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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005329
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】放射線治療用ボーラス材
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20250108BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20250108BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61N5/10 Z
A61L31/06
A61L31/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105530
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水野 清和
【テーマコード(参考)】
4C081
4C082
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BB03
4C081BC02
4C081CA022
4C081CA031
4C081CA162
4C081CA211
4C081CA271
4C081DA12
4C081DC03
4C082AE01
4C082AG42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射線治療を行う際に人体に密着させて用いられる放射線治療用ボーラス材を提供する。
【解決手段】高分子ゲル又は含水ゲルからなる主材と、該主材に内在又は該主材を被覆する、比重が0.9から1.4の形状保持材と、から少なくともなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材。前記形状保持材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートから選択される1又は2以上からなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材。前記高分子ゲルが、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲルから選択される1又は2以上からなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ゲル又は含水ゲルからなる主材と、
該主材に内在又は該主材を被覆する、比重が0.9から1.4の形状保持材と、
から少なくともなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材。
【請求項2】
前記形状保持材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートから選択される1又は2以上からなることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療用ボーラス材。
【請求項3】
前記高分子ゲルが、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲルから選択される1又は2以上からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放射線治療用ボーラス材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療を行う際に人体に密着させて用いられる放射線治療用ボーラス材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体に放射線を照射すると、体内における放射線吸収量は体表面から深くなるに連れて増加するが、ピーク点を過ぎると次第に減少して行く。このため患部がピーク点よりも浅い位置にある場合には、放射線を効率的に患部に吸収させることができなくなる。そこで、放射線に対する特性が人体に類似する材料からなるボーラス材を体表面に密着させて放射線を照射することにより、ピーク点の位置を患部深さに一致させることが行われている。
【0003】
このような放射線治療用のボーラス材には、体表面に密着させ易いように、適度の柔軟性や粘着性が求められる。本願出願人は、先に出願した特許文献1において、ウレタン製のボーラス材を提案している。
【0004】
放射線治療用のボーラス材は、放射線の放射射源と患部の間に挿入されて線量の深さ方向のプロファイル(線量の変化)をシフトさせるもので、人体表面との間に隙間はできないものが好ましい。
そこで特許文献2のボーラス材は、ボーラス形成用液体材料を、患者の皮膚表面の形状データに基づき、三次元プリンターにて作製した型に流し込み、硬化させて形成するボーラス材が開示されている。
【0005】
特許文献3のボーラス材は、ガラス転移点が人体温度付近である高分子系形状記憶材料から成り、ガラス転移点以上の温度で患者の体表面と密着した状態とし、ガラス転移点以下の温度で形状を固形化し密着状態を保持するボーラス材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-118838号公報
【特許文献2】特開2018-153936号公報
【特許文献3】実開平02-82351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2は、提供される患者の皮膚表面の形状データに基づき、三次元プリンターにて作製した型にボーラス材を流し込み硬化して作製するボーラス材のため、皮膚表面の形状(凹凸)にぴったり合い、好適であると言える。しかし、患者の皮膚表面形状を測定し、型を作製しなければならず、治療の現場で臨機応変にボーラス材を調整することができず、再利用も困難である。
【0008】
また、特許文献3は、患者の体表面に密着して作製するボーラス材のため、皮膚表面の形状(凹凸)にぴったり合い、好適であると言える。しかし、温水流路と冷却流路とを内部に備え、温度管理もしなければならず、治療の現場で臨機応変にボーラス材を調整することができない。また、再利用する際は、温水で温めて形状変更した後、冷却して固形化するため作業効率が悪い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた第1の発明の放射線治療用ボーラス材は、高分子ゲル又は含水ゲルからなる主材と、該主材に内在又は該主材を被覆する、比重が0.9から1.4の形状保持材と、から少なくともなることを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、前記形状保持材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートから選択される1又は2以上からなることを特徴とする第1の発明に記載の放射線治療用ボーラス材である。
【0011】
第3の発明は、前記高分子ゲルが、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲルから選択される1又は2以上からなることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の放射線治療用ボーラス材である。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明は、高分子ゲル又は含水ゲルからなる主材と、該主材に内在又は該主材を被覆する、比重が0.9から1.4の形状保持材と、から少なくともなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材であるため、患者の皮膚表面に載置した状態で、放射線治療用ボーラス材の形状を簡単に変形して密着させ、その状態を保持できる。また、形状保持材の比重が0.9から1.4であり、放射線に対する特性が人体に類似する材質のため、主材に内在又は主材を被覆しても、プロファイル(線量の変化)に影響を与えない。
【0013】
第2の発明は、前記形状保持材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートから選択される1又は2以上からなることを特徴とする放射線治療用ボーラス材であるため、体表面を傷つけにくく、軽量で扱いやすい。
【0014】
第3の発明は、前記高分子ゲルが、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲルから選択される1又は2以上からなることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の放射線治療用ボーラス材であるため、適度の柔軟性や粘着性を有し体表面に密着させ易く、密着した状態を保持できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の放射線治療用ボーラス材は、主材として、高分子ゲル、例えば、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲル、ポリロタキサンゲル(自己修復性樹脂)を挙げることができる。当該高分子ゲルは、柔軟性エラストマーと呼ばれることもある。中でも、ポリオールと、ポリイソシアネートを反応させたポリウレタンゲルからなるものがよい。ポリオールは多価アルコールとも呼ばれ、1分子中にアルコール性ヒドロキシ基を2個以上もつ有機化合物をいう。ヒドロキシ基の数により、二価アルコール、三価アルコールなどと呼ばれる。たとえばグリセリンは三価アルコール、D-グルシトールは六価アルコールである。
【0016】
ポリオールの分子量を大きくすると網目架橋構造の網目が大きくなって柔らかくなり、分子量を小さくすると網目が小さくなって硬くなる。しかしポリオールの分子量を大きくすると粘度が上がり、撹拌時に気泡を巻き込み易くなる。このため、ポリオールの分子量は3000~7000であることが好ましい。
【0017】
イソシアネートとしては、φ-フェニレンジイソシアネート、2、4-トルイレンイソシアネート(TDI)、4-4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタリン1、5-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添加TDI、水添加MDI、ジシクロヘキシルジメチルメタンp-p‘-ジイソシアネート、ジエチルフマレートジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等を用いることができる。
放射線治療用ボーラス材を無色透明とする場合には、HDI、IPDI、XDI、水添加TDIなどの芳香族環にイソシアネート基を置換しないポリイソシアネートを用いることで、放射線治療用ボーラス材が黄変することを防止することができる為、好ましい。
【0018】
本発明の放射線治療用ボーラス材は、ポリオールを含む材料とポリイソシアネートの他に、粘度が100mPa・s以下の安息香酸エステル系可塑剤を含む。これにより原料を撹拌し反応させる際の粘度が低下し、撹拌時に気泡を巻き込みにくくなる。従って、気泡の巻き込みによる放射線の透過性への悪影響、透明性の低下、比重の変化などの従来の問題を解消することができる。また、安息香酸エステル系可塑剤又は、アジピン酸エステル系可塑剤を含ませて得られたウレタン製の放射線治療用ボーラス材は、十分な柔軟性と粘着力を有する。
【0019】
安息香酸エステル系可塑剤はウレタン樹脂の可塑剤として多くの種類が用いられているが、本発明では粘度が100mPa・s以下のものを選択して使用する。具体的には、ジエチレングリコールジベンゾエート(DEGDB)、ジプロピレングリコールジベンゾエート(DPGDB)、1、2-プロピレングリコールジベンゾエート、1、2-ブチレングリコールジベンゾエート、1、3-ブチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、2、2、4-トリメチル-1、3-ペンタンジオールイソブチレートベンゾエート、2、2、4-トリメチル-1、3-ペンタンジオールジベンゾエート等のアルキレングリコールジベンゾエート等を挙げることができる。安息香酸エステルとしては市販品も好適に用いることができ、例えばDIC株式会社製の「モノサイザーPB-3A(粘度92mPa・s)」及び「モノサイザーPB-10(粘度8mPa・s)」等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、使用する可塑剤としてアジピン酸エステル系可塑剤を使用しても良い。 アジピン酸エステル系可塑剤としては、たとえば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジn-アルキル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸ジ(メトキシテトラエチレングリコール)、アジピン酸ジ(メトキシペンタエチレングリコール)、アジピン酸(メトキシテトラエチレングリコール)(メトキシペンタエチレングリコール)などの他、アジピン酸エステル系可塑剤としては市販品も好適に用いることができ、例えばDIC株式会社製の「モノサイザーW-242(粘度25mPa・s)」、大八化学工業株式会社製の「DBA(粘度4.9mPa・s)」、「DIBA(粘度5.3mPa・s)」、「DOA(粘度14mPa・s)」、「DINA(粘度16mPa・s)」、「DIDA(粘度22mPa・s)」、「BXA-N(粘度18mPa・s)」、「BXA-R(粘度15mPa・s)」等が挙げられる。
前記安息香酸エステル系可塑剤と、アジピン酸系エステル系可塑剤は、併用することも出来、前記可塑剤の粘度は、100mPa・s以下4.5mPa・s以上が好ましい。
【0021】
可塑剤の粘度の測定は、可塑剤をサンプル管瓶に収容して行った。粘度は、可塑剤を液温25℃に調整し、可塑剤をB型粘度計にて回転速度60rpmで測定した。なお、測定ローターは、ローターの測定上限値を考慮し、適切なローターを選択した。
【0022】
本発明の放射線治療用ボーラス材はさらに消泡剤として、アクリル系のレベリング剤を含有することができる。これはアクリル樹脂を基本骨格としているレベリング剤であり、一部シリコーンで変性されていてもよい。例えばビックケミージャパン株式会社の品番、BYK-350、BYK-352、BYK-353、BYK-354、BYK-355、BYK-356、BYK-358、BYK-361N、BYK-380、BYK-381、BYK-392、BYK-394、BYK-3441等を挙げることができる。
また、前記アクリル系のレベリング材は、アクリルポリマーであっても良い。ここで、アクリルポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、およびメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種のモノマーを重合させることによって得られるポリマーの総称である。これらのポリマーは、異なるモノマーを重合させたコポリマーであってもよく、また本発明の効果を損なわない範囲で、前記した以外のモノマーを含んでいてもよい。
【0023】
また、本発明の放射線治療用ボーラス材は、主材として、天然高分子物質、又は合成高分子物質からなる有機高分子物質の含水ゲルから構成されてもよい。本発明で使用される天然高分子物質のゲル化製剤としては使用上充分な強度と保水性を持ち、含水率が80%以上の含水ゲルが得られるものが望ましい。このようなゲル化製剤としては、例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、デンプン、カードラン、グアーガム、寒天、カシアガム、デキストラン、アミロース、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、タラガム、ジェランガムなどの天然有機高分子が挙げられる。天然有機高分子含水ゲルを作製するに当たり、これらを1種又は2種以上併用することができる。
また、合成高分子物質のゲルとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩などの水溶性高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールとホウ砂などの混合物が挙げられる。合成高分子物質のゲルを作製するに当たり、これらを1種又は2種以上併用することができる。
【0024】
ゲル化製剤の添加量はゲル化する濃度以上で、放射線治療用ボーラス材として固すぎない濃度以下の範囲であればよく、好ましくはゲル化製剤を水に対して10%以下であり、より好ましくは2~5%が適当である。しかし、上記の例におけるジェランガムやペクチンなどの天然有機高分子物質のあるものは、上記の方法によってはゲル化しないものがある。そのため、水にゲル化製剤を加えて加熱溶解させ、攪拌した後に、カルシウム、カリウム、ナトリウム、バリウムなどの金属塩を添加することによりゲル化することができる。この金属塩を添加する過程は、ゲル化し易いゲル化製剤作製時においても、カルシウム、カリウム、ナトリウム、バリウムなどの金属塩を、水にゲル化製剤を加えて加熱溶解させ、攪拌した後に加えることができる。この時、作製される天然有機高分子含水ゲルは、金属塩を加えないときに比べて強度が増加する。また、ペクチンなどの天然有機高分子物質のあるものは、pHの値によってもゲル化したり、ゲル化しなかったりする。そこで、ゲル化しにくいアルカリ性や酸性の条件から、ゲル化し易い範囲のpH条件にするために、pH調整剤を添加しなければならない。pH調整剤はこの他に、添加することにより、ゲル化した物質を経時的に安定化させることができる役割も持つ。これらでpH調整剤を添加する時においても、金属塩の添加の時と同じように、水にゲル化製剤を加えて加熱溶解させ、攪拌した後に、pH調整剤を添加する。放射線治療用ボーラス材は、人体との密着度が視認できるので、無色透明が望ましいが、場合によっては有色透明にするように着色剤を添加することもできる。
【0025】
本発明の放射線治療用ボーラス材は、前記主材に形状保持材を内在させるか、または、前記主材を形状保持材で被覆する。形状保持材の材質は、比重が0.9から1.4のものを用いる。その材質としては、ポリエチレン(比重0.95)、ポリプロピレン(比重0.9)、ポリエチレンテレフタレート(比重1.34~1.39)、ポリウレタン(比重1.0~1.1)、ポリアミド(比重1.38)、ポリエステル(比重1.1~1.3)から選択される1又は2以上からなるものが好ましい。
【0026】
例えば、ポリエチレンとしては、ポリエチレン又はエチレン・α―オレフィン共重合体を原料とし、糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料の延伸物(例えば三井化学株式会社製テクノロートW1000(直径0.38mm)、W3000(直径0.67mm)、W8000(直径1.1mm)、W13000(直径1.4mm)、W20000(幅4.0×厚み0.64mm))を使用することができる。これらの比重は、0.95である。
【0027】
また、ポリプロピレンとしては、例えばマスクの鼻部分等の形状保持用に市販されている形状保持ワイヤー(幅3mm×厚み1mm、材質ポリプロピレン)を使用することができ、この比重は0.9である。
【0028】
前記主材は、形状保持材を内在させるか、または、形状保持材で被覆する。ここで、内在とは、主材の内部に存在させることを意味する。内在させることで、放射線治療用ボーラス材の形状を保持することができれば形状保持材の大きさ、形状(糸状、帯状等)、配置する個数、配置する位置、配置する形状(格子状、網目状等)、配置する間隔等は、適宜採用できる。
また、被覆とは、放射線治療用ボーラス材の全部又は一部の表面を、形状保持材で覆うことをいい、放射線治療用ボーラス材の形状を保持することができれば、形状保持材の大きさ、形状(糸状、帯状等)、配置する個数、配置する位置、配置する形状(格子状、網目状等)、配置する間隔等は、適宜採用できる。前記内在又は被覆は、それらを単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
本発明の放射線治療用ボーラス材の特性を確認するため、以下の実験を行った。
表1に示すように、実施例1~3及び比較例1、2では、ポリオールを含む主材であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル80部(表1中にGA-4000と表示)に対して、いずれもイソシアネートとして、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)を選択、使用した。添加比率としては、イソシアネートINDEXが70となるように調整した。なお、イソシアネートインデックスとは、ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数を、ポリオール、発泡剤(水)等の全活性水素基のモル数で除した値に100をかけた値であり、本実験例でのHDIの実際の添加重量は、3.67部である。
なお、ウレタンを放射線治療用ボーラス材として使用する場合においては、前記イソシアネートINDEXは、65~75程度とすることが好ましい。65より小さいと、架橋密度が低く、粘着性が大きくなりすぎる。また、75より大きいと、架橋密度が高く、柔軟性が得られない。
【0030】
事前に前記ポリオキシプロピレングリセルエーテル80部に可塑剤(表1中にPB―10と表示)20部及び触媒0.4部を混合攪拌し、その後に、前記イソシアネート(HDI)3.67部を混合撹拌して反応させて、放射線治療用ボーラス材を得る。GA-4000は三洋化成株式会社の品名である。触媒は日本化学産業株式会社から「ニッカチオックス錫」の品名で市販されている錫系触媒を使用した。
【0031】
可塑剤としては、PB-10を用いた。PB-10は安息香酸エステル系可塑剤であり、その粘度は88mPa・sである。粘度の測定は、サンプルを液温25℃に調整し、B型粘度計を用いて6rpmと60rpmで測定した。なお、レベリング剤(表1中にBYK392と表示)を可塑剤と同時に添加した。
【0032】
そして、実施例1では、上記で得られた放射線治療用ボーラス材を、テクノロートW20000(幅4.0×厚み0.64mm)が配置された型(150mm×150mm×10mm)へ流し込む。当該型は、シリコーンゴム型が好ましい。テクノロートW20000は縦横とも15mm間隔で格子状に前記型内に配置した。その後、5時間室温静置後、脱型し、テクノロートW20000(形状保持材)を内在した、実施例1の放射線治療用ボーラス材を得た。
【0033】
また、実施例2では、段落0030で得られた放射線治療用ボーラス材を、シリコーンゴム型(150mm×150mm×10mm)へ流し込んで1時間室温静置後、テクノロートW20000(幅4.0×厚み0.64mm)を縦横とも3mm間隔で格子状に、当該放射線治療用ボーラス材の上に載置した。その後、5時間室温静置後、脱型し、テクノロートW20000(形状保持材)で被覆された、実施例2の放射線治療用ボーラス材を得た。
【0034】
また、実施例3では、段落0030で得られた放射線治療用ボーラス材を、ポリプロピレン製形状保持ワイヤー(幅3mm×厚み1mm)が配置された型(150mm×150mm×10mm)へ流し込む。当該型は、シリコーンゴム型が好ましい。ポリプロピレン製形状保持ワイヤーは縦横とも15mm間隔で格子状に前記型内に配置した。その後、5時間室温静置後、脱型し、ポリプロピレン製形状保持ワイヤーを内在した、実施例3の放射線治療用ボーラス材を得た。
【0035】
実施例4では、ポリスチレン(表1中にAR―SC―0と表示)90部に比重調整用としてシリカ粉体(表1中にニップシールVN3と表示)10部を、ニーダーまたはロールを使用し140℃で混合する。混合物を140℃の150mm×150mm×5mmシート成形用金型に適量仕込み、金型加圧プレスを10分間行ない、その後、冷却、脱型を行ない、5mm厚のシート状ポリスチレンゲルを作製する。そして同様のシートをさらにもう一枚作製する。片方のシート上にテクノロートW20000を縦横とも40mm間隔で格子状に配置し、その上にもう一枚のシートを載置する。当該2枚重ねシートを140℃の150mm×150mm×10mmシート成形用金型に仕込み、金型加圧プレスを10分間行ない、2枚を融着させ、テクノロートW20000(形状保持材)を内在した、実施例4の放射線治療用ボーラス材を完成させた。ここで、AR―SC―0はアロン化成株式会社、ニップシールVN3は東ソー・シリカ株式会社の品名である。
【0036】
実施例5では、シリコーン(表1中にKE―104と表示)100部、同じくシリコーン(表1中にCAT104と表示)10部に、比重調整用としてシリカ粉体(表1中にニップシールVN3と表示)5.8部を配合して、シリコーンゲルを作製する。シリコーンゲルは、取扱容易とするため、ポリエチレンのシートで全周を覆う。
その作製方法としては、まず、タフマー610(ポリエチレン:三井化学株式会社製)ペレットを用いて、厚み0.02mmのシートを作製する。当該タフマー610シートを、舟形状の金型に載置しておく。
次に、KE-104を100部と、ニップシールVN3を5.8部、均一混合する。その混合物へ、CAT104を10部さらに追加し、再度均一混合を行ないシリコーンゲルを作製する。当該シリコーンゲルを前記舟形状金型に5mm厚になるよう注型する。シリコーンゲル硬化後、その上にテクノロートW20000を縦横とも50mm間隔で格子状に配置する。その後、最終厚みが10mm厚になるよう、さらにシリコーンゲルを注型し、硬化させる。硬化後、シリコーンゲルに別途タフマー610シートを載置し、予め金型に載置しておいたシートの端部同士を融着させることで、テクノロートW20000(形状保持材)を内在した、実施例5の放射線治療用ボーラス材を完成させた。
【0037】
比較例1では、段落0030で得られた放射線治療用ボーラス材を、形状保持材が配置されていない型(150mm×150mm×10mm)へ流し込む。その後、5時間室温静置後、脱型し、比較例1の放射線治療用ボーラス材を得た。
【0038】
また比較例2では、段落0030で得られた放射線治療用ボーラス材を、アルミ製針金(直径1.2mm)が配置された型(150mm×150mm×10mm)へ流し込む。アルミ製針金は縦横とも15mm間隔で格子状に前記型内に配置した。その後、5時間室温静置後、脱型し、アルミ製針金を内在した、比較例2の放射線治療用ボーラス材を得た。
【0039】
上記で得られた実施例1~5及び比較例1、2の放射線治療用ボーラス材の気泡の有無、柔軟性、粘着性、移行性、密着性、放射線照射可否を評価し、表1中に記載した。
【0040】
気泡の有無は肉眼で観察した。気泡の有無について、得られた放射線治療用ボーラス材中に、気泡が全く混入しておらず、十分な透明性が確保されている場合は◎、気泡が若干混入するものの、十分な透明性が確保されている場合は〇、透明性が確保できない程に気泡が多数混入している場合は×として評価した。
【0041】
柔軟性は、放射線治療用ボーラス材に直径10mmのジルコニアボールを押し付け、完全に押し込むためにかかった荷重を測定した。この荷重が大きいと柔軟性が低く、この荷重が小さいと柔軟性が高いこととなる。この荷重が300g未満では放射線治療用ボーラス材として使用するには柔らか過ぎ、800gを超えると硬過ぎ、300~800gが好適である。
【0042】
粘着性は、幅10mmのシート端部を放射線治療用ボーラス材に貼り付け、このシートの他端を測定子で掴んで一定速度で引張り、放射線治療用ボーラス材から剥離させてその際に測定子に係る荷重を測定した。この荷重が0.05kgf未満の場合には粘着性が弱く、0.05~0.2kgfの場合は粘着性が良好であり、0.2kgfを超えると粘着性が高すぎる。
【0043】
移行性は、得られた放射線治療用ボーラス材を直接手で触ることにより確認を行った。手で触った際に、液状の析出分(ブリード)が無く、手への移行が無いと認められる場合は〇、手で触った際に、液状の析出分(ブリード)があり、手への移行が認められる場合は×と評価した。
【0044】
密着性は、得られた放射線治療用ボーラス材と人体表面との隙間の有無を視認により確認した。放射線治療用ボーラス材が人体表面へ確実に接触している場合は〇、放射線治療用ボーラス材と人体表面との間に隙間が生じている場合は×と評価した。
【0045】
放射線照射可否は、得られた放射線治療用ボーラス材を人体表面に載置後、放射線を照射した際の照射可否を視認により確認した。照射可能な場合は〇、火花が飛ぶ等照射不可の場合は×と評価した。
【表1】
【0046】
この表1のデータに示されるように、形状保持材としてテクノロート20000を使用した実施例1、実施例2、実施例4、実施例5では、形状保持材が内在していても被覆していても、また、主材が、ポリウレタンゲル、スチレンゲル、シリコーンゲルの何れでも、放射線治療用ボーラス材が人体表面へ確実に接触し、密着性において良好な結果を得た。また、形状保持材としてポリプロピレン製形状保持ワイヤーを使用した実施例3でも、放射線治療用ボーラス材が人体表面へ確実に接触し、密着性において良好な結果を得た。
他方、形状保持材を使用しない比較例1は、放射線治療用ボーラス材と人体表面との間に隙間が生じ、密着性不良の結果を得た。また、アルミ製針金を形状保持材として使用した比較例2は、放射線を照射した際火花が飛び、照射不可だった。
【0047】
上記したように、本発明の放射線治療用ボーラス材は適度の柔軟性や粘着性を備え、しかも患者の皮膚表面に載置した状態で、放射線治療用ボーラス材の形状を簡単に変形して密着させ、その状態を保持でき、従来の問題点を解消することができた。
【0048】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う放射線治療用ボーラス材もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。