IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図1
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図2
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図3
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図4
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図5
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図6
  • 特開-バイオセンサおよび組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005270
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】バイオセンサおよび組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20250108BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20250108BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
G01N27/414 301K
G01N27/416 338
G01N27/416 386G
G01N27/416 336G
G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105408
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
(72)【発明者】
【氏名】福原 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】橋田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】グエン ヴァン トアン
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AE20
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG10
2G060GA02
2G060JA07
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】検出感度が高く、かつ容易に製造できるバイオセンサおよび組成物を提供する。
【解決手段】水溶液中の対象物質を検出するセンサ部と、電流電圧制御手段18と、電流電圧測定手段19とを備えている。センサ部は、空隙を介して互いに隣接して配置される第1電極16及び第2電極17と、第1電極16及び第2電極17の間に配置され、第1電極16及び第2電極17に接触している組成物とを含んでいる。電流電圧制御手段18及び電流電圧測定手段19は、第1電極16及び第2電極17と電気的に接続されている。組成物15は、セルロースナノファイバーと生体分子とを含み、生体分子は、セルロースナノファイバーに固定されている。対象物質と生体分子との化学反応により生成する電荷、または、対象物質と生体分子との相互作用もしくは特異的結合により生じる分極電位により、組成物15の電気抵抗値が変化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中の対象物質を検出するセンサ部と、電流電圧制御手段と、電流電圧測定手段とを備えたバイオセンサであって、
前記センサ部は、空隙を介して互いに隣接して配置される第1電極及び第2電極と、前記第1電極及び前記第2電極の間に配置され、前記第1電極及び前記第2電極に接触している組成物とを含み、
前記電流電圧制御手段及び前記電流電圧測定手段は、前記第1電極及び前記第2電極と電気的に接続されており、
前記組成物は、セルロースナノファイバーと生体分子とを含み、前記生体分子は、前記セルロースナノファイバーに固定されており、
前記対象物質と前記生体分子との化学反応により生成する電荷、または、前記対象物質と前記生体分子との相互作用もしくは特異的結合により生じる分極電位により、前記組成物の電気抵抗値が変化するよう構成されていることを
特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーが、ナノクリスタルセルロースナノファイバー、セルロースナノウイスカー、およびバクテリアセルロースナノファイバーのうちの少なくとも1つから成ることを特徴とする請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記生体分子は、タンパク質、核酸、糖鎖、ビタミン、およびホルモンのうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記組成物は、前記セルロースナノファイバーと前記生体分子とを結合するリガンドを有し、前記リガンドは、臭化シアノゲン、塩化シアヌル、塩化トシル、シランエポキシド、グルタルアルデヒド、ホウ酸、およびグリオキシル酸のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記電気抵抗値による応答を増幅させるよう、グラファイトナノ粒子と金属ナノ粒子とが、前記組成物に分散されていることを特徴とする請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記第1電極、前記第2電極及び前記組成物に接続されていない第3電極と、
前記第3電極に電気的に接続された電圧印加手段とを備え、
前記電圧印加手段により前記第3電極に加える電圧により、前記電気抵抗値による応答を可変するよう構成されていることを
特徴とする請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項7】
セルロースナノファイバーと、生体分子と、前記セルロースナノファイバーと前記生体分子とを結合するリガンド分子とを含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバイオセンサに用いられる組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサ、および、そのバイオセンサに用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、様々な生体関連物質を検出するセンサであり、病気の診断や検査、ウイルス感染の診断、水や食品の検査に用いられている。センサの代表例としては、電気化学センサが知られている。電気化学センサは、低コストで製造できるだけでなく、計測も簡単で迅速な検出が可能である。ただし、電気化学センサでは参照電極が必要であり、電極面積も広いため、小型化や低コスト化には制約がある。
【0003】
電気化学センサの中でも、電位差センサは、信頼性の高い電位測定のために参照電極を必要とし、アンペロメトリックセンサは、正確な電位を印加するために参照電極が必要である。特に、電位差センサの場合、その応答は参照電極の安定性に強く依存する。しかし、小型で長期的な安定性を持つ固体参照電極はまだ実現されていない。
【0004】
最近では、化学抵抗型センサ、電界効果型バイオセンサなど、化学物質の検出を目的としたセンサが開発されている。
【0005】
化学抵抗型センサは、化学物質の検出に使用されるセンサの一種であり、抵抗体と呼ばれる材料の表面に、対象となる化学物質が吸着することで、抵抗の値が変化することを利用して検出を行う。化学抵抗型センサは、化学物質の測定手法としては比較的単純であり、有毒物質の検出や特定の疾患に関与する物質の検出など、さまざまな応用が期待されている。
【0006】
化学抵抗型センサは、吸着した化学物質によって抵抗値が変化するため、特定の化学物質にのみ選択性を持つとは限らず、他の干渉物質や環境条件の変化もセンサの応答に影響を与える場合がある。そのため、高い選択性を持つセンサの開発が求められている。
【0007】
電界効果型バイオセンサは、生体分子や生物学的な相互作用を検出するために使用されるセンサの一種である。電界効果型バイオセンサのバイオセンサ素子には、電界効果型トランジスタ(FET)が使用される。FETは、ゲート電極、チャネル、ソース電極、ドレイン電極などの要素から構成され、半導体材料で作られる。電界効果型バイオセンサでは、活性層がゲート電極の近くに配置され、生体分子との相互作用によって、ゲート電極とチャネルとの間の電荷密度が変化する。この変化した電荷密度によって、トランジスタの電気的特性が変化し、生体分子の存在や濃度を検出することができる。
【0008】
電界効果型バイオセンサは、非常に高い感度と選択性とを持ち、リアルタイムでの検出が可能である。また、小型で携帯可能なデバイスとしても開発されており、携帯可能なバイオセンシング応用にも適している。
【0009】
一方、電界効果型バイオセンサの製造は、微細な半導体プロセスを必要とするなど、高感度なセンサを実現するために、高度な製造技術や専門的な設備を必要とする。
【0010】
また、化学的な選択性をもたせるため、酵素や抗体などの生体分子を電界効果型バイオセンサに固定する方法がある。しかし、このためには、適切な修飾方法が必要であり、特に、電界効果型バイオセンサなどで固体素子を利用したCHEMFET(chemical field-effect transistor)の場合、酵素や抗体の立体構造や活性中心が変化し、その活性が低下する可能性がある。
【0011】
従来の電界効果トランジスタを用いたセンサとして、還元型グラフェン酸化物(rGO)薄膜を電界効果トランジスタの半導体部材として用い、ラベルフリーのバイオセンサを実現しているものがある(例えば、非特許文献1参照)。このセンサでは、rGOの断片を含んだ溶液をスピンコート法により基板上に塗布し、rGO薄膜を構成している。
【0012】
また、半導体部材であるシリコンのナノワイヤーを用いて、電界効果トランジスタをボトムアップ手法で作製し、ナノワイヤーの表面に抗体を結合させて、ラベルフリーのバイオセンサを実現しているものもある(例えば、非特許文献2参照)。
【0013】
また、半導体特性をもつカーボンナノチューブ用いて、電界効果トランジスタをボトムアップ手法で作製し、カーボンナノチューブの表面に抗体を結合させて、ラベルフリーのバイオセンサを実現しているものもある(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Walid-Madhat Munief, Xiaoling Lu a f, Tobias Teucke, Jannick Wilhelm, Anette Britz, Felix Hempel, Ruben Lanche, Miriam Schwartz, Jessica Ka Yan Law, Samuel Grandthyll, Frank Muller, Jens-Uwe Neurohr, Karin Jacobs, Michael Schmitt, Vivek Pachauri, Rolf Hempelmann, Sven Ingebrandt, “Reduced graphene oxide biosensor platform for the detection of NT-proBNP biomarker in its clinical range, Biosensors and Bioelectronics”, Biosensors and Bioelectronics, 2019, 126, p.136-1142
【非特許文献2】Yen-Heng Lin, Wei-Siao Lin, Jing-Chao Wong, Wei-Chieh Hsu, Yong-Sheng Peng & Chien-Lun Chen, “Bottom-up assembly of silicon nanowire conductometric sensors for the detection of apolipoprotein A1, a biomarker for bladder cancer”, Microchimica Acta, 2017, 184, p.2419-2428
【非特許文献3】Mitchell B. Lerner, Brett R. Goldsmith, Ronald McMillon, Jennifer Dailey, Shreekumar Pillai, Shree R. Singh, A. T. Charlie Johnson, “A carbon nanotube immunosensor for Salmonella”, AIP Advances, 2011, 1, 042127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
非特許文献1のバイオセンサでは、用いられているrGO薄膜は製造過程や条件によって電気的特性が異なることや、rGO薄膜は空気中で酸化される傾向があり、その安定性が懸念されるため、センサの性能が一定にならず、検出感度にばらつきが出る可能性があるという課題があった。また、グラフェンやカーボンナノチューブなどの炭素材料の表面は不活性であり、生体試料を固定化するのが困難なため、構造欠陥が多く電気特性が安定しない。非特許文献1では、rGOを使っているので、その材料自体がセンサの再現性を低下させ、検出感度にばらつきが出る可能性があるという課題があった。
【0016】
非特許文献2のバイオセンサでは、シリコン表面への抗体などの固定化やその活性の維持は技術的に複雑なプロセスであり、適切な表面処理と最適な条件が必要になるため、製造工程が複雑化してしまうという課題があった。また、ナノワイヤーをボトムアップで堆積してセンサ構造を作製する手法では、センサの性能が一定ではなく、その感度にばらつきが出ることがあるという課題があった。また、固体素子表面上への酵素や抗体等の生体分子の固定では、立体構造が変形して活性が低下しやすいため、検出感度にばらつきが出やすいという課題があった。
【0017】
非特許文献3のバイオセンサでは、カーボンナノチューブを半導体部材として用いているが、カーボンナノチューブは半導体と金属の両方の特性を有しているものがあり、半導体特性を示すカーボンナノチューブをフィルタリングするには高度な技術を必要とするため、製造が困難であるという課題があった。また、カーボンナノチューブの表面は不活性であり、生体物質の固定化やその活性の維持は技術的に複雑なプロセスを要し、製造工程が複雑化してしまうという課題があった。
【0018】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、検出感度が高く、かつ容易に製造できるバイオセンサおよび組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明に係るバイオセンサは、水溶液中の対象物質を検出するセンサ部と、電流電圧制御手段と、電流電圧測定手段とを備えたバイオセンサであって、前記センサ部は、空隙を介して互いに隣接して配置される第1電極及び第2電極と、前記第1電極及び第2電極の間に配置され、前記第1電極及び第2電極に接触している組成物とを含み、前記電流電圧制御手段及び前記電流電圧測定手段は、前記第1電極及び第2電極と電気的に接続されており、前記組成物は、セルロースナノファイバーと生体分子とを含み、前記生体分子は前記セルロースナノファイバーに固定されており、前記対象物質と前記生体分子との化学反応により生成する電荷、または、、前記対象物質と前記生体分子との相互作用もしくは特異的結合により生じる分極電位により、前記組成物の電気抵抗値が変化するよう構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るバイオセンサで、組成物は、セルロースナノファイバーと生体分子とを結合するリガンドを有していてもよい。また、本発明に係るバイオセンサは、前記セルロースナノファイバーの導電性を変化させるための第3の電極を有していてよい。
【0021】
発明者等は、セルロースナノファイバーの導電性を水中で測定したところ、半導体的な導電性が発現していることを見出し、その導電性を利用した、電界効果型バイオセンサと類似の動作をする化学抵抗センサに関する、本発明の着想を得たものである。本発明に係るバイオセンサは、複数の電極と、セルロースナノファイバー、生体分子、および、場合によってはリガンドを含み、水溶液中において導電性を有する複合組成物とを有している。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、検出感度が高く、かつ容易に製造できるバイオセンサ及び、当該バイオセンサに用いられる組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態のバイオセンサの全体構成図である。
図2】本発明の実施形態のバイオセンサの、センサ素子を示す平面図である。
図3】本発明の実施形態のバイオセンサの、センサ素子を示す図2のA-A’線断面図である。
図4】本発明の実施形態のバイオセンサの、酵素を含まないセルロースナノファイバーのみからなる組成物を超純水に浸したときの、第1電極-第2電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態のバイオセンサの、酵素を含まないセルロースナノファイバーのみからなる組成物と第3電極とを超純水中に配置したときの、第3電極に加えた各電圧(V)に対する第1電極-第2電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態のバイオセンサの、グルコースオキシダーゼ酵素を固定したセルロースナノファイバーから成る組成物に、グルコース水溶液を接触させ、第1電極-第2電極間に0.5Vの電圧を加えたときに流れる電流のグルコース濃度依存性を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態のバイオセンサの、GDF-15抗体を固定したセルロースナノファイバーから成る組成物に、GDF-15タンパクを含む水溶液を接触させ、第1電極-第2電極間に0.5Vの電圧を加えたときに流れる電流のGDF-15タンパク濃度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳しく説明する。
ただし、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形例や技術の適用を排除する意図はない。また、図面に示される一例のサイズや比は、理解を容易にするため、一部を拡大して記載されているものもあり、又、形状も一例であり、必ずしもそれに限られるものではない。すなわち、以下に示す実施形態を、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0025】
[バイオセンサ]
図1から図3を用いて、本発明の実施形態のバイオセンサを説明する。本発明の実施形態のバイオセンサは、水溶液中の対象物質を検出するセンサ素子(センサ部)13の計測領域である組成物15と、組成物15の電流電圧制御手段18と、電流電圧測定手段19と、を備える。センサ素子13の電気伝導度を変化させるための電圧印加手段20を有していても良い。
【0026】
図1は、本発明の実施形態のバイオセンサの模式図である。本実施形態のセンサ11は、センサ素子13と、電流電圧制御手段18と、電流電圧測定手段19とを有する。センサ素子13、電流電圧制御手段18及び電流電圧測定手段19は、電気的に接続されている。また、第1電極16、第2電極17とは、接触せずに配置された第3電極12を設けてもよく、第3電極12の電圧を制御する電圧印加手段20が、センサ素子13に接続されていてもよい。
【0027】
センサ素子13は、基板31上に第1電極16、第2電極17、組成物15を有する。また、基板31上に第3電極12を設けていてもよい。電流電圧制御手段18と、電流電圧測定手段19は、第1電極16、第2電極17に接続されており、組成物15に電流を流し、かつその電流及び/又は電圧を計測できる。また、電圧源である電圧印加手段20が第3電極12に接続されていてもよい。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係るセンサ素子13の平面図である。図3は、図2のセンサ素子13のA-A’線における断面図である。
【0029】
基板31は、半導体基板を用いることができ、例えば酸化したシリコン基板を用いることができる。また、基板31は、他にも、ガラス基板やプリント基板、ポリイミド基板等を用いることができる。
【0030】
第1電極16及び第2電極17は、基板31上に位置する。基板31が導電性を有する場合は、絶縁膜32、32’を設け、基板31の表面を絶縁する。絶縁膜32、32’の材料は特に限定されないが、SiO、Si、ポリイミドなどが挙げられる。絶縁膜32、32’は薄い膜層であり、20nm~100nm程度の厚みである。第1電極16及び第2電極17は、計測領域において、空隙を介して互いに隣接して配置される。第1電極16及び第2電極17の間隙は、1~100μmであることが好ましい。基板31が半導体あるいは導体の場合は、第3電極12は、基板31に電気的に接触するように配置される。基板31が絶縁体の場合は、その必要はない。
【0031】
第1電極16、第2電極17、及び第3電極12は、導電性金属薄膜である。導電性金属薄膜の材料は、特に限定されないが、例えば金、銀、銅、及びこれらの合金、又は、導電性炭素が挙げられる。導電性金属薄膜は、前記材料の単層でもよく、2層以上の多層でもよい。第1電極16及び第2電極17の表面は、リーク電流を防ぐために絶縁性の樹脂等で被覆されてもよい。
【0032】
組成物15は、計測領域である第1電極16と第2電極17との間の空隙を埋めるように、第1電極16及び第2電極17上、ならびに計測領域となる絶縁膜32上に配置される。組成物15は、第1電極16及び第2電極17に電気的に接触している。
【0033】
本発明の実施形態のセンサ11は、第3電極12に電圧制御部20を用いて、適切な電位を加えることで、第1電極16及び第2電極17間にながれる電流が増幅され、センサの感度を増加させることができる。この動作は、電界効果型トランジスタ(FET)と似た動作を示す。なお、第3電極12は、センサ素子13上に配置する必要はなく、別の電極を測定対象である水溶液中に配置して第3電極として利用しても良い。
【0034】
組成物15は、セルロースナノファイバー、生体分子、および生体分子とセルロースナノファイバーとを結合するリガンド分子を含む。生体分子は、セルロースナノファイバーに化学結合しているのが望ましい。生体分子は、組成物15の表面のみでなく、組成物15全体に、つまり組成物15の内部のセルロースナノファイバーの表面に化学結合していることが望ましい。生体分子が組成物15の内部にも位置することで、生体分子による対象物質の化学変化、もしくは生体分子と対象物質との特異的結合や相互作用により組成物15の抵抗値を変動させやすく、対象物質の検出感度が向上する。生体分子としては、例えば、タンパク質、核酸、糖鎖、ビタミン、ホルモンなどの各種生体高分子が挙げられる。また、特異的結合や相互作用をする場合には、抗原-抗体、ホルモン-レセプター、酵素-基質、糖鎖-レクチンなどの反応に関与する物質が挙げられる。
【0035】
一般的なセルロースナノファイバーは、(C10で表される炭水化物であり、植物細胞の細胞壁や植物繊維の主成分である。セルロースナノファイバーとしては、木材や植物などの天然材料を原料とし、機械処理や化学処理による解繊によりナノ繊維化したものを使用するのが好ましい。また、結晶化させたナノクリスタルセルロースナノファイバー、セルロースナノウイスカー、また、酢酸菌などの微生物が作るバクテリアセルロースナノファイバーを使用しても良い。セルロースナノファイバーのセルロースの構造は、セルロースI型でもセルロースII型でもよい。セルロースナノファイバーの平均直径としては、3~20nmが望ましいが、10~400nmであってもよい。また、セルロースナノファイバーの平均長さは、0.03~20μmが望ましいが、0.03~100 μmの範囲であってもよい。
【0036】
生体分子のセルロースナノファイバー上への固定化技術には、共有結合を利用するのが望ましく、生体分子の種類により各種、適切な手法を取ること望まれる。例えば、リガンドを利用することが考えられる。リガンドは、セルロースナノファイバーのヒドロキシル基と生体物質のアミノ基と反応し、共有結合を形成できる。このためのリガンドとしては、臭化シアノゲン、塩化シアヌル、塩化トシル、シランエポキシドなどが利用できる。あるいは、グルタルアルデヒド、ホウ酸、グリオキシル酸などのリガンドを用いて、セルロース上のC6、C3、C2配位上に、好ましくはC6位の1級水酸基上に生体分子を固定することもできる。また、これらのリガンドは、セルロースナノファイバーの化学・機械特性を安定化するのにも有効である。セルロースナノファイバーは、水酸基を多く含む物質であり、高密度に生体物質を固定化できる。セルロースナノファイバーにおけるリガンドの量は、特に限定されないが、例えば、0.03~3mM/gでもよく、0.2~5mM/gでもよい。
【0037】
セルロースナノファイバーに生体分子を固定した水溶液を、ディスペンサー、インクジェット、あるいはマイクロピペットを用いて、第1電極16及び第2電極17の間に滴下し、乾燥させることで、組成物15を形成する。
【0038】
生体分子に酵素を含む場合、酵素としては、例えば、対象物質と酵素との反応において電荷のやり取りがある酵素を用いることができる。この場合、化学反応により、セルロースナノファイバーと電荷交換が行われ、セルロースナノファーバーの電気抵抗が変化する。
【0039】
本発明の実施形態のセンサ11は、例えば、酵素による以下の触媒反応を利用したセンサとすることができる。
(A)グルコースオキシダーゼ(GODともいう)を利用したグルコースセンサ
β-D-グルコース+O→D-グルコノ-1,5-ラクトン+2H+O2+2e
(B)キサンチンオキシダーゼを利用したキサンチンセンサ
キサンチン+HO+O→尿酸+2H+O2+2e
(C)尿酸オキシダーゼを利用した尿酸センサ
尿酸+HO+O→5-ヒドロキシイソ尿酸+2H+O2+2e
(D)L-アミノ酸オキシダーゼを利用したアミノ酸センサ
L-アミノ酸+HO+O→2-オキソ酸+NH+2H+O2+2e
(E)コレステロールオキシダーゼを利用したコレステロールセンサ
コレステロール+O→コレスト-4-エン-3-オン+2H+O2+2e
(F)乳酸オキシダーゼを利用したラクテートセンサ
L-ラクテート+O→ピルビン酸塩+2H+O2+2e
【0040】
酵素は、1種でも良く、2種以上の複数種でもよい。酵素を2種以上用いる場合、全ての酵素反応において、セルロースナノファイバーとの電荷のやり取りを行う必要はなく、少なくとも1つの酵素反応において電荷のやり取りが生じればよい。
【0041】
組成物15の総質量に対する酵素の質量割合は、0.001質量%以上10質量%以下が好ましく、0.02質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0042】
組成物15に抗体を含む場合、セルロースナノファイバーに固定する抗体に特に制限はないが、以下の固定方法を用いても良い。(A)アミン基による共有結合:セルロースナノファイバー表面にアミン基を導入し、抗体のカルボキシル基と反応させることで共有結合を形成する。(B)ビオチン-スタプルタグ系結合:セルロースナノファイバー表面にビオチンを結合させ、ビオチンと特定のスタプルタグを持つ抗体との間で、強力な結合を形成する。(C)酢酸および酸触媒である過酸化モノカルボン酸などをセルロースと反応させて、セルロースナノファイバー上の水酸基(-OH基)をカルボキシル基(COOH基)に変換し、EDC(カルボジイミド)架橋反応を利用して、抗体上のアミノ基と化学結合させることができる。
【0043】
UV酸化やプラズマ照射により、セルロースナノファイバーの表面を活性化し、生体分子を固定することもできる。
【0044】
電流電圧制御手段18および電流電圧測定手段19は、ポテンショスタット/ガルバノスタット計測ステーション等の周知の電気化学測定装置であってもよい。
【0045】
センサの応答を増幅する手段として、組成物15に金属のナノ粒子を分散させて、その導電性を増加させることで応答を増幅できる。ナノ粒子の材料は、限定するものではないが、カーボン、Au、Pt、Agなどを利用することができる。ナノ粒子の直径は、2~100nmであることが望ましい。ナノ粒子の組成物中の濃度は、1~30重量パーセントであってよい。
【0046】
以上の構成のセンサ11は、水溶液中の対象物質を感度よく検出することができる。
【0047】
[バイオセンサによる対象物質の検出方法]
本発明の実施形態のセンサ11による対象物質の検出方法について説明する。センサ11の組成物15を、対象物質を含む試料である水溶液に浸漬させる。試料をゆっくり撹拌しながら、電流電圧制御手段18を用いて一定の電圧を印加する。必要に応じて、電圧印加手段20を利用して一定の電圧を印加する。電流電圧測定手段19を用いて、組成物15に流れる電流値を測定する。試料体積あたりの対象物質の質量割合に対する電流値の検量線を予め用意しておき、測定された電流値から対象物質の質量割合を求めることができる。対象物質の水溶液の量が少ないときは、組成物15の上に、対象物質を含む液滴を滴下して測定しても良い。
【0048】
なお、対象物質を含む試料をゆっくり撹拌する手法に変えて、対象物質を含む水溶液試料を流して組成物15に連続的に試料を接触させてもよい。その場合、それらを実現するために、送液ポンプやシリンジポンプ等を使用してもよい。
【0049】
[バイオセンサの製造方法]
以下に、酸化したシリコン基板(基板31)上に、本実施形態のセンサ11を作製する例について述べる。抵抗率が10-3Ω・cmのSi基板を高温で酸化し、40nm程度の厚さの酸化膜を形成する。フォトリソグラフィーとフッ酸を利用したエッチングとにより、酸化膜の第3電極12となる箇所をエッチングする。電極形成部位に40nmの厚さのCrを下地として堆積させた後、100nmの厚さのAuをその上に堆積し、フォトリソグラフィーの後に、レジストをマスクとして、ウエットエッチングによりCrとAuとからなる膜をエッチングし、第1電極16、第2電極17及び第3電極12を形成する。
【0050】
次に、組成物15を作製する。セルロースナノファイバー、生体分子、および生体分子とセルロースナノファイバーとを結合するリガンド分子を含む水溶液を作製する。組成物15を含む水溶液を、第1電極16と第2電極17との間隙を埋めるように、第1電極16及び第2電極17上、ならびに、計測領域となる絶縁膜32上に組成物を含む水溶液を滴下する。組成物を含む水溶液を滴下する方法は、特に限定されないが、インクジェットであることが好ましい。混合液を滴下後、乾燥させることで組成物15が形成される。このように形成された組成物15では、セルロースナノファイバーに生体分子が担持されている。セルロースナノファイバーに対し、混合する生体分子の比率は、特に規定しないが、例えば、0.01~20重量%、あるいは0.1~25重量%であってもよい。
【0051】
第1電極16及び第2電極17と、電流電圧制御手段18及び電流電圧測定手段19とを配線により接続し、第3電極12と電圧印加手段20とを配線で接続してセンサ11が完成する。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0053】
テンパックスガラス基板上に、スパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製「CFS-4ES」)により、厚さが40nmのクロム薄膜を形成した。このクロム薄膜上に、スパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製「CFS-4ES」)により、厚さが0.1μmの金薄膜を形成した。金薄膜上にポジ型フォトレジスト(東京応化社製、品番:OFPR800-30CP)を塗布し、フォトマスクを介して紫外線を照射し、現像液を用いて現像することでフォトレジストパターンを形成した。その後、クロムと金とを堆積させた後、エッチャントにより金属をエッチングしてパターニングすることにより、第1電極16及び第2電極17を作製した。第1電極16及び第2電極17間の最短距離は、50μmとした。第3電極には、Ag細線を利用した。
【0054】
一年生草であるケナフ由来のセルロースナノファイバーに対して、高速回転下でのホモミキサー、および超音波分散処理機を利用して、その粒を微細化し、遠心分離装置を用いて、粒度の粗いセルロースナノファイバーを除外した。
【0055】
セルロースナノファイバーの水溶液中での導電性を確認するため、1重量%のセルロースナノファイバー水溶液5ccに、100マイクロリットルの0.1Mの濃度のグルタルアルデヒドを加えて攪拌した水溶液を準備し、50μmのギャップがある第1電極16と第2電極17との間にマイクロピペットで滴下して、大気中において80℃で十分に乾燥させた。第1電極16及び第2電極17に、金属配線を導電性接着剤で接続し、電流電圧制御手段18(ケースレー社製、品番:2400)及び電流電圧測定手段19(ケースレー社製、品番:2400)を接続した。組成物15以外の電極表面には絶縁性の樹脂を塗布して、電流が流れないようにした。
【0056】
センサ11の組成物15を超純水に浸し、その電流-電圧特性を測定したところ、図4に示すように、セルロースナノファイバーに電流が流れ、液中で導電体として動作しており、セルロースナノファイバーがセンサ11の部材として使用できることを確認した。
【0057】
次に、センサ11に、直径が0.5mmのAgの配線を第3電極12として用い、前記超純水中における組成物15に近い位置に配置した。第3電極12に電圧印加手段20を接続し、印加する電圧(V)を0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5Vと変化させ、それぞれの第3電極12の値において、第1電極16と第2電極17との間の電圧-電流特性を測定した。その結果、図5に示すように、第3電極12の電位Vの変化により、I-V特性が変化しており、セルロースナノファイバーが、半導体材料のように振る舞い、その導電特性は電位に敏感であることが示されている。このことから、セルロースナノファイバーが、その表面電荷に敏感な材料であることが確認される。
【0058】
酵素センサとしての動作を確認するため、1重量%のセルロースナノファイバー水溶液5ccに、0.5mgのグルコースオキシターゼ酵素を加えて攪拌した後、100マイクロリットルの0.1Mの濃度のグルタルアルデヒドを加えて混合した水溶液を準備し、50μmのギャップがある第1電極16と第2電極17との間に、マイクロピペットで滴下して、大気中において80℃で十分に乾燥させた。第1電極16及び第2電極17に金属配線を導電性接着剤で接続し、電流電圧制御手段18(ケースレー社製、品番:2400)及び電流電圧測定手段19(ケースレー社製、品番:2400)を接続した。組成物15以外の電極表面には絶縁性の樹脂を塗布して、電流が流れないようにした。
【0059】
濃度が0~50mg/dlの範囲のグルコース水溶液を、マイクロピペットを用いて20μlの体積だけセンサ11の測定部に滴下し、電流電圧制御手段18により0.5Vの定電圧を印加し、その際の電流値を測定した。図6は、実施例1のセンサ11における、グルコース水溶液中のグルコース濃度に対する電流値を表すグラフである。試料に含まれるグルコースの濃度が高くなると、抵抗が小さくなり大きな電流が流れていることが分かった。グルコースの濃度とセンサ11の出力とが直線的な関係を示しており、センサ11の校正や補正が容易に行える。
【0060】
上記では、対象物質として、グルコースやクレアチニン測定を例に説明したが、それに限られるものではない。対象物質としては、ペプチジル-L-リシルペプチド、キサンチン、尿酸、L-アミノ酸、コレステロール、L-ラクテート、ピルビン酸、ヒスタミン、ペプチジル-L-リシルペプチド等が挙げられ、その際の酵素としては、それぞれタンパク質-リシン-6-オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ピルビン酸オキシターゼ、ジアミンオキシダーゼ、タンパク質-リシン-6-オキシダーゼをそれぞれ用いることで、測定が可能である。
【実施例0061】
抗原-抗体反応を利用したバイオセンサとしての動作を確認するため、人のタンパクGDF-15を測定するセンサ11を試作し、動作を検証した。1重量%のセルロースナノファイバー水溶液0.5ccに、30μlの人GDF-15抗体が含まれた水溶液(R&D Systems,Inc.社製「Part.893650」)を加え攪拌した後、10マイクロリットルの0.1Mの濃度のグルタルアルデヒドを加えて混合した水溶液を準備し、50μmのギャップがある第1電極16と第2電極17との間にマイクロピペットで滴下して、大気中において80℃で十分に乾燥させた。第1電極16及び第2電極17に金属配線を導電性接着剤で接続し、電流電圧制御手段18(ケースレー社製、品番:2400)及び電流電圧測定手段19(ケースレー社製、品番:2400)を接続した。組成物15以外の電極表面には絶縁性の樹脂を塗布して、電流が流れないようにした。
【0062】
GDF-15タンパク質(R&D Systems,Inc.社製「PART.893651」)を純水に薄め、0~2400pg/mlの濃度のタンパクの水溶液を準備し、この水溶液をセンサ11の測定部に20μlだけ滴下して、各濃度における電流値を測定した。測定の際に第1電極16と第2電極17との間に0.5Vの電圧を印加し、流れる電流を測定した。その結果、図7に示すように、タンパク質GDF-15の濃度が増えると、流れる電流が大きくなることが分かった。試料体積あたりの対象物質の質量割合に対する電流値の検量線を予め用意しておき、測定された電流値から対象物質の質量割合を求めることができる。
【0063】
また、人GDF-15抗体を含む水溶液に、3重量%の金ナノ粒子(直径2nm)を100μlだけ混合し、組成物15中に金の微粒子を分散させたところ、流れる電流がおよそ2倍に増幅した。つまり、導電性のナノ粒子を分散させることで導電性が増え、センサ11の応答を増幅できることが分かった。
【0064】
ここでは、対象物質として、GDF-15タンパク質の測定例を示したが、これに限られるものではなく、測定が可能である。抗原-抗体反応を示す物質の組合せであれば、抗体をセルロースナノファイバー上に固定し、抗体と結合する抗原を選択的に検出することが可能である。同様に、抗原をセルロースナノファイバー上に固定し、抗原抗体反応を利用して結合した抗原を検出することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
11 センサ
12 第3電極
13 センサ素子
15 組成物
16 第1電極
17 第2電極
18 電圧電流制御手段
19 電圧電流測定手段
20 電圧印加手段
31 基板
32、32’ 絶縁膜

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7