IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本曹達株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ナノカムの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005451
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】ポストハーベスト病害防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/44 20060101AFI20250108BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250108BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250108BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A01N37/44
A01P3/00
A01N25/10
A23B7/154
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024176772
(22)【出願日】2024-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513236194
【氏名又は名称】株式会社ナノカム
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】黒柳 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 頼人
(72)【発明者】
【氏名】城武 昇一
(57)【要約】
【課題】多種のポストハーベスト病害の防除に効果があり、食品中の薬剤残留が少ない、ポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法を提供する。
【解決手段】水と前記水に懸濁したポリマー粒子とを含有し、前記ポリマー粒子はアミノ酸化合物およびシアノアクリレートポリマーを含有し且つ流体力学的直径が1000nm未満である、ポストハーベスト病害の防除剤、ならびに収穫後の野菜又は果物を前記ポストハーベスト病害の防除剤に接触させることなどを含むポストハーベスト病害の防除方法。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、前記水に懸濁したポリマー粒子と を含有し、
前記ポリマー粒子は、アミノ酸化合物およびシアノアクリレートポリマーを含有し、且つ流体力学的直径が1000nm未満である、
ポストハーベスト病害の防除剤。
【請求項2】
糖類および/または界面活性剤をさらに含有する、請求項1に記載の防除剤。
【請求項3】
アミノ酸が、アラニン、イソロイシン、ロイシン; メチオニン、バリン; フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン; アスパラギン、システイン、シスチン、グルタミン、セリン、スレオニン; アスパラギン酸、グルタミン酸; アルギニン、ヒスチジン、リジン; グリシン、およびプロリンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の防除剤。
【請求項4】
温度が40~60℃である、請求項1に記載の防除剤。
【請求項5】
収穫後の野菜又は果物を請求項1に記載の防除剤に接触させることを含む、ポストハーベスト病害の防除方法。
【請求項6】
収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の請求項1に記載の防除剤に接触させること、
収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の請求項1に記載の防除剤に接触させ、次いで水に接触させること、
収穫後の野菜又は果物を請求項1に記載の防除剤に接触させ、次いで温度40~60℃の水に接触させること、または
収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の水に接触させ、次いで請求項1に記載の防除剤を含有する水性液に接触させること
を含む、ポストハーベスト病害の防除方法。
【請求項7】
ポストハーベスト病害がグラム陰性植物病原細菌または植物病原糸状菌に起因する植物病害である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ポストハーベスト病害がPenicillium属菌、Geotrichum属菌、Rhizopus属菌、Botrytis属菌、Colletotricum属菌、Alternaria 属菌、またはMonilinia属菌に起因する植物病害である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
野菜又は果物が、ミカン科植物、バラ科植物、マタタビ科植物、ブドウ科植物、ミソハギ科植物、ウルシ科植物、サボテン科植物、パパイア科植物、クスノキ科植物、パイナップル科植物、カキノキ科植物、またはナス科植物に属するものである、請求項5または6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法に関する。より詳細に、本発明は、多種のポストハーベスト病害の防除に効果があり、食品中に薬剤残留が少ない、ポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
収穫後の農産物、特に果実等の腐敗を防ぐための薬剤有効成分として、重曹などの塩基性塩類、からし油成分やヒノキチオールなどが知られている。しかし、その適用範囲は、カンキツ緑カビ病や青かび病などの特定のポストハーベスト病害に限られている。
【0003】
ところで、特許文献1は、アミノ酸およびその誘導体ならびにそれらのオリゴマーおよびポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、植物病害細菌に対する抗菌活性成分を実質的に含まず、かつ、平均粒径が1000nm未満であるシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する、植物病害細菌用抗菌剤を開示している。引用文献1は植物病害細菌用抗菌剤は、栽培中の植物に対して施用するほか、植物病原細菌に汚染されたまたはそのおそれのある農機具類、家庭用園芸器具類の殺菌洗浄に用いることができると述べている。
【0004】
特許文献2は、アミノ酸、アミノ酸誘導体、それらのオリゴマー及びポリマー、糖並びにポリソルベートからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、菌類に対する抗菌活性成分を含まず、かつ、平均粒径が1000nm未満であるシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する、菌類に対する抗菌剤を開示している。
【0005】
特許文献3は、ヨードプロパルギル化合物を内包し、シェルがシアノアクリレートで構成される粒子を含有することを特徴とする抗菌粒子水分散体を開示している。
特許文献4は、エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなることを特徴とする抗藻類活性や抗菌活性を示すナノポリマー粒子を開示している。
【0006】
特許文献5は、ポリ(アルキルシアノアクリレート)ホモポリマーまたはコポリマー、少なくとも1種の活性剤、ならびにアニオン阻害剤およびラジカル阻害剤を含む農業、水産養殖、抗菌などに用いることができるナノ粒子を開示している。
特許文献6は、平均粒径が1000nm未満である、アミノ酸を抱合したシアノアクレートポリマー粒子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2013/108871 A
【特許文献2】特開2015-157778号公報
【特許文献3】特開2021-116264号公報
【特許文献4】特開2023-83718号公報
【特許文献5】特表2021-534209号公報
【特許文献6】WO 2010/101178 A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】瀬尾ら 「ありふれたアミノ酸が植物病害を抑える!?アミノ酸による植物のパワーアップ」 Kagaku to Seibutsu 56(6): 386-387 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、多種のポストハーベスト病害の防除に効果があり、食品中の薬剤残留が少ない、ポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 水と、前記水に懸濁したポリマー粒子と を含有し、
前記ポリマー粒子は、アミノ酸化合物およびシアノアクリレートポリマーを含有し、且つ流体力学的直径が1000nm未満である、
ポストハーベスト病害の防除剤。
〔2〕 糖類および/または界面活性剤をさらに含有する、〔1〕に記載の防除剤。
【0012】
〔3〕 アミノ酸化合物が、アラニン、イソロイシン、ロイシン; メチオニン、バリン; フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン; アスパラギン、システイン、シスチン、グルタミン、セリン、スレオニン; アスパラギン酸、グルタミン酸; アルギニン、ヒスチジン、リジン; グリシン、およびプロリンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、〔1〕または〔2〕に記載の防除剤。
【0013】
〔4〕 温度が40~60℃である、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の防除剤。
【0014】
〔5〕 収穫後の野菜又は果物を〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の防除剤に接触させることを含む、ポストハーベスト病害の防除方法。
〔6〕 収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の防除剤に接触させ、次いで水に接触させること、
収穫後の野菜又は果物を〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の防除剤に接触させ、次いで温度40~60℃の水に接触させること、または
収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の水に接触させ、次いで〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の防除剤を含有する水性液に接触させること
を含む、ポストハーベスト病害の防除方法。
【0015】
〔7〕 ポストハーベスト病害がグラム陰性植物病原細菌または植物病原糸状菌に起因する植物病害である、〔5〕または〔6〕に記載の防除方法。
【0016】
〔8〕 ポストハーベスト病害がPenicillium属菌、Geotrichum属菌、Rhizopus属菌、Botrytis属菌、Colletotricum属菌、Alternaria 属菌、またはMonilinia属菌に起因する植物病害である、〔5〕または〔6〕に記載の防除方法。
〔9〕 野菜又は果物が、ミカン科植物、バラ科植物、マタタビ科植物、ブドウ科植物、ミソハギ科植物、ウルシ科植物、サボテン科植物、パパイア科植物、クスノキ科植物、パイナップル科植物、カキノキ科植物、またはナス科植物に属するものである、〔5〕~〔8〕のいずれかひとつに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法は、多種のポストハーベスト病害の防除に効果がある。本発明のポストハーベスト病害の防除剤に使われる天然アミノ酸や生体修飾アミノ酸は人体に無害であり、本発明のポストハーベスト病害の防除剤に使われるシアノアクリレートポリマーは、皮膚の損傷修復などに使用されるほどの低毒性である。シアノアクリレートポリマーは、生分解性があると言われており、人体に蓄積しない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤は、水と前記水に懸濁したポリマー粒子とを含有してなるものである。
【0019】
本発明に用いられるポリマー粒子は、アミノ酸化合物およびシアノアクリレートポリマーを含有するものである。
【0020】
本発明におけるアミノ酸化合物としては、タンパク質構成アミノ酸(天然アミノ酸)、非タンパク質構成アミノ酸(非天然アミノ酸)、生体修飾アミノ酸(アミノ酸誘導体)などを挙げることができる。本発明におけるアミノ酸化合物は光学異性体や幾何異性体を包含する概念である。本発明におけるアミノ酸化合物は、天然アミノ酸からなるペプチド、非天然アミノ酸からなるペプチド、天然アミノ酸と非天然アミノ酸からなるペプチドなども包含する。なお、ペプチドは、2以上のアミノ酸がアミド結合で繋がった化合物である。ペプチド中のアミノ酸単位の数は、通常、2~100である。本願においては、アミノ酸単位の数が2~10のペプチドはオリゴペプチドと呼び、アミノ酸単位の数が11~100のペプチドはポリペプチドと呼ぶ。
【0021】
天然アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、イソロイシン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、システイン、シスチン、スレオニン、セリン、チロシン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、リジン、ロイシンを挙げることができる。
【0022】
非天然アミノ酸としては、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸、クレアチニン、オルニチン、サイロキシン、デスモシン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、ホスホセリン、テアニン、カイニン酸、トリコロミン酸、サルコシンを挙げることができる。
【0023】
アミノ酸化合物は一種単独でまたは二種以上の組み合わせで本発明に用いられるポリマー粒子に含有させることができる。
【0024】
本発明におけるシアノアクリレートポリマーは、シアノアクリレートモノマーを重合することによって得られるものである。
【0025】
本発明におけるシアノアクリレートモノマーとしては、メチル2-シアノアクリレート、エチル2-シアノアクリレート、n-プロピル2-シアノアクリレート、イソプロピル2-シアノアクリレート、プロパギル2-シアノアクリレート、アリル2-シアノアクリレート、n-ブチル2-シアノアクリレート、イソブチル2-シアノアクリレート、s-ブチル2-シアノアクリレート、t-ブチル2-シアノアクリレート、クロロエチル2-シアノアクリレート、シクロヘキシル2-シアノアクリレート、フェニル2-シアノアクリレート、n-ペンチル2-シアノアクリレート、n-ヘキシル2-シアノアクリレート、イソペンチル2-シアノアクリレート、イソヘキシル2-シアノアクリレート、テトラヒドロフルフリル2-シアノアクリレート、ヘプチル2-シアノアクリレート、2-エチルヘキシル2-シアノアクリレート、n-オクチル2-シアノアクリレート、n-ノニル2-シアノアクリレート、オキソノニル2-シアノアクリレート、n-デシル2-シアノアクリレート、n-ドデシル2-シアノアクリレート、2-エトキシエチル2-シアノアクリレート、3-メトキシブチル2-シアノアクリレート、2-エトキシ-2-エトキシエチル2-シアノアクリレート、ブトキシ-エトキシ-エチル2-シアノアクリレート、メトキシイソプロピルシアノアクリレート、メトキシプロピルシアノアクリレート、メトキシブチルシアノアクリレート、メトキシペンチルシアノアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル2-シアノアクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル2-シアノアクリレートなどを挙げることができる。これらのうち、n-ブチル2-シアノアクリレート、イソブチル2-シアノアクリレート、n-オクチル2-シアノアクリレートが好ましい。シアノアクリレートモノマーは一種単独でまたは二種以上を組み合わせて重合させることができる。
【0026】
本発明に用いられるポリマー粒子は、シアノアクリレートポリマー100重量部に対してアミノ酸化合物が、好ましくは1~60重量部、より好ましくは10~40重量部である。
【0027】
本発明に用いられるポリマー粒子は、例えば、アミノ酸化合物の存在下にシアノアクリレートモノマーを重合することを含む方法、より具体的には、アミノ酸化合物を含む液にシアノアクリレートモノマーを添加し撹拌してシアノアクリレートモノマーのディスパージョンを得、その状態にてアニオン重合反応を進めることを含む方法によって得ることができる。
【0028】
アミノ酸化合物を含む液に使用される媒質は、アミノ酸化合物を溶解または懸濁できるものであれば、特に限定されず、例えば、水、アルコールなどのプロトン性極性溶媒を挙げることができ、好ましくは水またはメタノール、より好ましくは水である。なお、水またはメタノールは後述のとおりシアノアクリレートモノマーの重合反応を開始させる。
【0029】
シアノアクリレートモノマーは、そのままで重合反応に供してもよいし、媒質に溶解もしくは懸濁させたもので重合反応に供してもよい。
シアノアクリレートモノマーを溶解もしくは懸濁させるための媒質としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジクロロメタン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、炭酸プロピレンなどの非プロトン性極性溶媒; ニトロメタンなどのプロトン性極性溶媒; ヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4-ジオキサン、クロロホルム、ジエチルエーテルなどの非極性溶媒などを挙げることができる。
【0030】
シアノアクリレートモノマーを重合するために、アニオン重合反応を進める。アニオン重合反応は、アニオンによって開始される。アニオンとしては、ヒドロキシドイオン、アルコキシドイオンなどを挙げることができる。アニオンを供給する物質(開始剤)として、水、アルコールなどを挙げることができ、重合反応系におけるアニオンの量を調整する物質として、アミン類、金属水酸化物などの塩基; 塩酸、硝酸、硫酸、有機酸などの酸を挙げることができる。アニオンの量によって、重合反応の速度などを変えることができる。
【0031】
シアノアクリレートモノマーのアニオン重合反応においては、安定化剤として、糖類(単糖ならびに二糖、オリゴ糖およびその他の多糖類)、または界面活性剤を用いることができる。安定化剤によって、粒子のサイズ、粒子に含有できるアミノ酸化合物の量などを変更できることがある。多糖類としては、デキストラン、シクロデキストリンなどを挙げることができる。
【0032】
シアノアクリレートモノマーのアニオン重合反応における温度は特に限定されず、例えば、好ましくは0~100℃、より好ましくは1~50℃である。
アミノ酸化合物を含む液に対するシアノアクリレートモノマーの量は、例えば、好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~5重量%である。
シアノアクリレートモノマーのアニオン重合反応の開始から終了までの時間は、例えば、好ましくは0.5~6時間、より好ましくは1時間~3時間である。
【0033】
媒質として水を用いたシアノアクリレートモノマーの重合反応が終了したときに、本発明におけるポリマー粒子は水に懸濁した状態となっているので、そのままでまたは中和して、本発明のポストハーベスト病害の防除剤として使用してもよい。
【0034】
また、シアノアクリレートモノマーの重合反応が終了した後、必要に応じて、中和、ろ過、洗浄などを行って、ポリマー粒子を取り出し、新しい水に懸濁させることによって、本発明のポストハーベスト病害の防除剤を得てもよい。また、取り出したポリマー粒子を乾燥状態で保管または運搬し、病害防除処理を行う場において乾燥状態ポリマー粒子を水に懸濁させて本発明のポストハーベスト病害の防除剤を得るようにしてもよい。
【0035】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤は、温度が、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、さらに好ましくは40~60℃、よりさらに好ましくは50~60℃である。温度が高いほどポストハーベスト病害効果は高くなるが植物細胞の熱変性を生じさせる傾向がある。高い温度の防除剤を用いる場合は収穫後の野菜又は果物に接触している時間を短くすることが好ましい。
【0036】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤は、pHが、好ましくは4~10、より好ましくは6~8、さらに好ましくは6~6.5である。各微生物は、増殖に適したpHを有する。最適値から外れたpHになると微生物の増殖は抑制されると言われている。カビの増殖最適pHは4~6であると言われている。一方、乳酸菌は植物病害を抑制する効果があると言われている。ラクトバチルス属などの乳酸桿菌は酸性生育限界値が4.0であり、アルカリ生育限界値が8であり、増殖最適pHが6~7であると言われている。6~6.5などの弱酸性において植物病害を抑制に有用な乳酸菌は増殖しやすく、カビは増殖し難いようである。さらに、果実類はほとんどが酸性である。例えば、リンゴはpH2.9~3.3、ナシはpH3.7~4.2、ブドウはpH3.0~3.3、トマトはpH3.8~4.6、オレンジはpH3.0~3.5、レモンはpH2.4~2.8である。
【0037】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤のpHは、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸塩、リン酸塩などの食品添加物pH調整剤を用いて調整することが好ましい。酢酸やリン酸は、ポストハーベスト病害防除の効果を向上させることがある。
【0038】
水に懸濁したポリマー粒子の大きさは、流体力学的直径において、1000nm未満、好ましくは500nm未満である。水に懸濁したポリマー粒子の大きさの下限は特に制限されないが、好ましくは1nm、より好ましくは5nmである。ポリマー粒子の大きさが小さいほど、収穫後の野菜又は果物への付着性が高い傾向があり、ポリマー粒子の大きさが小さいほど、防除処理後の野菜又は果物からの水洗いによるポリマー粒子の除去が容易になる傾向がある。
なお、流体力学的直径とは、ポリマー粒子と同じ速度で拡散する滑らかな球形粒子の粒子径を意味します。流体力学的直径は、液体中に分散しているポリマー粒子の散乱強度を動的光散乱法によって測定し、その測定された散乱強度のゆらぎに基づき自己相関関数を求め、キュムラント解析を行うことで得られる(ISO 22412:2017)。
【0039】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤に含まれるポリマー粒子の量は、特に制限されないが、例えば、保管や運搬の際は、水に対して、好ましくは500~20000ppm、より好ましくは1000~20000ppmであり、収穫後の野菜又は果物に接触させる際は、水に対して、例えば、好ましくは1000~10000ppm、より好ましくは1250~5000ppmである。
ポストハーベスト病害の防除剤に含まれるポリマー粒子の量の調整は、例えば、水、水溶液などによる希釈によって行う。
【0040】
ポストハーベスト病害の防除方法は、収穫後の野菜又は果物を本発明の防除剤に接触させることを含む。
本発明のポストハーベスト病害の防除方法の好ましい態様は、収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の本発明の防除剤に接触させること; 収穫後の野菜又は果物を温度40~60℃の本発明の防除剤に接触させ、次いで水に接触させること; 収穫後の野菜又は果物を本発明の防除剤に接触させ、次いで40~60℃の水に接触させること; または 収穫後の野菜又は果物を40~60℃の水に接触させ、次いで本発明の防除剤を含有する水性液に接触させることを含む。
【0041】
収穫後の野菜又は果物に本発明の防除剤または水を接触させる方法としては、浸漬、散液または噴霧を挙げることができる。
【0042】
本発明の防除剤または水を接触させる際の温度および時間は、収穫後の野菜又は果物がゆだってしまわないような範囲とすることが好ましい。
温度60℃超過の本発明の防除剤に接触させる時間は、収穫後の野菜又は果物がゆだってしまわないように短時間、例えば、好ましくは0.01分間以上8分間以下、より好ましくは0.05分間以上5分間以下、さらに好ましくは0.1分間以上2分間以下である。
温度40~60℃の本発明の防除剤に接触させる時間は、例えば、好ましくは0.5分間以上20分間以下、より好ましくは1分間以上15分間以下、さらに好ましくは2分間以上10分間以下である。
温度0℃超過40℃未満の本発明の防除剤に接触させる時間は、例えば、好ましくは1分間以上40分間以下、より好ましくは1.5分間以上30分間以下、さらに好ましくは2分間以上20分間以下である。
【0043】
温度60℃超過の水に接触させる時間は、収穫後の野菜又は果物がゆだってしまわないように短時間、例えば、好ましくは0.01分間以上8分間以下、より好ましくは0.05分間以上5分間以下、さらに好ましくは0.1分間以上2分間以下である。
温度40~60℃の水に接触させる時間は、例えば、好ましくは0.5分間以上20分間以下、より好ましくは1分間以上15分間以下、さらに好ましくは2分間以上10分間以下である。
温度0℃超過40℃未満の水に接触させる時間は、例えば、好ましくは1分間以上40分間以下、より好ましくは1.5分間以上30分間以下、さらに好ましくは2分間以上20分間以下である。
【0044】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法は、グラム陰性植物病原細菌または植物病原糸状菌に起因する植物病害に対して好適であり、Penicillium属菌、Geotrichum属菌、Rhizopus属菌、Botrytis属菌、Colletotricum属菌、Alternaria 属菌、またはMonilinia属菌に起因する植物病害に対してより好適である。
【0045】
本発明のポストハーベスト病害の防除剤およびポストハーベスト病害の防除方法が対象とする収穫後の野菜又は果物は、ミカン、グレープフルーツなどのミカン科植物、リンゴ、サクランボ、ナシ、ビワ、桃、ベリー類などのバラ科植物、キウイフルーツなどのマタタビ科植物、ブドウなどのブドウ科植物、ザクロなどのミソハギ科植物、マンゴーなどのウルシ科植物、ドラゴンフルーツなどのサボテン科植物、パパイアなどのパパイア科植物、アボカドなどのクスノキ科植物、パイナップルなどのパイナップル科植物、カキなどのカキノキ科植物、またはトマトなどのナス科植物に属するものであることが好ましい。
【0046】
以下に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。
【0047】
〔試験例1〕
5本の縫い針を束ねた剣山(1×1 cm)を用意した。剣山を収穫した温州ミカン果実(興津早生)10個にそれぞれ突き刺し、ミカン果実の果皮表面に深さ6mmの傷を付けた。
【0048】
(病害菌接種)
カンキツ緑かび病(Penicillium digitatum)の胞子を約0.2×10個/mLとなるようにイオン交換水に添加して病害菌液を得た。病害菌液を容器に入れ手動蓄圧式スプレー装置で前記ミカン果実全体に噴霧した。噴霧後直ぐに、新品のビニール袋にミカン果実を10個ずつ入れて、袋の口をそれぞれ縛った。それらを段ボール箱に入れ、20℃、暗所に一晩静置した。
【0049】
(防除処理)
病害菌接種を行った日の翌日、流体力学的直径140nmのアスパラギン酸29%含有n-ブチルシアノアクリレートポリマー粒子(AspNBCA粒子)を表1に示す濃度となるように0.01%ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート水溶液に添加して、防除剤を得た。
防除剤を恒温水槽に入れ、所定の温度になるように調整した。ビニール袋からミカン果実を出した。ミカン果実を恒温水槽に溜められた防除剤に2分間浸漬した。
【0050】
(病害菌再接種)
防除剤に接触させたミカン果実を風乾した。その後、前記と同様の方法で得た病害菌液を容器に入れ手動蓄圧式スプレー装置でミカン果実全体に噴霧した。噴霧後直ぐに、新品のビニール袋にミカン果実を10個ずつ入れて、袋の口をそれぞれ縛った。それらを段ボール箱に入れ、20℃、暗所に静置した。
【0051】
(発病果実数計測)
病害菌再接種を行った日から3日目、4日目、および5日目にミカン果実を観察し発病の有無を調べた。
【0052】
病害菌接種、防除処理、病害菌再接種および発病果実数計測を同時期に並行して複数行った。結果を表1に示す。
防除価(%)=100-(防除処理区の発病率/無処理区の発病率)×100
発病率(%)=(発病果実数/全果実数)×100
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すとおり、本発明の防除剤を用いて防除処理を行うと、収穫後の野菜又は果物における病害菌の増殖を抑制できる。
【0055】
〔試験例2〕
時期を変えた以外は試験例1と同じ方法で病害菌接種、防除処理および病害菌再接種を行った。
【0056】
(発病果実数計測)
病害菌再接種を行った日から9日目および12日目にミカン果実を観察し発病の有無を調べた。
【0057】
病害菌接種、防除処理、病害菌再接種および発病果実数計測を同時期に並行して複数行った。結果を表2に示す。
防除価(%)=100-(防除処理区の発病率/無処理区の発病率)×100
発病率(%)=(発病果実数/全果実数)×100
【0058】
【表2】
【0059】
〔試験例3〕
時期を変えた以外は試験例2と同じ方法で病害菌接種、防除処理および病害菌再接種を同時に複数行った。
【0060】
(発病果実数計測)
病害菌再接種を行った日から10日目、および13日目にミカン果実を観察し発病の有無を調べた。
【0061】
病害菌接種、防除処理、病害菌再接種および発病果実数計測を同時期に並行して複数行った。結果を表3に示す。
防除価(%)=100-(防除処理区の発病率/無処理区の発病率)×100
発病率(%)=(発病果実数/全果実数)×100
【0062】
【表3】
【0063】
〔試験例4〕
時期を変えた以外は試験例3と同じ方法で病害菌接種、防除処理および病害菌再接種を同時に複数行った。
【0064】
(発病果実数計測)
病害菌再接種を行った日から4日目および6日目にミカン果実を観察し発病の有無を調べた。
【0065】
病害菌接種、防除処理、病害菌再接種および発病果実数計測を同時期に並行して複数行った。結果を表4に示す。
防除価(%)=100-(防除処理区の発病率/無処理区の発病率)×100
発病率(%)=(発病果実数/全果実数)×100
【0066】
【表4】