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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005465
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105600
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 純一
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA55
4F071AA88
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】加熱により面内を均一に収縮することができ、適度な張力が付与され、たわみやシワなどの不良が発生せず、良好な外観を有するフィルムを提供する。
【解決手段】半芳香族ポリアミド樹脂からなるフィルムであって、機械方向(MD)および幅方向(TD)の200℃における熱収縮応力(HS200,MD、HS200,TD)がそれぞれ0.2~2.0MPaであり、機械方向(MD)および幅方向(TD)の250℃における熱収縮応力(HS250,MD、HS250,TD)がそれぞれ0.5~3.0MPaであることを特徴とする半芳香族ポリアミドフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド樹脂からなるフィルムであって、
機械方向(MD)および幅方向(TD)の200℃における熱収縮応力(HS200,MD、HS200,TD)がそれぞれ0.2~2.0MPaであり、
機械方向(MD)および幅方向(TD)の250℃における熱収縮応力(HS250,MD、HS250,TD)がそれぞれ0.5~3.0MPaであることを特徴とする半芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
|HS200,MD-HS200,TD|および|HS250,MD-HS250,TD|がそれぞれ1.0MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の半芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項3】
||HS200,MD-HS200,TD|-|HS250,MD-HS250,TD||が0.5MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項4】
請求項1に記載の半芳香族ポリアミドフィルムとフィルム保持部を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項5】
保持部に保持された半芳香族ポリアミドフィルムが熱収縮していることを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
デバイスがタクタイルスイッチであることを特徴とする請求項4または5に記載のデバイス。
【請求項7】
デバイスが伝声器であることを特徴とする請求項4または5に記載のデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の熱収縮応力を有する半芳香族ポリアミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェアラブル端末やヘルスケア機器など、身に付ける電子機器の小型化と高機能化が進んでいる。このような機器は汗や雨、砂埃にさらされることから、各部品に防水、防塵機能が求められている。例えば、特許文献1には、タクタイルスイッチにおける、動作(機能)部の可撓性基材として、フィルムを用いることが開示されている。
上記タクタイルスイッチなどの製造においては、はんだリフロープロセスを含むことがあることから、使用されるフィルムには、250℃程度の耐熱性が求められと同時に、加熱後に、たわみやシワが発生しない熱収縮性を有することも求められている。
【0003】
また音声を一方側から他方側へと伝播可能な膜部材を備えた、装着者により発話された音声を外部に伝達させる伝声器においては、熱収縮性の材質にて形成された膜部材を、保持部材に保持された状態で、加熱して収縮させることにより、略全面に緊張が与えられた状態で保持部材に保持されたものが特許文献2に開示されている。
伝声器は、消防活動に用いられるマスクに搭載される場合などには、特に高い耐熱性が求められ、高熱にさらされてもデバイス性能を大きく損なわないことが求められている。
【0004】
特許文献3には、耐熱性を有する半芳香族ポリアミドからなるフィルムが開示されているが、上記の用途に適した熱収縮性を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-147696号公報
【特許文献2】特開2014-176634号公報
【特許文献3】国際公開第2019-031428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、加熱により面内を均一に収縮することができ、適度な張力が付与され、たわみやシワなどの不良が発生せず、良好な外観を有するフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の熱収縮応力を有する半芳香族ポリアミドフィルムが、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0008】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂からなるフィルムであって、
機械方向(MD)および幅方向(TD)の200℃おける熱収縮応力(HS200,MD、HS200,TD)がそれぞれ0.2~2.0MPaであり、
機械方向(MD)および幅方向(TD)の250℃おける熱収縮応力(HS250,MD、HS250,TD)がそれぞれ0.5~3.0MPaであることを特徴とする半芳香族ポリアミドフィルム。
(2)|HS200,MD-HS200,TD|および|HS250,MD-HS250,TD|がそれぞれ1.0MPa以下であることを特徴とする(1)に記載の半芳香族ポリアミドフィルム。
(3)||HS200,MD-HS200,TD|-|HS250,MD-HS250,TD||が0.5MPa以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の半芳香族ポリアミドフィルム。
(4)上記(1)に記載の半芳香族ポリアミドフィルムとフィルム保持部を含むことを特徴とするデバイス。
(5)保持部に保持された半芳香族ポリアミドフィルムが熱収縮していることを特徴とする(4)に記載のデバイス。
(6)デバイスがタクタイルスイッチであることを特徴とする(4)または(5)に記載のデバイス。
(7)デバイスが伝声器であることを特徴とする(4)または(5)に記載のデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性ポリアミドフィルムは、タクタイルスイッチに用いることにより、各部品に防水、防塵機能を付与することができ、製造時のリフロープロセスにおける耐熱性を有するともに、加熱後に、たわみやシワが発生しない熱収縮性を有している。
また、本発明の熱可塑性ポリアミドフィルムは、伝声器における膜部材として用いて、加熱して収縮させることにより、略全面に緊張が与えられた状態で保持部材に保持させることができ、また、高熱にさらされても、デバイス性能を低下させることがない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(半芳香族ポリアミド樹脂)
本発明のフィルムを構成する半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とを重縮合したものである。
【0011】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を60~100モル%含有することが好ましく、70~100モル%含有することがより好ましく、80~100モル%含有することがさらに好ましい。テレフタル酸の含有量が60モル%未満であると、得られるフィルムは、耐熱性、低吸水性が低下することがある。
【0012】
脂肪族ジアミン成分は、炭素数6~12の脂肪族ジアミンを主成分として含有することが好ましく、炭素数9~12の脂肪族ジアミンを主成分として含有することがより好ましく、炭素数9または10の脂肪族ジアミンを主成分として含有することがさらに好ましい。
【0013】
炭素数が6~12の脂肪族ジアミンとしては、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンの直鎖状脂肪族ジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミンなどの分岐鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0014】
脂肪族ジアミン成分における炭素数6~12の脂肪族ジアミンの含有量は、60モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。炭素数6~12の脂肪族ジアミンの含有量が60モル%以上であると、得られるフィルムは、耐熱性と生産性を両立することができる。炭素数6~12の脂肪族ジアミンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、2種以上を併用する場合、含有量はそれらの合計とする。
【0015】
また、脂肪族ジアミン成分は、炭素数9の脂肪族アルキレンジアミンを60~100モル%含有することが好ましく、75~100モル%含有することがより好ましく、90~100モル%含有することがさらに好ましい。炭素数9の脂肪族アルキレンジアミンの含有量が60モル%未満であると、得られるフィルムは、耐熱性、低吸水性、耐薬品性が低下することがある。
炭素数9の脂肪族アルキレンジアミンとしては、上記のように、直鎖状の1,9-ノナンジアミンや、分岐鎖状の2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン等を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
本発明において、脂肪族ジアミン成分は、1,9-ノナンジアミンと、必要に応じて、2-メチル-1,8-オクタンジアミンを合計で60~100モル%含有することが好ましく、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとのモル比(1,9-ノナンジアミン/2-メチル-1,8-オクタンジアミン)は50/50~100/0であることが好ましく、70/30~100/0であることがより好ましく、75/25~95/5であることがさらに好ましい。上記モル比で、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンを併用することにより、特に耐熱性、低吸水性に優れたフィルムが得られる。
【0016】
市販されているこのような半芳香族ポリアミドとしては、クラレ社製のジェネスタ(商品名)が挙げられる。
【0017】
炭素数が6~12の脂肪族ジアミン以外の脂肪族ジアミンとしては、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミンなどの直鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0018】
半芳香族ポリアミドは、ジアミン成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、脂肪族ジアミン成分以外のジアミン成分を含有してもよい。他のジアミン成分としては、例えば、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミンなどの脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。
【0019】
本発明の目的を損なわない範囲で、半芳香族ポリアミドは、上述した以外のポリアミド原料を併用することもできる。併用することができるポリアミド原料としては、例えばε-カプロラクタム、ζ-エナントラクタム、η-カプリルラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。
【0020】
ポリアミド原料および組成の選択の目安としては、得られる半芳香族ポリアミドの融点がおよそ270~350℃の範囲になるようにすることが好ましい。半芳香族ポリアミドは、融点が270℃未満では、耐熱性が不十分であり、350℃を超えると、加工温度が高くなり、熱分解を起こすことがある。
【0021】
本発明における半芳香族ポリアミドは、濃硫酸中において30℃で測定した極限粘度[η]が、0.8~2.0dl/gであることが好ましく、0.9~1.8dl/gであることがより好ましい。半芳香族ポリアミドは、極限粘度[η]が上記範囲内であると、フィルムへの成形性に優れると共に、力学的特性、耐熱性等に優れたフィルムを得ることができる。
【0022】
本発明における半芳香族ポリアミドは、分子鎖の末端基の10モル%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましく、末端封止率は40モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。末端封止率が10モル%以上であれば、半芳香族ポリアミドは、溶融成形時の粘度変化が小さく、得られる半芳香族ポリアミドフィルムは、外観、耐熱水性等の物性が優れる。
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。なかでも、反応性および封止末端の安定性等の点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さ等の点から、モノカルボン酸がより好ましく、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0023】
(半芳香族ポリアミドフィルム)
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、上記半芳香族ポリアミド樹脂からなるフィルムであり、機械方向(MD)および幅方向(TD)の200℃における熱収縮応力(HS200,MD、HS200,TD)がそれぞれ0.2~2.0MPaであることが必要であり、機械方向(MD)および幅方向(TD)の250℃における熱収縮応力(HS250,MD、HS250,TD)がそれぞれ0.5~3.0MPaであることが必要である。
【0024】
MDとTDの200℃における熱収縮応力がそれぞれ0.2MPa以上でないと、保持部材に保持された膜部に十分な収縮応力を付与することが難しく、膜部にタルミを生じる。熱収縮応力はそれぞれ0.3MPa以上であることが好ましく、0.5MPa以上であることがより好ましい。
一方、MDとTDの200℃における熱収縮応力がそれぞれ2.0MPa以下でないと、収縮応力が大きすぎることから膜部にシワを生じる。熱収縮応力はそれぞれ1.5MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましい。
【0025】
また、MDとTDの250℃における熱収縮応力がそれぞれ0.5MPa以上でないと、保持部材に保持された膜部に十分な収縮応力を付与することが難しく、膜部にタルミを生じる。熱収縮応力はそれぞれ0.7MPa以上であることが好ましく、1.5MPa以上であることがより好ましい。
一方、MDとTDの250℃における熱収縮応力がそれぞれ3.0MPa以下でないと、収縮応力が大きすぎることから膜部にシワを生じる。熱収縮応力はそれぞれ2.5MPa以下であることが好ましく、2.0MPa以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、200℃および250℃における、MDおよびTDの熱収縮応力の差の絶対値である|HS200,MD-HS200,TD|および|HS250,MD-HS250,TD|がそれぞれ1.0MPa以下であることが好ましい。
上記熱収縮応力の差の絶対値は、熱収縮応力の面内均一性を評価したものであり、小さいほど好ましく、1.0MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましく、0.5MPa以下であることがさらに好ましい。
【0027】
また、本発明の半芳香族ポリアミドフィルムにおける、||HS200,MD-HS200,TD|-|HS250,MD-HS250,TD||は、面内均一性の温度依存性を評価したものであり、0.5MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以下であることがより好ましく、0.1MPa以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムの厚みは、特に限定されないが、厚みムラRが8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミドフィルムは、厚みムラRが10%を超えると、加工時のフィルムのたるみやシワの原因、最終製品の品質不良の原因となりえる。厚みムラRは、延伸により得られたフィルムをHEIDENHAIN社製の厚み計「MT12B」を用いて、フィルム幅方向の厚みを10mm毎に測定し、計測値の最大値をLmax、最小値をLmin、平均値をLaとしたときに、下記式で算出される。
R=((Lmax-Lmin)/2La)×100
【0029】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、その諸特性をより向上させるために、フィルムとしての諸特性を犠牲にしない範囲内で、必要に応じて、滑剤、チタンなどの顔料、染料などの着色剤、着色防止剤、熱安定剤、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物などの耐候性改良剤、臭素系やリン系の難燃剤、可塑剤、離型剤、タルクなどの強化剤、改質剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、各種ポリマー樹脂等の添加剤を含有してもよい。
【0030】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、微粒子を添加剤として含有して、滑り性を良好なものとすることが好ましい。
微粒子としては、たとえば、無機粒子として、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられ、有機系微粒子として、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などが挙げられる。微粒子の平均粒径は、0.05~5.0μmの範囲内で、摩擦特性、光学特性、その他のフィルムに対する要求特性に応じて選択することができる。
【0031】
添加剤をフィルムに含有させる方法として、各種の方法を用いることができ、例えば、半芳香族ポリアミドの重合時に添加する方法、半芳香族ポリアミドに直接添加し、溶融混練したペレットを準備するマスターバッチ法、シート製膜時に半芳香族ポリアミドに直接添加し、押出機で溶融混練する方法、シート製膜時に押出機に直接添加し、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0032】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、フィルム表面の接着性を良好にするために、コロナ処理、プラズマ処理、酸処理、火炎処理、コーティング処理等を施してもよい。
また、半芳香族ポリアミドフィルムの表面に、易接着、帯電防止、離型性、ガスバリア性などの機能を付与するために、各種コーティング剤を塗布してもよい。コーティング剤の塗布は、延伸後のフィルムに施しても、延伸前のフィルムに施してもよく、また、フィルムを延伸する直前に塗布し、延伸機の予熱区間で乾燥し、皮膜を形成してもよい。
【0033】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムの原料は、バージン原料同士を混合したものであってもよいし、また、半芳香族ポリアミド延伸フィルムを製造する際に生成する規格外のフィルムや、耳トリムとして発生するスクラップ混合物や、該スクラップ混合物にバージン原料を加えて調製したものであってもよい。これらの混合は、公知の装置でドライブレンドする方法、一軸または二軸の押出機を用いて溶融混練し混合する練り込み法等の公知の方法で行うことができる。
【0034】
(半芳香族ポリアミドフィルムの製造方法)
次に、本発明の半芳香族ポリアミドフィルムの製造方法の詳細について説明する。
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムの製造においては、半芳香族ポリアミド樹脂やこれに添加剤を配合したものを押出機で溶融押出し、TダイやIダイなどのフラットダイからポリマーメルトをシート状に吐出し、冷却ロールやスチールベルトなどの移動冷却体の冷却面に接触させて冷却することにより未延伸フィルムを得る。
【0035】
押出温度は、半芳香族ポリアミド樹脂の融点(Tm)以上、370℃以下であることが好ましい。押出温度が融点未満であると、粘度が上昇して押出しできなくなるおそれがあり、370℃を超えると、半芳香族ポリアミドが分解するおそれがある。
【0036】
移動冷却体の温度は、20~90℃であることが好ましく、30~70℃であることがより好ましく、40~60℃であることがさらに好ましい。通常、ポリアミドは、結晶化速度が速く、徐冷すると結晶が成長して延伸が困難になるため、冷却効率を高めることと、移動冷却体への水滴の結露を抑制することとを両立させるため、室温近傍に急冷することが常道である。
移動冷却体の温度が90℃を超えると、溶融ポリマーが移動冷却体上で適度な硬さを発現するまでの時間が長くなって、移動冷却体から外れにくくなる。その結果、たとえば移動冷却体がロールである場合には、破断してロールヘの巻き付きが生じたり、破断しなくてもフィルムがロールから外れるときの勢いで脈打ちが生じたりする。また未延伸フィルム中に大きさのバラついた結晶が生成して、延伸ムラが発生したり延伸が困難になったりする。
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂は、20℃未満の移動冷却体で急冷すると、溶融ポリマーにおける移動冷却体(冷却ロール)に未だ接触していない部分が硬くなり、その硬くなった部分は移動冷却体(冷却ロール)に密着しなくなることがある。結果として、未延伸フィルムは、移動冷却体に密着する部分と密着しない部分が現れ、安定して操業できなくなる。また、その後の延伸工程で破断、あるいは、不均一な延伸が起こる。これは、結晶化速度が速いという樹脂特性に加えて、ガラス転移温度(Tg)が高く、さらに、低温領域では弾性率が高く硬い樹脂特性が、移動冷却体との均一な密着を妨げ、局部的な冷却速度ムラを生じていることが原因していると考えられる。
【0037】
ポリマーメルトを均一に冷却固化してシートを得るために、ポリマーメルトを移動冷却体に密着させて冷却固化する方法として、エアーナイフキャスト法、静電印加法、バキュームチャンバ法等の方法が挙げられる。
【0038】
得られた未延伸フィルムは、通常、厚みが10μmから3mm程度であり、そのままでも低吸水性、耐薬品性等の優れた特性を有しているが、0.5μm~1.5mm程度の厚みまで二軸延伸することにより、低吸水性、耐薬品性、耐熱性、力学強度がさらに向上する。
【0039】
延伸方法としては、フラット式逐次二軸延伸法、フラット式同時二軸延伸法、チューブラ法等が挙げられる。なかでも、厚み精度が良く、巾方向の物性が均一であるフィルムが得られることから、フラット式同時二軸延伸法が最適である。
フラット式同時二軸延伸法のための延伸装置としては、スクリュー式テンター、パンタグラフ式テンター、リニアモーター駆動クリップ式テンターなどが挙げられる。
【0040】
延伸倍率は、最終的に得られる半芳香族ポリアミドフィルムの耐熱性や力学強度が優れるために縦方向(MD)および横方向(TD)にそれぞれ2.0倍~10倍の範囲であることが好ましく、2.5倍~4.0倍であることがより好ましい。
【0041】
延伸速度は、MDとTDの延伸歪み速度がいずれも400%/minを超えていることが好ましく、800~12000%/minであることがより好ましく、1200~6000%/minであることがより好ましい。歪み速度が400%/min以下であると、延伸の途中で結晶が成長して、フィルムが破断することがある。反対に歪み速度が速すぎると、未延伸フィルムが変形に追随できなくなって破断することがある。
【0042】
未延伸フィルムは、延伸前に予熱することが好ましい。本発明の半芳香族ポリアミド延伸フィルムを得るためには、予熱温度Tpと予熱時間tpが下記の(1)式の関係を満たし、かつTpが、(Tg-20)~(Tg+40)℃であることが好ましい。Tpは、(Tg-15)~(Tg+35)℃であることが好ましい。またtpは、1~60秒が現実的な範囲である。
1×10×EXP(-0.06×Tp)≦tp≦2×10×EXP(-0.1×Tp) (1)
予熱温度Tpが(Tg-20)℃未満の場合には、延伸時のフィルム破断が生じやすく、また延伸機にかかる負荷も大きく、設備上のトラブルも生じやすい。また、予熱温度が(Tg+40)℃を超える場合には、延伸ムラやフィルム破断を生じやすく、同様に延伸機にかかる負荷が大きくなる可能性がある。
上記(1)式の左辺を満たさないときは、フィルムの予熱が不十分な場合であり、フィルムが硬いまま延伸される。このため、フィルムが切れたり、延伸応力が高くなりすぎて装置への負荷が高くなり故障の原因となったりする。
また、上記(1)式の右辺を満たさないときは、フィルムが過剰に予熱されて、延伸前に結晶化が進む。このため、本来延伸操作によって配向結晶化させたいところ、延伸前に部分的に結晶化が進み、ムラになりやすく破断などの原因となる。
延伸温度は、Tg以上の温度であることが好ましく、さらにはTgを超えかつ(Tg+30)℃以下であることがより好ましい。延伸温度がTg未満の場合は、フィルムの破断が生じやすく、安定した製造を行うことができないことがある。反対に(Tg+30)℃を超えると、延伸ムラが生じることがある。
【0043】
上記延伸を行った後、延伸のためのクリップで把持したままのフィルムを、熱固定処理することが好ましい。熱固定処理温度は、280℃~(Tm-25)℃であることが好ましい。
さらに、熱固定処理を行った後、クリップで把持したままのフィルムを、必要に応じてリラックス率0.5~10.0%で弛緩処理することが好ましく、リラックス率は0.5~5.0%であることがより好ましい。フィルムは、弛緩処理を適切に行うことで、適度な熱安定性が得られるようになり、MDとTDに同時に弛緩処理することで、より高い寸法安定性が得られるようになる。
詳細なメカニズムは不明であるが、フィルムは、延伸倍率を高くすると、熱収縮応力が高くなる傾向にあり、熱処理温度およびリラックス率を高くすると、熱収縮応力が低くなる傾向にあり、それぞれの加工条件を適切に組み合わせることで、フィルムの熱収縮応力を制御することができる。
【0044】
上記熱固定処理や弛緩処理を行った後、冷却し、巻き取りロールに巻き取ることで、半芳香族ポリアミドフィルムロールが得られる。得られた半芳香族ポリアミドフィルムロールは、所望の巾にスリットして、再度、半芳香族ポリアミドフィルムロールとすることができる。
【0045】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、長さ100m以上のフィルムとして連続的に生産することができる。半芳香族ポリアミドフィルムは、枚葉にすることもできるが、各種用途への利用に際しての生産性の点からフィルムロールの形態にすることが好ましい。
【0046】
(用途)
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、フィルム保持部を含むデバイスに使用することができ、保持部に保持された半芳香族ポリアミドフィルムは、熱処理されて収縮した状態で使用することができる。上記デバイスとして、タクタイルスイッチやスピーカー、伝声器、太鼓のような楽器などが挙げられる。
【実施例0047】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
<評価方法>
以下の実施例・比較例における各種物性の評価方法は、下記のとおりとした。なお、特に記載がない限りは、いずれの測定も、温度23℃、湿度50%の環境下で行った。
【0048】
1.熱収縮応力測定
日立ハイテクサイエンス社製TMA7100を用いて、熱収縮応力を測定した。23℃、50%RHにてサンプルの調温湿を行った後、サンプルを5mm幅にカットし、測定長が10mmとなるように装置に設置した。窒素雰囲気下において、25℃から250℃まで昇温し、熱収縮力を測定した。測定前のサンプルの幅、厚みから断面積を計算し、熱収縮応力を計算した。200℃におけるMDの熱収縮応力をHS200,MD、TDの熱収縮応力をHS200,TD、250℃におけるMDの熱収縮応力をHS250,MD、MDの熱収縮応力をHS250,TDとした。
【0049】
2.熱処理後の外観観察
外径54mm、内径36mmのドーナツ状のアルミ製円板に、MDに40mm、TDに40mmの正方形状に切り出したサンプルを、日東電工社製ポリイミドテープ(360UL)を用いて、MD、TD、四隅の8か所を固定し、アズワン社製熱風乾燥機(DOV―600A)を用いて、200℃にて5分間熱処理を実施し、外観を観察した。外観に問題がなかったサンプルに関しては、室温に戻した後、さらに250℃にて5分間熱処理を実施し、外観を確認した。
【0050】
<半芳香族ポリアミド樹脂の製造方法>
テレフタル酸(TA)3289質量部、1,9-ノナンジアミン(NMDA)2533質量部、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(MODA)633質量部、安息香酸(BA)48.9質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5質量部(前記のポリアミド原料4者の合計に対して0.1質量%)および蒸留水2200質量部を反応釜に入れ、窒素置換した。これらの割合は、TA/BA/NMDA/MODA=99/2/80/20(モル比)となった。そして100℃で30分間攪拌した後、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、反応釜は2.12MPa(22kg/cm)まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2.12MPa(22kg/cm)に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を0.98MPa(10kg/cm)まで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度が0.30dl/gのプレポリマーを得た。これを100℃の温度、減圧下で12時間乾燥した後、2mm以下の大きさまで粉砕した。次いで、これを温度230℃、圧力13.3Pa(0.1mmHg)の条件下で10時間固相重合して、融点290℃、極限粘度1.25dl/gの白色の半芳香族ポリアミド樹脂を得た。これを二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX44C」)に供給し、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練して押し出し、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂を製造した。
【0051】
実施例1
ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂に、樹脂改質剤(三井ポリマー社製タフマーMH7020)をマスターバッチ法にて、5質量%となるように添加したのち、シリンダー温度を290℃(前段)、320℃(中段)、320℃(後段)に設定した65mm単軸押出機に投入して溶融し、320℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、冷却ロールの冷却面に接触させて冷却することにより、厚み240μmの未延伸フィルムを得た。移動冷却体の温度を20~50℃に設定することで、未延伸フィルムを急冷し、実質的に無配向の未延伸フィルムを得た。
次に、この未延伸フィルムの両端をクリップで把持しながら、バッチ式延伸機であるブルックナー社製KAROIVを用いて、延伸温度120℃、機械方向(MD)延伸倍率3.0倍、幅方向(TD)延伸倍率3.0倍の条件で同時二軸延伸を実施した。延伸後、280℃の熱風を当てることで熱固定を行い、同時にMDおよびTDに2.0%のリラックス率で弛緩処理を施した。
【0052】
実施例2~10、比較例1~12
樹脂改質剤の有無、また、延伸倍率、熱固定温度、リラックス率を、表1に記載のように変更する以外は実施例1と同様の製法で半芳香族ポリアミドフィルムを得た。
【0053】
実施例11
実施例1と同様の方法で未延伸フィルムを得た後、この未延伸フィルムの両端をクリップで把持しながら、入口幅193mm、出口幅605mmのテンター方式同時二軸延伸機(日立製作所社製)に導いて、予熱部温度130℃、延伸部温度130℃、MD延伸歪み速度2400%/min、TD延伸歪み速度2400%/min、MD延伸倍率3.0倍、TD延伸倍率3.0倍で同時二軸延伸した。同テンター内において280℃で熱固定を行い、フィルムのTDにリラックス率2.5%の熱弛緩処理を施した後、均一に徐冷し、フィルム両端をクリップから解放し、耳部をトリミングして、フィルムロールを得た。
【0054】
比較例13、14
樹脂改質剤の有無、熱固定温度、リラックス率を、表1に記載のように変更する以外は実施例11と同様の方法にてフィルムロールを得た。
【0055】
比較例15
実施例1で得られた未延伸フィルムについて測定、評価した。
【0056】
実施例、比較例のフィルムについて、製造条件と評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~10で得られたフィルムは、200℃および250℃での熱収縮応力値が好適な範囲である点で、加熱収縮させる加工方法を含むデバイスに、好適に使用できるものであり、熱処理後の外観にも問題がなかった。
【0059】
一方、比較例1、2、6、11、12のフィルムはリラックス率が低かったため、熱収縮応力が高く、比較例1、6のフィルムは、250℃で熱処理を施すとシワが発生し、比較例2、11、12のフィルムは、200℃熱処理後にフィルムにシワが発生し、一部にハガレが見られた。
比較例3、4、5のフィルムは、熱処理温度とリラックス率の組み合わせが悪く、また、リラックス率が不均等であったため、熱収縮率のバランスがとれておらず、好適な範囲から外れており、200℃熱処理後にシワやタルミが発生した。
比較例7~10のフィルムは、延伸倍率に対して、熱処理温度が低かったため、熱収縮応力が高く、200℃熱処理後にフィルムにシワが発生し、一部にハガレが見られた。
比較例13のフィルムは、実施例11と比較して、熱処理温度が高かったため、熱収縮応力が低く、200℃熱処理後にフィルムにタルミが発生した。
比較例14のフィルムは、実施例11と比較して、熱処理温度が低かったため、熱収縮応力が高く、250℃熱処理後にフィルムにシワが発生した。
比較例15の未延伸フィルムは、熱収縮応力が低く、200℃熱処理後にフィルムにタルミが発生した。