(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005391
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】歯付ベルトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20250108BHJP
B29D 29/08 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
F16G1/28 A
B29D29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090273
(22)【出願日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2023105323
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大下 義一
(72)【発明者】
【氏名】粟野 宏耶
(72)【発明者】
【氏名】西村 真哉
(72)【発明者】
【氏名】江口 直樹
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA03
4F213AA24
4F213AA29
4F213AA42
4F213AD16
4F213WA14
(57)【要約】
【課題】簡便に製造でき、かつ高負荷用途でも耐久性に優れるポリウレタン製歯付ベルトを提供する。
【解決手段】ポリウレタンを含む歯ポリマー層3がフッ素樹脂繊維および低融点繊維を含む歯布2で被覆された歯部1aを有する歯付ベルト1を作製する。前記低融点繊維が、100~180℃で溶融または軟化可能な低融点成分を含む。前記低融点成分は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種であってもよい。前記歯布2は、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸と、フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸とを含む多重織であり、かつ前記第1の緯糸が、前記第2の緯糸よりも表面側に位置していてもよい。前記第2の緯糸の本数は、前記第1の緯糸の本数よりも多くてもよい。前記低融点繊維が、融点200℃以上の繊維を含む複合繊維であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯ポリマー層が歯布で被覆された歯付ベルトであって、
前記歯ポリマー層がポリウレタンを含み、
前記歯布がフッ素樹脂繊維および低融点繊維を含み、かつ
前記低融点繊維が、100~180℃で溶融または軟化可能な低融点成分を含む、歯付ベルト。
【請求項2】
前記低融点成分が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記歯布が、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸と、フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸とを含む多重織であり、かつ前記第1の緯糸が、前記第2の緯糸よりも表面側に位置している請求項1または2記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記第2の緯糸の本数が、前記第1の緯糸の本数よりも多い請求項3記載の歯付ベルト。
【請求項5】
前記低融点繊維が、融点200℃以上の繊維を含む複合繊維である請求項1または2記載の歯付ベルト。
【請求項6】
心線をさらに含み、かつ前記心線が炭素繊維マルチフィラメント糸の撚りコードを含む請求項1または2記載の歯付ベルト。
【請求項7】
前記ポリウレタンが熱硬化性ポリウレタンの硬化物である請求項1または2記載の歯付ベルト。
【請求項8】
前記歯布にポリウレタンが浸透している請求項1または2記載の歯付ベルト。
【請求項9】
歯布前駆体を予め型付けする型付け工程を含む請求項1または2記載の歯付ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面(内周面または歯付プーリとのかみ合い側)が歯布で被覆されたポリウレタン製歯付ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトとしては、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトや歯付ベルトなどのかみ合い伝動ベルトが知られている。摩擦伝動ベルトはプーリとの間で数%程度の滑りを生じながら動力伝達が行われるのに対して、かみ合い伝動ベルトは駆動プーリの回転を確実に従動プーリに伝達できるため、用途に応じて使い分けられている。
【0003】
歯付ベルトは、ゴム、エラストマー、樹脂などの弾性体で形成された背部と、ベルト長さ方向に一定間隔で配設された歯部と、背部に螺旋状に埋設された心線(撚りコード)とで形成されている。歯付ベルトの背部および歯部を形成する材質としては、ゴム、熱硬化性ポリウレタン(注型ポリウレタン)、熱可塑性ポリウレタンなどが挙げられる。これらのうち、熱可塑性ポリウレタン製のベルトは高温では使用できない欠点があり、用途が限られている。熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトは耐熱性が高いことに加えて、耐候性にも優れるため、屋外用途で好んで用いられる。また、カーボンブラックが配合されるために色が黒に限定されるゴム製歯付ベルトとは異なり、様々な色に着色できて意匠性が高い点を生かして、自転車の後輪駆動用としてチェーンの代わりに用いられるケースも増えている。このように、用途によっては熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトをゴム製歯付ベルトや熱可塑性ポリウレタン製歯付ベルトでは置き換えができない場合がある。
【0004】
ゴム製歯付ベルトの歯部の表面(内周面)は、歯布(補強布)で被覆されたものが多い。これに対して、熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトの歯部は、歯布を設けずにポリウレタンがむき出しとなっているものが多い。この違いは、材質的に耐摩耗性に優れるポリウレタンを用いた歯付ベルトでは歯布を設けなくても耐久性を担保しやすいという面と、製造方法上、熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトでは歯布を設けることが困難であるという面がある。
【0005】
ゴム製歯付ベルトの製造では、溝を有する金型の外周に、歯布、心線、未架橋ゴムシートを積層した積層体を外周側から押圧することにより、高粘度のゴムが心線の間を通過して金型側へ流動し、歯布を金型の歯溝に圧入することができるため、内周面が歯布で被覆された歯付ベルトを容易に製造できる。熱可塑性ポリウレタンを用いる場合も同様に、高粘度で流動状態にある熱可塑性ポリウレタンにより歯布を圧入することが可能である。これに対して、熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトでは、液状のウレタンプレポリマーが歯布の織目を通過してしまうために歯布を金型の歯溝に圧入することができず、歯布はポリウレタン中に埋没することとなる。
【0006】
熱硬化性ポリウレタン製歯付ベルトの内周面を歯布で被覆するためには、予め歯布を金型の歯溝に沿わせる処置が必要である。例えば、特開昭58-33442号公報(特許文献1)には、ポリウレタンエラストマーを塗布した補強布に型付けを行い、金型の歯溝にもポリウレタンエラストマーを付着させ、金型の外周に型付けした補強布を巻き付けた後、外側から押圧加熱する方法が開示されている。また、特開平6-213283号公報(特許文献2)には、エラストマー不浸透性樹脂層をもつ補強布に型付けを行い、可撓性があり且つ硬化時間の短い接着剤を補強布の両端部に固化介在させて保形強化し、金型の周りに該補強布を巻き付ける方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58-33442号公報
【特許文献2】特開平6-213283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの文献に開示される方法を採用した場合、ポリウレタンエラストマーや樹脂層を使用して補強布を補強するため、ベルトを製造するための工数が大きく増大するという問題もあった。そのため、特に低負荷用途で使用されるポリウレタン製歯付ベルトでは、歯布を設けない構造のベルトが用いられることが多かった。しかしながら、ポリウレタン製歯付ベルトを高負荷用途でも使用したいという要望もあり、より簡便に製造することができ、高負荷用途でも高い耐久性が得られるベルトが望まれていた。
【0009】
従って、本発明の目的は、簡便に製造でき、かつ高負荷用途でも耐久性に優れるポリウレタン製歯付ベルトおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を達成するため、ポリウレタンを含む歯ポリマー層をフッ素樹脂繊維および特定の低融点繊維を含む歯布で被覆することにより、高負荷用途でも耐久性に優れるポリウレタン製歯付ベルトを簡便に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の態様[1]としての歯付ベルトは、
歯ポリマー層が歯布で被覆された歯付ベルトであって、
前記歯ポリマー層がポリウレタンを含み、
前記歯布がフッ素樹脂繊維および低融点繊維を含み、かつ
前記低融点繊維が、100~180℃で溶融または軟化可能な低融点成分を含む。
【0012】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、前記低融点成分が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種である態様である。
【0013】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]において、前記歯布が、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸と、フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸とを含む多重織であり、かつ前記第1の緯糸が、前記第2の緯糸よりも表面側に位置している態様である。
【0014】
本発明の態様[4]は、前記態様[3]において、前記第2の緯糸の本数が、前記第1の緯糸の本数よりも多い態様である。
【0015】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記低融点繊維が、融点200℃以上の繊維を含む複合繊維である態様である。
【0016】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様の歯付ベルトが心線をさらに含み、かつ前記心線が炭素繊維マルチフィラメント糸の撚りコードを含む態様である。
【0017】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、前記ポリウレタンが熱硬化性ポリウレタンの硬化物である態様である。
【0018】
本発明の態様[8]は、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様において、前記歯布にポリウレタンが浸透している態様である。
【0019】
本発明には、態様[9]として、歯布前駆体を予め型付けする型付け工程を含む、前記態様[1]~[8]のいずれかの態様の歯付ベルトの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ポリウレタンを含む歯ポリマー層がフッ素樹脂繊維および特定の低融点繊維を含む歯布で被覆されているため、摩擦係数が低く、かつ高負荷用途でも耐久性に優れるポリウレタン製歯付ベルトを簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の歯付ベルトの一例を示す概略部分断面斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の歯付ベルトの製造方法の型付け工程において、歯布前駆体を下側型付板の歯溝に押し込む方法を説明するための概略模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の歯付ベルトの製造方法の型付け工程において、歯布前駆体を一対の型付板で挟持した状態を示す概略模式図である。
【
図5】
図5は、実施例の耐久性試験における走行レイアウトを示す概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1で得られた歯付ベルトのベルト周方向断面を50倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】
図7は、実施例1で得られた歯付ベルトのベルト幅方向断面を50倍に拡大したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〈歯付ベルト〉
以下に、必要に応じて、添付図面を参照しつつ、本発明の歯付ベルトの一例について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一のまたは機能が共通する要素(または部材)には同じ符号を付す場合がある。
【0023】
図1は、本発明の歯付ベルトの一例を示す概略部分断面斜視図であり、
図2は、
図1の歯付ベルトの概略断面図である。この例の歯付ベルト1は、無端状のかみ合い伝動ベルトであり、ベルト周方向(長手方向)に延びる心線4が埋設された背部1cと、この背部1cの内周面に周方向に所定間隔で設けられ、かつベルト幅方向に延びる複数の歯部1aとを備えており、歯部側のベルト表面(内周面)は歯布2で構成されている。前記背部1cは、前記心線4のベルト外周面側に配設され、かつポリウレタンで形成された背ポリマー層5を有しており、この背ポリマー層5がベルト外周面を形成している。さらに、前記歯付ベルト1は、心線4のベルト内周面側において、前記歯布2と前記心線4との間に、ポリウレタンで形成された歯ポリマー層(歯部を形成するポリマー層)3を有している。
【0024】
隣接する歯部1aと歯部1aとの間には、平坦な歯底部1bが存在し、前記歯部1aと前記歯底部1bとは、ベルト内周面において周方向(ベルト長手方向)に沿って交互に形成されている。すなわち、前記歯部1aの表面および前記背部1cの内周面(すなわち、歯底部1bの表面)は、連続した1枚の歯布2で構成されている。
【0025】
なお、
図1に示す実施形態において、歯部の表面を構成する歯布は、歯部の構成要素である一方で、歯底部の表面を構成する歯布は、背部の構成要素である。また、歯部を構成する各歯布は、連続する歯布の一部(
図2における歯布2の一部)である。
【0026】
この例において、前記歯部1aは、ベルト周方向の断面形状が略台形状である。また、断面略台形状の歯部1aは、周方向の表面(内周面)が前記歯布2で形成され、内部が前記歯布2および前記心線4の間に介在する歯ポリマー層3で形成されている。
【0027】
なお、歯底部1bにおいても、歯布2と心線4との間には、歯ポリマー層3が介在している(図示せず)。歯底部1bにおける歯ポリマー層3の厚みは、歯部1aにおける歯ポリマー層3の厚みに比べて極めて薄肉である。
【0028】
前記心線4は、ベルト長手方向(周方向)に延在し、かつベルト幅方向に間隔をおいて配列されている。隣接する心線4の隙間は、背ポリマー層5および/または歯ポリマー層3を構成するポリマー組成物(特に、背ポリマー層5を構成するポリマー組成物)で形成されていてもよい。
【0029】
歯付ベルトは、産業用機械、自動車の内燃機関、自動二輪車の後輪駆動などにおける高負荷伝動用途に使用できるが、自動二輪車の後輪駆動における高負荷伝動用途に使用するのが好ましい。例えば、歯付ベルトが、駆動プーリ(歯付プーリ)と従動プーリ(歯付プーリ)との間に巻き掛けられた状態で、駆動プーリの回転により、駆動プーリ側から従動プーリ側に動力を伝達する。
【0030】
なお、本発明の歯付ベルトは、
図1および2に示す形態および構造に限定されない。例えば、複数の歯部は、歯付プーリとかみ合い可能であればよく、歯部の断面形状(歯付ベルトのベルト周方向の断面形状)は、略台形状に限定されず、例えば、半円形、半楕円形、多角形[三角形、四角形(矩形、台形など)など]などであってもよい。これらのうち、かみ合い伝動性などの点から、断面略台形状または半円形状が好ましい。
【0031】
本発明の歯付ベルトにおいて、周方向に隣り合う歯部の中心間の平均距離(歯ピッチ、
図2参照)は、歯付プーリの形態などに応じて、例えば2~25mm程度であってもよい。歯ピッチの数値は、歯部のスケール(歯部のベルト周方向の長さ、および歯部の歯高さ)の大きさにも対応している。すなわち、歯ピッチが大きいほど、相似的に歯部のスケールも大きくなる。特に、高い負荷が作用する用途では、スケールの大きい歯部が必要とされ、歯ピッチが5mm以上であってもよく、8mm以上が好ましい。歯ピッチは、用途に応じて適宜選択でき、自動二輪車の後輪駆動における伝動用途では6~16mm程度であってもよく、例えば8~14mm(特に10~14mm)程度であってもよい。
【0032】
さらに、歯部の平均歯高さは、ベルト全厚[背部表面(外周面)から歯頂部までの厚み(距離または高さ)]の平均値に対して、例えば40~70%、好ましくは50~65%である。
【0033】
なお、本願において、
図2に示すように、歯部の平均歯高さは、ベルト内周面において、突出している歯部の平均高さ[歯底部表面から歯頂部までの厚み(距離または高さ)の平均値]を意味する。
【0034】
[歯部]
歯部は、表面側(内表面側)に配置された歯布と、この歯布および心線の間に配置または介在する歯ポリマー層(歯部を形成するポリマー層)とを含む。すなわち、歯部は、表面が歯布で被覆されており、歯布がベルト内周面を形成している。そして、本発明の歯付ベルトでは、ポリウレタン(特に、熱硬化性ポリウレタン)を含む歯部がフッ素樹脂繊維および特定の低融点繊維を含む歯布で被覆されているため、摩擦係数が低く、高負荷用途でも耐久性に優れる歯付ベルトを簡便に製造できる。このメカニズムの詳細は不明であるが、以下のように推測される。
【0035】
歯付ベルトが歯布を備えることで、耐摩耗性を向上できるが、本発明では、歯布がフッ素樹脂繊維を含むことで摩擦係数が低下し、耐摩耗性をさらに向上できる。フッ素樹脂繊維は接着性が低い上に、脆くて早期に飛散しやすいという欠点があるが、歯付ベルトの製造過程で歯ポリマー層を形成するためのポリウレタン(特に、熱硬化性ポリウレタン)が歯布に浸透して繊維間を固着することにより、フッ素樹脂繊維が補強され、早期の飛散を抑制できる。さらに、低融点繊維の低融点成分の融点は100~180℃に調整されているため、歯布の型付けや歯ポリマー層を形成するウレタンプレポリマーを硬化させる際の熱で軟化させることができるとともに、常温では形状を保持できるため、溶融した低融点繊維がフッ素樹脂繊維に容易に付着または接合され、フッ素樹脂繊維の接着性が向上することも寄与していると推測される。
【0036】
歯布は、少なくとも一部のフッ素樹脂繊維がポリウレタンで固着されていればよいが、フッ素樹脂繊維の補強効果が大きく、ベルトの耐久性を向上できる点から、歯布全体にポリウレタンが浸透しているのが好ましい。歯布全体に浸透したポリウレタンは、歯の表面側に多く存在するフッ素樹脂繊維の周囲を固めることにより、脆くて飛散しやすいというフッ素樹脂繊維の欠点を補うことができる。
【0037】
さらに、歯布は、歯布全体にポリウレタンが浸透し、かつ歯布表面にポリウレタンの薄膜(ポリウレタン層)を有しているのが特に好ましい。歯布の表面側まで透過したポリウレタンが歯布の表面で薄膜を形成すると、歯布表面でフッ素樹脂繊維を包み込むようにして補強できるため、よりフッ素樹脂繊維の補強効果を高めることができる。
【0038】
このようなポリウレタン層の平均厚みは、例えば10~100μm、好ましくは20~50μm、さらに好ましくは30~40μmである。ポリウレタン層の厚みが薄すぎると、フッ素樹脂繊維が飛散し易くなる虞があり、厚すぎると、摩擦係数が高くなる虞がある。
【0039】
なお、本願において、ポリウレタン層の平均厚みは、走査型顕微鏡写真に基づいて、任意の10点の平均値として求めることができる。
【0040】
(歯布)
歯布はフッ素樹脂繊維および低融点繊維を含む。歯布は、フッ素樹脂繊維を含むことにより、摩擦係数を低減し、歯付ベルトの耐摩耗性を向上でき、低融点繊維を含むことにより、ウレタンエラストマーや接着剤を配合することなく、歯布単体で型付けを実施することが可能となる。
【0041】
(A)フッ素樹脂繊維
フッ素樹脂繊維(またはフッ素系繊維)としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)繊維、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)繊維、ポリビニルフルオライド(PVF)繊維、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)繊維、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)繊維、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)繊維、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)繊維などが挙げられる。これらのフッ素樹脂繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、PTFE繊維が好ましい。
【0042】
(B)低融点繊維
低融点繊維は、型付けを容易に実施できる点から、100~180℃で溶融(融解)または軟化可能な低融点成分を含む。低融点成分としては、歯付ベルトの成形温度(例えば、後述する製造方法に記載の温度)以下の温度で溶融(融解)または軟化可能な成分であるのが好ましい。
【0043】
低融点成分の融点または軟化点(特に、融点)は、100~180℃の範囲であればよく、好ましくは120~175℃、さらに好ましくは130~170℃、より好ましくは140~165℃、最も好ましくは155~165℃である。低融点成分の融点が低すぎると、ベルトの耐熱性が低下する虞があり、高すぎると、成形性(生産性)が低下したり、成形困難となる虞がある。
【0044】
低融点成分としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0045】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリ鎖状オレフィン系樹脂、具体的には、ポリエチレン系樹脂(例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂など)、ポリプロピレン系樹脂(アイソタクチックポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリプロピレン樹脂、アタクチックポリプロピレン樹脂など)などのポリα-C2-6オレフィン系樹脂(α-C2-6オレフィンの単独または共重合体など)などが挙げられる。
【0046】
ポリエステル系樹脂としては、二塩基酸(またはジカルボン酸)とジオールとの重縮合反応で得られるポリエステル系樹脂であってもよく、例えば、二塩基酸としてのテレフタル酸と、ジオールとしてのジエチレングリコールを重合成分として含むポリエステル系樹脂などが挙げられ、好ましくは、テレフタル酸およびジエチレングリコールをベースの重合成分とし、さらに、これらとは異なる他の共重合成分を含むポリエステル系樹脂であってもよい。他の共重合成分としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸などのC2-12アルカン-ジカルボン酸など)、アルキル基を有していてもよいベンゼンジカルボン酸(例えば、イソフタル酸などのC1-12アルキル基を有していてもよいベンゼンジカルボン酸など)、エチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコールなどの(モノまたはポリ)C2-12アルカンジオールなどが挙げられる。なお、二塩基酸(ジカルボン酸)は、ジオールとエステル結合を形成可能な誘導体(例えば、二塩基酸のアルキルエステル、酸クロリドなどの酸ハライド、酸無水物など)などであってもよい。これらの共重合成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。ポリエステル系樹脂は、重合成分の組み合わせ、および共重合比率により、融点を調整できる。
【0047】
ポリアミド系樹脂としては、二塩基酸(またはジカルボン酸)とジアミンとの重縮合反応、ω-アミノカルボン酸の重縮合反応、ラクタムの開環反応、およびこれらの組合せにより得られる重合体(単独または共重合体)であってもよい。これらの重合成分(二塩基酸、ジアミン、ω-アミノカルボン酸、ラクタム)は、脂肪族成分、例えば、アルキレン基(例えばC8-16アルキレン基、好ましくはC10-12アルキレン基など)を有するのが好ましく、代表的な重合成分としては、例えば、C8-16アルカン-ジカルボン酸(例えば、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸などのC10-12アルカン-ジカルボン酸など)、C8-16アルカンジアミン(例えば、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンなどのC10-12アルカンジアミンなど)、C8-16アミノアルカン-カルボン酸[例えば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノラウリン酸(12-アミノドデカン酸)などのC10-12アミノアルカン-カルボン酸など]などが挙げられる。これらの重合成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。代表的なポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド系樹脂、例えば、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド1212、ポリアミド11、ポリアミド12などのC8-16アルキレン基、好ましくはC10-12アルキレン基などを有する脂肪族ポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0048】
これらの低融点成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの低融点成分のうち、ポリエステル系樹脂を含むのが好ましい。
【0049】
低融点繊維は、表面の少なくとも一部に低融点成分を含んでいればよく、前記低融点成分単独で形成された繊維であってもよく、低融点成分および高融点成分で形成された複合繊維であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、複合繊維が好ましい。複合繊維は、芯鞘型複合繊維、コンジュゲート繊維などであってもよい。
【0050】
これらのうち、鞘部の低融点成分が歯布の型付けやベルトの硬化処理の際の熱で溶融して接着性を向上する効果やフッ素樹脂繊維の飛散を抑制する効果が得られるとともに、溶融せずに残った芯部の繊維により歯布の組織点を維持して耐摩耗性を向上できるため、芯鞘型複合繊維(特に、芯鞘型複合繊維のフィラメント糸)が好ましい。
【0051】
芯鞘型複合繊維としては、鞘部が、前記低融点成分(例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂および/またはポリエステル系樹脂、好ましくはポリエステル系樹脂)で形成され、芯部が、歯付ベルトの成形温度(例えば、後述する製造方法に記載の温度)以下の温度で溶融(融解)または軟化不能な繊維(高融点繊維)で形成されるのが好ましい。高融点繊維の融点(または軟化可能な温度)は180℃を超えていれば特に限定されないが、好ましくは200℃以上(例えば200~300℃)であってもよい。高融点繊維は、鞘部がポリエステル系樹脂で形成されている場合、ポリエステル系繊維[例えば、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、PET繊維、PTT繊維、PBT繊維、PEN繊維などのC2-4アルキレンC8-14アリレート系繊維);液晶ポリエステル系繊維などの完全芳香族ポリエステル系繊維;またはこれらの共重合体繊維など]で形成されるのが好ましい。
【0052】
すなわち、低融点繊維は、高融点繊維(特に、融点200℃以上の繊維)を含む複合繊維であってもよい。低融点繊維が低融点樹脂のみで形成されている場合、歯布の耐摩耗性が低下しやすい。これに対して、低融点繊維を融点が200℃以上の繊維との複合繊維とすることで、歯布の型付けを可能としつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0053】
低融点繊維の市販品として、具体的には、芯部に通常のポリエステル、鞘部に低融点ポリエステルを配した複合糸であるユニチカ(株)製「メルセット」「コルネッタ」「エスポラン」、KBセーレン(株)製「ベルカップル」、低融点ナイロンで形成されるユニチカ(株)製「フロールM」、東レ(株)製「エルダー」、ポリエチレンで形成される東洋紡(株)製「イザナス」などが例示できる。
【0054】
(C)他の繊維
歯布を形成する繊維は、前記フッ素樹脂繊維および低融点繊維を含んでいればよいが、他の繊維をさらに含んでいてもよい。
【0055】
他の繊維は、有機繊維であってもよく、無機繊維であってもよい。有機繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維[ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維などの脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)、アラミド繊維など]、ポリエステル系繊維[ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2-4アルキレンC8-14アリレート系繊維);ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル系繊維などの完全芳香族ポリエステル系繊維;またはこれらの共重合体繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンエーテル系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、ポリエーテルスルホン系繊維、ポリウレタン系繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨンなどの再生セルロース繊維、セルロースエステル繊維などが例示できる。無機繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などが例示できる。
【0056】
他の繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、有機繊維が汎用され、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、PBO繊維、ポリウレタン系繊維などが好ましく、特に、ポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維など)および/またはポリウレタン系繊維が好ましい。
【0057】
(D)歯布の形態
ベルト内周面(歯部および歯底部の表面)を構成する歯布は、例えば、織布、編布、不織布などの布帛などで形成してもよく、成形性(または生産性)などの点から織布で形成するのが好ましい。歯布は慣用的に織布(帆布)で形成される場合が多く、ベルト幅方向に延在する経糸とベルト周方向に延在する緯糸とを織成してなる織物で構成されることが多い。
【0058】
布帛を形成する各糸(経糸および/または緯糸)は、フッ素樹脂繊維、低融点繊維、他の繊維を、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて形成することもできる。経糸および緯糸の形態は、特に限定されず、1本の長繊維であるモノフィラメント糸、フィラメント(長繊維)を引き揃えたり、撚り合わせたりしたマルチフィラメント糸、ステープル(短繊維)を撚り合わせたスパン糸(紡績糸)、細長く切断したシートを熱延伸などにより糸状に成形した扁平状のスリットヤーンなどであってもよい。前記マルチフィラメント糸または前記スパン糸は、複数種の繊維を用いた複合糸(混合糸)、例えば、混撚糸、混紡糸、混繊糸、カバリング糸などであってもよい。これらのうち、フッ素樹脂繊維としては、モノフィラメント糸、スリットヤーンが好ましい。
【0059】
また、布帛を形成する各糸(経糸および/または緯糸)は、例えば、伸縮性を有する弾性糸[例えば、ポリウレタンで形成されたスパンデックスなどの伸縮性を有するポリウレタン系弾性糸、伸縮加工(例えば、ウーリー加工、縮加工など)した加工糸など]との複合糸を形成してもよく、前記複合糸がポリウレタン繊維を含む場合、ポリウレタン繊維で形成された前記ポリウレタン系弾性糸と、前記繊維[好ましくは前記ポリエステル系繊維(PET繊維、前記低融点成分としてのポリエステル系樹脂を含む繊維など)、前記ポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、前記フッ素樹脂繊維(PTFE繊維など)など]との複合糸(混合糸)を形成するのが好ましい。
【0060】
緯糸は、前記伸縮性を有する弾性糸を含むのが好ましく、経糸は、製織性の点から、通常、弾性糸を含まない場合が多い。歯布のベルト周方向への伸縮性を確保するため、弾性糸を含む緯糸はベルト周方向に延在し、経糸はベルト幅方向に延在する。
【0061】
繊維の平均径は、例えば1~100μm(例えば3~50μm)、好ましくは5~30μm、さらに好ましくは7~25μmである。糸の平均繊度(太さ)について、緯糸は、例えば100~1000dtex(特に300~700dtex)程度であってもよく、経糸は、例えば50~500dtex(特に100~300dtex)程度であってもよい。緯糸の密度(本/cm)は、例えば5~50(特に10~40)程度であってもよく、経糸の密度(本/cm)は、例えば10~300、好ましくは15~100(特に20~60)程度であってもよい。
【0062】
布帛が織布である場合、織り組織は、経糸と緯糸とが規則的に縦横方向に交差した組織であれば特に制限されず、平織、綾織(または斜文織)、朱子織(繻子織、サテン)などのいずれであってもよく、これらの組織を組み合わせた織り組織であってもよい。好ましい織布は、綾織、朱子織(特に、1/3綾織、2/2綾織などの綾織)組織を有している。また、織布は、単層構造であってもよく、多重織構造(二重織構造など)を有していてもよい。小型の歯付ベルトに適用し易い点から、単層構造であってもよく、耐久性を向上できる点から、二重織構造(特に、緯糸二色二重織構造)が好ましく、二重織構造が特に好ましい。
【0063】
経糸と緯糸とを備えた織り組織において、歯布と歯付プーリとの摩擦を低減できる点から、必要に応じて、ベルトの表面側(内周面側)に位置する(露出する)経糸および/または緯糸(好ましくは緯糸)を、前記フッ素樹脂繊維(PTFE繊維など)またはその複合糸などの低摩擦係数の繊維(または低摩擦性繊維)で形成するのが好ましく、ベルトの表面側(内周面側、すなわち、歯付プーリとのかみ合い側)に位置する緯糸を、フッ素樹脂繊維および低融点繊維を含む複合糸で形成するのが特に好ましい。このような態様では、歯布と歯付プーリとのかみ合いでの摩擦を低減でき、耐摩耗性を向上できる。
【0064】
経糸および緯糸の代表的な態様として、経糸は、例えば、前記ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、好ましくはナイロン66などのポリアミド系繊維などで形成してもよく;緯糸は、前記フッ素樹脂繊維を少なくとも有する糸であるのが好ましく、例えば、前記フッ素樹脂繊維を含む繊維単独で形成してもよいが、前記フッ素樹脂繊維と前記低融点繊維とを含む複合糸(混合糸)などで形成するのが好ましく、さらに好ましくは、前記フッ素樹脂繊維と前記低融点繊維と前記ポリウレタン系繊維(弾性糸)とを含む複合糸などで形成してもよい。
【0065】
また、糸が前記フッ素樹脂繊維と前記低融点繊維とを含む複合糸(混合糸)である場合、低融点繊維がフッ素樹脂繊維の周囲に配されているのが好ましい。具体的な複合糸の形態には、フッ素樹脂繊維と低融点繊維とが混撚されている形態や、低融点繊維によってフッ素樹脂繊維がカバーされている形態などが含まれる。
【0066】
フッ素樹脂繊維の周囲に低融点繊維が配された態様では、歯部および背部の硬化時に低融点繊維の低融点成分が溶融(融解)または軟化し、フッ素樹脂繊維の表面と接合した後、融点以下まで冷却することで低融点繊維が結晶化する。その結果、歯付プーリへのかみ込み時、あるいは、歯付プーリからのかみ抜け時に、歯部の表面に生じる衝撃や摩耗によってフッ素樹脂繊維が切断・飛散するのが抑制される。そのため、この態様の緯糸を歯付ベルトの歯布(歯布前駆体)として用いると、前記作用によって、歯部および背部がより長期間保護されるため、ベルトの歯欠けを防止することができ、高負荷走行時の長寿命化が可能となる。さらに、前述の通り、歯ポリマー層を形成するためのポリウレタンも歯布に浸透してフッ素樹脂繊維を補強するため、本発明では、両作用によってベルトの耐久性をより向上できる。このように、本発明では、ポリウレタンおよび低融点繊維の存在により歯布前駆体を保形するための樹脂成分や接着剤が不要となるため、歯付ベルトの生産性も向上できる。すなわち、本発明では、低融点繊維およびフッ素樹脂繊維の双方を含むため、摩擦係数の低減と歯付ベルトの生産性の向上とを両立でき、耐久性に優れた歯付ベルトを簡便に製造できる。
【0067】
歯布を形成するための歯布前駆体が、フッ素樹脂繊維と低融点繊維とを含む場合、前記低融点繊維の比率(割合)は、前記フッ素樹脂繊維および前記低融点繊維の総量に対して、例えば20~70質量%、好ましくは30~69質量%(例えば40~68質量%)、さらに好ましくは50~67質量%(例えば55~66.5質量%)、特に60~66.5質量%(例えば62~66質量%)程度であってもよい。低融点繊維の割合が少なすぎると、歯付ベルトの生産性が低下する虞があり、多すぎると、摩擦係数が大きくなり、耐摩耗性が低下する虞がある。
【0068】
なお、フッ素樹脂繊維は、織布が二重織構造などの多重織構造である場合、ベルトの表面側(内周面側、すなわち、歯付プーリとのかみ合い側)に位置して露出する糸に(特に、緯糸として)含まれるのが好ましい。
【0069】
特に、前記歯布が、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸と、フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸とを含む多重織である場合、前記第1の緯糸は、前記第2の緯糸よりもベルトの表面側に位置しているのが好ましい。歯布をこのような構成の多重織とすることで、歯布の裏面側(歯ポリマー層との接着側)へのフッ素樹脂繊維の露出を少なくすることができ、接着性が向上する。これと同時に、歯布の表面側(歯付プーリとのかみ合い側)へのフッ素樹脂繊維の露出を多くすることができ、摩擦係数を低減できる。ここで、フッ素樹脂繊維を含む緯糸の全てが、フッ素樹脂繊維を含まない緯糸よりも表面側に位置している必要はなく、歯布の表裏方向におけるそれぞれの糸の平均の位置が上記の位置関係にあればよい。
【0070】
第2の緯糸の本数は、第1の緯糸の本数よりも多いのが好ましく、両者の本数比は、第1の緯糸/第2の緯糸=1/10~10/11、好ましくは1/5~2/3、さらに好ましくは1/3~1/2である。フッ素樹脂繊維は接着性に乏しく、歯布の裏面側(歯ポリマー層との接着側)に露出すると接着性が低下して、歯布が剥離しやすくなる。フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸の本数を、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸の本数よりも多くすることで、フッ素樹脂を含む緯糸が歯布の裏面側(歯ポリマー層との接着側)に露出するのを確実に防止することができ、歯布の剥離を抑制できる。第2の緯糸の本数の比が大きくなりすぎると、摩擦係数が大きくなる虞がある。
【0071】
また、織布が緯糸二色二重織構造である場合、ベルトの表面側(内周面側)に位置する緯糸が、フッ素樹脂繊維を含む第1の緯糸であるのが好ましく、歯布(布帛)の裏面側(歯ポリマー層側または心線側)に位置する(露出しない)緯糸は、フッ素樹脂繊維を含まない第2の緯糸であるのが好ましく、第2の緯糸は低融点繊維を含んでいてもよいが、必ずしも含まなくてもよい。特に、第1の緯糸は、フッ素樹脂繊維および低融点繊維を含むのが好ましく、フッ素樹脂繊維、低融点繊維およびポリウレタン系繊維(弾性糸)を含むのが特に好ましい。
【0072】
さらに、歯布(布帛)の裏面側(歯ポリマー層側または心線側)に位置する(露出しない)緯糸を、フッ素樹脂繊維などの低摩擦性繊維以外の繊維で形成することで、歯布(歯布前駆体)と歯ポリマー層との接着性(密着性)を有効に向上できる。そのため、歯布(歯布前駆体)の歯ポリマー層側に位置する緯糸は、例えば、前記ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維(好ましくはナイロン66などのポリアミド系繊維)を含む糸で形成してもよく、好ましくはナイロン66などのポリアミド系繊維と前記ポリウレタン系繊維(弾性糸)とを含む複合糸などで形成してもよい。特に、第2の緯糸は、ポリアミド系繊維とポリウレタン系繊維(弾性糸)とを含む複合糸を含むのが好ましい。
【0073】
歯布(歯付ベルト中の歯布)の平均厚みは、例えば0.1~2mm、好ましくは0.2~1.5mmである。なお、原料としての歯布(成形前の歯布前駆体)の平均厚みは、例えば0.5~3mm、好ましくは0.75~2.5mmである。
【0074】
歯ポリマー層との接着性を高めるため、歯布を形成する布帛(歯布前駆体)には接着処理を施してもよい。接着処理としては、例えば、布帛をレゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬した後、加熱乾燥する方法;エポキシ化合物またはイソシアネート化合物で処理する方法;これらの処理方法を組み合わせた方法などが例示できる。これらの方法は、単独でまたは二種以上組み合わせて行うことができ、処理順序や処理回数も限定されない。
【0075】
(歯ポリマー層)
歯ポリマー層は、ポリウレタンを含んでいればよく、ポリウレタンを含む架橋ポリマー組成物(第1架橋ポリマー組成物)で形成されていてもよい。歯ポリマー層は、架橋ポリマー組成物の単一相で形成された層(ポリマー層)であってもよい。架橋ポリマー組成物は、硬化性ポリマー組成物(特に、熱硬化性ポリマー組成物)の架橋物であってもよい。
【0076】
(a)ポリウレタン
ポリウレタン(またはウレタンエラストマー)は、特に限定されず、慣用のポリウレタンが利用できるが、成形性などの点から、ウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物(二液硬化型ポリウレタン)であってもよい。
【0077】
ウレタンプレポリマーとしては、硬化剤で硬化可能なプレポリマーであればよく、慣用のプレポリマーを利用できるが、末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(例えば、末端に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマー)が汎用される。
【0078】
末端にイソシアネート基を有するプレポリマーは、ポリオール類に対して過剰量のポリイソシアネート類を反応させて得られたポリウレタンプレポリマーであってもよい。
【0079】
ポリオール類としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリル系ポリマーポリオールなどが挙げられる。これらのポリオール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオール類のうち、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールが汎用され、柔軟性や耐水性などの点から、ポリテトラメチレングリコールエーテルなどのポリエーテルジオールが好ましい。
【0080】
ポリイソシアネート類には、例えば、脂肪族ポリイソシアネート[プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などの脂肪族ジイソシアネートや、1,6,11-ウンデカントリイソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどの脂肪族トリイソシアネート]、脂環族ポリイソシアネート[シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどの脂環族ジイソシアネートや、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環族トリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,3-ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどの芳香族ジイソシアネートなど]などが含まれる。
【0081】
これらのポリイソシアネート類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリイソシアネート類のうち、HDIなどの脂肪族ジイソシアネート、IPDIなどの脂環族ジイソシアネート、XDIなどの芳香脂肪族ジイソシアネート、MDIやTDIなどの芳香族ジイソシアネートが汎用され、機械的特性などの点から、TDIなどの芳香族ポリイソシアネートが特に好ましい。
【0082】
(b)硬化剤
硬化性ポリマー組成物は、硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤としては、慣用の硬化剤であるポリオール類やポリアミン類を利用でき、プレポリマーの種類に応じて選択できるが、反応性などの点から、ポリアミン類が好ましい。
【0083】
ポリアミン類としては、例えば、脂肪族ジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミンなど)、脂環族ジアミン(例えば、1,4-シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミンなど)、芳香族ジアミン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、フェニレンジアミンなど)、芳香脂肪族ジアミン(例えば、m-キシリレンジアミンなど)、トリアミン(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなど)などが挙げられる。
【0084】
これらのポリアミン類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリアミン類のうち、反応性および機械的特性などの点から、MOCAなどの芳香族ポリアミン類が特に好ましい。
【0085】
前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とは、通常、イソシアネート基と活性水素原子(例えば、アミノ基)が略等量となる割合(イソシアネート基/活性水素原子=0.8/1~1.2/1程度)で組み合わせて用いられる。硬化剤の割合は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、例えば、1~50質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは3~30質量部、さらに好ましくは5~20質量部程度である。
【0086】
(c)他の成分
硬化性ポリマー組成物は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、可塑剤、安定剤(耐候安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、充填剤、短繊維、滑剤、着色剤、溶媒などが挙げられる。これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の合計割合は、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは3~15質量部程度である。
【0087】
[歯底部]
歯布は、歯部の表面を構成するとともに、背部の歯部側の表面(歯底部の表面)も構成している。
【0088】
歯底部に相当する背部においては、歯布と心線との間には、歯ポリマー層が介在していてもよく、歯ポリマー層を介在することなく、歯布と心線とが接触していてもよい。歯底部に相当する背部において、歯ポリマー層が介在している場合、歯ポリマー層の厚みは、歯部よりも薄く形成されている。
【0089】
[背ポリマー層]
背部は、内周面において前記歯部および歯底部が形成されるとともに、その外周面側では、ベルト外周面を形成する背ポリマー層を有している。さらに、前記背ポリマー層は、架橋ポリマー組成物(第2架橋ポリマー組成物)で形成されている。
図1~2の態様では、歯部が形成されていない側の他方の表面(ベルト背面)は布帛(織布、編布、不織布など)で被覆されていないが、必要に応じて被覆されていてもよい。この布帛は、好ましい態様も含めて、歯布として例示された布帛から選択できる。
【0090】
(第2架橋ポリマー組成物)
第2架橋ポリマー組成物は、背ポリマー層と歯部との密着性が損なわれない限り、特に限定されず、例えば、歯ポリマー層(第1ポリマー層)の架橋ポリマー組成物として例示された架橋ポリマー組成物から選択できる。第2架橋ポリマー組成物において、ポリウレタン(第2ポリウレタン)は、背ポリマー層と歯部との密着性を向上できる点から、歯ポリマー層(第1ポリマー層)と同系列または同種のポリウレタンを含むのが好ましく、同種のポリウレタンであるのがさらに好ましく、同一のポリウレタンであるのがより好ましい。
【0091】
背ポリマー層の平均厚みは、例えば0.3~3mm、好ましくは0.5~2mmである。背部の平均厚み(歯底部における背部の平均厚み)は、例えば1~5mm、好ましくは1.5~4mmである。
【0092】
[心線]
背部には、前記背ポリマー層の内周側において、ベルト周方向に沿って延びる心線が埋設されている。この心線は、抗張体として作用し、歯付ベルトの走行安定性および強度を向上できる。さらに、背部では、通常、ベルト周方向に沿って延びる撚りコードである心線が、ベルト幅方向に所定の間隔を空けて埋設されており、長手方向に平行な複数本の心線が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、螺旋状に埋設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。
【0093】
より詳細には、心線は、
図1に示すように、背部のベルト幅方向の一方の端から他方の端にかけて、所定の間隔(またはピッチ)をおいて(または等間隔で)埋設されていてもよい。隣接する心線の中心間の距離(スピニングピッチ)は、心線径よりも大きければよく、心線の径に応じて、例えば0.5~3.5mm、好ましくは0.8~3mm、さらに好ましくは0.9~2.8mmである。
【0094】
心線は、複数のストランドやマルチフィラメント糸を撚り合わせた撚りコードで形成されていてもよい。これらのうち、ストランドの撚りコードが好ましく、1本のストランドは、フィラメント(長繊維)を束ねて形成してもよい。撚りコードを形成するフィラメントの太さ、フィラメントの収束本数、ストランドの本数および撚り方の撚り構成については、特に制限されない。
【0095】
心線を形成する撚りコードは、片撚り、諸撚り、ラング撚りのコードを用いてもよい。心線を、下撚りの撚り方向と上撚りの撚り方向とが同じであるラング撚りとすることにより、諸撚りまたは片撚りに比較して曲げ剛性が低くなり、優れた耐屈曲疲労性が得られる。
【0096】
心線を形成する繊維としては、特に制限されず、例えば、ポリエステル系繊維(ポリアルキレアリレート系繊維、ポリパラフェニレンナフタレート系繊維)、ポリベンゾオキサゾール繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維(脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維(スチール繊維)などの無機繊維などが例示できる。これらの繊維は単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。心線を形成する繊維としては、低伸度高強度の点から、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用される。
【0097】
特に高い負荷が作用する用途では、炭素繊維のマルチフィラメント糸が好適に用いられる。炭素繊維は、例えば、東レ(株)製、商品名「トレカ」等が用いられる。
【0098】
炭素繊維のマルチフィラメント糸は、フィラメント数の異なる6K、12Kなどのマルチフィラメント糸から選択することができる。6Kはフィラメント数が6000本、12Kはフィラメント数が12000本のマルチフィラメント糸を表している。6Kのマルチフィラメント糸の繊度は約400tex、12Kのマルチフィラメント糸の繊度は約800texである。
【0099】
炭素繊維のマルチフィラメント糸の繊度が1000texより大きいと、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。逆に炭素繊維のマルチフィラメント糸の繊度が300texより小さいものは、材料コストが上昇するとともに、十分な引張強力を有する心線を作製するのに必要な下撚り糸の本数が増加するために、作業工数の増加を招いてしまう。
【0100】
本発明の歯付ベルトの一実施形態では、12Kのマルチフィラメント糸(繊度は約800tex)1本を片撚りした炭素繊維コード(12K-1/0)を心線としている。あるいは、12Kのマルチフィラメント糸(繊度は約800tex)1本を下撚りして下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸を4本合わせて上撚りした、ラング撚りの炭素繊維コード(12K-1/4)を心線としてもよい。なお、「12K-1/0」は、12Kのマルチフィラメント糸1本を片撚りした撚りコードであることを表し、「12K-1/4」は、12Kのマルチフィラメント糸1本を下撚りして下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸を4本合わせて上撚りした撚りコードであることを表す。同様に、例えば「12K-1/3」は、12Kのマルチフィラメント糸1本を下撚りして下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸を3本合わせて上撚りした撚りコードであることを表し、「12K-4/0」は、12Kのマルチフィラメント糸を4本合わせて片撚りした撚りコードであることを表す。
【0101】
心線には、架橋ポリマー組成物との接着性を高めるために、接着処理を施してもよい。接着処理の方法としては、例えば、撚りコードをRFL処理液に浸漬後、加熱乾燥して、撚りコードの表面に均一な接着層を形成する方法であってもよい。RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合した混合物であり、ラテックスは、例えば、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VPラテックス)、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなどであってもよい。さらに、接着処理の方法は、エポキシ化合物またはイソシアネート化合物で前処理を施した後に、RFL処理液で処理する方法であってもよい。
【0102】
撚りコード(または心線)の平均直径(平均線径)は、例えば0.2~2.5mm、好ましくは0.5~2.3mm、さらに好ましくは0.7~2.2mmであり、特に高い負荷が作用する用途では0.8~2.1mmが好ましい。心線径が細すぎると、心線の伸びが大きくなることにより、歯欠け(歯部の欠損)が発生する虞がある。心線径が太すぎると、心線の耐屈曲疲労性の低下により、心線切断が発生する虞がある。本発明の一実施形態では、心線径を1.1mmに調整している。
【0103】
〈歯付ベルトの製造方法〉
本発明の歯付ベルトの製造方法は、歯布前駆体を予め型付けする型付け工程を必須の工程として含んでいればよく、特に限定されない。本発明では、歯布が低融点繊維を含むことにより、型付け工程において、歯布前駆体を保形するための処理が不要であり、歯付ベルトの生産性を向上できる。詳しくは、歯布に含まれる低融点繊維が加熱することで軟化した後に、温度が下がった際には硬化して形状を保持できるため、特許文献1のようなポリウレタンエラストマーなどの樹脂成分を塗布する必要がなく、歯付ベルトを製造するための工数を低減できる。
【0104】
型付け工程では、歯形が刻設された一対の型付板を用いて、歯布前駆体を型付けする。型付けによって、歯布前駆体は、予め歯付ベルトの歯形に成形されるため、原料粘度の低い熱硬化性ポリウレタンを用いて歯付ベルトを製造できる。
【0105】
型付け工程では、
図3に示すように、歯付ベルトの歯形が刻設された下側型付板13の上に載置した歯布前駆体12を、ピニオンロール11を回転させて下側型付板13の歯溝13aに押し込んで下側型付板13の歯形に沿わせる。本発明では、後述する上側型付板で歯布前駆体12を挟持する前に、ピニオンロール11を用いて歯布前駆体12を下側型付板13の歯形に沿わせることにより、均一な厚みを有する歯布を成形でき、耐摩耗性を向上できる。すなわち、歯溝に沿わせることなく下側型付板13の上に歯布前駆体12を載置した場合は、後述するように上側型付板で挟持して加圧成形すると、歯布前駆体12が引き延ばされて薄肉化するが、予め歯溝に沿わせることにより薄肉化を防止できる。
【0106】
ピニオンロール11で下側型付板13の歯溝13aに押し込まれた歯布前駆体12は、
図4に示すように、前記歯形が刻設された上側型付板14を、前記下側型付板13の歯形に嵌合させ、加熱下で加圧することにより、歯布前駆体12を型付けする。
【0107】
歯布前駆体12が伸縮性布帛である場合、布帛の伸縮方向を下側型付板13の歯形の延伸方向(歯形の凹溝が延びる方向)に対して直交する方向で配置するのが好ましい。伸縮性布帛が緯糸に弾性糸を含む織布の場合は、緯糸が下側型付板13の歯形の延伸方向に対して直交する方向に配置するのが好ましい。
【0108】
加熱温度は、例えば60~200℃、好ましくは80~180℃、さらに好ましくは100~160℃、より好ましくは120~150℃である。圧力は、例えば0.1~5.0MPa、好ましくは0.5~4.0MPa、さらに好ましく1.0~3.0MPa、より好ましくは1.5~2.5MPaである。
【0109】
型付けされた歯布前駆体を用いて歯付ベルトを製造する方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。例えば、歯形に対応する複数の溝部が軸方向に延在する外周面を有する内型と、円筒状の外型とを組み合わせた金型を用いて製造する方法であってもよい。型付けされた歯布前駆体を内型に巻き付ける方法は、特に限定されず、例えば、歯布前駆体の両端をジョイントして筒状とした後に内金型の外周に被せる方法、内型の外周に歯布前駆体を巻き付けてから端部をジョイントする方法などが例示できる。ジョイントの方法も、特に限定されず、縫合、歯布前駆体の端部を重ね合わせて接着剤などで固定する方法、歯布前駆体の端部を突き合わせてジョイントシートで固定する方法などが例示できる。
【0110】
具体的な歯付ベルトの製造方法としては、例えば、特開2017-025191号公報、特開2017-129277号公報、特開2019-59232号公報、特許第4596296号公報に記載の方法などを利用できる。
【実施例0111】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下に、使用した原料および調製方法、評価方法などを示す。
【0112】
[歯布の処理]
表2に示す織布をRFL処理液を用いて浸漬処理して歯布前駆体を作製した。詳しくは、RFL処理は、表1に示す二種類のRFL処理液(RFL1、RFL2)を用い、RFL1、RFL2の順に浸漬処理を行った。
【0113】
【0114】
[歯布を構成する繊維]
PTFE繊維A:東レ(株)製「トヨフロン」、フィラメント糸
PTFE繊維B:YMT社製「ユミフロン」、スリットヤーン
ポリエステル繊維:ユニチカ(株)製「メルセット」、芯部融点256℃、鞘部融点154℃の芯鞘型複合フィラメント
66ナイロン繊維:旭化成(株)製「レオナ」
【0115】
[ポリマー組成物(液体ポリウレタン原料)]
ポリエーテル系ウレタンプレポリマー100質量部と硬化剤(3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA))17質量部との混合物
【0116】
[心線]
12Kのマルチフィラメント糸[東レ(株)製「トレカT700SC-12000」、単糸繊度0.67dtex、総繊度800tex]を用いて1本を片撚りした炭素繊維コード(12K-1/0,引張弾性率230GPa)を作製し、心線径1.1mmの心線を得た。
【0117】
[耐久走行試験]
図5に示すレイアウトで、歯数55の駆動(Dr.)プーリと、歯数25の従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行った。この2つのプーリに歯付ベルトを掛架し、軸荷重を1000N、駆動プーリの回転数を500rpm、従動プーリのトルクを31N・mとし、室温雰囲気下(25℃)でベルトを走行させた。
【0118】
実施例1
以下のように、二重織織布を用いて、歯布を型付けした後、歯付ベルトを成形した。すなわち、歯付ベルトの形状に対応する歯部と溝部とが交互に配された平坦な溝付き型付板(下側型付板)の上に処理歯布を配置し、外周に突起を有するピニオンロールにより処理歯布を溝付き型付板の歯溝の間に押し込んだ後、温度140℃で上側型付板と下側型付板の間で表2に示す処理歯布をプレス加圧した。この際、緯糸に含まれる低融点ポリエステル繊維が軟化し、フッ素樹脂繊維の表面に付着した。また、型付板を開いて温度が下がると低融点ポリエステルが硬化し、処理歯布に歯形が型付けされる。型付けされた処理歯布を型付板から取り外し、ベルト成形用の内金型の外周に巻き付けた後に両端部をジョイントした。処理歯布が巻き付けられた内金型の外周に、前記の心線を間隔(スピニングピッチ)1.2mmで螺旋状に巻き付けた。そして、特開2019-59232号公報などに記載の汎用の方法によって、前記ポリマー組成物を用いて、ポリマー組成物を金型に注入して硬化することにより、ベルトサイズ125G8M1256(歯形G8M、歯数157、幅12.5mm)の歯付ベルトを製造した。得られた歯付ベルトの歯面はフッ素樹脂繊維を含む歯布で被覆され、摩擦係数が低かったが、このような歯付ベルトを簡便な方法で製造できた。この歯付ベルトの耐久走行試験の結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1で得られた歯付ベルトは、1372時間後も歯欠けは発生せず、高い耐久性を示した。
【0119】
実施例2
表2に示す歯布(緯糸に含まれるPTFE繊維種を変更した歯布)を用いる以外は実施例1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0120】
実施例3~4
表2に示す歯布(二重織織布を単層織布に変更した歯布)を用いる以外は実施例1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0121】
比較例1
特開平7-156288号公報に準拠して従来の歯付ベルトを製造した。この歯付ベルトは、歯頂部は布帛で被覆されておらず、66ナイロン不織布は歯底部における心線の保護を目的としており、型付けすることなくベルト成形用の内金型の外周に巻き付けられ、ベルトの硬化後は心線の近傍(歯元付近)に埋設された形態を有している。この歯付ベルトの耐久走行試験の結果を表2に示す。表2に示されるように、比較例1で得られた歯付ベルトは、短時間で歯欠けが発生した。
【0122】
比較例2
表2に示す歯布(実施例3において、緯糸に含まれるPTFE繊維Aを66ナイロン繊維に変更した歯布)を用いる以外は実施例1と同様にして歯付ベルトを製造した。
【0123】
【0124】
実施例1で得られた歯付ベルトのベルト周方向断面およびベルト幅方向断面のSEM写真を、それぞれ
図6および7に示す。
図6および7中の上側部分で白く見える部分がフッ素樹脂繊維であり、二重織織布である歯布の表面に位置しており、フッ素樹脂繊維と表面との間に、厚み30~50μm程度の薄膜が観察できる。この薄膜はポリマー組成物(ポリウレタン)であるため、歯ポリマー層を形成するためのポリウレタンが歯布全体に浸透していることが確認できた。
本発明の歯付ベルト(かみ合い伝動ベルトまたは歯付伝動ベルト)は、歯付プーリと組み合わせて、入力と出力との同期性が求められる種々の分野、例えば、自動車や自動二輪車などの車両における動力伝達機構、産業機械のモータ、ポンプ類などの動力伝達機構、自動ドア、自動化機械などの機械類、OA機器部品、硬貨搬送機器、複写機、印刷機などに利用できる。特に、高負荷(高馬力)用途の産業用機械、自動二輪車の後輪駆動の動力伝達ベルト(タイミングベルトやコグドベルト)として利用できる。