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特開2025-54994微生物腐食リスクの評価方法、及び微生物腐食リスクを評価するための評価キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025054994
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】微生物腐食リスクの評価方法、及び微生物腐食リスクを評価するための評価キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20250401BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20250401BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N27/416 341Z
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023164266
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】トウ ギョウ
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
(72)【発明者】
【氏名】ファム デュエン ミン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029FA01
4B029FA11
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ05
4B063QQ18
4B063QR64
4B063QR66
4B063QR74
4B063QS39
4B063QX01
4B063QX05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より簡便に、且つより正確に微生物腐食リスクの評価が可能な評価方法、及び評価キットを提供する。
【解決手段】環境における微生物腐食リスクの評価方法であって、前記環境からの採取物を含む評価試料を用意することと、前記評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞を検出すること、を含む評価方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境における微生物腐食リスクの評価方法であって、
前記環境からの採取物を含む評価試料を用意することと、
前記評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞を検出すること、を含む評価方法。
【請求項2】
前記外膜小胞を検出することが、前記外膜小胞の存在の存否の判定、及び/又は、前記外膜小胞の定量である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記外膜小胞の検出が、染色法によって行われる、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記染色法に酸化還元系発色試薬を用いる、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記外膜小胞の検出が、酸化還元電位測定によって行われる、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項6】
前記外膜小胞の検出が、吸光度測定によって行われる、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項7】
前記外膜小胞の酸化還元電位が、鉄材料の酸化還元電位より正である、請求項1~6のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記外膜小胞の酸化還元電位(25℃、pH7)が、-0.6V(SHE)よりも正である、請求項1~7のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項9】
前記外膜小胞の標準酸化還元電位(25℃、pH7)が、鉄材料の酸化還元電位よりも正であり、+0.77V(SHE)よりも負である、請求項1~8のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項10】
環境における微生物腐食リスクを評価するための評価キットであって、
前記環境からの採取物を含む評価試料を接触させるように構成された、評価試料導入部と、
前記評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞を検出するように構成された、検出部と、
前記評価試料導入部と、前記検出部とを連結し、前記評価試料導入部から前記検出部へ前記評価試料が移動可能なように構成された、連結部と、を備える評価キット。
【請求項11】
前記検出部が酸化還元系発色試薬を含み、染色法により前記外膜小胞を検出するように構成されている、請求項10に記載の評価キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物腐食リスクの評価方法、及び微生物腐食リスクを評価するための評価キットに関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸還元菌は土壌、海底、海水、河川水などの環境に普遍的に生息しており、様々な有機物や水素ガスを電子供与体として酸化し、硫酸塩を腐食性硫化水素まで還元するため、それらの環境(特に嫌気環境)における鉄材料腐食の主要な原因の一つと考えられてきた。そのため、硫酸還元菌を環境中から検出することは、腐食リスクの評価法として用いられてきた。硫酸還元菌の検出法としては、例えば、環境から採取したサンプル(採取物)を、硫酸還元菌に合った有機物(電子供与体)と硫酸塩(電子受容体)を含む培地に加えて培養することが行われている。
【0003】
また、近年、鉄を電子源として利用する硫酸還元菌が単離された(非特許文献1)。これらの硫酸還元菌による鉄の腐食過程では、鉄表面に分厚い、導電性の腐食生成物が形成され、硫酸還元菌は腐食生成物上で、鉄から直接電子を摂取すること(EEU:Extracellular Electron Uptake)によって腐食が進行する。このような細菌が引き起こす、電子の引き抜きに依存した腐食をEMIC(Electrical microbially influenced corrosion、電気的微生物腐食)と呼ぶ。発明者らは、硫酸還元菌の細胞膜を詳細に分析して電子取り込み機構を解析した結果、鉄から電子を直接引き抜くことに特定の酵素群が関わっていることを明らかにした(特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
このような、電気的微生物腐食(EMIC)は、EMICではない腐食と比較して、腐食速度が数十倍速いことが知られており、一度発生すると毎年数十mmという急激な速度で進む。このため、例えば、石油パイプライン内部、汚染水や処理水を扱う設備、処理水の貯留タンクなど、日常的に目視確認できない環境で、EMICが原因の、突発的かつ重大な事故が多数報告されている。先進国のエネルギー産業や海運業を中心に、年間数百億ドルと推定される甚大な経済損失が生じており、EMICを引き起こす硫酸還元菌の検出は特に重要である。
【0005】
一方、様々な微生物は外膜小胞(Outer membrane vesicle,OMV)を分泌することが知られている。OMVは、約40年前に病原性細菌で発見され、細菌の病原性や宿主との相互作用に深く関与していることが明らかとなり、医学分野では大いに注目されてきた。しかし、非病原菌におけるOMVの役割に関する議論は非常に限られており、特に、EMIC(電気的微生物腐食)を引き起こす細菌の分泌するOMVに関する検討はこれまで皆無であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7066224号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hang T. Dinh, et al. “Iron corrosion by novel anaerobic microorganisms”, Nature volume 427, p.829-832, 2004.
【非特許文献2】Xiao Deng, et al. “Multi-heme cytochromes provide a pathway for survival in energy-limited environments” Science Advances. 4 [2] (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の細菌検出に基づく腐食リスクの評価方法は、例えば、以下の課題を有していた。培地の種類によって増殖する細菌が限定されてしまうため、特定の細菌しか検出できない虞があり、また、菌体が増殖するまで少なくとも1週間以上の長い時間が必要であった。また、EMICは金属上に形成されたバイオフィルム中で加速的に進行するが、一旦、バイオフィルムが形成されると、バイオフィルム外へ細菌が放出されることは必ずしも多くない。したがって、細菌検出では、バイオフィルムを形成する程の量の細菌が存在することを把握できず、正確な腐食リスクの評価ができなかった。
【0009】
本発明はこれらの課題を解決するものである。即ち、本発明は、より簡便に、且つより正確に微生物腐食リスクを評価できる評価方法、及び該評価方法を利用した評価キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0011】
[1] 環境における微生物腐食リスクの評価方法であって、
前記環境からの採取物を含む評価試料を用意することと、
前記評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞を検出すること、を含む評価方法。
[2] 前記外膜小胞を検出することが、前記外膜小胞の存在の存否の判定、及び/又は、前記外膜小胞の定量である、[1]に記載の評価方法。
[3] 前記外膜小胞の検出が、染色法によって行われる、[1]又は[2]に記載の評価方法。
[4] 前記染色法に酸化還元系発色試薬を用いる、[3]に記載の評価方法。
[5] 前記外膜小胞の検出が、酸化還元電位測定によって行われる、[1]又は[2]に記載の評価方法。
[6] 前記外膜小胞の検出が、吸光度測定によって行われる、[1]又は[2]に記載の評価方法。
[7] 前記外膜小胞の酸化還元電位が、鉄材料の酸化還元電位より正である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の評価方法。
[8] 前記外膜小胞の酸化還元電位(25℃、pH7)が、-0.6より正である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の評価方法。
[9] 前記外膜小胞の標準酸化還元電位(25℃、pH7)が、鉄材料の酸化還元電位よりも正であり、+0.77V(SHE)よりも負である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の評価方法。
[10] 環境における微生物腐食リスクを評価するための評価キットであって、
前記環境からの採取物を含む評価試料を接触させるように構成された、評価試料導入部と、
前記評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞を検出するように構成された、検出部と、
前記評価試料導入部と、前記検出部とを連結し、前記評価試料導入部から前記検出部へ前記評価試料が移動可能なように構成された、連結部と、を備える評価キット。
[11] 前記検出部が酸化還元系発色試薬を含み、染色法により前記外膜小胞を検出するように構成されている、[10]に記載の評価キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、より簡便に、且つより正確に微生物腐食リスクを評価できる評価方法、及び該評価方法を利用した評価キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の微生物腐食リスクの評価方法を説明するフローチャートである。
図2】第2実施形態の評価キットの模式図である。
図3図3(a)は、実施例において細菌(IS5)培養液から分離したOMVの透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図3(b)は、より高倍率のTEM像である。
図4】実施例において細菌(IS5)培養液から分離したOMVの粒度分布を示す図である。
図5】実施例において、シトクロム反応性DAB(3,3’-ジアミノベンジジン)-H染色したOMVのTEM像である。図5(a)は、H非存在下におけるDAB染色陰性(ネガティブ染色)の結果であり、図5(b)は、H存在下におけるDAB染色陽性(ポジティブ染色)の結果である。
図6】実施例において、OMVの電気泳動後のゲルのCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色、及びヘム反応性TMBZ(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)-H染色(ヘム染色)を行った結果(OMVのタンパク質プロファイル)を示す図である。
図7図7(a)は、実施例で用いた、ポリ-L-リジン(PLL)コートしたITO電極の模式図である。図7(b)は、実施例における、OMVの酸化還元電位測定結果を示す図である。
図8】実施例における、OMVを用いた電気化学測定の結果を示す図である。
図9】実施例における、電気化学測定後に電極上に形成されたバイオフィルムの共焦点レーザー顕微鏡像である。
図10】実施例において、電気化学測定後に電極上に形成されたバイオフィルムのSEM像である。
図11】ITO電極上に形成されたバイオフィルムの模式的モデルを示す図である。
図12】実施例における腐食試験後の試験片の重量減少量を示すグラフである。
図13図13(a)は、実施例における腐食試験後の試験片表面のSEM像であり(バイオフィルム及び腐食生成物有り)、図13(b)は、バイオフィルム及び腐食生成物を剥離した後の試験片表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。尚、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態の微生物腐食リスクの評価方法では、EMICを引き起こす細菌が分泌する外膜小胞を新規な腐食バイオマーカーとして利用し、これを検出することで、微生物腐食リスクを評価する。外膜小胞(OMV)とは、細菌細胞の細胞膜の一部が菌体外にくびり取られるようにして産生されたマイクロベシクルである。
【0016】
本願発明者は、硫酸還元菌を含む複数のEMIC(電気的微生物腐食)を引き起こす細菌についての研究を行っており、これらの細菌が直径40~120nmの外膜小胞(OMV)を分泌することを発見した。更に、分泌されたOMVの表面には、電子摂取を直接媒介できる酸化還元活性なタンパク質が存在すること、即ち、OMVが酸化還元特性を有することを明らかにした。この酸化還元特性を有する外膜小胞(以下、適宜、「特定OMV」と記載する)は、導電性バイオフィルムの形成、及び、細菌の細胞外電子摂取(EEU)を促進し、結果として、EMICを加速することも見出した(後述する実施例、及び図9図13)。微生物は普遍的にOMVを分泌すると言われているものの、EMICを引き起こす鉄腐食細菌におけるOMVの分泌や、鉄腐食過程におけるOMVの役割に関する報告は、これまで皆無であった。本発明は、本願発明者の研究におけるこれらの知見に基づいてなされたものである。即ち、本発明では、EMICを引き起こす細菌が分泌する、酸化還元特性を有する外膜小胞(特定OMV)を新規な腐食バイオマーカーとして利用し、これにより腐食リスクを検出する。
【0017】
特定OMVを分泌する細菌、即ち、EMICを引き起こす細菌としては、例えば、D. ferrophilus IS5,Desulfovibrio vulgaris Hildenborough,Desulfobacterium corrodens IS4等が挙げあれる。環境から特定OMVが検出されるということは、環境中にこれらの細菌が存在し、且つ、特定OMVの存在により微生物腐食がより加速され易い状態にあることを意味する。
【0018】
以下に本実施形態の評価方法の詳細について説明する。本実施形態の評価方法は、図1に示すように、
ステップS1:環境からの採取物を含む評価試料を用意することと、
ステップS2:評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞(特定OMV)を検出すること、
を含む。
【0019】
<ステップS1:評価試料の用意>
まず、環境からの採取物を含む評価試料を用意する(図1のステップS1)。「環境」とは、特に限定されないが、例えば、石油パイプライン、汚染水や処理水を扱う設備(配管を含む)、処理水の貯留タンク等の内部が挙げられる。これらは、一部または全部が金属(典型的には、鉄材料を含む金属)で構成される設備であり、金属の電気的微生物腐食(EMIC)が大きな問題となる。「環境からの採取物」とは、これらの設備内に存在する流体(液体)、固体(汚泥)等である。これらの「採取物」は、環境において、金属と接触しているか、又は、金属と接触する可能性があるものであってよい。また、「環境からの採取物」は、例えば、海水、海底土、汚泥、地下水、河川水、土壌であってもよい。
【0020】
評価試料は、例えば、環境からの採取物そのものであってもよいが、採取物に何らかの処理を施し、採取物からOMVを抽出、分離、精製等したものを評価試料とすることが好ましい。これにより、特定OMV検出の精度を高めることができる。OMVの抽出、分離、精製等の方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、環境からの採取物を溶媒(例えば、生理学的緩衝液)に溶解又は分散した後、遠心分離、濾過等を行ってもよい。また、市販のOMV単離キットを用いて処理してもよい。
【0021】
<ステップS2:酸化還元特性を有する外膜小胞の検出>
次に、評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞(特定OMV)を検出する。ここで、「特定OMVの検出」とは、少なくとも特定OMVの存否の判定を意味し、更に、特定OMVの定量を含んでもよい。そして、特定OMVの検出結果に基づいて、環境(採取物を採取したサイト)における微生物腐食リスクを評価できる。例えば、評価試料中に特定OMVが存在していれば、特定OMVが存在していない場合と比較して、環境における微生物腐食リスクは高いと評価できる。特定OMVの定量を行った場合は、特定OMVの検出量が多いほど、環境における微生物腐食リスクはより高いと評価できる。また、特定OMVの量に基準値を設定し、検出量が基準値を越えた場合に、環境における微生物腐食リスクが高いと判断してもよい。基準値を複数設けて、微生物腐食リスクを多段階で評価してもよい。更に、定期的に環境からサンプル(採取物)を採取して、環境に存在する特定OMVの量の経時変化をモニターし、これに基づき、環境における微生物腐食リスクを評価してもよい。
【0022】
尚、評価試料中(即ち、採取物を採取した環境中)には、EMICに関与しないOMV、即ち、酸化還元特性を有さないOMVも存在する可能性がある。本実施形態の評価方法では、酸化還元特性を有するOMV(特定OMV)のみをバイオマーカーとして検出する。
【0023】
特定OMVの検出方法は、特に限定されない。例えば、染色法を用いて特定OMVを検出してもよい。上述のように、本願発明者は、特定OMVの表面には、酸化還元活性なタンパク質(例えば、シトクロム酵素等の酸化還元酵素)が存在することを発見した。酸化還元酵素(タンパク質)は、例えば、酸化還元系発色試薬を用いた染色法(酸化還元染色法)により検出できる。染色法による検出では、特定OMVの存否の判定、更には、定量が可能となる。
【0024】
染色法としては、例えば、後述する実施例で行ったシトクロム反応性DAB-H染色が挙げられる。図5(a)(b)に、シトクロム反応性DAB-Hで染色したOMVの透過電子顕微鏡(TEM)写真を示す。図5(a)は、H非存在下におけるDAB染色陰性(ネガティブ染色)の結果であり、図5(b)は、H存在下におけるDAB染色陽性(ポジティブ染色)の結果である。図5(b)のポジティブ染色でのみ染色されて明瞭に視認可能であることから、このOMVが酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)と判断できる。
【0025】
また、染色法としては、後述する実施例で行ったヘム反応性TMBZ-H染色(ヘム染色)が挙げられる。図6に、評価試料を電気泳動させた後のゲルに対して、CBB染色、及びヘム染色を行った、OMVのタンパク質プロファイルを示す。CCB染色と共に、ヘム染色によっても染色されバンドが視認できることから、このOMVが酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)と判断できる。また、電気泳動と組み合わせた染色法では、検量線法等により、バンドの濃さに基づいて特定OMVの定量も可能である。
【0026】
尚、上述のDAB染色ではTEMを用いて観察し(図5(a)(b))、ヘム染色では電気泳動後にゲル染色を行って観察している(図6)が、本実施形態はこれに限定されない。例えば、評価試料と、各染色試薬とを直接接触させて染色の有無を観察してもよい。この場合、TEMや電気泳動装置等が不要となり、よい簡便且つ短時間で特定OMVの存否の判定が可能となる。
【0027】
染色法は、上述の例に留まらず、例えば、オルト‐フェニレンジアミンを用いた染色方法(Okajimas Folia Anatomica Japonica, 1955年27巻5号p.335-343参照)、市販のペルオキシダーゼ染色キット(例えば、ナカライテスク株式会社製)等、従来公知のものを利用できる。
【0028】
また、特定OMVの検出は、酸化還元電位測定を用いて行ってもよい。評価試料中のOMVの酸化還元電位を測定し、酸化還元電位が特定の範囲内にあるとき、そのOMVが酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)と判断してもよい。例えば、特定OMVの酸化還元電位は、鉄材料の酸化還元電位より正であってよい。この場合、鉄材料から特定OMVに電子が移動し易くなり、鉄腐食細菌(例えば、硫酸還元菌)の鉄から電子を直接引き抜く作用(EEU)が促進され、結果として、EMICが促進される。このように、特定OMVは、細菌の鉄からの電子摂取を媒介する経路となり得る。ここで、鉄材料とは、純鉄(標準酸化還元電位(25℃、pH7)-0.44V(SHE))だけでなく、炭素鋼、合金鋼等の鉄を含む金属材料を意味する。鉄材料は純鉄よりも負の標準酸化還元電位を有する場合もある(例えば、-0.6V(SHE)程度)。特定OMVの酸化還元電位(25℃、pH7)は、例えば、-0.6V(SHE)より正であってよく、-0.44V(SHE)より正であってもよい。
【0029】
また、特定OMVの酸化還元電位は、鉄腐食細菌の電子受容体の酸化還元電位より負であってよい。これにより、特定OMVから電子受容体へ電子が流れ易くなり、鉄腐食細菌から電子受容体への電子供与が促進される。例えば、鉄腐食細菌の電子供与体としては、硫酸塩(-0.2V(SHE))、鉄イオン(Fe3+/Fe2+の酸化還元電位:+0.77V(SHE))等が挙げられる。特定OMVの酸化還元電位(25℃、pH7)は、例えば、+0.77V(SHE)より負であってよく、-0.2V(SHE)より負であってもよい。
【0030】
OMVの酸化還元測定方法は特に限定されない。例えば、図7(a)に示すように、まず、OMVが吸着可能に表面処理した電極(例えば、PLLコートITO電極)を用意する。この電極と評価試料とを接触させて電極上にOMVを吸着させることで、OMVの酸化還元電位を測定できる。図7(b)に、後述する実施例で行ったOMVの酸化還元測定結果を示す。測定したOMVは、鉄材料の酸化還元電位より正の酸化還元電位(-0.32V(SHE))を有していることから、酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)と判断できる。また、検量線法等により、酸化還元ピーク(-0.32V(SHE))強度に基づいて特定OMVの定量も可能である。
【0031】
更に、特定OMVの検出は、吸光度測定を用いて行ってもよい。上述のように、特定OMVの表面には、酸化還元活性なタンパク質が存在する。このタンパク質の吸光特性を把握している場合には、吸光度測定により特定OMVを検出できる。例えば、本願発明者は、硫酸還元菌であるD. ferrophilus IS5から分泌されるOMVが、細菌(IS5)の表面タンパク質と同じ特定のシトクロム酵素を有することを発見した。この特定のシトクロム酵素は、419nm、及び512nmに吸収ピークを有することが分かっている(特許文献1、非特許文献2)。この吸収ピークに着目し、評価試料中のOMVが同様の吸収ピークを有するとき、そのOMVがIS5から分泌されたOMVである(即ち、特定OMVである)と判断できる。また、検量線法等により、吸収ピーク強度に基づいて特定OMVの定量も可能である。
【0032】
特定OMVの検出方法として説明した上述の方法、即ち、染色法、酸化還元電位測定、及び吸光度測定は、いずれか1つの方法により特定OMVを検出してもよいし、いくつかの方法を組み合わせて実施して、検出精度を高めてもよい。尚、吸光度測定と比較して、染色法、及び酸化還元電位測定は特定OMV検出の感度が高く、より腐食リスクの低い状態(特定OMVの少ない状態)の評価にも適している。また、特定OMVの検出方法は、染色法、酸化還元電位測定、及び吸光度測定に限定されず、例えば、酸化還元特異的染色(例えばDAB-H染色)前後でOMVの直径変化の測定、AFM等によるOMV表面導電性の直接測定、インピーダンス測定等を用いて検出してもよい。
【0033】
以上説明した本実施形態の微生物腐食リスクの評価方法は、以下の利点を有する。本実施形態の微生物腐食リスクの評価方法は、特定OMVを新規な腐食バイオマーカーとして利用する。このため、細菌培養は不要であり、従来の方法(細菌検出に基づく腐食リスクの評価方法)と比較して、簡便且つ短時間で腐食リスクを評価できる。また、OMVはナノ粒子であるため、バイオフィルムを形成する菌体と比べてバイオフィルム外へ放出され易い。このため、細菌を検出する従来の方法よりも、特定OMVを検出する本実施形態の方法の方が、より正確に微生物腐食リスクを評価できる。更に、厳格嫌気環境や適切な温度を要する鉄腐食細菌と比較して、特定OMVはロバストネスが遥かに高く、環境からの検出がより容易である。この点からも、従来法(細菌検出)よりも、本実施形態の方法(特定OMVの検出)の方が、より簡便で、より正確に微生物腐食リスクを評価できる。
【0034】
[第2実施形態]
本実施形態(第2実施形態)では、第1実施形態の微生物腐食リスクの評価方法を利用した、環境における微生物腐食リスクを評価するための評価キットについて説明する。図2に示すように、本実施形態の評価キット100は、環境からの採取物を含む評価試料(図2中のSample)を接触させるように構成された、評価試料導入部10と、評価試料中の酸化還元特性を有する外膜小胞(特定OMV)を検出するように構成された、検出部20と、評価試料導入部10と、検出部20とを連結し、評価試料導入部10から検出部20へ評価試料が移動可能なように構成された、連結部30とを備える。評価キット100は、更に基材40を備え、評価試料導入部10、検出部20、及び連結部30は、基材40上に設けられていてもよい。
【0035】
評価試料導入部10、検出部20、及び連結部30を構成する材質は特に限定されないが、例えば、評価試料を吸収可能な繊維、紙、スポンジ等の液体吸収材であってよい。評価試料導入部10で吸収された評価試料が、検出部20までスムーズに移動可能なように、評価試料導入部10、検出部20、及び連結部30は、連続した一体の液体吸収材で構成されてもよい。また、評価試料導入部10は、基材40に形成された凹部であって、そこに液体吸収材は存在しなくともよい。この場合、凹部である評価試料導入部10に評価試料が保持され、そこから、液体吸収材である連結部30に評価試料が吸収される。
【0036】
検出部20における、特定OMVの検出方法は特に限定されないが、例えば、染色法が挙げられる。この場合、検出部20は、特定OMVを検出(染色)可能な染色試薬(例えば、酸化還元系発色試薬)を含む。染色法、及びそれに用いる染色試薬については、第1実施形態で説明したものと同様のものが挙げられ、好適態様も同様である。
【0037】
次に、評価キット100の使用方法について説明する。評価キット100は、環境からの採取物を含む評価試料を評価試料導入部10に接触させるだけという、非常に簡便な方法により、微生物腐食リスクを評価できる。評価試料は、環境からの採取物そのものであってもよいが、特定OMV検出の精度を高めるため、第1実施形態と同様の方法で評価試料を調製してもよい。評価試料導入部10に接触させた評価試料は、毛細管現象により連結部30内を移動して検出部20に至る。評価試料中に特定OMVが存在する場合、検出部20において、染色試薬により染色されて染色部21が形成される。染色部21の有無を目視で判断することで、特定OMVの存否を判定でき、また、検量線法等により、染色部21の濃さに基づいて特定OMVの定量も可能である。これらの特定OMVの検出結果から、第1実施形態と同様に環境における微生物腐食リスクを評価できる。
【0038】
本実施形態の評価キット100を使用すれば、上述のように非常に簡便な方法により、微生物腐食リスクを評価できる。また、特定OMVはナノ粒子であるため、評価試料導入部10から検出部20までの容易に移動でき、正確な微生物腐食リスク評価が可能である。
【実施例0039】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0040】
[硫酸還元菌の培養]
Desulfovibrio ferrophilus IS5(DSM番号:15579)を、80mLのDSMZ培地195cを含むブチルゴム栓付きガラスバイアル中で、ヘッドスペースをCO/N(体積比20/80)で無酸素状態とし、28℃で前培養を5日間行った。5日後の培養物は、細胞光学密度OD600nm=0.3であった。尚、菌体を大量培養する際は、5日間培養した菌液を更にDSMZ培地195cに10%接種して5日間培養した。
【0041】
[評価試料の調製]
上述の培養物(培養液)(3000mL)から細菌を除去してOMVを精製するため、遠心分離(7,000G×15分間)した後、上澄み液をフィルターで濾過し(孔径:0.22μm)、濾過液を更に限外ろ過(100kDa)することでOMV濃縮を行った。この濃縮液(10mL)にNa-HEPES緩衝液(25mM、pH7.2)を100mL添加し、限外ろ過により10mLに濃縮する、という操作を3回行い、OMVをHEPES緩衝液(10mL)に分散させた。この分散液を実験に用いた。
【0042】
[外膜小胞(OMV)の特性評価]
(1)TEM観察
細菌(IS5)培養液から分離したOMVの透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。TEMグリッドはEMステイナー(日新EM株式会社製)で染色した。図3(a)(b)に倍率の異なるTEM像を示す(図3(b)の方が高倍率)。図3(b)に示すように、一部のOMVでは、外膜(OM)と内膜(IM)の層が観察された。
【0043】
(2)粒度分布測定
フローナノアナライザー装置を用いて、精製したOMV(評価試料中のOMV)の粒度分布を測定した。結果を図4に示す。平均粒子径は、62.8nmであった。
【0044】
(3)酸化還元染色1
精製したOMV(評価試料中のOMV)をシトクロム反応性DAB(3,3’-ジアミノベンジジン)-H染色し、TEM観察を行った。結果を図5(a)(b)に示す。図5(a)は、H非存在下におけるDAB染色陰性(ネガティブ染色)の結果であり、図5(b)は、H存在下におけるDAB染色陽性(ポジティブ染色)の結果である。図5(b)のポジティブ染色でのみ染色され、特に、OMVの表面が強く染色されていた。これから、OMV表面にはシトクロム酵素(酸化還元酵素)が存在しており、このOMVが酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)ことが確認できた。
【0045】
(4)酸化還元染色2
評価試料を電気泳動させた後のゲルに対して、CBB(Coomassie Brilliant Blue)染色、及びヘム反応性TMBZ(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)-H染色(ヘム染色)を行った。結果(OMVのタンパク質プロファイル)を図6に示す。図6に示すように、CCB染色と共に、ヘム染色によっても染色されバンドが視認できた。これから、このOMVが酸化還元特性を有する(即ち、特定OMVである)ことが確認できた。
【0046】
(5)酸化還元電位測定
まず、図7(a)に示すように、OMVが吸着可能なように、ポリ-L-リジン(PLL)で表面処理した(コートした)酸化インジウムスズ(ITO)電極を用意した。このITO電極上に、OMVサンプル液を添加して15分静置して、電極上にOMVを吸着させ、微分パルスボルタンメトリー法(DPV)により電気化学測定を行い、OMVの酸化還元電位を求めた。結果を「OMV」と表示して図7(b)に示す。比較のため、OMVを含有しないこと以外は評価試料と同組成の溶液に対して、同様の電気化学測定を行った。結果を併せて、「Sterile」と表示して図7(b)に示す。
【0047】
図7(b)に示すように、OMVは-0.32V(SHE)の酸化還元電位を有していた。この値は、鉄の酸化還元電位(-0.44V(SHE))より正であり、硫酸塩の酸化還元電位(-0.2V(SHE))より負である。この結果から、このOMVは、硫酸還元菌(IS5)のEMICを促進すると推測される。
【0048】
[OMVの電気化学測定]
-0.4V(SHE)の電位に保たれたITO電極を備えた3電極嫌気性反応器を用いて、以下の3種類の試料(溶液)1~3において生成するカソード電流を測定した。結果を図8に示す。本試験においては、ITO電極が細菌(IS5)にとって唯一の電子供与体である。

試料1(OMVのみ):OMV溶液(上述の評価試料)(2.6×10粒子/mL)0.5mLを反応容器内の電解液4.5mLに添加して試料1を調製した。試料1中のOMV密度は2.6×10粒子/mLである。
試料2(IS5のみ):まず、5日間液体培養した培養液から細菌(IS5)を遠心分離し、分離した細菌を0.5mLのHEPES緩衝液(25mM、pH7.2)に再分散した。再分散液を反応容器内の電解液4.5mLに添加して(最終OD600nm=1)試料2を調製した。
試料3(IS5+OMV):5日間液体培養した培養液から細菌(IS5)を遠心分離し、分離した細菌を0.5mLのOMV溶液(上述の評価試料)に再分散した。再分散液を反応容器内の電解液4.5mLに添加して試料3を調製した。試料3中のOMV密度は2.6×10粒子/mLである。

尚、試料1~3で用いた電解液は、非特許文献2に開示されている電解液と同組成のものを自家調製した。
【0049】
図8に示すように、細菌を含む試料2(IS5のみ)及び試料3(IS5+OMV)では電流の発生が確認でき、特に、試料3(IS5+OMV)は、試料2(IS5のみ)と比較して電流値が大きく増加した。試料3(IS5+OMV)では、OMVが低濃度(10個/mL、pMオーダー)であるにも関わらず、電流値の増加が見られたことから、OMVは電子メディエーターとして拡散による電子伝達を媒介するのではなく、OMVが細菌(IS5)のITO電極からの電子の引き抜き(EEU)を促進していると推測される。また、試料1(OMVのみ)ではわずかな電流発生しか確認できず、OMV自体は電子の引き抜き(EEU)を行わないことが確認できた。
【0050】
[バイオフィルムの共焦点走査蛍光顕微鏡観察、及びSEM観察]
上述の電気化学測定(図8参照)において、試料2(IS5のみ)に用いたITO電極(Without OMV)、試料3(IS5+OMV)に用いたITO電極(With OMV)の共焦点走査蛍光顕微鏡観察、及びSEM観察を行った。共焦点レーザー顕微鏡像を図9に、SEM像を図10に示す。尚、共焦点走査蛍光顕微鏡観察においては、細胞をLive/Dead蛍光染料で染色した。
【0051】
図9及び図10に示すように、試料2(Without OMV)と比較して、試料3(With OMV)では、より厚いバイオフィルムが形成され、多くの細菌が確認された。また、図10に示すように、試料3(With OMV)では、細菌間、及び細菌と電極表面との間に、ナノワイヤの形成が確認された。本願発明者は、非特許文献2において、このナノワイヤも、細菌(IS5)の細胞膜と同じ特定のシトクロム酵素を有し、細菌(IS5)のEEUを促進することを報告している。このナノワイヤの存在により、試料3(With OMV)に形成されたバイオフィルムは、膜厚が厚いにも関わらず、高い導電性を有していたと推測される。以上の結果から、OMVの存在によって、細菌(IS5)はより厚く、且つより導電性が高いバイオフィルムを形成し、この結果、細菌(IS5)のITO電極からの電子の引き抜き(EEU)が加速した(図8参照)したことが確認できた。図11に、試料2(Without OMV)、及び試料3(With OMV)においてITO電極上に形成されたバイオフィルムの模式的モデルを示す。
【0052】
[OMVの微生物腐食に与える影響の評価]
上述の電気化学測定(図8参照)において調製した3種類の試料(OMVのみ、IS5のみ、IS5+OMV)を用いて、金属(炭素鋼)の腐食試験を行った。上記試料を分散させる培地として、9mLの改変したDSMZ195c培地を腐食媒体として使用した。改変したDSMZ195c培地とは、DSMZ195c培地から乳酸を除去し、炭素源として1mM酢酸ナトリウムを添加した培地である。試料1(OMVのみ)、試料2(IS5のみ)、及び試料3(IS5+OMV)のそれぞれに、試験片(SPCC炭素鋼クーポン(10mm×10mm×2mm))を細菌(IS5)の唯一の電子供与体として添加した。試料1及び試料3では、OMV密度を2.6×10粒子/mLとした。試料2及び試料3では、チューブ内のIS5の開始細胞濃度をOD600nm=0.05とした。試料1~3を、2週間、28℃において嫌気性環境下で培養した。その後、腐食した鉄板の様子をSEMで観察した。結果を図13(a)に示す。観察後、試験片を3.5g/Lのヘキサメチレンテトラミンを含む6M塩酸に5分浸漬し、試験片表面の腐食生成物とバイオフィルムを剥離させた。剥離後の試験片表面のSEM観察を行った。結果を図13(b)に示す。
【0053】
また、培養前の試験片の重量、及び、培養後に腐食生成物及びバイオフィルムを剥離した試験片の重量を測定して、これらの重量差から腐食試験による試験片の重量減少量を求めた。結果を図12に示す。
また、比較のため、試料1~3に代えて、改変したDSMZ195c培地(無菌)を用いて同様の腐食実験を行った。図12及び図13(a)(b)に、「Sterile」と表示して結果を示す。
【0054】
図12及び図13(a)(b)に示すように、試料2(IS5のみ)と比較して、試料3(IS5+OMV)では、試験片のより大きい重量減少、及びより激しい表面劣化が観察された。この結果から、OMVが細菌(IS5)の孔食性鉄腐食を促進することが確認できた。また、Sterileと比較して、試料1(OMVのみ)にも、重量減少や表面の腐食孔が多く観察され、OMVのみでも腐食が促進されることが確認できた。この原因としては、OMVが試験片(炭素鋼)上に分布することで、試験片表面上の化学種の局在濃度に影響した可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の微生物腐食リスクの評価方法は、より簡便に、且つより正確に微生物腐食リスクを評価できる。これにより、例えば、石油パイプライン内部等に存在する嫌気鉄腐食を早期に検出することができ、微生物腐食による事故を事前に抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
100 評価キット
10 評価試料導入部
20 検出部
21 染色部
30 連結部
40 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13