(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056559
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】実世界ポインティングシステムおよび実世界ポインティング方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/033 20130101AFI20250401BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
G06F3/033 A
G06F3/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166105
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】岩城 敏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慎一郎
【テーマコード(参考)】
5B087
5E555
【Fターム(参考)】
5B087AA07
5E555AA06
5E555BA08
5E555BB06
5E555BE17
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】設置および操作し易い実世界ポインティングを実現する。
【解決手段】ポインティングシステム100において、コントローラ30が、パンチルトアクチュエータ20の非可動部位に付されたビジュアルマーカ23の撮像画像を解析して、カメラがパンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ
0におけるコントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列
0T
Siniを求め、第1の状態からカメラが目標物40に向いている第2の状態に変化するときのコントローラの姿勢変化をモーションセンサで検知して、第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列
SiniT
Sを求め、第2の状態において目標物までの距離からコントローラの座標系Σ
Sにおける目標物の空間座標
Srを求め、パンチルトアクチュエータ20が、逆運動学(θ
P,θ
T,l
b)
T=IK(
0r)から求まるパン角θ
Pおよびチルト角θ
Tで動作する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラで離れた場所にあるパンチルトアクチュエータを操作して、前記パンチルトアクチュエータに搭載されたレーザポインタから照射されるレーザビームで実世界における目標物をポインティングするシステムであって、
前記コントローラが、光学像の撮像および深度計測が可能なカメラおよびモーションセンサを有し、前記パンチルトアクチュエータの非可動部位に付されたビジュアルマーカを前記カメラで撮像した撮像画像を解析して、前記カメラが前記パンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ0における前記コントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列0TSiniを求め、前記第1の状態から前記カメラが前記目標物に向いている第2の状態に変化するときの前記コントローラの姿勢変化を前記モーションセンサで検知して、前記第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列SiniTSを求め、前記第2の状態において前記カメラで計測した前記目標物までの距離から前記コントローラの座標系ΣSにおける前記目標物の空間座標Srを求め、
前記パンチルトアクチュエータが、逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)から求まるパン角θPおよびチルト角θTで動作する(ただし、lbは前記レーザビームのビーム長であり、0rは世界座標系Σ0における前記レーザビームのレーザスポットの空間座標であって0r=0TSini
SiniTS
Srである。)ように構成されている
ことを特徴とする実世界ポインティングシステム。
【請求項2】
前記コントローラが、前記第1の状態から前記第2の状態へと変化するときの前記コントローラの並進ベクトルをゼロとみなして同次変換行列0TIniを求める
ことを特徴とする請求項1に記載の実世界ポインティングシステム。
【請求項3】
前記コントローラが、ユーザから前記レーザスポットの微小移動の指示を受け付け、指示された前記レーザスポットの微小移動量に前記レーザビームのビーム長および前記パンチルトアクチュエータの動作角度に基づく係数および同次変換行列0TSiniおよびSiniTSに含まれる回転行列を掛けて前記パンチルトアクチュエータのパン角およびチルト角のオフセット量を計算して、前記パンチルトアクチュエータに前記計算したオフセット量または前記オフセット量を反映させたパン角およびチルト角の絶対量を無線通信により指示し、
前記パンチルトアクチュエータが、前記コントローラから指示されたオフセット量または絶対量で自身のパン角およびチルト角を微調整するように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の実世界ポインティングシステム。
【請求項4】
前記レーザスポットの微小移動の指示が前記レーザスポットの上下左右の任意の方向へのインチング操作である
ことを特徴とする請求項3に記載の実世界ポインティングシステム。
【請求項5】
光学像の撮像および深度計測が可能なカメラおよびモーションセンサを有するコントローラで離れた場所にあるパンチルトアクチュエータを操作して、前記パンチルトアクチュエータに搭載されたレーザポインタから照射されるレーザビームで実世界における目標物をポインティングする方法であって、
前記コントローラが、前記パンチルトアクチュエータの非可動部位に付されたビジュアルマーカを前記カメラで撮像した撮像画像を解析して、前記カメラが前記パンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ0における前記コントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列0TSiniを求め、
前記コントローラが、前記第1の状態から前記カメラが前記目標物に向いている第2の状態に変化するときの前記コントローラの姿勢変化を前記モーションセンサで検知して、前記第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列SiniTSを求め、
前記コントローラが、前記第2の状態において前記カメラで計測した前記目標物までの距離から前記コントローラの座標系ΣSにおける前記目標物の空間座標Srを求め、
前記パンチルトアクチュエータが、逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)から求まるパン角θPおよびチルト角θTで動作する(ただし、lbは前記レーザビームのビーム長であり、0rは世界座標系Σ0における前記レーザビームのレーザスポットの空間座標であって0r=0TSini
SiniTS
Srである。)
ことを特徴とする実世界ポインティング方法。
【請求項6】
前記コントローラが、前記第1の状態から前記第2の状態へと変化するときの前記コントローラの並進ベクトルをゼロとみなして同次変換行列0TIniを求める
ことを特徴とする請求項5に記載の実世界ポインティング方法。
【請求項7】
前記コントローラが、ユーザから前記レーザスポットの微小移動の指示を受け付け、指示された前記レーザスポットの微小移動量に前記レーザビームのビーム長および前記パンチルトアクチュエータの動作角度に基づく係数および同次変換行列0TSiniおよびSiniTSに含まれる回転行列を掛けて前記パンチルトアクチュエータのパン角およびチルト角のオフセット量を計算して、前記パンチルトアクチュエータに前記計算したオフセット量または前記オフセット量を反映させたパン角およびチルト角の絶対量を無線通信により指示し、
前記パンチルトアクチュエータが、前記コントローラから指示されたオフセット量または絶対量で自身のパン角およびチルト角を微調整する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の実世界ポインティング方法。
【請求項8】
前記レーザスポットの微小移動の指示が前記レーザスポットの上下左右の任意の方向へのインチング操作である
ことを特徴とする請求項7に記載の実世界ポインティング方法。
【請求項9】
光学像の撮像および深度計測が可能なカメラおよびモーションセンサを有するスマートフォンを、パンチルトアクチュエータにより向きが変えられるレーザポインタから照射されるレーザビームで実世界における目標物をポインティングするシステムにおけるコントローラとして機能させるスマートフォンアプリであって、
前記パンチルトアクチュエータの非可動部位に付されたビジュアルマーカを前記カメラで撮像した撮像画像を解析して、前記カメラが前記パンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ0における前記コントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列0TSiniを求める手段、
前記第1の状態から前記カメラが前記目標物に向いている第2の状態に変化するときの前記コントローラの姿勢変化を前記モーションセンサで検知して、前記第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列SiniTSを求める手段、
前記第2の状態において前記カメラで計測した前記目標物までの距離から前記コントローラの座標系ΣSにおける前記目標物の空間座標Srを求める手段、および
逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)からパン角θPおよびチルト角θTを計算して前記パンチルトアクチュエータに指示する(ただし、lbは前記レーザビームのビーム長であり、0rは世界座標系Σ0における前記レーザビームのレーザスポットの空間座標であって0r=0TSini
SiniTS
Srである。)手段として、スマートフォンを機能させる
ことを特徴とするスマートフォンアプリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元空間の実世界に存在する目標物をレーザビームでポインティングする実世界ポインティングシステムおよび実世界ポインティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
要介護者がロボットに望む現実的作業の一つは部屋内の日用品の把持と搬送であるが、我々の日常生活空間は極めて雑多なため、未登録・非定型物体を扱う作業の完全自動化は非常に困難である。そこで発明者はこれまで、支援ロボット早期実用化を狙いに敢えて全自動化ではなく、ロボットの高精度計測制御技術と併せて、要介護者に残存する優れた知能と技能を最大限活用した手動(半自動)のアプローチを進めてきた。この場合、ロボットに如何に簡単・確実に動作指示するか、すなわち直感的な指示インタフェースの研究開発が最重要となる。このような観点で発明者はこれまで、パンチルトアクチュエータ上に搭載された高精度TOF型レーザ距離センサをPCマウスで操作し実物体を目視しながらクリックすることで、物体操作に関する様々な命令を生成可能な直感的インタフェース(実世界クリッカー)を開発して来た(例えば、非特許文献1を参照)。ここで実世界クリックとは、レーザスポット3D位置をパン角・チルト角・レーザビーム長からワールド座標系で計測することを意味し、その精度は約5m先で5mm程度の分解能を有する。ユーザはターゲット物体把持点を実世界クリックしその座標値をロボットに送れば、後はロボットが自動的にその物体近傍まで移動しアーム・ハンドで把持しユーザまで運んでくれる。また、物体が存在していた場所を実世界クリッカーは記録しているので、ユーザはその物体を自動的に元の場所に戻すこともできる。
【0003】
発明者はさらに、日常的によく使用され身近なデバイスであるスマートフォンを実世界クリッカーのコントローラとして用い、スマートフォンの傾きにパンチルトアクチュエータの動きを連動させることで3次元空間の実世界に存在する目標物の位置を直感的操作感でポインティングする技術を開発して来た(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】TOF型レーザセンサとパンチルトアクチュエータを用いた実世界クリック方式の提案と生活支援ロボット動作教示への応用,安孫子優紀,日高雄太,佐藤健次郎,岩城 敏,池田徹志,計測自動制御学会論文集Vol. 52, No.11, pp.614-624, 2016
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の実世界ポインティングには、1)パンチルトアクチュエータは水平に設置される、2)パンチルトアクチュエータとユーザの頭部の位置はパンチルトアクチュエータと目標物との間の距離と比べて相対的に十分に近い、3)ユーザの頭部は常に鉛直上向き、という制約条件がある。このため、パンチルトアクチュエータを設置場所や設置の向きが限られたり、ユーザが自由な姿勢で操作できなかったりといった実用上の問題がある。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、制約条件をなくして設置および操作し易い実世界ポインティング技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うと、コントローラで離れた場所にあるパンチルトアクチュエータを操作して、前記パンチルトアクチュエータに搭載されたレーザポインタから照射されるレーザビームで実世界における目標物をポインティングするシステムであって、前記コントローラが、光学像の撮像および深度計測が可能なカメラおよびモーションセンサを有し、前記パンチルトアクチュエータの非可動部位に付されたビジュアルマーカを前記カメラで撮像した撮像画像を解析して、前記カメラが前記パンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ0における前記コントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列0TSiniを求め、前記第1の状態から前記カメラが前記目標物に向いている第2の状態に変化するときの前記コントローラの姿勢変化を前記モーションセンサで検知して、前記第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列SiniTSを求め、前記第2の状態において前記カメラで計測した前記目標物までの距離から前記コントローラの座標系ΣSにおける前記目標物の空間座標Srを求め、前記パンチルトアクチュエータが、逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)から求まるパン角θPおよびチルト角θTで動作する(ただし、lbは前記レーザビームのビーム長であり、0rは世界座標系Σ0における前記レーザビームのレーザスポットの空間座標であって0r=0TSini
SiniTS
Srである。)ように構成されている実世界ポインティングシステムが提供される。
【0009】
また、本発明の一局面に従うと、光学像の撮像および深度計測が可能なカメラおよびモーションセンサを有するコントローラで離れた場所にあるパンチルトアクチュエータを操作して、前記パンチルトアクチュエータに搭載されたレーザポインタから照射されるレーザビームで実世界における目標物をポインティングする方法であって、前記コントローラが、前記パンチルトアクチュエータの非可動部位に付されたビジュアルマーカを前記カメラで撮像した撮像画像を解析して、前記カメラが前記パンチルトアクチュエータに向いている第1の状態における世界座標系Σ0における前記コントローラの位置および姿勢を表す同次変換行列0TSiniを求め、前記コントローラが、前記第1の状態から前記カメラが前記目標物に向いている第2の状態に変化するときの前記コントローラの姿勢変化を前記モーションセンサで検知して、前記第1の状態から前記第2の状態への変化に係る同次変換行列SiniTSを求め、前記コントローラが、前記第2の状態において前記カメラで計測した前記目標物までの距離から前記コントローラの座標系ΣSにおける前記目標物の空間座標Srを求め、前記パンチルトアクチュエータが、逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)から求まるパン角θPおよびチルト角θTで動作する(ただし、lbは前記レーザビームのビーム長であり、0rは世界座標系Σ0における前記レーザビームのレーザスポットの空間座標であって0r=0TSini
SiniTS
Srである。)実世界ポインティング方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、パンチルトアクチュエータを任意の箇所、任意の向きに設置して、さらに、ユーザは任意の姿勢でパンチルトアクチュエータをコントローラで操作して、実世界の目標物をレーザビームでポインティングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る実世界ポインティングシステムの概略図である。
【
図2】粗調整モードにおけるパンチルトアクチュエータの制御フロー図である。
【
図3】粗調整モードにおけるスマートフォンの操作および姿勢変化を説明する図である。
【
図4】パンチルトアクチュエータの順運動学を説明する図である。
【
図5】微調整モードにおけるパンチルトアクチュエータの制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0013】
≪実世界ポインティングシステムの構成例≫
図1は、本発明の一実施形態に係る実世界ポインティングシステムの概略図である。本実施形態に係る実世界ポインティングシステム100は、レーザポインタ10と、レーザポインタ10の向きを変えるパンチルトアクチュエータ20と、パンチルトアクチュエータ20を操作するコントローラとしてのスマートフォン30とを備えている。
【0014】
レーザポインタ10は、レーザビーム11を照射する機能および目標物40までの距離を計測する機能を有するデバイスである。具体的には、レーザポインタ10は、目標物40に向けてレーザビーム11をパルス投光し、レーザビーム11を照射してから目標物40からの反射光を受光するまでの時間を計測することで目標物40までの距離を計測するTOF(Time of Fright)型レーザセンサ機能を有する。
【0015】
パンチルトアクチュエータ20は、本体21が天井などの固定物に設置され、雲台22を、図中矢印aで示したチルト方向および矢印bで示したパン方向に駆動する電動装置である。パンチルトアクチュエータ20の雲台22にレーザポインタ10が載置固定されている。これによりパンチルトアクチュエータ20にパン角およびチルト角を指示することでレーザポインタ10の姿勢を変えてレーザポインタ10から照射されるレーザビーム11を任意の向きに変えられるようになっている。レーザビーム11が物体に照射されるとその物体表面にユーザに視認可能なレーザスポット12が形成される。このレーザスポット12の位置が3次元空間の実世界におけるポインティング位置である。
【0016】
図1の例では、パンチルトアクチュエータ20は天井に設置されている。さらに、パンチルトアクチュエータ20の非可動部位、例えば、本体21のすぐ側にビジュアルマーカ23が付されている。ビジュアルマーカ23は、AR(Augmented Reality)技術などで使用されるものである。ビジュアルマーカ23を撮影してその撮像画像を解析することで、それが付されたオブジェクトの位置を空間認識することができる。
【0017】
スマートフォン30は、言わずと知れた今やほぼすべての人が所有し、日常的に使用している携帯端末である。最近のスマートフォン30は、光学カメラや無線通信機能以外に筐体の姿勢や動きを検知するモーションセンサを搭載している。より詳細には、当該モーションセンサーは、加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサが一体モジュール化された9軸センサである。加速度センサは、筐体の直交3軸方向の加速度を検知するセンサ、ジャイロセンサは、直交3軸回りの角速度を検知するセンサ、地磁気センサは、筐体の直交3軸方向の地磁気を検知するセンサである。
【0018】
スマートフォン30の中にはLiDARに代表される深度カメラをさらに備えているものがある。このような深度カメラは光学カメラと一体化されたカメラとしてスマートフォン30の背面に配置されている。深度カメラを備えたスマートフォン30の場合、ユーザは、光学カメラで被写体を撮影するのと同じ要領で目標物40を「撮影」して目標物40までの距離を正確に測定することができる。
【0019】
上記構成の実世界ポインティングシステム100において、レーザポインタ10およびパンチルトアクチュエータ20は図略の無線通信インタフェースを介してスマートフォン30とWi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)などの各種短距離無線通信31ができるようになっている。スマートフォン30には、下述するようにレーザポインタ10およびパンチルトアクチュエータ20をコントロールするためのコンピュータプログラムである専用アプリがインストールされており、この専用アプリを起動することでスマートフォン30が実世界ポインティングシステム100のコントローラとして機能する。具体的には、後述する粗調整モードにおいて、ビジュアルマーカ23および目標物40の撮影を通じてパンチルトアクチュエータ20を制御し、レーザポインタ10から照射されるレーザビーム11のレーザスポット12を目標物40の狙った位置に誘導する。そして、後述する微調整モードにおいて、スマートフォン30のタッチスクリーンに表示されるUIを操作することで、レーザスポット12の位置を微調整することができる。
【0020】
≪粗調整モード≫
図2は、粗調整モードにおけるパンチルトアクチュエータ20の制御フロー図である。
図3は、粗調整モードにおけるスマートフォンの操作および姿勢変化を説明する図である。実世界ポインティングシステム100は粗調整モードからスタートする。スマートフォン30のアプリが起動されると(S11)、まず、アプリはユーザにビジュアルマーカ23を撮影するよう求める。それに従い、ユーザは、スマートフォン30の背面にあるカメラをパンチルトアクチュエータ20に向けてビジュアルマーカ23を撮影する(S12)。このときのユーザおよびスマートフォン30の位置および姿勢は任意である。例えば、ユーザは、ベッドの上に仰向けに寝てスマートフォン30を持って、天井に設置されたパンチルトアクチュエータ20に背面のカメラを向けてビジュアルマーカ23を撮影することができる。
【0021】
ビジュアルマーカ23が撮影されると、スマートフォン30のアプリは、ビジュアルマーカ23の撮像画像を解析して、カメラがパンチルトアクチュエータ20に向いている第1の状態における世界座標系Σ
0から見たスマートフォン30の位置および姿勢を表す同次変換行列
0T
Siniを求める(S13)。
【数1】
【0022】
世界座標系Σ0とは、パンチルトアクチュエータ20が設置されている天井などの実世界に固定された座標系のことである。パンチルトアクチュエータ20の設置の向きによらず、座標系Σ0のZ軸(Z0)は鉛直上向とし、X軸(X0)およびY軸(Y0)は、Z0に直交する水平面上の直交二軸とする。回転行列0RSiniは、世界座標系Σ0から、カメラがパンチルトアクチュエータ20に向いているときのスマートフォン30の座標系ΣSiniへの座標変換行列である。座標系ΣSiniにおいて、Z軸(ZSini)およびX軸(XSini)は、カメラがパンチルトアクチュエータ20に向いているときのスマートフォン30の長手方向上向きおよび短手方向右向きとし、Y軸(YSini)は、その状態におけるカメラの延長線方向とする。並進ベクトル0pSiniは、世界座標系Σ0におけるスマートフォン30の位置である。0TSiniにおける回転行列0RSiniおよび並進ベクトル0pSiniは、モーションセンサを使うことなく、ビジュアルマーカ23の撮像画像からビジュアルマーカ23とスマートフォン30との相対的位置関係を計算することにより求めることができる。
【0023】
次に、スマートフォン30のアプリは、ユーザに目標物40を「撮影」するよう求める。ここでいう撮影とは深度カメラによる測距のことである。それに従い、ユーザは、スマートフォン30のカメラを目標物40に向けて目標物40を撮影する。この過程で、スマートフォン30のアプリは、モーションセンサの信号から、スマートフォン30が、カメラがパンチルトアクチュエータ20に向いている第1の状態から目標物40に向いている第2の状態への変化に係る同次変換行列
SiniT
Sを求める(S14)。
【数2】
【0024】
回転行列SiniRSは、スマートフォン30のカメラがパンチルトアクチュエータ20に向いているときのスマートフォン30の座標系ΣSiniから、カメラが目標物40に向いているときのスマートフォン30の座標系ΣSへの座標変換行列であり、これはモーションセンサの信号から求めることができる。一方、姿勢変化に伴うスマートフォン30の並行移動はモーションセンサで計測することが困難であり、また、目標物40を撮影する際にスマートフォン30の位置はほとんど変わらないことを考慮して、SiniTSにおいて並進ベクトルはゼロとみなす。
【0025】
目標物40までの距離計測は、具体的には、ユーザがスマートフォン30の画面に表示される画像を見ながら、目標物40が測距ポイントに入ったところでシャッターを押すことにより行われる。目標物40までの距離が計測されると、スマートフォン30のアプリは、目標物40上の測距ポイントの空間座標Srを求める(S15)。例えば、目標物40の「撮影」により得られた目標物40までの距離をlsとする。ここで、目標物40に固定された座標系Σpointは目標物40を「撮影」するときのスマートフォン30の座標系ΣSと同じとみなすと、Sr=(0,ls,0)Tで表される。
【0026】
Srは世界座標系Σ0を使って0r=0TSini
SiniTS
Srと表される。スマートフォン30のアプリは、逆運動学(θP,θT,lb)T=IK(0r)から、パンチルトアクチュエータ20のパン角θPおよびチルト角θTを計算して求める(S16)。パンチルトアクチュエータ20のパン角θPおよびチルト角θTが計算されると、スマートフォン30のアプリは、その値を制御信号としてパンチルトアクチュエータ20に回転指示を送信する(S17)。一方、パンチルトアクチュエータ20は、スマートフォン30からの制御指示待ち状態にあり(S21でNO)、スマートフォン30から回転指示を受けると(S21でYES)、その指示されたパン角θPおよびチルト角θTになるように自身のパン角およびチルト角を制御し(S22)、レーザポインタ10が目標物40の方に向けられ、レーザポインタ10からレーザビーム11が目標物40に向けて照射される(S23)。
【0027】
以上のように、粗調整モードでは、スマートフォン30でパンチルトアクチュエータ20の非可動部位に付されたビジュアルマーカ23および目標物40を順に撮影することで、パンチルトアクチュエータ20を動作させてレーザビーム11のレーザスポット12を目標物40に誘導することができる。
【0028】
≪微調整モード≫
上記の粗調整モードにおいて、スマートフォン30のカメラを目標物40に向ける際のスマートフォン30の並進ベクトルをゼロとみなしたことで、粗調整直後のレーザスポット12が所望位置からずれることがある。そのようなずれは微調整モードで補正することができる。
【0029】
微調整モードの説明の前に、パンチルトアクチュエータ20の順運動学について説明する。
図4は、パンチルトアクチュエータ20の順運動学を説明する図である。θ
Pはパン角、θ
Tはチルト角、l
bはレーザビーム11のビーム長、δ
Zはレーザポインタ10のロータ座標系Z軸方向のオフセットである。
図4は、パンチルトアクチュエータ20が台上に置かれている例であるが、天井に設置されていても同じように考えることができる。δ
Zは十分小さいため無視すると、パンチルトアクチュエータ20の順運動学は式(1)のように計算される。式(1)の
0rは世界座標系Σ
0におけるレーザビーム11のレーザスポット12の空間座標である。
【数3】
【0030】
微調整モードにおいては、レーザスポット12の位置を原点とし、Y軸(Ypoint)はレーザビーム11の進行方向、X軸(Xpoint)は水平方向、Z軸(Zpoint)はXpointとYpointの外積方向であるポインティング座標系Σpointを導入する。この座標系原点近傍でのスポット微小運動操作に対して、レーザビーム11を受動並進リンクとして捉えた多リンクマニピュレータの可操作性の観点で最適化を試みる。ここで最適性の指標は次の通りである。
(1)任意のqで可操作性が同一
(2)任意のqで可操作性楕円体が球体
ただし、q=(lb,θT,θP)Tである。
【0031】
式(1)を微分することで
0r、q微小部分の線形関係が式(2)で得られ、これがパンチルトアクチュエータ20の運動を決定する。
【数4】
ここで、J(q)は式(3)のヤコビ行列である。
【数5】
式(3)を特異値分解すると式(4)を得る。
【数6】
ここで、
【数7】
であり、
0R
pointはΣ
0から見たΣ
pointの回転行列である。
【0032】
0rを座標系Σpointで表すと次式のように展開できる。
pointr=pointT0
0r=pointR0
0r+pointp0 (5)
【0033】
式(5)を微分することでpointr、q微小部分の線形関係が式(6)で得られ、これがパンチルトアクチュエータ20の運動を決定する。
pointdr=pointR0
0dr=pointR0J(q)dq=pointR0UΣVTdq (6)
【0034】
ここで、レーザスポット12のXpointの微小移動の指示量をdx、Zpointの微小移動の指示量をdzとして新たな操作入力(dx,0,dz)Tを導入すると、式(6)から式(7)が得られる。
dq=J-1(q)0Rpoint(dx,0,dz)T (7)
【0035】
式(7)において0Rpoint=0RSini
SiniRS
SRpointと展開でき、座標系ΣSとΣpointは同じであるからSRpointは単位行列である。よって、式(7)は式(8)に変形される。
dq=J-1(q)0RSini
SiniRS(dx,0,dz)T (8)
【0036】
式(8)を式(5)に入力すると、(pointdx,pointdz)T=(dx,dz)Tを得る。すなわち、レーザスポット12の微小移動の指示量(dx,dz)Tに対して、レーザスポット12が(pointdx,pointdz)Tだけ移動することがわかる。
【0037】
式(6)において、pointR0とUはいずれも直交行列なので、pointR0Uもまた直交行列である。したがって、式(6)中のpointR0UΣVTは特異値分解表現となっているため、前置行列としてΣ-1を使うことで、可操作性楕円体は球ではなく円となる。
【0038】
図5は、微調整モードにおけるパンチルトアクチュエータ20の制御フロー図である。ユーザは任意のタイミングで実世界ポインティングシステム100を粗調整モードから微調整モードに切り替えることができる。また、ユーザは任意のタイミングで実世界ポインティングシステム100を微調整モードから粗調整モードに切り替えることができる。
【0039】
微調整モードに遷移すると、スマートフォン30のアプリは、まず、微調整モードに遷移した時点の目標物40までの距離およびパンチルトアクチュエータ20の動作角度を取得する(S31)。目標物40までの距離は具体的にはレーザビーム長lbであり、レーザポインタ10の測距情報から取得することができる。パンチルトアクチュエータ20の動作角度には少なくともチルト角θTが含まれていればよく、微調整後のレーザスポット12の空間位置を特定するためにさらにパン角θPが含まれていてもよい。
【0040】
スマートフォン30のアプリは、タッチスクリーンに微調整モードUIを表示し、ユーザからレーザスポット12の微小移動の指示を受け付ける(S32)。ユーザは、UIを通じてレーザスポット12を数mm~数cmの単位で微小移動、すなわちインチング操作することができる。例えば、微調整モードUIは上下左右の各方向を表す4つのボタンで構成することができる。そのようなUIでは、ユーザは、レーザスポット12を所望の方向に所望のインチング量だけ移動させたい場合、その方向のボタンを所望回数クリックすればよい。あるいは、微調整モードUIをレチクル(照準)にすると、ユーザはボタンを複数回クリックすることなしに、1回のクリックでレーザポインタ12をレチクル内の任意の位置に複数回のインチング操作と同等の指示を出すことができる。
【0041】
スマートフォン30のアプリは、微調整モードUIを通じてユーザからレーザスポット12の微小移動指示を受けると(S33でYES)、指示された微小移動量を、パンチルトアクチュエータ20のパン方向およびチルト方向の回転角に換算する(S34)。具体的には、スマートフォン30のアプリは、指示された微小移動量(dx,dz)Tに対して、式(8)に従って、レーザビーム11のレーザビーム長lbおよびパンチルトアクチュエータ20のパン角θPおよびチルト角θTで表されるヤコビ逆行列J-1(q)、および同次変換行列0TSiniおよびSiniTSに含まれる回転行列0RSiniおよびSiniRSを掛けてパン角およびチルト角のオフセット量dθPおよびdθTを計算する。
【0042】
パンチルトアクチュエータ20のパン角およびチルト角のオフセット量dθPおよびdθTが計算されると、スマートフォン30のアプリは、その値を制御信号としてパンチルトアクチュエータ20に回転指示を送信し(S35)、その後再びレーザスポット12の微小移動の指示待ちに戻る。一方、パンチルトアクチュエータ20は、スマートフォン30からの制御指示待ち状態にあり(S41でNO)、スマートフォン30から回転指示を受けると(S41でYES)、その指示されたオフセット量dθPおよびdθTに従って自身のパン角およびチルト角を制御し(S42)、その後再びスマートフォン30からの制御指示待ち状態に戻る。
【0043】
このように、微調整モードにおいて、ヤコビ行列の特異値の逆数および回転行列0RSiniおよびSiniRSを用いてパンチルトアクチュエータ20のパン角およびチルト角のオフセット量が計算され、そのオフセット量でパンチルトアクチュエータ20が制御される。これにより、パンチルトアクチュエータ20と目標物40の遠近にかかわらず3次元空間にある目標物40へのポインティングを同じインチング量、すなわち同じ操作感で微調整することができる。なお、微調整後のレーザスポット12の空間位置は、上記ステップS31で取得したレーザビーム長lbおよびパンチルトアクチュエータ20のパン角θPおよびチルト角θTにオフセット量dθPおよびdθTを加算した新たなパン角θPおよびチルト角θTを式(1)に代入して特定することができる。
【0044】
≪変形例≫
スマートフォン30に代えてタブレット端末などをパンチルトアクチュエータ20のコントローラとして使用してもよい。
【0045】
レーザポインタ10がレーザビーム11を照射する機能および目標物40までの距離を計測する機能の双方を有している必要はない。例えば、レーザポインタ10はレーザビーム11を照射する機能だけを有し、目標物40までの距離を計測する機能を有する別のデバイス(例えばTOFカメラ)を設けるようにしてもよい。
【0046】
図5に例示した微調整モードにおいてパン角およびチルト角のオフセット量でパンチルトアクチュエータ20の動作を制御しているが、スマートフォン30においてオフセット量を反映させたパン角およびチルト角の絶対量を計算してその値でパンチルトアクチュエータ20の動作を制御するようにしてもよい。
【0047】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る実世界ポインティングシステムは、設置および操作し易いため、例えば、要介護者がベッドの上でスマートフォンを操作して部屋内の日用品をポインティングし、それを支援ロボットに取りに行かせるといった介護分野でのロボット操作に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
100 実世界ポインティングシステム
10 レーザポインタ
11 レーザビーム
12 レーザスポット
20 パンチルトアクチュエータ
23 ビジュアルマーカ
30 スマートフォン(コントローラ)
40 目標物