(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025054536
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20250331BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20250331BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
C12G3/06
A23L2/00 B
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163624
(22)【出願日】2023-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】樋浦 竹彦
(72)【発明者】
【氏名】野畑 順子
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115MA03
4B117LC02
4B117LK06
4B117LL01
(57)【要約】
【課題】ウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気が付与されたウイスキー風味の飲料およびその製造方法の提供。
【解決手段】ウイスキー風味の飲料に、2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカン(1,1-ジエトキシエタンを除く)を組み合わせて配合し、アルデヒド(アセトアルデヒドを除く)およびエトキシアルカンの含有量をそれぞれ特定の範囲に調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有するウイスキー風味の飲料であって、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記2種以上のアルデヒドの総含有量が、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmであり、
前記エトキシアルカンの含有量が、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmである、前記飲料。
【請求項2】
前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、
前記飲料が2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有し、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記飲料における前記2種以上のアルデヒドの総含有量を、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmに調整する工程、および
前記飲料における前記エトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmに調整する工程
を含む、前記製造方法。
【請求項6】
前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
ウイスキー風味の飲料にマンゴー香を付与する方法であって、
前記飲料が2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有し、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記飲料における前記2種以上のアルデヒドの総含有量を、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmに調整する工程、および
前記飲料における前記エトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmに調整する工程
を含む、前記方法。
【請求項10】
前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイスキーには様々な香気成分が含まれることが知られており、その種類は1000種とも2000種とも言われている。そのような香気成分は、大別すると、原料に由来したり、ウイスキーの製造工程に由来したりすることが近年分かってきており、ウイスキー製造者では、それぞれが求める香気や市場の要望に応じてウイスキーに特定の香気を付与して、ウイスキーに付加価値を与える試みが行われている。
【0003】
ウイスキーにおける香気としては、リンゴ、オレンジ、洋ナシ、パイナップル等の果実様の香気が報告されており(例えば、非特許文献1)、例えば、ウイスキー製造の発酵や蒸留の過程において生成するγ-デカラクトンやγ-ドデカラクトンが甘いピーチ様の香気を有することが報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
近年、ウイスキーに対する香気の付与が盛んに行われており、ウイスキーとの相性の観点から、南国果実様の強い香気をウイスキーに付与することが特に望まれている。そして、南国果実を想起させる香気成分としては、これまでに短鎖のエステル類や硫黄系成分等が報告されている(例えば、非特許文献3および4)。
【0005】
しかしながら、ウイスキーにおいて短鎖のエステル類や硫黄系成分によってマンゴー等のウルシ科の南国果実様の香気が実現されたとの報告はない。実際、マンゴー様の香気を呈するウイスキーやウイスキー風味の飲料はほとんど存在しておらず、特にウイスキーの風味を損なうことなくウイスキーやウイスキー風味の飲料に意図的にマンゴー様の香気の付与することは実質的に実現していないのが現状と言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.-Y. Monica Lee et al., Origins of Flavour in Whiskies and a Revised Flavour Wheel: a Review, Journal of The Institute of Brewing, 2001, 107(5), pp. 287-313
【非特許文献2】鰐川彰「ウイスキー醸造における乳酸菌の役割」、生物工学 第90巻、2012年、第6号、第324~328頁
【非特許文献3】Hill E. A. et al., Straying from the Crowd: Novel Yeasts for New Make. In: Worldwide Distilled Spirits Conference, 2017, Chapter 21, pp 103-107
【非特許文献4】Rowe D. et al., More Fizz for Your Buck: High-impact Aroma Chemicals, Perfumer & Flavourist magazine, 2000, 25(5), 1-19
【0007】
このような状況下、ウイスキーをはじめとするウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することが、技術的な課題として存在する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気が付与されたウイスキー風味の飲料およびその製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、ウイスキー風味の飲料に、2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカン(1,1-ジエトキシエタンを除く)を組み合わせて配合し、アルデヒド(アセトアルデヒドを除く)およびエトキシアルカン(1,1-ジエトキシエタンを除く)の含有量をそれぞれ特定の範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有するウイスキー風味の飲料であって、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記2種以上のアルデヒドの総含有量が、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmであり、
前記エトキシアルカンの含有量が、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmである、前記飲料。
[2]前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、[1]に記載の飲料。
[3]前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、[1]または[2]に記載の飲料。
[4]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の飲料。
[5]マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、
前記飲料が2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有し、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記飲料における前記2種以上のアルデヒドの総含有量を、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmに調整する工程、および
前記飲料における前記エトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmに調整する工程
を含む、前記製造方法。
[6]前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、[5]に記載の製造方法。
[7]前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、[5]または[6]に記載の製造方法。
[8]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、[5]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]ウイスキー風味の飲料にマンゴー香を付与する方法であって、
前記飲料が2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有し、
前記2種以上のアルデヒドがいずれもアセトアルデヒドではなく、
前記1種以上のエトキシアルカンが1,1-ジエトキシエタンではなく、
前記飲料における前記2種以上のアルデヒドの総含有量を、アルコール100%換算で、前記飲料の総質量に対して8~100ppmに調整する工程、および
前記飲料における前記エトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.5~50ppmに調整する工程
を含む、前記方法。
[10]前記アルデヒドが3~10個の炭素原子を有する、[9]に記載の方法。
[11]前記アルデヒドが、プロパナール、2-メチルプロパナール、3-エトキシプロパナール、ブタナール、2-メチルブタナ―ル、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナールおよびヘプタナールからなる群から選択される、[9]または[10]に記載の方法。
[12]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1,1-ジエトキシヘキサンおよび1,1-ジエトキシヘプタンからなる群から選択される、[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
【0011】
本発明によれば、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することが可能となる。特に、本発明によれば、ウイスキー風味の飲料にマンゴー以外の果実様の香り(例えば、オレンジ様、ピーチ様、アップル様の香気等)が付与されるのを抑制しつつ、マンゴー様の香気を特異的に付与することが可能となる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本明細書において、「マンゴー様の香気」とは、ウルシ科のマンゴー属のMangifera indicaに分類される果実や果汁を想起させるような香気をいう。
【0013】
本明細書において、ウイスキー風味の飲料に含有されるアルデヒド、エトキシアルカンおよびその他の成分の濃度は、特段の言及がない限り、いずれも当該成分を含有するウイスキー風味の飲料のエタノールの濃度(アルコール度数)を100(v/v%)に換算した場合の濃度を表す。
【0014】
本発明において、「ppm」とは百万分率を表し、「mg/L」と同義である。すなわち、1ppmは1mg/Lに相当する。
【0015】
[マンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料]
本発明の一つの態様によれば、アセトアルデヒドを除く2種以上のアルデヒド、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンをそれぞれ特定の含有量で含有するウイスキー風味の飲料であって、ウイスキーの風味が損なわれることなくマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料(以下、単に「ウイスキー風味の飲料」または「本発明の飲料」ともいう。)が提供される。一般に、マンゴーの香気の主体となるのはテルペン類であることが知られているが、本発明によれば、上述したようにアセトアルデヒドを除く2種以上のアルデヒドと特定のエトキシアルカンとを組み合わせることによって、そのようなテルペン類を実質的に含まないにもかかわらずマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料を提供することができる。
【0016】
本明細書において「ウイスキー」とは、日本国の酒税法において定義されるウイスキーをいう。また、本明細書において「ウイスキー風味の飲料」とは、ウイスキーの風味を有する飲料であれば特に限定されず、ウイスキーそのもの、ウイスキーの香味成分が添加されたことによりウイスキーの風味が付与された飲料、製造工程でウイスキーの香味成分が生成したことによりウイスキーの風味を呈する飲料等であってもよく、これらの少なくとも1種を含有することによりウイスキーの風味を呈する飲料等であってもよい。ウイスキー風味を呈する飲料としては、例えば、ハイボール、カクテル(例えば、ウイスキー・コーク等)等が挙げられる。
【0017】
<アルデヒド>
本発明の飲料は、アセトアルデヒドを除く2種以上のアルデヒドを特定の含有量(濃度)で含有する。具体的には、本発明の飲料におけるアセトアルデヒド以外の2種以上のアルデヒドの総含有量(総濃度)は、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して8~100ppmであり、好ましくは10~70ppm、より好ましくは12~50ppm、より一層好ましくは15~30ppmである。ウイスキー風味の飲料において、アセトアルデヒド以外の2種以上のアルデヒドの総濃度を上述した範囲に調整し、後述するエトキシアルカンの濃度を特定の範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。なお、本発明の飲料は、上述したようにアセトアルデヒドを除く2種以上のアルデヒドを特定の含有量で含有するが、これは、本発明の飲料におけるアセトアルデヒドの含有を除外することを意図するものではない。すなわち、本発明の飲料は、アセトアルデヒドを除く2種以上のアルデヒドを特定の含有量で含有する限り、アセトアルデヒドを含有していてもよい。
【0018】
アルデヒドの種類は、飲料に通常含有され得るアルデヒドである限り特に限定されず、例えば、3~10個の炭素原子を有するアルデヒドが用いられる。具体的なアルデヒドとしては、例えば、プロパナール(プロピオンアルデヒド)、2-メチルプロパナール(イソブチルアルデヒド)、3-エトキシプロパナール(3-エトキシプロピオンアルデヒド)、ブタナール(ブチルアルデヒド)、2-メチルブタナ―ル(2-メチルブチルアルデヒド)、3-メチルブタナール(3-メチルブチルアルデヒド)、ペンタナール(n-バレルアルデヒド)、ヘキサナール(ヘキシルアルデヒド)、ヘプタナール(エナントアルデヒド)等が挙げられる。本発明の飲料は、好ましくはこれらのアルデヒドを2種以上含有する。
【0019】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、アルデヒドとして2-メチルプロパナールおよび3-メチルブタナールを含有する。この場合、本発明の飲料におけるこれらのアルデヒドの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができるが、好ましくは2-メチルプロパナールの濃度は6~15ppm、3-メチルブタナールの濃度は2~3ppmに設定される。
【0020】
アルデヒドは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0021】
ウイスキー風味の飲料におけるアルデヒドの濃度を測定する方法は、溶液中のアルデヒドの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Smaro Kokkinidou, Devin G. Peterson, Identification of compounds that contribute to trigeminal burn in aqueous ethanol solutions., Food Chemistry 211 (2016) 757-762の“2.5. Quantification of carbonyl species - dynamic headspace GC/MSscan and SIM”の項に記載の方法等により測定することができる。
【0022】
<エトキシアルカン>
本発明の飲料は、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカン(1,1-ジエトキシエタンを除く)を特定の濃度で含有する。なお、本明細書において、「ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカン」や、単に「エトキシアルカン」等と記載する場合、特段の指定がない限り1,1-ジエトキシエタンを除くエトキシアルカンを意味する。ただし、これは、本発明の飲料における1,1-ジエトキシエタンの含有を除外することを意図するものではない。すなわち、本発明の飲料は、1,1-ジエトキシエタンを除くジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを特定の含有量で含有する限り、1,1-ジエトキシエタンを含有していてもよい。
具体的には、本発明の飲料におけるエトキシアルカンの濃度は、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して0.5~50ppmであり、好ましくは0.7~30ppm、より好ましくは1~20ppm、より一層好ましくは1~10ppmである。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のエトキシアルカンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のエトキシアルカンの合計の濃度である。
【0023】
エトキシアルカンの種類はジエトキシアルカンまたはトリエトキシアルカンである限り特に限定されず、例えば、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシヘキサン、1,1-ジエトキシヘプタン等のジエトキシアルカン、1,1,3-トリエトキシプロパン等のトリエトキシアルカンが挙げられる。
【0024】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、エトキシアルカンとして1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンを含有する。この場合、本発明の飲料における1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができるが、好ましくは0.5~5ppmである。
【0025】
エトキシアルカンは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0026】
ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を測定する方法は、溶液中のエトキシアルカンの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Mateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法等により測定することができる。
【0027】
<その他の成分>
本発明の飲料は、上述したアルデヒドおよびエトキシアルカン以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、飲料に通常含有され得る成分である限り特に限定されず、例えば、脂肪酸エステル、ケトン、第2級直鎖状アルコール等が挙げられる。
【0028】
脂肪酸エステルとしては、例えば、脂肪酸エチルエステル、脂肪酸イソアミルが挙げられる。脂肪酸エチルエステルとしては、例えば、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル等が挙げられる。また、脂肪酸イソアミルとしては、例えば、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミル等が挙げられる。本発明の飲料は、1種の脂肪酸エステルを単独で含有していてもよく、2種以上の脂肪酸エステルを組み合わせて含有していてもよい。
【0029】
本発明の飲料における脂肪酸エステルの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、例えば、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して50~500ppm、60~400ppm、80~300ppm、100~200ppm等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の脂肪酸エステルを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の脂肪酸エステルの合計の濃度である。
【0030】
脂肪酸エステルは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0031】
ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を測定する方法は、溶液中の脂肪酸エステルの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Mateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法等により測定することができる。
【0032】
ケトンとしては、例えば、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ウンデカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オン等が挙げられる。本発明の飲料は、1種のケトンを単独で含有していてもよく、2種以上のケトンを組み合わせて含有していてもよいが、好ましくは2種以上のケトンを組み合わせて含有する。
【0033】
本発明の飲料におけるケトンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、例えば、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して0.1~5ppm、0.2~3ppm、0.3~2ppm、0.3~1.5ppm等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のケトンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のケトンの合計の濃度である。
【0034】
ケトンは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0035】
ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を測定する方法は、溶液中のケトンの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Vivian A watts and Christian E Butzke, Analysis of microvolatiles in brandy: relationship between methylketone concentration and Cognac age, Journal of the Science of Food and Agriculture, 83, pp. 1143-1149の“MATERIALS AND METHODS”の項に記載の方法等により測定することができる。
【0036】
第2級直鎖状アルコールとしては、例えば、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ウンデカノール、2-ドデカノール等が挙げられる。本発明の飲料は、1種の第2級直鎖状アルコールを単独で含有していてもよく、2種以上の第2級直鎖状アルコールを組み合わせて含有していてもよい。
【0037】
本発明の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、例えば、0.01~5ppm、0.05~3ppm、0.07~1ppm等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の第2級直鎖状アルコールを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の第2級直鎖状アルコールの合計の濃度である。
【0038】
第2級直鎖状アルコールは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0039】
ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を測定する方法は、溶液中の第2級直鎖状アルコールの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Jiaxin Hong et al., Unraveling variation on the profile aroma compounds of strong aroma type of Baijiu in different regions by molecular matrix analysis and olfactory analysis, RSC Advances, 11, 2021, pp. 33511-33521の“2.3 Identification of aroma compounds”の項に記載の方法等により測定することができる。
【0040】
本発明の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、本発明の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【0041】
[マンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法]
本発明の別の態様によれば、2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンを含有するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、ウイスキー風味の飲料が2種以上のアルデヒドおよびエトキシアルカンをそれぞれ特定の濃度で含有するように調整する工程を含む製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)が提供される。本発明の製造方法によれば、ウイスキーの風味が損なわれることなくマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料を製造することができる。
【0042】
本発明の製造方法においては、ウイスキー風味の飲料における2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)の総濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して8~100ppmに調整され、好ましくは10~70ppm、より好ましくは12~50ppm、より一層好ましくは15~30ppmに調整される。ウイスキー風味の飲料における2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)の総濃度を上述した範囲に調整し、さらにエトキシアルカンの濃度を後述する範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。なお、ウイスキー風味の飲料におけるアルデヒドの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0043】
ウイスキー風味の飲料におけるアルデヒドの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、アルデヒドをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、アルデヒドを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中にアルデヒドを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によってアルデヒドに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料におけるアルデヒドの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
ウイスキー風味の飲料に含有されるアルデヒドの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のアルデヒドとすることができる。
【0045】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、アルデヒドとして2-メチルプロパナールおよび3-メチルブタナールを含有する。この場合、ウイスキー風味の飲料におけるこれらのアルデヒドの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜調整することができるが、好ましくは2-メチルプロパナールの濃度は6~15ppm、3-メチルブタナールの濃度は2~3ppmに調整される。
【0046】
本発明の製造方法においては、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して0.5~50ppmに調整され、好ましくは0.7~30ppm、より好ましくは1~20ppm、より一層好ましくは1~10ppmに調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のエトキシアルカンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のエトキシアルカンの合計の濃度である。また、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0047】
ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、エトキシアルカンをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、エトキシアルカンを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中にエトキシアルカンを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によってエトキシアルカンに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ウイスキー風味の飲料に含有されるエトキシアルカンの種類はエトキシアルカンまたはトリエトキシアルカンである限り特に限定されず、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のエトキシアルカンとすることができる。
【0049】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、エトキシアルカンとして1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンを含有する。この場合、本発明の飲料における1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができるが、好ましくは0.5~5ppmに調整される。
【0050】
本発明の製造方法は、上述したアルデヒドの濃度を調整する工程およびエトキシアルカンの濃度を調整する工程に加えて、脂肪酸エステルの濃度を特定の範囲に調整する工程をさらに含んでもよい。この工程においては、脂肪酸エステルの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して、例えば、50~500ppm、60~400ppm、80~300ppm、100~200ppm等に調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の脂肪酸エステルを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の脂肪酸エステルの合計の濃度である。なお、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0051】
ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、脂肪酸エステルをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、脂肪酸エステルを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中に脂肪酸エステルを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によって脂肪酸エステルに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ウイスキー風味の飲料に含有される脂肪酸エステルの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の脂肪酸エステルとすることができる。
【0053】
本発明の製造方法は、上述したアルデヒドの濃度を調整する工程およびエトキシアルカンの濃度を調整する工程に加えて、ケトンの濃度を特定の範囲に調整する工程をさらに含んでもよい。この工程においては、ケトンの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して、例えば、0.1~5ppm、0.2~3ppm、0.3~2ppm、0.3~1.5ppm等に調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のケトンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のケトンの合計の濃度である。なお、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0054】
ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、ケトンをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、ケトンを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中にケトンを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によってケトンに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ウイスキー風味の飲料に含有されるケトンの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のケトンとすることができる。
【0056】
本発明の製造方法は、上述したアルデヒドの濃度を調整する工程およびエトキシアルカンの濃度を調整する工程に加えて、第2級直鎖状アルコールの濃度を特定の範囲に調整する工程を含んでもよい。この工程においては、第2級直鎖状アルコールの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して、例えば、0.01~5ppm、0.05~3ppm、0.07~1ppm等に調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の第2級直鎖状アルコールを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の第2級直鎖状アルコールの合計の濃度である。なお、ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0057】
ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、第2級直鎖状アルコールをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、第2級直鎖状アルコールを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中に第2級直鎖状アルコールを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によって第2級直鎖状アルコールに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
ウイスキー風味の飲料に含有される第2級直鎖状アルコールの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の第2級直鎖状アルコールとすることができる。
【0059】
本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料はアルコール飲料であってもノンアルコール飲料であってもよく、そのエタノールの濃度は0%超95%未満である。本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【0060】
[ウイスキー風味の飲料にマンゴー様の香気を付与する方法]
本発明のさらに別の態様によれば、ウイスキー風味の飲料にマンゴー様の香気を付与する方法であって、ウイスキー風味の飲料において、2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)、ならびにジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される1種以上のエトキシアルカンをそれぞれ特定の濃度で含有するように調整する工程を含む方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)が提供される。本発明の方法によれば、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。
【0061】
本発明の方法において、ウイスキー風味の飲料における2種以上のアルデヒド(アセトアルデヒドを除く)の濃度を調整する工程、ならびにウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を調整する工程は、いずれも上述した本発明の製造方法と同様にして行うことができる。
【0062】
一つの好ましい実施形態において、本発明の方法は、ウイスキー風味の飲料における2種以上のアルデヒドおよびエトキシアルカンそれぞれの濃度を調整する工程に加えて、脂肪酸エステル、ケトンおよび/または第2級直鎖状アルコールの濃度を調整する工程を含んでもよい。本発明の方法において、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を調整する工程、ケトンの濃度を調整する工程、および第2級直鎖状アルコールの濃度を調整する工程は、いずれも上述した本発明の製造方法と同様にして行うことができる。
【0063】
本発明の方法におけるウイスキー風味の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の方法におけるウイスキー風味の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【実施例0064】
以下の実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、各成分の濃度(ppm)は、当該成分を含有する飲料のエタノールの濃度(アルコール度数)を100(v/v%)に換算した場合の濃度を表す。
【0065】
実施例1:マンゴー香を呈する物質の検討1
一般的にフルーティな香り、甘い香り等と表現される香気を有する各種成分により、ウイスキー風味の飲料にマンゴー香が付与されるかどうかの検討を、以下の手順に従って行った。
まず、ウイスキー風味の飲料として、特徴的な香気が弱く、ウイスキーとしてプレーンな香気を呈するアルコール度数43度の市販のウイスキーを準備した。次いで、準備したウイスキーをイオン交換水または蒸留水で希釈してアルコール度数20度に調整して、飲料モデルを作製した。飲料モデル中のアルデヒドの濃度を、Smaro Kokkinidou, Devin G. Peterson, Identification of compounds that contribute to trigeminal burn in aqueous ethanol solutions., Food Chemistry 211 (2016) 757-762の“2.5. Quantification of carbonyl species - dynamic headspace GC/MS scan and SIM”の項に記載の方法等により測定したところ、
2-メチルプロパナール:5.83ppm
3-メチルブタナール:1.84ppm
であった。
【0066】
また、飲料モデル中のエトキシアルカンの濃度をMateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法等により測定したところ、
1,1-ジエトキシエタン:18.65ppm
1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン:0.39ppm
であった。
【0067】
飲料モデルに、アルデヒドである2-メチルプロパナールおよび/または3-メチルブタナールを添加して、各アルデヒドの濃度を下記の表1に示すように調整した試験区1-2~1-3のウイスキー風味の飲料を得た。なお、試験区1-1はいずれのアルデヒドも添加されていない上述した飲料モデル(対照)である。
【0068】
【0069】
試験区1-1~1-3の各ウイスキー風味の飲料のマンゴー香、ピーチ香、オレンジ香およびアップル香について官能評価試験を行った。官能評価試験では、マンゴー香、ピーチ香、オレンジ香およびアップル香を利き分けるトレーニングおよびテストを行った専門パネル16名により、各ウイスキー風味の飲料の上記の各香りの強さの評価を行った。具体的には、容量120ml程度のチューリップグラスに各試験区のウイスキー風味の飲料を30ml注ぎ、カバーガラスで蓋をすることで香気の散逸を防ぎながら、各試験区のウイスキー風味の飲料を各パネル間で交換して評価を行った。なお、官能評価試験は、それぞれ個別のブースにて行い、ウイスキー風味の飲料の色合いによる評価の先入観を防ぐため、暗室内でウイスキー風味の飲料に赤色ライトを照らし、ウイスキー風味の飲料の色合いが分からない状態で行った。各香りのスタンダードとして、市販のウイスキーに市販の各香りの香料を特定の量(専門パネルが十分に各香りを感じるレベル)で添加して得られた飲料の香りを「Strong」とし、同じウイスキーに同じ各香りを上記の添加量の半分の量で添加して得られた飲料の香りを「Medium」とし、同じウイスキーそのもの香りを「Weak」として各専門パネルに記憶させた。飲食品分野で一般的に用いられる質的データ分析(QDA:Qualitative Data Analysis)の評価を参考にして、各ウイスキー風味の飲料における各香りの強さについて、スコアシートを用いてスコア付けを行った。スコアシートとしては、評価項目ごとに15cmの長さの横線(評価軸)が引かれており、それに直交する1cmの縦線が、横線の左端から1.5cm、7.5cmおよび13.5cmの位置にそれぞれ引かれているスコアシートを用いた。スコアシートは、評価軸の左端を0点、右端を100点とし、1.5cm、7.5cmおよび13.5の縦線をそれぞれ「Weak(10点)」、「Medium(50点)」および「Strong(90点)」とした。上記の手順で記憶した各香りのスタンダードに基づいて、各試験区のウイスキー風味の飲料の各香りの強さを、評価軸上に縦線で記入することによりスコア付けを行った。スコア付け完了後、評価軸に記入された縦線の評価軸左端からの長さを測定し、測定値(cm)を全長(15cm)で割り、得られた値に100を乗じた値をウイスキー風味の飲料の各香りの強さのスコアとした。スコア付けは専門パネル1人当たり2回行い、その平均値を該当する専門パネルのスコアとし、16名の専門パネルのスコアの平均値をウイスキー風味の飲料の各香りの強さの最終的なスコアとした。結果を下記の表2に示す。なお、表2中、スコアの数値の右に示すアルファベットは、同一の香りで比較した場合の有意差に関するグループを表しており、同じアルファベットを有する2つのスコアは有意差がないことを示し、異なるアルファベットを有する2つのスコアは有意差がある(すなわち、p<0.05である)ことを示す。例えば、表2中、「マンゴー香」に関して試験区1-1(対照)と試験区1-2とは同じグループ「A」であるため、両者は「マンゴー香」に関して有意差がないことを示す。一方、試験区1-3はグループ「B」であるため、試験区1-1(対照)および試験区1-2と試験区1-3とは「マンゴー香」に関して有意差があることを示す。
【0070】
【0071】
表2に示す結果から、1種のアルデヒドが添加された試験区1-2の飲料モデルでは、アルデヒドが添加されていない試験区1-1(対照)の飲料モデルと比較して、マンゴー香の有意な増減が認められなかったことが分かる。一方、2種のアルデヒドが添加された試験区1-3の飲料モデルでは、アルデヒドが添加されていない試験区1-1(対照)の飲料モデルと比較して、マンゴー香の有意な増大が認められたことが分かる。
【0072】
また、表2に示す結果から、試験区1-2および1-3のいずれの飲料モデルでも、試験区1-1(対照)の飲料モデルと比較して、ピーチ香、オレンジ香およびアップル香のいずれも有意な増減が認められなかったことが分かる。
【0073】
これらの結果は、アルコール飲料に2種のアルデヒドを添加することにより、マンゴー香を特異的に増大させることができることを示唆するものであると言える。
【0074】
実施例2:マンゴー香を呈する物質の検討2
一般的にフルーティな香り、甘い香り等と表現される香気を有する各種成分により、ウイスキー風味の飲料にマンゴー香が付与されるかどうかの検討を、以下の手順に従って行った。
【0075】
ウイスキー風味の飲料として、実施例1で用いたのと同じウイスキーを用いて、実施例1と同様の方法により飲料モデルを作製し、試験区2-1(対照)のウイスキー風味の飲料とした。飲料モデル中のアルデヒドおよびエトキシアルカンの濃度をそれぞれ実施例1と同様の方法により測定した。飲料モデルに、各種のアルデヒドおよび/またはエトキシアルカンをそれぞれ添加して、各香気成分の濃度を下記の表3に示すように調整した試験区2-2~2-7のウイスキー風味の飲料を得た。
【0076】
【0077】
試験区2-1~2-7の各ウイスキー風味の飲料のマンゴー香、ピーチ香、オレンジ香およびアップル香について官能評価試験を行った。官能評価試験は上述した実施例1の方法と同様の方法により行った。結果を下記の表4に示す。
【0078】
【0079】
表4に示す結果から、1種のアルデヒドが添加された試験区2-2および2-3の飲料モデル、1種のエトキシアルカンが添加された試験区2-4の飲料モデル、2種のアルデヒドが添加された試験区2-5の飲料モデル、ならびに1種のアルデヒドおよび1種のエトキシアルカンが添加された試験区2-6の飲料モデルでは、アルデヒドおよびエトキシアルカンのいずれも添加されていない試験区2-1(対照)の飲料モデルと比較して、マンゴー香の有意な増減が認められなかったことが分かる。一方、2種のアルデヒドおよび1種のエトキシアルカンが添加された試験区2-7の飲料モデルでは、アルデヒドおよびエトキシアルカンのいずれも添加されていない試験区2-1(対照)の飲料モデルと比較して、マンゴー香の有意な増大が認められたことが分かる。
【0080】
また、表4に示す結果から、試験区2-2~2-7のいずれの飲料モデルでも、試験区2-1(対照)の飲料モデルと比較して、ピーチ香、オレンジ香およびアップル香のいずれも有意な増減が認められなかったことが分かる。
【0081】
これらの結果は、アルコール飲料に2種のアルデヒドおよび1種のエトキシアルカンを添加することにより、マンゴー香を特異的に増大させることができることを示唆するものであると言える。