(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005656
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】対象構造物の異常診断システム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/08 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105916
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宗次 竜司
(57)【要約】
【課題】対象構造物の異常診断を精度良く安定して行うことができる対象構造物の異常診断システムを提供する。
【解決手段】対象構造物200の構造をモデル化した形状モデルに対して固有値解析を行い、固有値解析の結果に基づいて縮退化モデルを構築するとともに、縮退化モデルおよび加速度計測値11に基づいて、対象構造物200の一部である少なくとも1つの評価対象点における加速度推定値および応力推定値、並びに、対象構造物200の振動パラメータである固有振動数の推定値および減衰比の推定値をそれぞれ推定する推定部420と、加速度推定値、応力推定値、固有振動数の推定値、および減衰比の推定値に基づいて、機械学習により、対象構造物200の正常または異常状態を判定する異常判定部430を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象構造物に設置される加速度センサにより計測された加速度計測値を取得し、
前記対象構造物の構造をモデル化した形状モデルに対して固有値解析を行い、前記固有値解析の結果に基づいて縮退化モデルを構築するとともに、
前記縮退化モデルおよび前記加速度計測値に基づいて、前記対象構造物の一部である少なくとも1つの評価対象点における加速度推定値および応力推定値、並びに、前記対象構造物の振動パラメータである固有振動数の推定値および減衰比の推定値をそれぞれ推定する制御部と、
前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値に基づいて、機械学習により、前記対象構造物の正常または異常状態を判定する異常判定部とを備えた、対象構造物の異常診断システム。
【請求項2】
前記形状モデルは、前記対象構造物を有限要素法によって再現した有限要素モデルであって、
前記制御部は、前記有限要素モデルに対して固有値解析を実施して少なくとも前記対象構造物の振動パラメータである、固有振動数の抽出および減衰比の設定を行い、
少なくとも加速度の要素と、応力の要素と、固有振動数の要素と、減衰比の要素を含む前記縮退化モデルを構築するとともに、
前記縮退化モデルおよび前記加速度計測値に基づいて、前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を推定する請求項1に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項3】
前記縮退化モデルは、少なくとも加速度の要素と、応力の要素と、固有振動数の要素と、減衰比の要素とを含む、状態方程式および観測方程式から構成される状態空間表現により表されたものである請求項1または請求項2に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項4】
前記制御部は、解析プログラムを実行することにより、前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を算出し、
前記解析プログラムは、前記状態方程式および前記観測方程式から構成される前記状態空間表現と、カルマンフィルタとの組み合わせに基づいて、事前に作成されているプログラムである請求項3に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記解析プログラムを作成する解析プログラム作成部を備え、
前記解析プログラム作成部は、
前記対象構造物における前記加速度センサの位置情報であるセンサ位置情報と、前記対象構造物における前記評価対象点の位置情報である評価対象点位置情報とを取得し、
前記センサ位置情報と前記評価対象点位置情報とに基づいて、前記解析プログラムを作成する、請求項4に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項6】
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を含む学習用データを取得する第1-1データ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを生成する第1-1モデル生成部と、
を有する第1学習装置を備えた請求項1または請求項2に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項7】
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を取得する第1-2データ取得部と、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを用いて、前記第1-2データ取得部で取得した前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から前記対象構造物の正常および異常状態を出力する第1-2推論部と、
を有する第1推論装置を備えた請求項6に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項8】
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値と、前記対象構造物の正常および異常状態を含む学習用データを取得する第2-1データ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを生成する第2-1モデル生成部と、
を有する第2学習装置を備えた請求項1または請求項2に記載の対象構造物の異常診断システム。
【請求項9】
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を取得する第2-2データ取得部と、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを用いて、前記第2-2データ取得部で取得した前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を出力する第1-2推論部と、
を有する第2推論装置を備えた請求項8に記載の対象構造物の異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、対象構造物の異常診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象構造物の診断システムとして、例えば、下記の特許文献1に示す車両の疲労損傷度診断システムがあった。この車両の疲労損傷度診断システムは、センサ及び車両ECUを備えており、センサは対象構造物に取り付けられている。対象構造物は、車両に取り付けられている機器または部材である。車両ECUは、センサから取得した検出値に基づいて、対象構造物の疲労損傷度を算出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電車搭載機器のような振動負荷を継続的に受ける対象構造物は、対象構造物のボルトの緩みが発生したり、クラックなどの異常が発生する可能性がある。これらに対処する方法として、対象構造物に加速度センサを取り付け、加速度センサから得られる電気信号から加速度波形を算出して、機械学習などの統計的な分類を行うことで評価する方法が考えられる。しかしながら、この手法の問題点として、加速度は電車の走行期間または乗車状況などによる負荷のばらつきの影響を受けて、正常な場合でも異常を示す閾値を超える加速度が生じる場合があるため、正常状態と異常状態を正確に切り分けることが難しいという課題がある。
【0005】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、対象構造物の異常診断を精度良く安定して行うことができる対象構造物の異常診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される対象構造物の異常診断システムは、
対象構造物に設置される加速度センサにより計測された加速度計測値を取得し、
前記対象構造物の構造をモデル化した形状モデルに対して固有値解析を行い、前記固有値解析の結果に基づいて縮退化モデルを構築するとともに、
前記縮退化モデルおよび前記加速度計測値に基づいて、前記対象構造物の一部である少なくとも1つの評価対象点における加速度推定値および応力推定値、並びに、前記対象構造物の振動パラメータである固有振動数の推定値および減衰比の推定値をそれぞれ推定する制御部と、
前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値に基づいて、機械学習により、前記対象構造物の正常または異常状態を判定する異常判定部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本願に開示される対象構造物の異常診断システムによれば、対象構造物の異常診断を精度良く安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態による対象構造物の異常診断システムを示すブロック図である。
【
図2】
図1の異常診断装置による解析プログラムの作成処理を示すフローチャートである。
【
図3】連続系の縮退化モデルを離散化する方法を説明する図である。
【
図4】
図1の加速度センサによる加速度計測処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図1の異常診断装置による応力推定値算出処理を示すフローチャートである。
【
図6】異常判定部における学習装置の第一例を示すブロック構成図である。
【
図7】
図6の学習装置の学習処理を示すフローチャートである。
【
図8】異常判定部における推論装置の第一例を示すブロック構成図である。
【
図9】
図8の推論装置による処理を示すフローチャートである。
【
図10】異常判定部における学習装置の第二例を示すブロック構成図である。
【
図11】
図10の学習装置の学習処理を示すフローチャートである。
【
図12】異常判定部における推論装置の第二例を示すブロック構成図である。
【
図13】
図12の推論装置による処理を示すフローチャートである。
【
図14】異常判定部におけるニューラルネットワークの一例を示す図である。
【
図15】実施の形態の異常診断装置の各機能を実現する処理回路の第1例を示す構成図である。
【
図16】実施の形態の異常診断装置の各機能を実現する処理回路の第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願は、振動を継続的に受ける対象構造物の異常診断システムに関するものである。
【0010】
以下に述べる実施の形態では、電車搭載機器のような振動負荷を受ける対象構造物の異常診断を例に挙げて説明する。しかしながら、電車搭載機器以外の振動負荷を受ける対象構造物の異常診断についても同様に適用することができる。
【0011】
実施の形態の説明.
図1は、実施の形態による対象構造物の異常診断システムを示すブロック図である。
【0012】
図1において、対象構造物の異常診断システム1000は、例えば、車両本体100に設けられている対象構造物200に対して異常診断を行うシステムである。ここで、車両本体100は、例えば鉄道車両の本体部である。対象構造物200は、例えばインバータ装置等である。対象構造物200は、例えば車両本体100の下部に設けられている。
【0013】
対象構造物の異常診断システム1000は、加速度センサ300及び異常診断装置400を備えている。
加速度センサ300は、例えば対象構造物200の下面端部に取り付けられている。加速度センサ300は、センサ本体310と増幅アンプ320とを備えている。
センサ本体310は、取り付けられている位置における振動を検出し、検出した振動を電気信号に変換する。
増幅アンプ320は、センサ本体310によって変換された電気信号を増幅し、増幅後の信号を加速度に変換する。
図1では、加速度センサ300は、対象構造物200の1カ所に設置されている例を示したが、対象構造物200の複数箇所に設置されていてもよい。
なお、本開示では、加速度センサ300の設置個数が少なくても、異常診断の精度を上げることができる。
【0014】
加速度センサ300は、一定時間ごとに加速度センサ300が取り付けられている箇所の加速度値を計測する。加速度センサ300は、加速度値を計測する検出サイクルごとに、データを異常診断装置400へ送信する。ここで送信されるデータを加速度計測値11とする。加速度センサ300は、図示しない通信手段を介して、加速度計測値11を逐次的に送信する。あるいは、加速度センサ300は、図示しない記憶装置に一定期間分の加速度計測値11を蓄積しておき、蓄積したデータセットを、異常診断装置400に送信してもよい。
【0015】
異常診断装置400は、制御部460、異常判定部430、出力部440を備えている。そして、制御部460は、加速度取得部410、推定部420、解析プログラム13、解析プログラム作成部450を有している。
加速度取得部410は、加速度センサ300によって計測された加速度計測値11を取得する。
推定部420は、対象構造物200の一部である少なくとも1つの評価対象点における応力推定値および加速度推定値を推定する。また、推定部420は、対象構造物200の振動パラメータとしての固有振動数および減衰比を推定する。推定部420は、加速度取得部410から加速度計測値11を取得する。推定部420は、事前に作成されている解析プログラム13を取得する。そして推定部420は、加速度計測値11を解析プログラム13に組み入れて、解析プログラム13を実行する。この解析プログラム13の実行により、評価対象点における応力推定値および加速度推定値を推定するとともに、対象構造物200の振動パラメータとしての固有振動数および減衰比を推定する。
【0016】
実施の形態において、
図1に示す評価対象点P1、P2及びP3が、応力推定値および加速度推定値を求める位置とする。ここで、評価対象点P1及びP2は、例えば、車両本体100と対象構造物200との結合部分に位置している。評価対象点P3は、例えば、対象構造物200の上面中央に位置している。なお、
図1では、評価対象点をP1、P2、P3の3点としたが、対象構造物200の評価したい対象点として任意の箇所を1箇所または複数箇所選択することができる。
【0017】
異常判定部430は、推定部420により推定された応力推定値および加速度推定値、並びに、推定部420により推定された固有振動数の推定値および減衰比の推定値に基づいて、対象構造物200の異常を判定する。対象構造物200の判定結果は、出力部440に出力される。
異常判定部430による対象構造物200の異常の判定は、応力推定値および加速度推定値、並びに、振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値の、複数の変数に基づき実施される。すなわち、複数の変数の組み合わせもしくは変数の主成分解析からサポートベクターマシンのような機械学習、あるいは、ディープラーニングなどのAI(Artificial Intelligence)により異常を診断する。多変数化、主成分による特徴分離により、外乱の影響を受けにくくなり異常診断精度を向上できる。
なお、異常判定部430による異常の判定については、後ほど詳細に説明する。
【0018】
出力部440は、表示装置、警報装置等から構成される。出力部440は、異常判定部430の判定結果を表示装置に表示したり、異常が判定された場合は警報装置から警報を出力したりする。なお、出力部440は、異常診断装置400の外部に設けられていてもよい。
【0019】
解析プログラム作成部450は、解析プログラム13を作成する。解析プログラム作成部450は、作業者によって設定されたセンサ位置情報、評価対象点位置情報、及び必要なその他のパラメータを取得する。解析プログラム作成部450は、設定された各種データに基づいて、解析プログラム13を作成する。ここで、センサ位置情報は、対象構造物200における加速度センサ300の位置情報である。評価対象点位置情報は、対象構造物200における評価対象点P1~P3の位置情報である。
【0020】
図2は、
図1の異常診断装置400による解析プログラム13の作成処理を示すフローチャートである。
【0021】
異常診断装置400の解析プログラム作成部450は、ステップS101において、対象構造物200を再現する有限要素モデルを構築する。
ここで、作業者は、使用する要素の種別(ソリッド要素、シェル要素、ビーム要素等)、モデルの次元の種別(3次元モデル、2次元モデル等)を指定する。
また、作業者は、対象構造物200の材料特性も入力する。材料特性としては、縦弾性係数、ポアソン比、密度が含まれる。なお、使用する材料特性は、等方性及び異方性のいずれであってもよい。
解析プログラム作成部450は、指定された要素の種別、指定された次元の種別、および材料特性を取得して、CAD(Computer Aided Design)ツールを使用して有限要素モデルを構築する。
【0022】
次に、解析プログラム作成部450は、ステップS102において、構築した有限要素モデルに対して固有値解析を実施する。このとき、解析プログラム作成部450は、作業者により、対象構造物200の設置状態を再現する境界条件を取得する。境界条件は、言い換えると対象構造物200の固定条件を意味し、例えば対象構造物200の固定位置における変位をゼロとした条件である。
【0023】
解析プログラム作成部450は、固有値解析を実施することにより、固有振動数、モードベクトル及びモード応力を抽出する。
固有振動数は、共振周波数をあらわす数値データである。物体に対してある周期、例えば0.1秒ごとにくり返し力が加わると、物体は、共振を起こして大きく振動する。そのときの周期の逆数が、固有振動数である。
モードベクトルは、固有振動数で共振するときの物体の動きの分布である。共振により大きく振動する部分のモードベクトルは、大きくなる。
モード応力は、固有振動数で共振するときに物体に生じる応力の分布である。部材の振動を支えている部分のモード応力は、高くなる。
【0024】
解析プログラム作成部450は、ステップS103において、前記のように準備した有限要素モデルを対象として、抽出された固有振動数、モードベクトル及びモード応力に基づいて、連続系の縮退化モデルを作成する。
【0025】
解析プログラム作成部450は、縮退化モデルの構築の際、1次、2次、・・・、n次の各固有振動モードにおけるデータを取得する。この固有振動モードのデータには、ステップS102において抽出された固有振動数、モードベクトル、及びモード応力の情報が含まれる。
【0026】
すなわち、解析プログラム作成部450は、縮退化モデルの構築の際、固有振動モード(1次、2次、・・・、n次)、固有振動モード毎の減衰比(モード減衰比)、荷重入力点、加速度センサの数、加速度センサ位置情報、評価対象点の数、及び評価対象点位置情報を、作業者から取得する。ここで、荷重入力点は、荷重の加わる点である。具体的には、荷重入力点は、車両本体100と対象構造物200との結合部分であり、
図1における評価対象点P1、P2である。
また、減衰比は、ここでは、モード減衰比(1次モード、2次モード、・・・、n次モード毎に設定)を意味する。
【0027】
解析プログラム作成部450は、これらのデータに基づいて、連続系の縮退化モデルを作成する。以下の数式(1)は、連続系の縮退化モデルを状態空間表現により表したものである。
ここで、有限要素法により振動を再現する方法として、モード重ね合わせ法がある。そこでは、現実で起きている振動状態は、複数の固有振動数におけるモードベクトルが重なった状態として、そのモード毎の振動の割合を足し合わせたものを状態変数z={x}として表す。xはモーダル座標変位と呼ばれる。例えば、ある構造物を15Hzで加振した場合に、現実世界で起きる振動は、1次モードの状態変数x1=0.3、2次モードの状態変数x2=0.2、3次モードの状態変数x3=0.01、・・・のモードベクトルを全部足した変形状態(x=x1+x2+x3+・・・)であると表される。なお、前記の0.3、0.2、0.01は、固有値解析から得られたモードベクトルの大きさに対する係数である。
【0028】
【0029】
数式(1)の状態空間表現は、上段に示す状態方程式と、下段に示す観測方程式とによって構成されている。また、行列A~Dは、このステップS103の処理によって求められる行列である。
【0030】
行列Aの決定因子は、固有振動数及びモード減衰比である。行列Bの決定因子は、荷重入力点のモード変位である。行列Cの決定因子は、固有振動数、モード減衰比、応答点のモード変位、及び応答点のモード応力である。行列Dの決定因子は、荷重入力点のモード変位、及び応答点のモード変位である。
【0031】
数式(1)において、現実世界における変位の状態量及び応力の状態量は、{W,σ}によって示されている。すなわち、加速度センサ300によって取得される加速度は、変位Wを二階微分したW(ツードット)として、観測方程式の左辺に示されている。また、求める応力の推定値は、σとして、観測方程式の左辺に示されている。
【0032】
数式(1)において、評価対象点の数が増えるごとに、行列C及び行列Dの行数が増加する。また、加速度センサ300が増えるごとに、行列C及び行列Dの行数が増加する。
【0033】
図2のフローチャートの説明に戻る。解析プログラム作成部450は、ステップS104において、作成した連続系縮退化モデルを離散化する。加速度計測値11は、加速度センサ300の検出サイクルごとに離散しているデータである。このため、解析プログラム作成部450は、連続系の縮退化モデルに対し、時間についての離散化を行う。
【0034】
連続系の縮退化モデルは、数式(1)に示すとおり、状態方程式と観測方程式との2つの式により構成されている。これら2つの式において、連続系の式となっているのは状態方程式のみである。このため、解析プログラム作成部450は、状態方程式を対象に離散化を行う。
【0035】
以下の数式(2)は、離散化系の縮退化モデルを状態空間表現により表したものである。
【0036】
【0037】
図3は、連続系の縮退化モデルを離散化する方法を説明する図である。離散化するには、上記の数式(2)の行列A
2及び行列B
2を求める必要がある。ここでは、例えば4次のルンゲクッタ法を用いて、行列A
2及び行列B
2を求める。
【0038】
図3における数式F1は、4次のルンゲクッタ法の離散化式である。この数式F1において、荷重uは不変であると仮定すると、
図3の数式F2に示す離散系マトリクスが算出される。
なお、ここでは、ルンゲクッタ法による離散化式が用いて説明しているが、オイラー法、ホイン法など他の離散化式を用いてもよい。
【0039】
数式F2において、AdTをk1a、BdTをk1b、・・・などの置き換えを行うことにより、行列A2及び行列B2は、数式F3のとおりとなる。ここで、数式F3内のIは、単位行列を示している。
【0040】
図2のフローチャートの説明に戻る。解析プログラム作成部450は、ステップS105において、解析プログラム13を作成する。解析プログラム13は、離散化後の縮退化モデル、すなわち離散化後の状態空間表現と、カルマンフィルタとを組み合わせたプログラムである。
なお、使用するカルマンフィルタとしては、拡張カルマンフィルタまたは無香料カルマンフィルタといった非線形カルマンフィルタを使用する。
【0041】
このようにして作成された解析プログラム13は、後述する推定値算出処理の際、推定部420により呼び出される。
【0042】
図4は、
図1の加速度センサ300による加速度計測処理を示すフローチャートである。
【0043】
加速度センサ300は、ステップS201において、加速度の計測を開始する。加速度センサ300は、例えば、作業者の開始操作を受け付けた場合、規定の時刻になった場合、加速度の計測を開始する。
【0044】
加速度センサ300のセンサ本体310は、ステップS202において、取り付けられている位置に生じる振動を、電気信号に変換する。
【0045】
増幅アンプ320は、ステップS203において、センサ本体310からの信号を増幅して電圧信号に変換する。増幅アンプ320は、係数演算により、増幅後の電圧信号を加速度に変換する。
【0046】
加速度センサ300は、ステップS204において、計測された加速度を、加速度計測値11として異常診断装置400に送信する。この加速度計測値11は、異常診断装置400の加速度取得部410によって取得される。
【0047】
加速度センサ300は、ステップS205において、加速度の計測を終了するかどうかを判定する。加速度センサ300は、例えば、作業者の終了操作を受け付ける場合、規定の時刻になる場合、加速度の計測を終了する。加速度センサ300は、加速度の計測を終了しない場合、処理をステップS202に戻す。
【0048】
図5は、
図1の異常診断装置400による推定値の算出処理を示すフローチャートである。ここでは、対象構造物200への荷重制御は考慮しないものとする。すなわち、
図5のフローチャートにおいては、数式(2)に示されている行列Dについては使用しない。なお、対象構造物200にかかる荷重が既知である場合、行列Dも使用される。
【0049】
異常診断装置400の推定部420は、加速度計測値11及び解析プログラム13を呼び出して、推定値算出処理を行う。
【0050】
推定部420は、ステップS301において、状態推定値X及び誤差共分散行列Pに対して初期値を設定する。状態推定値Xは、ここでは上記の状態変数zを意味する。
【0051】
初期状態においては振動していないため、状態推定値Xは0となる。また、誤差共分散行列Pには、ここでは初期値Iとして、単位行列が設定される。
【0052】
また、上記の初期値に加え、システム雑音Q及び観測雑音Rの定数パラメータも設定される。システム雑音Q及び観測雑音Rは、作業者がノイズレベルに応じて適切に決定した値である。
【0053】
推定部420は、ステップS302において、状態推定値X及び行列A2を用いて、事前状態推定値X-を算出する。ここで、事前状態推定値X-は、時刻t-1までに利用可能なデータに基づいた、時刻tにおける状態変数zの推定値である。
【0054】
推定部420は、ステップS303において、誤差共分散行列P、行列A2、行列B2、システム雑音Q、行列A2’及び行列B2’を用いて、事前誤差共分散行列P-を算出する。ここで、行列A2’は行列A2を転置させた行列であり、行列B2’は行列B2を転置させた行列である。
【0055】
推定部420は、ステップS304において、事前誤差共分散行列P-、行列C、行列C’及び観測雑音Rを用いて、カルマンゲイン行列Gを算出する。ここで、行列C’は、行列Cを転置させた行列である。
【0056】
推定部420は、ステップS305において、カルマンゲイン行列G、事前状態推定値X-、行列C’及び時刻tにおける加速度計測値11を用いて状態推定値Xを算出する。推定部420は、これまで使用してきた状態推定値Xを、算出したものに更新する。
【0057】
推定部420は、ステップS306において、更新後の状態推定値Xおよび数式(2)に基づいて、固有振動数およびモード減衰比を推定するとともに、評価対象点における加速度推定値W(ツードット)および応力推定値σを算出する。推定部420は、状態推定値Xを状態変数z(t+Δt)として、数式(2)に示す状態方程式の左辺に代入する。荷重u(t)を考慮しないか、もしくは一定とすると、推定部420は、数式(2)の状態方程式から、1サイクル前の状態変数z(t)を求めることができる。
【0058】
すなわち、推定部420は、更新後の状態推定値Xに基づいて、固有振動数およびモード減衰比を推定し(固有振動数の推定値およびモード減衰比の推定値を求め)、さらに、更新後の状態推定値Xおよび数式(2)に基づいて、評価対象点P1~P3における加速度推定値W(ツードット)および応力推定値σを求める。
【0059】
また、推定部420は、求められた加速度推定値W(ツードット)、応力推定値σ、固有値の推定値、およびモード減衰比の推定値を、これまでに保存していたデータに対して、追加書き込みを行う。このようにして加速度推定値、応力推定値、固有振動数の推定値、およびモード減衰比の推定値が生成される。
【0060】
推定部420は、ステップS307において、誤差共分散行列の初期値I、カルマンゲイン行列G、行列C’、及び事前誤差共分散行列P-を用いて、誤差共分散行列Pを算出する。推定部420は、これまで使用してきた誤差共分散行列Pを、算出したものに更新する。
【0061】
推定部420は、ステップS308において、規定の時間内に新たに加速度計測値11を取得するかどうかを判定する。推定部420は、規定の時間内に加速度計測値11を取得した場合、処理をステップS302まで戻す。そして、推定部420は、新たに取得した加速度計測値11に対して、ステップS302以降の処理を行う。推定部420は、規定の時間内に加速度計測値11を取得しない場合、処理を終了する。
【0062】
次に、異常判定部430による対象構造物200の異常判定について説明する。
【0063】
[教師なし学習]
まず、対象構造物200の異常判定を実現するための教師なし学習について説明する。
ここでは、入力A1として、評価対象点P1、P2、P3のそれぞれの、応力推定値の履歴値および加速度推定値の履歴値、並びに、対象構造物200の振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値を入力する。そして、入力A1に基づいて作成される学習データに従って、いわゆる教師なし学習により、推論用データである入力A1に対する、対象構造物200の正常および異常状態(例えば、異常の無い正常状態、ボルトの緩みがある異常状態、クラックのある異常状態、破断のある異常状態)を表すC出力を出力する。
【0064】
<学習フェーズ>
図6は異常判定部430における第1学習装置500Aを示すブロック構成図である。第1学習装置500Aは、第1-1データ取得部510A、第1-1モデル生成部520A、および第1学習済モデル記憶部530Aを備える。
【0065】
第1-1データ取得部510Aは、入力A1を学習用データとして取得する。
ここで、入力A1は、評価対象点P1、P2、P3におけるそれぞれの応力推定値の履歴値および加速度推定値の履歴値、並びに、対象構造物200の振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値である。
ここで、応力推定値の履歴値とは、予め設定された期間における応力推定値の履歴の値である。また、加速度推定値の履歴値とは、予め設定された期間における応力推定値の履歴の値である。
【0066】
第1-1モデル生成部520Aは、第1-1データ取得部510Aから出力される入力A1に基づいて作成される学習用データに基づいて、C出力(対象構造物200の正常または異常状態)を学習する。すなわち、対象構造物200の入力A1からC出力を推論する学習済モデルを生成する。ここで、学習用データは、入力A1を互いに関連付けたデータである。
【0067】
第1-1モデル生成部520Aが用いる学習アルゴリズムは公知のアルゴリズムを用いることができる。ここでは、教師なし学習であるK平均法(クラスタリング)を適用した場合について説明する。教師なし学習とは、結果(ラベル)を含まない学習用データを学習装置に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習する手法をいう。
【0068】
第1-1モデル生成部520Aは、例えば、K平均法によるグループ分け手法に従って、いわゆる教師なし学習により、C出力を学習する。
【0069】
K平均法とは、非階層型クラスタリングのアルゴリズムであり、クラスタの平均を用い、与えられたクラスタ数をk個に分類する手法である。
【0070】
具体的に、K平均法は以下のような流れで処理される。まず、各データxiに対してランダムにクラスタを割り振る。次いで、割り振ったデータをもとに各クラスタの中心Vjを計算する。次いで、各xiと各Vjとの距離を求め、xiを最も近い中心のクラスタに割り当て直す。そして、上記の処理で全てのxiのクラスタの割り当てが変化しなかった場合、あるいは変化量が事前に設定した一定の閾値を下回った場合に、収束したと判断して処理を終了する。
【0071】
本実施の形態においては、第1-1データ取得部510Aによって取得される入力A1の組み合わせに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、C出力を学習する。
【0072】
第1-1モデル生成部520Aは、以上のような学習を実行することで学習済モデルを生成し、出力する。
【0073】
第1学習済モデル記憶部530Aは、第1-1モデル生成部520Aから出力された学習済モデルを記憶する。
【0074】
次に、
図7を用いて、第1学習装置500Aが学習する処理について説明する。
図7は第1学習装置500Aの学習処理に関するフローチャートである。
【0075】
ステップS510Aにおいて、第1-1データ取得部510Aは入力A1を取得する。なお、入力A1を同時に取得するものとしたが、入力A1を関連づけて入力できれば良く、入力A1のデータをそれぞれ別のタイミングで取得しても良い。
【0076】
ステップS520Aにおいて、第1-1モデル生成部520Aは、第1-1データ取得部510Aによって取得される入力A1に基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、C出力を学習し、学習済モデルを生成する。
【0077】
ステップS530Aにおいて、第1学習済モデル記憶部530Aは、第1-1モデル生成部520Aが生成した学習済モデルを記憶する。
【0078】
<活用フェーズ>
図8は異常判定部430における第1推論装置600Aを示すブロック構成図である。第1推論装置600Aは、第1-2データ取得部610Aおよび第1-2推論部620Aを備える。
【0079】
第1-2データ取得部610Aは推論用の入力A1である、評価対象点P1、P2、P3におけるそれぞれ応力推定値の履歴値および加速度推定値の履歴値、並びに、対象構造物200の振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値、を取得する。
【0080】
第1-2推論部620Aは、第1学習済モデル記憶部530Aに記憶された学習済モデルを利用して得られるC出力(対象構造物200の正常または異常状態)を推論する。すなわち、この学習済モデルに第1-2データ取得部610Aで取得した推論用の入力A1を入力することで、推論用の入力A1がいずれのクラスタに属するかを推論し、推論結果をC出力として出力することができる。
【0081】
なお、本実施の形態では、異常診断装置400の第1-1モデル生成部520Aで学習した学習済モデルを用いてC出力を出力するものとして説明したが、他の異常診断装置400等の外部から学習済モデルを取得し、この学習済モデルに基づいてC出力を出力するようにしてもよい。
【0082】
このようにして、第1-2推論部620Aは入力A1に基づいて得られたC出力を異常診断装置400の出力部440に対して出力する。
【0083】
次に、
図9を用いて、第1-2推論部620Aを使用してC出力を得るための処理を説明する。
【0084】
ステップS610Aにおいて、第1-2データ取得部610Aは入力A1を取得する。
【0085】
ステップS620Aにおいて、第1-2推論部620Aは第1学習済モデル記憶部530Aに記憶された学習済モデルに入力A1を入力し、C出力を得る。
【0086】
ステップS630Aにおいて、第1-2推論部620Aは、学習済モデルにより得られたC出力を出力部に出力する。
【0087】
ステップS640Aにおいて、出力部440は、出力されたC出力(対象構造物200の正常または異常状態)に基づいて、表示装置に表示したり、異常が判定された場合は警報装置から警報を出力したりする。
【0088】
本実施形態における教師なし学習を実現する場合、上記のようなK平均(K-means)法による非階層型クラスタリングに限らず、クラスタリング可能な他の公知の方法であればよい。例えば、最短距離法等の階層型クラスタリングであってもよい。
【0089】
本実施の形態において、第1学習装置500A及び第1推論装置600Aは、例えば、ネットワークを介して異常診断装置400に接続され、この異常診断装置400とは別個の装置であってもよい。また、第1学習装置500A及び第1推論装置600Aは、異常診断装置400に内蔵されていてもよい。さらに、第1学習装置500A及び第1推論装置600Aは、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
【0090】
また、第1-1モデル生成部520Aは、複数の異常診断装置400に対して作成される学習用データに従って、C出力を学習するようにしてもよい。なお、第1-1モデル生成部520Aは、同一のエリアで使用される複数の異常診断装置400から学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の異常診断装置400から収集される学習用データを利用してC出力を学習してもよい。また、学習用データを収集する異常診断装置400を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、ある異常診断装置に関してC出力を学習した学習装置を、これとは別の異常診断装置に適用し、当該別の異常診断装置に関してC出力を再学習して更新するようにしてもよい。
【0091】
[ニューラルネットワークを利用した教師あり学習]
次に、対象構造物200の異常判定を実現するためのニューラルネットワークを利用した教師あり学習について説明する。
【0092】
ニューラルネットワークの入力B1として、評価対象点P1、P2、P3のそれぞれの応力推定値の履歴値および加速度推定値の履歴値、並びに、振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値を入力する。また、入力B2(正解)として、対象構造物200の正常および異常状態(例えば、異常の無い正常状態、ボルトの緩みがある異常状態、クラックのある異常状態、破断のある異常状態)を入力する。そして、入力B1と入力B2の組み合わせに基づいて作成される学習データに従って、いわゆる教師あり学習により、出力1である、対象構造物200の正常および異常状態(例えば、異常の無い正常状態、ボルトの緩みがある異常状態、クラックのある異常状態、破断のある異常状態)を学習する。
以下、図に基づいて具体的に説明する。
【0093】
<学習フェーズ>
図10は異常判定部430における第2学習装置500Bを示すブロック構成図である。第2学習装置500Bは、第2-1データ取得部510B、第2-1モデル生成部520B、及び第2学習済モデル記憶部530Bを備える。
【0094】
第2-1データ取得部510Bは、入力B1、入力B2(正解)を学習用データとして取得する。
前述したように、入力B1は、評価対象点P1、P2、P3のそれぞれの応力推定値の履歴値および加速度推定値の履歴値、並びに、振動パラメータとしての固有振動数の推定値および減衰比の推定値である。
ここで、応力推定値の履歴値とは、予め設定された期間における応力推定値の履歴の値である。また、加速度推定値の履歴値とは、予め設定された期間における応力推定値の履歴の値である。
入力B2は、対象構造物200の正常または異常状態(例えば、正常状態、ボルトの緩みがある異常状態、クラックのある異常状態、破断のある異常状態等)である。
【0095】
第2-1モデル生成部520Bは、第2-1データ取得部510Bから出力される入力B1、及び入力B2(正解)の組合せに基づいて作成される学習用データに基づいて、C出力(対象構造物200の正常または異常状態)を学習する。すなわち、第2学習装置500Bの入力B1、入力B2(正解)から最適なC出力を推論する学習済モデルを生成する。ここで、学習用データは、入力B1および入力B2(正解)を互いに関連付けたデータである。
【0096】
第2-1モデル生成部520Bは、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、C出力を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果(ラベル)のデータの組を学習装置に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
【0097】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層(隠れ層)、及び複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、1層、又は2層以上でもよい。
【0098】
例えば、
図14に示すような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層(X1-X3)に入力されると、その値に重みW1(w11-w16)を掛けて中間層(Y1-Y2)に入力され、その結果にさらに重みW2(w21-w26)を掛けて出力層(Z1-Z3)から出力される。この出力結果は、重みW1とW2の値によって変わる。
【0099】
本実施の形態において、ニューラルネットワークは、第2-1データ取得部510Bによって取得される入力B1、入力B2(正解)の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、C出力を学習する。
【0100】
すなわち、ニューラルネットワークは、入力層に入力B1を入力して出力層から出力された結果が、入力B2(正解)に近づくように重みW1とW2を調整することで学習する。
【0101】
第2-1モデル生成部520Bは、以上のような学習を実行することで学習済モデルを生成し、出力する。
【0102】
第2学習済モデル記憶部530Bは、第2-1モデル生成部520Bから出力された学習済モデルを記憶する。
【0103】
次に、
図11を用いて、第2学習装置500Bが学習する処理について説明する。
図11は第2学習装置500Bの学習処理に関するフローチャートである。
【0104】
ステップS510Bにおいて、第2-1データ取得部510Bは入力B1、入力B2(正解)を取得する。なお、入力B1、入力B2(正解)を同時に取得するものとしたが、入力B1、入力B2(正解)を関連づけて入力できれば良く、入力B1、入力B2(正解)のデータをそれぞれ別のタイミングで取得しても良い。
【0105】
ステップS520Bにおいて、第2-1モデル生成部520Bは、第2-1データ取得部510Bによって取得される入力B1、入力B2(正解)の組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、C出力を学習し、学習済モデルを生成する。
【0106】
ステップS530Bにおいて、第2学習済モデル記憶部530Bは、第2-1モデル生成部520Bが生成した学習済モデルを記憶する。
【0107】
<活用フェーズ>
図12は異常判定部430における第2推論装置600Bを示すブロック構成図である。第2推論装置600Bは、第2-2データ取得部610B、第2-2推論部620Bを備える。
【0108】
第2-2データ取得部610Bは入力B1を取得する。
【0109】
第2-2推論部620Bは、学習済モデルを利用して得られるC出力(対象構造物の正常および異常状態)を推論する。すなわち、この学習済モデルに第2-2データ取得部610Bで取得した入力B1を入力することで、入力B1から推論されるC出力を出力することができる。
【0110】
なお、本実施の形態では、異常判定部430の第2-1モデル生成部520Bで学習した学習済モデルを用いてC出力を出力するものとして説明したが、他の異常判定部等の外部から学習済モデルを取得し、この学習済モデルに基づいてC出力を出力するようにしてもよい。
【0111】
次に、
図13を用いて、第2推論装置600Bを使ってC出力(対象構造物の正常および異常状態)を得るための処理を説明する。
【0112】
ステップS610Bにおいて、第2-2データ取得部610Bは入力B1を取得する。
【0113】
ステップS620Bにおいて、第2-2推論部620Bは第2学習済モデル記憶部530Bに記憶された学習済モデルに入力B1を入力し、C出力を得る。
【0114】
ステップS630Bにおいて、第2-2推論部620Bは、学習済モデルにより得られたC出力を異常判定部430に出力する。
【0115】
ステップS640Bにおいて、出力部440は、出力されたC出力(対象構造物200の正常または異常状態)に基づいて、表示装置に表示したり、異常が判定された場合は警報装置から警報を出力したりする。
【0116】
なお、本実施の形態では、第2-1モデル生成部520Bが用いる学習アルゴリズムに教師あり学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムについては、教師あり学習以外にも、強化学習等を適用することも可能である。
【0117】
また、第2-1モデル生成部520Bは、複数の異常診断装置に対して作成される学習用データに従って、C出力を学習するようにしてもよい。なお、第2-1モデル生成部520Bは、同一のエリアで使用される複数の異常診断装置から学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の異常診断装置から収集される学習用データを利用してC出力を学習してもよい。また、学習用データを収集する異常診断装置を途中で対象に追加したり、対象から除去することも可能である。さらに、ある異常診断装置に関してC出力を学習した学習装置を、これとは別の異常診断装置に適用し、当該別の異常診断装置に関してC出力を再学習して更新するようにしてもよい。
また、学習用データはあらかじめ実施される対象構造物の異常再現実験あるいは有限要素モデルなどを用いたシミュレーションによって生成してもよい。
【0118】
また、第2-1モデル生成部520Bに用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習を実行してもよい。
【0119】
また、前記実施の形態では、入力A1、入力B1として、多数の説明変数(応力推定値、加速度推定値、固有振動数の推定値、および減衰比の推定値)を入力して、多変数化しているが、多くの説明変数(多変数)をより少ない次元に縮約する主成分分析を行い、入力A1、入力B1の主成分分析により異常診断の高速化を行ってもよい。
【0120】
本実施の形態の異常診断装置400の各機能は、処理回路によって実現される。
図15は、本実施の形態の異常診断装置400の各機能を実現する処理回路の第1例を示す構成図である。第1例の処理回路700は、専用のハードウェアである。
【0121】
処理回路700は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものに該当する。また、異常診断装置400の各機能それぞれを個別の処理回路700により実現してもよい。もしくは、異常診断装置400の各機能をまとめて処理回路700により実現してもよい。
【0122】
また、
図16は、実施の形態の異常診断装置400の各機能を実現する処理回路の第2例を示す図である。第2例の処理回路800は、プロセッサ810及びメモリ820を備えている。
【0123】
処理回路800において、異常診断装置400の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述される。そして、ソフトウェア及びファームウェアは、メモリ820に格納される。プロセッサ810は、メモリ820に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0124】
メモリ820に格納されるプログラムは、上述した各部の手順あるいは方法を、コンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ820とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリが該当する。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ820に該当する。
【0125】
上述した各部の機能について、一部が専用のハードウェアにより実現され、一部がソフトウェアまたはファームウェアにより実現されてもよい。
【0126】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
【0127】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【0128】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
[付記1]
対象構造物に設置される加速度センサにより計測された加速度計測値を取得し、
前記対象構造物の構造をモデル化した形状モデルに対して固有値解析を行い、前記固有値解析の結果に基づいて縮退化モデルを構築するとともに、
前記縮退化モデルおよび前記加速度計測値に基づいて、前記対象構造物の一部である少なくとも1つの評価対象点における加速度推定値および応力推定値、並びに、前記対象構造物の振動パラメータである固有振動数の推定値および減衰比の推定値をそれぞれ推定する制御部と、
前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値に基づいて、機械学習により、前記対象構造物の正常または異常状態を判定する異常判定部とを備えた、対象構造物の異常診断システム。
[付記2]
前記形状モデルは、前記対象構造物を有限要素法によって再現した有限要素モデルであって、
前記制御部は、前記有限要素モデルに対して固有値解析を実施して少なくとも前記対象構造物の振動パラメータである、固有振動数の抽出および減衰比の設定を行い、
少なくとも加速度の要素と、応力の要素と、固有振動数の要素と、減衰比の要素を含む前記縮退化モデルを構築するとともに、
前記縮退化モデルおよび前記加速度計測値に基づいて、前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を推定する付記1に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記3]
前記縮退化モデルは、少なくとも加速度の要素と、応力の要素と、固有振動数の要素と、減衰比の要素とを含む、状態方程式および観測方程式から構成される状態空間表現により表されたものである付記1または付記2に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記4]
前記制御部は、解析プログラムを実行することにより、前記加速度推定値、前記応力推定値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を算出し、
前記解析プログラムは、前記状態方程式および前記観測方程式から構成される前記状態空間表現と、カルマンフィルタとの組み合わせに基づいて、事前に作成されているプログラムである付記3に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記5]
前記制御部は、前記解析プログラムを作成する解析プログラム作成部を備え、
前記解析プログラム作成部は、
前記対象構造物における前記加速度センサの位置情報であるセンサ位置情報と、前記対象構造物における前記評価対象点の位置情報である評価対象点位置情報とを取得し、
前記センサ位置情報と前記評価対象点位置情報とに基づいて、前記解析プログラムを作成する、付記4に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記6]
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を含む学習用データを取得する第1-1データ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを生成する第1-1モデル生成部と、
を有する第1学習装置を備えた付記1から付記5のいずれか1項に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記7]
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を取得する第1-2データ取得部と、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを用いて、前記第1-2データ取得部で取得した前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から前記対象構造物の正常および異常状態を出力する第1-2推論部と、
を有する第1推論装置を備えた付記6に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記8]
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値と、前記対象構造物の正常および異常状態を含む学習用データを取得する第2-1データ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを生成する第2-1モデル生成部と、
を有する第2学習装置を備えた付記1から付記5のいずれか1項に記載の対象構造物の異常診断システム。
[付記9]
前記異常判定部は、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値を取得する第2-2データ取得部と、
前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を推論するための学習済モデルを用いて、前記第2-2データ取得部で取得した前記加速度推定値の履歴値、前記応力推定値の履歴値、前記固有振動数の推定値、および前記減衰比の推定値から、前記対象構造物の正常および異常状態を出力する第1-2推論部と、
を有する第2推論装置を備えた付記8に記載の対象構造物の異常診断システム。
【符号の説明】
【0129】
11 加速度計測値、13 解析プログラム、200 対象構造物、
300 加速度センサ、400 異常診断装置、410 加速度取得部、
420 推定部、430 異常判定部、440 出力部、
450 解析プログラム作成部、460 制御部、500A 第1学習装置、
510A 第1-1データ取得部、520A 第1-1モデル生成部、
530A 第1学習済モデル記憶部、600A 第1推論装置、
610A 第1-2データ取得部、620A 第1-2推論部、
500B 第2学習装置、510B 第2-1データ取得部、
520B 第2-1モデル生成部、530B 第2学習済モデル記憶部、
600B 第2推論装置、610B 第2-2データ取得部、
620B 第2-2推論部、1000 対象構造物の異常診断システム。