(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005296
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】生体内留置具試験方法、生体内留置具試験装置及び生体内留置具試験システム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/95 20130101AFI20250108BHJP
【FI】
A61F2/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105449
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】橋口 雄
(72)【発明者】
【氏名】横田 知明
(72)【発明者】
【氏名】坪井 健悟
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA56
4C267HH02
4C267HH04
4C267HH07
4C267HH11
(57)【要約】
【課題】生体内留置具の留置環境を高精度に再現できる生体内留置具試験方法、生体内留置具試験装置及び生体内留置具試験システムを提供する。
【解決手段】筒状の膨張・収縮部を有する流体圧アクチュエータ内に生体内留置具を設置する設置ステップと、前記生体内留置具を設置した状態で前記流体圧アクチュエータを作動させる作動ステップと、前記作動ステップの開始後に前記生体内留置具を評価する評価ステップとを有し、前記流体圧アクチュエータは、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させる、生体内留置具試験方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の膨張・収縮部を有する流体圧アクチュエータ内に生体内留置具を設置する設置ステップと、
前記生体内留置具を設置した状態で前記流体圧アクチュエータを作動させる作動ステップと、
前記作動ステップの開始後に前記生体内留置具を評価する評価ステップとを有し、
前記流体圧アクチュエータは、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させる、生体内留置具試験方法。
【請求項2】
前記作動ステップは、軸方向に連なる2つ以上の前記流体圧アクチュエータを、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動させる蠕動ステップを有する、請求項1に記載の生体内留置具試験方法。
【請求項3】
前記蠕動ステップは、前記軸方向に連なる3つ以上の前記流体圧アクチュエータを、前記膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動させる、請求項2に記載の生体内留置具試験方法。
【請求項4】
前記蠕動ステップの蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内である、請求項2に記載の生体内留置具試験方法。
【請求項5】
前記流体圧アクチュエータは、前記作動ステップ中に前記生体内留置具を外部から視認するための透光性を有する、請求項1に記載の生体内留置具試験方法。
【請求項6】
前記作動ステップにおいて、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返す、請求項1に記載の生体内留置具試験方法。
【請求項7】
筒状の膨張・収縮部を有する流体圧アクチュエータを有し、
前記流体圧アクチュエータは、前記流体圧アクチュエータ内に生体内留置具を設置した状態で、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させる、生体内留置具試験装置。
【請求項8】
前記流体圧アクチュエータが前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返す、請求項7に記載の生体内留置具試験装置。
【請求項9】
軸方向に連なる2つ以上の前記流体圧アクチュエータを有し、
上記2つ以上の流体圧アクチュエータは、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動する蠕動を行い、前記蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内である、請求項7に記載の生体内留置具試験装置。
【請求項10】
請求項7に記載の生体内留置具試験装置と、
前記生体内留置具とを有する生体内留置具試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内留置具試験方法、生体内留置具試験装置及び生体内留置具試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腸閉塞等の治療のためのステント留置術が知られている(例えば非特許文献1参照)。ステント留置術は体内の狭窄部にステントを留置し、腸などの消化管を内側から広げて内容物を通過できるようにする手術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「大腸閉塞に対する大腸ステント治療のコツと実際」斉田芳久著、日本消化器内視鏡学会雑誌、58巻(2016)10号、2201-2210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステントなどの生体内留置具の代表的な評価試験としては、例えば、耐久試験、移動試験の2種類が挙げられる。耐久試験では、圧縮を繰り返し行い生体内留置具の耐久力を評価する。移動試験では、連続的に圧縮し、圧縮の繰り返し回数に対する生体内留置具の移動量を評価する。これらの試験は、実際の生体内留置具の留置環境にできるだけ近い圧縮の条件で行うことが好ましい。
【0005】
そこで本発明の目的は、生体内留置具の留置環境を高精度に再現できる生体内留置具試験方法、生体内留置具試験装置及び生体内留置具試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は以下のとおりである。
【0007】
[1]
筒状の膨張・収縮部を有する流体圧アクチュエータ内に生体内留置具を設置する設置ステップと、
前記生体内留置具を設置した状態で前記流体圧アクチュエータを作動させる作動ステップと、
前記作動ステップの開始後に前記生体内留置具を評価する評価ステップとを有し、
前記流体圧アクチュエータは、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させる、生体内留置具試験方法。
【0008】
[2]
前記作動ステップは、軸方向に連なる2つ以上の前記流体圧アクチュエータを、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動させる蠕動ステップを有する、[1]に記載の生体内留置具試験方法。
【0009】
[3]
前記蠕動ステップは、前記軸方向に連なる3つ以上の前記流体圧アクチュエータを、前記膨張・収縮部の膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動させる、[2]に記載の生体内留置具試験方法。
【0010】
[4]
前記蠕動ステップの蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内である、[2]又は[3]の何れか1項に記載の生体内留置具試験方法。
【0011】
[5]
前記流体圧アクチュエータは、前記作動ステップ中に前記生体内留置具を外部から視認するための透光性を有する、[1]~[4]の何れか1項に記載の生体内留置具試験方法。
【0012】
[6]
前記作動ステップにおいて、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返す、[1]~[5]の何れか1項に記載の生体内留置具試験方法。
【0013】
[7]
筒状の膨張・収縮部を有する流体圧アクチュエータを有し、
前記流体圧アクチュエータは、前記流体圧アクチュエータ内に生体内留置具を設置した状態で、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させる、生体内留置具試験装置。
【0014】
[8]
前記流体圧アクチュエータが前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返す、[7]に記載の生体内留置具試験装置。
【0015】
[9]
軸方向に連なる2つ以上の前記流体圧アクチュエータを有し、
上記2つ以上の流体圧アクチュエータは、前記膨張・収縮部の外周面に作用させる流体圧を変化させることで前記膨張・収縮部を径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが前記軸方向に順次ずれるように作動する蠕動を行い、前記蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内である、[7]又は[8]に記載の生体内留置具試験装置。
【0016】
[10]
[7]~[9]の何れか1項に記載の生体内留置具試験装置と、
前記生体内留置具とを有する生体内留置具試験システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体内留置具の留置環境を高精度に再現できる生体内留置具試験方法、生体内留置具試験装置及び生体内留置具試験システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の生体内留置具試験方法において、作動ステップ開始直前の状態を示す概念図である。
【
図2】
図1に示す状態から作動ステップを開始した時の状態を示す概念図である。
【
図3】
図2に示す状態から作動ステップをさらに継続した時の状態を示す概念図である。
【
図4】
図3に示す状態から作動ステップをさらに継続した時の状態を示す概念図である。
【
図5】実施例で使用された流体圧アクチュエータの外観図である。
【
図6】
図5に示す流体圧アクチュエータの断面図である。
【
図7】実施例で流体圧アクチュエータの内圧を測定するために構成した内圧計測システムを示す概念図である。
【
図8】
図5に示す流体圧アクチュエータを3つ連ねて構成した蠕動運動型ポンプの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0020】
図1~
図4に示すように、本発明の一実施形態において、生体内留置具試験方法は、筒状の膨張・収縮部1aを有する流体圧アクチュエータ1内に生体内留置具2を設置する設置ステップと、生体内留置具2を設置した状態で流体圧アクチュエータ1を作動させる作動ステップと、作動ステップの開始後に生体内留置具2を評価する評価ステップとを有し、流体圧アクチュエータ1は、膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させる。
【0021】
上記構成によれば、流体圧アクチュエータ1の膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで、膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮部1aの内周面側の内側空間Sに対して膨張・収縮させることにより、膨張・収縮部1aの内周面側の内側空間Sを所望のタイミングで所望の内圧にできる。したがって、設置ステップで流体圧アクチュエータ1内に設置した、生体内留置具2に対し、作動ステップで生体内留置具2の留置環境を高精度に再現した内圧を作用させ、評価ステップで耐久試験、移動試験などの評価試験を良好に行うことができる。本実施形態では、生体内留置具2は消化管に留置されるステントであるが、これに限らず、消化管以外の人体の内腔に留置してもよい。また、生体内留置具2はステントに限らない。
【0022】
作動ステップは、軸方向に連なる2つ以上の流体圧アクチュエータ1を、膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが軸方向に順次ずれるように作動させる蠕動ステップを有する。上記構成によれば、軸方向に連なる上記2つ以上の流体圧アクチュエータ1の膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を順次変化させ、膨張・収縮部1aを径方向に順次膨張・収縮させる蠕動運動を再現できる。したがって、消化管の蠕動運動を高精度に再現できる。特に、上記2つ以上の流体圧アクチュエータ1に跨る長さの生体内留置具2に対する試験の精度を向上できる。また、複数の流体圧アクチュエータ1を軸方向に複数連ねることで、試験用の蠕動運動型ポンプ3を容易に構成できる。また、蠕動運動型ポンプ3が複数の流体圧アクチュエータ1を相互に分離可能に構成した場合には、何れかの流体圧アクチュエータ1に問題が発生した時に、その問題のある流体圧アクチュエータ1のみを交換すればよいので、蠕動運動型ポンプ3全体を交換する必要がなくなる。
【0023】
蠕動ステップは、軸方向に連なる3つ以上の流体圧アクチュエータ1を、膨張・収縮部1aの膨張・収縮サイクルが軸方向に順次ずれるように作動させる。上記構成によれば、消化管の蠕動運動をより一層高精度に再現できる。特に、上記3つ以上の流体圧アクチュエータ1に跨る長さの生体内留置具2に対する試験の精度を向上できる。また、
図2~
図4は、蠕動運動の一例として、流体圧アクチュエータ1つ分の膨張・収縮部1aの膨張箇所4(腸の収縮状態・拡張状態のうち、収縮状態に相当する箇所)が軸方向に順次ずれる態様の蠕動運動を示すが、作動ステップで再現する蠕動運動はこれに限らず例えば、流体圧アクチュエータ1つ分の膨張箇所4が軸方向に順次ずれる態様としてもよいし、その他の態様としてもよい。
【0024】
なお、
図1~
図4に示す例では、作動ステップで使用する流体圧アクチュエータ1の数は3つであるが、これに限らず、1つでもよいし、2つでもよいし、4つ以上でもよい。また、作動ステップは蠕動ステップに加えて又は代えて、蠕動運動以外の消化管の運動(分節運動又は振り子運動など)を再現するステップを有してもよい。
【0025】
蠕動ステップの蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内(つまり、5~15mm/s)である。上記構成によれば、腸の環境を高精度に再現し易くできる。
【0026】
流体圧アクチュエータ1は、作動ステップ中に生体内留置具2を外部から視認するための透光性を有する。上記構成によれば、作動ステップ中に流体圧アクチュエータ1を通して生体内留置具2の動きを観察することができる。
【0027】
作動ステップにおいて、膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返し、収縮時間が1.43±0.24sの範囲内(つまり、1.19~1.67s)であり、拡張時間が2.29±0.63sの範囲内(つまり、1.66~2.92s)であり、非収縮状態時間が4.99±4.34sの範囲内(つまり、0.65~9.33s)である。上記構成によれば、腸の環境を高精度に再現し易くできる。
【0028】
流体圧アクチュエータ1は、筒状の膨張・収縮部1aと、筒状の外周部1bと、膨張・収縮部1aと外周部1bとの間に形成される流体室Cとを有する。上記構成によれば、流体室Cへの流体の導入と流体室Cからの流体の排出とを制御することにより、膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させることができる。なお、膨張・収縮部1a及び外周部1bは、例えば、円筒状をなすが、これに限らず、楕円筒状、角筒状など、円筒状以外の筒状をなしてもよい。また、流体は特に限定されないが、例えば、気体又は液体である。
【0029】
また、膨張・収縮部1aは、例えば、ゴム又はエラストマーなどの弾性部材によって形成されるが、これに限らず、例えば、弾性部材以外の可撓性を有する部材によって形成してもよい。外周部1bは、例えば、硬質樹脂などの硬質部材によって形成されるが、これに限らず、例えば、弾性部材によって形成してもよい。
【0030】
流体圧アクチュエータ1は、膨張・収縮部1aの膨張・収縮に伴って軸方向に伸縮する構成としてもよい。
【0031】
本実施形態において、生体内留置具試験装置16は、筒状の膨張・収縮部1aを有する流体圧アクチュエータ1を有し、流体圧アクチュエータ1は、流体圧アクチュエータ1内に生体内留置具2を設置した状態で、膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させる。上記構成によれば、消化管の環境を高精度に再現できる生体内留置具試験装置16を実現できる。
【0032】
流体圧アクチュエータ1が膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルは、消化管の運動を模して収縮、拡張及び非収縮状態をこの順に繰り返し、収縮時間が1.43±0.24sの範囲内であり、拡張時間が2.29±0.63sの範囲内であり、非収縮状態時間が4.99±4.34sの範囲内である。上記構成によれば、腸の環境を高精度に再現し易くできる。
【0033】
生体内留置具試験装置16は、軸方向に連なる2つ以上の流体圧アクチュエータ1を有し、上記2つ以上の流体圧アクチュエータ1は、膨張・収縮部1aの外周面に作用させる流体圧を変化させることで膨張・収縮部1aを径方向に膨張・収縮させることにより繰り返される膨張・収縮サイクルが軸方向に順次ずれるように作動する蠕動を行い、蠕動の伝播速度は、10±5mm/sの範囲内である。上記構成によれば、腸の環境を高精度に再現し易くできる。
【0034】
本実施形態において、生体内留置具試験システム17は、生体内留置具試験装置16と、生体内留置具2とを有する。上記構成によれば、消化管の環境を高精度に再現できる生体内留置具試験システム17を実現できる。
【0035】
本発明は前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例0036】
以下、実施例について記載するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0037】
<実施例で使用された流体圧アクチュエータ>
図5は、実施例で使用された流体圧アクチュエータ1の外観図である。また、
図6は、
図5に示す流体圧アクチュエータ1の断面図である。この流体圧アクチュエータ1は、外周部1bがアクリルパイプで形成され、膨張・収縮部1aがゴムチューブで形成される。また、この流体圧アクチュエータ1は、1つの流体圧アクチュエータ1をユニットとして複数連ねることで複数連結ユニット(蠕動運動型ポンプ3)を構成できる。また、この流体圧アクチュエータ1は、複数の流体圧アクチュエータ1を軸方向に連ねる連結部として使用されるフランジ部1cを軸方向の両端部に有する。ゴムチューブとアクリルパイプの間の流体室Cに流体としての圧縮空気を印加することで、ゴムチューブが膨らみチューブ内を閉じる。複数連結させた各ユニットにおいて給気・排気することで腸管の蠕動運動を模擬する。本ユニットのゴムチューブは素材がラテックスゴム、厚さが0.05mmと薄いため、ユニット内部がゴムチューブ越しに観察できる。また、ユニットのチューブ内が全閉するために必要な印加圧力が3.5kPaと低圧であるため、実際の腸内の内圧を再現できる。
【0038】
<単体ユニットの内圧計測実験>
単体ユニットによる内圧測定実験を行い、実際の腸の収縮・拡張・非収縮状態時間を模倣した駆動パターンの効果の確認を行った。本実験手法は実際の腸の内圧を計測している内視鏡型の内圧計測装置5を参考に考案した(
図7参照)。内圧計測装置5は内圧測定室5aと第1圧力センサ5bを繋げて流路を閉じることにより、単体ユニットが内圧測定室5aを押し込む圧力を内圧として計測した。内圧測定室5aは高さ30mm、幅30mm、厚さ0.03mmのOPP(二軸延伸ポリプロピレン)製の袋の口をシーラーで閉じたものを使用した。実際の腸で内視鏡型の内圧計測装置5を使用して内圧を計測したデータは、蠕動運動時0.59~2.35kPa、非運動時0.78~0.88kPaである。内視鏡を挿入する際に水や炭酸ガスなどを使用するため、腸管内の圧力が高くなり、非運動時にも圧力がかかっている。そのため、本実験では腸管内の環境を擬似的に再現するために初期状態で内圧測定室5a内に1kPaを印加した。
【0039】
図7は、実施例で流体圧アクチュエータ1の内圧を測定するために構成した内圧計測システム6を示す概念図である。内圧測定室側流路7にエアコンプレッサ8から第1減圧器9、on/offバルブ10を経て圧縮空気を印加した。内圧測定室5aにユニットの内圧を計測する第1圧力センサ5bを取り付け、内圧測定室5aをユニットのゴムチューブの内側に設置した。ユニット側流路11はエアコンプレッサ8から第2減圧器12、ソレノイドバルブ13を経て単体ユニットの流体室Cに圧縮空気を印加した。流体室Cに印加する圧縮空気は第2圧力センサ14とソレノイドバルブ13により制御した。ソレノイドバルブ13への指令信号の送信、第1圧力センサ5b及び第2圧力センサ14のデータ取得をする処理装置15(コンピュータ)としてはMicro Lab Box(dSPACE社)を用いた。ソレノイドバルブ13への指令信号は圧力を入力し、MATLAB/Simulink(015,The MathWorks, Inc.)上でプログラムに基づき圧力から電圧に変換され、Micro Lab Boxから電圧として出力した。第1圧力センサ5b及び第2圧力センサ14からの信号は電圧として受信し、MATLAB/Simulink上でプログラムに基づき電圧から圧力に変換し、圧力データを取得した。サンプリング周波数は1kHzに設定した。ユニットに印加する圧力の駆動パターンは6件の症例動画から得た症例データを元に決定した。症例データは、収縮時間が平均値1.43±0.24s、最大値1.98s、最小値1.00s、拡張時間が平均値2.29±0.63s、最大値3.75s、最小値1.16s、非収縮状態時間が平均値4.99±4.34s、最大値20.49s、最小値1.66sであった。指令信号は、収縮時間が1.43s、拡張時間が2.29s、非収縮状態時間が4.99sとなるように設定し、収縮・拡張・非収縮状態を1サイクルとして繰り返すようにした。実験は同様の条件で5回行い、それぞれ内圧を計測した。
【0040】
その結果、内圧の最大値の平均値は2.75kPaであった。実際の腸の蠕動運動時の最大内圧が2.35kPaであることから、上記ユニットの内圧が実際の腸の内圧に近い値であることが確認された。
【0041】
<複数連結ユニットの制御実験>
図8は、
図5に示す流体圧アクチュエータ1を3つ連ねて構成した蠕動運動型ポンプ3の外観図である。本実験では、この蠕動運動型ポンプ3を用いて、実際の腸の収縮・拡張・非収縮状態時間を模倣した駆動パターンで制御を行い、実際の腸の動きとの比較を行った。実験環境やユニットの駆動方法は単体ユニットの実験と同様とした。実際の腸の蠕動運動の伝搬速度が10mm/sであることと、単体ユニットの軸方向の長さが35mmであることから、1つのユニットが駆動してから隣のユニットが駆動するまでの時間差を3.5sに設定した。半径方向においては各ユニットの腸の運動時間を模倣した駆動パターンにより、また軸方向においてはユニット間の時間差により、実際の腸の蠕動運動を模倣できた。