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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025055002
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】形状記憶ハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/60 20060101AFI20250401BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08F220/60
C08J3/24 Z CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023164275
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】西村 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 暖
【テーマコード(参考)】
4F070
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA36
4F070AC12
4F070AC39
4F070AC48
4F070AE08
4F070AE28
4F070GA10
4J100AL66R
4J100AM21P
4J100AM21Q
4J100BA03Q
4J100BA08R
4J100BA15Q
4J100BA16Q
4J100BA35P
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA01
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC35
4J100JA51
4J100JA57
4J100JA61
(57)【要約】
【課題】重合後反応により力学特性を自在にチューニングできる新しい形状記憶ハイドロゲルを提供する。
【解決手段】高分子マトリックスと水とを含む形状記憶ハイドロゲルであって、高分子マトリックスが、式(1)で示されるモノマーと、反応性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体であることを特徴とする。Rは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックスと水とを含む形状記憶ハイドロゲルであって、
前記高分子マトリックスが、式(1)で示されるモノマーと、
【化1】
反応性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体であることを特徴とする形状記憶ハイドロゲル(Rは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)。
【請求項2】
前記高分子マトリックスが、式(2)で示される共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル(Rは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Xは、置換もしくは無置換のヒドロキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のカルボキシ基、置換もしくは無置換のチオール基、置換もしくは無置換のアルデヒド基、シアノ基、エポキシ基が、直接又はリンカーを介して結合されている構造であり、aは1~20であり、nは化合物の分子量によって規定される繰返し単位である。)。
【化2】
【請求項3】
前記リンカーは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、又は、チオエーテル結合を含むことを特徴とする請求項2に記載の形状記憶ハイドロゲル。
【請求項4】
前記高分子マトリックスが、式(2)で示される共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル(Rは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Xは、-CONH-Q、-COO-Q、アルキレン基、アリーレン基、を表し、QはCHRCORであり、Rは、CHOH、CH(OH)CH、(CHNH、CHCOOR、(CHCOOR、CHSH、CHCONH及び(CHCONHからなる群より選択され、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基からなる群より選択され、Rは、NH又はORであり、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基であり、aは1~20であり、nは化合物の分子量によって規定される繰返し単位である。)。
【化3】
【請求項5】
前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるエチレン性不飽和基を含むモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和モノマーは、N-(メタ)アクリロイルセリンメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルバリン、N-(メタ)アクリロイルリシンメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルシステインメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルグルタミン酸メチルエステル、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸メチルエステル、(メタ)アクリロイルグリシンアミド、(メタ)アクリロイルアスパラギンアミド、又は、(メタ)アクリロイルグルタミンアミドの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-アミノエチル)メタクリルアミド塩酸塩、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2-カルボキシエチルメタクリレート、N,N’ジメチルアクリルアミド、N,N’ジエチルアクリルアミド、ブチルカルバモイルエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸、ビニル安息香酸、ビニルホスホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、又は、スルファトエチル(メタ)アクリレートの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル。
【請求項8】
前記高分子マトリックスを形成する共重合体が分子間で架橋された構造である請求項1に記載の形状記憶ハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶機能を有するハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の三次元ネットワーク構造からなるハイドロゲルは、基本的に水との親和性の高いポリマーが水系溶媒中で膨潤したものである。ハイドロゲルは、高い含水性に基づく生体適合性や柔軟性、透明性、物質内包性を有しており医学から工学まで幅広い分野で応用されている。
【0003】
一方、ハイドロゲルは大部分が水で構成されているため、形状を変形・固定したり、記憶させることが難しい。発明者らは、化学架橋型の温度応答性アミノ酸由来ビニルポリマーの可逆的水素結合を利用することで、初期形状を記憶し、温度刺激により形状固定/回復可能なハイドロゲルの開発に成功した(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このゲルシステムでは初期形状や本質的な機械的特性は重合時に決まるため、重合後にゲル特性を変化させることは難しい。ゲルの力学特性(粘弾性)の制御は、医用分野やコスメティック分野での応用に際して特に重要である。
【0005】
重合後に外部刺激により弾性率を能動的に制御できる機能性ハイドロゲルを用いることで、動的な弾性率変化の挙動が研究され始めている(非特許文献1)。例えば光に応答して開裂するニトロベンジルエーテル基を架橋点に持つ、ポリエチレンオキシドをメインネットワークとするハイドロゲルが提案されており、光照射に応答して架橋点が開裂することで弾性率が減少する動的ハイドロゲルが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
しかしながらこのような技術では、ハイドロゲルの機械的特性を自在に調整できる制御として十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第7025749号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. A. Burdick and W. L. Murphy, Nat. Commun., 3,1269(2012)
【非特許文献2】A. M. Kloxin, A. M. Kasko, C. N. Salinas, and K. S.Anseth, Science, 324, 59(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、従来の形状記憶性ハイドロゲルのこうした課題を克服し、重合後反応により力学特性を自在にチューニングできる新しい形状記憶ハイドロゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる形状記憶ハイドロゲルは、高分子マトリックスと水とを含む形状記憶ハイドロゲルであって、前記高分子マトリックスが、式(1)で示されるモノマーと、反応性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体であることを特徴とする。ここでRは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。
【0011】
【化1】
【0012】
前記高分子マトリックスは、式(2)で示される共重合体として示されることが可能である。ここでRは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、Xは、置換もしくは無置換のヒドロキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のカルボキシ基、置換もしくは無置換のチオール基 、置換もしくは無置換のアルデヒド基、シアノ基、エポキシ基が、直接又はリンカーを介して結合されている構造であり、aは1~20であり、nは化合物の分子量によって規定される繰返し単位である。
【0013】
【化2】
【0014】
リンカーは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、又は、チオエーテル結合を含む構造である。
【0015】
また、式(2)において、Xは、-CONH-Q、-COO-Q、アルキレン基、アリーレン基、を表し、QはCHRCORであり、Rは、H、CHOH、CH(OH)CH、(CHNH、CHCOOR、(CHCOOR、CHSH、CHCONH及び(CHCONHからなる群より選択され、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基からなる群より選択され、Rは、NH又はORであり、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基として示されることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形状記憶性ハイドロゲルの特性を維持しつつ、且つ、重合後反応により力学特性を自在にチューニングできる新しい形状記憶ハイドロゲルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】P(NAGAm-NASMe)について希薄濃度条件下での温度応答性評価を示す図である。
図2】1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。
図3】1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)に対し、4℃と25℃の水に交互に浸漬させた場合の膨潤率の変化を示す図である。
図4】1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の形状固定率(F)を示す図である。
図5】1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の形状回復率(R)を示す図である。
図6】1ユニットに対して10当量のヘキサメチレンジイソシアネートで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。
図7】1ユニットに対して10当量のエチレンジアミンで後架橋反応をしたP(NAGAm-NAG)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。
図8】本発明のハイドロゲルの自己修復性を示す写真図である。
図9】修復前と修復後のハイドロゲルの引っ張り応力を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0019】
1.形状記憶ハイドロゲル
本発明にかかる形状記憶ハイドロゲルは、高分子マトリックスと水とを含むものであって、高分子マトリックスが、式(1)で示されるモノマーと、反応性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体である。
【0020】
【化3】
【0021】
ここでRは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。
【0022】
高分子マトリックスは、式(2)で示される共重合体にて記載されることが可能である。
【0023】
【化4】
【0024】
ここでRは水素又は炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。Xは、置換もしくは無置換のヒドロキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のカルボキシ基、置換もしくは無置換のチオール基、置換もしくは無置換のアルデヒド基、シアノ基、エポキシ基が、直接又はリンカーを介して結合されている構造であり、aは1~20であり、nは化合物の分子量によって規定される繰返し単位である。aは1~20であり、nは化合物の分子量によって規定される繰返し単位であり、限定されるものではないが例えばnは1000~100万である。
【0025】
ここで「置換もしくは無置換の」における「置換」は、特に限定されるものではないが、例えば、重水素、シアノ基、ハロゲン基、ニトロ基、炭素数1~24の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基、炭素数1~24のハロゲン化された直鎖状、分岐状又は環状アルキル基、炭素数6~24のアリール基、炭素数7~24のアリールアルキル基、炭素数7~24のアルキルアリール基、炭素数2~24のヘテロアリール基、炭素数2~24のヘテロアリールアルキル基、炭素数1~24のアルキルアミノ基、炭素数12~24のジアリールアミノ基、炭素数2~24のジヘテロアリールアミノ基、炭素数7~24のアリール(ヘテロアリール)アミノ基、炭素数1~24のアルキルシリル基、及び炭素数6~24のアリールシリル基よりなる群から選択された一つ以上の置換基で置換されることを意味する。
【0026】
リンカーは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、又は、チオエーテル結合を含む構造である。
【0027】
また式(2)において、Xは、-CONH-Q、-COO-Q、アルキレン基、アリーレン基、を表し、QはCHRCORであり、Rは、H、CHOH、CH(OH)CH、(CHNH、CHCOOR、(CHCOOR、CHSH、CHCONH及び(CHCONHからなる群より選択され、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基からなる群より選択され、Rは、NH又はORであり、Rは、H、1~9個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル又はアリール基とすることも可能である。
【0028】
エチレン性不飽和モノマーは、特に限定されるものではなく、例えば、アクリロイル、メタクリロイル、又は、ビニルである。
【0029】
また、エチレン性不飽和モノマーは、特に限定されるものではなく、例えば、N-(メタ)アクリロイルセリンメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルバリン、N-(メタ)アクリロイルリシンメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルシステインメチルエステル、N-(メタ)アクリロイルグルタミン酸メチルエステル、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸メチルエステル、(メタ)アクリロイルグリシンアミド、(メタ)アクリロイルアスパラギンアミド、又は、(メタ)アクリロイルグルタミンアミドの何れかであり、好ましくは、下記に示されるN-アクリロイルセリンメチルエステルである。
【0030】
【化5】
【0031】
また、好ましくは、下記に示されるN-アクリロイルグリシンである。
【0032】
【化6】
【0033】
また、エチレン性不飽和モノマーは、特に限定されるものではなく、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-アミノエチル)メタクリルアミド塩酸塩、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2-カルボキシエチルメタクリレート、N,N’ジメチルアクリルアミド、N,N’ジエチルアクリルアミド、ブチルカルバモイルエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸、ビニル安息香酸、ビニルホスホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、又は、スルファトエチル(メタ)アクリレートの何れかである。
【0034】
本発明のハイドロゲルにおいて、高分子マトリックスの含有量と、水の含有量との割合は、特に限定されるものではないが、例えば、ハイドロゲルの全量100重量部に対して、高分子マトリックスの含有量が3~50重量部の範囲内であることが好ましく、5~30重量部の範囲内であることがより好ましい。高分子マトリックスの含有量がハイドロゲルの全量100重量部に対して3重量部未満であると、ハイドロゲルの保形性が不十分となるおそれがあり、柔らかすぎ又は千切れやすくなるおそれがあり、またハイドロゲルの全量100重量部に対して50重量部を超えると、ハイドロゲルが硬くなり柔軟性が損なわれたり、透明性が失われてしまうおそれがある。
【0035】
本発明のハイドロゲルには、必要に応じて、水溶性高分子が含有されることも可能である。使用可能な水溶性高分子は、特に限定されないが、例えば、ビニルピロリドンの単独重合体(即ち、ポリビニルピロリドン);ビニルアルコールとビニルピロリドンの共重合体、エーテル変性されたビニルアルコールとビニルピロリドンの共重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体等のようなビニルピロリドン共重合体;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、各種タンパク質、核酸等が挙げられる。
【0036】
また、本発明のハイドロゲルには、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、防腐剤、殺菌剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤等その他の薬効成分を適宜添加してもよい。これら添加剤は、単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
2.形状記憶ハイドロゲルの製造方法
以下に本発明にかかるハイドロゲルの製造方法について記載する。
【0038】
本発明のハイドロゲルは、式(1)で示される化合物と、反応性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーとを、水及びDMSO混合溶媒中に溶解させ、開始剤を加え、共重合させる製造方法によって製造することができる。配合液には、必要に応じて、前述の水溶性高分子や各種添加物を包含させることが可能である。反応温度は、速やかに共重合が進むものであれば特に限定されるものではないが例えば50℃~80℃である。
【0039】
【化7】
【0040】
例えば、N-アクリロイルグリシンアミドと、N-アクリロイルセリンメチルエステルとの反応は、これらを水及びDMSO混合溶媒中に溶解させ、開始剤及び架橋剤を加え、下記式に示される反応式にて共重合することが可能である。
【0041】
【化8】
【0042】
例えば、N-アクリロイルグリシンアミドと、N-アクリロイルグリシンとの反応は、これらを水及びDMSO混合溶媒中に溶解させ、開始剤を加え、下記式に示される反応式にて共重合することが可能である。
【0043】
【化9】
【0044】
前述の配合液には重合開始剤を含有させることが好ましい。重合開始剤は、特に限定されず、熱重合開始剤、光重合開始剤等が挙げられる。
【0045】
熱重合開始剤としては、熱により開裂して、ラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスアミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロリド等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらの熱重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、過硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミンを組み合わせたレドックス重合開始系等でもよい。
【0046】
光重合開始剤としては、紫外線又は可視光線で開裂して、ラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、2,2’-アゾビス-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミドや2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロリド等のアゾ系重合開始剤、α-ヒドロキシケトン、α-ケトンカルボン酸、α-アミノケトン、ベンジルメチルケタール、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
重合開始剤の使用量は、ハイドロゲルの製造に用いる単量体の全量(上記配合液の全量)100重量部に対して、0.01~1.0重量部であることが好ましい。重合開始剤の使用量が単量体の全量(上記配合液の全量)100重量部に対して0.01重量部より少ないと重合反応が十分に促進されず、得られるハイドロゲル中に架橋性ジビニル化合物等が残存する可能性があり、1.0重量部よりも多いと得られるハイドロゲル中に残存する重合開始剤が発生したり、高分子量化しにくくなる虞がある。
【0048】
3.形状記憶ハイドロゲルの使用方法
本発明にかかる形状記憶ハイドロゲルは、架橋剤を使用して、高分子マトリックスを形成する高分子間の共有結合を利用した後架橋をすることが可能である。
【0049】
後架橋に使用される架橋剤は特に限定されるものではなく、例えばグルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレンジアミン等が利用される。
【0050】
例えば下記に示されるP(NAGAm-NASMe)は、グルタルアルデヒドを使用して後架橋することが可能である。グルタルアルデヒドは高い架橋特性を有する二官能性試薬であり、ヒドロキシル基やアミノ基をターゲットとした架橋形成反応に用いられる。高分子中のアミノ基をターゲットとする後架橋は比較的温和な条件下で高分子間の架橋を行うことが可能である。
【0051】
【化10】
【0052】
用いる架橋剤の量は特に限定されるものではなく、例えば高分子の1ユニットに対して架橋剤を1~100当量用いることが可能である。用いる架橋剤の種類や量によりハイドロゲルを重合後反応により力学的特性を自由にチューニングすることが可能となる。
【0053】
これにより、本発明のハイドロゲルは、ハイドロゲルの持つ優位性(柔軟性/透明性/物質内包性/生体適合性等)を維持しながら、形状記憶性を発現し、更には、力学的特性を自由にチューニングすることができる、極めてユニークな高分子材料である。そのため、本発明のハイドロゲルは、例えば、生体材料、医療用材料、化粧品、医薬部外品、工業用材料、ホビー材料として好適に用いることができる。
【実施例0054】
(1) P(NAGAm-NASMe)の重合
下記に示すスキーム及び反応式にてP(NAGAm-NASMe)を重合した。モノマーとしてNAGAm (0.608 g, 4.75 mmol)と、NASMe (0.0390 g, 0.250 mmol)とを水/DMSO (11/4)混合溶媒中に溶解させ、そこに架橋剤であるPEGDA(0.000755 mL, 0.00250 mmol)と開始剤であるAPS(0.00647 g, 0.0283 mmol)を加え、全量が5 mLになるように調製した。
【0055】
この溶液を重合管に加え、寒剤に液体窒素を用いて凍結脱気/窒素置換を行った。封管を行った重合管を70℃の油浴中で18時間重合を行った。重合後、油浴から重合管を取り出し、冷水で重合を停止させた。得られた化合物を分画分子量25000 Daの透析膜を用いて精製を行い、凍結乾燥することで目的のポリマーを得た。
【0056】
【化11】
【0057】
(2) P(NAGAm-NAG)の重合
下記に示すスキーム及び反応式にてP(NAGAm-NAG)を重合した。モノマーとしてNAGAm (0.608 g, 4.75 mmol)と、NAG (0.0320 g, 0.250 mmol)を水/DMSO (11/4)混合溶媒中に溶解させ、APS (0.0064 g, 0.0283 mmol)を加え、全量が5 mLになるように調製した。
【0058】
この溶液を重合管に加え、寒剤に液体窒素を用いて凍結脱気/窒素置換を行った。封管を行った重合管を70℃の油浴中で18 時間重合を行った。重合後、油浴か ら重合管を取り出し、冷水で重合を停止させた。得られた化合物を分画分子量25000 Daの透析膜を用いて精製を行い、凍結乾燥することで目的のポリマーを得た。
【0059】
【化12】
【0060】
(3)温度応答性評価
P(NAGAm-NASMe)について希薄濃度条件下で温度応答性を評価した。ポリマー濃度1wt%、光路長1cm、昇温/降温速度0.5℃/minとした。
【0061】
図1はP(NAGAm-NASMe)について希薄濃度条件下での温度応答性評価を示す図である。図1に示されるように、P(NAGAm-NASMe)はUCST型の温度応答挙動を示すものであった。なおP(NAGAm-NAG)についても図示はしてないが、UCST型の温度応答挙動を示すものであった。
【0062】
(4)ハイドロゲルの調整
重合したP(NAGAm-NASMe)の粉末に4wt%濃度になるように水を加え、電子レンジを使用して溶解後(約90℃)、型に流し込んだ後に4℃で冷却することでゲル化させた。
【0063】
同じように、重合したP(NAGAm-NAG)についてもその粉末を4wt%濃度になるように水を加え、電子レンジを使用して溶解後(約90℃)、型に流し込んだ後に4℃で冷却することでゲル化させた。
【0064】
(5)架橋剤による重合後架橋反応
重合したP(NAGAm-NASMe)の1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドを含む4mL水溶液に1時間浸し、後架橋反応を行うことで測定用ゲルを作製した。
【0065】
(6)力学的強度の評価
1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)について、動的粘弾性測定を行い、6.3rad/sにおける貯蔵弾性率(G’)を比較した。測定条件は4℃、歪み1%であった。図2は、1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。図2に示されるように、架橋の程度により貯蔵弾性率(G’)を制御できることが明らかとなった。1ユニットに対して10当量のグルタルアルデヒドで架橋した場合、架橋密度が高くなったと考えられ、貯蔵弾性率(G’)が大きくなった。
【0066】
(7)膨潤-収縮挙動の評価
1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)について、膨潤-収縮挙動を評価した。1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)を1cm角、厚さ1 mmに成型した。成型したハイドロゲルを24時間4℃の純水に浸漬させた後、4℃と25℃の水に1時間交互に浸漬し、重量(WS)を測定した。測定後、凍結乾燥より粉末状となったポリマーの重量(WD)を再び測定し、膨潤率Swelling percentage(%)を算出した。
【0067】
なお膨潤率は下記式により計算した。
【0068】
Swelling percentage (%) = {(WS-WD) / WD} × 100
【0069】
図3は1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)に対し、4℃と25℃の水に交互に浸漬させた場合の膨潤率の変化を示す図である。図3に示されるように、架橋の程度により膨潤率を制御できることが明らかとなった。
【0070】
(8)形状記憶性の評価
1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)について、形状記憶性を評価した。1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)を厚さ1 mmで長さ30×幅2(mm)の棒状(θ0 = 180度)にカットした。カットしたハイドロゲルを25℃の水中に1時間浸漬させた後で180度折り曲げ、4℃の水中に1時間浸漬させることで形状を固定した。固定後、ゲルから固定する力を取り除き、その時維持した(θ1)を測定し、次式から形状固定率(F)を算出した。
【0071】
Shape fixing percentage (F) (%) = {(θ01) / θ0} × 100
【0072】
その後25℃の水中に1時間浸漬させ、形状が回復した角度(θ2)を測定し、次式から形状回復率(R)を算出した。
【0073】
Shape recovery percentage (R) (%) = (θ2/ θ1) × 100
【0074】
図4は1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の形状固定率(F)を示す図である。図4に示されるように、本実施例にかかるハイドロゲルは形状固定率に優れたものであった。
【0075】
(9)形状回復率の評価
1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)について、形状回復率を評価した。図5は1ユニットに対して1、10、100当量の架橋剤グルタルアルデヒドで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の形状回復率(R)を示す図である。図5に示されるように、本実施例にかかるハイドロゲルは形状回復率に優れたものであった。
【0076】
(10)ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)による後架橋
前述の実施例では、重合したP(NAGAm-NASMe)に対してグルタルアルデヒドで後架橋したものであった。しかし、本願発明のハイドロゲルを後架橋できる架橋剤はグルタルアルデヒドに限定されるものではなく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)による後架橋も可能である。
【0077】
4wt%で調製したP(NAGAm-NASMe)の溶媒を一旦アセトニトリルに置換後、P(NAGAm-NASMe)量に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)(10eq.)を加えて70℃で8時間反応させた。その後、再び水に置換してハイドロゲルとした。
【0078】
10当量の架橋剤ヘキサメチレンジイソシアネートで後架橋反応させたP(NAGAm-NASMe)について、動的粘弾性測定を行い、6.3rad/sにおける貯蔵弾性率(G’)を比較した。測定条件は4℃、歪み1%であった。図6は1ユニットに対して10当量のヘキサメチレンジイソシアネートで後架橋反応をしたP(NAGAm-NASMe)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。図6に示されるように、架橋の前後で貯蔵弾性率(G’)を制御できることが明らかとなった。
【0079】
(11)エチレンジアミン(EDA)による後架橋
前述の実施例では、重合したP(NAGAm-NASMe)に対してグルタルアルデヒドで後架橋したものであった。しかし、本願発明のハイドロゲルを後架橋できる架橋剤はグルタルアルデヒドに限定されるものではなく、例えばP(NAGAm-NAG)をエチレンジアミン(EDA)で後架橋することも可能である。
【0080】
0.05 M Tris-HCl緩衝液中で、P(NAGAm-NAG)1ユニットに対し、エチレンジアミン(EDA)(10 eq.)及びDMT-MM (25 eq.) (縮合剤)を加え、25℃で24時間反応後、Tris-HCl緩衝液中でよく洗浄した。
【0081】
10当量のエチレンジアミン(EDA)で後架橋反応させたP(NAGAm-NAG)について、動的粘弾性測定を行い、6.3rad/sにおける貯蔵弾性率(G’)を比較した。測定条件は4℃、歪み1%であった。図7は1ユニットに対して10当量のエチレンジアミンで後架橋反応をしたP(NAGAm-NAG)の貯蔵弾性率(G’)を示す図である。図7に示されるように、架橋の前後で貯蔵弾性率(G’)を制御できることが明らかとなった。
【0082】
(12)自己修復性の評価
重合したP(NAGAm-NASMe)の粉末に4wt%濃度になるように水を加え、ダンベル状の型に流し込んだ後に電子レンジを使用して溶解後(約90℃)、4℃で冷却することでダンベル型形状にてゲル化させた。
【0083】
図8は本発明のハイドロゲルの自己修復性を示す写真図である。図8に示されるように、ダンベル型形状のハイドロゲルの中央部をカットし、その後カットした部分を重ね合わせて70℃で30min放置して冷却するとカットした部分が修復されて当初の形状に復帰した。
【0084】
図9は修復前と修復後のハイドロゲルの引っ張り応力を比較する図である。図9に示されるように、カットする前のハイドロゲルと比較して、カット後修復したハイドロゲルは若干の引っ張り応力が低下するものの非常に高い自己修復力を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
医用材料、工学材料、化粧品、医薬部外品、ホビー材料等に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9