(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025052834
(43)【公開日】2025-04-07
(54)【発明の名称】反応媒体および水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20250328BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C01B3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161776
(22)【出願日】2023-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】児玉 竜也
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE07
(57)【要約】
【課題】高い反応活性を有し、効率よく水素を製造できる反応媒体を提供すること、および、効率よく水素を製造できる水素の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の反応媒体は、水を熱分解して水素を製造する方法において用いられる反応媒体であって、FeとMgとNiとの複合金属酸化物を含むことを特徴とする。前記複合金属酸化物は、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxで表されることが好ましい。本発明の水素の製造方法は、請求項1に記載の反応媒体を熱還元する第1の工程と、熱還元された前記反応媒体を水と接触させ、前記反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる第2の工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を熱分解して水素を製造する方法において用いられる反応媒体であって、
FeとMgとNiとの複合金属酸化物を含むことを特徴とする反応媒体。
【請求項2】
前記複合金属酸化物は、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxで表される請求項1に記載の反応媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の反応媒体を熱還元する第1の工程と、
熱還元された前記反応媒体を水と接触させ、前記反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる第2の工程とを有する水素の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程での反応温度が1200℃以上1400℃以下である請求項3に記載の水素の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程での反応温度が1000℃以上1200℃以下である請求項3に記載の水素の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程と前記第2の工程とを含む一連の処理を繰り返し行う請求項3に記載の水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応媒体および水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を集光して得られる熱を利用して水熱分解により水素を製造する方法として、酸化セリウム(CeO2、セリア)を反応媒体として用いた二段階水熱分解サイクルが有望視されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
この二段階水熱分解サイクルでは、加熱によりCeO2を構成する酸素原子の一部を引き抜き、不定比酸化物を得る熱還元の工程と、当該不定比酸化物と水蒸気との反応(水分解反応)により水素を得る工程とを行う。
【0004】
酸化セリウム(CeO2)による二段階水熱分解サイクルでは、熱力学的な観点から、熱還元の工程は1500℃以上、水分解反応の工程は1000℃以下の温度で行われていた。
【0005】
このような二段階水熱分解サイクルによる水素製造のコストに関しては、熱還元工程における処理温度が1500℃以上であると熱損失が大きく、反応器材料もコスト高になるという問題点があった。さらに、1500℃という高温を太陽光の集光で得るためには、太陽光集光システムにおいて、より高い集光度が必要であり、反射鏡の設置数の増加や2次、3次反射鏡で集光度を高める必要が生じ、エネルギー損失が高くなる、コスト高になるという問題があった。
【0006】
ソーラー反応器のエネルギー損失に関しては、従来の酸化セリウムを用いた二段階水熱分解サイクルでは、熱還元の工程と水分解反応の工程での温度差が500℃以上になる。このような大きな温度差で反応器の温度を温度スイングさせることで、熱損失が大きくなるという問題点があった。
【0007】
一方、反応媒体については、韓国の浦項工科大学(POSTECH)の研究グループが、マグネシウム、ニッケル、コバルト、鉄を等モルずつ含有させた複合金属酸化物Fe0.25Co0.25Ni0.25Mg0.25Ox(MNCFO)において、熱還元工程で生成する岩塩構造のウスタイトを高エントロピー化することにより、二段階水熱分解サイクルにおいて、酸化セリウム(CeO2)を上回る反応活性を実現し、熱還元工程の温度を1300℃に低温化できることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0008】
しかし、このような複合金属酸化物においても、反応媒体の反応活性や、水素製造におけるネルギー効率が十分に高いとは言い難く、反応媒体の反応活性、水素製造における効率のさらなる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N. Gokon, T. Suda, T. Kodama “Thermochemical reactivity of 5-15 mol% Fe, Co, Ni, Mn-doped cerium oxides in two-step water-splitting cycle for solar hydrogen production”, Thermochimica Acta, 617 (2015) 179-190.
【非特許文献2】N. Gokon, T. Suda, T. Kodama “Oxygen and hydrogen productivities and repeatable reactivity of 30-mol%-Fe, Co-, Ni-, Mn-doped CeO2-δ for thermochemical two-step water splitting cycle”, Energy, 90 (2015) 1280-1289.
【非特許文献3】Shang Zhai et. al., Energy Environ. Sci., 11, 2018, pp.2172-2178.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高い反応活性を有し、効率よく水素を製造できる反応媒体を提供すること、および、効率よく水素を製造できる水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)~(6)の本発明により達成される。
(1) 水を熱分解して水素を製造する方法において用いられる反応媒体であって、
FeとMgとNiとの複合金属酸化物を含むことを特徴とする反応媒体。
【0012】
(2) 前記複合金属酸化物は、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxで表される前記(1)に記載の反応媒体。
【0013】
(3) 前記(1)または(2)に記載の反応媒体を熱還元する第1の工程と、
熱還元された前記反応媒体を水と接触させ、前記反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる第2の工程とを有する水素の製造方法。
【0014】
(4) 前記第1の工程での反応温度が1200℃以上1400℃以下である前記(3)に記載の水素の製造方法。
【0015】
(5) 前記第2の工程での反応温度が1000℃以上1200℃以下である前記(3)または(4)に記載の水素の製造方法。
【0016】
(6) 前記第1の工程と前記第2の工程とを含む一連の処理を繰り返し行う前記(3)ないし(5)のいずれかに記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い反応活性を有し、効率よく水素を製造できる反応媒体を提供すること、および、効率よく水素を製造できる水素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】水素製造装置の好適な実施形態を示す模式図である。
【
図2】実施例において反応媒体の製造方法を説明する図である。
【
図3】実施例1の反応媒体について、二段階水熱分解サイクルを行った際のTGA重量変化を示す図である。
【
図4】実施例1の反応媒体について、各サイクルにおける水素および酸素の生成量とH
2/O
2モル比とを示す図である。
【
図5】実施例1および比較例1~5の反応媒体について、1サイクルあたりの水素および酸素の平均生成量とH
2/O
2モル比とを示す図である。
【
図6】実施例1の反応媒体について、熱還元温度を変更した場合の、1サイクルあたりの水素および酸素の生成量とH
2/O
2モル比とを示す図である。
【
図7】示差走査熱量測定装置の構成を模式的に示す図である。
【
図8】実施例1、比較例3および比較例6の反応媒体についての示差走査熱量の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
[1]反応媒体
まず、本発明の反応媒体について説明する。
【0020】
本発明に係る反応媒体は、水を熱分解して水素を製造する方法において用いられる反応媒体であって、FeとMgとNiとの複合金属酸化物を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明では、従来の4成分系の岩塩-スピネル型高エントロピー酸化物である、FeとCoとNiとMgとの複合金属酸化物(MNCFO)と比較して、構成金属元素を少なくすることで、反応媒体の酸化還元反応に直接寄与するFeイオンの含有量を増加させ、水素製造能を高めた。
【0022】
具体的には、本発明では、従来の複合金属酸化物(MNCFO)を構成するFeとCoとNiとMgとのうちCoを除き、FeとMgとNiとの複合金属酸化物とすることで、Feイオンの含有量を増加させつつ、高エントロピー効果は十分に得ることができる。
【0023】
複合金属酸化物の構成金属元素を4種から3種に減らすことで、合成原料、具体的には、例えば、後述する実施例において示されるように、構成金属の硝酸塩の種類を減らすことができるほか、合成反応もより簡素化することができる。
【0024】
特に、Coは、希少金属であるため高価であり、また、産出地が政情的に不安定な地域に偏在しているため、安定した供給は難しい。従来の4成分系の複合金属酸化物(MNCFO)からCoを除外することで、原料コストを抑えられるとともに、反応媒体の安定した生産が可能となる。
【0025】
また、MgOとNiOは、比較的高い融点を有する。例えば、MgOの融点は、2852℃であり、NiOの融点は、1984℃である。従来の4成分系の複合金属酸化物(MNCFO)の構成金属元素うち、MgおよびNiは除外せず、本発明の3成分系の複合金属酸化物に含有させることにより、本発明の複合金属酸化物は、高い融点を有するものとなり、高温処理時の複合金属酸化物の溶融や焼結を抑える効果も期待できる。
【0026】
そして、このような反応媒体を用いて水素を製造することで、酸化還元反応が好適に進行し、より効率よく水素を製造することができる。
【0027】
反応媒体を構成する複合金属酸化物は、融点が1500℃以上であるのが好ましい。
複合金属酸化物の融点が、後述する水素の製造方法での熱還元工程(第1の工程)における処理温度(例えば、1400℃)以下である場合、複合金属酸化物の粒子は、熱還元時の温度によって融解してしまい、さらに、熱還元に伴う焼結により、表面積が著しく低下して反応媒体の反応活性が大きく低下してしまう。
【0028】
反応媒体を構成する複合金属酸化物の融点が、上記のように十分に高いことで、熱還元工程における反応媒体の反応活性の低下を抑制することができる。
【0029】
本実施形態の複合金属酸化物は、FeとMgとNiとを含むものであれば、その組成は限定されるものではないが、各金属を等モルずつ含有するのが好ましい。言い換えると、本実施形態の複合金属酸化物は、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxで表されるものであるのが好ましい。
これにより、上述した本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0030】
本実施形態の以下の説明では、反応媒体を構成する複合金属酸化物が、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxである場合について中心に説明する。
【0031】
本実施形態の反応媒体は、従来の反応媒体よりも高い反応活性を有する。そのため、後述するような二段階水熱分解サイクルにおいて、熱還元工程の処理温度を、従来よりも低い温度とした場合でも、目的とする反応を十分に進行させることができる。
これにより、水素製造のエネルギー効率を向上することができる。
【0032】
例えば、後述する実施例において示されるように、本実施形態の反応媒体(Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox)を用いて、熱還元温度:1400℃-水分解温度:1000℃というサイクルで反応活性を試験した場合に、従来のMNFCO(Fe0.25Co0.25Ni0.25Mg0.25Ox)の約1.47倍の水素生成量が得られている。これは、従来の酸化セリウム(CeO2)を用いた、熱還元温度:1400℃-水分解温度:1000℃というサイクルで反応を行った場合の約10.5倍の水素生成量である。
【0033】
本実施形態の反応媒体では、熱還元工程での処理温度を従来よりも低くすることができ、かつ、二段階水熱分解サイクルでの温度差を小さくすることができ、水素製造のエネルギー効率をより高いものとすることができる。
【0034】
特に、本実施形態の反応媒体(Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox)を用いて水素を製造することで、酸化還元反応が好適に進行し、サイクル性良く水素と酸素とが生成し、H2/O2モル比は化学量論比の2に近く、安定して化学量論比で反応が進行する。
【0035】
このように、水を熱分解して水素を製造する方法において、本実施形態の反応媒体を用いることで、水素製造量、製造効率を大きく向上できる。
【0036】
反応媒体の体積基準の平均粒径は、10μm以上300μm以下であるのが好ましい。
これにより、反応媒体の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができるとともに、反応媒体を容器内に収納した際に、粒子間に適度な隙間を形成することができ、後述する水素の製造方法の第1の工程(熱還元工程)および第2の工程(水分解工程)において、ガス(反応ガス、キャリアガス、生成ガス)をより好適に流通させることができる。
【0037】
なお、反応媒体の平均粒径は、例えば、サンプルをメタノールに添加し、超音波分散器で3分間分散した分散液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA-II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定することにより求めることができる。
【0038】
本実施形態の反応媒体は、表面の少なくとも一部が上記の材料(FeとMgとNiとの複合金属酸化物)で構成されていればよく、例えば、上記の材料(FeとMgとNiとの複合金属酸化物)以外の材料で構成された基部(担体)の表面に、上記の材料(FeとMgとNiとの複合金属酸化物)が被覆された構成のものであってもよい。この場合、基部(担体)としては、例えば、ジルコニアを用いることができる。
【0039】
[2]水素の製造方法
次に、本発明の水素の製造方法について説明する。
【0040】
本発明の水素の製造方法は、上述した反応媒体を熱還元する第1の工程(熱還元工程)と、熱還元された前記反応媒体を水と接触させ、前記反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる第2の工程(水分解工程)とを有する。
【0041】
本発明では、複合金属酸化物において、Feイオンの含有量を増加させたことにより水素製造能(反応活性)が向上した反応媒体を用いて水素を製造することで、酸化還元反応を好適に進行させることができ、効率よく水素を製造することができる。
【0042】
本発明の水素の製造方法では、反応に用いる熱は、いかなるものであってもよく、太陽光を集光して得られる熱でなくてもよいが、以下、太陽光を集光して得られる熱である場合について中心的に説明する。
【0043】
本発明においては、第1の工程および第2の工程は、それぞれ、少なくとも1回行えばよいが、第1の工程と第2の工程とを含む一連の処理を繰り返し行うのが好ましい。
【0044】
これにより、全体として処理される水(水蒸気)の量を増やすことができ、水素の生産性をより向上させることができるとともに、2つの工程間での温度差を小さくすることによる効果が繰り返し発揮されるため、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0045】
なお、本発明においては、第1の工程の前処理工程を有していてもよいし、第1の工程と第2の工程との間に中間処理工程を有していてもよいし、第2の工程の後処理工程を有していてもよい。前処理工程、後処理工程は、前記一連の処理に含まれるものであってもよいし、前記一連の処理に含まれないものであってもよい。
【0046】
また、前記一連の処理を繰り返し行う場合、各サイクルで、少なくとも1つの工程において処理条件を変更してもよい。
【0047】
[2-1]第1の工程
第1の工程(熱還元工程)では、反応媒体を熱還元する。
反応媒体としては、上述したような複合金属酸化物を含むものが用いられる。
【0048】
これにより、第1の工程および第2の工程での反応活性を向上させ、水素製造のエネルギー効率、水素の生産性を向上させることができる。
【0049】
具体的には、第1の工程における還元反応、および、第2の工程における酸化反応を好適に進行させることで、反応活性を向上させることができる。
【0050】
本工程での反応は、下記式(1)で示すことができる。
Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox(スピネル構造)→ Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox-σ(岩塩構造)+σ/2O2・・・(1)
【0051】
本工程での反応温度(T1)は、1200℃以上1400℃以下であるのが好ましく、1300℃以上1400℃以下であるのがより好ましく、1350℃以上1400℃以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
これにより、本工程での反応率をより高いものとしつつ、本発明の水素の製造方法全体としてのエネルギー効率をより向上させることができる。
【0053】
特に、上述した本発明の反応媒体は、従来の反応媒体よりも高い反応活性を有しているので、本発明の反応媒体を用いることで、熱還元工程の温度を、従来の熱還元工程における温度、例えば、1500℃よりも低温化することができる。
【0054】
これにより、熱還元工程(第1の工程)と、水分解工程(第2の工程)との温度差を小さくすることができ、よりエネルギー効率に優れたものとなる。
【0055】
より具体的には、2つの工程の温度差が大きいと、例えば、反応器での温度サイクルをする際のエネルギー損失が大きくなり、エネルギー効率が低下するが、本発明においては、2つの工程での温度差を好適に小さくすることができるので、このような問題が生じず、水素製造におけるエネルギー効率を特に優れたものとすることができる。
【0056】
熱還元工程における処理温度を、従来よりも低温化することにより、再放射・熱伝導・対流による熱損失が低減するとともに、反応器の構成材料として、より安価な材料を用いることが可能となる。また、処理温度を低温化することで、太陽集光システムにおいて、従来のような高温(1500℃以上)の場合と比較して、より低い集光度で反応ができるようになり、反射鏡の設置数を減らすことができ、2次、3次反射鏡が不要となる。これによりエネルギー効率が高くなり、コストを低減できる。
その結果、本発明では、水素製造量、エネルギー効率を大きく増大できる。
【0057】
また、2つの工程での温度差を小さくできることで、各工程において好適な温度に調整するのに要する時間を短縮することができる。したがって、水素の生産性が向上する。
【0058】
また、2つの工程での温度差が小さいことで、水素の製造に用いる装置(反応器)への負担も抑制することができる。その結果、長期間にわたって安定的に水素製造を行うことができ、また、水素の製造に用いる装置の長寿命化やメンテナンスの簡略化等の効果も得られる。
【0059】
また、繰り返しの大きな温度変化による衝撃に対して高い耐性が要求されず反応器の構成材料の選択の幅が広がり、特殊な装置構成(例えば、2つの工程を異なる反応器の異なる部位で行う構成等)でなく比較的単純な装置構成であっても、水素製造時のエネルギー効率や水素の生産性を十分に優れたものとすることができるため、水素製造装置の製造コストを抑制することができる。
また、水素製造装置のランニングコストの低減にも寄与することができる。
【0060】
また、このように、従来の太陽光を利用した二段階水熱分解サイクルに比べて、熱還元反応を低い温度で行うことにより、従来では二段階水熱分解サイクルの実施に不適であったサンベルト以外の地域(太陽光の光量が比較的少ない地域)でも、二段階水熱分解サイクルによる水素の製造を好適に行うことができる。すなわち、従来に比べて、水素製造を好適に行うことが可能な地域を拡大することができる。
【0061】
また、従来の太陽光を利用した二段階水熱分解サイクルに比べて、熱還元反応を低い温度で行うことにより、反応媒体の温度を好適な温度まで上昇させるのに要する時間を短縮することができ、水素の生産性がさらに向上する。また、水素の製造に用いる装置(反応器)への負担も抑制することができる。
【0062】
なお、本工程における処理温度が経時的に変化する場合、T1としては、本工程での最高処理温度を採用することができる。
【0063】
本工程での処理時間(前記一連の処理を繰り返し行う場合は、1回の第1の工程での処理時間)は、20分間以上180分間以下であるのが好ましく、20分間以上120分間以下であるのがより好ましく、20分間以上30分間以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
これにより、反応媒体の熱還元反応を十分に進行させることができるとともに、短時間の処理での水素の製造が可能となり、水素の生産性をより向上させることができる。
【0065】
なお、本工程での処理時間としては、水蒸気を含むガス(水蒸気の分圧が10kPa以上のガス)を供給していない状態で、かつ、反応媒体の温度が1100℃以上である時間を採用することができる。
【0066】
本工程は、通常、酸素ガス分圧の低い雰囲気下で行う。
具体的には、本工程を行う際の雰囲気中の酸素ガス分圧は、1kPa以下であるのが好ましく、0.1kPa以下であるのがより好ましい。
【0067】
これにより、反応媒体の還元反応を好適に進行させることができ、また、一旦還元された反応媒体が本工程において不本意に再度酸化されてしまうことを効果的に防止することができる。
【0068】
本工程は、通常、反応媒体を収容する容器(反応器)内に、アルゴン等の不活性ガスや窒素ガスを供給しつつ行う。
【0069】
これにより、反応媒体の還元反応により生じた酸素を、反応媒体を含む系から効率よく排出することができ、当該酸素がいったん還元された反応媒体を、不本意に酸化してしまうことをより効果的に防止することができる。また、反応媒体が粒子状をなすものである場合に、当該反応媒体を収容する容器内において、当該反応媒体を効率よく流動させることができ、本工程での反応効率をより向上させることができる。
【0070】
なお、本工程は、真空環境下、減圧環境下(例えば、10kPa以下の環境下)で行ってもよい。
【0071】
[2-2]第2の工程
第2の工程(水分解工程)では、第1の工程で熱還元された反応媒体を水と接触させ、反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる。
【0072】
本工程での反応は、下記式(2)で示すことができる。
Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox-σ(岩塩構造)+δH2O → Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox(スピネル構造)+δH2 ・・・(2)
(ただし、式中、1≦x≦2、0<δ≦xである。)
【0073】
本工程での反応温度(T2)は、800℃以上1200℃以下であるのが好ましく、900℃以上1200℃以下であるのがより好ましく、1000℃以上1200℃以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、本工程での反応率を十分に高くしつつ、本発明の水素の製造方法全体としてのエネルギー効率をより向上させることができる。
【0075】
なお、本工程における処理温度が経時的に変化する場合、T2としては、本工程での最高処理温度を採用することができる。
【0076】
本工程での処理時間(前記一連の処理を繰り返し行う場合は、1回の第2の工程での処理時間)は、10分間以上150分間以下であるのが好ましく、10分間以上100分間以下であるのがより好ましく、10分間以上80分間以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
これにより、水分解反応(水素の生成、反応媒体の酸化反応)を十分に進行させることができるとともに、短時間の処理での水素の製造が可能となり、水素の生産性をより向上させることができる。
【0078】
なお、本工程での処理時間としては、水蒸気を含むガスを供給している状態で、かつ、反応媒体の温度が950℃以上である時間を採用することができる。
【0079】
本工程は、通常、反応媒体を収容する容器(反応器)内に、水蒸気を供給しつつ行う。
これにより、熱還元された反応媒体と水との反応をより安定的に進行させることができ、水素の発生効率をより優れたものとすることができる。また、発生した水素の回収が容易となる。また、反応媒体が粒子状をなすものである場合に、当該反応媒体を収容する容器内において、当該反応媒体を効率よく流動させることができ、本工程での反応効率をより向上させることができる。
【0080】
本工程を行う際の雰囲気中の水蒸気分圧は、1kPa以上1MPa以下であるのが好ましく、10kPa以上100kPa以下であるのがより好ましい。
【0081】
これにより、目的とする反応をより好適に進行させることができ、水素の生産性をより向上させることができる。
【0082】
また、本工程は、反応媒体を収容する容器(反応器)内に、水蒸気とともに不活性ガス、窒素ガス等の本工程での反応において不活性なガス(キャリアガス)を供給しつつ行うのが好ましい。
【0083】
これにより、熱還元された反応媒体と水との反応をさらに安定的に進行させることができ、水素の発生効率をさらに優れたものとすることができる。また、発生した水素の回収がより容易となる。
【0084】
本工程において反応媒体を収容する容器(反応器)内に供給するガス中における水蒸気の分圧をP1[Pa]、キャリアガスの分圧をP2[Pa]としたとき、0.2≦P1/P2≦0.999の関係を満足するのが好ましく、0.3≦P1/P2≦0.995の関係を満足するのがより好ましい。
【0085】
これにより、目的とする反応をより好適に進行させることができ、水素の生産性をより向上させることができる。
【0086】
本工程は、通常、酸素ガス分圧の低い雰囲気下で行う。
具体的には、本工程を行う際の雰囲気中の酸素ガス分圧は、1kPa以下であるのが好ましく、0.1kPa以下であるのがより好ましい。
【0087】
これにより、第1の工程で熱還元された反応媒体が水素の発生に寄与しない酸化反応(酸素ガスによる酸化反応)により酸化されてしまうことを効果的に防止することができ、熱還元された反応媒体と水との反応をより好適に進行させることができる。
【0088】
[3]製造装置
以下、本発明の水素の製造方法に用いることのできる水素製造装置について説明する。
図1は、水素製造装置の好適な実施形態を示す模式図である。
【0089】
水素製造装置100は、ヘリオスタットと呼ばれる地上に設置された地上反射鏡(太陽光集光手段)20と、図示しないタワーに設置されたタワー反射鏡(太陽光集光手段)30と、タワー反射鏡30で反射された光が入射して、前述した反応媒体の反応が行われる反応器(容器)10とを備えている。
【0090】
図示の水素製造装置100では、地上反射鏡20とタワー反射鏡30とによりビームダウン型の集光システムが構成されている。
【0091】
そして、このビームダウン型の集光システムにより、太陽光Sが集光されて反応器10に収容された流動層2の上面中央部照射されるように構成されている。
【0092】
反応器10は、前述した第1の工程、第2の工程での温度に耐えうる耐熱性の材料で構成されている。反応器10としては、例えば、ステンレス合金およびインコネル合金で構成されたものが挙げられる。
反応器10には、前述した反応媒体を含む流動層2が収容されている。
【0093】
また、反応器10の底部には、流動層2を構成する反応媒体の粒子を反応器10内に保持することができるとともに、ガス導入手段4、5から導かれたガスを反応器10の内部に導入するガス導入板3が設けられている。
【0094】
ガス導入板3には、微小な多数の開口部が設けられている。
ガス導入手段(低酸素分圧ガス導入手段)4は、反応器10内に第1の工程で用いるガスを導入する流路(管路)であり、ガス導入手段(水蒸気含有ガス導入手段)5は、反応器10内に第2の工程で用いるガスを導入する流路(管路)である。
【0095】
反応器10の上部には、太陽光Sが透過できるように、光透過性を有するとともに、耐熱性を有する窓6が設けられている。窓6の構成材料としては、例えば、石英等が挙げられる。
【0096】
反応器10の上部の側方には、流動層2を通過したガスを取り出すための取り出し口8、9が設けられている。
【0097】
より具体的には、反応器10には、第1の工程において流動層2を通過したガス(反応により生じた酸素ガスを含むガス)を取り出す取り出し口(酸素含有ガス取り出し口)8と、第2の工程において流動層2を通過したガス(反応により生じた水素ガスを含むガス)を取り出す取り出し口(水素含有ガス取り出し口)9とが設けられている。
【0098】
取り出し口8、9には、それぞれ、シャッター(図示せず)が設けられている。
これにより、第1の工程において流動層2を通過したガスと、第2の工程において流動層2を通過したガスとを、分離して回収することができる。
【0099】
より具体的には、第1の工程においては、取り出し口8を開いておき、取り出し口9を閉じておくことにより、反応により生じた酸素ガスを含むガスを取り出し口8から回収し、第2の工程においては、取り出し口8を閉じておき、取り出し口9を開いておくことにより、反応により生じた水素ガスを含むガスを取り出し口9から回収する。
【0100】
これにより、回収されるガスにおいて、酸素ガスを含むガスと、水素ガスを含むガスとが、不本意に混合してしまうことを効果的に防止することができる。
【0101】
以下、水素製造装置100を用いた水素の製造について説明する。
まず、前述した第1の工程を開始する前に、ガス導入手段(低酸素分圧ガス導入手段)4から導かれた低酸素分圧ガスを、ガス導入板3を介して、反応媒体を収容する反応器10内に流入させ、流動層2を流動させて内循環流を形成する。
【0102】
次に、反応器10内に低酸素分圧ガスを流入させつつ、窓6を介して、太陽光集光手段20、30により集光した太陽光Sを反応器10内の反応媒体(流動層2)内部に照射することにより、流動層2が所望の温度となるように加熱し、第1の工程での反応を進行させる。
【0103】
次に、反応器10へ投入する太陽光Sの量(単位時間当たりの量)を減らし反応媒体(流動層2)の温度を所望の温度となるように低下させるとともに、反応器10の内部に供給するガスを低酸素分圧ガスから水蒸気含有ガスに切り替える。すなわち、ガス導入手段4からのガスの供給を中断するとともに、ガス導入板3を介してガス導入手段5から反応器10の内部に水蒸気含有ガスを供給する。これにより、第2の工程を進行させることができる。
【0104】
その後、第1の工程と第2の工程とを含む一連の処理を所望の回数だけ繰り返し行う。
第2の工程の後に再び第1の工程を行う場合、反応器10へ投入する太陽光Sの量(単位時間当たりの量)を増やし反応媒体(流動層2)の温度を所望の温度となるように上昇させるとともに、反応器10の内部に供給するガスを水蒸気含有ガスから低酸素分圧ガスに切り替える。すなわち、ガス導入手段5からのガスの供給を中断するとともに、ガス導入板3を介してガス導入手段4から反応器10の内部に低酸素分圧ガスを供給する。
【0105】
上記のように、第1の工程および第2の工程を同一の容器内で行うこと(特に、同一の容器の同一の部位で行うこと)により、水素製造装置の構成を単純化することができ、水素製造装置の製造コストを抑制することができるとともに、水素製造装置の設置等が容易になる。
【0106】
また、上記のように、第1の工程および第2の工程を、粉末状の反応媒体を含む流動層2を反応容器内で循環させつつ行うことにより、水素の生産性をより向上させることができる。
【0107】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0108】
例えば、本発明の水素の製造方法は、前述した水素製造装置を用いて実施するものに限定されず、他の構成の水素製造装置を用いて実施してもよい。より具体的には、前述した実施形態では、第1の工程および第2の工程を水素製造装置(反応器)の同一の部位で行う場合について中心に説明したが、例えば、第1の工程と第2の工程とを水素製造装置(反応器)の異なる部位で行うようにしてもよい。
【0109】
また、前述した実施形態では、反応媒体が粒子状(粉末状)である場合について、中心に説明したが、反応媒体は、いかなる形状のものであってもよく、例えば、多孔質体(例えば、発泡体)で構成された成形体等であってもよい。これにより、第1の工程、第2の工程において、反応媒体とガスとを好適に接触させることができ、目的とする反応を好適に進行させることができる。
【0110】
また、前述した実施形態では、太陽光による熱を用いて反応を行う場合について中心に説明したが、本発明では、反応に利用する熱の少なくとも一部として、太陽光以外による熱を用いてもよい。
【実施例0111】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0112】
なお、以下の説明において、特に温度条件を示していない処理は、室温(23℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても、特に温度条件を示していないものは、室温(23℃)、相対湿度50%における数値である。
【0113】
[4]反応媒体の製造
以下のようにして、反応媒体を製造した。
図2は、実施例において反応媒体の製造方法を説明する図である。
【0114】
(実施例1)
まず、硝酸鉄(Fe(NO3)3・9H2O)と、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2・6H2O)と、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)とを等モルずつ秤量し、混合し、混合物を得た。
【0115】
次に、上記混合物:100質量部を、400質量部のイオン交換水に溶解し、水溶液を得た。
【0116】
上記水溶液に、金属イオン総モル量の60%量のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加し、さらに、金属イオン総モル量の75%量のクエン酸を添加した後、300rpmで回転するスターラーで攪拌しつつ、水酸化アンモニウム水溶液を添加することにより、pHを11に調整した。
【0117】
その後、300rpmでの攪拌を継続しつつ、この水溶液を200℃で加熱した。水溶液がゲル化したら攪拌を停止した。200℃での加熱時間は、約5時間であった。
【0118】
ゲル化した水溶液を300℃で一晩乾燥した。これにより、ゲルはほぼ固体化した。
固体化したゲルを、ボックス炉を用いて300℃で1時間加熱した。
【0119】
さらに、電気炉を用いて空気中で焼成した。昇温は、800℃までは10℃/分の昇温速度で加熱し、800℃から1000℃までは5℃/分の昇温速度で加熱し、1000℃で1時間保持した。
【0120】
その後、800℃までは5℃/分の降温速度で冷却し、その後、自然冷却することにより、Fe0.33Mg0.33Ni0.33Oxで構成された反応媒体を得た。
【0121】
XRD測定を行ったところ、得られたFe0.33Mg0.33Ni0.33Oxは、スピネル構造の単相であった。
【0122】
(比較例1)
金属の硝酸塩として、硝酸鉄と硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)と硝酸マグネシウムとを用いた以外は、上記実施例1と同様にしてFe0.33Co0.33Mg0.33Oxで構成された反応媒体を得た。
【0123】
XRD測定を行ったところ、得られたFe0.33Co0.33Mg0.33Oxは、スピネル構造の単相であった。
【0124】
(比較例2)
金属の硝酸塩として、硝酸鉄と硝酸コバルトと硝酸ニッケルとを用いた以外は、上記実施例1と同様にしてFe0.33Co0.33Ni0.33Oxで構成された反応媒体を得た。
【0125】
XRD測定を行ったところ、得られたFe0.33Co0.33Ni0.33Oxは、スピネル構造の単相であった。
【0126】
(比較例3)
金属の硝酸塩として、硝酸鉄と硝酸コバルトと硝酸ニッケルと硝酸マグネシウムとを用いた以外は、上記実施例1と同様にしてFe0.25Co0.25Ni0.25Mg0.25Ox(MNCFO)で構成された反応媒体を得た。
【0127】
XRD測定を行ったところ、Fe0.25Co0.25Ni0.25Mg0.25Oxは、岩塩構造とスピネル構造との複相であった。
【0128】
(比較例4)
まず、所定量のCe(NO3)3・6H2OおよびMnSO4・5H2Oを水中に投入し、室温下で撹拌し、これらの溶液を得た。
【0129】
次に、この水溶液を撹拌しつつ、この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを8.5に調整した。これにより、沈殿物が生じた。
【0130】
次に、沈殿物を遠心分離により回収し、精製水およびアセトンで洗浄し、室温で24時間乾燥させた。
【0131】
その後、900℃×2時間の焼成処理を施し、MnがドープされたCeO2で構成された反応媒体を得た。
【0132】
このようにして得られた反応媒体は、CeO2を構成するCeに対するMnの置換率が15mol%のものであった。
【0133】
(比較例5)
MnSO4・5H2Oを用いなかった以外は、前記比較例4と同様にして反応媒体を調製した。
【0134】
このようにして得られた反応媒体は、CeO2で構成されたもの(Ce以外の金属がドープされていないもの)であった。
【0135】
(比較例6)
市販のFe3O4を用意し、これを反応媒体とした。
【0136】
[5]水素の製造
実施例および各比較例で製造した反応媒体を用いて、それぞれ、以下のようにして水素の製造を行った。
水素の製造には、熱天秤(Rigaku社製、TG8120)を用いた。
【0137】
まず、上記で得られた反応媒体を所定量(33mg~38mg)用意し、直径5mm、深さ5mmの白金カップに充填して、さらに加熱炉内に設置し、電気炉内の雰囲気を窒素ガスで置換した。なお、比較例5のCeO2は反応性が低く、重量変化が乏しいため、比較例5については、試料量を66mgとして行った。
【0138】
次に、電気炉内に窒素ガスを300mL/分で流入させつつ、昇温速度30℃/分で1000℃まで昇温、20℃/分で熱還元温度(1400℃)まで昇温し、1400℃で10分間保持した。このとき、電気炉内の圧力が100kPaとなるように調整した。このとき用いた窒素ガスは、純度が99.9%以上のものであり、電気炉内における水蒸気の分圧、酸素ガスの分圧は、いずれも、0.1kPa以下であった。
【0139】
その後、電気炉内の温度を降温速度20℃/分で1000℃まで放冷し、水分解温度(1000℃)に到達した時点で、電気炉内への流入ガスを水蒸気と窒素ガスとの混合ガスに切り替えた。混合ガス中の窒素ガスの流入量は50mL/分とした。このとき、電気炉内の圧力が100kPaとなるように調整した。このときの電気炉内における窒素ガスの分圧は70kPa、水蒸気の分圧は30kPaであり、酸素ガスの分圧は、0.1kPa以下であった。
【0140】
上記の窒素ガス雰囲気下での熱処理(特に、1100℃以上での熱処理)が反応媒体の熱還元反応を行う第1の工程であり、水蒸気と窒素ガスとの混合ガスの雰囲気下での熱処理が水分解反応を行う第2の工程である。
【0141】
第2の工程を60分間行った後、電気炉内への流入ガスを上記第1の工程(熱還元工程)と同様の窒素ガスに切り替えるとともに、熱還元温度(1400℃)まで昇温させ、以下、前記と同様の処理を繰り返し行い、合計で、第1の工程、第2の工程を、それぞれ、4回行った。言い換えると、第1の工程と第2の工程とのセットを、4サイクル繰り返して行った。
【0142】
得られた試料の重量変化量から、熱還元工程および水分解工程における水素および酸素の生成量を算出した。4回の連続サイクルで反応活性(水素生成量)を評価した。
【0143】
なお、上記測定において、ブランク試料としてはPtPANを用い、リファレンス試料としては、約33mgのPt板を用いた。ただし、上述したように、比較例5(CeO2)では試料量を66mgとしたため、ブランク試料の量も66mgとした。
【0144】
[6]結果および考察
[6-1]二段階水熱分解サイクルにおける反応活性の比較(1)
実施例および各比較例の反応媒体について、熱重量分析(TGA)を用いて、熱還元温度:1400℃-水分解温度:1000℃の二段階水熱分解サイクルにおける反応活性(水素生成量)を検討した。
【0145】
また、
図3は、実施例1の反応媒体について、二段階水熱分解サイクルを行った際のTGA重量変化を示す図である。
【0146】
熱還元の工程では、格子酸素が酸素分子として放出されたため重量減少が起こり、一方、その後の水分解工程では、還元されたFe0.33Mg0.33Ni0.33Oxが水蒸気で酸化されて、言い換えると水素が生成し、重量増加が起こっている。
【0147】
このように、本発明では、二段階水熱分解サイクルにおいて、第1の工程および第2の工程において、目的とする反応が好適に進行していることが分かった。
【0148】
この重量変化から、2~4サイクル、それぞれの水素および酸素の生成量を算出した。また、生成した水素と酸素との比(H2/O2モル比)も算出した。
【0149】
図4は、実施例1の反応媒体について、各サイクルにおける水素および酸素の生成量とH
2/O
2モル比とを示す図である。
【0150】
なお、1サイクル目では、熱還元工程で反応前の試料から還元されるため、酸素発生量が通常のサイクル反応よりも大きくなるため、データから除外した。
【0151】
図4から、実施例1の反応媒体ではサイクル性良く水素と酸素が生成しており、H
2/O
2モル比は化学量論比の2に近く、ほぼ化学量論的に反応が進行していることが示唆された。
【0152】
図5は、実施例1および比較例1~5の反応媒体について、1サイクルあたりの水素および酸素の平均生成量と、H
2/O
2モル比とを示す図である。なお、
図5で示す水素および酸素の生成量およびH
2/O
2モル比は、2回目から4回目のサイクルの平均の値である。
【0153】
その結果、本発明では、高い反応活性を示し、第1の工程および第2の工程において、目的とする反応が好適に進行していることが分かった。
【0154】
特に、実施例1の反応媒体の1サイクル当たりの平均水素生成量835μmol/gは、比較例3のMNCFOの水素生成量570μmol/gに比べて約1.47倍であり、高い反応活性が得られている。なお、実施例1の水素生成量は、比較例4(MnドープCeO2)の約2.2倍、比較例5(CeO2)の約11.3倍であった。
【0155】
また、実施例1の反応媒体のH2/O2モル比の平均値は約1.82であり、他の反応媒体よりも化学量論比に近く、より安定して化学量論比で反応が進行していることがわかる。
【0156】
このように、本発明では、MNCFOからCoを除外して、Feの含有量を増加させることで、サイクル性良く水素と酸素が生成し、高い水素生成量を実現できることが分かった。
【0157】
なお、MNCFOのうちNiを除外した比較例1、Mgを除外した比較例2では、十分な水素生成量が得られなかった。
【0158】
以上のようなことから、本発明の反応媒体を用いることで、熱還元工程での処理温度を、従来の1500℃以上の高温から1400℃に抑えても、高い水素生成量を実現できることが分かる。このようなことから、本発明では、サイクルの低温化と同時に、温度スイングの温度差を大きく縮小することができる。
【0159】
[6-2]二段階水熱分解サイクルにおける反応活性の比較(2)
実施例1の反応媒体について、熱重量分析(TGA)を用いて、二段階水熱分解サイクルにおける熱還元温度を変えて、反応活性(水素生成量)を検討した。
【0160】
実施例1の反応媒体(Fe0.33Mg0.33Ni0.33Ox)を用いて、二段階水熱分解サイクルでの、第1の工程での処理温度を1300℃、1200℃とした以外は、上記と同様にして水素を製造した。
【0161】
図6は、実施例1の反応媒体について、熱還元温度を変更した場合の、1サイクルあたりの水素および酸素の生成量とH
2/O
2モル比とを示す図である。なお、
図6で示す水素および酸素の生成量およびH
2/O
2モル比は、2回目から4回目の各サイクルの平均の値である。
【0162】
その結果、本発明では、熱還元温度1300℃(水分解温度1000℃)でも、比較例3であるFe0.25Co0.25Ni0.25Mg0.25Ox(MNCFO)の熱還元温度1400℃(水分解温度1000℃)よりも高い平均水素発生量が得られていることが確認された。
【0163】
[6-3]融点の検討
示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、実施例1、比較例3および比較例6の反応媒体の融点について検討した。
図7は、示差走査熱量測定(DSC)装置の構成を模式的に示す図である。
【0164】
なお、熱流差測定における条件は以下のとおりである。
Ptカップ:直径5mm、深さ2.5mm
試料:約2mg
リファレンス試料:Al3O3 約2mg
温度:室温から1500[℃]
雰囲気:N2ガス
保持時間:0[分]
昇温速度:20[℃/分]
N2ガス流量:50[mL/分]
【0165】
図8は、実施例1、比較例3および比較例6の反応媒体についての示差走査熱量の測定結果を示す図である。
【0166】
比較例6では、窒素雰囲気下で通常のFe3O4を加熱していくと、1230℃付近でFe3O4→FeOの還元から生成したFeOの融解による吸熱ピークが現れるが、実施例1の反応媒体では、いずれも吸熱ピークは確認できなかった。
【0167】
これらの結果から、実施例1の反応媒体は、1500℃より低い温度で溶融することはないことが分かった。言い換えると、実施例1の反応媒体の融点は、1500℃以上である。
本発明の反応媒体は、水を熱分解して水素を製造する方法において用いられる反応媒体であって、FeとMgとNiとの複合金属酸化物を含むことを特徴とする。そのため、高い反応活性を有する反応媒体を提供することができる。
そして、本発明の水素の製造方法は、上記の反応媒体を熱還元する第1の工程と、熱還元された前記反応媒体を水と接触させ、前記反応媒体を酸化するとともに水素を発生させる第2の工程とを有する。そのため、効率よく水素を製造できる水素の製造方法を提供することができる。