(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005220
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】音声メディア制作方法、記録装置、認知症の周辺症状緩和用記録装置、認知症の周辺症状緩和方法
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20250108BHJP
【FI】
G16H20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105318
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】521487797
【氏名又は名称】株式会社クリティーズグループ
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】吉村 浩子
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】認知症患者に視聴させることにより、認知症の周辺症状を緩和できる音声メディアの制作方法を提供する。
【解決手段】音声メディア制作方法は、依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップとを備えることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、
前記情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、
前記編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップと、
を備えることを特徴とする音声メディア制作方法。
【請求項2】
前記メディア化対象者の情報には写真、動画その他の視覚情報を含み、
前記取得情報編集ステップでは前記視覚情報の編集を含み、
前記編集情報言語化ステップでは前記視覚情報の内容の言語化を含み、
前記言語化情報音声化ステップでは前記視覚情報の音声化を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の音声メディア制作方法。
【請求項3】
前記言語化情報音声化ステップでは前記編集情報言語化ステップで言語化された情報の固有名詞を視聴者の話し言葉のアクセントを用いて音声化することを特徴とする請求項1又は2に記載の音声メディア制作方法。
【請求項4】
前記言語化情報音声化ステップでは前記編集情報言語化ステップで言語化された情報を視聴者の話し言葉の方言を用いて音声化することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の音声メディア制作方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の音声メディア制作方法により制作された音声データを記録した記録装置
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の音声メディア制作方法により制作された音声データを記録した認知症の周辺症状緩和用記録装置
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の音声メディア制作方法により制作された音声データを利用者に繰り返し視聴させることを特徴とする認知症の周辺症状緩和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症患者に視聴させる音声メディアの制作方法、記録装置、認知症の周辺症状緩和用記録装置、認知症の周辺症状緩和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の認知症患者に対し、視覚を通じて行う認知症の予防、防止手段については、例えば、特許文献1に記載の、痴呆防止システムが知られている。
画像または画像と文字との組み合わせにより利用者に示すといった対話プログラムを実行することにより、視覚を通じて利用者の右脳を刺激し、痴呆症のリハビリテーションを行うようにしたことを特徴とする痴呆防止システム、である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された痴呆防止システムでは、利用者毎の痴呆の程度に適切な右脳刺激手段を選択することができるとともに、特に見当識障害の予防、改善を図ることを目的とした新規な痴呆防止システムの開発を技術課題としている。しかし、この痴呆防止システムは、表示装置と、入力装置と、記憶装置と、処理装置とを具えて成るコンピュータを用い、表示装置上に表示された指示に従って利用者が入力を行うことにより痴呆症のリハビリテーションメニューをこなしてゆくシステムである。少なくとも利用者たる認知症患者が、表示装置上に表示された画像又は文字を認識でき、それに対する何らかの反応として、入力装置を通じた入力を必要とする。利用者が要求された入力を円滑にできない状態である場合は、本痴呆防止システムを機能させることは難しい。
【0005】
したがって、本発明の課題は、認知症患者に視聴させることにより、認知症の周辺症状を緩和できる音声メディアの制作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、利用者の家族との面談調査に基づき、利用者の人生にまつわる出来事のうち、エピソード記憶に結び付く素材を編集し、編集された言葉を音声として利用者に聞かせることにより、利用者の注意を惹き、利用者の感情に訴えかけることで、認知症たる利用者の不安を除去できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の音声メディアの制作方法である。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の音声メディアの制作方法は、依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップとを備えることを特徴とする。
この音声メディアの制作方法によれば、視聴者である認知症患者に対し、本人の短期記憶又は長期記憶に関連する情報を、聴覚を通じた聴覚刺激として意図的に与え、認知症の中核症状によりもたらされる不安を解消し、周辺症状を緩和することに効果のある音声メディアを制作することができる。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の音声メディアの制作方法の一実施態様としては、メディア化対象者の情報には写真及び動画の視覚情報を含み、取得情報編集ステップでは前記視覚情報の編集を含み、編集情報言語化ステップでは前記視覚情報の内容の言語化を含み、言語化情報音声化ステップでは前記視覚情報の音声化を含むことを特徴とする。
この音声メディアの制作方法によれば、聴覚刺激に視覚刺激を加え、視聴者である認知用患者へより強度の高い感覚刺激として与えることができ、視聴者である認知症の中核症状によりもたらされる不安を解消し、より効果的に周辺症状を緩和することができる音声メディアを制作することができる。
【0009】
本発明の音声メディアの制作方法の一実施態様としては、言語化情報音声化ステップでは前記編集情報言語化ステップで言語化された情報の固有名詞を視聴者の話し言葉のアクセントを用いて音声化することを特徴とする。
この音声メディアの制作方法によれば、言語化された情報のうち、人名や地名等の固有名詞を視聴者の話し言葉のアクセントで音声化することにより、視聴者である認知症患者の注意を惹くことができ、認知症の中核症状によりもたらされる不安を解消し、より効果的に周辺症状を緩和することができる音声メディアを制作することができる。
【0010】
本発明の音声メディアの制作方法の一実施態様としては、言語化情報音声化ステップでは編集情報言語化ステップで言語化された情報を視聴者の話し言葉の方言を用いて音声化することを特徴とする。
この音声メディアの制作方法によれば、言語化された情報を視聴者の話し言葉の方言で音声化することにより、視聴者である認知症患者の注意を更に強く惹くことができ、認知症の中核症状によりもたらされる不安を解消し、より効果的に周辺症状を緩和することができる音声メディアを制作することができる。
【0011】
本発明の記録装置は、依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップとを備える音声メディアの制作方法により制作された音声データを記録したことを特徴とする。
この記録装置は、再生装置があれば、いつでもどこでも音声メディアの制作方法により制作された音声データを再生することができ、音声データの利用の利便性を高めることができる。
【0012】
本発明の認知症の周辺症状緩和用記録装置は、依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップとを備える音声メディアの制作方法により制作された音声データを記録した認知症の周辺症状緩和用記録装置であることを特徴とする。
この認知症の周辺症状緩和用記録装置は、この記録装置の再生装置があれば、いつでもどこでも音声メディアの制作方法により制作された音声データを再生することができ、認知症患者のために応変に音声データを利用することができる。
【0013】
本発明の認知症の周辺症状緩和方法は、依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップと、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップと、情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップと、編集情報言語化ステップで言語化された情報を音声化する言語化情報音声化ステップとを備える音声メディアの制作方法により制作された音声メディアを利用者に繰り返し視聴させることを特徴とする。
認知症患者の周辺症状を緩和する効果のある音声メディアを、繰り返し利用者に視聴させることにより、音声メディアを視聴することにより本来の効果をより高める方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、認知症患者に視聴させることにより、認知症の周辺症状を緩和できる音声メディアの制作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】音声メディアの内容について依頼者に対してのオープンクエスチョン例の質問表である。
【
図2】音声メディアの内容に取り込む画像データとエピソードの関係性のオープンクエスチョン例の質問表である。
【
図3】音声メディアの完成形の雰囲気を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
【
図4】音声メディアの完成形の語調を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
【
図5】音声メディアの完成形の発話の語勢を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
【
図6】音声メディアの完成形をシナリオ化するときのテンプレートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る音声メディア制作方法を詳細に説明する。
図1は、音声メディアの内容について依頼者に対してのオープンクエスチョン例の質問表である。
図2は、音声メディアの内容に取り込む画像データとエピソードの関係性のオープンクエスチョン例の質問表である。
図3は、音声メディアの完成形の雰囲気を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
図4は、音声メディアの完成形の語調を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
図5は、音声メディアの完成形の発話の語勢を決めるためのクローズドクエスチョン例の質問表である。
図6は、音声メディアの完成形をシナリオ化するときのテンプレートである。
図1~5は、面接を通じてメディア化対象者の情報を取得するための質問表の例を示したものである。質問事項及び記録例は
図1~5に示された事項又は内容に限定されるものではない。
【0017】
本明細書においては、視聴者とは認知症患者のことである。依頼者は認知症患者の家族であるが、認知症患者本人である場合もある。メディア化対象者とは認知症患者のことである。メディア制作者とは音声メディアを制作する主体であり、情報取得における面談者や取得情報の編集者である場合もある。
また、オープンクエスチョンとは、拡大質問又は開いた質問と言われる質問方法である。相手が答える範囲を制約せず、自由に答えてもらう質問である。相手からより多くの情報を引き出すことを目的とする。
さらに、クローズドクエスチョンとは、限定質問又は閉じた質問と言われる質問方法である。択一式で、回答範囲を限定した質問である。相手の考えを具体的に把握することを目的とする。
【0018】
〔第1の実施態様〕
依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップでは、音声メディアの内容について質問と音声メディアの完成形についての質問を行う。
音声メディアの内容についての情報を取得するための質問事項の例を
図1及び2に示す。音声メディアの完成形についての情報を取得するための質問事項の例を
図3~5に示す。
【0019】
図1に示す質問表11では、メディア化対象者の人格、個性、性格についての情報、依頼者が視聴者に伝えたいことについての情報を取得するための指針となる質問例を列挙している。また、質問表11では音声メディアのコンテンツとなるべきメディア化対象者にまつわるエピソードについて、依頼者から情報を取得するための質問例を示している。
さらに、質問表11では、音声メディアで使用する固有名詞のアクセント、1人称の呼び名、方言を使用するかどうかのような、音声メディア特有の音声言語としての特性を形成する情報を取得するための質問例を示している。
【0020】
図2に示す質問表12では、音声メディアのコンテンツとなるべきメディア化対象者にまつわるエピソードの具体的な形である、写真、動画、イラスト、絵画等の画像データを、画像内容それぞれに結び付いたエピソードとともに、依頼者から情報を取得するための質問例を示している。
【0021】
質問表11及び12は、音声メディアの内容を形作る要素又は素材となる情報を取得するための指針となる質問例である。質問形式はオープンクエスチョンとし、依頼者からできるだけ多くの情報を取得することを趣旨とする。オープンクエスチョンにより、依頼者が抱える思いや具体的な要望についての情報が得られる。したがって、質問事項は質問表11及び12に例示した事項に限られない。質問表11及び12に例示した質問事項は、音声メディアの内容についてより広範に情報を取得できる契機となる質問例である。
このことにより、これらの質問例を契機として、より発展的な又は個別具体的な情報取得につながることが期待できる。迅速な双方向コミュニケーションの手段である面談により情報取得することとし、質問例はすべてオープンクエスチョン形式としていることにより、音声メディアの内容を形作る情報を、網羅的かつ効果的に取得することができる。
【0022】
図3~5に示す質問表13~15は、音声メディアの完成形について、依頼者から情報を取得する契機となる質問例を挙げている。音声メディアの完成形を設計するには、依頼者の要望を具体的な形にまで結び付ける必要がある。音声メディアの完成形を構想するのはメディア制作者であり、依頼者の要望を音声メディアの具体的な完成形へと誘導しなければならない。したがって、質問表13~15では、質問形式をクローズドクエスチョンとしている。依頼者の要望を取り入れるにしても、それは音声メディアという形式による制約条件が伴う。
質問形式をクローズドクエスチョンとすることにより、音声メディアという形式による制約の中で、依頼者の要望を音声メディアの中で具体化するための情報を取得できるようにしている。
【0023】
質問表13は、音声メディアの完成形全体の統一された雰囲気又はトーンについて依頼者の要望を情報として取得するための質問例を示す。質問事項は人の感情や情緒に係る感覚的で抽象的な質問例であるが、一定程度まで定量化した情報として取得するために、各質問事項について5段階で指定するようなクローズドクエスチョン形式としている。
このことにより、感覚的で抽象的な質問例でありつつ、5段階の強度で評価した上で、音声メディアの完成形の雰囲気又はトーンの方向性を定めることができる。
【0024】
質問表14は、音声メディアの完成形の語調について、依頼者の要望を情報として取得するための質問例を示す。質問事項は取得情報をもとに情報を編集し言語化する過程で、その言語の態様の特徴を決めるためのものである。質問例は、メディア制作者が対応できる範囲の制約を設けつつ、依頼者の要望を取り入れる目的で、クローズドクエスチョン形式としている。
このことにより、言語化情報の具体的な形である音声メディアのシナリオにおいて音声化する場合の発話の語調を定めることができる。
【0025】
質問表15は、音声メディアの完成形の発話の語勢について、依頼者の要望を情報として取得するための質問例を示す。質問事項は取得情報をもとに編集し言語化された情報を音声化する過程で、その音声の態様の特徴を決めるためのものである。質問例は、メディア制作者が対応できる範囲の制約を設けつつ、依頼者の要望を取り入れる目的で、クローズドクエスチョン形式としている。
このことにより、言語化された情報を音声化する場合の、メディア制作者が対応できる範囲において発話の語勢を定めることができる。
【0026】
質問表11~15に基づく質問を通じたメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップは、インターネットを通じたリモートによる面談手段によってもよい。リモートによる面談手段により、遠隔においても音声メディア制作のためのメディア化対象者の情報を取得する情報取得を便宜に行うことができる。
【0027】
質問表11~15に基づく質問を通じたメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップにおいては、依頼者とメディア制作者との面接を通じた質疑応答を音声録音し、文字起こし装置により文書化してもよい。これにより、依頼者とメディア制作者との質疑応答内容を、網羅的かつ漏れなく記録することができる。
文字起こし装置は、AIによる文字起こしが望ましい。AIによる文字起こしにより、依頼者とメディア制作者との質疑応答内容をより質の高い記録として取得できる。
【0028】
図6は、音声メディアのシナリオのテンプレートの例であるシナリオテンプレート21を示す。シナリオテンプレート21は、音声メディアの制作において、情報取得ステップで取得した情報を編集する取得情報編集ステップ及び情報編集ステップで得られた編集情報を言語化する編集情報言語化ステップの過程で用いられるシナリオのテンプレートである。
シナリオテンプレート21に沿って音声メディアのシナリオを作成するにあたっては、上記依頼者との面接を通してメディア化対象者の情報を取得する情報取得ステップで取得した、特に音声メディアの内容について質問を通じて取得した情報の内容をコンテンツとして取り入れる。また、音声メディアの完成形についての質問を通じて取得した情報の内容、特に質問表13及び14に示す質問例により取得した、音声メディアの完成形の雰囲気及び語調に関する依頼者の要望を、シナリオに反映させる。
【0029】
シナリオテンプレート21に示す音声メディアのシナリオにおいては、全体の進行を、起承転結という4段構成で編集する。構成自体を4段と限定するものではなく、5段以上であっても3段以下であってもよい。
シナリオテンプレート21は、起承転結の各段で、言語化すべき内容の指針を示している。また、各段での文字数及び発話の時間を示している。これら文字数及び発話の時間は、音声メディアの完成形の目安となるものである。
【0030】
起の段では、視聴者たる認知症患者の注意を惹くことが特に重要であることを指針としている。承及び転の段は、両方ともエピソードを中心に構成することを指針としている。承の段のエピソードはメディア化対象者にまつわるエピソードを中心に構成する。そのうえで、転の段では、メディア化対象者にまつわるエピソードをベースとしつつ、家族や知人、友人等からのメッセージを加味した構成とする。家族や知人、友人等からのメッセージは視聴者に対し、自己肯定につながるように、自尊感情を喚起する方向のものであることが望ましい。
【0031】
起、承、転、の段では、視聴者たる認知症患者の注意を惹き、認知症患者にまつわるエピソードを中心に音声メディアの音声データが編集されている。これにより、視聴者たる認知症患者に対し、いわゆるカクテルパーティ効果と言われる、音声の選択的聴取や選択的注意を喚起することができる。
また、感覚刺激、特に聴覚を中心にした音楽療法は、精神的緊張の緩和、自発性の発現、情緒の安定、不安感、うつ的感情の緩和などに効果があるとされているように、聴覚刺激による視聴者たる認知症患者への働きかけは、認知症患者に外部からの情報を受容させる効果がある。
【0032】
シナリオテンプレート21に示された指針に沿って言語化された情報は、言語化情報音声化ステップで音声化する。音声化は、人の肉声が望ましい。特に、視聴者に対する呼びかけは、視聴者の家族や近親者、友人など視聴者の長期記憶に働きかける効果が大きいとされる者により発語されることが効果的である。
【0033】
音声化は、ナレーションソフトを用いた自動音声化手段によってもよい。また、音声化の質を高める、AI機能のある自動音声化手段であってもよい。
【0034】
高齢者に発症することの多い認知症については、夜になると興奮し言動がおかしくなる夜間せん妄想、徘徊といった患者の奇異な言動はもとより、医療や保険の対象となる例が少ないこと等から日常生活の面倒をみる家族や老人保険施設等にとっても深刻な問題となっている。
認知症の中核症状として、一般に物忘れとされる記憶障害、日時、場所、人がわからなくなるといった見当識障害、理解力、判断力の低下、ものごとの実行ができない実行機能障害がある。これらの中核症状は、認知症患者に不安や自尊心の低下、混乱を誘発させる。不安感が強くなった状態から、周辺症状が現れる。周辺症状には、暴力や暴言、介護の拒否、抑うつ状態や無気力状態、妄想、幻覚がある。
【0035】
本発明の実施態様で制作された音声メディアは、視聴者たる認知症患者に聞かせることにより、認知症の中核症状から生じる不安感を緩和することにより、暴力や暴言、介護の拒否、抑うつ状態や無気力状態、妄想、幻覚などの周辺症状が発現することを抑制することができる。
【0036】
〔第2の実施態様〕
第2の実施態様は、メディア化対象者の情報には写真、動画その他の視覚情報を含む、音声メディアの制作方法である。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては説明を省略する。
メディア化対象者の情報に視覚的情報を加え、聴覚のみならず視覚への感覚刺激が加味され、視聴者たる認知症患者により強くメッセージを訴求することができる。
【0037】
〔第3の実施態様〕
第3の実施態様は、言語化された情報の固有名詞を視聴者の話し言葉のアクセントを用いて音声化する、音声メディアの制作方法である。視聴者の話し言葉のアクセントを用いることにより、視聴者に対し音声の選択的聴取や選択的注意を喚起する効果を高め、視聴者たる認知症患者を、より強く惹きつけることができる。
【0038】
〔第4の実施態様〕
第4の実施態様は、言言語化された情報を視聴者の話し言葉の方言を用いて音声化する、音声メディアの制作方法である。視聴者の話し言葉の方言を用いることにより、視聴者に対し音声の選択的聴取や選択的注意を喚起する効果をより高め、視聴者たる認知症患者を、より強く惹きつけることができる。
【0039】
〔第5の実施態様〕
第5の実施態様は、音声メディア制作方法により制作された音声データを記録した記録装置である。音声データを記録した記録装置には、音声メディア制作方法により制作された音声データが固定化されることを含む。
音声データの固定化は、電子化されたデジタル情報として固定してもアナログ情報として固定してもよい。固定された情報は、音声として再生される態様で固定される必要がある。電子化されたデジタル情報として固定する媒体としては、DVD、CD、UBCメモリー等がある。アナログ情報として固定する媒体としては、テープ、レコード等がある。
この記録装置により、時間や場所を問わずに音声メディア制作方法により制作された音声データを利用することができる。
【0040】
〔第6の実施態様〕
第6の実施態様は、音声メディア制作方法により制作された音声データを記録した認知症の周辺症状緩和用記録装置である。
視聴者たる認知症患者は、自宅外の施設で介護を受ける場合もあるし、自宅で介護を受ける場合もある。また、認知症患者が不安による周辺症状を発症する時間や場所はいろいろである。
この周辺症状緩和用記録装置により、時間や場所を問わずに音声メディア制作方法により制作された音声データを利用することができる。
【0041】
〔第7の実施態様〕
第やの実施態様は、音声メディア制作方法により制作された音声データを利用者に繰り返し視聴させることを特徴とする認知症の周辺症状緩和方法である。
繰り返しの刺激は脳を活性化する。また、繰り返し刺激により、記憶の多重貯蔵モデルでいう、外部情報を感覚刺激として受け取り、知覚、認知、認識へと進む、認知処理のプロセスを、認知症患者においても進展させる方向へと誘導することができる。
【符号の説明】
【0042】
11 音声メディアの内容についての質問表、12 音声メディアの内容に取り込む画像データとエピソードの質問表、13 音声メディアの完成形の雰囲気の質問表、14 音声メディアの完成形の語調の質問表、15 音声メディアの完成形の発話の語勢の質問表、21 言語化された情報であるシナリオのテンプレート