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特開2025-56544リニアモータ、位置決め装置、処理装置、デバイス製造方法
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  • 特開-リニアモータ、位置決め装置、処理装置、デバイス製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056544
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】リニアモータ、位置決め装置、処理装置、デバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20250401BHJP
   H02K 41/02 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K41/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166078
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】篠平 大輔
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB15
5H641BB16
5H641GG03
5H641GG07
5H641GG10
5H641HH03
5H641JA09
(57)【要約】
【課題】複数のコイルユニットの間隙部の悪影響を低減できるリニアモータ等を提供する。
【解決手段】リニアモータは、磁気回路を備える可動子と、可動子の移動方向に沿って配列される複数のコイル4を備え、当該複数のコイル4に流される駆動電流に応じて、移動方向に沿った磁気的な直線動力を磁気回路に及ぼす固定子3と、を備える。固定子3は、可動子の速度の変化が比較的大きい速度変化領域と、可動子の速度の変化が比較的小さい速度安定領域と、に区分され、複数のコイル4は、当該複数のコイル4より少ない複数のコイルユニット2にグルーピングされて設けられ、速度変化領域内に配置される第1コイルユニット21および速度安定領域内に過半が配置される第2コイルユニット22の間隙部23が、速度変化領域内に配置される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路を備える可動子と、
前記可動子の移動方向に沿って配列される複数のコイルを備え、当該複数のコイルに流される駆動電流に応じて、前記移動方向に沿った磁気的な直線動力を前記磁気回路に及ぼす固定子と、
を備えるリニアモータであって、
前記固定子は、前記可動子の速度の変化が比較的大きい速度変化領域と、前記可動子の速度の変化が比較的小さい速度安定領域と、に区分され、
前記複数のコイルは、前記速度変化領域内に配置される第1コイルユニットと、前記速度安定領域内に過半が配置される第2コイルユニットに分かれて設けられる、
リニアモータ。
【請求項2】
前記第1コイルユニットおよび前記第2コイルユニットの間隙部が、前記速度変化領域内に配置される、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
前記第1コイルユニットの前記移動方向に沿った長さは、前記第2コイルユニットの前記移動方向に沿った長さより短い、請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項4】
前記速度安定領域は、一つの前記第2コイルユニットによってカバーされる、請求項3に記載のリニアモータ。
【請求項5】
前記可動子は、前記固定子の両端の間で駆動され、
前記速度変化領域は、前記固定子の各端を含む二つの端部領域であり、
前記速度安定領域は、前記二つの端部領域に挟まれた中央領域である、
請求項2から4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項6】
前記複数のコイルは、二列に亘って設けられ、
前記磁気回路は、前記二つのコイル列にそれぞれ対向するように設けられ、
前記二つのコイル列は、前記移動方向に沿って互いにずれて配置される、
請求項2から4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項7】
前記第1コイルユニットおよび前記第2コイルユニットに跨って構成される前記各コイル列において、前記第1コイルユニットおよび前記第2コイルユニットの前記間隙部における前記コイルが省略されている、請求項6に記載のリニアモータ。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載のリニアモータを動力源とする位置決め装置。
【請求項9】
請求項8に記載の位置決め装置によって位置決めされた被処理物を処理する処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の処理装置による前記被処理物の処理を通じてデバイスを製造するデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リニアモータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、流される三相交流に応じて磁気的な直線動力を発生させる三相コイル群を含むコイルユニット(電機子ブロック)が、移動方向に沿って複数配列されたリニアモータが開示されている。隣接するコイルユニットの間には間隙が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-278931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、各コイルユニットは、それらの間隙が磁極ピッチを電機子ブロック数で除した値の整数倍の電気角に対応するように配置される。しかし、各コイルユニットを配置する際に、誤差が発生する可能性がある。また、各コイルユニットの間隙部において、推力や速度の変動であるリップルが大きくなる恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、複数のコイルユニットの間隙部の悪影響を低減できるリニアモータ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のリニアモータは、磁気回路を備える可動子と、可動子の移動方向に沿って配列される複数のコイルを備え、当該複数のコイルに流される駆動電流に応じて、移動方向に沿った磁気的な直線動力を磁気回路に及ぼす固定子と、を備えるリニアモータであって、固定子は、可動子の速度の変化が比較的大きい速度変化領域と、可動子の速度の変化が比較的小さい速度安定領域と、に区分され、複数のコイルは、速度変化領域内に配置される第1コイルユニットと、速度安定領域内に過半が配置される第2コイルユニットに分かれて設けられる。
【0007】
本態様では、複数のコイルが速度変化領域側の第1コイルユニットと速度安定領域側の第2コイルユニットに分かれて設けられる。速度変化領域では、可動子の速度の変化が比較的大きく(例えば、可動子の加速や減速が頻繁に行われる)、要求される駆動精度(位置精度や速度精度)が元々高くないため、第1コイルユニットおよび第2コイルユニットの間隙部で各コイルユニットの配置誤差や大きいリップルがあっても実用的な悪影響は少ない。
【0008】
本開示の別の態様は、位置決め装置である。この装置は、上記のリニアモータを動力源とする。
【0009】
本開示の更に別の態様は、処理装置である。この装置は、上記の位置決め装置によって位置決めされた被処理物を処理する。
【0010】
本開示の更に別の態様は、デバイス製造方法である。この方法は、上記の処理装置による被処理物の処理を通じてデバイスを製造する。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、複数のコイルユニットの間隙部の悪影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ステージ装置を模式的に示す平面図である。
図2】リニアモータの電機子を示す斜視図である。
図3】二つのコイル列の別の配置例を模式的に示す平面図である。
図4】可動子の移動方向視における、当該可動子および電機子の模式的な断面図である。
図5】固定子に分割配置される複数のコイルユニットを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0015】
図1は、本開示に係るリニアモータを適用可能な位置決め装置または駆動装置としてのステージ装置100を模式的に示す平面図である。ステージ装置100は、半導体ウエハ等の被処理物を載置する被駆動体としてのテーブルをX軸方向(図1における左右方向)およびY軸方向(図1における上下方向)に位置決めするXYステージである。ステージ装置100は、Y軸方向に延びてテーブルをY軸方向に駆動する一対のYステージ120と、X軸方向に延びてテーブルをX軸方向に駆動する、当該テーブルと一体化されたXステージ130と、定盤140を備える。一対のYステージ120は、Xステージ130のX軸方向の両端に、スライダ124を介して連結されている。Yステージ120およびXステージ130は上面視でH型をなす。
【0016】
ステージ装置100の構成のうち、少なくともテーブル、Yステージ120、Xステージ130は、内部が真空状態に保たれた真空チャンバに収容されてもよい。本明細書において「真空」とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態を表す。真空は圧力領域によって、低真空(100 kPa~100 Pa)、中真空(100 Pa~0.1 Pa)、高真空(0.1 Pa~10-5 Pa)、超高真空(10-5 Pa~10-8 Pa)、極高真空(10-8 Pa以下)等のように区分される。本実施形態に係るステージ装置100は、以上のいずれの区分の真空環境で使用されてもよい。また、本実施形態に係るステージ装置100は、以上のいずれの区分にも該当しない非真空環境で使用されてもよい。
【0017】
Xステージ130およびYステージ120には、後述するリニアモータ2Xおよび2Yがそれぞれ設けられる。各リニアモータ2X、2Yが発生させるX軸方向またはY軸方向の磁気的な直線動力は、被駆動体としてのテーブルをX軸方向またはY軸方向に直線駆動する。
【0018】
X軸方向の直線駆動を担うリニアモータ2Xは、X軸方向の軌道を構成する固定子3と、当該固定子3に沿ってX軸方向に移動可能な可動子20を備える。この可動子20には被駆動体としてのテーブルが固定されて、一体的に移動する。Y軸方向の直線駆動を担う一対のリニアモータ2Yは、Y軸方向の軌道を構成する固定子3と、当該固定子3に沿ってY軸方向に移動可能な可動子20を備える。この可動子20にはスライダ124が固定されて、一体的に移動する。
【0019】
ここで、一対のスライダ124がリニアモータ2Xの電機子2の両端に連結されているため、一対のリニアモータ2Yは、リニアモータ2Xの電機子2を一対のスライダ124ごとY軸方向に直線駆動する。そして、リニアモータ2Xの電機子2(軌道)上にはテーブルがあるため、一対のリニアモータ2Yは、テーブルをY軸方向に直線駆動することになる。
【0020】
以上のように真空環境下および非真空環境下を問わず高精度な位置決めまたは駆動を実現できる本実施形態に係るステージ装置100(リニアモータを動力源とする位置決め装置)は、例えば、露光装置、イオン注入装置、熱処理装置、アッシング装置、スパッタリング装置、ダイシング装置、検査装置、洗浄装置等の半導体製造装置やFPD(Flat Panel Display)製造装置等のデバイス製造装置において、被処理物としての半導体ウエハ等を載置するテーブルを被駆動体として位置決めまたは駆動する用途に好適である。なお、本実施形態に係るステージ装置100を適用可能な処理装置は、当該ステージ装置100または位置決め装置によって任意の被処理物を処理のために位置決めする任意の装置でよく、例えば、任意の製造装置、任意の加工装置(例えば、工作機械)、任意の検査装置でよい。
【0021】
図2は、Xステージ130およびYステージ120にそれぞれ設けられるリニアモータ2X、2Yの電機子2を示す斜視図である。本実施形態における電機子2は、X軸方向およびY軸方向の軌道を構成する固定子3(図1)に設けられる。また、本図には示されないが、電磁石によって構成される電機子2と磁気的に相互作用する永久磁石等の界磁または磁気回路が可動子20に設けられる。すなわち、本実施形態に係るリニアモータ2X、2Yは、可動子20に界磁が設けられるムービングマグネット(Moving Magnet)型である。
【0022】
電機子2は長尺の略矩形板状であり、その第1面側(例えば、図2における電機子2の奥側)および第2面側(例えば、図2における電機子2の手前側)の両方に複数のコイル4からなるコイル列が形成されている。各コイル列は、電機子2の長手方向(図2における略左右方向)に沿って配列された複数のコイル4を備える。図2の例では各コイル列が12個のコイル4を備えるため、当該各コイル列に三相交流が印加される場合は12個のコイル4が4組の三相コイルに区分される。このように、複数のコイル4がグルーピングされて一体的に設けられる電機子2は、以下ではコイルユニット2とも表される。
【0023】
電機子2の第1面および第2面に設けられるコイル列には、永久磁石等の磁気回路または界磁を有する可動子20(図1)が対向している。三相交流等の駆動電流が流された各コイル列は、当該各コイル列に対向する磁気回路および/または当該各コイル列自体に直線動力を及ぼす。この直線動力の方向は各コイル列の配列方向(すなわち電機子2の長手方向または図2における略左右方向)と略同じであり、当該方向に界磁(可動子20)および電機子2(固定子3)が相対的に直線移動する。
【0024】
また、電機子2の第1面側および第2面側のコイル列にそれぞれ対向する可動子20における磁気回路または界磁を、互いに物理的に連結する、または、一体的に形成することで、電機子2の両側のコイル列によって両側の磁気回路(すなわち、可動子20全体)が一体的に相対駆動されるようにしてもよい。この場合、電機子2の第1面側の各コイル4と、その略裏に位置する第2面側の各コイル4には略同じ駆動電流が印加されてもよいし、図3図5に関して後述するように、電機子2の第1面側と第2面側でコイル列が移動方向に沿って互いにずれて配置されている場合は、その配置に応じた適切な駆動電流がそれぞれのコイル列に印加されてもよい。
【0025】
電機子2の第1面側のコイル列および第2面側のコイル列の間には、当該電機子2の複数のコイル4を冷却する冷却部材10が介在する。冷却部材10は長尺の略矩形板状であり、その第1面および第2面の両方に上記の各コイル列の一方の端面または内側の端面が接触するように配置されている。冷却部材10は、各面においてそれぞれのコイル列を支持する略矩形板状の冷却板12と、冷却板12におけるコイル4の配列方向の一端部に設けられる流入部14と、冷却板12におけるコイル4の配列方向の他端部に設けられる流出部16を備える。なお、流入部14と流出部16は逆でもよい(すなわち、後述する冷媒を流す向きを逆にして、流入部14を流出部として機能させ、流出部16を流入部として機能させてもよい)。
【0026】
流入部14は、コイル4の配列方向から逸れた位置、具体的にはコイル列の一端(図2における右端)にあるコイル4の上部に設けられる。なお、本明細書において「上部」や「下部」等の語は、コイル列またはコイル4と流入部14等の相対的な位置関係を図面に沿って便宜的に表すものであって、鉛直方向または重力方向に沿った上部や下部を意味するものではない。以下では特に断らない限り、「上」「下」「左」「右」等の方向を表す語は、各図に示されるコイル列またはコイル4を基準とする相対的な方向を意味する。
【0027】
流入部14の上部には、複数のコイル4を冷却するための冷却水等の冷媒が流入する流入口14aが設けられる。冷却部材10(特に、平板状の冷却板12)の内部には、流入口14aから流入した冷媒を、各コイル4を効率的に冷却しながら以下の流出口16aまで導く任意の形状の流路構造(不図示)が形成されている。流出部16は、流入部14と同様に、コイル4の配列方向から逸れた位置、具体的にはコイル列の他端(図2における左端)にあるコイル4の上部に設けられる。流出部16の上部には、流入口14aから流入して冷却部材10内の流路構造を通ってきた冷媒が流出する流出口16aが設けられる。
【0028】
以上のように冷却部材10内の流路構造を流通する冷媒は、平板状の冷却板12の両面と接触するように配置された二つのコイル列を同時に冷却する。なお、コイル列は平板状の冷却板12の一方の面のみに設けられてもよい。この場合、冷却部材10内の流路構造を流通する冷媒は、平板状の冷却板12の片面と接触するように配置された一つのコイル列を冷却する。
【0029】
図3は、二つのコイル列の別の配置例を模式的に示す平面図である。本図における上下の各コイル列では、図5に関して後述される間隙部23(本図の例では、下のコイル列においてU相コイル4Uが設けられうる部分)における例外を除いて、U相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wが、移動方向(図3における左右方向)に沿って周期的に配置されている。更に、図示の例では、上下のコイル列が、移動方向に沿って互いにずれて配置されている。すなわち、上のコイル列におけるU相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wのそれぞれの位置が、下のコイル列におけるU相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wのそれぞれの位置と異なっている。この結果、上下のコイル列に流される三相交流の位相が互いにずれる。このような位相ずれをもたらすコイル4の配置によって、可動子20を効率的に駆動できることが知られている。なお、不図示の可動子20における永久磁石6は、前述のように、図3における上下方向に対向する一対の永久磁石6の磁極が互いに異なるように配置されればよい。
【0030】
図4は、可動子20の移動方向視(または、コイル4の配列方向視)における、当該可動子20(界磁)および電機子2の模式的な断面図である。本図に例示されるように、特に真空環境で使用されるリニアモータまたは電機子2では、冷却部材10(本図では、冷却板12が模式的に図示されている)内の流路構造を流通する冷媒や、発熱するコイル4等から飛散しうる微粒子等が真空環境を汚染しないように、エポキシ樹脂等の絶縁性を有する樹脂材料5(モールド樹脂)によって、冷却部材10およびコイル4がモールディングされる。
【0031】
また、このように樹脂材料5によって封止された冷却部材10およびコイル4を含むコイルユニット2(電機子2)の底部には、当該コイルユニット2を固定子3等に設置するためのベース51が接合されている。なお、図示は省略するが、図2に示される流入部14および/または流出部16が、ベース51の側に当該ベース51と干渉しないように設けられてもよい(この場合の図2図4の上下方向は逆になっている)。
【0032】
図4に模式的に示されるように、複数のコイル4は、二列(図4における左側の列と右側の列)に亘って設けられる。また、断面が略コの字状の可動子20が、樹脂材料5によってモールディングされた電機子2の部分を上方から覆うように設けられる。界磁としての可動子20には、電機子2における左右のコイル列にそれぞれ対向するように、磁気回路を構成する永久磁石6の対が設けられる。ここで、電機子2を挟んで対向する一対の永久磁石6の磁極(コイル4に対向する側の磁極)は、互いに異なっているのが好ましい。
【0033】
すなわち、図示のような断面において、左側の永久磁石6の右側の面における磁極がN極であれば、右側の永久磁石6の左側の面における磁極がS極であるのが好ましく、左側の永久磁石6の右側の面における磁極がS極であれば、右側の永久磁石6の左側の面における磁極がN極であるのが好ましい。ここで、界磁としての可動子20が、図2に示されるような三相コイルによって適切に直線駆動されるように、永久磁石6の対の磁極は移動方向(図4における紙面に垂直な方向)に沿って変化する(例えば、N極/
S極の永久磁石6の対と、S極/N極の永久磁石6の対が、移動方向に沿って交互に設けられる)。
【0034】
以上のように、真空環境でも使用可能なコイルユニット2は、樹脂材料5によるモールディングや、真空対応のための不図示のケースやシェルについて特殊な金属加工等が必要になることから、移動方向に沿った長さに制約がある。このため、一つのコイルユニット2だけで固定子3(可動子20の軌道)の全長をカバーすることが難しい場合もある。このような場合、複数のコイルユニット2を移動方向に沿って並べることで、固定子3(可動子20の軌道)の全長をカバーしなければならない。しかし、複数のコイルユニット2を固定子3に配置する際に、誤差が発生する可能性がある。また、各コイルユニット2の間隙部において、推力や速度の変動であるリップルが大きくなる恐れがある。
【0035】
そこで、本実施形態では、複数のコイルユニット2の間隙部の悪影響を低減できるリニアモータが提案される。
【0036】
図5は、固定子3に分割配置される複数のコイルユニット2を模式的に示す平面図である。本図は、図4における上方から見た図であり、コイル4を含む断面を示す。本図では、図4に示されていた可動子20や、冷却部材10の冷却板12が省略されている。
【0037】
図5の例では、コイルユニット2として、固定子3(可動子20の軌道)の両端部に設けられる比較的短い二つの第1コイルユニット21と、固定子3(可動子20の軌道)の中央部または非端部に設けられる比較的長い一つの第2コイルユニット22を備える。各端部における第1コイルユニット21の数や、中央部または非端部に設けられる第2コイルユニット22の数は複数でもよい。但し、この場合でも、一つの第1コイルユニット21の移動方向(図5における左右方向)に沿った長さは、一つの第2コイルユニット22の移動方向に沿った長さより短くするのが好ましい。
【0038】
図示の例のように、各コイルユニット2の単位長さ当たりのコイル4の数が実質的に同じである場合、一つの第1コイルユニット21に含まれるコイル4の数(図5の例では6個)は、一つの第2コイルユニット22に含まれるコイル4の数(図5の例では13個)より少なくするのが好ましい。このように、本実施形態では、固定子3の端部(第1コイルユニット21)と非端部(第2コイルユニット22)で、各コイルユニット2の移動方向に沿った長さや、各コイルユニット2に含まれるコイル4の数が異なっているのが好ましい。以上のように、本実施形態では、複数(図5の例では25個)のコイル4が、当該複数のコイル4より少ない複数(図5の例では3個)のコイルユニット2にグルーピングされて設けられている。
【0039】
図示の例では、各コイルユニット2に、上下の二つのコイル列が設けられる。各コイル列では、後述する間隙部23における例外を除いて、U相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wが、移動方向に沿って周期的に配置されている。更に、図示の例では、上下のコイル列が、移動方向に沿って互いにずれて配置されている。すなわち、上のコイル列におけるU相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wのそれぞれの位置が、下のコイル列におけるU相コイル4U、V相コイル4V、W相コイル4Wのそれぞれの位置と異なっている。この結果、上下のコイル列に流される三相交流の位相が互いにずれる。このような位相ずれをもたらすコイル4の配置によって、可動子20を効率的に駆動できることが知られている。なお、不図示の可動子20における永久磁石6は、前述のように、図5における上下方向に対向する一対の永久磁石6の磁極が互いに異なるように配置されればよい。
【0040】
但し、本開示は、図5に示されるようなコイル4の配置に限定されるものではなく、例えば、図2のように上下のコイル列が移動方向に沿って互いにずれずに配置されていてもよい。また、コイル列は一つでもよいし、三つ以上でもよい。
【0041】
不図示の可動子20は、複数のコイルユニット2によって、固定子3(軌道)の両端(図5における左端および右端)の間で駆動される。可動子20は固定子3上において任意の態様で駆動されるが、以下では、図1に示されるようなステージ装置100で一般的なスキャン(走査)動作が例示される。スキャン動作では、ステージ装置100におけるテーブル上に載置された半導体ウエハ等の被処理物の各点を順次処理するために、例えばXステージ130が両端部の間で往復動作する。Yステージ120は、Xステージ130が各端部にある間に僅かな距離の駆動を行い、Xステージ130による往復動作が行われるY位置を少しずつずらす。
【0042】
この例において連続的な往復動作をするXステージ130における固定子3は、可動子20の頻繁かつ急激な加減速を伴う端部領域と、被処理物の各点の順次処理のために典型的には一定の速度で可動子20が駆動される非端部領域または中央領域に区分される。換言すれば、図5に模式的に示されるように、固定子3の各端を含む二つの端部領域は、可動子20の速度の変化が比較的大きい速度変化領域であり、固定子3の二つの端部領域に挟まれた中央領域は、可動子20の速度の変化が比較的小さい速度安定領域である。
【0043】
速度変化領域は、スキャン動作等の通常動作において、可動子20に対する加速度指令または速度変更指令(加速指令または減速指令)の絶対値(あるいは、可動子20の測定された加速度の絶対値)が所定の基準値(例えば、ゼロに近い正の値)以上になること想定される領域として理解されてもよく、速度安定領域は、スキャン動作等の通常動作において、可動子20に対する加速度指令または速度変更指令の絶対値(あるいは、可動子20の測定された加速度の絶対値)が当該基準値以下(典型的には、ゼロ)に留まることが想定される領域として理解されてもよい。
【0044】
本実施形態では、以上のような速度変化領域と速度安定領域の配置に応じて、主に速度変化領域をカバーする第1コイルユニット21と、主に速度安定領域をカバーする第2コイルユニット22の長さや配置が決定される。例えば、第1コイルユニット21の全体は速度変化領域内に配置される。第2コイルユニット22は、その非端部または中央部である主要部が速度安定領域内に配置され、その両端部が速度変化領域内に配置される。速度安定領域内に配置される第2コイルユニット22の主要部は、当該第2コイルユニット22の移動方向における全長の過半(好ましくは65%以上、更に好ましくは80%以上)を占める。
【0045】
速度安定領域は、一つの第2コイルユニット22によってカバーされるのが好ましい。しかし、速度安定領域の全長が製造可能な第2コイルユニット22の最大長より長い場合は、複数の第2コイルユニット22によって速度安定領域をカバーしてもよい。その場合の各第2コイルユニット22の移動方向に沿った長さは、各第1コイルユニット21の移動方向に沿った長さより長くするのが好ましい。
【0046】
以上のような配置の結果、速度変化領域内に全体が配置される第1コイルユニット21および速度安定領域内に過半が配置される第2コイルユニット22の間隙部23が、速度変化領域内に配置される。速度変化領域では、前述のように可動子20の速度の変化が比較的大きく(例えば、可動子20の往復動作または反転動作のための加速や減速が頻繁に行われる)、要求される駆動精度(位置精度や速度精度)が元々高くないため、間隙部23でコイルユニット2の配置誤差や大きいリップルがあっても実用的な悪影響は少ない。
【0047】
一方、被処理物の各点の順次処理のために典型的には一定の速度で可動子20が駆動される速度安定領域では、リップルの原因となる第1コイルユニット21と第2コイルユニット22の間隙部23が存在しないため、要求される高い駆動精度を十分に満たせる。
【0048】
図5に示されるような位相がずれた二つのコイル列の配置では、第1コイルユニット21および第2コイルユニット22に跨って構成される各コイル列において、各相のコイル4が配置されるべき場所に間隙部23が配置されうる。このような場合は、図示されているように、第1コイルユニット21および第2コイルユニット22の間隙部23に配置されるべきであったコイル4が省略される。具体的には、図5における左側の間隙部23では、上のコイル列に配置されるべきU相コイル4Uが省略されており、図5における右側の間隙部23では、上のコイル列に配置されるべきV相コイル4Vが省略されている。このような間隙部23における一部のコイル4の省略はリップルの増大に繋がりうるが、前述のように要求される駆動精度が元々高くない速度変化領域では大きな問題にはならない。
【0049】
なお、典型的には定速駆動が行われる速度安定領域では、大きな推力を要する加減速を伴う速度変化領域と比べて、必要とされる推力が小さい場合が多い。そこで、必要最小限の推力だけを発生させるために、第2コイルユニット22における速度安定領域内のコイル4の一部に駆動電流を流さない「間引き駆動」が行われてもよい。また、第2コイルユニット22を第1コイルユニット21より低推力化するために、第2コイルユニット22に設けられる単位長さ当たりのコイル4の数を、第1コイルユニット21に設けられる単位長さ当たりのコイル4の数より小さくしてもよい。
【0050】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0051】
図5では、可動子20(不図示)が固定子3の両端の間で往復駆動されるために、両端部領域が速度変化領域として設定され、中央領域が速度安定領域として設定されたが、固定子3における速度変化領域および速度安定領域の配置は任意であり、可動子20に対して与える加速度指令または速度変更指令に応じて自由に設定できる。例えば、固定子3における特定の領域においてのみ、絶対値が所定の基準値以上になる加速度指令または速度変更指令が与えられる場合は、当該特定の領域が速度変化領域として設定され、それ以外の領域が速度安定領域として設定される。
【0052】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0053】
2 コイルユニット、2X リニアモータ、2Y リニアモータ、3 固定子、4 コイル、6 永久磁石、10 冷却部材、20 可動子、21 第1コイルユニット、22 第2コイルユニット、23 間隙部、100 ステージ装置、120 Yステージ、130 Xステージ。
図1
図2
図3
図4
図5