(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005422
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20250108BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
B28B1/30
E04B1/35 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100948
(22)【出願日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2023104713
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520332793
【氏名又は名称】株式会社Polyuse
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】富田 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 太陽
(72)【発明者】
【氏名】松下 将士
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】工程上のボトルネックの発生を抑制できる構造物の製造方法等を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、構造物の製造方法であって、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって、第1境界面と、第1境界面とは別の第2境界面とを含む造形部材を形成する造形部材形成工程と、造形部材の第1境界面を利用してコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材を形成する打設工程と、造形部材の第2境界面を他の構造と接合する造形部材接合工程と、を備える、構造物の製造方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の製造方法であって、
水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって、第1境界面と、前記第1境界面とは別の第2境界面とを含む造形部材を形成する造形部材形成工程と、
前記造形部材の前記第1境界面を利用してコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材を形成する打設工程と、
前記造形部材の前記第2境界面を他の構造と接合する造形部材接合工程と、
を備える、構造物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の製造方法において、
前記打設工程では、前記造形部材の前記第1境界面に接触するようにコンクリート又はモルタルを打設することで前記打設部材を形成し、
前記造形部材接合工程では、前記第1境界面が前記打設部材に接触した状態で、前記造形部材の前記第2境界面を他の構造と接合する、構造物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の構造物の製造方法において、
前記造形部材接合工程では、前記打設部材において前記第1境界面により形成される第1接合面とは別の、第2接合面をさらに他の構造と接合する、構造物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の構造物の製造方法において、
前記第2境界面の法線と前記第2接合面の法線とは交差する、構造物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の構造物の製造方法において、
他の構造によって画定される空間の形状に基づいて、前記造形部材の形状を設計する造形部材設計工程をさらに備える、構造物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の構造物の製造方法において、
前記造形部材設計工程では、前記造形部材の外寸を、前記造形部材が配置される領域の外寸よりも小さく設計する、構造物の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の構造物の製造方法において、
構造物の完成図から前記造形部材又は前記打設部材で構成する部位を選択し、選択した部位の形状に基づいて前記造形部材の形状を設計する造形部材設計工程をさらに備える、構造物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の構造物の製造方法において、
前記3Dプリンタを制御するコードを設計するコード設計工程をさらに備え、
前記コードは、前記造形部材を形成するための連続した吐出経路を含む、構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の構造物の施工現場では、事前にコンクリートを成形したプレキャスト品を繋ぎ合わせる工法が用いられる(特許文献1参照)。また、3Dプリンタを利用して特定形状の部材を形成する工法も知られている(特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-32004号公報
【特許文献2】特開2019-98694号公報
【特許文献3】特開2022-1718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造物の形状、周囲環境との境界等の条件によっては、規格化されたプレキャスト品が使用できない部位が存在する。このような部位に対して特注品を用意する場合は、特注品製造のための追加の時間及びコストが必要となる。特許文献1に開示されるように、現場で型枠を作り、コンクリートを流し込んで打設を行う場合、型枠を作成する工数が必要となる。さらに、規格化されたプレキャスト品を現場で位置付けして、不要な部分を切断する手法も存在するが、この場合は切断加工の工数が必要となる。そのため、このような規格品を用いることができない部位への対応が工程上のボトルネックとなる。
【0005】
ここで、特許文献2又は特許文献3に開示されるように、3Dプリンタによって型枠を造形することで、型枠作成の工数を低減することが可能であるが、打設後に型枠の取り外しの工数が必要となるほか、型枠を産業廃棄物として廃棄する必要がある。さらに、特許文献3に開示されるように、特注品自体を3Dプリンタで造形することも考えられるが、この場合は、特注品の形状精度が不十分となるおそれがある。
【0006】
本発明では上記事情に鑑み、工程上のボトルネックの発生を抑制できる構造物の製造方法等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、構造物の製造方法であって、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって、第1境界面と、第1境界面とは別の第2境界面とを含む造形部材を形成する造形部材形成工程と、造形部材の第1境界面を利用してコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材を形成する打設工程と、造形部材の第2境界面を他の構造と接合する造形部材接合工程と、を備える、構造物の製造方法が提供される。
【0008】
このような態様によれば、規格化が難しい部位の一部を造形部材で構成し、残りの部分をこの造形部材を型枠又は型枠の位置決め部材として用いた打設によって形成することができる。そのため、形状精度を維持しつつ、現場での作業工数を低減できる。その結果、工程上のボトルネックの発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本態様の構造物の製造方法によって得られる構造物100の構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。
【
図3】第1実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
【
図4】第2実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。
【
図5】第2実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
【
図6】第2実施形態における造形部材MEの形状の別の例を示す模式図である。
【
図7】第3実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。
【
図8】第3実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
図1は、本態様の構造物の製造方法によって得られる構造物100の構成を示す模式図である。構造物100は、複数の部材(パーツ)で構成される土木構造物又は建築構造物である。構造物100としては、例えば、側溝、配管、ブロック、壁等が挙げられる。構造物100は、全体がコンクリート、モルタル又はセラミックスであってもよいし、コンクリートの部位とモルタルの部位とセラミックスの部位とのうち少なくとも2つが混在していてもよい。
【0012】
図1Aに示すように、構造物100は、複数の部材(第1部材101、第2部材102、及び第3部材103)が連結されることで構成されている。第1部材101及び第2部材102は、例えば、コンクリート又はモルタル製の構造形成用部品としての規格品(例えば、プレキャストコンクリート)である。第1部材101及び第2部材102は、構造物100を構築する場所とは別の製造施設にて形成された上で、構築現場に設置される。
【0013】
また、第1部材101及び第2部材102は、構造物100を構築する場所に予め存在する既存構造であってもよい。既存構造としては、例えば、地面、法面、建築構造物(例えば壁)、土木構造物(例えばブロック)等が挙げられる。
【0014】
第3部材103は、第1部材101と第2部材102とに連結されている。
図1Bに示すように、第3部材103が配置される空間Sは、互いに法線が交差する(つまり平行ではない)2つの連結面(第1連結面SF1及び第2連結面SF2)を有する。第1連結面SF1は、第1部材101との境界である。第2連結面SF2は、第2部材102との境界である。第1連結面SF1及び第2連結面SF2は、典型的には平坦面である。
【0015】
このように周囲環境に基づく独自の形状を有する空間Sに対しては、既存の製品を配置することが難しい。そこで、当該製造方法では、この空間Sに配置される第3部材103として、打設により得られる打設部材及び/又は3Dプリンタの造形により得られる造形部材を用いる。特に、2つの連結面が平行でない空間Sにおいては、配置される部材の設計条件が厳しいため、当該製造方法によって工程上のボトルネックの発生が効果的に抑制される。
【0016】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。当該製造方法は、コンクリート、モルタル又はセラミックスで構成される構造物100を製造するための方法である。
【0017】
当該製造方法は、造形部材設計工程S110と、コード設計工程S120と、造形部材形成工程S130と、打設工程S140と、打設部材配置工程S150とを備える。
【0018】
<造形部材設計工程>
造形部材設計工程S110は、製造する構造物100の仕様又は周囲環境によって、2つの設計手順のうち少なくとも一方を選択できる。第1設計手順では、他の構造によって画定される空間の形状に基づいて、造形部材の形状を設計する。これにより、構造物100の構築現場の環境に基づいて、適切な形状の造形部材を造形することができる。
【0019】
本実施形態の造形部材は、打設部材を形成する(打設する)ための型枠の一部を構成する。
図3は、第1実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
図3Aに示すように、本工程では、造形部材MEは、空間Sの第1連結面SF1に沿った形状の第1境界面BF1を有する。
【0020】
第1境界面BF1は、第1連結面SF1(第1接合面JF1)の形状に合わせて設計される。造形部材MEの第1境界面BF1以外の部分の形状は、打設部材の形状、重量等に応じて任意に設計される。
図3Bに示すように、第3部材103となる打設部材CEは、第1部材101と接合される第1接合面JF1と、第2部材102と接合される第2接合面JF2とを含む。第1境界面BF1は、コンクリート又はモルタルの打設により形成される打設部材CEに他の構造との接合面である第1接合面JF1を形成する用途を有する。
【0021】
なお、第1連結面SF1、第2連結面SF2、第1接合面JF1、第2接合面JF2及び第1境界面BF1は、それぞれ、平坦面であってもよいし、湾曲面であってもよいし、屈曲面であってもよいし、これらが組み合わせられた複合面であってもよい。
【0022】
第2設計手順では、構造物の完成図から打設部材で構成する部位を選択し、選択した部位の形状に基づいて造形部材の形状を設計する。これにより、構造物の設計段階から造形部材の形状を設計することができるため、造形部材の形状精度を高められる。
【0023】
具体的には、まず、
図1Aの構造物100の完成図において、規格化が難しい(プレキャスト工法又は型枠工法による規格化のコスト及び労力が大きくならざるを得ない)第3部材103を「打設部材で構成する部位」として選択する。その後、第3部材103の打設を行うための部材として、造形部材MEの形状を設計する。造形部材MEの具体的な形状の設計思想については、第1設計手順と同様である。
【0024】
<コード設計工程>
コード設計工程S120では、造形部材設計工程S110で設計した造形部材MEを造形するために、3Dプリンタを制御するコードを設計する。
【0025】
コードの形式としては、例えば、STL、Gコード、OBJ、3MF等が例示される。本工程で設計されるコードは、造形部材を形成するための連続した吐出経路を含む。これにより、次の造形部材形成工程S130において、迅速に造形部材を形成することが可能となる。
【0026】
図3Cに示すように、吐出経路Rは、平面上で連続した一本の経路であり、吐出経路Rに沿って造形材料が吐出される。吐出経路Rを往復又は循環するように3Dプリンタの吐出ノズルが移動することで、造形材料の積層体が形成される。
【0027】
3Dプリンタによる造形では、造形部材の表面には造形材料の積層に伴う凹凸が生じうる。そのため、造形部材MEの外面(第1境界面BF1を含む)に対しては、左官による平坦化、又は他の部材との接合時における接着材料(モルタル又はコンクリート)の充填による平滑化が行われることがある。平滑化が行われる場合、造形部材設計工程S110及び/又はコード設計工程S120では、このような平滑化による寸法変化を考慮して造形部材MEの形状又はコードを設計する。
【0028】
なお、造形現場の環境又は条件に合わせて、コードの追加、コードの編集等を後工程で行うことができる。また、造形部材形成工程S130において、造形時にリアルタイムでコード(例えば経路以外の造形速度等の入力情報)の調整が行われてもよい。
【0029】
<造形部材形成工程>
造形部材形成工程S130では、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって第1境界面BF1を含む造形部材MEを形成する。ここで、「鉱物化」とは、主成分(質量ベースで最も多く含有される成分)が無機材である硬化物に変化することを意味する。典型的には、造形部材MEは、コンクリート、モルタル又はセラミックスで構成される。具体的には、コード設計工程S120で設計したコードを3Dプリンタに入力し、造形部材MEを形成させる。また、得られた造形部材MEに対し、必要に応じて第1境界面BF1の平滑化を行ってもよい。
【0030】
<打設工程>
打設工程S140では、造形部材MEの第1境界面BF1に接触するようにコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材(第3部材103)を形成する。
【0031】
例えば、造形部材MEを筒状の枠体の内部に配置する。次に、造形部材MEが配置された枠体の内部にコンクリート又はモルタルで構成される打設材料を充填する。型枠に充填した打設材料が凝結することで、造形部材MEの第1境界面BF1に接触する第1接合面JF1と、第2部材102に接合される第2接合面JF2とを有する打設部材CE(第3部材103)が形成される。
【0032】
<打設部材配置工程>
打設部材配置工程S150では、造形部材MEの第1境界面BF1により形成される第1接合面JF1が他の構造(第1部材101)と接合されるように打設部材(第3部材103)を配置する。これにより、3Dプリンタを用いた型枠の形成作業によって現場における打設の工数を低減しつつ、規格化が難しい第3部材103を含む構造物100を製造することができる。
【0033】
本工程では、打設部材(第3部材103)の第1接合面JF1とは別の第2接合面JF2がさらに他の構造(第2部材102)と接合されるように打設部材を配置する。これにより、工程上のボトルネックの発生を抑制しつつ、第3部材103によって2つの部材(第1部材101及び第2部材102)を連結することができる。第3部材103は、例えば接着材料によって第1部材101及び第2部材102に接合される。
【0034】
ここで、第1接合面JF1の法線と第2接合面JF2の法線とは交差する。すなわち、第1接合面JF1と第2接合面JF2とは平行ではない。当該製造法によれば、このような規格化が難しい2つの接合面を含む空間に、適切な打設部材を配置することができる。
【0035】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。当該製造方法は、第1実施形態と同様に、
図1のコンクリート、モルタル又はセラミックスで構成される構造物100を製造するための方法である。
【0036】
当該製造方法は、造形部材設計工程S210と、コード設計工程S220と、造形部材形成工程S230と、打設工程S240と、造形部材接合工程S250とを備える。
【0037】
<造形部材設計工程>
造形部材設計工程S210は、製造する構造物100の仕様又は周囲環境によって、2つの設計手順のうち少なくとも一方を選択できる。第1設計手順では、他の構造によって画定される空間の形状に基づいて、造形部材の形状を設計する。第1設計手順は、第1実施形態の造形部材設計工程S110と同様のものである。ただし、本実施形態では、造形部材は、打設部材を形成する(打設する)ための型枠の一部を構成するとともに、
図1Aに示される第3部材103の一部を構成する。
【0038】
図5は、第2実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
図5Aに示すように、造形部材MEは、コンクリート又はモルタルの打設により形成される打設部材に他の構造との接合面を形成する用途を有する第1境界面BF1と、第1境界面BF1とは別の第2境界面BF2とを含む。本実施形態の第1境界面BF1は、第1実施形態とは異なり、空間Sの第1連結面SF1に依存しない形状を有する。
【0039】
第2境界面BF2は、他の構造(第1部材101)と接合される。第2境界面BF2は、空間Sの第1連結面SF1に沿った形状を有する。また、造形部材MEの第1境界面BF1及び第2境界面BF2以外の部分の形状も、空間Sの形状に合わせて設計される。造形部材MEは、
図5Bに示すように、板状以外の形状とすることができる。なお、第2境界面BF2は、平坦面であってもよいし、湾曲面であってもよいし、屈曲面であってもよいし、これらが組み合わせられた複合面であってもよい。
【0040】
本工程では、造形部材MEの外寸を、空間Sの造形部材MEが設けられる領域の外寸よりも小さく設計する。これにより、寸法誤差によって造形部材MEが目的の位置に配置できなくなることを回避しつつ、接着材料の充填によって造形部材MEを他の構造と接合することができる。
【0041】
第2設計手順では、構造物の完成図から造形部材又は打設部材で構成する部位を選択し、選択した部位の形状に基づいて造形部材の形状を設計する。具体的には、まず、
図1Aの構造物100の完成図において、規格化が難しい第3部材103を「造形部材と打設部材とで構成する部位」として選択する。その後、第3部材103の形状と、造形部材で構成する部位と打設部材で構成する部位との割合等の設計条件とに合わせて造形部材MEの形状を設計する。
【0042】
<コード設計工程>
コード設計工程S220では、造形部材設計工程S210で設計した造形部材MEを造形するために、3Dプリンタを制御するコードを設計する。本工程は、第1実施形態のコード設計工程S120と同様のものである。つまり、本工程で設計されるコードは、造形部材を形成するための連続した吐出経路を含む。
【0043】
なお、造形現場の環境又は条件に合わせて、コードの追加、コードの編集等を後工程で行うことができる。また、造形部材形成工程S230において、造形時にリアルタイムでコード(例えば経路以外の造形速度等の入力情報)の調整が行われてもよい。
【0044】
<造形部材形成工程>
造形部材形成工程S230では、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって、第1境界面BF1と、第2境界面BF2とを含む造形部材MEを形成する。具体的には、コード設計工程S220で設計したコードを3Dプリンタに入力し、造形部材MEを形成させる。また、得られた造形部材MEに対し、必要に応じて第1境界面BF1及び第2境界面BF2の平滑化を行ってもよい。
【0045】
<打設工程>
打設工程S240では、造形部材MEの第1境界面BF1を利用してコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材(第3部材103の一部)を形成する。具体的には、造形部材MEの第1境界面BF1に接触するようにコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材CEを形成する。
【0046】
例えば、造形部材MEを筒状の枠体の内部に配置する。次に、造形部材MEが配置された枠体の内部にコンクリート又はモルタルで構成される打設材料を充填する。型枠に充填した打設材料が凝結することで、
図5Cに示すように、第2部材102に接合される第2接合面JF2を有する打設部材CE(第3部材103の一部)が形成される。打設部材CEは、造形部材MEの第1境界面BF1に接触した状態で形成される。
【0047】
打設材料の凝結後、第3部材103(打設部材CEと造形部材MEとの接合体)を枠体から取り外す。この第3部材103では、打設部材CEの第1接合面JF1(第1境界面BF1によって形成される面)は、第1境界面BF1と接合されており、外部に露出しない。一方で、造形部材MEの第2境界面BF2は、他の構造と接合される面として外部に露出する。
【0048】
図6は、第2実施形態における造形部材MEの形状の別の例を示す模式図である。
図6Aに示されるように、造形部材MEの第1境界面BF1は、造形部材MEの内部空間MSを画定する内面であってもよい。この場合は、打設部材CEは、造形部材MEの内部空間MS内に打設される。すなわち、この場合は、造形部材MEがそれ単体で打設部材CEの型枠として機能する。また、
図6Aの例では、打設部材CEは、造形部材MEの内部空間MSに形成されるため、他の部材と接合される接合面(第2接合面JF2)を有しない(つまり、打設部材CEは、他の部材とは接合されない)。
【0049】
<造形部材接合工程>
造形部材接合工程S250では、第1境界面BF1が打設部材CEに接触した(接合された)状態で、造形部材MEを他の構造と接合する。具体的には、第2境界面BF2を他の構造(第1部材101)と接合する。接合は、例えば接着材料によって行われる。これにより、3Dプリンタを用いた型枠の形成作業によって現場における打設の工数を低減しつつ、規格化が難しい第3部材103を含む構造物100を製造することができる。また、造形部材MEがそのまま第3部材103の一部となることで、構造物100の製造における消費材料及び産業廃棄物の発生量を低減することができる。
【0050】
本工程では、打設部材CEにおいて第1境界面BF1により形成される第1接合面JF1とは別の、第2接合面JF2をさらに他の構造(第2部材102)と接合する。具体的には、造形部材MEの第2境界面BF2を第1部材101に接合するとともに、打設部材CEの第2接合面JF2を第2部材102に接合する。これにより、工程上のボトルネックの発生を抑制しつつ、第3部材103によって2つの部材(第1部材101及び第2部材102)を連結することができる。なお、
図6Aのように、打設工程S240で形成される打設部材CEが第2接合面JF2を有しない場合は、打設部材CEと他の構造との接合は行われない。
【0051】
ここで、第2境界面BF2の法線と第2接合面JF2の法線とは交差する。すなわち、第2境界面BF2と第2接合面JF2とは平行ではない。当該製造法によれば、このような規格化が難しい2つの接合面を含む空間に、適切な打設部材を配置することができる。
【0052】
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態の打設工程S240では、
図6Bに示されるように、造形部材MEの第1境界面BF1に接触するように打設用の型枠FWを配置し、型枠FWの内部空間FS内に打設部材CEを打設してもよい。
図6Bの例では、型枠FWの外面の少なくとも一部が、造形部材MEの第1境界面BF1に接触することで、空間Sに対する型枠FWの位置決めがされる。型枠FWは、打設部材CEの打設後に除去される。打設部材CEと造形部材MEとの間の空隙は、例えば、接着材料(モルタル又はコンクリート)によって充填される。これにより、打設部材CEが造形部材MEの第1境界面BF1に接合される。したがって、
図6Bの例では、造形部材接合工程S250において、第1境界面BF1が打設部材CEに接触した(接合された)状態で、造形部材MEが他の構造と接合される。
【0053】
図6Bの型枠FWは、造形部材MEと同様に、造形材料の3Dプリンタからの吐出によって形成された造形型枠であってもよい。この場合は、型枠FWは、打設部材CEの打設後に除去されず、そのまま構造の一部として使用される。型枠FWが造形型枠である場合は、造形部材MEの第1境界面BF1に打設部材CEは接触せず、代わりに造形型枠が接触する。そのため、この場合は、造形部材接合工程S250において、第1境界面BF1が型枠FW(造形型枠)に接触した(接合された)状態で、造形部材MEが他の構造と接合される。
【0054】
また、造形部材形成工程S230と打設工程S240とは、繰り返し行われてもよい。例えば、
図5A、
図6A、
図6B等に示される造形部材MEと、これに対応する打設部材CEとの組を互いに連結されるように連続することで、空間Sに対応する第3部材103を形成してもよい。この場合は、先に形成された造形部材ME又は打設部材CEの外面を利用して、新たな造形部材MEが形成され、さらに、新たな造形部材MEの第1境界面BF1を利用して、新たな打設部材CEが形成される。
【0055】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態における構造物の製造方法のフロー図である。当該製造方法は、第1実施形態と同様に、
図1のコンクリート、モルタル又はセラミックスで構成される構造物100を製造するための方法である。
【0056】
当該製造方法は、造形部材設計工程S310と、コード設計工程S320と、造形部材形成工程S330と、造形部材接合工程S340とを備える。
【0057】
<造形部材設計工程>
造形部材設計工程S310は、製造する構造物100の仕様又は周囲環境によって、2つの設計手順のうち少なくとも一方を選択できる。第1設計手順では、他の構造によって画定される空間の形状に基づいて、造形部材の形状を設計する。第1設計手順は、第1実施形態の造形部材設計工程S110と同じである。ただし、本実施形態では、造形部材は、
図1Aに示される第3部材103全体を構成する。
【0058】
図8は、第3実施形態における造形部材MEの形状を示す模式図である。
図8Aに示すように、造形部材MEは、自身が他の構造と接合される用途を有する第1境界面BF1と、第1境界面BF1とは別の第2境界面BF2とを含む。本実施形態の第1境界面BF1は、空間Sの第1連結面SF1に沿った形状を有し、第2境界面BF2は、空間Sの第2連結面SF2に沿った形状を有する。
【0059】
第1境界面BF1は、他の構造(第1部材101)と接合される。第2境界面BF2も、他の構造(第2部材102)と接合される。また、造形部材MEの第1境界面BF1及び第2境界面BF2以外の部分の形状も、空間Sの形状に合わせて設計される。本工程では、造形部材MEの外寸を、空間Sの造形部材MEが設けられる領域の外寸よりも小さく設計する。
【0060】
第2設計手順では、構造物の完成図から造形部材で構成する部位を選択し、選択した部位の形状に基づいて造形部材の形状を設計する。具体的には、まず、
図1Aの構造物100の完成図において、規格化が難しい第3部材103を「造形部材で構成する部位」として選択する。その後、第3部材103の形状に合わせて造形部材MEの形状を設計する。
【0061】
<コード設計工程>
コード設計工程S320では、造形部材設計工程S310で設計した造形部材MEを造形するために、3Dプリンタを制御するコードを設計する。本工程は、第1実施形態のコード設計工程S120と同じである。
【0062】
なお、造形現場の環境又は条件に合わせて、コードの追加、コードの編集等を後工程で行うことができる。また、造形部材形成工程S330において、造形時にリアルタイムでコード(例えば経路以外の造形速度等の入力情報)の調整が行われてもよい。
【0063】
<造形部材形成工程>
造形部材形成工程S330では、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって第1境界面BF1と第2境界面BF2とを含む造形部材MEを形成する。具体的には、コード設計工程S320で設計したコードを3Dプリンタに入力し、造形部材MEを形成させる。また、得られた造形部材MEに対し、必要に応じて第1境界面BF1及び第2境界面BF2の平滑化を行ってもよい。
【0064】
造形部材MEの造形は、第3部材103を配置する空間Sで直接行われてもよい。すなわち、造形材料を空間Sに直接吐出及び積層してもよい。また、造形部材MEは、空間Sの外で造形された後に、空間Sに設置されてもよい。
【0065】
<造形部材接合工程>
造形部材接合工程S250では、造形部材ME(第3部材103)の第1境界面BF1を他の構造(第1部材101)と接合する。接合は、例えば接着材料によって行われる。これにより、型枠の形成作業が省略できるため、現場工数を低減しつつ、規格化が難しい第3部材103を含む構造物100を製造することができる。また、第3部材103が造形によって直接形成されるため、産業廃棄物の発生量を低減できる。
【0066】
本工程では、第2境界面BF2をさらに他の構造(第2部材102)と接合する。具体的には、
図8Bに示すように、第3部材103の第1境界面BF1を第1部材101に接合するとともに、第3部材103の第2境界面BF2を第2部材102に接合する。これにより、工程上のボトルネックの発生を抑制しつつ、第3部材103によって2つの部材(第1部材101及び第2部材102)を連結することができる。
【0067】
ここで、第1境界面BF1の法線と第2境界面BF2の法線とは交差する。すなわち、第1境界面BF1と第2境界面BF2とは平行ではない。当該製造法によれば、このような規格化が難しい2つの接合面を含む空間に、適切な打設部材を配置することができる。
【0068】
4.作用
本実施形態の作用をまとめると、次の通りとなる。すなわち、規格化が難しい部位の一部を造形部材で構成し、残りの部分をこの造形部材を型枠として用いた打設によって形成することができる。そのため、形状精度を維持しつつ、現場での作業工数を低減できる。その結果、工程上のボトルネックの発生が抑制される。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0070】
5.その他
1つの構造物100に対し、複数の造形部材が形成及び使用されてもよい。
【0071】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0072】
(1)構造物の製造方法であって、水和反応、重合反応又は焼成を経由して鉱物化する、粉体又はペースト材料である造形材料の3Dプリンタからの吐出によって、第1境界面と、前記第1境界面とは別の第2境界面とを含む造形部材を形成する造形部材形成工程と、前記造形部材の前記第1境界面を利用してコンクリート又はモルタルを打設することで打設部材を形成する打設工程と、前記造形部材の前記第2境界面を他の構造と接合する造形部材接合工程と、を備える、構造物の製造方法。
【0073】
(2)上記(1)に記載の構造物の製造方法において、前記打設工程では、前記造形部材の前記第1境界面に接触するようにコンクリート又はモルタルを打設することで前記打設部材を形成し、前記造形部材接合工程では、前記第1境界面が前記打設部材に接触した状態で、前記造形部材の前記第2境界面を他の構造と接合する、構造物の製造方法。
【0074】
(3)上記(1)又は(2)に記載の構造物の製造方法において、前記造形部材接合工程では、前記打設部材において前記第1境界面により形成される第1接合面とは別の、第2接合面をさらに他の構造と接合する、構造物の製造方法。
【0075】
(4)上記(3)に記載の構造物の製造方法において、前記第2境界面の法線と前記第2接合面の法線とは交差する、構造物の製造方法。
【0076】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の構造物の製造方法において、他の構造によって画定される空間の形状に基づいて、前記造形部材の形状を設計する造形部材設計工程をさらに備える、構造物の製造方法。
【0077】
(6)上記(5)に記載の構造物の製造方法において、前記造形部材設計工程では、前記造形部材の外寸を、前記造形部材が配置される領域の外寸よりも小さく設計する、構造物の製造方法。
【0078】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の構造物の製造方法において、構造物の完成図から前記造形部材又は前記打設部材で構成する部位を選択し、選択した部位の形状に基づいて前記造形部材の形状を設計する造形部材設計工程をさらに備える、構造物の製造方法。
【0079】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の構造物の製造方法において、前記3Dプリンタを制御するコードを設計するコード設計工程をさらに備え、前記コードは、前記造形部材を形成するための連続した吐出経路を含む、構造物の製造方法。
もちろん、この限りではない。
【0080】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
100 :構造物
101 :第1部材
102 :第2部材
103 :第3部材
BF1 :第1境界面
BF2 :第2境界面
CE :打設部材
JF1 :第1接合面
JF2 :第2接合面
ME :造形部材
R :吐出経路
S :空間
SF1 :第1連結面
SF2 :第2連結面