性前の前記共重合体の重量平均分子量は、正極活物質および炭素材料系導電材への吸着性の観点から、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。そして、有機溶媒に対する溶解性、正極活物質および炭素材料系導電材の分散性、正極ペーストの低粘度化の観点から、100,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
本開示において、アミド変性前のビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例の[重量平均分子量の測定]に示す通りである。
【0037】
前記構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(D)を与えるモノマーIとしては、無水マレイン酸またはマレイン酸が挙げられるが、アミド化によって簡便にR1およびR2、必要に応じてR3およびR4を導入しやすいという理由から、アミンとの反応性を有する構造の無水マレイン酸が好ましい。
【0038】
前記構成単位(C)を与えるモノマーIIとしては、有機溶媒への良好な溶解性の観点から、R5およびR6を有するα-オレフィンが好ましく、具体的には、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ブテン、1-オクセン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン)、1-デセン、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒への良好な溶解性の観点から、スチレン、ジイソブチレンおよびイソブチレンのうちの少なくとも1種が好ましく、ジイソブチレンがより好ましい。
【0039】
本開示の減粘剤は、例えば、ビニルモノマーの重合により製造できる。例えば、モノマーIとモノマーIIとを溶媒中で混合し、溶液重合法でモノマーを重合させてアミド化に供される共重合体を得る。アミド化に供される共重合体は、市販品を使用することができ、例えば、イソブチレンと無水マレイン酸の共重合体であるイソバン(クラレ株式会社製)などが挙げられる。前記共重合体に対し、前記R1とR2を有するアミン化合物A1を添加して、モノマーIに由来の構成単位の一部または全部に前記R1とR2を導入する(構成単位A含有アミド変性共重合体)。また、必要に応じて、さらに、前記R3とR4を有するアミン化合物A2を添加して、モノマーIに由来の構成単位の一部に前記R3とR4を導入する(構成単位A、B含有アミド変性共重合体)。
このようにして得られたアミド変性共重合体を含む溶液に、必要に応じて中和剤を用いてカルボキシ基の全部又は一部を中和する。その後、必要に応じて、アミド変性共重合体を含む溶液中の溶媒をアミド変性共重合体の貧溶媒、例えば水系溶媒に置換してアミド変性共重合体を沈殿させ、本開示の減粘剤を得る。減粘剤の中和は減粘剤組成物の調製時に行ってもよい。
【0040】
前記R1とR2を有するアミン化合物A1としては、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、ベンジルアミン、N-メチルベンジルアミン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン等が挙げられる。
【0041】
前記R3とR4を有するアミン化合物A2としては、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ベヘニルアミン等が挙げられる。
【0042】
本開示の減粘剤の合成に用いられる溶媒としては、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン)、芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル)、N-メチルピロリドン等の有機溶媒を使用することができる。溶媒量は、モノマー全量に対する質量比で、0.5~10倍量が好ましい。
【0043】
前記重合に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量は、モノマー成分全量に対し、0.01~5モル%が好ましい。重合反応は、窒素気流下、40~180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5~20時間が好ましい。また、前記重合の際、公知の連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、イソプロピルアルコールや、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が挙げられる。
【0044】
<蓄電デバイス電極用減粘剤組成物>
本開示の減粘剤は、前記構成単位(A)を含む重合体そのもの状態で市場に供給されてもよいし、有機溶媒(以下、説明の便宜のため「有機溶媒C」と称する。)に溶解させた状態の蓄電デバイス電極用減粘剤組成物(以下、「減粘剤組成物」と略称する場合もある。)として市場に供給されてもよい。
【0045】
本開示の減粘剤組成物は上記本開示の減粘剤を含むので、本開示の減粘剤組成物を用いれば、塗工性が良好で、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な蓄電デバイス用正極ペーストの調製が行える。
【0046】
本開示の減粘剤組成物中の減粘剤の含有量は、特に制限はないが、生産性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、有機溶媒に対する溶解性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0047】
本開示の減粘剤組成物は、一態様において、正極ペーストの粘度低下の効果および塗膜抵抗の低減の観点から、有機溶媒Cに可溶な有機アミン(以下、減粘剤の中和に使用される前記有機アミンB1との区別のために「有機アミンB2」とも言う。)を添加することもできる。有機アミンB2は、電極への残留抑制の観点から、沸点が260℃以下であることが好ましい。
【0048】
本開示の有機アミンB2の沸点は、好ましくは260℃以下であるが、蓄電デバイスの電極の抵抗を低減する観点から、電極の製造過程の乾燥時に揮発する温度であることが好ましく、正極ペーストの溶媒として多用されている溶媒の沸点以下であることがより好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)の沸点(沸点202℃)以下であることがより好ましく、NMPの再利用の観点から190℃以下が更に好ましい。本開示の有機アミンB2の沸点の下限は、取り扱い性の観点から100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0049】
有機アミンB2は有機アミンB1と同一であってもよい。その場合は、本開示の減粘剤組成物の調製の際に、未中和の減粘剤に対して、有機アミンB1としての有機アミンと有機アミンB2としての有機アミンの合計量を添加してもよい。添加された有機アミンは、カルボキシ基の中和のために優先消費されるため、定義上、全てのカルボキシ基を中和できる有機アミンの量が有機アミンB1としての添加量であり、残りが有機アミンB2としての添加量である。
【0050】
[有機溶媒C]
有機溶媒Cとしては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機溶媒、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系極性有機溶媒、酢酸エチル、γ-ブチルラクトン、およびε-カプロラクトンなどのエステル系極性有機溶媒等が挙げられるが、本開示の減粘剤の溶解性が高いN-メチルピロリドンを含むとより好ましく、N-メチルピロリドンであると更に好ましい。有機溶媒Cは、これらの有機溶媒のうちの1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0051】
本開示の減粘剤組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0052】
<蓄電デバイス用正極ペースト>
本開示は、一態様において、本開示の減粘剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒と、必要に応じて有機アミンB2とを含む、蓄電デバイス用正極ペースト(以下、「本開示の正極ペースト」ともいう)に関する。本態様における本開示の減粘剤の好ましい形態は上述のとおりである。本態様における有機溶媒は、好ましくは上述した有機溶媒Cと同じであり、より好ましくはNMPである。本開示の正極ペーストは、本開示の減粘剤を含有するので、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能である。
【0053】
本開示の正極ペーストは、結着剤をさらに含んでいてもよい。本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、炭素材料系導電材以外の導電材を更に含んでいてもよい。炭素材料系導電材以外の導電材としては、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0054】
[炭素材料系導電材]
炭素材料系導電材としては、一又は複数の実施形態において、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と表記することもある。)、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン等が挙げられるが、なかでもカーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種が好ましく、CNTがさらに好ましい。炭素材料系導電材として、上記の1種または2種以上を使用してもよい。
炭素材料系導電材として使用できるCNTの平均直径は、特に限定されないが、CNTの分散性向上の観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、そして、導電性向上の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。
また、CNTの平均長さは特に限定されないが、導電性向上の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上、更により好ましくは30μm以上であり、そして、分散性向上の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、更により好ましくは120μm以下である。異なる直径や長さのCNTを2種以上混合して使用してもよい。
本開示において、CNTの平均直径および平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。CNTは、正極塗膜に求められる特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのCNTを使用でき、これらの混合物を用いることもできる。
【0055】
(正極活物質)
正極活物質としては、無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、オリビン構造を有する化合物やリチウム遷移金属複合酸化物等を用いることができる。オリビン構造を有する化合物としては、一般式LixM1sPO4(但し、M1は3d遷移金属、0≦x≦2、0.8≦s≦1.2)で表される化合物を例示できる。オリビン構造を有する化合物には、非晶質炭素等を被覆して用いてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、スピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物、層状構造を有し一般式LixM2O2-δ(但し、M2は遷移金属、0.4≦x≦1.2、0≦δ≦0.5)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。前記遷移金属M2としては、Co、Ni又はMnを含むものとすることができる。前記リチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、Al、Fe、Cr、Ti、Zn、P、およびBから選ばれる一種又は二種以上の元素を含有していてもよい。
【0056】
本開示の正極ペースト中の正極活物質の含有量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる限り、特に制限はないが、エネルギー密度の観点と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0057】
本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量について、特に制限はない。本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量は、従来公知の正極ペーストの全固形分におけるそれと同じであってもよく、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つためには、90.0質量%以上が好ましく、そして、合材層の導電性や塗膜性を担保するためには、99.9質量%以下が好ましい。
【0058】
(結着剤)
結着剤(バインダー樹脂)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル等を単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0059】
本開示の正極ペーストの全固形分における結着剤の含有量は、合材層の塗膜性や集電体との結着性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、そして、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点からは9.95質量%以下が好ましい。
【0060】
(正極ペースト中の減粘剤の含有量)
本開示の正極ペースト中の本開示の減粘剤の含有量は、降伏値制御の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、そして、塗膜抵抗低減の観点から、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0061】
(正極ペースト中の炭素材料系導電材の含有量)
本開示の正極ペーストの炭素材料系導電材の含有量は、合材層の導電性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0062】
本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、正極活物質、結着剤、本開示の減粘剤組成物と、炭素材料系導電材と、固形分濃度調整等のための有機溶媒(追加溶媒)等を、混合及び攪拌して、作製することができる。このほか、上記有機アミンB2、分散剤、機能性材料等を添加しても良い。上記有機溶媒(追加溶媒)としては、好ましくは上述した有機溶媒Cが挙げられ、より好ましくはNMPである。これらの混合や攪拌にはプラネタリミキサー、ビーズミル、ジェットミル等を用いることができ、また、これらを併用することもできる。
【0063】
本開示の正極ペーストは、正極ペーストの調製に用いる全成分のうちの一部成分をプレミックスしてから、それを残余と混合することもできる。また、各成分は、全量を一度に投入せずに、複数回に分けて投入しても良い。これにより、攪拌装置の機械的な負荷を抑えることができる。
【0064】
本開示の正極ペーストの固形分濃度や、本開示の減粘剤の量、正極活物質の量、結着剤の量、導電材の量、添加剤成分の添加量、有機溶媒の量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる。乾燥性の観点からは有機溶媒の量は少ないほうが好ましいが、正極合材層の均一性や表面の平滑性の観点から、正極ペーストの粘度が高すぎないことが好ましい。一方で、乾燥抑制の観点、及び合材層(正極塗膜)の充分な膜厚を得る観点から、正極ペーストの粘度が低すぎないことが好ましい。
【0065】
本開示の正極ペーストは、製造効率の観点からは高濃度に調整できることが好ましいが、著しい粘度の増加は作業性の観点から好ましくない。添加剤により、高濃度を保ちつつ、好ましい粘度範囲を保つことができる。
【0066】
尚、本開示の導電材スラリー及び正極ペーストは、各々、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0067】
(正極ペーストの製造方法)
本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の減粘剤組成物と、炭素材料系導電材と、結着剤と、正極活物質と、必要に応じて追加の有機溶媒や有機アミンB2とを混合する工程を含むことができる。また、本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、炭素材料系導電材と有機溶媒と、必要に応じて本開示の減粘剤および/または有機アミンB2とを含む導電材スラリーを調製してから、当該導電性スラリーと、結着剤と、正極活物質とを混合してもよい。導電材スラリーは市販品であってもよい。また、一又は複数の実施形態において、前記導電材スラリーと追加の有機溶媒と結着剤とを混合し、これらが均質になるまで攪拌したのち、正極活物質を混合し、これらが均質になるまで攪拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられる。これら成分の添加順序はこれに制限されない。
【0068】
<正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極の製造方法>
本開示は、一態様において、本開示の正極ペーストを用いて作製された正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極の製造方法に関する。本態様の製造方法は、本開示の正極ペーストを、集電体に塗工した後、乾燥し、プレスすることを含む。本態様において、本開示の正極ペーストの好ましい形態は上述のとおりである。本開示の製造方法において、本開示の正極ペーストを用いること以外は、従来から公知の方法により正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極を製造できる。
【0069】
正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極は、例えば、上記の正極ペーストをアルミニウム箔等の集電体に塗工し、これを乾燥して作製する。正極塗膜の密度を上げるために、プレス機により圧密化を行うこともできる。正極ペーストの塗工には、ダイヘッド、コンマリバースロール、ダイレクトロール、グラビアロール等を用いることができる。塗工後の乾燥は、加温、エアフロー、赤外線照射等を単独あるいは組み合わせて行うことができる。塗工後の乾燥は、乾燥時間を経ることにより、正極ペースト中の有機溶媒が正極ペースト中に存在できなくなる温度で行う。乾燥温度は、乾燥が行われる環境下(気圧下又は真空下)において、バインダー樹脂の熱分解温度以下であれば特に制限はないが、好ましくは有機溶媒の沸点以上の温度である。前記乾燥温度は、好ましくは60℃以上220℃以下であり、乾燥時間は、好ましくは10分以上24時間以下である。正極電極のプレスは、ロールプレス機等により、行うことができる。なお、プレス後に蓄電デバイス用正極電極を蓄電デバイスに組込む大きさに加工した後、上記の条件で再乾燥しても良い。
【0070】
<蓄電デバイスおよびその製造方法>
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極電極の製造方法によって得られた蓄電デバイス用正極電極を含む蓄電デバイスおよびその製造方法に関する。
上記蓄電デバイスとしては、一又は複数の実施形態において、リチウムイオン二次電池、リチウム空気二次電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム-硫黄二次電池、ナトリウム-塩化ニッケル二次電池、有機ラジカル電池、亜鉛-空気二次電池、全固体電池等が挙げられる。
【0071】
本開示の蓄電デバイスの製造方法は、本開示の蓄電デバイス用正極電極を蓄電デバイス用正極電極として用いること以外は、公知の蓄電デバイスの製造方法と同様の工程を含む。本開示の蓄電デバイスの製造方法では、例えば、2つの電極(正極電極及び負極電極)を、セパレータを介して重ね合わせ、電池形状に捲回又は積層させる工程、および、得られた捲回体又は積層体を、電池容器あるいはラミネート容器に入れ、容器に電解液を注入して封口する工程を含む。
【実施例0072】
以下、本開示の実施例及び比較例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0073】
1.各パラメータの測定方法
[重量平均分子量の測定]
アミド変性前の共重合体の重量平均分子量は、GPC法により測定した。詳細な条件は以下の通りである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム :α-M + α-M(東ソー社製)
カラム温度 :40℃
検出器 :示差屈折率
溶離液 :60mmol/LのH3PO4及び50mmol/LのLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速 :1mL/min
検量線に用いる標準試料 :ポリスチレン
試料溶液:共重合体の固形分を0.5wt%含有するDMF溶液
試料溶液の注入量 :100μL
【0074】
[正極ペーストの降伏値測定]
正極ペーストの降伏値(25℃)は、次のようにして測定した。
Anton Paar社のMCR302レオメーターに、コーンプレートCP50を装着し、せん断速度を0.1s-1から1000s-1まで上げた後(往路)、1000s-1から0.1s-1まで戻し(復路)、復路のせん断速度1000s-1から500s-1におけるせん断応力を測定し、直線近似したときの切片を降伏値とした。その結果を表2に示した。
【0075】
[正極塗膜の抵抗値の測定]
正極ペーストを、ポリエステルフィルムに垂らし、100μmのアプリケータで均一に塗工した。この塗工したポリエステルフィルムを80℃で1時間乾燥し、厚み40μmの正極塗膜を得た。
PSPプローブを装着したLoresta-GP(三菱ケミカルアナリテック製)にて限界電圧10vにて塗膜抵抗値を測定した。その結果は表3に示した。
【0076】
[実施例1]
(減粘剤の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えたガラス製反応容器内に、ジイソブチレン(丸善石油化学社製)621.8g及びルトナールA-50(BASF社製、ポリビニルエチルエーテル)3.1gを仕込んだ。反応容器内を窒素雰囲気とし、攪拌を開始した。反応容器内容物を105℃まで加熱し、これ以降、重合反応を完結させるまで、反応容器内容物の温度を105℃に保った。70℃に保温した液体の無水マレイン酸(三井化学ポリウレタン社製)190.0g、及びジイソブチレン23.1gにパーブチルO(重合開始剤、日油社製、t-ブチルパーオキシ- 2-エチルヘキサノエート、「パーブチル」は登録商標)9.2gを溶解させて得た開始剤溶液を、それぞれ別の滴下ロートから反応容器内に4時間かけて滴下した。滴下の終了から20分後に、ジイソブチレン7.3gにパーブチルO 1.2gを溶解させて得た追加の開始剤溶液を反応容器内に加え、更に2時間40分熟成を行って重合反応を完結させ、共重合体を含む溶液を得た。反応容器内にイオン交換水800gを加え、共重合体の沈殿物を析出させた。次いで、水蒸気蒸留によって、未反応のジイソブチレンの留去を行った。前記水蒸気蒸留は、常圧で反応容器を加熱し、反応容器内容物の温度が100℃に達し、ジイソブチレンの留出が無くなるまで行った。次に、デカンテーションにより水を除去したのち、水で湿潤した共重合体の沈殿物を105℃、100mmHgの減圧下で24時間乾燥させ、重量平均分子量が28000のジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体を得た。
【0077】
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、得られたジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体を138.2g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(三菱ケミカル製)を248.6g入れ、窒素雰囲気下で攪拌し、溶解させた。そして、フラスコ内に2-アミノピリジン(和光純薬株式会社製)61.8gを室温で滴下した後、フラスコ内の反応溶液を72℃までに昇温し2時間保持することでアミド化し、不揮発分が42質量%の減粘剤A溶液を、減粘剤組成物B1として得た。
【0078】
(導電材スラリーの調製)
多層カーボンナノチューブ(Cnano製 FT6810、直径7~12nm、長さ50~250μm(カタログ値))4.2質量部と、ポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社製 K-30)を1.6質量部と、NMP 98.2質量部とを混合し、粗分散液を得た。
前記粗分散液を、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)を用いて12時間処理することで導電材スラリーを得た。
【0079】
(正極ペーストの調製)
上記で調製した導電材スラリー0.93g、NMP0.51g、PVDF(8%)NMP溶液(KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製)2.44g、上記で調製した減粘剤組成物B1を固形分1%に希釈したもの0.8gを、50mlのサンプルビンに秤取り、スパーテルで均一にかき混ぜた。その後、正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.32(NCM523-ME5E12D、北京当升製)15.4gを添加し、再度スパーテルで均一になるまでかき混ぜた。さらに自転公転ミキサー(AR-100 株式会社シンキー製)で2分間撹拌し、正極ペーストを得た。
【0080】
なお、正極活物質、結着剤(PVDF)、導電材(カーボンナノチューブ)及び減粘剤の質量比率は98.45:1.25:0.25:0.05(固形分換算)とし、正極ペーストの固形分量(質量%)は78質量%とした。正極ペーストの全固形分量は、正極ペーストが含有する、正極活物質、結着剤、導電材および減粘剤の合計質量である。
【0081】
[実施例2~11、比較例1]
減粘剤の合成に使用するアミン化合物の種類またはその添加量、並びにジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体の添加量等を変更して、下記表1に記載の減粘剤B~Lを含む減粘剤溶液を、減粘剤組成物B2~B8、B10~B12として調製した。減粘剤組成物B2~B8、B10~B12における減粘剤B~H、J~Lの含有量は42.0質量%であり、残部がNMPである。使用したアミン化合物は下記の通りである。実施例9については、ジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体を、2-アミノピリジンとステアリルアミンを用いてアミド化した後、減粘剤溶液中の全てのカルボキシ基を中和できる量の2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)を添加して、中和された減粘剤Iを42質量%含有する減粘剤組成物B9を得た。
実施例2 2-アミノピリジン
実施例3~5、9 2-アミノピリジン、ステアリルアミン
実施例6 2-アミノピリジン、テトラデシルアミン
実施例7、10 ベンジルアミン、ステアリルアミン
実施例8 N-フェニル-1-ナフチルアミン
比較例1 テトラデシルアミン
【0082】
次いで、[実施例1]と同様にして導電性スラリーを調製し、次いで、正極ペーストD2~D12を各々調製した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示されるように、実施例1~11の減粘剤を含む正極ペーストD1~D11の降伏値は、比較例1の減粘剤を含む正極ペーストD12の降伏値よりも低い。構成単位(A)のR1がピリジン環である場合、比較例1と比較して15%以上低い値であった(実施例1~6、9、11参照)。さらに、減粘剤が、その構成単位として構成単位(B)をさらに含み、R4が、炭素数が18以上22以下の脂肪族アルキル基であると、降伏値の顕著な低下がみられ(実施例3~5、9、11参照)、特に、構成単位(A)と構成単位(B)のモル分率の比が0.50以下であると、降伏値の顕著な低下がみられた(実施例4、9参照)。
【0086】
実施例1~11の減粘剤を含む正極ペーストD1~D11を用いて上記[正極塗膜の抵抗値の測定]に記載の方法に従って正極塗膜を作製した。正極ペーストD1~D11の塗工性はいずれも良好であった。下記表3に示されるように、正極ペーストD1~D11を用いて作製された正極塗膜の抵抗は、比較例1の減粘剤を含む正極ペーストD12を用いて作製された正極塗膜の抵抗よりも低かった。
【0087】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の減粘剤は、正極ペーストの降伏値の低減を可能とするので、正極ペーストを生産性よく調製できる。また、本開示の減粘剤を用いれば、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能となるので、低抵抗化された蓄電デバイス用正極電極および蓄電デバイスを生産性良く製造できる。