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特開2025-5597圧接コンタクト、及び、圧接コネクタ装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005597
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】圧接コンタクト、及び、圧接コネクタ装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/2425 20180101AFI20250109BHJP
【FI】
H01R4/2425
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105824
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】518241849
【氏名又は名称】コーニング リサーチ アンド ディヴェロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】大池 知保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広幸
(72)【発明者】
【氏名】山内 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 明彦
【テーマコード(参考)】
5E012
【Fターム(参考)】
5E012AA03
5E012AA22
(57)【要約】
【課題】把持力にばらつきが少なく、把持力が強い、導体芯線が撚り線である絶縁心線を圧接するためのコンタクトを提供する。
【解決手段】複数の単心線が撚られてなる導体芯線と、導体芯線を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁心線を圧接するための圧接コンタクト30や、絶縁心線が導入されるスリット31を有し、スリット31を画成する両縁に、開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部32と、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部34と、が形成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単心線が撚られてなる導体芯線と、前記導体芯線を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁心線を圧接するための圧接コンタクトであって、
前記絶縁心線が導入されるスリットを有し、
前記スリットを画成する両縁に、
開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部と、
両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部と、
が形成されている、ことを特徴とする、圧接コンタクト。
【請求項2】
前記スリットを画成する両縁の前記心線ガイド部と前記湾曲凹部との間に、直線状に延びる直線部がさらに形成されている、請求項1に記載の圧接コンタクト。
【請求項3】
前記湾曲凹部は、0.15~0.25mm両側に向かって凹となっている、
請求項1に記載の圧接コンタクト。
【請求項4】
前記湾曲凹部のスリットの延びる方向の長さは、前記導体芯線の外接円の半分に最大数接触する外側の単心線の接点の間の距離と略等しい、
請求項1に記載の圧接コンタクト。
【請求項5】
前記両縁の心線ガイド部においてテーパを形成し、テーパ部の角度が70~90度である、
請求項1に記載の圧接コンタクト。
【請求項6】
複数の単心線が撚られてなる導体芯線と、前記導体芯線を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁心線を接続する圧接コネクタ装置であって、
コンタクトと、前記コンタクトを収容するハウジングとを含み、
前記コンタクトは前記絶縁心線が導入されるスリットを有し、
前記スリットを画成する両縁に、
開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部と、
両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部と、
が形成されている、ことを特徴とする、圧接コネクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧接コンタクト、及び、圧接コネクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導体芯線と、導体芯線の周りに被覆された絶縁被覆とを備えた絶縁心線と端子の接続方法や、このような絶縁心線同士の接続方法として、IDCコネクタ(Insulation Displacement Connector:圧接コネクタ)が広く用いられている(例えば特許文献1~3参照)。IDCコネクタは、U字型に形成されたスリットが形成されたコンタクトを有する。そして、スリット内に絶縁心線が入り込むようにコンタクトを押圧することにより、絶縁被覆が剥離され、導体芯線がコンタクトのスロット内で把持される。これにより、絶縁心線がコンタクトに保持されるとともに、絶縁心線の導体芯線がコンタクトと電気的に接続される。このようなコンタクトとしては、特許文献1~3に記載されているように、スリットの両縁が様々な形状に形成されたコンタクトが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-172623号公報
【特許文献2】実開昭56-112876号公報
【特許文献3】特開昭56-7364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁心線には、導体芯線が単線からなるものと、撚り線からなるものの2種類があり、どちらも通信分野で使用されている。導体芯線が撚り線からなる場合には、従来のスリットが形成されたコンタクトによっても十分な把持力が得られなかったり、把持力にばらつきが生じ、確実に所望の把持力が得られないことがあった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、把持力にばらつきが少なく、所望の把持力が得られる、導体芯線が撚り線である絶縁心線を圧接するためのコンタクトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、複数の単心線が撚られてなる導体芯線と、導体芯線を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁心線を圧接するための圧接コンタクトであって、絶縁心線が導入されるスリットを有し、スリットを画成する両縁に、開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部と、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部と、が形成されている、ことを特徴とする、圧接コンタクトが提供される。
上記の態様によれば、コンタクトにより絶縁心線を圧接した際に、複数の単心線が撚られてなる導体芯線が、心線ガイド部により心線がスリット内に案内され、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部に配置される。このため、導体芯線の断面形状が保たれた状態でスリット内に配置される。さらに、導体芯線を収容する湾曲凹部が湾曲形状に形成されているため、スリット内においても導体芯線の断面形状が保たれた状態で把持される。これにより、コンタクトにより十分な把持力を発揮できるとともに、把持力のばらつきを抑制することができる。
【0007】
本発明の一態様によれば、スリットを画成する両縁の心線ガイド部と湾曲凹部との間に、直線状に延びる直線部がさらに形成されている。
上記の態様によれば、心線ガイド部と湾曲凹部の間に直線部が設けられているため、スリットの縁に鋭利な角部が生じるのを防止できる。これにより、導体芯線が傷ついたり、断面形状が変形したりするのを抑制できる。
【0008】
本発明の一態様によれば、湾曲凹部は、0.15~0.25mm両側に向かって凹となっている。
上記の態様によれば、通信の分野で広く用いられている断面積が2mm2の絶縁心線の導体芯線を、断面形状を保った状態で把持することができる。
【0009】
本発明の一態様によれば、湾曲凹部のスリットの延びる方向の長さは、導体芯線の外接円の半分に最大数接触する外側の単心線の接点の間の距離と略等しい。
上記態様によれば、多数の単心線が湾曲凹部内に当接した状態で把持されるため、導体芯線の断面形状が保たれる。
【0010】
本発明の一態様によれば、両縁の心線ガイド部においてテーパを形成し、テーパ部の角度が70~90度である。
心線ガイド部は、絶縁被覆を切断するとともに、導体芯線をスリットの中心へ案内する。テーパ部の角度が大きすぎると、圧接時に導体芯線に大きな力が作用し、断面形状や心線配列が崩れたり、切断したりしてしまう。また、テーパ部の角度が小さすぎると、絶縁被覆を切断できなかったり導体芯線を案内できなかったりする。これに対して、上記の態様によれば、導体芯線の断面形状や配列を保った状態で、確実に湾曲凹部に案内することができる。
【0011】
本発明の一態様によれば、複数の単心線が撚られてなる導体芯線と、導体芯線を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁心線を接続する圧接コネクタ装置であって、コンタクトと、コンタクトを収容するハウジングとを含み、コンタクトは絶縁心線が導入されるスリットを有し、スリットを画成する両縁に、開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部と、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部と、が形成されている、ことを特徴とする、圧接コネクタ装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、把持力にばらつきが少なく、所望の把持力が得られる、導体芯線が撚り線である絶縁心線を圧接するためのコンタクトが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置を示す斜視図であり、一方の絶縁心線を取り付けた状態を示す。
図2】本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置を示す斜視図であり、対となる絶縁心線を取り付けた状態を示す。
図3】本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置を示す縦断面図である。
図4】本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置を示す横断面図である。
図5】本発明の一実施形態によるコンタクトの形状を示す図である。
図6】コンタクトの湾曲凹部のスリットの延びる方向の長さを決定する方法を説明するための図である。
図7】実験1の撚り線の引張強度の測定結果を示すグラフである。
図8】各コンタクトのサンプルの把持力と、絶縁心線の圧接後のコンタクトの幅とを示すグラフである。
図9A】実験2における絶縁心線の圧接後のサンプル1のコンタクトの形状及び導体芯線の形状を示す写真である。
図9B】実験2における絶縁心線の圧接後のサンプル2のコンタクトの形状及び導体芯線の形状を示す写真である。
図10A】実験3で用いたスリットの開口端部の形状がR形状のコンタクトを示す図である。
図10B】実験3で用いたスリットの開口端部の形状がテーパ形状のコンタクトを示す図である。
図11】実験3における有効心線接触数と、把持力とを示すグラフである。
図12】実験3における開口端部の形状がテーパ形状のコンタクトにおける圧接後のコンタクト直近の導体芯線の配列を示す図である。
図13】実験3における開口端部の形状がR形状のコンタクトにおける圧接後のコンタクト直近の導体芯線の配列を示す図である。
図14A】実験4において用いたサンプル1のコンタクトの形状を示す図である。
図14B】実験4において用いたサンプル2のコンタクトの形状を示す図である。
図14C】実験4において用いたサンプル3のコンタクトの形状を示す図である。
図15A】実験4における圧接後のサンプル1のコンタクト及び導体芯線の断面および配列状態を示す図である。
図15B】実験45における圧接後のサンプル2のコンタクト及び導体芯線の断面および配列状態を示す図である。
図15C】実験4における圧接後のサンプル3のコンタクト及び導体芯線の断面および配列状態を示す図である。
図16】実験4における各サンプルにおける把持力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置及び圧接コンタクトの一実施形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1図4は、本発明の一実施形態による圧接コネクタ装置を示し、図1及び図2は斜視図、図3は縦断面図、図4は横断面図である。図1は、一方の絶縁心線を取り付けた状態を示し、図2は対となる絶縁心線を取り付けた状態を示す。本実施形態の圧接コネクタ装置1は、一対の絶縁心線100A、100Bを互いに連結するとともに、絶縁心線100A、100Bの導体芯線を電気的に接続するためのものである。絶縁心線100A、100Bは、それぞれ導体芯線が撚られてなる撚り線からなり、撚り線を絶縁被覆が被覆することにより形成されている。図1図3に示すように、絶縁心線100A、100Bは直線状に延びており、接続側の端部が対向している。絶縁心線100A、100Bの接続側の端部には、それぞれ端子110A、110Bが取り付けられている。
【0015】
本実施形態の圧接コネクタ装置1は、ハウジング10と、圧接金具20とを備える。ハウジング10は上方が開口しており、内部に一対の端子110A、110Bを受け入れることができる収容部11が形成されている。
【0016】
圧接金具20は、内側から外側に向かって配置された、一対の第1のコンタクト22A、22Bと、一対の第2のコンタクト23A、23Bと、一対の第3のコンタクト24A、24Bとを有する。一方の第1のコンタクト22A、一方の第2のコンタクト23A、及び、一方の第3のコンタクト24Aは、一方の絶縁心線100Aを圧接するためのものであり、一方の絶縁心線100A側の端部に等間隔で平行に配置されている。他方の第1のコンタクト22B、他方の第2のコンタクト23B、及び、一方の第3のコンタクト24Bは、他方の絶縁心線100Bを圧接するためのものであり、他方の絶縁心線100B側の端部に等間隔で平行に配置されている。圧接金具20及びこれを構成するコンタクトは、銅、真鍮、リン青銅などの導電性の金属板から形成されている。
【0017】
一方の第1のコンタクト22Aと他方の第1のコンタクト22Bとは、板状の基部25により接続されている。基部25はハウジング10の底部に沿って延びる板状の部位である。
一方の第1のコンタクト22Aと一方の第2のコンタクト23Aとは一方の第1の接続部26Aにより接続されている。一方の第1の接続部26Aは一方の第1のコンタクト22Aと一方の第2のコンタクト23Aの一側の下部の間を延びる板状の部位である。また、他方の第1のコンタクト22Bと他方の第2のコンタクト23Bとは他方の第1の接続部26Bにより接続されている。他方の第1の接続部26Bは他方の第1のコンタクト22Bと他方の第2のコンタクト23Bの一側の下部の間を延びる板状の部位である。
【0018】
一方の第2のコンタクト23Aと一方の第3のコンタクト24Aとは一方の第2の接続部27Aにより接続されている。一方の第2の接続部27Aは一方の第2のコンタクト23Aと一方の第3のコンタクト24Aの下縁の間をハウジング10の底部に沿って延びる板状の部位である。また、他方の第2のコンタクト23Bと他方の第3のコンタクト24Bとは他方の第2の接続部27Bにより接続されている。他方の第2の接続部27Bは他方の第2のコンタクト23Bと他方の第3のコンタクト24Bの下縁の間をハウジングの底部に沿って延びる板状の部位である。
【0019】
一方及び他方の第1のコンタクト22A、22B、一方及び他方の第2のコンタクト23A、23B、及び一方及び他方の第3のコンタクト24A、24Bはスリットを備える同形状の板状の部材である。これら一方及び他方の第1のコンタクト22A、22B、一方及び他方の第2のコンタクト23A、23B、及び一方及び他方の第3のコンタクト24A、24Bはスリットが上方に開口するように設けられている。
【0020】
図1に示すように、絶縁心線100A、100Bを接続する際には、一方の絶縁心線100Aに取り付けられた端子110Aをハウジング10の収容部11に上方から押し込む。これにより、一方の絶縁心線100Aの絶縁被覆が一方の第1のコンタクト22A、一方の第2のコンタクト23A、及び一方の第3のコンタクト24Aにより、絶縁被覆が剥離され、導体芯線がコンタクトのスロット内で把持される。その結果、一方の絶縁心線100Aが一方の第1のコンタクト22A、一方の第2のコンタクト23A、及び一方の第3のコンタクト24Aに保持されるとともに、一方の絶縁心線100Aの導体芯線が一方の第1のコンタクト22A、一方の第2のコンタクト23A、及び一方の第3のコンタクト24Aと電気的に接続される。
【0021】
また、他方の絶縁心線100Bに取り付けられた端子110Bをハウジング10の収容部11に上方から押し込む。これにより、他方の絶縁心線100Bの絶縁被覆が他方の第1のコンタクト22B、他方の第2のコンタクト23B、及び他方の第3のコンタクト24Bにより、絶縁被覆が剥離され、導体芯線がコンタクトのスロット内で把持される。その結果、他方の絶縁心線100Bが他方の第1のコンタクト22B、他方の第2のコンタクト23B、及び他方の第3のコンタクト24Bに保持されるとともに、他方の絶縁心線100Bの導体芯線が他方の第1のコンタクト22B、他方の第2のコンタクト23B、及び他方の第3のコンタクト24Bと電気的に接続される。
【0022】
そして、一方の絶縁心線100Aが一方の第1のコンタクト22A、一方の第2のコンタクト23A、及び一方の第3のコンタクト24Aにより圧接されるとともに、他方の絶縁心線100Bが他方の第1のコンタクト22B、他方の第2のコンタクト23B、及び他方の第3のコンタクト24Bにより圧接されることにより、一方の絶縁心線100Aと他方の絶縁心線100Bとが電気的に接続される。
【0023】
以下、圧接コネクタ装置1のコンタクト22A、22B、23A、23B、24A、24Bの形状について説明する。なお、以下の説明では、コンタクトに符号30を付して説明するが、このコンタクト30は、圧接コネクタ装置1のコンタクト22A、22B、23A、23B、24A、24Bに相当する。
【0024】
図5は、本発明の一実施形態によるコンタクトの形状を示す図である。図5に示すように、コンタクト30はスリット31を有する。スリット31を画成する両縁は、スリット31の中心線を対称軸として線対称の形状となっている。
【0025】
また、スリット31を画成する両縁には、開口端部側から深部に向かって、心線ガイド部32と、第1の直線部33と、湾曲凹部34と、第2の直線部35とが形成されている。スリット31の最深部36は円弧状になっており、両縁が接続されている。
【0026】
心線ガイド部32は、スリット31の両縁の開口端部に形成されている。心線ガイド部32は、外方に向かって両縁の間の幅が広がるようなテーパにより形成されている。すなわち、両縁の心線ガイド部32は、外方に向かって中心軸から離間するように傾斜する直線状になっている。
両縁の心線ガイド部32の角度θは、好ましくは、70~90度になっている。すなわち、それぞれの心線ガイド部32は中心軸に対して30~45度の角度で形成している。
【0027】
なお、本実施形態では、心線ガイド部32は、テーパにより形成されているが、これに限られない。例えば、心線ガイド部を湾曲形状(R形状)としてもよい。ただし、心線ガイド部32がテーパ状である場合に、圧接時に導体芯線の形状および配列状態をより保持することができる。
【0028】
第1の直線部33は、心線ガイド部32に連続して形成されている。第1の直線部33は中心軸と平行な直線状に形成されている。この第1の直線部33が、心線ガイド部32と、湾曲凹部34との間に介在することにより、スリット31の縁部に鋭利な角部が生じることがなく、絶縁心線及び導体芯線が傷つくのを抑止できる。
【0029】
湾曲凹部34は、両側に向かって凹となる湾曲形状に形成されている。特に、本実施形態では、湾曲凹部34は単一の円弧状の凹部により形成されている。この円弧状の凹部は、その深さ方向の中間位置に中心が位置している。湾曲凹部34のスリットの延びる方向の長さBは、図6に示す、導体芯線200の外接円C1の半分の部分(A1からA2の間の部分)に最大数接触する外側の単心線210の接点B1、B2の間の直線距離B´と略等しい。ここで、略等しいとは、単に等しい場合のみならず、A1とB1の中間点をAB1とするとAB1から-AB1分の程度の差がある場合も含む。
【0030】
撚線全体直径と同径の単心線で設定されるスリット幅Eに対して図6における撚線配列から算出される直径の円弧とB1,B2との交点によって定められる湾曲凹部34の最深部の第1の直線部33及び第2の直線部35に対する深さXは、0.15~0.25mmとなっており、対となる湾曲凹部の最深部の距離Dは0.8~1.0mmとなってD=E+2Xで示される。すなわち、湾曲凹部34は0.15~0.25mm、両側に向かって凹となっている。同寸法は本撚線配線における一例であり、撚線数や単心線直径によりその都度算出される。
【0031】
第2の直線部35は、湾曲凹部34に連続して形成されている。第2の直線部35は中心軸と平行な直線状に形成されている。第1の直線部33の幅と、第2の直線部35の幅とは等しくなっている。
【0032】
本実施形態によれば、スリット31を画成する両縁に、開口端部に形成され、外方に向かって幅が広がる心線ガイド部32と、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部34と、が形成されている。これにより、コンタクト30により絶縁心線100A、100Bを圧接した際に、複数の単心線が撚られてなる導体芯線が心線ガイド部32により心線がスリット31内に案内され、両側に向かって凹となる湾曲形状の湾曲凹部34に配置される。このため、導体芯線の断面形状および配列状態が保たれた状態でスリット31内に配置される。さらに、導体芯線を収容する湾曲凹部34が湾曲形状に形成されているため、スリット31内においても導体芯線の断面形状および配列状態が保たれた状態で把持される。これにより、コンタクト30により十分な把持力を発揮できるとともに、把持力のばらつきを抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、スリット31を画成する両縁の心線ガイド部32と湾曲凹部34との間に、直線状に延びる第1の直線部33がさらに形成されている。このように、心線ガイド部32と湾曲凹部34の間に第1の直線部33が設けられているため、スリットの縁に鋭利な角部が生じるのを防ぎ、導体芯線が傷ついたり、断面形状が変形したりするのを抑制できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、湾曲凹部34は、0.15~0.25mm両側に向かって凹となっている。これにより、通信の分野で用いられている断面積が2mm2の絶縁心線の導体芯線を、断面形状および配列状態を保った状態で把持することができる。また、湾曲凹部の形状は本実施形態以外おいても撚線全体直径と同径の単心線で設定されるスリット幅Eに対して図6と同様に撚線配列から算出される直径の円弧とB1,B2との交点によって求まる湾曲凹部の深さXからその都度算出できる。
【0035】
また、本実施形態によれば、湾曲凹部34のスリット31の延びる方向の長さは、導体芯線の外接円の半分に最大数接触する外側の単心線の接点の間の距離と略等しい。
これにより、多数の単心線が湾曲凹部34内に当接した状態で把持されるため、導体芯線の断面形状および配列状態が保たれる。
【0036】
また、本実施形態によれば、両縁の心線ガイド部32においてテーパを形成し、テーパの角度が70~90度である。心線ガイド部32は、絶縁被覆を切断するとともに、導体芯線をスリットの中心へ案内する。心線ガイド部のテーパの角度が大きすぎると、圧接時に導体芯線に大きな力が作用し、断面形状および配列状態が崩れたり、切断したりしてしまう。また、テーパの角度が小さすぎると、絶縁被覆を切断できなかったり導体芯線を案内できなかったりする。これに対して、本実施形態によれば、導体芯線の断面形状および配列状態を保った状態で、絶縁被覆を切断し、確実に湾曲凹部34に案内することができる。
【0037】
以下、発明者らが、本実施形態のスリットの形状を最適化するために行った実験について説明する。
(実験1)
まず、発明者らは、撚線の引張強度を測定した。撚り線としては断面積が2mm2の7本撚りの撚り線を用いた。撚り線については、撚り線の2箇所で把持した状態で把持した箇所に離間するような荷重を作用させた。図7は、実験1の撚り線の引張強度の測定結果を示すグラフである。図7に示すように、引張速度が10mm/min及び50mm/minの場合には、引張強度にはばらつきがなく、約400Nとなった。
【0038】
また、スリット幅が0.5mm、板厚が0.7mm、材料がリン青銅ある場合について複数のコンタクトのサンプルを作成し、把持力を測定した。図8は、各コンタクトのサンプルの把持力と、絶縁心線の圧接後のコンタクトの幅とを示すグラフである。なお、図中に予測される把持力及びコンタクト幅の領域を矢印で示す。図8に示すように、各コンタクトの把持力は予測に近い値であり、245Nを中心とするもののばらつきが生じた。
【0039】
(実験2)
発明者らは、このような把持力のばらつきが生じる原因をさぐるべく、2つのスリットを有するコンタクトのサンプル1、2について、絶縁心線の圧接後に絶縁心線をスリット表面位置で切断し、スリット及び絶縁心線の導体芯線の形状を確認した。
【0040】
図9A図9Bは、実験2におけるそれぞれ絶縁心線の圧接後のサンプル1、2のコンタクトの形状及び導体芯線の形状を示す写真である。図9A図9Bに示すように、コンタクトの開き具合がサンプルごとに異なり、さらに導体心線の挟み込み状態および配列状態もサンプルごとに異なっている。サンプル2では同じコンタクトの開き具合でも心線の挟み込み状態および配列状態が異なっている。このため、導体心線の把持状態および配列状態を一定にすることが把持力の安定につながると発明者らは考えた。
【0041】
(実験3)
発明者らは、把持力のばらつきが少ないスリット形状を検討するべく、スリットの開口端部の形状がR形状のコンタクトと、テーパ形状のコンタクトについて、導体芯線が断面積2mm2の絶縁心線を圧接した。図10A及び図10Bは、実験3で用いたスリットの開口端部の形状がR形状のコンタクトと、テーパ形状のコンタクトとをそれぞれ示す。図10A及び図10Bに示すように、本実験では、スリット131、231の両縁が平行なサンプルを用いて実験を行った。図10Aに示すように、一方のコンタクト130は、開口端部132がR形状、すなわち、円弧状に形成されている。また、図10Bに示すように、他方のコンタクト230は、開口端部232がテーパ形状に形成されている。これらコンタクトにより導電芯線を圧接し、非破壊検査(CTスキャン)によりスリット内の導体芯線の断面形状および配列状態を測定するとともに、把持力とを測定した。さらに、導体芯線の断面形状から、スリットの縁に接触する、形状を7割以上維持している単心線の数(有効心線接触数)をカウントした。
【0042】
図11は、実験3における有効心線接触数と、把持力とを示すグラフである。図11に示すように、把持力は有効接触心線数に比例する傾向が見られた。
【0043】
図12は、実験3における開口端部の形状がテーパ形状のコンタクトにおける圧接後の導体芯線の断面を示す図である。図13は、実験3における開口端部の形状がR形状のコンタクトにおける圧接後の導体芯線の断面を示す図である。図13に示すように、開口端部の形状がR形状である場合には、導体芯線の断面形状に大きな変形および配列状態の乱れが見られる。これに対して、図12に示すように、開口端部の形状がテーパ形状である場合には、導体芯線の断面形状の変形および配列状態の乱れは小さかった。
【0044】
(実験4)
発明者らは、よりスリットの縁に接触する有効接触心線数が多いスリットの形状を検討するべく、スリットの両縁に異なる形状の凹部が形成されたサンプルを用いて絶縁心線を圧接し、検討を行った。
【0045】
図14A図14B図14Cは、それぞれ実験4において用いたサンプル1~3のコンタクトの形状を示す図である。図14A図14Cに示すように、サンプル1のコンタクト330Aは、円弧状の凹部334Aが1つ形成されており、サンプル2のコンタクト330Bは、円弧状の凹部334Bが2つ形成されており、サンプル3のコンタクト330Cは、円弧状の凹部334Cが3つ形成されている。これらサンプル1~3のコンタクトについて検討を行った。また、サンプル1については凹部の最深部の間の距離(穴幅)が0.8mm、0.9mm、1.0mmの場合について検討を行い、サンプル2については凹部の最深部の間の距離が0.8mm、0.9mmの場合について検討を行い、サンプル3については凹部の最深部の間の距離が0.9mmの場合について検討を行った。
【0046】
図15A図15Cは、それぞれ圧接後の実験4におけるサンプル1~3のコンタクト及び導体芯線の断面を示す図である。図15A図15Cに示すように、サンプル1では撚り線からなる導体芯線の断面形状が略円形に保たれているものの、サンプル2では導体芯線の形状に多少の崩れが生じ、サンプル3ではより大きな崩れが生じた。
【0047】
また、図16は、実験4における各サンプルにおける把持力を示すグラフである。図16に示すように、円弧状凹部が1つであり、スリット幅が0.5mm、板厚0.7mm、穴幅が1.0mm、材料がリン青銅である場合に、最も把持力が大きくばらつきが小さい結果となった。
【符号の説明】
【0048】
1 :圧接コネクタ装置
10 :ハウジング
11 :収容部
20 :圧接金具
22A :一方の第1のコンタクト
22B :他方の第1のコンタクト
23A :一方の第2のコンタクト
23B :他方の第2のコンタクト
24A :一方の第3のコンタクト
24B :他方の第3のコンタクト
25 :基部
26A :一方の第1の接続部
26B :他方の第1の接続部
27A :一方の第2の接続部
27B :他方の第2の接続部
30 :コンタクト
31 :スリット
32 :心線ガイド部
33 :第1の直線部
34 :湾曲凹部
35 :第2の直線部
36 :最深部
100A、100B :絶縁心線
110A、110B :端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16