(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005431
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】閉鎖水域環境の全循環を促すための循環装置
(51)【国際特許分類】
B01F 33/40 20220101AFI20250108BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20250108BHJP
【FI】
B01F33/40
B01F23/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024102662
(22)【出願日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2023105528
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 寛
【テーマコード(参考)】
4G035
4G036
【Fターム(参考)】
4G035AB36
4G036AC70
(57)【要約】
【課題】 閉鎖水域環境の全循環を人工的かつ簡便に促すことができる循環装置を提供すること。
【解決手段】 閉鎖水域環境の全循環を促すための循環装置を開示する。本発明の循環装置は、少なくとも一部が閉鎖水域環境の水面上に露出可能なフレーム部と、フレーム部内に配置された流液部材と、流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブとを備える。ここで、流液部材は、水面よりも下方に配置される吸液部と、水面よりも上方に配置される吐出部と、吸液部と該吐出部との間に設けられた流路とを有し;ドラフトチューブは、水面よりも上方かつ流液部材の吸液部と吐出部との間の高さに位置するように設けられた上端開口部と、水面よりも下方に位置するように設けられた下端開口部とを備え;ドラフトチューブの上端開口部は、内部に流液部材の吸液部を収容する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖水域環境の全循環を促すための循環装置であって、
少なくとも一部が該閉鎖水域環境の水面上に露出可能なフレーム部と、該フレーム部内に配置された流液部材と、該流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、該流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブとを備え、
該流液部材が、該水面よりも下方に配置される吸液部と、該水面よりも上方に配置される吐出部と、該吸液部と該吐出部との間に設けられた流路とを有し、
該ドラフトチューブが、該水面よりも上方かつ該流液部材の該吸液部と該吐出部との間の高さに位置するように設けられた上端開口部と、該水面よりも下方に位置するように設けられた下端開口部とを備え、
該ドラフトチューブの該上端開口部が、内部に該流液部材の該吸液部を収容する、循環装置。
【請求項2】
前記流液部材における前記流路が、前記回転軸の軸方向に対して傾斜して配置されている、請求項1に記載の循環装置。
【請求項3】
前記ドラフトチューブが円筒状の形態を有する、請求項1に記載の循環装置。
【請求項4】
前記ドラフトチューブが、前記下端開口部が前記閉鎖水域環境の深水層に到達し得る長さを有する、請求項1に記載の循環装置。
【請求項5】
前記回転軸が、前記フレーム部に配置されたソーラーパネルと電気的に接続されたモータによって回転することができる、請求項1に記載の循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖水域環境の全循環を促すための循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼などの閉鎖された水域環境では、秋季から冬季にかけて水面付近(表層)の水が冷やされ、低温かつ高密度になって下降し、水底付近の深水層の水と置き換わる現象を生じることがある。この場合、水は鉛直方向に循環し、それに伴って水域全体に溶存酸素が供給される。このような溶存酸素の供給は水底に生存する生物にとって非常に重要であり、当該水の循環は全循環または全層循環と呼ばれている。
【0003】
しかし、気候変動等の影響によって表層の水が十分に冷やされない場合は、上記全循環が起きず、水域全体への溶存酸素の供給が困難となる。その結果、水底の生態系への悪影響が懸念される。
【0004】
例えば、琵琶湖では、「琵琶湖の深呼吸」と言われるように、従前では上記全循環が観測されてきた。しかし、2019年および2022年にはこの全循環が2年連続で未確認となり、イサザやスジエビなどの固有種への影響が懸念され、社会問題としても大きく取り上げられた。
【0005】
現在、全循環のモニタリングは、各種研究機関や大学等において行われているが、閉鎖水域環境における全循環自体を促す取り組みは未だ不十分である。こうした閉鎖水域環境における生態系の危機は我が国の環境リスクの1つであり、社会的貢献および閉鎖環境水域の産業的利用の観点から、産業界が積極的に取り組むべき課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、閉鎖水域環境の全循環を人工的かつ簡便に促すことができる循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、閉鎖水域環境の全循環を促すための循環装置であって、
少なくとも一部が該閉鎖水域環境の水面上に露出可能なフレーム部と、該フレーム部内に配置された流液部材と、該流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、該流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブとを備え、
該流液部材が、該水面よりも下方に配置される吸液部と、該水面よりも上方に配置される吐出部と、該吸液部と該吐出部との間に設けられた流路とを有し、
該ドラフトチューブが、該水面よりも上方かつ該流液部材の該吸液部と該吐出部との間の高さに位置するように設けられた上端開口部と、該水面よりも下方に位置するように設けられた下端開口部とを備え、
該ドラフトチューブの該上端開口部が、内部に該流液部材の該吸液部を収容する、循環装置である。
【0008】
1つの実施形態では、上記流液部材における上記流路は、上記回転軸の軸方向に対して傾斜して配置されている。
【0009】
1つの実施形態では、上記ドラフトチューブは円筒状の形態を有する。
【0010】
1つの実施形態では、上記ドラフトチューブは、上記下端開口部が上記閉鎖水域環境の深水層に到達し得る長さを有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記回転軸は、上記フレーム部に配置されたソーラーパネルと電気的に接続されたモータによって回転することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、閉鎖水域環境の表層と深水層との間の鉛直方向の水の循環を人工的に促すことができる。これにより、自然現象としての発生に頼ることなく、閉鎖水域環境の全循環を促すことができる。また、本発明により促される全循環については、特定の季節の移り変わりを待つことなく、適宜必要なタイミングで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の循環装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す循環装置を構成する流液部材の一例を表す斜視図である。
【
図3】
図1に示す循環装置を構成するドラフトチューブの下端開口部の一例を示す概略図である。
【
図4】
図1に示す循環装置のA-A方向断面図である。
【
図5】本発明の循環装置の他の例を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す循環装置を構成する流液部材の一例を表す斜視図である。
【
図7】
図1に示す循環装置を閉鎖水域環境に設置した状態の一例を示す模式図である。
【
図8】本発明の循環装置の他の例を示す概略図であって、
図1に示す循環装置を構成するドラフトチューブとして可撓性ホースを取り付けた装置の例を示す図である。
【
図9】(a)は実施例で作製した循環装置を構成する散液デバイスの写真であり、(b)は、構造の理解のため正面側のパイプを省略して記載されている当該散液デバイスの模式図である。
【
図10】実施例で作製した循環装置の模式図である。
【
図11】実施例で作製した循環装置を用いて模擬海水を循環させた際の当該循環装置を配置した水槽内の中間層および底層の吸光度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0015】
(散液装置)
図1は、本発明の循環装置の一例を示す概略図である。
【0016】
本発明の循環装置100は、フレーム部110と、フレーム部110内に配置された流液部材120と、流液部材120が装着されておりかつ鉛直方向に延びる1本の回転軸130と、流液部材120の下方に配置された細長いドラフトチューブ150とを備える。
【0017】
(1)フレーム部
フレーム部110は、それ自体の少なくとも一部が閉鎖水域環境(例えば、天然または人工の湖、池、沼)の水面180上に(例えば、当該水面180に対して浮遊させるか、または閉鎖水域環境の底部に固定することにより)露出可能であり、それにより流液部材120、回転軸130およびドラフトチューブ150の一部のそれぞれを閉鎖水域環境の水面180に対して下方または上方に配置することができる。
【0018】
図1において、フレーム部110は、例えば、通気孔112を有するカップ状の形態を有し、開口端部にはフロート113が設けられている。フロート113は、例えば、中央が開口した環状の形態を有する。フロート113の内部は中空かつ密閉されており、水より低密度の物質(例えば、空気や窒素ガスなどの気体)が収容されている。これによりフロート113上のフレーム110は、水面180上に浮遊して、その一部を水面180に露出することができる。なお、
図1においてフレーム110は閉塞された構造を有しているが、本発明はこれに限定されない。例えばフレーム110を構成する壁面の一部に開放孔が設けられていてもよい。
【0019】
さらに、フレーム部110の外表面には、後述するモータ140と電気的に接続されたソーラーパネル114が配置されていてもよい。あるいは、ソーラーパネル114は、図示しない蓄電池を介してモータ140を電気的に接続されていてもよい。
【0020】
(2)流液部材
流液部材120は、例えば同一の形状でなる2つの部材から構成されており、当該流液部材120は回転軸130の軸周りに対称的に配置されている。本発明の循環装置100を構成する流液部材120の数は特に限定されない。流液部材120は少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは2つ、3つ、4つ、5つまたは6つから構成されている。循環装置100が複数の流液部材120を備える場合、各流液部材は、回転軸130による滑らかな回転を保持するために、当該回転軸130の軸周りにて1つの流液部材と隣接する他の流液部材と間の角度が略均等となるように配置されていることが好ましい。
【0021】
図2は、
図1に示す循環装置100を構成する流液部材120の一例を表す斜視図である。
【0022】
流液部材120は、下方から上方にかけて吸液部124、流路126および吐出部125をその順で備える。
【0023】
吸液部124は、
図1に示す回転軸130の回転により、閉鎖水域環境の水(以下、「湖水」という)116を流液部材120の流路126に導入するために設けられている。
【0024】
吸液部124の形状は特に限定されない。吸液部124の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形、ならびに後述の樋状の断面形状(例えば円弧状)が挙げられる。なお、吸液部124は、流液部材120の内部により多くの湖水を導入できるように、流液部材120の軸に対して斜め方向から切断することにより開口面積を拡張したものであってもよい。
【0025】
吸液部124の大きさは特に限定されないが、例えば、吸液部124が円形の断面形状を有する場合、その外径は例えば10cm~200cmである。
【0026】
吐出部125は、
図1に示す回転軸130の回転を通じて流液部材120の流路126内に導入された湖水116を外部(例えば、フレーム部110の内壁111や閉鎖水域環境の水面180)に向けて吐出するために設けられている。
【0027】
吐出部125の形状もまた特に限定されない。吐出部125の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形、ならびに後述の樋状の断面形状(例えば円弧状)が挙げられる。
【0028】
なお、流液部材120は、例えば吸液部124から吐出部125にかけて内径が一定であってもよく、あるいは緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよい。
【0029】
(3)回転軸
再び
図1を参照すると、回転軸130は所定の剛性を有する1本のシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸130は、フレーム部110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸130の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸130の長さは、使用するフレーム部110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0030】
回転軸130の一端は、フレーム部110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。一方、回転軸130の他端には、水平方向に延びる取付具132が取り付けられており、取付具132を介して上記散液部材120が配置されている。通常、この取付具132は水面180よりも上方に配置されている。
【0031】
ここで、本発明の循環装置100では、上記流液部材120における流路126は、回転軸130の軸方向Lに対して、所定の取付角度θ1をなすように傾斜して配置されていることが好ましい。取付傾斜角θ1は、当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば5°~60°、好ましくは10°~25°である。取付傾斜角θ1がこのような角度の範囲内にあることにより、回転軸130の回転を通じて、流液部材120の吸液部124から掬い上げられた湖水116が遠心力によって流路126の下方から上方に向かって移動し、吐出口125から外部(例えば、フレーム部110の内壁111や閉鎖水域環境の水面180)に向かって効率良く吐出することができる。
【0032】
(4)ドラフトチューブ
ドラフトチューブ150は、硬質または軟質の材料で構成された細長い管である。
【0033】
本発明において、ドラフトチューブ150の上端開口部152は、閉鎖水域環境の水面180よりも上方かつ流液部材120の吸液部124と吐出部125との間の高さに位置するように設けられている。一方、ドラフトチューブ150の下端開口部154は、閉鎖水域環境の水面180よりも下方に位置するように設けられている。
【0034】
また、ドラフトチューブ150の上端開口部152は、
図1に示すように内部に流液部材120の吸液部124を収容する。すなわち、流液部材120は、その吸液部124が、閉鎖水域環境の水面180よりも下方に位置するようにドラフトチューブ150の内部に挿入されている。
【0035】
他方、流液部材120の吐出部125は、ドラフトチューブ150の上端開口部152よりも上方に位置するように配置されている。また、流液部材120の吐出部125は、水平方向において、ドラフトチューブ150の上端開口部152の開口面の外に飛び出して配置されていることが好ましい。仮に、流液部材120の回転による吐出部125から吐出される湖水の勢いが弱かったとしても、吐出された湖水がドラフトチューブ150の外側に落下して内側への落下による湖水の不十分な循環を避けるためである。
【0036】
ドラフトチューブ150の内径は、上端開口部152と流液部材120との間で上記のような配置が可能になる限り、特に限定されない。
【0037】
例えば、ドラフトチューブ150の上端開口部152の内径は、当該上端開口部152における流液部材120の回転直径よりも僅かに長くなるように(例えば4cm以上の長さに)設計されていることが好ましい。これにより、流液部材120が回転する際、ドラフトチューブ150の上端開口部152を接することにより、ドラフトチューブ150および/または流液部材120が破損または摩耗することを防止できる。
【0038】
ドラフトチューブ150の下端開口部154の内径は、特に限定されず、上端開口部152の内径と略同一であってもよく、大きくてもよく、または小さくてもよい。
【0039】
ドラフトチューブ150の長さは、本発明の循環装置100を配置する閉鎖水域環境の水深に応じて適切な長さが当業者によって採用され得る。具体的には、ドラフトチューブ150の長さは、下端開口部154が閉鎖水域環境の深水層に到達し得る長さに一致するように設けられていることが好ましい。深水層に存在する水を、ドラフトチューブ150を通じて流液部材120により汲み上げることが可能となるからである。
【0040】
ドラフトチューブ150の具体的な長さは、例えば3m以上、好ましくは5m以上1500m以下、より好ましくは3m以上400m以下である。なお、ドラフトチューブ150が軟質の材料で構成されている場合、当該チューブ150の長さは、閉鎖水域環境の最大水深を上回る長さを有していてもよい。その場合は、本発明の循環装置100を閉鎖水域環境の水面に配置すると、ドラフトチューブ150の下端開口部154は、水底に横たわった状態で位置することになる。
【0041】
さらに、下端開口部154からドラフトチューブ150内に入る湖水の量が制限されないようにするために、ドラフトチューブ150の下端開口部154には、その円周に沿って少なくとも1つの切欠156が設けられていてもよい(
図3)。切欠156の形状および大きさは特に限定されない。あるいは、切欠156に代えてまたは切欠156とともに、下端開口部154近傍のドラフトチューブ150の側壁に所定の大きさを有する1つまたはそれ以上の吸水孔158が設けられていてもよい。
【0042】
ドラフトチューブ150はまた円筒状の形態を有していることが好ましい。ドラフトチューブ150の下端開口部154を閉鎖水域環境の深水層付近に配置したとしても、その水圧によって容易に変形し難いからである。
【0043】
図4は、
図1に示す循環装置のA-A方向断面図である。
【0044】
ドラフトチューブ150は、例えば、フレーム部110と支持部材160を介して固定されている。なお、
図3において、ドラフトチューブ150は、円周方向に略均等な間隔で配置された3つの支持部材160によってフレーム部110に固定された例が記載されているが、本発明はこの配置のみに限定されるものではない。
【0045】
(5)材質
本発明において、上記フレーム部110、流液部材120、および回転軸130は、それぞれ独立して、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタン、アルミニウムなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。ドラフトチューブ150、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン樹脂などの樹脂;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴムなどの天然ゴムまたは合成ゴム;ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのエラストマー;およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。また、ドラフトチューブ150は、その強度を高めるために、ステンレススチールワイヤなどのメッシュワイヤで補強されたメッシュチューブであってもよい。さらに、フレーム部110、流液部材120、回転軸130、およびドラフトチューブ150は、耐薬品性を高めるために、それらのうちの1つまたはそれ以上がPTFEやグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0046】
(6)他の循環装置
図5は、本発明の循環装置の他の例を示す概略図である。
【0047】
図5に示す散液装置200は、
図1に示す流液部材120の代わりに樋状の流液部材220を用いて構成されており、かつフレーム110の一部の壁面に外部と連通する開放孔217が設けられている点を除き、その他は
図1に示す流液部材100の構成と同様である。
【0048】
散液装置200における流液部材220は、例えば、
図6に示すように半円筒状の流路226と、当該流路226の両端に設けられた吸液部224および吐出部225とを有する。流液部材220を構成し得る材質は、
図1に示す流液部材120と同様である。
【0049】
(7)循環装置の使用方法
次に、閉鎖水域環境に設置した
図1に示す循環装置の使用方法について
図7を用いて説明する。
【0050】
まず、閉鎖水域環境の水面180から、循環装置100のドラフトチューブ150の下端開口部154がゆっくりと沈められ、その後、フレーム部110の一部が水面180上に露出するように当該フレーム部110が水面180に浮遊させられる。また、モータ140の駆動に伴って循環装置100自体が自転することを避けるため、必要に応じて、下端にアンカーまたはシンカーなどの係留具178が設けられたワイヤ状部材176が循環装置100の任意の場所に取り付けられていてもよい。この状態において、ドラフトチューブ150の上端開口部152は水面180よりも上方に位置し、かつ流液部材120の吸液部は水面180の下方に位置し、吐出部125は当該水面180の上方に位置する。
【0051】
次いで、モータ140を駆動して回転軸を回転させると、回転軸の回転に伴って流液部材120が回転軸の軸周りに回転を開始する。流液部材120の吸液部付近に存在するドラフトチューブ150内の湖水は、当該吸液部によって掬い上げられ、流液部材120にかかる遠心力によって流路を通り吐出部まで上昇し、最終的に吐出部125から外部(好ましくはドラフトチューブ150の上端開口部152の外)に吐出される。一方、吸液部からの湖水の掬い上げによって、ドラフトチューブ150内では下端開口部154の近傍に存在する湖水(例えば、閉鎖水域環境の深水層近傍の湖水)がドラフトチューブ150に流入し、ドラフトチューブ150内を徐々に上昇し、やがて上端開口部152の近傍まで移動すると、上記の通り流液部材120の吸液部を通じて掬い上げられる。
【0052】
結果として、循環装置100のドラフトチューブ150の下端から上端に湖水が移動し、閉鎖水域環境の湖水の循環(例えば全循環)を人工的に促すことができる。これにより、全循環の不足により懸念される当該閉鎖水域環境での生態系の破壊のリスクを低減できる。
【0053】
あるいは、本発明では、
図7に示す構成に代えて、
図8に示すようにドラフトチューブ150の下端に可撓性のホース166が設けられていてもよい。可撓性のホース166は真っ直ぐに延びた円筒ではなく、その可撓性によって途中が湾曲したものであってもよく、捩れているものであってもよい。当該可撓性のホース166もまた、本発明の循環装置を構成するドラフトチューブの一部となり得る。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(参考例1:散液デバイスの作製)
図9の(a)に示す散液デバイス300を以下のようにして作製した。具体的には、
図9の(b)に示すように、鉛直方向に延びる回転軸130に水平方向に延びる取付具132を固定し、4つの円筒形のステンレススチール製パイプ(内径R=0.8cm,長さL=9cm)325を、回転軸130の周りに90°ずつ間隔をあけて、かつ回転軸130の軸方向に対してθ
1として20°傾斜するように当該取付具132にV字状に固定した。パイプ325の上端部の距離(直径)Dは6.5cmであった。なお、
図9の(b)では、散液デバイスの構造上の理解を容易にするために、当該散液デバイスの正面側のパイプを省略して記載されている。
【0056】
(実施例1:循環装置の作製)
図10に示す循環装置400を以下のようにして作製した。具体的には、高さが2mを越える透明な円筒径の水槽410(上端は回転軸130が通る孔を除き、カバーで覆われており、かつ内径19.4cm)内に、円筒形(長さ173cm、内径6.8cmのドラフトチューブ150を配置した。さらに、このドラフトチューブ150の上端開口部内に参考例1で作製した散液デバイス300の一部(下端)が挿入されるように当該散液デバイス300を配置した。次いで、散液デバイス300とドラフトチューブ150の上方から下方にかけての一部とを覆う円筒状の外側管420(内径:13.1cm,上端はカバーで覆われている)を被せて固定した。さらに、外側管420の下端の近傍(水槽410の底部から約1mの位置)に図示しない開閉バルブを備える中間層取出管430を設け、そして外側管420の底部の近傍に図示しない開閉バルブを備える底層取出管440を設けた。
【0057】
(実施例2:循環装置を用いて模擬海水の循環)
実施例1で作製した循環装置400内に、無着色の模擬海水460を静かに注いだ。その後、色素(株式会社コバサクカンパニー製食用赤色102号)を用いて赤色に着色した模擬海水450(色素濃度0.02g/L)を底部から約63cmの高さにまで注入した(
図10)。すなわち、静置状態では、底部に着色した模擬海水450が存在し、その上に無着色の模擬海水460が存在していた。
【0058】
次いで、この循環装置400の回転軸130を図示しないモータを用いて、回転数250rpmで回転させ、散液デバイス300の下端から、模擬海水460を掬い取りかつドラフトチューブ150の外部(ただし、外側管420の内部)に散液し続けた。
【0059】
この状態で、中間層取出管430および底部取出管440から模擬海水を定期的に取り出し、取り出した模擬海水のサンプルをレシオビーム分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製U-5100)を用いて波長500nmにおける吸光度を測定した。回転開始(0分)から30分間までの間の中間層取出管430から取り出したサンプル(中間層のサンプル)と、底層取出管440から取り出したサンプル(底層のサンプル)の吸光度の変化を
図11に示す。
【0060】
図11に示すように回転開始から5分間が経過した段階で、中間層のサンプルの吸光度は上昇し、回転開始から20分間を経過するまでその上昇が続いていた。一方、回転開始から10分間が経過した段階で、底層のサンプルの吸光度は低下していた。このことから、
図10に示す循環装置400内では、模擬海水の底層と中間層との間での循環が可能であることがわかる。
【0061】
なお、本実施例では、上記のように色素で着色した模擬海水を使用したが、このような模擬海水が色素に代えて、所定の気体(例えば二酸化炭素)を溶解した場合でも同様の循環が可能となることがわかる。