(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005438
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】水性安定剤組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20250108BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20250108BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20250108BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20250108BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/40
C09D7/43
C09D7/65
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024103667
(22)【出願日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】23 181 631.5
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521292928
【氏名又は名称】エヴァルト デルケン アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100179925
【弁理士】
【氏名又は名称】上出 真紀
(72)【発明者】
【氏名】マルセル ロト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ミリ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン リシャイド
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト ロイスマン
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA24
4J037CC02
4J037CC13
4J037CC16
4J037EE08
4J038BA032
4J038CC022
4J038CQ002
4J038HA246
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA08
(57)【要約】
【課題】水性安定剤組成物及びその使用を提供する。
【解決手段】本発明の主題は、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む、分散液を安定化する水性組成物、及びその使用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む分散液を安定化する水性組成物、特に溶液又は分散液であって、
前記組成物が
(a)少なくとも1種の増粘剤、及び
(b)少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤を含むことを特徴とする、水性組成物。
【請求項2】
安定化される分散液が、0.05~5g/l、特に0.1~4g/l、好ましくは0.2~3g/l、より好ましくは0.2~2g/l、特に好ましくは0.3~1.5g/l、更により好ましくは0.4~1g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
前記増粘剤が、多糖、タンパク質、ポリビニルアルコール、ケイ酸、ケイ酸塩、及びそれらの混合物の群より選択されることを特徴とする、請求項1~2のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記増粘剤が、キサンタンガム、β-グルカン、チオール化多糖、プロテオグリカン、アラビアゴム、カラヤ、トラガカント、ローカストビーンガム、グァー、マルメログルー、ペクチン、寒天、カラギーナン、アルギン酸塩、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体、特にセルロースエーテル、ケイ酸、ベントナイト、フィロケイ酸塩、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、及びそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項5】
前記増粘剤が、キサンタンガム、β-グルカン、チオール化多糖、プロテオグリカン、セルロースエーテル、ケイ酸、ベントナイト、層状ケイ酸塩、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、及びそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項4に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記増粘剤がセルロースエーテルであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の水性組成物。
【請求項7】
前記湿潤剤又は分散剤が、顔料親和性基を有するポリマー、シリコーン変性ポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、界面活性剤、変性天然油、及びそれらの混合物の群より選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項8】
前記湿潤剤又は分散剤が、ポリカルボン酸塩、特にポリアクリル酸の塩、ポリリン酸塩、特に直鎖状ポリリン酸塩及び/又は環状メタリン酸塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、アクリルブロックコポリマー、ポリウレタン、エトキシ化脂肪アルコール、非イオン性飽和長鎖アルコール、脂肪アルコール硫酸塩、アルキルホスホン酸塩、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、アルキルジオールエトキシレート、界面活性剤、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、フッ素系界面活性剤、変性天然油、並びにそれらの混合物の群より選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項9】
前記湿潤剤又は分散剤が、ポリアクリル酸の塩、ポリリン酸塩、特に直鎖状ポリリン酸塩及び/又は環状メタリン酸塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、アクリルブロックコポリマー、ポリウレタン、エトキシ化脂肪アルコール、非イオン性飽和長鎖アルコール、脂肪アルコール硫酸塩、アルキルホスホン酸塩、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、アルキルジオールエトキシレート、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、変性天然油、並びにそれらの混合物の群より選択されることを特徴とする、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
前記湿潤剤又は分散剤が、ポリアクリル酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のアンモニウム塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、変性スチレン-マレイン酸コポリマー、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、変性天然油、及びそれらの混合物の群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の水性組成物。
【請求項11】
前記組成物が、2:1~1:20、特に1:1~1:15、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:2~1:8、特に好ましくは1:3~1:5の範囲の増粘剤対湿潤剤又は分散剤(増粘剤:湿潤剤又は分散剤)の質量比を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項12】
前記組成物に基づいて1~20質量%、特に2~18質量%、好ましくは5~15質量%、より好ましくは8~12質量%の量の前記増粘剤を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項13】
前記組成物に基づいて20~65質量%、特に25~60質量%、好ましくは30~55質量%、より好ましくは35~50質量%の量の前記湿潤剤又は分散剤を含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項14】
前記組成物に基づいて15~79質量%、特に30~78質量%、好ましくは30~63質量%、より好ましくは38~57質量%の量の水を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項15】
0.05~10g/l、特に0.05~5g/l、好ましくは0.1~4g/l、より好ましくは0.2~3g/l、特に好ましくは0.2~2g/l、更により好ましくは0.3~1.5g/l、特に好ましくは0.4~1g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物を含む水性分散液を安定化するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の水性組成物の使用。
【請求項16】
(i)0.05~5g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物、
(ii)少なくとも1種の増粘剤、及び
(iii)少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、
を含む、水性分散液、特に半完成品。
【請求項17】
請求項16に記載の水性分散液を製造する方法であって、
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物を含む分散液が供給され、請求項1~13のいずれか1項に記載の水性組成物が添加されることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング、特にコーティング用の半完成品及び顔料ペーストの技術分野に関する。
特に本発明は、分散液を安定化する水性組成物に関する。
更に、本発明は、その分散液を安定化する前記水性組成物の使用、及び対応する安定化された分散液、特に半完成品に関する。
最後に、本発明は、分散液を安定化する水性組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のコーティング系、特に塗料は、可能な限り揮発性有機化合物(VOC)を含むべきではないことから、ますます水性ベースで配合されている。そのようなVOCを含まない塗料系、又は1g/l未満のVOC含有量を有する系は、無溶媒で無公害と見なされる。環境保護及び健康保護の観点からすると、それらは溶剤系よりも問題がないか、又は少なくとも問題が少ない。
更に、塗料における防腐剤及び殺生物剤の使用を避けるか、又は少なくともそれらの使用を減らす試みがなされている。塗料系がいずれの防腐剤も殺生物剤も含まない場合、結果として、規則としては申告する必要のある有害物質はなく、塗料は、労働安全に関するいずれの問題も生じることなく、いずれの特別な安全措置も講じることなく使用及び加工することができる。
実際には、特に有機結合剤系と組み合わせた水性系の使用は、通常、細菌、特にバクテリア、酵母又はカビまでもによるコーティングへの短時間での侵入を引き起こし、そのため、防腐剤及び/又は殺生物剤が通常はコーティングに添加される必要がある。このことは、特に、特に着色系のために使用される水性顔料ペーストに適用される。着色系は、通常、顧客により個々に選択して組み合わせることのできる広範囲な異なる色及び色合いを提供するために使用される。着色系は、通常、所望の色彩の塗料、特に壁塗料を得るために、結合剤又は結合剤の混合物、いわゆる着色ベース又はベース組成物と混合される、色付きの顔料ペーストのパレットからなる。顔料ペーストは、高濃度の顔料含有分散液である。顔料ペーストとベース又は着色ベースは、結果として、すぐに使用できる染料又はコーティングを製造するために共に混合される。
【0003】
様々な量の個々の顔料ペーストの着色ベースとの混合は、混合プロセスがソフトウェアの支援下で行われる機械において行われる。顔料ペーストは、元々の容器から取り出された後、数週間、程度の差はあるがオープンな状態で保管され、この期間、それらは周囲の空気を介して細菌、特にバクテリア、酵母及びカビ胞子に晒され、無溶媒系又は水性系の場合はバクテリア、酵母又はカビの侵入をほとんど必然的に引き起こす。
このため、防腐剤及び殺生物剤は、水性顔料ペースト及び着色系においてほとんど例外なく使用される。しかしながら、殺生物剤及び防腐剤は、通常、健康保護と環境保護の両方に問題のある物質の典型であることから、殺生物剤及び防腐剤の使用は様々な理由のために不利益があり、その使用は最小化される必要があり、その使用はより厳格な化学薬品の法律によりますます規制されている。更に、従来の有機殺生物剤の深刻な不利益はそれらの蒸気圧であり、殺生物剤はガス相に移行して、例えば、アレルギーを引き起こし得、特に、屋内の部屋の空気中の殺生物剤の蓄積の危険性がある。更に、有機殺生物剤は、通常、長期間安定ではなく、例えば、UV照射により分解される。
【0004】
従って、防腐剤又は殺生物剤を含まない、特に着色系のための水性顔料ペーストを提供する試みがなされている。このために、顔料ペーストのpHは、通常、10以上の値に設定され、多くのバクテリア及び酵母、並びに大部分の真菌が成育できない環境を作り出している。
【0005】
しかしながら、これらのアルカリ性条件下でも十分に成育するか、又は これらの状況にうまく適応できるかのいずれかの、多数の好アルカリバクテリア、酵母及び真菌、特にカビが存在することが示されている。これらの好アルカリ細菌に対抗するため、防腐剤及び殺生物剤が使用される必要がある。
更に、実験式Ca6Al2[(OH)12(SO4)3]・26H2Oを有する鉱物のエトリング石を含むアルミン酸カルシウム硫酸塩が、塗料及び紙のコーティングにおいて白色顔料として使用されることも知られている。アルミン酸カルシウム硫酸塩は、水性塩基性懸濁液の形態で市販され、特に塗料に対して少量添加することができる。アルミン酸カルシウム硫酸塩に基づく沈殿物を製造する方法が国際公開第97/35807号に記載されている。比較的良い水への溶解度、並びに分散液中の結果として得られる量の2価及び3価のイオンは、結合剤系を急速に増粘させることから、結合剤系において多量のアルミン酸カルシウム硫酸塩を使用することは不可能である。特に、分散された構成成分、特に静電的に安定化された構成成分の凝塊が観察される。しかしながら、溶液中に存在する2価及び3価のイオン、特にアルミニウムイオンはまた、アルミン酸カルシウム硫酸塩の水性懸濁液に塩基性pH値にとどまらない抗菌効果をもたらし、即ちアルミン酸カルシウム硫酸塩の水性懸濁液は、全ての種類の細菌、例えばバクテリア、酵母又はカビが侵入するか、又はコロニーを作ることが困難である。
【0006】
しかしながら、アルミン酸カルシウム硫酸塩は、分散安定性が低く、塗料に加工された場合に急速に乾燥する、即ち塗料のオープンタイムが非常に短いという更なる不利益を有する。
欧州特許出願公開第4183842号は、アルミン酸カルシウム硫酸塩が長期間にわたって安定な方法にて20質量%までの量で分散することのできる組成物、特に顔料ペーストについて記載している。これらの顔料製剤はまた、顔料ペーストの使用によって殺生物剤を使用しなくても微生物による汚染に対して永久的に保護されるコーティング系、特に塗料及びワニスへの組み込みに非常に適している。
【0007】
しかしながら、アルミン酸カルシウム硫酸塩、特にエトリング石、及び約1g/lの溶解度を有する他の化合物の使用は、そのような残存溶解度を有する物質はいわゆるオストヴァルト熟成に晒されることから、問題がある。一方で、このことは、大きな結晶又は粒子はより小さな結晶又は粒子を消費して成長することを意味し、これは安定化された分散液でさえ保管中に不安定になり、より重く沈殿する傾向にあるより大きな結晶が形成することを意味する。更に、接触している結晶は界面で共に成長し、それにより、沈殿物は硬化し、従来の機械的方法、例えば撹拌によってももはや再分散させることはできず、特に規定された粒径ではなくなる。これらの特性は顔料ペースト又は塗料における使用にとって特に問題であり、それは均一な色の外観及び均一な色の特性を達成するためには、規定された量の規定された粒径を有する粒子が分散液中に存在することが必要であるためである。アルミン酸カルシウム硫酸塩又は比較的高い残存溶解度を有する同様の物質を含む顔料ペースト又は塗料は、それらが比較的少ない比率のこれらの問題のある化合物を含むことから長期間安定化することができるが、このことは、顔料ペースト又はコーティング系を製造するために使用される予備製品、特に半完成品によって達成することは困難であり、これらの製品が多量のアルミン酸カルシウム硫酸塩又は同様の物質を含む限り、困難であった。特に、アルミン酸カルシウム硫酸塩分散液は沈殿する傾向にあり、硬い沈殿物の形成を防ぐために連続的に撹拌する必要がある。
【0008】
硬い表面が供給ラインの下層部分で形成し、更なる結晶成長及び粒子の蓄積の結果としてラインが遮断されることから、沈殿する強力な傾向はまた、進行中の製造においても問題を引き起こす。
アルミン酸カルシウム硫酸塩を含む半製品、特に半完成品は、連続的に撹拌するか、又は少なくとも定期的に排出する必要がある。分散液の品質は、撹拌することなく保管された場合、急速に悪化し、沈殿及び不可逆的な沈殿物の生成が急速に起こることから、製造地への配送は製造地の近くで行われる必要があり、物流及び保管における高い出費を含む。このことは、アルミン酸カルシウム硫酸塩、及び一般的に水性懸濁液に存在する比較的高い残存溶解度を有する化合物の水性製剤の全ての製造適用に適用される。
この問題のある挙動はまた、アルミン酸カルシウム硫酸塩又は同様の化合物、例えばケイ酸カルシウム水和物の使用を、それらが原理上は顔料、担体等として適切であったであろう他の技術分野、特に化粧品製剤、殺菌剤又は医薬品製剤において妨げる。
液体中の固形物の分散液は、通常、湿潤剤又は分散剤を使用することにより安定化することができる。しかしながら、粒子表面と溶解したイオンの間に動的均衡が存在することから、この種類の安定化は、高い残存溶解度を有する化合物については限定された程度のみ可能である。粒子界面は熱力学的に安定ではないことから、従来の湿潤剤では不可能であるか、又は限定された効果のみを有する。特に、静電的安定化は、これらの動的プロセスに起因して、不可能であるか、又は非常に限定された程度のみ可能である。
【0009】
増粘剤は、沈殿及びイオンの拡散を減速させることにより固形沈殿物の生成を遅らせることができることが知られているが、そのプロセスを停止させることはできない。
更に、増粘剤の使用は、増粘した溶液が、その高粘度に起因して加工するのが困難であるという不利益を有し、特に分散液がポンプを使用して輸送される場合、可能な限り、低粘度の分散液が製造プロセスに使用される。更に、多くの適用、例えば塗料及びワニスにおいては低粘度が所望又は要求されることから、粘度の高度な上昇はまた、生成物の適用の大幅な限定の原因となる。特に、多くの増粘剤は、ゲル形成を使用して分散液の強力な増粘を引き起こし、これは分散液を多くの適用に適さないものにする。更に、2価及び3価の金属イオンの存在は、高い残存溶解度を有する化合物の分散液において高濃度で生じることが多いが、増粘剤との組み合わせで急速なゲル形成を引き起こすことが多く、これは続いて生成物を広範囲の適用に適さないものにする。
従って、技術水準は、約1g/l~10g/lの20℃の水への溶解度を有する化合物の分散液の安定化を可能にする組成物又は方法を依然として欠いたままである。
特に、どのくらい高度に満たされた、高比率の高い残存溶解度を有する化合物を含む分散液であれば、固形沈殿物が形成することなく永久的に安定化することができるかは従来知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第97/35807号
【特許文献2】欧州特許出願公開第4183842号
【発明の概要】
【0011】
従って、本発明の1つの目的は、技術水準に関連する上述した不利益及び問題を回避する、又は少なくとも軽減する系を提供することである。
特に、本発明の1つの目的は、高濃度での高い残存溶解度を有する化合物の長期間にわたって安定な分散液を可能にする系を提供することである。
本発明の更なる目的は、高濃度での高い残存溶解度を有する化合物を含む分散液の安定化を可能にする、分散液が低粘度を維持する系を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、高い残存溶解度を有する化合物の低粘度で長期間にわたって安定な分散液を提供することである。
従って、本発明の第1の態様に従う本発明の対象は、請求項1に記載の水性組成物であり、本発明のこの態様の更に有利な実施形態は、それぞれの従属請求項の対象である。
【0013】
本発明の第2の態様に従う本発明の更なる対象は、請求項15に記載の上述した水性組成物の使用である。
本発明の第3の態様に従う本発明の更なる対象は、請求項16に記載の水性分散液である。
本発明の第4の態様に従う本発明の更なる対象は、請求項17に記載の方法である。
不必要な繰り返しを避ける目的で本発明の1つの態様に関してのみ以下に記載される特別な特徴、特性、形態及び実施形態、並びに利点等が、過剰に言及する必要なく、本発明の他の態様に関して当然ながら適切に適用されることは言うまでもない。
【0014】
更に、特に質量に関する、全ての相対的な又は百分率の以下に与えられる量の場合、これらは、成分、添加剤又は補助的な物質等の総和が常に100%又は100質量%となるように当業者により選択されることに留意するべきである。しかしながら、これは当業者にとって自明のことである。
更に、以下に述べる全てのパラメーター値等は、標準化された若しくは明確に述べられた決定方法を使用して、又は当業者に良く知られている決定方法を使用して、測定又は決定することができる。
この条件で、本発明の対象をより詳細に以下に説明する。
従って、本発明の第1の態様に従う本発明の対象は、
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む分散液を安定化する水性組成物、特に溶液又は分散液であって、組成物が
(a)少なくとも1種の増粘剤、及び
(b)少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤を含む、水性組成物である。
好ましくは、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む分散液を安定化する水性組成物、特に溶液又は分散液は、少なくとも1種の増粘剤、少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、及び水からなる。
【0015】
増粘剤及び湿潤剤又は分散剤を含む溶液又は分散液の使用により、高い残存溶解度、特に0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物の分散液を分散させ、長時間にわたる安定性を得ることが可能である。驚くべきことに、これはまた、分散液が、高比率、例えば分散液に基づいて70又は80質量%で高い残存溶解度を有する化合物を含む場合にも達成することができる。
更に、高い残存溶解度を有する化合物の安定化された低粘度分散液は、本発明の増粘剤と湿潤剤又は分散剤の組み合わせにより得ることができ、それにより、分散液は、工業的に加工して様々な適用へと供給することができる。
本発明に関して、溶液は、少なくとも1つの物質、特に化合物又はその構成要素、例えばイオンが、別の物質、いわゆる溶媒中に均一に分布して存在する、通常は液体の単相の系として理解される。本発明に関して、分散液は、第1相、即ち分散相が、第2相である連続相に分布して存在する、少なくとも2相の系として理解される。連続相はまた、分散媒又は分散剤とも呼ばれ、本発明に関して連続相は、通常、液体の形態であり、本発明に関して分散液は、従って、一般的に、液中固体の分散液である。0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、本発明の範囲内で、通常、分散相、又は分散相のうちの1つである。
【0016】
驚くべきことに、本発明のアプローチはまたオストヴァルト熟成を抑制することも可能にし、そのため、一旦粒径が定められると、それはまた長期間にわたる安定性で、特に数カ月の間、分散液中に存在し、更に、保管容器中で固形物も再分散不可能な沈殿物も形成しない。増粘剤が単独で使用される場合に通常観察されるゲル形成もまた、本発明に関しては効果的に回避することができ、それにより、分散液の粘度を多くの適用にとって許容できる範囲内に維持することができる。これは驚くべきことであり、それは特に、高濃度の2価及び3価の金属イオンは増粘剤の存在下でゲル形成に寄与することが多いためである。
【0017】
本発明の組成物は、ペースト、染料、ワニス、釉薬、製紙、化粧品製剤、医薬品製剤、工業プロセスのための液体半完成品及び原料、洗剤及び洗浄剤、含浸剤及び殺菌剤、並びに表面仕上げの技術分野において、特に分散液を安定化するために適切である。
安定化される分散液が、10g/l未満、特に4g/l未満、好ましくは3g/l未満、より好ましくは2g/l未満、特に好ましくは1.5g/l未満、更により好ましくは1g/l未満の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。
【0018】
同様に、安定化される分散液が、0.1g/lより大きい、特に0.2g/lより大きい、好ましくは0.3g/lより大きい、より好ましくは0.4g/lより大きい20℃の水への溶解度を有する化合物を含む場合に、特に良い結果が得られる。
更に、安定化される分散液が、0.05~5g/l、特に0.1~4g/l、好ましくは0.2~3g/l、より好ましくは0.2~2g/l、特に好ましくは0.3~1.5g/l、更により好ましくは0.4~1g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む場合が本発明に関して十分に実証された。
【0019】
上述した比較的高い、残存溶解度としても知られている溶解度を有する化合物は、原理上、溶解性が不十分であり、水性懸濁液の形態で供給することができる。しかしながら、顕著なわずかとは言えない溶解度、及び関連する液相中のイオンの高濃度のため、これらの分散液は製造中及び使用中に多数の問題を引き起こす。主な問題のうちの1つは上述したオストヴァルト熟成であり、これは化合物が動的な溶解及び沈殿プロセスに晒されるという事実に起因し、それにより粒径がより大きな粒子へと移行し、次いで、沈殿へのより大きな傾向を引き起こして分散液及び顔料ペーストの特性並びにそれらを含む色も変化させる。更に、これらの動的なプロセスはまた、塊形成、最終的にはぎっしり詰まった沈殿物の生成を引き起こし、これは従来の機械的手段を使用してももはや再分散させることができない。
【0020】
更に、金属イオン、特に2価及び3価の金属イオンの高濃度での存在はまた、結合剤系又はレオロジー添加剤、特に増粘剤との反応によりゲル形成を引き起こすことが多い。しかしながら、本発明に関して、これらの負の効果を回避することができる。
本発明に関して、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、通常、リン酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、リン酸カルシウムアルミニウム、ケイ酸カルシウムアルミニウム、アルミン酸カルシウム水和物、アルミン酸カルシウム硫酸塩、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、トリフルオロマンガン酸アンモニウム(NH4MnF3)、トリフルオロマンガン酸ナトリウム(NaMnF3)、フッ化マンガン(II)、フッ化ナトリウム、及びそれらの混合物の群より選択される。
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、アルミン酸カルシウム水和物、アルミン酸カルシウム硫酸塩、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、トリフルオロマンガン酸アンモニウム(NH4MnF3)、トリフルオロマンガン酸ナトリウム(NaMnF3)、フッ化マンガン(II)、フッ化ナトリウム、及びそれらの混合物より選択される場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。
【0021】
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、アルミン酸トリカルシウム水和物[3CaO*Al2O3*6H2O、又はCa3Al2(OH)12]、アルミン酸テトラカルシウム水和物[4CaO*Al2O3*7H2O、又はCa4Al2(OH)14]、アルミン酸カルシウム硫酸塩[エトリング石、3CaO*Al2O3*3CaSO4*32H2O、又はCa6[Al(OH)6]2(SO4)2*26H2O]、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物[Ca6Si6O18*H2O]、トリフルオロマンガン酸アンモニウム(NH4MnF3)、トリフルオロマンガン酸ナトリウム(NaMnF3)、フッ化マンガン(II)、フッ化ナトリウム、及びそれらの混合物の群より選択される場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、アルミン酸テトラカルシウム水和物、アルミン酸カルシウム硫酸塩、ケイ酸カルシウム水和物、及びそれらの混合物、好ましくはアルミン酸カルシウム硫酸塩、ケイ酸カルシウム水和物、及びそれらの混合物より選択される場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。
【0022】
本発明に関して、0.05~5g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、硫酸カルシウムアルミニウム[エトリング石、3CaO*Al2O3*3CaSO4*32H2O、又はCa6[Al(OH)6]2(SO4)2*26H2O]である場合が特に好ましい。分子式は、24分子の結晶水として与えられることがあり、これは上記に示す26分子の結晶水の表記とは異なる。しかしながら、同じ化合物が常に意味される。
硫酸カルシウムアルミニウムは、水性懸濁液の形態で市販されている。アルミン酸カルシウム硫酸塩は鉱物のエトリング石からなり、約13.5質量%の酸化カルシウム含有量、約8質量%の酸化アルミニウム含有量、及び約45質量%の結晶水含有量を含む。硫酸カルシウムアルミニウム、又はエトリング石、又はその水性分散液はまた、建築塗料及び紙のコーティングにおいて白色顔料として使用されることもある。硫酸カルシウムアルミニウムは、高い被覆力、及び強固に沈殿して急速に乾燥する挙動を含み、それにより、通常、特に塗料の水性分散液において高濃度で使用することができず、コーティングへの加工が既に問題になっている。
【0023】
本発明に関して、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、通常、粒子形態で存在する。
本発明に関して、1つの実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.05~0.5μm、特に0.1~0.4μm、好ましくは0.15~0.3μm、より好ましくは0.18~0.25μmの範囲の粒径分布D10を含むことが規定されてもよい。
同様に、0.05~5g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、1.0~4μm、特に1.5~3.0μm、好ましくは1.8~2.7μm、より好ましくは2.0~2.5μmの範囲の粒径分布D50を含むことが想定されてもよい。
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、5.0~10μm、特に5.5~8.0μm、好ましくは6.0~7.5μm、より好ましくは6.5~7.0μmの範囲の粒径分布D90を含むこともまた規定されてもよい。
用語D10、D50、及びD90はそれぞれ、全ての粒子の10%、又は全ての粒子の50%、又は全ての粒子の90%がより小さい粒径を有することを意味する。粒径又は粒径分布は、特にレーザー散乱により決定することができる。
【0024】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、0.05~0.45μm、特に0.1~0.4μm、好ましくは0.15~0.3μm、より好ましくは0.18~0.25μmの範囲の粒径分布D10を含む。
同様に、この実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.5~1.8μm、特に0.6~1.5μm、好ましくは0.7~1.2μm、より好ましくは0.8~1.0μmの範囲の粒径分布D50を含むことが規定されてもよい。
【0025】
更に、この実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、2.0~4μm、特に2.2~3.7μm、好ましくは2.5~3.5μm、より好ましくは2.8~3.2μmの範囲の粒径分布D90を含むことが規定されてもよい。
上述した粒径を有する粒子は、顔料ペースト及び塗料だけではなく、製紙、化粧品製剤、医薬品製剤、工業プロセスのための液体半完成品及び原料、洗剤及び洗浄剤、含浸剤及び殺菌剤、並びに表面仕上げにおける使用のために特に適切である。
【0026】
増粘剤に関して言えば、これは本発明の範囲内で多数の可能性のある化合物から選択することができる。
しかしながら、増粘剤が、多糖、タンパク質、ポリビニルアルコール、ケイ酸、ケイ酸塩、及びそれらの混合物の群より選択される場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。増粘剤が多糖である場合に、本発明に関して特に好ましい。
本発明の好ましい実施形態によれば、増粘剤は、キサンタンガム、β-グルカン、チオール化多糖、プロテオグリカン、アラビアゴム、カラヤ、トラガカント、ローカストビーンガム、グァー、マルメロムチレージ、ペクチン、寒天、カラギーナン、アルギン酸塩、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体、特にセルロースエーテル、ケイ酸、ベントナイト、フィロケイ酸塩、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、及びそれらの混合物からなる群より選択される。増粘剤が、キサンタンガム、β-グルカン、チオール化多糖、プロテオグリカン、セルロースエーテル、ケイ酸、ベントナイト、フィロケイ酸塩、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、及びそれらの混合物の群より選択される場合に、これに関して特に良い結果が得られる。増粘剤がセルロースエーテルである場合に、本発明の範囲内で最も良い結果が得られる。
【0027】
増粘剤がセルロースエーテルである場合、増粘剤が、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルエチルセルロース(MEC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びその混合物の群より選択される場合が特に十分に実証されている。
本発明の水性組成物中の湿潤剤又は分散剤に関して言えば、これは、通常、非イオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、及びそれらの混合物、特に非イオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、顔料親和性基を有するコポリマー、ポリエーテル、及びそれらの混合物の群より選択される。従って、多数の界面活性物質を、湿潤剤又は分散剤として使用することができる。顔料親和性基を有する湿潤剤又は分散剤が特に好ましい。
【0028】
湿潤剤又は分散剤が、顔料親和性基を有するポリマー、シリコーン変性ポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、界面活性剤、変性天然油、及びそれらの混合物の群より選択される場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。
更に、湿潤剤又は分散剤が、ポリカルボン酸塩、特にポリアクリル酸の塩、ポリリン酸塩、特に直鎖状ポリリン酸塩及び/又は環状メタリン酸塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、アクリルブロックコポリマー、ポリウレタン、エトキシ化脂肪アルコール、非イオン性飽和長鎖アルコール、脂肪アルコール硫酸塩、アルキルホスホン酸塩、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、アルキニルエトキシレート、界面活性剤、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、フッ素系界面活性剤、変性天然油、並びにそれらの混合物の群より選択される場合が本発明に関して十分に実証されている。
【0029】
更に、湿潤剤又は分散剤が、ポリアクリル酸の塩、ポリリン酸塩、特に直鎖状ポリリン酸塩及び/又は環状メタリン酸塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、アクリルブロックコポリマー、ポリウレタン、エトキシ化脂肪アルコール、非イオン性飽和長鎖アルコール、脂肪アルコール硫酸塩、アルキルホスホン酸塩、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、アルキニルエトキシレート、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、変性天然油、並びにそれらの混合物の群より選択される場合が十分に実証されている。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、湿潤剤又は分散剤が、ポリアクリル酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のアンモニウム塩、ポリエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸ポリマー、変性スチレン-マレイン酸コポリマー、ポリシロキサンエーテル、特にメトキシポリエトキシプロピルトリシロキサン、ジェミニ型界面活性剤、ボラ型界面活性剤、変性天然油、及びそれらの混合物からなる群より選択されることが規定される。
湿潤剤又は分散剤が変性スチレン-マレイン酸コポリマーである場合に、本発明の範囲内で最も良い結果が得られる。
好ましくは、上述した湿潤剤又は分散剤のポリマーは、官能基化、特に酸性及び/又は塩基性に官能基化されている。好ましくは、ポリマーは少なくとも1つの官能基を含み、これは特にヒドロキシル(-OH)、チオール(-SH)、アミン、アンモニウム、カルボキシル、カルボニル、エステル、エーテル、スルホニル、ホスホン酸、リン酸及び/又はリン酸エステル官能基、好ましくはヒドロキシル(-OH)、チオール(-SH)及び/又はアミン官能基の群より選択することができる。
【0031】
使用した湿潤剤又は分散剤の分子量はまた、広範囲にわたって変化することができる。典型的には、使用した湿潤剤又は分散剤は、少なくとも1,000g/mol、好ましくは少なくとも1,500g/molの平均、特に重量平均分子量を含む。通常、湿潤剤又は分散剤は、1,000~1,000,000g/mol、特に1,250~100,000g/mol、好ましくは1,500~75,000g/mol、特に好ましくは2,000~50,000g/molの範囲の平均、特に重量平均分子量を含む。
有利には、湿潤剤又は分散剤は、特に極性官能基により官能基化、特に酸性及び/又は塩基性に官能基化されたポリマーに基づく。例えば、湿潤剤又は分散剤は、官能基化ポリアミン、官能基化ポリウレタン、官能基化ポリ(メタ)アクリレート、官能基化ビニルコポリマー、官能基化ポリエーテル/ポリエステルコポリマー、官能基化ポリエーテル、官能基化ポリエステル、官能基化脂肪酸コポリマー、官能基化ブロックコポリマー、及び/又は官能基化ポリアルコキシレート、並びにこれらの化合物の少なくとも2種の混合物又は組み合わせの群より選択することができる。
【0032】
上述した湿潤剤又は分散剤のポリマーは、好ましくは、酸性及び/又は塩基性に官能基化されている。好ましくは、ポリマーは少なくとも1つの官能基を含み、これは特にヒドロキシル(-OH)、チオール(-SH)、アミン、アンモニウム、カルボキシル、カルボニル、エステル、エーテル、スルホニル、ホスホン酸、リン酸及び/又はリン酸エステル官能基、好ましくはヒドロキシル(-OH)、チオール(-SH)及び/又はアミン官能基の群より選択することができる。
好ましくは、湿潤剤又は分散剤は、以下の公開物に記載されたような以下の分散剤及び/又は湿潤剤から選択されてもよく、そのそれぞれの開示は、参照により本明細書に援用される。
欧州特許出願公開第0154678号及び欧州特許出願公開第0318999号のポリウレタン、
欧州特許出願公開第0270126号のポリウレタン、
欧州特許出願公開第1593700号の変性ポリウレタン及びポリアミン、
欧州特許出願公開第0893155号の塩にされたポリアミン、
欧州特許出願公開第0417490号のリン酸エステル、
欧州特許出願公開第1081169号のイミダゾール基を含む分岐ポリマー、
欧州特許出願公開第1650246号のエトキシ化、特にアルコキシル化エポキシド/アミン付加物、及び欧州特許出願公開第1486524号のエポキシド付加物、
欧州特許出願公開第1640389号の脂肪酸を有するコポリマー、
欧州特許出願公開第0879860号のエステル化ポリアクリレート、
国際公開第2005/097872号の酸官能性ポリエステル、
欧州特許出願公開第1416019号のブロックコポリマー(グラジエントコポリマー)。
【0033】
既に上記で説明したように、本発明に従う一方で増粘剤と、他方で湿潤剤又は分散剤の組み合わせは、高い残存溶解度を有する化合物の高度に満たされた分散液の安定化を達成することができ、特に長期間にわたって安定な低粘度分散液を得ることができる。
本発明に関して、組成物が、互いに規定された比で増粘剤及び湿潤剤又は分散剤を含む場合が特に十分に実証された。
【0034】
組成物が、2:1~1:20、特に1:1~1:15、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:2~1:8、特に好ましくは1:3~1:5の範囲の増粘剤対湿潤剤又は分散剤(増粘剤:湿潤剤又は分散剤)の質量比を含む場合に、特に良い結果が得られる。
従って、本発明の水性組成物は、好ましくは、増粘剤と比べて著しく多量の湿潤剤又は分散剤を含む。そうは言っても、増粘剤の存在は、オストヴァルト熟成を防ぎ長期間の安定性を有する分散液を得るために必須である。
組成物が増粘剤を含む量に関して、組成物が、組成物に基づいて20質量%まで、特に18質量%まで、好ましくは15質量%まで、より好ましくは12質量%までの量の増粘剤を含む場合が十分に実証されている。
同様に、組成物が、組成物に基づいて1質量%より多い、特に2質量%より多い、好ましくは5質量%より多い、より好ましくは8質量%より多い量の増粘剤を含むことが想定されてもよい。
【0035】
更に、組成物が、組成物に基づいて1~20質量%、特に2~18質量%、好ましくは5~15質量%、より好ましくは8~12質量%の量の増粘剤を含む場合が本発明に関して十分に実証された。
組成物が湿潤剤又は分散剤を含む量に関して、これは広範囲にわたって当然ながら変化することができる。しかしながら、組成物が、組成物に基づいて65質量%まで、特に60質量%まで、好ましくは55質量%まで、より好ましくは50質量%までの量の湿潤剤又は分散剤を含む場合が十分に実証されている。
同様に、組成物が、組成物に基づいて20質量%より多い、特に25質量%より多い、好ましくは30質量%より多い、より好ましくは35質量%より多い量の湿潤剤又は分散剤を含むことが本発明に関して想定されてもよい。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は、組成物に基づいて20~65質量%、特に25~60質量%、好ましくは30~55質量%、より好ましくは35~50質量%の量の湿潤剤又は分散剤を含む。
上述した量の増粘剤並びに湿潤剤及び分散剤により、多量の高い残存溶解度を有する化合物を含む分散液を安定化する添加剤として極めて適した溶液又は分散液を得ることができる。
【0037】
既に述べたように、組成物は、水性組成物である。これに関して、組成物が、組成物に基づいて79質量%まで、特に78質量%まで、好ましくは63質量%まで、より好ましくは57質量%までの量の水を含む場合が十分に実証されている。
同様に、組成物が、組成物に基づいて少なくとも15質量%、特に少なくとも30質量%、好ましくは少なくとも38質量%の量の水を含むことが規定されてもよい。
更に、組成物が、組成物に基づいて15~79質量%、特に30~78質量%、好ましくは30~63質量%、好ましくは38~57質量%の量の水を含むこともまた本発明に関して想定されてもよい。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は、それぞれ組成物に基づいて
(a)特に1~20質量%の量の少なくとも1種の増粘剤、
(b)特に20~65質量%の量の少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、及び
(c)特に15~79質量%の量の水を含む。
本発明のこの特に好ましい実施形態については、全ての上述したパラメーター、特徴、利点、及び特別な特徴が適切に適用される。本発明の別の好ましい実施形態によれば、組成物は、上述した成分(a)~(c)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の沈殿プロファイルを示す図である。
【
図2】t=500sでの市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定性指数を示す図である。
【
図3】t=500sでの本発明に従って安定化されたアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液と比較した市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定性指数を示す図である。
【
図4】時間の関数としての本発明に従って安定化されたアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液と比較した市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定性指数を示す図である。
【
図5】時間t=500sでの市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液、本発明に従って安定化されたアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液、及びアルミン酸カルシウムに加えて1種の増粘剤のみを含む比較懸濁液の安定性指数を示す図である。
【
図6】t=500sでの本発明に従って安定化されたケイ酸カルシウム水和物懸濁液と比較した市販のケイ酸カルシウム水和物懸濁液の安定性指数を示す図である。
【
図7】時間の関数としての本発明に従って安定化されたケイ酸カルシウム水和物懸濁液と比較した市販のケイ酸カルシウム水和物懸濁液の安定性指数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の第2の態様に従う本発明の更なる対象は、0.05~10g/l、特に0.05~5g/l、好ましくは0.1~4g/l、より好ましくは0.2~3g/l、更により好ましくは0.2~2g/l、最も好ましくは0.3~1.5g/l、特に好ましくは0.4~1g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物を含む水性分散液を安定化するための、既に述べた水性組成物の使用である。
本発明の使用の更なる詳細については、本発明の水性組成物の上記の形態を参照することができ、本発明の使用に関して適切に適用される。
本発明の第3の態様に従う本発明の更なる対象は、
(i)0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物、
(ii)少なくとも1種の増粘剤、及び
(iii)少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、
を含む、水性分散液、特に半完成品である。
【0041】
本発明の水性分散液は、特に、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を上述した水性組成物に添加するか、又は上述した水性組成物を、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物の分散液、特に懸濁液に添加することにより得られる。別法では、増粘剤及び湿潤剤又は分散剤をまた、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物の水性分散液に互いに別々に添加することができるが、この変形は本発明にとって好ましくない。
驚くべきことに、本発明の範囲内で、低いせん断力の導入により、少なくとも1種の増粘剤及び少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤を含む上述した水性組成物を、高度にアルカリ性であることが多い0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物の分散液、特に懸濁液に組み込むことが可能である。当業者は、増粘剤に起因する、粘度の強力な上昇、及び恐らくはゲル形成を予測したであろう。
【0042】
本発明に関して、有利には、水性分散液が、5g/l未満、特に4g/l未満、好ましくは3g/l未満、より好ましくは2g/l未満、特に好ましくは1.5g/l未満、更により好ましくは1g/l未満の20℃の水への溶解度を有する化合物を含むことが規定される。
同様に、水性分散液が、0.1g/lより大きい、特に0.2g/lより大きい、好ましくは0.3g/lより大きい、より好ましくは0.4g/lより大きい20℃の水への溶解度を有する化合物を含むことが想定されてもよい。
本発明に関して、水性分散液が、0.05~5g/l、特に0.1~4g/l、好ましくは0.2~3g/l、より好ましくは0.2~2g/l、特に好ましくは0.3~1.5g/l、更により好ましくは0.4~1g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を含む場合が十分に実証された。
【0043】
本発明に関して、水性分散液が、水性分散液に基づいて40~80質量%、特に50~75質量%、好ましくは55~70質量%、より好ましくは60~65質量%の量で0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する、即ち高い残存溶解度を有する化合物を含むことが更に通常は想定される。
従って、本発明の分散液は、従来の系と比較して、本発明の分散液が組み込まれるか又はベースとなる系の特性を変化又は悪化させることなく、非常に多量の0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物を得ることができる。
既に説明したように、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、本発明の範囲内で、粒子形態で存在する。
本発明に関して、1つの実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.05~0.5μm、特に0.1~0.4μm、好ましくは0.15~0.3μm、より好ましくは0.18~0.25μmの範囲の粒径分布D10を含むことが規定されてもよい。
【0044】
同様に、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、1.0~4μm、特に1.5~3.0μm、好ましくは1.8~2.7μm、より好ましくは2.0~2.5μmの範囲の粒径分布D50を含むことが想定されてもよい。
0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、5.0~10μm、特に5.5~8.0μm、好ましくは6.0~7.5μm、より好ましくは6.5~7.0μmの範囲の粒径分布D90を含むこともまた規定されてもよい。
用語D10、D50、及びD90はそれぞれ、全ての粒子の10%、又は全ての粒子の50%、又は全ての粒子の90%がより小さい粒径を有することを意味する。粒径又は粒径分布は、特にレーザー散乱により決定することができる。
【0045】
この実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.2μmの粒径分布D10、2~2.5μmの粒径分布D50、及び6.8μmの粒径分布D90を含む場合が特に好ましい。上述した粒径分布により、特に硫酸カルシウムアルミニウム(エトリング石)の使用によって高い不透明度を有する艶のない顔料ペースト及び塗料を得ることができる。
本発明の特に好ましい実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、0.05~0.45μm、特に0.1~0.4μm、好ましくは0.15~0.3μm、より好ましくは0.18~0.25μmの範囲の粒径分布D10を含む。
同様に、この実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.5~1.8μm、特に0.6~1.5μm、好ましくは0.7~1.2μm、より好ましくは0.8~1.0μmの範囲の粒径分布D50を含むことが規定されてもよい。
【0046】
更に、この実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、2.0~4μm、特に2.2~3.7μm、好ましくは2.5~3.5μm、より好ましくは2.8~3.2μmの範囲の粒径分布D90を含むことが規定されてもよい。
この好ましい実施形態に関して、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物が、0.2μmの粒径分布D10、0.9μmの粒径分布D50、及び3.0μmの粒径分布D90を含む場合が特に好ましい。上述した実施形態と比較してこれらのより小さい粒径及びより狭い粒径分布により、特にアルミン酸カルシウム硫酸塩を使用する場合に、色の鮮明さ、色配置又は色の強度を目に見えて変化させることなく、15質量%以上の量で標準的な顔料ペーストに添加することのできる鮮明な色のペーストを製造することが可能である。本発明の分散液はまた、染料、ワニス及び釉薬、化粧品及び医薬品組成物、工業プロセスのための液体半完成品及び原料、洗剤及び洗浄剤、含浸剤及び殺菌剤に添加することもでき、長期間にわたって安定な分散液を得ることができる。
【0047】
本発明の特別な実施形態によれば、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、二峰性の粒径分布を含む。特に、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する化合物は、上述した異なる実施形態の粒径及び粒径分布を有する二峰性の粒径分布を含む。これにより、例えば、組成物、特に顔料ペースト及び結果として得られるコーティング組成物の色空間、色配置、色の強度及び鮮明さを目的とする様式に設定及び決定することができる。
従って、本発明の範囲内で、高い残存溶解度を有する化合物の通常は非常に不安定な分散液、特に半完成品を安定化することができ、それにより、それらは、いずれの問題も生じることなく保管して更に加工することができる。本発明の系は、アルミン酸カルシウム硫酸塩、特にエトリング石を安定化するために特に適切であるが、この原理はまた、水性媒体中で高い残存溶解度を有するあらゆる他の、特に無機の化合物に移転可能である。
【0048】
本発明に関して、水性分散液が、分散液に基づいて0.01~5質量%、特に0.05~2質量%、好ましくは0.1~1質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の量の増粘剤を含むことが通常は想定される。
同様に、分散液が、分散液に基づいて少なくとも0.1質量%、特に少なくとも0.5質量%、より好ましくは少なくとも0.1質量%の量の増粘剤を含むことが規定されてもよい。更に、分散液が、分散液に基づいて最大で5質量%、特に最大で2質量%、好ましくは最大で1質量%、より好ましくは最大で0.5質量%の量の増粘剤を含む場合が同様に十分に実証されている。
【0049】
更に、分散液が、分散液に基づいて少なくとも0.1質量%、特に少なくとも0.2質量%、好ましくは少なくとも0.3質量%、より好ましくは0.5質量%の量の湿潤剤又は分散剤を含むことが本発明に関して想定されてもよい。
分散液が、分散液に基づいて最大で8質量%、特に最大で5質量%、好ましくは最大で2質量%、より好ましくは最大で1質量%の量の湿潤剤又は分散剤を含む場合にもまた、良い結果が得られる。
本発明に関して、更に、分散液が、分散液に基づいて0.1~8質量%、特に0.2~5質量%、好ましくは0.3~2質量%、より好ましくは0.5~1質量%の量の湿潤剤又は分散剤を含む場合が十分に実証された。
【0050】
水性分散液はまた、相当量の水も含む。本発明に関して、水性分散液が、分散液に基づいて少なくとも5質量%、特に少なくとも15質量%、好ましくは少なくとも25質量%、より好ましくは少なくとも35質量%の量の水を含むことが想定されてもよい。
同様に、水性分散液が、分散液に基づいて最大で60質量%、 特に最大で55質量%、好ましくは最大で50質量%、より好ましくは最大で45質量%の量の水を含むことが規定されてもよい。
水性分散液が、分散液に基づいて5~60質量%、特に15~55質量%、好ましくは25~50質量%、より好ましくは35~45質量%の量の水を含む場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。
好ましい実施形態によれば、水性分散液は、従って、それぞれ分散液に基づいて、
(i)特に40~80質量%の量の10g/l未満の溶解度を有する化合物、
(ii)特に0.1~5質量%の量の少なくとも1種の増粘剤、
(iii)特に0.1~8質量%の量の少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、及び
(iv)特に5~60質量%の量の水を含む。
【0051】
本発明のこの好ましい実施形態については、他の実施形態に関する上述した全てのパラメーター、特徴、利点、及び特異点が適切に適用される。
本発明に関して、分散液がpH調整剤を含むことが特に通常は規定される。pH調整剤の場合、pH値は、特に、分散液の安定性と細菌の侵入を防ぐことの両方のために特に好ましい範囲に設定される。
pH調整剤は、通常、無機及び有機の酸及び塩基、特に無機及び有機の塩基、好ましくは無機塩基より選択される。
分散液がpH調整剤を含む場合、pH調整剤が、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、ピリジンカルボン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、アンモニア、水ガラス、ジメチルグルカミン、及びそれらの混合物の群より選択される場合が十分に実証されている。好ましくは、pH調整剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、アンモニア、水ガラス、ジメチルグルカミン、及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0052】
分散液がpH調整剤を含む場合、組成物は、通常、分散液に基づいて0.01~10質量%、特に0.1~8質量%、好ましくは0.5~7質量%、より好ましくは1~5質量%の量のpH調整剤を含む。
別の好ましい実施形態によれば、水性分散液は、従って、それぞれ分散液に基づいて、
(i)特に40~80質量%の量の10g/l未満の溶解度を有する化合物、
(ii)特に0.1~5質量%の量の少なくとも1種の増粘剤、
(iii)特に0.1~8質量%の量の少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、
(iv)特に5~60質量%の量の水、
(v)特に0.01~10質量%の量の少なくとも1種のpH調整剤を含む。
【0053】
本発明のこの好ましい実施形態については、他の実施形態に関する上述した全てのパラメーター、特徴、利点、及び特異点が適切に適用される。
有利には、分散液は、通常、少なくとも1種の添加剤を含む。典型的には、添加剤は、レオロジー添加剤、安定剤、脱泡成分、pH安定剤、レオロジー改良剤、及びそれらの混合物の群より選択される。
適切な脱泡成分は、通常、少量の疎水性成分、例えば、それらのINCI名、例えばビスフェニルヘキサメチコーン、ジメチコーン、ジメチコーンシリレート、ジメチコノール、ジフェニルジメチコーン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコーン、ジシロキサン、PEG/PPG-12/16ジメチコーン、PEG/PPG-12/18ジメチコーン、PEG/PPG-16/8ジメチコーン、PEG/PPG-8/26ジメチコーン、フェネチルジシロキサン、フェニルジメチコーン、フェニルトリメチコーン、ポリシリコーン-1、ポリシリコーン-2、ポリシリコーン-7、ポリシリコーン-8、ポリシリコーン-10、シリカジメチコーンシリレート、シリカシリレート、シメチコーン、トリメチルシロキシシリケート、トリメチルシロキシシリケート/ジメチコーンクロスポリマー、トリフェニルトリメチコーン及びトリシロキサン、ベヘニルメタクリレート/エチルアミン酸化物、メタクリレートコポリマー、C12-14 Sec-パレス-5、ヘキサミジンジイソチオネート、ヘキシルデセス-2、ラウレス-5ブチルエーテル、ヌルデ葉抽出物(Rhus Semialata Leaf Extract)により知られている、ワセリン油(INCI:ペトロラタム)、ヒマシ油、鉱油、植物油、又はシリコーン化合物、並びに疎水性成分と固形物、例えばシリカ、例えばEvonik Industriesからのsipernate(登録商標)等級の組み合わせである。アルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、ヘキサン-1-オール、プロパン-2-オールもまた、特に多量で使用する場合に脱泡効果を有することができる。
【0054】
分散液が添加剤を含む場合、分散液が、分散液に基づいて0.01~10質量%、特に0.1~8質量%、好ましくは0.5~6質量%、より好ましくは1~5質量%の量の添加剤を含む場合が十分に実証されている。
別の好ましい実施形態によれば、水性分散液は、従って、それぞれ分散液に基づいて、
(i)特に40~80質量%の量の10g/l未満の溶解度を有する化合物、
(ii)特に0.1~5質量%の量の少なくとも1種の増粘剤、
(iii)特に0.1~8質量%の量の少なくとも1種の湿潤剤又は分散剤、
(iv)特に5~60質量%の量の水、
(v)特に0.01~10質量%の量の少なくとも1種のpH調整剤、及び
(vi)特に0.01~10質量%の量の少なくとも1種の添加剤を含む。
【0055】
本発明のこの好ましい実施形態については、他の実施形態に関する上述した全てのパラメーター、特徴、利点、及び特異点が適切に適用される。
更に、水性分散液の全ての実施形態は、好ましくは、塩基性pH値を含む。これに関して、分散液が、9.5以上のpH値を含む場合が特に十分に実証された。分散液が、9.5~14、好ましくは9.5~13、好ましくは9.5~12、特に好ましくは9.5~11.5、更により好ましくは10.2~11.4の範囲のpH値を含む場合に、これに関して特に良い結果が得られる。
【0056】
本発明に関して、分散液が少なくとも実質的に防腐剤を含まないこと、特に防腐剤を含まないことが通常は想定される。
同様に、本発明に関して、分散液が少なくとも実質的に殺生物剤を含まないこと、特に殺生物剤を含まないことが好ましくは規定される。
本発明の分散液は、好ましくは、防腐剤を含まず、殺生物剤を含まず、また揮発性有機化合物も含まず、即ちVOCフリーであり、そのため、それらは、通常、申告を必要とするいずれの物質も含まず、環境保護、健康保護及び労働安全の観点からのいずれの問題も生じることなく様々な方法で使用することができる。
【0057】
更に、本発明の分散液は、特に、少なくとも2カ月、特に少なくとも4カ月、特に少なくとも6カ月、好ましくは少なくとも12カ月の期間にわたって保管安定性である。同様に、本発明の分散液は、2~36カ月、特に4~20カ月、特に6~18カ月、好ましくは12~15カ月の期間にわたって保管安定性であることが想定されてもよい。
用語「保管安定性」とは、組成物の物理的及び化学的特性が、保管中に変化しないか又は組成物の適用性を損なわない程度まで変化するのみであることを意味する。
更に、分散液が、50~500mPas、特に60~300mPas、好ましくは100~200mPasの範囲の25℃でのブルックフィールドに従う動的粘度を含む場合が十分に実証されている。
本発明のこの態様の更なる詳細については、本発明の他の態様の上記の形態を参照することができ、本発明の水性分散液に関して適切に適用される。
【0058】
更に、本発明の第4の態様に従う本発明の更なる対象は、上述した水性分散液を製造する方法であって、0.05~10g/lの範囲の20℃の水への溶解度を有する少なくとも1種の化合物を含む分散液が供給され、上述した水性組成物が添加される、方法である。
水性組成物の添加がせん断力の導入によりもたらされる場合に、本発明に関して特に良い結果が得られる。せん断力の導入は、従来の混合装置、特に溶解機によりもたらすことができる。
本発明の方法の更なる詳細については、本発明の他の態様に関する上記の形態を参照することができ、本発明の方法に関して変更すべきところは変更して適用される。
本発明の対象を、実施例を参照して非限定的な方法で以下に説明する。
【実施例0059】
1.アルミン酸カルシウム硫酸塩
アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液は短時間で不溶性の沈殿物を形成し、これは再分散させることができない。この沈殿物は、初めはアルミン酸カルシウム硫酸塩成分の沈殿により形成され、次いで、オストヴァルト熟成プロセスの一部として硬化する。
この沈殿挙動は、LUMiSizer測定を使用して特性評価を行うことができる。LUMiSizerは、クリーム化及び沈殿現象に関して粒子及び液滴速度を分析及び特性評価するための、集積光学センサーを備えた製造業者LUMによる分析用遠心分離機である。低粘度試料にはマイクロキュベットを使用する。評価としては、沈殿挙動を決定するために測定された光透過率に対してLumiSizerのキュベット位置を描き、試料を加速された沈殿に供して固定された時間間隔で865nmのレーザーを使用して照射する。透過率は、試料の沈殿挙動についての情報を提供する。規定の時間間隔で試料が沈殿するのが速いほど、試料は不安定となる。これは不安定性指数の高い値をもたらす。
【0060】
図1は、LUMiSizerにおける市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の沈殿プロファイルを示す。アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液は、1.40g/cm
3の比重、60~64質量%の固形分含有量、並びにd10=約0.2μm、d50=約0.9μm及びd90=約3.0μmの粒径分布を含む。
表面の透過率の上昇から、キュベットの底での不透明な成分の沈殿、即ち沈殿物が形成したことを判断することができる。薄い灰色から濃い灰色への勾配が、時間軸として3次元を形成する。薄い灰色の測定値は時間の初期に起こり、一方で濃い灰色の値は測定の最後に記録された。評価の表示をカスタマイズすることができる。通常、不安定性指数により分散安定性を示す。不安定性指数は、分散粒子の沈殿速度を使用すて装置のソフトウェアにより無次元値として算出し、時間tと常に関連する。時間t=500秒は、通常、不安定性指数の表示のために選択される。
【0061】
図2に示すように、時間t=500秒での使用した市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定性指数は0.387である。
アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定化
予混合物(本発明の組成物)の製造
アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液の安定化のため、湿潤剤又は分散剤及び増粘剤を含む本発明の水性組成物を製造した。
本発明の組成物の調製を、表1に示す本発明の分散液E1を製造するために使用される予混合物により例示する。
40質量%の固形分含有量を有する90質量%の湿潤剤又は分散剤(顔料親和性基を有するマレイン酸スチレンコポリマー)の水性分散液を投入し、10質量%の増粘剤(水溶性非イオン性ヒドロキシエチルセルロース)を撹拌しながら添加した。増粘剤を均一に分散させることができ、分散液のゲル化も増粘も観察されない。
【0062】
本発明の分散液の製造
本発明の分散液の製造を、本発明の分散液E1の製造により例示する。
本発明の分散液E1を製造するため、62質量%の固形分含有量を有する98質量%の市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液を投入し、撹拌しながら2質量%の予混合物(本発明の組成物)と共にゆっくりと混合する。次いで、混合物を溶解機で30分間撹拌する。数カ月間保管することができ、沈殿物をほとんど示さないか又は沈殿物を示さない低粘度分散液を得る。
本発明の更なる実施例E2~E6を、予混合物、即ち湿潤剤又は分散剤及び増粘剤の水性分散液から適切に得た。本発明の分散液E1~E6の正確な組成を表1に示す。
図3及び4に見られるように、アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液を分散液E1の形態で安定化することができた。
【0063】
測定は4回行い、標準として市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液に対して適用した。標準アルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液は時間t=500sで既に完全に沈殿し(安定性指数0.358)、一方で安定化された分散液は相当な時間遅れて沈殿する。
本発明の分散液についての時間t=500秒での安定性指数は0.037~0.064の範囲であり(
図3参照)、これは市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液と比較して15倍の改善に相当する。
安定化されていない市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液とは根本的に異なり、本発明に従って安定化されたアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液では、再分散不可能な沈殿物は形成しない。沈殿物が形成する場合、本発明に従って安定化された懸濁液ではオストヴァルト熟成が抑制されることから、いずれの問題も生じることなく再分散させることができる。
【0064】
【0065】
比較例
本発明の系の性能について説明するため、比較試験V1~V6を行い、そのそれぞれにおいて99質量%の市販のアルミン酸カルシウム硫酸塩懸濁液を1質量部の増粘剤と混合した。正確な組成は表2において見ることができる。
次いで、分散液の安定性指数を時間t=500秒で決定した。結果を
図5に示す。本発明の分散液E1についてのみ顕著な安定化を達成できたことが分かる。分散液V1~V6の安定性はいくつかの場合にわずかに上昇するが、分散液V1~V6の全てについて粘度が顕著に上昇する。
【0066】
【0067】
2.ケイ酸カルシウム水和物
以下の試験のために、50質量%のケイ酸カルシウム水和物含有量を含む市販のケイ酸カルシウム水和物の水性懸濁液を使用した。懸濁液は急速な沈殿を示し、その過程で不溶性の再分散不可能な沈殿物が形成する
この懸濁液の試料(試料V)をLUMiSizerにより調べる。結果を
図6に示し、500s後の安定性指数は0.156である。
ケイ酸カルシウム水和物懸濁液の別の試料(試料E)を、アルミン酸カルシウム硫酸塩試料E1を製造するのに使用した湿潤剤又は分散剤及び増粘剤の予混合物と混合した。
【0068】
予混合物を製造するため、40質量%の固形分含有量を有する90質量%の湿潤剤又は分散剤(顔料親和性基を有するマレイン酸スチレンコポリマー)の水性分散液を投入し、10質量%の増粘剤(水溶性非イオン性ヒドロキシエチルセルロース)を撹拌しながら添加した。
【0069】
次いで、2質量%のこの予混合物を98質量%のケイ酸カルシウム水和物懸濁液と混合し、混合物をLUMiSizerにより分析した(試料E)。結果を
図6に示し、500s後の安定性指数は0.037である。更に、沈殿挙動が著しく改善し、特に再分散させることができない沈殿物の生成が効果的に防止され、沈殿物が形成する場合は容易に再分散させることができる。
【0070】
図7は、市販のケイ酸カルシウム水和物懸濁液(試料V)と本発明に従って安定化されたケイ酸カルシウム水和物懸濁液(試料E)の安定性指数の変化の比較を示す。ここでもまた、本発明の試料の顕著に少ない時間の遅れた沈殿がまた見事に実証される。