(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025054532
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
F01P 11/16 20060101AFI20250331BHJP
F01P 7/04 20060101ALI20250331BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
F01P11/16 E
F01P7/04 Z
E02F9/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163612
(22)【出願日】2023-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 祐司
(72)【発明者】
【氏名】小泉 博史
【テーマコード(参考)】
2D015
【Fターム(参考)】
2D015CA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷却対象の流体への入熱状況によらずに流体温度の過大なオーバーシュートを防止することができる建設機械を提供する。
【解決手段】油圧ショベルは、冷却ファン77と、冷却ファン77により冷却されるオイルクーラ73と、オイルクーラ73を流れる作動油の温度を検出する作動油温センサ73sと、冷却ファン77の回転数を制御する車体コントローラ51と、を備え、車体コントローラ51は、作動油温センサ73sにより検出された作動油の実温度と、予め定められた目標温度との温度差に応じて比例積分制御により冷却ファン77の目標回転数を設定し、比例積分制御の積分制御において、積分項の出力値N_Iを所定の積分項下限値N_Imin以上に制限する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ファンと、
前記冷却ファンにより冷却される熱交換器と、
前記熱交換器を流れる流体の温度を検出する温度検出器と、
前記冷却ファンの回転数を制御するコントローラと、を備えた建設機械において、
前記コントローラは、前記温度検出器により検出された前記流体の実温度と、予め定められた目標温度との温度差に応じて比例積分制御により前記冷却ファンの目標回転数を設定し、
前記比例積分制御の積分制御において、積分項の出力値を所定の下限値以上に制限する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
大気温を検出可能な大気温検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記大気温検出器により検出された大気温に応じて、前記下限値を制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
車体負荷を検出可能な車体負荷検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記車体負荷検出器により検出された車体負荷に応じて、前記下限値を制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項2に記載の建設機械において、
車体負荷を検出可能な車体負荷検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記大気温検出器により検出された大気温又は前記車体負荷検出器により検出された車体負荷に応じて、前記下限値を制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項4に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記大気温により決定される下限値または前記車体負荷により決定される下限値のうちいずれか大きい方の下限値を用いて前記積分項の出力値を制限する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記積分項の出力値の候補値が前記下限値よりも小さい場合は、前記下限値を前記積分項の出力値とし、前記候補値が前記下限値以上である場合は、前記候補値を前記積分項の出力値とする
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器を冷却する冷却ファンを備えた建設機械に係り、特に、エンジンの回転数に関わらずに冷却ファンの回転数を設定可能な建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に油圧ショベルなどの建設機械に使用され、熱交換器を冷却する冷却ファンには、エンジンクランク軸と連結され、エンジンクランク軸の回転に伴い回転されるものや、エンジンとは切り離され、油圧モータや電動モータによって独自に駆動され、回転数を設定可能なものがある。後者の独自に回転数を設定可能に駆動される冷却ファンの制御方法には、熱交換器を流れる流体の実温度を監視し、検出された実温度と目標温度との差分に応じて比例積分制御器により冷却ファンの目標回転数を設定し、実温度が目標温度になるように冷却ファンの目標回転数を可変制御するものがある。
【0003】
建設機械においては、例えばエンジン冷却水や、アクチュエータを駆動する作動油などが冷却対象の流体となる。冷却ファンによる冷却風の増減に対する流体の実温度の応答遅れのため、積分制御による負側への蓄積に起因して冷却ファンの実回転数の立ち上がりが遅れ、流体の実温度が目標温度に対して過大となる大きなオーバーシュートが発生する場合がある。この場合、過大なオーバーシュートに対し過剰に冷却ファンの目標回転数が高く設定され、そのため流体の実温度が低下しすぎて低すぎる目標回転数が設定される、といった現象が繰り返される場合がある。その結果、冷却ファンの実回転数が目標値付近でハンチングを起こし、聴感の悪化によりオペレータや周囲者に不快感を与える恐れがある。また、過度に流体が高温となった場合には車体に不具合を起こす原因となる可能性もあり、流体温度の過大なオーバーシュートは避けることが望ましい。
【0004】
流体温度のオーバーシュートを抑制するファン回転数制御方法として、例えば特許文献1には、ファン目標回転数がファン最低回転数に達するまでは、実温度と目標温度との温度差に応じて比例積分制御器の比例要素のみによりファン目標回転数を設定し、ファン目標回転数がファン最低回転数を超えたときは、実温度と目標温度との温度差に応じて、比例積分制御器の比例要素と積分要素とによりファン目標回転数を設定することで、比例積分制御器における積分の負側に対する蓄積を制限する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、建設機械において流体への入熱状況は様々であるため、ファン目標回転数がファン最低回転数に達した後、流体の実温度が長時間目標温度に到達しない場合も考えられる。このような場合には、実温度と目標温度の差分に応じた比例積分制御を行っても、実温度が目標温度に到達しない間の積分器における負側の蓄積に起因して、流体温度の過大なオーバーシュートが発生する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却対象の流体への入熱状況によらずに流体温度のオーバーシュートを抑制することができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の建設機械は、冷却ファンと、前記冷却ファンにより冷却される熱交換器と、前記熱交換器を流れる流体の温度を検出する温度検出器と、前記冷却ファンの回転数を制御するコントローラと、を備えた建設機械において、前記コントローラは、前記温度検出器により検出された前記流体の実温度と、予め定められた目標温度との温度差に応じて比例積分制御により前記冷却ファンの目標回転数を設定し、前記比例積分制御の積分制御において、積分項の出力値を所定の下限値以上に制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却対象の流体への入熱状況によらずに流体温度の過大なオーバーシュートを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の油圧ショベルの全体構造の一例を示す側面図である。
【
図2】
図1の油圧ショベルに備えられる旋回体上の機器配置形態の一例を示す、旋回体を上方から見た透視図である。
【
図3】油圧ショベルの冷却ファンの制御に関わる構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】作動油温度に基づく比例積分制御による目標回転数の制御方法の一例を示したブロック図である。
【
図5】
図4の積分項出力値決定部における処理の一例を示したフローチャートである。
【
図6】
図5のステップS4における積分項下限値の決定方法の一例を示したブロック図である。
【
図7】積分項出力値の制限を行わない比較例における、横軸に時間、縦軸に流体への入熱、流体の実温度及び目標温度、比例項出力値及び積分項出力値、冷却ファンの実回転数及び目標回転数が示されたタイムチャートである。
【
図8】積分項出力値の制限を行う本実施形態における、横軸に時間、縦軸に流体への入熱、流体の実温度及び目標温度、比例項出力値及び積分項出力値、冷却ファンの実回転数及び目標回転数が示されたタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<油圧ショベルの全体構成>
本実施形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベルを例にとって説明する。
図1は本実施形態の油圧ショベルの全体構造の一例を示す側面図、
図2は
図1の油圧ショベルに備えられる旋回体上の機器配置形態の一例を示す、旋回体を上方から見た透視図である。
【0013】
図1に示すように、油圧ショベル1は、走行体2と、走行体2上に回転自在に設けられた旋回体3と、旋回体3に取り付けられた作業装置4とを備えている。作業装置4は、旋回体3に俯仰動作可能に取り付けられたブーム41と、ブーム41の先端に俯仰動作可能に取り付けられたアーム42と、アーム42の先端に俯仰動作可能に取り付けられたバケット43と、ブーム41を作動させるブームシリンダ44と、アーム42を作動させるアームシリンダ45と、バケット43を作動させるバケットシリンダ46とを備えている。
【0014】
旋回体3は、メインフレーム30と、カウンタウエイト31と、運転室32と、建屋カバー33などにより構成されている。メインフレーム30は、旋回体3のベースであり、複数の鋼板、鋼材を接合することにより、車体の前後左右に延びる支持構造体を構成している。メインフレーム30の車体前方には、作業装置4が俯仰動作可能に取り付けられている。カウンタウエイト31は、メインフレーム30の車体後方に設置されており、作業装置4との重量バランスをとる錘の役割を果たしている。運転室32は、メインフレーム30の前方左側に搭載されている。
【0015】
図2に示すように、運転室32の内部にはオペレータが着座する運転席50や、車体コントローラ51(コントローラの一例)が設けられている。建屋カバー33は、メインフレーム30上に搭載されるエンジン61や、クーリングパッケージ72などの機器を仕切るカバーである。建屋カバー33内には、車体中央後方に位置するエンジン室60と、車体左側後方に位置するラジエータ室70が設けられている。エンジン室60内には、エンジン61及び油圧ポンプ62がクランク軸を左右方向に伸ばした横置き姿勢で配置されている。ラジエータ室70内には、大気温センサ71(
図3参照)や、クーリングパッケージ72などが搭載されている。
【0016】
<冷却ファンの制御に関わる構成>
次に、油圧ショベル1の冷却ファンの制御に関わる構成について
図3を用いて説明する。
図3は油圧ショベル1の冷却ファンの制御に関わる構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図3に示すように、油圧ポンプ62はエンジン61に直結されており、エンジン61の出力により駆動される。油圧ポンプ62近傍にはポンプ流量・吐出圧センサ62s(車体負荷検出器の一例)が設けられ、ポンプ流量及び吐出圧情報(車体負荷の一例)を車体コントローラ51に送信する。
【0018】
クーリングパッケージ72は、作業装置4の駆動に使用される作動油を冷却するオイルクーラ73(熱交換器の一例)と、エンジン冷却水を冷却するラジエータ74(熱交換器の一例)と、ターボ過給機(図示せず)によってエンジン61に供給されるインテークエアを冷却するインタークーラ75(熱交換器の一例)と、冷却ファン77と、冷却ファン77を駆動するファンモータ76とを有する。オイルクーラ73、ラジエータ74、及びインタークーラ75は、冷却ファン77により冷却される。
【0019】
オイルクーラ73内を流れる作動油(流体の一例)、ラジエータ74内を流れるエンジン冷却水(流体の一例)、インタークーラ75内を流れるインテークエア(流体の一例)の流路には、それぞれ作動油温センサ73s、エンジン冷却水温センサ74s、インテークエア温度センサ75sが設けられている。作動油温センサ73s(温度検出器の一例)は作動油の温度を検出し、温度情報を車体コントローラ51に送信する。エンジン冷却水温センサ74s(温度検出器の一例)はエンジン冷却水の温度を検出し、温度情報を車体コントローラ51に送信する。インテークエア温度センサ75s(温度検出器の一例)は、インテークエアの温度を検出し、温度情報を車体コントローラ51に送信する。
【0020】
ファンモータ76は、車体コントローラ51からの回転数指令に従って駆動される。冷却ファン77は、車体コントローラ51によって回転数を制御され、オイルクーラ73、ラジエータ74、及びインタークーラ75に冷却風を送風する。
【0021】
大気温センサ71(大気温検出器の一例)は、大気温を検出し、温度情報を車体コントローラ51に送信する。
【0022】
<冷却ファンの制御方法>
次に、冷却ファン77の制御方法について、作動油を例にとって
図4、
図5、及び
図6を用いて説明する。
図4は作動油温度に基づく比例積分制御による目標回転数の制御方法の一例を示したブロック図、
図5は
図4の積分項出力値決定部における処理の一例を示したフローチャート、
図6は
図5のステップS4における積分項下限値の決定方法の一例を示したブロック図である。
図4、
図5、及び
図6の処理は、主に車体コントローラ51で行われる。本実施形態では、
図4、
図5、及び
図6の処理の主体が車体コントローラ51であるものとして説明する。
【0023】
図4に示すように、車体コントローラ51は、作動油温センサ73sにより検出された作動油の実温度Tmoと、予め定められた作動油の目標温度Ttoとの温度差に応じて、比例積分制御により冷却ファン77の目標回転数N_tを設定する。具体的には、作動油温センサ73sにより検出された作動油の実温度Tmoから予め設定された作動油の目標温度Ttoを減じた偏差Eoが、比例器S1及び積分器S2に入力される。比例器S1は、偏差Eoに比例ゲインを乗算し、比例項出力値N_Pとして出力する。積分器S2は、偏差Eoに積分ゲインを乗算し、乗算した値と、前回の積分項出力値N_Iを加算し、積分項出力候補値N_Itとする。積分器S2は、積分項出力候補値N_Itを積分項出力値決定部S3に入力し、後述する演算により積分項出力値N_Iを決定する。
【0024】
車体コントローラ51は、比例器S1の比例項出力値N_Pと、積分器S2の積分項出力値N_Iと、予め定められたオフセット回転数N_Oとを足し合わせて、冷却ファン77の目標回転数N_tを設定する。オフセット回転数N_Oは、実温度Tmoと目標温度Ttoが一致する場合の無補正の冷却ファン77の回転数である。つまり車体コントローラ51は、基準となるオフセット回転数N_Oを比例項出力値N_P及び積分項出力値N_Iにより補正することで、目標回転数N_tを設定する。
【0025】
車体コントローラ51は、前述の積分項出力値決定部S3において、
図5に示す処理を実行する。
図5に示すように、ステップS4では、車体コントローラ51は、後述の
図6に示す方法で積分項下限値N_Imin(所定の下限値の一例)を決定する。車体コントローラ51は、ステップS4の処理終了後、ステップS5に進む。
【0026】
ステップS5では、車体コントローラ51は、入力された積分項出力候補値N_ItがステップS4で決定した積分項下限値N_Iminを下回るか否かを判断する。車体コントローラ51は、積分項出力候補値N_Itが積分項下限値N_Iminを下回る場合はステップS6に進み(ステップS5:YES)、積分項出力候補値N_Itが積分項下限値N_Imin以上である場合はステップS7に進む(ステップS5:NO)。
【0027】
ステップS6では、車体コントローラ51は、積分項出力値N_Iを積分項下限値N_Iminに決定し、積分項出力値決定部S3の処理を終了する。その後、
図4に示す処理にリターンする。ステップS7では、車体コントローラ51は、積分項出力値N_Iを積分項出力候補値N_Itに決定し、積分項出力値決定部S3の処理を終了する。その後、
図4に示す処理にリターンする。
【0028】
上述したように、積分項出力値N_Iは、前回の積分項出力値N_Iに今回の偏差Eoに積分ゲインを乗算した値を蓄積した値である。積分項出力値N_Iは、作動油の実温度Tmoが目標温度Ttoよりも高い場合には偏差Eoが正の値となるため正側に蓄積され、作動油の実温度Tmoが目標温度Ttoよりも低い場合には偏差Eoが負の値となるため負側に蓄積される。そして、
図5に示す処理により、積分項出力値N_Iは積分項下限値N_Iminを下回らないように制限される。
【0029】
なお、上述したステップは一例であって、上記ステップの少なくとも一部を削除又は変更してもよいし、上記以外のステップを追加してもよい。また、上記ステップの少なくとも一部の順番を変更してもよいし、複数のステップが単一のステップにまとめられてもよい。
【0030】
次に、車体コントローラ51が前述のステップS4において実行する、積分項下限値N_Iminの決定方法について
図6を用いて説明する。
図6に示すように、車体コントローラ51は、大気温及び車体負荷に応じて積分項下限値N_Iminを制御する。
【0031】
具体的には、車体コントローラ51は、テーブルT1に基づいて大気温に応じた積分項下限値N_Imint1を決定する。テーブルT1は、大気温センサ71により検出される大気温を入力として、大気温に応じた積分項下限値N_Imint1を出力とする。積分項下限値N_Iminは、比例積分制御における下限値を設定するため、冷却ファン77の回転数を一定以上下げることができなくなる。このため、積分項下限値N_Iminの値が大きいほど冷却ファン77の立ち上がりが早くなりオーバーシュートを防止し易くなるが、冷却ファン77の回転数が平均して高くなるために燃費が悪化する可能性があり、小さい場合にはその逆の現象が起きやすい。例えば、大気温が低くなるにつれて、作動油の目標温度Ttoでのヒートバランスの成立に必要な風量も小さくなるが、積分項下限値N_Iminの設定によって必要以上に大きな風量しか出せなくなり、過冷却となって燃費に悪影響を与える恐れがある。そのため、過冷却を回避するために、テーブルT1では、大気温ごとに必要な風量を事前に算出あるいは実験的に確認し、その大気温における作動油の目標温度Ttoでのヒートバランスの成立に必要な回転数とできるように、大気温ごとの積分項下限値N_Imint1が設定されている。
【0032】
また、車体コントローラ51は、テーブルT2に基づいて車体負荷に応じた積分項下限値N_Imint2を決定する。テーブルT2は、例えばポンプ流量・吐出圧センサ62sにより検出されるポンプ流量及び吐出圧をもとに計算されたポンプ出力を入力として、ポンプ出力に応じた積分項下限値N_Imint2を出力とする。車体負荷が小さい場合、つまり作動油への入熱が小さい場合には実温度Tmoの上昇速度は遅いため、車体負荷が大きな場合と比べて冷却ファン77の回転数の立ち上がりが遅れても大きなオーバーシュートは起こらない。そのため、テーブルT2では、ポンプ出力が小さい場合(入熱が小さい場合)には、冷却ファン77の動き出しを遅らせることで燃費の悪化を防止できるように、積分項下限値N_Imint2が小さくなるように設定されている。
【0033】
車体コントローラ51は、ステップS8にて、大気温により決定される積分項下限値N_Imint1または車体負荷により決定される積分項下限値N_Imint2のうち、いずれか大きい方の下限値を選択し、積分項下限値N_Iminに決定する。これにより、車体に不具合を与える可能性のあるオーバーシュートを防ぐことを最優先とすることができる。
【0034】
<実施形態の効果>
本実施形態により得られる効果について、
図7及び
図8を用いて説明する。
図7は積分項出力値の制限を行わない比較例におけるタイムチャート、
図8は積分項出力値の制限を行う本実施形態におけるタイムチャートである。各タイムチャートでは、横軸に時間、縦軸に流体への入熱、流体の実温度及び目標温度、比例項出力値及び積分項出力値、冷却ファン77の実回転数及び目標回転数等が示されている。
【0035】
前述のように、積分器S2は、流体の実温度と目標温度との偏差に積分ゲインを乗算した値と前回の積分項出力値を加算する。このため、
図7に示すように、流体の実温度が目標温度に到達しない状態が長く続くほど、積分項出力値の負側への蓄積が次第に大きくなる。このとき、冷却ファン77の実回転数は、冷却ファン自体のハード・ソフト上の制限により最低回転数が定められているため、
図7に示すように最低回転数を維持することとなる。この状態から流体への入熱が増大して流体の実温度が上昇を開始し(時間T1)、実温度が目標温度を超えると(時間T2)、積分器S2は積分項出力値の正側への蓄積を開始する。目標回転数が最低回転数を超えた時点で冷却ファン77の実回転数が上昇し始め(時間T3)、その後は比例積分制御によって、流体の実温度が目標温度に維持されるように冷却ファン77の回転数が制御される。
【0036】
図7に示す比較例の場合、積分項出力値の負側への蓄積が大きいことに起因して、流体の実温度が目標温度を超えてから冷却ファン77の実回転数が上昇し始めるまでのタイムラグ(時間T2と時間T3の間の時間)が長くなり、その結果、流体の実温度が目標温度を大きく超えて上昇してしまうオーバーシュート現象が発生している。
【0037】
これに対し、本実施形態では、
図8に示すように、積分項出力値が積分項下限値以上に制限される。これにより、流体の実温度が目標温度に到達しない状態が長く続いた場合でも、積分項出力値の負側への蓄積は増大しない。その結果、例えば
図8に示す例では、冷却ファン77の目標回転数及び実回転数は最低回転数を下回らずに維持されている。この状態から流体への入熱が増大して流体の実温度が上昇を開始すると(時間T1)、比例項出力値の増加により冷却ファン77の目標回転数及び実回転数も上昇を開始する。実温度が目標温度を超えると(時間T2)、積分器S2は積分項出力値の正側への蓄積を開始し、冷却ファン77の目標回転数及び実回転数はさらに上昇する。すなわち、積分項出力値の負側への蓄積の制限により積分項出力値が積分項下限値に維持されている状態において、実温度が目標温度を上回った場合に積分項出力値の正側への蓄積が開始される。その後は比例積分制御によって、流体の実温度が目標温度に維持されるように冷却ファン77の回転数が制御される。
【0038】
図8に示す本実施形態の場合、流体の実温度が上昇を開始すると直ちに冷却ファン77の実回転数が上昇しており、流体の実温度が目標温度を超えてから冷却ファン77の実回転数が上昇し始めるまでのタイムラグが無い。したがって、流体への入熱状況によらずに流体温度の過大なオーバーシュートを抑制することができる。
【0039】
なお、積分項出力値の負側への蓄積の制限幅が小さいほど(すなわち積分項下限値を大きくするほど)前述のタイムラグを小さくすることができる。しかしながら、積分項下限値は実質的に冷却ファン77の回転数の制御上の下限値を設定するものである。このため、制限幅が小さすぎる場合には、過冷却状態となっている場合でも冷却ファン77の回転数を適切な回転数まで低下できないという現象が発生し、燃費の悪化を招く可能性がある。そこで本実施形態においては、前述のように大気温と車体負荷をモニタリングして積分項下限値を制御することにより、車体環境・状態に応じて適切な制限幅とすることができる。その結果、不必要な燃費の悪化を防ぎつつ過大なオーバーシュートを防止することができる。
【0040】
また、本実施形態では特に、大気温により決定される積分項下限値または車体負荷により決定される積分項下限値のうちいずれか大きい方の下限値を用いて積分項出力値を制限する。これにより、車体に不具合を与える可能性のあるオーバーシュートを防ぐことを最優先とすることができる。
【0041】
また、本実施形態では特に、車体コントローラ51は、積分項出力値の負側への蓄積の制限により積分項出力値が積分項下限値に維持されている状態において、実温度が目標温度を上回った場合に積分項出力値の正側への蓄積を開始する。これにより、流体の実温度が目標温度を超えた場合に直ちに冷却ファン77の実回転数を上昇させることができるので、流体温度の過大なオーバーシュートを効果的に抑制できる。
【0042】
<変形例>
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では大気温及び車体負荷の両方に応じて積分項下限値を制御する場合について説明したが、大気温又は車体負荷のいずれか一方に応じて積分項下限値を制御してもよい。この場合、前述したステップS8の処理は不要となる。
【0044】
また上記実施形態では、作動油の実温度と目標温度に基づいて冷却ファン77の目標回転数を設定する例を記載したが、これに限られない。作動油以外の流体、例えばエンジン冷却水又はインテークエアの実温度と目標温度に基づいて冷却ファン77の目標回転数を設定してもよい。その場合にも、上記実施形態と同様の手法が適用可能である。
【0045】
また上記実施形態では、1つの冷却ファン77で複数の熱交換器(オイルクーラ73、ラジエータ74、及びインタークーラ75)を冷却する例を記載したが、これに限られない。例えば、1つの冷却ファン77で単体の熱交換器を冷却する場合や、複数の熱交換器がそれぞれ別個の冷却ファンで冷却される場合にも、上記実施形態と同様の手法が適用可能である。
【0046】
また上記実施形態では、積分器の離散化に後進オイラー法を用いたものを記載したが、例えば前進オイラー法などその他の離散化手法を用いてもよい。
【0047】
また上記実施形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、本発明の適用対象はこれに限るものではない。例えば、油圧クレーン、ホイールローダ等、エンジンの回転数に関わらずに冷却ファンの回転数を設定可能な他の建設機械にも広く適用することができる。
【0048】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0049】
また、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上記した内容に限定されるものではない。すなわち、本発明によって、上述されていない課題を解決したり、上述されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【符号の説明】
【0050】
1 油圧ショベル(建設機械の一例)
51 車体コントローラ(コントローラの一例)
62s ポンプ流量・吐出圧センサ(車体負荷検出器の一例)
71 大気温センサ(大気温検出器の一例)
73 オイルクーラ(熱交換器の一例)
73s 作動油温センサ(温度検出器の一例)
74 ラジエータ(熱交換器の一例)
74s エンジン冷却水温センサ(温度検出器の一例)
75 インタークーラ(熱交換器の一例)
75s インテークエア温度センサ(温度検出器の一例)
77 冷却ファン
N_I 積分項出力値
N_Imin 積分項下限値(所定の下限値の一例)
N_Imint1 積分項下限値
N_Imint2 積分項下限値
N_t 目標回転数
S1 比例器
S2 積分器
Tmo 実温度
Tto 目標温度