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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005637
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】人工呼吸システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/12 20060101AFI20250109BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61M16/12
A61M16/00 325
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105892
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000138060
【氏名又は名称】株式会社メトラン
(71)【出願人】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】中根 伸一
(72)【発明者】
【氏名】清水 直樹
(72)【発明者】
【氏名】秋山 類
(57)【要約】
【課題】高頻度振動換気において換気効果を向上することが可能な人工呼吸システムを提供する。
【解決手段】
ヘリウムおよび酸素を含む吸気ガスGiを患者Xに供給する人工呼吸システム100であって、一端1aが患者Xに接続される接続チューブ1と、接続チューブ1における他端1bに接続されて、所定の換気用周波数で振動を与えた吸気ガスGiを接続チューブ1へ送気する吸気ガス供給装置2と、を備え、上記の換気用周波数は15Hz以上、好ましくは45Hz以下、より好ましくは25Hz以上45Hz以下、さらに好ましくは25Hz以上35Hz以下となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリウムおよび酸素を含む吸気ガスを患者に供給する人工呼吸システムであって、
一端が前記患者に接続される接続チューブと、
前記接続チューブにおける他端に接続されて、所定の換気用周波数で振動を与えた前記吸気ガスを前記接続チューブへ送気する吸気ガス供給装置と、
を備え、
前記換気用周波数は15Hz以上となっている人工呼吸システム。
【請求項2】
前記換気用周波数は45Hz以下となっている請求項1に記載の人工呼吸システム。
【請求項3】
前記換気用周波数は25Hz以上45以下となっている請求項1に記載の人工呼吸システム。
【請求項4】
前記換気用周波数は25Hz以上35Hz以下となっている請求項1に記載の人工呼吸システム。
【請求項5】
前記吸気ガス供給装置は、
前記接続チューブにおける前記他端に接続されるリザーバーと、
酸素を含むメインガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該メインガスを送気するメインガス供給器と、
前記メインガス供給器と前記リザーバーとを接続し、前記メインガスが流通するとともに前記換気用周波数の振動を前記リザーバーに伝達するメインガス流通路と、
ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記リザーバー、または前記接続チューブに導入するヘリウム/酸素供給装置と、
を有し、
前記リザーバーは、前記メインガスと前記ヘリウム/酸素混合ガスとを混合する空間を画成する請求項1から4のいずれか一項に記載の人工呼吸システム。
【請求項6】
前記ヘリウム/酸素供給装置は、
ヘリウムを貯留するヘリウム供給源と、
酸素を貯留する酸素供給源と、
前記ヘリウム供給源および前記酸素供給源と前記リザーバーとの間、または、前記ヘリウム供給源および前記酸素供給源と前記接続チューブとの間を接続するヘリウム供給路と、
前記ヘリウム供給路の途中に設けられ、前記ヘリウム供給源からのヘリウムと前記酸素供給源からの酸素とを混合して前記ヘリウム/酸素混合ガスを生成するガス混合器と、
を有する請求項5に記載の人工呼吸システム。
【請求項7】
前記ヘリウム/酸素供給装置は、
ヘリウム/酸素混合ガスを貯留する混合ガス供給源と、
前記混合ガス供給源と前記リザーバーとの間、または、前記混合ガス供給源と前記接続チューブとの間を接続するヘリウム供給路と、
を有する請求項5に記載の人工呼吸システム。
【請求項8】
前記メインガス流通路は、
前記メインガスを前記リザーバーに供給する供給路と、
前記メインガスを前記リザーバーから回収する回収路と、
を有する請求項5に記載の人工呼吸システム。
【請求項9】
前記吸気ガス供給装置は、
酸素を含むメインガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該メインガスを送気するメインガス供給器と、
前記メインガス供給器と前記接続チューブとを接続し、前記メインガスが流通するメインガス流通路と、
ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記メインガス供給器に導入するヘリウム/酸素供給装置と、
を有し、
前記メインガス供給器は、前記ヘリウム/酸素混合ガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該ヘリウム/酸素混合ガスを前記メインガスとともに送気する請求項1から4のいずれか一項に記載の人工呼吸システム。
【請求項10】
前記メインガス流通路は、
前記メインガスおよび前記ヘリウム/酸素混合ガスを前記接続チューブに供給する供給路と、
前記メインガスおよび前記ヘリウム/酸素混合ガスを前記接続チューブから回収する回収路と、
を有する請求項9に記載の人工呼吸システム。
【請求項11】
前記吸気ガス供給装置は、前記回収路を流通する前記ヘリウム/酸素混合ガス中のヘリウムを回収するヘリウム回収器をさらに有する請求項10に記載の人工呼吸システム。
【請求項12】
ヘリウムおよび酸素を含む吸気ガスを患者に供給する人工呼吸システムであって、
一端が前記患者に接続される接続チューブと、
前記接続チューブにおける他端に接続されて、所定の換気用周波数で振動を与えた前記吸気ガスを前記接続チューブへ送気する吸気ガス供給装置と、
を備え、
前記吸気ガス供給装置は、
前記接続チューブにおける前記他端に接続されるリザーバーと、
酸素を含むメインガスを送気するメインガス供給器と、
前記メインガス供給器と前記リザーバーとを接続し、前記メインガスが流通するメインガス流通路と、
ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記リザーバー、または前記接続チューブに導入するヘリウム/酸素供給装置と、
を有し、
前記リザーバーは、前記メインガスと前記ヘリウム/酸素混合ガスとを混合する空間を画成する人工呼吸システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高頻度振動換気法を用いた人工呼吸システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工呼吸法の一つとして高頻度振動換気法(High Frequency Oscillation:HFO)という方式が存在する。この高頻度振動換気法では、解剖学的死腔よりも少ない一回換気量の吸気ガスを高頻度で振動させることにより換気を行うため、吸気ガスに圧力をかけて肺に送る一般的な人工呼吸法に比べて気道内圧を低く抑えることができ、特に呼吸器官の未発達な新生児等に効果的な人工呼吸法として広く知られている。
【0003】
ところでこのような高頻度振動換気法では一般的には酸素を含むガス(例えば空気と酸素の混合ガス)を吸気ガスとして使用するが、例えば特許文献1に記載されているように、ヘリウムと酸素の混合ガスを吸気ガスとして用いることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6104513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして特許文献1にも記載されているように高頻度振動換気法においてヘリウムと酸素を混合した吸気ガスを用いた場合、ヘリウムは密度が小さく、細い気道でも吸気ガスが流れ易くなるため換気効果の改善が期待できるものの、依然としてさらなる換気効果改善の要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、高頻度振動換気において、さらなる換気効果の向上が可能な人工呼吸システムを提供する。
【0007】
本発明の一態様に係る人工呼吸システムは、ヘリウムおよび酸素を含む吸気ガスを患者に供給する人工呼吸システムであって、一端が前記患者に接続される接続チューブと、前記接続チューブにおける他端に接続されて、所定の換気用周波数で振動を与えた前記吸気ガスを前記接続チューブへ送気する吸気ガス供給装置と、を備え、前記換気用周波数は15Hz以上となっている。
【0008】
上記人工呼吸システムでは、前記換気用周波数は45Hz以下となっていてもよい。
【0009】
上記人工呼吸システムでは、前記換気用周波数は25Hz以上45以下となっていてもよい。
【0010】
上記人工呼吸システムでは、前記換気用周波数は25Hz以上35Hz以下となっていてもよい。
【0011】
上記人工呼吸システムでは、前記吸気ガス供給装置は、前記接続チューブにおける前記他端に接続されるリザーバーと、酸素を含むメインガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該メインガスを送気するメインガス供給器と、前記メインガス供給器と前記リザーバーとを接続し、前記メインガスが流通するとともに前記換気用周波数の振動を前記リザーバーに伝達するメインガス流通路と、ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記リザーバー、または前記接続チューブに導入するヘリウム/酸素供給装置と、を有し、前記リザーバーは、前記メインガスと前記ヘリウム/酸素混合ガスとを混合する空間を画成してもよい。
【0012】
上記人工呼吸システムでは、前記ヘリウム/酸素供給装置は、ヘリウムを貯留するヘリウム供給源と、酸素を貯留する酸素供給源と、前記ヘリウム供給源および前記酸素供給源と前記リザーバーとの間、または、前記ヘリウム供給源および前記酸素供給源と前記接続チューブとの間を接続するヘリウム供給路と、前記ヘリウム供給路の途中に設けられ、前記ヘリウム供給源からのヘリウムと前記酸素供給源からの酸素とを混合して前記ヘリウム/酸素混合ガスを生成するガス混合器と、を有いてもよい。
【0013】
上記人工呼吸システムでは、前記ヘリウム/酸素供給装置は、ヘリウム/酸素混合ガスを貯留する混合ガス供給源と、前記混合ガス供給源と前記リザーバーとの間、または、前記混合ガス供給源と前記接続チューブとの間を接続するヘリウム供給路と、を有してもよい。
【0014】
上記人工呼吸システムでは、前記メインガス流通路は、前記メインガスを前記リザーバーに供給する供給路と、前記メインガスを前記リザーバーから回収する回収路と、を有してもよい。
【0015】
上記人工呼吸システムでは、前記吸気ガス供給装置は、酸素を含むメインガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該メインガスを送気するメインガス供給器と、前記メインガス供給器と前記接続チューブとを接続し、前記メインガスが流通するメインガス流通路と、ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記メインガス供給器に導入するヘリウム/酸素供給装置と、を有し、前記メインガス供給器は、前記ヘリウム/酸素混合ガスに対して前記換気用周波数で振動を与えた状態で該ヘリウム/酸素混合ガスを前記メインガスとともに送気してもよい。
【0016】
上記人工呼吸システムでは、前記メインガス流通路は、前記メインガスおよび前記ヘリウム/酸素混合ガスを前記接続チューブに供給する供給路と、前記メインガスおよび前記ヘリウム/酸素混合ガスを前記接続チューブから回収する回収路と、を有してもよい。
【0017】
上記人工呼吸システムでは、前記吸気ガス供給装置は、前記回収路を流通する前記ヘリウム/酸素混合ガス中のヘリウムを回収するヘリウム回収器をさらに有してもよい。
【0018】
本発明の他の態様に係る人工呼吸システムは、ヘリウムおよび酸素を含む吸気ガスを患者に供給する人工呼吸システムであって、一端が前記患者に接続される接続チューブと、前記接続チューブにおける他端に接続されて、所定の換気用周波数で振動を与えた前記吸気ガスを前記接続チューブへ送気する吸気ガス供給装置と、を備え、前記吸気ガス供給装置は、前記接続チューブにおける前記他端に接続されるリザーバーと、酸素を含むメインガスを送気するメインガス供給器と、前記メインガス供給器と前記リザーバーとを接続し、前記メインガスが流通するメインガス流通路と、ヘリウムおよび酸素を含むガスであるヘリウム/酸素混合ガスを前記リザーバー、または前記接続チューブに導入するヘリウム/酸素供給装置と、を有し、前記リザーバーは、前記メインガスと前記ヘリウム/酸素混合ガスとを混合する空間を画成する。
【発明の効果】
【0019】
上記の人工呼吸システムによれば、高頻度振動換気において換気効果を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る人工呼吸システムの概略図である。
図2】上記人工呼吸システムの変形例1の概略図である。
図3】上記人工呼吸システムの変形例2の概略図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る人工呼吸システムの概略図である。
図5】実施例において実験に使用した人工呼吸システムの概略図である。
図6】上記実施例の実験1の結果を示すグラフである。
図7】上記実施例の実験2の結果を示すグラフである。
図8】上記実施例の実験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〈第一実施形態〉
以下、本発明の第一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(全体構成)
図1に示すように人工呼吸システム100は、高頻度振動換気法(High Frequency Oscillation、以下、「HFO」とする)により吸気ガスGiを患者Xに供給するシステムである。すなわち人工呼吸システム100は、患者Xの気管に接続される接続チューブ1と、吸気ガスGiを接続チューブ1へ送気する吸気ガス供給装置2とを備えている。
【0022】
(接続チューブ)
接続チューブ1の一端1aは患者に接続される。本実施形態においては接続チューブ1の一端1a側の一部分が患者Xの気管に挿入されて留置される。すなわち接続チューブ1は挿管チューブとなっているが、一般的に人工呼吸器に用いられるものであれば特に限定されるものではない。なお接続チューブ1は経鼻挿管、経口挿管、または気管切開によって患者Xの気管に挿入される。そして接続チューブ1において患者Xの気管の外側に位置する他端1bが、詳しく後述する吸気ガス供給装置2におけるリザーバー23の一端23aに接続される。また接続チューブ1の一端1aと他端1bとの間には、詳しく後述する吸気ガス供給装置2のヘリウム供給路35が接続されるヘリウム導入口1cが形成されている。
【0023】
(吸気ガス供給装置)
吸気ガス供給装置2は本実施形態ではいわゆるジャクソンリース回路を構成している。すなわち吸気ガス供給装置2は、圧縮空気を生成するコンプレッサ20と、上記圧縮空気をメインガス(酸素含有ガス)Gmとして送気するメインガス供給器21と、メインガス供給器21と接続チューブ1とを接続するメインガス流通路22およびリザーバー23と、ヘリウムおよび酸素を含むガスをリザーバー23へ導入するヘリウム/酸素供給装置24とを有している。
【0024】
(コンプレッサ)
コンプレッサ20は、外部から空気Aを取り込んで圧縮空気を生成する。コンプレッサ20は一般的に人工呼吸器に用いられるものであればよく、構造は特に限定されるものではない。
【0025】
(メインガス供給器)
メインガス供給器21はコンプレッサ20に接続され、コンプレッサ20から圧縮空気を取り込んでメインガスGmとし、このメインガスGmに対して所定の換気用周波数の振動を与えた状態で送気する機器であって、いわゆるHFOによる換気を行うHFO換気装置である。このメインガス供給器21の構造は特に限定されるものではないが、例えばピストン式のHFO換気装置が好適である。なおコンプレッサ20は必須ではなく、例えば人工呼吸システム100が設置される病院等の配管から圧縮空気をメインガス供給器21へ直接取り込んでもよい。
【0026】
さらに本実施形態ではメインガス供給器21は、メインガスGmに対して15Hz以上、好ましくは45Hz以下、より好ましくは25Hz以上45Hz以下、さらに好ましくは25Hz以上35Hz、最も好ましくは35Hzの換気用周波数で振動を与えるように設定される。
【0027】
(メインガス流通路)
メインガス流通路22は、メインガス供給器21と詳しく後述するリザーバー23の他端23bとを接続し、メインガスGmが流通する管路である。メインガス流通路22は、リザーバー23へメインガスGmを供給する供給路22aと、リザーバー23からメインガスGmを回収する回収路22bとを有している。供給路22aと回収路22bとは並列に設けられている。回収路22bはメインガス供給器21に設けられた排気口21xに連通しており、回収路22bを介してメインガス供給器21に流入したメインガスGmがメインガス供給器21の外部に排気されるようになっている。以下、供給路22aを流通するメインガスGmを「供給側メインガスGms」とし、回収路22bを流通するメインガスGmを「回収側メインガスGme」とする。
【0028】
供給路22aと回収路22bとは、後述するリザーバー23の他端23bよりもメインガス供給器21に近い側、すなわちこの他端23bよりも供給側メインガスGmsの流通方向の上流側において互いに連通しており、メインガスGmが常に供給路22aおよび回収路22bを流通している状態となっている。
【0029】
(リザーバー)
リザーバー23は、接続チューブ1の他端1bとメインガス流通路22とを接続する管路であって、例えば振動減衰の比較的少ない硬めの材料によって形成されている。本実施形態においてはリザーバー23には蛇管(フレキシブルチューブ)が採用されている。このリザーバー23は、メインガス流通路22の供給路22aを介してメインガス供給器21から送気される供給側メインガスGmsと、後述するヘリウム/酸素混合ガスGxとを混合する空間を内側に画成している。
【0030】
(ヘリウム/酸素供給装置)
ヘリウム/酸素供給装置24は、ヘリウムを貯留するヘリウム供給源30と、酸素を貯留する酸素供給源31と、ヘリウム供給源30および酸素供給源31とリザーバー23との間を接続するヘリウム供給路35と、ヘリウム供給路35の途中に設けられたガス混合器32とを有している。
【0031】
ヘリウム供給源30はヘリウムタンクであり、酸素供給源31は酸素タンクである。
【0032】
ガス混合器32は、ヘリウム供給源30からのヘリウムと、酸素供給源31からの酸素とを混合してヘリウム/酸素混合ガスGxを生成する。ガス混合器32においてはヘリウムと酸素との混合比率が適宜調整されるようになっている。
【0033】
ヘリウム供給路35の一端35aは、例えばリザーバー23の一端23aに寄った位置(接続チューブ1の他端1bに近い位置)でリザーバー23に接続されている。そしてガス混合器32からのヘリウム/酸素混合ガスGxはリザーバー23に導入され、ヘリウム/酸素混合ガスGxはリザーバー23内においてメインガスGmと混合され、吸気ガスGiとなる。この際、メインガス供給器21においてメインガスGm(供給側メインガスGms)に与えられた換気用周波数の振動は、メインガス流通路22によってリザーバー23および接続チューブ1に伝達され、メインガスGmおよびヘリウム/酸素混合ガスGxからなる吸気ガスGi全体に対しても、換気用周波数の振動が与えられるようになっている。
【0034】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の人工呼吸システム100によれば、吸気ガスGiに対して15Hz以上、好ましくは45Hz以下、より好ましくは25Hz以上35Hz以下、さらに好ましくは25Hz以上35Hz以下、最も好ましくは35Hzの換気用周波数で振動を与えて患者Xの気管に送気することができる。この結果、比較的密度の小さいヘリウムを含む吸気ガスGiによって吸気ガスGiの流動抵抗を低減しつつ、15Hz以上の周波数の振動を吸気ガスGiに付与する超高頻度振動換気を用いることで、肺胞レベルまでの振動伝搬が可能となり、吸気ガスGiを患者Xの呼吸器官まで確実に到達させることができ、15Hz未満の高頻度振動換気に比べて換気効果を向上することが可能となる。
【0035】
また、ジャクソンリース回路を構成する吸気ガス供給装置2を用い、ヘリウム/酸素供給装置24によってヘリウム/酸素混合ガスGxをリザーバー23に導入するようにしたため、メインガス供給器21からメインガスGmとともにヘリウム/酸素混合ガスGxを送気する場合に比べて、ヘリウム/酸素混合ガスGxの使用量を減らすことができる。すなわち、メインガス供給器21からメインガスGmとともにヘリウム/酸素混合ガスGxを送気する場合は、常にヘリウム/酸素混合ガスGxをメインガスGmとともにメインガス流通路25を流し続けることになり、患者Xの気管に到達せず、呼吸に寄与しないヘリウム/酸素混合ガスGxが多くなり、ヘリウム/酸素混合ガスGxを無駄に消費することになる。この点、本実施形態の吸気ガス供給装置2を用いることで、呼吸に必要な量(例えば4~8〔L/min〕程度)だけヘリウム/酸素混合ガスGxをリザーバー23および接続チューブ1へ導入すればよいため、高価なヘリウムの使用量を抑えることができ、コストダウンにつながる。
【0036】
なお本実施形態においては換気用周波数を15Hz以上、好ましくは45Hz以下、より好ましくは25Hz以上45Hz以下、さらに好ましくは25Hz以上35Hz、最も好ましくは35Hzに設定しているが、必ずしもこの条件に限定されず、その他の周波数によって人工呼吸システム100を動作させてもよい。この場合、少なくともジャクソンリース回路を構成する吸気ガス供給装置2を採用することで高価なヘリウムの使用量を抑えることができるため、ヘリウムの使用による高い換気効果を得つつコストダウンを図ることが可能となる。
【0037】
また図2に示すように、ヘリウム/酸素供給装置24Xは、上記のヘリウム供給源30および酸素供給源31に代えてヘリウム/酸素混合ガス(ヘリオックス)を貯留する混合ガス供給源30Xを有していてもよい。この場合、上記のガス混合器32も不要となり、装置構成を簡素化できる。
【0038】
また図3に示すようにヘリウム/酸素供給装置24Yのヘリウム供給路35Yは、ヘリウム供給源30および酸素供給源31と接続チューブ1との間を接続してもよい。この場合、ヘリウム供給路35Yの一端35Yaは接続チューブ1のヘリウム導入口1cに接続され、ガス混合器32からのヘリウム/酸素混合ガスGxは接続チューブ1に導入される。なおヘリウム/酸素供給装置24Yにおいても、図2に示す混合ガス供給源30Xを採用してもよい。
【0039】
〈第二実施形態〉
次に本発明の第二実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお第一実施形態と同一の構成要素には第一実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
(全体構成)
図4に示すように本実施形態の人工呼吸システム100Aでは、吸気ガス供給装置2Aはジャクソンリース回路を構成するものではない。すなわち、吸気ガス供給装置2Aは、メインガス供給器41と、メインガス流通路22と、ヘリウム/酸素供給装置24と、メインガス流通路22からヘリウムを回収するヘリウム回収器43とを有している。
【0041】
メインガス供給器41は、第一実施形態のメインガス供給器21と同様に、コンプレッサ20から圧縮空気を取り込んでメインガスGmとし、このメインガスGmに対して所定の換気用周波数の振動を与えた状態でメインガス流通路22を通じて送気する機器である。メインガス供給器41にはメインガス流通路22の回収路22bに連通する排気口41xが設けられている。
【0042】
またメインガス供給器41には、ヘリウム/酸素供給装置24からヘリウム/酸素混合ガスGxが導入される。そしてメインガス供給器41は、ヘリウム/酸素混合ガスGxに対して換気用周波数で振動を与えた状態で、ヘリウム/酸素混合ガスGxをメインガスGmとともにメインガス流通路22を通じて送気する。すなわちメインガス供給器41はメインガスGmとヘリウム/酸素混合ガスGxを混合して送気する。
【0043】
ここで本実施形態では、メインガス流通路22は接続チューブ1の他端1bに直接接続されており、第一実施形態に記載のリザーバー23に相当する構成は設けられていない。よってメインガス流通路22の供給路22aと回収路22bとは、接続チューブ1の他端1bよりもメインガス供給器41に近い側、すなわちこの他端1bよりも供給側メインガスGmsの流通方向の上流側において互いに連通している。
【0044】
ヘリウム回収器43はメインガス供給器41の排気口41xに接続されており、メインガス供給器41を介して回収路22bに連通している。ヘリウム回収器43は、不図示の吸着剤等を有し、回収側メインガスGmeからヘリウムを吸着、分離してヘリウムのみを回収する。
【0045】
(作用効果)
人工呼吸システム100Aでは、ヘリウムをメインガスGmに予め混合した状態で送気することで、吸気ガスGiを患者Xに供給し続けることになり、ヘリウムの使用量が大きくなってしまうが、ヘリウム回収器43を設けることでヘリウムをヘリウム回収器43で回収することができ、高価なヘリウムの再利用が可能となり、コストダウンにつながる。
【0046】
なお本実施形態においても、図2に示すヘリウム/酸素供給装置24Xのように、上記のヘリウム供給源30および酸素供給源31に代えてヘリウム/酸素混合ガス(ヘリオックス)を貯留する混合ガス供給源30Xを有していてもよい。
【0047】
ここで本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0048】
接続チューブ1は、患者Xの気管に挿入されて留置される挿管チューブでなくともよく、例えば患者Xに装着したマスク(不図示)に接続チューブ1の一端1aを接続してもよい。
【0049】
またメインガスGmは圧縮空気である必要はなく、呼吸に適切な量の酸素を含む酸素含有ガスであれば特に限定されない。
【実施例0050】
次に人工呼吸システムを用いて、換気効果を確認する実験を行った結果について説明する。
〈実験装置〉
実験に用いた人工呼吸システム200は上記第一実施形態の人工呼吸システム100に相当する。よって図5に示すように人工呼吸システム200の吸気ガス供給装置202はいわゆるジャクソンリース回路を構成するものとなっている。実験においては、患者Xに代えて被検体Yとなる動物(ウサギ)の気管に接続チューブ201を経口挿管した(気管切開でもよい)。被検体Yの体重は約3〔kg〕である。
【0051】
また実験において人工呼吸システム200には以下の製品を使用した。
・コンプレッサ220:株式会社東機貿製 MACS-50
・メインガス供給器221:株式会社メトラン製 Humming Vue
・リザーバー223:蛇管(内容積:100〔ml〕)
【0052】
〈実験条件〉
メインガス供給器221からメインガスGmとなる圧縮空気を、以下の換気用周波数で振動させ、かつ10〔L/min〕の流量で送気した。またヘリウム/酸素供給装置224からはリザーバー223へ向けてヘリウム/酸素混合ガスGxを8〔L/min〕で送気した。実験において、実施例1では換気用周波数を15Hz、実施例2では換気用周波数を25Hz、実施例3では換気用周波数を35Hz、実施例4では換気用周波数を45Hzとした。また実施例1~4との比較のための比較例として、換気用周波数を5Hzとした実験も実施した。
【0053】
(実験1)
実験1においては、最初にヘリウム/酸素混合ガスGx中のヘリウムと酸素の体積比(ヘリウム:酸素)を0%:100%とした状態で送気し(図6のPre-He)、その後、ヘリウム/酸素混合ガスGx中のヘリウムと酸素の体積比(ヘリウム:酸素)を79%:21%とした状態でヘリウム/酸素混合ガスGxを接続チューブ201へ送気し(図6のHe-on)、最後にヘリウム/酸素混合ガスGx中のヘリウムと酸素の体積比(ヘリウム:酸素)を再び0%:100%とした状態で送気した(図6のPost-He)。
【0054】
以上の条件のもとで実験1を行った際の被検体Yの動脈血二酸化炭素分圧(以下、PaCO〔mmHg〕)を測定した結果を図6に示す。横軸が吸気ガスGi中のヘリウムの有無を示し、縦軸が被検体YのPaCOの値を示している。なお実験結果のPaCOの値は、実施例1~4および比較例のそれぞれおいて4回ずつ行った実験の結果の平均値となっている。
【0055】
図6によれば、ヘリウムの有無に関わらず、比較例に比べてすべての実施例1~4でPaCOの値が低くなっており、換気用周波数が15Hz以上で、換気効果が向上することが確認できた。さらに実施例3(換気用周波数が35Hz)の場合に最も換気効果が高く、実施例3の次に実施例2(換気用周波数が25Hz)の換気効果が高いことが確認できた。
【0056】
さらに実施例2(25Hz)、実施例3(35Hz)、および実施例4(45Hz)においては、吸気ガスGiにヘリウムが含まれる場合(図6のHe-on)の方が、吸気ガスGiにヘリウムが含まれない場合(図6のPre-He、およびPost―He)と比べて、比較例(5Hz)からのPaCOの減少量が大きくなっていることが確認できた。したがって吸気ガスGiにヘリウムを用いた場合には、換気用周波数が25Hz以上45Hz以下で特に換気効果向上を期待できることが確認できた。
【0057】
(実験2)
次に実験1とは異なり、酸素濃度を一定とした実験2を行った。実験2においては、実験装置に不図示の窒素供給源を設け、最初にヘリウムに代えた窒素と酸素の体積比(窒素:酸素)を70%:30%とした状態で送気し(図7のPre-He)、その後、ヘリウムと酸素の体積比(ヘリウム:酸素)を70%:30%とした状態でヘリウム/酸素混合ガスGxを接続チューブ201へ送気し(図7のHe-on)、最後に窒素と酸素の体積比(窒素:酸素)を再び70%:30%とした状態で送気した(図7のPost-He)。
【0058】
以上の条件のもとで実験2を行った際の被検体Yの動脈血二酸化炭素分圧(以下、PaCO〔mmHg〕)を測定した結果を図7に示す。なお実験結果のPaCOの値は、実施例1~4および比較例のそれぞれおいて3回ずつ行った実験の結果の平均値となっている。
【0059】
図7によれば、比較例ではヘリウムの有無によってPaCOの値にほとんど変化が無い一方で、すべての実施例1~4においてPaCOの値がヘリウムの存在によって減少した。よって15Hz以上(特に35Hz)の周波数の振動を吸気ガスGiに付与する超高頻度振動換気において吸気ガスGiにヘリウムを含有させることで、高い換気効果を期待できることが確認できた。
【0060】
(実験3)
次に実験3として、各実施例1~4(同一個体を使用)において、ヘリウムの有無によるPaCOの値の差異、および末梢気道におけるアンプリチュード(気道内圧振幅)の値の差異について確認する実験を行った。実験2と同様に本実験において「ヘリウム有り」の場合には、ヘリウム/酸素混合ガスGx中のヘリウムと酸素の体積比(ヘリウム:酸素)は70%:30%とした状態で送気し、「ヘリウム無し」の場合には、ヘリウムに代えた窒素と酸素の体積比(窒素:酸素)を70%:30%とした状態のガスを送気した。
【0061】
以上の条件のもとで実験3を行った結果、末梢気道でのアンプリチュード(気道内圧振幅)の値は、実施例1~4のいずれにおいてもヘリウムの有無によって大きな差異は無いにもかかわらず、実施例1~4のいずれにおいても「ヘリウム有り」の場合には、「ヘリウム無し」の場合に比べてPaCOの値が小さくなっており、ヘリウムを含むガスを使用することによってCO排泄の効果が向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の人工呼吸システムによれば、高頻度振動換気において換気効果を向上することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1、201…接続チューブ
2、2A、202…吸気ガス供給装置
20、220…コンプレッサ
21、41、221…メインガス供給器
22…メインガス流通路
22a…供給路
22b…回収路
23、223…リザーバー
24、24X、24Y、224…ヘリウム/酸素供給装置
25…メインガス流通路
30…ヘリウム供給源
30X…混合ガス供給源
31…酸素供給源
32…ガス混合器
35、35Y…ヘリウム供給路
43…ヘリウム回収器
100、100A、200…人工呼吸システム
Gi…吸気ガス
Gm…メインガス
Gx…ヘリウム/酸素混合ガス
X…患者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8