(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025054877
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】脳血管疾患の予防及び/又は治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20250401BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250401BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250401BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
A61P9/00
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023164071
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】520032136
【氏名又は名称】株式会社Meis Technology
(71)【出願人】
【識別番号】523369101
【氏名又は名称】株式会社バイオラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100202120
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 修
(74)【代理人】
【識別番号】100227385
【弁理士】
【氏名又は名称】樫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳則
(72)【発明者】
【氏名】窪島 肇
(72)【発明者】
【氏名】高木 惣一
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB63
4C087CA03
4C087MA13
4C087MA52
4C087MA59
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA36
(57)【要約】
【課題】脳血管疾患の予防及び/又は治療に有効な薬剤を提供する。
【解決手段】発明者らは、間葉系幹細胞の破砕濾液に着目し検討を重ねた結果、破砕濾液が脳血管疾患治療効果を有すること、特に亜急性期又は慢性期の脳血管疾患の症状緩和効果、具体的には神経機能や運動機能回復に効果があることを見出した。本発明の予防及び/又は治療薬は、特に亜急性期又は慢性期の脳血管疾患の症状緩和効果を有する。さらに本発明の予防及び/又は治療薬は細胞を含まないため、細胞投与による有害事象を回避でき、取り扱いも簡便であることから臨床上の利点が極めて大きい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞破砕液の濾液を有効成分として含有する脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項2】
前記脳血管疾患が、虚血性脳血管疾患である請求項1に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項3】
前記濾液が、前記間葉系幹細胞1×104~1×108 cells/mLの破砕液の濾液である、請求項1又2に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項4】
脳血管疾患発症後14日以降に投与される請求項1又2に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項5】
経口投与製剤又は非経口投与製剤である請求項1又2に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞破砕液の濾液を有効成分として含有する脳血管疾患の予防及び/又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管疾患は脳動脈に異常が起きることが原因で起こる病気の総称であり、脳組織への血流が減少したり消失したりする「虚血性脳血管疾患」と、頭蓋内に出血する「出血性脳血管疾患」とに大別される。医療が発達した現代においても脳血管疾患は依然として罹患及び死亡の主な原因となっており、日本での患者数は約110万人超え、中でも脳梗塞の年間死亡者数6万人を超えており、日本人の死亡原因の中でも多くを占めている高頻度に起こる疾患である。
【0003】
脳血管疾患により脳血管の血液供給障害が起こると、血液が行き届かなくなる。そしてそのことにより脳細胞が壊死したり、壊死に近い状態になったりすると、脳のダメージを負った部分の機能が低下する。しかしながら、脳細胞は再生しないため失われた機能を取り戻すことはできない。そのため、一命をとりとめたとしても、後遺症が残る場合がある。後遺症としては様々なものがあるが、代表的な後遺症としては、脳性麻痺や痙縮、拘縮などの神経機能及び運動機能障害、認知機能や記憶機能、言語機能などが低下する高次脳機能障害、鬱やパニックになる精神障害が挙げられ、いずれも日常生活に支障が出る後遺症が多いと言われている。また、脳血管疾患の中でも脳梗塞は再発しやすい病気の一つであり、発症後3年以内に10~30%が再発するというデータもある。
【0004】
なお、脳血管疾患の治療は4つの期間に分けて進められることが多い。例えば脳梗塞では発症後8時間以内を「超急性期」、発症後8時間~1週間以内を「急性期」、発症から1週間~半年を「亜急性期」、発症から半年経過後を「慢性期」という。
【0005】
超急性期や急性期においては発症後4.5時間内までに受けられるt-PAによる血栓溶解療法、発症後8時間以内までに受けられる血管内治療、発症48時間内までに受けられるヘパリンによる抗凝固療法、血液希釈療法などがある。亜急性期であれば、脳の腫脹や高血圧はある程度落ち着くが、重症であった場合は重篤な後遺症が残る場合がある。後遺症が残った場合は、リハビリテーションが重点的に行われるが、たとえリハビリテーションを行ったとしても発症前と同程度まで機能を回復することは難しいのが現状である。
【0006】
ところで、間葉系幹細胞は多分化能及び自己複製能を有する細胞であり、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、脂肪細胞などを含む様々な細胞へと分化することができる。近年脚光を浴びている再生医療の分野において、間葉系幹細胞を用いることで治癒や再生が不可能な体の障害に対する治療に用いられ始めている。また、間葉系幹細胞が分泌するエキソソームに焦点を当てた治療薬も開発されている。
【0007】
間葉系幹細胞を有効成分として含む脳血管疾患などの脳神経血管治療薬としては、例えば特許文献1~5が挙げられ、幹細胞培養上清を有効成分とする損傷部治療用組成物として、例えば特許文献6が挙げられる。また、幹細胞由来のエキソソームを有効成分に含む脳血管疾患治療薬として、例えば特許文献7、8が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/007176号
【特許文献2】国際公開第2006/085697号
【特許文献3】国際公開第2017/188457号
【特許文献4】特開2022-126812号公報
【特許文献5】特表2022-533781号公報
【特許文献6】国際公開第2011/118795号
【特許文献7】特表2016-540014号公報
【特許文献8】国際公開第2016/152786号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
脳血管疾患の治療法としては急性期のものが知られているが、発症後数時間以内の患者にしか使えないため、医療現場からは更なる治療法が求められていた。また、亜急性期や慢性期における後遺症に対しては、リハビリテーションなど物理療法・機能訓練によるところが大きく、根本的な治療法は未だないのが現状である。
【0010】
特許文献1~5に記載されている間葉系幹細胞を有効成分として含む脳血管疾患用治療薬は、急性期や亜急性期、慢性期にも効果を奏する旨が記載されているが、細胞そのものを治療に用いるため、使用するタイミングを見計らって細胞培養を開始する必要があり、調製や操作の簡便性に欠けた。また生きた細胞を用いるため、未分化の細胞による腫瘍化のリスクなどの有害事象の発生が懸念される。さらに特許文献1~5に記載の治療薬は静脈や動脈に投与しているが、その場合、有効成分とされる間葉系幹細胞の大多数は胚や脾臓、肝臓などで捕捉されてしまう。そのため特許文献1~5に記載の効果があるとされる治療薬の投与量(つまり、投与細胞数)は、本来効果を奏する量よりも大量である可能性がある。投与細胞数を増やすことは胚塞栓症を引き起こす危険性があるため、副作用も懸念されている。
【0011】
特許文献6には幹細胞培養上清を用いて脳梗塞発症ラットで治療効果を確認しているがヒトでの有効性は不明である。さらに、培養上清には効率良く細胞培養するために添加する添加剤が含まれる場合があり、投与する場合はその安全性の確認が必要となる。特許文献6には、「複雑高度な精製をしなくとも効果を奏する」と記載されているが、精製をしなかったことによる副作用については評価されていない。
【0012】
特許文献7、8は幹細胞由来のエキソソームに関するものである。いずれの文献にも幹細胞破砕濾液については記載されておらず、特許文献7は特に未熟児脳室内出血の抑制効果を確認しており、いわゆる一般的な脳血管疾患、特に虚血性脳血管疾患などについての効果の程度は不明である。また特許文献8については脳血管疾患については記載も示唆もされていない。
【0013】
したがって、本発明は脳血管疾患の予防及び/又は治療に有効な薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、間葉系幹細胞の破砕濾液に着目し検討を重ねた結果、破砕濾液が脳血管疾患治療効果を有すること、特に亜急性期又は慢性期の脳血管疾患の症状緩和効果、具体的には神経機能や運動機能回復に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
[1]間葉系幹細胞破砕液の濾液を有効成分として含有する脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
[2]前記脳血管疾患が、虚血性脳血管疾患である[1]に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
[3]前記濾液が、前記間葉系幹細胞1×104~1×108 cells/mLの破砕液の濾液である、[1]又は[2]に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
[4]脳血管疾患発症後14日以降に投与される[1]又は[2]に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
[5]経口投与製剤又は非経口投与製剤である[1]又は[2]に記載の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬は、脳血管疾患の治療に有効である。特に急性期経過後の亜急性期又は慢性期の脳血管疾患患者に生じる症状の緩和、具体的には神経機能障害や運動機能障害の改善に効果的である。
また、一般的に細胞投与では生細胞を用いるため、病原体が混ざっていても不活性化や除去がほとんどできず感染リスクがある。一方、本発明の脳血管疾患の予防及び/又は治療薬は細胞ではなくその破砕濾液を用いるため、細胞投与による有害事象を回避できる。
【0017】
また、一般的には凍結融解した細胞は活性が落ちたり細胞が死んだりすることがあるため、治療に凍結融解細胞を用いることはほとんどない。そのため、生細胞を用いるためには患者のスケジュールに合わせて培養する必要があるが、本発明は用時調製が不要であること、取り扱いが簡便であること、長期の保存や凍結融解も可能であることなど臨床上の利点が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】患者Aのアンギオグラフィー画像((B)は(A)とは異なるアングルで撮影した画像)
【
図2】患者AのMRI画像。(A)脳梗塞位置の確認のための画像、(B)発症直後の画像(B-1:正面画像、B-2:側面画像)、(C)点鼻剤1ヶ月投与後の画像(C-1:正面画像、C-2:側面画像)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は間葉系幹細胞の破砕液の濾液を有効成分として含有する、脳血管疾患の予防及び/又は治療薬(以下、「脳血管疾患の治療薬」ということもある。)に関する。なお、本明細書において「有効成分として含有する」とは、治療をする上で有効量の間葉系幹細胞の破砕液の濾液を含有することを意味する。
<間葉系幹細胞>
【0020】
間葉系幹細胞は間葉系に属する細胞であり、多分化能及び自己複製能を有し、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの結合組織細胞や、神経細胞や心筋細胞への分化能を有することが知られている。
間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚などが挙げられるが、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、又は歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、中でも容易に採取することができる点で、脂肪組織由来間葉系幹細胞が好ましい。
【0021】
脂肪組織由来間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cells: ASC、Adipose-derived regeneration cells: ADSC、Adipose-derived mesenchymal stem cells: AT-MSC、 AD-MSCなどと呼ばれる。以下、「ADSC」ということもある。)は、体性幹細胞の一種であり、脂肪組織に含まれる幹細胞である。脂肪組織由来間葉系幹細胞も自己複製能及び多分化能を有しており、脂肪だけではなく、骨、軟骨、神経、筋肉、心筋、血管、肝細胞、膵島細胞など、多様な細胞に分化することが可能であることが知られている。
【0022】
なお本発明における間葉系幹細胞は、本発明の脳血管疾患治療薬が投与される対象(レシピエント)と同種由来であっても良いし、異種由来であっても良い。レシピエントと同種由来の細胞を用いることが好ましい。生物種としては、ヒトのほかヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばサル、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなど)が挙げられる。間葉系幹細胞は被検体由来、すなわち自家細胞であっても良いし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞であっても良い。免疫拒絶の問題を回避するために自家細胞が好ましい。
【0023】
脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、又は歯髄由来間葉系幹細胞の調製は常法に従う。ここでは、好ましい細胞である脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製方法について具体的に説明する。
<脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製方法>
【0024】
本発明においてADSCは、多能性を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞もADSCに該当するものとする。通常ADSCは、生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来するADSC以外の細胞を含む)を構成する細胞として「単離された状態」に調製される。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。
【0025】
なお、本発明におけるADSCの調製は常法に従えば良い。ADSCは各種用途に広く用いられているため、当業者であれば文献や成書を参考にして調製することもできる。公的な細胞バンクから分譲された細胞や市販の細胞などを用いることにしても良い。以下、細胞の調製方法の例として、脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製法(一例)を説明する。
【0026】
ADSCは、脂肪基質からの幹細胞の分離、洗浄、濃縮、培養などの工程を経て調製される。ADSCの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(FraserJK et al.(2006)、 Fat tissue: an under appreciated source of stem cells for biotechnology. Trends in Biotechnology; Apr; 24(4): 150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al.(2002)、 Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; ZukPA et al.(2001), Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Engineering; Apr; 7(2): 211-28.などが参考になる)に従ってADSCを調製することができる。また、脂肪組織からADSCを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してADSCを調製することにしても良い。当該装置を利用すると、脂肪組織より、ADSCを含む細胞集団を分離できる(K. Lin. Et al. Cytotherapy(2008)Vol. 10、 No.4、 417-426)。以下、ADSCの調製法の具体例を示す。
(1)脂肪組織からの細胞集団の調製
【0027】
脂肪組織はヒト及び非ヒト哺乳動物から切除、吸引などの手段で採取される。非ヒト哺乳動物は先述した動物であれば良い。また、生物の年齢、性別は特に限定されない。なお、ヒトにおいては、美容整形の際の脂肪吸引手術により吸引される組織片や、外科手術などの際に生体から切除される組織に含まれる切除脂肪組織から、ADSCを調製することもできる。ADSCは太い血管の周囲に存在するため脂肪吸引液よりも切除脂肪組織から多く得ることができる。一方、脂肪吸引液から幹細胞を調製したほうが、手術跡が小さく済みドナーの負担が小さい。
【0028】
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際のドナーへの負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくても良い)を混合し、以降の操作に使用しても良い。
【0029】
脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるADSCの量を考慮して定めることができ、例えば0.5~500g程度である。但し、ドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約3~20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。なお、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。
【0030】
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼなどの酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すれば良い(例えば、R. I. Freshney、 Cultureof Animal Cells: A Manual of Basic Technique、 4th Edition、 A John Wiley & Sones Inc.、 Publication参照)。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多能性幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞などを含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。
(2)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
【0031】
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1~10分間、800~1,500rpmである。なお、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団を濾過などに供し、その中に含まれる酵素未消化組織などを除去しておくことが好ましい。ここで得られた「SVF画分」はADSCを含む。なお、SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、国際公開第2006/006692A1号パンフレットにはSVF画分の特徴が示されている。
(3)接着性細胞(ADSC)の選択培養及び細胞の回収
【0032】
SVF画分にはADSCの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞など)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をADSCとして本発明に用いる。まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば2~4日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されないが、多能性と増殖能力の維持の観点からは過度に継代を繰り返すことは好ましくない(6継代程度までに留めておくことが好ましい)。なお、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社など)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham'sF12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社など)、Ham'sF12medium(大日本製薬株式会社など)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)などを使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしても良い。血清又は血清代替物の添加量は例えば5~30%(v/v)の範囲内で設定可能である。
【0033】
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレイパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ADSC)を用いることにより、ADSCを高純度で含有する細胞集団を調製することができる。
(4)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
【0034】
本発明の一態様では、上記(3)の操作の代わりに又は上記(3)の操作の後に以下の低血清培養を行う。そして、その結果得られた細胞をADSCとして本発明に用いる。低血清培養では、SVF画分((3)の後にこの工程を実施する場合には(3)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多能性幹細胞(即ちADSC)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明の方法で得られたADSCを治療目的に使用する場合、対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。ここでの「低血清条件下」とは5%(v/v)以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(v/v)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(v/v)以下の血清と1~100ng/mLの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。無血清培地を用いても良い。
【0035】
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清などを用いることができる。本発明の方法で得られた活性化精子をヒトの治療に使用する場合には、好ましくはヒト血清、更に好ましくは治療対象の血清( 即ち自己血清) を用いる。培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社など)、α-MEM(大日本製薬株式会社など)、DMEM: Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社など)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社など)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)などを使用することができる。
【0036】
以上の方法で培養することによって、ADSCを選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖するADSCは高い増殖活性を持つので、継代培養によって、本発明に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。なお、国際公開第2006/006692A1号パンフレットには、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞の特徴が示されている。続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(3)の場合と同様に行えば良い。回収したADSCを用いることにより、ADSCを高純度で含有する細胞集団を得ることができる。
【0037】
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して増殖した細胞が利用に供されることになるが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養することによって増殖した細胞をADSCとして用いることにしても良い。即ち本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞をADSCとして用いる。また、選択的培養(上記(3)及び(4))によって得られる多能性幹細胞ではなく、SVF画分(脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する)をそのまま用いることにしても良い。なお、ここでの「そのまま用いて」とは、選択的培養を経ることなく本発明に用いること、を意味する。
<間葉系幹細胞破砕液の濾液の調製方法>
【0038】
本発明の脳血管疾患の治療薬は間葉系幹細胞を破砕処理した破砕液を濾過して得られた濾液(「幹細胞濾液」と言うこともある。)を有効成分として含有する。
【0039】
間葉系幹細胞の破砕は、一般的な細胞破砕方法を用いることができる。例えば、凍結融解(凍結した後融解する処理)、超音波、フレンチプレス、乳鉢、ホモジナイザー、ガラスビーズなどを用いた処理方法を利用することができる。また、破砕処理に供する細胞として、生細胞に限らず、死細胞や障害を受けた細胞を用いることにしても良い。上記破砕処理の中でも凍結融解処理及び超音波処理が好ましい。特に凍結融解処理は簡便であり、また、機械と細胞の接触による汚染を回避でき、衛生的である点から特に好ましい。凍結融解にて破砕する場合は、後述する好ましい条件を用いることができる。超音波処理にて破砕する場合は、凍結していない細胞を用いて破砕処理することが好ましいが、機器から発せられる熱の影響により、しばしばタンパク質の変性や凝集が引き起こされるため、細胞懸濁液を氷中で冷却しながら短時間の処理を繰り返し行うことが好ましい。具体的には、200~300Wの出力で5~15秒間の破砕と、10~30秒間の休止を複数回繰り返すことが好ましい。
【0040】
なお、凍結融解は、凍結過程で細胞が膨張し氷晶が形成され、その氷晶が細胞を破壊することで解凍時に溶解されるため、十分に溶解させるためには繰り返し行うことが好ましい。具体的には、凍結融解処理を1~5回繰り返すことが好ましい。凍結融解処理における凍結の条件は特に限定されないが、例えば、-20~-196℃で凍結することが好ましい。融解の条件も特に限定されない。例えば、5℃以下の冷蔵庫にて一晩おくことでの融解、湯煎(例えば35~40℃)での融解、室温での融解などを採用することができる。破砕に用いる細胞懸濁液濃度は、間葉系幹細胞の濃度が1×104 ~1×108 cells/mLであることが好ましい。間葉系幹細胞の濃度が10×104~500×104 cells/mLがより好ましい。作業しやすい濃度であり、1回の作業で十分量の濾液を取ることができる。
【0041】
なお破砕液は、遠心処理し、その上清を次の工程(フィルター処理)に用いても良い。破砕液を遠心処理することにより、核などが取り除かれ、フィルターの目詰まりを防ぐことができるため、効率良くフィルター処理をすることが可能となる。事前に遠心処理する場合は、間葉系幹細胞破砕後、100~1,500×gで3~10分間遠心することが好ましい。また、遠心処理時の温度は特に限定されない。
【0042】
本発明の脳血管疾患の治療薬は前記細胞破砕液又は遠心処理して得られた上清を、フィルター濾過し、得られた濾液を用いる。フィルター濾過によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のフィルターを使用すれば、不要成分の除去と滅菌濾過を同時に行うことができる。フィルター処理に使用するフィルターの材質は特に限定されないが、タンパク質が吸着しにくいセルロースアセテート、金属製のフィルターが好ましい。特にセルロースアセテートが好ましい。フィルター孔径は0.1~0.45μmが好ましい。0.15~0.3μmが更に好ましい。滅菌濾過も同時に行う場合は0.2μmの孔径が好ましい。
【0043】
濾液をすぐに治療に使わない場合は、使用時まで凍結保存することができる。-100~-60℃で保存することが好ましい。一般的に、細胞の凍結融解を繰り返すと、細胞の活性が落ちたり、死細胞が増えたりする傾向にあるが、本発明の脳血管疾患の治療薬は、濾液であり、幹細胞を含まないため、冷凍保存と融解を何度繰り返してもその品質は変わらない。
<脳血管疾患の治療薬の製造方法>
【0044】
本発明の脳血管疾患の治療薬は、以下の工程により製造することができる。間葉系幹細胞の培養方法、破砕処理方法、遠心処理方法及びフィルター濾過方法は前述した。
(1)間葉系幹細胞を破砕する工程。
(2)工程(1)で得られた破砕液又は前記破砕液を遠心処理して得られた上清を、フィルター処理し、濾液を得る工程。
(3)工程(2)で得られた濾液を製剤化する工程。
【0045】
本発明の脳血管疾患の治療薬は、非毒性で不活性の医薬的に許容される賦形剤、例えば固体状、半固体状もしくは液状の希釈剤、分散剤、充填剤及び担体と混合することにより、製剤化される。さらに本発明の効果を損なわない範囲において、安定剤、保存剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料防腐剤、抗菌薬、媒質、生理食塩水、別な薬効を有する薬剤が添加剤として含んでいても良い。
<投与方法、投与量>
【0046】
本発明の脳血管疾患の治療薬の剤形は特に限定されず、経口投与用製剤又は非経口投与製剤が好ましい。経口投与製剤としては、錠剤、丸剤、粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液など、経口的に投与することができる剤形が挙げられる。非経口投与製剤としては、軟膏剤、注射剤、注射剤、静脈内注射用製剤(点滴剤)、筋注射剤、皮下注射剤、点鼻剤(鼻腔投与用スプレー剤)などの剤形が挙げられる。中でも点鼻剤が好ましい。非経口投与剤として経静脈に投与した場合は、肺や脾臓、肝臓などで有効成分が捕捉される可能性があるため、病巣に有効成分が到達して十分な効果を発揮することが難しい。その点、点鼻剤は低侵襲であり、加えて標的組織である脳に効率的に有効成分を届けることができるので好ましい。点鼻剤として使用する場合は、濾液をPBS及び/又は生理食塩水を用いて調製することが好ましい。
【0047】
本発明の脳血管疾患の治療薬の投与量は、投与方法、投与対象の性別、年齢、体重、症状などを考慮して適宜調製することができる。
【0048】
ヒトに対して投与する場合は、間葉系幹細胞の濃度が1×104~1×108 cells/mLの細胞懸濁液を破砕した破砕液の濾液であることが好ましい。1日1~3回毎日投与してもよく、1日~2日おきに間欠的に投与しても良い。なお、この投与量は、種々の条件で変動するので、上記範囲より少ない投与量や投与回数で充分な場合もあるし、また上記範囲を超えた投与量や投与回数が必要な場合もある。点鼻薬としてヒトに投与する場合は、1ショットの噴射量を0.05mL~0.20mLにすることが好ましい。また朝夕2回、左右の鼻腔に1ショットずつ噴霧することが好ましい。
【0049】
本発明の脳血管疾患の治療薬は、特に亜急性期又は慢性期における治療に有効であるため、脳血管疾患発症後14日以降に投与されることが好ましい。かかる時期に投与されることにより、脳血管疾患により障害を受けた神経機能及び運動機能の改善効果を奏する。さらに、病巣において血管新生、血管閉塞の改善を促進させる効果も奏するため、特に虚血性脳血管疾患の治療に有効である。
【0050】
本発明の脳血管疾患の治療薬を投与する際は、抗血小板剤、抗高血圧剤など、他の治療薬と併用投与しても良い。併用投与とは、本発明の脳血管疾患の治療薬の投与と同時、又は本発明の脳血管疾患の治療薬投与の前後に投与することである。あるいは、本発明の脳血管疾患の治療薬と、上記他の治療薬を混合して一つの製剤とすることもできる。
<適用対象>
【0051】
脳血管疾患とは、脳動脈に異常が起きることが原因でおこる病気の総称であり、脳組織への血流が減少したり消失したりする「虚血性脳血管疾患」と、頭蓋内に出血する「出血性脳血管疾患」とに大別される。虚血性脳血管疾患としては、脳梗塞、脳動脈硬化症、脳血栓症または脳塞栓症などがあり、動脈の閉塞又は狭窄のため、血液供給が滞ることによって脳機能が喪失する。出血性脳血管疾患としては、脳出血、クモ膜下出血などがあり、血腫や脳動脈瘤破裂による出血により脳細胞が圧迫されたりして脳機能が喪失する。
【0052】
本発明の脳血管疾患の治療薬は、虚血性脳血管疾患及び/又は出血性脳血管疾患に有効であり、特に虚血性脳血管疾患に有効である。中でも脳梗塞の治療に有効である。なお、脳梗塞には、脳内小動脈病変が原因のラクナ梗塞、頭蓋内の比較的大きな動脈のアテローム硬化が原因のアテローム血栓性脳梗塞、又は心疾患による心原性脳塞栓症があるが、本発明の脳梗塞の治療薬は、上記いずれの場合でも好適に使用される。
【0053】
なお、脳血管疾患には4つの期間がある。本発明においては、発症後8時間以内を「超急性期」、発症後8時間~1週間以内を「急性期」、発症から1週間~半年を「亜急性期」、発症から半年経過後を「慢性期」とする。本発明の脳血管疾患の治療薬は、超急性期、急性期、亜急性期、及び、慢性期の何れにおいても使用可能であるが、特に亜急性期及び慢性期において好適に使用可能である。亜急性期や慢性期は、症状がほぼ固定されてリハビリテーションとともに再発予防が中心となる期間であるが、本発明の脳血管疾患の治療薬を投与すれば、神経機能や運動機能の改善及び脳血管疾患巣における血管新生、血管閉塞の改善促進効果が期待できる。
【実施例0054】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
<点鼻剤の調製>
【0055】
(1)ADSC破砕液の濾液の調製
ヒト脂肪幹細胞を用いて、本明細書で述べた方法により濾液を調製した。具体的には、前記ヒト脂肪幹細胞を用いてメッセンプロRS培地で培養しADSCを増殖させた。なお、細胞は2日おきに培地交換をしながら、5×106cellsが得られるまで6継代培養した。PBSを用いて濃度調製し、1×106cells/mLの細胞懸濁液を調製した。それを-30℃で一晩おき、凍結させた。凍結した細胞液を4℃の冷蔵庫に一晩おき、融解させた。このようにして細胞を破砕後、セルロースアセテート膜のフィルター(ポアサイズ0.2μm)で濾過し、ADSC破砕液の濾液とした。コントロールとして、無血清培地(KBM ADSC-5、コージンバイオ株式会社)を用いた。
(2)点鼻剤の調製
【0056】
(1)で得られたADSC破砕濾液(1×106cells/mL相当)に、生理食塩水1mLと抗菌薬(メーカー名:GibcoTM Antibiotic-Antimycotic(100X))25ug/mLを加えて、点鼻ボトル20mLへ充填した。1ショットで0.13mL(±0.05mL)噴射できる。
<検査方法>
【0057】
(1)改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test)
以下の方法に従って実施した。
1. 3mLの冷水を被験者の口腔内に入れる。
2. 被験者に嚥下してもらう。
3. 嚥下反射誘発の有無、むせ、呼吸の変化を評価する。
4. 下記判定基準を基に、4点以上なら最大2回(合計3回)繰り返し、最も悪い場合を評価結果とする。
改訂水飲みテストの判定基準を表1に示す。
【表1】
(2)National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)
【0058】
NIHSSは、脳卒中に特有な神経症状を点数化して定量的に評価したものである。NIHSSは、意識と眼、運動、感覚と言語の3つに大別されるが、ここでは構音障害について評価した。構音障害は「単語カード」を被験者に見せ、書かれている単語を読んでもらうことで評価した。正常を「0」、軽度~中程度(構音異常はあるが、言っていることが理解できる)は「1」、重度(言っていることが理解できない)は「2」、挿管又は身体的障壁がある場合は「N」とした。
<脳血管疾患発症患者への投与>
【0059】
表2に記載の亜急性期又は慢性期の脳血管疾患患者3例に対して、先述した点鼻ボトルを一定期間、毎日朝夕に左右の鼻腔に1ショットずつ噴霧した。
【表2】
<患者A>
【0060】
患者Aはアテローム血栓性脳梗塞患者である。患者Aのアンギオグラフィーの画像を
図1に示すが、椎骨動脈狭窄部位の長さが240mmと長いため、カテーテル治療の適応外であった。なお
図1(B)は
図1(A)とは異なるアングルで撮影した画像である。この患者に、2023年1月6日~2023年2月3日にかけて、点鼻薬を投与した。点鼻薬投与前後の検査結果を
図2及び表3に示す。なお患者Aは発症時から継続して薬を服用している。
【0061】
図2(A)は発症時の患者Aの脳のMRI画像である。矢印の部分に、脳梗塞が認められる。発症直後の椎骨動脈の血流を撮影したMRI画像が(B)であり、点鼻剤1ヶ月投与後の画像が(C)である。(C)の画像から明らかなように、椎骨動脈、脳底動脈の血流信号が明確に確認でき、劇的な改善が認められた。(C-1)は患者頭部の正面画像、(C-2)は側面画像であるがいずれの画像においても血流信号の改善が認められた。
【0062】
表3は点鼻薬投与前後の検査結果である。点鼻薬投与により特に血圧と中性脂肪の数値が下がっており、また、ふらつきなどの自覚症状もかなりの改善が見られた。そしてそれら改善効果は投与後数ヶ月経過した後も持続していた。
【表3】
<患者B>
【0063】
患者Bは脳出血患者である。発症後ほぼ毎日リハビリテーション及び作業療法(歩行訓練、上肢訓練)を実施しており、痛みは改善していたが、しびれや構音障害などの後遺症に悩んでいた。そこで2023年2月7日~2023年7月3日にかけて、点鼻薬を投与した。点鼻薬を投与後に患者からヒアリングした結果を表4に示す。点鼻薬を投与した結果、しびれや構音障害、平地歩行などの自覚症状にかなりの改善が見られた。
【表4】
<患者C>
【0064】
患者Cは脳梗塞患者である。日常生活の自立度は高いが、特にしびれや構音障害に悩んでいた。そこで2023年2月1日~2023年3月3日にかけて、点鼻薬を投与した。点鼻薬を投与後に患者からヒアリングした結果及び構音障害スコアを表5に示す。点鼻薬を投与した結果、しびれや構音障害、平地歩行などの自覚症状にかなりの改善が見られた。
【表5】
【0065】
以上の結果から、本発明の治療薬は脳血管疾患患者への投与において、血流の増加や、血圧や中性脂肪値の低下、さらにはしびれなどの神経機能障害や歩行などの運動機能障害などの自覚症状の改善効果を有することを確認した。特に閉塞部の外科的手術ができない脳血管疾患患者に対しては非常に有効である。また、食事療法や運動療法では改善しづらい、閉塞部位の改善にも効果的である。