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特開2025-5207送電装置、制御方法及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005207
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】送電装置、制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/26 20060101AFI20250108BHJP
   H02J 50/23 20160101ALI20250108BHJP
【FI】
H01Q3/26 Z
H02J50/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105294
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 克敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕也
(72)【発明者】
【氏名】中舎 朋之
(72)【発明者】
【氏名】正岡 伸博
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA06
5J021AA11
5J021DB02
5J021DB03
5J021EA02
5J021FA13
5J021FA16
5J021FA30
5J021GA06
(57)【要約】
【課題】屋内で放射する電波の外部への影響について改善する。
【解決手段】送電装置10は、構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送受信部13と、構造物の開口部を示す方向に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とでその方向への強度が異なるように、開口がある場合にはその方向にヌル形成するように、開口部における送信波の電波強度を、開口部とは異なる場所における送信波の電波強度よりも低い第1強度とする制御部17と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送信部と、
前記構造物の開口部を示す方向に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とでその方向への強度が異なるように、開口がある場合にはその方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする制御部と、を備える送電装置。
【請求項2】
前記開口部の第1位置及び方向の少なくとも一方を検出可能なセンサ部を備え、
前記センサ部は、前記開口部の前記第1位置及び方向の少なくとも一方を検出可能であり、
前記制御部は、前記センサ部で検出した前記開口部の前記第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる前記構造物における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする、請求項1に記載の送電装置。
【請求項3】
前記センサ部は、前記開口部の大きさを検出する、請求項2に記載の送電装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記センサ部の検出した開口部の大きさに基づいて、前記第1強度とする電波の範囲を広角化する、請求項2に記載の送電装置。
【請求項5】
前記制御部は、予め記憶部に記憶されている前記開口部の前記第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる前記構造物における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする、請求項2に記載の送電装置。
【請求項6】
前記開口部の状態を検出可能な検出部を備え、
前記制御部は、
前記構造物の外部に前記送信波が到達可能な前記開口部の第1状態を検出した場合、前記第1位置における前記送信波の電波強度を第1強度とし、
前記構造物の外部に前記送信波が到達不能な前記開口部の第2状態を検出した場合、前記第1位置における前記送信波の電波強度を第1強度としない、請求項2に記載の送電装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記開口部の透過率に基づいて、前記開口部における前記送信波の前記第1強度を設定する、請求項1または2に記載の送電装置。
【請求項8】
構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送受信部を備える送電装置が、
前記構造物の開口部を示す第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とで、その方向への強度が異なるように、開口がある場合には、その方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする制御方法。
【請求項9】
構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送受信部を備える送電装置に、
前記構造物の開口部を示す第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とで、その方向への強度が異なるように、開口がある場合には、その方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とさせる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、送電装置、制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナを用いた無線給電では、レトロディレクティブ方式が用いられることがある。レトロディレクティブ方式は、電力伝送に先立ち受電装置からパイロット信号を送信し、送電装置側でパイロット信号の電波伝搬チャネル特性を推定し、これをもとに送信ウェイトを生成することでアンテナ指向性を制御する。特許文献1には、複数のアンテナ素子と給電対象機器のアンテナとの間の伝搬係数を計算し、伝搬係数に基づいて給電信号の位相及び振幅を複数のアンテナ素子ごとに調整する無線給電装置が開示されている。また、引用文献2には、物体が所定の範囲内にある場合、被給電物への電波による給電を停止することなく、当該物体の位置に到達する電波の強度を弱める無線給電装置が開示されている。また、非特許文献1には、反射波が存在するマルチパス環境や遮蔽物が存在する見通し外環境における有効性が記されている。当該文献では当該方式をマルチパス・レトロディレクティブ方式と呼んでいる。そして、利用環境に人が存在する場合でも、受電装置から送電装置へ伝搬するパイロット信号は人体を通り抜けないため、送電装置から人体に向けて放射されることはない技術が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-10485号公報
【特許文献2】特開2020-005468号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Taichi Sasaki, Naoki Shinohara, “Study on Multipath Retrodirective for Efficient and Safe Indoor Microwave Power Transmission,” 2019 IEEE Wireless Power Transfer Conference(WPTC), 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空間伝送型ワイヤレス伝送システムでは、運用(サービス)を開始する前に他システムとの共用検討が行われている。屋内システムでは、屋内の壁を透過する際の電力減衰である壁損を考慮した屋外への漏洩電力を算出し、他システムとの離隔距離を計算して、共用可能エリアを決めている。しかし、窓ガラスなどが壁に存在すると、壁に比べ電波の減衰量が小さく、屋外に存在する他システムとの離隔距離を長くする必要がある。この場合、従来のシステムは、設置したい場所に空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムを導入できない恐れがあった。あるいは、従来のシステムは、送信出力を抑えて運用しなければならないなど、所望の給電が実現できない恐れがあった。このため、従来のシステムは、屋内で放射する電波の外部への影響について改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
態様の1つに係る送電装置は、構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送信部と、前記構造物の開口部を示す方向に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とでその方向への強度が異なるように、開口がある場合にはその方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする制御部と、を備える。
【0007】
態様の1つに係る制御方法は、構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送受信部を備える送電装置が、前記構造物の開口部を示す第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とで、その方向への強度が異なるように、開口がある場合には、その方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とする。
【0008】
態様の1つに係る制御プログラムは、構造物内に配置された受電装置へ送信波を送信する送受信部を備える送電装置に、前記構造物の開口部を示す第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、ある方向に、開口部がある場合と無い場合とで、その方向への強度が異なるように、開口がある場合には、その方向にヌル形成するように、前記開口部における前記送信波の電波強度を、前記開口部とは異なる場所における前記送信波の電波強度よりも低い第1強度とさせる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るワイヤレス電力伝送システムの概要を説明するための図である。
図2図2は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。
図3図3は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置が放射した電波による他の問題を説明するための図である。
図4図4は、実施形態1に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
図5図5は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。
図6図6は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態1に係る受電装置の構成の一例を示す図である。
図8図8は、送電装置の制御例を説明するための図である。
図9図9は、送電装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、実施形態1の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
図11図11は、実施形態1の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
図12図12は、実施形態2に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
図13図13は、微係数拘束時のベクトル化の一例を示す図である。
図14図14は、実施形態3に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
図15図15は、多点ヌル拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。
図16図16は、微係数拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。
図17図17は、前処理部のヌル深度の処理例を示す図である。
図18図18は、前処理部のヌル深度の他の処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願を実施するための複数の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。以下の説明において、同様の構成要素について同一の符号を付すことがある。さらに、重複する説明は省略することがある。
【0011】
図1は、実施形態に係るワイヤレス電力伝送システムの概要を説明するための図である。図1に示すシステム1は、例えば、マイクロ波伝送型(空間伝送型)のワイヤレス電力伝送が可能なワイヤレス電力伝送システムを含む。ワイヤレス電力伝送は、例えば、ケーブルやプラグを用いることなく、電力を伝送することが可能な仕組みである。マイクロ波伝送型のシステム1は、レトロディレクティブ方式を用いることができる。マイクロ波伝送型のシステム1は、エネルギー伝送として電波(マイクロ波)を使用する。マイクロ波伝送型のシステム1において使用する電波の周波数は、複数の周波数帯が利用可能であり、例えば、日本では、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯等を含む。本実施形態では、システム1は、状況に適した給電効率の向上及び安全性の確保を両立することを可能とする。システム1は、例えば、宇宙太陽光発電等に適用することもできる。
【0012】
図1に示す一例では、システム1は、マルチパス・レトロディレクティブ方式を用いている。システム1は、送電装置10と、受電装置20と、を備える。システム1は、複数のパス(伝搬チャネル)を使って送電装置10から受電装置20に電力を伝送する。送電装置10は、システム1において、ワイヤレスにより電力を伝送する伝送装置であり、給電用の電波を伝送可能な装置である。送電装置10は、アレーアンテナ11の近傍の人体等の物体を検出可能なセンサ部15を備えている。以下の説明において、送電装置10を「自機」と表記する場合がある。
【0013】
受電装置20は、システム1において、給電用の電波を受信して電力を得る被給電装置である。受電装置20は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、IoT(Internet of Things)センサ、ノート型パーソナル・コンピュータ、ドローン、電気自動車、電動自転車、ゲーム機等を含む。このように、本開示の受電装置は、移動可能な装置であるとしてよい。本開示の受電装置20は、基地局、信号機、自動販売機などの通常は移動させずに利用される装置を含むとしてよい。
【0014】
場面C1では、受電装置20は、送電装置10との間で定められた規定信号1000を送信できる。規定信号1000は、例えば、ビーコン、パイロット信号等を含む。受電装置20は、例えば、送信周期で規定信号1000を送信できる。受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射することで、規定信号1000を送信できる。一方、送電装置10は、規定信号1000を受信すると、当該規定信号1000に基づいて受電装置20から送電装置10への複数パスの特性値(アレー応答ベクトル)を推定する。送電装置10は、推定した受電装置20に対するアレー応答ベクトルを用いて送信用の重み係数を算出する。
【0015】
場面C2では、送電装置10は、各アンテナに重み係数を乗算して指向性制御を行い、給電用の送信信号2000を含む電波を放射する。指向性制御は、例えば、電波の放射方向と放射強度との関係を制御することを意味する。規定信号1000と送信信号2000の周波数が同一で伝搬路の時間変動を無視すれば、送電装置10から受電装置20への複数パスの特性は、受電装置20から送電装置10への特性と一致する。これにより、送電装置10から放射される給電用の電波2000Wは、受電装置20に向かうパスだけでなく、受電装置20とは異なる方向に向かうパスも活かした放射パターンになる。
【0016】
図2は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aが放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。図2が示す強度分布3000は、部屋4000の中に参考用送電装置100Aと受電装置20を配置し、物性が人体と似た物体5000を配置し、レトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aから送信信号2000を含む電波2000Wを放射した場合の強度分布を示している。参考用送電装置100Aは、本実施形態に係る送電装置10と同様に、規定信号1000に基づいて受電装置20から送電装置10への複数パスの特性値を推定し、当該特性値を用いてアンテナ指向性を制御し給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを送信可能な構成になっている。部屋4000は、3m×3m×3mの壁素材がコンクリートの部屋になっている。物体5000は、参考用送電装置100Aと受電装置20との間で、参考用送電装置100Aと受電装置20とを結ぶ直線上から左にずれた位置に配置されている。物体5000は、例えば、比誘電率が35.4、導電率が5.17の物性を有している。
【0017】
図2に示す一例では、強度分布3000は、参考用送電装置100Aから受電装置20に直接向かう電波2000W-1と、参考用送電装置100Aから物体5000に向かう電波2000W-2の強度が強くなっている。すなわち、強度分布3000は、参考用送電装置100Aが受電装置20から規定信号1000を直接受信するとともに、物体5000で反射した規定信号1000を受信していることを示していると考えられる。
【0018】
図3は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aが放射した電波による他の問題を説明するための図である。図3に示す一例では、部屋4000の中に参考用送電装置100Aと受電装置20を配置し、レトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aから受電装置20に向け、送信信号2000を含む電波2000Wを放射している。部屋4000は、壁、天井、床等の構造物4100と、構造物4100に一部に形成された開口部4200とを備える。構造物4100は、電波2000Wを外部に透過しない物体、電波2000Wを部屋4000の内部に反射する物体等を含む。開口部4200は、例えば、窓、ドア等を含む。開口部4200は、窓の場合、窓ガラスを有するので、電波2000Wの一部の電波2100Wが窓ガラスから部屋4000の外部へ透過する可能性がある。開口部4200は、ドアの場合、ドアが開いていると、電波2100Wが開いた状態のドア部分から部屋4000の外部へ透過する可能性がある。
【0019】
例えば、ビームフォーマ法により、窓方向にビームを向けないよう制御することも可能であるが、サイドローブによる電波2100Wの漏洩が発生する可能性があり、ビームだけでは確実に漏洩電力を制御できない。サイドロープは、放射する電波2000Wのうち最も強いビームのメインローブ以外のビームである。これに対し、送電装置10は、電波2000Wを窓方向にヌルを向けることも考えられるが、窓は大きさを持っており、代表的な一方向でのヌル形成だけでは、外部(屋外)への放射を充分に抑えられない場合がある。本開示では、システム1は、屋外への電波2000Wの漏洩を抑制する技術を提供する。
【0020】
(実施形態1)
[実施形態1に係る送電装置の構成]
図4は、実施形態1に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図5は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。図6は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。
【0021】
図4に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、制御部17と、乗算部18と、を備える。
【0022】
アレーアンテナ11は、指向性制御(ビームフォーミング)が可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、複数のアンテナ素子11Aを備えている。アレーアンテナ11は、例えば、複数のアンテナ素子11Aのそれぞれが同じ電波を放射し、それぞれの位相と電力強度を調整することで、特定の方向では電波を強め、別の方向では打ち消し合って弱めることが可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、送信信号2000を含む電波を放射し、受電装置20からの規定信号1000を含む電波を受信する。アレーアンテナ11は、受信した信号を送受信部13に供給する。本実施形態では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11は、3つ以上のアンテナ素子11Aを備える場合について説明するが、アンテナ素子11Aの数はこれに限定されない。
【0023】
送信信号発生部12は、受電装置20に送信する給電用の送信信号2000を生成する。送信信号2000は、電力を供給可能な電波2000Wを放射するための信号である。例えば、送信信号2000はベースバンド帯の信号であってもよい。送信信号2000は、例えば、無変調信号でもよいし、変調信号でもよい。無変調信号の場合、送信期間中、送信信号2000の時間変動はない。変調信号の場合、送信期間中、送信信号発生部12は送信信号2000を時間変動させる。送信信号発生部12は、例えば、規定信号1000を受信するタイミングには送信信号2000を停止することを含む。送信信号発生部12は、乗算部18と電気的に接続されており、生成した送信信号2000を乗算部18に供給する。
【0024】
送受信部13は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aの各々と電気的に接続された複数の送受信回路13Aを有する。送受信回路13Aは、推定部14、乗算部18等と電気的に接続されている。送受信回路13Aは、アンテナ素子11Aで受信した受信信号を抽出して推定部14に供給する。送受信回路13Aは、乗算部18で送信ウェイトが乗算された送信信号2000をアンテナ素子11Aから放射させる。送信ウェイトは、例えば、振幅及び位相を調整可能な重み係数を含む。送受信部13は、送信ウェイト(複素振幅)が乗算された送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから同時に放射させることで、送電装置10は指向性が制御された電波2000Wを放射する。
【0025】
推定部14は、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000から伝搬チャネル特性(インパルス応答)を推定する。伝搬チャネル特性(インパルス応答)は、例えば、振幅特性、位相特性を含む。アレー応答ベクトルは、例えば、アンテナ本数分のチャネル特性を示す。アレー応答ベクトルは、例えば、複数のアンテナ素子11Aごとの伝搬チャネル特性(インパルス応答)を並べたベクトルを含む。受信処理におけるアレー応答ベクトルは、受信応答ベクトルとも称する。推定部14は、例えば、特開2002-43995号公報に開示されているように周知のアルゴリズムを用いて受信応答ベクトルを推定する。推定部14は、アレー応答ベクトルのベクトルデータを制御部17に供給する。
【0026】
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の有無、方向等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダなどのレーダ、ToF(Time of Flight)センサ、赤外線センサ、温度センサ、音センサ、人感センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000及び開口部4200に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000及び開口部4200の方向を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000及び開口部4200の有無、距離、位置、大きさ、視野角、画像等の情報を含む。
【0027】
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の位置に関する情報を検出する。物体5000は、例えば、人間、動物、ロボット、移動体、植物、食物、電磁波を送信又は受信する機器等を含む。検出部16は、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理を実行し、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000及び開口部4200の方向、位置等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向を検出する。複数の物体5000及び開口部4200が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000及び開口部4200の位置を検出する。検出部16は、制御部17と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向を識別可能な方向情報として制御部17に供給する。方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向等を示す情報を含む。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000及び開口部4200のGPS情報などの位置情報、方向情報、距離情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の位置に関する情報を検出してもよい。
【0028】
制御部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16からの物体5000及び開口部4200の方向情報に基づいて、電力伝送用ウェイトを生成する機能を有する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。制御部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
【0029】
図5に示すように、アダプティブアレーアンテナ送信は、送信信号2000に複素振幅w(ウェイト)の複素共役w を乗じた後、K本のアンテナ素子11Aから同時に電波2000Wを放射する。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「*」を記している場合、複素共役を意味する。ウェイトwは、k=0,・・・,K-1である。受信点200Pでは、K本のアンテナ素子11Aから放射された電波2000Wの合成信号が観測される。このとき、伝搬チャネルごとに振幅・位相が変化する。そこで、#0から#K-1のアンテナ素子11Aと受信点200P間の伝搬チャネルのインパルス応答をZ(複素数)とすると、解析的なアレーアンテナ特性は、以下の(式11)で与えられる。
【数1】
【0030】
本開示では、解析的なアレーアンテナ特性は、アレー応答値ARと称する。ウェイトベクトルをW、アレー応答ベクトルをVとすると、(式11)は複素ベクトルの内積として以下の(式12)で表せる。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「H」を記している場合、複素共役転置(エルミート転置)を意味する。
AR=WV ・・・(式12)
ウェイトベクトルWとアレー応答ベクトルVを具体的な要素で表すと、以下の(式13)のようになる。
【数2】
【0031】
アレー応答ベクトルVが既知であれば、適切なウェイトベクトルWを与えることで、受信点200Pでのアレー応答値ARを制御できる。なお、ウェイトベクトルWを決める際には、送信電力の合計が一定になるように、ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)という制約条件を課すものとする。
【0032】
レトロディレクティブ方式のシステム1では、受電装置20から送信される規定信号1000(パイロット信号)に基づいてアレー応答ベクトルVを推定し、これを利用して最適なウェイトベクトルWoptを生成する。伝搬チャネルの時間変動を無視すれば、伝搬チャネルの可逆性(相反性)によりアレー応答ベクトルVを送電装置10から受電装置20へのアレー応答ベクトルとみなせる。ただし、パイロット信号は送電時の電波と同じ周波数とする。||W||=1という条件のもとアレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式14)とすることができる。
【数3】
【0033】
以上のように、レトロディレクティブ方式の送信の最適なウェイトベクトルWoptは、受信したパイロット信号のアレー応答ベクトルVだけでよく、受信点200Pの方向などの情報は不要である。
【0034】
次に、レトロディレクティブ方式と複数(例えばM個)のヌル形成の同時実現について説明する。
【0035】
ヌルは、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになることを意味する。アレーアンテナ11でヌルを形成するには、ヌルに対応するアレー応答ベクトルV(i=1,・・・,M)に対し、アレー応答値の大きさ|W|をゼロにすればよい。この条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する。これは以下のような(式15)に示す最適化問題として定式化できる。本開示では、これを線形拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。ここで、Kはアンテナ素子11Aの数である。Mはヌルの数である。自由度はK-1であるため、M<Kとしている。argmax(argument of the maximum)は、最大値を達成する値の集合を意味する。(式15)は、ウェイトベクトルWで|W|が最大となる最適なウェイトベクトルWoptを求める式である。
【数4】
【0036】
(式15)の最適化問題は、閉形式の解が存在する。
以下のように(式16)を定義すると、最適なウェイトベクトルWoptは(式17)で与えられる。
【数5】
【数6】
【0037】
ここで、AはM個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた(式18)に示す行列である。
【数7】
は、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。ムーア・ペンローズ一般逆行列Aは、AAA=A,AAA=A,(AA=AA,(AA)=AAを満足する。複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vが線形独立の場合は、A=(AA)-1となる。
【0038】
ヌルに対応するアレー応答値は、W=0(i=1,・・・・,M<K)を満足しなければならない。そこで、これらを同次連立一次方程式と考えると、M個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列Aを使ってAW=0のように行列とベクトルの積で表される。この一般解はムーア・ペンローズ一般逆行列Aを用いて、W=(I-AAz=(I-AA)zで与えられる。zは、任意の複素ベクトルである。最大化したいアレー応答値の大きさ|W|にW=(I-AAz=(I-AA)zを代入すると、|W|=|z(I-AA)V|が得られる。そして、コーシー・シュワルツの不等式より、|W|=|z(I-AA)V|≦||z||・||(I-AA)V||が成り立つ。|W|が最大になるのは当該不等式の等号のときであり、このとき、z=α(I-AA)Vを満たす。αは、複素定数である。
【0039】
最適なウェイトベクトルWoptは、上述したW=(I-AAz=(I-AA)zに、z=α(I-AA)Vを代入することで、Wopt=α(I-AA)Vが与えられる。ここで、(式16)のようにV’=(I-AA)Vとすると、||Wopt||=|α|||V’||=1を満足するためにはα=1/||V’||とすればよい。よって、最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式17)としてよいことになる。
【0040】
次に、ヌルに対応するアレー応答ベクトルの算出方法の一例を説明する。送電装置10と受電装置20との間のアレー応答ベクトルは、規定信号1000から推定するが、ヌルを向けたい対象からは、規定信号1000が送出されないと仮定すると、別の方法でアレー応答ベクトルを算出する必要がある。本開示では、送電装置10からヌルを向けたい対象へ直接向かう電波を回避することを目的とし、センサ部15を用いて取得したヌル対象である物体5000及び開口部4200の方向からアレー応答ベクトルを算出する。
【0041】
図6に示すように、K個のアンテナ素子11Aが等間隔に並ぶリニアアレーにおいて、ブロードサイドから時計回りにθ(-π/2<θ<π/2)だけ回転した向きに放射される遠方界でのアレー応答ベクトルは、以下の(式19)のように与えられる。ブロードサイドは、アンテナ素子11Aを並べた方向に対し垂直な向きであり、図6における上方である。基準点200Bの#0のアンテナ素子11Aから#kのアンテナ素子11Aまでの素子間距離がkdとなっている。基準点200B#0のアンテナ素子11Aから#K-1のアンテナ素子11Aまでの素子間距離が(K-1)dとなっている。
【数8】
【0042】
ここで、インパルス応答Zは、(式20)とする。
【数9】
これにより、ヌル対象の方向θが分かれば、アレー応答ベクトルVを(式21)のように算出できる。なお、方向θは、θ=θであり、i=1,・・・,Mである。jは、虚数単位であり、j=-1である。ここで、インパルス応答Zは、(式22)で得ることができる。
【数10】
【数11】
【0043】
制御部17は、ヌル対象の方向θからヌルに対応するアレー応答ベクトルVを(式21)及び(式22)を用いて導出し、続いて(式18)を用いて行列(I-AA)を算出する。制御部17は、算出した行列(I-AA)と、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVとから、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを決定するが、一般的には行列(I-AA)とアレー応答ベクトルVで算出されるタイミングが異なる。そこで、制御部17は、行列(I-AA)を記憶部17Dに記憶できる。
【0044】
図4に示すように、記憶部17Dは、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的な記憶媒体を含んでよい。記憶部17Dは、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部17Dは、RAMなどの一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部17Dは、制御部17の外部に設けてもよい。
【0045】
記憶部17Dは、制御プログラム171を記憶している。制御プログラム171は、受電装置20から受信した受信信号と開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方と受電装置20とは異なる物体5000に関する方向情報に基づいて、電波2000Wの電波強度を制御する電力伝送用ウェイトを計算する。
【0046】
制御部17は、構造物4100で電波2000W(送信波)が構造物4100の外部に透過または通過する開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、開口部4200における電波2000Wの電波強度を、開口部4200とは異なる構造物4100における電波2000Wの電波強度よりも低い第1強度とする機能を有する。制御部17は、受電装置20から受信した受信信号と受電装置20とは異なる物体5000に関する情報とに基づいて、電波2000Wの物体5000への強度が所定以下となる第2強度とする機能を有する。制御部17は、構造物4100の外部に電波2000Wが到達可能な開口部4200の開放状態(第1状態)を検出した場合、第1位置における電波2000Wの電波強度を第1強度とし、構造物4100の外部に電波2000Wが到達不能な開口部4200の閉鎖状態(第2状態)を検出した場合、第1位置における電波2000Wの電波強度を第1強度としない場合を含んでもよい。開口部4200の開放状態は、例えば、ドア、窓等が開放された状態を含む。開口部4200の閉鎖状態は、例えば、ドア、窓等が閉じられて、電波2000Wを部屋4000の外部へ透過しない状態を含む。
【0047】
乗算部18は、制御部17のウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの送信信号2000にウェイトを乗算する。乗算部18は、例えば、乗算器を有する。乗算部18は、アンテナ素子11Aに対応するウェイトを乗算した送信信号2000を、当該アンテナ素子11Aの送受信回路13Aに供給する。
【0048】
以上、本実施形態に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図4を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
【0049】
[実施形態1に係る受電装置]
図7は、実施形態1に係る受電装置20の構成の一例を示す図である。図7に示すように、受電装置20は、アンテナ21と、送受信部22と、信号発生部23と、受電部24と、を備える。本開示の受電装置20は、移動可能な装置であるとしてよい。例えば、このような受電装置20として、モバイルバッテリー、スマートフォン、カメラ、振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などのドローンや車などの移動体に搭載される機器、自動運転車両、設置位置が可変な振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などとしてよい。本開示では、受電装置20は、移動可能な装置であるため、規定信号に基づく伝搬チャネルの特性が受電装置20の位置に応じて変化しうるとしてよい。
【0050】
アンテナ21は、送受信部22と電気的に接続されている。アンテナ21は、送電装置10からの電波2000Wを受電可能な受電アンテナである。アンテナ21は、例えば、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、パラボラアンテナ等を用いることができる。アンテナ21は、例えば、規定信号1000を含む電波を放射し、送電装置10からの送信信号2000を含む電波2000Wを受信する。アンテナ21は、受信した電波2000Wの受信信号を送受信部22に供給する。
【0051】
送受信部22は、信号発生部23及び受電部24と電気的に接続されている。送受信部22は、信号発生部23からの規定信号1000を含む電波をアンテナ21から放射させる。送受信部22は、アンテナ21で受信した電波の受信信号を受電部24に供給する。
【0052】
信号発生部23は、規定信号1000を生成する。信号発生部23は、送受信部22を介して、該規定信号1000を含む電波をアンテナ21に放射させる。信号発生部23は、送信周期に基づいて規定信号1000を生成できる。信号発生部23は、規定信号1000とは異なる信号を生成する構成としてもよい。
【0053】
受電部24は、アンテナ21で受信した電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用して電力を受電する。受電部24は、例えば、公知である整流回路等を用いて、電波を直流電流に変換する。受電部24は、受電した電力を、例えば、Qi(ワイヤレス給電の国際標準規格)に対応したバッテリ、負荷等に供給する。負荷は、例えば、機械設備、IoT(Internet of Things)センサ、電子機器、照明機器等を含む。
【0054】
以上、本実施形態に係る受電装置20の機能構成例について説明した。なお、図7を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る受電装置20の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る受電装置20の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
【0055】
[実施形態1に係る送電装置の制御例]
図8は、送電装置10の制御例を説明するための図である。以下の説明では、システム1は、図8に示すように、部屋4000の中に送電装置10と受電装置20を対向するように配置している。部屋4000は、構造物4100と、構造物4100の一部に設けられた開口部4200とを有している。図8に示す一例では、開口部4200は、開閉可能なドアになっている。あるいは、開口部4200は、カーテン、ブラインド等が設けられた窓であってもよい。開口部4200は、場面C1に示すように、構造物4100の外部に電波2000W(送信波)が到達可能な第1状態を有する。開口部4200は、場面C2に示すように、構造物4100の外部に電波2000Wが到達不能な第2状態を有する。送電装置10は、センサ部15を用いて物体5000の位置、方向等を検出すると、物体5000とアレーアンテナ11との相対位置を把握する。システム1は、レトロディレクティブ方式で送電装置10から受電装置20に向け、送信信号2000を含む電波2000Wを放射することで、受電装置20に無線給電を行う。
【0056】
本実施形態では、送電装置10は、構造物4100の開口部4200とアレーアンテナ11との相対的な位置及び方向を識別可能な環境情報を記憶部17Dに予め記憶している。環境情報は、例えば、自機からの開口部4200の位置、方向等に関する情報を含む。送電装置10は、環境情報を参照して開口部4200の有無を把握するが、センサ部15の検出結果に基づいて開口部4200を把握してもよい。本開示で、構造物4100は、部屋、工場などの移動しない構造物及びその一部でもよいし、自動車、バス、飛行機などの移動可能な構造物及びその一部でもよい。本開示で、構造物4100は、オフィス、リビング、工場、ビル、病院、学校、自動車、バス、飛行機などの構造体もしくはその一部であるとしてよい。本開示で、開口部4200とは、構造物4100を形成する素材が形成されていない若しくは構造物4100が形成されている素材とは異なる素材で形成された部分であるとしてよい。例えば、開口部4200は、真空もしくは空気が存在する部分、カーテン、プラスチック、ドア、ガラス素材、窓、換気扇、シャッター、ブラインド、スクリーン、植物、ビニール素材などの材料や素材で形成された部分であるとしてもよい。また、本開示では、開口部4200のなかに、構造物4100の部分であって、構造物4100を形成する素材が形成されていない若しくは構造物4100が形成されている素材とは異なる素材で形成された部分と接する部分も含むとしてもよい。本開示では、構造物4100に、1もしくは複数の開口部4200が形成されているとしてよい。
【0057】
図9は、送電装置10が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図9に示す処理手順は、制御部17が記憶部17Dに記憶している制御プログラム171を実行することによって実現される。
【0058】
図8の場面C1において、システム1は、受電装置20が規定信号1000を送出する。この場合、図9に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS101)。例えば、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。送電装置10は、ステップS101の処理が終了すると、処理をステップS102に進める。
【0059】
送電装置10は、構造物4100の開口部4200の状態を認識する(ステップS102)。例えば、送電装置10は、検出部16で、記憶部17Dの環境情報に基づいて構造物4100の開口部4200とアレーアンテナ11との相対的な位置及び方向を認識する。そして、送電装置10は、機械学習を用いて、センサ情報の画像から開口部4200の状態を認識する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の開口部4200を検出している場合、複数の開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、検出した開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、認識結果を示す情報を記憶部17Dに記憶すると、処理をステップS103に進める。本開示において、構造物4100は、紙面垂直方向に壁が形成されているとしてよい。構造物4100は、開口部4200にのみに開口があり、縦方向、横方向、高さ方向に壁で囲まれた部屋構造であるとしてよい。構造物4100は、縦方向、横方向、高さ方向に壁で囲まれた構造において、開口部4200以外にも1以上の開口があるとしてよい。構造物4100の形状は、所定方向から切り出した断面部分の形状が、四角形その他の任意の多角形、楕円、円及び任意の直線もしくは曲線で形成されているとしてよい。構造物4100は、オフィス、リビング、工場、ビル、病院、学校、自動車、バス、飛行機などの物体の一部の構造であるとしてよい。
【0060】
送電装置10は、開口部4200が第1状態であるか否かを判定する(ステップS103)。例えば、送電装置10は、ステップS102の認識結果が開放状態を示している場合、開口部4200が第1状態であると判定する。送電装置10は、開口部4200が第1状態であると判定した場合(ステップS103でYes)、処理をステップS104に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度と決定する(ステップS104)。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第1強度を決定する。送電装置10は、ステップS104の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0061】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第2強度を決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。本開示では、送電装置10が形成する電波のヌルとして、利得がゼロになる方向のほか、他の方向での利得に比べて低下する電波の部分をヌルとしてもよい。
【0062】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。例えば、送電装置10は、制御部17で、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化および行列演算を行う。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000を第2強度及び開口部4200を第1強度のヌル対象としている場合、複数の物体5000及び開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを検出する。詳細には、送電装置10は、制御部17が物体5000及び開口部4200の方向θ,θ,・・・,θと上述した(式21)及び(式22)に基づいて、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化(V,V,・・・,V)を行う。送電装置10は、ヌルに対応したアレー応答ベクトルV=V,V,・・・,Vを用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V ・・・ V]である。送電装置10は、アレー応答ベクトルVと記憶部17Dの行列の(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。送電装置10は、算出したアレー応答ベクトルV’を、上述した(式17)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0063】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C1に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1及び開口部4200の方向D2にヌルを向けることで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000及び開口部4200においては弱め合うように合成される。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0064】
また、送電装置10は、開口部4200が第1状態ではないと判定した場合(ステップS103でNo)、開口部4200が第2状態(閉鎖状態)であるので、処理をステップS108に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度にしないと決定する(ステップS108)。送電装置10は、ステップS108の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0065】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。
【0066】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。例えば、送電装置10は、制御部17で、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化および行列演算を行う。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000を第2強度のヌル対象としている場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。詳細には、送電装置10は、制御部17が物体5000の方向θ,θ,・・・,θと上述した(式21)及び(式22)に基づいて、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化(V,V,・・・,V)を行う。送電装置10は、ヌルに対応したアレー応答ベクトルV=V,V,・・・,Vを用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V ・・・ V]である。送電装置10は、アレー応答ベクトルVと記憶部17Dの行列の(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。送電装置10は、算出したアレー応答ベクトルV’を、上述した(式17)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0067】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C2に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1のみにヌルを向け、開口部4200にはヌルを向けないことで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。この場合、電波2000Wの一部のサイドロープによる電波2100Wは、開口部4200に向かうが、部屋4000の外部には透過しない。また、電波2100Wは、開口部4200で反射した反射波が受電装置20に向かうと、受電装置20の電波2000Wの受電量を増加させることができる。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0068】
以上により、送電装置10は、構造物4100で電波2000W(送信波)が構造物4100の外部に透過または通過する開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、開口部4200における電波2000Wの電波強度を、開口部4200とは異なる構造物4100における電波2000Wの電波強度よりも低い第1強度とすることができる。これにより、送電装置10は、電波伝搬環境の構造物4100に開口部4200が存在しても、開口部4200から構造物4100の外部への電波2000Wの漏洩を抑制することができる。その結果、送電装置10は、送信出力を抑えて運用する必要がないので、設置された環境に適した給電を実現することができる。送電装置10は、構造物4100の外部へ透過する電波2000Wを抑制できるので、他システムとの共用が可能となり、設置可能な環境の制限を抑制することができる。
【0069】
送電装置10は、受電装置20から受信した受信信号と受電装置20とは異なる物体5000に関する情報とに基づいて、電波2000Wの物体5000への強度が所定以下となる第2強度とすることができる。これにより、送電装置10は、物体5000への方向に向かう電波2000Wの電波強度を抑制できるので、電波伝搬環境における安全性を向上させることができる。
【0070】
[実施形態1に係る送電装置の変形例]
図10及び図11は、実施形態1の変形例に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図10に示すように、送電装置10は、センサ部15と検出部16とを、送電装置10の外部の電子機器30に設けてもよい。この場合、送電装置10は、電子機器30からデータの受信が可能な構成とし、電子機器30から物体5000の検出結果を取得してもよい。図11に示すように、送電装置10は、センサ部15のみを装置の外部に設けてもよい。この場合、送電装置10は、外部のセンサ部15からセンサ情報等を取得可能な構成とし、センサ部15からのセンサ情報等に基づいて検出部16が物体5000を検出してもよい。
【0071】
(実施形態2)
[実施形態2に係る送電装置の構成]
実施形態2では、実施形態1と同様に、システム1は、送電装置10と、受電装置20と、を備える。受電装置20は、実施形態1の受電装置20と同一の構成になっている。
【0072】
図12は、実施形態2に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図13は、微係数拘束時のベクトル化の一例を示す図である。
【0073】
図12に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、制御部17と、乗算部18と、を備える。
【0074】
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の有無、方向、領域等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。物体5000及び開口部4200の領域は、例えば、電波伝搬環境における物体5000及び開口部4200の領域、自機からの物体5000及び開口部4200の角度広がりに関する情報を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、ミリ波レーダなどのレーダ、LIDAR、ToFセンサ、赤外線センサ、人感センサ、深度センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000及び開口部4200に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000及び開口部4200の方向及び領域を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000及び開口部4200の有無、距離、位置、画像等の情報を含む。
【0075】
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の位置及び領域に関する情報を検出する。検出部16は、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理を実行し、物体5000及び開口部4200の領域及び形状、電波伝搬環境における領域、自機からの物体5000及び開口部4200の方向及び領域等を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000及び開口部4200の方向、位置、領域等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域等を検出する。複数の物体5000及び開口部4200が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000及び開口部4200の位置及び領域を検出する。検出部16は、制御部17と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域等を識別可能な方向情報として制御部17に供給する。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000及び開口部4200のGPS情報などの位置情報、方向情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び開口部4200の位置及び領域に関する情報を検出する。
【0076】
方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域等を示す情報を含む。方向情報は、例えば、物体5000及び開口部4200を含む領域、大きさ等の識別可能な情報を含む。なお、方向情報は、複数のアンテナ素子11Aの配置に応じて設定された物体5000及び開口部4200の大きさを識別可能な情報とすることができる。例えば、複数のアンテナ素子11Aがマトリックス状に配置されている場合、物体5000の領域151は、縦横の長さ、位置、物体5000の形状等を設定できる。例えば、複数のアンテナ素子11Aが一方の方向に並んで配置されている場合、物体5000の大きさ152は、幅、高さ等の一方の方向における長さや距離、自機からの角度範囲等を設定できる。物体5000の領域151は、物体5000の外形等に応じた空間領域としてもよい。構造物4100における開口部42の領域及び大きさは、物体5000と同様に設定することができる。
【0077】
制御部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16からの物体5000及び開口部4200の方向情報に基づいて、電力伝送用ウェイトを生成する機能を有する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。制御部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
【0078】
制御部17は、ヌルを広角化する。ヌル対象の物体5000及び開口部4200は拡がりを持っており、物体5000及び開口部4200の領域に応じてヌルを広角化することが望ましい。ヌルを広角化するには、複数の方法を用いることができる。ヌルの広角化には、例えば、多点ヌル拘束(Multiple Null Constraints)方式、微係数拘束(Derivative Constraints)方式、正則化多点ヌル拘束方式等を用いることができる。これらのヌルの広角化の方式は、レトロディレクティブと組み合わせるとしてもよい。
【0079】
多点ヌル拘束方式は、ヌル対象の大きさに合わせ、一方向ではなく、その近傍の複数の方向にヌルを形成することで、ヌルの広角化を図る方法である。例えば、上述した(式15)のアレー応答ベクトルVは、ヌル対象の方向であるθから(式21)と(式22)を用いて計算されるが、ヌル対象の大きさに合わせヌル近傍の複数方向もヌル対象の方向として与えることで広角化を実現する。
【0080】
微係数拘束方式は、θ方向のアレー応答値の連続性を用いて、微係数より平坦化を図る方法である。以下に、微係数拘束方式の詳細を説明する。上述した(式11)、(式12)に(式19)、(式20)を代入すると、θ方向のK素子等間隔リニアアレーのアレー応答値は、(式223)で得られる。
【数12】
【0081】
V=D(θ)とする。D(θ)は、アレー応答関数あるいはアレーファクタと呼ばれる。D(θ)は、θの連続関数であり、θで微分可能である。また、この絶対値|D(θ)|を図示したものは、アレーアンテナの指向性パターンになる。
【0082】
(式223)にθ=θ(i=1,・・・,M)を代入したD(θ)は、θ方向のアレー応答値である。また、(式223)は、微分可能であるから、θ=θの近傍であるθ=θ+Δθのアレー応答値D(θ+Δθ)は、L次近似式を用いて以下の(式224)のように表せる。
【数13】
【0083】
(式224)において、微係数D(l)(θ)(l=1,・・・,L)がゼロならば、D(θ+Δθ)≒D(θ)となり、θの近傍θ+Δθでアレー応答値を同程度にできる。これをヌル(D(θ)=0)に対して適用したものが微係数拘束によるヌルの広角化であり、近似式の次数のLにより広角化の度合いを制御できる。本開示では、文字の右肩の(l)は、微分の階数を示す。
【0084】
微係数拘束条件D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)は、以下の(式225)の等価になる。
【数14】
【0085】
そこで、対角行列Qを以下の(式226)とすると、(式225)は以下の(式227)と表せる。なお、(式226)および(式227)は、l=1,・・・,Lである。
=diag[0 ・・・ (K-1)]・・・(式226)
(Q)=0 ・・・(式227)
【0086】
以下の(式228)及び(式229)としてまとめると、l階微係数の拘束条件は、以下の(式230)で与えられる。なお、(式229)は、l=1,・・・,Lである。(式230)において、l=0,・・・,Lである。V (l)は前記アレー応答ベクトルと異なるが、(式230)より(式15)の拘束条件と同じように扱える。そこで、本開示では(式230)のV (l)を拘束ベクトルと称する。
(0)=V ・・・(式228)
(l)=Q ・・・(式229)
(l)=0 ・・・(式230)
【0087】
(式230)の拘束条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する最適化問題は、以下の(式231)のように定式化できる。
【数15】
【0088】
ここで、Kはアンテナ素子11Aの数であり、Mはヌルの数である。ヌルの数は、検出部16が検出した物体5000及び開口部4200の数である。L,L,・・・,Lは各ヌルの広角化の度合いを決める数であり、本開示ではこれを広角度と称する。広角度は、検出部16が検出した物体5000及び開口部4200の領域に応じて決まり、広角度分拘束ベクトルが追加される。自由度はK-1であるため、M+L+L+・・・+L<Kとしている。また、アレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,K-1)は線形独立である。
【0089】
上記の(式15)と(式231)の比較からわかるように、線形拘束付きレトロディレクティブ方式のアルゴリズムを踏襲しつつ、ヌルを広角化することが可能である。本開示では、これを微係数拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。
【0090】
制御部17は、規定信号1000の伝搬チャネル特性と、検出部16が検出した物体5000及び開口部4200の方向及び領域の検出結果に基づいて、物体5000及び開口部4200の方向及び領域にヌルが向くように送信ウェイトを生成する。前記送信ウェイトを生成するために、例えば、制御部17は、前記広角度Lを決定する。制御部17は、受電装置20からの受信信号と開口部4200が存在する領域の大きさとに基づいて、開口部4200における前記送信波の電波強度が前記第1強度及び前記送信波の前記物体への強度が所定以下となる第2強度となるように、前記送信波を送信するアンテナの指向性を制御する。
【0091】
例えば、制御部17は、方向θから上述した(式21)と(式22)を用いてアレー応答ベクトルVを算出する。例えば、制御部17は、図13に示すように、ヌル対象の方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求める。領域δは、物体5000及び開口部4200の領域、大きさ等に関する情報を含む。広角度Lは、広角化パラメータであり、物体5000及び開口部4200の領域δだけでなく方向θにも依存するため、テーブル170を用いて求めてもよいし、機械学習等を用いて求めてもよい。本実施形態では、テーブル170は、記憶部17Dに記憶されており、方向θと領域δから広角度Lを導き出すルックアップテーブルである。
【0092】
制御部17は、求めた広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式226)、(式228)、(式229)を用いてベクトル化することで、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。制御部17は、拘束ベクトルV (l)を用いて、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを、上述した(式231)によって決定する。なお、送電装置10は、広角度Lをヌル対象ごとに設定できる。送電装置10は、ヌルを向ける方向及び領域から算出する行列と、規定信号1000の伝搬チャネル特性とを独立して算出できる。
【0093】
以上、実施形態2に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図12を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
【0094】
[実施形態2に係る送電装置の制御例]
上述した図8及び図9を用いて、実施形態2に係る送電装置の制御例を説明する。図8に示したように、システム1は、部屋4000の中に送電装置10と受電装置20を対向するように配置している。部屋4000は、構造物4100と、構造物4100の一部に設けられた開口部4200とを有している。図8に示す一例では、開口部4200は、開閉可能なドア4210になっている。あるいは、開口部4200は、カーテン、ブラインド等が設けられた窓であってもよい。開口部4200は、場面C1に示すように、構造物4100の外部に電波2000W(送信波)が到達可能な第1状態を有する。開口部4200は、場面C2に示すように、構造物4100の外部に電波2000Wが到達不能な第2状態を有する。送電装置10は、センサ部15を用いて物体5000の位置、方向、領域等を検出すると、物体5000とアレーアンテナ11との相対位置を把握する。システム1は、レトロディレクティブ方式で送電装置10から受電装置20に向け、送信信号2000を含む電波2000Wを放射することで、受電装置20に無線給電を行う。
【0095】
本実施形態では、送電装置10は、構造物4100の開口部4200とアレーアンテナ11との相対的な位置及び方向を識別可能な環境情報を記憶部17Dに予め記憶している。環境情報は、例えば、自機からの開口部4200の位置、方向等に関する情報を含む。送電装置10は、環境情報を参照して開口部4200の有無を把握するが、センサ部15の検出結果に基づいて開口部4200を把握してもよい。送電装置10は、センサ部15を用いて開口部4200の大きさを検出すると、その開口部4200の大きさに基づいて、送信する電波の強度を低下させる範囲を決定するとしてもよい。
【0096】
図9は、送電装置10が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図9に示す処理手順は、制御部17が記憶部17Dに記憶している制御プログラム171を実行することによって実現される。
【0097】
図8の場面C1において、システム1は、受電装置20が規定信号1000を送出する。この場合、図9に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS101)。例えば、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。送電装置10は、ステップS101の処理が終了すると、処理をステップS102に進める。
【0098】
送電装置10は、構造物4100の開口部4200の状態を認識する(ステップS102)。例えば、送電装置10は、検出部16で、記憶部17Dの環境情報に基づいて構造物4100の開口部4200の領域とアレーアンテナ11との相対的な位置及び方向を認識する。そして、送電装置10は、機械学習を用いて、センサ情報の画像から開口部4200の状態を認識する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の開口部4200を検出している場合、複数の開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを検出する。そして、送電装置10は、複数の開口部4200の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、検出した開口部4200の方向θ,θ,・・・,θ及び領域δ,δ,・・・,δを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、認識結果を示す情報を記憶部17Dに記憶すると、処理をステップS103に進める。
【0099】
送電装置10は、開口部4200が第1状態であるか否かを判定する(ステップS103)。例えば、送電装置10は、ステップS102の認識結果が開放状態を示している場合、開口部4200が第1状態であると判定する。送電装置10は、開口部4200が第1状態であると判定した場合(ステップS103でYes)、処理をステップS104に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度と決定する(ステップS104)。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第1強度を決定する。送電装置10は、ステップS104の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0100】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の領域151の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第2強度を決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。そして、送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ及び領域δ,δ,・・・,δを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。なお、ステップS105では、例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる開口部4200の領域の大きさ、相対位置、方向等を認識して電波強度を決定するとしてもよい。
【0101】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。例えば、送電装置10は、制御部17で、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化および行列演算を行う。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000及び開口部4200をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000及び開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを検出する。詳細には、送電装置10は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式226)、(式228)、(式229)を用いてベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。そして、送電装置10は、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V (0),・・・,V (L1),V (0),・・・,V (L2),・・・,VM (0),・・・,VM (LM)]である。そして、送電装置10は、制御部17が推定部14によって推定されたアレー応答ベクトルVと記憶部17Dの(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。そして、送電装置10は、算出したアレー応答ベクトルV’を、(式17)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0102】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C1に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1及び開口部4200の方向D2にヌルを向けることで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000及び開口部4200においては弱め合うように合成される。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0103】
また、送電装置10は、開口部4200が第1状態ではないと判定した場合(ステップS103でNo)、開口部4200が第2状態(閉鎖状態)であるので、処理をステップS108に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度にしないと決定する(ステップS108)。送電装置10は、ステップS108の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0104】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第2強度を決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。そして、送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ及び領域δ,δ,・・・,δを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。
【0105】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。例えば、送電装置10は、制御部17で、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化および行列演算を行う。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。詳細には、送電装置10は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式226)、(式228)、(式229)を用いてベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。そして、送電装置10は、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V (0),・・・,V (L1),V (0),・・・,V (L2),・・・,VM (0),・・・,VM (LM)]である。そして、送電装置10は、制御部17が推定部14によって推定されたアレー応答ベクトルVと記憶部17Dの(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。そして、送電装置10は、算出したアレー応答ベクトルV’を、(式217)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0106】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C2に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1のみにヌルを向け、開口部4200にはヌルを向けないことで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。この場合、電波2000Wの一部のサイドロープによる電波2100Wは、開口部4200の領域に向かうが、部屋4000の外部には透過しない。また、電波2100Wは、開口部4200の領域で反射した反射波が受電装置20に向かうと、受電装置20の電波2000Wの受電量を増加させることができる。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0107】
以上により、送電装置10は、構造物4100で電波2000W(送信波)が構造物4100の外部に透過または通過する開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、開口部4200における電波2000Wの電波強度を、開口部4200とは異なる構造物4100における電波2000Wの電波強度よりも低い第1強度とすることができる。これにより、送電装置10は、電波伝搬環境の構造物4100に開口部4200が存在しても、開口部4200から構造物4100の外部への電波2000Wの漏洩を抑制することができる。その結果、送電装置10は、送信出力を抑えて運用する必要がないので、設置された環境に適した給電を実現することができる。送電装置10は、構造物4100の外部へ透過する電波2000Wを抑制できるので、他システムとの共用が可能となり、設置可能な環境の制限を抑制することができる。
【0108】
送電装置10は、受電装置20から受信した受信信号と受電装置20とは異なる物体5000に関する情報とに基づいて、電波2000Wの物体5000への強度が所定以下となる第2強度とすることができる。これにより、送電装置10は、物体5000への方向に向かう電波2000Wの電波強度を抑制できるので、電波伝搬環境における安全性を向上させることができる。
【0109】
(実施形態3)
[実施形態3に係る送電装置の構成]
実施形態3では、実施形態1と同様に、システム1は、送電装置10と、受電装置20と、を備える。受電装置20は、実施形態1の受電装置20と同一の構成になっている。
【0110】
図14は、実施形態3に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図14に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、制御部17と、乗算部18と、前処理部19と、を備える。
【0111】
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び構造物4100の開口部4200の有無、位置、領域、距離(深度)等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。物体5000及び開口部4200の領域は、例えば、電波伝搬環境における物体5000及び開口部4200の領域、自機からの物体5000及び開口部4200の角度、角度広がり、距離に関する情報を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、LIDAR、ミリ波レーダなどのレーダ、ToFセンサ、赤外線センサ、人感センサ、深度センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000及び開口部4200に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000及び開口部4200の少なくとも方向及び距離を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000及び開口部4200の有無、領域、距離、位置、画像等の情報を含む。
【0112】
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び開口部4200の、例えば、位置、領域及び距離に関する情報を検出する。検出部16は、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理を実行し、物体5000及び開口部4200の有無、形状、電波伝搬環境における物体が存在する領域、自機からの物体5000及び開口部4200の方向、領域及び距離等を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000及び開口部4200の方向、位置、領域等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域、位置、距離等を検出する。複数の物体5000及び開口部4200が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000及び開口部4200ごとの位置及び距離等を検出する。検出部16は、前処理部19と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域、距離等を識別可能な方向情報として前処理部19に供給する。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000及び開口部4200のGPS情報などの位置情報、方向情報、距離情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000及び開口部4200の位置及び領域、距離に関する情報を検出する。
【0113】
方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000及び開口部4200の方向、領域、距離等を示す情報を含む。方向情報は、例えば、物体5000を含む領域151、大きさ152、距離153等、及び、構造物4100における開口部4200を含む領域、大きさ、距離等の識別可能な情報を含む。なお、方向情報は、複数のアンテナ素子11Aの配置に応じて設定された物体5000及び開口部4200の大きさを識別可能な情報とすることができる。例えば、複数のアンテナ素子11Aがマトリックス状に配置されている場合、物体5000の領域151は、縦横の長さ、位置、物体5000の形状等を設定できる。例えば、複数のアンテナ素子11Aが一方の方向に並んで配置されている場合、物体5000の大きさ152は、幅、高さ等の一方の方向における長さや距離、自機からの角度範囲等を設定できる。物体5000の距離153は、センサ部15から物体5000までの最短、最長、その平均等の距離、深度等を設定できる。なお、物体5000の領域151は、物体5000の外形等に応じた空間領域としてもよい。開口部4200の領域及び大きさは、物体5000と同様に設定することができる。
【0114】
前処理部19は、検出部16からの方向情報に基づいて、ベクトル化及びヌル深度の大きさを識別可能な情報として生成する処理を行う。物体5000及び開口部4200の大きさに合わせてヌルを広角化する場合、前処理部19は、例えば、多点ヌル拘束方式及び微係数拘束方式の少なくとも一方を用いて、ベクトル化を行うことができる。前処理部19の処理については、後述する。前処理部19は、ウェイトの生成に関する前処理を行い、処理結果を制御部17に供給する。
【0115】
制御部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16からの物体5000及び開口部4200の方向情報に基づいて前処理部19において演算した結果から、電力伝送用ウェイトを生成する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。制御部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
【0116】
制御部17は、ヌルを広角化する。ヌル対象の物体5000及び開口部4200は拡がりを持っており、物体5000及び開口部4200の領域に応じてヌルを広角化することが望ましい。ヌルを広角化するには、複数の方法を用いることができる。ヌルの広角化には、例えば、多点ヌル拘束(Multiple Null Constraints)方式、微係数拘束(Derivative Constraints)方式等を用いることができる。
【0117】
多点ヌル拘束方式は、ヌル対象の大きさに合わせ、一方向ではなく、その近傍の複数の方向にヌルを形成することで、ヌルの広角化を図る方法である。例えば、上述した(式15)のアレー応答ベクトルVは、ヌル対象の方向であるθから(式21)と(式22)を用いて計算されるが、ヌル対象の大きさに合わせヌル近傍の複数方向もヌル対象の方向として与えることで広角化を実現する。
【0118】
微係数拘束方式は、θ方向のアレー応答値の連続性を用いて、微係数より平坦化を図る方法である。以下に、微係数拘束方式の詳細を説明する。
【0119】
K個のアンテナ素子11Aが等間隔リニアアレーのθ方向のアレー応答ベクトルV(θ)に対するアレー応答値は、θの関数であり、これをD(θ)とする。上述した(式11)、(式12)に(式19)、(式20)を代入すると、D(θ)は、以下の(式323)で与えられる。
【数16】
【0120】
D(θ)は、アレー応答関数、あるいはアレーファクタと呼ばれる。D(θ)は、θの連続関数であり、θで微分可能である。なお、この絶対値|D(θ)|を図示したものは、アレーアンテナの指向性パターンになる。
【0121】
(式323)にθ=θ(i=1,・・・,M)を代入したD(θ)は、θ方向のアレー応答値である。また、(式323)は、微分可能であるから、θ=θの近傍であるθ=θ+Δθのアレー応答値D(θ+Δθ)は、L次近似式を用いて以下の(式324)のように表せる。
【数17】
【0122】
(式324)において、微係数D(l)(θ)(l=1,・・・,L)がゼロならば、D(θ+Δθ)≒D(θ)となり、θの近傍θ+Δθでアレー応答値を同程度にできる。これをヌル(D(θ)=0)に対して適用したものが微係数拘束によるヌルの広角化であり、近似式の次数のLにより広角化の度合いを制御できる。本開示ではLを広角度と称する。本開示では、微係数D(l)(θ)の右肩の(l)は、微分の階数を示す。
【0123】
ヌルの方向をθ(i=1,・・・,M)、近似式の次数をLとすると、微係数拘束条件は、以下の(式325)となる。ただし、(式325)は、l=1,・・・,Lである。なお、V (l)の右肩の(l)は、微分の階数ではなく、インデックスに過ぎない。
(l))=W(l))=0 ・・・(式325)
【0124】
(式325)は、以下の(式326)と等価である。ただし、(式326)は、l=1,・・・,Lである。ここでQは対角行列であり、以下の(式327)で与えられる。なお、微係数拘束条件の変換については、後述する。
(Q)=W(QV(θ))=0 ・・・(式326)
=diag[0 ・・・ (K-1)]・・・(式327)
【0125】
よって、上述した(式15)のアレー応答ベクトルVとしてV (l)=Qを追加することで、微係数拘束によるヌルの広角化を実現できる。ここでl=1,・・・,Lである。V (l)は正しくはアレー応答ベクトルではなく、この場合(式15)のVをアレー応答ベクトルと呼ぶのは不適切である。そこで、拘束条件を与えるベクトルとして、以降では、(式15)のVを拘束ベクトルと称することがある。
【0126】
上述したようにヌルを広角化するには、拘束ベクトル数を増やさなければならない。これにより、ウェイトベクトルWの制約が厳しくなり、受電装置20のアレー応答値|W|が小さくなる可能性がある。その一方で、送電装置10と物体5000との距離が離れている場合、深いヌルを形成する必要がなく、ヌル深度を制御することで、受電装置20への電力供給を改善することが見込まれる。以下では、ヌル深度の制御方法の一例について説明する。
【0127】
上述した(式15)の拘束条件の一部を変更した最適化問題を、以下の条件式の(式328)のように定式化できる。詳細には、(式328)は、(式15)のW=0を、|W=|εに変更している。
【数18】
【0128】
ここで、Kはアンテナ素子11Aの数であり、Mはヌルの数である。ヌルの数Mは、検出部16が検出した物体5000の領域に応じた数を含む。
【0129】
(式328)の最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式16)を用いて以下の(式329)で与えられる。
【数19】
【0130】
ここで、V’=(I-AA)V、Vε=(Aεである。Aは、M個の複素列の拘束ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列であり、Aは、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。また、ε=[ε ε ・・・ εであり、εの絶対値|ε|は、(式328)により与えられる。本開示において、(・)のように文字の右肩に「T」を記している場合、転置を意味する。εの偏角は、ベクトル(A)の各要素と同じ値とすることで、アレー応答値|W|を最大化できる。なお、(式329)におけるαは、以下の(式330)で与えられる。
【数20】
【0131】
(式329)及び(式330)によってウェイトベクトルWと拘束ベクトルVの内積の大きさ|W|を|ε|にできるが、上述した(式16)及び(式17)に比べ、Vεとαの演算が必要な分、複雑になる。
【0132】
上述した(式328)は、近似解にすることで、処理を簡単化できる。以下に、近似解の求め方の一例について説明する。
【0133】
ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)であり、||V||は既知であるので、|W|を最大化することは、|W|/(||W||・||V||)を1に近づけることと等価である。これは、W/||W||≒V/||V||と考えることができる。すなわち、W≒γVとなる。γは、比例定数である。また、|W=|εをW≒0に変更する。これにより、(式328)の最適化問題は、近似的に以下の条件式の(式331)ように考えることができる。(式331)において≒は左辺の値と右辺の値をできるだけ近づけることを意味する。
【数21】
【0134】
(式331)の最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式332)を定義すると、以下の(式333)で与えられる。なお、近似解によるヌル深度制御については、後述する。
【数22】
【数23】
【0135】
ここで、A’は、M個の複素列ベクトルα,α,・・・,αを並べた行列A’=[α α ・・・ α]である。α(i=1,・・・,M)は、Vに対する重み係数である。上述した絶対値|ε|の代わりにαを用いることで、ヌル深度を制御できる。このように、ヌル深度を制御するアルゴリズムは、厳密解から求めてもよいし、近似解を用いてもよい。また、ヌル深度を制御するアルゴリズムは、厳密解から求めても、近似解を用いて求めても、いずれもヌル広角化に対応できる。
【0136】
制御部17は、規定信号1000の伝搬チャネル特性と、検出部16が検出した物体5000及び開口部4200の方向、領域及び距離を、識別可能な方向情報に基づいて前処理部19において演算した結果から、物体5000の領域にヌルが向くように送信ウェイトを生成する。領域にヌルを向ける場合、拘束ベクトルVはV (l)(l=0,・・・,L)となる。
【0137】
図15は、多点ヌル拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。多点ヌル拘束方式を用いる場合、前処理部19は、図15に示すように、ヌル対象の物体5000の方向θと領域δから(式21)と(式22)を用いてアレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。詳細には、前処理部19は、物体5000及び開口部4200の方向θと領域δから当該方向の最小値θmin と最大値θmax を決定する。制御部17は、予め定められた刻み幅でθminからθmaxをカバーする方向θ(0) ,・・・,θ(Li) を決定する。なお、刻み幅は、物体5000及び開口部4200の方向θによらず一定でもよいし、物体5000及び開口部4200の方向θごとに変更してもよい。前処理部19は、方向θ(0) ,・・・,θ(Li) から(式321)と(式322)を用いて、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。本開示では、微係数拘束方式において近似式の次数Lを広角化の度合いを表す尺度として広角度と称したが、多点ヌル拘束方式における前記Lも広角度と称することがある。
【0138】
図16は、微係数拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。微係数拘束方式を用いる場合、前処理部19は、図16に示すように、方向θと領域δから(式21)と(式22)等を用いてアレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。詳細には、前処理部19は、方向θと物体5000及び開口部4200の領域δから広角度Lを求める。広角度Lは、領域δだけではなく方向θにも依存する。このため、前処理部19は、これらの情報から広角度Lを導き出すテーブル、機械学習等を用いることで、広角度Lを求める。
【0139】
図16に示す一例では、前処理部19は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求める。領域δは、例えば、物体5000及び開口部4200の領域、距離等に関する情報を含む。テーブル170は、記憶部17Dに記憶されており、方向θと領域δから広角度Lを導き出すルックアップテーブルである。前処理部19は、求めた広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式325)、(式326)、(式327)を用いてベクトル化することで、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。ここでV (0)=Vとする。
【0140】
図17は、前処理部19のヌル深度の処理例を示す図である。図17に示す一例は、前処理部19が上述した(式328)を用いる場合の処理例を示している。前処理部19は、図17に示すように、ヌル深度の大きさについての処理を行うことができる。上述した(式328)の場合、ヌル対象までの距離dから電波2000Wの強度の減衰量が推定できる。前処理部19は、事前に測定した結果に基づく距離dと絶対値|ε|のテーブルを用いて、絶対値|ε|を求める。絶対値|ε|は、例えば、アンテナ素子自体の指向性を考慮し、物体5000及び開口部4200の方向θごとに変更してもよい。
【0141】
図17の19Aに示す多点ヌル拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lとを用いて、例えば、同一のヌル対象に対して全て同じ値でヌル深度の大きさを示すベクトルP1を求める処理を実行する。ベクトルP1は、例えば、[|ε|,|ε|,・・・,|ε|,|ε|,|ε|,・・・,|ε|,・・・.|ε|,|ε|,・・・,|ε|]である。
【0142】
図17の19Bに示す微係数拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、V (0)に対応するヌル深度の大きさを|ε|とし、V (l)(l=1,・・・,L)に対応するヌル深度の大きさをゼロとし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP2を求める処理を実行する。ベクトルP2は、例えば、[|ε|,0,・・・,0,|ε|,0,・・・,0,・・・.|ε|,0,・・・,0]である。
【0143】
送電装置10が上述した(式328)を用いる場合、前処理部19は、求めた拘束ベクトルV (l)を用いて、(I-AA)、A等の行列演算を行い、ヌル深度の大きさを示すベクトルP1,P2の演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶して制御部17に供給する。
【0144】
図18は、前処理部19のヌル深度の他の処理例を示す図である。図18に示す一例は、前処理部19が上述した(式331)を用いる場合の処理例を示している。前処理部19は、図18に示すように、ヌル深度の大きさについての処理を行うことができる。上述した(式331)の場合、前処理部19は、事前に測定した結果に基づく距離dと重み係数αのテーブルを用いて、重み係数αを求める。重み係数αは、例えば、アンテナ素子自体の指向性を考慮し、物体5000及び開口部4200の方向θごとに変更してもよい。
【0145】
図18の19Cに示す多点ヌル拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、同一のヌル対象に対して同じ値でヌル深度の大きさを示すベクトルP3を求める処理を実行する。ベクトルP3は、例えば、[α,α,・・・,α,α,α,・・・,α,・・・.α,α,・・・,αである。
【0146】
図18の19Dに示す微係数拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、V (0)に対応するヌル深度の大きさをαとし、V (l)(l=1,・・・,L)に対応するヌル深度の大きさを固定値(α>>1)とし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP4を求める処理を実行する。ベクトルP4は、例えば、[α,α,・・・,α,α,α,・・・,α,・・・.α,α,・・・,αである。
【0147】
送電装置10が上述した(式331)を用いる場合、前処理部19は、求めた拘束ベクトルV (l)とヌル深度の大きさを示すベクトルP3,P4を用いて、(I-A’(I+A’A’)-1A’)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶して制御部17に供給する。
【0148】
制御部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルVと、記憶部17Dに記憶された情報を用いて、最適なウェイトベクトルWoptを、上述した(式329)または(式333)によって求める。
【0149】
制御部17は、生成した方向、領域及び距離に適したウェイトベクトルを識別可能なウェイト情報を記憶部17Dに記憶できる。なお、送電装置10は、広角度Lをヌル対象ごとに設定できる。送電装置10は、ヌルを向ける方向、領域及び距離から算出する行列やベクトルと、規定信号1000の伝搬チャネル特性とを独立して算出できる。制御部17は、受電装置20からの受信信号と開口部4200までの距離とに基づいて、開口部4200における電波2000W(送信波)の電波強度が第1強度及び電波2000Wの物体5000への強度が所定以下となる第2強度となるように、電波2000Wを送信するアレーアンテナ11の指向性を制御する。
【0150】
以上、実施形態3に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図14を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
【0151】
[実施形態3に係る送電装置の制御例]
上述した図8及び図9を用いて、実施形態3に係る送電装置の制御例を説明する。図8に示したように、システム1は、部屋4000の中に送電装置10と受電装置20を対向するように配置している。部屋4000は、構造物4100と、構造物4100の一部に設けられた開口部4200とを有している。図8に示す一例では、開口部4200は、開閉可能なドアになっている。あるいは、開口部4200は、カーテン、ブラインド等が設けられた窓であってもよい。開口部4200は、場面C1に示すように、構造物4100の外部に電波2000W(送信波)が到達可能な第1状態を有する。開口部4200は、場面C2に示すように、構造物4100の外部に電波2000Wが到達不能な第2状態を有する。送電装置10は、センサ部15を用いて物体5000の位置、方向、領域等を検出すると、物体5000とアレーアンテナ11との相対位置を把握する。システム1は、レトロディレクティブ方式で送電装置10から受電装置20に向け、送信信号2000を含む電波2000Wを放射することで、受電装置20に無線給電を行う。
【0152】
本実施形態では、送電装置10は、構造物4100の開口部4200とアレーアンテナ11との相対的な位置及び方向を識別可能な環境情報を記憶部17Dに予め記憶している。環境情報は、例えば、自機からの開口部4200の位置、方向等に関する情報を含む。送電装置10は、環境情報を参照して開口部4200の有無を把握するが、センサ部15の検出結果に基づいて開口部4200を把握してもよい。
【0153】
図9は、送電装置10が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図9に示す処理手順は、制御部17が記憶部17Dに記憶している制御プログラム171を実行することによって実現される。
【0154】
図8の場面C1において、システム1は、受電装置20が規定信号1000を送出する。この場合、図9に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS101)。例えば、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。送電装置10は、ステップS101の処理が終了すると、処理をステップS102に進める。
【0155】
送電装置10は、構造物4100の開口部4200の状態を認識する(ステップS102)。例えば、送電装置10は、検出部16で、記憶部17Dの環境情報に基づいて構造物4100における開口部4200の領域とアレーアンテナ11との相対的な位置、方向及び距離を認識する。そして、送電装置10は、機械学習を用いて、センサ情報の画像から開口部4200の状態を認識する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の開口部4200を検出している場合、複数の開口部4200の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、複数の開口部4200の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、認識結果を示す情報を記憶部17Dに記憶すると、処理をステップS103に進める。
【0156】
送電装置10は、開口部4200が第1状態であるか否かを判定する(ステップS103)。例えば、送電装置10は、ステップS102の認識結果が開放状態を示している場合、開口部4200が第1状態であると判定する。送電装置10は、開口部4200が第1状態であると判定した場合(ステップS103でYes)、処理をステップS104に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度と決定する(ステップS104)。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第1強度を決定する。送電装置10は、ステップS104の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0157】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の領域151の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第2強度を決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。
【0158】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。例えば、送電装置10は、前処理部19で、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとからベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。送電装置10は、前処理部19で、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)、Aの行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V(0) ,・・・,V(L1) ,V(0) ,・・・,V(L2) ,・・・,V(0) M,・・・,V(LM) M]である。送電装置10は、前処理部19で、検出部16からの物体5000及び開口部4200の距離dと求めた広角度Lとに基づいて、微係数拘束に対応する箇所をゼロとし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP2を求めて記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、制御部17が演算結果(I-AA)とアレー応答ベクトルVの積算を行う。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(I-AA)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトルV’を求める。送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトル(A)を求め、記憶部17Dのヌル深度の大きさを示すベクトルP2とベクトル(A)とに基づいて、ベクトルεを生成する。送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果とベクトルεとに基づいてベクトルVεを生成し、ベクトルV’とベクトルVεとに基づいて係数αの演算を行う。送電装置10は、ベクトルV’とベクトルVεと係数αとに基づいて、(式328)を用いた最適なウェイトベクトルWopt=αV’+Vεを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0159】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C1に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1及び開口部4200の方向D2にヌルを向けることで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000及び開口部4200においては弱め合うように合成される。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0160】
また、送電装置10は、開口部4200が第1状態ではないと判定した場合(ステップS103でNo)、開口部4200が第2状態(閉鎖状態)であるので、処理をステップS108に進める。送電装置10は、開口部4200の電波強度を第1強度にしないと決定する(ステップS108)。送電装置10は、ステップS108の処理が終了すると、処理をステップS105に進める。
【0161】
送電装置10は、回避対象の物体5000を認識する(ステップS105)。例えば、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の領域151の相対位置、方向等を認識すると、物体5000の電波強度を第2強度と決定する。本実施形態では、送電装置10は、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになる、すなわちヌルを向けるように、第2強度を決定する。例えば、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、ステップS105の処理が終了すると、処理をステップS106に進める。
【0162】
送電装置10は、決定した電波強度に対応したアレー応答ベクトル化及び行列演算を行って送信ウェイトを生成する(ステップS106)。この場合、送電装置10は、前処理部19で、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとからベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。送電装置10は、前処理部19で、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)、Aの行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V(0) ,・・・,V(L1) ,V(0) ,・・・,V(L2) ,・・・,V(0) M,・・・,V(LM) M]である。送電装置10は、前処理部19で、検出部16からの物体5000の距離dと求めた広角度Lとに基づいて、微係数拘束に対応する箇所をゼロとし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP2を求めて記憶部17Dに記憶する。送電装置10は、制御部17が演算結果(I-AA)とアレー応答ベクトルVの積算を行う。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(I-AA)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトルV’を求める。送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトル(A)を求め、記憶部17Dのヌル深度の大きさを示すベクトルP2とベクトル(A)とに基づいて、ベクトルεを生成する。送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果とベクトルεとに基づいてベクトルVεを生成し、ベクトルV’とベクトルVεとに基づいて係数αの演算を行う。送電装置10は、ベクトルV’とベクトルVεと係数αとに基づいて、(式328)を用いた最適なウェイトベクトルWopt=αV’+Vεを生成する。送電装置10は、ステップS106の処理が終了すると、処理をステップS107に進める。
【0163】
送電装置10は、送信ウェイトを乗算して電波2000Wを放射する(ステップS107)。例えば、送電装置10は、生成した最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。例えば、図8の場面C2に示すように、送電装置10は、物体5000の方向D1のみにヌルを向け、開口部4200にはヌルを向けないことで、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。この場合、電波2000Wの一部のサイドロープによる電波2100Wは、開口部4200の領域に向かうが、部屋4000の外部には透過しない。また、電波2100Wは、開口部4200の領域で反射した反射波が受電装置20に向かうと、受電装置20の電波2000Wの受電量を増加させることができる。図9に戻り、送電装置10は、ステップS107の処理が終了すると、図9に示す処理手順を終了させる。
【0164】
以上により、送電装置10は、構造物4100で電波2000W(送信波)が構造物4100の外部に透過または通過する開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、開口部4200における電波2000Wの電波強度を、開口部4200とは異なる構造物4100における電波2000Wの電波強度よりも低い第1強度とすることができる。これにより、送電装置10は、電波伝搬環境の構造物4100に開口部4200が存在しても、開口部4200から構造物4100の外部への電波2000Wの漏洩を抑制することができる。その結果、送電装置10は、送信出力を抑えて運用する必要がないので、設置された環境に適した給電を実現することができる。送電装置10は、構造物4100の外部へ透過する電波2000Wを抑制できるので、他システムとの共用が可能となり、設置可能な環境の制限を抑制することができる。
【0165】
送電装置10は、受電装置20から受信した受信信号と受電装置20とは異なる物体5000に関する情報とに基づいて、電波2000Wの物体5000への強度が所定以下となる第2強度とすることができる。これにより、送電装置10は、物体5000への方向に向かう電波2000Wの電波強度を抑制できるので、電波伝搬環境における安全性を向上させることができる。
【0166】
[実施形態の変形例]
上述した送電装置10は、制御部17が予め記憶部17Dに記憶されている構造物4100の開口部4200の第1位置及び方向の少なくとも一方に基づいて、開口部4200における電波2000W(送信波)の電波強度を、開口部4200とは異なる構造物4100における電波2000Wの電波強度よりも低い第1強度とするように構成してもよい。開口部4200の位置が固定されている場合、送電装置10は、開口部4200の相対位置、自機からの方向等を記憶部17Dに予め記憶しておき、制御する際に、開口部4200の状態を検出してもよい。これにより、送電装置10は、送受信部13と開口部4200の相対的な位置及び方向の情報を用いて電波2000W(送信波)が開口部4200の電波強度を第1強度にするか否かを判別できるので、開口部4200の判別処理及び装置構成の簡単化を図ることができる。
【0167】
また、上述した送電装置10は、開口部4200が電波2000Wを透過する場合、制御部17が開口部4200の透過率に基づいて電波強度を決定可能な電波強度情報を記憶部17Dに記憶してもよい。電波強度情報は、例えば、開口部4200の透過率と電波強度との関係を示す情報を含む。電波強度情報は、例えば、透過率が100~90%の場合、開口部4200にヌルを向けることを示す情報を含む。電波強度情報は、例えば、透過率が90~50%の場合に開口部4200の電波強度を25%、透過率が50~10%の場合に電波強度を50%等に段階的に増かさせることを示す情報を含む。これにより、送電装置10は、開口部4200の透過率に応じて電波2000Wの電波強度を調整できるので、自機の周囲環境に適した電波強度で給電用の電波2000Wを放射することができる。
【0168】
添付の請求項に係る技術を完全かつ明瞭に開示するために特徴的な実施形態に関し記載してきた。しかし、添付の請求項は、上記実施形態に限定されるべきものでなく、本明細書に示した基礎的事項の範囲内で当該技術分野の当業者が創作しうるすべての変形例及び代替可能な構成を具現化するように構成されるべきである。本開示の内容は、当業者であれば本開示に基づき種々の変形および修正を行うことができる。したがって、これらの変形および修正は本開示の範囲に含まれる。例えば、各実施形態において、各機能部、各手段、各ステップなどは論理的に矛盾しないように他の実施形態に追加し、若しくは、他の実施形態の各機能部、各手段、各ステップなどと置き換えることが可能である。また、各実施形態において、複数の各機能部、各手段、各ステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。また、上述した本開示の各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施することもできる。
【符号の説明】
【0169】
1 システム
10 送電装置
11 アレーアンテナ
11A アンテナ素子
12 送信信号発生部
13 送受信部
14 推定部
15 センサ部
16 検出部
17 制御部
17D 記憶部
18 乗算部
19 前処理部
20 受電装置
21 アンテナ
22 送受信部
23 信号発生部
24 受電部
200B 基準点
200P 受信点
1000 規定信号
2000 送信信号
2000W 電波
2100W 電波
4000 部屋
4100 構造物
4200 開口部
5000 物体
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