(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005241
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】光触媒及びその製造方法、並びに、構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/24 20060101AFI20250108BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20250108BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250108BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20250108BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20250108BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J37/04 101
C02F1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105353
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江前 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】陳 怡菁
【テーマコード(参考)】
4D038
4G169
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB03
4D038BA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
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4G169BA48A
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4G169CA05
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4G169EC01X
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4G169FB29
4G169FB64
4G169FC03
4G169FC05
4G169FC07
4G169HA01
4G169HB10
4G169HD20
4G169HE05
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】g-C3N4を含み優れた触媒性能を示す光触媒を提供すること。
【解決手段】光触媒は、多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素と、前記グラファイト状窒化炭素に担持された金属と、を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素と、前記グラファイト状窒化炭素に担持された金属と、を含有する光触媒。
【請求項2】
前記グラファイト状窒化炭素の比表面積が、8m2/g以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記グラファイト状窒化炭素の全細孔容積が、4.00×10-2cm3/g(STP)以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項4】
前記グラファイト状窒化炭素の平均細孔直径が、16nm以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属が、銀を含む請求項1に記載の光触媒。
【請求項6】
基材と、前記基材に付着する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の光触媒と、を有する構造体。
【請求項7】
前記基材が、紙基材である請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
グラファイト状窒化炭素の原料と発泡剤との混合物を加熱して多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素を形成することと、
前記グラファイト状窒化炭素に金属を担持することと、を含む光触媒の製造方法。
【請求項9】
前記原料が、メラミン、グアニン塩酸塩及び尿素からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項8に記載の光触媒の製造方法。
【請求項10】
前記発泡剤が、熱分解温度の異なる少なくとも2種の発泡剤を含む請求項8に記載の光触媒の製造方法。
【請求項11】
前記発泡剤のうちの最も熱分解温度の高い第1の発泡剤についての熱分解温度と、前記発泡剤のうちの最も熱分解温度の低い第2の発泡剤についての熱分解温度との差が、50℃以上である請求項10に記載の光触媒の製造方法。
【請求項12】
前記発泡剤が、塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの少なくとも一方を含む請求項8に記載の光触媒の製造方法。
【請求項13】
基材に請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の光触媒を付着させることと、
前記光触媒が付着した前記基材を加圧することと、を含む構造体の製造方法。
【請求項14】
前記光触媒と結着剤とを含む分散液を前記基材に接触させることで、前記基材に前記光触媒を付着させる請求項13に記載の構造体の製造方法。
【請求項15】
前記結着剤が、カルボキシメチルセルロースを含む請求項14に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光触媒及びその製造方法、並びに、構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト状窒化炭素(以下、「g-C3N4」と称することがある。)は、その高い吸着容量及び光触媒として適度なバンドギャップ(2.75eV)をもつなどの良好な半導体特性において、近年注目を集めている材料である。また、優れた熱安定性と耐酸性・耐アルカリ性により、光触媒分野において多くの科学的関心を集めている(例えば、非特許文献1参照)。
さらに重要なことは、g-C3N4は、一方では、表面に多くのπ-π共役を持つπ共役物質であり、分子を吸着することができる。他方では、g-C3N4は、ラメラ構造をもつ性質上、結晶化しやすく、電荷移動を促進することができることである。さらに、他の無機π共役系材料とは異なり、g-C3N4は一種のソフトポリマーであり、よい担体となりうる(例えば、非特許文献2参照)。
g-C3N4の触媒活性を向上すべく、g-C3N4の粉末を、金属イオンを含む水溶液中で処理することを特徴とする、層間に金属イオンが挿入されたg-C3N4の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Guohui Dong Lizhi Zhang. Porous structure dependent photoreactivity of graphitic carbon nitride under visible light. Journal of materials chemistry. 2012, vol. 22, no. 3, p. 1160-1166.
【非特許文献2】Devthade Vidyasagar Sachin. Extended π-conjugative n-p type homostructural graphitic carbon nitride for photodegradation and charge-storage applications. Scientific reports. 2019, vol. 9, 7186.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
g-C3N4は光生成電子正孔対の再結合速度が大きく、狭い範囲の可視光吸収に限られているため、それによる低い光触媒活性が課題となっている。
可視光に感度を持つ光触媒であるg-C3N4は、太陽光を効率的に利用するための吸収波長の拡大や、室内光での反応促進などに大きな関心を持たれている。しかし、反応速度または利用利便性には課題が残されている。
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一態様は、g-C3N4を含み優れた触媒性能を示す光触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本開示の他の態様は、この光触媒を用いる構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素と、前記グラファイト状窒化炭素に担持された金属と、を含有する光触媒。
<2> 前記グラファイト状窒化炭素の比表面積が、8m2/g以上である<1>に記載の光触媒。
<3> 前記グラファイト状窒化炭素の全細孔容積が、4.00×10-2cm3/g(STP)以上である<1>又は<2>に記載の光触媒。
<4> 前記グラファイト状窒化炭素の平均細孔直径が、16nm以上である<1>~<3>のいずれか1項に記載の光触媒。
<5> 前記金属が、銀を含む<1>~<4>のいずれか1項に記載の光触媒。
<6> 基材と、前記基材に付着する<1>~<5>のいずれか1項に記載の光触媒と、を有する構造体。
<7> 前記基材が、紙基材である<6>に記載の構造体。
<8> グラファイト状窒化炭素の原料と発泡剤との混合物を加熱して多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素を形成することと、
前記グラファイト状窒化炭素に金属を担持することと、を含む光触媒の製造方法。
<9> 前記原料が、メラミン、グアニン塩酸塩及び尿素からなる群より選択される少なくとも1種を含む<8>に記載の光触媒の製造方法。
<10> 前記発泡剤が、熱分解温度の異なる少なくとも2種の発泡剤を含む<8>又は<9>に記載の光触媒の製造方法。
<11> 前記発泡剤のうちの最も熱分解温度の高い第1の発泡剤についての熱分解温度と、前記発泡剤のうちの最も熱分解温度の低い第2の発泡剤についての熱分解温度との差が、50℃以上である<10>に記載の光触媒の製造方法。
<12> 前記発泡剤が、塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの少なくとも一方を含む<8>~<11>のいずれか1項に記載の光触媒の製造方法。
<13> 基材に<1>~<5>のいずれか1項に記載の光触媒を付着させることと、
前記光触媒が付着した前記基材を加圧することと、を含む構造体の製造方法。
<14> 前記光触媒と結着剤とを含む分散液を前記基材に接触させることで、前記基材に前記光触媒を付着させる<13>に記載の構造体の製造方法。
<15> 前記結着剤が、カルボキシメチルセルロースを含む<14>に記載の構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、g-C3N4を含み優れた触媒性能を示す光触媒及びその製造方法が提供される。また、本開示の他の態様によれば、この光触媒を用いる構造体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】染料脱色試験に用いられる評価装置の概要を示す図である。
【
図2】メラミン加熱前後のXRDパターンの比較結果を示す図である。
【
図3】銀担持前後のXRDパターンの比較結果を示す図である。
【
図4】発泡剤添加有無及び焼成温度の違いによるXRDパターンの比較結果を示す図である。
【
図5】硝酸銀添加量の違いによるXRDパターンの比較結果を示す図である。
【
図6】実施例1において、発泡剤を用いずに、600℃まで昇温して得られたバルク状のg-C
3N
4についてのSEM写真を示す図である。
【
図7】実施例1において、発泡剤を用いて、メラミンのみを600℃まで加熱して得られたバルク状のg-C
3N
4についてのSEM写真を示す図である。
【
図8】ローダミンB脱色試験前の構造体1表面のSEM画像を示す図である。
【
図9】ローダミンB脱色試験後の構造体1表面のSEM画像を示す図である。
【
図10】実施例2で得られた構造体1によるローダミンB(RhB)溶液の脱色実験の結果を示す図である。
【
図11】実施例2で得られた構造体1を繰り返し使用した際の構造体1の安定性の評価結果を示す図である。
【
図12】実施例2で得られた構造体1を繰り返し使用した際の構造体1のXRDパターンを示す図である。
【
図13】実施例2で得られた構造体1による硫酸ナイルブルー溶液の脱色実験の結果を示す図である。
【
図14】実施例2で得られた構造体1によるコンゴーレッド溶液の脱色実験の結果を示す図である。
【
図15】実施例2で得られた構造体1による黒液脱色実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0011】
<光触媒及びその製造方法>
本開示の光触媒は、多孔質構造を有するグラファイト状窒化炭素と、前記グラファイト状窒化炭素に担持された金属と、を含有する。
本開示の光触媒は、優れた触媒性能を示す。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
本開示の光触媒に用いられるg-C3N4は多孔質構造を有するため、従来のg-C3N4と比較して、g-C3N4粒子の比表面積が大きいと考えられる。比表面積の大きいg-C3N4を用いることで、従来に比較して多くの金属をg-C3N4に担持させることが可能になる。g-C3N4に担持された金属はg-C3N4の触媒活性を向上させる助触媒として作用すると考えられる。多孔質構造を有するg-C3N4は助触媒として作用する金属を多く担持するため、本開示の光触媒は、優れた触媒性能を示すと推察される。
【0012】
本開示で用いられるg-C3N4は、多孔質構造を有するものであれば特に限定されない。g-C3N4が多孔質構造を有するか否かは、g-C3N4の表面を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察するか、後述のBET法で比表面積を測定することにより判断できる。g-C3N4の表面が不均一であると、g-C3N4の内部に多孔質構造が形成されていると考えられる。
【0013】
多孔質構造を有するg-C3N4はいかなる方法により製造されたものであってもよい。多孔質構造を有するg-C3N4は、例えば、g-C3N4の原料と発泡剤とを含む混合物を加熱して得られたものであってもよい。多孔質構造を有するg-C3N4の製造方法については、後述する。
【0014】
g-C3N4の比表面積は、8m2/g以上であることが好ましく、10m2/g以上であることがより好ましく、12m2/g以上であることがさらに好ましい。g-C3N4の比表面積が8m2/g以上であれば、多くの金属をg-C3N4に担持させることが可能となり、その結果として本開示の光触媒の触媒活性がより向上する傾向にある。
g-C3N4の比表面積は、25m2/g以下であってもよい。
g-C3N4の比表面積は、8m2/g~25m2/gであることが好ましい。
本開示において、g-C3N4の比表面積は、窒素を用いてBET(Brunauer-Emmett-Teller)法により算出した値をいう。
【0015】
g-C3N4の全細孔容積は、4.00×10-2cm3/g(STP)以上であることが好ましく、5.00×10-2cm3/g(STP)以上であることがより好ましく、6.00×10-2cm3/g(STP)以上であることがさらに好ましい。g-C3N4の全細孔容積が4.00×10-2cm3/g(STP)以上であれば、多くの金属をg-C3N4の表面に担持させることが可能となり、その結果として本開示の光触媒の触媒活性がより向上する傾向にある。
g-C3N4の全細孔容積は、1.50×10-1cm3/g(STP)以下であってもよい。
g-C3N4の全細孔容積は、4.00×10-2cm3/g(STP)~1.50×10-1cm3/g(STP)であることが好ましい。
本開示において、g-C3N4の全細孔容積は、BET法の細孔容積分布図における積算細孔容積(cm3/g)として算出した値をいう。なお、本開示において「cm3/g(STP)」とは、標準状態(0℃、1atm)換算の単位重量あたりの吸着量をいう。
【0016】
g-C3N4の平均細孔直径は、16nm以上であることが好ましく、17nm以上であることがより好ましく、18nm以上であることがさらに好ましい。g-C3N4の全細孔容積が16nm以上であれば、多くの金属をg-C3N4の表面に担持させることが可能となり、その結果として本開示の光触媒の触媒活性がより向上する傾向にある。
g-C3N4の平均細孔直径は、28nm以下であってもよい。
g-C3N4の平均細孔直径は、16nm~28nmであることが好ましい。
本開示において、g-C3N4の平均細孔直径は、比表面積と全細孔容積とに基づいて算出した値をいう。
【0017】
g-C3N4の体積平均粒子径は、基材への定着量を増大させる観点から1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。g-C3N4の体積平均粒子径は、触媒反応効率向上の観点から30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。g-C3N4の体積平均粒子径は、1μm~30μmであることが好ましい。
【0018】
g-C3N4の空隙率は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましい。g-C3N4の空隙率が50%以上であれば、多くの金属をg-C3N4の表面に担持させることが可能となり、その結果として本開示の光触媒の触媒活性がより向上する傾向にある。
g-C3N4の空隙率は、ある態様では80%以下であってもよいし、他の態様では50%以下であってもよい。
g-C3N4の空隙率は、50%~80%が好ましい。
本開示において、g-C3N4の空隙率は、g-C3N4の質量(1g)を密度(g/m3)で除してg-C3N4の体積を求め、g-C3N4の体積とBET法で測定した全細孔容積(cm3/g(STP))との比率から算出した値をいう。
【0019】
g-C3N4に担持される金属は、g-C3N4の助触媒として機能するものであれば特に限定されるものではない。金属は、1種単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
担持金属の具体例としては、銀、銅、金、スズ、鉛、亜鉛、インジウム等が挙げられる。これらの中でも、光触媒の触媒活性をより向上させる観点から、銀を含むことが好ましい。
g-C3N4にこれら金属が担持されているか否かは、X線回折装置を用いて測定されたXRD(X-ray diffraction)パターンに金属由来のピークが存在しているか否かにより判断される。
XRDパターンの測定は、Cu-Kα線を用い、加速電圧40kV、電流40mAの条件で、2θ角が2°~90°の範囲で0.01°刻みで行う。
【0020】
本開示の光触媒は、いかなる工程を経て製造されたものであってもよい。本開示の光触媒は、例えば、g-C3N4の原料と発泡剤との混合物を加熱して多孔質構造を有するg-C3N4を形成することと、g-C3N4に金属を担持することと、を経て製造されてもよい。つまり、本開示の光触媒の製造方法は、g-C3N4の原料と発泡剤との混合物を加熱して多孔質構造を有するg-C3N4を形成することと、g-C3N4に金属を担持させることと、を含むものであってもよい。
【0021】
本開示の光触媒の製造方法で用いられるg-C3N4の原料としては、メラミン、グアニン塩酸塩、尿素、その他の窒素化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。g-C3N4の原料は、メラミン、グアニン塩酸塩及び尿素からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、窒素含有率の観点から、メラミンがより好ましい。g-C3N4の原料は、1種単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
【0022】
本開示の光触媒の製造方法で用いられる発泡剤は特に限定されるものではなく、加熱により気体を発生させる機能を有する物質であれば特に限定されない。発泡剤は、1種単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
発泡剤の熱分解温度は、g-C3N4へ多孔質構造を容易に導入可能となる観点から、150℃~400℃が好ましく、160℃~350℃がより好ましく、170℃~340℃がさらに好ましい。
なお、発泡剤の熱分解温度は、熱重量分析により測定された値をいう。
【0023】
発泡剤としては、g-C3N4へ多孔質構造をより容易に導入可能となる観点から、熱分解温度の異なる少なくとも2種の発泡剤を含むことが好ましい。熱分解温度の異なる少なくとも2種の発泡剤が用いられる場合、発泡剤のうちの最も熱分解温度の高い第1の発泡剤についての熱分解温度と、発泡剤のうちの最も熱分解温度の低い第2の発泡剤についての熱分解温度との差は、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。発泡剤のうちの最も熱分解温度の高い第1の発泡剤についての熱分解温度と、発泡剤のうちの最も熱分解温度の低い第2の発泡剤についての熱分解温度との差は、200℃以下であってもよい。発泡剤のうちの最も熱分解温度の高い第1の発泡剤についての熱分解温度と、発泡剤のうちの最も熱分解温度の低い第2の発泡剤についての熱分解温度との差は、50℃~200℃が好ましい。
【0024】
発泡剤の具体例としては、塩化アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの少なくとも一方が好ましく、塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの併用がより好ましい。
塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムを併用する場合、塩化アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムの質量基準の比率は、1:0.2~1:0.7が好ましく、1:0.25~1:0.6がより好ましく、1:0.3~1:0.5がさらに好ましい。
【0025】
本開示の光触媒の製造方法において、g-C3N4の原料と発泡剤との混合物に占める、g-C3N4の原料の質量基準の比率は、20質量%~60質量%が好ましく、30質量%~50質量%がより好ましく、35質量%~45質量%がさらに好ましい。
混合物は、必要に応じてg-C3N4の原料及び発泡剤以外のその他の成分を含有してもよい。
【0026】
混合物の加熱条件は特に限定されるものではない。加熱温度としては、500℃~650℃が好ましく、550℃~650℃がより好ましく、600℃~650℃がさらに好ましい。また、昇温速度としては、1℃/分~20℃/分が好ましく、2℃/分~15℃/分がより好ましく、5℃/分~10℃/分がさらに好ましい。
混合物の加熱に使用される加熱装置としては、電気管状炉、マッフル炉等が挙げられる。
【0027】
混合物を加熱することで生じた多孔質構造を有するg-C3N4を自然冷却後、必要に応じて粉砕して平均粒径を所望の範囲に調整してもよい。g-C3N4は、乳鉢と乳棒とを用いて粉砕してもよいし、遊星型ミル等を用いて粉砕してもよい。
【0028】
多孔質構造を有するg-C3N4に金属を担持する方法は特に限定されるものではない。例えば、多孔質構造を有するg-C3N4を金属塩水溶液に投入し、必要に応じて撹拌処理を行うことで、多孔質構造を有するg-C3N4を含む分散液が調製される。これにより、多孔質構造を有するg-C3N4に金属を担持することができる。
なお、光触媒中で、金属イオンは還元された金属の状態でg-C3N4に担持されていると考えられる。
金属塩水溶液に含まれる金属塩の濃度は、担持量増加の観点から0.001mol/L以上が好ましく、0.003mol/L以上がより好ましく、0.005mol/L以上さらに好ましい。金属塩水溶液に含まれる金属塩の濃度は、廃棄物軽減の観点から0.1mol/L以下が好ましく、0.09mol/L以下がより好ましく、0.08mol/L以下さらに好ましい。金属塩水溶液に含まれる金属塩の濃度は、0.001mol/L~0.1mol/Lが好ましい。
【0029】
多孔質構造を有するg-C3N4を含む分散液に対して、メカニカルスターラー等を用いて撹拌処理してもよいし、超音波分散機等を用いて分散処理してもよい。
撹拌処理又は分散処理を行う際の温度条件としては、20℃~60℃の範囲であってもよい。
【0030】
多孔質構造を有するg-C3N4を含む分散液に対してろ過、遠心分離、デカンテーション等の方法を適用して固形物を分散液から分離し、乾燥することで、本開示の光触媒を得ることができる。
【0031】
<構造体及びその製造方法>
本開示の構造体は、基材と、前記基材に付着する本開示の光触媒と、を有する。
本開示の構造体は、本開示の光触媒を有するため、触媒活性に優れる。また、本開示の構造体では、本開示の光触媒が基材に付着した状態とされるため、粉体状とされる本開示の光触媒の取り扱い性を向上することができる。
【0032】
本開示の構造体に用いられる基材としては、例えば、紙基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の樹脂が表面にラミネートされた紙基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の樹脂基材、アルミニウム、亜鉛、銅等の金属板、上述した金属がラミネートされ又は蒸着された紙基材、及び上述した金属がラミネートされ又は蒸着された樹脂基材などの平板状基材が挙げられる。紙基材としては、ろ紙、和紙、上質紙、パルプシート等が挙げられる。
また、ガラスビーズ、鉄球、銅球等の金属球などの硬質粒状物を基材として用いてもよい。
【0033】
本開示の構造体は、いかなる工程を経て製造されたものであってもよい。本開示の構造体は、例えば、基材に本開示の光触媒を付着させることを経て製造されてもよい。
基材に本開示の光触媒を付着させる方法としては、例えば、接着剤を用いて基材表面に光触媒を付着させる方法が挙げられる。この場合、基材に光触媒を固定するために、基材を加圧してもよい。基材を加圧する場合、必要に応じて基材を加熱してもよい。基材の加圧は、加熱プレス機、重しを置く等を用いて行うことができる。基材の加圧条件は、基材の物性等に応じて適宜設定される。
【0034】
基材としてろ紙が用いられる場合、光触媒と結着剤とを含む分散液を基材であるろ紙に接触させることで、基材に光触媒を付着させてもよい。分散液を基材であるろ紙に接触させる方法としては、分散液をろ紙でろ過する方法が挙げられる。
分散剤に含まれる結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、主骨格中に炭素炭素二重結合を有さず生分解性のあるカルボキシメチルセルロースが好ましい
この分散液をろ紙でろ過することでろ紙に光触媒を付着させることができる。次いで、ろ紙を加圧して光触媒をろ紙に固定することで本開示の構造体を得ることができる。
ろ紙を加圧する際の加圧条件としては、0.5kg/cm2~10kg/cm2が好ましく、1.0kg/cm2~5.0kg/cm2がより好ましく、2.0kg/cm2~4.0kg/cm2がさらに好ましい。
ろ紙を加圧する際の温度条件としては、熱によるろ紙の劣化を抑制するため、35℃~100℃の範囲内であることが好ましい。
【実施例0035】
以下に実施例を挙げて、本開示についてさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0036】
本実施例で使用された装置および器具は、以下の通りである。
【0037】
【0038】
本実施例で使用された試薬及び材料は、以下の通りである。
【0039】
【0040】
<実施例1>
-g-C3N4の製造-
バルク状のg-C3N4の製造方法(製造条件)は、下記文献に記載の内容を部分的に変更し、設定した。
・An Lee, Jinseok. Recyclable and dual active catalyst of copper nanocluster-bound graphitic carbon nitride for the photo-induced synthesis of arylsulfones. Molecular catalysis. 2022, vol. 533, p. 112787.
・Qianyi Guo, Yuanhao Zhang. Advanced functional materials: 3D Foam Strutted Graphene Carbon Nitride with Highly Stable Optoelectronic Properties. 2017, vol. 27, no. 42, p. 1703711.
・Zhou, Pin, Meng, Xianglong, Li, Lu, Sun, Tonghua. Journal of Alloys and Compounds: P, S Co-doped g-C3N4 isotype heterojunction composites for high-efficiency photocatalytic H2 evolution. 2020, vol. 827, p. 154259.
・Jiang, Longbo, Yuan, Xingzhong, Zeng, Guangming, Chen, Xiaohong, Wu, Zhibin, Liang, Jie, Zhang, Jin, Wang, Hui, Wang, Hou. ACS sustainable chemistry & engineering: Phosphorus- and Sulfur-Codoped g C3N4: Facile Preparation, Mechanism Insight, and Application as Efficient Photocatalyst for Tetracycline and Methyl Orange Degradation under Visible Light Irradiation. 2017, vol. 5, no. 7, p. 5831-5841.
【0041】
具体的には、原料のメラミン1gと、発泡剤として塩化アンモニウム1gとりん酸二水素アンモニウム0.4gとを乳鉢で混合したものを、アルミホイルで蓋をした石英管(セラミック炉心管)内で、管状電気炉を用いて23℃の室温から600℃又は650℃まで昇温し、4時間加熱することによりバルク状のg-C3N4を製造した。昇温速度は1分間に10℃とした。
【0042】
-銀イオン担持加工-
銀イオン担持加工は、下記文献に記載の方法を参考した。
・Kim Minh Tri, Nguyen Le. Ag-doped graphitic carbon nitride photocatalyst with remarkably enhanced photocatalytic activity towards antibiotic in hospital wastewater under solar light. Journal of industrial and engineering chemistry [Seoul, Korea]. 2019, vol. 80, p. 597-605.
・Kostejn Starukh, Halyna. Graphitic Carbon Nitride as a Platform for the Synthesis of Silver Nanoclusters. Nanoscale research letters. 2021, vol. 16, no. 1, p. 166.
【0043】
具体的には、600℃で焼成して得られたバルク状のg-C3N4を自然冷却後、1gのバルク状のg-C3N4に対して0.07M硝酸銀水溶液50mlを加え、超音波機器分散機を使って、出力400Wで1分間処理し、マグネットスターラー(撹拌子)により3時間暗所に置いて、400rpmで撹拌してg-C3N4への銀イオン担持加工を行った。このようにして、銀を担持するg-C3N4(Ag/GCN1)を含む分散液を得た。
【0044】
<実施例2>
-紙基板積層加工-
Ag/GCN1を含む分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)を2g加え、さらに1時間60℃で加熱撹拌し、自然冷却した。次いで、吸引ろ過により、ろ紙にAg/GCN1を付着させた。ろ紙の内部までAg/GCN1を浸透させ、乾燥時におけるシワの生成を防ぐため、加熱プレス機にて1時間加熱加圧処理し、乾燥プレートに挟んだままオーブンに37℃で乾燥させることにより構造体1を得た。
構造体1の製造には、熊本吉晃 石川雅隆. 抄紙法を用いた機能性発熱シートの開発. 紙パ技協誌. 2006, vol. 60, no. 10, p. 1492-1497.を参照した。
【0045】
<評価方法>
(光触媒及び構造体の構造分析)
-X線回折(XRD)パターンの測定-
X線回折装置(D8 ADVANCE/TSM、Bruker AXS、USA)を用いて試料のX線回折(XRD)パターンを測定した。XRDパターンは、Cu-Kα線を用い、加速電圧40kV、電流40mAで得た。すべてのスキャンは、2θ角が2°~90°の範囲で、0.01°刻みで行われた。
【0046】
-比表面積・全細孔容積・平均細孔直径の測定-
試料の比表面積は、窒素吸着法(Brunauer-Emmett-Teller 、BET)法にて算出した。
試料の比表面積、全細孔容積及び平均細孔直径は、Beckman Coulterの比表面積・細孔分布測定装置(SA-3100)により求めた。
【0047】
-電子顕微鏡撮影-
試料の電子顕微鏡写真は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(SU8020、日立製作所)を用いて撮影した。観察前に、スパッタで白金(Pt)を試料にコーティングした。
【0048】
-吸収スペクトル及び吸光度測定-
試料の吸収スペクトル及び吸光度は、島津製作所製の可視紫外近赤外分光光度計(UV-3100PC)を用いて測定した。
【0049】
(染料脱色試験および評価方法)
g-C3N4の伝導帯のエネルギー準位は+1.25Vであり、酸素を還元するのに十分な低さである。例えば有機染料の一種であるローダミンBの酸化還元電位である+0.95Vより低く、優位であるため、正孔による酸化分解が理論的に可能であることが示されている。正孔が有機基質と結合すると、プロトンが解離して有機ラジカルが生成する。この有機ラジカルは酸素の存在下でラジカル連鎖反応を起こし、様々な有機分子を酸化分解することができると考えられる(Lam Le, Thi Mai Oanh. Enhancement of Rhodamine B Degradation by Ag Nanoclusters-Loaded g-C3N4 Nanosheets. Polymers. 2018, vol. 10, no. 6, p. 633.)。
【0050】
光触媒又は構造体の可視光における有機色素に対する分解能を、ローダミンB(RhB)溶液、ナイルブルー(NB)溶液及びコンゴーレッド(CgR)溶液を用いた脱色実験により評価した。各有機色素の濃度は、1ppmとした。
光触媒の試験の場合、10mgの試料を有機色素溶液30mLを入れた試験管に投入し、遮光ケースの中で連続的に可視光を照射した。
構造体の試験の場合、20mm×20mmのサイズの構造体を、有機色素溶液30mLを入れたビーカーの底に水平に置き、構造体が真上から全面に光を受けられるようにビーカーを遮光ケースの中に設置した状態で連続的に光を照射した。ビーカーの開口部は、キッチンラップで覆った。
評価装置の概要を
図1に示す。
図1では、構造体を評価する場合の概要について示す。
図1において「GCNシート」とは、構造体を意味する。
また、照射する波長領域を制限するため、光源には白色、赤色、黄色、緑色、青色又は紫色の6種類のLEDを使用した。
白色LEDの波長は、380~780nmに均等に分布しており、赤色LEDの波長域は、610~780nmであり、黄色LEDの波長域は、570~590nmであり、緑色LEDの波長域は、500~570nmであり、青色LEDの波長域は、460~500nmであり、紫色LEDの波長域は、380~430nmである。
【0051】
-試料形態別脱色率-
RhB溶液に投入された粉体状の光触媒を撹拌子で回転分散した状態若しくは静置した状態、又は、RhB溶液に配置された構造体を静置した状態で、90分光照射した。その後、各RhB溶液について10,000rpmで10分間遠心分離して、光触媒を各RhB溶液から取り出した。構造体は、ピンセットで挟んで取り出した。紫外可視分光光度計で各RhB溶液の吸光度(Abs)を測定し、RhB溶液の初期吸光度(C0)と光照射により脱色したRhB溶液の吸光度(Ce)とを用い、脱色率を下記式(1)に基づいて算出した。
脱色率(%)=(C0-Ce)×100 (1)
【0052】
-分解物分析-
脱色実験後の染料溶液の吸光度低下が、色素の分解によるものであることを確認するため、脱色後の成分をガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)により分析した。
GC分析用の試料は、150分光照射後目視で無色透明となった溶液とした。GC-MS分析は、RTX-5MS(0m x 0.25mm x 0.25μm)キャピラリーカラムを装着した電子イオン化(EI)モードの島津製作所のGC-MS QP 2010 Plusで実施した。キャリアガスはヘリウムを使用し、流速は0.7mLmin-1とした。GCのオーブン温度は、「Kong Peifu Abe Junichi Peter. Preparation of Antimicrobial β-cyclodextrin Microcapsules containing a Mixture of Three Essential Oils as an Eco-friendly Additive for Active Food Packaging Paper. 紙パ技協誌. 2022, vol. 76, no. 7, p. 656-662.」の記載に若干の修正を加えてプログラムした。50℃で2分間保持した後、10℃min-1の速度で150℃に上昇させて1分間保持、8℃min-1で250℃に上昇して1分間保持、最後に15℃min-1で300℃に上昇して5分間維持した。インジェクター温度は300℃、キャリアヘリウムガスの流量は1.5mLmin-1で、分割比は10[thin space(1/6-em)]:[thin space(1/6-em)]1であった。
質量分析計は70eVの電子衝撃(EI)モードで動作させ、質量スキャン範囲が50-650 m/zのスキャンモードを使用してマススペクトルを取得した。イオン源および界面の温度は、それぞれ250℃および280℃とした。溶媒遅延は5分に設定した。
同定は、質量スペクトルをNational Institute Standard and Technology version-05 and 05s (NIST 05 and NIST 05s) library dataと比較することにより行った。
【0053】
-黒液分解実験および評価方法-
実施例で使用した黒液は、サトウキビの茎を搾汁して砂糖を抽出したあとの搾りかすであるバガス(農業廃棄物として得られる)を8%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、高圧容器を使って130℃で5時間加熱(蒸解)し、パルプ化したあとの残渣廃液を使用した。
本来の製紙工程において産出した黒液が光を透過できず、光触媒による反応が起きない可能性高いため、原濃度黒液を蒸留水で50倍に希釈し、分解実験の試料とした。
実施例2の構造体1の可視光におけるフェノール系高分子に対する分解能を、製紙工程で産出した黒液試料を用いた分解実験により評価した。0.3mgの試料を希釈した黒液30mLを入れた試験管に構造体1を入れ、継続的に光を当てた。照射する波長を特定するため、光源には、赤、緑、青の3種類のLEDを使用した。
反応液を一定時間ごとに抜き取り、紫外可視分光光度計で吸光度の変化を測定した。通常黒液主成分となるリグニンの吸光度が205nm~280nmにピークを示すことが多いため(原口隆英ほか. “リグニン”. 木材の化学. 文永堂, 1985, p.126-129, [木材の科学, 3].)、UVスペクトルの測定範囲は190nm~300nmとした。
【0054】
-再利用性-
g-C3N4の再利用性を評価するために、全く同じサンプルで分解実験を5回繰り返した。本実験では、実施例2の構造体1を使用した。
また、使用後は24時間、一定の環境下で乾燥させ、重量を測定した。なお、乾燥環境をJIS P 8111:1998に従い、23℃±1℃、(50±2)% r.h.とした。
再利用性を以下の式(2)により算出した。
再利用性(%)=n回目脱色率/1回目脱色率 × 100…(2)
【0055】
<評価結果>
(X線回折(XRD)パターンによる結晶構造解析)
図2~
図5に、X線回折(XRD)パターンの測定結果を示す。
図2は、メラミン加熱前後のXRDパターンの比較結果を示す。
図2では、メラミンのXRDパターン及びg-C
3N
4のXRDパターンが併記されている。
図3は、銀担持前後のXRDパターンの比較結果を示す。
図3では、焼成して得られたバルク状のg-C
3N
4(GCN)のXRDパターン及びバルク状のg-C
3N
4に銀を担持したもの(Ag/GCN、実施例1のAg/GCN1に該当)のXRDパターンが併記されている。
図3では、g-C
3N
4の27.4°のピークほか、44.5°および57.3°に銀のピークを示した。
図4は、発泡剤添加有無及び焼成温度の違いによるXRDパターンの比較結果を示す。
図4では、実施例1において、発泡剤を用いず、メラミンのみを600℃(Melamine 600℃)又は650℃(Melamine 650℃)まで加熱して得られたg-C
3N
4のXRDパターン、及び、発泡剤を用い、加熱温度を600℃(Melamine(+FA)600℃)又は650℃(Melamine(+FA)650℃)まで加熱して得られたg-C
3N
4のXRDパターンが併記されている。すべての試料が同等の回折パターンを示しており、一般的なg-C
3N
4六方晶相と一致している。27.4°付近の強いピークは、黒鉛材料の(002)面に相当する。
図5は、硝酸銀添加量の違いによるXRDパターンの比較結果を示す。
図5では、実施例1において、バルク状のg-C
3N
4に対して0.005M硝酸銀水溶液50mlを加えて得られた銀を担持するg-C
3N
4(Ag/GCN2)を用いた以外は実施例2と同様にして得られた構造体2(0.005M AgNO
3/paper)、及び、実施例1において、バルク状のg-C
3N
4に対して0.007M硝酸銀水溶液50mlを加えて得られた銀を担持するg-C
3N
4(Ag/GCN3)を用いた以外は実施例2と同様にして得られた構造体3(0.007M AgNO
3/paper)が併記されている。
図5ではg-C
3N
4のピークが検出されなかったが、銀のピークと合わせて20.8°にセルロースのピークを検出した。
【0056】
(窒素吸着法(BET法)による比表面積等の測定)
表3に発泡剤添加の有無による、比表面積、平均細孔直径、全細孔容積の影響をまとめた。表3において、原料が「メラミン」と表記された行は、実施例1において、発泡剤を用いず、メラミンのみを600℃まで加熱して得られたg-C3N4についての値を示す。また、表3において、原料が「メラミン+NH4Cl」と表記された行は、実施例1において、発泡剤として塩化アンモニウムのみを0.4g用い、600℃まで加熱して得られたg-C3N4についての値を示す。また、表3において、原料が「メラミン+NH4H2PO4」と表記された行は、実施例1において、発泡剤としてりん酸二水素アンモニウムのみを0.08g用い、600℃まで加熱して得られたg-C3N4についての値を示す。また、表3において「メラミン+NH4Cl+NH4H2PO4」と表記された行は、実施例1で得られたバルク状のg-C3N4についての値を示す。
「メラミン+NH4Cl+NH4H2PO4」の比表面積は、「メラミン」の6.15m2/gから20.9m2/gになり、約3倍に増加した。細孔の増加に起因するものと考えられる。
細孔は発泡剤として添加した塩化アンモニウムとりん酸二水素アンモニウムを加熱した際に、式(3)及び式(4)が示すようにアンモニアガスが発生したためと考えられる。
NH4Cl(s)⇔NH3(g)+HCl(g)…(3)
NH4H2PO4(s)⇔NH3(g)+H3PO4(g)…(4)
りん酸二水素アンモニウムの熱分解温度は170℃であり、塩化アンモニウムの熱分解温度は335℃であり、発泡剤が温度の異なる二段階で発泡することから、発泡による比表面積がより増大したと考えられる。
比表面積の増加による反応物および生成物の吸着量の増加は、光触媒活性を増加させる。
【0057】
【0058】
(電子顕微鏡(SEM)観察)
g-C
3N
4の形態変化を確認するために、バルク状のg-C
3N
4及び構造体の表面についてSEM観察を行った。
実施例1において、発泡剤を用いずに、600℃まで昇温して得られたバルク状のg-C
3N
4についてのSEM写真を
図6に示す。また、実施例1において、発泡剤を用いて、メラミンのみを600℃まで加熱して得られたバルク状のg-C
3N
4についてのSEM写真を
図7に示す。
図6と
図7との対比から、発泡剤を添加して得られたg-C
3N
4は、発泡剤を添加せずに得られたg-C
3N
4よりも表面平滑性が不均一であることがわかる。このことは、g-C
3N
4内部に多孔質構造を形成しているからと考えられ、不規則な細孔と薄いラメラ構造は反応物に対し多くの活性サイトを提供し、比表面積の増加に寄与しているものと推測される。
比表面積の増加は多くの反応物の活性部位を提供し、より良い光触媒作用に寄与する。これらの結果は比表面積の測定の結果と一致した。
また、後述のローダミンB脱色試験前の構造体1表面のSEM画像を
図8に示し、後述のローダミンB脱色試験後の構造体1表面のSEM画像を
図9に示す。
図8及び
図9の画像よりローダミンB脱色実験前後の試料で構造に大きな変化は見られず、構造体についての構造安定性が認められた。
【0059】
(触媒活性)
-ローダミンB脱色実験-
表4に、ローダミンB脱色実験の評価結果を示す。光源として、白色のLEDを用いた。
1ppmローダミンB(RhB)溶液の540nmにおける吸光度は、0.3774であった。
表4において、「粉体(回転)」と記載された箇所は、90分の光照射の際に、光触媒を撹拌子で回転分散したことを示す。「粉体(静置)」と記載された箇所は、90分の光照射の際に、光触媒が静置されていたことを示す。「紙付着(静置)」と記載された箇所は、90分の光照射の際に、構造体が静置されていたことを示す。
表4において、「AgNO3(M)」は、実施例1において使用された硝酸銀水溶液に含まれる硝酸銀濃度を示す。つまり、「粉体(静置)」における「AgNO3(M)」が0.07と記載された行についての結果は、実施例1のAg/GCN1を用いた結果に該当し、「紙付着(静置)」の行についての結果は、実施例2の構造体1を用いた結果に該当する。
構造体とされたg-C3N4は、同比率の銀を担持した粉体のサンプルより、同様な反応時間でも4倍ほどの脱色効率を示した。
【0060】
【0061】
実施例2の構造体1を用い、光源の違いによる脱色率への影響の有無を確認した。得られた結果を表5に示す。表5において「吸光度」は、1ppmローダミンB(RhB)溶液の540nmにおける吸光度からの差分を示す。表5において光源が「白」である場合に吸光度が「-0.3413」であるとは、90分の光照射後での1ppmローダミンB(RhB)溶液の540nmにおける吸光度が0.0361(0.3774-0.3413)であることを意味する。
表5で示しているように、光源の違いによる脱色率に影響を見られなかったため、実施例2の構造体1は可視光全波長域で反応すると考えられる。
【0062】
【0063】
実施例2で得られた構造体1によるローダミンB(RhB)溶液の脱色実験にて、光照射時間が0.3時間、0.5時間、1時間、1.5時間ごとに分解液を分け取り、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定し、初期吸光度に対する脱色したRhB溶液の吸光度として脱色率を算出した。得られた結果を表6及び
図10に示す。なお、蒸留水を参照溶液とし、吸収スペクトルの測定範囲を450nm~620nmとした。
図10は、光照射時間とともに吸光度が低下したことを示す。
分解速度は、式(5)のように、分解されたRhB溶液の脱色率と初期濃度の比として算出した。分解速度が時間とともに上昇していた。それはローダミンBの分解に伴い、溶液がより透明となり、さらに多くの光エネルギーを受けることができたためと考えられる。
分解速度 = 脱色率/ 時間(min)・・・(5)
【0064】
【0065】
-分解生成物の検討-
脱色実験後のローダミンBの吸光度低下が、実際に色素の分解によるものであることを確認するため、GC-MSによるクロマトグラフィー分析を実施した。得られた結果を表7に示す。表7から明らかなように、ローダミンBは283から94までの7種類の分子量に分解されていることが確認された。このことから、染料は環境に無害な最も単純な分子にまで分解されていることが確認された。
これらの生成物は、他の多くの色素分解例で見られるように、CO2やH2Oなどの無機化生成物としてさらに分解されると考えられる。
【0066】
【0067】
-再利用性-
実施例2で得られた構造体1を繰り返し使用した際の構造体1の安定性を評価した。得られた結果を
図11に示す。合わせて、再利用後の構造体1のXRDパターンを
図12に示す。
5回のローダミンB(RhB)溶液の脱色繰り返し実験から、再利用性及び触媒安定性を調査したところ、繰り返し実験後も構造体1によるローダミンB(RhB)溶液の脱色率に大きな変化はなく、高い触媒安定性と再利用性とが示された。
【0068】
さらに、構造体1についての再利用後の重量変化を、表8に示す。
表8の結果から、CMCの添加および加熱加圧が、g-C3N4の紙への定着に影響を与えたと考えられる。
CMCは保水性・レオロジー改良性・蛍光染料のキャリアー性により、従来カラー原料であるインクの粒子の分散や歩留り向上のためのコーティング剤として重要な薬品の一つとされてきた(江前敏晴. 微粒子の分散・凝集を理解するための界面化学の基礎. 色材協会誌. 2013, vol. 86, no. 2, p. 67-73.)。
そこで、CMCのような高分子の添加により、銀を担持するg-C3N4が水の中で分散し、さらに吸引ろ過する際にろ紙の繊維への付着力を増大したと考えられる。(Wang, Qingfeng, Wang, Wen, Zahoor, Tan, Xuesong, Zhuang, Xinshu, Miao, Changlin, Guo, Ying, Chen, Xiaoyan, Yu, Qiang, Yuan, Zhenhong. ACS sustainable chemistry & engineering: Recycling of Black Liquor for Treating Sugarcane Bagasse at Low Temperature to Attain High Ethanol Production without Washing Step. 2020, vol. 8, no. 46, p. 17016-17021.)
【0069】
【0070】
-硫酸ナイルブルー脱色実験-
実施例2の構造体1によるNB溶液の脱色実験にて、光照射時間が0.3時間、0.5時間、1時間、1.5時間ごとに分解液を分け取り、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定した。得られた結果を
図13に示す。
図13は、光照射時間とともに吸光度が減少したことを示す。
【0071】
-分解生成物の検討-
脱色実験後の硫酸ナイルブルーの吸光度低下が、色素の分解によるものであることを確認するため、GC-MSによるクロマトグラフィー分析を実施した。得られた結果を表9に示す。表9から明らかなように、硫酸ナイルブルーは分子量が108~263までの5種類の化合物に分解されていることを確認した。このことから、染料は環境に無害な最も単純な分子にまで分解されていること確認した。
これらの生成物は、他の多くの色素分解例で見られるように,CO2やH2Oなどの無機化合物にまでさらに分解されると考えられる。
【0072】
【0073】
-コンゴーレッド脱色実験-
実施例2の構造体1によるCgR溶液の脱色実験にて、光照射時間が0.3時間、0.5時間、1時間、1.5時間ごとに分解液を分け取り、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定した。得られた結果を
図14に示す。
図14は、光照射時間とともに吸光度が減少したことを示す。
【0074】
-黒液脱色実験-
実施例2の構造体1による黒液の脱色実験にて、染料よりも脱色に時間がかかったため、一定の日数ごとに分解液を分け取り、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定した。得られた結果を
図15に示す。
図15は、光照射時間とともに吸光度が減少したことを示す。
染色業界の着色排水の処理に、本開示の光触媒及び構造体は有効である。また、黒液と称されるクラフトパルプの廃液処理等に本開示の光触媒及び構造体を応用できる可能性がある。さらには、木材中に含まれるリグニンを直接分解できる可能性がある。リグニンの直接分解が可能になれば、現在主流のパルプ化法であるクラフト法などで製造される化学パルプよりもさらに効率よくセルロース繊維を抽出するパルプ化法になる。