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2025-5457線路空間の計測方法、及び、線路空間の計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005457
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】線路空間の計測方法、及び、線路空間の計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/245 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01B11/245 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105583
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】592145268
【氏名又は名称】JR東日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】小林 三昭
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 研一
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB12
2F065CC35
2F065FF01
2F065FF05
2F065FF42
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065KK01
2F065MM07
2F065PP02
2F065QQ03
2F065QQ24
2F065QQ38
(57)【要約】
【課題】線路空間の計測方法及び計測装置において、鉄道車両が走行する線路空間の連続した3次元形状情報を高精度に取得することができるようにする。
【解決手段】線路空間の計測方法は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状をコンピュータにより計測する線路空間の計測方法であって、前記鉄道車両に設置された複数の撮像装置(左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13)により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する工程と、前記同一のタイミングで撮像された前記複数の画像に基づいて、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間(範囲sr)のうち、前記鉄道車両の進行方向における一部の空間(「距離r」から「距離r+速度V×撮影間隔S」まで)の3次元形状情報を取得する工程と、前記複数の撮像装置の撮像タイミングごとの前記3次元形状情報を重ね合わせる工程とを含む。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状をコンピュータにより計測する線路空間の計測方法であって、
前記鉄道車両に設置された複数の撮像装置により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する工程と、
前記同一のタイミングで撮像された前記複数の画像に基づいて、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間のうち、前記鉄道車両の進行方向における一部の空間の3次元形状情報を取得する工程と、
前記複数の撮像装置の撮像タイミングごとの前記3次元形状情報を重ね合わせる工程と
を含むことを特徴とする線路空間の計測方法。
【請求項2】
前記一部の空間は、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間のうち、前記複数の撮像装置側の空間端部から所定の距離で制限された空間である
ことを特徴とする請求項1記載の線路空間の計測方法。
【請求項3】
前記3次元形状情報を取得する工程では、前記3次元形状情報を前記鉄道車両の内部を基準とする第1座標系上の座標値で取得し、
前記3次元形状情報を重ね合わせる工程では、前記第1座標系の座標値を、測地系に対応した第2座標系の座標値に変換し、前記3次元形状情報を前記第2座標系の座標値に基づいて重ね合わせる
ことを特徴とする請求項1記載の線路空間の計測方法。
【請求項4】
鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状を計測する線路空間の計測装置であって、
前記鉄道車両に設置された複数の撮像装置により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する画像取得部と、
前記同一のタイミングで撮像された前記複数の画像に基づいて、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間のうち、前記鉄道車両の進行方向における一部の空間の3次元形状情報を取得する3次元形状情報取得部と、
前記複数の撮像装置の撮像タイミングごとの前記3次元形状情報を重ね合わせる重ね合わせ部と
を備えることを特徴とする線路空間の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状を計測する、線路空間の計測方法及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道事業者にとって、線路周辺の地物による建築限界への進入(支障)は、列車の安全に関わる重要な問題である。建築限界へ進入する地物の多くは、線路周辺の植生等であり、現地確認を高頻度で行えれば、事前の対策ができる場合が多い。ただし、営業車両の走行している線路空間に徒歩で立ち入りし、現地確認を高頻度で行うことは困難である。そのため、走行中の鉄道車両から線路空間の確認が行われてきた。従来、鉄道車両からの線路空間の確認方法として次の方法がある。
【0003】
(1)目視による方法
目視による方法は、列車の前頭に作業員が乗り込み、目視で列車周辺の確認を行う方法である。この方法は、作業員の熟練度に依存したり、注視箇所以外の見落としが発生したりするほか、客観的な数値を記録することができない。
【0004】
(2)レーザによる方法
レーザによる方法は、車載写真レーザ測量システムと呼ばれる装置での計測を行う方法である。この装置は、対象物を計測するためにレーザスポット光をミラー等でスキャンし、対象物までの距離と同時に、測定時の位置・姿勢をGNSS(Global Navigation Satellite System)及びIMU(Inertial Measurement Unit)で測定し、レーザスポット光での測定位置をx,y,zの座標を持つ3次元点群として測定する。この車載写真レーザ測量システムでの測定は、線路空間を連続して計測することができるので長距離の営業線全体を計測するのに適しており、高精度・一定精度での計測が可能である。ただし、計測範囲が広く線路敷地外の計測精度の低い点群データもノイズとして取得してしまうため、データ量が膨大となってしまう。また、車載写真レーザ測量システムが大型となることや、レーザ光は窓ガラスを透過しないことから、搭載できる車両は試験車や計測車などの限定された車両となり、一般の営業車両への搭載はできない。
【0005】
(3)画像による方法
画像による方法は、例えば前頭車の運転席の左右に2台のカメラを搭載し、ステレオ画像を取得し、ステレオマッチングにより視差を取得し、カメラからの距離計算を行う方法である(例えば、特許文献1参照)。また、車両走行中の2台のカメラを用いる方法として、道床バラストの隆起部を測定する方法(例えば、特許文献2参照)や、鉄道車両の建築限界の支障を検知する方法(例えば、非特許文献1参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-192108号公報
【特許文献2】特開2013-257258号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】林 政裕、有山 幸孝、中島 昇、川崎 恭平、清水 惇、三和 雅史、「画像解析を活用して鉄道の沿線検査業務を支援する「列車巡視支援システム」」、NEC技報、Vol.74、No.1、2021年8月、p.81-85
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、車両走行中のステレオカメラを用いて3次元復元を行う参考技術について説明する。この参考技術の方法は、図22に示すように、車両前頭に設置されたステレオカメラcl,crで多視点の画像を用いる方法であり、多視点として時刻t0,t1時のステレオカメラ位置の計4視点の画像cl(t0),cr(t0),cl(t1),cr(t1)を用いて3次元を復元する。
【0009】
このように撮像時間が異なる画像を用いて3次元復元を行う場合、車両前頭に設置されたステレオカメラcl,crの時刻t0における撮像対象Aまでの距離と時刻t1における撮像対象Aまでの距離との違い(t0時距離>t1時間距離)が考慮されない。そのため、この距離が長いほど大きくなる誤差が反映されないなど、撮像対象Aを高精度に検出することができない。
【0010】
本発明の目的は、鉄道車両が走行する線路空間の連続した3次元形状情報を高精度に取得することができる、線路空間の計測方法及び計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、線路空間の計測方法は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状をコンピュータにより計測する線路空間の計測方法であって、前記鉄道車両に設置された複数の撮像装置により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する工程と、前記同一のタイミングで撮像された前記複数の画像に基づいて、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間のうち、前記鉄道車両の進行方向における一部の空間の3次元形状情報を取得する工程と、前記複数の撮像装置の撮像タイミングごとの前記3次元形状情報を重ね合わせる工程とを含む。
【0012】
他の1つの態様では、線路空間の計測装置は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状を計測する線路空間の計測装置であって、前記鉄道車両に設置された複数の撮像装置により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する画像取得部と、前記同一のタイミングで撮像された前記複数の画像に基づいて、前記複数の撮像装置の画角に収まる前記線路空間のうち、前記鉄道車両の進行方向における一部の空間の3次元形状情報を取得する3次元形状情報取得部と、前記複数の撮像装置の撮像タイミングごとの前記3次元形状情報を重ね合わせる重ね合わせ部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
前記態様によれば、鉄道車両が走行する線路空間の連続した3次元形状情報を高精度に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態に係る線路空間の計測装置を説明するための機能ブロック図である。
図2】一実施の形態に係る線路空間の計測装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】一実施の形態における1つの撮像素子の撮像範囲の大きさを説明するための説明図である。
図4】一実施の形態における1つの撮像素子に対応する位置精度を説明するための説明図である。
図5】一実施の形態における中カメラによって撮像されるシミュレーション画像を示す図である。
図6】一実施の形態における各カメラの画角の算出方法を説明するための説明図である。
図7】一実施の形態における3つのカメラから画角に収まる最近傍までの距離の算出方法を説明するための説明図である。
図8】一実施の形態における3次元復元に必要な範囲までの距離の算出方法を説明するための説明図である。
図9】一実施の形態における距離制限後の3次元復元対象領域を説明するための説明図(その1)である。
図10】一実施の形態における距離制限後の3次元復元対象領域を説明するための説明図(その2)である。
図11】一実施の形態における座標変換を説明するための説明図である。
図12】一実施の形態における線路空間の一例を説明するための説明図である。
図13】一実施の形態に係る線路空間の計測方法を説明するためのフローチャートである。
図14】一実施の形態の第1変形例における車両搭載装置及び線路空間の計測装置を示す図である。
図15】一実施の形態の第1変形例における線路空間の計測方法を説明するためのフローチャートである。
図16】一実施の形態の第2変形例における線路空間の計測方法を説明するためのフローチャートである。
図17】一実施の形態の第2変形例における速度計算を説明するための説明図である。
図18】一実施の形態における線路空間の計測結果を説明するための説明図(その1)である。
図19】一実施の形態における線路空間の計測結果を説明するための説明図(その2)である。
図20】一実施の形態における線路空間の計測結果を説明するための説明図(その3)である。
図21】一実施の形態における線路空間の計測結果を説明するための説明図(その4)である。
図22】参考技術における3次元復元を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る、線路空間の計測方法及び計測装置について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る線路空間の計測装置1を説明するための機能ブロック図である。
【0017】
図1に示す線路空間の計測装置1は、画像取得部2と、3次元形状情報取得部3と、重ね合わせ部4と、位置姿勢情報取得部5とを備える。線路空間の計測装置1は、鉄道車両に設置されてもよいが、鉄道車両とは独立して設置される。また、図1に示す車両搭載装置10は、左カメラ11と、中カメラ12と、右カメラ13と、GNSS受信機14と、IMU15と、同期装置16とを備え、鉄道車両の例えば前頭に設置される。これらの線路空間の計測装置1と車両搭載装置10とを備えるシステムを、線路空間の計測システムと呼ぶことができる。
【0018】
線路空間の計測装置1の画像取得部2は、車両搭載装置10の左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する。この画像は、静止画として撮像されたものの全部又は一部であってもよいし、動画として撮像されたものから抽出された画像であってもよい。
【0019】
左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13は、鉄道車両に設置された複数の撮像装置の一例である。左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13は、鉄道車両の進行方向における位置が同一であるとよく、例えば、鉛直方向の高さが同じ高さの位置に等間隔で配置されている。
【0020】
ところで、エピポーラ幾何より、2つの画像のうちの片方の画像内の1点は必ずもう一方の画像内のエピポーラ直線上に存在する。ステレオマッチングは、画像内の1点の周囲の特徴を基に、エピポーラ直線上の点を推定する手法であるが、2つの撮像装置では位置算出時の誤差が大きくなる。そこで、位置算出時の誤差を小さくする観点から、撮像装置を3つ以上とすることが望ましい。
【0021】
なお、複数の撮像装置は、鉛直方向の高さが同じ高さである必要はなく、例えば、複数の撮像装置が鉛直方向に並べられていてもよいし、3つの撮像装置が三角形状をなすように配置されていてもよいし、制限されない。また、撮像装置は、鉄道車両の進行方向における前頭部において撮像を行うことが望ましいが、進行方向における後頭部において撮像を行ってもよい。
【0022】
3次元形状情報取得部3は、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13によって同一のタイミングで撮像された3つの画像に基づいて、後述する一部の空間(左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13の画角に収まる線路空間のうち、鉄道車両の進行方向における距離制限された一部の空間)の3次元形状情報を取得する。例えば、3次元形状情報取得部3は、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13によって同一のタイミングで撮像された3つの画像から、SfM(Structure from Motion)-MVS(Multi-View Stereo)技術を用いた多視点カメラ手法(多眼視カメラ手法)の任意の3次元復元用ソフトウェアを用いて、点群データとして取得可能な領域全体の点群データ(全体3次元形状情報の一例)を取得する。そして、3次元形状情報取得部3は、この全体の点群データから上記一部の空間の点群データ(3次元形状情報の一例)を抽出する。なお、点群データは、3次元座標を持った点データの集合と呼ぶことができる。
【0023】
重ね合わせ部4は、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13の撮像タイミングごとに取得された上記一部の空間の点群データを重ね合わせる。この重ね合わせ部4の処理については後述する。
【0024】
位置姿勢情報取得部5は、測位衛星システムのGNSS受信機14から走行中の鉄道車両の計測位置情報を取得する。また、位置姿勢情報取得部5は、例えば、IMU15のジャイロセンサから、鉄道車両の姿勢情報を取得する。なお、GNSS受信機14は、撮像装置(鉄道車両)の位置情報を取得する位置情報取得装置の一例であり、IMU15は、撮像装置(鉄道車両)の姿勢情報を取得する姿勢情報取得装置の一例である。各カメラ11,12,13(鉄道車両)の位置情報及び姿勢情報の取得は、任意の装置で行われればよい。
【0025】
車両搭載装置10の同期装置16は、各カメラ11,12,13、GNSS受信機14、及びIMU15に同期信号を送る。例えば、同期装置16は、所定のタイミングで各カメラ11,12,13に撮像指示を出し、その撮像タイミングでGNSS受信機14の位置情報受信やIMU15の姿勢情報取得を行わせるか、或いは撮像タイミング(同期信号)に紐づけた位置情報及び姿勢情報を位置姿勢情報取得部5に取得させる。
【0026】
図2は、線路空間の計測装置1のハードウェア構成例を示す図である。
【0027】
図2に示すコンピュータ20は、プロセッサ21と、メモリ22と、補助記憶装置23と、入力装置24と、出力装置25と、可搬記録媒体28を駆動する可搬記録媒体駆動装置26と、バス27と、通信装置29とを備える。補助記憶装置23及び可搬記録媒体28は、それぞれプログラムを記録した非一過性のコンピュータ読取可能記録媒体の一例である。
【0028】
プロセッサ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む1つ以上の任意の処理回路である。プロセッサ21は、補助記憶装置23又は可搬記録媒体28に格納されているプログラムをメモリ22に展開して実行することで、図1に示す線路空間の計測装置1の機能的構成要素(例えば、画像取得部2、3次元形状情報取得部3、及び重ね合わせ部4)の一部又は全部として機能してもよい。
【0029】
メモリ22は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの任意の半導体メモリである。メモリ22は、プログラムの実行の際に、補助記憶装置23又は可搬記録媒体28に格納されているプログラムまたはデータを記憶するワークメモリとして機能する。補助記憶装置23は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリである。補助記憶装置23は、主に各種データ及びプログラムの格納に用いられる。
【0030】
可搬記録媒体駆動装置26は、可搬記録媒体28を収容する。可搬記録媒体駆動装置26は、メモリ22又は補助記憶装置23に記憶されているデータを可搬記録媒体28に出力することができ、また、可搬記録媒体28からプログラム及びデータ等を読み出すことができる。可搬記録媒体28は、持ち運びが可能な任意の記録媒体である。可搬記録媒体28には、例えば、SDカード、USB(Universal Serial Bus)フラッシュメモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などが含まれる。
【0031】
入力装置24は、キーボード、マウスなどである。出力装置25は、表示装置、プリンタなどである。
【0032】
通信装置29は、図1に示す車両搭載装置10の一部又は全部と通信する無線又は有線の通信モジュールである。なお、通信装置29は、図1に示す線路空間の計測装置1の機能的構成要素(例えば、画像取得部2、3次元形状情報取得部3、及び重ね合わせ部4)の一部又は全部として機能してもよい。
【0033】
バス27は、プロセッサ21、メモリ22、補助記憶装置23等を、相互にデータの授受可能に接続する。
【0034】
なお、図2に示すコンピュータ20の構成は、図1に示す線路空間の計測装置1のハードウェア構成の一例である。線路空間の計測装置1は、この構成に限定されるものではない。線路空間の計測装置1は、汎用装置であっても専用装置であってもよい。線路空間の計測装置1は、例えば、専用設計の電気回路、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを備えてもよい。また、線路空間の計測装置1は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を用いて構成されてもよい。
【0035】
図3に示すように左カメラ11(中カメラ12及び右カメラ13も同様)がCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの格子状の撮像素子を有する場合、左カメラ11の撮像領域における1つの撮像素子の撮像範囲の大きさは、左カメラ11から撮像対象までの距離が近い方が、撮像範囲が狭くなる。そのため、撮像対象までの距離が近い方が、画像から算出される位置誤差が小さくなり、位置精度が高くなる。
【0036】
図4に示すように、1つの撮像素子の大きさ(幅)をisとし、レンズの焦点距離をflとすると、撮像対象までの距離rでの位置精度pa(r)は、「pa(r)=r/fl×is」で表すことができる。この位置精度pa(r)は、距離rが短いほど誤差が小さくなるといえる。なお、本実施の形態においては、主に水平面の寸法を例に説明するが、水平面と同様に鉛直面においても同様のことがいえる。
【0037】
図5に示す、中カメラ12によって撮像されるシミュレーション画像のように、中カメラ12の画角(画郭)には、鉄道車両の近傍(最近傍)から、消失点を含む遠方までが含まれる。
【0038】
図6に示すように、カメラ(例えば、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13)の画角2αは、1つの撮像素子の大きさ(幅)is、撮像素子の数c、及び焦点距離flから、「α=tan-1((is×c)/(2×fl))」で算出することができる。
【0039】
図7に示す左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13の3つを用いて3次元復元を行うことができる領域は、3つのカメラ11,12,13の画角(2α)に収まる領域(図7で塗りつぶした領域)となる。この領域までの3つのカメラ11,12,13からの距離r0は、3つのカメラ11,12,13の設置距離(両端のカメラ間の距離,設置幅)bl、及び画角2αのαを用いて「r0=bl/(2×tan(α))」で算出することができる。
【0040】
図8に示すように、3つのカメラ11,12,13の画角(2α)に収まる領域で、且つ、3次元復元に必要な範囲sr(計測対象範囲である後述する線路空間)を含む領域(図8で塗りつぶした領域)までのカメラ11,12,13からの距離rは、3つのカメラ11,12,13の設置距離bl、必要な範囲sr、及び画角2αのαを用いて「r=(bl+sr)/(2×tan(α))」で算出することができる。
【0041】
図9に示すように、撮影間隔(撮像間隔)Sで同期して撮影できる3つのカメラ11,12,13が前頭に設置された車両が軌道上を速度Vで移動している場合に、時刻t1、時刻t2(=t1+S)、・・・と連続的に撮影が行われる場合について考える。この場合、一定の精度で多視点画像による3次元復元を行うには、例えば時刻t1時に撮像された3つの画像を用いる場合、距離r(t1)と距離r(t2)=r(t1)+V×Sとで囲まれた領域(図9で塗りつぶした領域)について、多視点画像による3次元復元を行う必要がある。この領域は、カメラ11,12,13の画角に収まる線路空間のうち、鉄道車両の進行方向におけるカメラ11,12,13側の空間端部から所定の距離で制限された空間といえる。
【0042】
時刻t0~tnの連続した収録時に、上述の図4に示す位置精度pa(r)の差を小さくするためにカメラ11,12,13からなるべく近い領域の3次元復元を行うには、距離rから距離r+V×Sまでの距離を小さくする必要がある。なお、鉄道車両の速度Vが一定とはならないため、V×Sも一定とはならない。このV×Sを一定とするために、撮影間隔Sを速度Vに合わせて変動させてもよい。また、図9では、時刻t1における3次元復元領域の水平断面を台形で表すが、3次元復元領域は、鉄道車両の進行方向に直交する幅が範囲srに収まるように、水平断面が直方体形状であってもよい。なお、本明細書において、撮影は、撮像と同一の意味、すなわち、画像を撮る意味で使用される。
【0043】
図10にも示すように、鉄道車両の走行する線路空間(範囲sr)について、車両前方に設置した3つのカメラ11,12,13を用いた多視点カメラ手法による3次元復元計算を用いて点群計測(3次元形状情報の取得)を行うには、撮影時にカメラからの距離rによる位置精度pa(r)の差が小さくなるように、3つのカメラ11,12,13の設置距離bl、運行速度V、撮影間隔S、カメラの画角2α、及び撮像素子サイズisを決定する必要がある。
【0044】
また、鉄道車両の走行する線路空間(範囲sr)について点群計測を行うには、図11に示すように、車両前方に設置した3つのカメラ11,12,13のうち1つのカメラ(例えば中カメラ12)を基準としたカメラ座標cx,cy,cz(鉄道車両の内部を基準をとする第1座標系上の座標値の一例)で得られた点群を、軌道の線形を表すことができる世界測地系のワールド座標x,y,z(測地系に対応した第2座標系の座標値の一例)に変換する座標変換を含む点群計測を繰り返し行い、得られた点群をワールド座標の座標値で重ね合わせる必要がある。カメラ座標からワールド座標への変換は、GNSS受信機14及びIMU15から得られる鉄道車両の位置・姿勢情報に基づいて行うことができる。なお、測地系に対応した第2座標系の座標値としては、日本測地系の座標値などの、鉄道車両の移動によって変動しない基準を有する他の座標値であってもよい。
【0045】
ここで、図12に示すように、建築限界を含む線路空間の形状を計測する線路空間の計測方法について説明する。なお、本実施の形態においては、建築限界と余裕分とを含む規定の線路空間の全体(鉄道車両の進行方向に直交する面の全体)の計測を行うが、例えば、線路空間内の下部、左部、右部、上部、中央部(建築限界)などの1つのみの計測を行ってもよい。すなわち、上述の3次元復元に必要な範囲srは、線路空間の全体に限らず、例えば、線路空間の下部、左右、上部、及び中央部のうちの1つの範囲であってもよい。
【0046】
図13に示すように、まず、図1に示す車両搭載装置10の同期装置16が各カメラ11,12,13、GNSS受信機14、及びIMU15に上述の撮影間隔Sで同期信号を送る(ステップS11)。
【0047】
各カメラ11,12,13は、同期信号に基づいて同一のタイミングで同期撮影を行う(ステップS12)。画像取得部2は、各カメラ11,12,13によって撮影された画像(左カメラ画像、中カメラ画像、及び右カメラ画像)を取得する。
【0048】
また、GNSS受信機14が同期信号に基づいて鉄道車両(カメラ)の位置情報を受信することにより計測し、IMU15が同期信号に基づいて鉄道車両(カメラ)の姿勢情報を計測する(ステップS13)。そして、位置姿勢情報取得部5は、カメラの位置・姿勢情報を取得する。
【0049】
3次元形状情報取得部3は、同一のタイミングで撮影された左カメラ画像、中カメラ画像、及び右カメラ画像を用いて、多視点画像での3次元復元を行い(ステップS14)、上述の図11に示すカメラ座標での点群データとして取得可能な領域全体の点群データ(全体3次元形状情報の一例)を取得する。
【0050】
次に、3次元形状情報取得部3は、距離制限として、基準となるカメラ11,12,13からの距離が上述の図8図10に示す3次元復元に必要な範囲sr(線路空間)を含む領域までの距離rから、距離r+V×Sまでの領域の3次元点群データを抽出する(ステップS15)。これにより、距離制限後のカメラ座標での3次元点群(一部の空間の3次元形状情報の一例)が抽出される。なお、上述のように取得可能な領域全体の点群データを取得してから(ステップS14)、距離制限対象の領域の点群データを抽出する(ステップS15)のに代えて、予め距離制限対象の領域のみの点群データを取得してもよい。
【0051】
次に、重ね合わせ部4は、抽出された距離制限後のカメラ座標での3次元点群を、撮影と同期した上述の位置・姿勢計測(ステップS13)により得られた基準となるカメラの「カメラ位置・姿勢」を用いて、線路線形を表現可能なワールド座標に座標変換を行う(ステップS16)。
【0052】
また、重ね合わせ部4は、「ワールド座標での3次元点群」を、前回までに算出された3次元点群に追加して重ね合わせる(ステップS17)。なお、上述のV×Sの誤差の発生などにより計測領域が欠落しないように、距離制限後の3次元復元領域を距離rから距離r+V×Sまでの領域よりも鉄道車両の進行方向に大きくし、3次元点群の重ね合わせ時にオーバーラップ部分を除去する処理が行われてもよい。
【0053】
そして、上述の同期信号の送信(ステップS11)から重ね合わせ(ステップS17)までの手順を、計測範囲の線路空間で鉄道車両の移動と共に繰り返すことで、ワールド座標での線路空間の点群が計算される。この後、得られた点群と規定の点群(例えば、地物が含まれない点群)との差分に基づいて、或いは、点群が存在することに基づいて、地物(物体)の形状が含まれていると判別された場合などには、地物の進入のユーザへの報知が地物の位置情報(座標など)とともに行われるとよい。なお、地物の進入要因としては、例えば、電柱、信号機、乗降場限界、軌道、路盤などの変状や、線路周辺の植生の成長が挙げられる。
【0054】
なお、上述の説明では、画像及び位置・姿勢情報の取得の処理(ステップS11~13)と、その後の3次元復元、距離制限、座標変換、及び重ね合わせの処理(ステップS14~S17)とが連続的に行われるが、画像及び位置・姿勢情報の取得が鉄道車両の走行範囲で行われてから、3次元復元、距離制限、座標変換、及び重ね合わせの処理が行われてもよい。以下、この例を第1変形例として図14及び図15を参照しながら説明する。
【0055】
<第1変形例>
図14は、本実施の形態の第1変形例における車両搭載装置30及び線路空間の計測装置1を示す図である。
【0056】
図15は、本第1変形例における線路空間の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【0057】
図14に示す線路空間の計測装置1は、図1に示す上述の線路空間の計測装置1と同様にすることができる。図14に示す車両搭載装置30は、図1に示す車両搭載装置10の構成要素(左カメラ11、中カメラ12、右カメラ13、GNSS受信機14、IMU15、及び同期装置16)に加えて、一時記憶装置31を備える。
【0058】
一時記憶装置31は、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13が撮像した画像と、GNSS受信機14が受信した鉄道車両(カメラ)の位置情報と、IMU15が取得した鉄道車両(カメラ)の姿勢情報とを記憶する。これらの画像、位置情報、及び姿勢情報は、同期装置16により送信される同期信号(例えば送信時間)と紐づけることによって、同一タイミングのものを識別可能に記憶される。
【0059】
また、一時記憶装置31は、鉄道車両の画像撮影や位置・姿勢情報の取得を走行中に繰り返し行った後、線路空間の計測装置1からの要求に応じて或いは任意のタイミングで、画像及び位置・姿勢情報を線路空間の計測装置1の画像取得部2及び位置姿勢情報取得部5に送信する。
【0060】
一時記憶装置31は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、CPU等のプロセッサ、RAM等の半導体メモリ、通信モジュールなどによって構成されるとよい。
【0061】
線路空間の計測を行う場合、図15に示すように、まず図14に示す車両搭載装置30の同期装置16が各カメラ11,12,13、GNSS受信機14、及びIMU15に上述の撮影間隔Sで同期信号を送る(ステップS21)。
【0062】
各カメラ11,12,13は、同期信号に基づいて同一のタイミングで同期撮影を行う(ステップS22)。
【0063】
また、同期信号に基づいて、GNSS受信機14が鉄道車両(カメラ)の位置情報を受信することにより計測し、IMU15が鉄道車両(カメラ)の姿勢情報を計測する(ステップS23)。
【0064】
そして、一時記憶装置31は、計測範囲の線路空間で鉄道車両の移動と共に、同期信号に紐づけて各画像及び位置姿勢情報の記憶を繰り返す(ステップS24)。
【0065】
鉄道車両の走行後、画像取得部2は、一時記憶装置31から各カメラ11,12,13によって撮像され同期信号に紐づけられた画像を取得し、位置姿勢情報取得部5は、一時記憶装置31から同期信号に紐づけられたカメラの位置・姿勢情報を取得する(ステップS25)。
【0066】
その後の多視点画像での3次元復元処理(ステップS26)から重ね合わせ処理(ステップS29)までの処理は、図13に示すステップS14~S17までの処理と同様にすることができる。
【0067】
<第2変形例>
本第2変形例では、カメラ座標からワールド座標への座標変換時に必要なカメラ位置・姿勢情報が、GNSS受信機14及びIMU15から取得できない場合の例について説明する。なお、位置情報や姿勢情報が取得できない場合としては、例えば、鉄道車両がトンネル内を走行中にGNSS受信機14が位置情報を受信できない場合や、位置姿勢情報取得部5のGNSS受信機14及びIMU15からの情報取得エラーが生じた場合が挙げられる。
【0068】
図16に示すように、まず、同期装置16が各カメラ11,12,13に上述の撮影間隔Sで同期信号を送る(ステップS31)。
【0069】
各カメラ11,12,13は、同期信号に基づいて同一のタイミングで同期撮影を行う(ステップS32)。画像取得部2は、各カメラ11,12,13によって撮像された画像(左カメラ画像、中カメラ画像、及び右カメラ画像)を取得する。
【0070】
3次元形状情報取得部3は、同一のタイミングで撮像された左カメラ画像、中カメラ画像、及び右カメラ画像を用いて、多視点画像での3次元復元を行い(ステップS33)、上述の図11に示すカメラ座標での点群データとして取得可能な領域全体の点群データ(全体3次元形状情報の一例)を取得する。
【0071】
次に、3次元形状情報取得部3は、距離制限として、基準となるカメラ11,12,13からの距離が上述の図8図10に示す3次元復元に必要な範囲sr(線路空間)を含む領域までの距離rから距離r+V×Sまでの領域の3次元点群データを抽出する(ステップS34)。これにより、距離制限後のカメラ座標での3次元点群(一部の空間の3次元形状情報の一例)が抽出される。
【0072】
また、本第2変形例では、GNSS受信機14及びIMU15から位置・姿勢情報が取得できないため、重ね合わせ部4が鉄道車両の速度計算を行う(ステップS35)。この速度計算は、図17に示すように、時刻t1の複数のカメラ画像と、1つ前に撮像された時刻t0の複数のカメラ画像とのそれぞれから3次元復元を行い、得られる3次元点群から時刻t1の基準となるカメラの座標を基に、時刻t0での基準となるカメラ位置(xt0,yt0,zt0)を求めることで、時刻t1と時刻t0とのカメラ位置差を算出し、算出した位置差を撮影時間の間隔(t1-t0)で除することで、時刻t1での速度Vを求めることができる。
【0073】
また、重ね合わせ部4は、算出された速度と、線路線形によるワールド座標での位置、カントや勾配等による撮影姿勢とに基づき、位置・姿勢情報を取得する。ここで、線路の線形は、鉄道に関する技術上の基準を定める省令に基づき、延べ距離(キロ程)、直線、緩和曲線、円曲線などからなる線形で設計・施工されている。そのため、線路線形情報を位置姿勢情報取得部5が取得することで、前回位置情報が取得できたときからの位置・姿勢の変化によって位置・姿勢情報を取得することができる。
【0074】
次に、重ね合わせ部4は、抽出された距離制限後のカメラ座標での3次元点群を、上述の位置・姿勢情報を用いてワールド座標に座標変換を行う(ステップS37)。
【0075】
また、重ね合わせ部4は、「ワールド座標での3次元点群」を、前回までに算出された3次元点群に追加して重ね合わせる(ステップS38)。
【0076】
また、重ね合わせ部4は、撮像された画像を、次の撮像タイミングの速度計算に用いるために保存する(ステップS39)。
【0077】
そして、上述の同期信号の送信処理(ステップS31)から画像保存処理(ステップS39)までの手順を、計測範囲の線路空間で鉄道車両の移動と共に繰り返すことで、ワールド座標での線路空間の点群が計算される。
【0078】
なお、図16に示すフローチャートでは、すべての撮像タイミングにおける位置・姿勢情報を速度及び線路線形により取得しているが、GNSS受信機14及びIMU15から位置・姿勢情報を取得できる撮像タイミングに関しては、速度及び線路線形による取得は省略可能である。
【0079】
また、本第2変形例においても、上述の第1変形例と同様に、画像の取得が鉄道車両の走行範囲で行われてから(不連続で)、位置・姿勢情報の取得、3次元復元、距離制限、座標変換、重ね合わせ、画像保存の処理が行われてもよい。
【0080】
<線路空間の計測結果>
以下、図18図21を参照しながら、本実施の形態における線路空間の計測結果について説明する。
【0081】
在来線での運用を想定し、図18に示すように、連続撮影時の撮影間隔を1/120秒、鉄道車両の速度Vを130km/hとした場合、上述のV×Sは、0.3mとなる。
【0082】
同様に、在来線での運用を想定し、図10に示す必要な点群取得の範囲srを鉄道の建築限界3.8m+左右1m範囲のsr=5.8mとし、車両前方に設置した3台のカメラの設置距離bl=1m(0.5×2)、使用するカメラの1画素のサイズを0.0015mm、画角2αを55°とした場合、必要な撮影範囲である範囲srを取得する近傍側距離rは6.55mとなる。さらに、前述した撮影間隔V×S=0.3mを考慮した距離制限後の3次元復元領域(rからr+V×Sまで)は6.55m~6.85mとなり、3次元復元範囲での位置精度pa(r)は、3.14mm~3.63mmとなる。
【0083】
上記条件での撮像画像は、図19(a)~(c)に示す前方カメラの撮影シミュレーション画像である。図20には、この撮影シミュレーション画像による多視点画像での3次元復元時にカメラから撮影対象までの距離を限定して得られた点群を示す。また、図21には、この点群をワールド座標で重ね合わせた点群を示す。
【0084】
以上説明した本実施の形態では、線路空間の計測方法は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状をコンピュータ(例えば、コンピュータ20)により計測する線路空間の計測方法であって、鉄道車両に設置された複数の撮像装置(例えば、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13)により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する工程(図11ではステップS12により得られる画像の取得)と、同一のタイミングで撮像された複数の画像に基づいて、複数の撮像装置の画角に収まる線路空間(例えば、範囲sr)のうち、鉄道車両の進行方向における一部の空間(例えば、距離rから距離r+V×Sまでの領域)の3次元形状情報(例えば、点群データ)を取得する工程(ステップ15)と、複数の撮像装置の撮像タイミングごとの3次元形状情報を重ね合わせる工程(ステップS17)とを含む。
【0085】
他の観点では、線路空間の計測装置1は、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状を計測する線路空間の計測装置1であって、鉄道車両に設置された複数の撮像装置(例えば、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13)により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する画像取得部2と、同一のタイミングで撮像された複数の画像に基づいて、複数の撮像装置の画角に収まる線路空間(例えば、範囲sr)のうち、鉄道車両の進行方向における一部の空間(例えば、距離rから距離r+V×Sまでの領域)の3次元形状情報(例えば、点群データ)を取得する3次元形状情報取得部3と、複数の撮像装置の撮像タイミングごとの3次元形状情報を重ね合わせる重ね合わせ部4とを備える。
【0086】
他の観点では、プログラムは、鉄道車両が走行する線路空間にある物体の形状を計測するためのプログラムであって、鉄道車両に設置された複数の撮像装置(例えば、左カメラ11、中カメラ12、及び右カメラ13)により同一のタイミングで撮像された複数の画像を取得する機能と、同一のタイミングで撮像された複数の画像に基づいて、複数の撮像装置の画角に収まる線路空間(例えば、範囲sr)のうち、鉄道車両の進行方向における一部の空間(例えば、距離rから距離r+V×Sまでの領域)の3次元形状情報(例えば、点群データ)を取得する機能と、複数の撮像装置の撮像タイミングごとの3次元形状情報を重ね合わせる機能とをコンピュータ(例えば、コンピュータ20)に実現させる。
【0087】
これらの線路空間の計測方法、線路空間の計測装置1、及びプログラムでは、同一のタイミングで撮像された複数の画像を用いて一部の空間の3次元復元を行うため、この一部の空間を撮像装置からの距離が一定の領域に制限し、得られた3次元形状情報を重ね合わせることで、距離が異なる画像を用いて3次元復元を行う場合と比較して、高精度に、線路空間の連続した3次元形状情報を取得することができる。また、目視やレーザではなく撮像画像を用いて計測を行うことができるため、作業員の目視により行う場合や設置が困難な車載写真レーザ測量システムを用いる場合などと比較して、線路空間の確認を点群等の3次元形状情報で簡単に行うことができる。よって、本実施の形態によれば、鉄道車両が走行する線路空間への地物の進入を容易に予見することができる。
【0088】
また、本実施の形態では、3次元形状情報が取得される重ね合わせ前の上記一部の空間は、複数の撮像装置の画角に収まる線路空間のうち、進行方向における複数の撮像装置側の空間端部から所定の距離で制限された空間である。
【0089】
これにより、撮像装置から近く誤差が少ない領域の3次元形状情報を取得し、取得した複数の点群等の3次元形状情報を重ね合わせることができる。そのため、より高精度に、線路空間への地物の進入を予見することができる。
【0090】
また、本実施の形態では、一部の空間の3次元形状情報を取得する工程(3次元形状情報取得部3)では、3次元形状情報を鉄道車両の内部を基準とする第1座標系上の座標値(例えば、カメラ座標の座標値)で取得し、3次元形状情報を重ね合わせる工程(重ね合わせ部4)では、第1座標系の座標値を、測地系に対応した第2座標系の座標値(例えば、世界測地系の座標値であるワールド座標での座標値)に変換し、上記一部の空間の3次元形状情報を第2座標系の座標値に基づいて重ね合わせる。
【0091】
これにより、上記一部の空間の3次元形状情報を測地系に対応した座標系の座標値で正確に重ね合わせることができる。そのため、測地系に対応した座標系で線路空間の地物を連続して表示することができるほか、現地での地物の位置を正確に把握することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 線路空間の計測装置
2 画像取得部
3 3次元形状情報取得部
4 重ね合わせ部
5 位置姿勢情報取得部
10 車両搭載装置
11 左カメラ
12 中カメラ
13 右カメラ
14 GNSS受信機
15 IMU
16 同期装置
20 コンピュータ
30 車両搭載装置
31 一時記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22