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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005480
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】橋梁変位監視システム
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20250109BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20250109BHJP
   G01S 19/43 20100101ALI20250109BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
E01D1/00 Z
E01D22/00 A
G01S19/43
G01C15/00 104Z
G01C15/00 102C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105630
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594128913
【氏名又は名称】株式会社長大
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 渉
(72)【発明者】
【氏名】江川 真史
(72)【発明者】
【氏名】福場 俊和
(72)【発明者】
【氏名】清水 則一
(72)【発明者】
【氏名】有井 賢次
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
【テーマコード(参考)】
2D059
5J062
【Fターム(参考)】
2D059GG39
5J062AA01
5J062BB08
5J062CC07
5J062HH09
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち継続的に橋梁部材の変位を計測するとともに、温度に伴う変位を控除したうえでその変位量の適否を判断することができる橋梁変位監視システムを提供するものである。
【解決手段】本願発明の橋梁変位監視システムは、橋梁の変位を監視するシステムであって、温度計測手段と測位手段、観測点変位算出手段、平滑変位算出手段、温度別変位生成手段、相関値算出手段、処理手法選出手段、温度変位算出手段、変位差算出手段、第1警告出力手段を備えたものである。平滑変位算出手段は観測点変位に対して2種類以上のノイズ処理を行い2種類以上「平滑変位」を求め、温度別変位生成手段は「時刻別温度データセット」と2種類以上の「時刻別変位データセット」に基づいて2種類以上の「温度別変位データセット」を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の変位を監視するシステムであって、
前記橋梁の対象部材に配置される観測点を、測位衛星を利用して繰り返し測位することによって、観測点座標を取得する測位手段と、
前記対象部材の温度を繰り返し計測することによって、部材温度を取得する温度計測手段と、
前記観測点座標に基づいて、前記観測点の観測点変位を求める観測点変位算出手段と、
複数の前記観測点変位に対して、異なる2以上の種類のノイズ処理を行うことによって、2以上の種類の平滑変位を求める平滑変位算出手段と、
時刻別温度データセットと、2以上の種類の時刻別変位データセットと、に基づいて、2以上の種類の温度別変位データセットを生成する温度別変位生成手段と、
前記時刻別変位データセットと、該時刻別変位データセットに基づいて生成された前記温度別変位データセットと、の相関の程度を示す相関値を算出する相関値算出手段と、
前記相関値算出手段によって算出された前記相関値のうち最も大きな値を示す最大相関値を選出するとともに、2以上の種類の前記ノイズ処理のうち該最大相関値に係る該ノイズ処理を決定ノイズ処理として選出する処理手法選出手段と、
温度を条件とした構造解析を行うことによって、前記対象部材の温度変位を算出する温度変位算出手段と、
前記平滑変位と、前記温度変位と、の変位差を算出する変位差算出手段と、
前記変位差と、変位差閾値と、を照らし合わせ、該変位差が該変位差閾値を上回るときに警告を出力する第1警告出力手段と、を備え、
前記時刻別温度データセットは、複数の時刻別温度データを含み、
前記時刻別変位データセットは、複数の時刻別変位データを含み、
前記温度別変位データセットは、複数の温度別変位データを含み、
前記時刻別温度データは、前記温度計測手段が計測した温度計測時刻と、該温度計測時刻に係る前記部材温度と、の組み合わせからなり、
前記時刻別変位データは、前記測位手段が測位した測位時刻と、該測位時刻に係る前記平滑変位と、の組み合わせからなり、
前記温度別変位データは、前記部材温度と、前記平滑変位と、の組み合わせからなり、
前記温度別変位生成手段は、前記部材温度と、該部材温度に係る前記温度計測時刻と同一又は近似する前記測位時刻に係る前記平滑変位と、を組み合わることによって、前記温度別変位データセットを生成し、
前記変位差算出手段は、前記決定ノイズ処理に係る前記温度別変位データセットに基づいて、同じ部材温度どうしの前記観測点変位と前記温度変位との前記変位差を算出する、
ことを特徴とする橋梁変位監視システム。
【請求項2】
前記観測点変位算出手段は、基線解析を行うことによってスタティック測位に基づく前記観測点のスタティック座標を求めるとともに、該スタティック座標に基づいて該観測点に係るスタティック変位を求める、
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁変位監視システム。
【請求項3】
前記変位差閾値を算出する閾値算出手段を、さらに備え、
前記閾値算出手段は、前記変位差算出手段によって算出された複数の前記変位差に対して統計処理を行うことによって、前記変位差閾値を算出し、
前記第1警告出力手段は、前記閾値算出手段によって算出された前記変位差閾値と、前記変位差と、を照らし合わせる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の橋梁変位監視システム。
【請求項4】
前記時刻別変位データセットと、該時刻別変位データセットに基づいて生成された前記温度別変位データセットと、に基づいて回帰式を生成する回帰式生成手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の橋梁変位監視システム。
【請求項5】
基線解析を行うことによってリアルタイムキネマティック測位に基づく前記観測点のRTK座標を求めるとともに、該RTK座標に基づいて該観測点に係るRTK変位を求めるRTK変位算出手段と、
着目時刻から一定期間だけ遡った平均対象区間に含まれる複数の前記RTK変位の平均値であるRTK移動平均値を算出するRTK移動平均算出手段と、
前記RTK移動平均値と、該RTK移動平均値に係る前記着目時刻と同一又は近似する前記温度計測時刻に係る前記部材温度に基づいて前記温度変位算出手段が算出した前記温度変位と、の差分であるRTK差分を算出するRTK差分算出手段と、
前記RTK差分と、RTK差分閾値と、を照らし合わせ、該RTK差分が該RTK差分を上回るときに警告を出力する第2警告出力手段と、を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁変位監視システム。
【請求項6】
基線解析を行うことによってリアルタイムキネマティック測位に基づく前記観測点のRTK座標を求めるとともに、該RTK座標に基づいて該観測点に係るRTK変位を求めるRTK変位算出手段と、
着目時刻における前記RTK変位と、該着目時刻と同一又は近似する前記温度計測時刻に係る前記部材温度に基づいて前記温度変位算出手段が算出した前記温度変位と、の差分であるRTK差分を算出するRTK差分算出手段と、
前記RTK差分と、RTK差分閾値と、を照らし合わせ、該RTK差分が該RTK差分閾値を上回るときに警告を出力する第2警告出力手段と、を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁変位監視システム。
【請求項7】
前記RTK差分閾値を算出するRTK閾値算出手段を、さらに備え、
前記RTK閾値算出手段は、前記着目時刻から所定期間だけ遡った区間に含まれる複数の前記RTK差分に対して統計処理を行うことによって、前記RTK差分閾値を算出し、
前記第2警告出力手段は、前記RTK差分と、該RTK差分に係る前記着目時刻よりも前の前記着目時刻に基づく前記RTK差分閾値と、を照らし合わせる、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の橋梁変位監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、橋梁の変位監視に関する技術であり、より具体的には、衛星測位によって得られる変位と構造解析によって得られる温度変位を照らし合わせることによって異常な変位を検出することができる橋梁変位監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。例えば橋梁に関しては、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象とし、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。
【0004】
橋梁点検では、コンクリートのひび割れをはじめとする損傷箇所を検出し、後に確認できるようその結果を記録する。例えば、橋梁のコンクリート床版のひび割れを検出する場合、ひび割れの程度(長さや幅等)などの詳細情報だけでなく、そのひび割れがどこに発生しているかも記録しなければならない。そして従来の点検では、ひび割れを目視で検出するとともに、そのひび割れの配置を、あらかじめ用意した構造物の図面に現地で記入していくこともあった。
【0005】
このように橋梁点検を実施するには、多くの時間と人手を必要とし、故に相当なコストが掛かっていた。特に、有害なひび割れかそうでないか、そもそもひび割れなのかどうかといったことを判別するには、点検者として相当の経験や知識が求められ、さらに建設業界における近年の人手不足を考えると、橋梁点検の際に適切な点検者を確保することはより難しくなりつつある。
【0006】
橋梁の健全度を確認し、あるいは異常個所を検出するには、ひび割れ調査も一つの手段として十分考えられるが、コンクリート部材に限られ、すなわち鋼橋に適用することは難しい。また、有害なひび割れを検出することは極めて有益ではあるものの、いわば事後的に異常個所を確認する手法であり、将来的に異常が生じる可能性がある箇所を予見するものではない。
【0007】
そこで、供用中の橋梁を対象として、その変位量を計測することによって橋梁の健全度を把握する調査も行われている。異常な変位が頻出する部材は、将来的に変状が生ずる可能性があると予測することができ、故に早期に補強等の対策を講じることができるわけである。例えば特許文献1では、橋梁の各所に加速度センサを設置し、この加速度センサが取得したデータに基づいて車両通過時の変位量を算出する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-095684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される技術は、車両走行に伴ういわば活荷重による変位を把握するものである。しかしながら、橋梁の部材にとってより注視すべきは、自重などの死荷重によって生じる変位である。つまり、活荷重による変位はいわば一時的なものであるに対して、死荷重による変位は累積的であり、その変位量が継続して大きくなっていくと遂には損傷などが生じるおそれがあるわけである。そのため特許文献1の技術では、部材の損傷を予見するという意味では十分な技術とはいえない。
【0010】
ところで、橋梁の部材は温度に応じて変形することが知られている。そのため、死荷重に伴う有害な変位なのか、あるいは単に温度上昇に伴う変位なのかを見極めることが肝要となる。夏場など気温が上昇したときに橋梁部材が変形したとしても、通常の気温になればその変形も元に戻るため、特段注視する必要はない。一方、温度上昇による変位量を超える変位量が認められるとき、しかもその変位量が看過できない程度であれば、継続して注視するとともに、必要に応じて対策を講じることとなる。
【0011】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち継続的に橋梁部材の変位を計測するとともに、温度に伴う変位を控除したうえでその変位量の適否を判断することができる橋梁変位監視システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、衛星測位によって得られる変位に対して複数種類のノイズ処理を行うとともに、温度変化に伴う変位の推移と照らし合わせることによって、最も適したノイズ処理を選出したうえで、温度に伴う変位を控除した変位量を求める、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0013】
本願発明の橋梁変位監視システムは、橋梁の変位を監視するシステムであって、測位手段と温度計測手段、観測点変位算出手段、平滑変位算出手段、温度別変位生成手段、相関値算出手段、処理手法選出手段、温度変位算出手段、変位差算出手段、第1警告出力手段を備えたものである。このうち測位手段は、対象部材に配置される観測点を繰り返し測位することによって「観測点座標」を求める手段であり、温度計測手段は、対象部材の温度を繰り返し計測することによって「部材温度」を取得する手段であり、観測点変位算出手段は、観測点座標に基づいて観測点の「観測点変位」を求める手段である。また、平滑変位算出手段は、複数の観測点変位に対して異なる2以上の種類のノイズ処理を行うことによって2種類以上の「平滑変位」を求める手段であり、温度別変位生成手段は、「時刻別温度データセット」と2種類以上の「時刻別変位データセット」に基づいて2種類以上の「温度別変位データセット」を生成する手段である。相関値算出手段は、時刻別変位データセットと、その時刻別変位データセットに基づいて生成された温度別変位データセットとの相関の程度を示す「相関値」を算出する手段である。処理手法選出手段は、相関値算出手段によって算出された相関値のうち最も大きな値を示す「最大相関値」を選出するとともに、2種類以上のノイズ処理のうち最大相関値に係るノイズ処理を「決定ノイズ処理」として選出する手段である。温度変位算出手段は、温度を条件とした構造解析を行うことによって対象部材の「温度変位」を算出する手段であり、変位差算出手段は、観測点変位と温度変位との「変位差」を算出する手段であり、第1警告出力手段は、変位差と変位差閾値を照らし合わせ変位差が変位差閾値を上回るときに警告を出力する手段である。なお、時刻別温度データセットには複数の時刻別温度データが含まれ、時刻別変位データセットには複数の時刻別変位データが含まれ、温度別変位データセットには複数の温度別変位データが含まれる。また、時刻別温度データは、温度計測手段が計測した「温度計測時刻」とその温度計測時刻に係る「部材温度」との組み合わせからなり、時刻別変位データは、測位手段が測位した「測位時刻」とその測位時刻に係る観測点変位との組み合わせからなり、温度別変位データは、部材温度と観測点変位の組み合わせからなる。温度別変位データが温度別変位データセットを生成するときに部材温度と組み合わせる観測点変位は、その部材温度に係る温度計測時刻と同一の(あるいは、近似する)測位時刻に係る観測点変位とされる。また変位差算出手段は、決定ノイズ処理に係る温度別変位データセットに基づいて、同じ部材温度どうしの観測点変位と温度変位との変位差を算出する。
【0014】
本願発明の橋梁変位監視システムは、観測点変位算出手段が「スタティック変位」を求めるものとすることもできる。この場合、観測点変位算出手段は、測位データに対して基線解析を行うことによって、スタティック測位に基づく観測点の「スタティック座標」を求め、そのスタティック座標に基づいて観測点に係る「スタティック変位」を求める。
【0015】
本願発明の橋梁変位監視システムは、変位差閾値を算出する閾値算出手段を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、閾値算出手段は、変位差算出手段によって算出された複数の変位差に対して統計処理を行うことによって変位差閾値を算出する。そして、第1警告出力手段は、閾値算出手段によって算出された変位差閾値と変位差を照らし合わせる。
【0016】
本願発明の橋梁変位監視システムは、回帰式生成手段をさらに備えたものとすることもできる。この回帰式生成手段は、時刻別変位データセットと、その時刻別変位データセットに基づいて生成された温度別変位データセットに基づいて、回帰式を生成する手段である。
【0017】
本願発明の橋梁変位監視システムは、RTK変位算出手段と、RTK移動平均算出手段、RTK差分算出手段、第2警告出力手段をさらに備えたものとすることもできる。このRTK変位算出手段は、測位データに対して基線解析を行うことによって、リアルタイムキネマティック測位に基づく観測点の「RTK座標」を求めるとともに、そのRTK座標に基づいて観測点に係る「RTK変位」を求める手段である。また、RTK移動平均算出手段は、「着目時刻」から一定期間だけ遡った「平均対象区間」に含まれる複数のRTK変位の平均値である「RTK移動平均値」を算出する手段である。RTK差分算出手段は、RTK移動平均値と温度変位との差分である「RTK差分」を算出する手段である。ただし、この温度変位は、そのRTK移動平均値に係る着目時刻と同一の(あるいは、近似する)温度計測時刻に係る部材温度に基づいて温度変位算出手段が算出した温度変位とされる。第2警告出力手段は、RTK差分とRTK差分閾値を照らし合わせ、RTK差分がRTK差分閾値を上回るときに警告を出力する手段である。
【0018】
本願発明の橋梁変位監視システムは、RTK変位算出手段と、RTK差分算出手段、第2警告出力手段を備えたものとすることもできる。この場合、RTK差分算出手段は、着目時刻におけるRTK変位と、温度変位との差分を「RTK差分」として算出する。
【0019】
本願発明の橋梁変位監視システムは、RTK差分閾値を算出するRTK閾値算出手段を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、RTK閾値算出手段は、着目時刻から所定期間だけ遡った区間(例えば、平均対象区間)に含まれる複数のRTK差分に対して統計処理を行うことによって、RTK差分閾値を算出する。そして、第2警告出力手段は、RTK差分とRTK差分閾値を照らし合わせる。ただし、このRTK差分閾値は、RTK差分に係る着目時刻よりも前の着目時刻に基づくRTK差分閾値とされる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の橋梁変位監視システムには、次のような効果がある。
(1)温度に伴う変位を控除したうえで、つまり死荷重に伴う真の変位を検出したうえで判断することから、適切に橋梁の変位を監視することができる。
(2)自動的かつ継続的に橋梁の変位を監視することができる。この結果、将来的に変状が生ずる可能性がある部材を予測することができ、これにより早期に補強等の対策を講じることができる。
(3)点検者に頼らず監視することができるため近年の人手不足という環境の中でも無理なく実施することができる。また、相当の経験や知識を備えた点検者を確保する必要がなく、すなわちいわゆるヒューマンエラーなどの誤判断を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】支間中央の桁部分と橋脚、橋台それぞれに測位手段と温度計測手段が設置された道路橋を示す側面図。
図2】第1警告を出力するための本願発明の橋梁変位監視システムの主な構成を示すブロック図。
図3】第2警告を出力するための本願発明の橋梁変位監視システムの主な構成を示すブロック図。
図4】(a)は「観測点No1」における南北方向の変位の推移を示すグラフ図、(b)は「観測点No1」における東西方向の変位の推移を示すグラフ図、(c)は「観測点No1」における高さ方向の変位の推移を示すグラフ図。
図5】平滑変位算出手段による処理を説明するための数式図。
図6】平滑変位算出手段によるカルマンフィルタと平滑化処理について説明するためのモデル図。
図7】(a)は複数の時刻別変位データからなる時刻別変位データセットを模式的に示すモデル図、(b)は複数の時刻別温度データからなる時刻別温度データセットを模式的に示すモデル図、(c)は複数の温度別変位データからなる温度別変位データセットを模式的に示すモデル図。
図8】(a)は「時刻」と「変位」の2軸からなる座標系に複数の時刻別変位データをプロットした「測位時刻-平滑変位推移グラフ」を示すグラフ図、(b)は「時刻」と「温度」の2軸からなる座標系に複数の時刻別温度データをプロットした「温度計測時刻-部材温度推移グラフ」を示すグラフ図、(c)は「温度」と「変位」の2軸からなる座標系に複数の温度別変位データをプロットした「部材温度-平滑変位推移グラフ」を示すグラフ図。
図9】温度別変位生成手段が温度別変位データセットを生成する手順を模式的に示すモデル図。
図10】時刻別変位データセットと、その時刻別変位データセットに基づいて生成された温度別変位データセットに基づいて生成された相関値と回帰式を模式的に示すモデル図。
図11】閾値算出手段が「変位差閾値」を算出する手順を説明するモデル図。
図12】RTK移動平均算出手段が「RTK移動平均値」を算出する手順を説明するモデル図。
図13】本願発明の橋梁変位監視システムが「変位差」を判定するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
図14】本願発明の橋梁変位監視システムが「RTK差分」を判定するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の橋梁変位監視システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明の橋梁変位監視システムは、橋梁のうち目的とする部材(以下、「対象部材」という。)の変位を監視するものであり、測位衛星STを用いた測位によって測位部材の変位(以下、「観測点変位」という。)を求めるとともに、対象部材の温度(以下、「部材温度」という。)に基づく構造解析によって測位部材(以下、「温度変位」という。)の変位を求める。そのため対象部材には、図1に示すように、測位衛星STからの電波(搬送波)を受信する受信機RCが設置されるとともに、部材温度を継続的に取得することができる「温度計測手段102」が設置される。例えば図1では、支間中央の桁部分と橋脚、橋台それぞれ受信機RCと温度計測手段102が設置されている。
【0023】
図2図3は、本願発明の橋梁変位監視システム100の主な構成を示すブロック図であり、このうち図2は第1警告出力手段による警告(以下、「第1警告」という。)を出力するためのブロック図であり、図3は第2警告出力手段による警告(以下、「第2警告」という。)を出力するためのブロック図である。これらの図に示すように本願発明の橋梁変位監視システム100は、主に測位手段101と温度計測手段102、観測点変位算出手段103、平滑変位算出手段104、温度別変位生成手段105、相関値算出手段106、処理手法選出手段107、温度変位算出手段108、変位差算出手段109、第1警告出力手段110を含んで構成され、さらに閾値算出手段111や回帰式生成手段112、時刻別変位生成手段113、時刻別温度生成手段114、RTK変位算出手段115、RTK移動平均算出手段116、RTK差分算出手段117、第2警告出力手段118、RTK閾値算出手段119、測位データ記憶手段120、部材温度記憶手段121、3Dモデル記憶手段122などを含んで構成することもできる。
【0024】
橋梁変位監視システム100を構成する観測点変位算出手段103と平滑変位算出手段104、温度別変位生成手段105、相関値算出手段106、処理手法選出手段107、温度変位算出手段108、変位差算出手段109、第1警告出力手段110、閾値算出手段111、回帰式生成手段112、時刻別変位生成手段113、時刻別温度生成手段114、RTK変位算出手段115、RTK移動平均算出手段116、RTK差分算出手段117、第2警告出力手段118、RTK閾値算出手段119は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることによって、これら各種手段の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)といったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、を具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0025】
また、測位データ記憶手段120と部材温度記憶手段121、3Dモデル記憶手段122は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0026】
以下、本願発明の橋梁変位監視システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0027】
(温度計測手段)
温度計測手段102は、図1に示すように計画された1又は2個所以上の対象部材に設置され、その対象部材の「部材温度」を計測するものである。この温度計測手段102としては、従来用いられている種々の温度計を利用することができ、対象部材の部材温度を直接的に計測する温度計を利用することもできるし、対象部材の周辺気温を部材温度として計測する温度計を利用することもできる。ただし温度計測手段102は、定期的(あるいは、断続的)に繰り返し部材温度を取得するものとされる。なお便宜上ここでは、温度計測手段102が計測した時刻のことを「温度計測時刻」ということとする。そして、温度計測手段102が計測した部材温度とその温度計測時刻は、例えば通信手段によって送信されたうえで部材温度記憶手段121に記憶される(図2)。
【0028】
(測位手段)
測位手段101は、受信機RCと通信手段、解析手段を含んで構成され、さらに発電手段を含んで構成することもできる。受信機RCは、図1に示すように計画された1又は2個所以上の対象部材に設置され、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)に用いられるものであって、すなわち測位衛星STからの電波(搬送波)を受信する機器である。また受信機RCは同時に4以上の衛星から受信することができ、しかもスタティック測位が可能であってキネマティック測位(特に、リアルタイムキネマティック測位)も可能なものを用いるとよい。なお受信機RCは、計画された対象部材のほか、さらに対象部材以外の基準点(不動点)にも設置される。
【0029】
測位手段101を構成する「発電手段」は、受信機RCや通信手段に供給するための電気を発電するもので、例えば太陽光発電装置などを利用することができる。この発電手段を配備することで商用電力の使用を回避でき、さらに橋梁における配電線を省略することができるため景観やメンテナンスの点で好適となる。また受信機RCは、演算手段を備えたものとすることもできる。この演算手段は観測点の座標を求めるものであり、すなわち現地(橋梁)にて座標を算出するわけである。
【0030】
測位手段101を構成する「解析手段」は、受信機RCが繰り返し受信したデータ(以下、単に「受信データ」という。)に基づいて、観測点(つまり、対象部材)の3次元座標(以下、「観測点座標」という。)を求める手段である。なお便宜上ここでは、受信機RCが受信データを受信した時刻のことを単に「測位時刻」ということとする。解析手段は、従来用いられている種々の解析技術によって観測点座標を算出することができる。例えば、絶対単独測位やディファレンシャル測位といった「単独測位方式」によって観測点座標を算出する仕様とすることもできるし、スタティック測位やキネマティック測位といった「干渉測位方式」によって観測点座標を算出する仕様とすることもできる。
【0031】
干渉測位方式のうちスタティック測位は、複数の受信機で4以上の衛星を観測し、受信機RCが受信した受信データに対して基線解析を行うことによって観測点の座標を求める手法である。このスタティック測位によれば、最も高精度(水平精度5~10mm程度)で観測点の座標を求めることができるものの、1回の解析に比較的長い観測時刻(例えば1時間)を要する。一方のキネマティック測位は、同じく受信機RCが受信した受信データに対して基線解析を行うことによって観測点の座標を求める手法であり、短時間での観測(例えば、120~3,600点/1時間)が可能であるものの、スタティック測位に比べるとその精度は劣る(水平精度20~30mm程度)。なお便宜上ここでは、解析手段がスタティック測位の手法によって求めた観測点座標のことを特に「スタティック座標」ということとし、キネマティック測位の手法によって求めた観測点座標のことを特に「RTK座標」ということとする。測位手段101の受信機RCが受信した受信データやその測位時刻、解析手段が算出した観測点座標は、測位データ記憶手段120に記憶される(図2)。
【0032】
(観測点変位算出手段)
観測点変位算出手段103は、測位手段101によって算出された観測点座標に基づいて、観測点(つまり、対象部材)の「観測点変位」を求める手段である。具体的には、観測点変位算出手段103が、測位データ記憶手段120に記憶された観測点座標(例えば、スタティック座標)を読み出し、観測点の「初期(設置時)の観測点座標」と「今回の測位に基づく観測点座標」との差分を観測点変位として算出する。なお、観測点座標は3次元座標であるから、2時期(初期と今回)の観測点座標により求められる観測点変位は、大きさ(変位量)と方向(変位方向)を具備する変位ベクトルとして得ることもできる。
【0033】
(平滑変位算出手段)
GNSS測位によるデータは、衛星配置や上空視界、気象条件等の様々な誤差要因のため、図4に示すようにその値がばらつくことが知られている。例えば、比較的高精度とされる水平方向(南北方向NS、東西方向EW)でも±5mm+1ppm×D(D:基線長km)程度でばらつきが生じ、高さ方向(UD)では±10mm+1ppm×D程度でばらつきが生じる。つまり、測位手段101はノイズを含んだ状態で観測点座標を求め、観測点変位算出手段103はノイズを含んだ状態で観測点変位を求めるわけである。
【0034】
そこで本願発明では、平滑変位算出手段104によって、観測点変位からノイズを除去する「ノイズ処理」を行うこととした。便宜上ここでは、平滑変位算出手段104によってノイズが取り除かれた観測点変位のことを、特に「平滑変位」ということとする。ただし、平滑変位算出手段104は、観測点変位に対して2以上の種類のノイズ処理を行い、すなわち2以上の種類の平滑変位を求める。
【0035】
平滑変位算出手段104が平滑変位を求めるにあたっては、従来用いられている種々のノイズ処理の手法を採用することができ、例えば「トレンドモデル」と「状態空間モデル」を利用した統計処理(以下、便宜上「トレンドモデル処理」という。)を行う仕様とすることができる。以下、トレンドモデル処理の内容について図5図6を参照しながら詳しく説明する。図5は、平滑変位算出手段104による処理を説明するための数式図であり、図6は、カルマンフィルタと平滑化処理について説明するためのモデル図である。
【0036】
測位データのような「時系列計測データ」は、「変位トレンド」に「変動成分」が加わったものと考えることができる。そこで、変動成分を単純な正規白色雑音(ホワイトノイズ)とすると、図5の式1に基づく観測モデルで表現することができる。また図5の式2と式3を用いることによって、時系列YからトレンドUを推定するためのモデル、すなわち式1の観測モデルにトレンド成分モデルを組み合わせた「トレンドモデル」を設定することができる。
【0037】
時系列解析では、その多くの場合で状態空間モデルの状態推定問題として定式化することができる。例えば、図5の式4と式5を用いることによって、トレンドモデルを「状態空間モデル」で表すことができる。そしてこの状態空間モデルに対して、カルマンフィルタによる状態推定、及び平滑化処理を行うことによってノイズを除去することができる。ところで状態空間モデルの状態推定問題では、時系列Yの測位データに基づいて状態xの推定を行うことが重要となる。しかしながら、通常の時系列解析で行われる回帰分析では、測位データに含まれる異常値(極めて誤差の大きな観測値)に追随しすぎるため、異常値と橋梁変位の区別ができないこともある。そこで図6に示すように、カルマンフィルタのアルゴリズムを適用して状態推定を行うとよい。図6に示す手法では、現在のGNSS測定値(測位データ)から一期先の予測を行い、新しい観測点変位(観測点座標)が得られたときにその予測誤差を評価することによって推定精度が改善されることとなる。この処理を随時行いながら、新しい観測点変位(観測点座標)が得られるたびにフィルタリングと固定区間平滑化法による平滑化処理を行うわけである。
【0038】
そして、初回から今回の測位までの全ての観測点変位(以下、「累積データ」という。)を対象としたうえで1階差分によるトレンドモデル処理を「第1のノイズ処理」とし、累積データを対象としたうえで2階差分によるトレンドモデル処理を「第2のノイズ処理」、今回の測位から所定の期間だけ遡った区間に含まれる観測点変位(以下、「区間限定データ」という。)を対象としたうえで1階差分によるトレンドモデル処理を「第3のノイズ処理」とするなど2以上の種類のノイズ処理を行い、2以上の種類の平滑変位を求めることができる。もちろん、区間限定データを対象としたうえで2階差分によるトレンドモデル処理を行って平滑変位を求めることもできるし、累積データや区間限定データを対象としたうえで3階以上の差分によるトレンドモデル処理を行って平滑変位を求めることもできる。さらに、トレンドモデル処理とは異なる従来手法を用いたノイズ処理を行って平滑変位を求めることもできる。ここで得られた2以上の種類の平滑変位は、測位データ記憶手段120に記憶することができる。
【0039】
(温度変位算出手段)
温度変位算出手段108は、計画された1又は2個所以上の対象部材ごとに、その対象物の部材温度を条件とした構造解析を行うことによって、対象部材の温度変位を算出する手段である。なおここで行う構造解析は、対象とする橋梁を3次元のモデル化した「3次元立体骨組みモデル」を用いて行われる。具体的には、温度変位算出手段108が、部材温度記憶手段121から温度変位を読み出すとともに、3Dモデル記憶手段122から3次元立体骨組みモデルを読み出したうえで、従来用いられている種々の解析手法によって対象部材の温度変位を算出する。
【0040】
(時刻別変位生成手段)
時刻別変位生成手段113は、「時刻別変位データセット」を生成する手段である。ここで時刻別変位データセットとは、図7(a)に示すように複数の「時刻別変位データ」を含んで構成されるもので、この時刻別変位データは「測位時刻」とその測位時刻に係る「平滑変位」との組み合わせからなるいわば座標データである。したがって時刻別変位生成手段113は、測位データ記憶手段120から測位時刻と平滑変位を読み出して、時刻別変位データセットを生成する。ただし測位データ記憶手段120には、2以上の種類の平滑変位が記憶されていることから、時刻別変位生成手段113は2以上の種類の時刻別変位データセットを生成する。また、時刻別変位生成手段113は、図8(a)に示すように「時刻」と「変位」の2軸からなる座標系に複数の時刻別変位データをプロットすることによって「測位時刻-平滑変位推移グラフ」を生成することもできる。
【0041】
(時刻別温度生成手段)
時刻別温度生成手段114は「時刻別温度データセット」を生成する手段である。ここで時刻別温度データセットとは、図7(b)に示すように複数の「時刻別温度データ」を含んで構成されるもので、この時刻別温度データは「温度計測時刻」とその温度計測時刻に係る「部材温度」との組み合わせからなるいわば座標データである。したがって時刻別温度生成手段114は、部材温度記憶手段121から温度計測時刻と部材温度を読み出して、時刻別温度データセットを生成する。また、時刻別温度生成手段114は、図8(b)に示すように「時刻」と「温度」の2軸からなる座標系に複数の時刻別温度データをプロットすることによって「温度計測時刻-部材温度推移グラフ」を生成することもできる。
【0042】
(温度別変位生成手段)
温度別変位生成手段105は、時刻別変位データセットと時刻別温度データセットに基づいて「温度別変位データセット」を生成する手段である。ここで温度別変位データセットとは、図7(c)に示すように複数の「温度別変位データ」を含んで構成されるもので、この温度別変位データは「部材温度」と「平滑変位」との組み合わせからなるいわば座標データである。ただし、2以上の種類の時刻別変位データセットが生成されていることから、温度別変位生成手段105は2以上の種類の温度別変位データセットを生成する。以下、図9を参照しながら、温度別変位生成手段105が温度別変位データセットを生成する手順について説明する。なおこの図では、3種類の時刻別変位データセットが生成された例を示しており、それぞれ「第1時刻別変位データセット」、「第2時刻別変位データセット」、「第3時刻別変位データセット」ということとする。
【0043】
まず温度別変位生成手段105は、第1時刻別変位データセットに含まれる時刻別変位データから測位時刻を読み出し、その測位時刻と同一である、あるいは最も近い温度計測時刻を有する時刻別温度データを時刻別温度データセットから抽出する。次いで、その時刻別変位データが有する「平滑変位」と、抽出された時刻別温度データが有する「部材温度」とを組み合わせることによって、「温度別変位データ」を生成する。そして、第1時刻別変位データセットに含まれる全ての時刻別変位データについて温度別変位データを生成することによって、「第1温度別変位データセット」を生成する。また、同様の手順を繰り返し行うことによって、すなわち第2時刻別変位データセットと時刻別温度データセットに基づいて「第2温度別変位データセット」を生成し、第3時刻別変位データセットと時刻別温度データセットに基づいて「第3温度別変位データセット」を生成する。また、温度別変位生成手段105は、図8(c)に示すように「温度」と「変位」の2軸からなる座標系に複数の温度別変位データをプロットすることによって「部材温度-平滑変位推移グラフ」を生成することもできる。
【0044】
(相関値算出手段)
相関値算出手段106は、時刻別変位データセットと温度別変位データセットとの相関の程度を示す「相関値(例えば、相関係数や決定係数など)」を算出する手段である。ただしこの相関値を求める際、時刻別変位データセットと組み合わせる温度別変位データセットは、その時刻別変位データセットに基づいて生成された温度別変位データセットである。例えば、「第1時刻別変位データセット」と「第2時刻別変位データセット」、「第3時刻別変位データセット」の3種類の時刻別変位データセットが生成された場合、図10に示すように、第1時刻別変位データセットと第1温度別変位データセットに基づいて「第1相関値」が算出され、第2時刻別変位データセットと第2温度別変位データセットに基づいて「第2相関値」が算出され、第3時刻別変位データセットと第3温度別変位データセットに基づいて「第3相関値」が算出される。
【0045】
(回帰式生成手段)
回帰式生成手段112は、時刻別変位データセットと温度別変位データセットに基づいて回帰式を算出する手段である。この回帰式としては、1次式や2次式のほか、3次以上の回帰式とすることができる。ただし相関値の算出と同様、この回帰式を求める際、時刻別変位データセットと組み合わせる温度別変位データセットは、その時刻別変位データセットに基づいて生成された温度別変位データセットである。例えば、「第1時刻別変位データセット」と「第2時刻別変位データセット」、「第3時刻別変位データセット」の3種類の時刻別変位データセットが生成された場合、図10に示すように、第1時刻別変位データセットと第1温度別変位データセットに基づいて「第1回帰式」が算出され、第2時刻別変位データセットと第2温度別変位データセットに基づいて「第2回帰式」が算出され、第3時刻別変位データセットと第3温度別変位データセットに基づいて「第3回帰式」が算出される。
【0046】
(処理手法選出手段)
処理手法選出手段107は、2以上の種類の平滑変位を求める際に用いられた2以上の種類のノイズ処理の中から「決定ノイズ処理」を選出する手段である。具体的には、相関値算出手段106によって算出された複数種類の相関値(図10の例では、第1相関値~第3相関値)のうち最大の値を示すものを「最大相関値」として選出し、その最大値の相関値に係るノイズ処理を「決定ノイズ処理」として選出する。例えば図10に示す「第2相関値」が「最大相関値」として選出された場合、第2温度別変位データセットや第2時刻別変位データセットのいわば由来であるノイズ処理(第2ノイズ処理)が「決定ノイズ処理」として選出されるわけである。
【0047】
(変位差算出手段)
変位差算出手段109は、平滑変位と温度変位との差である「変位差」を算出する手段である。ただし、この変位差を算出するための平滑変位は、決定ノイズ処理を用いて求められた平滑変位である。また、ここで用いられる温度変位は、平滑変位と部材温度が共通する温度変位である。以下、変位差算出手段109が、平滑変位と温度変位を読み出したうえで、変位差を算出する手順について説明する。
【0048】
まず変位差算出手段109は、決定ノイズ処理によって得られた温度別変位データセットを参照し、温度別変位データに含まれる平滑変位と部材温度を読み出す。次いで、読み出された部材温度を条件として温度変位算出手段108が算出した温度変位を読み出す。そして、読み出された平滑変位と温度変位によって変位差を算出する。なお、この変位差は、平滑変位から温度変位を差し引いた値とし、すなわち正負が付された値とするとよい。また変位差算出手段109は、測位手段101が観測点座標を算出(つまり、観測点変位算出手段103や平滑変位算出手段104が処理を実行)するタイミングで変位差を算出する仕様とすることもできるし、2以上の観測点座標(つまり、平滑変位)が得られたタイミングで変位差を算出する仕様とすることもできる。例えば、測位手段101が観測点座標としてスタティック測位による「スタティック座標」を求める場合、変位差算出手段109が1時間(スタティック測位の観測時間)ごと変位差を算出することもできるし、変位差算出手段109が2時間(あるいは3時間以上)ごと変位差を算出することもできる。
【0049】
(第1警告出力手段)
第1警告出力手段110は、対象部材に異常な変位差が算出されたときに、警告(以下、「第1警告」という。)を出力する手段である。具体的には、第1警告出力手段110が変位差と閾値(以下、「変位差閾値」という。)を照らし合わせ、その変位差が変位差閾値を上回る(あるいは、以上となる)ときに第1警告を出力する。このとき、第1警告とともにその対象部材や変位差を出力することもできる。また、ディスプレイ等の表示手段に第1警告などを表示したり、音声によって第1警告などを出力したり、種々の手法で出力することができる。また変位差閾値は、あらかじめ定めたものを用いることもできるし、閾値算出手段111がいわば動的に求めたものを用いることもできる。
【0050】
(閾値算出手段)
閾値算出手段111は、第1警告出力手段110が参照する「変位差閾値」を算出する手段である。以下、図11を参照しながら、閾値算出手段111が変位差閾値を算出する手順について説明する。まず閾値算出手段111は、今回の測位時刻(例えば、現在)からあらかじめ定められた期間だけ遡った区間に含まれる複数の変位差を読み出す。図11の場合、測位時刻から23時間だけ遡った区間に含まれる変位差を読み出しており、例えば測位時刻が12月2日11:00であれば「12月1日12:00~12月2日11:00」に含まれる変位差を読み出し、同様に測位時刻が12月2日12:00であれば「12月1日13:00~12月2日12:00」に含まれる変位差を読み出し、測位時刻が12月2日13:00であれば「12月1日14:00~12月2日13:00」に含まれる変位差を読み出している。そして閾値算出手段111は、読み出した複数の変位差について統計処理を行うことによって変位差閾値を設定する。例えば、複数の変位差について標準偏差σを求め、その標準偏差σを3倍した値(3σ)を変位差閾値として設定することができる。もちろん変位差閾値として設定するにあたっては、標準偏差のほか分散や平均値、中央値、最頻値といった統計処理値に基づいて設定することもできる。
【0051】
(RTK変位算出手段)
RTK変位算出手段115は、同じく受信機RCが受信した受信データに対して基線解析を行うことによって観測点の「RTK座標」を算出するとともに、そのRTK座標に基づく観測点の変位(以下、「RTK変位」という。)を算出する手段である。具体的には、RTK変位算出手段115が、観測点の「初期(設置時)のRTK座標」と「今回の測位に基づくRTK座標」との差分をRTK変位として算出する。なお、RTK座標は3次元座標であるから、2時期(初期と今回)のRTK座標により求められるRTK変位は、大きさ(変位量)と方向(変位方向)を具備する変位ベクトルとして得ることもできる。
【0052】
(RTK移動平均算出手段)
RTK移動平均算出手段116は、複数のRTK変位に基づく移動平均値を「RTK移動平均値」として算出する手段である。以下、図12を参照しながら、RTK移動平均算出手段116がRTK移動平均値を算出する手順について説明する。まずRTK移動平均算出手段116は、今回の測位時刻(例えば、現在)など着目したい時刻(以下、「着目時刻」という。)からあらかじめ定めた一定期間だけ遡った区間(以下、「平均対象区間」という。)に含まれる複数の変位を読み出す。例えば図12では、着目時刻から24時間だけ遡った平均対象区間に含まれる変位差を読み出している。そしてRTK移動平均算出手段116は、読み出した複数の変位差の平均値を求め、この平均値をRTK移動平均値として設定する。またこの図では、1秒経過するごとに着目時刻を設定しており、すなわち1秒ごとにRTK移動平均値を算出している。
【0053】
(RTK差分算出手段)
RTK差分算出手段117は、RTK移動平均値と温度変位との差である「RTK差分」を算出する手段である。以下、RTK差分算出手段117が、RTK移動平均値と温度変位によってRTK差分を算出する手順について説明する。まずRTK差分算出手段117は、RTK移動平均値を算出したときの着目時刻を読み出し、時刻別温度データセットを参照したうえで、その着目時刻と同一である、あるいは最も近い温度計測時刻を有する時刻別温度データを時刻別温度データセットから抽出する。次いで、抽出された時刻別温度データの部材温度を条件として温度変位算出手段108が算出した温度変位を読み出す。そして、RTK移動平均値と、読み出された温度変位によってRTK差分を算出する。なお、このRTK差分は、RTK移動平均値から温度変位を差し引いた値とし、すなわち正負が付された値とするとよい。
【0054】
RTK差分算出手段117は、着目時刻におけるRTK変位と、温度変位との差を「RTK差分」として算出することもできる。なおこの場合の着目時刻は、例えば現在時刻とするなど自動的に設定することもできるし、あるいはオペレータ操作によって入力された時刻を着目時刻として設定することもできる。この場合、まずRTK差分算出手段117は、設定された着目時刻を読み出し、時刻別温度データセットを参照したうえで、その着目時刻と同一である、あるいは最も近い温度計測時刻を有する時刻別温度データを時刻別温度データセットから抽出する。次いで、抽出された時刻別温度データの部材温度を条件として温度変位算出手段108が算出した温度変位を読み出す。そして、RTK変位と、読み出された温度変位によってRTK差分を算出する。なお、このRTK差分は、RTK変位から温度変位を差し引いた値とし、すなわち正負が付された値とするとよい。
【0055】
(第2警告出力手段)
第2警告出力手段118は、対象部材に異常な変位差が算出されたときに、警告(以下、「第2警告」という。)を出力する手段である。具体的には、第2警告出力手段118がRTK差分と閾値(以下、「RTK差分閾値」という。)を照らし合わせ、そのRTK差分がRTK差分閾値を上回る(あるいは、以上となる)ときに第2警告を出力する。このとき、第2警告とともにその対象部材やRTK差分を出力することもできる。また、ディスプレイ等の表示手段に第2警告などを表示したり、音声によって第2警告などを出力したり、種々の手法で出力することができる。またRTK差分閾値は、あらかじめ定めたものを用いることもできるし、RTK閾値算出手段119がいわば動的に求めたものを用いることもできる。
【0056】
(RTK閾値算出手段)
RTK閾値算出手段119は、第2警告出力手段118が参照する「RTK差分閾値」を算出する手段である。具体的には、前回の着目時刻からあらかじめ定めた所定期間だけ遡った区間(例えば、平均対象区間)に含まれる複数のRTK差分について統計処理を行うことによって、RTK差分閾値を設定する。もちろん、前回の着目時刻に限らず、前々回の着目時刻やさらにその前の着目時刻など、今回の着目時刻より前の着目時刻に基づいてRTK差分閾値を設定してもよい。例えば図12の場合、「第k+2期」が今回の着目時刻(12月2日13:25:52)とすれば、「第k+1期」の平均対象区間に含まれるRTK差分について統計処理を行うこともできるし、「第k期」の平均対象区間に含まれるRTK差分について統計処理を行うこともできる。
【0057】
例えばRTK閾値算出手段119は、以前の着目時刻に係る平均対象区間に含まれる複数の変位差について標準偏差σを求め、その標準偏差σを3倍した値(3σ)を変位差閾値として設定することができる。もちろん変位差閾値として設定するにあたっては、標準偏差のほか分散や平均値、中央値、最頻値といった統計処理値に基づいて設定することもできる。
【0058】
(処理の流れ)
以下、図13図14を参照しながら本願発明の橋梁変位監視システム100の主な処理について詳しく説明する。図13は、本願発明の橋梁変位監視システム100が「変位差」を判定するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、図14は、本願発明の橋梁変位監視システム100が「RTK差分」を判定するまでの主な処理の流れの一例を示すフロー図である。また、これらの図では、中央の列に実行する処理を示し、左列にはその処理に必要なものを、右列にはその処理から生ずるものを示している。
【0059】
橋梁変位監視システム100が変位差について判定するにあたっては、まず図13に示すように受信機RCが繰り返し受信データを受信するとともに、温度計測手段102が対象部材の「部材温度」を計測する(図13のStep201)。対象部材の部材温度が得られると、温度変位算出手段108がその部材温度を条件とした構造解析を行うことによって、その対象部材の温度変位を算出する(図13のStep202)。また測位手段101が、例えば受信データに対して基線解析を行うことによって、観測点の「スタティック座標」を求める(図13のStep203)。次いで、観測点変位算出手段103が、観測点の「初期(設置時)のスタティック座標」と「今回の測位に基づくスタティック座標」との差分を観測点変位として算出する(図13のStep204)。
【0060】
観測点変位が得られると、平滑変位算出手段104が、観測点変位に対して2以上の種類のノイズ処理を行い、2以上の種類の平滑変位を求める(図13のStep205)。2以上の種類の平滑変位が得られると、時刻別変位生成手段113が2以上の種類の「時刻別変位データセット」を生成し、時刻別温度生成手段114が「時刻別温度データセット」を生成し、温度別変位生成手段105が時刻別変位データセットと時刻別温度データセットに基づいて2以上の種類の「温度別変位データセット」を生成する(図13のStep206)。
【0061】
2以上の種類の温度別変位データセットが得られると、相関値算出手段106が2以上の種類の相関値を算出するとともに、回帰式生成手段112が2以上の種類の回帰式を算出し(図13のStep207)、処理手法選出手段107が「最大相関値」を選出したうえでその最大値の相関値に係るノイズ処理を「決定ノイズ処理」として選出する(図13のStep208)。
【0062】
決定ノイズ処理が選出されると、変位差算出手段109が平滑変位と温度変位との差である「変位差」を算出する(図13のStep209)。既述したとおり、この変位差を算出するための平滑変位は、決定ノイズ処理を用いて求められた平滑変位である。一方、閾値算出手段111は、第1警告出力手段110が参照する「変位差閾値」を算出する(図13のStep210)。そして、第1警告出力手段110が変位差と変位差閾値を照らし合わせ、その変位差が変位差閾値を上回る(あるいは、以上となる)ときは、第1警告を出力する(図13のStep211)。一方、その変位差が変位差閾値以下となる(あるいは、下回る)ときは継続して各種の計測(図13のStep201)を行う。
【0063】
橋梁変位監視システム100がRTK差分について判定するにあたっては、まず図14に示すように、RTK変位算出手段115が、受信データに対して基線解析を行うことによって、観測点の「RTK座標」を求める(図14のStep212)。次いで、RTK移動平均算出手段116が平均対象区間に含まれる複数のRTK変位に基づく移動平均値を「RTK移動平均値」として算出する(図14のStep213)。RTK移動平均値が得られると、RTK差分算出手段117がRTK移動平均値と温度変位との差である「RTK差分」を算出する(図14のStep214)。一方、RTK閾値算出手段119は、第1警告出力手段110が参照する「RTK差分閾値」を算出する(図14のStep215)。そして、第2警告出力手段118がRTK差分とRTK差分閾値を照らし合わせ、そのRTK差分がRTK差分閾値を上回る(あるいは、以上となる)ときは、第2警告を出力する(図14のStep216)。一方、そのRTK差分がRTK差分閾値以下となる(あるいは、下回る)ときは継続して各種の計測(図13のStep201)を行う。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の橋梁変位監視システムは、コンクリート橋や鋼橋など種々の橋梁に利用することができる。建設インフラである橋梁の異常を事前に察知し、また橋梁の損傷に起因する事故を未然に防ぐことができることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0065】
100 本願発明の橋梁変位監視システム
101 (橋梁変位監視システムの)測位手段
102 (橋梁変位監視システムの)温度計測手段
103 (橋梁変位監視システムの)観測点変位算出手段
104 (橋梁変位監視システムの)平滑変位算出手段
105 (橋梁変位監視システムの)温度別変位生成手段
106 (橋梁変位監視システムの)相関値算出手段
107 (橋梁変位監視システムの)処理手法選出手段
108 (橋梁変位監視システムの)温度変位算出手段
109 (橋梁変位監視システムの)変位差算出手段
110 (橋梁変位監視システムの)第1警告出力手段
111 (橋梁変位監視システムの)閾値算出手段
112 (橋梁変位監視システムの)回帰式生成手段
113 (橋梁変位監視システムの)時刻別変位生成手段
114 (橋梁変位監視システムの)時刻別温度生成手段
115 (橋梁変位監視システムの)RTK変位算出手段
116 (橋梁変位監視システムの)RTK移動平均算出手段
117 (橋梁変位監視システムの)RTK差分算出手段
118 (橋梁変位監視システムの)第2警告出力手段
119 (橋梁変位監視システムの)RTK閾値算出手段
120 (橋梁変位監視システムの)測位データ記憶手段
121 (橋梁変位監視システムの)部材温度記憶手段
122 (橋梁変位監視システムの)3Dモデル記憶手段
RC 受信機
ST 測位衛星
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