(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005388
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】メラニン合成促進組成物及びチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/63 20060101AFI20250108BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250108BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20250108BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20250108BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250108BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250108BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61K8/63
A61Q19/00
A61Q5/00
A61K31/19
A61P17/00
A61P43/00 111
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088244
(22)【出願日】2024-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2023105045
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504095173
【氏名又は名称】株式会社バイオジェノミクス
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】本多 英俊
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英明
(72)【発明者】
【氏名】宇都 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 佑樹
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AD531
4C083AD532
4C083CC02
4C083CC31
4C083EE11
4C083EE21
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA921
4C084ZA922
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA13
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZA92
(57)【要約】
【課題】メラニン産生酵素チロシナーゼタンパク質の分解を抑制させて、メラニンの合成を促進させることができる組成物を提供すること。
【解決手段】本発明では、トリテルペンを有効成分とし、メラニンの合成を促進させることを特徴とするメラニン合成促進組成物又はチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を提供する。特に、本発明では、前記トリテルペンが五環性トリテルペンであること、さらに、前記五環性トリテルペンがオレアノール酸又はその誘導体であることにも特徴を有するメラニン合成促進組成物又はチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリテルペンを有効成分とし、メラニンの合成を促進させることを特徴とするメラニン合成促進組成物。
【請求項2】
前記トリテルペンが五環性トリテルペンであることを特徴とする請求項1に記載におメラニン合成促進組成物。
【請求項3】
前記五環性トリテルペンがオレアノール酸又はその誘導体であることを特徴とする請求項2に記載のメラニン合成促進組成物。
【請求項4】
トリテルペンを有効成分とし、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制させることを特徴とするチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物。
【請求項5】
前記トリテルペンが五環性トリテルペンであることを特徴とする請求項4に記載のチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物。
【請求項6】
前記五環性トリテルペンがオレアノール酸又はその誘導体であることを特徴とする請求項5に記載のチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物。
【請求項7】
請求項1~3の何れか1項に記載のメラニン合成促進組成物を含有する白髪用外用剤。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載のメラニン合成促進組成物を含有する白斑用外用剤。
【請求項9】
請求項4~6の何れか1項に記載のチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を含有する白髪用外用剤。
【請求項10】
請求項4~6の何れか1項に記載のチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を含有する白斑用外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニンの合成を促進させるメラニン合成促進組成物、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制させるチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メラニンは、皮膚や毛球等の内部でメラノサイト(メラニン細胞)によって産生される色素であり、皮膚や毛髪の色調を規定している。
【0003】
このメラニンに関しては、シミや日焼け等の原因でもあり、皮膚内で過剰に産生された場合には、シミやソバカス等の色素沈着の原因となることが知られている。
【0004】
そのため、従来においては、シミやソバカス等の色素沈着の予防や治療を行うために、メラニンの合成を抑制する組成物の研究・開発が活発に行われている(一例として、特許文献1参照。)。
【0005】
一方、メラノサイトにおけるメラニン合成能の低下や欠落等によって皮膚や毛球等でメラニンが良好に産生されない場合には、白斑や白髪の原因となることが知られている。
【0006】
しかしながら、白斑に対しては、ステロイド剤や免疫抑制剤及び外科的な紫外線照射療法が主であり、より簡便な白斑治療法の確立が望まれている。
【0007】
また、白髪に対しては、白髪染めが主であり、有効な予防や色調回復法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、白髪や白斑の予防や治療を目的として鋭意研究を重ねた結果、メラニンの合成を促進させる組成物に関する本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1の態様は、トリテルペンを有効成分とし、メラニンの合成を促進させることを特徴とするメラニン合成促進組成物である。本開示の第2の態様はチロシナーゼタンパク質の分解を抑制させることを特徴とするチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物である。
【0011】
前記メラニン合成促進組成物は、前記トリテルペンが五環性トリテルペンであること、さらに、前記五環性トリテルペンがオレアノール酸又はその誘導体であることにも特徴を有する。前記チロシナーゼタンパク質分解抑制組成物は、前記トリテルペンが五環性トリテルペンであること、さらに、前記五環性トリテルペンがオレアノール酸又はその誘導体であることにも特徴を有する
【0012】
本開示の第3の態様は、前記メラニン合成促進組成物を含む外用剤であり、より具体的には白髪用外用剤又は白斑用外用剤である。本開示の第4の態様は、前記チロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を含む外用剤であり、より具体的には白髪用外用剤又は白斑用外用剤である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制させてメラニンの合成を促進させることができ、白髪や白斑等のメラニン合成能の低下や欠落等に起因する症状の予防や治療に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は実施例の項で説明するメラニン産生量の実験結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は実施例の項で説明するタンパク質発現能の実験結果を示すウエスタンブロットである。
【
図3】
図3は実施例の項で説明するチロシナーゼ遺伝子発現能の実験結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は実施例の項で説明するタンパク質分解能の実験結果を示すウエスタンブロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではなく、本発明の理解を容易にするための例示である。また、実施形態を形成する構成要素は、それらのすべてが本発明の課題解決手段として必須であるとは限らない。実施形態を形成する構成要素を一部省略した実施形態も、本発明の課題解決手段となり得る。
【0016】
以下の説明で使用する用語は、実施形態を使用することのみを目的としており、本開示、すなわち、特許請求の範囲、明細書及び図面に記載の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書及び特許請求の範囲に記載する要素は、単数形又は複数形であることを文脈上明確に記載しない限り、複数形も含むことが意図される。
【0017】
用語「及び」と「又は」は、その前後に列挙される要素のうちの1つ以上のいずれか及びすべての組み合わせを含み得る。例示として「A又はB」は、「A、B、又はAとBの両方」を意味し得る。「A」、「B」、「AとBの両方」は、いずれもそれぞれが「A又はB」を満たす。
【0018】
本開示に記載する用語「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する、備える(comprises)」、及び/又は「有する、備える(comprising)」は、特徴、動作、要素、ステップが存在することを意味する。しかしながら、その用語は、本明細書及び特許請求の範囲に記載されていない1つ以上の他の特徴、動作、要素、ステップ及び/又はそれらのグループの存在又は追加を除外するものではない。
【0019】
本開示に含むすべての実施形態及び選択可能な実施形態は、互いに組み合わせて新たな実施形態を形成し得る。この場合、その新たな実施形態は、本開示で例示する実施形態の構成要素の一部を省略した実施形態どうしを組み合わせて形成されるものを含み得る。また、本開示に含むすべての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、互いに組み合わせることにより新たな技術的特徴を形成し得る。
【0020】
本発明は、白髪又は白斑(以下、単に「白髪等」と省略して記載することがある。)を予防又は改善する組成物及び当該組成物を含む外用剤に関する。特に、本発明は、メラニン合成能の低下又は欠落等に起因する白髪等の症状の予防又は治療に応用できる組成物及び当該組成物を含む外用剤に関する。
【0021】
本開示でいう「予防」とは、毛髪又は皮膚の白色化を防ぐ作用のことであり、「予防剤」とは毛髪又は皮膚を対象として当該作用を有する物質のことである。「治療」とは、毛髪又は皮膚の白色化を軽減し又は白色化の進行を抑制する作用のことであり、「改善剤」とは毛髪又は皮膚を対象として当該作用を有する物質のことである。「予防剤」及び「改善剤」は、本発明の理解を容易にするために便宜的に使用する用語であって、その他の用語(例えば化粧料)によって代替して表現し得る。本開示で使用する用語「外用剤」は、本開示にて説明される「予防剤」及び「改善剤」を包含する用語である。さらに「外用剤」には、本発明に係る毛髪用外用剤、白髪用外用剤等のように用途に応じた外用剤を含む。
【0022】
本発明の実施形態による白髪等の予防剤又は改善剤は、メラニン合成の促進作用及びチロシナーゼタンパク質分解抑制作用の観点で、トリテルペン(Triterpene)を有効成分とする。特にトリテルペンは五環性トリテルペンであることが好ましく、さらに五環性トリテルペンの中でもオレアノール酸(Oleanolic acid)又はその誘導体であることが、特に好ましい。五環性トリテルペンを含むトリテルペンに属するオレアノール酸は、安価に入手でき、培養細胞実験において比較的低濃度(数十μM程度)で効果が得られ、その濃度で細胞毒性が認められず、動物レベルでの安全性が確認されており、生薬や食用に用いられる天然物に含まれている等の利点を有するためである。特にオレアノール酸は、植物により生産される五環性トリテルペン化合物の一種であり、天然物(植物の根や果皮)から抽出することが可能である。
【0023】
白髪等の予防剤又は改善剤中におけるトリテルペン(五環性トリテルペン又はその誘導体、オレアノール酸)の濃度は、特に限定されないが、白髪等の予防又は改善の観点によれば、例示として、0.011~0.023質量%が好ましい。
【0024】
白髪等の予防剤又は改善剤には、例示として、石鹸(固形石鹸、液状石鹸)、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、パック剤を列挙し得る。また、白髪等の予防剤又は改善剤は、化粧料を含み得る。化粧料には、頭髪化粧料(シャンプー、リンス、トリートメント、白髪染め・ヘアカラー等の染毛料、育毛剤、養毛剤等)、基礎化粧料(化粧水、クリーム、乳液、美容液等)、メイクアップ化粧料(下地乳液、リキッドファンデーション等)、日焼け止め化粧料を含み得るが、これらに限定されない。化粧料は、医薬品、医薬部外品、化粧品を含み得る。医薬部外品は、例示として、薬用石鹸、薬用シャンプー、薬用リンス、薬用化粧品、薬用ローション、薬用パック、薬用白髪染め、薬用ヘアカラー、薬用カラートリートメント、薬用育毛剤を列挙し得るが、これらに限定されない。
【0025】
白髪等の予防剤又は改善剤の剤形は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、ムース状、シート状、軟膏状を列挙し得るが、これらに限定されない。
【0026】
白髪等の予防剤又は改善剤には、トリテルペンと他の成分とを含み得る。トリテルペン以外の成分は、用途及び機能に応じて選択することができ、具体的には、水、アルコール、油脂類等の担体、賦形剤、乳化剤、界面活性剤、緩衝剤、希釈剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、ゲル化剤、粉体、水溶性高分子、紫外線防御剤、包接化合物、香料、塩類、pH調整剤、動物由来抽出物、微生物由来抽出物、植物由来抽出物、収斂剤、血行促進剤、美白剤、保湿剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等の添加剤を適宜配合することができる。
【0027】
白髪等の予防剤又は改善剤の製造方法は、例示として、トリテルペンと、用途及び機能に応じた他の成分とを、水に添加し混合する方法等があるが、これに限定されない。
【実施例0028】
以下、実施例を説明する。以下に説明する実施例は、本出願を理解することのみに用いられる例示であって、本出願を制限するものではない。本開示での「実施例」への言及は、実施例に関連して説明される特定の特徴、組成、特性等が、本開示における少なくとも1つの実施例に含まれ得ることを意味する。実施例において具体的な技術又は条件が明記されていないものは、当該技術分野の文献に記述されている技術若しくは条件、又は製品説明書に従って実行する。使用する材料、試薬又は機器について、製造者が明記されていないものは、いずれも市販で購入できる一般的な製品である。また、天然物由来の成分は、購入可能な市販品又は天然物から抽出したものである。各成分の含有量については、特に説明しない限り、いずれも質量基準である。
【0029】
五環性トリテルペンを含むトリテルペン(Triterpene)に属するオレアノール酸(Oleanolic acid)を用いて下記の実験を行った。
【0030】
<メラニン産生量の測定>
【0031】
まず、オレアノール酸について、メラニン産生量を測定した。このメラニン産生量の測定では、比較のために、オレアノール酸(Oleanolic acid)とともに、コントロール(DMSO:ジメチルスルホキシド)と、タンパク質のパルミトイル化(パルミチン酸修飾)を阻害する2-BP(2-ブロモパルミチン酸(2-bromopalmitate))と、メラニン細胞刺激ホルモンであるα-MSH(α-melanocyte-stimulating hormone)とを用いた。ここで、オレアノール酸は50μM、2-BPは5μM、α-MSHは1μMを用いた。
【0032】
ここでは、B16メラノーマ細胞(マウス黒色腫細胞株)を前記化合物の存在下で24時間・48時間培養して、メラニン産生量を測定した。
【0033】
その結果を
図1に示す。なお、
図1では、コントロールのメラニン産生量を100%として、これと比較した割合で示している。
【0034】
図1に示すように、オレアノール酸は、コントロールと比較して、24時間培養で124%、48時間培養で193%ものメラニンが産生された。
【0035】
これに対して2-BP、α-MSHでは、コントロールと比較して、それぞれ24時間培養で110%、148%、48時間培養で122%、200%であった。
【0036】
したがって、オレアノール酸は、メラノサイト刺激ホルモンとして知られているα-MSHと同等のメラニン産生量を示し、同等のメラニン産生促進効果を有することがわかる。
【0037】
また、オレアノール酸は、チロシナーゼ分解抑制化合物として知られている2-BPよりもメラニン産生量が多く、強いメラニン産生促進効果を有することがわかる。
【0038】
<タンパク質発現能の測定>
【0039】
次に、オレアノール酸について、タンパク質発現能を測定した。このタンパク質発現能の測定では、メラニン産生量の測定と同様に、比較のために、オレアノール酸(Oleanolic acid)とともに、コントロール(DMSO)と、2-BP、α-MSHとを用いた。ここで、オレアノール酸は50μM、2-BPは5μM、α-MSHは1μMを用いた。
【0040】
ここでは、B16メラノーマ細胞を前記化合物の存在下で24時間・48時間培養し、メラニン産生酵素であるチロシナーゼ(Tyrosinase)とメラニン合成に関わる酵素の一つであるTyrp-1(Tyrosinase-related protein 1)についてタンパク質発現量をウエスタンブロッティング法により測定した。
【0041】
その結果を
図2に示す。なお、
図2では、内部標準として細胞骨格タンパク質であるβ-アクチン(β-actin)を用いている。
【0042】
図2に示すように、オレアノール酸は、2-BPよりもチロシナーゼのタンパク質発現を促進しており、2-BPよりも強いチロシナーゼタンパク質発現促進効果を有することがわかる。
【0043】
また、オレアノール酸は、α-MSHと同等のチロシナーゼタンパク質発現促進効果を有する。しかし、α-MSHでは、Tyrp-1タンパク質の発現も促進するのに対して、オレアノール酸では、α-MSHとは異なり、Tyrp-1タンパク質の発現を促進しないことがわかる。
【0044】
したがって、オレアノール酸は、チロシナーゼのタンパク質発現を特異的に促進することがわかる。
【0045】
<メラニン産生酵素チロシナーゼ遺伝子発現能の測定>
【0046】
そこで、オレアノール酸について、α-MSHとの相違を明確にするために、メラニン産生酵素チロシナーゼ遺伝子発現能を測定した。このチロシナーゼ遺伝子発現能の測定では、比較のために、オレアノール酸(Oleanolic acid)とともに、コントロール(DMSO)と、α-MSHとを用いた。ここで、オレアノール酸は50μM、α-MSHは1μMを用いた。
【0047】
ここでは、B16メラノーマ細胞を前記化合物の存在下で24時間・48時間培養し、チロシナーゼとTyrp-1についてRT-PCR(Real Time-Polymerase chain reaction)によりmRNA発現量を測定した。
【0048】
その結果を
図3に示す。なお、
図3では、内部標準として細胞骨格タンパク質であるβ-アクチン(β-actin)を用いている。また、コントロールのチロシナーゼ遺伝子発現量を100%として、これとの比較した割合で示している。
【0049】
図3に示すように、α-MSHでは、チロシナーゼ遺伝子の発現を促進しているのに対して、オレアノール酸では、チロシナーゼ遺伝子の発現を促進しないことがわかる。
【0050】
すなわち、オレアノール酸は、
図2に示したように、α-MSHと同等のチロシナーゼタンパク質発現促進効果を有してはいるが、そのメカニズムはα-MSHとは異なることがわかる。
【0051】
<タンパク質分解能の測定>
【0052】
次に、オレアノール酸のメラニン産生促進効果のメカニズムを明確にするために、タンパク質分解能を測定した。このタンパク質分解能の測定では、比較のために、オレアノール酸(Oleanolic acid)とともに、コントロール(DMSO)と、2-BPとを用いた。ここで、オレアノール酸は50μM、2-BPは5μMを用いた。
【0053】
ここでは、B16メラノーマ細胞を前記化合物の存在下で24時間培養し、さらに、タンパク質合成阻害薬シクロヘキシミド(CHX:Cycloheximide)の存在下で4時間・8時間培養し、チロシナーゼとTyrp-1についてタンパク質分解量をウエスタンブロッティングにより測定した。
【0054】
その結果を
図4に示す。なお、
図4では、内部標準としてβ-アクチンを用いている。
【0055】
図4に示すように、コントロール(DMSO)では、タンパク質合成阻害薬シクロヘキシミドCHXの存在下において、チロシナーゼタンパク質やTyrp-1タンパク質の分解が確認されているのに対して、オレアノール酸及び2-BPは、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制し、一方、Tyrp-1タンパク質の分解を抑制していないことがわかる。
【0056】
しかも、オレアノール酸では、2-BPよりも強くチロシナーゼタンパク質の分解を抑制していることがわかる。
【0057】
したがって、オレアノール酸は、メラニン産生酵素であるチロシナーゼタンパク質の分解を特異的に抑制することがわかる。
【0058】
<考察>
【0059】
以上のことから、オレアノール酸は、メラノサイト刺激ホルモンとして知られているα-MSHと同等のメラニン産生促進効果を有し、α-MSHと同等のチロシナーゼタンパク質発現促進効果を有するが、オレアノール酸では、α-MSHとは異なり、Tyrp-1タンパク質の発現を促進しておらず、チロシナーゼ遺伝子の発現を促進しないことがわかる。
【0060】
また、オレアノール酸は、チロシナーゼ分解抑制化合物として知られている2-BPよりも強いメラニン産生促進効果を有し、2-BPよりも強いチロシナーゼタンパク質発現促進効果を有することが分かる。さらにオレアノール酸が、2-BPよりも強くチロシナーゼタンパク質の分解を抑制し、2-BPと同様にTyrp-1タンパク質の分解を抑制していないことがわかる。
【0061】
そして、オレアノール酸は、チロシナーゼ遺伝子の発現を促進するのではなく、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制しているとの特異性を有している。これにより、オレアノール酸では、チロシナーゼの発現量が増大し、メラニン産生促進効果が得られている。
【0062】
また、オレアノール酸では、既存のα-MSH等とは作用機構が異なることから、これらを併用することによって相乗効果も期待できる。
【0063】
以上の説明では、オレアノール酸について実験データを示して説明したが、オレアノール酸に限られず、オレアノール酸の誘導体や、オレアノール酸が属する五環性トリテルペンを含むトリテルペンについても、同様の作用・効果がある。
【0064】
以上に説明したように、オレアノール酸やその誘導体である五環性トリテルペンを含むトリテルペンを有効成分とする組成物は、チロシナーゼタンパク質の分解を抑制させて、メラニンの合成を促進させることができ、メラニン合成促進組成物又はチロシナーゼタンパク質分解抑制化合物として有用であり、白髪や白斑等のメラニン合成能の低下や欠落等に起因する症状の予防や治療に応用することができる。具体的には、それらを成分として含む白髪用外用剤、白斑用外用剤等、各種用途の外用剤として使用することができる。
【0065】
また、オレアノール酸やその誘導体である五環性トリテルペンを含むトリテルペンは含有比率が高い天然物であってもよく、それらは安全性の高いメラニン合成促進組成物やチロシナーゼタンパク質分解抑制組成物を提供することができる。具体的には、それらを成分として含む白髪用外用剤、白斑用外用剤等、各種用途の外用剤として使用することができる。