(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005406
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】蓄電デバイス電極用分散剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20250108BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096905
(22)【出願日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2023105267
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰紀
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050BA20
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一態様において、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリーを調製可能とする、蓄電デバイス電極用分散剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表される構成単位(A)と式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、重合体の全構成単位に対する(A)のモル分率が0.20以上である蓄電デバイス電極用分散剤。式中、R
1はH又は炭素数1~22の炭化水素基であり、R
2は炭素数が16~22の炭化水素基であり、Mは、H、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、R
3はH又はメチル基であり、R
4は炭素数1~6の炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(A)と、下記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である蓄電デバイス電極用分散剤。
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、R
1は、水素又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、Mは、水素、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、上記一般式(2)中、R
3は、水素又はメチル基であり、R
4は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基である。
【請求項2】
前記炭素数が16以上22以下の炭化水素基は、直鎖または分岐鎖状のアルキル基である、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用分散剤。
【請求項3】
前記構成単位(A)のモル分率aが0.50以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用分散剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用分散剤と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項5】
前記蓄電デバイス電極用分散剤組成物中の前記蓄電デバイス電極用分散剤の含有量は、10質量%以上、50質量%以下である、請求項4に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒が、N-メチルピロリドンである、請求項4に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項7】
前記蓄電デバイス電極用分散剤組成物は、さらに、1種または2種以上の、前記有機溶媒に可溶な有機アミンB2を含む、請求項4に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項8】
前記有機アミンB2の、SP値は9.5(cal/cm3)1/2以上14.0(cal/cm3)1/2以下、沸点は260℃以下である、請求項7に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項9】
前記有機アミンB2の含有量が、前記蓄電デバイス電極用分散剤100質量部に対して10質量部以上300質量部以下である、請求項7に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項10】
請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用分散剤と、炭素材料系導電材と、有機溶媒とを含む、炭素材料系導電材スラリー。
【請求項11】
炭素材料系導電材が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の炭素材料系導電材スラリー。
【請求項12】
請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス電極用分散剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒とを含有する、蓄電デバイス用正極ペースト。
【請求項13】
請求項12に記載の蓄電デバイス用正極ペーストを集電体に塗布しこれを乾燥すること含む、蓄電デバイス用正極電極の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の蓄電デバイス用正極電極の製造方法で得られた蓄電デバイス用正極電極を組込むことを含む、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項15】
下記一般式(1)で表される構成単位(A)と、下記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である炭素材料用分散剤。
【化2】
ただし、上記一般式(1)中、R
1は、水素又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、Mは、水素、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、上記一般式(2)中、R
3は、水素又はメチル基であり、R
4は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス電極用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化抑制の観点から二酸化炭素を排出しない電気自動車の開発が盛んに行われている。電気自動車には、ガソリン車に比べて、走行距離が短く、バッテリーの充電に時間がかかるという課題がある。充電時間を短くするためには、正極電極中での電子の移動速度を速める必要がある。現在、非水電解質電池用の正極電極には、導電材として、炭素材料が使用されている。しかし、炭素材料を用いると、導電材スラリーや正極ペーストの粘度が高くなり、そのためハンドリング性に問題があり、スラリーやペーストの低粘度化が望まれている。スラリーやペーストの粘度の高低には、炭素材料の分散性の良否が大きく影響している。
【0003】
特許文献1は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体にアンモニアまたは飽和低級アミンをほとんど100%の反応率で反応させて得た、非水系の極性溶媒中で使用される分散剤を開示している。
特許文献2は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体のステアリルアミンによる100%アミド化物と、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を含む印刷インキ用分散剤組成物を開示している。
特許文献3は、ジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体のオレイルアミンによるアミド化物と、有機溶剤としてプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PEGMA)を含む電子材料用油中分散剤組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭41-17852号公報
【特許文献2】特開2018―168285号公報
【特許文献3】特開2009-138115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、非水溶媒中での炭素材料の分散のために用いられる分散剤として、非極性溶媒中では長鎖アルキル基を導入した分散剤が、極性溶媒中では短鎖アルキル基を導入した分散剤が特に有効であるとされている。一方、炭素材料系導電材の良好な分散性に起因する蓄電池デバイス用電極の更なる抵抗低減が望まれているなかで、特許文献1で、カーボンブラックの分散に有効であるとされている短鎖アルキル基を導入した分散剤は、蓄電池デバイス用電極の製造に使用される極性溶媒中での分散性が低いという課題がある。この課題は、炭素材料系導電材が、高いアスペクト比を有するカーボンナノチューブである場合に特に顕著である。
【0006】
近年、低抵抗の正極塗膜の形成のために、正極ペーストの粘度低減が課題となっており、そのため正極ペーストの調製に使用される導電材スラリーにおける炭素材料系導電材の分散性のさらなる向上が望まれている。炭素材料系導電材の分散性は支配因子として、正極ペーストの粘度の高低に大きく影響するからである。
【0007】
特許文献2および特許文献3は、特許文献1と同様に分散剤としてジイソブチレンと無水マレイン酸の共重合体のアミド化物を開示し、特許文献2では、顔料としてカーボンブラックを含む印刷インキ用分散剤組成物を、特許文献3では、カーボンブラックを含む電子材料用分散剤組成物を開示している。しかし、これらの開示は、蓄電池デバイス用電極の製造に使用される極性溶媒中での炭素材料系導電材の分散性の向上には関係しない。
【0008】
そこで、本開示は、一態様において、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリーを調製可能とする蓄電デバイス電極用分散剤を提供する。また、当該蓄電デバイス電極用分散剤を含む、蓄電デバイス電極用分散剤組成物、導電材スラリー、および正極ペーストを提供する。
また、本開示は、当該正極ペーストを用いて作製する蓄電デバイス用正極電極の製造方法、当該蓄電デバイス用正極電極を用いて作製する蓄電デバイスの製造方法を提供する。
また、本開示は、炭素材料系導電材の有機溶媒中での良好な分散を可能とする炭素材料用分散剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一態様において、下記一般式(1)で表される構成単位(A)と、下記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である蓄電デバイス電極用分散剤に関する。
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、R
1は、水素、又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、Mは、水素、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、上記一般式(2)中、R
3は、水素又はメチル基であり、R
4は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基である。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス電極用分散剤組成物に関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤と、炭素材料系導電材と、有機溶媒とを含む、炭素材料系導電材スラリーに関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒とを含む、蓄電デバイス用正極ペーストに関する。
【0013】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極ペーストを集電体に塗布しこれを乾燥すること含む、蓄電デバイス用正極電極の製造方法に関する。
【0014】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極電極の製造方法で得られた蓄電デバイス用正極電極を組込むことを含む、蓄電デバイスの製造方法に関する。
【0015】
本開示は、一態様において、下記一般式(1)で表される構成単位(A)と、下記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である炭素材料用分散剤に関する。
【化2】
ただし、上記一般式(1)中、R
1は、水素又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、Mは、水素、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、上記一般式(2)中、R
3は、水素又はメチル基であり、R
4は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基である。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、一態様において、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリーを調製可能とする、蓄電デバイス電極用分散剤を提供できる。
本開示によれば、一態様において、炭素材料系導電材の分散性が良好な炭素材料系導電材スラリーを調製可能とする、蓄電デバイス電極用分散剤組成物を提供できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤を含み、炭素材料系導電材の分散性が良好な、炭素材料系導電材スラリーを提供できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤を含み、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な、蓄電デバイス用正極ペーストを提供できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極ペーストを用いて蓄電デバイス用正極電極を作製するので、低抵抗化された蓄電デバイス用正極電極を製造できる。
本開示によれば、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極電極を用いて蓄電デバイスを作製するので、低抵抗化された蓄電デバイスを製造できる。
本開示によれば、一態様において、炭素材料系導電材の有機溶媒中での良好な分散を可能とする炭素材料用分散剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)と、下記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含み、全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である重合体を分散剤として用いることにより、炭素材料系導電材の分散性が良好な炭素材料系導電材スラリー(以下「導電材スラリー」ともいう)を調製できる、という新たな知見に基づく。
【化3】
ただし、上記一般式(1)中、R
1は、水素、又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であり、R
2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、Mは、水素、NH
4、金属又は有機アンモニウムであり、上記一般式(2)中、R
3は、水素又はメチル基であり、R
4は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基である。
【0018】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推察される。
【0019】
重合体である分散剤が炭素材料系導電材に対して優れた吸着性を発揮するためには、分散剤が側鎖に特定鎖長の炭化水素基、具体的には、炭素数16以上22以下の炭化水素基R2を含むことが必要であることを見出した。一方で、重合体が前記鎖長の炭化水素基R2を含むことは、重合体の疎水性が高まるため重合体の極性溶媒(有機溶媒)への溶解性が低下するので、分散剤の極性溶媒における溶解の観点からは不利であると一般的には考えられる。しかし、本開示の分散剤は、下記R3およびR4を含む構成単位も含み、これらは水素であるか又は炭素数が少ない炭化水素基であるので、R3およびR4が極性溶媒への分散剤の溶解に適切に寄与する。また、構成単位(A)のカルボキシ基又はこれが中和された塩構造が、その静電斥力によって、極性溶媒中での炭素材料系導電材の分散性の向上に寄与する。したがって、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤は、極性溶媒に対する適切な溶解性を備えるとともに、炭素材料系導電材に対する優れた吸着性を備え、さらに炭素材料系導電材との間に前記静電斥力を生じさせることとが相まって、炭素材料系導電材の高分散を可能としているものと推察している。ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されない。
【0020】
<蓄電デバイス電極用分散剤>
本開示は、一態様において、非水二次電池等の蓄電デバイスの電極用分散剤に関する。本開示は、一態様において、上記一般式(1)で表される構成単位(A)と上記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体であり、前記重合体の全構成単位に対する前記構成単位(A)のモル分率aが0.20以上である、蓄電デバイス電極用分散剤(以下「本開示の分散剤」とも言う)に関する。
【0021】
本開示の分散剤は、例えば、ビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体をアミド化することによりR
1およびR
2を導入し、必要に応じて、アミド化により生じたカルボキシ基を中和して得たものであってよい。アミド化に使用するアミンは、R
1およびR
2を含む1級または2級アミンである。構成単位(B)はビニルエーテル系単量体に由来する。例えば、ビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体をアミド化し、アミド化が無水マレイン酸の一部に対しておこなわれた場合は、本開示の分散剤は、下記一般式(3)で表される無水マレイン酸由来の構成単位(C)をさらに含む。
【化4】
【0022】
構成単位(A)と構成単位(B)の配置はブロック型、ランダム型のいずれであってもよいが、重合体の生産性の観点から、ランダム型が好ましい。
【0023】
構成単位(A)のうちの、R2は、炭素材料系導電材に対する吸着基として機能する成分であり、カルボキシ基または中和されたカルボキシ基(COOM)は、分散剤の有機溶媒(極性溶媒)への分散に寄与する成分である。構成単位(B)は、有機溶媒への分散剤の溶解性を担う成分である。
【0024】
上記一般式(1)中、R2は、炭素数が16以上22以下の炭化水素基であり、炭化水素基は、炭素材料系導電材への分散剤の吸着性の観点から、好ましくは直鎖状又は分岐状のアルキル基である。R2の炭素数は、炭素材料系導電材への分散剤の吸着性の観点から、16以上、好ましくは18以上であり、分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、22以下、好ましくは20以下である。
【0025】
上記一般式(1)中、R1は、水素、又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基である。R1は分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、メチル基または水素であることが好ましく、水素であることがより好ましい。R1およびR2の合計炭素数は、16以上44以下であるが、分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは23以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは21以下、更により好ましくは20以下である。
【0026】
ビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体をアミド化して本開示の分散剤を得る場合、前記アミド化に使用するR1およびR2を含む1級または2級アミンは、例えば、セチルアミン、イソセチルアミン、ステアリルアミン、イソステアリルアミン、アラキジルアミン、イソアラキジルアミン、ベヘニルアミン、イソベヘニルアミン、オレイルアミン、セチルメチルアミン、セチルエチルアミン、ジセチルアミン、ステアリルメチルアミン、ステアリルエチルアミン、ジステアリルアミン、ジアラキジルアミン、ジベヘニルアミン、ジオレイルアミンなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用してもよい。これらの中でも、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミンおよびステアリルメチルアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ステアリルアミン、ベヘニルアミンおよびステアリルメチルアミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ステアリルアミンおよびベヘニルアミンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0027】
上記一般式(1)において、カルボキシ基は未中和でもよいが、その一部が中和され又は全部が中和されていてもよい。例えば、カルボキシ基が未中和である場合、Mは水素であり、カルボキシ基の一部又は全部が中和されている場合、Mは、NH4、分散剤組成物や導電性スラリーを構成する有機溶媒に可溶な塩を与える金属または有機アンモニウムである。前記金属としては、Li、Na、K、Ca、Mg等が挙げられる。これらの構造を与える中和剤としては、アンモニア、下記有機アミンB1、または、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0028】
前記有機アミンB1の具体例としては、中和剤として機能するものであれば特に制限はないが、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジメチルベンジルアミン、メチルベンジルアミン、2-N-ジブチルアミノエタノール、1-フェニルメタンアミン、N,N-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、1-アミノ-2-ブタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、DL-1-アミノ-2-プロパノール、N-メチル-2-アミノエタノール、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-エチルジエタノールアミン等のアミン化合物が挙げられ、これらを1種または2種以上使用してもよい。これらのなかでも2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが好ましい。
【0029】
上記一般式(2)中、R3は水素又はメチル基であり、有機溶媒への分散剤の溶解性の観点から、好ましくは水素である。
【0030】
上記一般式(2)中、R4は炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、炭化水素基は、分散剤の合成のし易さ、およびモノマーの入手容易性の観点から、好ましくは直鎖状又は分岐状のアルキル基である。R4の炭素数は、分散剤の合成のし易さ、およびモノマーの入手容易性の観点から、好ましくは1以上であり、そして、有機溶媒への分散剤の溶解性の観点から、4以下である。
【0031】
前記構成単位(A)のモル分率a、構成単位(B)のモル分率b、構成単位(C)のモル分率cは、各々、本開示の分散剤(重合体)を構成する全構成単位のモル分率の合計を1とした値である。本開示の分散剤が、構成単位(A)~(C)以外の1種以上の構成単位(D)を含む場合、モル分率a~cと構成単位(D)のモル分率dの合計が1となる。
【0032】
本開示の分散剤において、モル分率aは、炭素材料系導電材への吸着性および炭素材料系導電材の分散性の観点から、0.20以上、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上であり、分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.50である。また、本開示の分散剤は、モル分率aが0.20以上であるものから選ばれる1種又は2種以上の混合物でもよい。尚、本開示において、モル分率aは、本開示の分散剤の重合に用いる後述のモノマーIに対するアミン化合物の使用量から算出できる。
【0033】
本開示の分散剤において、モル分率bは、分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.45以上であり、合成のし易さの観点から、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下、更により好ましくは0.50である。
【0034】
モル分率aとモル分率bの比(a/b)は、導電性スラリーにおける炭素材料系導電材の分散性の向上の観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、分散剤の有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下である。モル分率aとモル分率bの合計は、炭素材料系導電材の分散性の向上の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは1.0である。構成単位(A)および構成単位(B)以外の構成単位のモル分率は、炭素材料系導電材の分散性の向上の観点から、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0である。
【0035】
本開示の分散剤において、モル分率cは、炭素材料系導電材の分散性の向上の観点から、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.05以下、より好ましくは0である。
【0036】
本開示の分散剤において、モル分率dは、炭素材料系導電材の分散性の向上の観点から、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.05以下、更により好ましくは0である。
【0037】
本開示の分散剤は、例えば、ビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体のアミド化物を必要に応じて中和して得た変性共重合体であるが、アミド変性前のビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体の重量平均分子量は、炭素材料系導電材への吸着性の観点から、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。そして、有機溶媒に対する溶解性、炭素材料系導電材の分散性、スラリーの低粘度化の観点から、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、150,000以下が更に好ましい。
本開示において、アミド変性前のビニルエーテル系単量体と無水マレイン酸との共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例の[重量平均分子量の測定]に示す通りである。
【0038】
上記一般式(1)で表される構成単位(A)を与えるモノマーIとしては、無水マレイン酸またはマレイン酸が挙げられるが、アミド化によって簡便に炭化水素基R2を導入しやすいという理由から、アミンとの反応性を有する構造の無水マレイン酸が好ましい。
【0039】
上記一般式(2)で表される構成単位(B)を与えるモノマーIIとしては、有機溶媒への良好な溶解性の観点から、炭素数が1以上6以下のアルキルビニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒に対する良好な溶解性、分散剤の合成のし易さ、およびモノマーの入手容易性の観点から、直鎖状のアルキル基を含む、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテルおよびイソブチルビニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0040】
本開示の分散剤は、例えば、モノマーIとモノマーIIとを溶媒中で混合し、溶液重合法でモノマーを重合させた後、さらに、水素又は炭素数が1以上22以下の炭化水素基であるR1と炭素数が16以上22以下の炭化水素基R2を有するアミン化合物を添加して、モノマーIに由来の構成単位の一部または全部にR1とR2を導入する。このようにして得られアミド変性共重合体を含む溶液に、必要に応じて中和剤を用いてカルボキシ基の全部又は一部を中和する。その後、必要に応じて、アミド変性共重合体を含む溶液中の溶媒を水系溶媒に置換する溶媒置換を行って、アミド変性共重合体を沈殿させ、本開示の分散剤を得る。分散剤の中和は分散剤組成物の調製時に行ってもよい。
【0041】
本開示の分散剤の合成に用いられる溶媒としては、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン等)、芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等)、N-メチルピロリドン等の有機溶媒を使用することができる。溶媒量は、モノマー全量に対する質量比で、0.5~10倍量が好ましい。
【0042】
前記重合に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量の使用量は、モノマー成分全量に対し、0.01~5モル%が好ましい。重合反応は、窒素気流下、40~180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5~20時間が好ましい。また、前記重合の際、公知の連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、イソプロピルアルコールや、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が挙げられる。
【0043】
<蓄電デバイス電極用分散剤組成物>
本開示の分散剤は、前記構成単位(A)及び前記構成単位(B)を含む重合体そのものの状態で市場に供給されてもよいし、有機溶媒(以下、説明の便宜のため「有機溶媒C」と称する。)に溶解させた状態の蓄電デバイス電極用分散剤組成物(以下、「分散剤組成物」と略称する場合もある。)として市場に供給されてもよい。
【0044】
本開示の分散剤組成物は、上記本開示の分散剤を含むので、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリーの調製が可能であり、本開示の分散剤組成物を用いれば、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリー、および抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能な蓄電デバイス用正極ペーストを提供できる。
【0045】
本開示の分散剤組成物中の分散剤の含有量は、特に制限はないが、生産性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、有機溶媒に対する溶解性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0046】
本開示の分散剤組成物は、一態様において、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、有機溶媒Cに可溶な有機アミン(以下、分散剤の中和に使用される前記有機アミンB1との区別のために「有機アミンB2」とも言う。)が添加されていると好ましい。有機アミンB2は、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、SP値が、9.5(cal/cm3)1/2以上14.0(cal/cm3)1/2以下のアミン化合物が好ましく、電極への残留抑制の観点から、沸点が260℃以下であることが好ましい。
【0047】
尚、SP値は、正則溶液の理論展開で定義されているもので、化合物の溶解性を示す指標として使用されている。本開示でいうSP値は、分子構造から推算する方法の1つであるFedorsの計算方法に従っており、詳細は(POLYMER ENGNEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,vol.14,No.2「A Method for Estimating Both the Solubility Parameters and Molar Volumes of Liquids」記載の方法)に基づいて求められる。
【0048】
本開示の有機アミンB2のSP値は、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、好ましくは9.5(cal/cm3)1/2以上、より好ましくは10.5(cal/cm3)1/2以上、更に好ましくは11.0(cal/cm3)1/2以上であり、そして、好ましくは14.0(cal/cm3)1/2以下、より好ましくは13.5(cal/cm3)1/2以下、更に好ましくは13.0(cal/cm3)1/2以下である。
【0049】
本開示の有機アミンB2の沸点は、好ましくは260℃以下であるが、電極への残留抑制の観点から、電極の製造過程の乾燥時に揮発する温度であることが好ましく、正極ペーストの溶媒として多用されている溶媒の沸点以下であることがより好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)の沸点(沸点202℃)以下であることがより好ましく、NMPの再利用の観点から190℃以下が更に好ましい。本開示の有機アミンB2の沸点の下限は、取り扱い性の観点から100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0050】
本開示の有機アミンB2の好ましい具体例は、有機アミンB1の好ましい具体例として上記したもののうち、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、好ましくは、SP値が9.5(cal/cm3)1/2以上14.0(cal/cm3)1/2以下であり、且つ、沸点が260℃以下のアミン化合物である。有機アミンB2は、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、メチルアミン(SP値(溶解度パラメータ)8.85(cal/cm3)1/2、沸点-6.3℃、以下同様。)、ジメチルアミン(同7.80、7℃)、エチルアミン(同7.93、16.6℃)、ジメチルベンジルアミン(同9.1、180℃)、メチルベンジルアミン(同9.8、186℃)、2-N-ジブチルアミノエタノール(同10.0、226℃)、1-フェニルメタンアミン(同10.5、184℃)、N,N-ジエチルアミノエタノール(同10.7、162℃)、2-ジメチルアミノエタノール(同11.3、134℃)、1-アミノ-2-ブタノール(同11.9、169℃)、2-(エチルアミノ)エタノール(同12.0、169℃)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(同12.2、185℃)、DL-1-アミノ-2-プロパノール(同12.4、160℃)、N-メチル-2-アミノエタノール(同12.5、175℃)、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン(同12.98、246℃)、N-エチルジエタノールアミン(同13.4、251℃)等のアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、2-ジメチルアミノエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、およびN-メチル-2-アミノエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが特に好ましい。
【0051】
有機アミンB2は有機アミンB1と同一であってもよい。その場合は、本開示の分散剤組成物の調製の際に、未中和の分散剤に対して、有機アミンB1としての有機アミンと有機アミンB2としての有機アミンの合計量を添加してもよい。添加された有機アミンは、カルボキシ基の中和のために優先消費されるため、定義上、全てのカルボキシ基を中和できる有機アミンの量が有機アミンB1としての添加量であり、残りが有機アミンB2としての添加量である。
【0052】
本開示の分散剤組成物中の有機アミンB2の含有量は、一又は複数の実施形態において、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果の観点から、本開示の分散剤100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、更により好ましくは30質量部以上であり、そして、分散剤の溶解性の観点から、分散剤100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下、更に好ましくは200質量部以下、更により好ましくは150質量部以下である。
【0053】
本開示の分散剤組成物中における本開示の分散剤と本開示の有機アミンB2との質量比(分散剤/有機アミンB2)は、分散剤の溶解性の観点から、0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が更に好ましく、0.6以上が更により好ましく、そして、導電材スラリー及び正極ペーストの粘度低下の効果および蓄電デバイスの直流抵抗低減の観点から、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、3以下が更により好ましい。
【0054】
[有機溶媒C]
有機溶媒Cとしては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機溶媒、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系極性有機溶媒、酢酸エチル、γ-ブチルラクトン、およびε-カプロラクトンなどのエステル系極性有機溶媒等が挙げられるが、本開示の分散剤の溶解性が高いN-メチルピロリドンを含むとより好ましく、N-メチルピロリドンであると更に好ましい。有機溶媒Cは、これらの有機溶媒のうちの1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0055】
本開示の分散剤組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0056】
<炭素材料系導電材スラリー>
本開示は、一態様において、炭素材料系導電材と、本開示の分散剤と、有機溶媒と、必要に応じて有機アミンB2とを含有する、炭素材料系導電材スラリー(以下、「本開示の導電材スラリー」ともいう)に関する。本態様における本開示の分散剤、有機アミンB2の好ましい形態は上述のとおりである。本態様における有機溶媒は、好ましくは上述した有機溶媒Cと同じであり、より好ましくはNMPである。本開示の導電材スラリーは、本開示の分散剤を含有するので、低粘度であり、炭素材料系導電材の分散粒径も小さく、炭素材料系導電材の分散性が良好である。
【0057】
[炭素材料系導電材]
炭素材料系導電材としては、一又は複数の実施形態において、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と表記することもある。)、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン等が挙げられ、なかでもカーボンブラック及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種が好ましく、CNTがより好ましい。
炭素材料系導電材として使用できるCNTの平均直径は、特に限定されないが、CNTの分散性向上の観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、そして、導電性向上の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。また、CNTの平均長さは特に限定されないが、導電性向上の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上、更により好ましくは30μm以上であり、そして、分散性向上の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、更により好ましくは120μm以下である。本開示において、CNTの平均直径および平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。CNTは、正極塗膜に求められる特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのCNTを使用でき、これらの混合物を用いることもできる。正極塗膜は、電極基板(集電体)に塗工して得られた膜状の層である。
【0058】
(導電材スラリー中の炭素材料系導電材の含有量)
本開示の導電材スラリー中の炭素材料系導電材の含有量は、正極ペーストの濃度調整の利便性向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、導電材スラリーを取り扱いやすい粘度とする観点から、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0059】
(導電材スラリー中の分散剤の含有量)
本開示の導電材スラリー中の分散剤の含有量は、炭素材料系導電材の分散性向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上、更により好ましくは0.15質量%以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.2質量%以下、更により好ましくは1.0質量%以下である。
【0060】
本開示の導電材スラリー中の分散剤の含有量は、炭素材料系導電材の分散性向上の観点から、炭素材料系導電材100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、更により好ましくは10質量部以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは90質量部以下、更により好ましくは75質量部以下である。
【0061】
(導電材スラリー中の有機アミンB2の含有量)
本開示の導電材スラリー中の有機アミンB2の含有量は、炭素材料系導電材の分散性向上の観点と蓄電デバイスの抵抗低減の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.2質量%以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、更により好ましくは0.8質量%以下である。
【0062】
本開示の導電材スラリー中の有機アミンB2の含有量は、炭素材料系導電材の分散性向上の観点と蓄電デバイスの抵抗低減の観点から、炭素材料系導電材100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、更により好ましくは15質量部以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0063】
(導電材スラリーの製造方法)
本開示の導電材スラリーは、一又は複数の実施形態において、本開示の分散剤と、炭素材料系導電材と、有機溶媒Cと、必要に応じて追加される有機アミンB2との混合物を、混合分散機で混合することにより調製できる。また、本開示の導電材スラリーは、一又は複数の実施形態において、本開示の分散剤組成物と、炭素材料系導電材と、必要に応じて追加される有機溶媒Cや有機アミンB2との混合物を、混合分散機で混合することにより調製してもよい。
【0064】
前記混合分散機としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、及びペイントシェーカー等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。導電材スラリーの構成成分のうちの一部成分を混合してから、それを残余と混合することもできるし、各成分は、全量を一度に投入せずに、複数回に分けて投入してもよい。本開示の分散剤は、有機溶媒に溶解して分散剤組成物の状態としてから炭素材料系導電材等の他の成分と混合してもよい。炭素材料系導電材の状態は、乾燥状態でもよいし、溶媒に分散された状態であってもよい。当該溶媒は、上述した有機溶媒Cと同じものが挙げられる。
【0065】
<蓄電デバイス用正極ペースト>
本開示は、一態様において、本開示の分散剤と、炭素材料系導電材と、正極活物質と、有機溶媒と、必要に応じて有機アミンB2とを含む、蓄電デバイス用正極ペースト(以下、「本開示の正極ペースト」ともいう)に関する。本態様における本開示の分散剤の好ましい形態は上述のとおりである。本態様における有機溶媒は、好ましくは上述した有機溶媒Cと同じであり、より好ましくはNMPである。本開示の正極ペーストは、本開示の分散剤を含有するので、抵抗値が小さい正極塗膜の形成が可能である。
【0066】
本開示の正極ペーストは、結着剤をさらに含んでいてもよい。本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、炭素材料系導電材以外の導電材を更に含んでいてもよい。炭素材料系導電材以外の導電材としては、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0067】
(正極活物質)
正極活物質としては、無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、オリビン構造を有する化合物やリチウム遷移金属複合酸化物等を用いることができる。オリビン構造を有する化合物としては、一般式LixM1sPO4(但し、M1は3d遷移金属、0≦x≦2、0.8≦s≦1.2)で表される化合物を例示できる。オリビン構造を有する化合物には、非晶質炭素等を被覆して用いてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、スピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物、層状構造を有し一般式LixM2O2-δ(但し、M2は遷移金属、0.4≦x≦1.2、0≦δ≦0.5)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。前記遷移金属M2としては、Co、Ni又はMnを含むものとすることができる。前記リチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、Al、Fe、Cr、Ti、Zn、P、およびBから選ばれる一種又は二種以上の元素を含有していてもよい。
【0068】
本開示の正極ペースト中の正極活物質の含有量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる限り、特に制限はないが、エネルギー密度の観点と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0069】
本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量について、特に制限はない。本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量は、従来公知の正極ペーストの全固形分におけるそれと同じであってもよく、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つためには、90.0質量%以上が好ましく、そして、合材層の導電性や塗膜性を担保するためには、99.9質量%以下が好ましい。
【0070】
(結着剤)
結着剤(バインダー樹脂)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル等を単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0071】
本開示の正極ペーストの全固形分における結着剤の含有量は、合材層の塗膜性や集電体との結着性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、そして、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点からは9.95質量%以下が好ましい。
【0072】
(正極ペースト中の分散剤の含有量)
本開示の正極ペースト中の本開示の分散剤の含有量は、塗膜抵抗の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、そして、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0073】
(正極ペースト中の有機アミンB2の含有量)
本開示の正極ペースト中の本開示の有機アミンB2の含有量は、正極ペーストの固形分濃度を高くする観点、及び、粘度低下の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.012質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、そして、溶媒への溶解性と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
【0074】
(正極ペースト中の炭素材料系導電材の含有量)
本開示の正極ペーストの炭素材料系導電材の含有量は、合材層の導電性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0075】
本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、正極活物質、本開示の導電材スラリー、結着剤、有機アミンB2、及び固形分濃度調整等のための有機溶媒(追加溶媒)等を、混合及び攪拌して、作製することができる。このほか本開示の分散剤以外の分散剤や機能性材料等を添加しても良い。上記有機溶媒(追加溶媒)としては、好ましくは上述した有機溶媒Cが挙げられ、より好ましくはNMPである。これらの混合や攪拌にはプラネタリミキサー、ビーズミル、ジェットミル等を用いることができ、また、これらを併用することもできる。
【0076】
本開示の正極ペーストは、正極ペーストの調製に用いる全成分のうちの一部成分をプレミックスしてから、それを残余と混合することもできる。また、各成分は、全量を一度に投入せずに、複数回に分けて投入しても良い。これにより、攪拌装置の機械的な負荷を抑えることができる。
【0077】
本開示の正極ペーストの固形分濃度や、正極活物質の量、結着剤の量、導電材スラリーの量、添加剤成分の添加量、有機溶媒の量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる。乾燥性の観点からは有機溶媒の量は少ないほうが好ましいが、正極合材層の均一性や表面の平滑性の観点から、正極ペーストの粘度が高すぎないことが好ましい。一方で、乾燥抑制の観点、及び合材層(正極塗膜)の充分な膜厚を得る観点から、正極ペーストの粘度が低すぎないことが好ましい。
【0078】
本開示の正極ペーストは、製造効率の観点からは高濃度に調整できることが好ましいが、著しい粘度の増加は作業性の観点から好ましくない。添加剤の添加により、高濃度を保ちつつ、好ましい粘度範囲を保つことができる。
【0079】
尚、本開示の導電材スラリー及び正極ペーストは、各々、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0080】
(正極ペーストの製造方法)
本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の炭素材料系導電材スラリーと結着剤と正極活物質と、必要に応じて追加の有機溶媒や有機アミンB2とを混合する工程を含むことができる。また、本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、更に、必要に応じて追加の本開示の分散剤組成物、追加の炭素材料系導電材を混合してもよい。各成分は任意の順に混合してもよい。また、一又は複数の実施形態において、本開示の導電材スラリーと追加の有機溶媒と結着剤とを混合し、これらが均質になるまで分散したのち、正極活物質を混合し、これらが均質になるまで攪拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられる。これら成分の添加順序はこれに制限されない。
【0081】
<正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極の製造方法>
本開示は、一態様において、本開示の正極ペーストを用いて作製された正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極の製造方法に関する。本態様の製造方法は、本開示の正極ペーストを、集電体に塗工した後、乾燥し、プレスすることを含む。本態様において、本開示の正極ペーストの好ましい形態は上述のとおりである。本開示の製造方法において、本開示の正極ペーストを用いること以外は、従来から公知の方法により正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極を製造できる。
【0082】
正極塗膜又は蓄電デバイス用正極電極は、例えば、上記の正極ペーストをアルミニウム箔等の集電体に塗工し、これを乾燥して作製する。正極塗膜の密度を上げるために、プレス機により圧密化を行うこともできる。正極ペーストの塗工には、ダイヘッド、コンマリバースロール、ダイレクトロール、グラビアロール等を用いることができる。塗工後の乾燥は、加温、エアフロー、赤外線照射等を単独あるいは組み合わせて行うことができる。塗工後の乾燥は、乾燥時間を経ることにより、正極ペースト中の有機溶媒が正極ペースト中に存在できなくなる温度で行う。乾燥温度は、乾燥が行われる環境下(気圧下又は真空下)において、バインダー樹脂の熱分解温度以下であれば特に制限はないが、好ましくは有機溶媒の沸点以上の温度である。前記乾燥温度は、好ましくは60℃以上220℃以下であり、乾燥時間は、好ましくは10分以上24時間以下である。正極電極のプレスは、ロールプレス機等により、行うことができる。なお、プレス後に蓄電デバイス用正極電極を蓄電デバイスに組込む大きさに加工した後、上記の条件で再乾燥しても良い。
【0083】
<蓄電デバイスおよびその製造方法>
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極電極の製造方法によって得られた蓄電デバイス用正極電極を含む蓄電デバイスおよびその製造方法に関する。
上記蓄電デバイスとしては、一又は複数の実施形態において、リチウムイオン二次電池、リチウム空気二次電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム-硫黄二次電池、ナトリウム-塩化ニッケル二次電池、有機ラジカル電池、亜鉛-空気二次電池、全固体電池等が挙げられる。
【0084】
本開示の蓄電デバイスの製造方法は、例えば、本開示の蓄電デバイス用正極電極を蓄電デバイス用正極電極として用いること以外は、公知の蓄電デバイスの製造方法と同様の工程を含む。本開示の蓄電デバイスの製造方法では、例えば、2つの電極(正極電極及び負極電極)を、セパレータを介して重ね合わせ、電池形状に捲回又は積層させる工程、および、得られた捲回体又は積層体を、電池容器あるいはラミネート容器に入れ、容器に電解液を注入して電池容器あるいはラミネート容器を封口する工程を含む。
【0085】
上記一般式(1)で表される構成単位(A)と上記一般式(2)で表される構成単位(B)とを含む重合体の分散剤としての使用は、蓄電デバイス用正極電極の製造に用いられ、前記炭素材料系導電材と前記極性溶媒(有機溶媒)とを含む、前記導電材スラリーまたは前記正極ペーストに限定されない。上記重合体は、炭素材料系導電材と極性溶媒(有機溶媒)とを含む種々の炭素材料含有分散液における分散剤として使用できる。前記炭素材料含有分散液としては、例えば、負極ペースト、インクジェットインク、導電性インク等が挙げられる。これらの炭素材料含有分散液に含まれる極性溶媒(有機溶媒)としては、好ましくは上述した有機溶媒Cが挙げられる。炭素材料系導電材の炭素材料含有分散液における好ましい含有量は、公知の炭素材料含有分散液におけるそれと同じでよい。前記重合体の炭素材料含有分散液における好ましい含有量(対炭素材料系導電材100質量部)は、上記本開示の導電材スラリーにおけるそれと同じでよい。
【実施例0086】
以下、本開示の実施例及び比較例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0087】
1.各パラメータの測定方法
[重量平均分子量の測定]
アミド変性前の共重合体の重量平均分子量は、GPC法により測定した。詳細な条件は以下の通りである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム :α-M + α-M(東ソー社製)
カラム温度 :40℃
検出器 :示差屈折率
溶離液 :60mmol/LのH3PO4及び50mmol/LのLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速 :1mL/min
検量線に用いる標準試料 :ポリスチレン
試料溶液:共重合体の固形分を0.5wt%含有するDMF溶液
試料溶液の注入量 :100μL
【0088】
[導電材スラリーの粘度測定]
導電材スラリーの粘度(25℃)は、次のようにして測定した。
Anton Paar社製のMCR302レオメーターに、パラレルプレートPP50を装着し、せん断速度を0.1s-1から1000s-1まで上げた後(往路)、1000s-1から0.1s-1まで戻し(復路)、復路のせん断速度1s-1における粘度を測定し、その結果を表1及び表2に示した。
【0089】
[正極塗膜の抵抗値の測定]
正極ペーストを、ポリエステルフィルムに垂らし、100μmのアプリケータで均一に塗工した。この塗工されたポリエステルフィルムを80℃で1時間乾燥し、厚み40μmの正極塗膜を得た。
PSPプローブを装着したLoresta-GP(三菱ケミカルアナリテック製)にて限界電圧10vにて塗膜抵抗値を測定し、その結果を表1に示した。
【0090】
[直流抵抗(DCR)の測定]
直流抵抗を測定するために以下のような手順で蓄電デバイスを作製した。
正極ペーストを、厚さ20μmのAl箔(集電体)上に正極容量が3mAh/cm2となるように塗工し、真空乾燥器を用いて100℃で12時間真空乾燥し、集電体上に合材層が形成された電極材料(正極材料)を作製した。この正極材料を直径13mmに打ち抜きプレスして電極(正極)を得た。当該正極電極上に、直径19mmのセパレータ、直径15mm厚さ0.5mmのコイン状金属リチウムを配置して、2032型コインセル(試験用ハーフセル)を作製した。電解液には、1M LiPF6 EC/DEC(体積比=3/7)を用いた。
【0091】
試験用ハーフセルを30℃恒温槽内で温調した状態で、次に記載する充放電条件で3サイクル充放電試験を行った。
(充放電条件)
30℃、0.2C、充電4.45V CC/CV 1/10Cカットオフ放電CC3.0Vカットオフ。
次いで、0.2Cで2.5時間充電を行い、0.2C~8C放電における10秒間の電圧降下から直流抵抗(DCR)を算出した。その結果は表1に示した。
【0092】
2.分散剤の合成と、分散剤組成物、及び導電性スラリーの調整
[実施例1]
(分散剤の合成)
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(Ashland製 Gantrez AN119、重量平均分子量130000)を18.4g、テトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を450.0g入れ、窒素雰囲気下で一定時間(0.5時間)攪拌した。そして、フラスコ内に、ステアリルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)31.7gを室温で添加した。次いで、フラスコ内の反応溶液を60℃付近に昇温し2時間保持することで、ポリマー溶液を得た。その後、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて実施例1の分散剤を得た後、赤外吸収分光法(IR)により目的の化合物が得られたことを確認した。それを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合して、実施例1の分散剤の含有量が20.0質量%の分散剤組成物B1を得た。実施例1の分散剤とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)との混合は、室温で5時間、回転速度200rpmで撹拌することにより行った。分散剤組成物の調製から1時間静置後の分散剤組成物B1(25℃)の外観は、目視にて、均一透明であった。
【0093】
(導電材スラリーの調整)
多層カーボンナノチューブ(LG Chem製 BT-1003M、平均直径12.5nm、長さ10~70μm(カタログ値))1.5質量部と、分散剤組成物B1を0.3質量部と、NMP 98.2質量部とを混合し、粗分散液を得た。
前記粗分散液を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU MINI」)に充填し、120MPaの圧力で分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、粗分散液にせん断力を与えて多層カーボンナノチューブ(CNT)を分散させて、導電材スラリーE1を得た。導電材スラリーE1における、CNTの含有量は1.5質量%、実施例1の分散剤の含有量は、0.3質量%であり、CNT100質量部に対して20質量部であり、残部はNMPである。なお、分散処理は、分散液を高圧ホモジナイザーから排出させて再び高圧ホモジナイザーに注入するという循環をさせながら行い、当該循環は20回行った。分散液の排出及び注入速度は45g/分とした。
導電材スラリーE1の温度25℃における粘度は、10.1mPa・sであった。
【0094】
[実施例2~4、7、比較例1、2]
分散剤の合成においてメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体のアミド化のために使用するアミン化合物の種類(下記参照)またはその添加量等を変更して下記表1に記載の実施例2~4、7、比較例1、2の分散剤を合成した。
[アミン化合物]
実施例2 セチルアミン
実施例3 ベヘニルアミン
実施例4 ステアリルメチルアミン
実施例7、比較例2、3 ステアリルアミン
比較例1 テトラデシルアミン
【0095】
次いで、[実施例1]と同様にして、各々、実施例2~4、7、比較例1、2の分散剤の含有量が20.0質量%であり、残部がNMPである、分散剤組成物B2~B4、B7、B9、B10を作製し、それを用いて、[実施例1]と同様にして、実施例2~4、7、比較例1、2の分散剤を各々含む導電材スラリーE2~E4、E7、B9、E10を調製した。導電材スラリーE2~E4、E7、B9、E10における、CNTの含有量、分散剤の含有量、NMPの含有量は、導電材スラリーE1のそれと同じである。分散剤組成物E2~E4、E7、E9の調製から1時間静置後の外観は、目視にていずれも均一透明であった。E10については、白濁していた。導電材スラリーE2~E4、E7、B9、E10の温度25℃における粘度は、表1に示している。
【0096】
[実施例5]
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、無水マレイン酸(MAn)(富士フイルム和光純薬株式会社製)99.0g、テトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬株式会社製)483.4gを仕込み、窒素雰囲気下で0.5時間攪拌し、66℃に昇温した。その後、n-ブチルビニルエーテル(BE)(富士フイルム和光純薬株式会社製)101.0gをTHF151.0gに溶解したものと、過酸化ベンゾイル(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.05をTHF4.8gに溶解したものを、別ラインで1時間かけてフラスコ内に滴下した。その後、66℃で2時間熟成し重合反応を完結させた。その後、溶媒を揮発させ、重量平均分子量が15万のブチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を得た。
【0097】
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、前記ブチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を21.2g、テトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を450.0g入れ、窒素雰囲気下で一定時間(0.5時間)攪拌した。そして、フラスコ内に、ステアリルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)28.8gを室温で添加した。次いで、フラスコ内の反応溶液を60℃付近に昇温し2時間保持することで、ポリマー溶液を得た。その後、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて、実施例5の分散剤を得た。
【0098】
次に、[実施例1]と同様にして、実施例5の分散剤の含有量が20.0質量%の分散剤組成物B5を作製し、それを用いて、[実施例1]と同様にして、導電材スラリーE5を調製した。当該導電材スラリーE5における、CNTの含有量、分散剤の含有量、NMPの含有量は、導電材スラリーE1のそれと同じである。分散剤組成物B5の調製から1時間静置後の外観は、目視にて、いずれも均一透明であった。
【0099】
[実施例6]
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、無水マレイン酸(MAn)(富士フイルム和光純薬株式会社製)99.0g、テトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬株式会社製)483.4gを仕込み、窒素雰囲気下で0.5時間攪拌し、66℃に昇温した。その後、イソブチルビニルエーテル(BE)(富士フイルム和光純薬株式会社製)101.0gをTHF151.0gに溶解したものと、過酸化ベンゾイル(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.05をTHF4.8gに溶解したものを、別ラインで1時間かけてフラスコ内に滴下した。その後、66℃で2時間熟成し重合反応を完結させた。その後、溶媒を揮発させ、重量平均分子量が15万のイソブチルビニルエーテル(BE)/無水マレイン酸共重合体を得た。
【0100】
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、前記ブチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を21.2g、テトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を450.0g入れ、窒素雰囲気下で一定時間(0.5時間)攪拌した。そして、フラスコ内に、ステアリルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)28.8gを室温で添加した。次いで、フラスコ内の反応溶液を60℃付近に昇温し2時間保持することで、ポリマー溶液を得た。その後、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて、実施例6の分散剤を得た。
【0101】
次に、[実施例1]と同様にして、実施例6の分散剤の含有量が20.0質量%の分散剤組成物B6を作製し、それを用いて、[実施例1]と同様にして、導電材スラリーE6を調製した。当該導電材スラリーE6における、CNTの含有量、分散剤の含有量、NMPの含有量は、導電材スラリーE1のそれと同じである。分散剤組成物B6の調製から1時間静置後の外観は、目視にて、いずれも均一透明であった。
【0102】
[実施例8]
実施例1の分散剤と、有機アミンB1としての2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合して、実施例8の分散剤(実施例1の分散剤の中和物)の含有量が20.0質量%の分散剤組成物B8を得た。AMPの配合量は、実施例1の分散剤の全てのカルボキシ基を中和できる量とした。各成分の混合は、室温で5時間、回転速度200rpmで撹拌することにより行った。分散剤組成物B8の調製から1時間静置後の分散剤組成物B8(25℃)の外観は、目視にて、均一透明であった。
分散剤組成物B8を用いて、[実施例1]と同様にして、実施例8の分散剤を含む導電材スラリーE8を調製した。導電材スラリーE8中、CNTの含有量は1.5質量%、実施例8の分散剤の含有量は0.3質量%で、CNT100質量部に対して20質量部であり、残部はNMPである。
【0103】
[比較例3]
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、無水マレイン酸(MAn)(富士フイルム和光純薬株式会社製)49.7g、メチルイソブチルケトン(MIBK)(富士フイルム和光純薬株式会社製)242.7gを仕込み、窒素雰囲気下で0.5時間攪拌し、100℃に昇温した。その後、ステアリルビニルエーテル(SVE)(富士フイルム和光純薬株式会社製)150.3gをMIBK225.5gに溶解したものと、パーロイルL(日油株式会社製)をMIBK7.1gに溶解したものを、別ラインで1時間かけてフラスコ内に滴下した。その後、100℃で2時間熟成し重合反応を完結させることで、ポリマー溶液を得た。その後、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて、重量平均分子量が300000のステアリルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を得た。
【0104】
内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに、前記ステアリルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を42.2g、MIBKを450.0g入れ、窒素雰囲気下で一定時間(0.5時間)攪拌した。そして、フラスコ内に、ステアリルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)7.8gを室温で添加した。次いで、フラスコ内の反応溶液を60℃付近に昇温し2時間保持することで、ポリマー溶液を得た。その後、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて、比較例3の分散剤を得た。
【0105】
次に、[実施例1]と同様にして、比較例3の分散剤の含有量が20.0質量%の分散剤組成物B11を作製し、それを用いて、[実施例1]と同様にして、導電材スラリーE11を調製した。当該導電材スラリーE11における、CNTの含有量、分散剤の含有量、NMPの含有量は、導電材スラリーE1のそれと同じである。分散剤組成物B11の調製から1時間静置後の外観は、目視にて、白濁していた。
【0106】
【0107】
表1に示されるように、実施例1~8の分散剤を含む導電性スラリーの粘度は、比較例1~3の分散剤を含む導電性スラリーの粘度よりも、顕著に低かった。
【0108】
3.正極ペーストの調製
導電材スラリーE1 2.06g、NMP1.03g、PVDF(8%)NMP溶液(KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製)1.9gを、50mlのサンプルビンに秤取り、スパーテルで均一にかき混ぜた。その後、正極活物質としてLiCoO2(セルシード、日本化学工業製)12gを添加し、再度スパーテルで均一になるまでかき混ぜた。さらに自転公転ミキサー(AR-100 株式会社 シンキー製)で5分間撹拌し、正極ペーストD1を得た。
なお、正極ペーストD1の固形分量(質量%)は、71.7質量%とであり、正極活物質、結着剤(PVDF)、導電材(CNT)及び分散剤の質量比率は98.45:1.25:0.25:0.05(固形分換算)である。正極ペーストD1の全固形分量は、正極ペーストD1が含有する、分散剤、正極活物質、導電材および結着剤の合計質量である。
【0109】
導電材スラリーE1に替えて、各々、導電材スラリーE2~E11を用いたこと以外は正極ペーストD1の調製と同様にして、各々、正極ペーストD2~D11を調製した。
【0110】
正極ペーストD1~D11を用いて上記[正極塗膜の抵抗値の測定]に記載の方法に従って正極塗膜を作製し、塗膜抵抗を測定して、その結果を上記表1に示した。表1に示されるように、実施例の分散剤を含む正極ペーストD1~D8を用いて形成された正極塗膜の塗膜抵抗は、比較例1の分散剤を含む正極ペーストD9を用いて形成された正極塗膜の塗膜抵抗よりも顕著に低かった。比較例2,3の分散剤を含む正極ペーストD10、D11用いて形成された正極塗膜の塗膜抵抗については高すぎて測定できなかった。
【0111】
4.蓄電デバイス用正極電極の調製
導電材スラリーE1 2.6gと、追加の炭素材料系導電材であるアセチレンブラック(デンカ製アセチレンブラックLi-400、一次粒子径48nm、比表面積39m2/g(カタログ値))0.24gと、更に追加の分散剤組成物B1(導電材スラリーE1の調整に用いた分散剤組成物と同じもの)0.04gと、PVDFのNMP溶液(固形分8% KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製、バインダー溶液)3.9gとを、50mlのサンプルビンに秤取り、スパーテルで均一にかき混ぜた。
その後、正極活物質としてLCO(コバルト酸リチウム 北京当升社製、「GSL-5D」)15gと、追加溶媒のNMP2.4gを添加し、再度スパーテルで均一になるまでかき混ぜた。さらに自転公転ミキサー(AR-100 株式会社シンキー製)で10分間撹拌し、正極ペーストD31を得た。尚、正極ペーストD31における、正極活物質、結着剤(PVDF)、導電材(カーボンナノチューブ)、導電材(アセチレンブラック)及び分散剤(実施例1の分散剤)の質量比率は96.2:1.95:0.25:1.5:0.1(固形分換算)であり、正極ペーストD31の固形分量(質量%)は65質量%であった。正極ペーストD31の全固形分量は、正極ペーストD31が含有する、分散剤、正極活物質、導電材および結着剤の合計質量である。
【0112】
この正極ペーストD31を用いて上記[直流抵抗(DCR)の測定]に従って蓄電デバイスを作成し、直流抵抗(DCR)を測定し、その結果を表1に示した。
【0113】
表1に示されるように、実施例1の分散剤を含む正極ペーストD31を用いて作製した正極塗膜を含む蓄電デバイスの直流抵抗は、15Ω以下であり、十分に低い値であった。
【0114】
[有機アミンB2を含む分散剤組成物B21、B22および導電性スラリーE21、E22の調製]
実施例1の分散剤と、有機アミンB1および有機アミンB2としてのとしての2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合して、実施例8の分散剤(実施例1の分散剤の中和物)を含む分散剤組成物B21、B22を調製した。
分散剤組成物B21中、実施例8の分散剤(実施例1の分散剤の中和物)の含有量は、20.0質量%であり、有機アミンB2の含有量は、分散剤100質量部に対して30質量部であり、質量比(分散剤/有機アミンB2)は3.3であり、残部はNMPである。 分散剤組成物B22中、実施例8の分散剤(実施例1の分散剤の中和物)の含有量はCNT100質量部に対し20.0質量%であり、有機アミンB2の含有量は、分散剤100質量部に対して80質量部であり、質量比(分散剤/有機アミンB2)は1.3であり、残部はNMPである。
【0115】
分散剤組成物B21、B22を各々用いて、上記[実施例1]と同様にして導電性スラリーE21、E22を調製し、粘度を測定した。
尚、導電材スラリーE21における、CNTの含有量は1.5質量%、分散剤の含有量は0.3質量%(CNT100質量部に対して20質量部)、有機アミンB2の含有量は0.09質量%(CNT100質量部に対して6質量部)であり、残部はNMPである。 導電材スラリーE22における、CNTの含有量は1.5質量%、分散剤の含有量は0.3質量%(CNT100質量部に対して20質量部)、有機アミンB2の含有量は0.24質量%(CNT100質量部に対して16質量部)であり、残部はNMPである。
【0116】
【0117】
有機アミンB2を含む分散剤組成物を使用して調整した導電性スラリーE21、E22の粘度は、上記導電性スラリーE8の粘度よりも顕著に低い。
故に、導電性スラリーが有機アミンB2を含むと、その粘度の低下が可能となることがわかる。
本開示の分散剤は、炭素材料系導電材の分散性が良好な導電材スラリーを調製可能とするので、低粘度の導電材スラリー、および正極ペーストを生産性よく調製できる。また、本開示の分散剤を用いれば、低抵抗化された蓄電デバイス用正極電極および蓄電デバイスを生産性良く製造できる。