(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005208
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】木粉樹脂複合材、成型品、木粉樹脂複合材の製造方法、及び成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/02 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
B27N3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105295
(22)【出願日】2023-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月5日に日本工業出版「プラスチックス」 2022年11月号、第26~36頁に掲載
(71)【出願人】
【識別番号】393024935
【氏名又は名称】菱華産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】都地 盛幸
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260AA20
2B260BA01
2B260BA15
2B260BA18
2B260BA30
2B260CD07
2B260CD13
2B260CD15
2B260CD30
2B260DC20
2B260EA12
2B260EA13
2B260EA20
2B260EB10
2B260EB50
(57)【要約】
【課題】耐臭気性に優れる木粉樹脂複合材を提供すること。
【解決手段】被蒸煮木粉と、樹脂と、を含み、前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である、木粉樹脂複合材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被蒸煮木粉と、
樹脂と、を含み、
前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である、
木粉樹脂複合材。
【請求項2】
前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比が、0.1以下である、
請求項1に記載の木粉樹脂複合材。
【請求項3】
相溶化剤をさらに含む、
請求項1に記載の木粉樹脂複合材。
【請求項4】
前記被蒸煮木粉の含有量が、前記木粉樹脂複合材の総量に対して、50質量%超である、
請求項1に記載の木粉樹脂複合材。
【請求項5】
請求項1に記載の木粉樹脂複合材を成型してなる、
成型品。
【請求項6】
厚さが1.2mm以下である、
請求項5に記載の成型品。
【請求項7】
木粉を蒸煮処理して被蒸煮木粉を得る蒸煮工程と、
前記被蒸煮木粉を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、を含み、
前記洗浄工程前の前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である、
木粉樹脂複合材の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄工程前の前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比が、0.1以下である、
請求項7に記載の木粉樹脂複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の木粉樹脂複合材の製造方法により得られた木粉樹脂複合材を成型して成型品を得る成型工程を含む、
成型品の製造方法。
【請求項10】
前記成型工程における成型温度が160℃以上180℃以下である、
請求項9に記載の成型品の製造方法。
【請求項11】
前記成型工程における金型温度が60℃以上85℃以下である、
請求項9に記載の成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木粉樹脂複合材、成型品、木粉樹脂複合材の製造方法、及び成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木粉とプラスチックの複合化技術は、約30年以上の歴史があり、環境意識の高まり等によって木粉とプラスチックの複合体における木材比率を増加させる研究が行われている。具体的には、木粉とプラスチックは相溶性が低いため両者の相溶性を高めることや、プラスチックの成形性や力学的特性を損なわないようにするために複合化の前における木粉の前処理等が研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、リグノセルロース含有材料による新たな熱可塑性材料を提供することを目的として、リグノセルロース含有材料を水蒸気処理して得られるリグノセルロース系熱可塑性材料が開示されており、当該リグノセルロース系熱可塑性材料は、通常の熱可塑性樹脂材料と併せて用いることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、木質系材料を水蒸気処理した場合は、木質が分解し、木質中の成分が化学反応することにより複数の臭気成分が発生する。その結果、そのような蒸煮後の木質系材料を用いて複合材料を作製し成型した場合、成型品に強い臭いが残ってしまい、その使用用途が限定されることになる。したがって、そのような成型品の原料となる木粉と樹脂とを複合化した木粉樹脂複合材には、臭いの発生を抑制した耐臭気性に優れることが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、耐臭気性に優れる木粉樹脂複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特に、被蒸煮木粉中の臭気の主原因が熱を加えることにより生成される酢酸によるものであることを見出し、被蒸煮木粉中の酢酸の含有量を制御することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
被蒸煮木粉と、
樹脂と、を含み、
前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である、
木粉樹脂複合材。
[2]
前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比が、0.1以下である、
[1]に記載の木粉樹脂複合材。
[3]
相溶化剤をさらに含む、
[1]に記載の木粉樹脂複合材。
[4]
前記被蒸煮木粉の含有量が、前記木粉樹脂複合材の総量に対して、50質量%超である、
[1]~[3]のいずれかに記載の木粉樹脂複合材。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の木粉樹脂複合材を成型してなる、
成型品。
[6]
厚さが1.2mm以下である、
[5]に記載の成型品。
[7]
木粉を蒸煮処理して被蒸煮木粉を得る蒸煮工程と、
前記被蒸煮木粉を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、を含み、
前記洗浄工程前の前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である、
木粉樹脂複合材の製造方法。
[8]
前記洗浄工程前の前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、前記洗浄工程を経た前記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比が、0.1以下である、
[7]に記載の木粉樹脂複合材の製造方法。
[9]
[7]又は[8]に記載の木粉樹脂複合材の製造方法により得られた木粉樹脂複合材を成型して成型品を得る成型工程を含む、
成型品の製造方法。
[10]
前記成型工程における成型温度が160℃以上180℃以下である、
[9]に記載の成型品の製造方法。
[11]
前記成型工程における金型温度が60℃以上85℃以下である、
[10]に記載の成型品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐臭気性に優れる木粉樹脂複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の洗浄工程前の被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラム
【
図2】実施例1の洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.木粉樹脂複合材
本実施形態の木粉樹脂複合材は、被蒸煮木粉と、樹脂と、を含み、前記被蒸煮木粉は、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下である。
【0012】
一般的に、木粉と樹脂を複合化する場合、木粉の比率が大きくなるにつれて成形性や力学特性(強度、靭性等)が低下する傾向にあるため、成形性や力学特性を向上させるために木粉に対して蒸煮処理等が行われる。従来は、蒸煮処理等により木粉中に臭気成分が発生するが、木粉の比率が大きくなるほど臭気の程度も大きくなる傾向にある。ここで、木粉を蒸煮処理した際にはホルムアルデヒド、蟻酸、及び酢酸、といった複数の臭気成分が発生することは知られているが、各成分の臭気に対する寄与度等については明らかにされていない。
【0013】
一方、本実施形態では、被蒸煮木粉中の酢酸の含有量を調整することにより、とりわけ、木粉樹脂複合材の臭気性を改善することができる。
【0014】
すなわち、本実施形態の木粉樹脂複合材は、特に、被蒸煮木粉が、ガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下であることにより、木粉樹脂複合材やその成型品は耐臭気性に優れる。
【0015】
本実施形態の木粉樹脂複合材は、以下の測定条件Aにおいて測定した引張強さが、好ましくは25MPa以上であり、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上である。木粉樹脂複合材の上記引張強さが25MPa以上であることにより、成型品の強度一層優れる傾向にある。上記引張強さの上限は特に限定されないが、例えば、引張強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
<測定条件A>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
試験室温:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
状態調節:試験室で88時間以上
試験機:オートグラフAG-100kNXPlus(株式会社島津製作所製)
ロードセル容量:5kN
伸び計:TRViewX500D(株式会社島津製作所製)
標線間距離:75mm
つかみ具間距離:115mm
試験速度:50mm/min
【0016】
本実施形態の木粉樹脂複合材は、以下の測定条件Bにおいて測定した曲げ強さが、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは55MPa以上であり、さらに好ましくは60MPa以上である。木粉樹脂複合材の上記曲げ強さが50MPa以上であることにより、成型品の強度に一層優れる傾向にある。上記曲げ強さの上限は特に限定されないが、例えば、曲げ強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
<測定条件B>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
試験室温:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
状態調節:試験室で88時間以上
試験機:オートグラフAG-10TD(株式会社島津製作所製)
ロードセル容量:5kN
支点間距離:64mm
支持台半径:5mm
圧子半径:5mm
試験速度:2mm/min
【0017】
本実施形態の木粉樹脂複合材は、以下の測定条件Cにおいて測定したシャルピー衝撃試験による衝撃強さが、好ましくは1.6kJ/m2以上であり、より好ましくは1.8kJ/m2以上であり、さらに好ましくは2.0kJ/m2以上である。木粉樹脂複合材の上記衝撃強さが1.6kJ/m2以上であることにより、成型品の靭性に一層優れる傾向にある。上記衝撃強さの上限は特に限定されないが、例えば、衝撃強さは10kJ/m2以下であってもよく、8kJ/m2以下であってもよい。
<測定条件C>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
試験室温:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
状態調節:試験室で88時間以上
ノッチ形状:形状A(角度45°、ノッチ先端半径0.25mm、ノッチ半径2、8mm)
試験機:デジタル衝撃試験機DG-UB(株式会社東洋精機製作所製)
公称振り子エネルギー:1J
打撃方向:エッジワイズ
吸収エネルギーの算出方法:簡易補正方法
【0018】
本実施形態の木粉樹脂複合材は、以下の測定条件Dにて測定した荷重たわみ温度が、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは120℃以下であり、さらに好ましくは110℃以下である。上記荷重たわみ温度が140℃以下であることにより、木粉樹脂複合材の成形性が一層向上する傾向にある。上記荷重たわみ温度の下限は特に限定されないが、例えば、荷重たわみ温度は80℃以上であってもよく、90℃以上であってもよい。
<測定条件D>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
荷重たわみ温度試験:JIS K 7191-1:2007
試験機:HDT試験装置6M-2(株式会社東洋精機製作所製)
支点間距離:64mm
試験片の置き方:フラットワイズ
曲げ応力:0.45MPa
昇温速度:120℃/h
【0019】
また、本実施形態の木粉樹脂複合材は、曲げ応力を1.80MPaに変更したこと以外は測定条件Dと同様である測定条件Eにて測定した荷重たわみ温度(℃)が、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、さらに好ましくは90℃以下である。上記荷重たわみ温度が120℃以下であることにより、木粉樹脂複合材の成形性が一層向上する傾向にある。上記荷重たわみ温度の下限は特に限定されないが、例えば、荷重たわみ温度は50℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。
【0020】
1.1.被蒸煮木粉
本実施形態の被蒸煮木粉は、蒸煮処理が行われた木粉を意味する。木粉とは、木材を粉砕して粉状化したものを意味する。本実施形態の木粉の粒径範囲の上限値は、特に限定されないが、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは900μm以下であり、さらに好ましくは600μm以下であり、よりさらに好ましくは300μm以下である。粒径範囲の下限値は、特に限定されないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μmであり、さらに好ましくは100μm以上である。木粉の粒径範囲の上限値が1000μm以下であることにより、樹脂との相溶性が向上し、木粉樹脂複合材の成型品の強度及び靭性が向上する傾向にある。また、木粉の粒径範囲の下限値が10μm以上であることにより、木粉樹脂複合材の成形性が向上する傾向にある。上記の粒径範囲は、特に限定されないが、例えば、ふるい分け法によって調整することができる。具体的には、例えば、粒径範囲が1000μm以下の木粉は、目開きが1000μmのフィルターを用いたふるい分けによって得ることができる。また、粒径範囲が40μm以上60μm以下の木粉は、目開きが60μmのフィルターを通過させた木粉を、目開きが40μmのフィルターにより捕捉することにより得ることができる。
【0021】
また、粒径範囲が10μm以上1000μm以下の木粉の含有量は、木粉全体に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、極めて好ましくは98質量%以上である。上限値は、特に限定されないが、例えば、100質量%であってもよい。
【0022】
木材の粉砕方法については、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、刃物方式による粉砕や衝撃式粉砕方式による粉砕が挙げられる。
【0023】
木材とは、植物由来のリグノセルロース系材料全般、すなわち、リグニンと、ヘミセルロースと、セルロースと、を含有するリグノセルロース系材料を意味する。木材としては、特に限定されないが、例えば、メープル、ホワイトアッシュ、スギ、キリ、クロマツ、ヒノキ、及びブナが挙げられる。この中でも、比重が大きく、樹脂との複合化に優れる観点からは、メープル及びホワイトアッシュのいずれか1種以上であることが好ましい。これらは、1種単独でも用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
蒸煮とは、木粉に対して水蒸気を接触させる処理を意味する。蒸煮の詳細については後述のとおりである。
【0025】
本実施形態の被蒸煮木粉は、下記測定条件Zにおけるガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下であり、好ましくは0.05以下であり、より好ましくは0.01以下である。上記酢酸のピーク高さの比の下限は特に限定されず、酢酸のピークが検出限界以下であってもよい。上記酢酸のピーク高さの比は、例えば0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
<測定条件>
[分析装置]
ガスクロマトグラフ質量分析計:7890A/5975C(Agilent Technologies社製)
熱分解試料導入装置:EGA/PY-3030D(フロンティア・ラボ社製)
[ガスクロマトグラフ条件]
キャリヤーガス:ヘリウム
カラム:DB-5MS UI (長さ20m、内径0.18mm、膜厚0.18μm)
加熱脱着温度:150℃→30℃/min→250℃(クライオフォーカシングによる揮発成分の捕捉を併用した。)
ガスクロマトグラフ注入口温度:300℃
スプリット比:1:50
カラム槽温度:昇温条件を下表に示す。
【表1】
[質量分析条件]
イオン化法:電子イオン化法
質量分析計インターフェース温度:300℃
スキャン範囲:m/z29-500
【0026】
本実施形態の被蒸煮木粉は、上記測定条件におけるガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、好ましくはいずれも0.1以下であり、より好ましくはいずれも0.05以下であり、さらに好ましくはいずれも0.01以下である。酢酸のピーク高さの比の下限は特に限定されず、酢酸のピークが検出限界以下であってもよい。上記酢酸のピーク高さの比は、例えば、いずれも若しくは少なくともいずれか1つが0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0027】
本実施形態の被蒸煮木粉は、上記測定条件におけるガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比が、好ましくはいずれも0.1以下であり、より好ましくはいずれも0.05以下であり、さらに好ましくはいずれも0.01以下である。上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比の下限は特に限定されず、上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピークが検出限界以下であってもよい。上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、例えば、いずれも若しくは少なくともいずれか1つが0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0028】
本実施形態の被蒸煮木粉は、上記測定条件におけるガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、該トータルイオンクロマトグラムにより同定された蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、好ましくはいずれも0.1以下であり、より好ましくはいずれも0.05以下であり、さらに好ましくはいずれも0.01以下である。上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比の下限は特に限定されず、上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピークが検出限界以下であってもよい。上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、例えば、いずれも若しくは少なくともいずれか1つが0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0029】
被蒸煮木粉の含有量は、特に限定されないが、例えば、木粉樹脂複合材の総量に対して、10質量%以上80質量%以下であってもよく、20質量%以上75質量%以下であってもよく、30質量%以上70質量%以下であってもよく、40質量%以上65質量%以下であってもよく、50質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0030】
被蒸煮木粉の含有量の下限は、木粉樹脂複合材の環境対応性の観点から、木粉樹脂複合材の総量に対して、50質量%であることが好ましく、51質量%、55質量%、60質量%、又は65質量%であってもよい。
【0031】
また、被蒸煮木粉の含有量の上限は、木粉樹脂複合材の流動性、及び該木粉樹脂複合材の成型品の強度及び靭性の観点から、80質量%であることが好ましく、75質量%、70質量%、65質量%、又は60質量%であってもよい。
【0032】
1.2.樹脂
本実施形態の樹脂としては特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂であり、従来公知のものを用いることができる。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリ乳酸、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及び熱可塑性エストラマーが挙げられる。
【0033】
その中でも、本実施形態の樹脂は、環境対応性に優れる観点から、バイオマス樹脂であることが好ましい。ここで、バイオマス樹脂とは、植物由来の原料を用いて製造される樹脂を意味する。バイオマス樹脂としては、特に限定されないが、植物由来の原料を用いた樹脂として、例えば、バイオポリエチレン、バイオポリプロピレン、バイオポリエステル、バイオポリウレタン、及びバイオフェノール樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
樹脂の溶融温度は、140℃以上180℃以下であることが好ましく、150℃以上170℃以下であることがより好ましい。樹脂の溶融温度が180℃以下であることで、木粉と複合化した後に、木粉に熱分解(ヤケ)を発生させることなく、成形することができ、木粉樹脂複合体の成型品の強度及び靭性に優れる傾向にある。
【0035】
本実施形態の樹脂は、上述の測定条件Aにおいて測定した引張強さが、好ましくは25MPa以上であり、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上である。樹脂の上記引張強さが25MPa以上であることにより、木粉樹脂複合材の成型品の強度に一層優れる傾向にある。上記引張強さの上限は特に限定されないが、例えば、引張強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
【0036】
本実施形態の樹脂は、上述の測定条件Bにおいて測定した曲げ強さが、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは35MPa以上であり、さらに好ましくは40MPa以上である。樹脂の曲げ強さが30MPa以上であることにより、木粉樹脂複合材の成型品の強度に一層優れる傾向にある。上記曲げ強さの上限は特に限定されないが、例えば、曲げ強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
【0037】
樹脂の含有量は、木粉樹脂複合体の総量に対して、好ましくは20質量%以上45質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上45質量%以下である。樹脂の含有量が20質量%以上であることにより木粉樹脂複合材の成型品の強度及び靭性に一層優れる傾向にあり、樹脂の含有量が45質量%以下であることにより、環境対応性に一層優れる傾向にある。
【0038】
1.3.相溶化剤
本実施形態の木粉樹脂複合材は相溶化剤を含んでいてもよい。相溶化剤は、木粉と樹脂との相溶性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマー、及び無水マレイン酸系ポリマーが挙げられる。また、相溶化剤は、反応型であってもよく、非反応型であってもよく、ランダムポリマー型であってもよく、ブロックポリマー型であってもよい。なお、環境対応性を一層向上させる観点からは、相溶化剤は植物由来の原料を用いて製造されることが好ましい。
【0039】
相溶化剤の重量平均分子量は、1.0×107以上であることが好ましく、1.0×108以上であることがより好ましい。相溶化剤の重量平均分子量が1.0×107以上であることにより相溶効果を一層奏することができる傾向にある。
【0040】
相溶化剤の含有量は、木粉樹脂複合体の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。相溶化剤の含有量が上記範囲であることにより木粉樹脂複合体の成型品の強度及び靭性に一層優れる傾向にある。
【0041】
1.4.その他の成分
本実施形態の木粉樹脂複合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、可塑剤、難燃剤、充填剤、帯電防止剤、及び滑剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0042】
2.成型品
本実施形態の成型品は、本実施形態の木粉樹脂複合材を成型してなるものである。成型方法については後述するとおりである。成型品の厚さは、用途によって好適な範囲であればよい。その厚さは、1.2mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよく、0.8mm以下であってもよい。その厚さの下限も特に限定されず、厚さが0.4mm以上であってもよく、0.6mm以上であってもよい。
【0043】
成型品の用途としては、特に限定されないが、例えば、玩具、日用品、生活雑貨、家電、及びIT機器の筐体が挙げられる。より具体的には、特に限定されないが、例えば、知育玩具、ブロック玩具、乳幼児向け育児用品、模型玩具、ハンガー、メガネ、文具、時計、収納用品、洗濯バサミ、化粧品容器、スポーツ用品、バケツ、アウトドア用品、釣り用品、自動車用品、スピーカー、イヤホンが挙げられる。成型品の形状も、それぞれの用途に適した形状であればよい。
【0044】
3.木粉樹脂複合材の製造方法
本実施形態の木粉樹脂複合材の製造方法は、木粉を蒸煮処理して被蒸煮木粉を得る蒸煮工程と、上記被蒸煮木粉を洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程を経た上記被蒸煮木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、を含む。本実施形態の木粉樹脂複合材の製造方法において、上記洗浄工程前の上記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、上記洗浄工程を経た上記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下であると好ましい。、また、上記洗浄工程を経た上記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、上記洗浄工程を経た上記被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比が、0.1以下であるとより好ましい。
【0045】
3.1.蒸煮工程
蒸煮工程は、木粉を蒸煮処理して被蒸煮木粉を得る工程である。蒸煮方法としては従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、水蒸気を通過させることができる容器中に木粉を収容し、そこにボイラーなどの供給源から水蒸気を供給することが挙げられる。
【0046】
水蒸気としては、特に限定されないが、例えば、飽和蒸気及び過熱蒸気が挙げられるが、この中でも過熱蒸気を用いることが好ましい。
【0047】
蒸気温度は、好ましくは160℃以上240℃以下であり、より好ましくは170℃以上220℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上210℃以下である。蒸気温度が160℃以上であることにより、木粉中に含まれるヘミセルロース、リグニンなどを一定程度分解することができ、成形性に一層優れる傾向にある。また、蒸気温度が240℃以下であることにより、熱分解(ヤケ)が過度に発生することを防ぐことができ、それにより耐臭気性に一層優れる傾向にある。
【0048】
また、蒸煮処理を行う時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上1時間以下であってもよく、1分以上30分以下であってもよく、5分以上20分以下であってもよい。また、木粉と水蒸気の接触性を高め反応を促進するために水蒸気の圧力を常圧よりも高めてもよい。
【0049】
3.2.洗浄工程
洗浄工程は、蒸煮工程後に、被蒸煮木粉を水により洗浄する工程である。洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、容器中に水を満たし、その容器中に被蒸煮木粉を投入し攪拌することが挙げられる。洗浄に用いる水としては、特に限定されないが、例えば、純水、脱イオン水、及び蒸留水が挙げられる。また、洗浄工程に用いる水は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含んでいてもよい。
【0050】
洗浄工程前の被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比は、0.1以下であると好ましく、より好ましくは0.05以下であり、更に好ましくは0.01以下である。また、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸のピーク高さの比は、0.1以下であるとより好ましく、更に好ましくは0.05以下であり、特に好ましくは0.01以下である。上記酢酸のピーク高さの比の下限は特に限定されず、酢酸のピークが検出限界以下であってもよい。上記酢酸のピーク高さの比は、例えば0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0051】
洗浄工程前の被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、好ましくはいずれも0.1以下であり、より好ましくはいずれも0.05以下であり、さらに好ましくはいずれも0.01以下である。また、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、より好ましくはいずれも0.1以下であり、更に好ましくはいずれも0.05以下であり、特に好ましくはいずれも0.01以下である。上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比の下限は特に限定されず、上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピークが検出限界以下であってもよい。上記酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、例えば、いずれも若しくは少なくともいずれか1つが0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0052】
洗浄工程前の被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、好ましくはいずれも0.1以下であり、より好ましくはいずれも0.05以下であり、さらに好ましくはいずれも0.01以下である。また、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された二酸化炭素のピーク高さに対する、洗浄工程を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムにより同定された蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、より好ましくはいずれも0.1以下であり、更に好ましくはいずれも0.05以下であり、特に好ましくはいずれも0.01以下である。上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比の下限は特に限定されず、上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピークが検出限界以下であってもよい。上記蟻酸、酢酸、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドのそれぞれのピーク高さの比は、例えば、いずれも若しくは少なくともいずれか1つが0.0001以上であってもよく、0.001以上であってもよい。
【0053】
洗浄工程において、洗浄に用いる水の温度は、好ましくは0℃以上60℃以下であり、より好ましくは5℃以上40℃以下であり、さらに好ましくは10℃以上20℃以下である。上記温度が0℃以上であることにより、臭気成分の除去を促進することができ、耐臭気性に優れる傾向にある。また、蒸気温度が60℃以下であることにより、被蒸煮木粉中の成分が必要以上に流出することを防止することができ、それにより木粉樹脂複合体の成型品の強度及び靭性、並びに成形性に優れる傾向にある。
【0054】
洗浄時間は、特に限定されないが、10分以上6時間以内であってもよく、20分以上4時間以内であってもよく、30分以上2時間以内であってもよい。
【0055】
3.3.混合工程
混合工程は、上記洗浄工程を経た上記被蒸煮木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る工程である。混合方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、樹脂を溶融させた後に被蒸煮木粉と混合させ、従来公知の造粒押出機を用いて、ダイスの穴から押し出した糸状の混合物を水槽で冷却し、ペレタイザーでカットすることが挙げられる。
【0056】
4.成型品の製造方法
本実施形態の成型品の製造方法は、本実施形態の木粉樹脂複合材を成型して成型品を得る成型工程を含む。成型品の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、押出成形、射出成形、及びブロー成型が挙げられる。本実施形態の木粉樹脂複合材は、木粉を含みつつも成形性に優れるため、射出成形が特に好適である。射出成形としては、特に限定されないが、例えば、木粉樹脂複合材を溶融させた後に、従来公知の射出成形機を用いて、溶融した木粉樹脂複合材をスクリューを経由して金型に流し込み、冷却することが挙げられる。
【0057】
成型工程における成型温度は、好ましくは160℃以上180℃以下であり、より好ましくは165℃以上175℃以下である。成型温度が160℃以上であることにより、成形性に一層優れる傾向にある。また、成型温度が180℃以下であることにより、熱分解を抑えることができ、耐臭気性、並びに木粉樹脂複合体の成型品の強度及び靭性に一層優れる傾向にある。なお、本実施形態における成型温度とは、成型の際に木粉樹脂複合材を加熱して流動状態にする際の温度を意味する。
【0058】
また、金型温度は、好ましくは60℃以上85℃以下であり、より好ましくは65℃以上80℃以下である。金型温度が60℃以上であることにより、成形性に一層優れる傾向にあり、また、金型温度が85℃以下であることにより、生産効率に一層優れる傾向にある。なお、金型温度とは、流動状態の木粉樹脂複合材が流し込まれる金型の温度を意味する。
【0059】
本実施形態の木粉樹脂複合材の製造方法及び成型品の製造方法は、本発明の効果を阻害しない半にで、上記の各工程以外の工程を有していてもよい。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
1.木粉樹脂複合材の調製
(実施例1~7)
まず、木材(ホワイトアッシュ/メープル(ミズノ社提供))を衝撃式粉砕方式により粉砕した後、フィルターを通して粒径が均一になるように揃えた。
得られた木粉に対して、蒸煮温度200℃で15分間の蒸煮処理を行った後に、被蒸煮木粉を容器中に浸した水温15℃の水中に60分間浸漬させることにより、洗浄した。
洗浄した後の被蒸煮木粉と後述の樹脂と相溶化剤とを表1に示すとおり混合した後、押出成形をしてペレタイズすることにより、実施例1~7の木材樹脂複合材を得た。
【0062】
ここで、実施例1の水による洗浄前の被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムの結果を
図1に示す。また、実施例1の水による洗浄を経た被蒸煮木粉を対象とするガスクロマトグラフ質量分析により得られるトータルイオンクロマトグラムの結果を
図2に示す。その測定条件は、上述の測定条件Zと同様である。
【0063】
(比較例1)
被蒸煮木粉を水により洗浄しないこと、すなわち、非被蒸煮木粉を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により比較例1の木材樹脂複合材を得た。樹脂との混合に用いた木粉に対して実施例1と同様の条件でガスクロマトグラフ質量分析を行った。得られたトータルイオンクロマトグラムは
図2に示すとおりである。
【0064】
2.成型品の作製
上記にて得られた木粉樹脂複合体を成型温度170℃、金型温度70℃の条件下、射出成形により飲用コップ状に成型した。得られた成型品の厚さは1.2mm(最薄部)であった。
【0065】
3.評価
得られた木材樹脂複合材及び成型品の臭気については、熟練した当業者である臭気鑑定士による官能評価を行った。その評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
[評価基準]
〇:食用容器として使用する際に臭いが気にならない。
×:食用容器として使用する際に臭いが気になる。
【0066】
【0067】
表1中に示す各成分の詳細はそれぞれ以下のとおりである。
・バイオPBS:bio-PBS(三菱ケミカル社製)
・相溶化剤:メタクリル酸アルキレート、重量平均分子量1.0×107、三菱ケミカル社製