(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005567
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】サスペンションアーム
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B60G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105784
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簑手 徹
(72)【発明者】
【氏名】達川 昂至
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA60
3D301AA72
3D301AA79
3D301AA83
3D301AA85
3D301DA90
3D301DB02
(57)【要約】
【課題】製造コスト及び重量増加を抑えつつ、ブッシュ保持力を向上させることができるサスペンションアームを提供すること。
【解決手段】本発明のサスペンションアームは、アーム本体と、アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、を備えたサスペンションアームであって、ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と貫通孔の周縁から立ち上がって円筒状に形成された縦壁部とを有し、縦壁部の外周面に取り付けられた環状部材を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム本体と、
前記アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、
を備えたサスペンションアームであって、
前記ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と前記貫通孔の周縁から立ち上がって円筒状に形成された縦壁部とを有し、
前記縦壁部の外周面に取り付けられた環状部材を備えることを特徴とするサスペンションアーム。
【請求項2】
前記環状部材と前記縦壁部とは同種の材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の上端の位置は、前記縦壁部の上端の位置と同じ位置、または、前記縦壁部の上端の位置よりも高い位置、にあることを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンションアーム。
【請求項4】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置は、前記縦壁部の上端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の下端側の第一の位置、または、前記第一の位置よりも前記縦壁部の下端側の第二の位置、にあることを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンションアーム。
【請求項5】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置は、前記縦壁部の上端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の下端側の第一の位置、または、前記第一の位置よりも前記縦壁部の下端側の第二の位置、にあることを特徴とする請求項3に記載のサスペンションアーム。
【請求項6】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置が、前記縦壁部の下端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の上端側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも前記縦壁部の上端側の第四の位置、にあることを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンションアーム。
【請求項7】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置が、前記縦壁部の下端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の上端側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも前記縦壁部の上端側の第四の位置、にあることを特徴とする請求項3に記載のサスペンションアーム。
【請求項8】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置が、前記縦壁部の下端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の上端側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも前記縦壁部の上端側の第四の位置、にあることを特徴とする請求項4に記載のサスペンションアーム。
【請求項9】
前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置が、前記縦壁部の下端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の上端側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも前記縦壁部の上端側の第四の位置、にあることを特徴とする請求項5に記載のサスペンションアーム。
【請求項10】
前記環状部材の内周面は、前記環状部材の軸線方向で上端側から下端側に向かうにつれて半径が大きくなるようなテーパー状となっていることを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項11】
前記縦壁部に前記環状部材を圧入したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項12】
前記縦壁部に前記環状部材を焼き嵌めしたことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項13】
前記縦壁部の外周面には雄ネジ部が形成されており、前記環状部材の内周面には前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項14】
前記環状部材の一部分が、前記縦壁部の上端に被さる形状を有することを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を目的として、高張力鋼の活用による自動車骨格部品の薄肉化が進められてきた。しかしながら、自動車の足回り部品であるサスペンションアームを薄肉化すると、サスペンションアームのブッシュ圧入部の剛性が低下して、サスペンションアームのブッシュ保持力が低下する。特許文献1には、サスペンションアームに補強板を取り付けて、サスペンションアームのブッシュ圧入部からアーム本体への移行部分の断面形状を十分に確保して、移行部分の必要な剛性強度を確保可能とする技術が開示されている。補強板は目玉状頭部と尻尾部とからなり、目玉状頭部はブッシュ圧入部と同軸上に位置し、少なくとも尻尾部がアーム本体に溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、サスペンションアームに取り付ける補強板の製造コストが高く、重量の大幅な増加も避けられない。また、補強板の目玉状頭部をブッシュ圧入部と同軸上に位置させて、補強板の尻尾部を溶接でサスペンションアームのアーム本体部に取り付けることは製造上困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造コスト及び重量増加を抑えつつ、ブッシュ保持力を向上させることができるサスペンションアームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、
(1)本発明に係るサスペンションアームは、アーム本体と、前記アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、を備えたサスペンションアームであって、前記ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と前記貫通孔の周縁から立ち上がって円筒状に形成された縦壁部とを有し、前記縦壁部の外周面に取り付けられた環状部材を備えることを特徴とするものである。
【0007】
(2)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)の発明において、前記環状部材と前記縦壁部とは同種の材料で構成されることを特徴とするものである。
【0008】
(3)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)または(2)の発明において、前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の上端の位置は、前記縦壁部の上端の位置と同じ位置、または、前記縦壁部の上端の位置よりも高い位置、にあることを特徴とするものである。
【0009】
(4)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(3)のいずれか1つの発明において、前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置は、前記縦壁部の上端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の下端側の第一の位置、または、前記第一の位置よりも前記縦壁部の下端側の第二の位置、にあることを特徴とするものである。
【0010】
(5)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(4)のいずれか1つの発明において、前記貫通孔の軸線方向で前記環状部材の下端の位置が、前記縦壁部の下端の位置よりも前記縦壁部の板厚分だけ前記縦壁部の上端側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも前記縦壁部の上端側の第四の位置、にあることを特徴とするものである。
【0011】
(6)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(5)のいずれか1つの発明において、前記環状部材の内周面は、前記環状部材の軸線方向で上端側から下端側に向かうにつれて半径が大きくなるようなテーパー状となっていることを特徴とするものである。
【0012】
(7)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(6)のいずれか1つの発明において、前記縦壁部に前記環状部材を圧入したことを特徴とするものである。
【0013】
(8)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(7)のいずれか1つの発明において、前記縦壁部に前記環状部材を焼き嵌めしたことを特徴とするものである。
【0014】
(9)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)乃至(6)のいずれか1つの発明において、前記縦壁部の外周面には雄ネジ部が形成されており、前記環状部材の内周面には前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
(10)本発明に係るサスペンションアームは、上記(1)または(2)の発明、並びに、上記(4)乃至(8)のいずれか1つの発明において、前記環状部材の一部分が、前記縦壁部の上端に被さる形状を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るサスペンションアームは、製造コスト及び重量増加を抑えつつ、ブッシュ保持力を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るサスペンションアームの概略構成を示した図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るブッシュ圧入部の他例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、参考例に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係るサスペンションアームにおけるリング状部材の平面図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係るリング状部材の断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態3に係るサスペンションアームにおける縦壁部とリング状部材との螺合部分を示した拡大図である。
【
図8】
図8は、実施形態4に係るサスペンションアームにおけるブッシュ圧入部2の断面図である。
【
図9】
図9(a)は、本発明例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した平面図である。
図9(b)は、本発明例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【
図10】
図10(a)は、比較例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した平面図である。
図10(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【
図11】
図11(a)は、ブッシュのCAE解析モデルを示した平面図である。
図11(b)は、ブッシュのCAE解析モデルを示した側面図である。
【
図12】
図12は、ブッシュ圧入部にブッシュを圧入した状態のCAE解析モデルを示した図である。
【
図13】
図13は、ブッシュ引抜時におけるブッシュ引抜力の変化を示したグラフである。
【
図14】
図14(a)は、本発明例に係るブッシュ圧入部において面圧計算を実施した縦壁部内の位置の範囲を示した図である。
図14(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部において面圧計算を実施した縦壁部内の位置の範囲を示した図である。
【
図15】
図15は、縦壁部内における面圧分布を示したグラフである。
【
図16】
図16は、ブッシュ圧入部の縦壁部とリング状部材との位置関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの実施形態1について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
図1は、実施形態1に係るサスペンションアーム1の概略構成を示した図である。
【0020】
図1に示すように、実施形態1に係るサスペンションアーム1は、アーム本体10と、アーム本体10の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部2と、環状部材であるリング状部材3とを備えている。
【0021】
図2は、実施形態1に係るブッシュ圧入部2の断面図である。なお、
図2に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図1中のA-A断面に相当する。
【0022】
実施形態1に係るブッシュ圧入部2は、板状部である天板部21に形成された貫通孔20と、貫通孔20の周縁から貫通孔20の軸線方向に立ち上がって形成された縦壁部23とを有している。なお、以下の説明において貫通孔20の軸線方向のことを単に軸線方向とも記す。縦壁部23は、バーリング加工によって円筒状に形成されている。天板部21と縦壁部23とは、天板部21の内周縁から円弧状に90度で湾曲して形成された湾曲部22によって接続されている。
【0023】
ここで、本願発明者らは、ブッシュがブッシュ圧入部2から受ける面圧について検討し、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端230(軸線方向で天板部21とは反対側の端部)付近の面圧が高く、この部分を環状部材で補強すればブッシュ保持力を向上させる効果が大きいことを見出した。そのため、実施形態1に係るサスペンションアーム1においては、縦壁部23の外周面にリング状部材3の内周面を接触させて、縦壁部23の外周面にリング状部材3を圧入して取り付けている。
【0024】
なお、ブッシュ圧入部2の縦壁部23とリング状部材3との接合方法としては、例えば、溶接やろう付けを適用することが可能である。また、リング状部材3は、例えば、ブッシュ圧入部2の縦壁部23に焼き嵌めによって固定するようにしてもよい。すなわち、加熱して膨張させたリング状部材3を、ブッシュ圧入部2の縦壁部23に嵌め込み、その後、リング状部材3を室温まで冷却することによって、ブッシュ圧入部2の縦壁部23にリング状部材3を嵌合させる。
【0025】
また、ブッシュ圧入部2の縦壁部23とリング状部材3との位置関係は、次の三つの条件を満たすことが望ましい。すなわち、一つ目の条件としては、
図2に示すように、リング状部材3の上端31の位置が、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端230の位置と同じか、または、
図3に示すように、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端230よりも高い位置にある。なお、縦壁部23の上端230よりも高い位置とは、軸線方向で縦壁部23が上側に立ち上がるようにブッシュ圧入部2(サスペンションアーム1)を台などに載置した際に、上端230よりも上の位置のことである。二つ目の条件としては、貫通孔20の軸線方向でリング状部材3の下端32の位置が、縦壁部23の上端230の位置よりも縦壁部23の板厚分だけ縦壁部23の下端側の第一の位置、または、前記第一の位置よりも縦壁部23の下端側の第二の位置、にある。三つ目の条件としては、貫通孔20の軸線方向でリング状部材3の下端32の位置が、縦壁部23の下端の位置よりも縦壁部23の板厚分だけ縦壁部23の上端230側の第三の位置、または、前記第三の位置よりも縦壁部23の上端230側の第四の位置、にある。
【0026】
さらに、リング状部材3とブッシュ圧入部2(縦壁部23)とは、同種の材料で構成されることが望ましい。例えば、ブッシュ圧入部2(縦壁部23)が鉄鋼材料であれば、リング状部材3も鉄鋼材料であることが望ましい。これは、サスペンションアーム1の表面にはカチオン塗装などによって被膜が形成されているが、自動車の走行中などに被膜が損傷して縦壁部23とリング状部材3とが金属同士で接触した際に互いが異種の材料の場合には電解腐食が起こる可能性があるからである。
【0027】
実施形態1に係るブッシュ圧入部2では、軸線方向で縦壁部23が立ち上がっている側とは反対側から貫通孔20にブッシュが圧入され、ブッシュの側面に縦壁部23の内周面が当接してブッシュが保持される。そして、ブッシュ圧入部2にブッシュが圧入されたときに、リング状部材3によってブッシュの側面に働く面圧が高められ、縦壁部23によってブッシュを保持する力を大きくすることができる。
【0028】
図4は、参考例に係るブッシュ圧入部2の断面図である。
【0029】
図4に示すように、参考例に係るブッシュ圧入部2は、天板部21に形成された貫通孔20と、貫通孔20の周縁から立ち上がって形成された縦壁部23とを有している。天板部21と縦壁部23とは、天板部21の周縁から円弧状に90度で湾曲して形成された湾曲部22によって接続されている。参考例に係るブッシュ圧入部2に圧入されたブッシュは、縦壁部23によって保持される。
【0030】
実施形態1に係るブッシュ圧入部2は、縦壁部23の外周面にリング状部材3を取り付けることにより、参考例に係るブッシュ圧入部2に対して僅かな製造コスト増及び重量増で、製造コスト及び重量増加を抑えつつ、ブッシュ保持力を向上させることができる。さらに、実施形態1に係るサスペンションアーム1においては、縦壁部23の外周面にリング状部材3を嵌め込むことによって、容易にブッシュ圧入部2とリング状部材3とを同軸上に位置させることができる。
【0031】
(実施形態2)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態2について説明する。なお、本実施形態において実施形態1と同様の説明については適宜省略する。
【0032】
図5は、実施形態2に係るサスペンションアーム1におけるリング状部材3の平面図である。
図6は、実施形態2に係るリング状部材3の断面図である。なお、
図6に示したリング状部材3の断面は、
図5中のB-B断面に相当する。
【0033】
実施形態2に係るリング状部材3においては、リング状部材3の上端31における内周面33と軸線AXとの間の径方向の距離である内半径をR11とし、リング状部材3の下端32における内周面33と軸線AXとの間の径方向の距離である内半径をR12とする。そして、実施形態2に係るリング状部材3では、R11<R12となっており、リング状部材3の内周面33が軸線方向で上端31側から下端32側に向かうにつれて内半径が線形的に大きくなるようなテーパー状となっている。これにより、実施形態2に係るサスペンションアーム1においては、ブッシュ圧入部2の縦壁部23に対してリング状部材3を下端32側から圧入し易くすることができる。
【0034】
また、実施形態2に係るリング状部材3は、例えば、ブッシュ圧入部2の縦壁部23に焼き嵌めによって固定するようにしてもよい。
【0035】
(実施形態3)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態3について説明する。なお、本実施形態において実施形態1と同様の説明については適宜省略する。
【0036】
図7は、実施形態3に係るサスペンションアーム1における縦壁部23とリング状部材3との螺合部分を示した拡大図である。
【0037】
実施形態3に係るサスペンションアーム1においては、
図7に示すように、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の外周面に雄ネジ部231が設けられており、リング状部材3の内周面に雄ネジ部231と螺合する雌ネジ部331が設けられている。縦壁部23の外周面に設ける雄ネジ部231は、例えば、軸線方向で縦壁部23の上端230から雌ネジ部331と対応する範囲まで設ける。そして、実施形態3に係るサスペンションアーム1においては、リング状部材3の雌ネジ部331を縦壁部23の雄ネジ部231にねじ込んで、縦壁部23とリング状部材3とを螺合させることにより、縦壁部23にリング状部材3を容易に取り付けることができる。
【0038】
(実施形態4)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態4について説明する。なお、本実施形態において実施形態1と同様の説明については適宜省略する。
【0039】
図8は、実施形態4に係るサスペンションアーム1におけるブッシュ圧入部2の断面図である。
【0040】
実施形態4に係るサスペンションアーム1においては、
図8に示すように、リング状部材3の一部分が、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端230に被さる形状を有している。すなわち、実施形態4に係るリング状部材3は、軸線方向に延在する本体部301と、本体部301の軸線方向で上端230側の内縁に沿って設けられた内縁部302とを有する。そして、実施形態4に係るサスペンションアーム1においては、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端230にリング状部材3の内縁部302が被さるように、縦壁部23にリング状部材3を嵌め込んで構成されている。これにより、ブッシュ圧入部2の縦壁部23にリング状部材3を嵌め込む際、縦壁部23の上端230にリング状部材3の内縁部302が接することによって、縦壁部23に対してリング状部材3を深く差し込み過ぎてしまうのを抑制することができる。よって、実施形態4に係るサスペンションアーム1では、縦壁部23の上部をリング状部材3で補強できなくなったり、自動車の走行時などに縦壁部23の下部や湾曲部22に応力集中が発生したりするのを抑制することができる。
【実施例0041】
本発明に係るブッシュ圧入部2の構造の優位性を確認するため、ブッシュ圧入部2へのブッシュ4の圧入と引抜とについてCAE解析を実施した。なお、ブッシュ圧入部2の材料としては、590[MPa]級の熱延鋼板を想定した。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、本発明例に係るブッシュ圧入部2と比較例に係るブッシュ圧入部2とをそれぞれ用いて、ブッシュ圧入部2にブッシュ4を圧入するCAE解析と、ブッシュ圧入部2からブッシュ4を引き抜くCAE解析とを実施した。なお、本発明例に係るブッシュ圧入部2と比較例に係るブッシュ圧入部2とを特に区別しない場合には、単にブッシュ圧入部2と記す。
【0043】
図9(a)は、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した平面図である。
図9(b)は、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。なお、
図9(b)に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図9(a)のC-C断面に相当する。
【0044】
本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、天板部21を半径58[mm]の円板状としており、天板部21と同心円で設けられた貫通孔20の半径を25[mm]とした。また、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、板厚t1を2[mm]、天板部21の径方向の長さL1を30[mm]、湾曲部22の内半径R1を1[mm]、及び、湾曲部22の外半径R2を3[mm]とした。また、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、縦壁部23の軸線方向の長さL2を8[mm]とした。また、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の上端から軸線方向で下端側に5[mm]までの範囲に、内半径を27[mm]とし、外半径を29[mm]とし、板厚t2を2[mm]とし、軸線方向の高さL3を5[mm]としたリング状部材3を取り付けた。そして、本発明例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、本発明例に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。なお、本来はブッシュ圧入部2の縦壁部23とリング状部材3との間には、接触界面が存在するが、本実施例ではブッシュ圧入部2の縦壁部23とリング状部材3とが一体であるとして、CAE解析を実施した。また、縦壁部23とリング状部材3とを一体とした部分の板厚t3は、4[mm]である。
【0045】
図10(a)は、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した平面図である。
図10(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。なお、
図10(b)に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図10(a)のD-D断面に相当する。
【0046】
比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、天板部21を半径58[mm]の円板状としており、天板部21と同心円で設けられた貫通孔20の半径を25[mm]とした。また、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、板厚t1を2[mm]、天板部21の径方向の長さL1を30[mm]、湾曲部22の内半径R1を1[mm]、及び、湾曲部22の外半径R2を3[mm]とした。また、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、縦壁部23の軸線方向の長さL2を8[mm]とした。そして、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、比較例に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。
【0047】
図11(a)は、ブッシュ4のCAE解析モデルを示した平面図である。
図11(b)は、ブッシュ4のCAE解析モデルを示した側面図である。
【0048】
ブッシュ4のCAE解析モデルにおいては、ブッシュ4の外周面がブッシュ4の高さ方向で先端41側から基端42側に向かうにつれて径が線形的に大きくなるようなテーパー状となっている。すなわち、ブッシュ4の高さ方向で基端42から先端41に向けて距離50[mm]の範囲において、半径25.0[mm]の先端41側から半径25.5[mm]の基端42側に向かうにつれて、ブッシュ4の半径が線形的に大きくなっている。ブッシュ4の先端41側の角部には、半径R3=5[mm]で丸みが施されている。また、ブッシュ4のCAE解析モデルは、ブッシュ4を剛体としてシェル要素でモデル化した。
【0049】
図12は、ブッシュ圧入部2にブッシュ4を圧入した状態のCAE解析モデルを示した図である。なお、
図12では、代表例として比較例に係るブッシュ圧入部2を用いた場合を示しているが、本発明例に係るブッシュ圧入部2を用いた場合もリング状部材3を設けることを除いて同様のため図示は省略する。
【0050】
まず、ブッシュ圧入部2にブッシュ4を圧入するCAE解析では、ブッシュ圧入部2の天板部21が動かないように不図示のホルダーによって天板部21を拘束した状態で、ブッシュ圧入部2にブッシュ4を圧入した。この際、
図12に示すように、ブッシュ圧入部2の軸線方向で、ブッシュ4の先端41からブッシュ圧入部2の天板部21までの距離が35[mm]になるまで、ブッシュ圧入部2にブッシュ4を圧入した。
【0051】
次に、ブッシュ圧入部2からブッシュ4を引き抜くCAE解析では、ブッシュ圧入部2の天板部21が動かないように不図示のホルダーによって天板部21を拘束した状態で、ブッシュ圧入部2からブッシュ4を基端42側(
図12中の下方向)に引き抜いた。
【0052】
図13は、ブッシュ引抜時におけるブッシュ引抜力の変化を示したグラフである。なお、
図13中の横軸は、ブッシュ圧入部2に圧入されたブッシュ4の位置を起点として、ブッシュ圧入部2からブッシュ4を軸線方向に引き抜いたときのブッシュ4の位置の変化量であるブッシュ変位量としている。また、
図13中の縦軸は、ブッシュ圧入部2からブッシュ4を引き抜く力であるブッシュ引抜力としている。
【0053】
図13からわかるように、本発明例と比較例ともに、ブッシュ4の変位開始直後は急激にブッシュ引抜力が増加する。そして、本発明例と比較例ともに、ブッシュ引抜力がピーク値になった後、ブッシュ4とブッシュ圧入部2とが相対的に滑るようになるとブッシュ引抜力が低下する。また、ブッシュ引抜力のピーク値は、比較例が18.8[kN]であり、本発明例が24.9[kN]であった。これにより、本発明例では、比較例に比べてブッシュ引抜力のピーク値が32.4[%]上昇したことがわかる。そして、ブッシュ引抜力のピーク値が高いほどブッシュ圧入部2からブッシュ4が抜け難くなるため、本発明例に係るブッシュ圧入部2は、比較例に係るブッシュ圧入部2に対してブッシュ保持力が向上していることがわかる。
【0054】
また、ブッシュ圧入部2へのブッシュ圧入後の状態において、ブッシュ圧入部2の縦壁部23がブッシュ4から受ける面圧をシミュレーションによって計算して求めた。
図14(a)は、本発明例に係るブッシュ圧入部2において面圧計算を実施した縦壁部23内の位置の範囲を示した図である。
図14(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部2において面圧計算を実施した縦壁部23内の位置の範囲を示した図である。
【0055】
面圧計算を実施したのは、
図14(a)及び
図14(b)において、縦壁部23の下端(湾曲部22側の端)を起点として、軸線方向で縦壁部23内の位置が0[mm]から8[mm]の間に存在する各メッシュ上である。
【0056】
図15は、縦壁部23内における面圧分布を示したグラフである。なお、
図15中の横軸は、軸線方向における縦壁部23内の位置としている。また、
図15中の縦軸は、縦壁部23がブッシュ4から受ける面圧としている。
【0057】
本発明例と比較例ともに、面圧は縦壁部23の下部(0[mm]~2[mm])と上部(6[mm]~8[mm])とにのみ発生している。縦壁部23の下部の面圧分布は、本発明例と比較例とで、ほとんど差はないが、縦壁部23の上部の面圧は、リング状部材3が設けられて剛性が上がったことにより、本発明例が比較例よりも高くなっている。この部分の面圧の差が、本発明例に係るブッシュ圧入部2においてブッシュ引抜力の向上に寄与していると考えられる。
【0058】
また、
図15に示した面圧分布から、特に縦壁部23の上部の補強による効果が大きい。縦壁部23の上部における面圧の高い部分は約2[mm]、すなわち、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の板厚t1に相当する範囲である。
【0059】
このことから、ブッシュ圧入部2の縦壁部23とリング状部材3との位置関係については、例えば、
図16に示すような関係を満たすことが望ましいのがわかる。すなわち、リング状部材3の上端31の位置P31については、縦壁部23の上端230の位置P21と一致させるか、縦壁部23の上端230の位置P21よりも高い位置にすることが望ましい。また、リング状部材3の下端32の位置P32については、縦壁部23の上端230の位置P21よりも縦壁部23の板厚t1分だけ低い位置P23(第一の位置)と同じか、前記低い位置P23(第一の位置)よりもさらに低い位置(第二の位置)にすることが望ましい。
【0060】
なお、縦壁部23の下部をリング状部材3によって補強すると、自動車の走行中などにブッシュ4に対して
図12中に矢印で示したような横方向の力が働いた際に、ブッシュ圧入部2の縦壁部23の下部から湾曲部22にかけて発生する応力集中が大きくなる。そのため、縦壁部23の下部も面圧は高いが、縦壁部23の下部をリング状部材3によって補強すると、ブッシュ圧入部2の疲労寿命を悪化させてしまうおそれがある。また、
図15に示した面圧分布から、縦壁部23の下部における面圧の高い部分は約2[mm]、すなわち、縦壁部23の板厚t1に相当する範囲である。これらのことから、リング状部材3の下端32の位置P32は、縦壁部23の下端の位置P22よりも縦壁部23の板厚t1分だけ高い位置P24(第三の位置)と同じか、前記高い位置P24(第三の位置)よりもさらに高い位置(第四の位置)にあることが望ましいことがわかる。