(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005464
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電界放射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20250109BHJP
H01J 35/08 20060101ALI20250109BHJP
H01J 35/00 20060101ALI20250109BHJP
H01J 35/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01J35/06 E
H01J35/08 D
H01J35/00 A
H01J35/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105599
(22)【出願日】2023-06-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大造
(57)【要約】
【課題】電界放射装置の部品点数の削減と小型化を図ること。
【解決手段】電界放射装置1は、陰極2及び陽極3と接合して真空容器10を成す絶縁体4と、真空容器10内にて陰極2と陽極3との間で絶縁体4に接合され、陰極2から陽極3に放出される電子ビームが通過する孔51が形成された中間極5を有する。中間極5は、絶縁体4から真空容器10の軸方向に沿って引き出されて直流電源7を介して接地されると共に陽極3に接続される導体52を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極及び陽極と接合して真空容器を成す絶縁体と、
前記真空容器内にて前記陰極と前記陽極との間で前記絶縁体に接合され、前記陰極から前記陽極に放出される電子ビームが通過する孔が形成された中間極と、
この中間極に突設され、前記絶縁体から前記真空容器の軸方向に沿って引き出されて直流電源を介して接地されると共に前記陽極に接続される導体と、
を有することを特徴とする電界放射装置。
【請求項2】
前記絶縁体は、中央開口部を密閉して前記陰極と接合すると共に前記陽極と接合する中空盤部を有することを特徴とする請求項1に記載の電界放射装置。
【請求項3】
前記絶縁体は、
一端に前記陰極が接合する筒体と、
この筒体の他端外周に設けられて前記陽極と接合する中空盤部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の電界放射装置。
【請求項4】
前記陽極は、
前記絶縁体と接合する大径筒部と、
この大径筒部と連通し、前記電子ビームを受けるターゲットを収容する小径筒部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の電界放射装置。
【請求項5】
前記大径筒部の一端には、前記軸方向に沿って延伸する陰極側周壁部が備えられたことを特徴とする請求項4に記載の電界放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷陰極型の電界放射装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
X線装置,電子管,照明装置等に適用される
図4に示された電界放射装置1は、真空容器10内の陰極2と陽極3との間に電圧を印加し、陰極2のエミッタ20から放出された電子ビームを陽極3のターゲット30に衝突させて所望の機能を発揮する(特許文献1)。例えば、X線装置の場合はX線照射による透視に使用される。
【0003】
エミッタ20の電子放出は、エミッタ20に印加される電界により決定される。
図4に示された2極管構造のX線管の場合、その電流は電圧と1対1で固定され(
図5)、電圧と電流を個別に調整できない。
【0004】
電界放射装置1の電圧と電流の個別の調整は
図6に示したように絶縁体4を介して陰極2と陽極3との間に中間極5を配した3極管構造とすれば可能となる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-104283号公報
【特許文献2】特開2011-119084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線の発生効率は3%以下と非常に悪く、残りはほぼ熱へと変換される。したがって、ターゲット30を有する陽極3の冷却が課題となる。2極管構造の場合、
図4に示したように陽極3を接地とすることでフィンやファンを用いた直接冷却が可能となる。
【0007】
一方、
図6に示した3極管構造の場合、中間極5を接地とすると、陽極3はプラスDC電圧が印加されるので直接冷却が困難となる。
【0008】
3極管構造は、
図7に示された態様のように、エミッタ20に加える電界を、陰極2に接続される直流電源6と中間極5に接続される直流電源7との差分で作り出せば、陽極3を接地とすることができ、陽極3の直接冷却が可能となる。直流電源7のかわりにフローティング電源を組み合わせてもよい。
【0009】
また、陽極接地となるメリットをより生かすためには、
図8に示された真空容器10を包囲する陽極3の大径筒部31や
図9に示された陽極3の大径筒部31の一端に設けられる陰極側周壁部34のように陽極3の外周面を接地面とすることが望ましい。しかしながら、これらの態様は装置構成が複雑及び大型化し、また、製造コストも上がる。
【0010】
本発明は、以上のことを鑑み、電界放射装置の部品点数の削減と小型化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明の電界放射装置の一態様は、陰極及び陽極と接合して真空容器を成す絶縁体と、前記真空容器内にて前記陰極と前記陽極との間で前記絶縁体に接合され、前記陰極から前記陽極に放出される電子ビームが通過する孔が形成された中間極と、この中間極に突設され、前記絶縁体から前記真空容器の軸方向に沿って引き出されて直流電源を介して接地されると共に前記陽極に接続される導体と、を有する。
【0012】
本発明の一態様は、前記電界放射装置において、前記絶縁体は、中央開口部を密閉して前記陰極と接合すると共に前記陽極と接合する中空盤部を有する。
【0013】
本発明の一態様は、前記電界放射装置において、前記絶縁体は、一端に前記陰極が接合する筒体と、この筒体の他端外周に設けられて前記陽極と接合する中空盤部と、を有する。
【0014】
本発明の一態様は、前記電界放射装置において、前記陽極は、前記絶縁体と接合する大径筒部と、この大径筒部と連通し、前記電子ビームを受けるターゲットを収容する小径筒部と、を有する。
【0015】
本発明の一態様は、前記電界放射装置において、前記大径筒部の一端には、前記軸方向に沿って延伸する陰極側周壁部が備えられる。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、電界放射装置の部品点数の削減と小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態1の中間極を備えた電界放射装置の概略断面図。
【
図5】2極管構造の電界放射装置の電圧と電流の関係。
【
図7】中間極を接地とする3極管構造の電界放射装置の概略断面図。
【
図8】外周面を接地面とする3極管構造の電界放射装置の概略断面図。
【
図9】外周面を接地面とする3極管構造の電界放射装置の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1に示された本発明の一態様である実施形態1の電界放射装置1は、陰極2、陽極3、絶縁体4及び中間極5を有する。
【0020】
陰極2は、陽極3、絶縁体4及び中間極5と同軸に絶縁体4の一端に接合して陽極3及び絶縁体4とで真空容器10を成し、この真空容器10内にて陽極3のターゲット30に電子ビームを放出するエミッタ20を備える。そして、この陰極2は直流電源6を介して接地されると共に陽極3に接続される。
【0021】
陽極3は、陰極2、絶縁体4及び中間極5と同軸の異径の円筒体を成し、大径筒部31と、この大径筒部31と連通する大径筒部31よりも小径な小径筒部32を有する。大径筒部31の一端縁の内面は、絶縁体4の中空盤部42と接合する。小径筒部32の端部の内面には、エミッタ20から電子ビームを受けてX線を放出する傾斜面301を有するターゲット30が備えられる。また、小径筒部32の側壁部には、前記X線を外部に放出するビーム窓33が設けられる。そして、この陽極3は直流電源6に接続されると共に接地される。
【0022】
また、絶縁体4の中空盤部42の外周に沿う陽極3の大径筒部31の一端には、大径筒部31(真空容器10)の軸方向に沿って延伸する陰極側周壁部34が備えられる。
【0023】
絶縁体4は、陰極2及び陽極3と接合して真空容器10を成す。絶縁体4は、陰極2,陽極3及び中間極5と同軸のセラミック部材から成り、一端に陰極2が接合する円筒部41と、この円筒部41の他端外周に設けられて陽極3と接合する中空盤部42を有する。また、中空盤部42には、真空容器10内からの中間極5の導体52の引き出し孔43が形成される。
【0024】
中間極5は、
図1,2に示したように真空容器10内にて陰極2と陽極3との間で絶縁体4に接合され、陰極2のエミッタ20から陽極3のターゲット30に放出される電子ビームが通過する孔51が形成された中空盤部50を備える。さらに、中空盤部50には導体52が突設される。導体52は、絶縁体4の中空盤部42の引き出し孔43から真空容器10の軸方向に沿って引き出され、直流電源7を介して接地される共に陽極3に接続される。
【0025】
そして、陰極2、陽極3、絶縁体4及び中間極5は、真空ろう付け(例えば銀蝋付け)による接合により封止されて真空容器10が構成される。真空ろう付けにより真空封止する際には陰極2、陽極3、絶縁体4及び中間極5が組み込まれて真空ろう付けされる。中間極5の導体52と絶縁体4の引き出し孔43との間も真空ろう付けされる。絶縁体4の接合部には、メタライズ処理を施してろう付けしやすくしておくが、使用するろう材によっては、絶縁体4の接合部をメタライズ処理しなくてもよい。
【0026】
以上の電界放射装置1によれば、絶縁体4のように陰極2側のセラミック部材の領域と陽極3側のセラミック部材の領域が一体化しているので、電界放射装置1の部品点数の削減が可能となる。また、電界放射装置1の構成が簡素となり、電界放射装置1の小型化と共にコストの削減も可能となる。
【0027】
さらに、陰極2が直流電源6を介して接地されると共に陽極3と接続され、また、導体52が中空盤部42から中間極5の軸方向に沿って引き出されて直流電源7を介して接地される共に陽極3に接続されることで、電界放射装置1の外周面が接地面となる。したがって、陽極3が接地となるメリットが生かされ、陽極3の直接冷却も可能となる。
【0028】
また、陽極3の大径筒部31の一端から陰極2側に大径筒部31の軸方向に沿って延伸する陰極側周壁部34により、周辺の印加部品と嵌合可能となり、電界放射装置1をX線源等の装置にコンパクトに組み込み易くなる。
【0029】
尚、絶縁体4は、陰極2及び陽極3と接合して真空容器10を成せばよいので、
図3に例示された実施形態2の絶縁体4のように円筒部41を備えていなくてもよい。同図の絶縁体4は、中空盤部42の中央開口部40を密閉して陰極2と接合すると共に陽極3と接合する。また、絶縁体4は、筒体を成し、当該筒体の一端面の中央部に陰極2が接合し、当該筒体の他端面に陽極3が接合し、当該一端面から中間極5の導体52が引き出される態様であってもよい。これらの態様によっても上述の実施形態1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0030】
1…電界放射装置、10…真空容器
2…陰極、20…エミッタ
3…陽極、30…ターゲット、301…傾斜面、31…大径筒部、32…小径筒部、33…ビーム窓、34…陰極側周壁部
4…絶縁体、40…中央開口部、41…円筒部、42…中空盤部、43…引き出し孔
5…中間極、50…中空盤部、51…孔、52…導体
6,7…直流電源