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特開2025-5258冷却水系におけるファウリングを低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005258
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】冷却水系におけるファウリングを低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 57/18 20060101AFI20250108BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250108BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250108BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20250108BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20250108BHJP
   C02F 5/14 20230101ALI20250108BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20250108BHJP
【FI】
A01N57/18 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/00 102
C02F5/00 610F
C02F5/00 620D
C02F5/14 B
C02F1/50 510C
C02F1/50 520K
C02F1/50 532K
C02F1/50 540B
C02F1/50 550L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105386
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田上 玲奈
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB17
4H011DA13
4H011DC05
4H011DD01
(57)【要約】
【課題】 本開示は、冷却水系におけるファウリング障害を抑制可能な新たな方法を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様として、冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、前記冷却水系を流れる冷却水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を添加することを含み、前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、
前記冷却水系を流れる冷却水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を添加することを含み、
前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である、方法。
【請求項2】
前記ファウリングが、前記工業水系中に含まれる微生物、及び溶存イオンが酸化されることで不溶化する析出物の少なくとも一方に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却水系は、開放循環冷却水系である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、
前記冷却水系を流れる冷却水に、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を存在させることにより、前記冷却水系中の微生物の数を低減することを含み、
前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である、方法。
【請求項5】
前記冷却水中のテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の濃度が1mg/L~500mg/Lとなるように、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を前記冷却水に添加することを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却水系におけるファウリングを低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水系では微生物に起因するトラブル(スライムによるファウリング、微生物腐食、微生物の繁殖によって副産されるスケールの生成等)を低減するためにバイオサイド(微生物汚染を防ぐ薬剤)が使用されることが多い。しかしながら、イソチアゾリン系など多くの殺菌成分は、酸化還元電位(ORP)の低い還元性雰囲気の水では十分な効果が得られないことが古くから知られている。このため、還元性雰囲気の水系の微生物障害を防止するための種々の方法が提案されている(特許文献1及び2)。特許文献1は、工業用冷却水系等の還元性物質が含まれる用水系に、オルトフタルアルデヒド、グルタルアルデヒド及び四級アンモニウム塩を含んでなる防菌防藻剤を添加する防菌防藻方法を開示する。また、特許文献2は、パルプの還元漂白処理後の工程水等といった特定の還元性雰囲気下にある水系に、(A)4級アンモニウム塩化合物と(B)グルタルアルデヒド及び2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)等の各種殺菌成分とを同時に添加する方法を開示する。
【0003】
また、工業用冷却水系等の工業用水系は、鉄イオンやマンガンイオン等の様々な溶存イオンを含有している。これらは、通常、工業用水系中にイオン状態で溶存しているが、工業用水系が酸化性雰囲気に傾くと析出し、その結果、ファウリングの原因となる。工業用冷却水系では、一般的には、様々な要因でORPが大幅に変動することから、微生物に起因するファウリングに加えて、溶存イオンに起因するファウリングへの対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-287511号公報
【特許文献2】特開2003-212705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2で使用されるグルタルアルデヒド(ペンタンジアール)は、現時点で毒劇法の毒物に指定されていないものの、近年、急性毒性値は吸入曝露において毒物に相当し、かつGHS区分1(劇物相当)に該当し、毒物に指定するのが妥当であると考えられる、という報告が国立医薬品食品衛生研究所安全性予測評価部によりなされている(令和元年度報告 毒物劇物指定のための有害性情報の収集・評価)。このため、グルタルアルデヒドを用いた方法に代わる、法規制の制約のない製品を用いた冷却水系におけるファウリングを低減可能な新たな方法が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、従来のグルタルアルデヒドを用いた方法に代わる、冷却水系におけるファウリングを低減可能な新たな方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様として、冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、前記冷却水系を流れる冷却水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を添加することを含み、前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である方法に関する。
【0008】
本開示は、その他の態様として、冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、前記冷却水系を流れる冷却水に、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を存在させることにより、前記冷却水系中の微生物の数を低減することを含み、前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、冷却水系におけるファウリングを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、従来、単独の使用では殺菌剤として十分な効果が得られないとされていたテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩(THPS)が、ORPが低い値(例えば、ORP+13以下)となりうる冷却水系、とりわけ開放循環冷却水系において、特許文献2の成分(B)として使用される2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)と比べて良好な殺菌効果を示すとともに、菌数の再増加(リバウンド)もなく、さらには溶存イオンに起因するファウリングや水質の変動を良好に低減できるという知見に基づく。
【0011】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水系に存在しうる微生物に起因するファウリング(例えば、スライムによるファウリング)や、微生物の繁殖によって副産されるスケールの生成等の抑制に有効に利用することができる。また、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水系に存在し得る溶存物質に起因するファウリング、すなわち、冷却水系に存在し得る溶存物質が酸化することで不溶化して生じうる析出物の発生等の抑制に有効に利用することができる。
【0012】
本開示における「ファウリング」とは、対象水系である冷却水系中に存在しうる微生物及び/又は溶存物質の析出が原因となって生じる汚れのことをいう。本開示における「ファウリングを低減する」こととしては、一又は複数の実施形態において、対象水系である冷却水系中に存在しうる微生物の菌数を減少すること、並びにファウリングの原因となる溶存物質の析出や析出物の堆積を抑制することが挙げられる。
本開示における「溶存物質」としては、一又は複数の実施形態において、鉄、マンガン、アルミニウム、硫化水素(硫化物)、及び銅等が挙げられる。鉄イオンは、酸化されることで種々の酸化鉄となり不溶化し、冷却水系内の各所でファウリングの一因となることが知られている。また、地下水(井戸水)は、マンガン等の金属イオンが多く含まれることが知られており、酸化されることで酸化物が析出し、ファウリングや着色の問題を生じることが知られている。各種工場やプラントで使用されたプロセスからの混入物を含むプロセス蒸気の凝縮水においても、酸化物が析出することや、ファウリングや着色の問題の起こることが知られている。
【0013】
本開示における冷却水系としては、一又は複数の実施形態において、冶金工業の連続鋳造プロセス、石油プロセス、石油坑系、地熱井、石油及びガス操業、発電所、並びに製紙プロセス等の各種プロセス、プラント及び工場における工業用冷却水系が挙げられる。本開示の方法によるファウリング効果がとくに有効に発揮可能な冷却水系としては、一又は複数の実施形態において、微生物問題ファウリングの激しい前記の各種工業において使用されたプロセス蒸気と冷却水が混合接触する直接冷却工程の復水器、凝縮器、冷却塔及び周辺配管やピット等の付帯設備や発電設備の冷却水系等が挙げられる。冷却水系としては、一又は複数の実施形態において、開放式冷却水系、閉鎖(密閉)式冷却水系、循環式冷却水系、貫流式冷却水系、及び開放循環式冷却水系等の工業用冷却水系等が挙げられる。本開示における冷却水系は、一又は複数の実施形態において、直接接触式及び間接接触式を含む。本開示における冷却水系としては、一又は複数の実施形態において、各種工場やプラントで使用されたプロセスからの混入物を含むプロセス蒸気の凝縮水を含む直接冷却水系及び冷水塔を有する間接冷却水系等が挙げられる。中でも、開放循環式冷却水系を含むプロセス水、プロセス蒸気の直接冷却水系、及び凝縮水系を含む直接冷却水系に好適に用いることができうる。
【0014】
本開示における「ORPが最も低い箇所で+50mV以下である冷却水系」としては、一又は複数の実施形態において、上記の各種プロセス等において配管等で構築された冷却水系を流れる冷却水の系統において異なる2又はそれ以上の箇所で採取した冷却水試料のORPのうち、少なくとも一つの箇所のORPが+50mV以下である水系をいう。
当該冷却水系としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、熱交換器及び/又は冷却塔の入口及び出口における少なくとも一つの箇所のORPが+50mV以下である冷却水系が挙げられ、好ましくは少なくとも一つの箇所のORPが+50mV以下であり、かつ残りの少なくとも一つの箇所のORPが+200mV以上である冷却水系が挙げられる。
ORPは、実施例に記載の方法により測定できる。
【0015】
本開示における冷却水系における最も低い箇所のORPは、+50mVであり、一又は複数の実施形態において、+40mV以下、+30mV以下又は+20mV以下である。本開示における冷却水系における最も高い箇所のORPは、一又は複数の実施形態において、200mV以上、210mV以上、220mV以上又は230mV以上である。
本開示の冷却水系において、最も高い箇所(上限値)と最も低い箇所(下限値)とにおけるORPの差としては、一又は複数の実施形態において、160mV以上、170mV以上、180mV以上、190mV以上、200mV以上又は210mV以上である。上限値と下限値との差としては、一又は複数の実施形態において、800mV以下又は700mV以下である。
【0016】
本開示の冷却水系におけるpHは、一又は複数の実施形態において、pH4~10である。
【0017】
[ファウリングを低減する方法]
本開示は、一態様において、冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、前記冷却水系を流れる冷却水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を添加することを含み、前記冷却水の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である方法に関する。とりわけ、本開示の方法は、一般的なボイラーで用いられる清浄な蒸気ではなく各種工場やプラントで使用されたプロセスからの混入物を含むプロセス蒸気の凝縮水を含む直接冷却水系及び冷水塔を有する間接冷却水系に特に好適に用いることができる。本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、ORPが最も低い箇所で50mV以下である冷却水系において、微生物に起因するファウリングを低減できるとともに、溶存イオンに起因するファウリングも低減することができるという優れた効果を奏しうる。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、循環冷却水系の処理に有用に用いることができる。中でもプロセス及びプラントで用いた蒸気及び水を直接冷却する冷水塔あるいは冷却器や凝縮器を含む水処理設備に特に有用に用いることができる。一例として石油精製や化学プラントにおけるプロセススチームの熱回収及びリサイクルプロセス、発電所等で不純物を含む蒸気の有効活用を目的とした効率的な利用プロセスに有用に用いることができる。
【0018】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水系中に含まれる微生物、及び溶存イオンが酸化されることで不溶化する析出物の少なくとも一方に起因するファウリングの低減に適用することが好ましい。
【0019】
また、本開示の方法によれば、、一又は複数の実施形態において、+50mV以下である工業水系における微生物に対して良好な殺菌効果を得ることができる。よって、その他の態様として、本開示は、冷却水系におけるファウリングを低減する方法であって、酸化還元電位(ORP)が最も低い箇所で+50mV以下である冷却水系を流れる冷却水に、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を存在させることにより、前記工業用水系中の微生物の数を低減することを含む方法に関する。
【0020】
本開示におけるテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩としては、一又は複数の実施形態において、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硫酸塩(THPS)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムリン酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硝酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム臭化物、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムフッ化物および、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム蟻酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム酢酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムプロピオン酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム酪酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム吉草酸塩、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムカプロン酸塩、及びテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム安息香酸塩等が挙げられる。中でも、好ましくはテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硫酸塩及びテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩酸塩であり、より好ましくはテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硫酸塩である。
【0021】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水系の冷却水中のテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の濃度が1mg/L~500mg/Lとなるように、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を冷却水系に添加することを含む。テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の濃度は、一又は複数の実施形態において、5mg/L以上、10mg/L以上又は20mg/L以上である。テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の濃度は、一又は複数の実施形態において、400mg/L以下、300mg/L以下、250mg/L以下、200mg/L以下、150mg/L以下又は100mg/L以下である。
【0022】
本開示の方法におけるテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩による処理は、一又は複数の実施形態において、バッチ式、間欠式、及び連続式のいずれであってもよい。
【0023】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を24時間連続して添加することを含んでいてもよい。
【0024】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩による処理を、少なくとも1時間/日以上又は2時間/日以上行うことを含んでいてもよい。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩による処理を、30日間に1回以上行うことが好ましく、2日間、4日間又は5日間~30日間に1回以上行ってもよい。
【0025】
テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の添加箇所は、一又は複数の実施形態において、一つの冷却水系において1箇所であってもよいし、2以上の複数箇所であってもよい。添加箇所としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、冷却塔の入口及び出口、並びに冷却塔ピット(冷却塔の水槽)等が挙げられる。
【0026】
テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の添加は、一又は複数の実施形態において、連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0027】
本開示の方法における処理対象である冷却水系は、一又は複数の実施形態において、ファウリングを低減するための有効成分としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩以外の成分を実質的に含有していなくてもよい。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、ファウリングを低減するための有効成分としてテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩以外の成分を、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩と実質的に併用することを含んでいなくてもよい。
【0028】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、冷却水系及び蒸気凝縮水系を含む冷却水系のORPを測定する工程を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0029】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、前記水系の酸化還元電位を酸化剤及び/又は還元剤(テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を除く)の添加により制御することを含まない。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、酸化剤及び/又は還元剤(テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を除く)を意図的に添加することによる、前記冷却水系の酸化還元電位を能動的に調整(制御)することを実質的に含まない。
【0030】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)におけるファウリングを低減する方法であって、
前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)を流れる水に対し、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を添加することを含み、
前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である、方法。
[2] 前記ファウリングが、前記水系中に含まれる微生物、及び溶存イオンが酸化されることで不溶化する析出物の少なくとも一方に起因する、[1]に記載の方法。
[3] 前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)は、開放循環水系である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)におけるファウリングを低減する方法であって、
前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)を流れる水に、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を存在させることにより、前記水系中の微生物の数を低減することを含み、
前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)の酸化還元電位(ORP)が、最も低い箇所で+50mV以下である、方法。
[5] 前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)を流れる水中のテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩の濃度が1mg/L~500mg/Lとなるように、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩を前記冷却水系(蒸気凝縮水系を含む冷却水系)に添加することを含む、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
【0031】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0032】
以下の試験例では、下記の薬剤を使用した。
<薬剤>
THPS:テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硫酸塩(75%水溶液のものを富士フィルムワコーケミカルから入手)
DBNPA:2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(東京化成工業製)
DMDTC:ジメチルジチオカルバミン酸カリウム塩(50%液、品名Busan85、バックマンラボラトリーズ製)
Cl-MIT:5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの約3:1混合物(富士フィルムワコーケミカル製)
GA:グルタルアルデヒド(50%水溶液のものをキシダ化学から入手)
CHZ:カルボヒドラジド:1,3-ジアミノ尿素(東京化成工業製)
HZ:ヒドラジン(1水和物)(キシダ化学製)
【0033】
<ORPの測定方法>
ORPは、ポータブルORP計(堀場製作所製D-210)とORP電極(9300-10D)を使用して測定した。
<pHの測定方法>
試験用水をビーカーに秤取り、pHメーター(株式会社堀場製作所製:D-51)を用いてpH(25℃)を測定した。
【0034】
<試験例1>種々のORPの試験水における薬剤の殺菌効果の評価
某発電所の同一の冷却水系内の異なる場所で採取した、ORPの異なる3種類の試験水(淡水系の開放循環冷却水)を用いて、薬剤の殺菌効果を評価した。薬剤添加前(試験開始前)に試験水のORP及びpHを上記の方法により測定した。得られたORPの結果を下記表1に示す。
【表1】
【0035】
某発電所で採取した試験水(淡水系の開放循環冷却水)を、それぞれ10mlずつL字管に分注し、ついで下記表2に示す薬剤を表2に記載した濃度となるように添加し、30℃で24時間振とう後の生菌数(一般細菌数)を測定した。生菌数の測定は、振とう後の試験液を、必要に応じて滅菌生理食塩水で段階的に希釈して、標準寒天培地にて30℃48時間の条件で混釈培養して形成されたコロニー数をカウントすることにより行った。得られた生菌数から、下記式を用いて殺菌率(%)を算出し、その結果の一例を下記表2に示す。
殺菌率(%)=[(ブランクの生菌数)-(薬剤添加後の菌数)]/(ブランクの菌数)×100
【表2】
【0036】
上記表2に示すように、比較例1-1~1-4は、試験水1(ORP:+236mV)では殺菌効果が示されたが、試験水2(ORP:+13mV)では、十分な殺菌効果が得られず、特にDBNPA及びDMDTCでは、ブランクよりも菌数が増加するリバウンド現象がみられた。
これに対し、THPS(実施例1-1及び1-2)は、試験水1及び2のいずれにおいても、試験水のORPに関わらず良好な殺菌効果を示した。具体的には、THPSは、試験水1においては公知の殺菌剤であるDMDTCよりも3桁(3対数オーダー)以上の殺菌効果を示し、試験水2においては公知の殺菌剤であるDBNPA及びDMDTCよりも2桁(2対数オーダー)の殺菌効果を示し、菌数の再増加(リバウンド)も生じなかった。さらに、THPSは、ORPが-172mVの試験水3においても菌を死滅させることができた。つまり、THPSによって、工業水系のORPの変動に関わらず冷却水系に存在する菌数を低減することができることから、工業水系のファウリング等といった水系のトラブルを低減できることが示唆された。
【0037】
<試験例2>薬剤添加によるORP変化確認
某発電所で採取した試験水(淡水系の開放循環冷却水、ORP:+321mV)に対して下記表3に示す各薬剤を下記表3に記載の濃度となるように添加し、軽く撹拌した後、静置した。添加前、5分経過後及び24時間後のORPの数値を計測した。
【表3】
【0038】
DBNPA(比較例2-1)は薬剤添加5分後、24時間後及び4日経過後のいずれにおいても、ORPは低下せず、逆にORPは1.5倍以上増加した。また、ORP低下能を有することが知られているDMDTC(比較例2-2)は、薬剤添加5分後及び24時間後においてORPの低下が確認された。これに対し、THPS(実施例)は、いずれの濃度においても、薬剤添加5分後にORPが添加前の1/3以下にまで低下した。さらに、実施例2-2及び2-4では、薬剤添加から24時間経過後もORPは低いレベルで維持されており、4日間経過後であってもORPは薬剤添加5分後よりも低いレベルで維持されていた。
【0039】
<試験例3>ファウリング抑制確認
試験例2で使用したのと同じ試験水(淡水系の開放循環冷却水、ORP:+321mV)に対して下記表4に示す各薬剤を下記表4に記載の濃度となるように添加した。その後、硫酸鉄7水和物を鉄(II)イオン濃度として100mg/Lとなるように添加し、撹拌して溶解させた。硫酸鉄の溶解を目視確認後、室温で静置し、溶液の外観を目視で観察した。その結果を下記表4に示す。
[ファウリング評価]
〇:懸濁物及び析出物がほとんど確認されない
×:懸濁物及び析出物の発生あり
【表4】
【0040】
THPSによれば、鉄イオンに起因する懸濁物や析出物がほとんど確認されず、鉄イオンに起因するファウリングに対して高い抑制効果が示された。一方、比較例に使用した薬剤は、いずれも沈殿や析出物が発生するなど、ファウリングが発生した。
また、比較例3-2のDMDTCは、試験例2で薬剤添加直後にORPの低下が確認されたが、本試験例3では、硫酸鉄7水和物の添加直後に大量の析出物が発生し、その析出物は一晩静置後もそのまま維持されたことから、ORPを低下させる効果だけではファウリングが抑制されないことが示された。
【0041】
試験例1~3に示すとおり、THPSによれば、菌数の増加とORPの増加そして共存する無機化合物のファウリングを抑制すると当時にORPが+50mV以下の水系であっても菌数を低減しかつ菌数の再増加(リバウンド)も抑制できることから微生物に起因するファウリングも抑制でき、さらに、THPSによれば、ORPを低い状態で維持できることから、溶存イオン酸化に起因する水質の問題も低減することができるといえる。